説明

流体処理用α線放射体及び装置

【課題】流体の流通抵抗が少なく、処理効率の良いα線放射による流体処理を行う。
【解決手段】この発明は、耐熱性を備えた材料で流体の流通が可能な所定の升目又は間隔で網状又は格子状に形成された保持芯材6の表面に、耐熱性の塗料又は接着剤よりなる固着材を塗布又は付着して固着層8を形成し、該固着層8に酸化トリウムを主材とする微細な粒体状又は粉体状のα線放射材7を付着させ、上記α線放射材7と固着層8を所定温度で焼成することにより保持芯材6に固定してなる。
上記保持芯材6は銅,ステンレス鋼その他の金属製の金網からなり、網目又は格子の線材の間隔を5〜30mmとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、α線の電離作用を利用して水,空気,燃料用油等のような主として流体の殺菌,脱臭,低分子化,活性化,劣化防止等の処理を行うα線放射体及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気又は燃料、燃料及び空気又は混合気に電離作用を有するα線を照射することにより燃焼効率を改善する内燃機関その他の燃焼装置の燃焼促進のために、特許文献1に示すように、α線放射材である酸化トリウムを表面に付着させた粒状体を金網等の保持材に所定間隔で保持させ、この保持材を自動車用エンジンのエアクリーナー内にエア流通方向と交差する方向に設置したものが知られている。
【0003】
また一般に酸化トリウムはα線放射体として知られており、α線は他の放射線に比して物質を透過する能力(透過力)は最も弱いが、電離作用は最も強いことも広く知られている。
【特許文献1】特開2005−9898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記特許文献1に示されるもののように、酸化トリウムからなるα線放射材を含ませたものを粒状体表面に付着させて焼成したものを金網等に保持させるには、セラミック体の造粒や放射材のコーティング、さらには金網への保持加工等の加工工程が必要であるほか、金網への保持で表面の放射材が損傷するという欠点がある。
【0005】
さらに上記のように粒状のセラミック処理材を使用する場合、粒状の放射材を保持するために、2枚の金網を重ねて粒状体をサンドイッチ状に挟持する必要があるほか、粒状体の粒径も5mm程度となり、金網固定のハンダ付部分も多く、処理筒の空間率も低下するため、大流量のものではその流通抵抗が大きくなる欠点がある。
【0006】
この発明は上記の問題点を解決する流体処理用のα線放射体及びその放射体を用いた装置を提供するものである。そして特にα線のもつ大きな電離効果(イオン化)によって水,空気,油等の分子構造を変化させ、水にあっては強力なイオン化により効率のよい水の殺菌,脱臭,脱色等を行うものである。
【0007】
また空気に対しては強力なイオン化によって空気分子の核の人工変換等を発生させ、燃焼効率の改善,脱臭,浮遊菌等の殺菌を行わせるものである。
さらに油類については強力なイオン化による活性化,劣化防止等を実現しようとするものである。このうち燃料油においては炭素分子結合の切断による小分子化及びラジカル化によって燃焼効率を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は第1に、耐熱性を備えた材料で流体の流通が可能な所定の升目又は間隔で網状又は格子状に形成された保持芯材6の表面に、耐熱性の塗料又は接着剤よりなる固着材を塗布又は付着して固着層8を形成し、該固着層8に酸化トリウムを主材とする微細な粒体状又は粉体状のα線放射材7を付着させ、上記α線放射材7と固着層8を所定温度で焼成することにより保持芯材6に固定してなることを特徴としている。
【0009】
第2に、保持芯材6が銅,ステンレス鋼その他の金属製の金網からなることを特徴としている。
【0010】
第3に、網目又は格子の線材の間隔を5〜30mmとしたことを特徴としている。
【0011】
第4に、固着材が珪素,チタン,炭素を主成分とするポリマーと無機化合物及び有機溶剤からなることを特徴としている。
【0012】
第5に、内部空間を流体の流通路とする筒状の処理筒1内に、流体の流通方向を交差し処理筒1内の上流側と下流側を仕切るように前記α線放射体4を設置してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成される本発明のα線放射体及び装置は、網目状又は格子状の保持芯材表面に微細な粉体又は粉状のα線放射材が固着層を介して略前面に付着されているので、保持芯材全体からα線の放射ができ、α線放射密度も高く、保持芯材を通過する流体へのα線放射量も多いという利点がある。その結果従来の放射体や放射装置に比してα線放射による処理性能も向上する。
【0014】
さらにα線放射材は固着層の表面に付着させて焼成固着されるため、流体に接する表面側にはα線放射を妨げられることなく効率よく放射されるとともに、固定も安定し他の固定と接触しないので脱落や損傷もない。
【0015】
保持芯材は線材が網目状又は格子状に組合わされているだけであるため、流体に対する流通抵抗もなく、前記のようにα線放射量も多いために多数段に重ねて設置する必要がない。仮に複数段設置する場合でも従来のものより少ない枚数(段数)でより高い性能での流体処理ができる利点がある。
【0016】
放射材は金網等の表面に付着させて焼成するだけなので、従来のように造粒や表面コーティングや金網等に固定するための機械的加工も必要なく、製造コストも低減できるほか、金網で挟持する場合のように他の部材との表面接触がないため、放射材表面の損傷や劣化等の不都合も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図示する本発明の実施形態につき説明すると、図1〜3は本発明の装置の使用状態の全体断面とその要部である放射体を順次拡大表示した状態を示している。
【0018】
図1に示す装置は自動車用エンジン等の吸気側に取付けられる吸気処理装置の例を示し、筒状の処理筒1には吸入口2と排気口3とが付されており、処理筒1の内部には所定の間隔を介して2枚の通風可能な網状のα線放射体4を、エアの流通方向と交差しエア上流側と下流側を仕切るように内挿して設置している。この放射体4は内部のエア流通抵抗を少なくするために1枚にしても十分処理機能を発揮できるものである。
【0019】
上記放射体4は図2に示すように例えば線径0.5mm程度の銅又はステンレス鋼からなる線材を5mm程度の網目の金網からなる放射材保持用の芯材6を備えている。該芯材6の全表面には図3で示すように例えば粒径50μmの粒体又は粉体状で、少なくとも0.2〜5wt%の酸化トリウムを含むα線放射材7を付着させている。
【0020】
上記放射材7は耐熱性の塗料又は接着剤を放射材7の固着材として予め芯材6の表面に浸漬(ディッピング),スプレー,はけ塗り等の方法により塗装して形成した下地材としての固着層8を介して付着固定される。この最終固着は放射材7を固着した後500〜600℃で加熱焼成することによって行われる。このとき放射材7の表面には、α線放射が妨げられないように塗料等で被覆されないようにする必要がある。
【0021】
α線放射による処理対象は、既述のように燃焼用エア以外に水,油,石油,ガス等の流体燃料その他α線の照射処理か有効な流体全般に及ぶものである。
【0022】
上記芯材6の金網の升目や線材径は使用する処理装置の大小や風量等によって選択されるが、升目はα線の飛程距離(25mm程度)と加工性,流体の流通抵抗等を考慮すると5〜30mm程度が望ましい。また流通路の断面全体にα線が放射されれば必ずしも網目である必要はなく、格子状であってもよいし、パンチで加工したものであってもよい。材料も焼成に耐え得る耐熱性があれば金属に限られない。
【0023】
固着材(固着層8)の材料としては、炭素を主成分とするポリマー,有機化合物及び有機溶剤から構成された耐高温性,耐薬品性,耐酸化性に優れ、塗装後の焼成によってセラミックの薄膜を形成するもので、「チラノコート」等の商品名で市販されているもの,セラミック化できる薄膜用塗料等が使用可能である。またα線放射材7の粒径も装置の使用条件等によって異なるが40〜500μm(40〜400メッシュ)程度のものが使用可能である。
【0024】
次に図1以下に示す本発明の装置(但し、α線放射体4は1枚のみ)を自動車のエンジン吸気側に取付けて吸気エアをα線放射処理した場合と無装着の場合の排ガス組成の変化について示す。ちなみにテストに使用した自動車は、そのままでは州法の規定によりHC,CO値がオーバーしている(表1参照)ために使用(走行)できない状態であった。
【0025】
(テスト条件)
1.実験場所・・・アメリカ合衆国カリフォルニア州
(1)実験施設設置者 TE239417(州政府登録番号)
(2)実験施設 ES910594(州政府登録番号)
2.実験方法・・・カリフォルニア州法の規定に基く
3.実験日・・・2006年11月10日
4.使用自動車「NISSAN INFINITI 2002年型」、I−35(型式) 3500cc、6気筒、37029マイル走行車
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果によれば本発明の装置を装着した場合、排ガス中のHC,CO,NOx含有量は、無装着の場合に比してカリフォルニア州の規則値をクリアするだけでなく、大幅に改善していることが明らかである。また上記測定結果は前記特許文献1中のHC,CO,NOxの改善成績と対比しても著しく向上している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明装置の1例を示す全体断面図である。
【図2】本発明のα線放射体の構造を示す説明図である。
【図3】本発明のα線放射体の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 処理筒
4 α線放射体
6 保持芯材
7 α線放射材
8 固着層(固着材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を備えた材料で流体の流通が可能な所定の升目又は間隔で網状又は格子状に形成された保持芯材(6)の表面に、耐熱性の塗料又は接着剤よりなる固着材を塗布又は付着して固着層(8)を形成し、該固着層(8)に酸化トリウムを主材とする微細な粒体状又は粉体状のα線放射材(7)を付着させ、上記α線放射材(7)と固着層(8)を所定温度で焼成することにより保持芯材(6)に固定してなる流体処理用α線放射体。
【請求項2】
保持芯材(6)が銅,ステンレス鋼その他の金属製の金網からなる請求項1の流体処理用α線放射体。
【請求項3】
網目又は格子の線材の間隔を5〜30mmとした請求項2の流体処理用α線放射体。
【請求項4】
固着材が珪素,チタン,炭素を主成分とするポリマーと無機化合物及び有機溶剤からなる請求項1又は2又は3の流体処理用α線放射体。
【請求項5】
内部空間を流体の流通路とする筒状の処理筒(1)内に、流体の流通方向を交差し処理筒(1)内の上流側と下流側を仕切るように請求項1,2,3又は4のα線放射体(4)を設置してなる流体処理用α線放射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−224233(P2008−224233A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58706(P2007−58706)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(393016538)
【出願人】(303009847)
【出願人】(501095532)
【出願人】(307002415)
【Fターム(参考)】