説明

流体噴射装置およびメンテナンス装置

【課題】簡単な構成でクリーニング(フラッシング)動作を短時間で行えるメンテナンス装置および流体噴射装置およびメンテナンス装置を提供する。
【解決手段】吸収部材12がノズル列に沿って延在すると共にノズルから噴射された流体の飛行経路から退避する位置に相対移動可能とされた線状部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置およびメンテナンス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク滴を記録紙(媒体)に対して噴射させる流体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(以下、「プリンタ」という。)が広く知られている。このようなプリンタにおいては、記録ヘッドのノズルからインクが蒸発することによるインクの増粘や固化、塵埃の付着、さらには気泡の混入などによりノズルに目詰まりを生じ、印刷不良を引き起こすという問題があった。そこで、通常、プリンタは、記録紙に対しての噴射とは別に、ノズル内のインクを強制的に吐出させるフラッシング動作を行うようになっている。
走査タイプのプリンタでは、記録ヘッドを記録領域以外のエリアに移動させてフラッシング動作を行うが、記録ヘッドが固定されたラインヘッドを備えるプリンタでは、フラッシング動作時に記録ヘッドを移動させることができない。そこで、例えば、記録紙の搬送ベルトの表面に設けられた吸収部材に向けてインクを吐出する方法が考えられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、搬送ベルト上に複数の吸収材が記録紙のサイズに合わせて等間隔に配置されているため、フラッシング時においては記録紙間の隙間を狙ってインクを噴射しなければならず、記録紙のサイズや搬送速度に制約が生じてしまうという問題が生じる。また、平面形状の吸収材に対してフラッシングを行うと、インク滴の吐出に伴う風圧によってミスト状のインクが散ってしまい、記録紙や搬送ベルト上を汚してしまうおそれもある。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、簡単な構成でクリーニング(フラッシング)動作を短時間で行える流体噴射装置およびメンテナンス装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、複数のノズルからなるノズル列を有すると共に媒体へ流体を噴射する流体噴射ヘッドを備え、上記ノズルから流体を吸収する吸収部材に流体を噴射するフラッシング動作を行える流体噴射装置であって、上記吸収部材は、上記ノズル列に沿って延在すると共に上記ノズルから噴射された上記流体の飛行経路から退避する位置に相対移動可能とされた線状部材であるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明によれば、線状の吸収部材(線状部材からなる吸収部材)をノズル列と対向させた状態(ノズルから噴射された流体の飛行経路に配置した状態)にすることで、各ノズルから吐出された流体を吸収部材において吸収することが可能である。また、線状の吸収部材のため、僅かな移動で吸収部材を飛行経路から退避する位置に移動することができる。このため、本発明によれば、短時間でメンテナンスを終了できる。
また、本発明においては、上記吸収部材を、上記流体噴射ヘッドと上記媒体の間に備えたことが望ましい。このような本発明によれば、吸収材を流体噴射ヘッドと媒体の間に配置したので、僅かな移動で吸収部材を飛行経路から退避する位置に移動することができる。
【0007】
本発明の流体噴射装置は、上記課題を解決するために、複数のノズルから構成されるノズル列を有し、媒体へ流体を噴射する流体噴射ヘッドを備え、上記ノズルから流体を噴射するフラッシング動作を行える流体噴射装置であって、上記ノズルから噴射された上記流体を吸収する線状の吸収部材を、上記流体噴射ヘッドと上記媒体の間に上記ノズル列に沿って延在し、上記ノズルから噴射された上記流体の飛行経路に対して進退可能に備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、線状の吸収部材をノズル列と対向させた状態にすることで、各ノズルから吐出された流体を吸収部材において吸収することが可能である。また、線状の吸収部材のため、流体噴射ヘッドも媒体も移動することなく吸収部材を移動することができ、その移動量も少ない。これにより、流体噴射ヘッドを移動させることなくフラッシング動作を行えるので、短時間でメンテナンスを終了できる。
【0009】
また、上記吸収部材を上記ノズル列の延在方向と交差する方向に移動させる第1移動機構を備えたことが好ましい。
本発明によれば、吸収部材をノズル列の延在方向と交差する方向に移動させることにより、吸収部材をノズル列と対向させることができる。
【0010】
また、上記第1移動機構は、上記ノズル列の延在方向と交差する方向における上記吸収部材の位置を調整する位置調整機構を備えたことが好ましい。
本発明によれば、確実に吸収部材をノズル列に対向させることができるので、各ノズルから吐出された流体を漏らすことなく吸収部材に吸収させることが可能である。
【0011】
また、上記吸収部材を上記ノズル列の延在方向に沿って移動させる第2移動機構を備えたことが好ましい。
本発明によれば、吸収部材をノズル列の延在方向に沿って移動させることにより、吸収部材における流体を吸収した領域を移動させて、流体を含んでいない領域をノズル列に対向させることができる。これにより、フラッシング動作時にノズルから吐出された流体を吸収部材へと確実に吸収させることが可能である。
【0012】
また、上記第2移動機構は、フラッシング動作が行われる間、上記吸収部材を移動させることが好ましい。
本発明によれば、フラッシング動作中、第2移動機構によって吸収部材を移動させることによって、フラッシング量が多くても吸収部材からあふれることなく吸収部材に効率よく流体を吸収させることができる。
【0013】
また、上記第2移動機構は、フラッシング動作が行われる間、上記吸収部材を停止させることが好ましい。
本発明によれば、フラッシング動作中、第2移動機構によって吸収部材を停止させることによって制御が容易になる。
【0014】
また、上記第2移動機構が、上記吸収部材を巻き取り可能な巻取機構を有することが好ましい。
本発明によれば、巻取機構によって回収した吸収部材をまとめることができるので、装置自体の小型化が図れる。
【0015】
また、上記第2移動機構が、上記吸収部材が架け渡されたプーリー機構を有することが好ましい。
本発明によれば、少ない動力で吸収部材をエンドレスに移動させることができる。
【0016】
また、上記第2移動機構が、着脱可能に設けられていることが好ましい。
本発明によれば、流体を吸収した吸収部材を新しいものと交換することができる。
【0017】
また、上記吸収部材をクリーニングするクリーニング機構を備えたことが好ましい。
本発明によれば、流体を吸収した吸収部材をクリーニングすることで再利用が可能となる。これにより、吸収部材の連続使用が可能になって吸収部材の交換作業や廃棄量を低減させることができる。
【0018】
また、上記ノズル列を複数有し、上記ノズル列ごとに上記吸収部材が設けられている
ことが好ましい。
本発明によれば、フラッシング動作において各ノズル列から吐出される流体を吸収し回収することができる。
【0019】
本発明のメンテナンス装置は、上記課題を解決するために、複数のノズルから構成されるノズル列を有し、上記ノズルから流体を噴射する流体噴射ヘッドを備えた流体噴射装置のフラッシング動作に用いられるメンテナンス装置であって、上記ノズル列に沿って延在し、上記ノズルから噴射された上記流体の飛行経路に対して進退可能な線状の吸収部材を有することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、吸収部材をノズル列と対向させた状態にすることで、各々のズルから噴射された流体を吸収部材において吸収することが可能である。これにより、流体噴射ヘッドを移動させることなくフラッシング動作を行えるので、短時間でメンテナンスを終了できる。
【0021】
また、上記吸収部材を上記ノズル列の延在方向と交差する方向に移動させる第1移動機構を備えたことが好ましい。
本発明によれば、吸収部材をノズル列の延在方向と交差する方向に移動させることにより、吸収部材をノズル列と対向させることができる。
【0022】
また、上記吸収部材を上記ノズル列の延在方向に沿って移動させる第2移動機構を備えたことが好ましい。
本発明によれば、吸収部材をノズル列の延在方向に沿って移動させることにより、吸収部材における流体を吸収した領域を移動させて、流体を含んでいない領域をノズル列に対向させることができる。これにより、フラッシング動作時にノズルから噴射された流体を吸収部材へと確実に吸収させることが可能である。
【0023】
また、上記第2移動機構が、上記吸収部材を巻き取り可能な巻取機構を有することが好ましい。
本発明によれば、巻取機構によって回収した吸収部材をまとめることができるので、装置自体の小型化が図れる。
【0024】
また、上記第2移動機構が、上記吸収部材が架け渡されたプーリー機構を有することが好ましい。
本発明によれば、少ない動力で吸収部材をエンドレスに移動させることができる。
【0025】
また、本発明においては吸収部材が、断面最大寸法が上記ノズルの直径に対して5倍以上75倍以下であるという構成を採用することが好ましい。
このような構成を採用することによって、吸収部材の流体保持量を十分に確保すると共に流体を受ける面積を十分に確保することが可能となる。
【0026】
また、本発明においては吸収部材が、断面形状が円形であるという構成を採用することが好ましい。
このような構成を採用することによって、吸収部材が延在方向を中心軸として回転した場合であっても、流体を受ける面積が変化することがなくなる。このため、吸収部材の回転方向の姿勢を考慮する必要がなくなる。
なお、吸収部材の断面形状が円形である場合には、断面最大寸法が上記ノズルの直径に対して10倍以上50倍以下であることが好ましい。これによって、吸収部材の流体保持量を十分に確保すると共に流体を受ける面積を十分に確保することが可能となる。
【0027】
また、本発明においては吸収部材が、複数の糸が撚られて形成されているという構成を採用することが好ましい。
このような構成を採用することによって、複数の糸が撚られることによって複数の糸の間に形成される谷部においても流体を保持することが可能となり、吸収部材の流体吸収量を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態のプリンタの概略構成を示す斜視図。
【図2】第1実施形態のヘッドユニットの概略構成を示す斜視図。
【図3】第1実施形態の記録ヘッドの概略構成を示す斜視図。
【図4】第1実施形態のキャップユニットの概略構成を示す斜視図。
【図5】第1実施形態のフラッシングユニットの概略構成を示す斜視図。
【図6】第1実施形態における吸収部材の移動位置を示す平面図。
【図7】第1実施形態のプリンタの動作を示すフローチャート。
【図8】第1実施形態のプリンタが備える吸収部材の模式図である。
【図9】第1実施形態におけるプリンタの動作を示す要部断面図である。
【図10】(a)吸収部材のフラッシング位置、(b)吸収部材の退避位置
【図11】第2実施形態のプリンタの要部構成を示す(a)断面図、(b)側面図。
【図12】第1移動機構の一部として用いられる移動部材の変形例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0030】
本発明の流体噴射装置の一実施形態について説明する。本実施形態では、流体噴射装置として、インクジェットプリンタ(以下、単にプリンタと称す)について例示する。
(プリンタ)
図1はプリンタの概略構成斜視図、図2はヘッドユニットの概略構成斜視図、図3はヘッドユニットを構成する記録ヘッドの概略構成斜視図、図4はキャップユニットの概略構成斜視図である。
【0031】
図1に示すように、プリンタ1は、ヘッドユニット2と、記録紙(媒体)を搬送する搬送装置3と、記録紙を供給する給紙ユニット4と、ヘッドユニット2によって印字された記録紙を排出する排紙ユニット5と、ヘッドユニット2に対してメンテナンス処理を行うメンテナンス装置10とを備えている。
【0032】
搬送装置3は、ヘッドユニット2を構成する各記録ヘッド21(21A,21B,21C,21D,21E)のノズル面23との間に所定の間隔をあけた状態で記録紙を保持するようになっている。搬送装置3は、駆動ローラー部31と、従動ローラー部32と、これらローラー部31,32との間に架け回された複数のベルトから構成された搬送ベルト部33と、を備えている。また、搬送装置3の記録紙の搬送方向下流側(排紙ユニット5側)であって、排紙ユニット5との間に、記録紙を保持する保持部材34が設けられている。
【0033】
駆動ローラー部31は、回転軸方向の一端側が不図示の駆動モータに接続されており、駆動モータにより回転駆動されるようになっている。駆動ローラー部31の回転動力が搬送ベルト部33に伝達され、搬送ベルト部33が回転駆動される。駆動ローラー部31と駆動モータとの間には必要に応じて伝達ギアが設置される。従動ローラー部32は、いわゆるフリーローラーであり、搬送ベルト部33を支持するとともに搬送ベルト部33(駆動ローラー部31)の回転駆動に従動して回転される。
【0034】
排紙ユニット5は、排紙用ローラー51と、排紙用ローラー51により搬送された記録紙を保持する排紙トレー52とを備えている。
【0035】
ヘッドユニット2は、複数(本実施形態では5つ)の記録ヘッド21A〜21Eをユニット化することで構成されており、各記録ヘッド21A〜21Eの各ノズル24(図3参照)からは複数色のインク(例えば、ブラックB、マゼンタM、イエローY、シアンCの各インク)が吐出されるようになっている。上記記録ヘッド21A〜21E(以下、記録ヘッド21と称す場合もある)は、取付板22に取付けられることでユニット化されている。すなわち、本実施形態に係るヘッドユニット2は、複数の記録ヘッド21(単一ヘッド部材)を複数組み合わせ、ヘッドユニット2の有効印字幅が記録紙の横幅(搬送方向と直交する幅)と略同等とされるラインヘッドモジュールを構成している。なお、上記各記録ヘッド21A〜21Eにおけるそれぞれの構造自体は共通とされている。
【0036】
図2に示すように、ヘッドユニット2は、取付板22に形成された開口部25内に各記録ヘッド21A〜21Eが配置されている。具体的には、各記録ヘッド21A〜21Eが取付板22の裏面22b側に螺子止めされることで、ノズル面23が上記開口部25を介して取付板22の表面22a側から突出した状態に配置されている。また、ヘッドユニット2は、上記取付板22が不図示のキャリッジに固定されることでプリンタ1に搭載されたものとなっている。
【0037】
本実施形態におけるヘッドユニット2は、上記不図示のキャリッジによって記録位置とメンテナンス位置との間(図1中の矢印で示す方向)で移動可能とされている。ここで、記録位置とは、搬送装置3に対向し且つ記録紙に対して記録を行う位置である。一方、メンテナンス位置とは、搬送装置3上から退避した位置であってメンテナンス装置10と対向する位置である。このメンテナンス位置においてヘッドユニット2に対するメンテナンス処理(吸引処理、ワイピング処理)が実施される。
【0038】
図3に示すように、ヘッドユニット2を構成する記録ヘッド21A〜21E(以下、単に記録ヘッド21と称す場合もある)は、複数のノズル24により構成されるノズル列Lが形成されたノズル面23を有するヘッド本体25Aと、このヘッド本体25Aが取付けられる支持部材28と、を備えている。
【0039】
各記録ヘッド21A〜21Eは、4色(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk))に対応したノズル列(L(Y),L(M),L(C),L(Bk))を4列有している。各ノズル列(L(Y),L(M),L(C),L(Bk))において、当該ノズル列(L(Y),L(M),L(C),L(Bk))を構成するノズル24は、記録紙の搬送方向と交差する水平方向に配列され、より好適には記録紙の搬送方向と直交する水平方向に配列されている。そして、記録ヘッド21A〜21Eの配置方向において、同じ色に対応するノズル列Lが一致している。
【0040】
支持部材28には、ノズル面23の長手方向の両側に張り出し部26、26が形成されている。また、張り出し部26、26には、記録ヘッド21を上記取付板22の裏面22bに螺子止めするための貫通孔27が形成されている。これにより、複数の記録ヘッド21が取付板22に取付けられて上記ヘッドユニット2が構成されている(図1参照)。
【0041】
メンテナンス装置10は、ヘッドユニット2に対して吸引処理を行うキャップユニット6と、ヘッドユニット2に対してフラッシング動作を行うフラッシングユニット11とを有して構成されている。
【0042】
図4に示すように、キャップユニット6は、上記ヘッドユニット2に対してメンテナンス処理を行うもので、各記録ヘッド21A〜21Eに対応する複数(本実施形態では5つ)のキャップ部61A〜61Eをユニット化することで構成されている。このキャップユニット6は、ヘッドユニット2の記録エリアから外れた場所に配置され、ここでは、搬送装置3とは対向しない位置に配置されている。
【0043】
各キャップ部61A〜61Eは、記録ヘッド21A〜21Eの各々にそれぞれ対応するものであり、各記録ヘッド21A〜21Eのノズル面23に当接可能に構成されている。
キャップ部61A〜61Eが、記録ヘッド21A〜21Eの各ノズル面23に対してそれぞれ密着することにより、吸引動作において各ノズル面23からインク(流体)を排出させる吸引動作を良好に行うことができるようになっている。
【0044】
キャップユニット6を構成する各キャップ部61A〜61E(以下、単にキャップ部61と称す場合もある)は、キャップ本体67と、キャップ本体67の上面に枠状に設けられ、記録ヘッド21に当接されるシール部材62と、記録ヘッド21のノズル面23を払拭するワイピング処理時に用いられるワイプ部材63と、これらキャップ本体67及びワイプ部材63を一体的に保持する筐体部64と、を備えている。
【0045】
筐体部64の底部には、筐体部64を上記ベース部材69に保持するための保持部65が2つ(1つは不図示)形成されている。これら保持部65は平面視において筐体部64における対角をなす位置に配置されている。保持部65の各々には、筐体部64をベース部材69に螺子止め固定するための螺子が挿入される貫通孔65bが形成されている。
【0046】
フラッシングユニット11は、図5(a),(b)に示すように、フラッシング動作時に吐出されたインク滴を吸収する複数の吸収部材12と、これら複数の吸収部材12を支持する支持機構9と、を備えている。
【0047】
吸収部材12は、各ノズル24から吐出されたインク滴を吸収する線状部材であって、図5に示すように、1つのヘッドユニット2に対して4本設けられている。各吸収部材12は、各色のノズル24が配列されて構成されるノズル列(L(Y),L(M),L(C),L(Bk))に沿って延在し、各ノズル面23と記録紙の搬送領域との間に位置している。この吸収部材12は、例えば糸材などから構成されている。吸収部材12の材料としては、表面に親水加工が施された化学繊維などが挙げられ、インクを効率よく吸収、保持できるものが好ましい。また、この吸収部材12は、ノズル径に対して5〜75倍程度の幅を有している。一般的なプリンタでは、各記録ヘッド21A〜21Eにおける各ノズル面23と記録紙との間のギャップが2mm程度、ノズル径が約0.02mmとなっていることから、吸収部材12は、直径が1mm以下であれば、各ノズル面と記録紙との間に配置することができ、かつ部品の誤差を考慮しても吐出されたインク滴を吸収部材で補足することができる。そのため、好適には吸収材12はノズル径に対して10〜50倍程度が良い。なお、吸収部材12については、後により詳しく説明する。
また、吸収部材12の長さは、ヘッドユニット2の有効印字幅に対して十分な長さを有していることが好ましい。後に詳説するが、本実施形態のプリンタ1においては、吸収部材12の使用済み(インク吸収済み)の領域が順次巻き取られ、吸収部材12の全領域においてインクが吸収された場合に吸収部材12そのものを取り替える構成を採用している。このため、吸収部材12の取替え期間を実用に耐えうる時間とすべく、吸収部材12の長さは、ヘッドユニット2の有効印字幅の数百倍程度であることが好ましい。ただし、プリンタ1内において洗浄等を行うことにより吸収部材12の再生を行う場合には、吸収部材12の長さは、ヘッドユニット2の有効印字幅の2倍よりも若干程度長ければ良い。
そして、吸収部材12は、支持機構9によって支持されている。
【0048】
支持機構9は、移動機構13(第2移動機構)および移動機構14(第1移動機構)を備えている。この支持機構9は、ヘッドユニット2と略一体とされている。
移動機構14は、吸収部材12をノズル列の延在方向と交差(本実施形態においては直交)する方向に移動させることにより、吸収部材12をノズル14に対向するフラッシング位置と対向しない退避位置との間で移動させる。また、移動機構13は、吸収部材12を走行させることによってノズル列の延在方向に沿って移動させる。
【0049】
移動機構13は、図1,図5(a)に示すように、ノズル列方向におけるヘッドユニット2の両側であって、取付板22の裏面22b側(ヘッド21A〜21Eのノズル面23と反対側)に各々の回転軸を記録紙の搬送方向に平行とされた回転部15,16を有している。回転部15,16は、回転軸15a,16aと、回転軸15a,16aに等間隔で配設された複数(ここでは5つ)の仕切板15b,16bとによりボビン形状を呈してなる巻取機構であって、仕切板15b,16b間の回転軸15a,16a周りに1本ずつ、合計4本の吸収部材12を巻回することが可能なものである。
【0050】
回転部15,16は、不図示の駆動モータに接続され、それぞれの回転によって上記した複数の吸収部材12の巻き出し及び巻き取りを行うようになっている。本実施形態においては、一方の回転部15を巻出し用、他方の回転部16を巻取り用として用いている。
【0051】
移動機構14は、図5(a),(b)に示すように、軸部14aに凸条部14bが螺旋状に巻回されてなる一対の移動部材14A,14Bを有するものであって、軸部14aと凸条部14bとによって形成される案内溝14c内に吸収部材12が1本ずつ保持されるようになっている。移動機構14はノズル列方向におけるヘッドユニット2の両側であって、取付板22の表面22a(記録ヘッド21A〜21Eのノズル面23)側に配置されている。移動機構13の回転部15と回転部16とに巻架されている複数の吸収部材12を、移動部材14A、14Bに架け渡している。そして、ノズル面23と垂直方向において案内溝14cの端部は、ノズル面23に対してノズル面23より離れる方向にある。そのため、移動部材14A、14Bに架け渡された吸収部材12は、記録ヘッド21A〜21Eのノズル面23に接触させることなく保持できるようになっている。
【0052】
移動部材14A,14Bに架け渡された吸収部材12は、取付板22に設けられた切欠部22c、22c内を通過して、回転部15、16に巻架しており、取付板22への接触が防止されるようになっている。これにより、吸収部材12の移動がスムーズになる。
【0053】
そして、支持機構9は、不図示の制御装置において回転部15,16の回転速度をそれぞれ制御することによって、移動機構13および移動機構14に支持された複数の吸収部材12を撓ませることなく適度にテンションを与えた状態で保持する。これにより、吸収部材12が撓んで、ノズル面23や記録紙に接触することを防止する。
【0054】
このような支持機構9においては、複数の吸収部材12を、ヘッドユニット2における取付板22の裏面22b側に配置された回転部15,16と、取付板22の表面22a側に配置された移動部材14A,14Bとにより支持することで、回転部15から巻き出された各吸収部材12が各記録ヘッド21A〜21Eの各ノズル面23上を経由して回転部16において巻き取られるようになっている。このため吸収部材12は、回転部15,16の回転に伴い、ヘッドユニット2の各ノズル列Lの延在方向、すなわち記録紙の搬送方向に交差する方向へ移動されることになる。
【0055】
また、移動部材14A,14Bが、不図示の駆動モータにより回転させられると、軸部14aと凸条部14bとによって形成される複数の案内溝14cが軸方向に沿って見かけ上移動することになる。これにより、ヘッドユニット2(ノズル列L)に対する各吸収部材12の位置を変化させることが可能である。具体的には、吸収部材12をヘッドユニット2の各ノズル列Lの延在方向に交差する方向、すなわち記録紙の搬送方向に沿って移動させることができる。本実施形態においては、吸収部材12をフラッシング位置と退避(記録)位置との間で移動させる。ここで、吸収部材12の直径を1mmとすると、部品寸法誤差や配置誤差を含めても1mm移動させればよい。凸条部14bの間隔を1mmとすれば、移動部材を1回転させれば吸収部材は1mm移動するので、複数の吸収部材12を容易に精度よく移動することが可能となるし、1mm移動するだけなので移動にかかる時間も少なくて済む。なお、記録ヘッド21と記録紙の距離は2mmあるので、その間に吸収部材12にテンションを与えた状態で配置しているので、移動の際に記録ヘッド21も記録紙も動かす必要はない。
【0056】
ここで、フラッシング位置とは、図6(b)に示すように、各吸収部材12が対応する複数のノズル列L(ノズル列Lを構成する複数のノズル24)にそれぞれ対向した状態であって、フラッシング動作時に各ノズル列Lから吐出されたインク滴を吸収できる位置である。一方、吸収部材12における退避位置とは、図6(a)に示すように、ノズル列L(ノズル列Lを構成する複数のノズル24)とは対向しない状態であって、記録動作時に各ノズル24から吐出された記録用のインク滴が吸収部材12に吸収されることのない位置である。
図6(a)、(b)に示すように、移動部材14A、14Bを回転させることで、全ての吸収部材12が移動する。そして、本実施形態のプリンタ1において各吸収部材12は、フラッシング位置はもちろん、退避位置においても、記録紙の搬送方向においてヘッド21のノズル面と記録紙との間に配置されている。
【0057】
なお、図1においては、ヘッドモジュール2、メンテナンス装置10及びフラッシングユニット12が1組のみ図示している。ただし、実際には、記録紙の搬送方向にもう1組のヘッドモジュール2、メンテナンス装置10及びフラッシングユニット12が配置されている。これらの2組は、機構的には同一の構成を有しているが、記録紙の搬送方向と直交する水平方向(ヘッド21A〜21Eの配列方向)にずれて配置されている。より詳細には、記録紙の搬送方向に見て、1組目のヘッドモジュール2が備えるヘッド21A〜21E間に2組目のヘッドモジュール2が備えるヘッド21A〜21Eが配置されている。このように、2組のヘッドモジュール2、メンテナンス装置10及びフラッシングユニット12を記録紙の搬送方向と直交する水平方向にずれて配置することにより、全体的にはヘッド21A〜21Eが千鳥配置されることとなり、有効印字幅の全領域にインクを吐出することが可能となる。
ただし、ヘッド21A〜21Eを記録紙の搬送方向と直交する方向に連接して配列する場合には、ヘッドモジュール2、メンテナンス装置10及びフラッシングユニット12が1組のみとしても良い。この場合には、ヘッド21A〜21E間に十分な隙間が形成されないため、メンテナンス装置10が備えるキャップ部61A〜61Eをヘッド21A〜21Eごとに設けることが難しい。このため、全てのヘッド21A〜21Eのノズル24が囲える単一のキャップ部を用いることが好ましい。
【0058】
次に、本実施形態のプリンタ1において、好適に用いることが可能な吸収部材12の具体的な構成について説明する。
吸収部材12は、例えば、SUS304、ナイロン、親水性コートを施したナイロン、アラミド、絹、綿、ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリアリレート、ザイロン(商品名)等の繊維、あるいはこれらの複数を含む複合繊維から形成することができる。
より詳細には、上記繊維あるいは複合繊維から形成される繊維束が、複数本、撚り合わされるあるいは束ねられることによって吸収部材12が形成可能である。
図8は、吸収部材12の一例を示す模式図であり、(a)が断面図、(b)が平面図である。この図に示すように、吸収部材12は、例えば、繊維から形成される繊維束12a(糸)が2本(複数)撚り合わされることによって形成される。図8に示すように、複数の繊維束12aを撚り合わすことによって吸収部材12が形成される場合には、繊維束12aの間に形成される谷部12bにおいてもインクを保持することが可能となり、吸収部材12のインク吸収量を増加させることができる。
【0059】
また、一例としては、SUS304からなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、ナイロンからなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、親水性コートが施されたナイロンからなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、アラミドからなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、絹からなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、綿からなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、ベリーマ(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ソアリオン(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロン03T(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ダイニーマハミロンDB−8(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ベクトランハミロンVB−30からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンS−5コアケブラースリーブポリエステル(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンS−212コアカブラースリーブポリエステル(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンSZ−10コアザイロンスリーブポリエステル(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンVB−3ベクトラン(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材を吸収部材12として好適に用いることができる。
ナイロンの繊維を用いた吸収部材12は、汎用水糸として広く用いられるナイロンによって形成されているため、安価なものとなる。
SUS材の金属繊維を用いた吸収部材12は、耐腐食性に優れるため多様なインクを吸収可能となると共に、樹脂と比較して磨耗性が高いため繰り返しの使用が可能となる。
超高分子ポリエチレンの繊維を用いた吸収部材12は、切断強度及び耐薬品性が高く、有機溶剤や酸、アルカリに強いものとなる。このように、超高分子ポリエチレンの繊維を用いた吸収部材12は、切断強度が高いため、強いテンションで引っ張ることが可能となり、撓みを抑止することができる。このため、例えば、吸収部材12の径を太くして吸収容量を増加させたり、また吸収部材12の径を太くしない場合にはヘッド21A〜21Eから記録紙の搬送領域までの距離を狭くし印刷精度を向上させることができる。また、ザイロンやアラミドの繊維を用いた吸収部材12も、超高分子ポリエチレンの繊維を用いた吸収部材12と同様の効果を期待できる。
綿の繊維を用いた吸収部材12は、インク吸収性に優れたものとなる。
【0060】
このような吸収部材12では、滴下されたインクは、表面張力によって繊維間及び繊維束12a間に形成される谷部12b(図8参照)に保持されることによって吸収された状態となる。
また、吸収部材12の表面に滴下したインクは、一部が直接吸収部材12の内部に浸透し、残りが繊維束12a間に形成される谷部12bを伝う。そして、吸収部材12の内部に浸透したインクは、吸収部材12の内部において一部が徐々に吸収部材12の延在方向に移動し吸収部材12の延在方向に分散して保持される。吸収部材12の谷部12bを伝うインクは、谷部12bを伝いながら、徐々にその一部が吸収部材12の内部に浸透し、残りが谷部12bに残存し、これによって吸収部材12の延在方向に分散して保持される。つまり、吸収部材12の表面に滴下したインクは、全てが滴下された箇所に留まるわけではなく、滴下された箇所の周囲に分散して吸収される。
【0061】
なお、実際にプリンタ1に設置する吸収部材12の形成材料は、吸インク性、保持インク性、引張強度、耐インク性、成形性(けばやほつれの発生量)、ねじれ性、コスト等を考慮して選ぶこととなる。
【0062】
また、吸収部材12のインク吸収量は、吸収部材12の繊維間に保持できるインク量と谷部12bに保持できるインク量の合計である。このため、このインク吸収量が、吸収部材12の交換頻度等を考慮して、フラッシングによって吐出されるインク量よりも十分に大きくなるように吸収部材12の形成材料を選ぶこととなる。
なお、吸収部材12の繊維間に保持できるインク量及び谷部12bに保持できるインク量は、インクと繊維との接触角、インクの表面張力に依存する繊維隙間における毛細管力によって規定することができる。つまり、細い繊維によって形成することで、繊維間の隙間を多くし全体として繊維の表面積を増加することによって、吸収部材12の断面積が同一であっても、吸収部材12は、より多量のインクを吸収可能となる。したがって、より繊維間の隙間を多く得るために、繊維束12aを形成する繊維として、マイクロファイバー(極細繊維)を用いるようにしても良い。
ただし、吸収部材12のインク保持力は、繊維間の隙間が大きくなって毛細管力が低下することによって低減する。このため、繊維間の隙間は、吸収部材12におけるインク保持力が吸収部材12の移動によってインクが垂れない程度に設定する必要がある。
【0063】
また、吸収部材12の太さは、上述のインク吸収量を満足するように設定される。具体的には、例えば、吸収部材12の太さは、0.2〜1.0mmに設定され、より好適には0.5mm程度に設定する。
ただし、吸収部材12の太さは、ヘッド21A〜21E及び記録紙への接触を防止すべく、その断面最大寸法が、ヘッド21A〜21Eから記録紙の搬送領域までの離間距離から吸収部材12の撓みに起因する変位量を除いた寸法以下となるように設定される。
実際には、吸収部材12の断面最大寸法は、ノズル24の直径に対して5倍以上75倍以下とされる。これは吸収部材12の断面最大寸法がノズル24の直径に対して5倍より小さい場合には吸収部材12が細くなり作製が困難となり、吸収部材12の断面最大寸法がノズル24の直径に対して75倍よりも大きい場合には流体を吸収した際の重量増加等により撓み易くなるためである。
【0064】
なお、吸収部材12の断面形状は、必ずしも円形である必要はなく、多角形等であっても良い。
ただし、吸収部材の断面形状が円形であれば、吸収部材12が延在方向を中心軸として回転した場合であっても、インクを受ける面積が変化することがなくなる。このため、吸収部材12の回転方向の姿勢を考慮する必要がなくなる。ここで、吸収部材は完全な円形に作るのは難しいので、円形とは略円形も含む。
なお、吸収部材12の断面形状が円形である場合には、断面最大寸法がノズル24の直径に対して10倍以上50倍以下であることが好ましい。これによって、吸収部材12のインク保持量を十分に確保すると共にインクを受ける面積を十分に確保することが可能となる。
【0065】
以上のように構成されたプリンタ1においては、ヘッド21A〜21Eから記録紙にインクを吐出して印刷を行っている間に、全てのノズル24からインクを吐出しているわけではない。このため、インクを吐出していないノズル24内のインクは乾燥して粘土が増加する。インクが増粘すると、所望のインク量が吐出できなくなるため、インクが増粘しないよう定期的にインクを吸収部材12に吐出するフラッシング動作を行う。
そして、本実施形態のプリンタ1が備える吸収部材12は、記録紙に対する印刷を行う際にはノズル24の下方からずれた退避位置に位置し、フラッシング動作を行う際にはノズル24の直下のフラッシング位置に位置する。つまり、フラッシング動作を行う際には、吸収部材12がノズル24の直下に位置するため印刷を行うことができず、印刷処理を止める必要がある。このため、フラッシング動作は、搬送される記録紙と記録紙との間がノズルの直下に位置する際に行うことが望ましい。本実施形態のプリンタ1のような、いわゆるラインヘッドプリンタにおいては、通常、1分間に60枚程度の記録紙に対して印刷を行うため、5秒ごとに記録紙と記録紙との間がノズルの直下に位置することとなる。したがって、本実施形態のプリンタ1においては、例えば、5秒ごとや10秒ごとにフラッシング動作を行う。
なお、連続的に複数の記録紙に対して印刷を行う場合において、記録紙と記録紙との間がノズル24の直下に位置する時間は短時間である。従来のプリンタにおいては、フラッシング動作のために行われる吸収部材あるいはヘッドユニットの移動が大きい。このため、従来のプリンタ1では、上記短時間でフラッシング動作を完了することができず、記録紙の搬送を一時的に停止しており、この停止期間が単位時間あたりの印刷枚数を低減させる原因となる。これに対して、本実施形態のプリンタ1においては、平面視において吸収部材12が各ヘッド21A〜21Eの直下の極めて狭い領域内で移動するだけで印刷とフラッシング動作とを切り替えることができ、記録紙と記録紙との間がノズル24の直下に位置する間にフラッシング動作を完了する、あるいはフラッシング動作のために記録紙の搬送を停止する期間を極めて短くすることができる。
【0066】
次に、上述のフラッシング動作に関連する本実施形態のプリンタ1の動作について、図8に示すフローチャートを用いて説明する。図9および図10は、プリンタの動作を示す要部断面図である。また、本実施形態のプリンタ1の動作は、不図示の制御装置によって統括されている。
【0067】
プリンタ1は、所定の指令に基づいてフラッシング動作を開始する。
まず、制御装置は、図9に示す移動機構14を駆動させて(図8:S1)、支持している複数の吸収部材12を図10(a)に示すようなフラッシング位置へ移動させる。具体的には、移動部材14A,14Bをそれぞれ所定の回転数(本実施形態においては1回転)で正転させることにより、各吸収部材12を記録ヘッド21A〜21Eにおける各ノズル列Lに対向させる。このとき、各吸収部材12が、図9に示すように記録ヘッド21A〜21Eの配置方向に並ぶ複数のノズル列Lにも対向した状態となる。
このようにして、4本の吸収部材12を各ノズル列Lのインク吐出方向上に出現させる。
【0068】
次に、制御装置は、ヘッドユニット2に対するフラッシング動作を実行し(図8:S2)、各記録ヘッド21A〜21Eの各ノズル列L(ノズル24)から、対向する吸収部材12に対してインク滴を噴射させる(例えば10滴程度)。ノズル列Lから吐出されたインク滴は吸収部材12に吸収される。
【0069】
制御装置は、ヘッドユニット2のフラッシング動作を実行している間、移動機構13を駆動させて、図9中の矢印で示す方向に各吸収部材12を移動させることにより、吸収部材12におけるインクを吸収した部分の巻き取り動作を行う(図8:S3)。これにより、ノズル列Lから吐出されたインク滴は、吸収部材12のインクを含まない新しい部分に常に吐出されることになるので吸収部材12内にすばやく吸収される。
なお、ノズル径に対して吸収部材12の断面最大寸法を75倍くらい確保できる場合には、吸収部材12のインク吸収量が極めて大きくなる。このため、フラッシング動作を行いながら吸収部材12の巻取り動作を行わなくても良い。例えば、吸収部材12の同一箇所に100滴くらいのインクを吐出してもインクが垂れない場合には、フラッシング動作を10回行ってから吸収部材12を巻き取るようにしても良い。
【0070】
本実施形態では、移動機構13における吸収部材12の巻取り速度をインクの吐出量に応じて調整し、吐出量が多いときには吸収部材12が飽和しないように巻取り速度を高めて、インクの吸収漏れが生じないように高速で巻き取るようにする。
【0071】
フラッシング動作が終了すると(図8:S4)、制御装置は移動機構14を駆動させて図9(b)に示すように複数の吸収部材12を退避位置へと移動させる(図8:S5)。
具体的には、移動部材14A,14Bをそれぞれ所定の回転数で反転させることにより、ノズル列Lと対向していた吸収部材12をノズル列Lと対向する位置から退避させる。なお、退避後に上述の巻取り動作を行っても良い。
【0072】
その後、制御装置は、記録紙に対する記録動作を再開する。
【0073】
そして、記録動作の間などにフラッシング動作を複数回実行した後、移動機構13の回転部15に巻回された吸収部材12の殆どが回転部16へと巻き取られて、回転部16による吸収部材12の巻き取りが終了したら新しいものと交換する。本実施形態の移動機構13は、図9に示すように取付部材70を介して取付板22の裏面22b側に着脱可能に設けられているので、容易に交換可能である。
【0074】
本実施形態によれば、記録ヘッド21と記録紙8との間に線状の吸収部材12を配置し、線状の吸収部材12を移動して記録ヘッド12のノズルに対向させてフラッシング時のインクを吸収することができるので、ヘッドユニット2を移動させることなくフラッシング動作を実行することが可能となる。ヘッドユニット2を移動させずに済むことから、フラッシング動作を適切な時期に短時間で行うことができる。
【0075】
また、細い線状部材のため、移動距離も短く、短時間が移動も済む。例えば、印字時にノズル列間に対応する位置に配置させておくことも可能である。
また、吸収部材12として、線状部材を用いることによって、インクが吸収部材12に滴下される際に、吸収部材12の周囲における上昇気流の発生を抑制し、ヘッド21A〜21Eにインクが付着することを防止することができる。このため、吸収部材12をヘッド21A〜21Eに近接させることが可能となり、インクが揮発することによって生じ、ヘッド21A〜21E等の汚染の原因となるミストの発生を抑制することができる。
【0076】
また、フラッシング時に吐出対象となるのが線状の吸収部材12であるため、吸収部材12への吐出時の風圧の影響によるドット抜けが生じにくい。また、フラッシング時に吐出されたインク滴はノズル24の近くで吸収部材12に全て吸収されるため、記録紙や搬送ベルト部33上が汚れてしまうのを防止できる。
【0077】
また、吐出されるインク量に応じて吸収部材12の巻き取り速度を変化させることにより、吸収部材12がインクで飽和しないうちに巻き取ることが可能である。これにより、フラッシングインクを漏らすことなく吸収部材12内に確実に吸収させることができる。
以上述べたように、本実施形態では、簡単な構成で高速にフラッシング動作を実行することができるので、印刷能力が向上する。
【0078】
なお、上記では、フラッシング動作中に吸収部材12を随時巻き取るようにしたが、吐出されるインク量が少なくて巻き取る必要がない場合は、吸収部材12を停止させておいてもよい。
【0079】
また、移動機構14が、吸収部材12のノズル列Lの直交方向における位置を調整する位置調整機構を有していてもよい。これにより、吸収部材12をノズル列Lと対向する位置へと確実に移動させることができるとともに、ノズル列Lとは対向しない位置へと確実に退避させることが可能となる。
【0080】
また、記録動作時において、複数の吸収部材12を記録ヘッド21のノズル面23と対向しない位置まで大幅に退避させても良い。さらに、キャップユニットによるキャッピング時も同様に退避させることにより、記録ヘッド21のノズル面23をキャップ部61によって良好にキャッピングすることができる。
【0081】
なお、吸収部材として幅狭のテープ状部材(布など)を用いれば、記録ヘッド21とキャップ部61との間に吸収部材を介在させた状態であってもノズル面23を良好に封止することが可能である。
【0082】
以上のように本実施形態のプリンタ1によれば、線状の吸収部材12(線状部材からなる吸収部材)をノズル列と対向させた状態(ノズル24から噴射されたインクの飛行経路に配置した状態)にすることで、各ノズル24から吐出されたインクを吸収部材12において吸収することが可能である。また、線状の吸収部材12のため、僅かな移動で吸収部材12を飛行経路から退避する位置に移動することができる。このため、本実施形態のプリンタ1によれば、短時間でメンテナンスを終了できる。
【0083】
(第2実施形態)
以下に示す第2実施形態のインクジェットプリンタの基本構成は、上記第1実施形態と略同様であるが、フラッシングユニットの構成が異なっている。よって以下では、先の実施形態と異なる部分について詳しく説明し、共通な箇所の説明は省略する。また、説明に用いる各図面において、図1〜図10と共通の構成要素には同一の符号を付すものとする。
図11(a)は、第2実施形態のプリンタの概略構成を示す断面図、図11(b)は、フラッシングユニットの側面図である。
【0084】
本実施形態のフラッシングユニット80は、移動部材14A,14Bを有する移動機構14と、駆動ローラー81および従動ローラー82を有した移動機構83と、これら移動部材14A,14B、駆動ローラー81および従動ローラー82に架け渡された複数の吸収部材72と、クリーニング機構85と、を備えている。
【0085】
移動機構83は、駆動ローラー81および従動ローラー82を有し、これらに架け渡される複数の吸収部材72とによってプーリー機構を構成するものである。各ローラー81,82は、取付部材70を介して取付板22の裏面22b側にそれぞれ固定されている。
駆動ローラー81および従動ローラー82の構成は、上記した回転部15,16と共通とされており、図11(b)に示すような仕切板15b,16b間の回転軸15a,16aに環状の吸収部材72が1本ずつ巻架されている。
【0086】
駆動ローラー81は、回転軸15aの一端側が不図示の駆動モータに接続されており、駆動モータにより回転駆動されるようになっている。そして、駆動ローラー81の回転動力が各吸収部材72に伝達され、吸収部材72が回転される。従動ローラー82は、いわゆるフリーローラーであり、各吸収部材72を支持するとともに駆動ローラー81の回転駆動に従動して回転される。
【0087】
クリーニング機構85は、インクを含んだ吸収部材72を洗浄する洗浄機構であって、吸収部材72のインク吸収能を復帰させて再利用可能にするためのものである。このクリーニング機構85は、吸収部材72の移動経路上の所定位置に配置され、複数の吸収部材72が内部を通過するようになっている。
【0088】
なお、クリーニング機構85は、吸収部材72を再利用できる状態に復帰できれば良いので、例えばフェルト部材などを用いて吸収部材72に吸収されたインクを吸い取るようにしても良い。
【0089】
本実施形態によれば、インクを吸収した吸収部材72を洗浄することで再利用できるようになるので、連続使用が可能になる。これにより、吸収部材72の交換作業が不要になる。また、交換作業の手間が省けるとともに、吸収部材72にかかるコストも削減することができる。
【0090】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0091】
例えば、第1実施形態のプリンタ1にクリーニング機構を設けてもよい。この場合、吸収部材12の移動方向下流側(移動部材14Bよりも下流側)に配置することにより、インクを吸収した吸収部材12を洗浄するなどクリーニング処理を実施できる。回転部16には、洗浄後の再利用可能な吸収部材12が巻き取られることになり、例えば回転部15,16を逆方向に回転させることで再びフラッシング動作を実施することが可能になる。
【0092】
また、吸収部材の本数は、記録ヘッド21のノズル列Lに応じて適宜設定されるものとする。なお、上記各実施形態においては、1つのノズル列Lに対して1つの吸収部材を対応させる構成としたが、複数のノズル列Lに対して1つの吸収部材を対応させるようにしても良い。この場合は、吸収部材の幅を対応する複数のノズル列Lに合わせたものを採用する。
【0093】
また、第1実施形態においては、複数の吸収部材12を同時に巻き取る構成としたが、個別に巻き取る構成にしても良い。
【0094】
また、上記実施形態においては、吸収部材12がノズル列に平行に沿う構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、必ずしも吸収部材12の延在方向とノズル列の延在方向とが完全に平行となるようにする必要はない。つまり、本発明において、ノズル列に沿って延在するとは、ノズル列と完全に平行となる状態のみに限定されるものではなく、ノズル列の延在方向に延長した延長線と吸収部材の延在方向に延長した延長線とが先の領域において交差する場合も含む意味である。
【0095】
また、上記実施形態においては、本発明をラインヘッド方式のプリンタに適用した構成について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、シリアル方式のプリンタに適用することもできる。
【0096】
また、上記実施形態においては、吸収部材12が常にヘッド21A〜21Eの直下を移動する構成について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、吸収部材12を退避させる際に、ヘッド21A〜21Eの直下から外れた領域(例えば、ヘッド21A〜21Eの側方)に移動させる構成を採用することもできる。
【0097】
また、上記実施形態においては、吸収部材12を移動することによって、吸収部材12とヘッド21A〜21Eの位置関係を変化する構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ヘッド21A〜21Eを移動することによって、吸収部材12とヘッド21A〜21Eの位置関係を変化する構成を採用しても良い。
【0098】
また、上記実施形態においては、メンテナンス処理の際に、吸収部材12、72がヘッド21A〜21Eと記録紙の搬送領域との間に位置する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、メンテナンス処理の際に吸収部材12、72を記録紙の搬送領域の下方に位置する構成を採用しても良い。
【0099】
また、上記実施形態においては、本発明の第1移動機構の一部として、軸部14aに凸条部14bが螺旋状に巻回されてなる一対の移動部材14A,14B(リードスクリュー)を用いる構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図12に示すように、軸部14aに対して、フランジ状のつば部14dが一定間隔で軸方向に配列して取り付けられた移動部材14A1、14B1を用いる構成を採用しても良い。
なお、移動部材14A1、14B1を用いる場合には、つば部14dとつば部14dとの間に吸収部材12を廻し掛け、移動部材14A1、14B1自体を軸方向に移動することによって吸収部材12、72を記録紙の搬送方向に移動する。
【0100】
上記実施形態では、インクジェット式のプリンタが採用されているが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置と、その流体を収容した流体容器を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる流体噴射ヘッド等を備える各種の流体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記流体噴射装置から吐出される流体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう流体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であれ良い。
【0101】
例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての流体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、流体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種流体組成物を包含するものとする。
【0102】
流体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む流体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。
【0103】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用しても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置および流体容器に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1…プリンタ(流体噴射装置)、24…ノズル、21(21A〜21E)…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、10…メンテナンス装置、L…ノズル列、12,72…吸収部材、13…移動機構(第2移動機構)、14…移動機構(第1移動機構)、85…クリーニング機構、12a…繊維束(糸)、12b…谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルからなるノズル列を有すると共に媒体へ流体を噴射する流体噴射ヘッドを備え、前記ノズルから流体を吸収する吸収部材に流体を噴射するフラッシング動作を行える流体噴射装置であって、
前記吸収部材は、前記ノズル列に沿って延在すると共に前記ノズルから噴射された前記流体の飛行経路から退避する位置に相対移動可能とされた線状部材であることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記吸収部材を、前記流体噴射ヘッドと前記媒体との間に備えたことを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記吸収部材を前記ノズル列の延在方向と交差する方向に移動させる第1移動機構を備えることを特徴とする請求項1または2記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記吸収部材は、断面最大寸法が前記ノズルの直径に対して5倍以上75倍以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記吸収部材は、断面形状が円形であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記吸収部材は、断面最大寸法が前記ノズルの直径に対して10倍以上50倍以下であることを特徴とする請求項5記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記吸収部材は、複数の糸が撚られて形成されていることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項8】
前記吸収部材をクリーニングするクリーニング機構を備えることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項9】
前記ノズル列を複数有し、前記ノズル列ごとに前記吸収部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項10】
複数のノズルからなるノズル列を有すると共に媒体へ流体を噴射する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置において、前記ノズルから流体を吸収する吸収部材に流体を噴射するフラッシング動作に用いられるメンテナンス装置であって、
前記吸収部材として、前記ノズル列に沿って延在すると共に前記ノズルから噴射された前記流体の飛行経路から退避する位置に相対移動可能とされた線状部材を備えることを特徴とするメンテナンス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−137547(P2010−137547A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219384(P2009−219384)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】