説明

流体用ダイヤフラムポンプ

【課題】部品点数が少なく、組立が容易であり、低騒音かつ開閉弁の安定性・信頼性に優れた流体用ダイヤフラムポンプを提供する。
【解決手段】流体用ダイヤフラムポンプは、モータ15と、クランク台13と、軸部材14と、揺動板12と、ダイヤフラム集合体3と、ケース部材11と、リテーナ部材2と、中蓋体4と、吸入弁膜集合体5と、上蓋体6と、を備え、中蓋体は、リテーナ部材に連結され、ダイヤフラムが密着されることによってポンプ室が構成され、ポンプ室の外部から連通可能な貫孔と、ポンプ室の容積が小さくなることで、ポンプ室内の流体が上側に吐き出される排出孔46と、貫孔近傍から上側に向かって突出する円筒状の吸入弁座部と、を有し、吸入弁座部の外周面が上側に向かって先細りするテーパ面を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体用ダイヤフラムポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダイヤフラムポンプとして、傘状に形成された可動部を有する吸入用弁体を備えるものが用いられる。特開2007-162472号公報に開示されているダイヤフラムポンプは、複数のダイヤフラム部を一体形成したダイヤフラムと、複数の吸入用弁体と、吸入用弁体が取り付けられるバルブホルダーを備える。吸入用弁体は、ゴム等の弾性を有する材料によって形成され、軸部と、軸部の中央部に設けられた膨出部と、軸部の一端に形成された可動部と、により構成される。吸入用弁体は、バルブホルダーに設けた貫通孔に膨出部を弾性変形させながら強制的に挿入し、軸を貫通孔に嵌合させることにより、バルブホルダーに取り付けられる。ポンプ室は、バルブホルダーと各ダイヤフラム部とによって、複数構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−162472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、傘状の吸入用弁体を用いると、部品点数が多くなってしまい、組立作業に手間がかかる。また、ポンプ室内でダイヤフラム部と吸入用弁体との干渉を防止するために、ポンプ室を大きくする必要があった。また、小型の複数個の吸入用弁体を用いるため、故障が生じ易かった。さらには、作動の信頼性が低いという問題や、開閉作動時の騒音の大きいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、部品点数が少なく、組立が容易であり、低騒音かつ開閉弁の安定性・信頼性に優れた流体用ダイヤフラムポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な流体用ダイヤフラムポンプは、中心軸方向上側に向けてシャフトが突出するモータと、前記シャフトと共に回転するクランク台と、前記クランク台に対して、前記中心軸から径方向において離れた位置に支持され、前記中心軸に向かって傾斜して支持される軸部材と、前記軸部材の上端に支持される揺動板と上側に向けて開口し、前記揺動板に固定された複数のダイヤフラムが、前記中心軸を中心として配置され、一体で連結するダイヤフラム集合体と、前記揺動板を収容し、前記モータに連結される円筒状のケース部材と、前記ダイヤフラム集合体と前記揺動板の間に配置され、前記ダイヤフラム集合体を保持し、前記ケース部材に連結されるリテーナ部材と、前記リテーナ部材に連結され、前記ダイヤフラムが密着されることによってポンプ室が構成され、前記ポンプ室の外部から連通可能な貫孔と、前記ポンプ室の容積が小さくなることで、前記ポンプ室内の流体が上側に吐き出される排出孔と、前記貫孔近傍から上側に向かって突出する円筒状の吸入弁座部と、を有する中蓋体と、前記中蓋体の上側に配置され、前記吸入弁座部の外周面に対して密着分離自在に接触する複数の円筒状の吸入弁膜と、前記排出孔と前記中心軸方向において重なる吐出孔を有し、前記吐出孔の周囲にて前記中蓋体と密着する環状領域を有し、前記吸入弁膜と一体状で連結される平板部と、を有する吸入弁膜集合体と、前記吸入弁膜集合体の上側に配置され、前記中心軸方向に貫通する吐出路と、前記吐出路の周囲において下側に向けて突出し、前記吸入弁膜の内周面側の領域と前記吐出路とを区切る円環状の区切壁部と、前記中心軸に貫通する吸入路と、前記吸入弁膜よりも径方向外方に配置され、下側に向けて突出し、前記平板部の上面に接触する外部仕切壁部を有し、前記外部仕切壁と前記区切壁部との間に吸込路を構成し、前記中蓋体と連結される上蓋体と、を備えており、前記吸入弁座部の外周面が上側に向かって先細りするテーパ面を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の流体用ダイヤフラムポンプによれば、部品点数が少なく、組立を容易にできる。また、騒音が小さく、かつ、開閉弁の安定性・信頼性に優れた流体用ダイヤフラムポンプを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】流体用ダイヤフラムポンプの分解斜視図である。
【図2】流体用ダイヤフラムポンプの要部断面図である。
【図3】ダイヤフラム集合体の斜視図である。
【図4】中蓋体の背面図である。
【図5】中蓋体を下側から見た斜視図である。
【図6】中蓋体の正面図である。
【図7】中蓋体を上側から見た斜視図である。
【図8】吸入弁膜集合体の背面図である。
【図9】吸入弁膜集合体を下側から見た斜視図である。
【図10】上蓋体の背面図である。
【図11】上蓋体を下側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、流体用ダイヤフラムポンプの中心軸を「中心軸L」と呼ぶ。また、中心軸Lに沿う方向を上下方向とし、流体用ダイヤフラムポンプに対して、吐出口部が配置される側を「上側L1」と呼び、モータ15が配置される側を「下側L2」と呼ぶ。ただし、これは、説明の便宜のために上下方向を定義したものであって、本発明に係る流体用ダイヤフラムポンプの、使用時における姿勢を限定するものではない。また、中心軸Lに直交する方向を径方向とする。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る流体用ダイヤフラムポンプの分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る流体用ダイヤフラムポンプの要部断面図である。図1に示すように、流体用ダイヤフラムポンプは、ケース部材11と、揺動板12と、モータ15と、クランク台13と、軸部材14と、を備える。
【0011】
モータ15は上側L1に向けて延びるシャフト15aを有する。シャフト15aの上端はモータ15から上側に向けて突出している。ケース部材11は、揺動板12、軸部材14およびクランク台13を収容する。ケース部材11は、中心軸L方向に延びる略有底円筒状の部材であり、上側L1に向かって開口する。ケース部材11の円筒部の上側L1の端部は、下側L2に窪むケース凹部11aを有する。ケース部材11の底面の略中央には、中心軸L方向において貫通する貫通孔11bを有する。ケース部材11の下側L2の部位は、モータ15に固定される。尚、ケース部材11は、略有底円筒状の部材に限定されず、円筒状の部材でも良い。シャフト15aの上側L1の端部は、貫通孔11bを通って、ケース部材11の内部に配置される。シャフト15aの上側L1の端部にはクランク台13が固定される。クランク台13は、シャフト15aと共に回転する。軸部材14は、クランク台13に対して、中心軸Lから径方向において離れた位置に支持され、中心軸Lに向かって傾斜して支持される。揺動板12は、軸部材14の上側L1の端部に支持される。揺動板12は、軸部材14が支持される部位から径方向外方に向かって延びるダイヤフラム保持部12aを有する。ダイヤフラム保持部12aは、中心軸L方向に貫通する孔である。ダイヤフラム保持部12aには、後述するダイヤフラム30の下端が保持される。揺動板12は、モータ15が回転することで、モータ15の回転軸とは異なる軸部材14を回転軸として回転する。軸部材14の回転軸は、モータ15の回転軸に対して傾斜している。
【0012】
図1に示すように、流体用ダイヤフラムポンプは、リテーナ部材(支持部材)2と、ダイヤフラム集合体3と、中蓋体4と、吸入弁膜集合体5と、上蓋体6と、をさらに備える。図1および図2に示すように、流体用ダイヤフラムポンプは、中心軸Lの上から下に向かって、上蓋体6、吸入弁膜集合体5、中蓋体4、ダイヤフラム集合体3、リテーナ部材2、ケース部材11およびモータ15の順に配置される。
【0013】
図1に示すように、リテーナ部材2は、上下に貫通する3つのリテーナ貫通孔21を有する。リテーナ貫通孔21は、中心軸Lを中心として周方向に略等間隔、つまり、周方向に120度間隔で配置される。本実施形態においては、リテーナ貫通孔21は、3つ構成されているが、これは後述するダイヤフラム30の数と同じである。つまり、ダイヤフラム30が4つ構成される場合には、リテーナ貫通孔21は、4つ構成される。
【0014】
図2に示すように、リテーナ部材2は、ダイヤフラム集合体3と揺動板12との間に配置され、ダイヤフラム集合体3を保持するケース部材11の上側L1の端部と連結される。
【0015】
ダイヤフラム集合体3は、3つのダイヤフラム30と、平板膜部34と、3つの吐出弁膜32と、3つのダイヤフラム駆動部33と、を有する。ダイヤフラム集合体3は、ゴム等の弾性部材により形成された単一部材である。すなわち、ダイヤフラム30、平板膜部34、吐出弁膜32およびダイヤフラム駆動部33は、一つながりの部材として一体に連結される。つまり、ダイヤフラム集合体3は、複数の部品で構成されるものではなく、一つの部品である。
【0016】
また、図3は、本発明の実施形態に係るダイヤフラム集合体3の斜視図である。図2および図3に示すように、ダイヤフラム30は略椀型であり、上側L1に向けて開口する。平板膜部34は、径方向に延び、上下に貫通する3つの貫通孔を有する。平板膜部34に形成された3つの貫通孔は、中心軸Lを中心として周方向に略等間隔、つまり、周方向に120度間隔で配置される。ダイヤフラム30の開口端部は、それぞれ平板膜部34に形成された3つの貫通孔を規定する平板膜部34の内周面の下端部に接続される。すなわち、ダイヤフラム30は、中心軸Lを中心として周方向に略等間隔、つまり、周方向に120度間隔で配置される。吐出弁膜32は、略円筒状である、3つの吐出弁膜32のそれぞれは、平板膜部34に形成された貫通孔を規定する平板膜部34の内周面の上端部から上側L1に延びる。すなわち、吐出弁膜32は、ダイヤフラム30の開口縁部から上側L1に向かって延びる。吐出弁膜32は、中心軸を中心として周方向に略等間隔、つまり、周方向に120度間隔で配置される。3つのダイヤフラム駆動部33のそれぞれは、ダイヤフラム30の下部から、下側L2に延びる。ダイヤフラム30およびダイヤフラム駆動部33のそれぞれは、リテーナ部材2の上側L1から、リテーナ貫通孔21に挿通される。ダイヤフラム駆動部33は、揺動板12のダイヤフラム保持部12aに挿通されることにより支持される。すなわち、ダイヤフラム駆動部33は、揺動板12に取り付けられる。シャフト15aの回転に伴い、揺動板12のダイヤフラム保持部12aが回転しながら上下運動を行う。この結果、ダイヤフラム駆動部33は、上下に往復運動(ピストン運動)をして、ダイヤフラム30を弾性変形させる。
【0017】
図3に示すように、平板膜部34は、上側L1の面(上面34a)の径方向外端部に沿って、上側L1に突出する膨出条部35を有する。膨出条部35は、閉環状に形成されている。なお、図2に示すように、ダイヤフラム集合体3が、中蓋体4とリテーナ部材2とで挟持されることにより、膨出条部35は、中蓋体4によって押圧され、平板膜部34と略同一の厚みに弾性変形される。これにより、ポンプ外部に対するポンプ内部の気密性を保つことができる。
【0018】
中蓋体4は、リテーナ部材2の上端に連結される。中蓋体4とリテーナ部材2とでダイヤフラム集合体3を挟持する。これにより、中蓋体4がダイヤフラム集合体3に密着され、ダイヤフラム30の内部にポンプ室が構成される。中蓋体4は、樹脂部材である。上述したダイヤフラム駆動部33が上下に往復運動することにより、ダイヤフラム駆動部33がダイヤフラム30の内部空間を狭くしたり広くしたりする。この結果、ポンプ室の内部空間の体積が変化する。ポンプ室の内部空間の体積が変化することで、ポンプ室の吸入および排出が行われる。
【0019】
図4は、本発明の実施形態に係る中蓋体4の背面図である。また、図5は、本発明の実施形態に係る中蓋体4を下側L2から見た斜視図である。図4および図5に示すように、中蓋体4は、短円柱状であり、略中央に上下に貫通する排出孔46を有する。ポンプ室内の体積が小さくなることで、排出孔46からポンプ室内の流体が上側L1に吐き出される。中蓋体4の下面から、排出孔46の周囲から下側L2に向かって3つの支柱部46aが突出している。支柱部46aの下端のそれぞれは、中心軸L方向において排出孔46と重なる位置で連結される。なお、支柱部46aは2つ以上であればよい。図2に示すように、支柱部46aの下端は、ダイヤフラム集合体3と接触する。排出孔46から流体が排出されるのを阻害することなく、ダイヤフラム集合体3のリテーナ部材2からの浮きを防止する支柱部46aを設けることができる。
【0020】
また、図6は、本発明の実施形態に係る中蓋体4の正面図である。図7は、本発明の実施形態に係る中蓋体4を上側L1から見た斜視図である。中蓋体4は、3つの円環状凹溝44と、3つの窪み部49と、を有する。円環状凹溝44および窪み部49は、中蓋体4の上側L1の面(上面4a)に配置され、下側L2に向かって窪む。円環状凹溝44および窪み部49は、中心軸Lを中心として周方向に略等間隔、つまり、周方向に120度間隔で配置される。また、円環状凹溝44のそれぞれは、窪み部49の対応するそれぞれと、同軸上に配置され、かつ、窪み部49は、円環状凹溝44よりも内側に配置される。円環状凹溝44の底面には上下に貫通する貫孔48を、それぞれ3つ有する。なお、貫孔48は、少なくとも1つあればよい。そして、中蓋体4に形成された貫孔48は、ポンプ室の内部と外部とを連通する。
【0021】
中蓋体4の下面は、下側L2に向かって突出する円筒状の3つの吐出弁座部45を有する。貫孔48は、吐出弁座部45の底板部に位置している。すなわち、当該底板部の上面の一部を、円環状凹溝44の底面が構成している。中蓋体4の下面は、各吐出弁座部45の周囲に配置される。更に、中蓋体4は、中蓋体4の径方向外方の領域の下面から下側L2に向けて突出し、平板膜部34の上面34aに接触する中蓋仕切壁部40aを有する。そして、中蓋仕切壁部40aの内周面で囲まれた隙間は、排出路49と規定される。排出路49は、排出孔46と連通する。また、吐出弁膜32は、吐出弁座部45の外周面に対して密着分離自在に接触する。ポンプ室の体積が小さくなることで、ポンプ室内の流体は、吐出弁座部45と吐出弁膜32とを分離し、その隙間から排出路49へと排出される。
【0022】
円環状凹溝44の内周面と窪み部49の外周面との間の部位42(以下、吸入弁座部42という。)は、略円筒状である。中蓋体4は吸入弁座部42を3つ有する。吸入弁座部42は、貫孔48近傍から上側L1に向かって突出する。すなわち、吸入弁座部42は、吐出弁座部45の底板部の上面から上側L1に向かって突出する。吐出弁座部45の底板部の下面は、吸入弁座部42の略中央と中心軸L方向に重なる位置に、上側L1に向かって窪む凹部41を有する。中蓋体4は樹脂で形成されている。よって、凹部41を設けることで、射出成型時のヒケを防止し、吐出弁座部45に対する吸入弁座部42の倒れを防止する。また、吐出弁座部45の内側に吸入弁座部42を配置することで、流体用ダイヤフラムポンプの軸方向の高さを小さくすることができる。
【0023】
吸入弁座部42の外周面は、上側L1に向かって先細りするテーパ面42aを有する。さらに、吸入弁座部42の外周面は、上下に延びる縦溝42bが配置される。縦溝42bは、吸入弁座部42の外周面の中間部から上側L1に向かって延びる。吸入弁座部42の周方向において、縦溝42bと貫孔48とが略同一の位置に配置される。中間部よりも下側L2におけるテーパ面42aは、中間部よりも上側L1におけるテーパ面42aに比べて、中心軸Lに対する傾斜が緩い。上述した、縦溝42bの下端は、中間部近傍に配置される。また、後述する吸入弁膜の内周面の下端は、縦溝42bの下端よりも下側まで延び、中間部よりも下側まで延びている。
【0024】
図2に示すように、吸入弁膜集合体5は、中蓋体4の上側L1に配置される。図8は本実施形態に係る吸入弁膜集合体5の背面図である。また、図9は、本実施形態に係る吸入弁膜集合体5を下側から見た斜視図である。図8および図9に示すように、吸入弁膜集合体5は、平板部(平膜部)54と、吐出孔56と、3つの吸入孔51と、3つの吸入弁膜52と、を有する。吸入弁膜集合体5は、ゴム等の弾性部材により形成された単一部材である。すなわち、平板部54、吐出孔56、吸入孔51および吸入弁膜52は、一体に連結される。
【0025】
吸入弁膜52は、円環状凹溝44の溝内部に挿入される。吸入弁膜52は、吸入弁座部42の外周面に対して密着分離自在に接触する。従来のような傘状の吸入用弁体を採用した場合、傘状弁体が弁座部に密着する際に、弁の叩き音が発生していた。本実施形態に係る流体用ダイヤフラムポンプでは、弁膜(吸入弁膜52や吐出弁膜32)が弁座部(吸入弁座部42や吐出弁座部45)に密着する音が静かであり、低騒音の流体用ダイヤフラムポンプを得ることができる。
【0026】
また、前述したように、吸入弁座部42の外周面は、上側L1に向かって先細りするテーパ面42aが形成されることで、吸入弁膜52の下端開口に吸入弁座を挿入し易くなる。その結果、組立作業の作業性が向上し、組立が容易になる。また、テーパ面42aと吸入弁膜52との間に空間を構成することができる。このため、ポンプ作動時には、流体がテーパ面42aと吸入弁膜52との間に介在される。ポンプ室内部の体積が大きくなることにより、ポンプ室内部の圧力が低下する。次に、貫孔48および吸入弁膜52の外周面の圧力が低下する。吸入弁膜52の内と外との圧力差が生じ、吸入弁膜52に対して吸入弁座部42から離れる方向に力が作用する。これにより、吸入弁膜52と吸入弁座部42との間から貫孔を通じてポンプ室内部に流体が吸入される。
【0027】
また、前述したように、縦溝42bが、吸入弁座部42の外周面に配置されるため、吸入弁膜52の径方向外方に存在する流体の圧力が低下した際に、縦溝42b内の流体と吸入弁膜52の径方向外方に存在する流体との圧力差が生じ易い。このため、吸入弁膜52は、吸入弁座部42から離れ易くなり、流体の案内が円滑に行える。よって、ダイヤフラムポンプ動作時のモータ消費電力を低減することができる。
【0028】
また、前述したように、縦溝42bと貫孔48とが略同一の位置に配置されることで、溝を流れた流体が、吸入弁膜52が吸入弁座部42から離れて直ぐに、貫孔48を通じてポンプ室内に吸入される。
【0029】
平板部54は、径方向に延びる平板状の部位である。平板部54は、上下に貫通する吐出孔56および3つの吸入孔51を有する。平板部54の下面は、吐出孔56の周囲にて中蓋体4と密着する環状領域を有する。吐出孔56は、平板部54の略中央に配置され、排出孔46と上下方向において重なる。平板部54は、吐出孔56を規定する吸入弁膜集合体5の内周面から、吐出孔56の内方に向かって延びる排出弁55を有する。排出弁55は、中心軸Lから見て、中蓋体4の排出孔46を覆う。これにより、後述する吐出路66から流体が逆流を防止する弁を吸入弁膜集合体5と一体で構成できる。これにより、部品点数の増加を防止できる。
【0030】
吸入孔51は、吐出孔56よりも径方向外側、かつ、中心軸を中心として周方向に略等間隔で配置される。つまり、吸入孔51は、周方向に120度間隔で配置される。吐出孔56は、上下方向において排出孔46と重なる。3つの吸入弁膜52は略円筒状であり、それぞれ吸入孔51を規定する平板部54の内周面の下端部から、下側L2に延びる。すなわち、吸入弁膜52は、平板部54の下側L2の面(下面54b)から、下側L2に延びる。吸入弁膜52は、吸入弁座部42の外周面に対して密着分離自在に接触する。
【0031】
図8および図9に示すように、吸入弁膜集合体5の平板部54は、下面54bに、吸入弁膜52がそれぞれ略同軸上に配置され、上側L1に向かって窪む位置決め凹部53を有している。位置決め凹部53は略環状である。位置決め凹部53のそれぞれは、吸入弁膜52よりも径方向外側に配置される。
【0032】
また、平板部54は、下面54bの径方向外端部に沿って、下側L2に突出する凸条部59を有する。凸条部59は、閉環状に形成されている。なお、図2に示すように、吸入弁膜集合体5が、中蓋体4と上蓋体6とで挟持されることにより、凸条部59は、中蓋体4によって押圧され、平板膜部34と略同一の厚みに弾性変形される。これにより、ポンプ外部に対するポンプ内部の気密性を保つことができる。
【0033】
図1に示すように、平板部54は、上面54aの端部に沿って、上側L1に突出する突条部58を有する。
【0034】
突条部58は、外側突条部58aと、内側突条部58bと、により構成される。外側突条部58aは、平板部54の上面54aの径方向外端部に沿って、上側L1に突出する。内側突条部58bは、平板部54の上面54aの径方向内端縁に沿って、上側L1に突出する。なお、図2に示すように、吸入弁膜集合体5が、中蓋体4と上蓋体6とで挟持されることにより、突条部58(58a,58b)は、上蓋体6によって押圧され、平板部54と略同一の厚みに弾性変形される。これにより、吸入経路に対する排出経路の気密性および外部に対するポンプ内部の気密性を保つことができる。
【0035】
図10は本実施形態に係る上蓋体6の背面図である。また、図11は、本実施形態に係る上蓋体6を下側から見た斜視図である。図11に示すように、上蓋体6は、吸入弁膜集合体5の上側L1に配置される。上蓋体6は、中蓋体4と連結される。上蓋体6と中蓋体4とで吸入弁膜集合体5を挟持する。
【0036】
図2に示すように、上蓋体6は、吸入口部60と、吐出口部65と、を有する。上蓋体6は、径方向に延びる。上蓋体6は、略中央に上下に貫通する貫通孔と、当該貫通孔を規定する面の上端部から上側L1に延びる略円筒状の吐出口部65と、を有する。上蓋体6の略中央に形成された貫通孔および吐出口部65の内周面により、吐出路66が構成される。吐出路66は、上蓋体6を上下方向に貫通する。上蓋体6は、略中央に形成された貫通孔よりも径方向外側に、上下に貫通する貫通孔と、当該貫通孔を規定する面の上端部から上側L1に延びる略円筒状の吸入口部60と、をさらに有する。上蓋体6の略中央に形成された貫通孔よりも径方向外側に形成された貫通孔および吸入口部60の内周面により、吸入路61が構成される。吸入口部60および吐出口部65は、略円筒状である。
【0037】
上蓋体6の下面は、吐出路66の周囲にて下側L2に向けて突出し、吸入弁膜52の内周面側の領域と吐出路66とを区切る円環状の区切壁部67を有する。また、上蓋体6の下面は、吸入弁膜52よりも径方向外側に配置され、下側L2に向けて突出し、平板部54の上面に接触する外部仕切壁部61bを有する。そして、外部仕切壁61bと区切壁部67との間に吸込路62が構成される。
【0038】
上蓋体6の下面は、下側L2に向かって突出する3つの円弧壁部68aからなる3つの支持壁部郡68を有する。なお、円弧壁部68aは、少なくとも1つあればよい。より具体的には、外部仕切壁部61b、区切壁部67および支持壁部郡68の下端が平板部54を下側L2に向かって押圧する。支持壁部郡68の下端が平板部54を下方に向けて押圧しているため、平板部54が中蓋体4から浮くのを防止することができる。そして、上蓋体6と中蓋体4とで吸入弁膜集合体5を挟持する。支持壁部郡68は、吸入弁膜52のそれぞれと略同軸上に配置され、吸入弁膜52の周囲を囲んでいる。吸入弁膜52のそれぞれの、中心軸L1に最も近い円弧壁部68aは、区切壁部67と一体となっている。1つの支持壁部郡68が複数の円弧壁部68aで構成されることで、隣り合う円弧壁部68a同士の間から、吸入路61から吸入された流体を吸入弁膜52の内側に円滑に案内することができる。
【0039】
上述した本発明の流体用ダイヤフラムポンプの作用について説明する。ポンプ室は、中蓋体4がダイヤフラム集合体3に密着されることによって構成される。また、リテーナ部材2より上側L1に、吸入路61、吸込路62、吸入孔51、円環状凹溝44、貫孔48、から成る吸入流路が形成されると共に、吸入弁膜52と吸入弁座部42とから成る吸入弁が吸入流路に介設される。また、リテーナ部材2より上側L1に、吐出路66、吐出孔56、排出孔46、排出路49、から成る吐出流路が形成されると共に、吐出弁膜32と吐出弁座部45とから成る吐出弁が形成される。また、3つの円環状凹溝44は互いに連通しておらず、吸入弁を介して吸込路62と連通可能である。また、円環状凹溝44は、貫孔48を介して対応するポンプ室と連通している。また、揺動板12、クランク台13、軸部材14、モータ15は、出力軸15aの回転により揺動板12が揺動し、ダイヤフラム駆動部33を往復運動させる。
【0040】
ここで、吸入弁膜集合体5と中蓋体4を重ね合わせる際に、吸入弁膜52の内周面を吸入弁座部42の外周面に沿わせつつ差し込むことで、円環状凹溝44に吸入弁膜52を容易かつスムーズに収納させる。そして、位置決め凹部53に中蓋体4の位置決め凸部43が差し込まれる(嵌入される)ことで、吸入弁膜52と吸入弁座部42を同心状に配設すると共に、吸入弁膜52の内周面と吸入弁座部42の外周面を密着させ、吸入弁を構成する。また、吸入弁膜52と吐出弁膜32を同心状に配設する。つまり、吸入弁膜集合体5と中蓋体4が適切に位置決めされ組み立てられる。
【0041】
また、吸入弁膜集合体5の凸条部59が中蓋体4の上面4aに圧縮され密着すると共に突条部58が上蓋体1の下面に圧縮され密着し、ダイヤフラム集合体3の膨出条部35が中蓋体4の下面に圧縮され密着して、外部(大気側)と、ケース部材11、リテーナ部材2、ダイヤフラム集合体3、中蓋体4、吸入弁膜集合体5および上蓋体6を組み合わせて構成された内部空間と、を密封状に区画すると共に、当該内部空間を低圧側(吸入流路)と高圧側(吐出流路)とを密封状に区画する。
【0042】
モータ15を駆動すると揺動板12が回転揺動する。揺動板12の揺動に伴って、ダイヤフラム駆動部33が往復運動をする。そして、ポンプ室が圧縮状態から膨張した場合は、ポンプ室内が負圧となって、負圧によって引き寄せられる流体が吸入弁膜52を吸入弁座部42から拡径状に分離(離間)させ、吸込路62とポンプ室とを開通状態にする。負圧作用により流体は吸入流路を流れポンプ室に流入する。
また、吐出弁膜32は、負圧により吐出弁座部45に吸い寄せられ圧接(密着)する。排出路49からポンプ室への流体の浸入を防止する。
【0043】
次に、ダイヤフラム駆動部33の往復運動にて、ポンプ室が圧縮した場合は、ポンプ室内の流体が、吐出弁膜32を、押圧して吐出弁座部45から拡径状に離間(分離)させ、排出路49とポンプ室とが開通状態となりポンプ室内の流体が吐出路66から排出される。また、ポンプ室の圧縮により、円環状凹溝44の流体が、吸入弁膜52を吸入弁座部42に圧接させる。吸入弁は吸入流路を遮断状態とし流体が吸込路62へ流出するのを防止する。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は限定されるものではなく、相互に矛盾しない限り適宜様々な変更が可能である。ダイヤフラム30、吐出弁膜32、ダイヤフラム駆動部33および平板膜部34に形成された貫通孔は必ずしも3つでなくてもよく、複数であれば良い。また、リテーナ貫通孔21も同様である。
【0045】
また、吸入弁座部42、円環状凹溝44、吐出弁座部45および窪み部49は必ずしも3つでなくてもよく、複数であれば良い。
【0046】
また、吸入孔51および吸入弁座部52は必ずしも3つでなくてもよく、複数であればいい。また、支持壁部郡68も同様である。
また、吐出弁膜32、吐出弁座部45は、実施形態の形状に限定されること無い。ポンプ室の体積が変化することで、ポンプ室内の流体が吐出弁、吸入弁を通じて吐出、吸入することができるダイヤフラム30であれば、どのような構成でも良い。
【符号の説明】
【0047】
2 リテーナ部材
3 ダイヤフラム集合体
4 中蓋体
5 吸入弁膜集合体
6 上蓋体
11 ケース部材
12 揺動板
13 クランク台
14 軸部材
15 モータ
30 ダイヤフラム
32 吐出弁膜
33 ダイヤフラム駆動部
34 平板膜部
42 吸入弁座部
45 吐出弁座部
46 排出孔
49 排出路
51 吸入孔
52 吸入弁膜
54 平板部
55 排出弁
56 吐出孔
61 吸入路
62 吸込路
66 吐出路
L1 上側
L2 下側
15a シャフト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体用ダイヤフラムポンプは、
中心軸方向上側に向けてシャフトが突出するモータと、
前記シャフトと共に回転するクランク台と、
前記クランク台に対して、前記中心軸から径方向において離れた位置に支持され、前記中心軸に向かって傾斜して支持される軸部材と、
前記軸部材の上端に支持される揺動板と、
上側に向けて開口し、前記揺動板に固定された複数のダイヤフラムが、前記中心軸を中心として配置され、一体で連結するダイヤフラム集合体と、
前記揺動板を収容し、前記モータに連結される円筒状のケース部材と、
前記ダイヤフラム集合体と前記揺動板の間に配置され、前記ダイヤフラム集合体を保持し、前記ケース部材に連結されるリテーナ部材と、
前記リテーナ部材に連結され、前記ダイヤフラムが密着されることによってポンプ室が構成され、前記ポンプ室の外部から連通可能な貫孔と、前記ポンプ室の容積が小さくなることで、前記ポンプ室内の流体が上側に吐き出される排出孔と、前記貫孔近傍から上側に向かって突出する円筒状の吸入弁座部と、を有する中蓋体と、
前記中蓋体の上側に配置され、前記吸入弁座部の外周面に対して密着分離自在に接触する複数の円筒状の吸入弁膜と、前記排出孔と前記中心軸方向において重なる吐出孔を有し、前記吐出孔の周囲にて前記中蓋体と密着する環状領域を有し、前記吸入弁膜と一体状で連結される平板部と、を有する吸入弁膜集合体と、
前記吸入弁膜集合体の上側に配置され、前記中心軸方向に貫通する吐出路と、前記吐出路の周囲において下側に向けて突出し、前記吸入弁膜の内周面側の領域と前記吐出路とを区切る円環状の区切壁部と、前記中心軸に貫通する吸入路と、前記吸入弁膜よりも径方向外方に配置され、下側に向けて突出し、前記平板部の上面に接触する外部仕切壁部を有し、前記外部仕切壁と前記区切壁部との間に吸込路を構成し、前記中蓋体と連結される上蓋体と、
を備えており、
前記吸入弁座部の外周面が上側に向かって先細りするテーパ面を有している。
【請求項2】
請求項1に記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記吸入弁座部の外周面に、前記中心軸方向に延びる縦溝が配置されている。
【請求項3】
請求項2に記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記吸入弁座部の周方向において、前記縦溝と前記貫孔とが同じ位置に配置される。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記吐出孔の内周面から、前記吐出孔の内方に向かって延び、前記中心軸から見て前記排出孔を覆う排出弁を有する。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記中蓋体から下側に向けて突出する円筒状の吐出弁座部と、
前記ダイヤフラムの開口縁部から上側に向かって延びる円筒状の吐出弁膜と、
を有しており、
前記吐出弁座部の底板部に前記貫孔が位置しており、前記吐出弁座部の外周面に対して前記吐出弁膜が密着分離自在に接触している。
【請求項6】
請求項5に記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記吐出弁座部の底板部の上面から前記吸入弁座部が上側に向かって突設されている。
【請求項7】
請求項6に記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記吐出弁座部の底板部の下面に、前記吸入弁座部の中央と前記中心軸方向に重なる位置に上側に向かって窪む凹部を有する。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記中蓋体の下面において、前記排出孔の周囲から複数の支柱部が下側に向かって突設されており、前記支柱部の下端のそれぞれは、前記中心軸方向において前記排出孔と重なる位置において連結されており、前記支柱部の下端は、前記ダイヤフラム集合体と接触する。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記上蓋体から下側に向けて突出する複数の円弧状の支持壁部郡を有しており、前記支持壁部郡の下端が前記平板部を下方に向けて押圧している。
【請求項10】
請求項9に記載の流体用ダイヤフラムポンプは、
前記複数の支持壁部郡は、前記吸入弁膜の周囲を囲んでおり、前記中心軸に最も近い前記支持壁部は、前記区切壁部と一体となっている。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−2347(P2013−2347A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133705(P2011−133705)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(593057263)多田プラスチック工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】