説明

流体装置およびポンプ装置

【課題】電磁部と流体室との間に介在する隔壁部材に貫通穴を形成した場合でも高い液密性や気密性を確保することのできるポンプ装置や水力発電装置などの流体装置を提供すること。
【解決手段】ポンプ装置100では、複数の固定部材11のうち、ホルダ部材5には、隔壁部材4に対してモータ部2が位置する側で回転軸7の外周面との間に環状空間80を構成するシール部材収納用筒部51が形成され、かかる環状空間80には、回転軸7の外周面およびシール部材収納用筒部51の内周面に接する第1環状シール部材8が配置されている。また、環状空間80より外周側では、隔壁部材4とホルダ部材5との間に第2環状シール部材91が挟持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁部と流体室との間に介在する隔壁部材に形成された貫通穴を電磁部から回転軸が貫通してインペラ体に連結されたポンプ装置や水力発電装置などの流体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ装置としては、モータ部(電磁部)とポンプ室(流体室)との間に介在する隔壁部材に形成された貫通穴をモータの回転軸が貫通してインペラ体に連結されたタイプのものが提案されており、かかるポンプ装置では、一般に、インペラ体に形成された連結用円筒部内に回転軸の端部が圧入された構造になっている。また、ポンプ装置では、ポンプ室を通過する液体が隔壁部材の貫通穴を介してモータ部の側に漏れることを防止するとともに、モータ部の側から隔壁部材の貫通穴を介してポンプ室に気泡が侵入しないように、インペラ体に形成された連結用円筒部と隔壁部材に設けたシール部材収納用筒部とによって構成された環状空間にオイルシールなどといった環状シール部材が設けられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−213491号公報
【特許文献2】特開2009−59549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の構成のように、インペラ体に形成された連結用円筒部の周りに環状シール部材を設けた構成では、液密性や気密性が低いという問題点がある。すなわち、インペラ体は、回転軸に連結されていることから、かかる連結部分の誤差などに起因してインペラ体に回転振れが発生し、液密性や気密性が低下する。また、インペラ体の連結用円筒部に回転軸を圧入した際、連結用円筒部がわずかでも変形すると、連結用円筒部の外周面の真円度が低下し、液密性や気密性が低下する。同様な問題点は、水力発電装置でも共通する課題である。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、機構部と流体室との間に介在する隔壁部材に貫通穴を形成した場合でも高い液密性や気密性を確保することのできるポンプ装置や水力発電装置などの流体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、ロータおよびステータコイルが配置された電磁部と、インペラ体が配置された流体室と、該流体室と前記電磁部との間に介在する隔壁部材を含む複数の固定部材と、を有し、前記隔壁部材に形成された貫通穴を前記電磁部から回転軸が貫通して前記インペラ体に連結された流体装置において、前記複数の固定部材のいずれか1つの固定部材には、前記隔壁部材に対して前記電磁部が位置する側で前記回転軸の外周面との間に環状空間を構成するシール部材収納用筒部が形成され、前記環状空間には、前記回転軸の外周面および前記シール部材収納用筒部の内周面に接する第1環状シール部材が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明において、流体装置はポンプ装置や水力発電装置として構成される。流体装置が水力発電装置である場合、インペラ体は発電用羽根車である。また、流体装置がポンプ装置である場合、インペラ体は、遠心型インペラ体、軸流型インペラ体等、「流体にエネルギーを与えるための羽根を持つ回転体」である。
【0008】
本発明では、電磁部と流体室との間に介在する隔壁部材に形成された貫通穴を電磁部から回転軸が貫通してインペラ体に連結されており、流体装置がポンプ装置である場合、回転軸が回転すると、流体室でインペラ体が回転し、流体室での流体の吸入および吐出が行なわれる。また、流体装置が水力発電装置である場合、流体室を流れる流体によってインペラが回転すると、回転軸が回転して発電が行なわれる。ここで、複数の固定部材のいずれか1つの固定部材には、隔壁部材に対して電磁部が位置する側で回転軸の外周面との間に環状空間を構成するシール部材収納用筒部が形成され、かかる環状空間には、回転軸の外周面およびシール部材収納用筒部の内周面に接する第1環状シール部材が設けられている。このため、流体室から流体が回転軸の外周面を伝って電磁部の側に漏れることを防止することができるとともに、電磁部の側から回転軸の外周面を伝って流体室に気泡が侵入することを防止することができる。特に本発明では、第1環状シール部材が回転軸の外周面に直接、接しているため、第1環状シール部材がインペラ体と接している構造と違って、第1環状シール部材と回転軸との同芯度が高い。それ故、液密性や気密性が高いので、流体室から流体が回転軸の外周面を伝って電磁部の側に漏れることを確実に防止することができるとともに、電磁部の側から回転軸の外周面を伝って流体室に気泡が侵入することを確実に防止することができる。
【0009】
本発明において、前記複数の固定部材のうち、前記シール部材収納用筒部が形成されている固定部材は、前記回転軸に対するラジアル軸受を保持するホルダ部材であることが好ましい。かかる構成を採用すると、シール部材収納用筒部と回転軸との同芯度が高いので、第1環状シール部材と回転軸との同芯度が高い状態を確実に実現することができる。
【0010】
本発明において、前記環状空間より外周側では、前記隔壁部材と前記ホルダ部材との間に第2環状シール部材が挟持されていることが好ましい。かかる構成を採用すると、流体室から流体が隔壁部材とホルダ部材との間を伝って外部に漏れることを防止することができるとともに、外部から隔壁部材とホルダ部材との間を伝って流体室に気泡が侵入することを防止することができる。
【0011】
本発明において、前記貫通穴の内径寸法は、前記シール部材収納用筒部の内径寸法より小さく、前記環状空間において前記隔壁部材が位置する側の開口は、当該隔壁部材によって略封鎖されていることが好ましい。かかる構成を採用すると、第1環状シール部材が流体室の側にずれることを隔壁部材によって防止することができる。
【0012】
本発明において、前記隔壁部材において前記流体室が位置する側に、前記インペラ体に直接あるいは摺動部材(例えば、スラストワッシャ)を介して当接して当該インペラ体および前記回転軸の前記電磁部側への変位を規制するスラスト受け部が設けられている構成を採用することができる。かかる構成によれば、スラスト受け部がモータ回転軸線の近くに位置するため、スラスト受け部での摺動ロスが小さいという利点がある。
【0013】
本発明において、前記インペラ体は、前記隔壁部材と対向する面側に、放射状に延在する複数の裏羽根を備え、当該裏羽根は、前記インペラ体において前記スラスト受け部と対向する環状領域の外周縁から径方向外側に延在していることが好ましい。かかる構成を採用すると、インペラ体の裏面側と隔壁部材との間に異物が侵入することを抑制することができる。また、貫通穴付近を負圧にすることができるので、第1環状シール部材のシール性能が低下しても、流体室から電磁部へ流体が漏れることを抑制することができる。
【0014】
本発明において、前記回転軸において前記電磁部側に位置する端部には、前記ステータコイルに対して軸線方向で対向する底板部を備えた金属製のロータケースが連結され、前記底板部において前記ステータコイルと対向する面には絶縁シートが貼付されていることが好ましい。このように構成すると、ステータコイルとロータとの間には、ステータコイルとロータケースに貼付された絶縁シートとの間に介在する空気層からなる第1絶縁層と、絶縁シートからなる第2絶縁層とが設けられているため、絶縁性能に優れている。しかも、かかる絶縁構造であれば、流体装置内の狭い隙間に設けることができるので、流体装置の小型化を図るのに適している。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、複数の固定部材のいずれか1つの固定部材には、隔壁部材に対して電磁部が位置する側で回転軸の外周面との間に環状空間を構成するシール部材収納用筒部が形成され、かかる環状空間には、回転軸の外周面およびシール部材収納用筒部の内周面に接する第1環状シール部材が設けられている。このため、流体室から流体が回転軸の外周面を伝って電磁部の側に漏れることを防止することができるとともに、電磁部の側から回転軸の外周面を伝って流体室に気泡が侵入することを防止することができる。特に本発明では、第1環状シール部材が回転軸の外周面に直接、接しているため、第1環状シール部材がインペラ体と接している構造と違って、第1環状シール部材と回転軸との同芯度が常に高い。それ故、液密性や気密性が高いので、流体室から流体が回転軸の外周面を伝って電磁部の側に漏れることを確実に防止することができるとともに、電磁部の側から回転軸の外周面を伝って流体室に気泡が侵入することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係るポンプ装置の平面図、およびA−A′断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るポンプ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るポンプ装置に用いた隔壁部材の断面図、およびホルダ部材の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るポンプ装置に用いたインペラ体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の流体装置は、ポンプ装置および水力発電装置の双方に適用できるが、以下、本発明をポンプ装置に適用した例を中心に説明する。
【0018】
図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係るポンプ装置の平面図、およびA−A′断面図である。図2は、本発明の実施の形態に係るポンプ装置の要部を拡大して示す断面図であり、図2(a)にホルダ部材およびその周辺を拡大して示し、図2(b)には隔壁部材の貫通穴およびその周辺をさらに拡大して示してある。図3(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係るポンプ装置に用いた隔壁部材の断面図、およびホルダ部材の断面図である。
【0019】
図1(a)、(b)および図2に示す遠心型インペラ体を備えたポンプ装置100(流体装置)は、例えば、全自動洗濯機において、洗濯部位に洗浄用の流体を汲み上げる流体ポンプであり、例えば、洗濯槽内の洗浄水を循環させて洗濯部位に供給する。また、本形態のポンプ装置100は、排水ポンプなどとして用いることもできる。かかるポンプ装置100を構成するにあたって、本形態では、以下に説明するように、ポンプとモータが一体構造となっている。
【0020】
本形態のポンプ装置100は、ポンプ室1(流体室)とモータ部2(電磁部)との間に介在する隔壁部材4、ポンプケース3、およびホルダ部材5などの固定部材11を備えており、隔壁部材4の一方面側にポンプケース3が被せられることによって、隔壁部材4の一方面側には、インペラ体6を備えたポンプ室1が構成されている。これに対して、隔壁部材4の他方面側には回転軸7を備えたモータ部2が構成されている。隔壁部材4、ポンプケース3およびホルダ部材5は、樹脂製であり、かかる樹脂材料としては、ガラスを混入したガラス入りPP樹脂などの複合材料を用いることもある。
【0021】
図1(b)および図2に示すように、隔壁部材4においてモータ軸線L上には貫通穴40が形成されており、モータ部2の側から突出した回転軸7は貫通穴40を貫通してインペラ体6と圧入結合されている。このため、回転軸7が回転すると、ポンプ室1でインペラ体6が回転し、ポンプ室1での流体の吸入および吐出が行なわれる。
【0022】
(ポンプケース3および隔壁部材4の構成)
図2および図3(a)に示すように、ポンプケース3は、内側にインペラ体6が配置されたカップ状の本体部分30と、この本体部分30の上底部36の中央からモータ軸線L方向に延在する円筒状の吸引管部33と、本体部分30の円筒状胴部37からその接線方向に延在する吐出管部35とを備えている。
【0023】
隔壁部材4は、モータ部2側に開口するカップ形状を有しており、モータ軸線方向に垂直な板状本体部分41と、板状本体部分41の外周縁からモータ部2の側に起立する側壁部49とを有している。隔壁部材4において、板状本体部分41の略中央部分には、ポンプ室1に向けて突出した表側円筒部42を備えており、かかる表側円筒部42の内周側には、中央部分がモータ部2の側に凹んだ隔壁部47が設けられている。隔壁部47は、半径方向外側部分がポンプ室1に向けて斜めに突出したテーパ部43になっており、かかるテーパ部43の底部は、モータ軸線Lに対して直交する底板部44になっている。底板部44において、ポンプ室1の側に位置する表面側は、中央領域が浅い凹部478になっており、凹部478の底部の中央領域は、さらに浅く凹んだ凹部479になっている。
【0024】
隔壁部47において、底板部44の中央には、回転軸7をモータ部2からポンプ室1に向けて貫通させる円形の貫通穴40が形成されており、かかる貫通穴40は、凹部479の中央で開口している。本形態において、貫通穴40の内径寸法は、回転軸7の外径寸法よりわずかに大きい。このため、貫通穴40の内周縁と回転軸7の外周面との間には狭い環状隙間が介在している。
【0025】
隔壁部47において、モータ部2が位置する裏面側には、モータ部2の側に向けて突出する円筒部46が形成されており、円筒部46は、貫通穴40と同芯状に形成されている。円筒部46の先端部では、内面側に2つの環状段部が形成されている。また、隔壁部47の裏面側には、円筒部46より内側に、円筒部46と同芯状に環状突起471が形成されている。かかる環状突起471は円筒部46に比較して突出寸法がかなり小さい。
【0026】
隔壁部材4の裏面側において、円筒部46より外周側には、隔壁部47に相当する部分を囲むようにモータ部2の側に突出する側板部411が形成されている。かかる側板部411、円筒部46および側壁部49は、後述するように、隔壁部材4とホルダ部材5とを連結する際、ホルダ部材5の位置決めなどに用いられる。
【0027】
図2に示すように、ポンプケース3は、本体部分30が隔壁部材4の表側円筒部42の外側に嵌った状態で、隔壁部材4と結合されている。表側円筒部42の根元部分の外側には液密用および気密用のOリング92が装着されており、かかるOリング92は、ポンプケース3の本体部分30の円筒状胴部37の開放端側でわずかに拡径する段部と、表側円筒部42の根元部分との間に挟持されている。
【0028】
(インペラ体6の構成)
図4は、本発明の実施の形態に係るポンプ装置100に用いたインペラ体6の説明図であり、図4(a)、(b)は、インペラ体6をポンプ室1の側からみた斜視図、およびモータ部2の側からみた斜視図である。
【0029】
図2および図4(a)、(b)に示すように、インペラ体6は、円板部60と、この円板部60の中央からポンプ室1側に突出する有底の連結用円筒部65と、円板部60においてポンプ室1側に面する表面側で起立する5枚の表羽根61とを備えており、5枚の表羽根61は、連結用円筒部65の周りで等角度間隔に形成されている。
【0030】
また、インペラ体6は、円板部60においてモータ部2側に面する裏面側に、円板部60の中央からモータ部2の側に突出する環状突部64と、環状突部64の周りでモータ部2の側に向けて起立する10枚の裏羽根66とを備えており、10枚の裏羽根66は、環状突部64の周りで等角度間隔に形成されている。裏羽根66は、環状突部64の外周縁から径方向外側に延在しており、裏羽根66の径方向外側端部は、円板部60の外周縁まで届いている。
【0031】
裏羽根66において、モータ軸線L方向の寸法(幅寸法)は、円板部60の中央側で大であるのに対して、外周側で小になっている。このため、裏羽根66のモータ軸線方向のモータ部2側の端部は、外周側にいくに従ってモータ部2側から離間し、裏羽根66のモータ軸線方向のモータ部2側の端部は、中央側にいくに従ってモータ部2側に接近している。但し、隔壁部材4の板状本体部分41の表面側には、大径の凹部478が形成されているとともに、凹部478の中央には小径の凹部479が形成されている。このため、裏羽根66のモータ軸線方向のモータ部2側の端部と、隔壁部材4の板状本体部分41の表面側とは、径方向において略同一の間隔を隔てた形状になっている。また、裏羽根66の外周側端部は、斜めに切断された形状のテーパ面660になっている。
【0032】
(モータ部2の構成)
図2に示すように、本形態のポンプ装置100は、モータ部2の側にホルダ部材5を備えており、ホルダ部材5は、モータ軸線L方向に対して直交する方向に広がる板状本体部分56と、この板状本体部分56の略中央からモータ部2が位置する側に突出する軸受保持部55とを備えている。軸受保持部55には、回転軸7が貫通する軸穴57が形成されており、かかる軸穴57の内径寸法は回転軸7の外径寸法よりわずかに大きい。軸穴57において、ホルダ部材5のモータ軸線L方向の両端には一対の環状段部572、573が形成されている。本形態では、かかる環状段部572、573に、回転軸7を回転可能に支持する円筒状のラジアル軸受24、25が保持されている。また、回転軸7において、ポンプ室1が位置する側とは反対側の端部にはワッシャ77が取り付けられており、かかるワッシャ77は、ラジアル軸受25の端部に当接して回転軸7がポンプ室1の側に変位することを規制する。
【0033】
本形態では、回転軸7のポンプ室1側の端部71は、隔壁部材4の貫通穴40を貫通して、インペラ体6の円筒部65の内側に圧入固定されており、回転軸7においてインペラ体6に嵌められる端部71には、圧入結合を強化するためのローレットなどが形成されている。
【0034】
ホルダ部材5において、板状本体部分56の略中央には、ポンプ室1の側に向けて円筒状のシール部材収納用筒部51が突出しており、かかるシール部材収納用筒部51は、回転軸7の外周面との間に環状空間80を形成している。
【0035】
また、ホルダ部材5の板状本体部分56において、シール部材収納用筒部51の付け根部分の外周側は、隔壁部材4の円筒部46に形成された2つの環状段部のうち、外周側の段部の内側に嵌る環状段部59が形成されている。さらに、ホルダ部材5の板状本体部分56においてポンプ室1の方を向く表面側には、隔壁部材4に形成した側板部411と係合する段部などが形成されており、ホルダ部材5と隔壁部材4とは、ホルダ部材5の板状本体部分56と隔壁部材4の板状本体部分41とは、モータ軸線L方向に所定の間隔があくように結合されている。
【0036】
ホルダ部材5において、軸受保持部55の外周側は、ステータコア26を保持するコア保持部になっており、軸受保持部55の外周側において板状本体部分56から離間した位置には、ボルト260によって、複数枚のコア板を積層してなるステータコア26が固定されている。また、ステータコア26では、内側の環状部から径方向外側に向けて複数の突極が延在しており、かかる突極の周りにはステータコイル27が巻回されている。
【0037】
ホルダ部材5の板状本体部分56において、ステータコア26が位置する側には柱状突起561が複数、形成されており、かかる柱状突起561の端部には小突起が形成されている。本形態では、ステータコイル27に給電するためのモータ基板29の穴に柱状突起561の小突起を嵌めた後、小突起の先端部を押し潰すことにより、柱状突起561の先端部にモータ基板29が保持されている。
【0038】
(ロータの構成)
本形態のポンプ装置100では、回転軸7においてポンプ室1が位置する側とは反対側の端部には、ステータコイル27に対してモータ軸線L方向で対向する底板部218を備えた金属製のロータケース21が連結されている。また、ロータケース21において底板部218の外周縁から起立する円筒状胴部219の内周面にはステータコア26に対して径方向外側で対向する円筒状のロータマグネット22が保持されている。
【0039】
かかる構成のポンプ装置100のモータ部2では、漏電防止という観点から、ステータコイル27と金属製の回転軸7との間に十分な絶縁が必要である。そこで、本形態では、ロータケース21においてステータコイル27とモータ軸線L方向で対向する底板部218には、接着剤層によって絶縁性を有するPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂シートを複数枚積層した絶縁シート23が貼付されている。従って、本形態のポンプ装置100において、ステータコイル27とロータケース21の底板部218との間には、ロータケース21に貼付された絶縁シート23との間に介在する空気層からなる第1絶縁層と、絶縁シート23からなる第2絶縁層とが設けられている。
【0040】
(ポンプ室1側とモータ部2側とのシール構造)
本形態では、回転軸7の端部は、隔壁部材4の貫通穴40を貫通してインペラ体6に連結されている。このため、ポンプ室1の液体が隔壁の貫通穴40を介してモータ部2の側に漏れるおそれがある。また、モータ部2の側から隔壁の貫通穴40を介してポンプ室1に気泡が侵入するおそれがある。
【0041】
そこで、本形態では、ホルダ部材5には、回転軸7の外周面との間に環状空間80を形成するシール部材収納用筒部51が形成されており、かかる環状空間80には第1環状シール部材8が設けられている。第1環状シール部材8の内周部分は回転軸7の外周面に接し、第1環状シール部材8の外周面はシール部材収納用筒部51の内周面に接している。本形態では、第1環状シール部材8として、嵌め合い部としての外周側円環部81と、内周側円環部82とが連結部83で繋がったゴム製のオイルシールが用いられており、内周側円環部に82は、シールリップ部821とダストリップ部822とが円環状に形成されている。また、連結部83において隔壁部材4と対向する外面には環状突起831が形成されており、かかる環状突起831は、隔壁部材4の裏面側に形成された環状突起471に当接している。
【0042】
ここで、貫通穴40の内径寸法は、回転軸7の外径寸法よりわずかに大きく、シール部材収納用筒部51の内径寸法よりかなり小さい。このため、環状空間80において隔壁部材4が位置する側の開口は、隔壁部材4によって略封鎖されている。
【0043】
また、本形態では、ホルダ部材5と隔壁部材4とを結合すると、シール部材収納用筒部51の付け根部分の外周側と、隔壁部材4の円筒部46の段部との間には環状の隙間が形成されており、環状の隙間には第2環状シール部材91が配置されている。すなわち、本形態では、ホルダ部材5と隔壁部材4とを結合する際、シール部材収納用筒部51の外周側に第2環状シール部材91を装着しておき、ホルダ部材5と隔壁部材4とを結合した際、ホルダ部材5と隔壁部材4との間に第2環状シール部材91が挟持されるようにしてある。本形態において、第2環状シール部材91としてゴム製のOリングが用いられている。
【0044】
(インペラ体6に対するスラスト受けの構造)
本形態では、隔壁部材4に対してモータ部2の側に第1環状シール部材8が配置され、隔壁部材4よりポンプ室1の側には第1環状シール部材8が配置されていない。そこで、本形態では、回転軸7においてインペラ体6との結合部付近に摺動部材であるスラストワッシャ69を装着し、隔壁部材4においてスラストワッシャ69と対向する環状領域によって、インペラ体6にスラストワッシャ69を介して当接してインペラ体6および回転軸7のモータ部2側への変位を規制するスラスト受け部48が構成されている。すなわち、本形態では、隔壁部材4において貫通穴40の開口縁付近をインペラ体6および回転軸7のモータ部2側への変位を規制するスラスト受け部48として利用している。なお、インペラ体6および隔壁部材4の材質によっては、スラストワッシャ69を省略することもあり、この場合、隔壁部材4のスラスト受け部48は、インペラ体6に直接、当接してインペラ体6および回転軸7のモータ部2側への変位を規制する。なお、小径の凹部478をスラスト受け部48としても良い。
【0045】
ここで、スラストワッシャ69およびスラスト受け部48は、インペラ体6の環状突部64と外径寸法が略等しい。従って、裏羽根66は、インペラ体6においてスラスト受け部48と対向する環状領域の外周縁から径方向外側に延在していることになる。
【0046】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のポンプ装置100では、複数の固定部材11のうち、ホルダ部材5には、隔壁部材4に対してモータ部2が位置する側で回転軸7の外周面との間に環状空間80を構成するシール部材収納用筒部51が形成され、かかる環状空間80には、回転軸7の外周面およびシール部材収納用筒部51の内周面に接する第1環状シール部材8が配置されている。このため、ポンプ室1から流体が回転軸7の外周面を伝ってモータ部2の側に漏れることを防止することができるとともに、モータ部2の側から回転軸7の外周面を伝ってポンプ室1に気泡が侵入することを防止することができる。
【0047】
特に本形態では、第1環状シール部材8が回転軸7の外周面に直接、接しているため、第1環状シール部材8がインペラ体6と接している構造と違って、液密性や気密性が高い。すなわち、インペラ体6の側に第1環状シール部材8を当接させると、回転軸7とインペラ体6との同芯度の誤差に起因して、回転軸7が回転した際にインペラ体6に回転振れが発生する結果、液密性や気密性が低下するという問題がある。しかるに本形態では、第1環状シール部材8が直接、回転軸7の外周面に当接しており、第1環状シール部材8と回転軸7との間では高い同芯度が常に維持されるため、かかる問題がない。また、インペラ体6において回転軸7が圧入された円筒部の外周面と第1環状シール部材8を当接させた構造の場合、回転軸7を圧入した際、インペラ体6の円筒部の外周面が変形してインペラ体6の円筒部の外周面と第1環状シール部材8との同芯度が低下し、液密性や気密性が低下するという問題や、インペラ体6の外周部に変形を防止する金属製のシール部材が必要となるが、本形態によれば、第1環状シール部材8が直接、回転軸7の外周面に当接しているので、かかる問題がない。
【0048】
それ故、本形態のポンプ装置100は、液密性や気密性が高いので、ポンプ室1から流体が回転軸7の外周面を伝ってモータ部2の側に漏れることを確実に防止することができるとともに、モータ部2の側から回転軸7の外周面を伝ってポンプ室1に気泡が侵入することを確実に防止することができる。しかも、シール部材収納用筒部51は、複数の固定部材11のうち、ラジアル軸受24、25を保持するホルダ部材5に形成されているため、シール部材収納用筒部51と回転軸7との同芯度が高い。それ故、第1環状シール部材8と回転軸7との同芯度が高い状態を確実に実現することができる。
【0049】
また、本形態では、環状空間80より外周側では、隔壁部材4とホルダ部材5との間に第2環状シール部材91が挟持されているため、ポンプ室1から流体が隔壁部材4とホルダ部材5との間を伝って外部に漏れることを防止することができるとともに、外部から隔壁部材4とホルダ部材5との間を伝ってポンプ室1に気泡が侵入することを防止することができる。
【0050】
さらに、隔壁部材4の貫通穴40の内径寸法は、シール部材収納用筒部51の内径寸法より小さく、環状空間80において前記隔壁部材4が位置する側の開口は、当該隔壁部材4によって略封鎖されている。このため、第1環状シール部材8がポンプ室1の側にずれることを隔壁部材4によって防止することができる。
【0051】
また、隔壁部材4の貫通穴40の内周縁は、回転軸7の外周面との間に狭い隙間を形成するほど、モータ軸線L近傍に位置しているため、隔壁部材4においてポンプ室1が位置する側に、インペラ体6にスラストワッシャ69を介して当接してインペラ体6および回転軸7のモータ部2側への変位を規制するスラスト受け部48を設けることができる。また、スラスト受け部48は、モータ軸線Lの近くに位置するため、スラスト受け部48での摺動ロスが小さいという利点がある。
【0052】
さらに、インペラ体6は、隔壁部材4と対向する面側に裏羽根66を備えているため、インペラ体6の裏面側と隔壁部材4との間に異物が侵入することを抑制することができる。また、貫通穴40付近を負圧にすることができるので、第1環状シール部材8が破損しても、貫通穴40から流体が漏れることを抑制することができる。また、裏羽根66の外周側端部は、斜めに切断された形状のテーパ面になっているため、糸屑などの異物が裏羽根66に絡みにくい。
【0053】
また、貫通孔40と回転軸7との隙間部がインペラ体6の裏羽根66と隔壁部材47との間より小さい。このため、シール部材8が設けられている円筒状胴部37(シール部材側)への異物の混入を確実に防止することができる。また、自給式ポンプでは、運転直後はポンプ室内の圧力が変動するが、本形態では、インペラ体6に裏羽根66を設けるとともに、貫通孔40の内径と回転軸7の外径との隙間を狭くしてあるので、ポンプ室1内の圧力変動がシール部材8の側に及ぶことを緩和することができる。それ故、シール部材8を用いたシール部での水漏れを抑制することができる。
【0054】
さらにまた、回転軸7においてモータ部2側に位置する端部には、ステータコイル27に対してモータ軸線L方向で対向する底板部218を備えた金属製のロータケース21が連結され、底板部218においてステータコイル27と対向する面には絶縁シート23が貼付されている。このため、本形態のポンプ装置100では、ステータコイル27と回転軸7との間には、ステータコイル27とロータケース21に貼付された絶縁シート23との間に介在する空気層からなる第1絶縁層と、複数枚の絶縁シート23からなる第2絶縁層とが設けられているため、絶縁性能に優れている。しかも、かかる絶縁構造であれば、ポンプ装置100内の狭い隙間に設けることができるので、ポンプ装置100の小型化を図るのに適している。
【符号の説明】
【0055】
1 ポンプ室(流体室)
2 モータ部(電磁部)
3 ポンプケース(固定部材)
4 隔壁部材(固定部材)
5 ホルダ部材(固定部材)
6 インペラ体
7 回転軸
8 第1環状シール部材
11 固定部材
21 ロータケース
22 ロータマグネット
23 絶縁シート
24、25 ラジアル軸受
26 ステータコア
27 ステータコイル
40 貫通穴
48 スラスト受け部
51 シール部材収納用筒部
61 表羽根
66 裏羽根
65 連結用円筒部
69 スラストワッシャ(摺動部材)
80 環状空間
91 第2環状シール部材
100 ポンプ装置(流体装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータおよびステータコイルが配置された電磁部と、インペラ体が配置された流体室と、該流体室と前記電磁部との間に介在する隔壁部材を含む複数の固定部材と、を有し、前記隔壁部材に形成された貫通穴を前記電磁部から回転軸が貫通して前記インペラ体に連結された流体装置において、
前記複数の固定部材のいずれか1つの固定部材には、前記隔壁部材に対して前記電磁部が位置する側で前記回転軸の外周面との間に環状空間を構成するシール部材収納用筒部が形成され、
前記環状空間には、前記回転軸の外周面および前記シール部材収納用筒部の内周面に接する第1環状シール部材が設けられていることを特徴とする流体装置。
【請求項2】
前記複数の固定部材のうち、前記シール部材収納用筒部が形成されている固定部材は、前記回転軸に対するラジアル軸受を保持するホルダ部材であることを特徴とする請求項1に記載の流体装置。
【請求項3】
前記環状空間より外周側では、前記隔壁部材と前記ホルダ部材との間に第2環状シール部材が挟持されていることを特徴とする請求項2に記載の流体装置。
【請求項4】
前記貫通穴の内径寸法は、前記シール部材収納用筒部の内径寸法より小さく、
前記環状空間において前記隔壁部材が位置する側の開口は、当該隔壁部材によって略封鎖されていることを特徴とする請求項2または3に記載の流体装置。
【請求項5】
前記隔壁部材において前記流体室が位置する側に、前記インペラ体に直接あるいは摺動部材を介して当接して当該インペラ体および前記回転軸の前記電磁部側への変位を規制するスラスト受け部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の流体装置。
【請求項6】
前記インペラ体は、前記隔壁部材と対向する面側に、放射状に延在する複数の裏羽根を備え、
当該裏羽根は、前記インペラ体において前記スラスト受け部と対向する環状領域の外周縁から径方向外側に延在していることを特徴とする請求項5に記載の流体装置。
【請求項7】
前記回転軸において前記流体室が位置する側とは反対側の端部には、前記ステータコイルに対して軸線方向で対向する底板部を備えた金属製のロータケースが連結され、
前記底板部において前記ステータコイルと対向する面には絶縁シートが貼付されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の流体装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の流体装置からなることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−275948(P2010−275948A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130167(P2009−130167)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】