説明

流体軸受装置

【課題】スピンドルとハウジングとの軸受隙間の大きさを可変として、高い剛性を必要とする場合にスピンドルの剛性をより高くするとともに、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる流体軸受装置を提供する。
【解決手段】スピンドルSは、回転軸TZ方向の一方に向かって径が小さくなるテーパ面MPを有するテーパ部STと、回転軸方向の一方の方向に向かう流体の力を受ける軸方向力受動面MJを有する軸方向力受動部SJとを有し、テーパ面に対向しているテーパ対向面M1にはテーパ部ポケットP1〜P4が周方向に分割されて形成されており、軸方向力受動面に対向している軸方向対向面M2に軸方向ポケットPBが形成されている。スピンドルが回転軸に交差する方向の力である負荷Fを受けると、軸方向力受動面の受ける力を大きくしてスピンドルをハウジングに対して相対的に回転軸方向の一方の方向に移動させる剛性増加手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を用いてスピンドルを回転可能に支持する流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工作機械の工具や回転砥石等を保持するスピンドルを、流体を用いて回転可能に支持する流体軸受装置が用いられている。
例えば特許文献1に記載された従来技術には、ハウジングとテーパ形状を有する主軸との間に、軸方向に移動可能な可動スリーブを備え、ハウジングの内周部に対して可動スリーブの外周部が流体にて静圧支持され、可動スリーブの内周部(テーパ形状)に対して主軸の外周部(テーパ形状)が流体にて静圧支持されている静圧型流体軸受装置が開示されている。主軸が回転して温度が上昇して熱膨張すると、主軸と可動スリーブとの軸受隙間が大きくなる方向に可動スリーブが移動し、焼付け等が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−28566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術では、主軸が熱膨張して主軸と可動スリーブとの軸受隙間が小さくなると、軸受隙間が大きくなるようにしているが、軸受隙間を大きくすると主軸の剛性は低下する。この場合、主軸の回転軸に交差する方向の負荷が主軸に加えられると、軸受隙間が広がって支持力(剛性)が低下した主軸は、軸受隙間が小さい場合よりも容易に変位してしまい、加工精度が低下する可能性がある。
工具や砥石等を保持するスピンドルの剛性をより高くして加工精度を向上させようとすると、軸受隙間をより小さくしてスピンドルを支持する個所の流体の圧力を高くする必要がある。しかし、軸受隙間を小さくすると、回転するスピンドルによるせん断摩擦力が大きくなり、発熱量も増加する。この結果、スピンドルを回転駆動する駆動手段の動力エネルギーを増加する必要や、発熱した流体を冷却する冷却エネルギーを増加する必要がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、スピンドルとハウジングとの軸受隙間の大きさを可変として、高い剛性を必要とする場合にスピンドルの剛性をより高くするとともに、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる流体軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの流体軸受装置である。
請求項1に記載の流体軸受装置は、流体にて前記ハウジングに対して回転可能に支持されたスピンドルと、を有する流体軸受装置において、前記スピンドルは、回転軸方向の一方に向かって徐々に径が小さくなるテーパ面を有するテーパ部と、前記回転軸方向の一方の方向に向かう流体の力を受けることが可能な軸方向力受動面を有する軸方向力受動部と、を有している。
前記ハウジングにおける前記テーパ面に対向しているテーパ対向面には、供給された流体を溜めるテーパ部ポケットが周方向に形成されており、前記テーパ部ポケットは、周方向において複数に分割されており、前記ハウジングにおける前記軸方向力受動面に対向している軸方向対向面には、供給された流体を溜める軸方向ポケットが形成されている。
前記スピンドルが前記回転軸に交差する方向の力である負荷を受けると、前記軸方向力受動面の受ける力を大きくして前記スピンドルを前記ハウジングに対して相対的に前記回転軸方向の一方の方向に移動させて前記スピンドルの剛性を増加させる剛性増加手段を備えている。
【0006】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの流体軸受装置である。
請求項2に記載の流体軸受装置は、請求項1に記載の流体軸受装置であって、前記剛性増加手段は、前記負荷を受けて前記テーパ面と軸受部との隙間が小さくなる位置にあるテーパ部ポケットと、前記軸方向ポケットと、を連通する流体連通路にて構成されている。
【0007】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの流体軸受装置である。
請求項3に記載の流体軸受装置は、請求項1に記載の流体軸受装置であって、前記剛性増加手段は、前記スピンドルにおける前記負荷による変位量を検出可能な変位検出手段と、前記変位検出手段からの信号に基づいて、前記負荷による前記スピンドルの変位が発生したと判定した場合に前記軸方向ポケットに供給する流体の圧力を増加させる制御手段と、で構成されている。
【0008】
また、本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの流体軸受装置である。
請求項4に記載の流体軸受装置は、請求項1に記載の流体軸受装置であって、前記剛性増加手段は、前記スピンドルに前記負荷が加えられることを予測可能な負荷予測手段と、前記負荷予測手段からの信号に基づいて、負荷が加えられると予測された場合に前記軸方向ポケットに供給する流体の圧力を増加させる制御手段と、で構成されている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の流体軸受装置を用いれば、スピンドルが負荷を受けた際、スピンドルとテーパ部ポケットに対応する軸受部との軸受隙間が小さくなる方向に、スピンドルをハウジングに対して相対的に移動させる。このように軸受隙間を可変とし、スピンドルが負荷を受けて剛性が必要な場合に軸受隙間を小さくして剛性をより高くすることができる。
また、スピンドルに剛性が必要でない場合は軸受隙間を小さくしないので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
また、請求項2〜4に記載の流体軸受装置を用いれば、軸受隙間の大きさを可変とする剛性増加手段を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の流体軸受装置を適用した研削盤1の一実施の形態を説明する図である。
【図2】第1の実施の形態における流体軸受装置を適用した砥石装置TSの構造の例を説明する断面図である。
【図3】図2に示す第1の実施の形態に対して、ハウジング軸受部材J1を砥石回転軸TZ方向に移動可能とした砥石装置TSの構造の例を説明する断面図である。
【図4】第2の実施の形態における流体軸受装置を適用した砥石装置TSの構造の例を説明する断面図である。
【図5】図4に示す第2の実施の形態に対して、ハウジング軸受部材J1を砥石回転軸TZ方向に移動可能とした砥石装置TSの構造の例を説明する断面図である。
【図6】第3の実施の形態における流体軸受装置を適用した砥石装置TSの構造の例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1(A)は、本発明の流体軸受装置を適用した研削盤1の一実施の形態における平面図の例を示しており、図1(B)は、研削盤1の右側面図の例を示している。なお、図1(B)では、主軸台(右)DRを備えた主軸装置(右)の記載を省略している。
また、X軸、Y軸、Z軸が記載されている全ての図面において、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Y軸は鉛直上向きを示しており、Z軸とX軸は水平方向を示している。そしてZ軸はワーク回転軸方向を示しており、X軸方向は砥石TがワークWに切り込む方向を示している。
【0012】
●[研削盤1の全体構成(図1(A)、(B))]
図1(A)及び(B)に示すように、研削盤1は、ワーク回転軸WZ回りに回転しているワークWに対して、砥石回転軸TZ回りに回転している略円筒形状の砥石Tを相対移動させてワークWを研削する。なお、各可動体の位置等を検出して各駆動モータに制御信号を出力する制御手段(数値制御装置等)については、図示を省略する。なお、ワーク回転軸WZと砥石回転軸TZは、どちらもZ軸と平行である。
ワークWは、センタ部材CLを備えた主軸装置(左)と、センタ部材CRを備えた主軸装置(右)に両端(または両端近傍)が支持されている(センタ部材の代わりに少なくとも一方がチャックであってもよい)。
【0013】
主軸装置(左)は、基台BSに載置された主軸台(左)DLと、主軸台(左)DLに対してZ軸方向に往復移動可能な主軸ハウジング(左)HLと、主軸ハウジング(左)HL内でワーク回転軸WZ回りに回転可能に支持された主軸(左)SLとを備えている。また、主軸(左)SLの一端にはセンタ部材CLが設けられている。
主軸(左)SLには図示しない駆動モータが設けられており、制御手段は、センタ部材CLの先端をとおるワーク回転軸WZ回りに主軸(左)SLを、任意の角速度で任意の角度まで回転させることができる。
なお、主軸台(右)DRを備えた主軸装置(右)も同様であり、主軸装置(右)については説明を省略する。
制御手段は、主軸(左)SLと主軸(右)SRを同期させて回転させることができる。
【0014】
また、基台BSには、Z軸駆動モータMZにて制御されるボールねじNZの回転角度に応じて、ガイドGZに沿ってZ軸方向の任意の位置に位置決めされる砥石スライドテーブル40が載置されている。制御手段はエンコーダ等の位置検出手段EZからの信号を検出しながらZ軸駆動モータMZに制御信号を出力する。
砥石スライドテーブル40には、X軸駆動モータMXにて制御されるボールねじNXの回転角度に応じて、ガイドGXに沿ってX軸方向の任意の位置に位置決めされる砥石進退テーブル41が載置されている。制御手段はエンコーダ等の位置検出手段EXからの信号を検出しながらX軸駆動モータMXに制御信号を出力する。
【0015】
砥石進退テーブル41には、砥石Tへの回転動力を発生させる砥石駆動モータMTと砥石装置TSが固定されている。
砥石駆動モータMTは駆動プーリ21に接続され、駆動プーリ21はベルト22を介して従動プーリ24に回転動力を伝達する。また従動プーリ24は、砥石ハウジング25内にて砥石回転軸TZ回りに回転可能に支持されたスピンドルS(図3〜図6参照)の一端に接続されており、スピンドルSの他端には略円筒形状の砥石Tが接続されている。
また、本実施の形態にて説明する研削盤1では、砥石Tの支持方法が片持ち式の例を示しているが、両持ち式で砥石Tを支持してもよい。
【0016】
なお、図1(B)に示すように、砥石回転軸TZとワーク回転軸WZは仮想平面MF上に位置している。この状態で砥石TをワークWに対して相対的に近づけていき、ワークWと砥石Tとが接触した位置における砥石Tの側の点を砥石研削点TPとする。
また、研削盤1には、砥石研削点TPの近傍にクーラントを供給するクーラントノズルが設けられているが、図示省略する。
また、図1(A)及び(B)の例に示す研削盤1では、砥石Tのドレッシングを行うドレッシング手段TRが、主軸ハウジング(左)HLに取り付けられている。
【0017】
本実施の形態にて説明する研削盤1では、主軸(左)SLと主軸(右)SRと砥石Tを流体軸受装置にて回転可能に支持しており、流体軸受装置には図示しないポンプ等からオイル等の流体が供給されている。そして流体軸受装置で使用した流体を回収及び冷却してポンプ等に戻し、流体を循環させている。
図1(A)及び(B)の例に示す研削盤1では、ワークWをワーク回転軸WZ回りに回転させながら砥石TをX軸方向に移動させてワークWに押付けて研削する際、砥石Tが接続されているスピンドルS(図2参照)には、砥石回転軸TZに交差する方向の大きな負荷がかかり、スピンドルSの剛性が低い場合はスピンドルSが変位して加工精度が低下する可能性がある。
ここで砥石Tが取付けられているスピンドルSの剛性をより高くすると、砥石駆動モータMTの動力エネルギーを増加させる必要があり、流体の温度もより上昇するので、循環させる流体の冷却エネルギーを増加させる必要がある。
以下に説明する第1〜第3の実施の形態では、スピンドルSの剛性をより高くするとともに、砥石駆動モータMTの動力エネルギーや流体の冷却エネルギーの増加量を、より抑制することができる流体軸受装置を適用した砥石装置TSの例について順に説明する。
なお、以降の説明では、流体軸受装置は、砥石ハウジング25、ハウジング軸受部材J1、J2、ハウジング軸受部材J1、J2に対して流体にて支持されるスピンドルSにて構成されている。
【0018】
●[第1の実施の形態の流体軸受装置を適用した砥石装置TSの例(図2)]
次に図2に示す断面図を用いて、第1の実施の形態の流体軸受装置を適用した砥石装置TSの構造について説明する。
図2に示す砥石装置TSは、砥石ハウジング25に対してハウジング軸受部材J1、J2が固定されており、ハウジング軸受部材J1、J2に対してスピンドルSが流体にて支持され、砥石ハウジング25に対してスピンドルSが砥石回転軸TZ方向に移動可能に構成されている。
スピンドルSの一端にはキャップC1が取付けられた後に砥石Tが取付けられ、他端には従動プーリ24が設けられ、従動プーリ24にはベルト22がかけられている。
【0019】
スピンドルSは、砥石回転軸TZ方向の一方の方向(図2の例では右方向)に向かって徐々に径が小さくなるテーパ面MPを有するテーパ部STと、砥石回転軸TZ方向の一方の方向(テーパ部STの径が小さくなる方向)に向かう流体の力を受けることが可能な軸方向力受動面MJを有する軸方向力受動部SJとを有している。
テーパ面MPに対向しているハウジング軸受部材J1の内周面であるテーパ対向面M1には、ポンプP等から流路H1を介して供給される流体を溜めるテーパ部ポケットP1〜P4が形成されている。
第1の実施の形態では、テーパ部ポケットは、周方向において複数に分割されたP1〜P4にて構成され、テーパ部ポケットP1〜P4のそれぞれに流体が供給される。なお、テーパ部ポケットの個数は4個に限定されるものではない。
軸方向力受動面MJに対向しているハウジング軸受部材J1の面(端面)である軸方向対向面M2には軸方向ポケットPBが形成されており、軸方向ポケットPBとテーパ部ポケットP1とが流体連通路HAにて連通されている。流体連通路HAにて、軸方向ポケットPBにはテーパ部ポケットP1から流体が供給される。
ハウジング軸受部材J2の内周部には、ポンプP等から流路H2を介して供給される流体を溜めるポケットPCが形成されている。
なお、テーパ部ポケットP1〜P4、及び軸方向ポケットPBにて、スピンドルSの静圧支持に使用されて流出した流体は、ドレインDNを経由して回収され、オイルクーラ等にて冷却されてポンプPに戻される。
【0020】
図2に示すように、負荷Fは砥石研削点TPに、X軸方向と反対の方向に加えられる。この負荷Fが砥石Tにかかると、スピンドルSは砥石回転軸TZ方向と交差する方向の力を受ける。図2の例では、テーパ部ポケットP3からテーパ部ポケットP1に向かう方向に力を受ける。
この場合、負荷Fを受けてテーパ面MPと軸受部との隙間SSが小さくなる位置にあるテーパ部ポケットP1と、軸方向ポケットPBとを流体連通路HAにて連通させる。
【0021】
砥石Tに負荷Fがかかると、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1に対応する軸受部との隙間SSが小さくなり、テーパ部ポケットP1内の流体の圧力は、釣合い時より大きくなる(テーパ部ポケットP1内の流体の圧力>テーパ部ポケットP2〜P4内の流体の圧力)。
圧力が大きくなったテーパ部ポケットP1内の流体は流体連通路HAを経由して軸方向ポケットPBに供給されるので、軸方向ポケットPB内の流体の圧力が増加し、軸方向力受動面MJは砥石回転軸TZ方向の力(テーパ部STの径が小さくなる方向に向かう力)を受け、スピンドルSは砥石回転軸TZ方向(テーパ部STの径が小さくなる方向)に移動する(図2に示す「B部拡大」の点線は、スピンドルSがΔZ移動した状態を示している)。
すると、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが小さくなり、スピンドルSの剛性が増加する。
負荷Fが低減すると、テーパ部ポケットP1内の流体の圧力は、釣合い時の圧力へと低減していくので、軸方向ポケットPB内の流体の圧力も低減され、スピンドルSは砥石回転軸TZ方向(テーパ部STの径が大きくなる方向)に戻っていく。
すると、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが大きくなり(負荷Fがかかる前の隙間に戻り)、スピンドルSの剛性が、負荷Fがかかる前の状態に低減される。
【0022】
スピンドルSの剛性が増加すると、砥石駆動モータMTの駆動エネルギーを増加する必要(及び冷却エネルギーを増加する必要)があるが、負荷Fがかかった場合にのみ剛性が増加され、負荷Fがかかっていない場合には剛性は増加されない。
従って、剛性を増加する必要がある場合にのみ剛性を増加するので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
なお、砥石駆動モータMTの駆動力をW、スピンドルSの直径(この場合、テーパ部STの中央の径)をD、軸受部(テーパ部ST)の長さをL、流体の粘性係数をμ、スピンドルSの回転速度をN、隙間SSの距離をCrとすると、駆動力Wは以下の式にて表すことができる。
W=π*μ*D3*L*N2/Cr (式1)
(式1)より、隙間SSの距離Crが小さくなると、駆動力Wは大きくなることが判る。
【0023】
●[第1の実施の形態においてハウジング軸受部材J1を砥石回転軸TZ方向に移動可能とした構造(図3)]
以上、図2に示した例では、砥石ハウジング25に対してハウジング軸受部材J1、J2が固定されており、砥石ハウジング25に対してスピンドルSが砥石回転軸TZ方向に移動する構造を説明した。
これに対して図3に示す例では、砥石ハウジング25に対してスピンドルSの砥石回転軸TZ方向の位置が変化しない構造であり、ハウジング軸受部材J1が砥石ハウジング25に対して砥石回転軸TZ方向に移動可能な構造である。以下、図2に示す構造からの相違点について主に説明する。
【0024】
ハウジング軸受部材J2の内周面に対向するスピンドルSの位置には、砥石回転軸TZ方向における一方及び他方の双方の方向からの力を受けることができる軸方向力受動部SEが設けられている点が、スピンドルSにおける相違点である。
ハウジング軸受部材J2には、軸方向力受動部SEに砥石回転軸TZ方向の一方の方向の力(テーパ部STの径が小さくなる方向に向かう力)を与えるためのポケットPDと、他方の方向の力(テーパ部STの径が大きくなる方向に向かう力)を与えるためのポケットPEが形成されている点が、ハウジング軸受部材J2における相違点である。そしてポケットPD及びPEには、ポンプP等から流路H2を介して流体が供給されている。このため、スピンドルSは、ハウジング軸受部材J2(つまり砥石ハウジング25)に対して、砥石回転軸TZ方向の位置が変化しない。
砥石ハウジング25には、ハウジング軸受部材J1の外周面と接する位置に、ポケットPFが形成されている点が、砥石ハウジング25における相違点である。そしてポケットPFには、ポンプP等から流路H3を介して流体が供給される。このため、ハウジング軸受部材J1は、砥石ハウジング25に対して、砥石回転軸TZ方向に移動可能である。
なお、ハウジング軸受部材J1が、砥石ハウジング25に対して回転しないようにするための回転防止部材等の記載は省略する。
【0025】
この場合、砥石Tに負荷Fがかかると、上記の説明と同様、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1に対応する軸受部との隙間SSが小さくなり、テーパ部ポケットP1内の流体の圧力は、釣合い時より大きくなる。
圧力が大きくなったテーパ部ポケットP1内の流体は流体連通路HAを経由して軸方向ポケットPBに供給されるので、軸方向ポケットPB内の流体の圧力が増加し、軸方向対向面M2は砥石回転軸TZ方向の力(テーパ部STの径が大きくなる方向に向かう力)を受け、ハウジング軸受部材J1は砥石回転軸TZ方向(テーパ部STの径が大きくなる方向)に移動する(図3に示す「B部拡大」の点線は、ハウジング軸受部材J1がΔZ移動した状態を示している)。
すると、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが小さくなり、スピンドルSの剛性が増加する。
なお、上記の説明と同様、負荷Fが低減すると、ハウジング軸受部材J1の位置が戻り、隙間SSの大きさも戻り、スピンドルSの剛性が、負荷Fがかかる前の状態に低減される。
従って、剛性を増加する必要がある場合にのみ剛性を増加するので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
【0026】
●[第2の実施の形態の流体軸受装置を適用した砥石装置TSの例(図4)]
次に図4に示す断面図を用いて、第2の実施の形態の流体軸受装置を適用した砥石装置TSの構造について説明する。
図4に示す第2の実施の形態における砥石装置TSは、図2に示す第1の実施の形態における砥石装置TSに対して、軸方向ポケットPBに流体を供給する構成が変更されている点が異なる。
以下、図2に示す第1の実施の形態からの相違点について主に説明する。
【0027】
図4に示す第2の実施の形態における砥石装置TSでは、図2に示す砥石装置TSに対して、テーパ部ポケットP1と軸方向ポケットPBとを連通する流体連通路HAが省略されている。そして軸方向ポケットPBには、圧力制御手段CPから流路H5を介して流体が供給される。
また、圧力制御手段CPには、流路H4を介してポンプPから流体が入力され、変位検出手段SHからスピンドルSの変位量に基づいた検出信号が入力され、圧力制御手段CPは、スピンドルSの変位量に応じた圧力の流体を流路H5から出力する。
変位検出手段SHは、対向しているスピンドルSまでの距離ΔXを検出可能な測距センサ等であり、負荷Fの大きさに応じたスピンドルSの変位量が検出可能な位置に配置されている。図4に示す例では、スピンドルSに対して、負荷Fが入力される側とは反対側となるキャップC1とハウジング軸受部材J1との間に設けた空間に配置されているが、配置位置は、この位置に限定されるものではない。
【0028】
負荷Fが無い場合、圧力制御手段CPは、変位検出手段SHからの検出信号に基づいて、負荷Fの入力方向に対するスピンドルSの変位量が無いことを検出し、テーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが大きくなるようにスピンドルSの位置を維持する圧力の流体を、軸方向ポケットPBに供給する。
負荷Fが大きい場合、圧力制御手段CPは、変位検出手段SHからの検出信号に基づいて、負荷Fに対する変位量が大きいことを検出し、テーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが小さくなるようにスピンドルSの位置を維持する圧力の流体を、軸方向ポケットPBに供給する。
従って、圧力制御手段CPから軸方向ポケットPBに供給される流体の圧力は、負荷Fが小さい場合よりも、負荷Fが大きい場合のほうが高い。
【0029】
例えば、変位量が所定値よりも小さい場合、圧力制御手段CPは、ポンプPから供給された流体の圧力を変更することなく、軸方向ポケットPBに流体を供給する。
また変位量が前記所定値よりも大きい場合、圧力制御手段CPは、変位量に応じた流体目標圧力を求め(予め、変位量−流体目標圧力特性や換算式等を記憶している)、ポンプPから供給された流体の圧力を流体目標圧力となるように昇圧して、軸方向ポケットPBに昇圧した流体を供給する。
昇圧された流体が軸方向ポケットPBに供給されると、軸方向力受動面MJは砥石回転軸TZ方向の力(テーパ部STの径が小さくなる方向に向かう力)を受け、スピンドルSは砥石回転軸TZ方向(テーパ部STの径が小さくなる方向)に移動する。
すると、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが小さくなり、スピンドルSの剛性が増加する。
なお、負荷Fが低減すると変位量が小さくなり、圧力制御手段CPからの流体の圧力も戻され、ハウジング軸受部材J1の位置が戻り、隙間SSの大きさも戻り、スピンドルSの剛性が、負荷Fがかかる前の状態に低減される。
従って、剛性を増加する必要がある場合にのみ剛性を増加するので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
【0030】
●[第2の実施の形態においてハウジング軸受部材J1を砥石回転軸TZ方向に移動可能とした構造(図5)]
以上、図4に示した例では、砥石ハウジング25に対してJ2が固定されており、砥石ハウジング25に対してスピンドルSが砥石回転軸TZ方向に移動する構造を説明した。
これに対して図5に示す例では、砥石ハウジング25に対してスピンドルSの砥石回転軸方向(T0方向の)位置が変化しない構造であり、ハウジング軸受部材J1が砥石ハウジング25に対して砥石回転軸TZ方向に移動可能な構造であり、以下、図3に示す第1の実施の形態の構造からの相違点について主に説明する。
【0031】
図5に示す第2の実施の形態の砥石装置TSは、図3に示す第1の実施の形態の砥石装置TSに対して、軸方向ポケットPBに流体を供給する流路が、流体連通路HAでなく、変位検出手段SHからの検出信号が入力される圧力制御手段CPからの流路H5に変更されている点が異なる。この点は、上記に説明した、図2に示す砥石装置TSに対する図4に示した砥石装置TSの相違点と同じであるので、説明を省略する。
図5に示す砥石装置TSでは、負荷Fが大きくなると(変位量が大きくなると)、圧力制御手段CPは軸方向ポケットPBに供給する流体の圧力を昇圧させ、スピンドルSとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する隙間SSが小さくなるように、砥石ハウジング25に対してハウジング軸受部材J1を砥石回転軸TZ方向(テーパ部STの径が大きくなる方向)に移動させ、スピンドルSの剛性を増加させる。
なお、負荷Fが低減すると変位量が小さくなり、圧力制御手段CPからの流体の圧力も戻され、ハウジング軸受部材J1の位置が戻り、隙間SSの大きさも戻り、スピンドルSの剛性(テーパ部ポケットP1〜P4の静圧支持部の剛性)が、負荷Fがかかる前の状態に低減される。
従って、剛性を増加する必要がある場合にのみ剛性を増加するので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
【0032】
●[第3の実施の形態の流体軸受装置を適用した砥石装置TSの例(図6)]
次に図6に示す断面図を用いて、第3の実施の形態の流体軸受装置を適用した砥石装置TSの構造について説明する。
図6に示す第3の実施の形態における砥石装置TSは、図4に示す第2の実施の形態における砥石装置TSに対して、負荷Fの状態を検出する手段が、変位検出手段SHでなく、スピンドルSに負荷が加えられることを予測可能な負荷予測手段50(この場合、砥石装置TSを制御する数値制御装置等)に変更されている点が異なる。
以下、図4に示す第2の実施の形態からの相違点について主に説明する。
【0033】
図6に示す第3の実施の形態における砥石装置TSでは、図4に示す砥石装置TSに対して、変位検出手段SHが省略され、圧力制御手段CPには、負荷予測手段50からの信号が入力されている。
負荷予測手段50は、スピンドルS(砥石T)に負荷Fがかかることを予測すると、予測した負荷の大きさに応じた信号を圧力制御手段CPに出力する。例えば負荷予測手段50は、NCプログラムから加工中か非加工中かを判断してスピンドルSを砥石回転軸方向に移動させる信号を圧力制御手段CPに出力する。加工中の時は、ポンプPから供給される流体の圧力を大きくし、スピンドルSを砥石回転軸TZの一方の方向(テーパ部STの径が小さくなる方向)に移動させてスピンドルSの剛性を増加させる。また、非加工中の時は、流体の圧力を戻してスピンドルSを砥石回転軸TZの他方の方向(テーパ部STの径が大きくなる方向)に移動させてスピンドルSの剛性を低減させる。
【0034】
例えば、負荷が所定値よりも小さい場合、圧力制御手段CPは、ポンプPから供給された流体の圧力を変更することなく、軸方向ポケットPBに流体を供給する。
また負荷が前記所定値よりも大きい場合、圧力制御手段CPは、負荷の大きさに応じた流体目標圧力を求め(予め、負荷−流体目標圧力特性や換算式等を記憶している)、ポンプPから供給された流体の圧力を流体目標圧力となるように昇圧して、軸方向ポケットPBに昇圧した流体を供給する。
昇圧された流体が軸方向ポケットPBに供給されると、軸方向力受動面MJは砥石回転軸TZ方向の力(テーパ部STの径が小さくなる方向に向かう力)を受け、スピンドルSは砥石回転軸TZ方向(テーパ部STの径が小さくなる方向)に移動する。
すると、スピンドルSのテーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSが小さくなり、スピンドルSの剛性が増加する。
なお、負荷予測手段50からの負荷Fが低減すると、圧力制御手段CPからの流体の圧力も戻され、ハウジング軸受部材J1の位置が戻り、隙間SSの大きさも戻り、スピンドルSの剛性が、負荷Fがかかる前の状態に低減される。
従って、剛性を増加する必要がある場合にのみ剛性を増加するので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
【0035】
●[第3の実施の形態においてハウジング軸受部材J1を砥石回転軸TZ方向に移動可能とした構造]
以上、図6に示した例では、砥石ハウジング25に対してハウジング軸受部材J1、J2が固定されており、砥石ハウジング25に対してスピンドルSが砥石回転軸TZ方向に移動する構造を説明した。
これに対して、砥石ハウジング25に対してスピンドルSの砥石回転軸TZ方向の位置が変化せず、ハウジング軸受部材J1が砥石ハウジング25に対して砥石回転軸TZ方向に移動可能な構造については、図5に示す第2の実施の形態の構造から変位検出手段SHを省略して負荷予測手段50を追加すればよく、図示及び説明は、上記にて説明した第3の実施の形態と同様であるので省略する。
【0036】
以上に説明したように、本発明の流体軸受装置を適用した砥石装置TSは、負荷に応じて、ハウジング軸受部材J1に対してスピンドルSを相対的に砥石回転軸TZ方向の一方の方向(テーパ面MPの径が小さくなる方向)に移動させることで、剛性が必要な場合にのみ、テーパ面MPとテーパ部ポケットP1〜P4に対応する軸受部との隙間SSを小さくして剛性を増加することができるので、必要とするエネルギーの増加量をより抑制することができる。
【0037】
本発明の流体軸受装置は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態の説明では、スピンドルSのテーパ部STを1個所設けた例を説明したが、図2、図4、図6において、ハウジング軸受部材J2の側にもテーパ部STと軸方向力受動部SJを設けてもよい。
また、スピンドルSに軸方向力受動部SJを設けるとともにスピンドルSをハウジングに組み込むために、スピンドルSにカラーを嵌め込む構造にしてスピンドルSをハウジングに挿通するように構成してもよいし、スピンドルSと軸方向力受動部SJを一体構造としてハウジングを回転軸方向に沿って2分割できる構造にしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 研削盤
25 砥石ハウジング
40 砥石スライドテーブル
41 砥石進退テーブル
50 負荷予測手段
BS 基台
CL、CR センタ部材
CP 圧力制御手段
HA 流体連通路
J1、J2 ハウジング軸受部材
M1 テーパ対向面
M2 軸方向対向面
MP テーパ面
MJ 軸方向力受動面
P1〜P4 テーパ部ポケット
PB 軸方向ポケット
PC、PD、PE、PF ポケット
S スピンドル
SH 変位検出手段
SS 隙間
ST テーパ部
SJ 軸方向力受動部
T 砥石
TS 砥石装置
TZ 砥石回転軸
W ワーク
WZ ワーク回転軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
流体にて前記ハウジングに対して回転可能に支持されたスピンドルと、を有する流体軸受装置において、
前記スピンドルは、回転軸方向の一方に向かって徐々に径が小さくなるテーパ面を有するテーパ部と、前記回転軸方向の一方の方向に向かう流体の力を受けることが可能な軸方向力受動面を有する軸方向力受動部と、を有し、
前記ハウジングにおける前記テーパ面に対向しているテーパ対向面には、供給された流体を溜めるテーパ部ポケットが周方向に形成されており、前記テーパ部ポケットは、周方向において複数に分割されており、
前記ハウジングにおける前記軸方向力受動面に対向している軸方向対向面には、供給された流体を溜める軸方向ポケットが形成されており、
前記スピンドルが前記回転軸に交差する方向の力である負荷を受けると、前記軸方向力受動面の受ける力を大きくして前記スピンドルを前記ハウジングに対して相対的に前記回転軸方向の一方の方向に移動させて前記スピンドルの剛性を増加させる剛性増加手段を備えている、
流体軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体軸受装置であって、
前記剛性増加手段は、
前記負荷を受けて前記テーパ面と軸受部との隙間が小さくなる位置にあるテーパ部ポケットと、前記軸方向ポケットと、を連通する流体連通路にて構成されている、
流体軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の流体軸受装置であって、
前記剛性増加手段は、
前記スピンドルにおける前記負荷による変位量を検出可能な変位検出手段と、
前記変位検出手段からの信号に基づいて、前記負荷による前記スピンドルの変位が発生したと判定した場合に前記軸方向ポケットに供給する流体の圧力を増加させる制御手段と、で構成されている、
流体軸受装置。
【請求項4】
請求項1に記載の流体軸受装置であって、
前記剛性増加手段は、
前記スピンドルに前記負荷が加えられることを予測可能な負荷予測手段と、
前記負荷予測手段からの信号に基づいて、負荷が加えられると予測された場合に前記軸方向ポケットに供給する流体の圧力を増加させる制御手段と、で構成されている、
流体軸受装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−33170(P2011−33170A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182583(P2009−182583)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】