説明

流体輸送装置

【課題】高精度な流体輸送量の流体輸送装置を実現する。
【解決手段】流体輸送装置1は、回転体としてのカム20と、流路枠14の側面に形成され、カム20の回転軸P1と同心円で形成される円弧状の流路壁16と、シート状の弾性部材90と、で形成される輸送流路15と、カム20と弾性部材90の間に配置され、カム20の回転により弾性部材90を変形させて輸送流路15を上流側から下流側に閉塞と開放を順次繰り返すフィンガー40〜46と、を有する。このような構成により、輸送流路15の断面積の寸法精度が向上し、輸送流路の断面積の変動に起因する流体の輸送量の変動を抑制でき、流体輸送量の精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量な流体を低速で輸送する流体輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を低速で輸送する装置として蠕動駆動方式のポンプがある。蠕動駆動方式のポンプとしては、流体の輸送流路である弾性を有するチューブを複数のフィンガーで上流側から下流側に押圧して液体を送出する構造のものがある(例えば、特許文献1参照)。
あるいは、回転体に取り付けられた複数のローラーによりチューブを上流側から下流側に押圧して液体を送出する構造のものもある(例えば、特許文献2参照)。
これらのポンプは共に、弾性を有するチューブを押圧することで送液することからチューブポンプと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−515557号公報
【特許文献2】特開平2−280763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微量の液体を送液する場合、前述した特許文献1や特許文献2によるチューブポンプでは、チューブを押圧して送液する構造のため、チューブ内径の寸法の製造上の変動が送液量の精度に直接影響する。しかし、弾性を有するチューブの内径の精度を確保することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係る流体輸送装置は、回転体と、流路枠側面に前記回転体の回転軸と同心円で形成される円弧状の溝と、前記溝の前記回転体方向の開口部を封止するシート状の弾性部材と、で形成される流体の輸送流路と、前記回転体と前記弾性部材の間に配置され、前記回転体の回転により前記弾性部材を変形させて前記輸送流路を上流側から下流側に閉塞と開放を順次繰り返す複数の押圧部材と、を有することを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、輸送流路を流路枠に形成される溝とシート状の弾性部材で構成している。従来の弾性を有するチューブの内径精度に比べ、溝は射出成形等の手段により高精度で形成可能であることと、シート状の弾性部材は輸送流路の寸法変動にほとんど影響しないことから、輸送流路の断面積精度が向上し、輸送流路の断面積変動に起因する流体の輸送量の変動を抑制できるという効果がある。つまり、流体輸送量の精度を高めることができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記複数の押圧部材に形成され前記弾性部材を押圧する押圧部を有し、前記押圧部が前記溝の流体流動方向に対して垂直な断面形状に倣った形状を有していることが好ましい。
【0009】
押圧部材の押圧部を上述のような形状にすることで、輸送流路を確実に閉塞することができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記押圧部が弾性を有していることが好ましい。
【0011】
押圧部材の押圧部が弾性を有していれば、弾性部材を押圧するときに溝の形状に押圧部の形状が馴染みやすく、より一層確実に輸送流路を閉塞することができるという効果がある。
【0012】
[適用例4]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記押圧部が、前記弾性部材が固着される前記溝の周縁面を押圧する鍔部を有していることが好ましい。
【0013】
押圧部材により輸送流路を閉塞するとき、溝と弾性部材との固着境界部に極小さい空間ができ閉塞しきれないことが考えられる。このような場合、所定の輸送量を確保できないことがあるが、上述のような鍔部を設けることにより固着境界部も閉塞可能となり、所定の輸送量を確保できるようになる。
【0014】
[適用例5]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記溝を構成する流路壁の流体流動方向に対して垂直な断面形状が、略円弧形状を有していることが好ましい。
【0015】
溝の形状は特に限定されず四角形や台形でもよいが、略円弧状にすることで溝形状を簡単にできる。また、溝形状が四角形や台形の場合、辺の交差部には角部が形成される。弾性部材により輸送流路を閉塞する際、角部に極微小な隙間が発生することが考えられる。そこで、流路壁を略円弧状にすれば角部が形成されることなく隙間を排除し、より確実に輸送流路を閉塞できる。
【0016】
[適用例6]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記輸送流路が、前記溝と前記弾性部材とを前記弾性部材が固着される前記溝の周縁面に対して略対称形となるよう形成されていることが好ましい。
【0017】
このような構成では、輸送流路は、溝と、溝の断面形状とほぼ同じ凹部を有する形状の弾性部材とから構成される。弾性部材が単純なシート状の場合、押圧部材で弾性部材を押圧して輸送流路を閉塞するときには、弾性部材を引き伸ばすように押圧する。よって、押圧部材の押圧力は大きくなる。しかし、弾性部材を溝の形状と同形状にすれば、弾性部材の引き伸ばし量は少なくてすみ、押圧部材の押圧力が小さくても確実に輸送流路を閉塞できる。また、弾性部材の耐久性が向上するという効果がある。
【0018】
[適用例7]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記輸送流路が、前記流路枠の外周側面に形成されていることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、溝の形成が容易になると共に、弾性部材の固着作業が容易になるという効果がある。
【0020】
[適用例8]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記流路枠が、前記輸送流路と、前記溝を構成する前記流路壁を貫通にする流体の流入流路及び吐出流路を有し、前記流入流路は前記輸送流路の最上流側に、前記吐出流路は前記輸送流路の最下流側に配置されていることが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、円弧状の輸送流路の延長上に流入流路及び吐出流路を形成するよりも、流路枠に流入流路と吐出流路とを孔によって形成することが可能で構造を単純化できる。また、輸送流路と流入流路と吐出流路とを流路枠のみに形成できるため、輸送対象流体が生体内に注入する薬液の場合には、薬液に接触する構成要素を含む流路枠を交換使用とすれば、安全性を高めると共に、他の構成要素は繰り返し使用することが可能でランニングコストを低減できるという効果がある。
【0022】
[適用例9]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記回転体がカムであって、前記複数の押圧部材が、前記カムの回転軸方向から放射状に配置されると共に、前記カムによって押動されるフィンガーであることが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、フィンガーの蠕動運動により流体を輸送することができ、フィンガーは、弾性部材を垂直方向に押圧するため、カムの回転負荷が小さく構成要素の小型化が可能となり、よって流体輸送装置の小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1に係る流体輸送装置の一部を示す平面図。
【図2】(a)は図1のA−P1−A切断面を示す部分断面図、(b)はフィンガーの一部を示す斜視図。
【図3】実施形態1に係る輸送流路の閉塞状態を示す部分断面図。
【図4】実施形態1の変形例に係るフィンガーを示す部分斜視図。
【図5】実施形態2に係る流体輸送装置を示し、(a)は図1のA−P1−A切断面を示す部分断面図、(b)はフィンガーの一部を示す斜視図。
【図6】実施形態2の変形例に係るフィンガーを示す部分斜視図。
【図7】実施形態3に係る輸送流路を示す部分断面図。
【図8】実施形態4に係る流体輸送装置を示す平面図。
【図9】図8のB−P1−B切断面を示す断面図。
【図10】図8のD−P2−D切断面を示す断面図。
【図11】実施形態5に係るフィンガーを示し、(a)は実施例1を示す正面図、(b)は実施例2を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。なお、以下の実施形態にて説明する流体輸送装置は、微量な薬液を生体に低速で注入するための装置を例示している。
(実施形態1)
【0026】
図1は、実施形態1に係る流体輸送装置の一部を示す平面図、図2(a)は図1のA−P1−A切断面を示す部分断面図、図2(b)はフィンガーの一部を示す斜視図である。なお、図1は、主たる機能要素を透視して示す機能説明図である。図1、図2において、流体輸送装置1は、薬液を収容するリザーバー11と、回転体としてのカム20と、流体の輸送流路15が形成される流路枠14と、輸送流路15とカム20の間にあってカム20の回転軸P1方向から等間隔で放射状に配置される押圧部材としての複数のフィンガー40〜46とから構成されている。
【0027】
なお、図示は省略するが、流体輸送装置1には、駆動源としての駆動装置と、駆動装置の駆動をカム20まで所定の減速比で伝達する伝達機構と、駆動装置の制御を行う制御回路と、制御回路に電力を与える電源としての小型電池と、が含まれる。
【0028】
リザーバー11は、流体の収容量によって容積が変化するような弾性を有する樹脂製の容器であって、接続管81によって輸送流路15に連通されている。
【0029】
カム20は、円盤状の形状を有し外周側面がカム面であって、最外周部にフィンガー押圧面21a〜21dが形成されている。フィンガー押圧面21a〜21dは、回転軸P1から等距離の同心円上に形成される。フィンガー押圧面21aとフィンガー押圧面21b、フィンガー押圧面21bとフィンガー押圧面21c、フィンガー押圧面21cとフィンガー押圧面21d、及びフィンガー押圧面21dとフィンガー押圧面21a、の周方向ピッチと外形形状は等しく形成されている。
【0030】
カム20は、カム歯車76と共にカム軸75に固定された状態で第1機枠12と第2機枠13とによって回転可能に支持されている(図2(a)参照)。カム20は、カム歯車76を介して前述した駆動装置の回転をカム20に伝達し、カム20は回転軸P1を回転中心として矢視R方向に回転する(図1、参照)。
【0031】
フィンガー押圧面21a〜21dのそれぞれは、フィンガー押圧斜面22と回転軸P1を中心とする同心円上の円弧部23とが連続して形成されている。この円弧部23は、フィンガー40〜46を押圧しない位置に設けられる。
【0032】
また、フィンガー押圧面21a,21b,21c,21dそれぞれの一方の端部と円弧部23とは、回転軸P1から延長した直線部24で結ばれている。
【0033】
流体の輸送流路15は、流路枠14の外周側面に形成され、カム20の回転軸P1と同心円となる円弧状の溝16と、溝16のカム20に対向する方向の開口部を封止するシート状の弾性部材90と、で形成されている。溝16は、流路壁16cと、斜面部16a,16bによって形成されており、本実施形態では台形形状の場合を例示している。なお、輸送流路15の延長上のリザーバー11側の端部は流入流路17に連通し、他方の端部は吐出流路18に連通している。なお、流入流路側を上流側、吐出流路側を下流側と表す。
【0034】
弾性部材90は、前述した溝16の周縁面16dに固着されており、溝16のカム20側の開口部を密閉する。輸送流路15は、溝16と弾性部材90によって構成されている。
【0035】
また、弾性部材90は、フィンガー40〜46によって流路壁16cと斜面部16a,16bに密着するまで変形可能な弾性を有している。また、弾性部材90は、カム20によるフィンガー40〜46の押圧状態が解除されたときにフィンガー40〜46を回転軸P1方向に輸送流路15を開放する位置まで移動させる弾性力を有する。
【0036】
輸送流路15は、図1に示すように、少なくとも最上流側のフィンガー40の押圧範囲から最下流側のフィンガー46の押圧範囲に至る範囲に形成され、最上流側は流入流路17に、最下流側は吐出流路18に連通される。
【0037】
流入流路17と吐出流路18はそれぞれ、流路枠14の上面側から溝を形成し、第2機枠13によって封止される。なお、第2機枠13以外の封止部材を用いて封止する構造としてもよい。流入流路17は、接続管81を介してリザーバー11に連通されている。また、吐出流路18は接続管82を介して流体輸送装置1の外部に導出されている。薬液を生体内に注入する場合には、接続管82に注入チューブ(図示せず)がさらに挿着される。
【0038】
次に、フィンガー40〜46の形状について図2を参照して説明する。フィンガー40〜46は同じ形状のため、フィンガー44を例示して説明する。なお、図2(a)は、フィンガー44が弾性部材90を押圧しない状態、つまり輸送流路15が開放されている状態を表している。フィンガー44は、棒状の軸部44aと、軸部44aの弾性部材90側に形成される押圧部44cと、カム20側に形成されるカム当接部44bとから構成されている。軸部44aの断面形状は四角形または円形であって、カム当接部44bは滑らかに丸められている。
【0039】
なお、軸部44aの断面形状は円形でも四角形でもよいが、四角形の場合には、カム当接部44bは平面視して略円形に滑らかに丸められる。
【0040】
押圧部44cは、図2(b)に示すように略四角形の鍔状をなし、流路壁16cと同心円である押圧面44dと、斜面部16a,16bと同じ角度の斜面部44e,44fを有する。よって、押圧部44c(押圧面44dと斜面部44e,44f)は、輸送流路15(流路壁16cと斜面部16a,16b)に倣った形状(略相似形)を有している。
【0041】
フィンガー40〜46は、第1機枠12に形成されたフィンガー装着溝12aに装着され、第2機枠13によって上部を覆うことによって、軸方向に進退可能に保持される。なお、フィンガー40〜46の保持は、第2機枠13以外の専用の保持部材を用いる構造としてもよい。
【0042】
次に、輸送流路15の閉塞について図3を参照して説明する。
図3は、実施形態1に係る輸送流路の閉塞状態を示す部分断面図である。フィンガー44を例示して説明する。また、図1も参照する。フィンガー44は、カム20のフィンガー押圧面21dがフィンガー44を押動する位置まで達すると、フィンガー44の押圧部44cによって弾性部材90が輸送流路15を閉塞する。カム20がさらに回転してフィンガー押圧面21dとカム当接部44bとの係合が解除されると、弾性部材90の弾性力によってフィンガー44はカム20側に押し戻され、輸送流路15は開放される(図2(a)で表す状態)。
【0043】
続いて、流体輸送装置の流体輸送に係る作用について図1〜図3を参照して説明する。カム20は、駆動装置と、駆動装置の駆動をカム20まで所定の減速比で伝達する伝達機構を介してカム歯車76を回転する。カム歯車76はカム20と一体化されているのでカム20は矢視R方向に回転され、フィンガー押圧面21dでフィンガー44を押動する。この際、フィンガー44は弾性部材90を変形させて輸送流路15を閉塞している。
【0044】
フィンガー45はフィンガー押圧面21dとフィンガー押圧斜面22との接合部に当接しており、輸送流路15を閉塞している。また、フィンガー46はフィンガー押圧斜面22上で弾性部材90を押圧しているが、フィンガー44の押圧量より小さく、輸送流路15を完全には圧閉していない。
【0045】
フィンガー40〜43は、カム20の円弧部23またはフィンガー押圧斜面22の範囲にあり、押動されない初期位置にある。
この位置から、さらにカム20を矢視R方向に回転すると、カム20のフィンガー押圧面21dによって、フィンガー45,46の順で押動して輸送流路15を閉塞していく。フィンガー44はフィンガー押圧面21dから解除され輸送流路15は開放される。輸送流路15には開放される位置または、まだ閉塞されていない位置に流体が流入している。
【0046】
カム20をさらに回転すると、フィンガー押圧斜面22が、フィンガー40,41,42,43の順に流体の上流側から下流側に順次押圧していき、フィンガー押圧面21cに達したときに輸送流路15を閉塞する。
【0047】
このような動作を繰り返すことにより、流体をリザーバー11から吐出流路18向けて輸送し吐出する。
【0048】
従って、本実施形態によれば、流路枠14に形成される溝16とシート状の弾性部材90により輸送流路15を構成している。従来の弾性を有するチューブの内径精度に比べ、溝16は射出成形等の手段により高精度で形成可能であることと、シート状の弾性部材90は輸送流路15の寸法変動にほとんど影響しないことから、輸送流路15の断面積精度が向上し、輸送流路15の断面積の変動に起因する流体の輸送量の変動を抑制できるという効果がある。つまり、流体輸送量の精度を高めることができる。
【0049】
また、フィンガー40〜46の各押圧部(押圧部44cを例示)が、輸送流路15の溝16(流路壁16c及び斜面部16a,16b)に倣った形状を有していることから、弾性部材90が溝16の内壁に密接し、輸送流路15を隙間なく閉塞することができる。
【0050】
また、図1に示すように、輸送流路15を流路枠14の外周側面に形成している。このようにすれば、流路枠14を射出成形で成形する場合には、溝16を高精度で形成でき、溝を切削加工することも可能になる。また、弾性部材90の固着作業が容易になるという効果がある。
【0051】
なお、本実施形態の技術思想は、複数のフィンガーを特許文献2に記載の複数のローラーに置き換えた構造にも適合可能であるが、ローラーにより輸送流路を閉塞する場合、弾性部材を流体の輸送方向(回転体の回転方向)に押し伸ばし変形させることがある。しかし、本実施形態では、フィンガーにより弾性部材を略垂直方向に押圧するため、上述のように弾性部材を変形させることがないという特長を有している。
(実施形態1の変形例)
【0052】
続いて、実施形態1の変形例について図面を参照して説明する。この変形例はフィンガー40〜46の各押圧部が、弾性部材90が固着される溝16の周縁面16dを押圧する鍔部を有していることを特徴とするよって、前述した実施形態1(図2(b)、参照)との相違箇所を、図2(b)と同じ機能部には同じ符号を付して説明する。
図4は、実施形態1の変形例に係るフィンガーを示す部分斜視図である。なお、複数のフィンガーのうち、フィンガー44を例示している。フィンガー44には、軸部44aの先端部に押圧部44cが形成されている。
【0053】
押圧部44cは、流路壁16cと同心円である押圧面44dと、斜面部16a,16bと同じ角度の斜面部44e,44fを有し、さらに斜面部44e,44fに連続する鍔部44g,44hを有している。押圧面44dと斜面部16a,16bとは、実施形態1(図2(b)、参照)と同じ形状である。
【0054】
鍔部44g,44hは、弾性部材90が固着される溝16の周縁面16dの少なくとも一部押圧する範囲に突設されている。従って、鍔部44g,44hの弾性部材90側の平面視形状は、周縁面16dと同心円となる形状を有する。
【0055】
フィンガー40〜46のいずれかにより輸送流路15を閉塞するとき、溝16と弾性部材90との固着境界部に極小さい隙間ができ閉塞しきれないことが考えられる。このような場合、所定の輸送量を確保できないことがあるが、上述のような鍔部44g,44hを設けることにより固着境界部も閉塞可能となり、上述の隙間を排除でき所定の流体輸送量を確保できるようになる。また、弾性部材90を押圧するときにおいて弾性部材90の固着強度の補強効果もある。
(実施形態2)
【0056】
次に、実施形態2について図面を参照して説明する。実施形態2は、輸送流路の流路壁の流体流動方向に対して垂直な断面形状が、円弧形状を有していることを特徴としている。よって、実施形態1との相違箇所を中心に、同じ機能部には同じ符号を付して説明する。なお、フィンガー44を例示している。
【0057】
図5は、実施形態2に係る流体輸送装置を示し、(a)は図1のA−P1−A切断面を示す部分断面図、(b)はフィンガーの一部を示す斜視図である。図5(a),(b)において、輸送流路15は、流路枠14に形成される溝16と弾性部材90によって形成されている。溝16は、断面形状が円弧状の流路壁16cによって形成されている。
【0058】
フィンガー44は、棒状の軸部44aと、軸部44aの弾性部材90側に形成される押圧部44cと、カム20側に形成されるカム当接部44bとから構成されている。押圧部44cは、図5(b)に示すように略四角形の鍔状をなし、流路壁16cの形状に倣った押圧面44dを有している。具体的には、押圧面44dは平面視して流路壁16cと同心円の円弧と、流路壁16cの断面の円弧形状と、が合成された曲面から構成されている。
【0059】
輸送流路15が実施形態1のように断面形状が四角形や台形の場合、輸送流路15を形成する辺の交差部、弾性部材90との固着境界部には角部が形成される。これら角部は、弾性部材90により閉塞する際、微小な隙間が発生することが考えられる。もし、このような隙間が発生すると流体輸送量に誤差や変動が発生する。そこで、流路壁16cの断面形状を略円弧状にすれば角部が形成されることなく、より確実に輸送流路15を閉塞でき、正確な流体輸送量を維持することができる。
(実施形態2の変形例)
【0060】
続いて、実施形態2の変形例について図面を参照して説明する。実施形態1の変形例と同様に、フィンガー40〜46の各押圧部が、弾性部材90が固着される溝16の周縁面16dを押圧する鍔部を有していることを特徴とするよって、前述した実施形態2(図5(b)、参照)との相違箇所を、図5(b)と同じ符号を付して説明する。
【0061】
図6は、実施形態2の変形例に係るフィンガーを示す部分斜視図である。なお、複数のフィンガーのうち、フィンガー44を例示している。フィンガー44は、軸部44aの先端部に押圧部44cが形成されている。押圧部44cは、前述した実施形態2と同形状である押圧面44dと、押圧面44dに連続する鍔部44g,44hを有している。
【0062】
鍔部44g,44hは、弾性部材90が固着される溝16の周縁面16d(図5、参照)の少なくとも一部を押圧する範囲に突設されている。従って、鍔部44g,44hの平面視形状は、周縁面16dと同心円となる形状を有する。
【0063】
このような構造にすれば、前述した実施形態2の角部を排除することによる効果と、実施形態1の変形例による鍔部44g,44hを有する効果と、を有する流体輸送装置1を実現できる。
なお、流路壁16cを略円弧状にすれば形状を単純化でき、よって製造しやすくなるため、寸法精度も向上する。
(実施形態3)
【0064】
次に、実施形態3について図面を参照して説明する。前述した実施形態1及び実施形態2は、輸送流路を形成する弾性部材がシート状であることに対して、輸送流路が、流路枠に形成される溝と弾性部材とが、溝の周縁面に対して略対称形となるよう形成されていることに特徴を有する。よって、実施形態1と実施形態2との相違箇所について説明する。
【0065】
図7は、実施形態3に係る輸送流路を示す部分断面図である。輸送流路15は、流路枠14に形成された断面が円弧状の流路壁16cからなる溝16と、弾性部材90の凹部91によって形成されている。凹部91は、シート状の弾性部材90を加熱型押し成形、または射出成形等によって成形することが可能である。流路枠14の流路壁16cと弾性部材90の凹部91とは、溝16の周縁面16dに対して略対称形となるような形状を有している。
【0066】
図7では、このような輸送流路15を閉塞するフィンガーとして実施形態2によるフィンガー44を例示しており、押圧部44cの押圧面44dの断面形状は、流路壁16cに倣った曲面によって構成されている。
【0067】
ここで、フィンガー44で弾性部材90を押圧すると凹部91の表面が流路壁16cに密接し、輸送流路15が閉塞される。
【0068】
なお、図7では、押圧面44dは断面形状を実施形態2による円弧状(曲面)としたが、実施形態1による台形形状としてもよい。また、実施形態1及び実施形態2それぞれの変形例による鍔部44g,44hをも設ける構造とすればなおよい。
【0069】
このような構成では、輸送流路15は、流路壁16断面形状と略対称となる弾性部材90の凹部91とから構成される。弾性部材90が単純なシート状部材の場合、フィンガーで弾性部材90を押圧して輸送流路15を閉塞するときには、弾性部材90を引き伸ばすように押圧する。よって、弾性部材90の押圧力は大きくなる。しかし、弾性部材90に凹部91を設けるようにすれば、弾性部材90の閉塞時における引き伸ばし量は少なくてすみ、フィンガー40〜46の押圧力が小さくても確実に輸送流路15を閉塞できる。また、弾性部材90の耐久性が向上するという効果がある。
(実施形態4)
【0070】
次に、実施形態4について図面を参照して説明する。前述した実施形態1が、輸送流路15の延長上に流入流路17と吐出流路18とが連通されていることに対し、実施形態4は、輸送流路15に対して略垂直方向に流入流路17と吐出流路18とが連通されていることを特徴としている。よって、実施形態1との相違箇所を中心に説明する。なお、実施形態1と同じ機能を有する要素には同じ符号を付している。
【0071】
図8は、実施形態4に係る流体輸送装置を示す平面図、図9は図8のB−P1−B切断面を示す断面図、図10はD−P2−D切断面を示す断面図である。なお、輸送流路15及びフィンガー40〜46は実施形態1によるものを例示している。図8、図9において、流入流路17は、輸送流路15の最上流側のフィンガー40の延長方向位置において、流路壁16cを貫通する孔によって輸送流路15と、流体溜まり19aに連通されている。
【0072】
流体溜まり19aは接続管81によりリザーバー11に連通されている。流体溜まり19aは、流入流路17の垂直上方から孔19を開設し、封止部材83で流入流路17の断面積を確保しつつ封止することで形成される。
【0073】
接続管81は、2段構造であって、細管部が流体溜まり19aまで接続され、太管部分がリザーバー11との接続部81aには、リザーバー11から突設された接続部11aが接続されている。このような構造により、リザーバー11と輸送流路15とが連通される。接続管81は、流路枠14の側面壁14bと略垂直に挿着されている。
なお、流入流路17の開設位置は、輸送流路15のフィンガー40より上流側であればよく、図示した位置に限定されない。
【0074】
続いて、吐出流路18の構成について説明する。図8、図10において、吐出流路18は、輸送流路15の最下流側のフィンガー46の延長方向位置において、流路壁16cを貫通する孔によって形成されている。吐出流路18は、流路枠14の外周側壁14aに略垂直に開設される孔によって構成され、接続管82が挿着されて外部に延在されている。
【0075】
なお、接続管82を流入流路側の接続管81と同様な構造とし、輸送流路15に直接連通させる構造としてもよい。また、吐出流路18の開設位置は、輸送流路15のフィンガー46より下流側であればよく、図示した位置に限定されない。
【0076】
従って、本実施形態では、流路枠14に弾性部材90を含む輸送流路15と、接続管81を含む流入流路17と、接続管82を含む吐出流路18と、が一体でユニット化されており、さらにリザーバー11が接続されていることになる。
【0077】
このような構成によれば、流路枠14に流入流路17と吐出流路18とを孔によって形成することが可能で構造を単純化できる。また、輸送流路15と流入流路17と吐出流路18とを流路枠14に形成できるため、輸送対象流体が生体内に注入する薬液の場合には、薬液に接触する流路枠ユニットを交換使用とすればよく安全性を高めると共に、他の構成要素を繰り返し使用とすれば、ランニングコストを低減できるという効果がある。
(実施形態5)
【0078】
続いて、実施形態5に係る流体輸送装置について図面を参照して説明する。実施形態5は、フィンガーの構成に係り、弾性部材を押圧する押圧部が弾性を有していることを特徴としている。
図11は、実施形態5に係るフィンガーを示す正面図であり、(a)は実施例1、(b)は実施例2を示している。
【0079】
まず、実施例1について説明する。7個のフィンガーは同じ形状を有しているので、フィンガー60として説明する。フィンガー60は、軸部61と鍔状の押圧部62とから構成されている。押圧部62は弾性を有する材料により形成されており、軸部61の一方の端部に開口された穴部61aに、軸部62aが挿着されている。
【0080】
軸部61は、カム20によって輸送流路15を閉塞する際に変形しない程度の剛性を有している。また、押圧部62は、輸送流路15を閉塞した際に、流路壁16の形状に馴染む程度の弾性を有することが望ましい。
【0081】
次に、実施例2について説明する。フィンガー60は、軸部61と鍔状の押圧部62とを2種成形によって形成されている。押圧部62は弾性を有する材料であって、軸部61は、カム20によって輸送流路15を閉塞する際に変形しない程度の剛性を有している。
【0082】
上述した実施例1及び実施例2では、フィンガー60の押圧部62が弾性を有していることから輸送流路15を閉塞するときに輸送流路15の流路壁16cや斜面部16a,16bの形状に押圧部62の形状が馴染みやすく、より一層確実に輸送流路を閉塞することができる。
【0083】
また、押圧部62が弾性を有していることから、カム20を含むフィンガー、輸送流路15の寸法変動を吸収し、過負荷により駆動が停止してしまうことを防止できるという効果もある。
【0084】
なお、図11では、実施形態1による構造を例示したが、実施形態2による構造や各変形例にも適用できる。
【0085】
さらに、実施形態1〜実施形態5による流体輸送装置1は、回転体としてのカム20と、押圧部材としてのフィンガー40〜46とにより、輸送流路15を構成する弾性部材90を押圧して、フィンガー40〜46の蠕動運動により流体を輸送する構造を例示して説明したが、前述した特許文献2のような回転体に取り付けられた複数のローラーによりチューブを上流側から下流側に押圧して液体を送出する構造にも適用可能である。
【0086】
特許文献2による構造では、複数のローラーの回転側面に輸送流路に倣った形状の押圧部を形成することで実現できる。
【0087】
なお、以上前述した実施形態1〜実施形態5による流体輸送装置1は、小型化、薄型化が可能で、微量流量を低速で連続的に輸送することができるため、生体内または生体表面に装着し、新薬の開発やドラッグデリバリーなどの医療用に好適である。また、様々な機械装置において、装置内、または装置外に搭載し、水や食塩水、薬液、油類、芳香液、インク、気体等の流体の輸送に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…流体輸送装置、14…流路枠、15…輸送流路、16…流路壁、20…カム、40〜46…フィンガー、90…弾性部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、
流路枠側面に前記回転体の回転軸と同心円で形成される円弧状の溝と、前記溝の前記回転体方向の開口部を封止するシート状の弾性部材と、で形成される流体の輸送流路と、
前記回転体と前記弾性部材の間に配置され、前記回転体の回転により前記弾性部材を変形させて前記輸送流路を上流側から下流側に閉塞と開放を順次繰り返す複数の押圧部材と、
を有することを特徴とする流体輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体輸送装置において、
前記複数の押圧部材に形成され前記弾性部材を押圧する押圧部を有し、前記押圧部が前記溝の流体流動方向に対して垂直な断面形状に倣った形状を有していることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体輸送装置において、
前記押圧部が弾性を有していることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の流体輸送装置において、
前記押圧部が、前記弾性部材が固着される前記溝の周縁面を押圧する鍔部を有していることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の流体輸送装置において、
前記溝を構成する流路壁の流体流動方向に対して垂直な断面形状が、円弧形状を有していることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の流体輸送装置において、
前記輸送流路が、前記溝と前記弾性部材とを前記弾性部材が固着される前記溝の周縁面に対して略対称形となるよう形成されていることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の流体輸送装置において、
前記輸送流路が、前記流路枠の外周側面に形成されていることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の流体輸送装置において、
前記流路枠が、前記輸送流路と、前記溝を構成する前記流路壁を貫通する流体の流入流路及び吐出流路を有し、
前記流入流路は前記輸送流路の最上流側に、前記吐出流路は前記輸送流路の最下流側に配置されていることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の流体輸送装置において、
前記回転体がカムであって、
前記複数の押圧部材が、前記カムの回転軸方向から放射状に配置されると共に、前記カムによって押動されるフィンガーであることを特徴とする流体輸送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−256779(P2011−256779A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131740(P2010−131740)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】