説明

流動接触分解を用いたバイオマスの処理方法

【課題】 流動接触分解装置において、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制し、バイオマスを効率的に処理可能なバイオマスの処理方法を提供すること。
【解決手段】 反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域、再生帯域及び生成物回収帯域を有する流動接触分解装置を用いて接触分解によりバイオマスを処理する方法であって、反応帯域において、バイオマスを含む原料油を、超安定Y型ゼオライトを10〜50質量%含有する触媒を用い、反応帯域の出口温度480〜540℃、触媒/油比4〜12wt/wt、反応圧力1〜3kg/cmG、原料油と触媒との接触時間1〜3秒の条件下で処理する第1の工程と、生成物回収帯域において、第1の工程で得られる被処理油を、生成物回収帯域に含まれる蒸留塔の塔底部温度を380℃以下として分離回収する第2の工程と、を含む処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解を用いたバイオマスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギーセキュリティーの観点、並びに炭酸ガスの削減の観点から、バイオマスが自動車燃料や石油化学原料として有望視されている。
【0003】
バイオマスを自動車等の燃料油として利用する方法については、従来多くの試みが為されている。例えば、下記特許文献1〜5には、バイオマスである植物油や動物油を鉱物油と混合し、ディーゼルエンジン用燃料として用いる方法が開示されている。しかしながら、バイオマスを単に鉱物油と混合しただけでは、バイオマスが不飽和結合や酸素を含むなどの理由により、得られる燃料の安定性が不十分となり、管理が困難となる。また、これらの成分は自動車に使用される材料に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
一方、下記特許文献6には、高級脂肪酸グリセリンエステルをゼオライト含有触媒と接触させてガソリンを製造する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−57686号公報
【特許文献2】特表平6−510804号公報
【特許文献3】特開平7−82576号公報
【特許文献4】特開平8−41468号公報
【特許文献5】特開平10−152687号公報
【特許文献6】特開昭59−62694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の方法であっても、実用化に供し得るものとしては以下の点で改善の余地がある。
【0007】
すなわち、上記特許文献6に記載された方法によれば、実験室レベルでのガソリンの製造は可能であるが、工業レベルの流動接触分解装置(以下、場合により「FCC」という)を用いてバイオマスを処理する場合、バイオマスに含まれるエステル(油脂)由来の含酸素化合物の影響から、FCCにおける生成物回収帯域の蒸留塔の塔底部においてコーキングやファウリングが激しく起こり、装置の運転に支障をきたすという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、流動接触分解装置において、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制し、バイオマスを効率的に処理することが可能なバイオマスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域、再生帯域及び生成物回収帯域を有する流動接触分解装置を用いて接触分解によりバイオマスを処理する方法であって、上記反応帯域において、バイオマスを含む原料油を、超安定Y型ゼオライトを10〜50質量%含有する触媒を用いて、上記反応帯域の出口温度480〜540℃、触媒/油比4〜12wt/wt、反応圧力1〜3kg/cmG、上記原料油と上記触媒との接触時間1〜3秒の条件下で処理する第1の工程と、上記生成物回収帯域において、上記第1の工程で得られる被処理油を、上記生成物回収帯域に含まれる蒸留塔の塔底部温度を380℃以下として分離回収する第2の工程と、を含むことを特徴とするバイオマスの処理方法を提供する。
【0010】
上記本発明のバイオマスの処理方法によれば、流動接触分解装置を用いてバイオマスを処理するに際し、バイオマスを含む原料油を上記特定条件下で上記特定の触媒で処理し、且つ、生成物回収帯域における塔底部温度を上記範囲とすることにより、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制することができ、流動接触分解装置を用いてバイオマスを効率的に処理することが可能となる。また、本発明のバイオマスの処理方法によれば、鉱物油等を処理するための既存の流動接触分解装置を用いてバイオマスを効率的に処理することが可能であり、経済的にも有利である。
【0011】
また、本発明のバイオマスの処理方法では、上記生成物回収帯域において、上記蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、ポンプ及び熱交換器を通して上記塔底油の温度を下げた後、該塔底油の一部を上記蒸留塔に戻すことにより上記塔底部の温度を制御するとともに、該塔底油の他の一部を回収することが好ましい。これにより、生成物回収帯域における蒸留塔の塔底部の温度を上述した範囲に容易に制御することができ、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生をより十分に抑制しつつ、流動接触分解装置を用いたバイオマスの処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明のバイオマスの処理方法では、上記生成物回収帯域において、上記蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、該塔底油を上記蒸留塔の塔底部温度を制御する熱交換器内に流す際の、上記塔底油の熱交換器内線速度を0.2m/秒以上とすることが好ましい。これにより、これにより、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生をより十分に抑制しつつ、流動接触分解装置を用いたバイオマスの処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明のバイオマスの処理方法では、上記生成物回収帯域において、上記蒸留塔の塔底部における塔底油の滞留時間を400秒以下とすることが好ましい。これにより、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生をより十分に抑制しつつ、流動接触分解装置を用いたバイオマスの処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0014】
また、本発明のバイオマスの処理方法では、上記生成物回収帯域において、上記蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、該塔底油をフィルター又はストレーナーにかけることが好ましい。これにより、コーキング物質及びファウリング物質を塔底油から取り除くことができ、流動接触分解装置の運転をより安定的に継続することが可能となる。
【0015】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる生成物は、バイオマスを原料としているものであるため、エネルギーセキュリティーの観点並びに炭酸ガスの削減の観点で優れている。したがって、本発明によれば、後述するように、当該生成物を用いた各種燃料及び石油化学製品を提供することができる。
【0016】
すなわち、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる水素を含有することを特徴とする燃料電池用燃料を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる沸点25〜220℃の留分の一部又は全部あるいはその水素化物を含有することを特徴とするガソリンを提供する。
【0018】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる沸点170〜370℃の留分の一部又は全部を含有することを特徴とするディーゼル燃料を提供する。
【0019】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる炭素数3又は4の炭化水素を含有することを特徴とする液化石油ガスを提供する。
【0020】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるプロピレンを構成モノマーとして含有することを特徴とする合成樹脂を提供する。かかる合成樹脂は、好ましくは、燃焼廃棄したとき、環境規制上の二酸化炭素の排出量をゼロとカウントできることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるイソブチレンと、メタノール又はエタノールとを反応させて得られるエーテルを含有することを特徴とするガソリンを提供する。
【0022】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるブチレンと、イソブタンとをアルキレーション装置を用いて反応させた反応物を含有することを特徴とするガソリンを提供する。
【0023】
また、本発明は、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるブチレンの二量化物を含有することを特徴とするガソリンを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、流動接触分解装置において、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制し、バイオマスを効率的に処理することが可能なバイオマスの処理方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記本発明のバイオマスの処理方法を用いることにより、エネルギーセキュリティーの観点並びに炭酸ガスの削減の点で有用な燃料及び石油化学原料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
本発明において原料油に使用するバイオマスとしては、植物又は動物由来の油脂を用いることができる。かかる油脂は高級脂肪酸とグリセリンとのエステルを含むものであり、例えば、パーム油、菜種油、コーン油、大豆油、グレープシード油等の植物油、ラード等の動物油などが挙げられる。本発明において、これらの油脂は使用済みの廃油であってもよい。
【0027】
また、原料油としては、上記のバイオマスと鉱物油とを混合したものを用いることもできる。上記鉱物油としては、原油を蒸留して得られる常圧残油、常圧残油をさらに減圧蒸留して得られる減圧軽油、減圧残油、これらの水素化処理油又は熱分解油、及び、それらの混合物などが挙げられる。これらの鉱物油のうち、常圧残油、減圧残油及びそれらの水素化処理油を本発明では「残油」と称し、原料油中のこれらの残油の比率を質量比で表わした数値を「残油比率」(質量%)という。
【0028】
本発明における残油比率は特に制限されないが、本発明のバイオマスの処理方法は、残油比率が10質量%以上の原料油を用いて運転されている流動接触分解装置に適用することが好ましい。更に好ましい残油比率は30質量%以上である。
【0029】
本発明で用いられる触媒は、超安定Y型ゼオライトを10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%含有するものである。該触媒の好ましい態様としては、超安定Y型ゼオライトを、副活性成分であり重質油の大きな分子を分解することのできるマトリックス、カオリンなどの増量剤と共にバインダーで粒子状に成型したものが挙げられる。該触媒の平均粒径は50〜90μm、かさ密度は0.6〜0.9g/cm、表面積は50〜350m/g、細孔容積は0.05〜0.5ml/gであることがそれぞれ好ましい。
【0030】
また、該触媒は、超安定Y型ゼオライトの他に、Y型ゼオライトよりも細孔径の小さい結晶性アルミのシリケートゼオライト、シリコアルミノフォスフェート(SAPO)などを更に含有してもよい。そのようなゼオライト又はSAPOとして、ZSM−5、β、ω、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−34等が挙げられる。これらのゼオライト又はSAPOは、上記超安定Y型ゼオライトを含む触媒粒子と同一の触媒粒子中に含まれてもよく、あるいは別の触媒粒子として含まれてもよい。
【0031】
本発明で用いられる流動接触分解装置(FCC)は、反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域、再生帯域及び生成物回収帯域を有する装置であれば特に制限されない。また、該FCCは鉱物油の処理を目的として従来使用されている既存の装置でもよく、あるいはバイオマス処理のために新たに建設される装置であってもよい。
【0032】
FCCの反応帯域では、反応帯域の出口温度480〜540℃、触媒/油比4〜12wt/wt、反応圧力1〜3kg/cmG、原料油と触媒との接触時間1〜3秒の条件下で処理する流動接触分解が行われる。ここで、本発明でいう「流動接触分解」とは、上記のバイオマス、鉱物油などの重質な原料油と、流動状態に保持されている触媒とを、後述する運転条件で連続的に接触させ、重質原料油をガソリンや軽質オレフィンを主体とした軽質な炭化水素に分解する処理を意味する。この流動接触分解には、触媒粒子と原料油とが共に管内を上昇する、いわゆるライザークラッキングが多く用いられる。
【0033】
また、本発明でいう「反応帯域の出口温度」とは、流動床型反応器の出口温度のことであり、分解生成物(反応生成物)が急冷又は触媒と分解される前の温度である。本発明における反応帯域の出口温度は、上述の通り480〜540℃であり、好ましくは490〜520℃、より好ましくは500〜510℃である。反応帯域の出口温度が480℃未満であると目的生成物であるガソリンや軽質オレフィンを高い収率で得ることができず、また、540℃を超えると熱分解が顕著になりドライガス発生量が増大してしまう。
【0034】
また、本発明でいう「触媒/油比」は、触媒循環量(t/h)と原料油供給速度(t/h)との比である。本発明における触媒/油比は、上述の通り4〜12wt/wtであり、好ましくは5〜10wt/wt、より好ましくは6〜8wt/wtである。触媒/油比が4wt/wt未満であると十分な分解率を得ることができない。また、触媒/油比が12を超えると触媒循環量が大きくなり、再生帯域において触媒再生に必要な触媒滞留時間を確保できず、触媒の再生が不十分となる。
【0035】
また、本発明でいう「反応圧力」とは流動床型反応器の全圧を意味する。本発明における反応圧力は、上述の通り1〜3kg/cmGであり、好ましくは1.2〜2kg/cmGである。反応圧力が1kg/cmG未満であると大気圧との差が過剰に小さくなり、コントロールバルブによる圧力の調整が困難となる。また、反応圧力が1kg/cmG未満の場合、それに伴って再生帯域の圧力も小さくなり、再生に必要なガスの滞留時間を確保するために容器を大きくしなければならず、経済的に好ましくない。一方、反応圧力が3kg/cmGを超えると、単分子反応である分解反応に対する水素移行反応などの二分子反応の割合が増加してしまう。なお、ここでいう「水素移行反応」とは、ナフテン等からオレフィンが水素を受け取ってパラフィンに変換される反応であり、目的物である軽質オレフィンの減少、ガソリンのオクタン価の低下などの原因となる反応である。
【0036】
また、本発明でいう「原料油と触媒との接触時間」とは、流動床型反応器の入口で原料油と触媒とが接触してから反応器出口で反応生成物と触媒とが分離されるまでの時間を意味する。本発明における原料油と触媒との接触時間は、上述の通り1〜3秒であり、好ましくは1〜2秒である。
【0037】
反応帯域で接触分解を受けた反応生成物、未反応物及び触媒の混合物は、分離帯域において触媒の分離が行なわれる。分離帯域としては、サイクロンをはじめとする遠心力を用いた固気分離装置が好ましく用いられる。
【0038】
分離帯域において分離された触媒は、ストリッピング帯域に送られ、触媒粒子から反応生成物、未反応物等の炭化水素類の大部分が除去される。一方、反応生成物(被処理油)と未反応物の混合ガスは、後述する生成物回収帯域に送られる。また、反応中に原料の一部がより重質な炭素質(コーク)となり触媒上に付着し得るが、コーク及び一部重質の炭化水素類が付着した触媒は、ストリッピング帯域から再生帯域(再生塔)に送られる。再生帯域においては、コーク等が付着した触媒に酸化処理が施される。この酸化処理を受けた触媒が再生触媒であり、触媒上に沈着したコーク及び重質炭化水素類が燃焼により減少されたものである。この再生触媒は、上記の反応帯域に連続的に循環される。場合によっては不必要な熱分解あるいは過分解を抑制するため、分解生成物は分離帯域の直前又は直後で急冷される。再生帯域における炭素質の燃焼に伴い発生する熱量により触媒の加熱が行われ、その熱は触媒と共に反応帯域に持ち込まれる。この熱量によって原料油の加熱・気化が行われる。また、分解反応は吸熱反応であることから、分解反応熱としても上記の熱量が利用される。このように再生帯域における発熱と反応帯域における吸熱とのバランスを取ることがFCC運転の必須条件となっている。
【0039】
ここで、熱が余剰となった場合の対策としては、触媒を冷却する方法が挙げられる。この方法は、例えば、再生帯域の触媒の一部を抜き出し、その熱をスチーム発生等に用いることで触媒の熱を奪うことにより行うことができる。
【0040】
また、熱余剰時の他の方法としては、再生帯域を2段にし、1段目を酸素不足雰囲気下で行う方法が挙げられる。この場合、コークは不完全燃焼となり、排ガスとして一酸化炭素が排出されることとなる。これにより、炭素が一酸化炭素まで酸化される際の反応熱と二酸化炭素まで酸化される際の反応熱との差分だけ余分な熱を系外に排出することができる。なお、コークの燃焼にかかわる反応熱(燃焼熱)は以下の通りとなっている。
+1/2O→HO 12.1×10kJ/kg(28900kcal/kg)
C+1/2O→CO 0.9×10kJ/kg(2200kcal/kg)
C+O→CO 3.3×10kJ/kg(7820kcal/kg)
なお、系外に排出された一酸化炭素を更に二酸化炭素まで酸化することで、そのエネルギーを電力やスチームの形で回収することもできる。
【0041】
接触分解に伴い生じるコーク量の上限値は、通常、FCCごとにほぼ決まっている。例えば、上述した熱余剰時の対策により系外に排出できる熱量の大きさによって、コーク量の許容値が決まる。また、FCCの立地によって発生する二酸化炭素量の上限値が決められている場合があり、その数値によってコーク量の許容値が制限される。通常、FCCはできるだけ大きい通油量、できるだけ高い分解率で運転され、結果的にコーク量の上限値での運転を行うことになる。
【0042】
本発明では、原料油当たりのコークの生成量(質量%)を「コーク収率」と称するが、本発明におけるコーク収率は、好ましくは2〜12質量%、より好ましくは5〜10質量%、更に好ましくは6〜8質量%である。コーク収率が2質量%未満であると反応に必要な熱が不足する傾向にある。また、コーク収率が12質量%を超えると、再生帯域で発生する熱量が過剰に大きくなり、分解率の低下、通油量の低下などの運転の制約を受けるため、好ましくない。
【0043】
また、本発明におけるFCCは、反応生成物(被処理油)を沸点などにより分離して目的の生成物を回収する生成物回収帯域を備えている。該生成物回収帯域は、複数の蒸留塔、吸収塔、コンプレッサー、ストリッパー、熱交換器等を含んで構成される。反応帯域で得られた480〜540℃の反応生成物は、分離帯域を経て、第一の蒸留塔に送られる。ここで熱交換器により反応生成物の熱を奪い、軽油及び軽油よりも重質な留分を塔底から、ガソリン及びガソリンよりも軽質な留分を塔頂から、それぞれ抜き出す。なお、軽油を蒸留塔の中間段から抜き出し、塔底からは重油のみを抜き出すこともできる。
【0044】
第一の蒸留塔から得られる軽質分はコンプレッサーに送られて圧縮され、その後、複数の吸収塔、蒸留塔を経てガソリン、C4留分、C3留分、ドライガスに分離回収される。ここでいうC4留分とは、炭素数が4の炭化水素であるブタン、ブチレンを指す。また、C3留分とは、炭素数が3の炭化水素であるプロパン、プロピレンを指す。また、ドライガスとは、炭素数が2以下の炭化水素であるメタン、エタン、エチレン及びそれよりも分子量が小さい水素などのガスを指す。なお、蒸留塔の能力により、ガソリンにC4留分の一部が混ざったり、C3留分にC4留分の一部が混ざったりする場合もある。
【0045】
従来、FCCによるバイオマス処理においては、上述の生成物回収帯域における蒸留塔にバイオマス中のエステルに由来する含酸素化合物が入ることにより、蒸留塔の塔底部又はその周辺部分にコーキングやファウリングが激しく生じることとなる。これに対し、本発明のバイオマスの処理方法によれば、反応帯域において上述した条件下で反応生成物を得るとともに、生成物回収帯域に含まれる複数の蒸留塔の塔底部温度をそれぞれ380℃以下とすることにより、蒸留塔の塔底部又はその周辺部分におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制することが可能となる。ここで、上記の塔底部温度は370℃であることが好ましく、365℃以下であることがより好ましい。
【0046】
なお、ここでいう「コーキング」とは、液中の重質分が重縮合等により固形物化することであり、固形物化したものがバルブ、熱交換器、ポンプ等に付着すると、液流路の閉塞や伝熱効率の低下、機器の故障等を引き起こすこととなる。また、「ファウリング」とは、上述のような固形物が機器等に付着、堆積することを意味する。
【0047】
また、上記生成物回収帯域においては、蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、この塔底油をポンプ及び熱交換器を通して温度を下げ、温度を下げた塔底油の一部を蒸留塔に戻して塔底部の温度制御に用いるとともに、温度を下げた塔底油の他の一部を目的の生成物(製品)として回収することが好ましい。
【0048】
また、上記生成物回収帯域においては、蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、該塔底油を蒸留塔の塔底部温度を制御する熱交換器内に流す際の、塔底油の熱交換器内線速度を0.2m/秒以上とすることが好ましく、0.5m/秒以上とすることがより好ましい。
【0049】
また、上記生成物回収帯域において、蒸留塔の塔底部における塔底油の滞留時間を400秒以下とすることが好ましく、300秒以下とすることがより好ましい。なお、ここでいう「滞留時間」とは、塔底部の定常状態での液面レベルから塔底部に滞留している液量を算出し、これを塔底油の流量で除して得られる数値を意味する。
【0050】
また、上記生成物回収帯域において、蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、該塔底油をフィルター又はストレーナーにかけることが好ましい。これにより、コーキング物質及びファウリング物質を塔底油から取り除くことができ、流動接触分解装置の運転をより安定的に継続することが可能となる。
【0051】
以上説明した通り、本発明のバイオマスの処理方法によれば、流動接触分解装置において、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制し、バイオマスを効率的に処理することが可能となる。
【0052】
また、本発明のバイオマスの処理方法により得られる生成物は、バイオマスを原料としていることからエネルギーセキュリティーの観点並びに炭酸ガスの削減の観点で優れているため、各種燃料の基材や石油化学製品の原料として非常に有用である。
【0053】
例えば、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる水素は、燃料電池の燃料として用いることができる。
【0054】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる沸点25〜220℃の留分はガソリン基材として用いることができる。ここで、沸点25〜220℃の留分は、その一部をガソリン基材として用いてもよく、あるいは全部をガソリン基材として用いてもよい。また、沸点25〜220℃の留分を水素化処理し、得られる水素化物をガソリン基材として用いることもできる。
【0055】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる沸点170〜370℃の留分は、ディーゼル燃料基材として用いることができる。ここで、沸点170〜370℃の留分は、その一部をディーゼル燃料基材として用いてもよく、あるいは全部をディーゼル燃料機材として用いてもよい。
【0056】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られる炭素数3又は4の炭化水素は、液化石油ガス基材として用いることができる。
【0057】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるプロピレンは合成樹脂の構成モノマーとして用いることができる。かかる合成樹脂は、バイオマスを原料とするものであるため、燃焼廃棄したとき、環境規制上の二酸化炭素の排出量をゼロとカウントできるという利点を有する。
【0058】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるイソブチレンと、メタノール又はエタノールとを反応させて得られるエーテルは、ガソリン基材として用いることができる。
【0059】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるブチレンと、イソブタンとをアルキレーション装置を用いて反応させた反応物は、ガソリン基材として用いることができる。
【0060】
また、上記本発明のバイオマスの処理方法により得られるブチレンの二量化物は、ガソリン基材として用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
まず、原料油として、バイオマスである大豆油を準備した。この大豆油の脂肪酸組成は、パルミチン酸10〜12質量%、ステアリン酸2〜5質量%、オレイン酸20〜25質量%、リノール酸50〜57質量%、リノレン酸5〜9質量%であった。また、大豆油の平均分子量は880であった。この大豆油の一般性状を表1に示す。
【0063】
次に、以下のようにして触媒を調製した。まず、40質量%硫酸3370g中にJIS3号水硝子の希釈溶液(SiO濃度:11.6質量%)21550gを滴下し、pH3.0のシリカゾルを得た。得られたシリカゾル全量中に、超安定Y型ゼオライト3500g及びカオリン4000gを加えて混練し、250℃の熱風で噴霧乾燥した。こうして得られた噴霧乾燥品を、50℃、50リットルの0.2質量%硫酸アンモニウムで洗浄した後、110℃のオーブン中で乾燥し、次いで600℃で焼成することで触媒Aを得た。得られた触媒Aの物性及びそれに含まれるゼオライトの物性を表2に示す。
【0064】
次に、上記触媒Aをスチーミングにより擬似平衡化した。ここで、「擬似平衡化」とは、高温下で触媒Aとスチームとを所定時間接触させ、流動接触分解装置中の平衡触媒の劣化状態を再現させる手法のことである。本実施例においては、800℃で6時間、100%スチームで触媒Aをスチーミングした。また、「平衡触媒」とは、流動接触分解装置中に蓄えられ、一定期間反応と再生を繰り返した触媒のことであり、未使用のフレッシュな触媒よりも活性が低下したものを意味する。流動接触分解装置では、内部に蓄えられた触媒のうち一部を系外に抜き出し、その分、未使用のフレッシュな触媒を装置内に投入することにより、装置内の平衡触媒の活性が一定に保たれる。
【0065】
このような触媒Aの平衡触媒を備え、反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域、再生帯域及び生成物回収帯域を備える断熱型のライザータイプFCCパイロット装置(インベントリー:2kg、フィード量:1kg/h)を用いて、反応帯域の出口温度500℃、触媒/油比6wt/wt、反応圧力1kg/cmG、原料油と触媒Aとの接触時間2秒、再生塔温度720℃の条件下で原料油の処理を行った。これにより、反応生成物、未反応物及び触媒の混合物を得た。得られた反応生成物の収率を表3に示す。なお、表3中の数値は全て反応生成物の量を原料油に対する質量比で表わしたものである。
【0066】
次に、分離帯域において上記混合物から触媒を除去した後、反応生成物と未反応物の混合ガスを生成物回収帯域に送り、簡易蒸留塔の塔底部温度を340℃に調整して生成物の回収を行なった。
【0067】
以上の条件でFCCパイロット装置を10時間運転させた後、塔底油の抜き出し配管を取り出して内部を観察したところ、内部にコーキング及びファウリングの発生は確認されなかった。
【0068】
(比較例1)
生成物回収帯域における簡易蒸留塔の塔底部温度を400℃に調整した以外は実施例1と同様の条件で、FCCパイロット装置を10時間運転させた。その後、塔底油の抜き出し配管を取り出して内部を観察したところ、内部にコーク状の物質が付着しており、コーキングの発生が確認された。
【0069】
(比較例2)
一方、アラビアンライト原油を常圧蒸留装置、減圧蒸留装置を用いて処理し、減圧軽油を得た。この減圧軽油を更に水素化装置により処理することにより、硫黄濃度0.2質量%の水素化減圧軽油を得た。得られた水素化減圧軽油の性状を表1に示す。
【0070】
この水素化減圧軽油を原料油として用い、且つ、生成物回収帯域における簡易蒸留塔の塔底部温度を400℃に調整した以外は実施例1と同様の条件で、FCCパイロット装置を10時間運転させた。その後、塔底油の抜き出し配管を取り出して内部を観察したところ、内部にコーキング及びファウリングの発生は確認されなかった。また、得られた反応生成物の収率を表3に示す。
【0071】
【表1】



【0072】
【表2】



【0073】
【表3】



【0074】
以上より、本発明のバイオマスの処理方法(実施例1)によれば、流動接触分解装置を用いてバイオマスを処理した際に、生成物回収帯域におけるコーキング及びファウリングの発生を十分に抑制することができ、流動接触分解装置によりバイオマスを効率的に処理可能であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域、再生帯域及び生成物回収帯域を有する流動接触分解装置を用いて接触分解によりバイオマスを処理する方法であって、
前記反応帯域において、バイオマスを含む原料油を、超安定Y型ゼオライトを10〜50質量%含有する触媒を用いて、前記反応帯域の出口温度480〜540℃、触媒/油比4〜12wt/wt、反応圧力1〜3kg/cmG、前記原料油と前記触媒との接触時間1〜3秒の条件下で処理する第1の工程と、
前記生成物回収帯域において、前記第1の工程で得られる被処理油を、前記生成物回収帯域に含まれる蒸留塔の塔底部温度を380℃以下として分離回収する第2の工程と、
を含むことを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項2】
前記生成物回収帯域において、前記蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、ポンプ及び熱交換器を通して前記塔底油の温度を下げた後、該塔底油の一部を前記蒸留塔に戻すことにより前記塔底部の温度を制御するとともに、該塔底油の他の一部を回収することを特徴とする請求項1に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項3】
前記生成物回収帯域において、前記蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、該塔底油を前記蒸留塔の塔底部温度を制御する熱交換器内に流す際の、前記塔底油の熱交換器内線速度を0.2m/秒以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項4】
前記生成物回収帯域において、前記蒸留塔の塔底部における塔底油の滞留時間を400秒以下とすることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項5】
前記生成物回収帯域において、前記蒸留塔の塔底部から塔底油を抜き出し、該塔底油をフィルター又はストレーナーにかけることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られる水素を含有することを特徴とする燃料電池用燃料。
【請求項7】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られる沸点25〜220℃の留分の一部又は全部あるいはその水素化物を含有することを特徴とするガソリン。
【請求項8】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られる沸点170〜370℃の留分の一部又は全部を含有することを特徴とするディーゼル燃料。
【請求項9】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られる炭素数3又は4の炭化水素を含有することを特徴とする液化石油ガス。
【請求項10】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られるプロピレンを構成モノマーとして含有することを特徴とする合成樹脂。
【請求項11】
前記合成樹脂を燃焼廃棄したとき、環境規制上の二酸化炭素の排出量をゼロとカウントできることを特徴とする、請求項10に記載の合成樹脂。
【請求項12】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られるイソブチレンと、メタノール又はエタノールとを反応させて得られるエーテルを含有することを特徴とするガソリン。
【請求項13】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られるブチレンと、イソブタンとをアルキレーション装置を用いて反応させた反応物を含有することを特徴とするガソリン。
【請求項14】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法により得られるブチレンの二量化物を含有することを特徴とするガソリン。


【公開番号】特開2007−153925(P2007−153925A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346870(P2005−346870)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】