説明

流路デバイス、及び該流路デバイスを用いた液体の搬送方法

【課題】 液体の導入が容易であり、且つ導入した際に流路内に気泡を巻き込んでしまうことを避けられる、流路デバイスを提供する。
【解決手段】 本発明に係る流路デバイスは、鉛直方向と異なる方向に流体を流すための流路と、鉛直方向に開口する供給口を有し、前記流路に液体を導入するための導入空間と、前記流路と前記導入空間とを連絡し、且つ表面張力により気液界面を形成可能な緩衝空間と、を有し、該気液界面の方向が鉛直方向と異なる方向であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体、試薬などの流体を搬送する流路デバイスに関する。本発明の流路デバイスは、遺伝子検査やタンパク質検査などの医療検査に用いられる医療検査素子として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
化学反応を主たる分析機序として用いる医療検査素子の開発が行われている。従来の検体検査には、化学分析や試薬調合、化学合成、反応検出のために、ml(ミリリットル)からμl(マイクロリットル)レベルの試薬が必要とされていた。このような試験管レベルでの検査に対して、リソプロセス技術や厚膜プロセス技術を応用して微細な反応場を形成することで、nlレベルでの検査が可能となってきている。μ−TAS(Micro Total Analysis system)技術とは、このような微細な反応場を利用して、医療検査・診断に用いられる、遺伝子検査、染色体検査、細胞検査などの領域や、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、農作物等の飼育環境の調査、農作物の遺伝子検査などに応用する技術である。これまでの検査は、主として検査技師の手技により試薬を扱っていたが、工程は複雑であり、機器の熟練操作が必要とされていた。μ−TAS技術は、自動化、高速化、高精度化、低コスト、迅速性、環境インパクトの低減など、大きな効果を得られる手段として注目されている。
【0003】
このような高度な医療検査システムが一般的に用いられるようになると、その医療検査システムで利用するための医療検査素子へ、微量な試薬を導入することが必要となる。
【0004】
上記のような医療検査素子に限らず微細構造を持つデバイスには、構造中で試薬をハンドリングするための微細な流路が載置されているが、これまでの検査で用いられる試薬量とは、オーダーが異なる。このために、そのような流路に対して試薬を導入することは非常に困難であった。
【0005】
特許文献1に記載されるように、平板状に構成される流体デバイスは、鉛直方向に開口する供給口を有する導入空間と、平面方向に伸長する微細な流路を有している。平面性を活用して流路を構成しつつ、ピペットなどによる導入の容易性と、導入された液体の保持を容易にするために、開口の方向と、流路の伸長する方向が90度異なる構成となっている。そして、ピペット等の液体供給手段からの液体を受容し、保持するためには、流路よりも大きな導入空間が必要となる。このため、流路端部と導入空間との連結部分が急激な断面積の差を有してしまう。
【0006】
この部分は、特に液体の追加や、交換時において気泡が発生しやすく、これが流路デバイスにおいて様々な問題を生じさせていた。
【0007】
特に、液体の混合時に小泡(小さい気体の泡)が発生しやすく、これを巻き込んで流路内に流路内に導入してしまう現象、すなわち泡を噛む可能性が高かった。
【0008】
流路中に泡をかんだまま流路に流してしまうと、例えば加熱をする系では、泡が膨張し流路を詰まらせてしまう場合がある。また、流体と気体の弾性の違いにより、圧力印加に際して意図するような液送ができなくなってしまう。
【0009】
上記の課題は、試薬の追加、または試薬を切り替える際には大きな問題となる。特に、微細な流路中で反応を行うためには、試薬を混合し、または試薬を分離するといった複雑な操作を行うことが求められる。このためには、異なった試薬を順次流路中に導入することが必要となる。この時、導入部に先の試薬が残っていると、次の試薬と混濁し、検査試薬のコンタミネーションが起きる。この影響を排除するために、先の試薬の残留量を少なくしつつ、次の試薬を十分量を導入することが考えられるが、この場合上述した泡をかむという現象が最も発生しやすくなる。流路自体が保持する容積は小さく、流路内に形成される界面は移動しやすいため、連結部で形成された界面はわずかな影響で流路側に移動しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−65584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、液体の導入が容易であり、且つ導入した際に流路内に気泡を巻き込んでしまうことを避けられる、流路デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る流路デバイスは鉛直方向と交差する方向に流体を流すための流路と、上面に開口する供給口を有し、前記流路の端部と連通する導入空間と、前記流路の端部と前記導入空間とに両端で連結し、且つ表面張力により該流路断面よりも大きな気液界面を形成可能な連結空間と、を有し、該気液界面の方向が鉛直方向と交差する方向であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導入空間と流路とを連結する連結空間において、鉛直方向と異なる方向に界面を形成可能な構成としたことで、製造が容易且つ液体導入時に流路内に気泡を巻き込んでしまう可能性を低下させることのできる流路デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の流路デバイスを示す断面図(a)であり、(b)は液体が流路および連結空間に保持された状態を示す。
【図2】本発明の作用を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る流路デバイスの側断面図(a)および上面図(b)である。
【図4】第1の実施形態に係る流路デバイスにおいて、第一の液体が導入されたときの側断面図(a)および上面図(b)である。
【図5】第2の他の実施形態に係る流路デバイスの側断面図(a)および上面図(b)である。
【図6】本発明の連結空間の他の形態を示す図である。
【図7】本発明に係る液体搬送装置の構成を示す図である。
【図8】本発明に係る液体搬送方法のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を図面を用いて詳細に説明する。
本発明は、図1(a)に示すように、鉛直方向と交差する方向に流体を流すための流路4と、上面に開口する供給口1を有し、前記流路の端部と連通する導入空間2と、流路の端部と導入空間とを連結する連結空間3と、を有する。
【0016】
連結空間3は、図1(b)のように液体が流路に存在すると、表面張力により流路断面よりも大きな気液界面を形成可能であり、気液界面の方向が鉛直方向と交差する方向であるように構成されている。ここで、図1(b)の8は、気液界面(メニスカス)を模式的に図示している。
【0017】
気液界面(メニスカス)は、液体の表面張力により形成される曲面である。本発明においては、図1(b)に示すように、気液界面の面を、気体、液体、壁面の3者の境界を全て含む面とし、この面の垂線方向を気液界面の方向とする。
【0018】
連結空間での気液界面は、導入空間に液体が充填されていないときに生じる。すなわち、連結空間は、液体の表面張力によって界面を形成し、液体を保持しやすい構造となっている。
【0019】
これにより、試薬の切り替えの際には、連結空間に残留する微量な試薬と、導入空間に導入される対象試薬との混合とすることができる。さらには、流路の断面よりも大きい気液界面と、導入される液体とを混合させることができるので、泡をかむことが実質的になくなる。すなわち、泡をかませることなく、効率的に試薬の切り替えを行うことができる液体搬送を実現できる。
【0020】
この作用について、図2を用いて詳細に説明する。図2において、(i)が連結空間のない従来の流路デバイスを示しており、(ii)が本発明の連結空間がある場合の液体導入について示している。(i)に示すように、導入空間と流路が直接連結している場合、導入空間に液体が存在しなくなった場合、流路の端部に気液界面が形成される(a)。この状態で、例えば流路の中心部で液体が冷却されるなどによって液体の収縮が生じると、流路側へ界面が移動する(b)。界面が移動した状態で、追加や交換の液体を導入空間に導入すると、流路の端部の気体を巻き込み、この連結部分で気泡を発生する可能性が非常に高くなる(c)。すなわち、この状態のまま流路の奥に液体が流れると、泡を噛んだまま液体が流れるという現象が発生してしまう。
【0021】
これに対して本発明は、(ii)のように連結空間を設けることにより、導入空間に液体が存在しなくなった場合にも、3の連結空間に液体を保持し、流路断面よりも大きな気液界面を形成する(a)。この連結空間は、液体移動の緩衝作用を有しており、流路内の液体移動に比べて界面の移動をわずかにする作用を持っている(b)。すなわち、流路断面をdとして、流路内での界面の移動距離をmとした場合、すなわちd×mの容積分の液体の移動があった場合、連結空間の断面積をsとすると、移動距離Rは、(d×m)÷sとなり、移動距離はmよりも小さなものとなる。
【0022】
この状態で追加や交換の液体を導入空間に導入された場合、流路端部よりも閉塞性の低い連結空間において、より大きな気液界面と接触できるので、(i)の(c)に比べ泡を噛みにくくなる。
【0023】
また、上記構成は構造的に、屈曲させる流路などを設ける必要がないため製造プロセスを容易とする。
【0024】
鉛直方向と交差する方向に気液界面を形成するためには、気液界面が形成される壁面において、気体、液体、壁面との3つの界面同士の張力が釣り合うように構成する必要がある。3者が釣り合う条件は、壁面の撥水性、連結空間の断面の大きさ、連結空間の壁面の傾斜角度、などによって適宜調整することができる。壁面の撥水性が高いほど、連結空間の断面が小さいほど、形成される表面張力は大きくなるので、界面が形成されやすくなる。
【0025】
図1に示すように、本発明においては、流路の伸長する方向と、連結空間が形成する気液界面の方向が、一致していると良い。これにより流路端部に複雑な構造を作成する必要がなくなるからである。
【0026】
また、流路デバイスは、平板形状であり、流路は、平板の平面方向に伸びていると、製造プロセスが簡略になり好ましい。
【0027】
上面に開口する供給口は、鉛直方向に開口していると液体の導入が容易であるが、これに限らない。
【0028】
また、導入空間、連結空間、流路の底面を揃えること、さらには同一の平面基板として構成することにより、簡便な製造プロセスを適用可能であり、好ましい。
【0029】
また、導入空間が、円柱状形状の導入孔であり、導入孔の底部で連結空間と連結しており、底部の寸法が導入孔よりも大きいことで円環状の連結空間を形成すると、構成が簡便であり好ましい。
【0030】
また、本発明に係る液体搬送方法は、流体を流すための流路と、供給口を有し、流路に連通する導入空間と、を有するデバイスにおける液体搬送方法であって、流路と導入空間との間に設けた連結空間に、液体の表面張力によって界面を形成させることを特徴とする。
流路中に圧力を発生させて液体を移動させる方式が好ましい。
【0031】
また、導入空間の底面が露出したことを検出し、流路中に発生させた圧力を停止するとよい。
【0032】
また、本発明の流路デバイスを使用する液体搬送装置としては、流路デバイスの流路中に圧力を発生させる手段と、流路デバイスの前記導入空間の底面が露出したことを検出する手段と、を有すると良い。底面が露出したことを検出する手段としては、光照射による液体検出手段や、底面の電気抵抗を検出する手段などにより、液体の存在有無を検出する手段が挙げられる。
【0033】
本発明の流体デバイスは、医療検査素子に好適に用いられる。ここで医療検査素子とは、μ−TASに代表されるが、例えばDNAチップ、Lab on a Chip、マイクロアレイ、プロテインチップなど、医療検査・診断などに使用されるものを総称して使用する。遺伝子検査、染色体検査、細胞検査などの領域や、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、農作物等の飼育環境の調査、農作物の遺伝子検査などにも適用できるものである。本発明に係る流体デバイスは、流路を含む微細構造が基板上に形成されているものが好ましい。
以下に、実施形態を用いて本発明を詳細に説明する。
【0034】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を説明する。
図3に、本実施形態の流路デバイスを示す。図3(a)は流路デバイスの側断面図であり、(b)は上面図である。流路を形成する基材7としては、ガラス材料やプラスチック材料の平板状の部材を用いている。流路デバイスとしては、一体成型されたものであってもよいし、流路の溝を形成した2枚以上の基板を貼り合わせて構成してもよい。
【0035】
本発明の流路デバイスは、基板7に、流体を流すための流路4が形成されている。流路4は、液体、気体、あるいはゲル状物質などの半固体を流すための空間が形成されている。流路の中央部6は、反応領域として使用され、PCRを行うためのヒーターなどの加熱部や、光照射または検出するための透光部、などの反応、検出手段を配置して構成されている。
【0036】
流路4の一端には、鉛直方向に開口する供給口1を有する導入空間2と排出孔5が接続されており、他端には排出孔5が接続されている。排出孔5からポンプやシリンジ(いずれも不図示)を使用して流路中に負圧を発生させ、導入空間2に注入した試薬および検体を吸引できる構成となっている。
【0037】
導入孔としての導入空間2に、流路を満たすに充分な第一の液体を注入し、排出孔5から、第一の液体を吸引する。流路が、第一の液体で充填された後、引き続き排出孔5から第一の液体の吸引を続ける。
【0038】
導入空間2の底部には、導入孔の内径よりもわずかに大きな内径を持つような段形状の、連結空間3が導入底部帯として形成されている。
導入空間2に収容される第一の液体の容量が少なくなると、図4に示すように試薬の表面張力により、導入空間の周辺下部にはりつくように第一の液体が周辺部に移動する。同時に、連結空間3には、表面張力を利用して、鉛直方向と交差する方向に張った気液界面が形成される。
【0039】
導入空間2の底面が露出するほどに第一の液体の量が少なくなっても、試薬導入孔の下部の周囲には、連結空間3の作用により、第一の液体が保持され残っている。
【0040】
微細な流路が有する毛管力によって、残った液体は流路に引き寄せられる。しかし、連結空間に保持された第一の液体には、表面張力が作用し、流路内の液体と連続した状態で、連結空間3に安定して保持される。
【0041】
連結空間3の第一の液体の残量は導入空間2よりも少量であるために、導入空間2の底面が露出した状態で、ここに第二の液体を注入すると、連結空間3の第一の液体の微小な残量と、第二の液体とが混合する。
【0042】
注入された第二の液体は、導入空間2の第一の液体と、表面張力の働きで一体化する。大きな気液界面であるため、液体同士の接触確率は高く、泡などが発生しても、第二の液体を介して、導入空間2の上部から供給口に向かって泡が移動し、脱気される。
【0043】
第二の液体を導入した後に、再び流路中に負圧を発生させ、試薬を吸引する。このような手順により、第一の液体と、第二の液体とを切り替えることが可能になる。
【0044】
第二の液体が投入された時に、導入空間2に残っている第一の液体の量は、連結空間3に残ったものだけであり、導入空間2との体積比により、混濁の割合をコントロールできる。また、連結空間3、すなわち導入空間2の周辺部に形成された微小な溝構造により、表面張力を利用して第一の液体が残留するために、流路の中には、泡が入ることがなく、第二の液体へ送液を切り替えることができる。
【0045】
本実施形態は、流路の中に試薬を導入し、中央部6の試薬を連続的に加熱することで、試薬中の蛍光量が変化するという反応を利用した医療検査に好適に利用できる。試薬を連続的に加熱する手段としては、試薬の導入された流路に、保護膜を介して発熱するヒーター金属を直接的に接することで、迅速で安定した加熱が可能になる。同時に、発熱するヒーターに白金を用いて、その抵抗値を測定することで、物理常数から発熱体の温度を検出する。これにより、測定した蛍光量は、試薬の温度が何度の時に発光したものかを知ることができる。このような医療検査素子に、次々と異なる試薬を導入することで、異なった検査を行うことが可能になる。
【0046】
本実施形態で記述する本旨は、流路開口端部に、第一の液体が微小に残量することで、泡をかむことがなく、試薬導入孔に充填された試薬のほぼ全量を流路に引き込むことが可能となる。同時に、流路開口端部の第一の液体の残量が、試薬導入孔に充填された第二の液体に比べて充分に小さいことで、第一の液体と第二の液体との混濁の割合を低下させることができ、試薬の混濁量をコントロールすることができる。ある一定値以下の混濁量であれば、第二の液体の反応に影響がないことが予めわかっていれば、その混濁量以下になるように、導入底部帯の容積及び流路開口端部の容積を設計することが可能となり、所望の混濁量以下での第一の液体と第二の液体との切り替えが可能となる。
【0047】
本形態における第一の液体、および第二の液体は、試薬や検体、あるいは緩衝液のような反応に使用しないものであってもよく、同じ液体であっても、または互いに異なる液体であっても良い。
【0048】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、図3に示すように、導入空間2の底面を同心円状に広げることで連結空間3を形成し、この作用により、微小な空間が形成されることで、微量な試薬を保持することが可能となった。
【0049】
本実施形態では、連結空間3を同心円状にせず、流路の開口端部のみに存在させた構成である。本実施形態では、泡をかませることなく、次の試薬へ切り替えるという目的を達成することが可能であり、かつ、第一の液体の混濁の割合をより小さくすることが可能となる。
【0050】
この目的の為に、図5に示すように、試薬導入孔の内径と、導入底部帯の内径とが、同心円状ではなく、中心が偏心して底部帯を形成する。この時には、全周状の底部帯よりも、溝構造を形成する底部帯の体積は小さくなるために、第一の液体がより少量となり、混濁の割合を小さくすることが可能となる。
【0051】
(第3の実施形態)
本実施形態では、医療検査素子として用いた場合の、好適な実施の形態について、説明する。
第1の実施形態と同様に、本実施形態でも図3に示す流路デバイスを用い、流路4の中に試薬を導入する。
【0052】
中央部6において、流路中の試薬を連続的に加熱することで、試薬中の蛍光量が変化するという反応を利用する。
【0053】
まず、実施形態1と同様に、排出孔5からポンプやシリンジ(不図示)を使用して流路中に負圧を発生させ、圧力を制御しながら導入空間2に注入した試薬および検体を中央部6に移動させる。
【0054】
この際、染料や蛍光色素を導入して、試薬を可視化し、流路中の試薬の状態をモニタしながら圧力を制御しても良い。この結果、所望の量の試薬を吸引して、試薬を所望の位置に引き込む。
【0055】
次に、中央部6に設けられたヒーターによって、試薬を加熱または冷却し、反応を生じさせる。
加熱または冷却を用いた反応としては、PCR反応や熱融解反応、またはハイブリダイゼーション反応、酵素反応などが挙げられる。
そして、反応の結果を、検出手段によって、検出する。
【0056】
検出は、光または電気的な検出を行う検出手段を設け、反応を検出する。光検出の場合は、蛍光検出や化学発光検出が採用でき、インターカレータ試薬などの反応の結果蛍光輝度が変化する試薬を用いることができる。
【0057】
第一の液体および第二の液体を順次流路に投入することで、流路内で異なる位置に複数の試薬が配置される。これらの位置関係をモニターしながら流路内を流すことで、複数の試薬の反応を同時に観察することができる。
【0058】
試薬の状態をモニタでき、またモニタされた試薬の振る舞いに対して、ポンプの制御をフィードバックする構成が好ましい。これにより、希望する試薬の量や位置を得ることできる。
【0059】
本発明の流路デバイスを用いることで、試薬を導入する際に、試薬の混濁がなく、かつ、微細な流路中に泡をかませることなく、試薬を導入することができるので、上記の検出反応に好適に利用することができる。
【0060】
(その他の実施形態)
実施形態1や実施形態2では、導入空間2が円状の例を示したが、導入空間2は必ずしも円状である必要はない。また、連結空間3も円状である必要はない。さらには、連結空間を形成するためには、導入孔と形状が合っている必要もない。
【0061】
上記実施形態は、鉛直方向に開口する供給口を有しているが、導入空間の上面に開口が存在していれば、鉛直方向でなくてもよい。すなわち、水平面に対して斜めに傾斜した面に開口した供給口であっても良い。
【0062】
また、連結空間が形成する気液界面の方向が鉛直方向と交差する方向であるように構成していれば良く、必ずしも水平方向である必要はない。水平面にN度の傾きを有する、傾斜した液面を形成するように構成してもよい。傾斜N度は、例えば30度から90度(水平方向)の範囲で適宜設定すれば良い。
【0063】
また、図6(a)〜(c)に示すように、連結空間3は、連結する方向に対して断面形状が変化する構成でもよい。いわゆるテーパ形状であって、図6(a)は、直線状に傾きを有しており、(b)は下に凸状、および(c)は上に凸状の曲線状に変化するものである。これらは、発生した気泡が開口側に上昇するように、導入空間側の壁面が高くなるように設定されていると、より気泡の残留を回避することができるようになる。
【0064】
(流体デバイスを用いる装置構成)
以下に、上記実施形態の流路デバイスを用いる装置と、液体の搬送方法の詳細を説明する。
図7は、本発明に係る液体搬送装置の構成を示す図である。
液体搬送装置14は、流路デバイスの流路中に正または負の圧力を発生させる圧力手段12と、流路デバイスの導入空間の底面が露出したことを検出する液検出手段13と、を有する。圧力手段12は、シリンジポンプなどのポンプ手段であり、流路デバイス12の排出孔に接続して流路中に圧力を発生させる。液検出手段としては、底面の反射を検出する光学手段あるいは抵抗体などの電気的手段により、液体の存在有無を検出する手段が利用できる。
また、9はピペットなどの液体導入手段であり、15は、流体デバイスを示す。
【0065】
10と11は、反応検出手段であり、レーザーなどの光照射手段10と、CCDなどの光検出手段11である。15を載置する載置部(不図示)や、流路デバイスに設けられたヒーター部材などに電気的に接続する電源16などが設けられている。また、これらを制御する制御部(コンピュータ)を装置内に備えても良い。
【0066】
図8は、上記装置を用いた液体搬送方法のフローチャート図である。
まず、流体を流すための流路と、供給口を有し、前記流路に連通する導入空間と、を有するデバイス15を用意する。
次に、流路デバイスを装置14の載置部にセットする。次に流路デバイスの導入空間に液体導入手段9により第一の液体を導入する。
【0067】
その後、圧力発生手段により流路中に圧力差を印加し、導入空間に保持された第一の液体が連結空間を介して流路に導入する。
導入空間に保持された第一の液体を流路に導入し続けた結果、導入空間に実質的に残液がなくなった時、連結空間に、第一の液体の表面張力によって鉛直方向と交差する方向の面を有する気液界面が形成される。さらに流路への導入を続けると、連結空間内に第一の液体が存在しなくなり、気液界面が消滅する。
【0068】
しかし、液検出手段13によって導入空間の底面が露出したことを検出し、流路中に発生させた圧力を停止することで、気液界面が消滅する前に、すなわち連結空間において気液界面が存在する状態を検出することが可能となる。
液体の交換、追加など導入空間に第二の液体を導入する場合は、連結空間において気液界面が存在する状態で第二の液体を導入空間に導入する。
【0069】
続いて、再び圧力発生手段により流路中に圧力差を印加し、導入空間に保持された第二の液体を流路に導入する。
電源16より流路デバイスのヒーター部材に電力を供給し、導入された流路内の液体の温度制御を行う。温度制御には、例えば、PCRのための温度サイクル印加や、熱融解測定のための昇温などを含む。
【0070】
温度制御とともにあるいはその後に、流路内の反応を反応検出手段によって検出を行う。検出の結果、反応の有無または量を判定し、流路内での反応を分析することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 供給口
2 導入空間
3 連結空間
4 流路
5 排出孔
6 中央部
7 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向と交差する方向に流体を流すための流路と、
上面に開口する供給口を有し、前記流路の端部と連通する導入空間と、
前記流路の端部と前記導入空間とに両端で連結し、且つ表面張力により該流路断面よりも大きな気液界面を形成可能な連結空間と、
を有し、
該気液界面の方向が鉛直方向と交差する方向である
ことを特徴とする流路デバイス。
【請求項2】
前流路の伸長する方向と、前記連結空間が形成する気液界面の方向が、一致している請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記流路デバイスは、平板形状であり、
前記流路は、該平板の平面方向に伸びている請求項1または2に記載の流路デバイス。
【請求項4】
前記導入空間が、円柱状形状の導入孔であり、
該導入孔の底部で前記連結空間と連結しており、
該底部の寸法が該導入孔よりも大きいことで円環状の連結空間を形成する請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項5】
流体を流すための流路と、供給口を有し、前記流路に連通する導入空間と、を有するデバイスにおける液体搬送方法であって、
前記流路と前記導入空間との間に設けた連結空間に、液体の表面張力によって鉛直方向と交差する方向の面を有する気液界面を形成させる
ことを特徴とする液体搬送方法。
【請求項6】
前記流路中に正または負の圧力を発生させて液体を移動させる請求項5に記載の液体搬送方法。
【請求項7】
前記導入空間の底面が露出したことを検出し、前記流路中に発生させた圧力を停止する請求項6に記載の液体搬送方法。
【請求項8】
請求項1から4に記載の流路デバイスの流路中に正または負の圧力を発生させる圧力手段と、
該流路デバイスの前記導入空間の底面が露出したことを検出する液検出手段と、
を有する液体搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−168115(P2012−168115A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31039(P2011−31039)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】