説明

流路ブロック、センサユニット、及び全反射減衰を利用した測定装置

【課題】 センサユニットのハイスループット化を妨げることなく、非特異吸着の影響を抑える。
【解決手段】 流路部材12には、2つの流路20、21が形成されている。各流路20、21は、流路部材12の底面に形成された直線状の溝部20c、21cと、これらの各溝部20c、21cの両端から上方に貫通して各溝部20c、21cへの出入口を形成する送排液管20d、20e、及び21d、21eとによって、略コの字型に形成されている。各溝部20c、21cは、本体12aの長手方向に沿うとともに、この長手方向に一部を重ねている。これにより、各流路20、21を高密度に配置することが可能になり、流路を分けて測定信号と参照信号とを取得するようにした際にも、センサユニットの大型化を招くことなく、ハイスループット化の妨げになることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の反応を検出するためのセンサ面に前記試料を含む試料溶液を送液する複数の流路が形成された流路ブロックと、この流路ブロックを用いたセンサユニット、及びこのセンサユニットを用いて前記試料の反応を測定する全反射減衰を利用した測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。また、この減衰が発生する光の入射角度(共鳴角)は、金属膜上の屈折率に応じて変化する。すなわち、SPR測定装置は、金属膜からの反射光を捉えて共鳴角を検出することにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
ところで、タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純水、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられている。また、センサ面にはリガンドとなる試料を固定させるためのリンカー膜が設けられており、流路にリガンド溶液を注入してリンカー膜にリガンドを固定(固定工程)させた後、アナライト溶液を注入してリガンドとアナライトとを接触(測定工程)させることにより、その相互作用を測定する。
【0007】
流路とプリズムは、装置本体に設けられた測定ステージに配置されている。前述の測定は、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージにセットすることで行われる。流路には、配管(ゴムチューブなどを含む)やバルブなどを介してポンプが接続されており、このポンプによって容器に保管された試料溶液を流路内に送り込むようにしているが、この方法では、配管内に付着した試料が後に注入する試料溶液中に混入してしまう、いわゆるコンタミネーションが生じやすいという問題があった。
【0008】
この問題を解決するため、本出願人は、先端に小孔が形成された略円錐筒状のピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部とからなるピペットを用いて、容器に保管された試料溶液などの液体を流路に送液するSPR測定装置を提案している(例えば、特願2004−288534号明細書参照)。このSPR測定装置では、送液する液体毎にピペットチップを交換することで、流路に液体を送り込む際に生じるコンタミネーションを防止することができる。
【0009】
また、このSPR測定装置では、流路が形成された流路部材と、上面に金属膜が形成されたプリズムと、流路部材の底面とプリズムの上面とを接合させた状態(流路と金属膜とを対面させた状態)で保持する保持部材とからなるセンサユニットを用いている。このセンサユニットの金属膜上にも、前述と同様のリンカー膜が設けられており、リガンド溶液やアナライト溶液などの試料溶液をピペットで流路内に送り込むことによって測定が行われる。
【0010】
リンカー膜には、リガンドとの結合基を有する測定領域と、結合基を失活させた参照領域とが形成されている。上述のSPR測定装置は、光源から測定領域と参照領域とに光を照射し、それぞれの領域からの反射光を検出器で光電変換して測定信号と参照信号とを取得している。こうして得られた2つの信号の差や比を求めて解析することにより、センサユニットの個体差や液体の温度変化などの外乱に起因するノイズをキャンセルした精度の高い測定結果を得ることができる。また、タンパク質やDNAなどの生体試料では、目的としない物質がリンカー膜上に結合してしまう、いわゆる非特異吸着が問題になるが、前述の解析を行うことによって、こうした非特異吸着の影響をも抑えることができる。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、結合基を有する測定領域と、結合基を失活させた参照領域とでは、表面の性質が異なるため非特異吸着の量にも差が生じてしまうことがあった。このように、測定領域と参照領域との間に生じた差は、解析を行ったとしても除去することはできない。
【0012】
また、測定領域と参照領域とを別々に形成し、それぞれ個別の流路で送液するようにすると、測定領域にのみリガンド溶液を送液できるようになる。これにより、参照領域の結合基を失活させることなく、各領域の表面の性質を合わせて非特異吸着の量に差が生じることを抑えることができるが、単に流路を分けると、センサユニットの大型化を招いてしまう。生体試料を扱うSPR測定装置では、測定精度の向上とともに、一度にたくさんの試料を測定する、いわゆるハイスループット化が大きな課題の1つであり、センサユニットの大型化は、このハイスループット化の妨げとなってしまう。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ハイスループット化を妨げることなく、非特異吸着の影響を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するため、本発明の流路ブロックの第1の態様は、試料の反応を検出するためのセンサ面に前記試料を含む試料溶液を送液する複数の流路が形成され、底面が前記センサ面と当接して配置される略直方体状の本体を持ち、前記底面に形成され前記試料溶液を前記センサ面に接触させながら流す溝部と、この溝部の両端に前記本体の上面に形成された1対の出入口とを有する前記各流路を、隣接する前記流路を流れ方向に対して並列的に配置するとともに、前記本体の長手方向に前記溝部の一部のみを重ねた少なくとも1組の流路セットを含ませたことを特徴とする。
【0015】
なお、前記第1の態様に掛かる第2の態様としては、前記流路セットに含まれる前記各流路を、前記溝部の両端を結ぶ直線が前記長手方向と略平行になるように並べるとともに、前記溝部を略直線状に形成することが好ましい。
【0016】
また、前記第1の態様に掛かる第3の態様としては、前記流路セットに含まれる前記各流路を、前記長手方向と略平行な基準直線を横切るように並べることが好ましい。
【0017】
さらに、前記第3の態様に掛かる第4の態様としては、前記基準直線を前記本体の前記長手方向の中心線とし、前記流路セットに含まれる前記各流路を、前記溝部の両端を結ぶ直線が前記基準直線を斜めに横切るとともに、その交点から前記各出入口までの距離が等しくなるように配置することが好ましい。
【0018】
なお、前記第4の態様に掛かる第5の態様としては、前記溝部が、直線状に形成されていることが好ましい。
【0019】
また、前記第4の態様に掛かる第6の態様としては、前記溝部が、クランク状に屈曲して形成されていることが好ましい。
【0020】
さらに、前記第3の態様に掛かる第7の態様としては、前記流路セットに含まれる前記各流路が、前記溝部の両端を結ぶ直線が前記基準直線と平行であることが好ましい。
【0021】
なお、前記第7の態様に掛かる第8の態様としては、前記流路セットを、前記溝部が前記基準直線に向かって略くの字状に屈曲して形成されるとともに、前記基準直線を挟んで互いに対向する2つの前記流路から構成することが好ましい。
【0022】
また、前記第7の態様に掛かる第9の態様としては、前記流路セットを、前記溝部が略S字状に屈曲して形成されるとともに、前記基準直線を挟んで互いに対向し、かつ点対称に配置された2つの前記流路から構成することが好ましい。
【0023】
また、前記第1から第9のいずれか1つの態様に掛かる第10の態様としては、前記センサ面と前記底面との当接状態を維持するために、前記センサ面が形成された部材を保持する保持部を前記本体と一体に設けたことが好ましい。
【0024】
さらに、前記第1から第10のいずれか1つの態様に掛かる第11の態様としては、前記本体のうち少なくとも前記溝部の周縁を構成する弾性のある軟質部材と、それ以外の部分を構成する前記軟質部材よりも硬い硬質部材とを二色成形法によって一体成形することが好ましい。
【0025】
なお、本発明のセンサユニットは、全反射条件を満たすように光が照射された際に、その反射光の光強度を減衰させる薄膜層が設けられた誘電体ブロックと、この誘電体ブロックに当接して、前記誘電体ブロックと対向する対向面に設けられた溝部で前記薄膜層を覆うことにより、試料溶液を前記薄膜層に送液する流路部材とを備え、前記流路部材として、上記流路ブロックを用いたことを特徴とする。
【0026】
この際、前記流路セットに含まれる前記流路の少なくとも1つを前記反応状況を表す測定信号を取得するために使用し、残りのうちの少なくとも1つを前記測定信号の解析に用いられる参照信号を取得するために使用することが好ましい。
【0027】
また、本発明の全反射減衰を利用した測定装置は、上記センサユニットが着脱自在に取り付けられるステージと、前記薄膜層に全反射条件を満たすように光を照射する光源と、前記薄膜層からの前記反射光を受光して電気信号に光電変換する検出器とを有することを特徴とする。
【0028】
さらに、前記光源は、前記薄膜層に対して少なくとも2本の光を照射し、これらの各光を前記薄膜層と対向して配置される前記流路の前記各出入口のうち、前記試料溶液の注入が行われる一方から等距離の位置に照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、流路ブロックに含まれる複数の流路を、流れ方向に対して並列的に配置するとともに、本体の長手方向に溝部の一部のみを重ねるように配置したので、流路ブロック内に各流路を高密度に配置することが可能になる。これにより、測定領域と参照領域とで流路を個別に分けたとしてもセンサユニットの大型化を招く心配が無いので、ハイスループット化を妨げることなく、非特異吸着の影響を抑えることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、SPRを利用した測定に用いられるセンサユニット10の分解斜視図である。センサユニット10は、2つの流路20、21が形成された3つの流路部材(流路ブロック)12と、上面に金属膜(薄膜層)25が形成されたプリズム(誘電体ブロック)14と、流路部材12の底面とプリズム14の上面とを接合させた状態で保持する保持部材16とからなる。
【0031】
流路20は、流路部材12の上面に2つの出入口20a、20bを有しており、流路部材12の底面に形成された直線状の溝部20cと、この溝部20cの一端から流路部材12の上面に貫通して出入口20aを形成する送排液管20dと、溝部20cの他端から流路部材12の上面に貫通して出入口20bを形成する送排液管20eとによって、略コの字型に成形されている。なお、他方の流路21の構成は、流路20と同じであるから、詳細な説明は省略する。
【0032】
流路部材12は、略直方体状に成形された本体12aを有している。2つの流路20、21は、各溝部20c、21cが、本体12aの長手方向に沿うとともに、この長手方向に各溝部20c、21cの一部を重ねている。なお、各流路20、21の管径は、例えば、1mm程度であり、各出入口20a、20b、及び21a、21bの間隔は、例えば、10mm程度である。
【0033】
各流路20、21の溝部20c、21cは、流路部材12がプリズム14に当接した際に、金属膜25によって覆われて密閉される。これにより、各流路20、21は、一方の出入口から注入された液体を、各溝部20c、21cで金属膜25に接触させながら流し、他方の出入口から排出させる。また、本体12aには、例えば、ゴムやPDMS(ポリジメチルシロキサン)などといった弾性材料が用いられている。これにより、本体12aの底面をプリズム14の上面に圧接させた際に、本体12aが弾性変形して金属膜25との接合面の隙間を埋めるので、金属膜25との密着性を高めることができる。なお、本例では、流路部材12の数が3つの例で説明したが、これらの数は、3つに限らず、2つ以下でもよいし、4つ以上でもよい。また、流路部材を分けることなく、例えば、長尺状に成形された1つの流路部材に、各流路20、21を並べて形成するようにしてもよい。すなわち、流路部材12に設けられた各流路20、21が、請求項記載の流路セットに相当している。
【0034】
プリズム14は、その上面に金属膜25が形成された透明な誘電体であり、底面側から全反射条件を満たすように照射された光を上面(金属膜25)に集光する。金属膜25は、各流路部材12に形成された2つの流路20、21と対面するように、例えば、蒸着法などによって短冊状に成形されている。この金属膜25としては、例えば、金や銀などが使用され、その膜厚は、例えば、50nmである。なお、この膜厚は、金属膜25の素材、プリズム14に照射される光の波長などに応じて適宜選択される。
【0035】
また、金属膜25の上面には、各流路部材12のそれぞれに対応した3つのリンカー膜26が設けられている。リンカー膜26は、金属膜25の上に形成され、リガンドを固定させる結合基を有しており、固定されたリガンドとアナライトとの反応を測定する領域となる。各リンカー膜26は、センサユニット10の製造段階において予め形成される。各リンカー膜26としては、例えば、カルボキシメチルデキストランなどが用いられる。これらの種類は、固定するリガンドの種類などに応じて適宜選択される。なお、本例では、各流路部材12のそれぞれに対応した3つのリンカー膜26を製膜するようにしているが、これに限らず、例えば、金属膜25の全面に1つのリンカー膜を製膜するようにしてもよい。
【0036】
ところで、SPRを利用した測定では、リンカー膜26にリガンドを固定させ、リガンドとアナライトとの反応状況を示すSPR信号(以下、測定信号と称す)を測定する一方で、リンカー膜26にリガンドを固定させずに、アナライトだけを送液した際のSPR信号(以下、参照信号と称す)を同時に取得し、例えば、これら2つのSPR信号の差分を取ることによって、センサユニット10の個体差や液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルする補正が好ましく行われている。流路部材12に含まれる2つの流路20、21は、この補正を行うために設けられたものであって、一方の流路が、測定信号を取得するために用いられるとともに、他方の流路が参照信号を取得するために用いられる。以降、本明細書においては、流路20を測定信号用として用い、流路21を参照信号用として用いるものとする。
【0037】
プリズム14の長手方向の両側面には、保持部材16の係合部16aと係合する係合爪14aが設けられている。これらの係合により、各流路部材12が保持部材16とプリズム14とによって挟み込まれ、流路部材12の底面とプリズム14の上面とが圧接された状態で保持される。こうして、各流路部材12、プリズム14、保持部材16の各部が一体化し、センサユニット10が構成される。
【0038】
なお、プリズム14には、例えば、ホウケイクラウン(BK7)やバリウムクラウン(Bak4)などに代表される光学ガラスや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、非晶性ポリオレフィン(APO)などに代表される光学プラスチックなどを用いることができる。
【0039】
保持部材16の上面には、流路20の各出入口20a、20b、及び流路21の各出入口21a、21bのそれぞれに対応する位置に、ピペット(図2参照)の先端が進入する受け入れ口16bが形成されている。各受け入れ口16bは、ピペットから吐出された液体を各流路20、21内に導くように、漏斗形状をしている。保持部材16が各流路部材12を挟み込んでプリズム14と係合すると、各受け入れ口16bの下面と、各出入口20a、20b、及び21a、21bとが接合し、各受け入れ口16bと各流路20、21とが連結される。
【0040】
なお、センサユニット10のプリズム14や保持部材16などに、例えば、非接触式のICメモリであるRFID(Radio Frequency IDentification)タグなどを取り付けるようにしてもよい。例えば、読み込み専用のRFIDタグにセンサユニット10毎の固有のID番号を書き込んでおき、各工程を行う前にこのID番号を読み込むことで、センサユニット10の識別を行うことができる。これにより、複数のセンサユニット10に対して同時に固定や測定を行う場合にも、間違ったアナライトの注入や、測定結果の取り違えなどといった問題の発生を防止することができる。さらには、読み書き可能なRFIDタグを用いて、例えば、固定したリガンドの種類やリガンドを固定させた日時、及び反応させたアナライトの種類などを、各工程毎に書き込んでいくようにしてもよい。
【0041】
図2は、全反射減衰を利用した測定装置としてのSPR測定装置30の構成を概略的に説明する説明図である。SPR測定装置30は、センサユニット10の金属膜25上での試料の反応状況に応じたSPR信号を取得する測定部32と、センサユニット10の各流路20、21に種々の液体を送液する送液ヘッド34とから構成されている。また、これらの各部は、図示を省略したコントローラによって統括的に制御される。
【0042】
測定部32は、センサユニット10に全反射条件を満足するように光を照射する2つの照明40、41と、センサユニット10によって全反射した光を受光して電気信号に光電変換する検出器42とからなる。また、各照明40、41と検出器42とは、図示を省略した測定ステージに固定される。測定ステージは、例えば、台形状に成形された台座であって、各照明40、41と検出器42とを全反射条件を満足する所定の角度で固定するとともに、センサユニット10を着脱自在に保持して各照明40、41の光路上にセンサユニット10を位置決めする。
【0043】
センサユニット10の各流路20、21のそれぞれに対応して設けられた2つの照明40、41は、全反射条件を満足する様々な入射角の光を、プリズム14に向けて照射する。各照明40、41は、例えば、集光レンズ、拡散板、偏光板などからなる光学系と、光源(いずれも図示は省略)とから構成され、全反射条件を満足するとともに、図3に示すように、プリズム14に入射して上面に集光された光が、それぞれ各溝部20c、21cの中央付近と対面するように配置位置および設置角度が調整されている。なお、図3は、流路部材12を底面側から見た説明図である。
【0044】
各溝部20c、21cと対面する金属膜25上では、各流路20、21に試料溶液を送液することにより、リンカー膜26にリガンドが固定されたり、リガンドとアナライトとが反応するなどして、屈折率に変化が生じる。測定部32は、各照明40、41の光をプリズム14の上面で各溝部20c、21cの中央付近と対面する部位に集光させ、その反射光を検出器42で受光することにより、前記屈折率の変化を調べる。以下、照明40の照射光がプリズム14の上面で集光された部位(図中ハッチングで示す部位)を第1測定点mp1、照明41の照射光がプリズム14の上面で集光された部位を第2測定点mp2と称す。
【0045】
ところで、各流路20、21に液体を入れ替えるようにして送液を行うと、排出する液体が流路内に微量に残留してしまい、次に注入する液体と混ざり合ってしまうことがある。こうした混液の度合い(以下、置換率と称す)は、例えば、流路の中央付近と壁面付近や、注入する出入口の付近と排出する出入口の付近など、流路内の場所によっても変化する。このため、本例の照明40、41は、各溝部20c、21cの中央付近に各測定点mp1、mp2が来るようにし、どちらの出入口から液体を注入した際にも、置換率に大きな差が生じないようにしている。また、こうした置換率の変化による測定誤差も、測定領域と参照領域との解析を行うことによってキャンセルすることができる。各溝部20c、21cの中央付近に各測定点mp1、mp2が位置している本例では、どちらの出入口から液体を注入しても出入口からの距離が等距離になるので、第1測定点mp1と第2測定点mp2との間で置換率の差が少なくなり、前述の解析を行った際に、置換率に起因する測定誤差を確実に抑えることができるようになる。
【0046】
各照明40、41の光源としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が使用される。各照明40、41は、こうした発光素子を1個使用し、この単一光源から各測定点mp1、mp2に向けて光を照射する。拡散板は、光源からの光を拡散させ、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうち、SPRを生じさせるp偏光のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源が発する光線自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過することにより、偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きを揃える。こうして拡散および偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム14に照射される。これにより、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光をセンサセル23に入射させることができる。
【0047】
なお、本例では2つの照明40、41を設けて各測定点mp1、mp2の測定を行うようにしているが、これに限ることなく、例えば、単一光源からの光を分光して各測定点mp1、mp2に照射されるようにしてもよい。また、本例では、センサユニット10の3つの流路部材12に含まれる各測定点mp1、mp2を個別に測定するようにしているが、さらに多くの照明を設けたり、分光したりすることによって、3つの流路部材12に含まれる各測定点mp1、mp2を同時に測定できるようにしてもよい。
【0048】
検出器42には、例えば、CCDエリアセンサやフォトダイオードアレイなどが使用される。プリズム14の長辺側の一方の側面から入射した光は、プリズム14内を透過して内側からプリズム14の上面(金属膜25の裏面)に集光され、上面で全反射して他方の側面に抜ける。プリズム14には、様々な角度の光が入射するので、プリズム14の上面では、それらの入射光が、それぞれの入射角に応じた反射角で反射する。検出器42は、これらの様々な角度の反射光を受光し、それらを光電変換して光強度に応じたレベルのSPR信号として出力する。また、検出器42は、第1測定点mp1からの反射光と、第2測定点mp2から反射光とを受光し、それぞれのSPR信号を出力する。すなわち、測定部32は、各照明40、41と、検出器42とによって、2チャンネルの計測を行うことができるように構成されている。
【0049】
検出器42として、CCDエリアセンサを用いた場合には、各チャンネルの反射光を同時に受光することによって得られた信号を画像処理することにより、第1測定点mp1に対応したSPR信号と第2測定点mp2に対応したSPR信号とを認識することができる。しかし、こうした画像処理による方法が難しい場合には、第1測定点mp1と第2測定点mp2とに対して光を入射させるタイミングを微小時間ずらして、各チャンネルの信号を受光するようにしてもよい。入射タイミングをずらす方法としては、例えば、配置角度が180度ずれた位置に2つの孔が形成された円板を各照明40、41の光路上に配置し、この円板を回転させる。各孔は、中心からの距離が各測定点mp1、mp2の間隔だけ異なる位置に配置されており、一方の孔が光路内に進入したときには、第1測定点mp1に光線を入射させ、他方の孔が光路内に進入したときには、第2測定点mp2に光線を入射させる。これにより、各チャンネルへの入射タイミングがずらされる。なお、本例では、1つの検出器42で各測定点mp1、mp2からの反射光を受光するようにしているが、各照明40、41と同様に、各測定点mp1、mp2毎に検出器を分けるようにしてもよい。
【0050】
送液ヘッド34には、流路20の各出入口20a、20b、及び流路21の各出入口21a、21bのそれぞれにアクセスするピペット46a、ピペット46bの一対のピペットが設けられている。各ピペット46a、46bのそれぞれには、例えば、シリンジポンプが接続されており、各シリンジポンプの駆動に応じて液体の吸引と吐出とが制御される。また、送液ヘッド34には、ヘッド移動機構36が接続されている。ヘッド移動機構36は、例えば、搬送ベルト、プーリ、キャリッジ、モータなどから構成される周知の移動機構であり、図示を省略したコントローラの制御の下、送液ヘッド34を前後左右上下の3方向に移動させる。
【0051】
送液ヘッド34の各ピペット46a、46bは、先端に小孔が形成された略円錐筒状をなしており、各々の間隔が各出入口20a、20b、及び21a、21bの間隔に対応するようにされている。また、各ピペット46a、46bの先端部は、交換可能なチップ状(以下、「ピペットチップ」と称す)にされている。ピペットチップは、送液する液体と直接接触するので、各ピペット46a、46bを介して異種の液体の混液が生じないように、送液毎に交換される。SPR測定装置30には、複数のピペットチップを保管するピペットチップ保管部(図示は省略)が設置されている。ピペットチップの交換は、ヘッド移動機構36を駆動して送液ヘッド34をピペットチップ保管部にアクセスさせることによって行われる。
【0052】
また、SPR測定装置30には、各流路20、21へ注入する種々の液体(リガンド溶液、アナライト溶液、洗浄液、バッファ液など)を保管するウエルプレート38が設置されている。ヘッド移動機構36は、送液ヘッド34を移動させて、ウエルプレート38や測定ステージにセットされたセンサユニット10などにアクセスさせる。
【0053】
送液ヘッド34には、各ピペット46a、46bを独立に突出させるピペット突出機構(図示は省略)が組み込まれている。送液ヘッド34は、ウエルプレート38にアクセスして各ウエル内の液体を吸引する際、図4(a)に示すように、液体を吸引するピペットのみを突出させて、ウエル内の液体に浸す。これにより、例えば、他方のピペットがウエル内に侵入して、異なる液体に浸されてしまうことなどが防止される。なお、本例では、1つのウエルプレート38の各ウエルに異なる液体を保管するようにしているが、保管する液毎に個別のウエルプレートを設けるようにしてもよい。
【0054】
一方、送液ヘッド34で各流路20、21に液体を送液する際には、図4(b)に示すように、各ピペット46a、46bを、流路20の各出入口20a、20b、又は、流路21の各出入口21a、21bに挿し込む。送液ヘッド34は、この状態で一方のピペットから吸引した液体を吐出し、他方のピペットから各流路20、21内の流体(空気や予め注入されていた液体など)を吸引することにより、各流路20、21内の流体を入れ換えるようにして送液を行う。
【0055】
次に、図5に示すフローチャートを参照しながら、上記構成によるSPR測定装置30の作用について説明する。リガンドとアナライトとの反応状況を測定する際には、まず、センサユニット10を測定ステージにセットし、各流路部材12のいずれかが各照明40、41の光路上に来るように位置決めする。SPR測定装置30は、センサユニット10にリガンドを固定する固定工程と、固定したリガンドにアナライトを接触させて、その際のSPR信号を取得する測定工程と、取得したSPR信号を解析するデータ解析工程とを行って、リガンドとアナライトとの反応状況を測定する。
【0056】
SPR測定装置30は、センサユニット10がセットされた後、オペレータからの固定開始指示が入力されたことに応じて固定工程を開始する。SPR測定装置30のコントローラは、固定開始指示が入力されたことに応答してヘッド移動機構36を駆動し、送液ヘッド34をウエルプレート38に移動させる。送液ヘッド34をウエルプレート38にアクセスさせたコントローラは、ピペット突出機構を駆動してピペット46aを突出させ、リガンド溶液を保管するウエル内にピペット46aを進入させる。ウエル内に進入してリガンド溶液に浸されたピペット46aは、所定量のリガンド溶液を吸引する。ピペット46aにリガンド溶液を吸引させたコントローラは、送液ヘッド34をセンサユニット10に移動させ、各ピペット46a、46bを、測定用の流路20の各出入口20a、20bに挿し込む。
【0057】
各ピペット46a、46bを挿し込んだコントローラは、ピペット46aが吐出、ピペット46bが吸引を行うように、それぞれを駆動し、流路20内にリガンド溶液を注入する。これにより、流路20と対面するリンカー膜26にリガンドが固定され、固定工程が終了する。なお、流路20にリガンド溶液を注入する前に、流路20内の洗浄やリンカー膜26の活性化処理などを行うようにしてもよい。また、固定化が進行している間、流路20内のリガンド溶液を静置しておいてもよいが、各ピペット46a、46bの吸引と吐出とを交互に駆動し、流路20内のリガンド溶液を攪拌して流動させるようにしてもよい。こうすることで、リガンドとリンカー膜26との結合が促進され、リガンドの固定量を増加させることができる。
【0058】
リンカー膜26にリガンドを固定させたSPR測定装置30は、温度などの環境条件を一定に保った状態でセンサユニット10を保持し、オペレータからの測定開始指示が入力されたことに応じて測定工程を開始する。コントローラは、測定開始指示が入力されたことに応答して、各照明40、41と検出器42とによるデータ読み取りを開始させる。また、これと同時に、ヘッド移動機構36を駆動して送液ヘッド34をウエルプレート38に移動させる。ウエルプレート38に送液ヘッド34を移動させたコントローラは、ピペット突出を駆動してピペット46aを突出させ、ピペット46aに所定量のアナライト溶液を吸引させる。
【0059】
ピペット46aにアナライト溶液を吸引させたコントローラは、送液ヘッド34をセンサユニット10に移動させ、測定用の流路20の各出入口20a、20bに、各ピペット46a、46bを挿し込む。各ピペット46a、46bを挿し込んだコントローラは、ピペット46aが吐出、ピペット46bが吸引を行うように、それぞれを駆動し、流路20内にアナライト溶液を注入する。この際、ピペット46aは、吸引したアナライト溶液のうち、約半分の量のみを流路20に注入する。流路20に半分のアナライト溶液を注入したコントローラは、送液ヘッド34を移動させて各ピペット46a、46bを参照用の流路21の各出入口21a、21bに挿し込み、ピペット46a内に残った半分のアナライト溶液を流路21内に注入する。このため、各ピペット46a、46bは、各流路20、21の容積に対して、2倍以上の液体を吸引保持できることが好ましい。
【0060】
流路20と対面するリンカー膜26上には、リガンドが固定されており、アナライト溶液の注入に応じてリガンドとアナライトとが反応を始める。これにより、検出器42は、第1測定点mp1からの反射光に応じたSPR信号を測定信号として取得する。一方、流路21と対面するリンカー膜26上には、リガンドが固定されていないので、当然、アナライトとの反応も生じない。これにより、検出器42は、第2測定点mp2からの反射光に応じたSPR信号を参照信号として取得する。
【0061】
各信号を取得したSPR測定装置30は、各照明40、41と検出器42とによるデータ読み取りを停止し、測定工程を終了する。なお、本例では省略したが、測定工程では、データ読み取りを開始した後、アナライト溶液を送液する前後に測定用バッファ液を各流路20、21に送液する。これにより、検出器42は、基準レベル(ベースライン)の検出、アナライトとリガンドの反応状況(結合状況)、結合したアナライトとリガンドとの脱離までの各SPR信号を取得する。
【0062】
測定工程を終了したSPR測定装置30は、測定信号から参照信号を差し引いて測定データを算出し、この測定データを基にしてリガンドとアナライトとの反応状況を解析する。この際、本例では、別々の流路20、21に各液体を送液することによって、測定信号と参照信号とを表面の性質が同じリンカー膜26から取得するようにしたので、各信号間に非特異吸着の差が生じることはない。これにより、上記解析を行うことによって、非特異吸着の影響を確実に抑えることができる。また、各流路20、21を、各溝部20c、21cが、流路部材12の本体12aの長手方向に沿うとともに、この長手方向に各溝部20c、21cの一部が重なり合うように形成したので、各流路20、21を高密度に配置することが可能になり、流路を分けて測定信号と参照信号とを取得するようにした際にも、センサユニット10の大型化を招くことなく、ハイスループット化の妨げになることはない。
【0063】
また、本例では、各溝部20c、21cの中央付近に各測定点mp1、mp2を位置させ、どちらの出入口から液体を注入しても出入口からの距離が等距離になるようにしたので、第1測定点mp1と第2測定点mp2との間で置換率の差が少なくなり、前述の解析を行った際に、置換率に起因する測定誤差を確実に抑えることができる。さらに、同一流路内に測定領域と参照領域とが並べて形成されていた従来では、置換率の差を抑えるために、多くの試料溶液を流したりしていたが、本例では、解析で確実に測定誤差を抑えることができるので、無用に多くの試料溶液を流す必要がない。
【0064】
なお、各流路20、21の配置方法、及び形状は、上記に限るものではない。図6に示す流路部材50の各流路52、54は、それぞれ溝部52a、54aと、その両端に形成された送排液管52b、52c、及び54b、54cとから構成されている。各流路52、54は、各溝部52a、54aの両端を結ぶ直線SL1、SL2が、流路部材50の長手方向の中心線CL1(請求項記載の基準直線に相当)を斜めに横切るとともに、各溝部52a、54aが直線状に形成されている。
【0065】
上記実施形態では、各溝部20c、21cが、流路部材12の長手方向に沿うように各流路20、21を形成しているため、第1測定点mp1と第2測定点mp2とが幅方向にズレてしまう。このように各測定点mp1、mp2が幅方向にズレていると、測定にあたって、上記実施形態のように2つの照明40、41を設けるか、あるいは、1つの照明をズレ分だけ移動させなければならないなど、光学系の構成が複雑になってしまう。一方、図6に示す例では、各測定点mp1、mp2が中心線CL1上に並ぶようになるため、照明が一つでよいなど、光学系の構成を簡単にすることができる。また、本例の各流路52、54では、中心線CL1と、各直線SL1、SL2とのそれぞれの交点から、各出入口までの距離が等距離であることが好ましい。このように構成すると、各ピペット46a、46bを各出入口に挿し込んだ際に、挿し込みによる押圧力が左右均等に加わるようになるので、センサユニット10の傾きを防止することができる。
【0066】
また、図7に示す流路部材60の各流路62、64のように、各溝部62a、64aをクランク状に屈曲させるようにしてもよい。図6の各流路52、54では、各溝部52a、54aが中心線CL1を斜めに横切る。これに対し、図7の各流路62、64では、中心線CL2を横切る部分で各溝部62a、64aが中心線CL2に沿う。このように構成すると、各測定点mp1、mp2が、液体の置換率の悪い各溝部62a、64aの内壁面付近に掛からないように設定することができるので、置換率に起因する測定誤差を防止して、より高精度に測定を行うことができるようになる。
【0067】
さらには、図8に示す流路部材70のようにしてもよい。各流路72、74は、それぞれ溝部72a、74aと、その両端に形成された送排液管72b、72c、及び74b、74cとから構成されている。各流路72、74は、各溝部72a、74aの両端を結ぶ直線SL3、SL4が、流路部材70の長手方向の中心線CL3と平行になっている。また、各流路72、74は、中心線CL3を挟んで対向するとともに、各溝部72a、74aが、中心線CL3を横切るようにくの字状に屈曲している。
【0068】
図6や図7に示す例では、各流路が中心線を斜めに横切るように形成されている。このため、送液ヘッド34で液体を注入する際に、この送液ヘッド34、もしくは各ピペット46a、46bを各流路の傾きに合わせなければならないなど、送液系の構成を複雑にさせてしまう。一方、図8に示す例では、各溝部72a、74aの両端を結ぶ直線SL3、SL4が、中心線CL3と平行であるから、送液系の複雑化を招く心配が無い。なお、この流路部材70の各流路72、74も、図7に示す例と同様に、中心線CL3を横切る部分(各測定点mp1、mp2に当たる部分)では、各溝部72a、74aが中心線CLと沿うように形成されることが好ましい。
【0069】
また、図9に示す流路部材80の各流路82、84のように、各溝部82a、84aは、S字状に屈曲させるものであってもよい。図9の各流路82、84では、各溝部82a、84aをS字状に屈曲させ、出入口を形成する各送排液管82b、82c、及び84b、84cが、極力中心線CL4に近づくようにした。溝部の両端を結ぶ直線と中心線とが平行である場合、各ピペット46a、46bを各出入口に挿し込んだ際に、中心線を軸とした傾き力を与えてしまう。本例では、各流路82、84を極力中心線CL4に近づけるようにしたので、各ピペット46a、46bを挿し込んだ際の傾き力を抑えて、センサユニット10の傾きに起因する測定誤差などを防止することができる。
【0070】
なお、上記実施形態では、流路部材12とプリズム14とが当接した状態を保持部材16によって保持するようにしているが、図10及び図11に示す流路部材90のように、プリズム14の係合爪14aと係合する係合部90aを設けて、流路部材90自体がプリズム14に組み付くようにしてもよい。これにより、流路部材90に形成された2つの流路92、94と、プリズム14との位置合わせを容易に行うことができる。
【0071】
また、流路部材90は、各流路92、94の内壁面全体を構成する弾性のある軟質部材96と、この軟質部材96以外の部分を構成する軟質部材96よりも硬い硬質部材98とから構成されている。これらの軟質部材96と硬質部材98とは、同一金型内で異材料どうしを組み合わせて成形する、いわゆる二色成形法(ダブルモールド)によって一体成形されている。
【0072】
軟質部材96は、硬質部材98によって形成された底面よりもわずかに突出しており、プリズム14に組み付いた際に、弾性変形して金属膜25との隙間を埋め、各流路92、94の開放された底部をプリズム14とともに水密に覆う。なお、軟質部材96の厚みは、0.1mmよりも薄いと軟質部材96の弾性変形による水密の効果が得にくくなり、1.0mmよりも厚いと軟質部材96の弾性変形による位置ズレの弊害が大きくなるため、0.1〜1.0mm程度であることが好ましい。また、軟質部材96の底面の突出量は、弾性を考えると0.1mm程度が好適である。
【0073】
また、各流路92、94の内壁面を構成し、各流路92、94を流れる試料溶液と接する軟質部材96は、試料溶液中に溶解した試料の吸着を防止するため、非特異吸着の少ない材料であることが好ましい。すなわち、軟質部材96の材料としては、非特異吸着が少ない弾性材料を用いることが好適であって、このような材料としては、例えば、非晶質ポリオレフィンエラストマーが知られている。なお、軟質部材96と一体成形される硬質部材98としては、例えば、ポリプロピレンなどの晶質ポリオレフィンを用いることができる。
【0074】
なお、本例では、軟質部材96で各流路92、94の内壁面全体を構成するようにしているが、軟質部材96は、各流路92、94の水密性を保つためのものであるから、最低限、各流路92、94の溝部の周縁を構成するものであればよい。しかしながら、本例のように各流路92、94の内壁面全体を構成することにより、つなぎ目による送液の不具合などを抑えることができる。また、成形する面積が増えることによって、成形性を向上させることができるとともに、一体成形された軟質部材96が硬質部材98から剥がれ落ちることを抑えることができる。
【0075】
また、上記実施形態では、各工程を一つのSPR測定装置30で行うようにしているが、各工程毎に装置を分けるようにしてもよい。こうすることで、複数のセンサユニット10を同時に処理することが可能となり、処理効率を向上させることができる。
【0076】
また、上記各実施形態では、誘電体ブロックとしてプリズム14を示しているが、誘電体ブロックには、この他に、光学ガラスや光学プラスチックなどを板状にしたものや、これらの板状のものとプリズムとを光学面平滑剤(例えば、光学マッチングオイル)で一体化させたものなどを含めるものとする。
【0077】
さらに、上記各実施形態では、全反射減衰を利用した測定装置の一例として、SPR測定装置を示したが、全反射減衰を利用した測定装置としては、この他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】センサユニットの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】SPR測定装置の構成を概略的に説明する説明図である。
【図3】流路部材を底面側から見た説明図である。
【図4】送液ヘッドの動作を説明する説明図である。
【図5】SPR測定装置による測定の手順を概略的に示すフローチャートである。
【図6】各流路を斜めにした例を示す説明図である。
【図7】各流路をクランク状に屈曲させた例を示す説明図である。
【図8】各流路をくの字状に屈曲させた例を示す説明図である。
【図9】各流路をS字状に屈曲させた例を示す説明図である。
【図10】流路部材の他の実施形態を示す外観斜視図である。
【図11】流路部材の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
10 センサユニット
12 流路部材(流路ブロック)
12a 本体
14 プリズム(誘電体ブロック)
16 送液部(送液装置)
20 流路
20a 出入口
20b 出入口
20c 溝部
21 流路
21a 出入口
21b 出入口
21c 溝部
25 金属膜(薄膜層)
26 リンカー膜
30 SPR測定装置(全反射減衰を利用した測定装置)
40 照明
41 照明
42 検出器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の反応を検出するためのセンサ面に前記試料を含む試料溶液を送液する複数の流路が形成され、底面が前記センサ面と当接して配置される略直方体状の本体を持ち、前記各流路は、前記底面に形成され前記試料溶液を前記センサ面に接触させながら流す溝部を持ち、この溝部の両端に前記本体の上面に形成された1対の出入口が接続される流路ブロックにおいて、
前記各流路は、隣接する前記流路を流れ方向に対して並列的に配置するとともに、前記本体の長手方向に前記溝部の一部のみを重ねた少なくとも1組の流路セットを含んでいることを特徴とする流路ブロック。
【請求項2】
前記流路セットに含まれる前記各流路は、前記溝部の両端を結ぶ直線が前記長手方向と略平行になるように並べられているとともに、前記溝部が略直線状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の流路ブロック。
【請求項3】
前記流路セットに含まれる前記各流路は、前記長手方向と略平行な基準直線を横切るように並べられていることを特徴とする請求項1記載の流路ブロック。
【請求項4】
前記基準直線は、前記本体の前記長手方向の中心線であって、
前記流路セットに含まれる前記各流路は、前記溝部の両端を結ぶ直線が前記基準直線を斜めに横切るとともに、その交点から前記各出入口までの距離が等しくなるように配置されていることを特徴とする請求項3記載の流路ブロック。
【請求項5】
前記溝部が、直線状に形成されていることを特徴とする請求項4記載の流路ブロック。
【請求項6】
前記溝部が、クランク状に屈曲して形成されていることを特徴とする請求項4記載の流路ブロック。
【請求項7】
前記流路セットに含まれる前記各流路は、前記溝部の両端を結ぶ直線が前記基準直線と平行であることを特徴とする請求項3記載の流路ブロック。
【請求項8】
前記流路セットは、前記溝部が前記基準直線に向かって略くの字状に屈曲して形成されるとともに、前記基準直線を挟んで互いに対向する2つの前記流路からなることを特徴とする請求項7記載の流路ブロック。
【請求項9】
前記流路セットは、前記溝部が略S字状に屈曲して形成されるとともに、前記基準直線を挟んで互いに対向し、かつ点対称に配置された2つの前記流路からなることを特徴とする請求項7記載の流路ブロック。
【請求項10】
前記センサ面と前記底面との当接状態を維持するために、前記センサ面が形成された部材を保持する保持部を前記本体と一体に設けたことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の流路ブロック。
【請求項11】
前記本体のうち少なくとも前記溝部の周縁を構成する弾性のある軟質部材と、それ以外の部分を構成する前記軟質部材よりも硬い硬質部材とを二色成形法によって一体成形したことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の流路ブロック。
【請求項12】
全反射条件を満たすように光が照射された際に、その反射光の光強度を減衰させる薄膜層が設けられた誘電体ブロックと、この誘電体ブロックに当接して、前記誘電体ブロックと対向する対向面に設けられた溝部で前記薄膜層を覆うことにより、試料溶液を前記薄膜層に送液する流路部材とを備え、前記試料溶液に溶解した試料が前記薄膜層に接触した際に、その反応状況に応じて前記減衰の生じる前記光の入射角度が変化するセンサユニットにおいて、
前記流路部材として、請求項1から11のいずれか1項に記載の流路ブロックを用いたことを特徴とするセンサユニット。
【請求項13】
前記流路セットに含まれる前記流路の少なくとも1つを前記反応状況を表す測定信号を取得するために使用し、残りのうちの少なくとも1つを前記測定信号の解析に用いられる参照信号を取得するために使用することを特徴とする請求項12記載のセンサユニット。
【請求項14】
請求項12又は13記載のセンサユニットが着脱自在に取り付けられるステージと、前記薄膜層に全反射条件を満たすように光を照射する光源と、前記薄膜層からの前記反射光を受光して電気信号に光電変換する検出器とを有することを特徴とする全反射減衰を利用した測定装置。
【請求項15】
前記光源は、前記薄膜層に対して少なくとも2本の光を照射し、これらの各光を前記薄膜層と対向して配置される前記流路の前記各出入口のうち、前記試料溶液の注入が行われる一方から等距離の位置に照射することを特徴とする請求項14記載の全反射減衰を利用した測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−10439(P2007−10439A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190770(P2005−190770)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】