説明

流路形成チップ

【課題】流路が微細であっても流路中に捕獲手段を容易に配置でき、種々の捕獲対象を検出できる流路形成チップを提供することを目的とする。
【解決手段】板状の基板と、前記流路を構成する流路構成溝が設けられ、前記流路構成溝を覆うように前記基板に装着され前記流路を形成する流路構成部材と、前記流路中において移動可能に配置され、捕獲対象物を捕獲する捕獲手段と、前記流路の途中に前記捕獲手段の移動を拘束する拘束手段と、を備え、前記流路構成部材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂から形成されている流路形成チップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を移送するための流路を備える流路形成チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNA、RNA、細胞といった種々の生体試料等に対する生化学的な分析操作を行うにあたり、流路形成チップが広く利用されている。この流路形成チップは、基板と、基板上に載置され、微細流路パターンの溝が形成された流路構成部材と、流路構成部材上に載置される天板と、から構成される。このような流路形成チップの微細な溝は、半導体集積回路に用いられる微細加工技術等を利用して形成される。
【0003】
ところで、遺伝子の発現状況を調べる手法として、DNAプローブを種類毎に区分けして固定したDNAプローブアレイが知られている。DNAプローブアレイは、異なる検査対象とそれぞれ結合可能なプローブを固定した粒子を、平板部材に設けられた溝に複数並べたものである(特許文献1参照)。粒子は、配列後に溝内に配置されるゲルに押し付けられることで固定され、溝内に試料を移送し、特定の生体物質を粒子に結合し捕獲する構成である。
【0004】
また、硬質樹脂を用いたビーズアレイ作成用チップが知られている。ビーズアレイ作成用チップのキャピラリにビーズを注入・配列した後、ビーズアレイ作成用チップのビーズを注入する導入口とビーズアレイ作成用チップのキャピラリーとの境界に構造物を固定することで、ビーズアレイ作成用チップのキャピラリ内にビーズを固定する構成も提案されている(特許文献2参照)。そして、キャピラリ内に試料を移送し、特定の生体物質をビーズに結合し捕獲する構成である。
【特許文献1】特開平11−243997号公報
【特許文献2】特開2005−201849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のDNAプローブアレイでは、多孔質粒子はゲルを用いて流路内に固定されるため、多孔質粒子の径の大きさの許容範囲もゲルの弾性変形の範囲内に限定される。さらに流路幅や多孔質粒子の寸法を微小にした場合には、多孔質粒子を所定位置に固定することが困難になるおそれがある。
【0006】
また、特許文献2のビーズアレイ作成用チップでは、粒状ビーズを固定するためのビーズ固定用の部材が必要であり、ビーズアレイ作成用チップの部品点数が増加する上に、流路や粒状ビーズの微小化により固定部品の製造や取り付ける工程が困難になるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、上述の課題を鑑みて、流路が微細であっても流路中に捕獲手段を容易に配置でき、種々の捕獲対象を検出できるとともに、作製の簡便な流路形成チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の流路形成チップの第1の態様は、試料を移送する流路を備える流路形成チップであって、板状の基板と、前記流路を構成する流路構成溝が設けられ、前記流路構成溝を覆うように前記基板に装着されて前記流路を形成する流路構成部材と、前記流路において前記試料中の捕獲対象物を捕獲するための捕獲手段の移動を拘束するように前記流路の途中に設けられた拘束手段と、を備え、前記流路構成部材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂から形成されている。
【0009】
また、本発明の流路形成チップの第2の態様によれば、前記基板は、ガラス材から形成されている。さらに、本発明の流路形成チップの第3の態様によれば、前記拘束手段は、前記流路の側面から流路幅を狭くする方向に突出して形成される凸部であり、前記凸部における流路幅は、前記捕獲手段の径よりも小さい。また、本発明の流路形成チップの第4の態様によれば、前記捕獲手段は、多孔質粒子である。
【0010】
本発明の流路形成チップの第5の態様によれば、前記多孔質粒子は、その孔部にプローブが装着されている。本発明の流路形成チップの第6の態様によれば、前記多孔質粒子は、シリカを主成分とする直径100μm以下の球形ビーズである。
【0011】
本発明の流路形成チップの第7の態様によれば、前記流路の上流側及び下流側に前記試料を移送させるための電極を備える。本発明の流路形成チップの第8の態様によれば、前記拘束手段よりも上流側に前記試料に含まれる細胞を破砕する破砕手段を流路中に備える。本発明の流路形成チップの第9の態様によれば、前記流路を複数設け、前記複数の流路の各々に、前記拘束手段及び前記捕獲手段を設ける。
【0012】
本発明の流路形成チップの第10の態様によれば、前記試料を移送させるために遠心装置に取り付けられて使用される。本発明の流路形成チップの第11の態様によれば、前記遠心装置は、試料を収容した前記流路形成チップを取り付けて所定の回転軸を中心に回転する回転盤と、前記流路形成チップ内における試料の状態を目視により観察するための顕微鏡と、を具備し、前記流路形成チップ内の試料または試料中の物質に対して遠心力を作用させることで前記試料から所定の物質を分離または合成させる可視下遠心装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の流路形成チップによれば、流路構成部材をPDMSから形成しているので、PDMSが有する自己吸着性を利用して流路構成部材を基板に簡単に装着でき、このため、チップを簡便に作製することができる。さらに、PDMSは、試料の劣化を起こさないといった生体適合性に優れるので、検出精度の信頼性を向上できる。
【0014】
また、流路構成溝を有しPDMSから形成された流路構成部材を基板に装着するという簡易な構成により流路の途中に捕獲手段の移動を拘束する拘束手段を設けることで、流路が微細であっても流路中に捕獲対象物の捕獲手段を容易に配置でき、種々の捕獲対象を検出できる。
【0015】
また、流路構成溝が形成された流路構成部材を、流路構成溝を覆うように基板に装着するので、流路を密閉できる。従って、検出作業中に流路内に不純物が混入したり、液体中の特定成分が揮発することを防止できる。結果として、検出条件を均一にし検出作業を行うことができる。さらに、流路が密閉されるので、サンプルが微量であっても捕獲対象物を確実に捕獲することができる。
【0016】
さらに、流路形成チップを遠心装置に取り付けて回転させて遠心力を作用させることで流路形成チップにおいて試料溶液を流路内で流動させることができる。このため電気浸透流発生のための電界印加が不要となるので、電界印加による検出対象の物質への影響がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の細胞破砕用装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。各図面中、同一要素は同一符号で示してある。
(実施形態1)
【0018】
本発明の実施形態1の流路形成チップについて、図1〜図3を参照しつつ説明する。図1Aは、実施形態1に係る流路形成チップの平面図であり、図1Bは、図1Aの線IB−IBに沿った断面図であり、図2Aは、捕獲手段が配置された流路部分を示す平面図であり、図2Bは、図1Aの線IIB−IIBに沿った断面図である。図3は、蛍光標識されたDNAを吸着したシリカビーズの模式図である。なお、図2Aでは、構成の理解を容易にするため、流路形成チップ内部に延在する流路等を実線で示す。
【0019】
実施形態1に係る流路形成チップ1は、基板11と、基板11上に基板11を覆うように配置される流路構成部材12と、を備える。さらに、本実施形態では、本発明の必須構成要素ではないが、生体試料を流路内で移送するための移送手段を設けている。なお、移送手段は、公知の電源等である電圧印加装置(不図示)と、電圧印加装置が接続される一対の膜状電極51,53と、を有する。
【0020】
流路構成部材12は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂から作製される矩形状の薄板部材である。流路構成部材12の下面12aには、複数の凹部2が並列して設けられており、後述するように複数の流路及び貯留槽を構成する。
【0021】
基板11は、膜状電極51,53や流路構成部材12を支持する矩形状で板材の支持部材である。なお、本実施形態では、基板11として市販の板状のほう珪酸ガラス(商品名:パイレックス(登録商標))を用い、その寸法は、例えば長さ20mm、幅10mm、厚さ1mmである。
【0022】
一対の膜状電極51,53は、基板11の上面11a上に所定のパターンで形成されており、互いに離間して配置され、基板11の一端部まで延びている。また、各電極51、53は、その端部で露出しており、駆動電圧印加装置と電気的に接続可能である。なお、図1A中おいて、流路形成チップの構成の理解を容易にするために、直接は見えない電極51、53を破線及びハッチングで凹部2を破線で示す。
【0023】
膜状電極51、53は、流路構成部材12の下面12aと基板11の上面11aとの間に位置する。本実施形態の膜状電極51,53は、基板11の上面11aにレジスト等によるマスクパターンを形成した後、スパッタリングによりTiで成膜し、さらにTiをPtの反応保護膜で覆った2層構造である(図1B参照)。Tiを用いることで基板11との密着性を向上させることができる。また、Ptで覆うことで、膜状電極と試料との間の電極反応を抑制できる。
【0024】
流路構成部材12の凹部2について説明する。図1Aに示す凹部2は、図の縦方向に延びる流路構成溝28と、流路構成溝28が延在する方向に関し流路の両端部のそれぞれに接続する平面視略三角形状の貯留槽構成溝27,26と、を備える。流路構成部材12は、基板11の上面11aに対し凹部2の形成された下面12aが対向するように基板11に装着される。これにより、流路構成溝28と基板11の上面11aとにより流路23が画成され、貯留槽構成溝27,26と基板11の上面11aとにより貯留槽21,22が画成される。
【0025】
流路23の途中には、試料内の捕獲対象物を捕獲するための捕獲手段である球状のシリカビーズ25を流路23中で拘束する拘束手段として拘束部24が設けられている。シリカビーズ25は、拘束部24により流路23中の所定位置に維持される。図2Aに示されるように、拘束部24は流路構成溝28の側面が突き出るように形成された凸部から構成されている。すなわち、拘束部24は、流路構成溝28の側面から徐々に流路幅を狭くするように傾斜する傾斜面と、徐々に流路幅を広くするように傾斜する傾斜面と、から構成され、両傾斜面は最も流路を狭くする部分である最狭部24aで連結される。最狭部24aにおける流路幅は、シリカビーズ25の外径よりも小さく設定される。
【0026】
なお、拘束部24の部分を除き、流路23の流路幅(図2Aの上下方向)は一定である。さらに、流路23の深さ(図2Aの紙面の表裏方向)も、本実施形態では一定とした。したがって、拘束部24の位置における流路幅及び流路深さは、シリカビーズの寸法に応じて適宜変更でき、拘束部24を超えて、シリカビーズが上流側から下流側へ移送されないような寸法関係を有しさえすればよい。また、拘束部24の傾斜面の勾配は、拘束手段に利用できるスペースの大きさにより決定される。さらに、流路23の流路深さは、シリカビーズ25が2個同時に通り抜けできないように設定される。
【0027】
シリカビーズ25は、SiO2(シリカ)を主成分とし、表面に無数の細孔を有する多孔質の球状ビーズであり、その表面は、他の物質の吸着、結合、又は表面で他の物質と反応する能力(反応性)を有するものである。
【0028】
シリカビーズ25は、流路23内において拘束部24の最狭部24aよりも上流側に配置される。よって、上流側から下流側への流れがある場合には、拘束部24の最狭部24aより下流側に移動することは無い。
【0029】
シリカビーズ25は、その細孔に分子を吸着することができる。さらに、捕獲対象を絞る場合には、捕獲対象物と反応もしくは特異的に結合するプローブを担持させることも可能である。プローブ及び捕獲対象物質としては、タンパク分子等の抗原と抗体、基質とこれに反応する酵素、DNAやRNAとその少なくとも一部に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド等がある。プローブを担持させる方法としては、固相法によりシリカビーズ25の表面にオリゴヌクレオチドやポリペプチドを合成する方法や、ビオチン及びアビジンの結合を利用する方法を利用できる。さらに、多孔質粒子は、シリカビーズの他に、活性炭、アルミナ、プラスチック微粒子など、一般的に固定相として用いられ、反応性を有する微粒子を用いることができる。
【0030】
流路形成チップ1の貯留槽21,22は、試料を投入又は回収するために用いられる。なお、図には示さないが、貯留槽21,22と流路形成チップ1の外部とは、不図示の貫通孔により連通しており、貫通孔を介して外部から試料を、試料投入槽である貯留槽21に投入し、流路23を介して回収槽である貯留槽22に到達した試料は、貫通孔を介して排出される。
【0031】
流路構成部材12は、貯留槽構成溝27,26の形成領域に、一対の電極51、53がそれぞれ位置づけられるように基板11に装着される。一対の電極51、53は、不図示の電圧印加装置からの電力供給を受けると、貯留槽21から貯留槽22への電気浸透流を発生させる。この電気浸透流により試料を含む液体は、貯留槽(試料投入槽)21から流路23を通り貯留槽(回収槽)22へ流れる。なお、本実施形態では、4つの凹部2が設けられる構成であり、各凹部2には、試料投入槽21、回収槽22及び流路23、拘束部24が形成され、他の凹部も前述の凹部と同一寸法で同一形状である。
【0032】
次に、流路構成部材の作製方法について説明する。まず、例えば、縦26mm、横76mmで所定厚さを有する、表面がほぼ平坦のガラス板を用意する。次に、ガラス板上に、縦10mm、横20mm、厚さ1mmの矩形状のガラスチップを載置する。そして、厚さ1.5mmのシリコンゴムを、ガラスチップの周囲を囲むようにガラス板上に載置する。なお、ガラスチップ上には、ネガレジスト(化薬マイクロケム株式会社製のSU−8(商品名))などによって凹部2とは逆パターン(流路構成溝28及び貯留槽構成溝27,26に対応する凸状部)が形成されている。また、逆パターンを形成する材料は、上記SU−8(商品名)に限らず、例えば、半導体基板のパッケージやフレキシブル基板材料として利用されている感光性のドライフィルムレジストを用いることができる。
【0033】
そして、シリコンゴムで囲まれた領域内にポリジメチルシロキサン(PDMS)を流し込む。その後、60°Cに調整されたオーブンで約60分間焼成し、ガラスチップを剥がし、厚さ約0.5mmのPDMSシートを得る。このPDMSシートには流路構成溝28及び貯留槽構成溝27,26のパターンが転写されており、PDMSシートが流路構成部材12を構成する。
【0034】
このように作製された流路構成部材を洗浄したのち、流路構成溝が形成された面側がガラス基板等に接するように貼り付け、生体試料用流路形成チップが完成する。PDMSシートからなる流路構成部材12は自己吸着性を有するので、流路構成部材12と基板11との間に接着材を付与することなく両部材11,12を固定できる。このとき、流路及び貯留槽はほぼ密閉された状態である。また、PDMSシートからなる流路構成部材12は、特にガラスに対し自己吸着性がよいので、流路構成部材12をガラス製の基板11に接着材なしでよく密着させて装着できる。
【0035】
上記構成の流路形成チップの動作について図3を用いて説明する。まず、シリカビーズ25を含む液体を不図示の貫通孔を介して投入槽である貯留槽21内に導入する。そして、廃液槽である貯留槽22に液体が流れると、シリカビーズ25が流路23の拘束部24に係止され固定される。
【0036】
次に、DNA等の生体試料を含む液体を貯留槽21に導入する。例えば、蛍光色素(例えば、フルオレインイソチオシアネート)によって蛍光標識されたDNA断片を含む液体を、異なる凹部に導入する。膜状電極51,53に貯留槽21側が陽極、貯留槽22が陰極として直流電圧を印加する。凹部2に満たした試料は貯留槽21から貯留槽22に向かう電気浸透流が発生し、貯留槽21の液体が貯留槽22に移送される。このとき、液体中のDNAも電気浸透流により、貯留槽22側に向かい移送され、シリカビーズ25に至る。そして、シリカビーズ25がDNAを吸着する。
【0037】
捕獲工程を開始してから所定時間を経過した後にシリカビーズ25の蛍光強度を測定することにより、生体試料であるDNAの有無や濃度、DNAのサイズを確認することができる。本実施形態では、流路構成部材12として透明なPDMSを使用しているので、流路形成チップの外部から蛍光強度を測定することができる。
【0038】
流路23に拘束部24を設けることにより、シリカビーズ25を受けて係止するように構成したので、生体試料が流れる領域に、シリカビーズ25を固定する手間を省くことができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、最初にシリカビーズを含む液体を貯留槽21,22間を単に外部から流し込む構成としたが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、両電極51、53間に電圧を印加して電気浸透流を発生させて、シリカビーズを含む液体を、貯留槽21から貯留槽22へ流す構成にできるこは言うまでもない。
【0040】
さらに、シリカビーズにDNA等の生体試料を吸着し、DNAの有無等を確認するのみを目的とするのではなく、シリカビーズに吸着した物質を回収する目的とすることができる。また、本実施形態では、同一のシリカビーズを4つの凹部2に配置する構成としたが、それぞれサイズ、対象吸着物を異なるシリカビーズを配置することもできる。
【0041】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。実施形態2に係る流路形成チップ101は、実施形態1と略同様の構成であり、流路123に、細胞を破砕する破砕手段である細胞破砕部126を設けた点が異なっている。以下、図4A、4Bを参照し異なる部分を中心に説明する。図4Aは、流路形成チップの凹部近傍のみを示す平面図であり、図4Bは、図4Aの細胞破砕部の近傍を示す平面図である。
【0042】
流路形成チップ101は、実施形態1と同様に、2つの貯留槽121、122と、貯留槽121、122を連通する流路123を備える。図中左側の貯留槽121と、右側の貯留槽122は、それぞれ平面視で円形状であり、右側の貯留槽122の径を大きく設定している。左側の貯留槽121は、試料投入槽として機能し、右側の貯留槽122は、廃液槽として機能する。また、両貯留槽121、122が形成されている領域には、平面視楕円形状の一対の膜状電極114、115が形成され、貯留槽内に導入される液体に接するように露出している。この電極間に電圧を印加することにより試料投入槽121から廃液槽122への電気浸透流を形成することができる。膜状電極は、実施形態1と同様に基板上に設けられる。流路123の途中には、実施形態1と同様の拘束部124が設けられており、シリカビーズ125等の細胞捕獲手段を係止し固定する。
【0043】
また、流路123の途中(拘束部124の上流側)には、細胞破砕部126が形成されている。図4Bに示されるように、細胞破砕部126は、対向する流路側面から幅方向中央に向かい突出する傾斜部126a、126cと、水平部126bと、から構成される。一方の傾斜部126aは、流路から幅方向に向かい所定角度で突出し、他方の傾斜部126cは、流路中央から流路側面に向かい所定角度で傾斜し、水平部126bが両傾斜部126a、126cを接続する。対向する水平部126b間の距離、すなわち細胞破砕部126における流路の最狭幅は、破砕対象となる細胞の径より小さく設定されている。
【0044】
さらに、細胞破砕部126の上流側であって、流路123と交差する領域と、細胞破砕部126の水平部126bの領域とに、それぞれ薄膜電極151、153が配置されている。薄膜電極151、153は、流路を流れる液体に接触するように流路内に露出している。したがって、両電極間に、交流電圧(1MHz)を印加すると、交流電界が形成されることにより細胞膜が通電破砕される。細胞膜が通電破砕されると、細胞の内容物が溶出し、下流側に配置された拘束部124で固定された細胞捕獲手段であるシリカビーズ125により所定の捕獲対象物が吸着される。
【0045】
本実施形態の流路形成チップは、細胞破砕部126やシリカビーズ125を固定する拘束部124を備えるので、同一の流路形成チップ上において、細胞破砕、そして生体試料の捕獲といった複数の処理を行うことができ、このため、生体試料解析の迅速化、簡便化を実現できる。
【0046】
また、実施形態1と同様に、本実施形態は、流路構成部材を基板に装着して、流路構成部材の凹部と基板表面とにより流路が形成される構成であるため、流路をほぼ密閉することができる。よって、流路中を流れる生体試料を有する液体の特定の成分が、蒸発してしまうことを防止できる。結果として、個々の細胞の発現解析といった微量の物質であっても、精度よく解析できる。
【0047】
なお、本発明は、実施形態1及び実施形態2では、生体試料を含む液体を移送させるために、電気浸透流を利用したが、送圧ポンプにより試料溶液を流路内に導入する構成としてもよい。
【0048】
さらに、単一の流路に、流路の延在する方向に複数の捕獲手段を配置して、各捕獲手段が特定の対象物を捕獲するための多孔質粒子としてもよい。捕獲手段を所定位置に拘束するための拘束部24を複数設けずに、プローブアレイのように試料溶液中の物質が反応した多孔質粒子の位置により捕獲対象物を特定することも可能である。
【0049】
拘束部24,124の形状は、単に流路幅を徐々に狭くする構成に限られず、流路の断面積を徐々に小さくする形状など、捕獲手段を所定位置に係止することができるような形状であればよいことは言うまでもない。
【0050】
なお、上記実施形態では、2つの電極を設ける構成としたが、3つ以上の電極を設け、交流電圧を印加し、不均一電界を形成する構成としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態1、2では、一定の交流電圧を所定時間連続して印加する構成としたが、一定時間おきに高周波電圧を所定時間印加する方式(バースト波形)を繰り返す構成とすることができることは言うまでない。交流電界の印加期間、振幅、周波数を時間の経過と共に増減させる構成としてもよい。
【0052】
さらに、上記実施形態2では、大方の細胞を破砕するのに要する時間を予め実験等により求め、その時間の経過後に交流電界の印加を停止するが、細胞の状態を顕微鏡から常時観察し、画像処理技術を用いて細胞が破砕されたか否かを判別し、破砕を確認した後に印加を停止する構成としてもよい。
【0053】
上記実施形態2は、流路の側壁から突出し、流路幅を狭める形状の破砕部材に限られず、流路の上面から下方に延びる形状の尖部を有する破砕部材を設ける構成とすることも可能である。
【0054】
また、実施形態2では、流路内の破砕部材近傍に破砕電解を作用させる構成としたが、移送用電極114、115に交流電圧を印加し、流路の全長に対して破砕電解を作用させる構成としてもよい。
【0055】
さらに、細胞の移送方法は、電気浸透現象や誘電泳動力による構成に限らず、ポンプを用いるなど圧力流で細胞を移送する構成としてもよい。また、電極や不均一電界形成用電極は、膜状電極として基板に一体形成する構成に限られず、例えばワイヤ上の電極として、流路内に挿入して電圧を印加する構成としてもよい。
【0056】
本発明の流路や貯留槽の配置や構成は、図1Aや図4Aに示すものに限定されず、例えば、破砕後の内包物を分離する分離部を設けるものであってもよい。基板は、基板として必要な強度を有し、PDMSの自己吸着性を発揮して固定できる材料であれば利用できる。例えば、ほう珪酸ガラス、石英ガラス等のガラスの他、セラミックスなどの各種無機材料、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエステル等のプラスチック、ガラス繊維とプラスチックの複合材等が利用可能である。
【0057】
膜状電極は、上記実施形態の材料に限らず一般的な電極材料を用いることができるが、試料溶液に接する表面部分はPt、Au、Ag等の比較的標準電極電位の高い(正の値を持つ)材料で構成すると、試料溶液にさらした際の電解腐食を防止できるので好ましい。さらに、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極を用いると、流路形成チップ1の透明性が維持できるので、流路形成チップ1の光学的解析を行う場合等に好適である。また、スパッタリングにより形成すことで、基板との密着性を高めることができるが、化学蒸着、イオンプレーティング、その他の物理蒸着によって形成することもできる。
【0058】
(実施形態3)
実施形態3は、遠心力を用いて流路形成チップの流路で試料溶液を流し、その試料溶液で分離や合成を行う場合にその反応過程をモニタで観察可能にしたものである。
【0059】
図5は実施形態3に係る可視下遠心装置の全体構成例を示す斜視図である。図6は図5の固定部品の内部の構成を説明するための部分構成図である。図7は図5の可視下遠心装置の全体構成例を上から見た上面図である。図8は図5の回転盤に対してスピンドルユニットを装着させた状態の可視下遠心装置の縦断面図である。図9はスピンドルユニットとしてエアスピンドルユニット628を装着させた状態の可視下遠心装置の全体斜視図である。
【0060】
以下、実施形態3に係る可視下遠心装置について、添付図面を参照して説明する。図5〜図9には、本実施形態に係る可視下遠心装置(以下、単に「装置」ともいう)APが示されており、装置APには、所定の回転軸602を中心に回転する回転盤604と、回転盤604に配設され、サンプル(試料溶液)を収容して回転盤604とともに回転する反応用の流路形成チップ(以下、単に「チップ」とも言う。)1と、チップ1内におけるサンプルの状態を目視により観察するための顕微鏡608とが備えられている。そして、装置APは、チップ1内のサンプルに対して遠心力を作用させることで、サンプルから所定の物質(液体、固体および気体、若しくはこれらの混合体など)を分離、あるいは合成させている。
【0061】
なお、装置APの大きさや形状、具体的には、回転盤604の大きさや形状は、遠心分離あるいは遠心合成させるサンプルの性質や数などに応じて任意に設定すればよいが、本実施形態においては、回転盤604が直径220mmの円盤として構成されている場合を、一例として想定する。
【0062】
また、チップ1は、その内部に所定のサンプルを収容し、サンプルを遠心分離反応あるいは遠心合成反応させることが可能であり、図1A〜図2Bと同様に構成され、平面に沿って流路23が形成されている。チップ1は、内部にサンプルを収容した状態で、回転盤604に対して固定され、回転盤604とともに回転することで、遠心力により流路23でサンプル(試料溶液)が移送可能である。
【0063】
また、チップ1は、図4A,図4Bのような構成であってもよい。また、図1A〜図4Bのいずれの構成でも、試料溶液移送のために電極と遠心力を併用するようにしてもよく、また、個々のサンプルの特性に応じて電極と遠心力のいずれかを選択するようにしてもよい。さらに、試料溶液移送のための電極を省略してもよい。また、流路23は単数であるが、複数でもよい。
【0064】
装置APにおいて、顕微鏡608は、チップ1内におけるサンプルの状態を観察可能となるように回転盤604の所定位置へ固定されており、回転盤604には、顕微鏡608で捉えたチップ1内のサンプル状態の顕微鏡画像を撮影するための撮像デバイス610と、撮像デバイス610で撮影された顕微鏡画像の撮影像を、リアルタイムで動画として無線により伝送するための映像無線伝送デバイス612が取り付けられている。なお、本実施形態において、顕微鏡608は、一例として、チップ1内におけるサンプルの状態を捉える対物レンズ608aと、対物レンズ608aが捉えた顕微鏡画像を撮像デバイス610まで伝達するための光路が内部に形成された鏡筒608bとを備えて構成されている。また、撮像デバイス610には、顕微鏡608で捉えたチップ1内のサンプル状態の顕微鏡画像を撮影することが可能な各種の撮像装置を適用することができるが、本実施形態においては、撮像デバイス610としてCCDカメラを適用した場合を一例として想定する。
【0065】
この場合、顕微鏡608は、鏡筒608b内において、顕微鏡608の光路が回転盤604の盤面(図8の上側の面)604aに対して所定の角度で部分的に屈折されており、撮像デバイス(以下、CCDカメラという)10は、前記所定角度で屈折された顕微鏡608の光路上で、上述した顕微鏡画像を撮影可能となるように、回転盤604の回転中心の近傍に位置付けられている。なお、以下の説明においては、上述した顕微鏡608の光路を観察光路と呼び、観察光路を進む光を観察光と呼ぶ。
【0066】
本実施形態においては、一例として、図8に示すように、顕微鏡608の鏡筒608b内へミラー614を観察光路の屈折角に応じて任意に設定される所定角度だけ観察光路に対して傾斜して配設している。なお、図8に示す構成において、装置APは、顕微鏡608の対物レンズ608aがチップ1内のサンプル状態を垂直方向(同図の上下方向)の上方から捉えるとともに、回転盤604の回転中心の近傍で回転盤604の盤面604aに対して平行する方向(水平方向)から対物レンズ608aが捉えた顕微鏡画像をCCDカメラ610で撮影する構造を成している。このため、ミラー614を観察光の進入方向に対して約135°の角度で後傾させて顕微鏡608の鏡筒608b内に配設することで、進入した観察光を約90°だけ屈折させ、回転盤604の盤面604aに対して平行となるようにさらに進行させている。なお、顕微鏡608は、その鏡筒608bを略直角に屈折させることで、鏡筒608b内に略直角に屈折した観察光路を形成した構成とすればよい。
【0067】
この場合、顕微鏡608を回転盤604の周縁部へ位置付けることで、垂直方向から進入した観察光がミラー614によって回転盤604の周方向から中心方向へ向けて回転盤604の盤面604aと平行して屈折するように、その進行方向を変化させる構成とすることができる。この結果、顕微鏡608は、その観察光(すなわち、顕微鏡画像)が回転盤604の中心部、すなわち回転盤604の回転中心の方向へ向けて到達(収束)される構造となり、CCDカメラ610を観察光路の到達(収束)先へ位置付けることで、CCDカメラ610が回転盤604の回転中心の近傍で顕微鏡の観察光を捉えること、具体的には、顕微鏡画像を撮影することが可能な構成とすることができる。
【0068】
このため、CCDカメラ610を回転盤604の回転中心の近傍に位置付けることができ、回転盤604が回転することによって遠心力が生じた場合であっても、CCDカメラ610に対して作用する遠心力を軽減させることができ、遠心力によってCCDカメラ610の性能が阻害されることや撮影時の顕微鏡画像がブレることがなく、CCDカメラ610において常に安定した顕微鏡画像の撮影を行うことが可能となる。
【0069】
また、上述したように顕微鏡608を観察光路がミラー614によって屈折される構造とすることで、顕微鏡608の鏡筒608bの高さ(図8の上下方向の距離)を抑えることができる。これにより、回転盤604が回転することで回転振動が発生した場合であっても、回転振動に対する顕微鏡608の剛性を高めることができ、顕微鏡608において常に安定したチップ1内におけるサンプル状態の観察を行うことが可能となる。ただし、鏡筒608bの高さを抑えるためには、顕微鏡608を観察光路の屈折角度が0°より大きく90°以下となる構造とすることが好ましい。
【0070】
なお、顕微鏡608は、その鏡筒608bがチップ1に対して垂直方向(鉛直方向(図8の上下方向))へ上下動可能な構造を成しており、このような構造を成すことにより、チップ1(具体的には、サンプル)と対物レンズ608aとの間の距離(焦点距離)を調整することができるようになっている。この場合、回転盤604には、その盤面604aに対して垂直方向へ所定の長さで延出したガイド(以下、Z軸ガイドという)620が設けられており、鏡筒608bをZ軸ガイド620に沿ってスライドさせることで、顕微鏡608は、サンプルと対物レンズ608aとの焦点距離を調整する構造となっている。
【0071】
また、本実施形態においては、顕微鏡608の対物レンズ608aとチップ1とを同一部品(以下、固定部品という)616の内部に収容するとともに、収容された対物レンズ608aおよびチップ1を固定部品616と一体的に回転盤604へ固定することで、対物レンズ608aとチップ1との間の外部振動(具体的には、回転盤604の回転によって生ずる回転振動)による相対変位を極小化させている。これにより、顕微鏡608は、常に安定してチップ1内のサンプル状態をブレのないクリアな画像として捉えることができ、分離過程あるいは合成過程におけるサンプルの状態を正確且つ確実に観察することが可能となる。
【0072】
この場合、固定部品616の内部には、図6に示すように、所定の照明装置(例えば、エッジ式のLED(Light Emitting Diode)バックライト)622が設けられており、サンプルを顕微鏡608の対物レンズ608aとは反対側から照明装置622で照らして透過させた状態で観察できるようにしている。これにより、チップ1内におけるサンプルの状態をより鮮明に観察することができ、対物レンズ608aによってサンプル状態を、よりクリアな顕微鏡画像として捉えることができる。なお、照明装置(エッジ式のLEDバックライト)22の光源であるLED22aは、上述したCCDカメラ610と同様に、回転盤604の回転によって生じる遠心力の作用を軽減させるため、回転盤604の回転中心の近傍に位置付けられている。
【0073】
ここで、照明装置622は、サンプルを照らして透過させた状態で観察することが可能であれば、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、サンプルの性質や種類などに応じて、任意の照明装置を選択すればよく、一例として、本実施形態においては、株式会社モリテックス製のLED照明(エッジ式バックライト)MEBL−CW25を用いている。ただし、例えば、かかる照明装置622と同等、若しくはそれ以上の性能を有する照明装置であってもよい。
【0074】
また、固定部品616は、顕微鏡608の対物レンズ608aとサンプルとの焦点距離を調整し、適正距離に設定された状態で、対物レンズ608aとサンプルとの相対位置、具体的には、対物レンズ608aのサンプルに対する高さを固定している。これにより、分離反応中あるいは合成反応中、サンプルに対する顕微鏡608の対物レンズ608aの高さを一定に維持することができ、サンプルの状態を安定して観察することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態においては、回転盤604に対し、上述した顕微鏡画像を動画として撮影するCCDカメラ610とともに、CCDカメラ610で撮影された顕微鏡画像のカメラ映像(撮影像)をリアルタイムで動画として無線伝送するための映像無線伝送デバイス612が取り付けられている。このように、CCDカメラ610で撮影された映像を外部受信機(図示しない)に対して伝送する方式として、有線方式ではなく無線方式を採用することで、回転盤604とともにCCDカメラ610ならびに映像無線伝送デバイス612を回転させた場合であっても、これらから直接信号線を取り出す必要がなく、信号線の取り回しを考慮する必要が全くない。この結果、CCDカメラ610および映像無線伝送デバイス612の周辺構造を容易に簡略化させることができる。
【0076】
また、信号線の取り回しを考慮する必要がないため、CCDカメラ610ならびに映像無線伝送デバイス612を回転盤604(具体的には、顕微鏡608およびチップ1内のサンプル)とともに回転させる構造とすることができ、回転盤604の回転数による制約を受けることなく、任意の高フレームレート(コマ数)でCCDカメラ610によって顕微鏡画像を撮影することができ、撮影した顕微鏡画像のカメラ映像を外部の受信装置(図示しない)に対して伝送することができる。これにより、かかる外部受信装置として、例えば、液晶パネルやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどの表示器を設けることで、上述したカメラ映像(すなわち、チップ1の内部におけるサンプルの状態)を、かかる表示器においてリアルタイムに確認しながらサンプルの分離反応あるいは合成反応を進行させることができる。また、パソコンなどを介して収録したカメラ映像を解析することにより、サンプル(具体的には、その内部物質や、分離物質あるいは合成物質など)の挙動をモニタし、回転盤604の最適な回転条件(別の捉え方をすれば、サンプルに作用させる遠心力の最適な大きさ)を推定するとともに、推定された最適条件(例えば、回転速度や回転時間など)で回転盤604を回転制御することも可能となる。
【0077】
この場合、映像無線伝送デバイス612は、上述したCCDカメラ610と同様に、回転盤604の回転によって生じる遠心力の作用を軽減させるため、回転盤604の回転中心の近傍に位置付けられており、CCDカメラ610によって撮影されたカメラ映像の映像データを所定のアンテナ618から外部受信装置(受信機に接続された液晶パネルやCRTディスプレイなどの表示器)に対して無線伝送している。また同様に、アンテナ618も回転盤604の回転によって生じる遠心力の作用を軽減させるため、回転盤604の回転中心の近傍、具体的には、回転盤604の回転中心の延長線上に立ち上がる構成としている。
【0078】
なお、映像無線伝送デバイス612がカメラ映像の映像データ(映像信号)を外部受信装置(図示しない)へ無線伝送する際、映像データの伝送速度(ビットレート)やデータ形式(周波数や圧縮・非圧縮の有無など)は、装置APの使用態様や使用条件などに応じて任意に設定すればよい。例えば、本実施形態においては、一例として、CCDカメラ610が撮影した顕微鏡画像のカメラ映像を、映像無線伝送デバイス612によって周波数が2.4GHzの非圧縮デジタル信号の映像データに変換し、映像データを外部受信装置に対して無線伝送している。これにより、映像無線伝送デバイスから送信された映像信号を欠落させることなく、外部受信装置に対して送信することができ、外部受信装置においてサンプル状態をクリアで安定した映像で確認しながら、分離反応あるいは合成反応を進行させることができる。ただし、映像無線伝送デバイス612から外部受信装置へ伝送する映像データは、上述した非圧縮のデジタル信号に代えて、圧縮信号であってもよいし、アナログ信号としてあってもよい。
【0079】
ここで、CCDカメラ610は、顕微鏡608で捉えたチップ1内におけるサンプル状態の顕微鏡画像を撮影することが可能であれば、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、装置APの使用態様や使用条件などに応じて、任意のCCDカメラを選択すればよく、一例として、本実施形態においては、株式会社モスウェル製のカラーボードカメラMSC−90を用いている。ただし、例えば、かかるCCDカメラ610と同等、若しくはそれ以上の性能を有するCCDカメラであってもよい。
【0080】
また、映像無線伝送デバイス612は、CCDカメラ610が撮影した顕微鏡画像のカメラ映像を外部受信装置(図示しない)に対して無線伝送することが可能であれば、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、装置APの使用態様や使用条件などに応じて、任意の映像無線伝送デバイスを選択すればよく、一例として、本実施形態においては、株式会社アイデンビデオトロニクス製のTRX24miniを用いている。ただし、例えば、かかる映像無線伝送デバイス612と同等、若しくはそれ以上の性能を有する映像無線伝送デバイスであってもよい。
【0081】
なお、上述したCCDカメラ610、映像無線伝送デバイス612、ならびに照明装置622など、装置APに設けられた各種の電装部品は、図5および図7に示すように、所定の電源装置(例えば、バッテリー)624によって駆動されている。この場合、電源装置624は、かかる各種の電装部品(CCDカメラ610、映像無線伝送デバイス612、ならびに照明装置622など)を正常に動作させることが可能な電力を、サンプルに対する分離反応中あるいは合成反応中、安定して供給可能であれば、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、上述した各種の電装部品が要する電力の大きさなどに応じて、任意の電源装置を選択すればよく、一例として、本実施形態においては、ULTRA LIFE株式会社製のバッテリーであるUBBP01(電圧3.7v、バッテリー容量1.8Ah)を用いている。ただし、例えば、かかる電源装置624と同等、若しくはそれ以上の性能を有する電源装置であってもよい。
【0082】
本実施形態においては、かかる電源装置(バッテリー)624を4個直列で使用し、これら4つのバッテリー624を、回転盤604の回転中心に対して対称となる位置へ(180°の位相差で)2つずつ均等に配置しているとともに、顕微鏡608、チップ1および固定部品616に対して90°の位相差で配置している(図7参照)。この場合、バッテリー624は、一例として、回転盤604の盤面604aを凹状に窪ませて成る取付部へ埋設され、板状部材626で固定されて回転盤604に対して取り付けられている。
【0083】
ここで、かかる装置APにおいて、回転盤604の回転軸602は、図示しない所定の駆動装置(例えば、スピンドルモータなど)によって回転されているとともに、各種の軸受627によって回転自在に支持されており、図8には、一例として、転動体として玉を適用した転がり軸受627によって回転軸602を支持した構成が示されている。この場合、転がり軸受627は、転動体として玉を適用した各種の玉軸受の他、転動体として各種のころ(円筒ころ、円すいころおよび球面ころなど)を適用したころ軸受であってもよい。また、図8に示す構成においては、回転軸602を2つの軸受627で支持する構造としているが、回転軸602は、1つの軸受627で支持してもよいし、3つ以上の軸受627で支持してもよい。
【0084】
なお、軸受627として、上述した各種の転がり軸受に代えてエア軸受を適用し、回転軸602をエア軸受によって回転自在に支持することで、回転盤604が回転する際に生ずる回転振動を格段に軽減させることができ、ひいては、顕微鏡608やCCDカメラ610の回転振動を抑制させ、分離反応中あるいは合成反応中におけるサンプル状態の安定した観察ならびに撮影を行うことが可能となり、さらに好ましい。ここで、一例として、エア軸受は、回転軸602の外周面を全周に亘って覆うように位置付けられた筒状のハウジングによって回転軸602を回転自在に支持する構造を成し、ハウジングの内周面(回転軸602の外周面に対する対向面)に設けた複数の噴出口(噴出孔)から回転軸602の外周面へ向けてエアを吹き付け、ハウジングの内周面と回転軸602の外周面とを非接触状態に保つことで、回転軸602を非常に滑らかに回転させることができる。
【0085】
また、本実施形態において、回転軸602および回転軸602を回転自在に支持する軸受627は、これらがハウジングとともに一体を成すスピンドルユニット628として構成されており、スピンドルユニット628が回転盤604に装着されることで、回転盤604が回転軸602を中心として回転される構造となっている。この場合、回転盤604には、その中央部が上側(顕微鏡608、チップ1、CCDカメラ610、および映像無線伝送デバイス612などが配設されている側)へ所定の大きさで凸状に突出し、回転盤604の下側(上述した各部品などが配設されている側とは反対側)を凸状に窪ませて形成されたスピンドルユニット取付部604bが設けられており、スピンドルユニット628は、回転盤604の下側からスピンドルユニット取付部604bへ挿入されて、回転盤604に対して取り付けられている。
【0086】
このように、装置APをスピンドルユニット628に対して回転盤604が被さるような構造とすることで、顕微鏡608、チップ1、CCDカメラ610、および映像無線伝送デバイス612などが配設された回転盤604の回転時における回転重心と、回転軸602が軸受627によって回転自在に支持された軸支部分との距離を狭めることができ、軸支部分に生じる回転モーメントを有効に軽減させることができる。
【0087】
なお、上述した本実施形態において、装置APの構成部材の材料については特に言及しなかったが、装置APの使用態様や使用目的などに応じて各種の素材を任意に選択して使用すればよい。一例として、本実施形態においては、回転盤604の材料、ならびに顕微鏡608、チップ1、CCDカメラ610、および映像無線伝送デバイス612などを回転盤604に対して取り付けるための各種の取付部材を高強度Al合金(A2017)製とすることで、回転時における剛性を十分に確保しながら、これらの部材の軽量化を図っている。
【0088】
また、本実施形態においては、回転時における装置APの重量バランスを均等にし、回転時に生じるスピンドルユニット628に対する振れ回り応力を減少させるため、回転盤604に対し、顕微鏡608およびチップ1の配設位置と回転中心に対して略対称となる位置(回転中心に対して反対側)へ所定のバランスウェイト630を設けている。バランスウェイト630の重量、および配設位置は、回転盤604に配設された顕微鏡608、チップ1、CCDカメラ610、および映像無線伝送デバイス612などの各種の部材重量やそのバランス(重心)などに応じて、上述したスピンドルユニット628に対する振れ回り応力が小さくなるように調整すればよい。
【0089】
なお、装置APにおいて、より高精度にサンプルの分離反応あるいは合成反応を観察する場合、スピンドルユニット628として、回転軸602が上述したエア軸受によって回転自在に支持されたエアスピンドルユニットを回転盤604に対して装着する構成としてもよい。これにより、回転盤604が回転する際に生じる回転振動を格段に軽減させることができ、分離反応中あるいは合成反応中におけるサンプル状態をさらに安定した高画質のカメラ映像により観察することが可能となる。この場合、エアスピンドルユニットとしては、例えば、日本精工株式会社製のGBS100Hなどを用いることができる。
【0090】
次に、上述のようにチップ1を可視下遠心装置APに装着し回転させて発生する遠心力をサンプル(試料溶液)に作用させて流体を駆動し流動させることによる作用効果について説明する。
【0091】
チップ1に外部機器との流体接続(流体駆動に例えばポンプを利用する場合)、及び、電気的接続(流体駆動に例えば図1Aのように電気浸透流などを利用する場合)が不要となり、チップ1の構造が簡素化できる。この効果として、チップ1の取り扱いが容易となり、自動化しやすく、解析速度も向上する。また、チップ1をさらに小型化することができ、より微小サンプルでの解析が可能となる。この場合は、細胞は電気的に破砕することができないので、力学的な衝突によって破砕させる。
【0092】
また、周辺機器も小型化できるため、測定系全体を小型化できる。
【0093】
また、サンプルの化学的な特性に影響されず、流体を駆動させることができる。特に、電界印加により電気分解し易い溶液を主体とするサンプルでも、駆動(解析)が可能である。また、電気的な刺激によって、変化する可能性のあるサンプルに対しても、これらの影響を気にせず利用でき、適用範囲が広がり好ましい。
【0094】
また、サンプルの遠心分離効果を同時に発生させることができ、サンプルの比重による分離が可能である。
【0095】
さらに、本実施形態の可視下遠心装置を利用することによって、低回転数(低遠心力)の領域での反応であっても、情報が欠落(コマ落ち)することなく、検出状態を把握することができる。
【0096】
次に、図5〜図9の可視下遠心装置APにサンプルに対し上方から照明をあてる落射照明装置を付加した構成について図10を参照して説明する。図10は可視下遠心装置APに落射照明装置を付加した構成を示す図8と同様の縦断面図である。
【0097】
溶液中の細胞やガラスビーズなど、背景と光学的な透過率が同程度(透明)の物質を観察する場合、バックライトによる投下照明では、形状による陰影(コントラスト)が得難く、観察が困難である。この対策として、図10のように、可視下遠心装置APに落射照明装置を設けた。
【0098】
すなわち、対物レンズ608aの上部のミラー614をハーフミラー614aとし、ハーフミラー614aの上方にLED照明部640を設けることで同軸(落射)照明装置を構成した。LED照明部640からの照明光mがハーフミラー614aを透過し対物レンズ608aを通してチップ1内のサンプルを照射する。また、サンプルからの反射光nは対物レンズ608aを通してハーフミラー614aで反射しCCDカメラ610へ到達する。
【0099】
LED照明部640には、例えば、市販の高輝度緑色LED(OPTSOURCE社製 100047シリーズ、φ3mm、光度6800mcd)を利用できるが、対象サンプルによって色調、輝度を選択することができる。また、遠心強度(回転数、時間)によってLEDの破損が懸念される場合には、光源(LED)を回転中心付近に配置して光ファイバで顕微鏡に誘導することもできる。
【0100】
図10の落射照明装置を付加した構成によれば、チップ1内のサンプルからの反射光を観察することによって、光学的透過率が背景と周程度でもサンプル表面の反射による陰影(コントラスト)を得ることができるので、サンプルの挙動を明瞭に観察することができる。
【実施例】
【0101】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0102】
本実施例は、上述の可視下遠心装置APをポリスチレンビーズのサイズ選別に利用したものである。すなわち、図11のようなダンベル型流路(両端に円形の溶液槽を設け、溶液槽同士を直線流路で接続した形状の流路)を形成した流路形成チップを作製し、可視下遠心装置APに設置し、流路形成チップ内を溶液で満たした状態で反遠心側ヘサイズの異なるポリスチレンビーズ溶液を導入しビーズが遠心力によって流路内を通過する速度を測定した。
【0103】
流路形成チップは、図11のような微細流路パターンを形成したPDMS樹脂をガラス基板上へ貼り付けた構造である。流路パターンは、直径3mmの円形の溶液層を700μm幅の直線流路で接続した形状で、深さ約120μmである。溶液層の片側には溶液導入用の孔が空けてあり、ここからビーズ溶液を導入することができる。
【0104】
溶液導入用の孔を反遠心側にして直線流路部分の観察領域がCCDカメラで観察できるように可視下遠心装置APに取り付ける。このとき、流路内はテスト溶液(0.1Mマンニトール水溶液)で満たされている。溶液導入孔からポリスチレン溶液を導入し、可視下遠心装置APを駆動すると、遠心力によってポリスチレンビーズが直線流路を介して遠心側の溶液槽へ移動する。可視下遠心装置APでは、ポリスチレンビーズが直線流路内を移動する速度を任意の回転数(遠心力)で測定できるため、ポリスチレンビーズの移動速度vを正確に測定することができる。
【0105】
直径10μmと直径40μmのポリスチレンビーズ(モリテックス社製 4000シリーズ)をサンプルとして、各遠心力下における移動(沈降)速度vの違いを測定した。その測定結果を図12に示す。図12から理解されるように、直径の大きいビーズの方が移動速度が大きく、各ビーズの挙動を観察しながらサイズ選別が可能なことが実証された。
【0106】
以上のように、本発明を実施するための最良の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能であり、かかる変形例も本発明の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1A】実施形態1に係る流路形成チップの平面図である。
【図1B】図1Aの線IB−IBに沿った断面図である。
【図2A】図1Aの流路部分の拡大平面図である。
【図2B】図1Bは図1AのIIB−IIBに沿った断面図である。
【図3】蛍光標識されたDNAを吸着したシリカビーズの模式図である。
【図4A】実施形態2に係る流路形成チップの凹部を示す平面図である。
【図4B】細胞破砕部を示す平面図である。
【図5】実施形態3に係る可視下遠心装置の全体構成例を示す斜視図である。
【図6】図5の固定部品の内部の構成を説明するための部分構成図である。
【図7】図5の可視下遠心装置の全体構成例を上から見た上面図である。
【図8】図5の回転盤に対してスピンドルユニットを装着させた状態の可視下遠心装置の縦断面図である。
【図9】スピンドルユニットとしてエアスピンドルユニット628を装着させた状態の可視下遠心装置の全体斜視図である。
【図10】可視下遠心装置APに落射照明装置を付加した構成を示す図8と同様の縦断面図である。
【図11】本実施例で使用した流路基板の流路パターンを概略的に示す平面図である。
【図12】本実施例において直径の異なるポリスチレンビーズが直線流路内を移動するときの遠心加速度と移動速度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0108】
1 流路形成チップ
2 凹部
11 基板
12 流路構成部材
21,22 貯留槽
23 流路
24 拘束部(拘束手段)
25 シリカビーズ(捕獲手段)
101 流路形成チップ
123 流路
124 拘束部(拘束手段)
125 シリカビーズ(細胞捕獲手段)
126 細胞破砕部
AP 可視下遠心装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を移送する流路を備える流路形成チップであって、
板状の基板と、
前記流路を構成する流路構成溝が設けられ、前記流路構成溝を覆うように前記基板に装着されて前記流路を形成する流路構成部材と、
前記流路において前記試料中の捕獲対象物を捕獲するための捕獲手段の移動を拘束するように前記流路の途中に設けられた拘束手段と、を備え、
前記流路構成部材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂から形成されている流路形成チップ。
【請求項2】
前記基板は、ガラス材から形成されている請求項1に記載の流路形成チップ。
【請求項3】
前記拘束手段は、前記流路の側面から流路幅を狭くする方向に突出して形成される凸部から構成され、前記凸部における流路幅は、前記捕獲手段の径よりも小さい請求項1又は2に記載の流路形成チップ。
【請求項4】
前記捕獲手段は、多孔質粒子である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流路形成チップ。
【請求項5】
前記多孔質粒子は、その孔部にプローブが装着されている請求項4に記載の流路形成チップ。
【請求項6】
前記多孔質粒子は、シリカを主成分とする直径100μm以下の球形ビーズである請求項4又は5に記載の流路形成チップ。
【請求項7】
前記流路の上流側及び下流側に前記試料を移送させるための電極を備える請求項1乃至6のいずれか1項に記載の流路形成チップ。
【請求項8】
前記拘束手段よりも上流側に前記試料に含まれる細胞を破砕する破砕手段を流路中に備える請求項1乃至7のいずれか1項に記載の流路形成チップ。
【請求項9】
前記流路を複数設け、前記複数の流路の各々に、前記拘束手段を設ける請求項1乃至8のいずれか1項に流路形成チップ。
【請求項10】
前記試料を移送させるために遠心装置に取り付けられて使用される請求項1乃至9のいずれか1項に記載の流路形成チップ。
【請求項11】
前記遠心装置は、試料を収容した前記流路形成チップを取り付けて所定の回転軸を中心に回転する回転盤と、前記流路形成チップ内における試料の状態を目視により観察するための顕微鏡と、を具備し、前記流路形成チップ内の試料または試料中の物質に対して遠心力を作用させることで前記試料から所定の物質を分離または合成させる可視下遠心装置である請求項10に記載の流路形成チップ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−249681(P2008−249681A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171772(P2007−171772)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】