説明

流量測定装置

【課題】流量センサからの出力信号である流量電圧信号をデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路を備えた流量測定装置において、出力変動を低減させるとともに、流量検出精度を向上させる。
【解決手段】流量測定装置1は、流量電圧信号のデジタルデータ(流量デジタルデータ)を用いて演算処理を行うデジタル演算部14を備え、デジタル演算部14において、流量デジタルデータを少なくとも連続する2個以上の所定個数での移動平均により平均化処理を行う。すなわち、流量測定装置1内で、流量デジタルデータの平均化処理をする。これによれば、流量測定装置1内で、流量デジタルデータの全てを用いて平均化処理ができるため、ECU17に取り込んでECU17内で平均化処理する場合と比較して、平均化処理の精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量検出部からの出力信号である流量電圧信号をデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路を備えた流量測定装置に関するもので、特に内燃機関の流量測定装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
流量測定装置は、例えば、自動車用エンジンの吸入空気量を計測するもので、流路を流れる空気の流量を検出する流量検出部を有し、流量に応じた出力信号を出力する。
ところで、この出力信号は空気の流れの影響で変動する。そこで、出力信号の変動が回転変動やトルク変動に及ぼす影響を小さくするため、出力信号に平均化処理を施す技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、流量測定装置からの出力信号に基づき空気流量を算出し、アイドル運転中の場合にのみ、流量測定装置からの出力信号の平滑化処理を行う点が開示されている。これによれば、アイドル運転時の流量測定装置の流量検出精度が向上する。
しかしながら、アイドル運転時以外でも、空気流量が大きくなった場合に、流量測定装置付近で不安定な空気の流れが発生すると、空気流量の出力信号が変動し、回転変動やトルク変動に影響を与える虞があるが、これに対する対策はとられていない。
【0004】
なお、本出願人は、流量測定装置内で、流量検出部から空気の流量に応じて出力される電圧信号(流量電圧信号)をA/D変換して出力する技術、及び、流量電圧信号に対するA/D変換のサンプリング周期を短くする技術を発明している(特願2010−107330参照)。
【0005】
このような流量測定装置において、流量測定装置から出力されるデータをECU(エンジン制御ユニット)に取り込んで、ECU内で平均化処理することも考えられるが、ECUはある所定周期で流量測定装置のデータを取り込むため、電圧信号に対するA/D変換のサンプリング周期が短いと、全てのデータを取り込むことができず、平均化の精度が悪くなり、流量検出精度が悪化する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−159393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、流量検出部からの出力信号である流量電圧信号をデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路を備えた流量測定装置において、出力変動を低減させるとともに、流量検出精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の流量測定装置は、流路を流れる空気の流量を検出し、流量に応じた電圧(以下、流量電圧信号と呼ぶ)を出力する流量検出部と、この流量検出部からの流量電圧信号をデジタルデータに変換するアナログ/デジタル変換部と、このアナログ/デジタル変換部により得られる流量電圧信号のデジタルデータ(以下、流量デジタルデータと呼ぶ)を用いて演算処理を行う信号処理部とを備える。
【0009】
信号処理部は、流量デジタルデータを、少なくとも連続する2個以上の所定個数のデータで平均化する。そして、平均化された流量デジタルデータが流量信号として出力される。
【0010】
すなわち、本発明では、流量測定装置内で、流量デジタルデータの平均化処理をする。これによれば、流量電圧信号に対するデジタルデータ変換のサンプリング周期に応じて、デジタルデータ全てを用いて平均化処理をすることができる。このため、ECUに取り込んでECU内で平均化処理する場合と比較して、平均化処理の精度を向上させることができるので、出力変動を低減させるとともに、流量検出精度を向上させることができる。
【0011】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の流量測定装置によれば、信号処理部は、移動平均によって流量デジタルデータを平均化する。
これは、請求項1の実施態様の1つであり、請求項1と同様の作用効果を奏する。
【0012】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の流量測定装置によれば、信号処理部は、平均化のデータ個数を運転条件によって切り替える。
例えば、空気流量が安定している運転条件では、平均化のデータ個数を多くし、空気流量の流量変化が過渡時であるような運転条件では、平均化のデータ個数を少なくすることで、平均化精度をより向上することができる。
【0013】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の流量測定装置は、平均化された流量デジタルデータを、周波数信号に変換して、流量信号として出力する周波数変換部を備える。
例えば、流量デジタルデータを電圧信号に変換してECUに出力する場合、ECU内の電源電圧のばらつきや、ハーネス線の電圧降下、コネクタ類の接触抵抗変動などの影響を受けて流量デジタルデータの電圧信号が変動し、流量検出精度が低下することがある。しかし、流量デジタルデータを周波数信号に変換するならば、そのような影響を受けることがなく、流量検出精度が向上する。
【0014】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の流量測定装置は、流量電圧信号の補正処理に用いる複数の基準電圧信号を出力する基準電圧発生部と、複数の基準電圧信号および流量電圧信号を所定の順序で順次選択するマルチプレクサとを備える。
そして、アナログ/デジタル変換部は、複数の基準電圧信号および流量電圧信号をマルチプレクサによって選択された順序で順次サンプリングしてデジタルデータに変換し、信号処理部は、流量デジタルデータを、アナログ/デジタル変換部により得られる複数の基準電圧信号のデジタルデータに基づいて設定される直線補正式を用いて補正する。
【0015】
これによれば、アナログ/デジタル変換部から出力された流量電圧信号のデジタルデータのアナログ−デジタル変換特性は、非線形(非直線)となっているが、信号処理部で直線補正されるため、デジタルデータへの変換誤差を低減でき、流量検出精度を向上させることができる。
【0016】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載の流量測定装置は、流路を流れる空気の温度を検出し、温度に応じた電圧を出力する温度検出部を備える。
そして、マルチプレクサは、複数の基準電圧信号、温度検出部の出力信号である温度電圧信号および流量電圧信号を所定の順序で順次選択し、アナログ/デジタル変換部は、複数の基準電圧信号、温度電圧信号および流量電圧信号をマルチプレクサによって選択された順序で順次サンプリングしてデジタルデータに変換し、信号処理部は、流量デジタルデータを、アナログ/デジタル変換部により得られる温度電圧信号のデジタルデータを用いて補正する。
【0017】
これによれば、流量検出部の個体差に起因して流量出力特性や温度特性にばらつきがある場合であっても、流量検出部の個体差ばらつきを補正できるので、流量検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】流量測定装置の断面図である(実施例1)。
【図2】流量測定装置の基本的構成を示すブロック図である(実施例1)。
【図3】平均化処理による効果を示す図である(実施例1)。
【図4】流量測定装置を搭載する内燃機関(ガソリンエンジン)及び周辺装置を表す概略図である(実施例3)。
【図5】(a)は流量測定装置の基本的構成を示すブロック図であり、(b)はセンサチップを示した模式図である(実施例4)。
【図6】複数の基準電圧信号、温度電圧信号および流量電圧信号をサンプリングするタイミングを示したフローチャートである(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の流量測定装置は、流路を流れる空気の流量を検出し、流量電圧信号を出力する流量検出部と、この流量検出部からの流量電圧信号をデジタルデータに変換するアナログ/デジタル変換部と、このアナログ/デジタル変換部により得られる流量デジタルデータを用いて演算処理を行う信号処理部とを備える。
【0020】
信号処理部は、流量デジタルデータを、少なくとも連続する2個以上の所定個数のデータで平均化する。
そして、平均化された流量デジタルデータが流量信号として出力される。
すなわち、本発明の流量測定装置は、流量測定装置内で流量デジタルデータの平均化処理をする。
【実施例】
【0021】
〔実施例1〕
実施例1の流量測定装置1の構成を、図1〜図3を用いて説明する。
流量測定装置1は、例えば、自動車用エンジンの吸入空気量を計測するエアフローメータであり、エアクリーナの下流側に接続するダクト2に取り付けられている。
流量測定装置1は、空気の流量に応じて検出信号を出力する流量センサ3(流量検出部)と、流量センサ3と電気的に接続し、流量センサ3の入出力を制御する電子回路を有する回路モジュール4とを備える(図1参照)。
【0022】
流量センサ3は、半導体基板の表面に薄膜抵抗体で形成された発熱素子(図示せず)と感温素子(図示せず)とを有する。
流量測定装置1は、ダクト2の内部を流れる空気(主流)の一部を取り込むバイパス流路5を形成する樹脂製のハウジング6を備え、流量センサ3はバイパス流路5に配置され、バイパス流路5の流量に応じて電圧信号を出力する。
なお、本実施例では、バイパス流路5は、このバイパス流路5からさらに分岐したサブバイパス流路7を有しており、サブバイパス流路7に流量センサ3が配置されている。なお、サブバイパス流路7の出口8は、ハウジング6の側面で主流下流方向に開口している。
【0023】
回路モジュール4は、流量センサ3と入出力可能に接続されており、流量センサ3から出力される検出信号を演算及び増幅して出力する演算処理回路12等の電子回路が内蔵されている(図2参照)。
演算処理回路12は、A/D変換部13(アナログ/デジタル変換部)と、デジタル演算部14(信号処理部)と、周波数変換部15と、出力部16とを有する(図2参照)。
【0024】
A/D変換部13は、流量センサ3からの流量電圧信号をデジタルデータに変換する回路である。
デジタル演算部14は、A/D変換部13により得られる流量電圧信号のデジタルデータ(すなわち、流量デジタルデータ)を用いて演算処理を行う回路である。
周波数変換部15は、デジタル演算部14から出力される流量デジタルデータを周波数信号に変換して流量信号として出力する回路である。
出力部16は、周波数変換部15により得られる周波数信号をECU17(エンジン制御ユニット)に出力する回路である。
【0025】
〔実施例1の特徴〕
実施例1の流量測定装置1では、デジタル演算部14において、流量デジタルデータを少なくとも連続する2個以上の所定個数での移動平均により平均化処理を行う。
そして、平均化処理された流量デジタルデータが、周波数変換部15において周波数信号に変換され、流量信号としてECU17に出力される。
なお、平均化の方法は、単純移動平均、加重移動平均、指数移動平均等様々な方法が取り得る。
【0026】
図3は、平均化処理を行った場合の流量信号及び平均化処理を行わない場合の流量信号の変動幅を示す図である。
図3では、例として、連続する2個のデータの平均値を順次算出する単純移動平均により平均化処理した流量信号(単純平均(2個))、連続する2個のデータによる加重移動平均により平均化処理した流量信号(加重平均(2個))、連続する2個のデータによる指数移動平均により平均化処理した流量信号(指数平均(2個))、連続する4個のデータの平均値を順次算出する単純移動平均により平均化処理した流量信号(単純平均(4個))の変動幅を示している。
【0027】
図3によれば、平均化処理を行った場合は、平均化処理を行わない場合(平均化無)と比べ、流量信号の変動幅が少なくなっていることが分かる。
つまり、平均化処理を行うことにより、流量測定装置1からの出力変動が低減されるため、回転変動やトルク変動が小さくなる。
【0028】
そして、本実施例では、流量測定装置1内で、流量デジタルデータの平均化処理をするため、流量電圧信号に対するデジタルデータ変換のサンプリング周期に応じて、デジタルデータ全てを用いて平均化処理をすることができる。
【0029】
なお、流量測定装置1から出力されるデータをECU17に取り込んで、ECU17内で平均化処理する場合、ECU17はある所定周期でしか流量測定装置1のデータを取り込まないため、電圧信号に対するA/D変換のサンプリング周期が短いと、全てのデータを取り込むことができず、平均化の精度が悪くなり、流量検出精度が悪化する虞がある。しかし、本実施例では、流量測定装置1内で、流量デジタルデータの全てを用いて平均化処理ができるため、ECU17に取り込んでECU17内で平均化処理する場合と比較して、平均化処理の精度を向上させることができる。
【0030】
〔実施例2〕
実施例2を、実施例1とは異なる点を中心に説明する。
実施例2の流量測定装置1では、デジタル演算部14における平均化処理の際に用いる平均化のデータ個数を運転条件によって切り替える。
すなわち、流量測定装置1内で、時系列に対しての空気流量の変動幅を監視し、変動幅に応じてデータ個数を決める。
【0031】
例えば、変動幅が所定値以内の場合には、多いデータ個数(例えば6個)で移動平均を行い、変動幅が所定値以上の場合には、少ないデータ個数(例えば4個)で移動平均を行う。これによれば、実施例1の効果に加えて、空気流量の変動幅が大きい運転条件のときでも平均化精度が向上するという作用効果を奏する。
【0032】
〔実施例3〕
実施例3を、実施例2とは異なる点を中心に、図4を用いて説明する。
実施例3の流量測定装置1はガソリンエンジン20に搭載されるものであって、エンジン回転数とスロットル開度の変動に応じて、デジタル演算部14における平均化処理の際に用いる平均化のデータ個数を切り替える。
【0033】
すなわち、ECU17に入力されるエンジン回転数センサ21及びスロットル開度センサ22からの出力信号により、ECU17内でエンジン回転数とスロットル開度の変動を監視し、エンジン回転数とスロットル開度の変動幅が所定値以上になった場合、ECU17からデジタル演算部14にデータ個数切替指令が送られ、デジタル演算部14において平均化処理の際に用いる平均化のデータ個数が切り替えられる。
なお、ECU17は、流量測定装置1から入力された流量信号に基づいて噴射量を算出し、燃料噴射弁23に制御信号を送る。
【0034】
これにより、実施例1の作用効果に加えて実施例2と同様の効果を得ることができる。
なお、エンジン回転数とスロットル開度の変動ではなく、トルク変動を監視し、トルク変動幅に応じてデジタル演算部14における平均化処理の際に用いる平均化のデータ個数を切り替えてもよい。
【0035】
〔実施例4〕
実施例4を、実施例1とは異なる点を中心に、図5、図6を用いて説明する。
実施例4の流量測定装置1は、流量センサ3、A/D変換部13、デジタル演算部14、周波数変換部15、出力部16に加えて、複数の基準電圧信号を出力する基準電圧発生部27と、流路を流れる空気の温度を検出する温度検出部28と、複数の信号を所定の順序で順次選択するマルチプレクサ29とを備える(図5(a)参照)。
【0036】
本実施例の流量センサ3は、センサチップ(シリコンチップ、回路基板)の薄膜部の中央に発熱抵抗体31を配置し、この発熱抵抗体31を中心にして空気の流れ方向(吸気流方向)に沿った上流側に空気流量電圧信号検出用の温度検出抵抗体32、33を配置し、下流側に空気流量電圧信号検出用の温度検出抵抗体34、35を配置している(図5(b)参照)。
そして、発熱抵抗体31の発熱温度を制御するヒータ温度制御回路36と、発熱抵抗体31の発熱により生じる温度分布を基にダクト2を流れる空気流量と流れ方向とに応じた電圧を出力する空気流量検出回路37とを備える。
【0037】
発熱抵抗体31は、温度により抵抗値が変化すると共に、加熱電流が流れると発熱する。
ヒータ温度制御回路36は、固定抵抗器40と温度検出抵抗体41とが直列に接続され、固定抵抗器42と傍熱抵抗器43とが直列に接続されてヒータ温度制御ブリッジ回路(第1ブリッジ回路)が構成されている。
【0038】
なお、温度検出抵抗体41は、周囲の温度(吸気温度)により抵抗値が変化する感温抵抗体であって、センサチップ上において発熱抵抗体31の発熱の影響を受けない場所に配置されている。
傍熱抵抗器43は、発熱抵抗体31の熱を受けて抵抗値が変化する感温抵抗体であって、センサチップ上において発熱抵抗体31の発熱の影響を受ける場所に配置されている。
また、第1ブリッジ回路の固定抵抗器40と固定抵抗器42との接続点には、所定の電源電圧(5V以下の定電圧)が印加されている。また、第1ブリッジ回路の温度検出抵抗体41と傍熱抵抗器43との接続点の電位は、グランド(GND)電位となっている。
【0039】
また、ヒータ温度制御回路36は、第1ブリッジ回路の他に、差動増幅器(オペアンプ)44、トランジスタ45等を備え、温度検出抵抗体41により検出される吸気温度に応じて発熱抵抗体31への供給電力を可変制御して傍熱抵抗器43の温度を温度検出抵抗体41により検出される吸気温度よりも一定の温度だけ高くするように構成されている。
【0040】
空気流量検出回路37は、温度検出抵抗体32と温度検出抵抗体34とが直列接続され、温度検出抵抗体33と温度検出抵抗体35とが直列接続されて流量信号検出ブリッジ回路(第2ブリッジ回路)が構成されている。
なお、温度検出抵抗体32〜35は、それぞれ、抵抗値が温度により変化する温度検出感温抵抗体であって、発熱抵抗体31の上流側において下流側から順に温度検出抵抗体32、温度検出抵抗体33と配置されており、発熱抵抗体31の下流側において上流側から順に温度検出抵抗体34、温度検出抵抗体35と配置されている(図5(b)参照)。
【0041】
また、第2ブリッジ回路の温度検出抵抗体34と温度検出抵抗体33との接続点には、電源電圧(5V以下の定電圧)が印加されている。また、第2ブリッジ回路の温度検出抵抗体32と温度検出抵抗体35との接続点の電位は、グランド(GND)電位となっている。
空気流量検出回路37は、第2ブリッジ回路の他に、差動増幅器(オペアンプ)48等を備え、差動増幅器48により第2ブリッジ回路のブリッジ出力電圧(ブリッジ間電位差)を求め、このブリッジ出力電圧を増幅して空気流量電圧信号Vqとしてマルチプレクサ29に出力する。
【0042】
基準電圧発生部27は、互いに電圧値の異なる3種類の基準電圧信号(基準電圧信号Vref1、Vref2、Vref3)を出力する回路であり、基準電圧信号Vref1〜Vref3をそれぞれマルチプレクサ29に出力する第1〜3基準電位生成部REF1〜3を有している。
基準電圧信号Vref1〜Vref3は、後述するアナログ−デジタル変換特性の直線補正処理(A/D直線補正処理)に用いられる。
【0043】
温度検出部28は、センサチップ上に配置され、流通する空気の温度(吸気温度)を検出し、この吸気温度に応じた電圧を出力する回路であって、固定抵抗器50と温度検出抵抗体51とが直列接続され、固定抵抗器50の一端に定電圧Vccを印加することにより、固定抵抗器50と温度検出抵抗体51との接続点から定電圧Vccの分圧値を取り出せるように構成されている。定電圧Vccの分圧値は、演算増幅器(オペアンプ)52により増幅されて吸気温度電圧信号Vtとしてマルチプレクサ29に出力される。
【0044】
マルチプレクサ29の5つのアナログスイッチのうちの3つの第1〜第3アナログスイッチには、基準電圧信号(Vref1、Vref2、Vref3)を出力する基準電圧発生部27が接続されており、第4アナログスイッチには、吸気温度電圧信号Vtを出力する温度検出部28が接続されており、第5アナログスイッチには、空気流量電圧信号Vqを出力する空気流量検出回路37が接続されている。
【0045】
A/D変換部13は、マルチプレクサ29によって選択された順序で第1〜第5アナログ入力電圧信号(基準電圧信号Vref3、基準電圧信号Vref2、基準電圧信号Vref1、吸気温度電圧信号Vt、空気流量電圧信号Vq)を順次サンプリングすると共に、各第1〜第5アナログ入力電圧信号をサンプリングする毎に各第1〜第5アナログ入力電圧信号のデジタルデータに変換する。
【0046】
デジタル演算部14は、A/D変換部13からの流量デジタルデータに、直線補正処理及び出力ばらつき補正処理(後述する)を実施する。また、流量デジタルデータの平均化処理を行う。
周波数変換部15は、デジタル演算部14より出力された流量デジタルデータを周波数信号に変換する。
出力部16は、NMOSFET55、固定抵抗器56、バイパスコンデンサ57、およびツェナダイオード58等を備え、周波数変換部15より出力された周波数信号をECU17のマイクロコンピュータへ出力する。
【0047】
なお、本実施例では、マルチプレクサ29は、サンプリング制御パルス信号に従って、複数の基準電圧信号Vref3、Vref2、Vref1および吸気温度電圧信号Vtのうちの1つの電圧信号をA/D変換部13へ出力する毎に、空気流量電圧信号VqをA/D変換部13へ出力するように構成されている。すなわち、空気流量電圧信号Vqのサンプリングタイミングを、基準電圧信号Vref3、Vref2、Vref1、および吸気温度電圧信号Vtのうち隣合う2つのアナログ入力電圧信号のサンプリングタイミング間に挿入するように構成されている。これによれば、空気流量電圧信号Vqのサンプリング周期T2を短くできる。
【0048】
具体的には、図6のフローチャートに示す処理が実施される。
すなわち、空気流量電圧信号VqをA/D変換してA/D変換結果(A/D変換出力データ)であるデジタルデータ(流量デジタルデータ)をレジスタに格納する(ステップS1)。そして、基準電圧信号Vref3のサンプリングタイミングと、基準電圧信号Vref2のサンプリングタイミングとの間に、空気流量電圧信号Vqのサンプリングタイミングを入れる(ステップS2〜S3)。そして、ステップS2〜S3の処理と並行して、流量デジタルデータに対して、後述するA/D直線補正処理および出力ばらつき補正処理が実行され(ステップS11)、補正処理後の流量デジタルデータの平均化処理がなされ(ステップS12)、平均化処理後の流量デジタルデータを周波数信号に変換する周波数変換処理が実行される(ステップS13)。そして、ステップS13で得られた周波数信号をECU17に出力する(ステップS14)。
ここで、ステップS12では、実施例1〜3に記載のような移動平均を用いた平均化処理がなされる。
【0049】
ステップS4〜S8でも、同様に、空気流量電圧信号Vqの流量デジタルデータをレジスタに格納するたびに、ステップS11〜S14の処理を実施する。
なお、基準電圧信号Vref3、Vref2、Vref1、吸気温度電圧信号Vtのデジタルデータも、レジスタに格納される(ステップS2、S4、S6、S8)。そして、これらのデジタルデータはA/D直線補正処理および出力ばらつき補正処理のために用いられる。
【0050】
〔A/D直線補正処理〕
A/D変換部13のアナログ−デジタル変換特性は非線形性を有しているため、最終的なセンサ出力精度が低下する虞がある。そこで、本実施例では、A/D変換部13からの流量デジタルデータに対して直線補正を行う。
具体的には、A/D変換部13への入力電圧範囲Vmin〜Vmaxを、中心電圧Vcを境界にして領域1と領域2に2等分割し、各領域毎に、アナログ−デジタル変換特性を示す曲線を直線近似する。そして、近似直線上の点を理想A/D直線上の点に変換する変換式を領域毎に導出する。このようにして得られた変換式にてA/D変換部13からの流量デジタルデータを変換することにより、直線補正が実現される。ここで、Vmin、Vc、Vmaxが、それぞれ基準電圧信号Vref1、Vref2、Vref3である。
なお、A/D直線補正処理のさらに具体的な方法は、特許第4074823号公報に開示されている。
【0051】
〔出力ばらつき補正処理(温度特性補正処理)〕
流量センサ3で流量に応じて出力される電圧は温度(吸気温度)に応じて変化する。そのため、温度(吸気温度電圧信号Vtのデジタルデータ)に基づいて出力電圧を補正(温度特性補正)する必要がある。
しかし、流量センサ3の個体差に起因して、流量に応じた出力電圧と温度との関係が測定流量毎にばらつく場合があるため、温度のみではなく、流量に基づいて、流量デジタルデータの温度特性補正を行う。
なお、出力ばらつき補正処理のさらに具体的な方法は、特開2009−288153号公報に開示されている。
【0052】
実施例4でも、流量測定装置1内で、流量デジタルデータの全てを用いて平均化処理ができるため、ECU17に取り込んでECU17内で平均化処理する場合と比較して、平均化処理の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 流量測定装置
2 ダクト
3 流量センサ(流量検出部)
13 A/D変換部(アナログ/デジタル変換部)
14 デジタル演算部(信号処理部)
15 周波数変換部
27 基準電圧発生部
28 温度検出部
29 マルチプレクサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を流れる空気の流量を検出し、流量に応じた電圧(以下、流量電圧信号と呼ぶ)を出力する流量検出部と、
この流量検出部からの前記流量電圧信号をデジタルデータに変換するアナログ/デジタル変換部と、
このアナログ/デジタル変換部により得られる前記流量電圧信号のデジタルデータ(以下、流量デジタルデータと呼ぶ)を用いて演算処理を行う信号処理部とを備えた流量測定装置であって、
前記信号処理部は、前記流量デジタルデータを、少なくとも連続する2個以上の所定個数のデータで平均化し、
平均化された前記流量デジタルデータが流量信号として出力されることを特徴とする流量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流量測定装置において、
前記信号処理部は、移動平均によって前記流量デジタルデータを平均化することを特徴とする流量測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流量測定装置において、
前記信号処理部は、前記所定個数を運転条件によって切り替えることを特徴とする流量測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の流量測定装置において、
平均化された前記流量デジタルデータを、周波数信号に変換して、流量信号として出力する周波数変換部を備えることを特徴とする流量測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の流量測定装置において、
前記流量電圧信号の補正処理に用いる複数の基準電圧信号を出力する基準電圧発生部と、
前記複数の基準電圧信号および前記流量電圧信号を所定の順序で順次選択するマルチプレクサとを備え、
前記アナログ/デジタル変換部は、前記複数の基準電圧信号および前記流量電圧信号を前記マルチプレクサによって選択された順序で順次サンプリングしてデジタルデータに変換し、
前記信号処理部は、前記流量デジタルデータを、前記アナログ/デジタル変換部により得られる前記複数の基準電圧信号のデジタルデータに基づいて設定される直線補正式を用いて補正することを特徴とする流量測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の流量測定装置において、
前記流路を流れる空気の温度を検出し、温度に応じた電圧を出力する温度検出部を備え、
前記マルチプレクサは、前記複数の基準電圧信号、前記温度検出部の出力信号である温度電圧信号および前記流量電圧信号を所定の順序で順次選択し、
前記アナログ/デジタル変換部は、前記複数の基準電圧信号、前記温度電圧信号および前記流量電圧信号を前記マルチプレクサによって選択された順序で順次サンプリングしてデジタルデータに変換し、
前記信号処理部は、前記流量デジタルデータを、前記アナログ/デジタル変換部により得られる前記温度電圧信号のデジタルデータを用いて補正することを特徴とする流量測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−93155(P2012−93155A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239272(P2010−239272)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】