説明

浮遊物回収装置及び浮遊物回収方法

【課題】水面下の水の吸引を少量に抑えながらも、水面上の浮遊物を効率的に吸引することのできる浮遊物回収装置を提供する。
【解決手段】浮遊物回収装置を、水面付近に配することにより水面上の浮遊物71を吸引するための下向きの吸引口を有する浮遊物吸引手段10と、前記吸引口の下側に配されて水面付近にない水70が前記吸引口に吸引されないように水面付近の水70とその下側の水70とを分け隔てるための仕切板20と、仕切板20が水面下で略水平になるように仕切板20に作用する浮力を調整するための浮力調整手段30とを備えたものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面上を浮遊する各種液体や各種固体などの浮遊物を回収するための浮遊物回収装置と、該浮遊物回収装置を用いた浮遊物回収方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水面上に浮遊する油やゴミなどの浮遊物を回収するものとして、ポンプに接続した吸引管によって前記浮遊物を吸引するようにした浮遊物回収装置が知られている。この種の浮遊物回収装置は、沼湖や河川などの自然水域においてだけでなく、工場や水処理施設における貯水タンクや導水溝、船舶のバラストタンクなど、様々な場所で用いられている。浮遊物回収装置は、用途などに応じて種々の形態のものが提案されている。
【0003】
例えば、吸引管の吸引口を水面下における水面すれすれの場所で上向きに配した形態の浮遊物回収装置(以下において、この形態の浮遊物回収装置を「吸引口上向き型の浮遊物回収装置」と呼ぶ。)が提案されている(例えば、特許文献1と特許文献2を参照)。これにより、水面上の浮遊物を付近の水とともに吸引することが可能になる。
【0004】
吸引口上向き型の浮遊物回収装置において、吸引管の吸引口周辺は、通常、フロートに連結されている。このため、水位が変化した場合であっても、吸引管の吸引口周辺は、フロートに追従して上下動するようになっており、水面から吸引口までの深さは略一定に保たれるようになっている。
【0005】
吸引口上向き型の浮遊物回収装置は、大量の浮遊物を回収できる可能性のあるものであり、今後、さらなる需要の増大が期待されるものではあったが、以下のような欠点を有していた。
【0006】
すなわち、吸引口上向き型の浮遊物回収装置では、吸引口の水深を深くしすぎると、水面下の水ばかりが吸引されて浮遊物は殆ど吸引されなくおそれがあった。一方、吸引口の水深を浅くしすぎると、水面上の空気ばかりが吸引されて浮遊物は殆ど吸引されなくなるおそれがあった。
【0007】
このように、吸引口上向き型の浮遊物回収装置では、浮遊物のみが好適に吸引されうる吸引口の水深の設定範囲が狭かったために、浮遊物を効率的に回収することは必ずしも容易ではなかった。したがって、実際には、吸引口をやや深めに設定し、浮遊物を水面下の水とともに吸引させることが多かった。それゆえ、吸引管に接続するポンプには処理能力の大きなものが要求され、浮遊物回収装置は非経済的なものとなりやすかった。
【0008】
このような実状に鑑みてか、これまでには、水面上の浮遊物を水面よりも上方で下向きに配した吸引口により吸引させる形態の浮遊物回収装置(以下において、この形態の浮遊物回収装置を「吸引口下向き型の浮遊物回収装置」と呼ぶ。)も提案されている(例えば、特許文献3と特許文献4を参照)。吸引管の吸引口周辺をフロートに連結することなどについては、吸引口上向き型の浮遊物回収装置と同様である。
【0009】
吸引口下向き型の浮遊物回収装置は、水面下の水を殆ど吸引することなく、水面上の浮遊物を吸引できるものであり、吸引管に接続するポンプに処理能力の低いものを選択できるなどの利点を有するものではあったが、以下のような欠点を有していた。
【0010】
すなわち、吸引口下向き型の浮遊物回収装置においては、水面から吸引口までを高くすると、水面下の水が吸引されにくくなるものの、高くしすぎると、水面上の浮遊物まで吸引されにくくなって浮遊物の回収効率が低下するおそれもあった。一方、水面から吸引口までを低くしすぎると、やはり、水面上の浮遊物だけでなく、水面下の水も多量に吸引されるおそれがあった。
【0011】
このように、吸引口上向き型の浮遊物回収装置でも、浮遊物のみが好適に吸引されうる水面から吸引口までの高さの設定範囲が狭かったために、浮遊物を効率的に回収することは必ずしも容易ではなかった。
【0012】
【特許文献1】特開昭52−075861号公報
【特許文献2】実開昭56−172389号公報
【特許文献3】実開昭49−087268号公報
【特許文献4】特開2000−176450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、水面下の水の吸引を少量に抑えながらも、水面上の浮遊物を効率的に吸引することのできる浮遊物回収装置を提供するものである。また、この浮遊物回収装置を用いた浮遊物回収方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、(1)水面付近に配する(水面に接触させる場合だけでなく、水面上で接近又は水面下に浸漬する場合も含むものとする。)ことにより水面上の浮遊物を吸引するための下向きの吸引口を有する浮遊物吸引手段と、(2)前記吸引口の下側に配され、水面付近にない水が前記吸引口に吸引されないように水面付近の水とその下側の水とを分け隔てるための仕切板と、(3)前記仕切板が水面下における所望の深さで略水平になるように前記仕切板に作用する浮力を調整するための浮力調整手段とを備えたことを特徴とする浮遊物回収装置を提供することによって解決される。
【0015】
このように、前記仕切板によって水面付近の水とその下側の水とを区切ることができるので、水面付近の水のみを効率的に前記吸引口に吸引させることが可能になる。この際、前記仕切板の上面の浮遊物が水面付近の水とともに前記吸引口に吸引されると、前記仕切板の上面には、表面張力によってその周囲の水や浮遊物が引っ張られてくる。このため、水面上の浮遊物を安定して吸引することができる。
【0016】
本発明の浮遊物回収装置において、前記吸引口の吸引方向は、前記仕切板の上面に対して垂直に設定してもよいが、前記仕切板の上面の法線に対して傾斜させると好ましい。これにより、前記吸引口の吸引方向を鉛直軸に対して傾斜させて(水面に対して垂直とならないようにして)、前記吸引口を水面に接触しやすくすることが可能になる。したがって、前記吸引口で水を勢いよく吸引すると同時に、水面上の浮遊物をより確実に吸引することができるようになる。
【0017】
また、前記吸引口の吸引方向の傾斜のさせ具合によっては、前記吸引口において、水と空気が同時又は交互に吸引される「ズズズー」又は「ズッ、ズッ、ズッ」といった類の口を啜るような音(以下においては、この音を単に「啜り音」と呼ぶ。)を発生させながら、水面上の浮遊物を水面付近の水や空気とともに吸引(あたかも息継ぎを行っているかのように吸引)させることも可能になる。後述するように、この啜り音が発せられるときには、水面上の浮遊物が迅速に吸引されていることが確認できている。
【0018】
この場合、前記仕切板の上面の法線に対する前記吸引口の吸引方向の傾斜角度θを何度に設定するかは特に限定されない。しかし、傾斜角度θを小さくしすぎると、前記吸引口の吸引方向を傾ける意義が低下してしまう。一方、傾斜角度θを大きくしすぎると、前記吸引口における吸引に寄与する部分の面積が少なくなり、水面上の浮遊物を好適に吸引できなくなるおそれがある。このため、傾斜角度θは、0.5〜10°に設定すると好ましい。
【0019】
さらに、前記仕切板の上面の面積も特に限定されない。しかし、前記仕切板の上面の面積が狭すぎると、前記仕切板が沈みやすくなるだけでなく、前記仕切板の水平又は傾きの調整が困難になる。一方、前記仕切板の上面の面積が広すぎると、前記仕切板の取り扱いが困難になり、浮遊物回収装置を設置しにくくなるおそれがある。このため、前記仕切板の上面の面積は、0.5〜10mに設定すると好ましい。
【0020】
ところで、浮力調整手段は、前記仕切板に作用する浮力を調整できるものであれば特に限定されない。浮力調整手段としては、浮材又は錘材が挙げられる。これらの浮材や錘材を単独で若しくは組み合わせて使用することにより、前記仕切板の傾き具合や、仕切板の上面の水深を微調整することが可能になる。したがって、浮遊物回収装置をその能力を発揮できる最適な条件で運転させることもできるようになる。
【0021】
このとき、前記浮材を、前記仕切板の上面に一体的に設けられた複数の突片とし、前記複数の突片によって浮遊物吸引手段又は前記錘材が囲繞すると好ましい。これにより、浮遊物回収装置を設置した水面に波などに起因する上下動があるような場合であっても、前記仕切板をその上下動に迅速に追従させることが可能になり、前記仕切板の上面の水深を安定させることができるようになる。また、前記錘材を前記突片(前記浮材)に掛止させることも可能になるので、前記錘材の位置ずれや流失を防ぐことも可能になる。
【0022】
本発明の浮遊物回収装置を、浮遊物吸引手段が浮遊物とともに吸引した水を濾過して浮遊物を除去するための濾過手段を備えたものとすることも好ましい。これにより、浮遊物とともに吸引した水から油やゴミなどを除去してから元の場所へ戻すことが可能になり、浮遊物回収装置を設置した水域の水質をより効率的に回復させることが可能になる。
【0023】
また、上記課題は、(1)水面付近に配する(水面に接触させる場合だけでなく、水面上で接近又は水面下に浸漬する場合も含むものとする。)ことにより水面上の浮遊物を吸引するための下向きの吸引口を有する浮遊物吸引手段と、(2)前記吸引口の下側に配され、水面付近にない水が前記吸引口に吸引されないように水面付近の水とその下側の水とを分け隔てるための仕切板と、(3)前記仕切板が水面下における所望の深さで略水平になるように前記仕切板に作用する浮力を調整するための浮力調整手段とを備えたことを特徴とする浮遊物回収装置を用いる浮遊物回収方法を提供することによっても解決される。
【0024】
本発明の浮遊物回収方法において、前記吸引口の吸引方向は、鉛直軸と平行に設定してもよいが、鉛直軸に対して傾斜させる(水面に対して垂直とならないようにする)と好ましい。これにより、前記吸引口を水面に接触しやすくすることが可能になり、水面上の浮遊物をより確実に吸引することができるようになる。また、上述した啜り音を発生させながら、水面上の浮遊物を水面付近の水や空気とともに吸引させることができる。
【0025】
この場合、鉛直軸に対する前記吸引口の吸引方向の傾斜角度θを何度に設定するかは特に限定されない。しかし、傾斜角度θを小さくしすぎると、前記吸引口の吸引方向を傾ける意義が低下してしまう。一方、傾斜角度θを大きくしすぎると、前記吸引口における吸引に寄与する部分の面積が少なくなり、水面上の浮遊物を好適に吸引できなくなるおそれがある。このため、傾斜角度θは、所定の値に設定すると好ましい。具体的には、傾斜角度θを0.5〜10°に設定すると好ましい。
【0026】
前記仕切板の上面における前記吸引口が重なる箇所の水深は、特に限定されない。しかし、この水深が浅すぎると、前記仕切板の上面に水が定常的に載らなくなり、浮遊物を安定して吸引できなくなるおそれがある。一方、この水深が深すぎると、深い場所にある水も前記吸引口で吸引されるようになり、浮遊物を効率的に回収できなくなるおそれがある。このため、前記仕切板の上面における前記吸引口が重なる箇所の水深は、5〜20mmに設定すると好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によって、水面下の水の吸引を少量に抑えながらも、水面上の浮遊物を効率的に吸引することのできる浮遊物回収装置を提供することが可能になる。また、この浮遊物回収装置を用いた浮遊物回収方法を提供することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の浮遊物回収装置の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の浮遊物回収装置の好適な実施態様を示した概念図である。図2は、図1の浮遊物吸引手段10を底面側から見た状態を示した斜視図である。図3は、図1の浮遊物吸引手段10の駆動時における吸引口11の周辺を拡大した状態を示した図である。図4は、図1の濾過手段40の内部構造を示した断面図である。
【0029】
1.浮遊物回収装置の全体構成
本実施態様の浮遊物回収装置は、図1に示すように、(1)水面付近に配することにより水面上の浮遊物71を吸引するための下向きの吸引口11(図2を参照)を有する浮遊物吸引手段10と、(2)吸引口11の下側に配され、水面付近にない水70が吸引口11に吸引されないように水面付近の水70とその下側の水70とを分け隔てるための仕切板20と、(3)仕切板20が水面下で略水平になるように仕切板20に作用する浮力を調整するための浮力調整手段30と、(4)浮遊物吸引手段10が浮遊物71とともに吸引した水70を濾過して浮遊物71を除去するための濾過手段40を備えたものとなっている。
【0030】
2.浮遊物吸引手段
浮遊物吸引手段10は、図2に示すように、水面付近に配することにより水面上の浮遊物71を吸引するための下向きの吸引口11を有するものとなっている。吸引口11は、浮遊物吸引手段10の本体に一体的に設けられたものであってもよいし、浮遊物吸引手段10の本体から離れた箇所に設けられたもの(例えば、ポンプを備えた本体に吸引管(図示省略)を接続して、本体のみを陸上に設置し、前記吸引管の先端部(吸引口11)の周辺のみを仕切板20に固定した態様のもの)であってもよい。前者の場合には、浮遊物回収装置をコンパクトに設計することが可能であるし、後者の場合には、重量のある本体を仕切板20に載置しなくてもよいので、仕切板20の浮力の確保が容易である。
【0031】
本実施態様の浮遊物回収装置においては、株式会社鶴見製作所製の排水用ポンプ、型式「LSC1.4S−61」を浮遊物吸引手段10として用いている。この揚水ポンプは、重さ約12kgで定格消費電力が590Wとなっており、図2に示すように、略円柱形(直径19cm、高さ31cm)で、その底部に複数の吸引口11が一体的に設けられた形態のものとなっている。吸引口11の吸引方向(図3を参照)は、浮遊物吸引手段10の高さ方向と平行になっている。
【0032】
浮遊物吸引手段10を仕切板20に設置する際には、吸引口11の吸引方向を仕切板20の上面に対して垂直に設定してもよいが、本実施態様の浮遊物回収装置においては、図3に示すように、浮遊物吸引手段10を傾けて設置しており、吸引口11の吸引方向を仕切板20の上面の法線に対して傾斜させている。このため、水面上の浮遊物71を吸引口11でより確実に吸引することができるようになっている。
【0033】
仕切板20の上面の法線に対する吸引口11の吸引方向の傾斜角度θ(図3を参照)は特に限定されないが、小さすぎると浮遊物吸引手段10における吸引口11の吸引方向を傾ける意義が低下してしまう。このため、傾斜角度θは、0.5以上に設定すると好ましい。傾斜角度θは、1°以上であるとより好ましく、1.5°以上であるとさらに好ましい。
【0034】
一方、仕切板20の上面の法線に対する吸引口11の吸引方向の傾斜角度θ(図3を参照)を大きくしすぎると、水面上の浮遊物71を好適に吸引できなくなるおそれがある。このため、傾斜角度θは、10°以下に設定すると好ましい。傾斜角度θは7°以下であるとより好ましく、5°以下であるとさらに好ましい。本実施態様の浮遊物回収装置においては、傾斜角度θは約2〜3°に設定されている。
【0035】
傾斜角度θを調節する手段は、特に限定されない。本実施態様の浮遊物回収装置においては、図2と図3に示すように、浮遊物吸引手段10の底部における吸引口11の周辺に、3本のボルト12を設けており、それぞれのボルト12の突出量を変化させることにより、傾斜角度θや、後述する水深Dを調節することが可能となっている。
【0036】
ところで、本実施態様の浮遊物回収装置では、仕切板20が略水平(水面に対して略平行となるよう)に配されるように設置しているため、この傾斜角度θは、鉛直軸に対する浮遊物吸引手段10における吸引口の吸引方向の傾斜角度θ(図3を参照)に略一致するようになっている。浮遊物吸引手段10における吸引口11の吸引方向を水面に対してこの程度傾けておくと、啜り音を発生させながら、水面上の浮遊物71を水面付近の水70や空気とともに吸引させることが可能になる。
【0037】
3.仕切板
仕切板20は、浮遊物吸引手段10の吸引口11の下側に配され、水面付近にない水70が吸引口11に吸引されないように、水面付近の水70とその下側の水70とを分け隔てるためのものとなっている。仕切板20は、水平面に対して傾斜させてもよいが、本実施態様の浮遊物回収装置においては略水平に配している。
【0038】
仕切板20の素材は、特に限定されない。しかし、本実施態様の浮遊物回収装置のように、浮遊物吸引手段10の本体を仕切板20に載置する場合には、仕切板20の実質的な浮力(仕切板20に作用する浮力から仕切板20に作用する重力を引いた値)を増大させることができるよう、密度が軽いものを用いると好ましい。具体的には、水70に対する比重が1未満の素材を使用すると好ましい。本実施態様の浮遊物回収装置においては、木製の板材に撥水加工を施したものを仕切板20として用いている。
【0039】
仕切板20の上面の面積は特に限定されないが、狭すぎると仕切板20が沈みやすくなるだけでなく、仕切板20の水平又は傾きの調整が困難になる。また、仕切板20に作用する浮力を増大させにくくなる。このため、仕切板20の上面の面積は、0.5m以上とすると好ましい。仕切板20の上面の面積は、1m以上とするとより好ましく、1.5m以上とするとさらに好ましい。
【0040】
一方、仕切板20の上面の面積が広すぎると、仕切板20の取り扱いが困難になるおそれがある。このため、仕切板20の上面の面積は、10m以下に設定すると好ましい。仕切板20の上面の面積は、7m以下であるとより好ましく、5m以下であるとさらに好ましい。本実施態様の浮遊物回収装置において、仕切板20の上面は、一辺の長さが約1.3mの正方形となっており、その面積は約1.7mとなっている。
【0041】
仕切板20の厚さは、一定であってもよいが、本実施態様の浮遊物回収装置においては、仕切板20の周縁部を薄く形成し、その中央部を厚く形成している。具体的には、仕切板20の端部の厚さを20mmとして、仕切板20の中央部の厚さを30mmとするとともに、仕切板20の上面が仕切板20の端部から中央部に向かって昇り傾斜となるように形成している。このため、仕切板20の周辺にある水70や浮遊物71を、仕切板20の上方へ安定して導入することができるようになっている。
【0042】
仕切板20の上面における吸引口11が重なる箇所(仕切板20の上面の中心)の水深D(図3を参照)は、特に限定されない。しかし、この水深Dが浅すぎると、仕切板20の上面に水70が定常的に載らなくなり、浮遊物71を安定して吸引できなくなるおそれがある。このため、仕切板20の水深Dは、浮遊物吸引手段10(排水用ポンプ)の停止時(浮遊物吸引手段10が駆動しているときの水深Dは、浮遊物吸引手段10が停止しているときの水深Dよりも浅くなる。)において5mm以上となるように設定すると好ましい。浮遊物吸引手段10の停止時における仕切板20の水深Dは8mm以上とするとより好ましく、10mm以上とするとさらに好ましい。
【0043】
一方、浮遊物吸引手段10の停止時における仕切板20の上面における吸引口11が重なる箇所(仕切板20の上面の中心)の水深D(図3を参照)を深くしすぎると、仕切板20の上面付近にある水70も吸引口11で吸引されるようになり、浮遊物71を効率的に回収できなくなるおそれがある。このため、浮遊物吸引手段10の停止時における仕切板20の水深Dは、20mm以下に設定すると好ましい。浮遊物吸引手段10の停止時における仕切板20の水深Dは、19mm以下であるとより好ましく、18mm以下であるとさらに好ましい。本実施態様の浮遊物回収方法において、浮遊物吸引手段10の停止時における仕切板20の水深Dは約15〜16mm(浮遊物吸引手段10の停止時の測定値)に設定している。
【0044】
4.浮力調整手段
浮力調整手段30は、仕切板20が水面下で略水平になるように仕切板20に作用する浮力を調整するためのものとなっている。本実施態様の浮遊物回収装置において、浮力調整手段30は、浮材31と錘材32とで構成している。
【0045】
錘材32は、仕切板20の浮力を実質的に減少させることができるもの(錘材32の無い場合よりも仕切板20の水深を深くできるもの)であれば特に限定されない。本実施態様の浮遊物回収装置においては、内部に水を入れたタンク型容器32Aとボトル型容器32Bを錘材32として使用している。この錘材32は、内部に入れる水の量を調整することにより、仕切板20の水深の調節を可能とするばかりか、それを設置する場所を変えることにより、仕切板20の傾き具合の調節も可能とする。タンク型容器32Aとボトル型容器32Bの内部に入れる水は、浮遊物回収装置の周辺から採取することができる。
【0046】
一方、浮材31は、仕切板20の浮力を実質的に増大させることができるもの(浮材31の無い場合よりも仕切板20の水深を浅くできるもの)であれば特に限定されない。浮材31の水70に対する見掛け比重(浮材31が中空部を有する場合には、その中空部を浮材31の体積に含めた比重)は1未満とされる。本実施態様の浮遊物回収装置においては、木製の突片に防水加工を施したものを浮材31として使用している。
【0047】
浮材31は、仕切板31から分離したものであってもよいが、本実施態様の浮遊物回収装置においては、仕切板20の上面に一体的に設けられた複数の突片により浮材31を構成している。各突片は、仕切板20の上面における浮遊物吸引手段10が設置されている箇所を中心に回転対称に配されており、浮遊物吸引手段10を囲繞するように配されている。このため、仕切板20は、その姿勢を略水平に保ちやすくなっている。周囲にある水70や浮遊物71は、隣り合う突片の隙間(図示省略)や、各突片に設けられた貫通孔(図示省略)などを通じて、仕切板20の周辺部からその中心部へと導かれるようになっている。
【0048】
また、本実施態様の浮遊物回収装置において、浮材31として設けられた複数の突片で囲まれた領域には、錘材32を置くことができるようになっている。このため、浮材31として設けた突片によって、錘材32が流失するのを防止することもできるようになっている。錘材32は、浮材31として設けた突片に掛止しておくと、その位置を安定させることもできる。
【0049】
5.濾過手段
濾過手段40は、図1に示すように、浮遊物吸引手段10と移送管50で連結されており、浮遊物吸引手段10が浮遊物とともに吸引した水70をその上方から取り入れて濾過することにより、浮遊物71を除去するものとなっている。濾過手段40の底部は、通水性を有する構造となっており、濾過手段40の内部で浮遊物が除去された水70は、濾過手段40の底部から流れ出て元の場所へと戻ることができるようになっている。
【0050】
濾過手段40の内部構造についてより詳しく説明する。本実施態様の浮遊物回収装置において、濾過手段40は、図4に示すように、通水性を有する架台60の上に載置された、上面と底面が開放された略筒状のタンク41の内部に吸着剤などを収容した構造のものとなっている。架台60としては、グレーチングやパンチングメタルなどが例示される。
【0051】
タンク41の上部には、移送管50が固定されている。移送管50からタンク41の内部に導入された浮遊物71を含有する水70は、まず、タンク41の上部に収容された塵濾過袋42に導入され、塵濾過袋42の内部に溜められた後、塵濾過袋42の底部から染み出てタンク41の下部へと移動するようになっている。塵濾過袋42の生地の目を通過することのできないゴミなどは、塵濾過袋42の内部に残る仕組みとなっている。
【0052】
塵濾過袋42は、通水性を有する素材で形成されたものであれば特に限定されない。木綿などの天然素材で形成したものであってもよいし、ポリエステルなどの合成繊維を用いたものであってもよい。本実施態様の浮遊物回収装置において、塵濾過袋42は、ポリエステル繊維によって形成されたものとなっている。塵濾過袋42の内部には、浮吸着マット43が収容されており、塵濾過袋42の内部に溜まった水に浮遊する油分(炭化水素)は、水面上に浮かべられた浮吸着マット43によって吸着されるようになっている。
【0053】
本実施態様の浮遊物回収装置において、浮吸着マット43は、シートの内部に吸着剤を充填してマット状に形成したものを使用している。シートの内部に充填する吸着剤の種類は、対象とする浮遊物を吸着できるものであれば特に限定されない。浮吸着マット43に充填する吸着剤としては、炭化物や発泡鉱物などのほか、カポックなどの撥水性繊維が例示される。本実施態様の浮遊物回収装置においては、谷口商会株式会社製の吸着剤「スミレイ(登録商標)」を前記吸着剤として使用している。
【0054】
この吸着剤は、コーヒー豆の搾り滓を焼成した粒径3mm以下の炭化物からなっており、撥水性と油吸収性に優れ、従来の吸着剤では吸着が困難であった油膜や、界面活性剤の混ざった油なども好適に吸着することができるものとなっている。また、コーヒー豆の絞り滓を原料とするため、廃棄物の削減に貢献することも可能なものとなっている。さらに、この吸着剤は、乾燥時の見掛け比重が水よりも軽いだけでなく、水を吸いにくいために、その浮力を長時間保つことができるものとなっている。
【0055】
浮吸着マット43を形成するシートは、通油性及び通水性を有するものであれば特に限定されない。木綿などの天然素材を用いたものであってもよいし、ポリエステルなどの合成素材を用いたものであってもよい。浮吸着マット43のシートには、場合によっては、撥水加工を施しておくと好ましい。本実施態様の浮遊物回収装置において、浮吸着マット43のシートは、撥水加工を施したポリエステルによって形成している。
【0056】
塵濾過袋42の底部から下側へ染み出た水70は、タンク41の内底部に収容された油吸着袋44を通過し、それに残留する油分が取り除かれる。油吸着袋44の上方には、錘45を載せており、油吸着袋44が浮かないようにしている。本実施態様の浮遊物回収装置においては、錘45として、丸カン杭45Aとグレーチング45Bを使用している。
【0057】
油吸着袋44は、通水性を有する袋体の内部に吸着剤を充填したものを使用している。油吸着袋44の袋体は、通水性を有するものであれば特に限定されない。木綿などの天然素材で形成したものであってもよいし、ポリエステルなどの合成繊維を用いたものであってもよい。本実施態様の浮遊物回収装置においては、ポリエステル繊維によって形成したものを用いている。
【0058】
油吸着袋44の内部に充填する吸着剤の種類は、対象とする浮遊物を吸着できるものであれば特に限定されない。浮吸着マット43の内部に充填した吸着剤と同様のものを用いることができる。本実施態様の浮遊物回収装置においても、油吸着袋44には、谷口商会株式会社製の吸着剤「スミレイ(登録商標)」を吸着剤として充填している。油吸着袋44を通過して浮遊物71が取り除かれた綺麗な水70は、タンク41の底部から流下して元の場所へと戻される。
【0059】
6.用途
本発明の浮遊物回収装置は、その用途を限定されるものではなく、水面上の浮遊物71を回収する必要のある幅広い用途に用いることができる。なかでも、油やベンゼンやトルエンなど、水よりも軽く疎水性を有する液体を回収するものとして好適である。また、その設置箇所は、沼湖や河川などの自然水域だけでなく、工場や水処理施設における導水溝や貯水槽、船舶のバラストタンクなど、人工水域や各種設備においても用いることができる。
【0060】
本発明の浮遊物回収装置は、流れのある場所で用いてもよいが、流れが速すぎると、浮遊物71が浮遊物吸引手段10で吸引されずに下流に流されやすくなる。このため、浮遊物回収装置を設置する箇所の流速は、0.15m/s以下であると好ましい。浮遊物回収装置を設置する箇所の流速は、0.1m/s以下であるとより好ましく、0.05m/s以下であるとさらに好ましい。
【0061】
浮遊物回収装置を流速の速い水域に設置したい場合には、堰(水面付近の水の流れのみを堰き止めて、その下側の水は通過させる浮遊堰であってもよい。)を設置するなどして、水面付近の水70が滞留する場所を作り、その水70の滞留する箇所に浮遊物回収装置を設置すると好ましい。本発明の浮遊物回収装置は、静止水域(水の流速が実質的に0m/s)において、最もその性能を発揮することができる。
【実施例】
【0062】
本発明の浮遊物回収装置の浮遊物回収能力を調べるために、図1〜図4に示す浮遊物回収装置を、谷口商会株式会社(岡山県岡山市)の敷地内にある実験用水路に実際に設置して、実験を行った。実験は、下記表1のように、傾斜角度θ,θと水深Dの異なる第一実施例から第九実施例の浮遊物回収装置を用いて行った。第一実施例から第九実施例の全てにおいて、仕切板20は略水平とした。このため、傾斜角度θと傾斜角度θは略一致している。下記表1における水深Dは、浮遊物吸引手段10の停止時の値である。
【0063】
【表1】

【0064】
上記の第一実施例から第九実施例までについて、啜り音の発生の有無と、その周期、及び浮遊物の回収状況について調べたところ、下記表2に示す結果が得られた。
【表2】

【0065】
上記表2の結果から、本発明の浮遊物回収装置が浮遊物の効率的な回収に有効なものであることが分かった。特に、傾斜角度θ,θを約2.5°とした場合には、浮遊物を非常によく回収できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の浮遊物回収装置の好適な実施態様を示した概念図である。
【図2】図1の浮遊物吸引手段を底面側から見た状態を示した斜視図である。
【図3】図1の浮遊物吸引手段の駆動時における吸引口の周辺を拡大した状態を示した図である。
【図4】図1の濾過手段の内部構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0067】
10 浮遊物吸引手段
11 吸引口
12 ボルト(傾斜角度張設手段)
20 仕切板
30 浮力調整手段
31 浮材
32 錘材
32A タンク型容器(容器)
32B ボトル型容器(容器)
40 濾過手段
41 タンク
42 塵濾過袋
43 浮吸着マット
44 油吸着袋
45 錘
45A 丸カン杭
45B グレーチング
50 移送管
60 架台
70 水
71 浮遊物
D 水深
θ 仕切板の上面の法線に対する吸引口の吸引方向の傾斜角度
θ 鉛直軸に対する吸引口の吸引方向の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面付近に配することにより水面上の浮遊物を吸引するための下向きの吸引口を有する浮遊物吸引手段と、
前記吸引口の下側に配され、水面付近にない水が前記吸引口に吸引されないように水面付近の水とその下側の水とを分け隔てるための仕切板と、
前記仕切板が水面下で略水平になるように前記仕切板に作用する浮力を調整するための浮力調整手段とを備えたことを特徴とする浮遊物回収装置。
【請求項2】
前記吸引口の吸引方向を前記仕切板の上面の法線に対して傾斜させた請求項1記載の浮遊物回収装置。
【請求項3】
前記仕切板の上面の法線に対する前記吸引口の吸引方向の傾斜角度θを0.5〜10°に設定した請求項2記載の浮遊物回収装置。
【請求項4】
前記仕切板の上面の面積を0.5〜10mに設定した請求項1〜3いずれか記載の浮遊物回収装置。
【請求項5】
浮力調整手段が、浮材又は錘材からなる請求項1記載の浮遊物回収装置。
【請求項6】
前記浮材が前記仕切板の上面に一体的に設けられた複数の突片からなり、前記複数の突片によって浮遊物吸引手段又は前記錘材が囲繞された請求項5記載の浮遊物回収装置。
【請求項7】
浮遊物吸引手段が浮遊物とともに吸引した水を濾過して浮遊物を除去するための濾過手段を備えた請求項1記載の浮遊物回収装置。
【請求項8】
水面付近に配することにより水面上の浮遊物を吸引するための下向きの吸引口を有する浮遊物吸引手段と、
前記吸引口の下側に配され、水面付近にない水が前記吸引口に吸引されないように水面付近の水とその下側の水とを分け隔てるための仕切板と、
前記仕切板が水面下で略水平になるように前記仕切板に作用する浮力を調整するための浮力調整手段とを備えた浮遊物回収装置を用いる浮遊物回収方法。
【請求項9】
前記吸引口の吸引方向を鉛直軸に対して傾斜させた請求項8記載の浮遊物回収方法。
【請求項10】
鉛直軸に対する前記吸引口の吸引方向の傾斜角度θを0.5〜10°に設定した請求項9記載の浮遊物回収方法。
【請求項11】
前記仕切板の上面における前記吸引口が重なる箇所の水深を5〜20mmに設定した請求項8〜10いずれか記載の浮遊物回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−254940(P2009−254940A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104975(P2008−104975)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【特許番号】特許第4261608号(P4261608)
【特許公報発行日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(508114579)
【Fターム(参考)】