説明

浮遊粒子状物質測定装置

【課題】 多孔質フィルムと補強層との積層構造のフィルタを短時間仕様と長時間使用とで適切かつ合理的に使い分けして破孔などのトラブルを招くことなく、測定感度及び分析性能の著しい向上を達成することができるようにする。
【解決手段】 多孔質フィルム15とこれに積層された通気性の補強層16とからなるフィルタ1の通気性の補強層16をサンプルガスの通気方向上流側に位置させた第1使用状態における捕集時間と、多孔質フィルム15をサンプルガスの通気方向上流側に位置させた第2使用状態における捕集時間とを切替え使用可能な捕集時間切替手段27が設けられている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の排気管や工場の煙突等からの排煙、飛散粉塵などのように、大気中に存在して人の健康、特に呼吸器官に悪影響を及ぼす浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter:以下、SPMと略称するものを含む)の濃度を測定したり、成分を分析する場合に用いられる浮遊粒子状物質測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中のSPMの濃度測定や成分分析にあたっては、一般的に、大気からSPMを含むサンプルガスを連続的に吸引し、この吸引したサンプルガスをフィルタの一面側から他面側へ通過させることにより、サンプルガス中のSPMをフィルタに測定スポットを形成するように捕集し、この測定スポットに例えばβ線等の放射線を照射してその放射線の透過量を検出することにより、SPMの濃度を測定したり、蛍光X線分析(XRF)などにより成分を分析したりするようにした浮遊粒子状物質測定装置が用いられる。
【0003】
上述したようなSPM測定に用いられるフィルタとして、従来一般には、ガラス繊維単体あるいはフッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム単体が使用されていた。
【0004】
そのうち、ガラス繊維単体からなるフィルタは、厚みを均一にできず、ガラス繊維による放射線吸収量も多いため、測定スポットごとに透過量が異なっており、これが誤差要因となっていた。また、フィルタをテープ状にしたとき、連続的な使用に耐え得る破断強度(特に、引張り強度)を付与させるためには、その厚みを大きく(約360μm以上)しなければならず、重量も大きく(7mg以上)ならざるをえない。しかし、テープ厚みが大きくなると、ガラス繊維による放射線吸収量も多いため、最小検出感度(2σ)が5μg/m3 以上となって、低濃度のSPMを高感度に検出することが困難である。また、ガラス繊維は結露時に水分を吸着するという吸湿性があり、それが指示誤差を生じる要因になる。さらに、ガラス繊維は、含有成分が多いために、フィルタに捕集した状態での元素やイオンなどの成分分析には実用できない等の多くの問題点を有している。
【0005】
一方、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム単体からなるフィルタの場合は、結露時の水分吸着による吸湿性がガラス繊維よりも大きいので誤差を生じやすい。また、帯電性が非常に大きくて静電気を発生しやすいために、フィルタをテープ状にしたとき、供給リールから順次繰り出し巻取りリールで順次巻き取るようにフィルタテープを一定経路に沿って走行移動させつつ、SPMの捕集及び放射線照射による濃度測定等を連続的に行なう測定装置のリールホルダーにセットした状態において、供給リールに巻回されているフィルタテープにそれが発生する静電気によって周囲のSPMが吸い寄せられて付着し、また、SPMがフィルタテープ上面に直接捕集されるために、次の測定に移行すべくフィルタテープを巻き取り移動させたとき、測定スポットに捕集されているSPMがフィルタテープに強く付着し、そのため、SPMの分析を正確かつ精度よく行なえない。加えて、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルムは、ガラス繊維よりも更に引張り強度が弱いために、上述のような連続測定装置の使用に耐える破断強度を持たせるためには、厚みを大きくする必要があり、そのため重量(密度)も大きくなり、測定の誤差要因となる吸湿率も大きくなる。また、帯電性半減期も大きくなり、例えばICPやイオンクロマトのように、捕集SPMをフィルタから取り出さなければできないような成分分析時に、必要な捕集SPMのリリース性も悪化するという問題がある。
【0006】
上記のようなガラス繊維単体あるいはフッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム単体からなるフィルタの有する薄くすれば強度が低下するという問題点を解消するものとして、本出願人は、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルムと、この多孔質フィルムに積層される通気性の補強層とから構成される浮遊粒子状物質測定用フィルタを開発し既に特許出願(下記の特許文献1参照)している。その既特許出願に係る浮遊粒子状物質測定用フィルタは、フィルタ自体の厚みを上述のガラス繊維単体やフッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム単体のものに比べて薄くでき、その分だけ濃度測定感度及び成分分析精度の向上が図れ、かつ、通気性補強層の積層により連続測定の使用に十分に耐え得る引張り強度を持たせることが可能である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−205491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、浮遊粒子状物質測定には、例えばJIS、USEPAで規定されているように、フィルタに対しサンプルガスを1時間(吸引通過させて測定スポットに捕集されたSPMの成分分析を行う場合(以下、短時間仕様という)と、フィルタに対しサンプルガスを1時間を越え24時間未満の長時間に亘って吸引通過させて測定スポットに捕集されたSPMの濃度測定や成分分析を行う場合(以下、長時間仕様という)とがある。上記した本出願人による既特許出願に係る浮遊粒子状物質測定装置においては、測定時間が長くなると、画一的な使用では破孔する場合があった。
【0009】
本発明は上記のような知見に基づいて鋭意研究されたもので、その目的は、ガラス繊維単体あるいは多孔質フィルム単体からなるフィルタが有する問題点の解消に成功した多孔質フィルムと補強層との積層構造のフィルタを短時間仕様と長時間使用とで適切かつ合理的に使い分けして破孔などのトラブルを招くことなく、測定感度及び成分分析性能の著しい向上を達成することができる浮遊粒子状物測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る浮遊粒子状物測定装置は、大気から吸引されたサンプルガスをフィルタの一面側から他面側に通過させて前記フィルタに前記サンプルガス中に含まれている浮遊粒子状物質を捕集し測定スポットを形成する浮遊粒子状物質の捕集測定用チャンバー部と、このチャンバー部で前記測定スポットに捕集された浮遊粒子状物質の濃度測定及び/又は成分分析を行う測定部を有する浮遊粒子状物質測定装置において、前記フィルタが、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルムと、この多孔質フィルムに積層される通気性の補強層との積層構造から構成され、このフィルタの前記通気性の補強層を前記一面側に位置させた第1使用状態における捕集時間と、前記多孔質フィルムを前記一面側に位置させた第2使用状態における捕集時間とを切替え使用可能な捕集時間切替手段が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記のような特徴構成を有する本発明によれば、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルムと補強層との積層構造からなるフィルタを用いることにより、放射線吸収量も少なく、厚さが均一にもできるフッ素系樹脂を用いているので、測定スポットごとの透過する放射線強度を均一にできる。また、フィルタ自体の厚さを非常に薄くしながらも、その引張り強度は連続測定にも十分に耐え得る強度を確保することが可能であり、このような厚みの薄いフィルタの使用によって、放射線透過量の増大が図れて最小検出感度(2σ)を著しい改善(低下)し低濃度のSPMも高感度に測定することができる。また、補強層を含めてフィルタ全体の吸湿性が非常に低く結露が発生しても水分を吸着保持せず、吸湿による変質がないとともに、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム単体からなるフィルタに比べて帯電性も非常に少なく、静電気の発生によるSPMの付着もなく、所定の濃度測定感度の著しい向上並びに例えばIPCやイオンクロマトのように捕集SPMをフィルタから取り出さなければならないような成分分析時の捕集SPMのリリース性にも優れ、成分分析性能の向上も図ることができる。
【0012】
しかも、このような多くの利点を有するフィルタの使用にあたり、第1使用状態と第2使用状態のフィルタを取付け可能に構成されているので、通気性の補強層をサンプルガスの通気方向上流側に位置させた第1使用状態における捕集時間を捕集時間切替手段で切替えることによって、サンプルガス中のSPMをフィルタの表面でなく肉厚の中間に位置する多孔質フィルムで捕集させることが可能で、また、フィルタをテープ状とした場合、そのフィルタテープを走行移動させる時に捕集SPMが、測定スポット以外のフィルタテープ部分やテープ走行移動経路の周辺部分、例えば放射線源や検出器などに転移付着することを防ぎ、多孔質フィルムをサンプルガスの通気方向上流側に位置させた第2使用状態における捕集時間を捕集時間切替手段で切替えることによって、多くのSPMを捕集することになる多孔質フィルムを補強層でしっかりと支えて、その多孔質フィルムの測定スポット部分が大きく変形したり、破孔したりするトラブルの発生を避けるといったように、SPM捕集時間に応じてフィルタの表裏両面を適切かつ合理的に使い分けて常に濃度測定感度及び成分分析性能の著しい向上を達成することができるという効果を奏する。
【0013】
本発明に係る浮遊粒子状物測定装置においては、請求項2に記載のように、前記フィルタの第1使用状態及び第2使用状態での捕集時間を各別に設定変更可能な捕集時間設定手段を設けることが望ましいのはもちろんである。
【0014】
また、本発明に係る浮遊粒子状物測定装置において、請求項3に記載のように、前記フィルタをテープ状にするとき、そのフィルタテープを、該フィルタテープの幅方向中心位置より一側辺側に変位して測定スポットが形成されるように前記一定経路に沿って走行移動可能に張設することが好ましい。この場合は、フィルタテープにおける測定スポットの側辺部に広い余白部分を確保することが可能であるため、該フィルタテープを測定スポット単位で切り離して手やピンセットなどにより把持してICPなど他の成分分析器にセットする際、手やピンセットなどが誤って測定スポットの捕集SPMに触れることによるコンタミをなくすることができる。また、切り離したフィルタテープ部分の測定スポットから捕集SPMを抽出する際、その切り離しフィルタテープ部分を丸めて試験管やビーカーに入れるが、このとき、広い余白部分を糊しろとして利用することによりSPMが捕集されている測定スポットに重ならない状態で丸め固定することができ、コンタミによる影響を一層低減することができる。
【0015】
特に、フィルタテープの幅方向中心位置より一側辺側に変位して形成される測定スポットの径を標準径(約16mm)よりも小さい、例えば11.5mm程度に設定することにより、前記余白部分をより大きく確保することが可能で、前述したように切り離しフィルタテープ部分を把持して他の成分分析器へセットする時や、その切り離しフィルタテープ部分を丸めて試験管などに入れ捕集SPMを抽出する時のコンタミ影響をより一層低減することができる。また、その余白部分に針孔や印字によるマークを付設することにより、本発明に係る浮遊粒子状物測定装置に続けて、例えばXRFなどの他の検出器を取付けて使用する場合、その針孔やマークを他の検出器に対する正確な位置決めに有効に利用して他の検出器の検出精度の向上も図ることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る浮遊粒子状物測定装置において、特に上記のごとく測定スポットの径を標準径よりも小さくしたフィルタテープを使用するとき、請求項4に記載のように、前記放射線源としてβ線源を用い、かつ、前記検出器としてプラスチックシンチレーションを用いることが望ましい。この場合は、対人環境面で好ましくない放射線量を可及的に少なくしつつ、ノイズの少ないプラスチックシンチレーションの使用により測定精度の向上も達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態では、フィルタがテープ状に形成されたもの(以下、フィルタテープと称する)について説明する。
図1は本発明に係る浮遊粒子状物質(SPM)測定装置全体の概略構成図である。このSPM測定装置20は、リールホルダー2Aにセットされた供給リール2から繰り出され、リールホルダー3Aにセットされモータ18を介して回転駆動される巻取りロール3に巻き取られるようにこれら両リール2,3とフィルタープ押え4a付きアイドルローラ4並びに二つのテンションローラ5,6を介して一定経路に沿って一定時間毎に所定の長さ単位に走行移動可能に張設されたフィルタテープ1の走行移動経路の一方側に、大気からサンプリングポンプ17により吸引されるSPMを含むサンプルガスGの導入管7が連通接続されてフィルタテープ1に対してシリンダなどのアクチュエータ19を介して接近離反移動自在に構成された可動式測定チャンバー部(捕集測定用チャンバー部)8が配置されている。
【0018】
前記測定チャンバー部8内には、測定部、すなわち、サンプルガスGが前記フィルタテープ1をその一面(上面)側から他面(下面)側を通過するときに、そのサンプルガスG中のSPMを捕集して形成される測定スポット10(後述する)に対してβ線を照射するβ線源(放射線源)9が設けられているとともに、前記フィルタテープ1の走行移動経路の他方側には、前記測定スポット10を透過したβ線を検出してその強度に応じた信号を出力する、例えば比例計数管よりなるβ線検出器11が配置されている。
【0019】
前記β線源9とフィルタテープ1との間には薄肉の板状部材12が前記チャンバー8に固定支持される状態で配置されており、この薄肉板状部材12には、図2に明示するような四つ以上の排気孔13,14が形成され、これら排気孔13,14に前記サンプルガスGを通過させることによって、サンプルガスG中のSPMを捕集して前述の測定スポット10を形成するようにしている。
【0020】
前記フィルタテープ1は、長さが例えば約21mで、幅Wが例えば約4cmである。また、このフィルタテープ1は、図3に明示するように、例えば四フッ化エチレン樹脂等のフッ素樹脂よりなる多孔質フィルム15と、この多孔質フィルム15に積層される通気性の補強層16とから構成されている。
【0021】
前記補強層16は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエステル、ポリアミドのうちのいずれか、あるいは、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートをラミネートしたもの、上記のものの二つ以上を任意に組み合わせて吸湿性の低い不織布から構成されており、前記多孔質フィルム15に貼付けや縫い付け等の適宜手段により積層一体化されている。
【0022】
前記フィルタテープ1の多孔質フィルム15は、厚みが3〜35μmの範囲で、望ましくはさらに、フィルタ重量が0.1〜1.2mg/cm2 の範囲に設定されている。
【0023】
そして、前記積層構造のフィルタテープ1は、前記供給リール2への巻回時において前記補強層16が多孔質フィルム15よりも内側に位置するように巻回されたものと、前記多孔質フィルム15が前記補強層16よりも内側に位置するように巻回されたものとの二種が準備されている。本発明に係る浮遊粒子状物質(SPM)測定装置20は、これらのフィルタテープを取付け可能に構成されており、前者のものをリールホルダー2Aにセットすることで、図4の(A)に示すように、前記フィルタテープ1をその通気性補強層16がサンプルガスGの通気方向上流側に位置する第1使用状態と、後者のものをリールホルダー2Aにセットすることで、図4の(B)に示すように、前記フィルタテープ1をその多孔質フィルム15がサンプルガスGの通気方向上流側に位置する第2使用状態とに切替え使用可能に構成されている。
【0024】
一方、前記サンプリングポンプ17の作動を司るポンプドライバー21、前記巻取りリール駆動用モータ18の作動を司るリールモータドライバー22、前記アクチュエータ19の作動を司るアクチュエータドライバー23及びそれら各ドライバー21,22,23を予め設定された順番に動作制御する動作プログラムメモリ24並びにβ線検出器11による検出信号及びサンプルガスの流量測定部30からの測定信号が入力されてSPMの濃度演算や成分分析などを行う演算処理部25を有する、例えば専用又は汎用コンピュータなどの演算制御部26には、前記フィルタテープ1を前記第1使用状態としたとき、前記サンプリングポンプ17の作動によるSPM捕集時間が例えばJIS、USEPAで規定されている1時間となり、また、前記フィルタテープ1を前記第2使用状態に切替えたとき、前記サンプリングポンプ17の作動によるSPM捕集時間が例えば1時間以上24時間未満となるようにSPM捕集時間を例えば二段に切替え可能な捕集時間切替手段27並びに前記第1使用状態及び第2使用状態の捕集時間を各別に設定変更可能な捕集時間設定手段28A,28Bが設けられている。
【0025】
上記のように構成されたSPM測定装置20によるSPM測定動作を、JIS、USEPAで規定の成分分析のための短時間(1時間仕様)の場合と、1時間を越え24時間未満の長時間に亘ってサンプルガスを吸引通過させて測定スポットに捕集されたSPMの濃度測定や成分分析を行うための長時間仕様とに分けて説明する。
【0026】
短時間仕様の場合:
(1−1)前記フィルタテープ1を、前記補強層16が多孔質フィルム15よりも内側に位置するように巻回された供給リール2をリールホルダー2Aにセットし、この供給リール2から繰り出したフィルタテープ1の先端を、アイドルローラ4及び二つのテンションローラ5,6を経てリールホルダー3A側にセットした巻取りリール3の芯に固定した上、装置運転を開始すると、動作プログラムメモリ24からリールモータドライバー22への動作信号の伝達によりリールモータ18を介して巻取りリール3が回転駆動され、これによって、フィルタテープ1が測定チャンバー8とβ線検出器11との間を含む一定経路に沿って所定の長さ単位で走行移動されて停止する。
【0027】
(2−1)次に、前記動作プログラムメモリ24からアクチュエータドライバー23への動作信号の伝達によりアクチュエータ19が作動されて前記測定チャンバー8が前記フィルタテープ1側に接近移動した後、ポンプドライバー21を経てサンプリングポンプ17が作動されて大気から吸引されるSPMを含むサンプルガスGが導入管7を通して測定チャンバー8内に導入されるとともに、そのサンプルガスGが図4の(A)で示すように、フィルタテープ1の上面側である通気性補強層16から下面側の多孔質フィルム15を順に通過される(第1使用状態)。この状態は捕集時間切替手段27により切替えられている規定時間(1時間)保たれることになり、サンプルガスG中のSPMがフィルタテープ1の肉厚中間部位である多孔質フィルル15の上面に捕集されてフィルタテープ1に測定スポット10が形成される。
【0028】
(3−1)続いて、前記測定スポット10に対してβ線源9からβ線が照射され、その測定スポット10を透過したβ線の強度がβ線検出器11で検出されてその検出信号及び前記サンプルガスの流量測定部30からの測定信が演算処理部25に入力され、この演算処理部25において検出β線強度と所定の演算式とを用いて演算を行うことにより、測定対象とするSPMの濃度分析が行われる。
【0029】
(4−1)上記のようにしてSPMの濃度分析が行われた後は、前記動作プログラムメモリ24からアクチュエータドライバー23への動作信号の伝達によりアクチュエータ19が作動されて前記測定チャンバー8がフィルタテープ1に対して離反移動された後、前記動作プログラムメモリ24からリールモータドライバー22への動作信号の伝達によりリールモータ18を介して巻取りリール3が再び回転駆動され、これによって、フィルタテープ1が所定の長さ単位で巻取りリール3側に走行移動され、フィルタテープ1に対して前記(2−1)及び(3−1)の動作を繰り返して所定の濃度分析が連続的に行われる。
【0030】
上記した(1−1)〜(4−1)のような動作からなる短時間仕様の場合は、サンプルガスG中のSPMがフィルタテープ1の表面側の補強層16でなくテープ肉厚の中間に位置する多孔質フィルム15で捕集されているので、フィルタテープ1の走行移動時に捕集SPMが、測定スポット10以外のフィルタテープ部分やテープ走行移動経路の周辺部分、例えばβ線源9や検出器11などに転移付着することがない。したがって、所定の分析性能を常に高い状態に維持することができる。
【0031】
長時間仕様の場合:
(1−2)前記フィルタテープ1を、前記多孔質フィルム15が補強層16よりも内側に位置するように巻回された供給リール2をリールホルダー2Aにセットし、この供給リール2から繰り出したフィルタテープ1の先端を、アイドルローラ4及び二つのテンションローラ5,6を経てリールホルダー3A側にセットした巻取りリール3の芯に固定した上、装置運転を開始すると、動作プログラムメモリ24からリールモータドライバー22への動作信号の伝達によりリールモータ18を介して巻取りリール3が回転駆動され、これによって、フィルタテープ1が測定チャンバー8とβ線検出器11との間を含む一定経路に沿って所定の長さ単位で走行移動されて停止する。
【0032】
(2−2)次に、前記動作プログラムメモリ24からアクチュエータドライバー23への動作信号の伝達によりアクチュエータ19が作動されて前記測定チャンバー8が前記フィルタテープ1側に接近移動した後、ポンプドライバー21を経てサンプリングポンプ17が作動されて大気から吸引されるSPMを含むサンプルガスGが導入管7を通して測定チャンバー8内に導入されるとともに、そのサンプルガスGが図4の(B)で示すように、フィルタテープ1上面側の多孔質フィルム15から下面側の通気性補強層16を順に通過される(第2使用状態)。この状態が捕集時間切替手段27により切替えられ、前記第1使用状態よりも長い規定時間(1時間以上24時間未満)保たれることになり、サンプルガスG中のSPMがフィルタテープ1上面側の多孔質フィルム15の上面に捕集されてフィルタテープ1に測定スポット10が形成される。
【0033】
(3−2)続いて、前記測定スポット10に対してβ線源9からβ線が照射され、その測定スポット10を透過したβ線の強度がβ線検出器11で検出されてその検出信号及び前記サンプルガスの流量測定部30からの測定信が演算処理部25に入力され、この演算処理部25において検出β線強度と所定の演算式とを用いて演算を行うことにより、測定対象とするSPMの濃度測定が行われる。
【0034】
(4−2)上記のようにしてSPMの濃度測定が行われた後は、前記動作プログラムメモリ24からアクチュエータドライバー23への動作信号の伝達によりアクチュエータ19が作動されて前記測定チャンバー8がフィルタテープ1に対して離反移動された後、前記動作プログラムメモリ24からリールモータドライバー22への動作信号の伝達によりリールモータ18を介して巻取りリール3が再び回転駆動され、これによって、フィルタテープ1が所定の長さ単位で巻取りリール3側に走行移動され、フィルタテープ1に対して前記(2−2)及び(3−2)の動作を繰り返して長時間に亘るSPM捕集による所定の濃度測定が連続的に行われる。
【0035】
上記した(1−2)〜(4−2)のような動作からなる長時間仕様の場合は、多くのSPMを捕集することになる多孔質フィルム15が補強層16でしっかりと支えられることになるので、その多孔質フィルム15の測定スポット10部分が大きく変形したり、破孔したりするなどのトラブルの発生がなく、所定の質量濃度あるいは成分分析を非常に正確かつ精度よく行うことができる。
なお、多孔質フィルム15を上面側に設けることにより、第1使用状態に比べ、破孔を生じさせることなく、長時間にわたり一つの測定スポット10においてSPMを捕集することができたことが確認できた。
【0036】
また、短時間仕様及び長時間仕様のいずれの場合も、厚みが3〜35μmと非常に薄いフッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム15と通気性の補強層16との積層構造からなるフィルタテープ1を用いることによって、該フィルタテープ1全体として連続測定時に破断などが生じないように十分な引っ張り強度を確保することが可能である。また、このような十分な引張り強度を確保し得る範囲で非常に厚みの薄い多孔質フィルム15を用いることにより、捕集されるSPMの分布及びβ線強度の均一化を図れるだけでなく、β線透過量も増大され、これによって、最小検出感度(2σ)を著しく改善(低下)して粒径が小さい微細なSPMも高感度に測定することが可能である。
【0037】
さらに、補強層16を含めてテープ1全体の吸湿性が非常に低く結露が発生しても水分を吸着保持しないので、吸湿による変質もなく測定感度を高くすることができる。さらにまた、補強層16との積層構造であるから、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム15単体からなるフィルタテープに比べて帯電性が非常に少なく、静電気の発生によるSPMの付着もなく、上述したSPM捕集時間に応じてフィルタテープ1の表裏両面を適切かつ合理的に使い分けることによる効果と相俟って所定の濃度測定感度及び成分分析性能のより一層の向上を図ることができる。
【0038】
上記したように厚みが3〜35μm範囲と非常に薄いフッ素系樹脂よりなる多孔質フィルム15と通気性の補強層16との積層構造からなるフィルタテープ1を用いることによって、SPMの捕集及び濃度の連続測定であっても、フィルタテープ1に破断などが生じないように十分な引っ張り強度を確保することが可能である。また、このような十分な引張り強度を確保し得る範囲で非常に厚みの薄い多孔質フィルム15を用いているので、β線透過量も増大され、これによって、最小検出感度(2σ)を著しく改善(低下)して低濃度のSPMも高感度に測定することが可能である。また、放射線(β線)吸収量も少なく、厚さが均一にもできるフッ素系樹脂であるので、測定スポット10ごとの透過する放射線強度を均一にできる。
【0039】
因みに、多孔質フィルムの厚みによる濃度測定感度及び成分分析性能への影響に関し本発明者が行った試験結果について以下に説明する。
供試体 実施例品→四フッ化エチレン樹脂からなる多孔質フィルムと通気性補強層との積層構造品
比較例品1,2→四フッ化エチレン樹脂からなる多孔質フィルム単体
基本仕様及び特性 表1に示す通り
性能比較 表2に示す通り
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
なお、実施例品は、上述のとおり多孔質フィルムと通気性補強層との積層構造のフィルタである。一方、比較例品1,2は多孔質フィルムのみのフィルタである。また、表1中の重量において多孔質フィルムの厚みが3〜35μmと薄い実施例品は多孔質フィルムだけでは強度が足りないため、多孔質フィルムに補強層を設けたフィルタ全体の重量を示している。
【0043】
上記の試験結果からも明らかなとおり、実施例品(フィルタ)は、比較例品1,2に比べて、サンプルガス通気の通気量が多くて圧損が少ない、帯電性半減期が短くて静電気の発生が非常に少ない、吸湿率が0%で吸湿性がほとんどない、β線透過量が2〜4倍程度多い、ことから質量濃度の測定感度に優れ、測定精度の著しい向上が図り得るとともに、捕集したSPMのリリース性にも優れ、元素やイオンなどの成分分析性能の向上にも有効であることが確認された。
【0044】
なお、上記実施の形態では、前記フィルタテープ1に形成される測定スポット10の径Dが、図5の(A)に示すように、標準的な16mmφであり、β線源9としてβ線源量が100μCi、検出器として検出有効面積の大きい比例計数管11aを用いたものについて説明したが、これに代えて、図5の(B)に示すように、測定スポット径D1が11.5mmφ程度であり、β線源量が60〜75μCi、検出器としてプラスチックシンチレーション11bを用いてもよい。
【0045】
この場合は、フィルタテープ1の薄肉化によりβ線源9と検出器11bとの距離がLからL1に狭まることと、測定スポット径がDからD1に縮小されることとに伴いβ線源量を100μCiから60〜75μCiまで減少することが可能となるために、対人環境面での改善効果が得られるだけでなく、ノイズが大きい比例計数管11aに代えてプラスチックシンチレーション11bを使用することが可能となり、測定感度及び分析性能の一層の向上を図ることができる。
【0046】
また、上記実施の形態では、図6の(A)に示すように、幅Wが約4cmのフィルタテープ1の幅方向中心位置に径D(16mm)なる測定スポット10が形成されるものについて説明したが、これに代えて、図6の(B)に示すように、フィルタテープ1の幅方向中心位置より一側辺側に変位した箇所に径D1(11.5mm)なる測定スポット10が形成されるように、フィルタテープ1を前記一定経路に沿って走行移動可能に張設されたものであってもよい。
【0047】
この場合は、フィルタテープ1における測定スポット10の一側辺部に幅広い余白部分(17.5mm)1aを確保することが可能であるため、該フィルタテープ1を図7に示すように、隣接する測定スポット10,10間で切り離してその切り離したフィルタテープ部分1Aを手やピンセットなどの掴み部Hにより把持してICPなど他の成分分析器にセットする際、手やピンセットなどの掴み部Hが誤って測定スポット10の捕集SPMに触れることによるコンタミをなくすることができる。また、切り離したフィルタテープ部分1Aの測定スポット10から捕集SPMを抽出する際、図8に示すように、その切り離しフィルタテープ部分1Aを丸めて試験管やビーカーなどの抽出容器30に入れるが、このとき、広い余白部分1aを糊しろとして利用することによりSPMが捕集されている測定スポット10に重ならない状態で丸め固定することができ、捕集SPMの抽出時にもコンタミによる影響を低減することができる。
【0048】
また、図6の(B)に示すフィルタテープ1の場合、余白部分1aに針孔や印字によるマーク31を付設することにより、SPM測定装置20に続けて、各種分析装置、例えばXRF、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、質量分析計(MS)などの他の検出器を取付けて使用する場合、そのマーク31を例えば光センサ(図示省略)によって検出させることで、他の検出器に対する正確な位置決めに有効に利用して他の検出器の検出精度の向上も図ることができる。
【0049】
さらに、本発明におけるSPM測定装置20に、風向計、風速計、日射計、温・湿度計、気圧計、雨量計、土壌水分計等の気象装置を組み合わせて使用することが好ましい。この場合は、大気からサンプルガスを吸引する際、予め設定した気象条件になったときのみサンプリング開始信号を送ってサンプリングを開始し、設定気象条件から外れた場合はサンプリングを自動停止して、高い分解能での濃度測定や成分分析を行うことができる。
【0050】
さらにまた、上記実施の形態では、フィルタテープ1を構成する多孔質フィルム15と通気性の補強層16との厚み、重量などの仕様について詳しく説明したが、本発明は、その仕様に限定されるものでなく、要するに、多孔質フィルム15と通気性の補強層16とが積層されたものであればよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、フィルタをテープ状に形成したものについて説明したが、本発明はこれに限定されることなく、図9の(A),(B)に示すように、例えば円板状のフィルタ1Aを形成し、これをバッチ測定に用いることもできる。
【0052】
さらに、上記実施の形態では、測定部においてSPMの濃度測定をβ線の透過により行ったが、本発明はこれに限定されることなく、例えば光の散乱、電子線の透過により濃度測定を行なってもよい。また、図示省略するが、濃度測定に代え、もしくは、濃度測定と連続的に例えばXRF、FTIR、フローインジェクション(FIA)、MSなどを設けてSPMの成分分析を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る浮遊粒子状物質測定装置の実施の形態を示す装置全体の概略構成図である。
【図2】同上装置に用いられるフィルタテープへの測定スポットの形成動作を説明する要部の拡大斜視図である。
【図3】図2のA部におけるフィルタテープの拡大断面図である。
【図4】(A)は短時間仕様時におけるフィルタテープの使用状態、(B)は長時間仕様時におけるフィルタテープの使用状態を説明する図である。
【図5】(A)は実施の形態で用いられるフィルタテープ、放射線源及び検出器の関係、(B)は他の実施の形態で用いられるフィルタテープ、放射線源及び検出器の関係を示す要部の概略断面図である。
【図6】(A)は実施の形態で用いられるフィルタテープに形成される測定スポットの仕様、(B)は他の実施の形態で用いられるフィルタテープに形成される測定スポットの仕様を説明する要部の概略平面図である。
【図7】図6の(B)で示す仕様のフィルタテープを測定スポット単位で切り離した状態を説明する要部の概略平面図である。
【図8】図6の(B)で示す使用のフィルタテープを測定スポット単位で切り離して捕集SPM抽出用容器に入れる状態を説明する図である。
【図9】(A),(B)は本発明の測定装置に用いることが可能な別の円板状フィルタの使用状態の説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 フィルタテープ
1A 円板状フィルタ
9 β線源(放射線源)
10 測定スボット
11 検出器
11a 比例計数管
11b ブラスチックシンチレーション
15 フッ素樹脂よりなる多孔質フィルム
16 通気性補強層
20 SPM測定装置
27 捕集時間切替手段
28A,28B 捕集時間設定手段
G サンプルガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気から吸引されたサンプルガスをフィルタの一面側から他面側に通過させて前記フィルタに前記サンプルガス中に含まれている浮遊粒子状物質を捕集し測定スポットを形成する浮遊粒子状物質の捕集測定用チャンバー部と、このチャンバー部で前記測定スポットに捕集された浮遊粒子状物質の濃度測定及び/又は成分分析を行う測定部を有する浮遊粒子状物質測定装置において、
前記フィルタが、フッ素系樹脂よりなる多孔質フィルムと、この多孔質フィルムに積層される通気性の補強層との積層構造から構成され、
このフィルタの前記通気性の補強層を前記一面側に位置させた第1使用状態における捕集時間と、前記多孔質フィルムを前記一面に位置させた第2使用状態における捕集時間とを切替え使用可能な捕集時間切替手段が設けられていることを特徴とする浮遊粒子状物質測定装置。
【請求項2】
前記フィルタの第1使用状態及び第2使用状態での捕集時間を各別に設定変更可能な捕集時間設定手段が設けられている請求項1に記載の浮遊粒子状物質測定装置。
【請求項3】
前記フィルタがテープ状であり、前記捕集測定用チャンバが前記テープ状フィルタの幅方向中心位置より一側辺側に変位して測定スポットを形成するように構成されている請求項1または2に記載の浮遊粒子状物質測定装置。
【請求項4】
前記測定部を構成する放射線源がβ線源であり、かつ、検出器がプラスチックシンチレーションである請求項1ないし3のいずれかに記載の浮遊粒子状物質測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−255939(P2007−255939A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77625(P2006−77625)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】