説明

浴槽及び該浴槽を形成するための注型成形方法及び前記浴槽を注型成形によって形成するための金型装置

【課題】残留空気の発生を軽減して形成された補強リブを備える浴槽、及び該浴槽を成形するための注型成形方法と金型装置を提供する。
【解決手段】この課題を解決するために、注型成形で形成された浴槽1が、本体2底部3下面4に前記底部3を補強する補強リブ6を一体に備えると共に、前記補強リブ6の突出下端7に下方に突出した凸部8を一体に備え、前記凸部8が、注型用のキャビティ17内の空気を集める空気溜め部21に前記樹脂30を注入した、空気溜め部21跡より成るものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽、及び該浴槽を形成するための注型成形方法、及び前記浴槽を注型成形によって形成するための金型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1等に示すように、浴槽本体の底部下面に複数の補強リブを設けることで、浴槽の底部を補強したものがあり、該補強リブは下面の端辺に沿って長い線状や格子状となっている。このような浴槽では、注型成形用の金型装置を用いて、本体と補強リブを一体に樹脂成形されるものがある。
【0003】
該金型装置は、樹脂を充填するためのキャビティを形成する型部と、キャビティ内に樹脂を注入する注入手段と、樹脂注入時にキャビティ内の空気を排出する排気口と、キャビティ内の樹脂を加熱硬化させる加熱手段と、を備えている。そして、キャビティは、本体を成形するための本体キャビティ部と、補強リブを成形するためのリブキャビティ部と、を有し、本体キャビティ部とリブキャビティ部は互いに連通している。更に、樹脂を本体キャビティ部に先に充填した後、リブキャビティ部に充填するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−88635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の注型成形で形成した浴槽は、キャビティ内に空気が残留して補強リブが型通りでならずに形成されて、補強リブの強度が設計より低下することや、補強リブに成形不良を生じること等がある。詳しくは、注型成形時に、リブキャビティ部全体に樹脂が充填される前に樹脂が排気口に至り、キャビティ内の空気が途中で排出できなくなる等の場合である。そして、排気が途中で止まると、リブキャビティ部内に空気が残留した状態で補強リブが形成され、補強リブに成形不良や強度低下を生じることとなる。
【0006】
そこで、この事情を鑑み、残留空気の発生を軽減して形成された補強リブを備える浴槽及び該浴槽を成形可能な注型成形方法及び金型装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の浴槽は、注型成形で形成された浴槽であって、前記浴槽の本体底部下面に前記底部を補強する補強リブを一体に備えると共に、前記補強リブの突出下端に下方に突出した凸部を一体に備え、前記凸部が、注型用のキャビティ内の空気を集める空気溜め部に前記樹脂を注入した、空気溜め部跡より成るものであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の注型成形方法は、前述の浴槽を成形するための注型成形方法であって、注型用のキャビティを形成する型部と、該キャビティ内に樹脂を注入する樹脂注入部と、前記キャビティに開口し前記キャビティ内の空気を排出する排気口と、前記排気口の排気流量を調整するバルブと、を備え、前記型部が、前記浴槽の前記本体を形成するための本体キャビティ部と、前記浴槽の前記補強リブを形成するためのリブキャビティ部と、前記キャビティ内の前記空気を集める空気溜め部と、を有し、前記本体キャビティ部に前記リブキャビティ部の一端が連通すると共に、前記リブキャビティ部の前記一端の反対側の端部に前記空気溜め部が連通し、前記バルブを全開させて、前記樹脂を注入させて、前記本体キャビティ部に前記樹脂を充填させる本体キャビティ部充填工程と、前記本体キャビティ部充填工程後、前記バルブを全開時に比べて少ない前記排気流量で開放させて、前記樹脂を注入させる排気流量調整工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
このものとして、前記本体キャビティ部充填工程後に、前記バルブを閉塞させて、前記樹脂を注入させ、前記空気溜め部を残して前記キャビティに前記樹脂を注入させるバルブ閉塞工程を有し、前記バルブ閉塞工程後、前記排気流量調整工程を行うことが好ましい。
【0010】
また、本発明の金型装置は、前述の浴槽を成形するための金型装置であって、注型用のキャビティを形成する型部と、該キャビティ内に樹脂を注入する樹脂注入部と、前記キャビティに開口し前記キャビティ内の空気を排出する排気口と、前記排気口の排気流量を調整するバルブと、前記バルブを制御する制御部と、を備え、前記型部が、前記浴槽の前記本体を形成するための本体キャビティ部と、前記浴槽の前記補強リブを形成するためのリブキャビティ部と、前記キャビティ内の前記空気を集める空気溜め部と、を有し、前記制御部が、前記バルブを全開させて、前記樹脂を注入させ、前記本体キャビティ部に前記樹脂を充填させ、前記本体キャビティ部への前記樹脂充填後、前記バルブを全開時に比べて少ない前記排気流量で開放させて、前記樹脂を注入させる制御を行うものであることを特徴とする。
【0011】
このものとして、前記制御部が、前記本体キャビティ部への前記樹脂充填後、前記バルブを閉塞させて、前記樹脂を注入させ、前記空気溜め部を残して前記キャビティに前記樹脂を注入させ、前記空気溜め部を残した前記樹脂の注入後、、前記バルブを全開時に比べて少ない前記排気流量で開放させて、前記樹脂を注入させる制御を行うものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
このような構成としたことで、残留空気の発生を軽減して形成された補強リブを備えた浴槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の一例の浴槽の凸部周辺の断面図である。
【図2】充填処理のフローチャートである。
【図3】金型装置の空気溜め部周辺の充填処理の第1工程の説明図である。
【図4】同上の充填処理の第2工程移行時の説明図である。
【図5】同上の充填処理の説明図であり、(a)が第3工程移行直前であり、(b)が第3工程移行後の推定模式図である。
【図6】同上の充填処理の第4工程移行時の説明図である。
【図7】同上の充填処理の充填完了時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を例示して説明する。
【0015】
実施形態の一例の浴槽1は熱硬化性の樹脂(以下、樹脂30とする)を注型成形で形成されたものとなっており、図1に示すように、内側に貯湯空間5を有した容器形状の本体2と、本体2の容器底部3を補強する補強リブ6と、を備えている。
【0016】
詳しくは、本体2が容器の側壁と底部に囲まれた貯湯空間5を容器内側に有すると共に、該側壁及び底部3の内面(表面)が、外観に露出する意匠面となっている。そして、本体2は容器の開口縁(図示せず)にフランジ部を有し、裏面である底部3の下面4に、格子状の補強リブ6が一体で設けられている。
【0017】
補強リブ6は底部3を下面4側から補強すると共に、アジャスタボルト等の支持部材(図示せず)を取り付けて本体2を支持部材に支持させる被支持部(図示せず)を有しており、浴槽1は補強リブ6を介して支持部材に支持されている。そして、浴槽1は、支持部材に支持された設置状態で、補強リブ6の下方に空間が形成されるものとなっており、補強リブ6の被支持部以外の部位が、構造体の床面や支持部材等の浴槽1周囲の部材に接触しない構成となっている。
【0018】
更に、浴槽1は、補強リブ6の突出先端(突出下端7)の被支持部以外の部位に、凸部8を備えており、凸部8は補強リブ6の本体2に対する突出方向に沿って下方に突出すると共に、補強リブ6と一体に形成されている。そして、凸部8は、補強リブ6の突出下端7の被支持部以外の部位に形成されたことで、浴槽1の外観に露出せず、且つ支持部材の支持を阻害しない構成となっている。
【0019】
また、浴槽1は、図3に示すような注型用の金型装置を用いて形成されている。該金型装置は、キャビティ17を形成する型部14と、キャビティ17内の空気を排出する排気口10と、を備えている。更に、該金型装置は、本例で図示しないが、キャビティ17内に樹脂30を注入する樹脂注入部と、充填した樹脂30を加熱する加熱部と、注型成形を制御する制御部と、を備えている。
【0020】
排気口10は筒形状となっており、筒の第1端部11がキャビティ17に開口すると共に、第2端部(図示せず)が外部に開口しており、キャビティ17内の空気は、第1端部11から筒内に流入された後、第2端部から外部に流出する。そして、第1端部11にはフィルタ12が配置されており、フィルタ12は排気口10内への樹脂30の浸入を抑制している。更に、排気口10には、排気口10から排出される空気の流動量(排気流量)を変更調整するバルブ13が設けられている。バルブ13は、制御部の制御に基づき、排気流量を調整しており、排気口10を閉塞して排気を止める閉塞状態から、最大排気流量で排気口10を開放させる全開状態までの間で、排気流量を調整可能となっている。
【0021】
型部14は、浴槽1の内面側(表面側)の面形状を形成する第1型部15と、浴槽1の外面側と補強リブ6と凸部8の面形状を形成する第2型部16と、で主体が構成されている。そして、型部14は、第1型部15と第2型部16を合わせて、型閉めすることで内部にキャビティ17を形成する。なお、型部14は第1型部15と第2型部16の二つに分割されたものに限らず、三つ以上に分割されたものであってもよい。
【0022】
キャビティ17は、浴槽1の本体2を形成するための本体キャビティ部18と、補強リブ6を形成するためのリブキャビティ部19と、凸部8を形成するための凸部キャビティ部20と、を有している。本体キャビティ部18は、樹脂成形品の本体2外周端である浴槽1のフランジ部を形成する部位に、樹脂注入部の注入口が開口している。そして、本体キャビティ部18はリブキャビティ部19の一端に連通し、リブキャビティ部19の該一端の反対側である他端が、凸部キャビティ部20に連通している。
【0023】
凸部キャビティ部20はリブキャビティ部19の反対側に、排気口10の第1端部11が開口しており、凸部キャビティ部20はキャビティ17内への樹脂30注入時に、キャビティ17内の空気を集める空気溜め部21(詳細は後述する)となっている。
【0024】
このように、キャビティ17は浴槽1を上下反転させた向きで成形する形状となっており、補強リブ6を設けた裏面(下面4)を上向きにして形成されるものとなっている。そのため、樹脂注入部から注入された樹脂30は、本体キャビティ部18の略全体に流入された後、リブキャビティ部19に流入される。そして、樹脂30は、リブキャビティ部19の略全体に流入された後、凸部キャビティ部20に流入される。更に、凸部8は、空気溜め部21に樹脂30を注入して形成した空気溜め部21跡となっている。
【0025】
また、制御部は、バルブ13の開放量(排気流量)の調整制御に加えて、樹脂注入部に対して、樹脂30の注入開始や停止等を指令すると共に、樹脂30注入時に樹脂30の注入量を一定に調整する注入制御も行い、金型装置の樹脂成形を制御している。なお、該樹脂成形の制御の詳細は、後述する。
【0026】
そして、制御部は、キャビティ17に注入された樹脂30の量(注入量)を検知する検知部(図示せず)を有しており、該検知部の検知結果に応じて、調整制御と注入制御を行っている。例えば、該検知部は、樹脂注入部の注入量を検知し、該注入量の累積値を検知結果として制御部に出力するものとなっている。なお、検知部は、注入量を検知するものに限らず、樹脂注入部の注入動作時間等の注入量の指標となる注入時間を検知して制御部に出力するもの等であってもよく、検知部が時間を検知するものでは、制御部が検知機能を兼ねてもよい。
【0027】
また、加熱部は、型部14を加熱することで、キャビティ17内の温度を上昇させ、キャビティ17内に充填された樹脂30を熱硬化させるものとなっている。なお、加熱部は、例えば、型部14に埋め込まれたものや、型部14の外部に設けられたもの等の注型成形用の周知の加熱手段となっている。
【0028】
以下、制御部の注型成形の制御を、図2に示すフローチャートの注型成形方法に沿って説明する。
【0029】
注型成形方法は、型部14でキャビティ17を形成する型閉め処理と、キャビティ17内に樹脂30を充填する充填処理と、充填した樹脂30を加熱硬化させる硬化処理と、型部14を開き樹脂成形品(浴槽1)を型部14から取り外す離型処理と、を有している。そして、注型成形方法は、型閉め処理、充填処理、硬化処理、離型処理の順番で行われている。更に、充填処理は、図2に示すように、第1工程S1、第2工程S2、第3工程S3、第4工程S4の大きく四つの工程に区分される。以下、本注型成形方法の特徴である充填処理及び該処理における制御部の制御を説明する。
【0030】
充填処理は、型閉め処理によるキャビティ17形成後、第1工程S1に移行することで、開始される。詳しくは、キャビティ17形成後、制御部が、バルブ13を全開状態にさせて、排気口10を最大排気流量で流通可能にすると共に、樹脂注入部にキャビティ17内への樹脂30注入を開始させる。そして、第1工程S1の状態では、図3に示すように、キャビティ17内の空気が、注入された樹脂30に押されて、排気口10から外部に排出される。このとき、樹脂30は、本体の側壁となる線状の部位に注入され充填された後、底部3となる面状の部位に流入されて充填されるため、本体キャビティ部18は側壁となる部位と底部3となる部位の境界等に空気が残留し難い構成となっている。
【0031】
また、第1工程S1は、検知部の検知結果から、キャビティ17内の樹脂30の注入量が第1設定値に達したと判断されるまで行われており、該判断後、第2工程S2に移行される。そして、第1設定値は、例えば、本体キャビティ部18の略全体に樹脂30が充填される程度の注入量となっている。そのため、第1工程は樹脂30が本体キャビティ部18の略全体に充填されるまで行われており、該工程は、本体キャビティ部18に樹脂30を充填する工程となっている。なお、第1設定値は、上述の注入量の条件のみに限らず、樹脂成形品の形状に応じて、適宜設定されるものであり、例えば、本体キャビティ部18への樹脂30充填完了直前や、リブキャビティ部19への樹脂30流入後等の注入量であってもよい。
【0032】
第2工程S2は、図4に示すように、バルブ13を閉塞させて、排気口10から空気を略排出させずに、キャビティ17内に樹脂30を注入させ、空気溜め部21に空気を集めながら、リブキャビティ部19内に樹脂30を充填する工程となっている。第2工程S2は、キャビティ17を略密閉した状態で樹脂30を注入させるため、キャビティ17内の空気及び樹脂30が加圧されながら、リブキャビティ部19内に樹脂30が流入される。
【0033】
そのため、第2工程S2の状態では、本体キャビティ部18の底部3下面4側を形成する部位周辺に残留した空気(図示せず)が、リブキャビティ部19内に誘導され易くなると共に、リブキャビティ部19と凸部キャビティ部20内の空気が圧縮される。そして、図5(a)に示すように、樹脂30の注入が進行すると、リブキャビティ部19内の空気は、補強リブ6の突出下端7側や凸部キャビティ部20内に集められながら圧縮され、空気溜り40となる。つまり、第2工程S2では、凸部キャビティ部20が、キャビティ17内の空気を集めて空気溜り40を形成する空気溜め部21として機能する。
【0034】
また、第2工程S2は、検知部の検知結果から、キャビティ17内の樹脂30の注入量が第2設定値に達したと判断されるまで行われており、該判断後、第3工程S3に移行される。該第2設定値は、例えば、リブキャビティ部19への樹脂30充填完了直前で且つ凸部キャビティ部20への樹脂30流入直前の注入量となっており、空気溜め部21を残してキャビティ17の略全体に樹脂30が注入された状態となっている。なお、第2設定値は、上述の注入量の条件のみに限らず、樹脂成形品の形状に応じて、適宜設定されるものであり、例えば、凸部キャビティ部20への樹脂30流入直後等の注入量であってもよい。
【0035】
第3工程S3は、最大排気流量より小さい排気流量で排気口10を開放させると共に、キャビティ17内に樹脂30を注入させ、キャビティ17内の加圧状態を徐々に解きながら、凸部キャビティ部20内に樹脂30を注入する工程となっている。第3工程S3の状態では、図5(b)に示すように、排気口10の開放に伴い空気溜め部21や周辺の圧力がリブキャビティ部19内の他の部位に比べて低下される。そして、この圧力の低下に伴って、リブキャビティ部19内の他の部位に残留した空気(気泡41)が空気溜め部21に誘導されて、空気溜り40に集められ易くなる。これにより、リブキャビティ部19内への空気(気泡41)の残留が解消され易くなると共に、リブキャビティ部19の形状に沿って型通りに樹脂30が充填され、リブキャビティ部19内への樹脂30充填が完了となる。
【0036】
そして、第3工程S3は、検知部の検知結果から、キャビティ17内の樹脂30の注入量が第3設定値に達したと判断されるまで行われており、該判断後、第4工程S4に移行される。該第3設定値は、例えば、凸部キャビティ部20の略半分程度樹脂30を注入した状態の注入量となっている。なお、第3設定値は、上述の注入量の条件のみに限らず、樹脂成形品の形状に応じて、適宜設定されるものである。
【0037】
第4工程S4は、図6に示すように、排気口10を全開させると共に、キャビティ17内に樹脂30を注入させ、排気口10を最大排気流量で流通可能な状態で、凸部キャビティ部20の残りの空間に樹脂30を充填させる工程となっている。そして、第4工程S4の状態では、空気溜め部21内の空気が排出されて、空気溜り40が解消されると共に、空気溜め部21である凸部キャビティ部20の略全体に樹脂30が充填される。
【0038】
そして、第4工程S4は、検知部の検知結果から、キャビティ17内の樹脂30の注入量が第4設定値に達したと判断されるまで行われており、該判断後、樹脂30の注入が停止されて、充填処理が完了となる。該第4設定値は凸部キャビティ部20の略全体に樹脂30が注入された状態の注入量となっており、第4設定値はキャビティ17全体に樹脂30を充填した充填完了値となっている。更に、制御部は、図7に示すように、キャビティ17全体に樹脂30が充填されて、充填処理完了と判断すると、該充填処理で充填した樹脂30を加熱硬化させる加熱処理に移行する。
【0039】
なお、第4工程S4におけるバルブ13の全開動作は、バルブ13の排気流量を段階的に増加させて、最大排気流量で流動可能な状態に至らしめることが好ましい。このように、段階的に排気流量を増加させることで、排気流量の短時間での著しい増加に伴うキャビティ17内の突発的な圧力変化を発生し難くすることができる。そのため、突発的な圧力変化に伴う樹脂30の発泡等が発生し難くなり、補強リブ5の密度低下等の樹脂成形品(浴槽1)の密度分布の不均一化や成形不良を抑制することができる。そして、充填処理の各ステップにおける検知部の検知結果に応じた制御は、樹脂30の注入量に応じた判断に限らず、樹脂30の注入時間で判断するものや、注入量と注入時間を組み合わせて判断するもの等であってもよい。
【0040】
加熱処理は、キャビティ17に充填された樹脂30を、熱硬化させる処理工程となっている。加熱硬化後、型部14、或いはキャビティ17内、或いは熱硬化した樹脂30より成る樹脂成形品(浴槽1)等が所定の温度に低下したと、制御部が判断すると、離型処理に移行される。
【0041】
離型処理は、第1型部15と第2型部16の組合せが解かれて、型部14の型開きが行われると共に、型部14から樹脂成形品(浴槽1)が取り外される。これにより、浴槽1の注型成形が完了となる。なお、離型処理後、注型成形された浴槽1がバリ等を有する場合、該バリ等を除去する除去処理を行ってもよい。
【0042】
このように、注型成形時に、キャビティ17が空気溜め部21を有すると共に、樹脂30注入途中に排気口10の排気流量を調整したことで、充填処理時に、気泡41等のリブキャビティ部19内の空気を外部に排出し易くなる。そして、キャビティ17内の空気を排出し易くしたことで、浴槽1(樹脂成形品)に残留空気が生じ難くすることができ、本体2や補強リブ6を略設計通りの形状及び強度に形成することができる。
【0043】
そのため、空気溜め部21跡より成る凸部8を備えた浴槽1は、残留空気に伴う強度低下を加味して形成したものに比べて、薄肉化した補強リブ6で所望の強度を得ることができ、成形時の樹脂30の使用量を低減することができる。そして、樹脂30の使用量を低減したことで、生産費用を低減することができる。更に、補強リブ6の薄肉化に伴い浴槽1を軽量化することができ、運搬費用を低減することができると共に、浴槽1設置時の作業負荷を軽減することができる。
【0044】
また、凸部8を補強リブ6の突出下端7に設けたことで、凸部8が貯湯空間5側である外観に露出せず、浴槽1の意匠性を略低下させずに維持して、設置することができる。そして、浴槽1が下方に空間を有して支持部材に支持されると共に、凸部8を被支持部以外に設けたことで、浴槽1設置時に凸部8が邪魔になり難く、凸部8を除去しなくても浴槽1を設置することができる。そのため、凸部8の除去等の後処理が不要となり、生産時や設置時の工数増加を抑え、費用や作業負荷の増加を抑制することができる。
【0045】
注型成形においては、第2工程及び第3工程で、樹脂30を加圧して注入するため、本体2や補強リブ6内の樹脂30の密度分布を略均一にして形成し易くなり、設計通りの強度により近い状態で浴槽1を成形することができる。そして、排気口10に樹脂30を流入させずに残留空気を排出するため、排気口10内に樹脂30を流入させて強制的に残留空気を排出するものに比べて、浴槽1を容易に離型させることができ、成形サイクルの遅延を抑制することができる。
【0046】
なお、凸部8を被支持部に設けてもよい。このものでは、被支持部が支持部材を挿入する挿入孔となっており、凸部8を被支持部に設けたことで、被支持部の突出高さを、補強リブ6の凸部8の無い他の部位に比べて、凸部8の分だけ高くすることができる。そのため、挿入孔の深さ寸法を、補強リブ6の凸部8の無い部位に設けた場合に比べて、深くすることができる。そして、挿入孔の深さ寸法を深くすることで、支持部材の被支持部への取付強度が向上されて、浴槽1の支持強度を向上させることができる。
【0047】
また、本金型装置や注型成形方法は浴槽1用に限らず、半球形状で球内面を意匠面とした洗面ボウルや、上方に開口した矩形の箱状で箱内面を意匠面とした樹脂シンク等の容器形状のもの等の樹脂成形品にも適用可能である。そして、該樹脂成形品は容器形状に限らず、一方の板面を意匠面とし他方の板面に補強リブ6を備えたキッチンカウンタや防水パン等の板状のものであってもよい。すなわち、本金型装置や注型成形方法で形成可能な樹脂成形品は、一方の面を意匠面とし、該意匠面の裏面である他方の面が外観に露出せず且つ該他方の面に補強リブ6を備えたものであればよい。更に、上述のような樹脂成形品では、凸部8を支持部材への取付時における樹脂成形品の位置決め部材として用いてもよい。このものでは、樹脂成形品の支持部材への取付時に、樹脂成形品を容易に位置決めすることができ、樹脂成形品設置時の作業負荷を軽減することができる。
【0048】
また、補強リブ6への空気の残留を軽減可能な空気溜め部21を形成可能であれば、充填処理の第2工程S2は、前述で例示した排気口10を閉塞させるバルブ閉塞工程としたものに限らない。例えば、第2工程S2の際に、全開状態から排気口10を第3工程S2と略同じ排気流量で開放させて、第2工程S2を排気流量調整工程とし、第3工程S3での制御を省略させたものがある。このものでは、第2工程S2で排気流量を低減させることで、凸部キャビティ部20を空気溜め部21として機能させて、補強リブ6への空気の残留を軽減させると共に、第3工程S3を省いたことで、成形サイクルを短縮させることができる。
【0049】
更に、第2工程S2の排気流量を第3工程S3の排気流量より小さく開放させて、補強リブ6への空気の残留を軽減させ、第2工程S2と第3工程S3の両工程を排気流量調整工程とするものであってもよい。このものでは、第2工程S2で凸部キャビティ部20を空気溜め部21として機能させ、第3工程S3で排気口10の排気流量を第2工程S2より大きくさせて、キャビティ17内の空気の排出を促進させるものとなる。
【符号の説明】
【0050】
1 浴槽
2 本体
3 底部
4 下面
6 補強リブ
7 突出下端
8 凸部
13 バルブ
14 型部
17 キャビティ
18 本体キャビティ部
19 リブキャビティ部
21 空気溜め部
30 樹脂
S1 第1工程
S2 第2工程
S3 第3工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注型成形で形成された浴槽であって、前記浴槽の本体底部下面に前記底部を補強する補強リブを一体に備えると共に、前記補強リブの突出下端に下方に突出した凸部を一体に備え、
前記凸部が、注型用のキャビティ内の空気を集める空気溜め部に前記樹脂を注入した、空気溜め部跡より成るものであることを特徴とする浴槽。
【請求項2】
請求項1に記載の浴槽を成形するための注型成形方法であって、
注型用のキャビティを形成する型部と、該キャビティ内に樹脂を注入する樹脂注入部と、前記キャビティに開口し前記キャビティ内の空気を排出する排気口と、前記排気口の排気流量を調整するバルブと、を備え、
前記型部が、前記浴槽の前記本体を形成するための本体キャビティ部と、前記浴槽の前記補強リブを形成するためのリブキャビティ部と、前記キャビティ内の前記空気を集める空気溜め部と、を有し、
前記本体キャビティ部に前記リブキャビティ部の一端が連通すると共に、前記リブキャビティ部の前記一端の反対側の端部に前記空気溜め部が連通し、
前記バルブを全開させて、前記樹脂を注入させて、前記本体キャビティ部に前記樹脂を充填させる本体キャビティ部充填工程と、
前記本体キャビティ部充填工程後、前記バルブを全開時に比べて少ない前記排気流量で開放させて、前記樹脂を注入させる排気流量調整工程と、
を有することを特徴とする注型成形方法。
【請求項3】
前記本体キャビティ部充填工程後に、前記バルブを閉塞させて、前記樹脂を注入させ、前記空気溜め部を残して前記キャビティに前記樹脂を注入させるバルブ閉塞工程を有し、前記バルブ閉塞工程後、前記排気流量調整工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の注型成形方法。
【請求項4】
請求項1に記載の浴槽を成形するための金型装置であって、
注型用のキャビティを形成する型部と、該キャビティ内に樹脂を注入する樹脂注入部と、前記キャビティに開口し前記キャビティ内の空気を排出する排気口と、前記排気口の排気流量を調整するバルブと、前記バルブを制御する制御部と、を備え、
前記型部が、前記浴槽の前記本体を形成するための本体キャビティ部と、前記浴槽の前記補強リブを形成するためのリブキャビティ部と、前記キャビティ内の前記空気を集める空気溜め部と、を有し、
前記制御部が、前記バルブを全開させて、前記樹脂を注入させ、前記本体キャビティ部に前記樹脂を充填させ、前記本体キャビティ部への前記樹脂充填後、前記バルブを全開時に比べて少ない前記排気流量で開放させて、前記樹脂を注入させる制御を行うものであることを特徴とする金型装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記本体キャビティ部への前記樹脂充填後、前記バルブを閉塞させて、前記樹脂を注入させ、前記空気溜め部を残して前記キャビティに前記樹脂を注入させ、前記空気溜め部を残した前記樹脂の注入後、、前記バルブを全開時に比べて少ない前記排気流量で開放させて、前記樹脂を注入させる制御を行うものであることを特徴とする請求項4に記載の金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−171190(P2012−171190A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35028(P2011−35028)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】