説明

浸漬処理設備

対象物(204)を浸漬処理する設備(200)は、公知の移送システム(206)で作動する。対象物(204)が、移動経路に隣接する硬い構造物と衝突することを回避するために、保持フレーム(212)に固定された対象物(204)の移動の各可能な自由度のために、絶対値を測定する位置トランスデューサ(274、274’、275、275’、276)が設けられている。メモリに、対象物(204)の移動経路に沿った硬い構造物の推移を再現する第1の境界面又は境界線(270)の推移が記憶されている。さらに、第1の境界面又は境界線(270)に対してある距離を置いて延びる、第2の境界面又は境界線(271)の推移が記憶されている。そして、保持フレーム(212)に固定された対象物(204)の推移を表す輪郭(273)の推移も記憶されている。制御装置(232)が、位置トランスデューサ(274、275、276)から供給される信号と、他の記憶されているデータから、保持フレーム(212)に固定された対象物(204)を表す輪郭(273)が、第2の境界面又は境界線(271)を横切ったか否かを計算し、横切った場合には、対象物(204)のそれ以上の移動を即座に禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物、特に車両ボディを浸漬処理、特に浸漬塗装する設備であって、
a)所定のレベルまで処理液で満たされることが可能な少なくとも一つの浸漬槽;
b)移送システムであって、それを用いて処理すべき対象物が浸漬槽へ近づけられ、その中へ移送され、そこから引き出されて、そこから離れるように移送可能であるとともに、ガイド装置とガイド装置に沿って走行可能な少なくとも一つの移送ワゴンとを有し、前記移送ワゴンは、
ba)ガイド装置に沿って走行移動するための駆動モータ;
bb)少なくとも一つの対象物を固定可能な保持フレーム;及び
bc)保持フレームが固定されている液浸装置であって、少なくとも一つの回転軸線又は揺動軸線を備えた液浸装置;を有する、移送システム;並びに
c)制御装置であって、その中に保持フレームに固定された対象物のための目標浸漬カーブが記憶されており、かつその制御装置が保持フレームに固定された対象物の運動を制御する制御装置;を有する浸漬処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
車両ボディを浸漬塗装する以前の設備は、移送システムとして振り子コンベアを使用していた。これにおいて、各車両ボディは、二本の振り子吊り手によって、振り子吊り手の下方の端部を互いに結合するスキッドに支持されていた。振り子吊り手自体は、上でチェーンコンベヤに固定されており、チェーンコンベヤのそれぞれの場合の高さの推移が、移送される車両ボディの局所的な垂直位置を定める。一部はまだ今日でも使用できるこの設備においては、上述した構造物に基づいて、移送される車両ボディが、その移動経路に隣接する硬い構造物、特に浸漬槽の壁又は二つの浸漬槽間に取り付けられた例えばスプレイリングのような塗装装置に衝突する危険はなかった。そのための特別な安全措置は不要であった。
【0003】
同様なことが、DE19641048A1に記載された浸漬処理設備についても当てはまり、同設備において、それぞれ車両ボディを支持する回転フレームが、チェーンによってレールシステムに沿って引っ張られ、かつある種の機械的な溝付きリンクガイドによって強制的に浸漬槽内へ回転して挿入され、かつ再びそこから回転して引き出される。ここでも、処理される車両ボディが移動経路に隣接する硬い構造物と衝突することは、機械的なガイド装置が不具合となる例外的な場合にしか考えられない。
【0004】
振り子コンベアによって作動する浸漬処理設備も、DE19641048A1に記載されたそれも、余り柔軟性を有さないので、最近においては例えばDE10103837B4又はDE10029939C1にも記載されているような、冒頭で挙げた種類の浸漬処理設備が次第に重要性を獲得している。これらの浸漬処理装置は、共通して、独立して走行可能な専用の駆動装置を備えた移送ワゴンを使用し、その移送ワゴンが、それによって支持される対象物を、液浸装置を用いて浸漬槽内へ浸漬させ、かつそこから引き上げる。その場合に浸漬運動は、少なくとも一本の回転軸線又は揺動軸線を中心とする少なくとも一つの回転運動又は揺動運動を有している。然るべきガイド装置に沿った移送ワゴンの線形運動と浸漬運動は、設備内で他の移送ワゴンの然るべき運動とは無関係に制御可能である。このようにして、以前の、特に移送チェーンを使用する設備においては達成できなかったシステム全体の柔軟性が得られる。
【0005】
しかし、自立して走行可能な移送ワゴンが従う、機械的な強制ガイドの数が少なくなることは、所定のシステムエラー、特に操作エラー又はソフトウェアエラーにおいて、処理すべき対象物が、移動経路に隣接する硬い構造物、特に浸漬槽の壁に衝突する危険性を増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、処理すべき対象物が移動経路内に位置する硬い構造物と衝突する危険性が大幅に排除されるように、冒頭で挙げた種類の設備を形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は本発明により解決される。即ち本発明では、
d)衝突回避システムが設けられており、前記衝突回避システムが、
da)保持フレームに固定された対象物の移動の各可能な自由度のために、絶対値を測定する位置トランスデューサ;
db)対象物の移動経路に沿う硬い構造物の推移を再現する、第1の境界面又は境界線が記憶されているメモリ;
db)第1の境界面又は境界線に対してある距離を置いて延びる、第2の境界面又は境界線の推移が記憶されているメモリであって、その場合に第1の境界面又は境界線と第2の境界面又は境界線との間に衝突保護領域が形成されている、メモリ;
dc)保持フレームに固定された対象物の輪郭の推移を表す、輪郭の推移が記憶されているメモリ;を有し、
e)制御装置が、位置トランスデューサから供給された信号と、第2の境界面又は境界線の推移に関して記憶されているデータ及び保持フレームに固定された対象物を表す輪郭に関して記憶されているデータとから、連続的に、あるいは所定の時間間隔で、前記輪郭が衝突保護領域内へ進入したか、していないかを計算し、進入した場合においては対象物のそれ以上の移動を停止することによって、課題が解決される。
【0008】
従って本発明によれば、その輪郭を少なくとも近似する境界面又は境界線によって表される、対象物の移動経路に位置する硬い構造物が、衝突保護領域によって囲まれ、その物理的に存在しない境界面又は境界線を保持フレームに固定されている対象物の輪郭の推移を表す輪郭が横切ることは許されない。ここで「表す」ということは、例えば多角形を描くことができるやり方で、正確な形状寸法に少なくともほぼ近似することと理解できる。問題となる輪郭が、衝突領域内へ進入した場合に、対象物のそれ以上の移動が即座に停止されて、場合によってはアラームが出力される。このようにして差し迫った衝突を確実に回避することができる。
【0009】
一般に、移送ワゴンは横の方向においては、この方向において衝突回避のための特別な措置を講じる必要がないように良好に案内される。その場合に、移送方向を含む鉛直平面内の、例えば処理すべき対象物の鉛直の中央平面内の二次元の考察で十分である。このことが、重要な形状寸法の記憶を容易にして、衝突を検討する際の計算の手間を減少させる。
【0010】
制御装置が、移送ワゴンによって共に運ばれると効果的である。このようにして、情報伝達と結びついた時間遅延が減少される。
【0011】
好ましくは、位置トランスデューサの正確な機能を検証する検証装置が設けられる。処理すべき対象物が硬い構造物と衝突した場合に生じ得る高い損害に基づいて、衝突回避システムが確実に作動すること、特にシステムの基礎となる位置トランスデューサが正確に作動することが不可欠である。本発明に係る検証装置がそれを保証する。
【0012】
検証装置は、位置トランスデューサの少なくとも一部のために、冗長な同様の位置トランスデューサを有することができる。互いに対応づけられた二つの位置トランスデューサが、許容誤差範囲内で実質的に同一の値を示す間は、位置トランスデューサが正確に機能していると推定することができる。しかし、二つの出力信号が著しく異なった場合には、エラーが存在すると見なして、対象物の移動を同様に停止状態にしなければならない。
【0013】
検証装置は、位置トランスデューサの少なくとも一部のために、固定型の装置を有することもでき、保持装置に固定された対象物が少なくとも一回その装置を通過して案内され、そこでその位置が独立に定められる。この場合には、検証装置は、連続的にではなく時間間隔をおいて保持装置に固定されている対象物がその装置を通過する場合に常に作動する。しかしこれは、一般的に、位置トランスデューサにおけるエラーをまだ間に合う時期に発見するためには十分である。
【0014】
上述の固定型の装置は、例えば、処理すべき対象物の所定の位置において遮断されるか又は解放されるフォトインタラプタ、又は超音波センサ、又は金属に応答するセンサ若しくは線形のスキャンシステムなどを有することができる。
【0015】
特に、衝突保護領域の幅が対象物の速度の関数であると効果的である。このようにして、処理すべき対象物が、場合によっては衝突に至るエラーの発見と移動の停止との間に移動する距離が、対象物の速度に伴って増大することが考慮される。
【0016】
この場合においては、できれば、そのとき処理されている車両ボディのタイプを自動的に認識するボディタイプ認識システムが設けられるべきである。これは、例えば車両ボディが水平及び鉛直の方向においてそれを通過して移動する複数のフォトインタラプタ、又は画像若しくはコード認識システムを有することができる。
【0017】
以下、本発明の実施例が図面を用いて詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両ボディの電気泳動の浸漬塗装設備を示す側面図である。
【図2】図1の浸漬塗装設備内で使用されるような移送ワゴンを浸漬槽内への浸漬プロセスにある車両ボディと共に示す斜視図である。
【図3】衝突を回避するように整えられた、図1の浸漬塗装設備の一部を図式的に示す側面図であって、その場合に移送ワゴンに固定された車両ボディは衝突の危険にさらされていない。
【図4】図3と同様の図であるが、移送ワゴンによって共に運ばれる車両ボディは衝突の危険にさらされている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
最初に図1と図2を参照する。そこに図示されて全体を参照符号200で示される電気泳動の浸漬設備は、本発明に係る衝突回避システムが使用される浸漬設備の一つの実施例を示しているに過ぎない。前記浸漬設備は、液状の塗料で満たされた浸漬槽202を有している。顔料粒子が、車両ボディ204と、分り易くするために図示されていないが車両ボディ204の移動経路に沿って配置された陽極との間に形成された電場内で車両ボディ204の方へ移動してそこに付着する。
【0020】
車両ボディ204は、移送システム206によって、前記設備、特に浸漬槽202とその中にある塗料を通って移送される。移送システムは、多数の移送ワゴン208を有しており、その移送ワゴンが駆動ワゴン210と保持フレーム212とを有しており、それらが、後に詳細に説明する伸縮装置214を介して互いに結合されている。
【0021】
浸漬槽202の上方に、従来型の電動の懸垂型モノレールにおいて使用されるような駆動レール216が延びている。車両ボディ204が移送システム206によって移動される移動方向は、図1に矢印220で示されている。駆動レール216は、浸漬槽202の中心に関して、図1の図平面に関する垂直の方向で外側へずれている。
【0022】
駆動ワゴン210は、電動の懸垂型モノレールから原則的に知られている構造物である。これら駆動ワゴン210の各々は、専門用語では「先行体」と称される、移動方向220において先を行く走行装置222と、専門用語で「後続体」と称される、移動方向220において後を追う他の走行装置224とを有している。先行体222と後続体224は、既知の様態でガイド・支持ローラを有しており、それはここではそれとしての参照符号を有しておらず、駆動レール116のI字状の形材の種々の面に接して転動する。先行体222又は後続体224のローラの少なくとも一つは、駆動ローラとして用いられ、そのために電動モータ226又は228によって回転可能である。
【0023】
各駆動ワゴン210の先行体222と後続体224は、結合フレーム230によって互いに結合されている。この結合フレームは、これも既知の様態で制御装置232を支持しており、その制御装置は、浸漬設備200の中央の制御部と、そして場合によっては、浸漬設備200内に設けられた他の駆動ワゴン210の制御装置232と通信することができる。このようにして、種々の移送ワゴン208及びそれに取り付けられた可動部分のほぼ独立した運動が可能である。
【0024】
駆動ワゴン210を保持フレーム212に結合する伸縮装置214は、鉛直に延びる三つに分かれた、その長さが可変の伸縮式アーム234を有している。その伸縮式アームは、上方の伸縮部材246、中央の伸縮部材254、及び下方の伸縮部材256を有しており、それらは互いに対して移動可能である。そのために必要な、制御装置232によって制御されるモータは図示されていない。
【0025】
下方の伸縮部材256の下方の自由端部領域258に回動ピン260が設けられている。これが、図2に示す水平の回転軸線262を定める。回動ピン260は、図面では認識できない歯車付モータ264によって、回転軸線262を中心に二つの回転方向に回転することができ、前記歯車付モータ264は伸縮部材256に保持され、移送ワゴン208の制御装置232によって制御される。
【0026】
保持フレーム212は、既知の様態で互いに対して平行に延びる二本の長手梁266を有しており、図1と図2にはそのうちの、それぞれ観察者へ向いたもののみが認識できる。これらは、横ばり270を介して中央で互いに結合されている。回動ピン260は、保持フレーム212の長手梁266の外側面と相対回動不能に結合されている。長手梁266と268の端部には、固定手段272が取り付けられており、その固定手段272によって、塗装すべき車両ボディ204がそれ自体知られたやり方で保持フレーム212に取り外し可能に固定され得る。
【0027】
従って保持フレーム212は、回動ピン260によって片側だけで支持されるので、保持フレーム212の鉛直上方の空間内には、移送システム206の構成要素は何も配置されていない。従って、車両ボディ204が、例えばほこり又はオイルなどのような移送システム206の構成要素から落下する汚物によって汚れる危険性は減少される。
【0028】
上で述べたように、伸縮式アーム234の伸縮部材246、254、及び256は互いに対して移動することができる。そのために、個々の伸縮部材246、254、及び256の横断面は、中央の伸縮部材254が上方の伸縮部材246内で、そして下方の伸縮部材256が中央の伸縮部材254内で案内されて移動することができるように、互いに対して相補的に形成されている。
【0029】
上述した電気泳動の浸漬塗装設備200の、連続的な塗装運転における「ノーマル」な機能モードは以下のごとくである。
【0030】
塗装すべき車両ボディ204が、図1において略水平に方向付けされて前処理ステーションから供給され、その前処理ステーション内で車両ボディは、既知の様態で清掃及び脱脂などによって塗装プロセスに合わせて準備される。その場合に伸縮部材246、254、及び256は、互いに入り込むように移動するので、伸縮式アーム234はその可能な限り最も小さい長さを有する。該当する移送ワゴン208の駆動ワゴン210は、電動モータ226と228によって駆動レール216に沿って浸漬槽202上へ案内され、その場合に付属の保持フレーム212は、それに固定されている車両ボディ204と共に伸縮装置214を介して共に運ばれる。
【0031】
移送ワゴン208が、浸漬槽202の入口側にある端壁に接近した場合に、伸縮式アーム234が引き出されることによって、車両ボディ204が漸進的に下降される。車両ボディ204のフロントが、浸漬槽202の端壁を越えて浸漬槽202の内部へ突出するとすぐに、上述した歯車付モータによって、回動ピン260と、それに伴って固定された車両ボディ204を有する保持フレーム212とが回転軸線262を中心に回動される。従ってこの段階において、車両ボディ204の運動全体は、三つの運動、すなわち駆動レール216に沿った水平の線形運動(矢印220)、伸縮式アーム234の長手軸線に従う垂直の線形運動、及び回動ピン260の回転軸線262を中心とする回転運動の重ね合せと考えられる。その場合に、車両ボディ204は、浸漬槽202の入口側の端壁の上方で「回る」。該当する位置が図2に斜視図で示されている。
【0032】
車両ボディ204が下降を続け、かつ回動ピン260の回転軸線262を中心に回転を続けて行くうちに、最終的に、車両ボディ204が実質的に鉛直に立つ位置に達する。その場合に車両ボディ204は、まだ、浸漬槽202の入口側の端壁に比較的近い位置にある。移送ワゴン208がさらに移動し、それに伴って車両ボディ204の中心と浸漬槽202の入口側の端壁との間の間隔が増大する程度において、回動ピン260とそれに伴って車両ボディ204がさらに時計方向に回動されるので、車両ボディ204は逆さまになり始める。遅くとも、車両ボディ204が完全に「逆さま」になって、それに伴って再び水平になった瞬間に車両ボディ204は液状の塗料内へ完全に浸漬される。
【0033】
車両ボディ204は、やがて、この姿勢で移送ワゴン208によって浸漬槽202を通してさらに移送されて、浸漬槽202の出口側の端壁のより近くへ移動される。
【0034】
その後、車両ボディ204の引上げプロセスが開始される。ここでもこれは、三つの運動、すなわち移送方向220における水平の線形運動、伸縮式アーム234の長手軸線に沿った鉛直運動、及び回動ピン260の回転軸線262を中心とする回転運動の重ね合せとして表される。その場合に、車両ボディ204は、伸縮式アーム234を短縮しながら、それに伴って保持フレーム212を上昇移動させ、かつ回転運動を続けながら、浸漬槽202の出口側の端壁を越えて「回り」、その後、移送方向220における浸漬槽202の後方で、新しく塗装された車両ボディ204の水平の姿勢が新たに達成される。
【0035】
上述した移動プロセスは、種々の移送ワゴン208によって共に運ばれる制御装置232内に記憶されているプログラムの影響を受けて、場合によっては、浸漬塗装設備200の上位に配置された中央の制御部の協働の元で行われる。
【0036】
すべての技術的装置におけるように、上述した浸漬塗装設備200においても、エラーが発生することがある。これは、以下で説明する追加的な措置なしでは、塗装すべき車両ボディ204と、硬い構造物、特に浸漬槽202の壁との間の衝突をもたらすことがある。上述したエラーは、操作者のエラー、例えばそれぞれ処理される車両ボディのために誤って選択された浸漬カーブであり、あるいは制御装置232用の実行されたプログラミングにおけるエラーが考えられる。エラーは、懸架された車両ボディ204を有する個々の移送ワゴン208が、「手動コマンド」を受けて、従って制御装置232内にプログラミングされた浸漬カーブの利用なしで移動される、いわゆる「手動走行」の場合にも発生することがある。そして、使用される種々の制御装置232のプログラム内に認識されないエラーが存在することもあり、それは、予測できない時点で、所定の状況において作用し、浸漬塗装設備200を通る車両ボディ204の正しい案内を損なうことがある。
【0037】
この理由から、上で図1と図2を用いて説明した浸漬塗装設備200に追加的に衝突回避システムが設けられ、それが図3と図4を用いて以下で説明される。
【0038】
この衝突回避システムは、「ソフトウェア構成要素」と「ハードウェア構成要素」とから構成される。
【0039】
「ソフトウェア構成要素」は、種々の浸漬ワゴン208の制御装置232内に記憶された衝突回避プログラムを内容とし、それは、以下で説明するように、切迫した衝突を回避するために、車両ボディ204の連続的な移動シーケンスを制御する「ノーマルな」プログラムに介入する。
【0040】
そのために、種々の制御装置232内に、浸漬塗装設備200の「硬い」固定型の構造物の幾何学的条件、並びに処理すべき車両ボディ204のそれの幾何学的条件がプログラミングされている。「硬い」構造物というのは、特に、種々の浸漬槽202の壁を指すが、浸漬槽202の前段又は後段に接続されている構造物、あるいは二つの浸漬槽202を互いに結合する構造物も指す。二つの浸漬槽の間の塗装装置、例えばスプレイリングもそれに数えられる。その位置は、そのとき処理される車両ボディ204のタイプに依存し得る。
【0041】
硬い構造物の形状寸法は、もちろん車両ボディ204のそれと同様に本来三次元である。しかし、駆動レール216によって、車両ボディ204の信頼できる側方のガイドが保証されるので、衝突回避の問題は、例えば図1、図3、及び図4に示すように、走行方向220を含む鉛直平面内の二次元の考察に減少させることができる。この二次元の考察においては、面から線になる。
【0042】
硬い構造物の境界線が、図3と図4に参照符号270で示されている。説明したように、その境界線は種々の制御装置232内に記憶されている。上述したようにそれは、処理される車両ボディ204のタイプに依存することができるので、図示の設備部分の前段に、自動的に作動するボディタイプ認識装置が接続されている。前記認識装置の答えに従って、それぞれ使用される境界線270が選択される。
【0043】
同様に、硬い構造物の境界線270に対して平行に延びる境界線271であって、衝突保護領域272の車両ボディ204の移動経路の方へ面した境界線271が記憶されており、前記衝突保護領域272は、この境界線271と硬い構造物の境界線270との間にある。
【0044】
衝突保護領域272の幅及び従って境界線271と270の間隔は、固定的であっても、あるいは動的であってもよい。後者の場合に、衝突保護領域272の幅は、車両ボディ204の移動速度と共に増大する。その場合に、境界線271の位置は、制御装置232によって、硬い構造物の境界線270のこの既知の位置と、制御装置232には初めから分かっている車両ボディ204の移動速度とから計算することができる。車両ボディ204の「移動速度」というのは、最も単純な場合においては、水平方向における速度成分である。最も確実なのは、ここでは、三つの運動のタイプから重ね合わされた運動全体において車両ボディ204の点が達する最高速度を考慮することである。
【0045】
制御装置232内に、さらに、保持フレーム212に固定された車両ボディ204の形状寸法が記憶されている。この形状寸法は、図3と図4が示唆するように、ここで行われる二次元の観察において、車両ボディ204と保持フレーム212を包囲する多角形273、あるいは他の数学的に定義される包絡線によって近似することができる。
【0046】
衝突回避システムの「ハードウェア構成要素」は、移送システム206の各々の線形運動の自由度のために、各移送ワゴン208に、二つの絶対測定位置トランスデューサ274、274’、275、275’を有している:
【0047】
矢印220の方向で駆動レール216に沿う移送ワゴン208の線形運動のための位置トランスデューサは、例えばバーコードと協働することができ、そのバーコードは駆動レール216に沿って延びており、そのコードは、それが存在する場所をそれぞれ表している。これらのコードが、それぞれ、移送ワゴン208によって共に運ばれる二つの読取りヘッド274、274’によって読み出される。読取りヘッド274、274’は、図3と図4においては極めて図式的に示されている。
【0048】
同様な原理に基づく、読取りヘッド275、275’を有する位置トランスデューサが、線形の鉛直運動を検出するために、伸縮式アーム234に設けられている。この読取りヘッド275、275’の、図3と図4に示す位置は象徴的なものであるに過ぎない。それらは、実際の形態においては、伸縮式アーム234の内部に外からは見えないように配置される。
【0049】
そして、回転軸線260を中心とする保持フレーム212の回転自由度が、保持フレーム212に固定された回転角度トランスデューサ276によって監視される。原則的に、この回転角度トランスデューサ276に、同一に構成された第2の回転角度トランスデューサを結び付けることができる。しかしながら、本実施例では、この種の第2の回転角度トランスデューサの代わりに、二つの固定型のフォトインタラプタ277、278が設けられており、それらは、車両ボディ204の所定の位置においてその両方ともが遮断されないように位置決めされている。
【0050】
衝突回避システムを作動するためには、本来、読取りヘッド274、275と回転角度トランスデューサ276のみが必要である。他の読取りヘッド274’、275’とフォトインタラプタ277、278は冗長であって、安全性を高めるために用いられる。
【0051】
上述した衝突回避システムは、制御装置232内のノーマルなプログラムシーケンスを背景として、ないしは手動駆動においては、操作者によって与えられる操作コマンドを背景として、以下のように作動する。
【0052】
種々の支持ワゴン208の制御装置232は、それに対応づけられた読取りヘッド274から、それぞれ駆動レール216上の支持ワゴン208の現在の位置に関する情報を伝達され、かつ読取りヘッド275からは、それぞれの伸縮式アーム234の長さ及び従ってそれぞれ対応づけられた回転軸線260の高さに関する情報を伝達される。回転角度トランスデューサ276は、車両ボディ204を有する保持フレーム212が回転軸線260を中心として占める角度位置に関する情報を伝達する。これらの情報から、そして制御装置232内に記憶されている、衝突保護領域272の境界線271と保持フレーム212に固定された車両ボディ204の理想化された輪郭273に関する情報から、制御装置232は、図3に示すように、理想化された輪郭273が衝突保護領域272の外部にあるか、あるいは図4に示すように、衝突保護領域272内へ進入したかを計算する。後者の場合において、制御装置232は、アラームを出力して、ノーマルプログラムをオーバーライドすることにより車両ボディ204のそれ以上の移動を即座に停止する。このようにして、車両ボディ204と境界線270によって象徴される硬い構造物との間の差し迫った衝突が回避される。
【0053】
上述した、種々の絶対測定位置トランスデューサ274、275、及び276からの情報伝達とそれに連続する計算は、所定の短い時間間隔で、ほぼリアルタイムに実施することができる。
【0054】
位置トランスデューサ274、275、又は276が故障した場合に、衝突回避システムが機能できなくなることを防止するために、冗長な読取りヘッド274’、275’とフォトインタラプタ277、278が設けられている。読取りヘッドペア274、274’、275、275’から出力された情報は、同時に呼び出して互いに比較することができる。それらが、予め定められた許容誤差範囲よりも多くずれている場合に、同様にアラームが出力されて、車両ボディ204のそれ以上の移動が停止される。回転角度トランスデューサ276の機能の様態は、絶対測定位置トランスデューサ274、275、及び276が、フォトインタラプタ277、278の通過性が存在しなければならない車両ボディ204の位置を通知する時点で、これらフォトインタラプタ277、278の通過性が試験されることによって監視される。しかしこの時点でこのフォトインタラプタ277、278の一つが遮断されているなら、それは、絶対測定位置トランスデューサ274、275、又は276のいずれかに不具合があることを意味している。この場合においても、アラームが作動されて、車両ボディ204のそれ以上の移動が即座に停止される。
【0055】
上述した衝突回避システムは、好ましくは、具体的に説明した移送システム206においてだけでなく、対象物、特に車両ボディが少なくとも一つの線形運動と少なくとも一つの回転運動又は揺動運動を重ね合わせながら浸漬槽内へ投入され、かつそこから再び取り出される所ではどこでも使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物、特に車両ボディを浸漬処理、特に浸漬塗装する設備であって、
a)所定のレベルまで処理液で満たされることが可能な少なくとも一つの浸漬槽;
b)移送システムであって、それを用いて処理すべき対象物が浸漬槽へ近づけられ、その中へ移送され、そこから引き出されて、そこから離れるように移送可能であるとともに、ガイド装置と、前記ガイド装置に沿って走行可能な少なくとも一つの移送ワゴンとを有し、前記移送ワゴンは、
ba)ガイド装置に沿って走行移動するための駆動モータ;
bb)少なくとも一つの対象物を固定可能な保持フレーム;及び
bc)保持フレームが固定されている液浸装置であって、少なくとも一つの回転軸線又は揺動軸線を備えた液浸装置;を有する、移送システム;並びに
c)制御装置であって、その中に保持フレームに固定された対象物のための目標浸漬カーブが記憶されており、かつ保持フレームに固定された対象物の運動を制御する、制御装置;を有する、浸漬処理設備において、
d)衝突回避システムが設けられており、該衝突回避システムが、
da)保持フレーム(212)に固定された対象物(204)の可能な移動の自由度のために、絶対値を測定する位置トランスデューサ(274、275、276);
db)対象物(204)の移動経路に沿った硬い構造物の推移を再現する、第1の境界面又は境界線(270)が記憶されているメモリ;
dc)第1の境界面又は境界線(270)に対してある距離を置いて延びる、第2の境界面又は境界線(271)の推移が記憶されているメモリであって、第1の境界面又は境界線(270)と第2の境界面又は境界線(271)との間に衝突保護領域(272)が形成されている、メモリ;
dd)保持フレーム(212)に固定された対象物(204)の輪郭の推移を表す輪郭(273)の推移が記憶されているメモリ;を有し、
e)制御装置(232)が、位置トランスデューサ(274、275、276)から供給された信号と、第2の境界面又は境界線(271)の推移に関して記憶されているデータ、及び保持フレーム(212)に固定された対象物(204)を表す輪郭(273)に関して記憶されているデータから、連続的にあるいは所定の時間間隔で、前記輪郭(273)が衝突保護領域(272)内へ進入したか、していないかを計算し、進入した場合においては対象物(204)のそれ以上の移動を停止することを特徴とする浸漬処理設備。
【請求項2】
制御装置(232)が、移送ワゴン(208)によって共に運ばれることを特徴とする請求項1に記載の設備。
【請求項3】
位置トランスデューサ(274、275、276)の正しい機能を検証する、検証装置(274’、275’、277、278)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の設備。
【請求項4】
検証装置(274’、275’、277、278)が、位置トランスデューサ(274、275)の少なくとも一部のために、冗長な同様の位置トランスデューサ(274’、275’)を有することを特徴とする請求項3に記載の設備。
【請求項5】
検証装置(274’、275’、277、278)が、位置トランスデューサ(276)の少なくとも一部のために、固定型の装置(277、278)を有しており、保持フレーム(212)に固定された対象物(204)が、少なくとも一回、前記固定型の装置を通過して案内され、そこでその位置が独立に定められることを特徴とする請求項3又は4に記載の設備。
【請求項6】
前記固定型の装置が、少なくとも一つのフォトインタラプタ(277、278)を有することを特徴とする請求項5に記載の設備。
【請求項7】
衝突保護領域(272)の幅が、対象物(204)の速度の関数であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の設備。
【請求項8】
自動的に作動するボディタイプ認識装置が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−523951(P2012−523951A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505067(P2012−505067)
【出願日】平成22年3月20日(2010.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001756
【国際公開番号】WO2010/121688
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511056714)アイゼンマン アクチェンゲゼルシャフト (15)
【Fターム(参考)】