説明

浸漬塗布方法、及び定着ベルトの製造方法

【課題】下端部に塗液の浸入を防止するための被覆体が設けらた円筒状基体を用いる浸漬塗布方法であって、塗料の気泡発生を抑制し、円筒状基体表面に平滑な被膜を形成することができる浸漬塗布方法を提供すること。また、当該浸漬塗布方法を利用した定着ベルトの製造方法を提供すること。
【解決手段】円筒状基体10を、その軸方向が垂直となるように保持しながら塗料40に浸漬し、次いで引き上げることにより、該塗料40を前記円筒状基体10の表面に塗布をする浸漬塗布方法であって、前記円筒状基体10は、その下端の開口を密閉すると共に下端部外周面を覆って被覆体24が保持されてなり、且つ前記被覆体24と前記円筒状基体10との境界部が前記塗液の液面を通過する間の浸漬速度Tが下記式(1)を満たすようにする。また、これを利用して定着ベルトを製造する。
式(1):T≦−ρ+1000
(ここで、式(1)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状基体の表面に浸漬塗布によって塗膜を形成する浸漬塗布方法、及び、その浸漬塗布方法を用いてフッ素樹脂層を形成した定着ベルトの製造方法に関する。該定着ベルトは、複写機やレーザープリンタ等の電子写真装置の加熱定着装置に使用される。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置においては、トナー像を記録用紙上に加熱定着するための定着体として、金属やプラスチック、又はゴム製の回転体が使用されるが、装置の小型化や省電力化のために、特許文献1や特許文献2に記載のように、回転体には、変形可能な薄肉の樹脂製ベルトが用いられる。この場合、ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がない無端ベルトが好ましい。その材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0003】
ポリイミド樹脂ベルトは、その前駆体を基体に塗布し、乾燥し、加熱焼成して作製される。該前駆体は、非プロトン系極性溶剤に酸無水物とジアミンを溶解して合成される。非プロトン系極性溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。溶液の濃度、粘度等は、適宜選択される。
【0004】
ポリイミド樹脂ベルトを定着体として使用するには、表面に付着するトナーの剥離性のため、ベルト表面に非粘着性の層を設けるのが好ましい。その層の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が好ましい。非粘着層には、耐摩耗性や静電オフセットの向上、トナーの付着防止用オイルとの親和性等のために、カーボン粉体や、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機化合物粉体等、フッ素樹脂以外の材料を含んでもよい。定着ベルトとして、ポリイミド樹脂層の厚さは25〜200μmの範囲が好ましく、非粘着層の厚さは5〜50μmの範囲が好ましい。
【0005】
ポリイミド樹脂で無端ベルトを作製するには、特許文献3記載の、円筒状基体の内面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、回転しながら乾燥させる遠心成形法や、特許文献4記載の、円筒状基体内面にポリイミド前駆体溶液を展開する内面塗布法がある。但し、これら内面に成膜する方法では、ポリイミド前駆体皮膜が、管状体として強度を保持できる状態になるまで熱処理した後、円筒状基体から抜いて外型に載せ換える必要があり、工数が増える問題があった。また、表面にフッ素樹脂を塗布する場合も、外型に載せ換えた後で塗布する必要があった。
【0006】
ポリイミド樹脂無端ベルトの他の製造方法として、基体の表面に、浸漬塗布法によってポリイミド前駆体溶液を塗布して乾燥し、加熱することにより、基体外面上にポリイミド樹脂皮膜を形成する方法もある。ポリイミド前駆体溶液が高粘度のために、膜厚が厚くなりすぎる場合には、特許文献5開示の如く、基体の外径よりも大きな孔を設けた環状体をポリイミド前駆体溶液に浮かべて、ポリイミド前駆体溶液の膜厚を制御する方法があり、この方法では、外型に載せ換える工数が不要である。
【0007】
更に、基体の表面にポリイミド樹脂皮膜を形成する他の方法として、特許文献6に記載のように、基体を回転させながら、高粘度の樹脂溶液をディスペンサーにより供給し、かつディスペンサーを基体の軸方向に移動し、らせん状に巻回して塗布する方法もある。この方法では、高粘度のポリイミド前駆体溶液でも所望の膜厚に塗布は可能であるものの、条件次第では、らせん状の縞模様が発生する事があり、特に膜厚が50μm以上と厚い場合や、ディスペンサーの移動速度を速くした場合には発生しやすかった。
【0008】
一方、フッ素樹脂層を形成するには、フッ素樹脂が溶剤に不溶性であるため、フッ素樹脂の粉体を水等の溶媒に分散した塗料を塗布した後、溶媒を乾燥し、焼成して加熱溶融する方法がとられる。
【0009】
ところが、フッ素樹脂層は、記録用紙の表面、及び/又は裏面と接触するので、その表面が荒れていると、記録用紙上のトナー層に荒れた面が転写されて、像が乱れるので、フッ素樹脂層の表面は平滑な方が好ましい。
【0010】
フッ素樹脂分散液の塗布方法として、スプレー塗布法は、表面の平滑性が劣るほか、高価なフッ素樹脂分散液の塗着効率が悪いために、高コストになる問題があって好ましくない。
【0011】
また、特許文献7に記載のように、基体を回転させながら、フッ素樹脂分散液をやはりディスペンサーにより供給し、かつディスペンサーを基体の回転軸方向に移動させることにより、らせん状に巻回して塗布する方法もあるが、フッ素樹脂分散液が流延性に乏しいために、らせん状の筋が消えにくく、特に膜厚が25μm以上と厚い場合や、ディスペンサーの移動速度を速くした場合には、らせん筋が発生しやすい問題があった。
【特許文献1】特開平8−262903号公報
【特許文献2】特開平11−133776号公報
【特許文献3】特開昭57−74131号公報
【特許文献4】特開昭62−19437号公報
【特許文献5】特開2002−91027公報
【特許文献6】特開平9−85756号公報
【特許文献7】特開平9−297482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
また、他のフッ素樹脂分散液の塗布方法として、円筒状基体をその軸方向を垂直にしてフッ素樹脂分散液に浸漬し、次いで引き上げることにより塗布する浸漬塗布方法もあり、平滑な被膜を形成する場合に好ましい。
【0013】
円筒状基体の表面に浸漬塗布方法によって塗膜を形成することは、従来から知られている。その場合、円筒状基体の内部に塗料が浸入すると、円筒状基体の内面に塗料が付着して、塗料が無駄になるばかりか、内面を汚してしまうため好ましくない。
【0014】
円筒状基体の底部の開口面を蓋で密閉し、粘着テープで固定し、結合部を被覆することは従来から知られている。その場合、塗布又は乾燥後に粘着テープを剥離して蓋を外す必要があるが、粘着テープを剥離する作業に時間がかかっていた。
【0015】
フッ素樹脂分散液の浸漬塗布時には、円筒状基体の底部に被覆体を取り付け、フッ素樹脂分散液を浸入させないのが好ましい。ところが、フッ素樹脂分散液は、混入されている界面活性剤のために、液が泡立ちやすいという問題がある。そのため、フッ素樹脂分散液の浸漬塗布時には、気泡の発生に十分に注意する必要があり、円筒状基体と被覆体の隙間から空気が漏れるもしくは両者の段差の衝撃から気泡が発生することは避けなければならないことである。
【0016】
ところが、基体の下端部に被覆体を取り付け、その軸方向を垂直にしてフッ素樹脂分散液に浸漬塗布する際に、被覆体がフッ素樹脂分散液に浸漬される時に気泡が発生し、塗布膜表面に泡が付着した状態で引き上げられて平滑な被膜が形成できない問題があった。
【0017】
また、基体の下端部に被覆体を取り付けることにより、基体内の空気が圧縮され、この状態で浸漬塗布した場合に液中で基体内部に溜まった空気が漏れることにより被覆体の淵から気泡が発生して、均一な被膜を形成できないこともあった。
【0018】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。すなわち本発明は、下端部に塗液の浸入を防止するための被覆体が設けらた円筒状基体を用いる浸漬塗布方法であって、塗料の気泡発生を抑制し、円筒状基体表面に平滑な被膜を形成することができる浸漬塗布方法を提供することを目的とする。また、当該浸漬塗布方法を利用した定着ベルトの製造方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
本発明の浸漬塗布方法は、円筒状基体を、その軸方向が垂直となるように保持しながら塗料に浸漬し、次いで引き上げることにより、該塗料を前記円筒状基体の表面に塗布をする浸漬塗布方法であり、
前記円筒状基体は、その下端の開口を密閉すると共に下端部外周面を覆って被覆体が保持されてなり、
且つ前記被覆体と前記円筒状基体との境界部が前記塗液の液面を通過する間の浸漬速度Tが下記式(1)を満たすことを特徴としている。
式(1):T≦−ρ+1000
(ここで、式(1)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)
【0020】
本発明の浸漬塗布方法において、前記被覆体の最大外径と前記円筒状基体の最大外径との差は、0.5mm以下であることが好適である。
【0021】
本発明の浸漬塗布方法において、前記被覆体は、摩擦力のみにより円筒状基体に保持されていることが好適である。
【0022】
一方、本発明の定着ベルトの製造方法は、上記本発明の浸漬塗布方法を利用した方法であり、
ポリイミド樹脂皮膜又はポリイミド前駆体皮膜を円筒状基体の表面に形成する工程と、
前記皮膜が表面に形成された円筒状基体を、その軸方向が垂直となるように保持しながら、フッ素樹脂塗料中に浸漬し、引き上げることにより、前記円筒状基体における前記皮膜の表面にフッ素樹脂塗料を塗布する工程と、
塗布された前記フッ素樹脂塗料を加熱焼成して、フッ素樹脂層を形成する工程と、
フッ素樹脂層が形成された前記皮膜を円筒状基体から抜き取る工程と、
を有し、
前記フッ素樹脂層を形成する工程において、
前記円筒状基体は、その下端の開口を密閉すると共に下端部外周面を覆って被覆体が保持されてなり、
且つ前記被覆体と前記円筒状基体との境界部が前記塗液の液面を通過する間の浸漬速度Tが下記式(1)を満たすことを特徴としている。
式(1):T≦−ρ+1000
(ここで、式(1)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)
【0023】
本発明の定着ベルトの製造方法においても、前記被覆体の最大外径と前記円筒状基体の最大外径との差は、0.5mm以下であることが好適である。
【0024】
本発明の定着ベルトの製造方法においても、前記被覆体は、摩擦力のみにより円筒状基体に保持されていることが好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、下端部に塗液の浸入を防止するための被覆体が設けらた円筒状基体を用いる浸漬塗布方法であって、塗料の気泡発生を抑制し、円筒状基体表面に平滑な被膜を形成することができる浸漬塗布方法を提供することができる。また、当該浸漬塗布方法を利用した定着ベルトの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の定着ベルトの製造方法を、本発明の浸漬塗布方法と共に説明する。
【0027】
本発明の定着ベルトの製造方法は、ポリイミド樹脂皮膜又はポリイミド前駆体皮膜を円筒状基体の表面に形成する工程(皮膜形成工程)と、前記皮膜が表面に形成された円筒状基体を、その軸方向が垂直となるように保持しながら、フッ素樹脂塗料中に浸漬し、引き上げることにより、前記円筒状基体における前記皮膜の表面にフッ素樹脂塗料を塗布する工程(フッ素樹脂塗膜形成工程)と、塗布された前記フッ素樹脂塗料を加熱焼成して、フッ素樹脂層を形成する工程(加熱焼成工程)と、フッ素樹脂層が形成された前記皮膜を円筒状基体から抜き取る工程(抜き取り工程)と、を有ししている。以下、各工程について説明する。
【0028】
−皮膜形成工程−
【0029】
皮膜形成工程では、まず、円筒状基体の表面にポリイミド前駆体皮膜を形成する。このポリイミド前駆体皮膜は、円筒状基体にポリイミド前駆体を塗布するポリイミド前駆体塗布工程と、その後乾燥してポリイミド前駆体皮膜を形成するポリイミド前駆体乾燥工程とから形成される。
【0030】
・ポリイミド前駆体塗布工程
ポリイミド前駆体塗布工程では、まず、ポリイミド前駆体が非プロトン系極性溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液を調製する。ポリイミド前駆体としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、適宜「BPDA」と略す)とp−フェニレンジアミン(以下、適宜「PDA」と略す)とからなるポリイミド前駆体を用いたもの、BPDAと4,4’ −ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリイミド前駆体を用いたもの、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリイミド前駆体を用いたもの、3,3’,4,4’ −ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルメタンとからなるポリイミド前駆体を用いたもの、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノベンゾフェノンとからなるポリイミド前駆体を用いたものなど、種々の組み合せからなるものを用いることができる。また、ポリイミド前駆体は、2種以上を混合して用いてもよいし、酸又はアミンのモノマーを混合して共重合されたものを用いてもよい。
【0031】
ポリイミド前駆体は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン系極性溶剤に溶解することで、ポリイミド前駆体溶液として調製される。なお、この調製の際におけるポリイミド前駆体の混合比、濃度、粘度等の選択は、適宜調整して行われる。
【0032】
ポリイミド前駆体塗布工程において、塗布方法の一つとして、ポリイミド前駆体溶液をノズルから円筒状基体表面に流下させつつ、へらでポリイミド前駆体溶液を平坦化し、ノズルとへらを円筒状基体の一端から他の一端へ水平方向に移動させることにより、基体表面にポリイミド前駆体溶液を塗布する方法がある(螺旋塗布法)。
【0033】
具体的には、図1に示す塗布装置を用いて塗布することができる。図1に示す塗布装置では、図示しないが、円筒状基体10は、その両端を保持部材で保持されて、水平に回転可能(矢印A)に支持するアームを有する台座に保持体を介して配設されている。また、図示しないが、円筒状基体10は、円筒状基体10を軸回転させるための駆動手段(回転手段)と保持部材を介して連結されている。
【0034】
そして、円筒状基体10の周辺には、ポリイミド前駆体溶液12を流下して円筒状基体10にポリイミド前駆体溶液12を付着させる流下装置14(流下手段)が配置されている。流下装置14は、例えば、ポリイミド前駆体溶液12を流下させるノズル16と、ノズル16へポリイミド前駆体溶液12を供給する容器18とから構成されている。容器18としては、例えば、メニカスシリンダー、スクリューなどを利用した装置が適用される。流下装置14は、ノズル16と容器18とが連結管により連結してノズル16と容器18とが分離して別置している形態でもよいし、ノズル16と容器18とが一体的に構成された形態でもよい。
【0035】
ノズル16からは、粘度が高いポリイミド前駆体溶液12であると、重力だけでは自然に流下しにくいので、容器18からエア圧やポンプで押し出すことも有効である。ノズル16と円筒状基体10の距離は任意でよいが、流下液が途切れることがないよう、10〜100mm程度が好ましい。液の途切れが生じると、泡を巻き込むことがある。
【0036】
また、円筒状基体10の周辺には、円筒状基体10へ付着したポリイミド前駆体溶液12を平滑化するへら20が設けられている。
【0037】
へら20は、ポリイミド前駆体溶液12に侵されない材料、例えば、ポリエチレンやフッ素樹脂等のプラスチック、又は、真鍮やステンレス等の金属の薄い板から構成することができる。
【0038】
そして、流下装置14(ノズル16)及びへら20は、ポリイミド前駆体溶液12の円筒状基体10への付着及び平滑化に伴い、円筒状基体10の回転毎に付着部及び平滑化部が相対的に円筒状基体10の一端から他の一端へ水平方向(矢印B)に移動させる。この構成は、図示しないが、流下装置14(ノズル16)及びへら20を移動させる構成としてもよいし、円筒状基体10が移動する構成としてもよく、周知の技術により構成することができる。
【0039】
流下装置14(ノズル16)及びへら20とを連動させ、円筒状基体10の一端から他の一端へ水平方向に移動させることにより、円筒状基体10の表面に塗布することができる。その移動速度が塗布速度と言える。
【0040】
塗布時の条件は、円筒状基体10の回転速度が20〜200rpmであり、塗布速度Vは、基体の外径k、ポリイミド前駆体溶液の流下量f、所望の濡れ膜厚tと関係があり、V=f/(t・k・π)の式で表わされる。πは円周率を示す。
【0041】
以上の構成の塗布装置では、まず、円筒状基体10を矢印A方向に回転させながら、流下装置14のノズル16から、ポリイミド前駆体溶液12を流下させて円筒状基体10にポリイミド前駆体溶液12を付着する。これと共に、へら20により円筒状基体10に付着したポリイミド前駆体溶液12を平滑化する。そして、円筒状基体10の回転毎に付着点及び平滑化点を、円筒状基体10の一端から他の一端へ水平方向(矢印B)に移動させる。このようにして、ポリイミド前駆体溶液12が円筒状基体10外周面に塗布され、塗膜が形成される。
【0042】
なお、ポリイミド前駆体溶液の塗布方法としては、これに限られず、他の塗布方法も適用することができる。他の塗布方法としては、図示しないが、円筒状基体をポリイミド前駆体溶液に浸漬して上昇させる(引き上げる)浸漬塗布法がある。但し、ポリイミド前駆体溶液が高粘度のために、膜厚が厚くなりすぎる場合には、円筒状基体の外径よりも大きな孔を設けた環状体により、ポリイミド前駆体溶液の膜厚を制御する浸漬塗布方法が適用できる。
【0043】
ここで、「円筒状基体表面に塗布する」とは、円柱も含まれる円筒状基体の側面の表面、及び該表面に層を有する場合は、その層の表面に塗布することをいう。また、「円筒状基体を上昇」とは、塗布時の液面との相対関係であり、「円筒状基体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0044】
・ポリイミド前駆体乾燥工程
円筒状基体表面にポリイミド前駆体溶液を塗布後、乾燥をすると、ポリイミド前駆体からなる皮膜が形成される。乾燥温度は50〜200℃の範囲、乾燥時間は30〜200分間の範囲とするのが好ましい。乾燥時の温度により、乾燥前の塗膜は粘度が低下し、重力の影響を受けて、垂れが生じやすいが、その場合には、円筒状基体の軸方向を水平にして、10〜60rpmの範囲程度で回転させるのがよい。
【0045】
ポリイミド前駆体の塗布時、円筒状基体の端部に皮膜がない不塗布部を設けた場合はもちろんであるが、円筒状基体の全面にわたって塗布した場合でも、乾燥によりポリイミド前駆体皮膜が収縮するので、円筒状基体の端部に露出部が生じることとなる。
【0046】
こうして得られたポリイミド前駆体からなる皮膜が形成された円筒状基体を、次のフッ素樹脂塗膜形成工程に付してもよいが、この段階でポリイミド前駆体からなる皮膜を加熱反応させ、ポリイミド樹脂皮膜とし、その後フッ素樹脂塗膜形成工程に付してもよい。
【0047】
好ましくは300〜450℃の範囲、より好ましくは350℃前後で、20〜60分間、ポリイミド前駆体からなる皮膜を加熱反応させることで、ポリイミド樹脂皮膜を形成することができる。
【0048】
ここで、円筒状基体の材質としては、金属(例えばアルミニウム、ステンレス鋼等)等が挙げられるが、金属表面をフッ素樹脂、シリコーン樹脂、或いはこれらの混合樹脂で表面を被覆したり、ニッケルやクロムでメッキしたり、離型剤を塗布したものも、皮膜形成後の皮膜の剥離を容易にする観点から有効である。
【0049】
ポリイミド樹脂皮膜等を形成してこれを乾燥する際に、残留している溶剤、あるいは加熱反応時に樹脂から生成する水が除去しきれないことがある。この場合、ポリイミド樹脂皮膜に膨れが生じることがあり、特にポリイミド樹脂皮膜の膜厚が50μmを越えるような厚い場合に顕著である。その場合、円筒状基体表面の粗面化が有効である。
【0050】
粗面化の粗さは、算術粗さRaで0.2〜2μmの範囲程度が好ましい。粗面化方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があるが、ポリイミド樹脂ベルト内面を摺動性のよい球形面状で凸形状とするために、円筒状基体の表面は、球状の粒子を用いてブラスト処理を施すことが好ましい。
【0051】
上記粗面化により、ポリイミド樹脂皮膜から生じる残留溶剤又は水の蒸気は、円筒状基体とポリイミド樹脂皮膜との間にできるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れが生じなくなる。
【0052】
円筒状基体の表面には、ポリイミド樹脂が接着しないよう、離型性を付与するのが好ましい。離型性を付与するためには、円筒状基体表面をクロムやニッケルでメッキしたり、フッ素系樹脂やシリコーン樹脂で表面を被覆したり、あるいは表面にポリイミド樹脂が接着しないよう、表面に離型剤を塗布することが有効である。
【0053】
このようにして、円筒状基体の表面へ、ポリイミド樹脂皮膜又はポリイミド前駆体皮膜を形成することができる。
【0054】
−フッ素樹脂塗膜形成工程−
フッ素樹脂塗膜形成工程では、ポリイミド樹脂皮膜又はポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された円筒状基体を、その軸方向を垂直にした際に、下端側となる部分(底部)に被覆体を嵌め、被覆体と共に円筒状基体をフッ素樹脂分散液(フッ素樹脂塗料)に浸漬して塗布する。
【0055】
具体的には、図2に示す塗布装置を用いて塗布することができる。図2に示す塗布装置では、まず、図3に示すように、円筒状基体10の上端部(図3中における上側:下端部と対向する側)に、円筒状基体保持部材22が取り付けられ、下端部(図3における下側)に被覆体24が取り付けられる。なお、図3中、ポリイミド樹脂皮膜又はポリイミド前駆体皮膜は省略してある。
【0056】
円筒状基体保持部材22は、弾性膜26(密閉部材)と連結されており、保持部材外面が円筒状基体10の内面と当接するように、円筒状基体10の上開口(上端面)に嵌合され、当該弾性膜26を膨張させてチャック(密閉)しつつ、保持されている。
【0057】
被覆体24は、図4に示すように、円筒状基体10の下端面(下開口)を塞ぐための底部28と、円筒状基体10の下端部外周面を覆うための筒状部30と、から構成されている。そして、被覆体24は、底部28により円筒状基体10下端の開口面を密閉すると共に筒状部30により円筒状基体10の下端部外周面を覆うように、円筒状基体10の下開口(下端面)に嵌合して、保持されている。このように、被覆体24は、粘着テープで固定する必要がなく、円筒状基体10に摩擦力のみで保持させることで、作業効率を向上させることができる。
【0058】
被覆体24の材質としては、塗料によって侵されない樹脂や金属が用いられる。
【0059】
被覆体24の筒状部30上端面は、内側の縁部(角)が取られて、例えばすり鉢状にしている。このように、当該上端面を筒状体中心軸に対して内側に向かって傾斜するようにすることで、円筒状基体10と被覆体24との嵌め合いが容易となり、作業性が容易となる。また、被覆体24の筒状部30内壁には、円筒状基体10が嵌合したときの突き当て部にリブ34を設けるある。これにより、円筒状基体10の下端部外周面への被覆体24の筒状部30の被覆領域が一定となり、円筒状基体10へ塗料が塗布される範囲が繰り返し再現できるという利点がある。
【0060】
被覆体24の底部28外面は非角面で構成されている。また、底部28と筒状部30との境目32も、非角面で構成されている。このように、被覆体24の外面を非各面で構成することで、気泡発生を極力防止することができる。ここで、非角面とは、角がなく、例えば、曲率を有する円弧状であるような形状面をいう。
【0061】
被覆体24の最大外径と円筒状基体10の最大外径との差は、0.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.4mm以下であり、さらに好ましくは0.3mm以下である。この差が小さければ小さいほど、浸漬塗布の際の塗液の気泡発生がより抑制される。なお、この差は、被覆体24の筒状部30肉厚Fに相当する。
【0062】
次に、図2に示すように、皮膜36が表面に形成された円筒状基体10を、被覆体24が取り付けられた側を下に向け、その軸方向が垂直となるように保持部材22により保持する。そして、円筒状基体10を塗布槽38内のフッ素樹脂分散液40(フッ素樹脂塗料)に浸漬し、引き上げることにより、フッ素樹脂分散液40の塗膜48が形成される。
【0063】
フッ素樹脂分散液40を塗布する際、円筒状基体10の浸漬速度は、50〜1000mm/分で行われるが、被覆体24と円筒状基体10との境界部(境目32:図4参照)がフッ素樹脂分散液(塗液)の液面を通過する間の浸漬速度Tは下記式(1)を満たすことが必要である。
式(1):T≦−ρ+1000
(ここで、式(1)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)
【0064】
これにより、被覆体24と円筒状基体10との境界部による気泡発生が防止される。一方、気泡発生防止の観点からは、浸漬速度Tは上記式を満たせばよいが、作業効率の観点から、当該浸漬速度Tは200mm/分以上であることがよい。また、より効果的に気泡発生防止の観点から、上記浸漬速度Tは下記式(2)を満たすことが好ましい。
式(2):T≦−0.4ρ+460
(ここで、式(2)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)
【0065】
一方、円筒状基体10の引き上げ速度は、所望の膜厚にもよるが、50〜500mm/分程度の範囲であることが好ましい。
【0066】
フッ素樹脂分散液40は、塗布槽38に溜め置きすることもできるが、図2に示すように、塗布槽38の外側に、円筒状基体10の体積以上の容量を有する外部槽42を設けた塗布装置を用い、ポンプ44により、図2における塗布槽38の下部からフッ素樹脂分散液40を供給し、上部から溢流させて、循環させることがよい。ポンプ44としては、フッ素樹脂分散液に機械的応力が加わりにくい方式のものが好ましく、具体的には、ローラーチューブポンプ、サインポンプ、モーノポンプ、ギヤポンプ等が挙げられる。
【0067】
このようにして循環をさせると、フッ素樹脂分散液40の沈降や凝集を防止でき、液の表面を常に新鮮な状態に確保することができるため好ましい。外部槽42との間で循環させることは、外部に別の塗料タンクを設けて循環するよりも、使用する高価なフッ素樹脂分散液40の総量を少なくできるほか、塗布槽38上部から溢流するフッ素樹脂分散液40が、外部塗料タンクに落流することによる泡立ちが起きにくいという利点もある。循環経路にはフィルター46が設けられている。また、図示しないが粘度計、希釈液追加装置等を付加することも好ましい。
【0068】
また、フッ素樹脂分散液40は、主溶媒が水であるために乾燥が比較的遅く、浸漬塗布方法で塗布すると、円筒状基体10の引き上げ最中に、塗膜48に不規則な垂れが発生したり、軸方向上下で膜厚のむらを生じることもある。これらの問題は、膜厚が25μm以上の場合に特に発生しやすい。そこで、塗布後の被膜の溶媒を速やかに乾燥させるために、塗膜48に風を吹き付ける方法もあるが、円筒状基体10に温度変化を生じ、気泡の原因となることがあった。
【0069】
そこで、引き上げの際、フッ素樹脂分散液40の塗膜48に垂れが生じる場合、図2に示すように、塗布槽38の図2における上部に送風装置50を設けて、塗膜48に気流を当て、溶媒の乾燥を促進している。塗膜48に当てる気流は、一方向からよりは、周方向で均一になるよう、周回又は環状に当てるのが好ましい。
【0070】
この気流の風速は、1〜10m/分程度の範囲が好ましい。これが弱いと乾燥促進の効果が小さく、強すぎると塗膜48に筋やむら等の欠陥を生じるおそれがある。また、塗膜48に当たった気流が塗布槽38に流れると、液面がゆれたり、液面で溶媒の乾燥が生じるので、気流が塗布槽38に流れないよう、図2における上向きに当てるのが好ましい。気流としては空気流を使用することができる。
【0071】
フッ素樹脂分散液40の塗膜48に気流を当てることにより、水を主体とする溶媒の乾燥が促進されるので、塗膜48は垂れを生じる間もなく、乾燥される。
【0072】
ここで、フッ素樹脂分散液40には、粒径が0.1〜20μmの範囲のフッ素樹脂粉体が分散されている。その材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が挙げられる。また、耐摩耗性や静電オフセットの向上、トナーの付着防止用オイルとの親和性等のために、カーボン粉体や、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機化合物粉体等、フッ素樹脂以外の材料を含んでもよい。
【0073】
フッ素樹脂分散液40の溶媒は、水のほか、エタノールやブタノール等のアルコールや、エチレングリコール等のグリコール、またそのエステル類を併用してもよい。また、界面活性剤や粘度調整剤等も添加してもよい。カーボン粉体や、酸化チタン、硫酸バリウム等のフッ素樹脂以外の材料を含ませる場合には、上記フッ素樹脂分散液40の中にこれらを混ぜて分散すればよい。界面活性剤を添加したものは非常に泡立ちやすく、また一旦、泡が形成された場合は、泡が消えにくいので、本発明には好適に用いることができる。
【0074】
フッ素樹脂分散液40の固形分濃度は、塗布する膜厚にもよるが、10〜70質量%の範囲であることが好ましく、粘度は0.1〜1Pa・s程度の範囲であることが好ましい。溶媒の蒸発により、フッ素樹脂分散液40の濃度が変化した場合には、アルコール等を加えて調整すればよい。
【0075】
フッ素樹脂分散液40を塗布槽38に入れる前には、脱泡処理により、液中から泡を除去しておくのが好ましい。脱泡の方法には、時間をかけて静置する方法のほか、減圧や遠心分離、ろ過、超音波印加、等による方法がある。
【0076】
なお、水は20℃で窒素が約1.19体積%、酸素が約0.64体積%の溶解度を有しており、フッ素樹脂分散液中にはこれらの気体が溶存するが、溶存気体も減圧によって除いておくことが好ましい。
【0077】
このようにして、ポリイミド樹脂又はポリイミド前駆体からなる皮膜36が表面に形成された円筒状基体10にフッ素樹脂の塗膜48が形成される。
【0078】
−加熱焼成工程−
加熱焼成工程では、まず、フッ素樹脂分散液の塗布後、室温から150℃の温度に5〜20分間置いて、溶媒を乾燥させる。乾燥を促進するために、熱風を吹き付けることも有効であるが、熱風が当たった部分と当たらなかった部分とで、筋目を生じたり、粗さ等がむらになることがある。これを防止するためには、塗膜に熱風が直に当たらないように、円筒状基体の軸方向を垂直に立てた状態で、その上方から熱風を下降させる方法を採ることが好ましい。
【0079】
又は、円筒状基体の軸方向を垂直に立てた状態で、円筒状体を回転させて、その横方向から熱風を吹き付けて、塗膜に熱風が直に当たっても、一様になるようにすることが好ましい。上記いずれかの方法を採ることにより、筋目やむらを生じることなく、溶媒の乾燥が促進される。
【0080】
乾燥の前後において、先に形成した被覆処理を取り外す。その後、350〜450℃の温度範囲で20〜60分間加熱すると、ポリイミド前駆体は縮合反応しポリイミド樹脂皮膜となり、フッ素樹脂粉体は溶融焼成されてフッ素樹脂層となる。この時、ポリイミド前駆体皮膜中に溶剤が残留していると、皮膜に膨れを生じることがあるため、前記温度に達するまでに、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、温度を段階的に上昇させたり、ゆっくりと上昇させることが好ましい。
【0081】
その後、常温に冷やすと、フッ素樹脂層が形成されたポリイミド樹脂皮膜が形成される。
【0082】
−抜き取り工程−
抜き取り工程では、フッ素樹脂層が形成されたポリイミド樹脂皮膜を円筒状基体から取り外すことでポリイミド樹脂無端ベルトを得る。更に必要に応じて、端部の長さを揃える切断加工、表面の粗さを調整する研磨加工、等が施され、定着ベルトが得られる。
【0083】
研磨加工は、乾式法及び湿式法のいずれで行ってもよい。乾式法としては、サンドペーパや研磨フィルムを使用して研磨する方法がある。湿式法としては、上記と同じことを、水等の液体を介して行う方法がある。
【0084】
このようにして、定着ベルトが製造される。定着ベルトとしてのポリイミド樹脂皮膜の厚さは、25〜200μmの範囲が好ましく、非粘着層の厚さは5〜50μmの範囲が好ましい。
【0085】
以上説明した本発明の定着ベルトの製造方法において、フッ素樹脂塗膜を形成するための浸漬塗布方法(本発明の浸漬方法)は、上記形態に限られず、種々の用途に用いることができる。例えば、電子写真用の感光体の層形成や、電子写真用機器に用いられる転写ベルト、搬送ベルトなど各種回転体としての無端ベルトの製造等に好ましく用いることができる。特に、本発明の浸漬塗布方法に適用する塗料としては、フッ素樹脂塗料や感光層形成用塗料も含め、例えば、界面活性剤を含む、あるいは高粘度等、泡が発生しやすく、またその泡が消え難いような塗料を使用する場合に好ましく用いられる。
【0086】
例えば、電子写真感光体を製造する場合には、円筒状基体として導電性基体、塗料として感光層形成用塗料を用いて、上述した浸漬塗布方法に準じて行うことができる。なお、電子写真感光体におけるいずれの層形成にも適用可能である。
【0087】
ここで、電子写真感光体を製造する場合において、円筒状基体としての導電性基体の材質は、金属(例えばアルミニウム、ステンレス鋼等)、導電性を付与したプラスチック等、従来公知のものが挙げられる。
【0088】
一方、感光層形成用塗料としては、例えば電荷輸送層形成用の場合、電荷輸送剤(例えばヒドラゾン化合物、スチルベン化合物、ベンジジン化合物、ブタジエン化合物、トリフェニルアミン化合物等)を、バインダー樹脂(ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル等)と混合して塗料化したものが挙げられる。また、下引き層形成用の塗料も適用可能である。
【0089】
また、以上説明した本発明の定着ベルトの製造方法において、皮膜形成用塗料としてポリイミド前駆体溶液を用いた形態を説明したが、これは強度や寸法安定性の面でポリイミドが特に好ましいためである。その他、皮膜形成用塗料としては、皮膜形成用樹脂(例えばポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、フタル酸系ポリエステル、ポリウレタン等)を塗料化したものが挙げあげられる。皮膜形成用塗料の固形分濃度は15〜50質量%程度であり、粘度は1〜100mPa・s程度が好ましい。塗布の条件としては、引き上げ速度は50〜1000mm/min程度であるのが好ましい。
【0090】
ここで、皮膜を形成するには、乾燥後、塗膜を基体ごと所定温度で加熱し、樹脂を硬化させることが好ましい。塗膜の乾燥時に樹脂材料がどうしても下方に垂れる場合には、基体を横にして回転しながら乾燥させる方法もある。その後、形成された皮膜を基体から剥離することで、無端ベルトを得ることができる。無端ベルトには、更に必要に応じて端部のスリット加工、パンチング穴あけ加工、テープ巻き付け加工等が施される。
【0091】
なお、皮膜を形成して得られる無端ベルトを転写ベルトや接触帯電フィルムのような帯電体として使用する場合には、樹脂材料の中に必要に応じて導電性物質を分散させる。導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2−In23複合酸化物等の導電性金属酸化物、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー等が挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0093】
(実施例1)
フッ素樹脂塗料として、水のほかに、エタノール、t−ブタノールを含むPFA水性塗料(固形分濃度:60質量%、粘度:500mPa・s)を用意した。この中には固形分として、平均粒径約17μmのPFA粉体(大粒子)が55質量%、平均粒径約1μmのPFA粉体(小粒子)が40質量%、平均粒径約0.1μmのカーボン粉体が5質量%分散されている。この液を20hPaの減圧下で12時間放置して脱泡処理を行った。
【0094】
これを内径が90mm、高さが480mmの塗布槽に入れた。塗布槽の上部には、環状に風速5m/分の気流が上方45°に向けて吹き出される環状送風装置を取り付けた(図2参照)。
【0095】
円筒状基体として、被覆体及び保持部材により円筒状基体の両端部の開口面が密閉されたものを用意した(図3参照)。円筒状基体として、外径が30.1mm、長さが600mmのアルミニウム製円筒を用いた。被覆体は、ポリプロピレン(PP)を加工して、断面図形状(筒状部高さA:48mm、底部高さB:14mm、リブ高さC:2mm、外径E:30.8mm、内径D:30.0mm、筒状部肉厚F:0.4mm、図4参照)のものを作製した。
【0096】
円筒状基体の底部に被覆体をリブに円筒状基体下端面が突き当たるまで押し込み嵌め合わせた。円筒状基体保持部材は、弾性膜を膨張させてチャックする構成とした(図3参照)。
【0097】
そして、弾性膜を膨張させ、円筒状基体の上部の開口面を密閉した。弾性膜は、円筒状基体の内面に密着し、その部分での空気の漏れはなかった。
【0098】
次いで、円筒状基体を1000mm/分の速度で前記PFA水性塗料に浸漬し、被覆体と円筒状基体の境界部が液面を通過する間のみ浸漬速度を100mm/分に減速した。次いで環状送風装置により気流を当てながら、200mm/分の速度で引き上げ、PFAの塗膜を形成した。引き上げ終了後、被覆体を取り外した後、60℃の無風乾燥炉で10分間乾燥した。また、引き上げ終了後に、PFA水性塗料と塗膜を観察したところ、気泡の発生や、膜内への気泡混入も見られなかった。
【0099】
その後、加熱焼成工程として、150℃で20分間、220℃で20分間、及び380℃で30分間、加熱した。これにより、アルミニウム製円筒の表面に、均一で欠陥のない40μm厚のPFA被膜を形成することができた。
【0100】
(実施例2)
実施例1において、被覆体の断面形状として被覆体の筒状部肉厚F(図4参照)を1.0mmと肉厚のものとした以外は実施例1と同様にして、円筒状基体に被覆体3を取り付けてPFA水性塗料に浸漬したところ、浸漬過程において、被覆体と円筒状基体との境界部の段差部分より気泡が若干発生するのが観測され、塗布膜表面に泡が付着した状態で引き上げた後、形成された塗膜にはその泡が付着していたが、実用上問題ないレベルであった。
【0101】
(比較例1)
実施例1において、被覆体と円筒状基体の境界部が液面を通過する間のみの浸漬速度を600mm/分と早い速度とした以外は実施例1と同様にして、円筒状基体に被覆体を取り付けてPFA水性塗料に浸漬したところ、浸漬過程において、被覆体と円筒状基体との境界部の段差より気泡が発生するのが観測され、塗布膜表面に泡が付着した状態で引き上げた後、形成された塗膜にはその泡が付着しており、欠陥となった。
【0102】
(実施例3)
実施例1において、被覆体と円筒状基体の境界部が液面を通過する間のみ浸漬速度を50mm/分と遅い速度とした以外は実施例1と同様にして、円筒状基体に被覆体を取り付けてPFA水性塗料に浸漬したところ、浸漬過程において、被覆体と円筒状基体との境界部の段差より気泡は発生することは無く、塗布膜表面に泡が付着した状態で引き上げた後の形成された塗膜にも泡は見られず、均一で欠陥のないPFA被膜を形成することができた。
【0103】
(実施例4)
ポリイミド前駆体溶液を用意した(商品名:Uワニス、宇部興産製)。これは固形分濃度18%(質量%、以下同じ)、粘度約20Pa・sの溶液である。
【0104】
外径が29.8mm、長さが600mmの素管を350℃で10分間加熱し、自然冷却した後、表面を切削して外径を29.8mmにしたアルミニウム製円筒を用意した。その表面を、球形アルミナ粒子(不二製作所社製、粒径:105〜125μm)によるブラスト処理により、算術平均粗さRaで0.8μmに粗面化した後、シリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布して、300℃で1時間の焼き付け処理し、円筒状基体とした。
【0105】
ポリイミド前駆体溶液を回転塗布方法(図1参照)で塗布するため、円筒状基体の軸方向を水平にして、120rpmで回転させた。へらは幅20mm、厚さ0.1mmのステンレス板からなり、弾力性を有しており、これを基体に押し付けた。ポリイミド前駆体溶液は、容器から口径2mmのノズルを通して、エア圧0.4MPaにて、22g/minの流量で押し出した。ポリイミド前駆体溶液がへらを通過する際、へらが押し曲げられ、へらと基体の間には隙間ができた。次いで、ノズルとへらを180mm/分の速度で、基体の一端から他端へ移動させて塗布した。この条件で、基体1回転あたり、ノズルとへらは1.5mmずつ移動する。なお、塗布の際には、基体の両端に25mmずつの不塗布部分を設けたので、塗布した長さは440mmである。
【0106】
塗布後、基体を10rpmで回転させながら、120℃の乾燥炉に入れた。60分後に取り出すと、約150μm厚のポリイミド前駆体皮膜が形成され、外径は30.1mmとなった。
【0107】
以降は実施例1に示したように、フッ素樹脂塗膜を形成した。その後、150℃で20分間、220℃で20分間、及び380℃で30分間、加熱して、ポリイミド樹脂皮膜を形成すると共に、PFA塗膜を焼成した。室温に冷えた後、基体から皮膜を取り外し、150μm厚のポリイミド樹脂上に、30μm厚のPFA層を有する無端ベルトが作製できた。無端ベルト表面を観察したところ、ポリイミド樹脂層もPFA層も、気泡もむらもない良好な仕上がりであった。長さを340mmとなるように両端を切断して、電子写真用定着ベルトを得ることができた。
【0108】
(実施例5)
実施例1において、表1に従って、フッ素樹脂塗料の粘度と、被覆体と円筒状基体の境界部が液面を通過する間のみの浸漬速度と、を変化させ、浸漬過程において、被覆体と円筒状基体との境界部の段差よる気泡の発生について調べた。但し、粘度が500mPa・s以下の場合は、フッ素樹脂塗料に代えて、水溶液に増粘剤を加え調整した粘調液を用いた。結果を表1及び図5に示す。
【0109】
なお、気泡の発生については、以下のようにして調べた。フッ素樹脂、もしくは粘調液を深さ500mmの透明な容器に入れ、ポリイミド前駆体からなる皮膜が形成された円筒状基体の底部に被覆体を押し込み嵌め合せ、表1の塗料粘度と浸漬速度を変えた。このとき気泡の発生は、被覆体と円筒状基体との境界部の段差部から300mmの深さまで浸漬するまでに発生した気泡の数をカウントし、発生無しを○、直径1mm以下の気泡が1〜2個発生を△、それ以外を×とした。なお、△は微小な気泡は発生するものの実用上問題ないレベルである。
【0110】
【表1】

【0111】
これら表1及び図5の結果から、上記式(1)を満たすように、被覆体と円筒状基体の境界部が液面を通過する間のみの浸漬速度を制御することで、当該境界部の段差による気泡の発生を防止し、これに起因する欠陥を生じない塗膜が得られることがわかる。また、これを利用して、ポリイミド樹脂皮膜上にフッ素樹脂層が形成された定着ベルトが得られることもわかる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】螺旋塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】浸漬塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】浸漬塗布装置に適用する際の円筒状基体を示す一部断面図構成図である。
【図4】円筒状基体に取り付ける被覆体を示す断面図である。
【図5】実施例5の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0113】
10 円筒状基体
12 ポリイミド前駆体溶液
14 流下装置
16 ノズル
18 容器
20 へら
22 円筒状基体保持部材
24 被覆体
26 弾性膜
28 底部
30 筒状部
32 境目
34 リブ
36 皮膜
38 塗布槽
40 フッ素樹脂分散液
42 外部槽
44 ポンプ
46 フィルター
48 塗膜
50 送風装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基体を、その軸方向が垂直となるように保持しながら塗料に浸漬し、次いで引き上げることにより、該塗料を前記円筒状基体の表面に塗布をする浸漬塗布方法であって、
前記円筒状基体は、その下端の開口を密閉すると共に下端部外周面を覆って被覆体が保持されてなり、
且つ前記被覆体と前記円筒状基体との境界部が前記塗液の液面を通過する間の浸漬速度Tが下記式(1)を満たすことを特徴とする浸漬塗布方法。
式(1):T≦−ρ+1000
(ここで、式(1)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)
【請求項2】
ポリイミド樹脂皮膜又はポリイミド前駆体皮膜を円筒状基体の表面に形成する工程と、
前記皮膜が表面に形成された円筒状基体を、その軸方向が垂直となるように保持しながら、フッ素樹脂塗料中に浸漬し、引き上げることにより、前記円筒状基体における前記皮膜の表面にフッ素樹脂塗料を塗布する工程と、
塗布された前記フッ素樹脂塗料を加熱焼成して、フッ素樹脂層を形成する工程と、
フッ素樹脂層が形成された前記皮膜を円筒状基体から抜き取る工程と、
を有し、
前記フッ素樹脂層を形成する工程において、
前記円筒状基体は、その下端面の開口を密閉すると共に下端部外周面を覆って被覆体が保持されてなり、
且つ前記被覆体と前記円筒状基体との境界部が前記塗液の液面を通過する間の浸漬速度Tが下記式(1)を満たすことを特徴とする定着ベルトの製造方法。
式(1):T≦−ρ+1000
(ここで、式(1)中、Tは浸漬速度(mm/分)、ρは塗液の粘度(mPa・s)を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−255615(P2006−255615A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78143(P2005−78143)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】