浸漬塗装方法
【課題】塗膜の膜厚ムラのない均一な塗膜を形成することによって耐久性品質の安定化や外観品質の向上をさせることができる浸漬塗装方法を提供すること。
【解決手段】光学用レンズ等の被塗装物を塗装液(処理液)に浸漬し、次いで被塗装物を塗料液から引き上げて被塗装物上に塗膜を形成する浸漬塗装方法。塗料液と被塗装物の温度差を可及的に小さくしてから、浸漬塗装・引き上げを行なう。さらには、引き上げ速度を連続的に変速させることを併用してもよい。
【解決手段】光学用レンズ等の被塗装物を塗装液(処理液)に浸漬し、次いで被塗装物を塗料液から引き上げて被塗装物上に塗膜を形成する浸漬塗装方法。塗料液と被塗装物の温度差を可及的に小さくしてから、浸漬塗装・引き上げを行なう。さらには、引き上げ速度を連続的に変速させることを併用してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬塗装方法に関し、特に、プラスチックレンズにプライマー膜やハード膜等の塗膜(コーティング)を浸漬処理により形成するのに好適な浸漬塗装方法に関する。
【0002】
ここでは、レンズとしてプラスチックレンズにハード膜やプライマー膜を浸漬塗装(ディッピング)する場合を例に採り説明するが、これに限られるものではない。
【0003】
本発明の浸漬塗装方法は、上記レンズ等の光学部品、更には、プリント基板、液晶基板、ウェハー等の電気・電子部品にも適用できる。
【0004】
上記光学部品としては、眼鏡レンズ・カメラ用レンズなどの光学レンズ、さらには、各種ディスプレイの前面ガラスないし前面フィルター、反射鏡、光学プリズム等も含まれる。
【背景技術】
【0005】
近年、眼鏡用レンズとしては、無機ガラスレンズに比して、軽くかつ割れにくい有機ガラスレンズ(プラスチックレンズ)が普及してきている。しかし、一般的にプラスチックレンズは、無機ガラスレンズに比して耐擦傷性が格段に低い。そこで、通常、有機ガラスレンズ基材の表面に、ハード膜が形成されている。そして、ハード膜は、通常、プラスチックレンズ基体との密着性が良好でないため耐衝撃性の向上も兼ねて、レンズ基体11とハード膜13との間に、熱可塑性エラストマー(TPE)等をベースとするプライマー膜15が形成されていることが多い(図2(B)参照)。
【0006】
上記ハード膜13やプライマー膜15等のコート膜(塗膜)は、それらを形成する塗料液(処理液)を用いて浸漬塗装(浸漬処理:デップコート)をして形成する。両面への機能付与および量産性の見地からである。
【0007】
しかし、浸漬塗装はその未硬化塗膜のダレに起因して膜厚ムラの発生を避け得ないとするのが当業者常識であった。更には、光学レンズ(特に眼鏡レンズ)のような周辺部と中心部との肉厚が大きく異なる基材の場合、膜厚ムラは更に発生し易かった。この膜厚ムラにより耐久性品質の面におけるバラツキが、発生し易くなる。特に、この傾向は、強い度数のレンズやハイカーブのレンズ程、顕著となる。
【0008】
したがって、光学レンズにおける塗膜の膜厚ムラが可及的に発生し難い技術の出現が希求されていた。
【0009】
しかし、光学レンズの分野において、浸漬塗装による塗膜に膜厚ムラが発生し難い技術について、本発明者らは、寡聞にして知らない。
【0010】
なお、電子複写器における感光体用のドラム基体(円筒体)の表面に感光体層を浸漬塗装により形成する方法において、塗膜ダレに基づく膜厚ムラの発生を低減する見地から、引き上げの速度を初めと終りとの間で変化させる(初めを早く終わりを遅くする)発明(技術的思想)が特許文献1〜3において提案されている。
【0011】
しかし、感光ドラムにおける当該技術的思想をそのまま光学レンズに適用しても、膜厚ムラの発生を低減させるには不十分であることが分かった。
【0012】
また、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、光学レンズの分野において、下記構成の非球面体の製造方法が特許文献4において提案されている。
【0013】
「光学レンズ等の非球面(球面を含む。)を有する部材において、該部材にオルガノポリシロキサン系樹脂、或いは、紫外線硬化樹脂等のコート層(塗膜)を、引上げ速度を制御した浸漬塗りで設けることにより、該部材の非球面形状を制御することを特徴とする。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭57−5058号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭59−46171号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2008−62131号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開昭61−33267号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記光学レンズ等において、上記特許文献1〜3により、膜厚ムラの発生を低減させるには不十分である理由は、光学レンズと感光ドラムとの形態の違いにあることに着目して、考察した結果、下記知見に到達した。
【0016】
「光学レンズ(例えば凹レンズ)の場合、屈折面を塗料液面に対し水平に引き上げた場合、レンズ凹面側に空気又は塗料液を溜め込んでしまうこととなる。一般的には直角に近い状態、いわば光学レンズを縦置きの状態で引き上げる手法がとられている。
【0017】
前述の感光ドラムにおける従来技術によって光学レンズを浸漬塗装した場合は、光学レンズのような塗料液の液面と平行する被塗装物の断面が円形状ではない物体に対して水平面(左右方向)の膜厚ムラを少なくすることができない。
【0018】
他方、浸漬塗装方法を光学レンズに施して塗膜を形成しようとする場合には、塗膜へ異物が混入しないようにするために、被塗装物を浸漬塗装の前工程において、洗浄(例えば、超純水・超音波洗浄)し、その後、乾燥工程(例えば80℃×15min)をする(図3参照)。このため、被塗装物は室温よりも遥かに高い温度となっている(例えば、60〜80℃)。
【0019】
また、連続的に複合塗膜を積層する場合には第1層の乾燥工程により、2層目以降の塗膜を塗装する直前では被塗装物は室温よりも遥かに高い温度となっている(例えば、60〜80℃)。
【0020】
更に、塗料液(塗液)は、通常、溶媒の揮発や反応速度を抑制するために、室温よりも低い温度で管理されている(例えば、10℃)。
【0021】
上記の理由により、被塗装物と塗料液との間に大きな温度差(例えば50℃以上)があった場合、外周や薄い部分は局所的に早く塗料液の温度との差が小さくなり、内側や厚い部分は温度差が大きくなる、すなわち、一時的に温度ムラが発生する。特に、この温度ムラは、有機ガラスレンズの場合、熱伝導率が低いため維持され易くなる。そして、一般的な液体では温度が高いほど粘度は低くなるため、温度の高い部分では液だれの流速が速くなり、膜厚が薄くなる。」
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記知見に基づき、本発明者らは、光学レンズ等の非円筒状の被塗装物であっても、膜厚ムラの発生を低減できることを知見して、下記構成の浸漬塗装方法に想到した。
【0023】
被塗装物を塗料液に浸漬後、前記被塗装物を前記塗料液から相対的に引き上げて被塗装物の表面に塗膜を形成する浸漬塗装方法において、
前記被塗装物を、前記塗料液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の浸漬塗装方法に使用する機構の一例を示すモデル図である。
【図2】光学レンズの膜厚位置を示す平面図(A)および同断面図(B)である。
【図3】実施例群又は比較例群の光学レンズを浸漬処理する際における流れ図である。
【図4】実施例1・3および比較例1−2、3−2における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図5】比較例1−1、1−3、3−1、3−3における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図6】実施例2・4および比較例2−2、4−2における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図7】比較例2−1、2−3、4−1、4−3における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図8】実施例1における上下方向膜厚および左右方向膜厚の状態を示す各グラフ図(A)、(B)である。
【図9】比較例1−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図10】比較例1−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図11】比較例1−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図12】実施例2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図13】比較例2−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図14】比較例2−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図15】比較例2−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図16】実施例3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図17】比較例3−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図18】比較例3−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図19】比較例3−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図20】実施例4における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図21】比較例4−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図22】比較例4−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図23】比較例4−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。ここでは、図1に示すような引き上げ機構を用いて、図2に示す如く、光学レンズ(眼鏡用凹レンズ)の基材(被塗装物)11にプライマー膜15乃至ハード膜13を形成する場合を例に採り説明する。
【0026】
即ち、光学レンズ基材11を、演算装置17により制御される引き上げ駆動部19に連結された引き上げ手段(昇降手段)21にセットし、光学レンズ基材11を、塗料液23が充填された塗料液槽25に浸漬後・引上げる。このとき、浸漬時間は、5〜40秒とする。
【0027】
図3に浸漬塗装する際の流れ図の一例を示す。
【0028】
ここで、有機ガラス基材としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、脂肪族アリルカーボネート、芳香族アリルカーボネート、ポリチオウレタン等からなるものを挙げることができる。
【0029】
無機ガラス基材としては、クラウンガラス(nd=1.52〜1.72)、フリントガラス(nd=1.53〜1.88)等が挙げられる。
【0030】
そして、レンズ基材(被塗装物)を、前記塗料液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行う。即ち、レンズ基材を昇降させずに、塗料液槽25を昇降させてもよい。
【0031】
本発明は、後述の実施例の如く、レンズ基材の浸漬・引き上げ工程の前に、レンズ基材(被塗装物)の温度を、塗料液(浸漬液)の温度に可及的に近づける温調処理をすることが最大特徴である。
【0032】
例えば、レンズ基材が乾燥炉で昇温している場合、レンズ基材を塗料液と同一温度、乃至若干低い温度(−10℃以内、望ましくは−5℃以内)の冷風(冷却媒体)で冷却する。冷却媒体は、液体(水)や蒸気でもよいが、液体(水)として汚染物質が含まれていない純なもの(例えば、純水)を使用しないと水中の汚染物質で、折角洗浄したレンズ基材が汚染されるおそれがあるため望ましくない。また、冷風等の冷却媒体の温度が塗料液より低すぎると、過剰冷却されるとともに、レンズ基材が熱衝撃を受けるおそれがあり望ましくない。なお、被塗装物と塗料液の温度が同じとなるまでの時間は冷風の温度、被塗装物の厚み、被塗装物の熱伝導率などにより、異なり、実験結果から設定する。
【0033】
上記ハード膜13を形成する塗料液は、通常、シリコーン系のものを使用する。
【0034】
例えば、オルガノアルコキシシランの加水分解物に、触媒、金属酸化物微粒子(複合微粒子を含む)を加え、希釈溶剤にて塗装可能な粘度になるように調節する。さらに、このハード膜塗料液には、適宜界面活性剤、紫外線吸収剤等の添加も可能である。
【0035】
このハード膜13の膜厚は、0.5〜50μm、望ましくは1〜10μmとする。ここで、薄いと耐擦傷性を得難く、厚いと面精度(レベリング性)を得がたいので、両特性のバランスからハード膜の膜厚を適宜設定する。
【0036】
上記プライマー膜15を形成する塗料液は、例えば、TPE系塗料液を使用することが望ましい。
【0037】
例えば、TPEとしては、TPEE、TPU等を挙げることができる。
【0038】
該プライマー膜塗料液(プライマー組成物)は、屈折率の調整や強度の向上等を目的として金属酸化物微粒子(複合微粒子を含む。)を含有させることが望ましい。
【0039】
このプライマー膜の膜厚は、0.2〜10μm、望ましくは0.5〜5μmとする。薄いと耐衝撃性を得難く、厚いと面精度を得がたいので、両特性のバランスからプライマー膜の膜厚を適宜設定する。
【0040】
こうして、各塗膜(プライマー膜、ハード膜)を形成する前に、温調して基材を可及的に塗料液の温度に近接させておくことにより、レンズの中央部と周縁および薄肉部と厚肉部とで従来のような塗料液に対する温度影響が小さく、乾燥前塗膜の液ダレ性が部位ごとで均一となる。
【0041】
したがって、塗料液の液面と平行する被塗装物の形状が円筒状でなくても、乃至、断面が非円形以外であっても温度差による塗膜の膜厚ムラを低減できる。
【0042】
さらには、従来公知手法の引き上げ速度(引上げ開始から引上げ完了までの)を変速させることによって上下方向の膜厚ムラも低減でき、レンズ平面全体における膜厚ムラの低減効果を得ることができる。
【0043】
このときの相対的引き上げ速度(V)は、通常、下記式で表される直線的に低減するものとする。直線的である方が制御し易いためである。下記式において、V0=1.0〜5mms-1(望ましくは1.5〜3.5mms-1)、a=0.005〜0.02mms-2(望ましくは0.01〜0.015mms-1)とする。
【0044】
V(mms-1)=V0−at
但し、V0:初速(mms-1)、a:係数(mms-2)、t:経過時間(s)。
【0045】
なお、相対引き上げ速度は、特許文献2に記載の下記式の如くeが底の指数関数的に変化させてもよい。
【0046】
V(mms-1)=V0exp(-At)
但し、A:係数(s-1)、V0は、上記と同じとし、A=0.001〜0.02s-1(望ましくは0.002〜0.01s-1)とする。
【0047】
以上、被塗装物として光学レンズ(凹レンズ)を例に採り説明したが、本発明は、他の無機・有機ガラス光学部品、プリント基板、液晶基板、ウェハー等の電気・電子部品にも、円筒状、非円筒状に限定されず適用できる。
【0048】
ここで、光学部品としては、眼鏡レンズ・カメラ用レンズなどの光学レンズ、さらには、各種ディスプレイの前面ガラスないし前面フィルター、反射鏡、光学プリズム等も含まれる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例を比較例とともに説明する。
【0050】
(1)被塗装物であるレンズ基材は、下記仕様のものを使用した。
【0051】
レンズI・・・直径75mm、外周の厚み8mm、中心の厚み2mmの屈折率1.50のアリル系プラスチックレンズ
レンズII・・・直径75mm、外周の厚み8mm、中心の厚み1mmの屈折率1.74のチオウレタン系プラスチックレンズ
【0052】
(2)浸漬塗装前処理は、図3に示す流れで行なった。
即ち、各実施例・比較例は、超純水で超音波洗浄し、80℃の熱風乾燥炉で15分間乾燥した。その後10℃(又は30℃)の冷風炉にて15分間冷やした。
【0053】
(3)塗料液は、液温10℃の下記プライマー膜塗料液又はハード膜塗料液を使用した。
【0054】
プライマー膜塗料液:粘度2.2cPs(mPas)、塗膜としたときの屈折率が1.60となるTPEE系塗料。
【0055】
ハード膜塗料液:粘度3.3cPs(mPas)、塗膜としたときの屈折率が1.60となるオルガノシリコーン系塗料。
【0056】
<実施例1>
図3に示す冷風冷却(10℃)を行なったレンズIに、前記プライマー膜塗料液を浸漬塗装方法にて塗装した。
【0057】
レンズ基材を10秒浸漬後、図4に示すように引き上げ速度を初めは速く、徐々に遅くしながら引き上げを行った。その後、100℃の熱風乾燥炉にて30分間乾燥した。
【0058】
こうして調製した塗膜(プライマー膜)の膜厚状態を図8に示す。標準偏差(σ)が上下:0.02であり、左右:0.00であり、非常に均一な膜が得られた。
【0059】
<比較例1−1>
実施例1において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0060】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図9に示す。標準偏差が上下:0.07であり、左右:0.04であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0061】
<比較例1−2>
実施例1において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。
【0062】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図10に示す。標準偏差が上下:0.06であり、左右:0.05であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0063】
<比較例1−3>
実施例1において、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0064】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図11に示す。標準偏差が上下:0.05であり、左右:0.01であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0065】
<実施例2>
実施例1において、プライマー膜塗料液に代えてハード膜塗料液を用いて、浸漬塗装方法にて塗装した。
【0066】
その際、図6に示すように引き上げ速度を初めは速く、徐々に遅くしながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0067】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図12に示す。標準偏差が上下:0.12であり、左右:0.02であり、略均一な膜が得られた。
【0068】
<比較例2−1>
実施例2において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0069】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図13に示す。標準偏差が上下:0.33であり、左右:0.20であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0070】
<比較例2−2>
実施例2において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。こうして調製した塗膜の膜厚状態を図14に示す。
【0071】
標準偏差が上下:0.31であり、左右:0.25であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0072】
<比較例2−3>
実施例2において、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0073】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図15に示す。標準偏差が上下:0.24であり、左右:0.03であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0074】
<実施例3>
実施例1において、レンズIをレンズIIとした。それ以外の条件は同じとした。
【0075】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図16に示す。標準偏差が上下:0.03であり、左右:0.00であり、略均一な膜が得られた。
【0076】
<比較例3−1>
実施例3において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。こうして調製した塗膜の膜厚状態を図17に示す。標準偏差が上下:0.08であり、左右:0.05であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0077】
<比較例3−2>
実施例3において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。
【0078】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図18に示す。標準偏差が上下:0.07であり、左右:0.06であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0079】
<比較例3−3>
実施例3において、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0080】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図19に示す。標準偏差が上下:0.06であり、左右:0.01であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0081】
<実施例4>
実施例2において、レンズIをレンズIIとした。それ以外の条件は同じとした。こうして調製した塗膜の膜厚状態を図20に示す。標準偏差が上下:0.14であり、左右:0.02であり、略均一な膜が得られた。
【0082】
<比較例4−1>
実施例4において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0083】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図21に示す。標準偏差が上下:0.39であり、左右:0.23であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0084】
<比較例4−2>
実施例4において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。
【0085】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図22に示す。標準偏差が上下:0.37であり、左右:0.29であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0086】
<比較例4−3>
実施例4において、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0087】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図23に示す。標準偏差が上下:0.29であり、左右:0.03であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0088】
上記各実施例・比較例群の処理条件および結果を表1にまとめる。
【0089】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の浸漬塗装方法の技術的思想は、塗装方法に限られず、化成処理等の浸漬処理方法にも適用できる。その場合の構成は、下記構成となる。
【0091】
被処理物を処理液に浸漬後、前記被処理物を前記処理液から垂直方向に相対的に引き上げて行なう浸漬表面処理方法において、
前記被処理物と前記処理液との温度差を可及的に小さくしてから、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする。
【符号の説明】
【0092】
11 有機ガラス基材
14 ハード膜
15 プライマー膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬塗装方法に関し、特に、プラスチックレンズにプライマー膜やハード膜等の塗膜(コーティング)を浸漬処理により形成するのに好適な浸漬塗装方法に関する。
【0002】
ここでは、レンズとしてプラスチックレンズにハード膜やプライマー膜を浸漬塗装(ディッピング)する場合を例に採り説明するが、これに限られるものではない。
【0003】
本発明の浸漬塗装方法は、上記レンズ等の光学部品、更には、プリント基板、液晶基板、ウェハー等の電気・電子部品にも適用できる。
【0004】
上記光学部品としては、眼鏡レンズ・カメラ用レンズなどの光学レンズ、さらには、各種ディスプレイの前面ガラスないし前面フィルター、反射鏡、光学プリズム等も含まれる。
【背景技術】
【0005】
近年、眼鏡用レンズとしては、無機ガラスレンズに比して、軽くかつ割れにくい有機ガラスレンズ(プラスチックレンズ)が普及してきている。しかし、一般的にプラスチックレンズは、無機ガラスレンズに比して耐擦傷性が格段に低い。そこで、通常、有機ガラスレンズ基材の表面に、ハード膜が形成されている。そして、ハード膜は、通常、プラスチックレンズ基体との密着性が良好でないため耐衝撃性の向上も兼ねて、レンズ基体11とハード膜13との間に、熱可塑性エラストマー(TPE)等をベースとするプライマー膜15が形成されていることが多い(図2(B)参照)。
【0006】
上記ハード膜13やプライマー膜15等のコート膜(塗膜)は、それらを形成する塗料液(処理液)を用いて浸漬塗装(浸漬処理:デップコート)をして形成する。両面への機能付与および量産性の見地からである。
【0007】
しかし、浸漬塗装はその未硬化塗膜のダレに起因して膜厚ムラの発生を避け得ないとするのが当業者常識であった。更には、光学レンズ(特に眼鏡レンズ)のような周辺部と中心部との肉厚が大きく異なる基材の場合、膜厚ムラは更に発生し易かった。この膜厚ムラにより耐久性品質の面におけるバラツキが、発生し易くなる。特に、この傾向は、強い度数のレンズやハイカーブのレンズ程、顕著となる。
【0008】
したがって、光学レンズにおける塗膜の膜厚ムラが可及的に発生し難い技術の出現が希求されていた。
【0009】
しかし、光学レンズの分野において、浸漬塗装による塗膜に膜厚ムラが発生し難い技術について、本発明者らは、寡聞にして知らない。
【0010】
なお、電子複写器における感光体用のドラム基体(円筒体)の表面に感光体層を浸漬塗装により形成する方法において、塗膜ダレに基づく膜厚ムラの発生を低減する見地から、引き上げの速度を初めと終りとの間で変化させる(初めを早く終わりを遅くする)発明(技術的思想)が特許文献1〜3において提案されている。
【0011】
しかし、感光ドラムにおける当該技術的思想をそのまま光学レンズに適用しても、膜厚ムラの発生を低減させるには不十分であることが分かった。
【0012】
また、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、光学レンズの分野において、下記構成の非球面体の製造方法が特許文献4において提案されている。
【0013】
「光学レンズ等の非球面(球面を含む。)を有する部材において、該部材にオルガノポリシロキサン系樹脂、或いは、紫外線硬化樹脂等のコート層(塗膜)を、引上げ速度を制御した浸漬塗りで設けることにより、該部材の非球面形状を制御することを特徴とする。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭57−5058号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭59−46171号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2008−62131号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開昭61−33267号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記光学レンズ等において、上記特許文献1〜3により、膜厚ムラの発生を低減させるには不十分である理由は、光学レンズと感光ドラムとの形態の違いにあることに着目して、考察した結果、下記知見に到達した。
【0016】
「光学レンズ(例えば凹レンズ)の場合、屈折面を塗料液面に対し水平に引き上げた場合、レンズ凹面側に空気又は塗料液を溜め込んでしまうこととなる。一般的には直角に近い状態、いわば光学レンズを縦置きの状態で引き上げる手法がとられている。
【0017】
前述の感光ドラムにおける従来技術によって光学レンズを浸漬塗装した場合は、光学レンズのような塗料液の液面と平行する被塗装物の断面が円形状ではない物体に対して水平面(左右方向)の膜厚ムラを少なくすることができない。
【0018】
他方、浸漬塗装方法を光学レンズに施して塗膜を形成しようとする場合には、塗膜へ異物が混入しないようにするために、被塗装物を浸漬塗装の前工程において、洗浄(例えば、超純水・超音波洗浄)し、その後、乾燥工程(例えば80℃×15min)をする(図3参照)。このため、被塗装物は室温よりも遥かに高い温度となっている(例えば、60〜80℃)。
【0019】
また、連続的に複合塗膜を積層する場合には第1層の乾燥工程により、2層目以降の塗膜を塗装する直前では被塗装物は室温よりも遥かに高い温度となっている(例えば、60〜80℃)。
【0020】
更に、塗料液(塗液)は、通常、溶媒の揮発や反応速度を抑制するために、室温よりも低い温度で管理されている(例えば、10℃)。
【0021】
上記の理由により、被塗装物と塗料液との間に大きな温度差(例えば50℃以上)があった場合、外周や薄い部分は局所的に早く塗料液の温度との差が小さくなり、内側や厚い部分は温度差が大きくなる、すなわち、一時的に温度ムラが発生する。特に、この温度ムラは、有機ガラスレンズの場合、熱伝導率が低いため維持され易くなる。そして、一般的な液体では温度が高いほど粘度は低くなるため、温度の高い部分では液だれの流速が速くなり、膜厚が薄くなる。」
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記知見に基づき、本発明者らは、光学レンズ等の非円筒状の被塗装物であっても、膜厚ムラの発生を低減できることを知見して、下記構成の浸漬塗装方法に想到した。
【0023】
被塗装物を塗料液に浸漬後、前記被塗装物を前記塗料液から相対的に引き上げて被塗装物の表面に塗膜を形成する浸漬塗装方法において、
前記被塗装物を、前記塗料液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の浸漬塗装方法に使用する機構の一例を示すモデル図である。
【図2】光学レンズの膜厚位置を示す平面図(A)および同断面図(B)である。
【図3】実施例群又は比較例群の光学レンズを浸漬処理する際における流れ図である。
【図4】実施例1・3および比較例1−2、3−2における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図5】比較例1−1、1−3、3−1、3−3における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図6】実施例2・4および比較例2−2、4−2における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図7】比較例2−1、2−3、4−1、4−3における引き上げ速度/経過時間の関係図である。
【図8】実施例1における上下方向膜厚および左右方向膜厚の状態を示す各グラフ図(A)、(B)である。
【図9】比較例1−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図10】比較例1−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図11】比較例1−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図12】実施例2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図13】比較例2−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図14】比較例2−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図15】比較例2−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図16】実施例3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図17】比較例3−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図18】比較例3−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図19】比較例3−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図20】実施例4における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図21】比較例4−1における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図22】比較例4−2における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【図23】比較例4−3における同様な各グラフ図(A)、(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。ここでは、図1に示すような引き上げ機構を用いて、図2に示す如く、光学レンズ(眼鏡用凹レンズ)の基材(被塗装物)11にプライマー膜15乃至ハード膜13を形成する場合を例に採り説明する。
【0026】
即ち、光学レンズ基材11を、演算装置17により制御される引き上げ駆動部19に連結された引き上げ手段(昇降手段)21にセットし、光学レンズ基材11を、塗料液23が充填された塗料液槽25に浸漬後・引上げる。このとき、浸漬時間は、5〜40秒とする。
【0027】
図3に浸漬塗装する際の流れ図の一例を示す。
【0028】
ここで、有機ガラス基材としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、脂肪族アリルカーボネート、芳香族アリルカーボネート、ポリチオウレタン等からなるものを挙げることができる。
【0029】
無機ガラス基材としては、クラウンガラス(nd=1.52〜1.72)、フリントガラス(nd=1.53〜1.88)等が挙げられる。
【0030】
そして、レンズ基材(被塗装物)を、前記塗料液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行う。即ち、レンズ基材を昇降させずに、塗料液槽25を昇降させてもよい。
【0031】
本発明は、後述の実施例の如く、レンズ基材の浸漬・引き上げ工程の前に、レンズ基材(被塗装物)の温度を、塗料液(浸漬液)の温度に可及的に近づける温調処理をすることが最大特徴である。
【0032】
例えば、レンズ基材が乾燥炉で昇温している場合、レンズ基材を塗料液と同一温度、乃至若干低い温度(−10℃以内、望ましくは−5℃以内)の冷風(冷却媒体)で冷却する。冷却媒体は、液体(水)や蒸気でもよいが、液体(水)として汚染物質が含まれていない純なもの(例えば、純水)を使用しないと水中の汚染物質で、折角洗浄したレンズ基材が汚染されるおそれがあるため望ましくない。また、冷風等の冷却媒体の温度が塗料液より低すぎると、過剰冷却されるとともに、レンズ基材が熱衝撃を受けるおそれがあり望ましくない。なお、被塗装物と塗料液の温度が同じとなるまでの時間は冷風の温度、被塗装物の厚み、被塗装物の熱伝導率などにより、異なり、実験結果から設定する。
【0033】
上記ハード膜13を形成する塗料液は、通常、シリコーン系のものを使用する。
【0034】
例えば、オルガノアルコキシシランの加水分解物に、触媒、金属酸化物微粒子(複合微粒子を含む)を加え、希釈溶剤にて塗装可能な粘度になるように調節する。さらに、このハード膜塗料液には、適宜界面活性剤、紫外線吸収剤等の添加も可能である。
【0035】
このハード膜13の膜厚は、0.5〜50μm、望ましくは1〜10μmとする。ここで、薄いと耐擦傷性を得難く、厚いと面精度(レベリング性)を得がたいので、両特性のバランスからハード膜の膜厚を適宜設定する。
【0036】
上記プライマー膜15を形成する塗料液は、例えば、TPE系塗料液を使用することが望ましい。
【0037】
例えば、TPEとしては、TPEE、TPU等を挙げることができる。
【0038】
該プライマー膜塗料液(プライマー組成物)は、屈折率の調整や強度の向上等を目的として金属酸化物微粒子(複合微粒子を含む。)を含有させることが望ましい。
【0039】
このプライマー膜の膜厚は、0.2〜10μm、望ましくは0.5〜5μmとする。薄いと耐衝撃性を得難く、厚いと面精度を得がたいので、両特性のバランスからプライマー膜の膜厚を適宜設定する。
【0040】
こうして、各塗膜(プライマー膜、ハード膜)を形成する前に、温調して基材を可及的に塗料液の温度に近接させておくことにより、レンズの中央部と周縁および薄肉部と厚肉部とで従来のような塗料液に対する温度影響が小さく、乾燥前塗膜の液ダレ性が部位ごとで均一となる。
【0041】
したがって、塗料液の液面と平行する被塗装物の形状が円筒状でなくても、乃至、断面が非円形以外であっても温度差による塗膜の膜厚ムラを低減できる。
【0042】
さらには、従来公知手法の引き上げ速度(引上げ開始から引上げ完了までの)を変速させることによって上下方向の膜厚ムラも低減でき、レンズ平面全体における膜厚ムラの低減効果を得ることができる。
【0043】
このときの相対的引き上げ速度(V)は、通常、下記式で表される直線的に低減するものとする。直線的である方が制御し易いためである。下記式において、V0=1.0〜5mms-1(望ましくは1.5〜3.5mms-1)、a=0.005〜0.02mms-2(望ましくは0.01〜0.015mms-1)とする。
【0044】
V(mms-1)=V0−at
但し、V0:初速(mms-1)、a:係数(mms-2)、t:経過時間(s)。
【0045】
なお、相対引き上げ速度は、特許文献2に記載の下記式の如くeが底の指数関数的に変化させてもよい。
【0046】
V(mms-1)=V0exp(-At)
但し、A:係数(s-1)、V0は、上記と同じとし、A=0.001〜0.02s-1(望ましくは0.002〜0.01s-1)とする。
【0047】
以上、被塗装物として光学レンズ(凹レンズ)を例に採り説明したが、本発明は、他の無機・有機ガラス光学部品、プリント基板、液晶基板、ウェハー等の電気・電子部品にも、円筒状、非円筒状に限定されず適用できる。
【0048】
ここで、光学部品としては、眼鏡レンズ・カメラ用レンズなどの光学レンズ、さらには、各種ディスプレイの前面ガラスないし前面フィルター、反射鏡、光学プリズム等も含まれる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例を比較例とともに説明する。
【0050】
(1)被塗装物であるレンズ基材は、下記仕様のものを使用した。
【0051】
レンズI・・・直径75mm、外周の厚み8mm、中心の厚み2mmの屈折率1.50のアリル系プラスチックレンズ
レンズII・・・直径75mm、外周の厚み8mm、中心の厚み1mmの屈折率1.74のチオウレタン系プラスチックレンズ
【0052】
(2)浸漬塗装前処理は、図3に示す流れで行なった。
即ち、各実施例・比較例は、超純水で超音波洗浄し、80℃の熱風乾燥炉で15分間乾燥した。その後10℃(又は30℃)の冷風炉にて15分間冷やした。
【0053】
(3)塗料液は、液温10℃の下記プライマー膜塗料液又はハード膜塗料液を使用した。
【0054】
プライマー膜塗料液:粘度2.2cPs(mPas)、塗膜としたときの屈折率が1.60となるTPEE系塗料。
【0055】
ハード膜塗料液:粘度3.3cPs(mPas)、塗膜としたときの屈折率が1.60となるオルガノシリコーン系塗料。
【0056】
<実施例1>
図3に示す冷風冷却(10℃)を行なったレンズIに、前記プライマー膜塗料液を浸漬塗装方法にて塗装した。
【0057】
レンズ基材を10秒浸漬後、図4に示すように引き上げ速度を初めは速く、徐々に遅くしながら引き上げを行った。その後、100℃の熱風乾燥炉にて30分間乾燥した。
【0058】
こうして調製した塗膜(プライマー膜)の膜厚状態を図8に示す。標準偏差(σ)が上下:0.02であり、左右:0.00であり、非常に均一な膜が得られた。
【0059】
<比較例1−1>
実施例1において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0060】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図9に示す。標準偏差が上下:0.07であり、左右:0.04であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0061】
<比較例1−2>
実施例1において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。
【0062】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図10に示す。標準偏差が上下:0.06であり、左右:0.05であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0063】
<比較例1−3>
実施例1において、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0064】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図11に示す。標準偏差が上下:0.05であり、左右:0.01であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0065】
<実施例2>
実施例1において、プライマー膜塗料液に代えてハード膜塗料液を用いて、浸漬塗装方法にて塗装した。
【0066】
その際、図6に示すように引き上げ速度を初めは速く、徐々に遅くしながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0067】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図12に示す。標準偏差が上下:0.12であり、左右:0.02であり、略均一な膜が得られた。
【0068】
<比較例2−1>
実施例2において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0069】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図13に示す。標準偏差が上下:0.33であり、左右:0.20であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0070】
<比較例2−2>
実施例2において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。こうして調製した塗膜の膜厚状態を図14に示す。
【0071】
標準偏差が上下:0.31であり、左右:0.25であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0072】
<比較例2−3>
実施例2において、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0073】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図15に示す。標準偏差が上下:0.24であり、左右:0.03であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0074】
<実施例3>
実施例1において、レンズIをレンズIIとした。それ以外の条件は同じとした。
【0075】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図16に示す。標準偏差が上下:0.03であり、左右:0.00であり、略均一な膜が得られた。
【0076】
<比較例3−1>
実施例3において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。こうして調製した塗膜の膜厚状態を図17に示す。標準偏差が上下:0.08であり、左右:0.05であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0077】
<比較例3−2>
実施例3において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。
【0078】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図18に示す。標準偏差が上下:0.07であり、左右:0.06であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0079】
<比較例3−3>
実施例3において、引き上げ速度を図5に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0080】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図19に示す。標準偏差が上下:0.06であり、左右:0.01であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0081】
<実施例4>
実施例2において、レンズIをレンズIIとした。それ以外の条件は同じとした。こうして調製した塗膜の膜厚状態を図20に示す。標準偏差が上下:0.14であり、左右:0.02であり、略均一な膜が得られた。
【0082】
<比較例4−1>
実施例4において、冷風冷却の温度を30℃とし、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0083】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図21に示す。標準偏差が上下:0.39であり、左右:0.23であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0084】
<比較例4−2>
実施例4において、冷風冷却の温度を30℃とした。それ以外の条件は同じとした。
【0085】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図22に示す。標準偏差が上下:0.37であり、左右:0.29であり、上下・左右共に膜厚ムラが見られた。
【0086】
<比較例4−3>
実施例4において、引き上げ速度を図7に示すように一定としながら引き上げを行った。それ以外の条件は同じとした。
【0087】
こうして調製した塗膜の膜厚状態を図23に示す。標準偏差が上下:0.29であり、左右:0.03であり、上下に膜厚ムラが見られた。
【0088】
上記各実施例・比較例群の処理条件および結果を表1にまとめる。
【0089】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の浸漬塗装方法の技術的思想は、塗装方法に限られず、化成処理等の浸漬処理方法にも適用できる。その場合の構成は、下記構成となる。
【0091】
被処理物を処理液に浸漬後、前記被処理物を前記処理液から垂直方向に相対的に引き上げて行なう浸漬表面処理方法において、
前記被処理物と前記処理液との温度差を可及的に小さくしてから、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする。
【符号の説明】
【0092】
11 有機ガラス基材
14 ハード膜
15 プライマー膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物を塗装液に浸漬後、前記被塗装物を前記塗装液から相対的に引き上げて被塗装物の表面に塗膜を形成する浸漬塗装方法において、
前記被塗装物を、前記塗装液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする浸漬塗装方法。
【請求項2】
前記相対的な引き上げを、前記引き上げの速度を初めと終りとの間で変化させて、塗膜ダレによる膜厚ムラの発生を低減化することを特徴とする請求項1記載の浸漬塗装方法。
【請求項3】
前記被塗装物の形態が非円筒状であることを特徴とする請求項1又は2記載の浸漬塗装方法。
【請求項4】
前記被塗装物が光学用レンズであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の浸漬塗装方法。
【請求項5】
前記塗膜の膜厚が0.1〜50μmであることを特徴とする請求項4記載の浸漬塗装方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の浸漬塗布方法でハード膜及び/又はプライマー膜が形成されてなることを特徴とする光学用レンズ。
【請求項7】
被処理物を処理液に浸漬後、前記被処理物を前記処理液から垂直方向に相対的に引き上げて行なう浸漬表面処理方法において、
前記被処理物を、前記処理液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする浸漬表面処理方法。
【請求項1】
被塗装物を塗装液に浸漬後、前記被塗装物を前記塗装液から相対的に引き上げて被塗装物の表面に塗膜を形成する浸漬塗装方法において、
前記被塗装物を、前記塗装液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする浸漬塗装方法。
【請求項2】
前記相対的な引き上げを、前記引き上げの速度を初めと終りとの間で変化させて、塗膜ダレによる膜厚ムラの発生を低減化することを特徴とする請求項1記載の浸漬塗装方法。
【請求項3】
前記被塗装物の形態が非円筒状であることを特徴とする請求項1又は2記載の浸漬塗装方法。
【請求項4】
前記被塗装物が光学用レンズであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の浸漬塗装方法。
【請求項5】
前記塗膜の膜厚が0.1〜50μmであることを特徴とする請求項4記載の浸漬塗装方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の浸漬塗布方法でハード膜及び/又はプライマー膜が形成されてなることを特徴とする光学用レンズ。
【請求項7】
被処理物を処理液に浸漬後、前記被処理物を前記処理液から垂直方向に相対的に引き上げて行なう浸漬表面処理方法において、
前記被処理物を、前記処理液との温度差が可及的に小さくなるように温調処理後、前記相対的な引き上げを行うことを特徴とする浸漬表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−30185(P2012−30185A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172814(P2010−172814)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
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