説明

浸透性カプセル

本発明は、タンパク質、ペプチド又は機能性核酸分子をコードする核酸に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを有する組換え核酸分子を含む、少なくとも1つの細胞と、電磁放射線又は磁場に曝露された時に熱を放出することができる少なくとも1つの熱放出剤とを含む、浸透性カプセルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞療法において有用な浸透性カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、遺伝的欠陥により介在される疾患に罹患した患者を治療するいくつかの異なった方法が開発された。最も有望な治療法は、遺伝子療法及び細胞療法を含む。
【0003】
遺伝子療法の過程で、遺伝子は、直接的又は間接的な経路により患者の細胞に挿入され、挿入された遺伝子は、標的細胞の染色体に集積され得る。よって、遺伝子療法の目的は、遺伝子の発現を加え、修正し又は阻止することである。
【0004】
遺伝子療法の本質的ステップにおいて、クローン化遺伝子は、特定の疾患を克服するために患者の細胞に導入され、そして当該細胞中で発現される必要がある。対象の遺伝子(複数)は、ex vivo又はin vivoで標的細胞に導入することができる。Ex vivoでの遺伝子導入は、培養物中で成長する細胞への遺伝子導入を含む。成功的に導入された細胞を選択し、in vitroで細胞培養により増殖させ、次いで個体に導入する。これとは対照的に、in vivoでの遺伝子導入は、患者の組織又は細胞への直接的なクローン化遺伝子の導入を含む。このことは、個体細胞が充分な数でin vitroで培養することができない組織(例えば、脳細胞)及び/又は培養細胞が患者に効率的に移植することができない組織では、唯一の可能な選択肢であるかもしれない。
【0005】
先行技術では、ヒト細胞に遺伝子を導入するために使用することができる多数の異なった物理化学の及び生物的方法が、開示されている。1つの好適な方法は、生物膜の構造を模倣するリポソームの使用を含む。導入される核酸分子は、リポソームによりin vitroで包まれ、in vivoで好適な標的組織に当該核酸を導入するために直接、使用される。脂質コーティングは、核酸分子をin vivoで生存させ、細胞に結合させ、そして当該細胞にエンドサイトーシスさせる。しかしながら、遺伝子導入の効率は低く、導入された核酸分子は、通常、染色体DNAに集積するように設計されていない。代わりに、遺伝子を用いる粒子衝撃が採用され得る。この方法は、核酸分子の金属ペレットへの初期コーティングを含み、後で銃から標的細胞に発砲される。しかしながら、特定の核酸分子を細胞に導入するための最も有望かつ最も効率的なビヒクルは、ベクター、好ましくはウイルスベクターである。哺乳動物のウイルスベクター、例えばレトルウイルス(例えば、マウス白血病ウイルス)の及びアデノウイルスのベクターは、ヒト細胞への形質移入のその高い効率のため、遺伝子導入の好ましいビヒクルである。
【0006】
しかしながら、遺伝子療法は、特に、ベクター系が採用されるときには、様々なリスクを有する。ウイルスベクターは特に、リスクの組合せを有する。正確に標的されないウイルスベクターは、意図したよりもより広範な細胞に感染することがある。ウイルス感染に関連するリスクを超えて、遺伝子の非-特異的集積は、潜在的に癌を引き起こす宿主ゲノムにおいて遺伝子調節を中断させる可能性を示す。例えば、集積は、癌遺伝子の活性化の原因となるか、又は癌抑制遺伝子もしくはアポトーシス(プログラムされた細胞死)に関連する遺伝子を不活性化することができた。遺伝子療法の安全性の別の局面は、ウイルスベクターが生殖細胞系列の細胞に影響を及ぼすことがあるという事実である。このような事象は起こる場合には、改変された遺伝子は遺伝性になるだろう。
【0007】
このこととは対照的に、細胞療法は、疾患の又は機能不全細胞を、健康で機能的な細胞と取り替えるために使用される。更に、導入された細胞は、通常、宿主では活性でない追加の機能を提供することができる。この方法は、癌、神経疾患(例えば、パーキンソン病)、脊髄損傷及び糖尿病を含む様々な範囲のヒト疾患に適用される。細胞療法で使用される細胞は、動物又はヒトのいずれかから単離することができる。しかしながら、動物又はヒトから移植された細胞を使用する細胞療法を経験する個体は、細胞拒絶のリスクにさらされる。また、細菌性もしくはウイルス性感染症又は他の疾患及び他の個体への寄生動物に感染する細胞のリスクを考慮しなければならない。
【0008】
遺伝子及び細胞療法に関連する安全の懸念を克服するために、いくつかの方法及び手段が近年開発されている。細胞を体内に導入する1つの有利な方法は、細胞のカプセル化である(Chang TMら, Mol Med Today (1998), 4: 221-227; Saitoh Y.ら, Cell Transplant (1995), 1: S13-17)。カプセル化された細胞はまた、インプラントとして又はインプラント中に有利に使用することができる。なぜなら、栄養素及び発現された遺伝子産物は、妨害されていないインプラントの外側壁を通過することができ、細胞は免疫系に曝露されず、そのため、カプセル化された細胞は、免疫反応を引き起こさず、インプラントは、外科的方法により容易に導入し除くことができるためである。例えば、カプセル化された細胞は、癌患者の手術後の細胞療法において使用することができる。抗-血管由来物質(例えば、エンドスタチン)を分泌するこのような細胞は、その部位での細胞の成長を止めるために除いた腫瘍の近辺に移植される(Bjerkvig R.ら, Acta Neurochir. Suppl. (2003), 88: 137-141)。カプセル化された細胞は、例えば、胃腸管を通過し、ある期間内に体内から排泄される経口的に投与された医薬としてでもよい。体内での一時的な存在は、遺伝子組換え細胞に関する安全の懸念を軽くする(例えば、Prakash S.ら. (2000) Int J Artif Organs. 23: 429-35参照)。
【0009】
カプセル化された細胞によって産生され及び分泌されたタンパク質、ペプチド、代謝物及び治療上の活性剤の発現は、構成的プロモーターによって継続的に指図することができる。より好ましくは、ステロイドホルモン、イソプロピルβ-D-チオガラクトシド(IPTG)、デオキシサイクリン(Dox)又は重金属によって誘導されるプロモーターにより達成することができる制御された発現である。これらの物質のほとんどは、哺乳動物宿主に投与される時に、重大な副作用を誘導することがある(例えば、Saitoh Y.ら, Molecular Brain Research (2004), 121: 151-155参照)。投与後、これらの物質は、調節に比べてゆっくりかつ異なった拡散によりその標的細胞に到達しなければならない。結局、これらのプロモーターの多くは、治療剤の有効投与量を可能にする方法、故に満足な疾患の治療、で制御することができない。
【0010】
WO 99/06059は、免疫毒性及び脂肪毒性から哺乳動物細胞を保護するために、当該細胞に抗酸化剤及び共役型脂肪酸を投与するための方法及び手段に関する。これらの物質は、これらの物質の生合成の原因となる酵素の発現を可能にするプラスミドを含む細胞により産生することができる。
【0011】
ドイツ特許出願DE 101 58 331 A号公報には、核酸の導入を標的する、特に真核生物細胞のコンパートメントを標的することができるPNAコンジュゲートが記載されている。欧州特許EP 0 330 801号明細書は、疾患の診断及び治療における強磁性の、常磁性の及び超常磁性の粒子の使用に関する。かかる治療の過程では、当該粒子は、哺乳動物の体に投与され、磁場は、処置される部位に適用される。
【0012】
米国特許US 4,359,453号明細書は、アテローム斑内の細胞間粒子において熱を発生することができる外部電磁エネルギーの適用による、アテローム性動脈硬化症の治療に関する。当該斑における熱の誘導は、その生分解をもたらす。
【発明の開示】
【0013】
本発明の目的は、個体に適用される時に安全であり、そしてカプセルの周囲組織又は体液へのカプセル壁を介して、タンパク質、ペプチド、機能性核酸、治療物質及びウイルス粒子の産生及び放出の調節を可能にする、細胞療法において使用される手段を提供することである。
【0014】
従って、本発明は、タンパク質、ペプチド又は機能性核酸分子に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを有する組換え核酸分子を含む少なくとも1つの細胞、及び電磁波又は磁場に曝露された時に熱を放出することができる少なくとも1つの熱放出剤を含む、浸透性カプセルに関する。
【0015】
本発明によれば、「浸透性カプセル」は、カプセル化される細胞(複数)の周囲の壁を介して、カプセル化される細胞(複数)への栄養素の自由な拡散、及び当該細胞(複数)によって分泌される産物の自由な拡散を可能にし、宿主免疫系による有効なアクセスを遮断する、当該細胞(複数)に対する機械的ストレスを減少させるために、当該細胞(複数)の周囲の壁を有するカプセルに関する。安定なカプセルは、実質的に不溶性で、生物適合性かつカプセルが導入される(例えば、移植される)環境と非-反応性でなければならない。本発明に従うカプセルを作製するために使用することができるカプセル化の方法は、当業者に知られている(例えば、Chang TMS, Nature Reviews Drug Discovery (2005) 4: 21-235, Hauser O.ら, Current Opinion in Molecular Therapeutics (2004) 6: 12-420; 欧州特許EP 0 835 137 B1号明細書, Sommer B.ら, Molecular Therapy (2002), 6: 55-161; Goosen M.F.A.ら, Biotechnol. Bioeng. (1985), 27: 46-150参照)。例えば、浸透性カプセル材料は、アルギン酸塩のポリマー、ポリアクリレート又は硫酸セルロースからなることがある(例えば、Orive G.ら, Trends Biotechnol (2004), 22: 87-92参照)。かかる浸透性ポリマー中でカプセル化された細胞は、哺乳動物宿主に移植される長時間、生存することができる。例えば、Sommer B.ら(Molecular Therapy (2002), 6: 155-161)は、その生存期間が少なくとも43週(43週後に哺乳動物宿主からインプラントを取り除いた)であると決定した。
【0016】
本発明によれば、前記核酸分子は、ベクターの一部、エピソーム又は染色体のいずれかでよい。宿主細胞に導入された組換え核酸分子の高安定性を保証するためには、前記核酸分子は、好ましくは、当該宿主細胞の染色体中に集積される。
【0017】
本発明によれば、用語「熱誘導性プロモーター」又は「熱ショックプロモーター」(いずれの用語も同義である)は、低温(例えば、通常の生理的温度;例えば、哺乳動物については36〜37℃)から高温(例えば、哺乳動物細胞について少なくとも39℃、好ましくは40℃以上、より好ましくは41℃以上)までの温度において、当該プロモーターに作動可能に連結された核酸断片の増加した転写率をもたらす、核酸配列を意味する。従って、核酸断片は、通常の生理的条件下で最低限に転写されるか又は転写されない。基底発現が通常の生理的条件下で検出される場合には、転写率は、熱誘導性プロモーターの誘導時に、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、特に少なくとも100倍増加することがある。例えば、Morimoto RIら(J. Biol. Chem. (1992) 267: 21987-21990)には、「熱誘導性プロモーター」の特徴が開示されている。
【0018】
しかしながら、熱ショックプロモーターは、同様に、重金属、有機物質、アミノ酸アナログのような細胞ストレスを引き起こす他の条件により活性化することができる。特に、電磁波は、実質的に細胞中の温度を上昇させることなく、強い熱ショック反応を引き出すことができる(de Pomerai D.ら, (2000) Nature 405, 417-418)。
【0019】
「作動可能に連結された」は、組換えDNA技術により、第二配列(複数)又は当該第二配列の制御下の領域に対して影響を及ぼすことができるように、第二配列(複数)に充分に近くに位置付けられる第一配列(複数)を意味する。本発明に従う「作動可能に連結された」は、熱誘導性プロモーター及びタンパク質又はペプチドのコーディング領域が、組換えDNA技術に従って互いに積極的に連結されて、そして当該プロモーターの対及び当該コーディング領域が、本発明に従う連結形態において宿主細胞の野生型種では生じない(又はその位置が異なる)、ことを意味する。このことは、タンパク質遺伝子が野生型熱誘導性プロモーターに3'導入されるか、又は熱誘導性プロモーターが野生型コーディング領域に5'導入されるかを意味し、あるいは、熱誘導性プロモーター及び当該タンパク質のコーディング領域の両方が、任意の(非-野生型)位置においてカプセル化された宿主細胞に導入されることを意味する。通常、熱誘導性プロモーター及び/又はタンパク質、ペプチドもしくは機能性核酸をコードする遺伝子は、外因性(外来性)である、すなわち、カプセル化された宿主細胞の野生型から得られるのではない。
【0020】
本発明によれば、識別可能なペプチド又はタンパク質の種類に限定されることなく、「ペプチド」は40未満アミノ酸を含み、「タンパク質」は40超アミノ酸を含む。
【0021】
本発明に従うカプセルは、核酸分子を有する少なくとも1つの細胞を含み、当該細胞は、当該細胞の染色体DNA中に集積されるか又は集積されない、そして熱の存在下で調節され得るかもしくは活性化され得る熱誘導性プロモーターを含む。当該プロモーターに5'連結された核酸分子は、タンパク質、ペプチド又は機能性核酸をコードする。これらの転写及び翻訳産物は、カプセルから分泌される時に、治療薬(例えば、抗体、インスリン、hGH、EPO、hNGF、CNTF、GDNF、プロオピオメラノコルチン、iNOS、IL-2、エンドスタチン)として直接的又は間接的に作用することがあり、あるいは別の治療物質(例えば、イフォスファミド)の合成を触媒するか、又は隣接細胞に感染するウイルス粒子を産生することがある。本発明によれば、機能性核酸は、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイムを意図している。
【0022】
熱誘導性プロモーターは、38℃〜50℃、好ましくは40℃〜48℃で活性でなければならない。基礎体温(36℃〜37℃)では、当該プロモーターは、活性(基底の発現)でないはずである。当然のことながら、通常の組織は、曝露される時間に依拠して44℃を超える温度ではネクローシスを受けるため、あまりに高い温度も好適ではない。従って、熱誘導性プロモーターが活性化される最適温度は、好ましくは41℃/42℃〜48℃の範囲である。
【0023】
熱誘導性プロモーターは、個体の所定の部位での、タンパク質、活性化合物等の発現用の遺伝子療法において用いられてきた。例えば、WO 98/40105には、熱誘導性プロモーターの存在下でタンパク質を産生する核酸分子が個体の染色体DNAに導入される、遺伝子治療法が開示されている。当該プロモーターを活性化するために、所望の部位で熱形成を起こす、レーザー、電磁波、高周波原又は超音波源が使用されている。米国特許第2003/0045495号明細書には、腫瘍の成長に影響を与える治療的ポリペプチドをコードする核酸断片に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを含む構築体の使用が開示されている。これとは対照的に、本発明に従うカプセルは、例えば、タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターは、処置された個体の染色体DNAに導入されないので(当該核酸分子は、カプセルの細胞中に残存することになる)、遺伝子療法の利用なしで使用することができる。
【0024】
転写/複製される核酸断片に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを含む核酸分子を細胞に導入した後、好適なクローンをカプセル化前に選択することができる。移植又は投与前にクローンを単離することができるという、カプセル化された細胞の重要な利点であり、これは、所望の特徴(例えば、低基底発現、誘導時の高発現率、長時間の安定性及び生存可能性)を有する。更に、最適な誘導条件(例えば、温度)は、ex vivoにおいて決定することができる。
【0025】
より特異的な方法で、熱誘導性プロモーターを活性化し、場合によりタンパク質又はポリペプチドに翻訳される核酸断片の転写を誘導するために、本発明に従うカプセルが存在する体内の一部又は組織に局在化された熱が提供されなければならない。核酸断片に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを含む細胞の局在化された加熱を可能にし、同時に周囲細胞の加熱を減少させるために、侵襲的及び非-侵襲的方法のステップを含むいくつかの方法を採用することができる。例えば、侵襲的方法は、カテーテルを採用することがあり、チップは、加熱されるか又は細胞にレーザービームを方向付けるための光ガイドを含む。外科的インターベンションを避ける又は最小限に減らすために、非−侵襲的方法は好ましく使用される。これらの方法は、超音波(例えば、WO 98/06864参照)、電磁波、ラジオ波及び赤外線を採用することがある(例えば、Samulski T. V., Biomedical Uses of Radiation. W. Hendee (著). VCH Publishers, Weinheim, Germany, pp. 1133-1223 (1999) 参照)。
【0026】
本発明に従うカプセルは、例えば、遺伝病、特に、糖尿病(インスリン)、小人症(hGH)、β-サラセミア(EPO)及びB型血友病 (第XI因子)、癌 (例えば、エンドスタチン、IL-2、iNOSの発現により引き起こされる)、疼痛 (例えば、プロオピオメラノコルチンの発現により引き起こされる)、神経変性疾患(例えば、hNGF、CNTF、GDNFの発現により引き起こされる)の治療に使用することができる。分泌された抗体及び抗体融合タンパク質、並びにアンテナペディア及びTAT断片のようなタンパク質形質挿入ドメインの適用は、可能な適用のリストを更に拡大する。更なる適用(遺伝子治療的適用に匹敵する)は、例えば、Dietz PHG及びBahr M (Mol. Cell. Neurosci. (2004) 27: 85-131)、Orive Gら (TIB (2004) 22: 87-92)、Emery DW (Clin. Appl . Immunol. Rev. (2004) 4: 411-422)、El-Aneed A (Eur. J. Pharmac. (2004) 498: 1-8)、Aebischer P及びRidet JL (Trends Neurosc. (2001) 24: 533-540)、並びにGunzburg WH (Curr. Opin. Molec. Therap. (2004) 6: 258-259) に見出される。
【0027】
定義「熱放出剤」は、電磁波、超音波、電場又は他の熱誘導波に曝露された時に、熱を放出することができる薬剤、物質及び材料組成物に関する。本発明に従うカプセルの安全な使用を保証するために、当該熱放出剤は、動物又はヒトの体内に導入される場合に無害でなければならない。「熱放出剤」は、当業者には知られており、いくつかの書籍及び特許文献において見られる。例えば、米国特許第4,106,488号明細書 (電磁エネルギーの適用により粒子が熱を発生する)、同第6,344,272号明細書及び同第2003/0118657号明細書 (レーザーが、金属層によりコートされたナノ粒子の熱発生を誘導する)、同第4,574,782号明細書 (強磁性粒子が、磁場の適用により熱を発生するように誘導される)、Wust Pら (The Lancet Oncology (2002), 3: 487-497) は、熱放出剤及び熱放出剤の最適な熱放出を誘導する物理的パラメーター(例えば、電磁波の波長、電場の周波数)を開示する。例えば、水に熱を放出させるために、電磁波は水分子を励起することができるので、水も原則的に「熱放出剤」とみなすことができるが、所定の放射線に対して顕著に高い吸収特性を有する薬剤が本発明に従って好まれる。これは、このような外部の薬剤と共に、(各細胞/細胞周囲に存在する水とは対照的に)特定の加熱が達成できるからである。
【0028】
好ましくは、前記薬剤は、300〜3000 nm、好ましくは400〜2000 nm、より好ましくは500〜1500 nm、特に600〜1400 nm内の電磁波に曝露された時に、熱エネルギーを放出する。当該波長で熱エネルギーを放出する薬剤は、例えばナノシェル(米国特許第6,344,272号明細書及び同第2003/0118657号明細書)を含む。電磁波が適用される時には、当該薬剤の熱放出を誘導するために適用される波長は300 μm〜30 cm(周波数1 GHz〜1 THz)の範囲内で選択することができる。
【0029】
本発明の好ましい実施態様に従って、熱放出剤は、0〜30 kA/m、好ましくは0〜15 kA/mの磁場の強さを有する、10 kHz〜100 MHz、好ましくは25 kHz〜50 MHz、より好ましくは50 kHz〜20 MHz、特に50 kHz〜2 MHzの範囲内の周波数を有する磁場に曝露される時に、熱エネルギーを放出する(例えば、Pankhurst QAら, J. Phys . D: Appl. Phys (2003) 36: R167-R181参照)。磁場が熱放出を誘導するために適用される場合には、熱放出剤は、少なくとも部分的に磁性、特に強磁性、常磁性又は超常磁性でなければならない。
【0030】
本発明に従って、特定の領域に熱放出を誘導するために超音波も使用することができる。制御下での治療的遺伝子の発現の調節のための超音波の使用は、例えば、Rome Cら (Methods (2005) 35: 188-198) に記載されている。その中で焦点が当てられている超音波は、hsp70プロモーターを活性化するために非-侵襲的な局所加熱のために使用される。
【0031】
熱放出剤は、好ましくは、少なくとも1つの粒子を含む。かかる粒子は、任意の幾何学的形状又は非-幾何学的形状でよい。しかしながら、球状、立方体、円筒状、半球形及び楕円形等が好ましい。粒子(複数)は、液体又はゲル中に懸濁することができる。特に粒子は、扱いやすいさのために、本発明に従うカプセルにおいて好適に採用される。熱誘導性プロモーターを活性化するために必要とされる必要温度をつくるために、ある量の粒子は、カプセル中及び/又はカプセルが埋め込まれる組織中に存在しなければならない。従って、カプセル又は組織(cm3)当たり0.5〜500 mg、好ましくは1〜20 mg、より好ましくは1.5〜100 mg、特に5〜10 mgの、粒子、好ましくは磁性粒子が採用されなければならない (例えば、Pankhurst QAら, J. Phys. D: Appl. Phys (2003) 36: R167-R181)。
【0032】
本発明の好ましい実施態様によれば、粒子は金属を含む。
【0033】
前記金属は、鉄、金、銀、ニッケル及びそれらの組合せからなる群より選ばれる。本発明に従う粒子は、好ましくは、水を含む液体(例えば、体液)と生理的条件下に実質的に反応しない、元素形態で又は実質的に不溶性金属化合物(例えば、酸化物)の形態で当該金属を含むことができる。
【0034】
粒子は好ましくは磁性、好ましくは強磁性、常磁性又は超常磁性である。
【0035】
磁性粒子、特に鉄、マグネタイト、マグヘマイト、鉄アロイ、ニッケル、ニッケルアロイ、コバルト、コバルトアロイ及びそれらの組合せを含む粒子は、磁場がカプセルに適用された時に熱放出剤として使用することができる。このような粒子は、当該粒子を投与することにより癌の治療、例えば、患者への注射後に、腫瘍部位での磁場の適用、において使用される。磁場は、当該粒子から熱放出を誘導する(例えば、Pankhurst QAら, J. Phys. D: Appl. Phys (2003) 36: R167-R181、米国特許第4,106,488号明細書、及び同第4,574,782号明細書を参照)。
【0036】
本発明に従うカプセルにおける磁性粒子の使用は、実質的に焦点磁場の適用による特定の部位上での熱の放出を誘導することができる。熱の放出を誘導するために必要とされる磁場の磁場強度は、通常、個体の健康に害を与えない範囲内であり、そして当該磁場の作製は簡単な装置を用いて達成することができるので、このような磁性粒子が好ましくは採用される。本発明に従う粒子において使用することができる磁性粒子は、例えば、Pankhurst QAら (J. Phys. D: Appl. Phys (2003) 36: R167-R181) において考察される。
【0037】
当該粒子は、好ましくは、粒径が1 nm〜100 μm、好ましくは2 nm〜50 μm、より好ましくは5 nm〜20 μm、特に10 nm〜15 μmである。
【0038】
原核生物細胞も本発明に従うカプセルにおいて採用することができるが、細胞は好ましくは真核生物細胞である。
【0039】
本発明に従うカプセルは好ましくはヒト及び動物宿主において採用されるので、細胞は好ましくは真核生物細胞である。真核生物細胞の使用は、当該細胞及び当該細胞により分泌される産物(タンパク質、ペプチド、核酸又は他の治療剤)の、宿主との適合性を保証し、当該細胞及び当該細胞から産生される代謝産物の免疫拒絶のリスクを減少させる。従って、当該細胞は、それ相当に選択される。しかしながら、本発明に従うカプセルにおいて原核生物細胞も使用することができる(例えば、Chang TMS, Nature Reviews Drug Discovery (2005) 4: 221-235参照)。
【0040】
少なくとも1つの細胞は、好ましくは、哺乳動物細胞、特にヒト又は動物細胞である。本発明によれば、当該分野の状況で知られ、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドを組換え的に産生するために適している全てのヒト又は動物細胞が採用され得る。
【0041】
少なくとも1つの組換え細胞は、BHK、293、NIH 3T3、Neuro2A、不滅状態のヒト繊維芽細胞又は筋芽細胞、ラクトバチルス デルブリッキ(Lactobacillus delbrueckii)、エチェリキア・コリ(Escherichia coli)、クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)及びそれらの組合せからなる群より選ばれる。
【0042】
本発明によれば、全ての公知の熱誘導性プロモーター、又はヒートショック遺伝子における熱感応性要素は、上記の組換え核酸分子を含む細胞において採用することができる。
【0043】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、熱誘導性プロモーターは、hsp70、hsp20-30、hsp27、hsp40、hsp60、hsp90及びそれらの組合せからなる群より選ばれる。
【0044】
熱誘導性プロモーターは、好ましくは、ハイブリッド又はキメラ型の熱誘導性プロモーターである。
【0045】
遺伝子工学は、野生型プロモーターと比べて高い効果を有することがあるハイブリッド又はキメラ型の熱誘導性プロモーターの構築を可能にする。例えば、熱誘導性プロモーターを、mRNA翻訳を亢進することができる他の要素、又は非-熱刺激(例えば、化学物質)に敏感である他のプロモーターもしくはその部分と組み合わせることができる。
【0046】
本発明の好ましい実施態様によれば、ハイブリッド又はキメラ型の熱誘導性プロモーターは、最小のプロモーター及び熱誘導性プロモーターの少なくとも1つの制御要素を含む。
【0047】
このようなプロモーターは、例えば、Bajoghli B.ら (Dev Biol. (2004) 271: 416-30)に開示されている。熱誘導性プロモーターは、いわゆる熱ショック要素を含む。遺伝子工学により、これらの要素は多様化されて(multimerised)、当該要素の多様性を有するプモーターを生じる。単一又は「多様化」熱ショック要素は、ハイブリッド又はキメラ型の熱誘導性プロモーターを得るために他のプロモーターに融合することができる。
【0048】
熱誘導性プロモーターは、好ましくは、オーストリア特許出願A 674/2004号公報に記載のプロモーターである。従って、本発明に従う熱誘導性プロモーターは、好ましくはDNAストレッチを含む。このストレッチは、少なくとも2つのコンセンサス配列を含み、各コンセンサス配列が3つのペンタマー単位からなり、当該ペンタマー単位が配列XGAAY又は逆配列Y'TTCX'を有し、XがA、T、G及びCからなる群より選ばれ、少なくとも1つのコンセンサス配列の当該3つのペンタマー単位の少なくとも1つ、好ましくは2つ、更に好ましくは3つ全てのYは、A、T及びCからなる群より選ばれ、当該少なくとも1つのコンセンサス配列の残りのペンタマー単位のYは、A、T、G及びCからなる群より選ばれ、それによって、当該DNAストレッチは6つ超のコンセンサス配列を含む場合には、全てのペンタマー単位のYはA、T、G及びCからなるより選ばれる、こと特徴とする。このDNAストレッチは、低バックグラウンド活性、高誘導性及び組織特異的発現の欠損を有する発現誘導において最適であることが明らかになった。
【0049】
逆配列「X'」は、非-逆ペンタマー単位の「X」に相補的である塩基に関する。これは、「X'」が、A、T、G及びCからなる群より選ばれることを意味する。従って、非-逆ペンタマー単位の「Y」に相補的である「Y'」は、少なくとも1つのコンセンサス配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、更に好ましくは全てのペンタマー単位について、T、A及びGからなる群より選ばれ、それによって、残りのペンタマー単位の「Y'」は、A、T、G及びCからなる群より選ばれる。そのため、DNAストレッチにおいて、少なくとも1つのペンタマー単位は、逆又は非-逆配列であり、A、T、及びCから選ばれるYであるか、又はA、T及びGから選ばれるY'のいずれかを含む。DNAストレッチが少数のコンセンサス配列、例えば2又は6つのコンセンサス配列を含む場合には、コンセンサス配列はYがGでないか又はY'がCでない場合である最適な誘導能を示す、ことが明らかになっている。しかしながら、DNAストレッチが多数のコンセンサス配列、例えば6つ超のコンセンサス配列を含む場合、多数のコンセンサス配列は優れた性質を有するタンパク質発現誘導を引き起こすので、Y又はY'は、A、T、G及びCからなる群より選ぶことができる。言い換えれば:DNAストレッチにおけるコンセンサス配列の数が小さくなればなるほど、YがGでなくかつY'がCでない場合である最適なペンタマー単位を提供することが重要になる。
【0050】
1つのコンセンサス配列は、非-逆ペンタマー単位XGAAYのみか、又は逆ペンタマー単位Y'TTCX'のみを含む可能性がある。しかしながら、1つのコンセンサス配列は、2つの非-逆ペンタマー単位及び1つの逆ペンタマー単位、又は1つの非-逆ペンタマー単位及び2つの逆ペンタマー単位を含む可能性もある。1つのコンセンサス配列は、X/X'及びY/Y'に関する同一のペンタマー単位を含むことがある。しかしながら、1つのコンセンサス配列では、2又は3つ全てのペンタマー単位は、X/X'及びY/Y'において変化し得る。
【0051】
前記DNAストレッチは、同一のコンセンサス配列又は非-同一コンセンサス配列を更に含むことがあり、あるいはDNAストレッチに3以上のコンセンサス配列がある場合には、2以上のコンセンサス配列は同一であり、かつ残りのコンセンサス配列は相違し得る。X及び/又はY (Y'及び/又はX')の選択について、あるいは非-逆配列及び逆配列又はその両方の存在について、相違し得る。
【0052】
好ましいDNAストレッチは、少なくとも2つのコンセンサス配列を含むべきである。しかしながら、DNAストレッチは、10超、20超、30超、40超又は50超のコンセンサス配列を含むことがある。更に、DNAストレッチは、特異的もしくは非-特異的配列、又は追加のペンタマー単位でもよい、追加の配列、配列断片又は単一核酸を含むことがある。例えば、DNAストレッチは、2つのコンセンサス配列及び追加の1又は2つのペンタマー単位を含むことがある。
【0053】
好ましくは、DNAストレッチは、4〜24、好ましくは7〜16、更に好ましくは8つのコンセンサス配列を含む。一方では、DNAストレッチは、強力な誘導性を示すために充分な数のコンセンサス配列を含み、他方では、DNAストレッチは、組換え体及びその他のように反対の活性を示す程長くないので、これらのコンセンサス配列の数は最適であることが明らかになった。
【0054】
有利なことに、コンセンサス配列は、2〜10 bp、好ましくは代わりに3〜6 bpにより分断される。コンセンサス配列が互いに直接的に連結されない時には、各々の要素、例えば熱ショック因子は、最適な方法で結合する、ことが見出された。これらの短いスペーサー配列は、各コンセンサス配列に対する特異的結合及び当該コンセンサス配列に対する各要素の活性化を可能にする。
【0055】
好ましい実施態様によれば、少なくとも1つの中央のペンタマー単位、好ましくは、各コンセンサス配列は、外側のペンタマー単位に対する逆配列、好ましくは配列Y'TTCX'である。このことは、2つの外側配列が逆配列であるか又は非-逆配列であるかにより、中央のペンタマー単位が非-逆配列か又は逆配列でよい、ことを意味している。代わりに非-逆配列及び逆配列を提供することによって、各々の要素は強力に結合し、高い誘導性を示し、それによって、少なくとも1つ、好ましくは各コンセンサス配列がXGAAY Y 'TTCX' XGAAYである時に最適である、ことが明らかになっている。
【0056】
有利には、Xは、C又はG、更に好ましくはAである。XがC又はGである場合には、各々の要素は、優れた結合特性及び活性化特性を示すが、これは、XがAである場合にはより高い結合特性及び活性化特性を示す。従って、X'は、好ましくはG又はCであり、更に好ましくはTである。これは、全DNAストレッチの少なくとも1つのX、好ましくはDNAストレッチの数個のX、更に好ましくはDNAストレッチの全てのXに当てはまる。必ずAを含むペンタマー単位を含むDNAストレッチは、そのため、理想的な性質を示す。
【0057】
更に有利なDNAストレッチにおいて、YはCである。従って、逆配列についてY'は好ましくはGである。Xについて上に述べたように、これは、全DNAストレッチの少なくとも1つのY、好ましくはDNAストレッチの数個のY、更に好ましくはDNAストレッチの全てのYに当てはまる。従って、全てのYがCであるDNAストレッチは、最適の誘導性を示す。
【0058】
有利には、そのため、少なくとも1つ、好ましくは全てのコンセンサス配列は、AGAAC GTTCT AGAACである。既に上で述べたように、DNAストレッチが6つ未満のコンセンサス配列を含む場合には、全てのコンセンサス配列が上で特定されたものであることが好ましい。DNAストレッチが6つ超のコンセンサス配列を示す場合には、1以上のペンタマー単位は、同様に高い能力を持って、XもしくはY、又は各X'もしくはY'の上記の変化を示す可能性がある。
【0059】
本発明の別の局面は、本発明に従う少なくとも1つのカプセルを含むインプラントに関する。
【0060】
本発明に従うカプセルは、例えば細胞療法で使用することができるインプラントの製造に使用することができる。カプセル内の細胞によって産生されたタンパク質、ペプチド、機能性核酸又はウイルス粒子(例えば、米国特許第6,776,985号明細書)を、インプラントの外壁を通過させるために、インプラントは、好適な孔サイズの浸透性材料を含むことができる。カプセル化された細胞からなるインプラントは、当業者に知られており、いくつかの疾患の治療に既に採用されている(例えば、Chang T. M., Ann NY Acad Sci (1999), 875: 71-83参照)。
【0061】
「少なくとも1つのカプセル」は、インプラント自体が本発明に従うカプセルでよい、という事実を意味する。従って、インプラントが1つのカプセルのみを含む場合には、当該カプセルはインプラントを意図する。
【0062】
本発明に従うインプラントはまた、様々な疾患を治療するために使用することができる。有利には、これらのインプラント細胞は、インプラント内で温度又は細胞ストレスを変えることにより、その発現装置が簡単に制御できる細胞を含む。当該変更は、当該インプラント中に存在する熱放出剤に熱を放出させる電磁波又は磁場に、当該インプラントを曝露することにより制御することができる。このようなインプラントは、インプラントを電磁波又は磁場曝露することのみによって、患者に治療剤の放出を自力で制御させることができるいくつかの適用分野において多くの利点を有する。例えば、熱に曝露される時、インスリンを産生、インスリンを組織又は血流に分泌させることができる細胞を含むインプラントは、糖尿病に罹患した患者のために使用することができる(血中のインスリン濃度を測定し、次いで特定の強度の磁場又は電磁波を生じさせる装置)。
【0063】
本発明の別の局面は、以下:
−タンパク質、ペプチド又は機能性核酸をコードする核酸に作動可能に連結可能な熱誘導性プロモーターを、含むベクター又は核酸分子;
−上で定義された少なくとも1つの熱放出剤;及び
−場合により、上で定義されたカプセル又はインプラントを製造するために使用することができる、タンパク質又はペプチドを発現することができる、又は熱誘導性プロモーターの制御下で機能性核酸分子を転写することができる、細胞、
を含むキットに関する。
【0064】
タンパク質、ペプチド、機能性核酸又はウイルス粒子をコードする核酸断片は、キットのベクター又は核酸分子に遺伝子工学的に導入することができる。その後で得られた構築体は、タンパク質(例えば、ウイルス粒子、抗体)又はペプチドを発現することができ、又は熱誘導性プロモーターの制御下で機能性核酸分子(例えば、siRNA、ウイルス粒子)を転写することができる、細胞に形質導入することができる。当該構築体は、キットの一部でよい。次いで、その染色体中に集積又は非-集積された外因性核酸構造を有する細胞は、キットの少なくとも1つの熱放出剤と共にカプセル化することができる。
【0065】
本発明の別の局面は、上で定義された少なくとも1つのカプセルを含む医薬又は医薬組成物に関する。
【0066】
本発明に従う医薬及び医薬組成物は、肺内、粘膜的、経口的、静脈内、皮下又は筋肉内投与用に製造することができる。このことは、ヒト又は動物の体の中の所望の部位にカプセルを送達することができる。当該部位では、カプセルは、カプセル内の熱の発生を誘導し、よって熱誘導性プロモーターを活性化するために、電磁波又は磁場で処置することができる。そのため、医薬組成物は好ましくは、例えば、内臓又は胃を冒す疾患を治療するために使用することができる。
【0067】
本発明の別の局面は、本発明に従うカプセル又はインプラントの製造方法であって、以下のステップ:
−本発明の熱誘導性プロモーターの制御下に、タンパク質、ペプチド又は機能性核酸を組換え的に産生することができる細胞を提供し;
−タンパク質、ペプチド又は機能性核酸をコードする核酸に作動可能に連結された上で定義された熱誘導性プロモーターを含む核酸分子を導入し;及び
−隔膜中に、上で定義された熱放出剤と共に前記細胞をカプセル化すること、
を含む、前記方法に関する。
【0068】
本発明は、以下の実施例により更に説明されるが、当該実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
実施例1:
8つの理想化熱ショック要素(HSE)及びミニマル・プロモーターを含む、人工感熱性プロモーター(Bajoghli B.ら, Dev Biol. (2004) 271: 416-30; オーストリア特許出願A 674/2004号)を用い、マーカー遺伝子Gfpを駆動する構築体を生成した。HSEの完全な対称性に因り、別のマーカー遺伝子、ホタルリシフェラーゼ、を活性化するために反対方向でこのプロモーターの上流に使用した。一時的細胞培養実験において、この構築体は、感熱的方法で両マーカー遺伝子を双方向に活性化する(Bajoghli B.ら, Dev Biol. (2004) 271: 416-30)。ヒトHeLa細胞を、PEI (ポリエチレンイミン) を用いて一時的に形質転換し、次いで、以下のプロトコールに従ってカプセル化した(Lohrら, (1998) Gene Ther 5: 1070-78)。
【0070】
1x1O7細胞を、4%リン酸セルロース及び5% FCSを含む1 ml PBSに懸濁した。イノテック社のエンカプスレータ(Dottikon、スイス)を用いて、200〜500 μmのカプセルが形成される3%ポリジアリルジメチルアンモニウムのPBS溶液を含む沈殿浴中に、規定の方法で、懸濁液を滴下した。カプセルを培地で2回洗浄し、次いで組織培養に入れた。
【0071】
細胞培養培地中でインキュベートされたカプセル化細胞は、次いで、43℃の温度に2時間供し、次いで、通常の培養条件(37℃)に戻した。翌日、蛍光顕微鏡下でカプセル化細胞をGfp-活性について分析し、照度計を用いるアッセイでルシフェラーゼ活性を測定した。2つのマーカー遺伝子は熱処理後に強く活性化された、一方、非処理細胞では活性が観察されなかった。この効果は、並行して維持された非-カプセル化細胞に匹敵し、よってこの効果は、カプセル化が、人工HSEプロモーター構築体の活性化に影響を与えないことを証明した。
【0072】
より再現性のある結果は、安定に集積されたレポーター構築体から得られる。よって、HeLa細胞を、プロモーター構築体及びピューロマイシン耐性プラスミドで共-形質転換した。2週間、ピューロマイシンで処理した後、Gfp陽性(熱処理後)細胞クローンを選択した。次いで、最も低いバックグランド活性を有するクローンをカプセル化に使用した。熱活性化後に、全ての細胞は、一時的に形質転換された細胞に匹敵する効果を一様に示した。
【0073】
実施例2:
温熱療法のための条件を確立するために、振動磁場の強度の増加を、磁性粒子でカプセル化された細胞に供した。この目的のために、10 μmの平均粒径の10 mg/マグネタイト(Fe3O4)磁性粒子を、カプセル化の前に1 ml細胞懸濁液と混合した。振動磁場の発生のために、0〜30 kA/mの磁場強度で118 kHzにおいて、長さ7 cm及び径7 cmのコイルを活性化した。細胞培養培地中でカプセル化された細胞を、1時間、磁場の強度を変化させながら処理した。その後、メチレンブルーを用いて、細胞死の発生について細胞を分析した。43℃を超える温度は、(使用される細胞の種類に依拠して)細胞死の増加を招くことがあるため、この実験は、臨界の標準的な磁場強度を大まかに決定するために使用したが、細胞死の量はカプセル内の温度を反映すると想定される。
【0074】
実施例3:
別の実験では、カプセル化のために安定なHeLa細胞株を使用し、先の実験の結果に従って活性化した。実際に、マーカー遺伝子活性の高活性が観察され、強い強度で細胞死の増加により妨げられた。加えた磁性粒子と粒子を含まない陰性対照の量を変化させながら、この実験を数回反復した。総じて、これらの実験は、感熱性プロモーターが振動磁場において磁性粒子によりカプセル内で活性化することができる、ことを明確に証明した。加えた磁性粒子の量は、直接、最大のプロモーター活性を得るために必要な磁場強度に影響を与えた。最も重要なことは、カプセル化に適用される規定の反応条件に関して、レポーター構築体は、同一の磁場強度で再現性良く活性化された。
【0075】
実施例4:
最後に、通常のHeLa細胞を含むカプセル又は安定なHSEレポーター細胞を含むカプセルのいずれかを用いて混合実験を行った。1種類のカプセルにのみ磁性粒子を加えた。混合物では、先に確立した磁場により様々なカプセルを活性化した。粒子がレポーター細胞株を含むカプセル中に存在する場合には、マーカー遺伝子活性化が期待通りに起こった。通常の細胞を含むカプセルを加熱処理した反対の場合には、隣接するカプセル中に存在するレポーター構築体については全く活性化が観察されなかった。このことは、磁性粒子を含むカプセル内での局部的な温度上昇は、細胞培養培地のバルク温度を介して隣接するカプセルにほとんど影響を与えない、ことを証明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質、ペプチド又は機能性核酸分子をコードする核酸に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを有する組換え核酸分子を含む少なくとも1つの細胞と、電磁放射線又は磁場に曝露された時に熱を放出することができる少なくとも1つの熱放出剤とを含む、浸透性カプセル。
【請求項2】
前記電磁放射線が、電波、電磁波又は赤外線であることを特徴とする、請求項1記載のカプセル。
【請求項3】
前記熱放出剤が、少なくとも1つの粒子を含むことを特徴とする、請求項1又は2記載のカプセル。
【請求項4】
前記粒子が、金属を含むことを特徴とする、請求項3記載のカプセル。
【請求項5】
前記粒子が磁性、好ましくは強磁性、常磁性又は超常磁性であることを特徴とする、請求項3又は4記載のカプセル。
【請求項6】
前記粒子が、1 nm〜100 μm、好ましくは2 nm〜50 μm、より好ましくは5 nm〜20 μmの粒径であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項7】
前記細胞が、真核細胞又は原核細胞であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項8】
少なくとも1つの細胞が、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞又は動物細胞であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項9】
前記熱誘導性プロモーターが、hsp70、hsp20-30、hsp27、hsp40、hsp60、hsp90及びそれらの組合せからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項10】
前記熱誘導性プロモーターが、ハイブリッド又はキメラ型の熱誘導性プロモーターであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項11】
前記ハイブリッド又はキメラ型の熱誘導性プロモーターが、ミニマル・プロモーター、及び熱誘導性プロモーターの少なくとも1つの制御要素を含むことを特徴とする、請求項10記載のカプセル。
【請求項12】
前記熱誘導性プロモーターが、少なくとも2つのコンセンサス配列を含み、各コンセンサス配列が3つのペンタマー単位からなり、当該ペンタマー単位が配列XGAAY又は逆配列Y'TTCX'を有し、ここでXは、A、T、G及びGからなる群より選ばれ、少なくとも1つのコンセンサス配列の当該3つのペンタマー単位の内の少なくとも1つ、好ましくは2つ、更に好ましくは3つ全てのYは、A、T及びCからなる群より選ばれ、当該少なくとも1つのコンセンサス配列の残りのペンタマー単位のYは、A、T、G及びCからなる群より選ばれ、それにより、当該DNA分子が6つ超のコンセンサス配列を含む場合には、全てのペンタマー単位のYは、A、T、G及びCからなる群より選ばれる、ことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項13】
前記プロモーターが、4〜24、好ましくは7〜16、更に好ましくは8つのコンセンサス配列を含むことを特徴とする、請求項12記載のカプセル。
【請求項14】
前記コンセンサス配列が、2〜10 bp、好ましくは代わりに3 bp及び6 bpにより分断されることを特徴とする、請求項12又は13記載のカプセル。
【請求項15】
前記の少なくとも1つ、好ましくは各コンセンサス配列の中央のペンタマー単位が、外側のペンタマー単位に対する逆配列、好ましくは配列Y'TTCX'であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項16】
XがC又はG、更に好ましくはAであることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項17】
YがCであることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項18】
少なくとも1つ、好ましくは全てのコンセンサス配列が、AGAAC GTTCT AGAACであることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項記載のカプセル。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項記載の少なくとも1つのカプセルを含むインプラント。
【請求項20】
−タンパク質、ペプチド又は機能性核酸をコードする核酸に作動可能に連結された熱誘導性プロモーターを含む、ベクター又は核酸分子;
−請求項1〜6のいずれか1項記載の少なくとも1つの熱放出剤;及び
−場合により、熱誘導性プロモーターの制御下に、タンパク質もしくはペプチドを発現し、又は機能性核酸分子を転写することができる細胞、
を含むキット。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか1項記載の少なくとも1つのカプセルを含む、医薬又は医薬組成物。
【請求項22】
請求項1〜18のいずれか1項記載のカプセル又は請求項19記載のインプラントの製造方法であって、以下のステップ:
−熱誘導性プロモーターの制御下に、タンパク質、ペプチド又は機能性核酸を組換え的に産生することができる細胞を提供し;
−タンパク質、ペプチド又は機能性核酸をコードする核酸に作動可能に連結された請求項9〜18のいずれか1項記載の熱誘導性プロモーターを含む核酸分子を導入し;及び
−隔膜中に、請求項1〜6のいずれか1項記載の熱放出剤と共に当該細胞をカプセル化すること、
を含む、前記方法。

【公表番号】特表2008−540347(P2008−540347A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509265(P2008−509265)
【出願日】平成18年5月3日(2006.5.3)
【国際出願番号】PCT/AT2006/000183
【国際公開番号】WO2006/116789
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507364333)フェテリネールメディツィニシュ ウニベルジテート ウィーン (1)
【Fターム(参考)】