説明

消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進剤

【課題】抗菌ペプチドディフェンシンの発現誘導或いは産生を促進する作用を有する成分を探索し、それを有効成分として含有する抗菌ペプチドディフェンシンの発現誘導或いは産生を促進する作用を有する医薬品及び飲食品を提供する。
【解決手段】酵母由来のマンナン含有成分を有効成分とする、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進剤。マンナン含有成分はマンノース含有量が60質量%以上であることが好ましい。抗菌ペプチドとして、αディフェンシンまたはβディフェンシンの発現誘導または産生促進に用いられる。この促進剤を含有する医薬品または飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母由来のマンナン含有成分を有効成分として含有する抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進剤、およびこれを含有する医薬品または飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌ペプチドは、細胞膜を通過することによって細菌、真菌、ウィルス等の微生物を殺すことができる10〜50アミノ酸残基からなる小分子である。抗菌ペプチドは1981年に節足類において発見されて以来、植物、昆虫、哺乳類などの高等生物で約500分子が同定されている。
【0003】
動物においては、ショウジョウバエ、ウシ好中球、白血球、ブタ小腸、カエル、サソリ、ハチ、クモ等で発見されている。植物においては、アブラナ科、イネ科等で幅広く見出され、種子や栄養組織を細菌から保護する役割を担っているとされている。これらの抗菌ペプチドの大きさ及び構造はかなり多様であるが、一般的に中性pHで正電荷を有する膜活性両親媒性分子である(Zalsoff M, Antimicrobial peptide s of multicellular organisms. Nature 2002; 415; 389-395)。大多数の抗菌性ペプチドは、動物の上皮組織で発見され、最初の免疫障壁として、生体防御の上で重要な役割を果たしている。またヒトの胃腸や消化器系、皮膚、粘膜やマウスの皮膚や胃腸でも発見されている。
【0004】
このような抗菌ペプチドの一種であるディフェンシン類は、3ヵ所の分子内シスルフィド結合を構成する6個のシステインを有する共通の構造を有する。ディフェンシンには大きく分けて2種類のディフェンシン、α−ディフェンシン(好中球や小腸陰窩のパネート細胞に存在)とβ−ディフェンシン(α−ディフェンシンより長く、粘膜や皮膚、気管等の上皮細胞に存在)に分けられる。
【0005】
この中でも小腸陰窩パネート細胞から分泌されるα−ディフェンシン(クリプトジン)は、極めて強い殺菌能力を有するため、細菌やウィルス等に殺菌作用を働きかける事によって、腸管免疫に重要な役割を果たし、宿主の細菌またはウィルスに対する感染防御機能を発揮することができる。
【0006】
このため、腸管上皮のパネート細胞から、抗菌ペプチドの産生や分泌を促進する機能を有する安全性の高い毒性のない物資があれば、生体の免疫賦活活性を上げ、細菌やウィルス感染に起因する疾患に対する有効な治療薬に成り得ると考えられる。
【0007】
また皮膚や気管、肺、粘膜等に誘導的に発現するβ−ディフェンシンに関しても、外界に直接接する部位での生体防御や免疫機能を発揮する上で重要な役割を担っており、これらのディフェンシンの発現を促進する物質もまた、抗菌剤やウィルスに起因する疾患に対する治療剤として有効であると考えられる。
【0008】
このようなディフェンシンの発現誘導及び増強に関して以下の例が知られている。
(1)酵母由来多糖類含有組成物及びその製造方法(特開2003−197号公報(特許文献1)、β−グルカンを多く含む酵母由来含有組成物によるディフェンシン遺伝子の発現誘導をヒト表皮角化細胞で評価)、
(2)ほ乳類抗菌ペプチドの発現誘導及び/または増強組成物、該組成物を含有する飲食品、医薬品及び医薬部外品(特開2003−262号公報(特許文献2)、酵母由来不溶性画分による抗菌ペプチドディフェンシン遺伝子の発現誘導をヒト表皮角化細胞で評価)。
いずれの例においても、酵母を酵素で分解して得られた不溶性成分を有効成分として記載している。
【0009】
ところで、酵母菌は、酵素で分解して得られた不溶性成分(細胞壁)と可溶性成分である酵母エキスに分類できる。さらに、細胞壁は、グルカン、マンナンおよびキチンといった多糖類が主成分であり、細胞壁をアルカリで溶解すると、不溶性成分(多糖類)と可溶性成分(多糖類)に分類できる。アルカリ不溶性成分は主に不溶性グルカンであり、アルカリ可溶性成分には、マンナンと可溶性グルカンと変性タンパク質が含まれる。
【0010】
酵母の細胞壁およびアルカリ可溶性成分(多糖類)であるマンナンは、食用動物のサルモネラ菌等への感染予防効果があることが知られている。例を以下に示す。
(1)感染症防止用飼料組成物(特開2001−8636号公報(特許文献3)、ベタイン及びビール酵母細胞壁乾燥物による感染症防止)、
(2)サルモネラ菌による汚染防止のための飼料(特開2000−116338号公報(特許文献4)、マンノース及びガラクトースを有するサルモネラ菌の定着阻止)、
(3)微生物由来のマンナンを含む家畜および家禽用飼料(特開平9−84529号公報(特許文献5)、微生物由来マンナンおよび酵母細胞壁によるグラム陰性細菌排出効果)、
(4)マンノース系多糖体含有飼料(特開平8−173055号公報(特許文献6)、マンノース系多糖体配合飼料によるサルモネラ汚染防止)、
(5)有害細菌の感染を予防する飼料(特開平8−38064号公報(特許文献7)、マンノース類等による有害細菌感染予防)
【0011】
さらに、酵母細胞壁のアルカリ可溶性成分(多糖類)であるマンナンは、アレルギー体質改善効果(特開2004−224772号公報(特許文献8))があることが知られている。さらに、酵母細胞壁のアルカリ不溶性成分および可溶性成分には、ともに消化管免疫賦活効果(特開2004−107281号公報(特許文献9))があることも知られている。
【特許文献1】特開2003−197号公報
【特許文献2】特開2003−262号公報
【特許文献3】特開2001−8636号公報
【特許文献4】特開2000−116338号公報
【特許文献5】特開平9−84529号公報
【特許文献6】特開平8−173055号公報
【特許文献7】特開平8−38064号公報
【特許文献8】特開2004−224772号公報
【特許文献9】特開2004−107281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1および2は、酵母を酵素で分解して得られた不溶性成分の中でもβ−グルカンをディフェンシン発現の誘導および増強のための有効成分として記載している。しかし、酵母細胞壁の不溶性成分には、苦味や独特のにおいが感じられ、着色している場合もあり、また水溶性が低く、水中の分散性が悪いなどの性質がある。そのため、そのままでは経口投与が難しく、飲食品への応用にも制限がある。尚、特許文献1および2においては、ディフェンシン遺伝子の発現はin vitro の培養細胞系でのみ行なっており、実際のヒトの形に近いマウス動物実験での評価は為されていない。
【0013】
特許文献3〜7は、酵母の細胞壁およびマンナンに、食用動物のサルモネラ菌等への感染予防効果があることを開示するのみで、ディフェンシンを含む抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進については言及されていない。
【0014】
特許文献8は、マンナンのアレルギー体質改善効果について記載するのみで抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進については言及されていない。また、特許文献9は、ビール酵母の細胞壁および不溶性成分および可溶性成分に腸内IgA産生増強効果があることが記載されているが、抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進については言及されていない。
【0015】
毒性のない安全な天然由来素材から、上記のような抗菌ペプチドディフェンシンの発現誘導或いは産生を促進する作用を有する成分を見出すことができれば、生体の免疫賦活能を高め、細菌やウィルスによる感染症やエイズ発症抑制作用を予防できる医薬品や飲食品の開発が可能になると考えられる。上記のように、特許文献1および2は、酵母を酵素で分解して得られた不溶性成分であるβ−グルカンに抗菌ペプチドディフェンシンの発現誘導および増強作用があることを開示するが、不溶性成分であるβ−グルカンには、前述のような問題もある。
【0016】
そこで、本発明は、抗菌ペプチドディフェンシンの発現誘導或いは産生を促進する作用を有する成分を探索し、それを有効成分として含有する抗菌ペプチドディフェンシンの発現誘導或いは産生を促進する作用を有する医薬品及び飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記特許文献以外にも、これまでに食品素材の免疫賦活作用に関する報告は数多くなされている。酵母細胞壁画分から生成したマンナンについても、免疫改善作用が見出されている(特許文献9)。しかるに、この免疫改善作用の詳細なメカニズムは明らかにはなっていないし、抗体等が関与する獲得免疫(または適応免疫)についての知見があるだけで、ディフェンシンが関与する早期免疫については、特許文献9には、何ら言及されていない。本発明者らは、酵母由来のマンナン含有成分が腸管免疫に重要な役割を担う消化管に対して、抗菌ペプチドであるディフェンシンの発現誘導及び産生を促進する機能を見出して、本発明を完成した。
【0018】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[請求項1]酵母由来のマンナン含有成分を有効成分とする、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進剤。
[請求項2]前記マンナン含有成分はマンノース含有量が60質量%以上である請求項1に記載の促進剤。
[請求項3]前記マンナン含有成分は、酵母の菌体あるいは培養液より得られる請求項1または2に記載の促進剤。
[請求項4]前記酵母がビール醸造用酵母である請求項1〜3のいずれか1項に記載の促進剤。
[請求項5]前記促進剤は水溶性であり、かつ前記促進剤の水溶液は低粘性である請求項1〜4のいずれか1項に記載の促進剤。
[請求項6]液体状であり、100mLあたりマンノースを100mg〜2g含有することを特徴とする請求項5の促進剤。
[請求項7]前記抗菌ペプチドとして、αディフェンシンまたはβディフェンシンの発現誘導または産生促進に用いられる請求項1記載の促進剤。
[請求項8]免疫賦活作用、感染症予防作用および/またはエイズ発症抑制作用を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の促進剤。
[請求項9]請求項1〜8のいずれか1項に促進剤を含有する医薬品または飲食品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、抗菌ペプチドとして、αディフェンシンまたはβディフェンシンの発現誘導または産生促進に有効な物質を提供することができ、これにより、免疫賦活作用、感染症予防作用および/またはエイズ発症抑制作用を有することが期待される。更にこの物質を、医薬品や飲食品の材料として容易に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、酵母由来のマンナン含有成分を有効成分とする、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進剤(以下、単に本発明の促進剤と言うことがある)に関する。
【0021】
本発明の促進剤は、酵母由来のマンナン含有成分を有効成分とするものであり、酵母由来のマンナン含有成分は、マンノース含有量が60質量%以上であることが、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進効果が高いという観点で好ましい。酵母細胞壁には、約10〜30%のマンナンが含有され、マンノース含有量としては、約5〜25質量%程度である。本発明者らの検討によれば、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進効果は、単にマンナン含有物質を使用すれば得られるものではなく、マンノース含有量が一定以上(マンノース含有量が60質量%以上)である、酵母由来のマンナン含有成分を用いる場合に、特異的に強く得られることを見いだした。このような観点から、酵母由来のマンナン含有成分のマンノース含有量は、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上である。
【0022】
マンナンの構造や成分は、由来によって異なることが知られており、本発明は、酵母由来のマンナン含有成分において、マンノース含有量が60質量%以上であることが、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進効果が高い、という知見に基づいている。
【0023】
本発明の促進剤は、上記のように、酵母由来のマンナン含有成分が有する生理機能の利用をするものである。本発明の促進剤の出発物質としては、酵母細胞壁を含むものであればいずれのものも使用することができ、例えば、酵母の菌体あるいは培養液を出発物質として得られるものであることができる。より具体的には、酵母の菌体、菌体と比較してマンナンを濃縮した酵母菌体の抽出物、あるいは酵母菌体から遊離もしくは酵母から分泌されたマンナンを含む酵母の培養上清のいずれを使用しても良い。酵母の菌体は生菌であるか死菌であるかを問わないが、乾燥状態での分析において、マンナンの含有量が5%(w/w)以上であるものを原料として用いることが、マンノース含有量の高いマンナン含有成分が得られるという観点から望ましい。酵母としては、例えば、サッカロミセス属のビール酵母やパン酵母が知られている。また、酵母の菌体抽出物や培養上清については、乾燥状態での分析において、マンナンの含有量が25%(w/w)以上であるものを、原料として用いることが望ましい。
【0024】
抽出物についての説明
本発明の促進剤の原料として用いる菌体抽出物を調製する場合には、好ましくはサッカロミセス属の酵母菌体を原料として使用し、生菌か死菌か、水分を含んでいるか乾燥されているかは問わない。またマンナン濃縮の目的以外に調製された酵母エキスや、酵母エキス製造時に不溶性残渣として得られる酵母細胞壁からさらにマンナンを抽出しても良い。この場合、酵母エキスや細胞壁には市販品を用いても構わない。サッカロミセス属の代表的な酵母としてパン酵母やビール酵母があげられるが、使用する酵母はこれらに限定しない。
【0025】
サッカロミセス酵母の菌体からマンナンを抽出あるいは濃縮して、上記菌体抽出物を調製するには、例えば、水または有機溶媒等が用いられ、これらを混合したものを用いても差し支えない。好ましい抽出溶媒は酸性あるいはアルカリ性の水である。抽出は、室温抽出、加熱抽出さらには加圧抽出(オートクレーブ等の処理)等にて行われる。一般的には室温〜121℃で行われる。抽出処理後、遠心分離等により固形分と液体を分離して液体部のみを得る。この溶液から塩類を始めとする不要な低分子成分を除くため、膜処理により低分子画分を除いたり、エタノール等を添加して可溶性糖質を沈殿させ、回収しても良い。得られたマンナン含有抽出物の溶液は、必要に応じて減圧濃縮等で濃縮するか、さらに、真空乾燥、凍結乾燥等により粉末化することもできる。粉末化に際して、適当な賦形剤を加えても差し支えない。またエタノール添加等により沈殿させた場合には、含水エタノール等で沈殿を洗浄し、そのまま乾燥・粉末化するか、エタノール等を除去して溶液状態にしても良い。以上の方法により抽出後、膜処理やエタノール沈殿により得られたマンナン含有抽出物は、マンノースまたはその重合体の含有量が60質量%以上である。
【0026】
酵母菌体から水溶性多糖類を抽出する熱水処理の方法は、例えば、酵母菌体及び酵母自己消化不溶性物を高温で熱水抽出する方法であることができる。抽出溶媒としては、例えば、水あるいはリン酸緩衝液(pH6.0〜8.0)など挙げられる。抽出は常圧、または好ましくは2〜5気圧の加圧下で行うことができる。加熱温度とその時間は抽出方法により異なるが、好適条件として90〜100℃、10〜20時間行うことが適当である。抽出液からマンナンを分離する方法としては、例えば、抽出液を固液分離し、得られた上清を限外濾過する方法を採用することができる。限外濾過膜には、分子量画分5000〜30000程度の濾過膜を使用するのが好ましい。次に、濾過膜を通過しなかった不透液を低温(例えば冷蔵庫内温度)で24時間静置して生じる微量な冷凝固物を除去後、不透過液を乾燥することにより、白色の酵母マンナン含有抽出物を含む粉末が得られる。また、別法として、固液分離後、得られた上清を濾過し、濾液を減圧濃縮し、低温下で放置後、冷凝固物を濾過にて除去し、その濾液をエタノールに加え、得られた沈殿物を乾燥することにより酵母マンナン含有抽出物の粉末を得ることができる。
【0027】
このようにして得られた酵母由来のマンナン含有物(粉末)(本発明の促進剤)は、マンノースもしくはその重合体の含有量が60質量%以上である。さらに、酵母由来のマンナン含有物(粉末)は、コンニャク由来のマンナンに比べて、水溶性に優れ、かつ酵母由来のマンナン含有物(粉末)の水溶液の粘性は、コンニャク由来のマンナンに比べて低い。即ち、酵母由来のマンナン含有物(粉末)は、例えば、室温の蒸留水100mLに対し少なくとも15g溶解できる程の水溶性を有する。また、酵母由来のマンナン含有物(粉末)の水溶液の粘性は、25℃で蒸留水に溶解し10%溶液としたときの粘度が音叉型粘度計で6.0cps以下である。
【0028】
本発明の促進剤は、液体状であることもでき、その場合、100mLあたりマンノースを100mg〜2g含有することができる。
【0029】
本発明の促進剤は、抗菌ペプチドとして、αディフェンシンまたはβディフェンシンの発現誘導または産生促進に用いられ、これにより、免疫賦活作用、感染症予防作用および/またはエイズ発症抑制作用を有することが期待される。何れの場合も、本発明の促進剤の投与により、生体内、特に腸管内でのαディフェンシンまたはβディフェンシンの発現誘導または産生が促進され、その結果、免疫賦活作用、感染症予防作用および/またはエイズ発症抑制作用が得られる。免疫改善作用の詳細なメカニズムは明らかではないが、本発明における免疫賦活作用については、前述のように、抗体等が関与する獲得免疫(または適応免疫)によるものではなく、ディフェンシンが関与する早期免疫によるものであると考えられる。
【0030】
本発明は、本発明の促進剤を含有する医薬品または飲食品に関する。
本発明の促進剤は、経口の製品として医薬品として用いることができ、また食品素材と混合して飲食品とすることができる。性状としては固体状または液体状を呈し、医薬品としては経口剤として錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等の剤型をとることができる。
【0031】
医薬品として人体に投与するときは、1回あたり1〜500mg(乾燥重量)/kg体重の量、好ましくは2〜100mg(乾燥重量)/kg体重の量を、1日に1ないし数回経口投与することができる。
【0032】
飲食品とする場合、これと混合する食品素材は固形物(粉状、薄片状、塊状など)、半固形物(ゼリー状、水飴状など)、もしくは液状物等のいずれであっても良い。飲食品1gあたりの含有量は、1〜500mg(乾燥重量)であることが望ましい。飲食品とする場合の飲食品の例は特に限定はない。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
実施例1(サッカロミセス酵母からの酵母マンナンの調製)
1000gのビール酵母細胞壁(アサヒフード&ヘルスケア社)を蒸留水に懸濁し、水酸化ナトリウムを添加してpH11.0に調整した後、90℃で12時間煮沸した。遠心分離により上清を回収し、塩酸を添加してpH4.0に調整した。高圧滅菌の後熱凝固物等を除去し、得られた上清に水酸化ナトリウムを添加してpH5以上に調整した。凍結乾燥により15gの酵母マンナン画分を得た。硫酸加水分解・高速液体クロマトグラフ法により分析した結果、酵母マンナン画分に占めるマンノースの割合は77%(w/w)であった。
【0035】
実施例2(酵母マンナン含有抽出物の製造)
ビール酵母(サッカロミセス・セレビシェ)を自己消化して生じた水溶性の酵母エキスを自己消化物から除いた残渣をスプレードライして得られた酵母自己消化不溶物の乾燥物5.0gに、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5)100mlを加え、100℃、16時間、加熱抽出した。冷却後、遠心分離によって固液分離し、上清を限外濾過(ULTRA FILTER分子分画量20000、ADVANTEC製)した。濾過膜を通過しなかった不透過液を4℃に冷却して、例凝固物を遠心分離によって除去後、上清を凍結乾燥して、酵母マンナン含有抽出物を得た。この酵母マンナン含有抽出物のマンノース含量は84%w/w(乾燥重量)であった。
【0036】
(酵母マンナン含有抽出物の水溶性)
得られた酵母由来のマンナン含有抽出物は、水溶性が高く、室温の蒸留水100mlに対し15g以上溶解できた。
【0037】
(酵母マンナン含有抽出物の粘性)
得られた酵母由来のマンナン含有抽出物(粉末)を25℃で蒸留水に溶解し10%溶液としたときの粘度は音叉型粘度計で6.0cps以下であった。さらに、20%溶液とした場合でも、ゲル状にならず、高い水溶性を保っていた。
【0038】
比較例1
(コンニャクマンナンの水溶性)
コンニャクマンナンは、室温の蒸留水100mlに対し、1g以下しか水に溶解しなかった。
(コンニャクマンナンの粘性)
コンニャクマンナンを25℃で蒸留水に懸濁し1%溶液としたときの粘度は音叉型粘度計で103cps以上であった。
【0039】
実施例3(酵母マンナンの感染防御作用)
6週齢のBALB/c雄性マウス(日本エスエルシー社)を1群5匹から成る2試験群に分け、標準飼料CRF-1(対照群)もしくは実施例1で得た酵母マンナン画分を0.5%添加した飼料(マンナン群)を自由摂取させた。1ヵ月後解剖を行ない、肝臓・脾臓の他、消化管組織(腸間膜リンパ節・パイエル板・空腸・回腸・結腸・直腸・盲腸)を採材した。採材した組織を、ホモジナイザー等を用いて粉砕した後、RNeasy mini kit(QIAGEN)を用いて、total RNAを抽出した。total RNAからLow RNA Input Fluorescent Linear Amplification Kit(Agilent)を用いてCyanine 3-CTP或いはCyanine 5-CTPでラベル化したcRNAを作製した。作製したcRNAをMouse Oligo Microarray Kit(Agilent)に供試し、DNAマイクロアレイ法による網羅的な遺伝子発現調査を行なった。色素交換法によって対照群に対するマンナン群の各遺伝子の発現量の変動を評価した。
【0040】
各組織において、ディフェンシン関連遺伝子の発現を調査したところ、酵母マンナン摂取群は、標準飼料を摂取した対照群を1とした場合、ディフェンシン関連遺伝子の発現が1.5倍以上に上昇していることが表1のとおり見出された。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例4(錠剤、カプセル剤)
酵母マンナン画分(実施例1) 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。
【0043】
実施例5(散剤、顆粒剤)
酵母マンナン画分(実施例1) 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【0044】
実施例6(飴)
ショ糖 10.0g
水飴(75%固形分) 60.0g
水 9.5g
着色料 0.455g
香 料 0.045g
酵母マンナン画分(実施例1) 20g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。
【0045】
実施例7(ジュース)
濃縮ミカン果汁 150g
果 糖 50g
クエン酸 2g
香 料 1g
色 素 1.5g
アスコルビン酸ナトリウム 0.5g
酵母マンナン画分(実施例1) 10g
水 785g
合 計 1000g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。
【0046】
実施例8(麦茶)
麦茶 5.0g
水 2995g
合 計 3000g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って麦茶成分を抽出した後、
アスコルビン酸ナトリウム 1.8g
酵母マンナン画分(実施例1) 40g
を配合して麦茶とした。
【0047】
実施例9(クッキー)
薄力粉 32.0g
全 卵 16.0g
バター 16.0g
砂 糖 25.0g
水 10.8g
ベーキングパウダー 0.198g
酵母マンナン画分(実施例1) 0.002g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってクッキーとした。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の酵母のマンナン含有成分を含有する医薬品及び飲食品は、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導或いは産生を促進する作用を有するので、免疫賦活作用あるいは感染症予防作用あるいはエイズ発症抑制作用により、疾患の予防及び治療上有効なものであり、医薬および食品の分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母由来のマンナン含有成分を有効成分とする、消化管組織における抗菌ペプチドの発現誘導または産生促進剤。
【請求項2】
前記マンナン含有成分はマンノース含有量が60質量%以上である請求項1に記載の促進剤。
【請求項3】
前記マンナン含有成分は、酵母の菌体あるいは培養液より得られる請求項1または2に記載の促進剤。
【請求項4】
前記酵母がビール醸造用酵母である請求項1〜3のいずれか1項に記載の促進剤。
【請求項5】
前記促進剤は水溶性であり、かつ前記促進剤の水溶液は低粘性である請求項1〜4のいずれか1項に記載の促進剤。
【請求項6】
液体状であり、100mLあたりマンノースを100mg〜2g含有することを特徴とする請求項5の促進剤。
【請求項7】
前記抗菌ペプチドとして、αディフェンシンまたはβディフェンシンの発現誘導または産生促進に用いられる請求項1記載の促進剤。
【請求項8】
免疫賦活作用、感染症予防作用および/またはエイズ発症抑制作用を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の促進剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に促進剤を含有する医薬品または飲食品。

【公開番号】特開2006−241023(P2006−241023A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56333(P2005−56333)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】