説明

消耗電極式VAR用一次電極及びその製造方法

【課題】 消耗電極式VAR法によるチタンインゴットの溶製において、一次溶解における一次電極下部の一部落下による特定成分の偏在を防止する。
【解決手段】 複数個のコンパクト11を電極長手方向に配列しコンパクト同士を溶接により接合して縦長ブロック10となす。作製された複数個の縦長ブロック10を長手方向と直角な横方向に組み合わせて一次電極形状の合体ブロック40となす。縦長ブロック10の作製工程では、縦長ブロック10の組合せ工程で他の縦長ブロック10と接合するブロック内面(平坦面12)でコンパクト同士を縦溝ビード13により接合すると共に、電極外周部を形成するブロック外周部(湾曲面14)でコンパクト同士を縦溝ビード15により接合する。縦長ブロック10の組合せ工程では、隣接する縦長ブロック10,10同士を縦溝ビード41により接合して、外周部及び内部に溶接部を有する一次電極60を作製し、一次溶解に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式VAR(真空溶解)によりチタンインゴット等を溶製する際に使用される消耗電極、特に一次溶解に使用される一次電極、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンインゴットの製造方法の一つとして消耗電極式VAR法がある。この方法ではスポンジチタンからチタンインゴットが2回の溶解工程を経て製造される。その詳細は以下のとおりである。
【0003】
一次溶解に際しては、まず、スポンジチタンの破砕粒をプレス型内でコンパクトと呼ばれる成形体に押し固める。次いで、所定数のコンパクトを棒状に組み合わせ、溶接により固定して、一次電極となす。そして、製造された一次電極をモールド内に設置し、真空中において一次電極とモールド内の溶湯との間にアークを発生させて、一次電極を下から順次溶融させることにより、モールド内にチタンインゴットを溶製する。
【0004】
一次溶解インゴットが溶製されると、これを二次電極として再度モールド内に設置し、真空中において二次電極とモールド内の溶湯との間にアークを発生させて、二次電極を下から順次溶融させることにより、モールド内にチタンインゴット製品を溶製する。VARを2回行うのは、成分組成の均一化、機械的特性の均一化などのためである。
【0005】
このようなVAR法によるチタンインゴットの溶製における問題点の一つとして、インゴットの酸素量を調整するために添加する酸化物、例えばTiO2 の溶け残りや偏在がある。TiO2 は高融点であるために本質的に溶け難く、二回溶解を実施しても拡散が容易でない物質である。このため、インゴット中における溶け残りや偏在が本質的に生じやすい。この問題を解決するために、コンパクトを製造する際にスポンジチタン粒中にTiO2 などの添加物粉末を均一に混合する技術は色々開発されている(特許文献1及び特許文献2)。
【0006】
しかしながら、コンパクトを製造する際の添加物粉末の均一混合だけでは、TiO2 の溶け残りによる偏在の問題は完全に解決することはできない。なぜなら、一次溶解途中に一次電極の一部がモールド内の溶湯中に落下し、これがTiO2 の偏在を新たに招来するからである。この一次電極の部分落下によるTiO2 偏在の問題を図3(a)(b)を参照して詳しく説明する。
【0007】
図3(a)は溶解前の一次電極である。この一次電極1は1/4円弧の扇形のコンパクト2の集合体である。具体的には、そのコンパクト2を4個を一組として円形に組合せ、これを多段に重ねて断面円形の丸棒状のコンパクト集合体に組み立て、この状態でコンパクト集合体の外周面側からコンパクト同士をスポット溶接したり、コンパクト集合体の外周面の周方向複数箇所を長手方向(縦方向)にプラズマアーク等により溶融溶接し、それら複数本の縦方向の溶接ビード3A,3Bによりコンパクト同士を接合することにより、この一次電極1は製造される。換言すれば、1/4円弧の扇形のコンパクト2を厚み方向に重ねて形成した4つの断面1/4円弧の縦長ブロック4を丸棒状に組み合わせて溶接により固定したものが一次電極1である。
【0008】
一次電極1の作製の際には、その一端部にスタブと呼ばれる電極との連結部(図3では図示を省略)が同時に溶接される。また、コンパクト集合体の長手方向(縦方向)に実施される溶融溶接のうち、コンパクト同士が横方向に突き合わされる縦方向の線状突き合わせ部に実施される溶融溶接は特に縦溝溶接と呼ばれ、その溶接ビード3Aは縦溝溶接ビードと呼ばれる。縦溝溶接ビード3Aはコンパクト同士を縦方向に接合するだけでなく横方向にも接合し、全長にわたってコンパクト同士の接合に寄与するのに対し、それ以外の通常の溶接ビード3Bは縦方向でコンパクト同士が付き合わされる横方向の突き合わせ線との交差部でのみ縦方向の接合を行う。縦溝溶接ビード3Aを基本とし、これに通常の溶接ビード3Bを組み合わせることにより、一次電極1におけるコンパクト同士は強固に接合される。
【0009】
一次溶解中は、図2(b)に示すように、スタブを上にしてモールド内にセットされた一次電極1が下から順次溶解する。このとき、一次電極1においては外周部の特に溶接部に集中的に電流が流れる。すなわち、コンパクト2同士が接触するだけでは電流が流れ難く、熱伝導も少ないのに対し、溶接部では電気抵抗が小さいために電流が集中的に流れ、これが発熱を招来して溶接部が広がり、電流がより集中するようになるのである。このため、一次電極10の下端面は中心部より溶接部の存在する外周縁部の溶解が進み、外周部で外側へ向かって上方へ湾曲した逆台錐形状になる。逆台錐形状の部分4は、コンパクト連結部である外周部のスポット溶接部、或いは溶接ビード3A,3Bを失っているため、下方に脱落してモールド内の溶湯中に混入し易い。
【0010】
すなわち、縦溝溶接ビード3Aを基本とし、これに通常の溶接ビード3Bを組み合わせて、一次電極1におけるコンパクト同士を強固に接合したとしても、一次電極1の下端部ではそれらの溶接ビード3A,3Bが消失して存在しなくなるので、下端部の脱落を阻止できないのである。
【0011】
そして、一次電極1の一部が大きな塊で落下した場合、モールド内の溶湯中に多くのTiO2 が一度に投入されることになり、TiO2 が完全に溶ける前に溶湯が凝固し、インゴット内に偏在し、その偏在部分は高酸素部位となって加工での割れの原因になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−225861号公報
【特許文献2】特開2008−200695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、一次溶解における電極下部の一部落下による特定成分の偏在を効果的に防止できる消耗電極式VAR用一次電極、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明者らは消耗電極式VAR用一次電極においてコンパクト同士を結合する溶接に今一度着目した。すなわち、従来は溶接部が電極の外周部に存在し、電極下部で溶接部が消失することにより落下の原因となるが、一方で、その溶接部は電流が集中して流れ、発熱することにより自然溶接状態となって結合度が増大し、有効な連結部となる。
【0015】
問題は一次電極における溶接部の位置であるが、一次電極は1/4円弧の扇形のコンパクトを組み合わせた丸棒であったり、1/2円の半円形コンパクトを組み合わせた丸棒であったりするため、外周部を溶接する前の組合せ段階では一次電極の内部となる部分が露出し、一次電極の内部に溶接部を形成することができる。
【0016】
一次電極の内部に溶接部が形成されると、一次溶解工程では一次電極の外周部の溶接部だけでなく、内部の溶接部にも電流が集中して流れ、コンパクト同士が一次電極の内部でも強固に結合されることになる。そして、この電極内部の結合部は、本来の外周部の結合部と異なり、電極下部が逆台錐形状に溶解したとしても、消失が遅れ、特に中心部に結合部が存在する場合は最後まで残る。加えて、電極内部に溶接部が存在することにより、一次溶解時に電極内部にも電流が流れ、電極内部からの溶解が促進されることにより、電極下端面が平坦化し、外周部の溶接部の消失も遅くなる。これら両面から、一次溶解での電極下部の一部落下が効果的に阻止される。
【0017】
本発明の消耗電極式VAR用一次電極は、かかる知見を基礎として完成されたものであり、複数個のコンパクトが棒状に組み合わされて溶接接合されることにより構成された消耗電極式VAR用一次電極であって、当該電極の外周部及び内部に、コンパクト同士を電極長手方向に連結する溶接部を有している。
【0018】
コンパクト同士を電極長手方向に連結する溶接部が一次電極の外周部だけでなく内周部にも存在することにより、電極内部でもコンパクト同士が強固に結合されると共に、電極内部での通電促進による溶解促進により、電極下端面の形状も、より平坦なものに変化し、これらにより一次溶解における電極下部の一部落下が抑制される。
【0019】
典型的な一次電極は、複数個のコンパクトが電極長手方向に配列されて形成された複数個の縦長ブロックが長手方向に直角な横方向に組み合わされて構成されており、コンパクト同士を電極長手方向に連結する溶接部が、他の縦長ブロックと接合するブロック内面及び電極外周部を形成するブロック外周部にそれぞれ存在すると共に、隣接する縦長ブロック同士がブロック外周部に存在する溶接部により接合されたものである。
【0020】
また、本発明の消耗電極式VAR用一次電極の製造方法は、消耗電極式VARに使用する一次電極の製造方法であって、複数個のコンパクトを電極長手方向に配列しコンパクト同士を溶接により接合して縦長ブロックとなすブロック作製工程と、作製された複数個の縦長ブロックを長手方向と直角な横方向に組み合わせて電極形状となすブロック組合せ工程とを含んでおり、前記ブロック作製工程では、ブロック組合せ工程で他の縦長ブロックと接合するブロック内面及び電極外周部を形成するブロック外周部でコンパクト同士を溶接により接合し、前記ブロック組合せ工程では、隣接する縦長ブロック同士を溶接により接合するものである。この製造方法によると、前述した典型的な一次電極が簡単に製造される。
【0021】
コンパクト同士を連結する溶接部については、スポット溶接部でもよいが、電極長手方向の通電性などを考慮すると、少なくとも一つは、電極長手方向に連続する溶接ビードであることが望ましく、その溶接ビード本数は必要以上に工数を増加させない範囲内で多い方が望ましい。具体的には溶接部が溶接ビードの場合、電極内部の溶接ビードの本数は1〜3本が好ましい。外周部の溶接ビードについては6〜12本が好ましい。ビード本数が少ないと、コンパクト結合強度が不足すると共に、通電効率が低下する。逆にビード本数が多いと、必要以上に工数が増加し、電極作成コストが増加する。
【0022】
溶接ビードの種類については、縦方向のブロック突き合わせ線に形成する縦溝溶接ビードが望ましい。具体的には、縦方向のブロック突き合わせ線の少なくとも一つは縦溝溶接ビードとするのが望ましく、出来るだけ多くのブロック突き合わせ線を縦溝溶接ビードとするのがより望ましい。前述したとおり、通常の溶接ビードは電極の長手方向(縦方向)に隣接するブロック間のみを溶接する縦方向の連続ビードであるのに対し、縦溝溶接ビードは電極の長手方向(縦方向)に直角な横方向に隣接するコンパクト間の突き合わせ部に沿った縦方向連続ビードであり、縦方向及び横方向の両方向においてコンパクト間を溶接することができ、全ての縦方向の突き合わせ部を縦溝溶接ビードとし、これに通常の溶接ビードを組み合わせるのが特に望ましい溶接形態である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の消耗電極式VAR用一次電極及びその製造方法は、その電極の外周部だけでなく内部にも溶接部を形成することにより、電極内部での通電促進によるコンパクト結合、及び電極下端面の形状変化の両面から電極の一部落下を防止でき、その落下に起因するTiO2 などの高融点添加物の溶け残り、これによる特定成分の偏在を防止できる。また、電極横断面における溶接部の増加が可能となることにより、一次溶解での溶解電流を増加させることができ、この点からも添加物の溶け残りの防止、これによる特定成分の偏在防止を図ることができる。したがって、インゴット製品の成分組成の均一化、機械的性質の均一化にすこぶる有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の消耗電極式VAR用一次電極の製造方法の一例についてその第1工程を示す斜視図である。
【図2】本発明の消耗電極式VAR用一次電極の製造方法の一例についてその第2工程を示す斜視図である。
【図3】(a)及び(b)は従来の消耗電極式VAR用一次電極の形状及び一次溶解における溶解形状を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、チタンインゴットの製造に使用される消耗電極式VAR用一次電極が次のようにして製造される。
【0026】
第1工程では、図1に示すように、スポンジチタン粒などの不定形チタン粒を材料として予め作製された1/4円の扇形コンパクト11が2個を一組として多段に重ねられることにより、断面が半円形のいわゆる蒲鉾形状の縦長ブロック10が形成される。コンパクト集合体である蒲鉾形状の縦長ブロック10は、複数本のタイロッド20で連結された一対の端板30,30間に挟まれ長手方向の圧縮荷重を付加されることにより仮固定されている。
【0027】
縦長ブロック10の仮固定が終わると、これをタイロッド20及び端板30と共に炉内に搬入し、真空中或いは不活性ガス雰囲気中で、縦長ブロック10の平坦面12の側、及び湾曲面14の側に長手方向、すなわち縦方向の溶接を行って縦長ブロック10におけるコンパクト11を縦方向及び縦方向に直角な横方向において結合する。
【0028】
具体的には、平坦面12の中央部に形成された縦方向のコンパクト突き合わせ線を全長にわたりプラズマアークにより溶融溶接して、縦溝溶接ビード13Aを形成する。また、平坦面12とは反対側の湾曲面14の側にも、周方向の1箇所又は複数箇所に、縦方向全長にわたってプラズマアークによる溶融溶接を行う。ここでは、縦長ブロック10の湾曲面14の中央部に形成された縦方向のコンパクト突き合わせ線をプラズマアークにより溶融溶接することにより、縦溝溶接ビード15Aを形成すると共に、その両側にもプラズマアークによる縦方向の溶融溶接を行うことにより、通常の溶接ビード15Bを形成している。これにより、縦長ブロック10におけるコンパクト11同士が縦方向及び横方向の両方向において強固に結合され、縦長ブロック10が完成する。
【0029】
縦長ブロック10の平坦面12に形成する溶接ビードについては、その平坦面12の中央部に縦溝溶接ビード13Aを形成する代わりに、その平坦面12の中央線を挟む2箇所に縦方向全長にわたって溶接ビード13Bを形成することもできる。また、中央部とこれを挟む2箇所の合計3箇所に溶接ビード13A,13Bを形成することもできる。
【0030】
以上が第1工程である。第2工程では、図2に示すように、作製した2つの断面半円形の縦長ブロック10,10の平坦面12,12同士を合わせる。これにより、縦長ブロック10,10が横方向で丸棒状に組み合わされた断面円形の合体ブロック40が形成される。また、合体ブロック40の長手方向一端側にスタブ50を組み合わせる。合体ブロック40とスタブ50の組合せ体は、第1工程における縦長ブロック10と同様に、複数本のタイロッド20’で連結された一対の端板30’,30’間に挟まれ長手方向の圧縮荷重を付加されることにより仮固定されている。
【0031】
合体ブロック40とスタブ50の組合せ体が得られると、第1工程における縦長ブロック10と同様に、この組合せ体を炉内に搬入し、真空中或いは不活性ガス雰囲気中で、合体ブロック40の外周面複数箇所をプチズマアークにより縦方向全長にわたって溶接して、溶接ビード41A,41Bを形成する。具体的には、縦長ブロック10,10の合わせ部に両側一組の縦溝溶接ビード41Aを形成すると共に、それ以外の部分に通常の溶接ビード41Bを形成し、全体として合体ブロック40の外周面に周方向に等間隔で縦方向の溶接ビードを形成している。これにより、縦長ブロック10,10が接合されると共に、縦長ブロック10,10におけるコンパクト11の接合強度が更に大きくなり、合体ブロック40の機械的強度が高まる。
【0032】
このとき、溶接ビード41A,41Bを合体ブロック40からスタブ50にかかるまで形成することにより、合体ブロック40にスタブ50が連結固定される。かくして一次電極60が製造される。
【0033】
製造された一次電極60は、外周部の周方向複数箇所に長手方向の溶接ビード15A,15B,41A,41Bを有すると共に、内部の特に中心部に長手方向の縦溝溶接ビード13Aを有する。或いは、一次電極60内の中心線を挟む2箇所、或いはこれら両方の3箇所に長手方向の溶接ビードを有する。
【0034】
製造された一次電極60を使用した溶解操業を次に説明する。溶解操業は一次溶解操業と二次溶解操業とからなる。
【0035】
一次溶解操業では、製造された一次電極60が消耗電極として溶解が行われる。溶解の手順は従来と同じである。操業の進行に伴って一次電極60は下から順次溶解する。このとき溶解電流は合体ブロック外周部の溶接ビード15A,15B,41A,41B及び合体ブロック内部の溶接ビード13A等を主に流れ、これらの部分を加熱してコンパクト同士の結合を強固なものとする。
【0036】
本実施形態の一次電極60では、電流路でありコンパクト同士の結合部である溶接ビードが電極の外周部だけでなく内部にも存在するので、下端部での外周部の先行溶解が抑制され、逆台錐化が抑えられ、下端面が平坦面に近い形状となる。すなわち、一次電極の下端面が平坦化される。このため、合体ブロック40の外周部に形成された溶接ビード15A,15B,41A,41Bのブロック下端部での早期消失が抑制され、またブロック下端部で縦溝ビード15A,15B,41A,41Bが消失した後も、ブロック内部の縦溝ビード13A等が残っている。これらのため、ブロック下端部の一部脱落が効果的に防止される。
【0037】
また、一次電極60の内部に電流路となる溶接ビード13A等が形成されているので、溶解電流量が増加し、この点からも添加物の溶け残り、これによる偏在が防止される。
【0038】
こうして円柱形状のチタンインゴットが製造される。製造されたチタンインゴットを二次電極として二次溶解が行われることは従来と同じである。二次電極での添加物の偏在が防止されているので、二次溶解インゴットの成分組成の均一性に優れる。具体的には高融点物質であるTiO2 が偏在した高酸素部が発生し難いので、二次溶解インゴットを加工するときの、酸素濃化に起因する割れの発生頻度が低下する。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例を示し、比較例と対比することにより、本発明の効果を明らかにする。
【0040】
目標酸素濃度が3000ppm、目標鉄濃度が1500ppmのチタンインゴットを消耗電極式VAR法にて製造するに際して、まずスポンジチタン粒にTiO2 粉末を混合した。この混合には、特許文献2に記載されたブレンド法を採用した。次いで混合物をコンパクト用プレス型への原料投入に投入し、1/4円弧の扇形コンパクトを作製した。スポンジチタン粒の平均粒径は4mmであり、酸化チタン粉末の粒径はD50で5μmである。コンパクト1個の重量は100kgである。
【0041】
扇形コンパクトを2個一組として20段に積層し固定し、平坦面の側及び湾曲面の側に溶接ビードを形成することにより断面半円形の縦長ブロックを作製した。縦長ブロックの長さは4270mm、重量は4000kgである。2個の縦長ブロックを円柱形状に組み合わせ、外周部を長手方向に溶融溶接により接合して合体ブロックとした。このとき、合体ブロックの一端側に重量850kgのスタブを接合し、内部に溶接ビードを有する一次電極を製造した。合体ブロックの外径は780mm、長さは4250mm、重量は8000kgである。スタブの組成は、製造するチタンインゴットの組成と同じである。
【0042】
比較のために、平坦面に溶接を行わない縦長ブロックから、内部に溶接ビードを有しない一次電極を製造した。一次電極の内部に形成した溶接ビードは、中心部の1本(縦溝溶接ビード)、中心線から両側に200mm離れた2位置に形成された2本(通常の溶接ビード)、両方に形成された3本(1本の縦溝溶接ビードと2本の通常溶接ビード)の3種類とした。外周部の溶接ビードは、いずれの一次電極においても12本(4本の縦溝溶接ビードを含む)とした。
【0043】
製造された各種の一次電極を使用して消耗電極式VARを行い、製造されたチタンインゴットを同条件で展伸加工した。展伸材における高酸素部位の発生頻度を表1に示す。高酸素部位とは、展伸材において酸素濃化による割れを発生した箇所であり、割れ箇所の酸素濃度はインゴット成分平均値の200倍以上であった。また、発生頻度は、内部に縦溝ビードを有しない一次電極を使用したときの割れ頻度を100とした比率で表されている。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から分かるように、一次電極内に溶接部を形成することにより、展伸材における割れ発生頻度が低下し、その頻度低下の傾向は溶接部の数が増大するほど顕著となり、一次電極内に溶接部を形成することによるメリットは多大である。
【符号の説明】
【0046】
10 縦長ブロック
11 コンパクト
12 平坦面
13A,15A 縦溝溶接ビード(溶接部)
14 湾曲面
15B 通常の溶接ビード(溶接部)
20,20’ タイロッド
30,30’ 端板
40 合体ブロック
41A 縦溝溶接ビード(溶接部)
41B 通常の溶接ビード(溶接部)
50 スタブ
60 一次電極



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のコンパクトが棒状に組み合わされて溶接接合されることにより構成された消耗電極式VAR用一次電極であって、当該電極の外周部及び内部に、コンパクト同士を電極長手方向に連結する溶接部を有する消耗電極式VAR用一次電極。
【請求項2】
請求項1に記載の消耗電極式VAR用一次電極において、複数個のコンパクトが電極長手方向に配列されて形成された複数個の縦長ブロックが長手方向に直角な横方向に組み合わされて構成されており、コンパクト同士を電極長手方向に連結する溶接部が、他の縦長ブロックと接合するブロック内面及び電極外周部を形成するブロック外周部にそれぞれ存在すると共に、隣接する縦長ブロック同士がブロック外周部に存在する溶接部により接合されている消耗電極式VAR用一次電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の消耗電極式VAR用一次電極において、コンパクト同士を電極長手方向に連結する溶接部の少なくとも一つが、電極長手方向に連続する溶接ビードである消耗電極式VAR用一次電極。
【請求項4】
消耗電極式VARに使用する一次電極の製造方法であって、複数個のコンパクトを電極長手方向に配列しコンパクト同士を溶接により接合して縦長ブロックとなすブロック作製工程と、作製された複数個の縦長ブロックを長手方向と直角な横方向に組み合わせて電極形状となすブロック組合せ工程とを含んでおり、
前記ブロック作製工程では、ブロック組合せ工程で他の縦長ブロックと接合するブロック内面及び電極外周部を形成するブロック外周部でコンパクト同士を溶接により接合し、前記ブロック組合せ工程では、隣接する縦長ブロック同士を溶接により接合する消耗電極式VAR用一次電極の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の消耗電極式VAR用一次電極の製造方法において、前記溶接の少なくとも一つとして、電極長手方向に連続する溶接を行う消耗電極式VAR用一次電極の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21258(P2011−21258A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168575(P2009−168575)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】