説明

液体吐出ヘッドの制御方法及び、この制御方法を行う液体吐出装置

【課題】記録品位に影響のない信頼性の高い記録動作が行える液体吐出ヘッドにおいて、記録動作が完了するまでの時間を短縮できる液体吐出ヘッドの制御方法を提供する。
【解決手段】液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を備えた基体と、複数のエネルギー発生素子を被覆する絶縁性材料からなる絶縁層と、絶縁層の上に設けられた金属材料からなる保護層と、複数のエネルギー発生素子の其々に対応して設けれ、液体を吐出するための複数の吐出口と、を備えた液体吐出ヘッドの制御方法において、複数の吐出口から液体が吐出されているかを確認する工程を設け、吐出口から液体が吐出していないと確認されたときに、複数のエネルギー発生素子を駆動するために必要なエネルギー量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの制御方法及び、この制御方法を行う液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマル式のインクジェット記録装置に代表される液体吐出装置に搭載される代表的な液体吐出ヘッドは、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を有して設けられている。このようなエネルギー発生素子は、通電することで発熱する発熱抵抗材料で設けられており、絶縁材料からなる絶縁層で被覆されている。絶縁層の表面には、液体のキャビテーション衝撃から絶縁層を保護するために、タンタル等の金属材料からなる保護層を設けて耐久性を向上させることができる。このエネルギー発生素子の発生する熱エネルギーにより液体に発泡を生じさせ、この発泡の圧力で液体を吐出口から吐出して記録動作を行うことができる。
【0003】
このような液体吐出ヘッドは、正常に液体が吐出口から吐出されるように定期的にエネルギー発生素子で熱エネルギー量の調整を行うことで、保護層の膜厚変動が生じても最適なエネルギー量で記録動作を行えるように設けられている。特許文献1にはインク滴吐出の有無を判断できる光電センサを設け、インク吐出可能な吐出臨界駆動電圧パルス幅を測定し、この吐出臨界駆動電圧パルス幅を1.4倍したものを駆動電圧のパルス幅としてエネルギー発生素子を駆動する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−58529号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような液体吐出ヘッドでは、インクや保護層の材料によっては保護層が変質して保護層の膜厚が増加する可能性があり、駆動電圧パルス幅を適宜設定する必要があるため、駆動電圧パルス幅制御を高頻度に行う必要が生じている。
【0006】
しかしながら記録動作時に特許文献1に開示されるような駆動電圧パルス幅制御を高頻度に行うと、液体吐出ヘッドの制御に時間がとられることになり被記録媒体への記録動作が完了するまでに長時間かかることが懸念される。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてされたものであり、記録品位に影響のない信頼性の高い記録動作が行える液体吐出ヘッドにおいて、記録動作が完了するまでの時間を短縮できる液体吐出ヘッドの制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を備えた基体と、前記複数のエネルギー発生素子を被覆する絶縁性材料からなる絶縁層と、前記絶縁層の上に設けられた金属材料からなる保護層と、前記複数のエネルギー発生素子の其々に対応して設けれ、液体を吐出するための複数の吐出口と、を備えた液体吐出ヘッドの制御方法であって、前記複数の吐出口から液体が吐出されているか否かを判断する吐出判断工程と、前記吐出判断工程で前記吐出口から液体が吐出されていると確認されなかったときに、前記複数の吐出口から液体が吐出するために、新たに前記エネルギー発生素子に必要なエネルギー量を決定する決定工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のように液体吐出ヘッドを制御することで、高頻度に駆動電圧パルス幅測定を行う必要がないため、記録動作が完了するまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】液体吐出装置及びヘッドカートリッジの斜視図である。
【図2】液体吐出ヘッドの斜視図及び切断面図である。
【図3】液体吐出ヘッドの電気的な構成を表すブロック図である。
【図4】液体吐出装置の検知手段を表す模式図である。
【図5】液体吐出ヘッドの駆動電圧パルス幅決定動作を表すフロー図である。
【図6】液体吐出ヘッドの模式的な上面図である。
【図7】液体吐出ヘッドの駆動電圧パルス幅決定動作を行うタイミングを示すフロー図である。
【図8】吐出口からの液体吐出回数と駆動電圧パルス幅との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0012】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0013】
さらに「液体」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0015】
(液体吐出装置)
本発明を適用することができる液体吐出装置の外観を図1に示し、この液体吐出装置に用いられるヘッドカートリッジの外観を図2に示す。
【0016】
液体吐出装置のシャシー30は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材により構成され、液体吐出装置の骨格をなす。シャシー30には媒体給送部11と、媒体搬送部13と、記録部と、ヘッド回復部34とが組み付けて設けられている。媒体給送部11は、紙等の被記媒体を液体吐出装置の内部へと給送するために用いられ、媒体搬送部13は、媒体給送部11から1枚ずつ給送される被記録媒体を所望の記録位置へ導くと共にこの記録位置から媒体排出部32へと被記録媒体を導くために用いられる。また記録部は、記録位置に搬送された被記録媒体に所定の記録動作を行うために用いられ、ヘッド回復部34は液体吐出ヘッドの吐出回復処理を行うために用いられる。
【0017】
記録部は、キャリッジ軸15に沿って走査移動可能に支持されたキャリッジ16と、このキャリッジ16にヘッドセットレバー17を介して着脱可能に搭載されるヘッドカートリッジ18とを具えている。ヘッドカートリッジ18が搭載されるキャリッジ16には、キャリッジカバー20と、ヘッドセットレバー17とが設けられている。キャリッジカバー20は、ヘッドカートリッジ18の液体吐出ヘッド19をキャリッジ16上の所定の装着位置に位置決めするために用いられる。ヘッドセットレバー17は、キャリッジ16に対するヘッドカートリッジ18の着脱手段の一部として機能し、ヘッドカートリッジ18のタンクホルダ21と係合して液体吐出ヘッド19を所定の装着位置に位置決めするために用いられる。さらにヘッドセットレバー17は、キャリッジ16の上部に設けられた図示しないヘッドセットレバー軸に対して回動可能に取り付けられている。
【0018】
キャリッジ16には、コンタクトフレキシブルプリントケーブルに接続する接続部22が設けられている。この接続部22とヘッドカートリッジ18の外部信号入力端子であるコンタクト部23とが電気的に接触することで、図示しない駆動ICから記録のための駆動信号等や駆動電力が液体吐出ヘッドへと供給される。また、液体吐出装置には吐出口から液滴が吐出されているかを検知するための検知手段36が設けられている。
【0019】
(液体吐出ヘッド)
図2(a)に本発明に係る液体吐出ヘッド19の斜視図を示す。また、図2(b)は、図2(a)のA−A’に沿って垂直に液体吐出ヘッド19を切断した場合の切断面の状態を模式的に示す断面図である。液体吐出ヘッド19は、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子12を備えた液体吐出ヘッド用基板5と、液体吐出ヘッド用基板5の上に設けられた流路壁部材14と、を有している。流路壁部材14は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物で設けることができ、液体を吐出するための吐出口25と、吐出口25に連通する流路46の壁14aとを有している。この壁14aを内側にして、流路壁部材14が液体吐出ヘッド用基板5に接することで流路46が設けられている。液体を供給するための供給口32は、液体吐出ヘッド用基板5のエネルギー発生素子12を備えた面と反対側の面とを貫通するように設けられている。エネルギー発生素子12は、被記録媒体の搬送方向つまり供給口32の長手方向に沿って、所定間隔で供給口32の両側に設けられている。流路壁部材14に設けられた吐出口25は、エネルギー発生素子12に対向する位置に設けられており、複数配列されることで吐出口列を形成している。液体吐出ヘッドは、異なる種類の液体を記録動作に用いるために、図2(a)に示されるように供給口32を複数設けることもでき、其々の供給口32に沿って吐出口列が設けられている。
【0020】
供給口32から供給された液体は流路46に運ばれ、さらにエネルギー発生素子12の発生する熱エネルギーによって液体が膜沸騰することで気泡が生じる。このときに生じる圧力により液体が、吐出口25から吐出されることで、記録動作が行われる。さらに液体吐出ヘッド19には、コンタクト部23を介して液体吐出装置との電気的接続を行う端子31が設けられている。
【0021】
次に液体吐出ヘッド用基板の層構成を説明する。
【0022】
図2(b)に示されるように、トランジスタ等の駆動素子が設けられたシリコンからなる基体1の上には、基体1の一部を熱酸化して設けた熱酸化層2と、シリコン化合物からなる蓄熱層4とが設けられている。蓄熱層4の上に、通電することで発熱する材料(例えばTaSiNやWSiNなど)からなる発熱抵抗層6が設けられ、発熱抵抗層6に接するように、発熱抵抗層より抵抗の低いアルミニウムなどを主成分とする材料からなる一対の電極7が設けられている。一対の電極7の間に電圧を印加し、発熱抵抗層6の一対の電極7の間に位置する部分を通電により発熱させることで、発熱抵抗層6の部分をエネルギー発生素子12として用いる。これらの発熱抵抗層6と一対の電極7は、インクなどの吐出に用いられる液体との絶縁を図るために、SiN等のシリコン化合物などの絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆されている。さらに吐出のための液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などからエネルギー発生素子12を保護するために、エネルギー発生素子12の部分に対応する絶縁層8の上に耐キャビテーション層として用いられる保護層10が設けられている。具体的には、保護層10としてタンタルなどの金属材料を用いることができる。さらに絶縁層8の上に流路壁部材14が設けられている。なお、絶縁層8と流路壁部材14との密着性を向上させるために、絶縁層8と流路壁部材14との間にポリエーテルアミド樹脂などからなる密着層を設けることもできる。
【0023】
(電気ブロック)
本実施形態における、液体吐出装置の電気的な構成のブロック図を図3に示す。
【0024】
図中100は操作パネルであり、操作パネル上には操作用のキーおよび、表示パネルが配されている。操作パネル制御部101は、操作パネル100上のキーの状態を監視し、押下されたキーによって適切な制御コマンドを、CPU103を含むインクジェット記録装置の制御回路に対して発行する。また、表示パネルに表示する文字列を作成し、表示パネルの制御を行う。また、表示パネル上に配されたキーによりユーザがキー入力をすることが可能になっており、この操作用のキーを用いてエラー発生状態からの回復処理の開始等、液体吐出装置に対する動作の指定を入力することが可能である。
【0025】
インターフェース104は、液体吐出装置とホストコンピュータ105を接続し、ホストコンピュータ105よりデータを受信したり、ステータスを送信したりする機能を持ち、ホストコンピュータ105とのデータ送受信用通信ポートとして動作する。図中106は制御回路のバスであり、CPU103とその他の装置を接続する機能を持つ。不揮発性メモリ102は各種情報を保存記録している記録装置であり、電力の供給が断たれても記録した情報を保持し続けることが可能である。各種情報の中には、各インクタンクのインク消費量や、廃インクタンクの廃インク量、不吐出の吐出口の本数、前記インク吐出のための最適なエネルギー、といった情報を含ませることができる。
【0026】
モータードライバ107は、液体吐出装置の記録動作を行うためのキャリッジモーター、紙送りモーター(被記録媒体を動かし、給紙、排紙を行う)、回復モーター(液体吐出ヘッドの吐出回復処理の動作を行う)等のモーター類を制御するための制御回路である。
【0027】
液体吐出ヘッド19は、記録用紙上に画像を記録する機能を持つ。交換式ヘッドの場合、ヘッドごとに固有のヘッドIDを持ち、ヘッドが交換されたかどうかはこのIDを比較することで判別できる。RAM(Random Access Memory)109は、電力が供給されている間のみ情報を保持できる記録装置であり、電力の供給が断たれると保持している情報は消滅してしまう。ROM(Read Only Memory)110は、読み出しのみ可能な記録装置で、液体吐出装置の制御プログラムを記録してあり、これをCPU103で参照して制御動作を行う。検知手段111は受信変化を読み取り、不吐出の吐出口の有無を判定する。不吐出と判定されたノズルの情報は、不揮発性メモリ102内に保持される。
【0028】
以下に回路の動作状況を説明する。
【0029】
CPU103は、ROM110より制御プログラムを読み出し、プログラムに従って各制御装置の制御を実行する。インターフェース104は、ホストコンピュータ105より記録情報を受信し、RAM109に書き込み、書き込まれたデータをもとにCPU103はモータードライバ107、液体吐出ヘッド108の制御を行って記録動作を行う。
【0030】
(吐出検知動作)
検知手段36の模式図を図4に示す。検知手段36は、光を照射する発光部38と照射された光を受光する受光部39と液体溜め部40とから構成され、キャリッジ16の動作を阻害しない領域に配設される。吐出口からの吐出検知動作は、液体吐出ヘッド19を検知手段36の対向する位置に移動させ、1つの吐出口につき数発ずつ順番に行う。このとき液滴が、発光部38と受光部39を結んだ線上を液滴が通過するように液体溜め部40に向かって吐出される。吐出口25から吐出された液滴37が、発光部38と受光部39を結んだ線上を通過するように設けることで、発光部38からの光が一時的に遮った際には受光信号に変化が生じ、正常に吐出されたと判断することができる。一方、吐出動作を行ったにもかかわらず受光部39の受光信号に変化が生じない場合には、正常に吐出されない不吐出状態(以下、吐出不良とも称する)であると判断することができる。すなわち検知手段36を吐出判断手段として用いている。
【0031】
このような吐出検知動作は、吐出が正常に行われているかを確認するために複数枚数印刷する毎に定期的に、全ての吐出口に対して行うことで、液体吐出ヘッドの信頼性を確保することができる。具体的には、1×10パルス程度毎に行うことが好ましい。
【0032】
(駆動電圧パルス幅決定方法)
次に、本発明に適用される駆動電圧パルス幅の決定方法について説明する。本実施形態において駆動電圧パルス幅とは、吐出口から1つの液滴を吐出するために最適な発熱抵抗層に電圧を印加する時間のことをいう。
【0033】
このような液体を吐出するために最適な駆動電圧パルス幅は検知手段36を用いて決定される。駆動電圧パルス幅の決定は、1つの吐出口列に設けられた全て吐出口を用いるわけではなく、10個程度の吐出口を用いて行う。駆動電圧パルス幅決定動作の一例を図5に示す。駆動電圧パルス幅決定動作は、最初に吐出が十分に行われるであろうパルス幅を設定して吐出動作を行う(S101)。液滴の吐出が検知手段36で検知された場合には、吐出動作を行ったパルス幅を1ランク短縮したパルス幅を決定し(S102)、再度吐出動作を行う(S101)。この動作を液滴が吐出されなくなるまで繰り返し行う。液滴の吐出が検知手段36で検知されなくなった場合には、その際のパルス幅を一定時間長くしたものを駆動電圧パルス幅として設定する(S104)。つまり、ここでは検知手段36をエネルギー量を決定するための決定手段として用いている。
【0034】
このような異なるタイミングで駆動電圧パルス幅測定を行うという工程を、高頻度に行うと、液体吐出ヘッドの調整に必要以上に時間がかかってしまい、記録動作を終了するまでに長時間かかってしまう。そのため、本発明は吐出不良が生じている場合に駆動電圧パルス幅決定制御を行うことを特徴としている。このような液体吐出ヘッドの制御方法を用いることにより、吐出不良の発生が検知されなかった吐出口列においては駆動電圧パルス幅決定制御を行う必要がないため、記録動作を完了するまでの時間を短縮し、信頼性の高い記録動作を行うことができる。
【0035】
以下、具体的な液体吐出ヘッドの制御方法について説明する。
【0036】
吐出不良が発生する原因としては、吐出口への気泡やゴミ等の異物つまりや、保護層の自然酸化による膜厚増加による影響だけではなく、液体吐出ヘッドによっては以下のような保護層の膜厚増加による原因も発生している。このメカニズムについてまず説明する。
【0037】
エネルギー発生素子12は絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆され、絶縁層8の上に気泡の消滅に伴うキャビテーション衝撃や液体による化学的作用からエネルギー発生素子12を保護するためにタンタル等の金属材料を主成分とする保護層10が設けられている。このような液体吐出ヘッドの絶縁層に穴(以下、ピンホールとも称する)があると、保護層と液体との間で電気化学反応を起こし、保護層が変質して耐久性が低下したり、溶出したりすることが懸念される。そのため製造出荷検査を行う際に、複数のエネルギー発生素子12を被覆する絶縁層に絶縁不良がないことの確認を一度に行えるように、複数のエネルギー発生素子に共通するように保護層を設け、保護層とエネルギー発生素子12との間の導通確認を行っている。図6に保護層10が複数のエネルギー発生素子12を共通に被覆する液体吐出ヘッドの模式的な上面図を示す。検査用端子50を用いることによって絶縁層に絶縁不良がないことを一度に確認することができる。
【0038】
しかし出荷検査では不良がないことが確認されたとしても、記録動作のキャビテーションの影響等で1つのエネルギー発生素子に対応する絶縁層に穴が生じ保護層とエネルギー発生素子とが導通した場合には、以下の問題が生じてしまう。保護層は複数のエネルギー発生素子に共通に設けられているため、穴を介して保護層全体に電流が流れ、保護層全体で電気化学反応が生じて酸化することになる。つまり保護層としてタンタルを用いた場合には、保護層に電流が流れることにより保護層が陽極として機能してインク中の酸素を取り込むため酸化が進む(以下、このような現象を陽極酸化と称する)。このように金属材料の酸化が生じると膜厚が厚くなるため熱エネルギーが伝導しにくくなる。そのため保護層が酸化していない状態に比べ、液体を同様に吐出するために必要な熱エネルギー量が増加することになる。従って絶縁層に穴が生じると、共通した保護層で被覆された複数のエネルギー発生素子12で吐出不良が生じることになる。このような陽極酸化が原因となる吐出不良の場合には、駆動電圧パルス幅制御を行うことにより吐出不良が解消する。
【0039】
一方、異物つまりを原因とする吐出不良の場合には、吐出口から液体を吸引する回復動作を行って異物を除去することで吐出不良が解消するが、駆動電圧パルス幅決定制御を行ったとしても吐出不良を解消することができない。
【0040】
このような場合の液体吐出ヘッドの制御方法を図7に示す。
【0041】
液体吐出ヘッドの駆動電圧パルス幅制御は、吐出検知動作を行うタイミングで行われる。この吐出検知動作のタイミングは、一定枚数記録するごとに自動で行う場合や、ユーザの意思によって行う場合等適宜行うことができる。
【0042】
吐出検知動作のタイミングとなった際に、検知手段36にて吐出口からインク滴が検知されているかどうか全吐出口で吐出検知を行う(S201)。次に、共通する保護層に被覆されたエネルギー発生素子12に対応する複数の吐出口で吐出不良が生じているか判断を行う(S202)。共通する保護層に被覆されたエネルギー発生素子12に対応する複数の吐出口で吐出不良が生じていない場合には、異物等を原因とする吐出不良であると判断し、複数の吐出口駆動電圧パルス幅制御を行わずに終了し、別途回復動作を行う。
【0043】
共通する保護層に被覆されたエネルギー発生素子12に対応する複数の吐出口で吐出不良が生じている場合には、陽極酸化が生じている可能性があるとして図5に示す駆動電圧パルス幅決定動作(S203)を行う。
【0044】
このように、複数の吐出口で吐出不良が生じている場合に駆動電圧パルス幅の決定動作制御を行うことで、必要以上の回数行う必要がなく記録動作が完了するまでの時間を短縮できる信頼性の高い記録動作を行うことができる。また、供給口が複数設けられており、かつそれぞれの保護層が独立して設けられている構成において駆動電圧パルス幅決定動作は、吐出不良が発生している吐出口列にのみ行えばよい。従って全ての吐出口列において駆動パルス幅決定動作を行う必要がないため記録時間の短縮を行うことができる。
【0045】
なお駆動電圧パルス幅決定動作は、保護層の膜厚減少によりパルス幅を小さくする可能性もあるため、吐出不良が発生していな場合でも、適宜パルス幅を決定することが好ましい。具体的には、1×10パルス毎に全ての吐出口列の駆動電圧パルス幅決定動作を行うことが好ましい。
【0046】
ここで、実際に測定した液体吐出ヘッドの駆動電圧パルス幅と絶縁層及び保護層の検査結果を以下の表に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
これらの実施例の保護層は其々全て同じタンタルの膜厚280nm程度で設けられたものである。実施例1のエネルギー発生素子12の駆動電圧パルス幅は0.796μsecであり、このときの保護層及び絶縁層は、保護層の酸化層の膜厚が10nmであり絶縁層に穴はみられなかった。実施例2のエネルギー発生素子12の駆動電圧パルス幅は0.784μsecであり、このときの保護層及び絶縁層は、保護層の酸化層の膜厚が23nmであり、絶縁層に穴はみられなかった。従って、実施例1及び実施例2では、タンタル保護層の表面が液体に接して自然酸化したにすぎず、陽極酸化は起きていないといえる。一方実施例3ではエネルギー発生素子の駆動電圧パルス幅は0.906μsecであり、このときの保護層及び絶縁層は、保護層の酸化層の膜厚が161nmであり、観察すると絶縁層に穴がみられた。従って実施例3は保護層の陽極酸化が起きているといえる。
【0049】
図8に1×10パルス毎に駆動電圧パルス幅をプロットした一例を示す。絶縁層に穴が生じない例では、駆動電圧パルス幅が大きく変化しないことが分かる(実施例4)。一方、絶縁層に穴が生じている例ではBの領域で駆動電圧パルス幅が大きく変化していることがわかる(実施例5)。以上のことから陽極酸化した場合には、直前の駆動電圧パルス幅と比較して10%以上変動していることから、駆動電圧パルス幅が10%以上変動している場合には陽極酸化が発生していると判断することができる。
【0050】
従って駆動電圧パルス幅決定動作(S203)を行った後に、駆動電圧パルス幅が直前に用いられていた駆動電圧パルス幅と比較して10%以上増加したかどうかを判断する(S204)。駆動電圧パルス幅が10%以上増加した場合には、陽極酸化していると判断することができる(S205)。
【0051】
保護層が陽極酸化した状態で液体吐出ヘッドの使用を続けることはできるが、陽極酸化した保護層は、キャビテーションへの耐久性が低下し、長期間使用には向いていない。そのためS205で陽極酸化していると判断することにより、液体吐出ヘッドを使用する期限を設ける等の管理を行うことができ、信頼性の高い記録動作を行うことができる液体吐出ヘッドの制御方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
5 液体吐出ヘッド用基板
6 発熱抵抗層
7 電極
8 絶縁層
10 保護層
12 エネルギー発生素子
19 液体吐出ヘッド
36 検査手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を備えた基体と、前記複数のエネルギー発生素子を被覆する絶縁性材料からなる絶縁層と、前記絶縁層の上に設けられた金属材料からなる保護層と、前記複数のエネルギー発生素子の其々に対応して設けれ、液体を吐出するための複数の吐出口と、を備えた液体吐出ヘッドの制御方法であって、
前記複数の吐出口から液体が吐出されているか否かを判断する吐出判断工程と、
前記吐出判断工程で前記吐出口から液体が吐出されていると確認されなかったときに、前記複数の吐出口から液体が吐出するために、新たに前記エネルギー発生素子に必要なエネルギー量を決定する決定工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項2】
前記決定工程において決定されたエネルギー量が、直前に前記複数のエネルギー発生素子を駆動するために用いられていたエネルギー量よりも、10%以上増加している場合には、前記保護層で陽極酸化が生じたと判断することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項3】
前記吐出判断工程は、共通の前記保護層で被覆された前記複数のエネルギー発生素子で液体が吐出されていると確認されなかったときに、液体が吐出されていないと判断することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項4】
前記エネルギー量は、前記エネルギー発生素子に印加される電圧のパルス幅を変化させることで制御されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項5】
前記保護層はタンタルを主成分とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項6】
前記複数のエネルギー発生素子は、液体を供給するために前記基体を貫通して設けられた供給口に沿って設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項7】
液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を備えた基体と、前記複数のエネルギー発生素子を被覆する絶縁性材料からなる絶縁層と、前記絶縁層の上に設けられた金属材料からなる保護層と、前記複数のエネルギー発生素子の其々に対応して設けれ、液体を吐出するための複数の吐出口と、を備えた液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置であって、
前記複数の吐出口から液体が吐出されているか否かを判断する吐出判断手段と、
前記吐出判断手段で前記吐出口から液体が吐出されていると確認されなかったときに、前記吐出口から液体が吐出するために、新たに前記エネルギー発生素子に必要なエネルギー量を決定する決定手段と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
前記決定手段において決定されたエネルギー量が、直前に前記複数のエネルギー発生素子を駆動するために用いられていたエネルギー量よりも、10%以上増加している場合には、前記保護層で陽極酸化が生じたと判断する判断手段をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記吐出判断手段は、共通の前記保護層で被覆された前記複数のエネルギー発生素子で液体が吐出されていると確認されなかったときに、液体が吐出されていないと判断することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−116016(P2012−116016A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265743(P2010−265743)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】