説明

液体吐出ヘッドの製造方法及び画像形成装置

【課題】 圧電体の劣化の少ない液体吐出ヘッドを製造する。
【解決手段】 基板上に下部電極層を形成する下部電極層形成工程と、下部電極層上に圧電体層を形成する圧電体層形成工程と、圧電体層により覆われた領域の範囲内であって、前記領域よりも狭い領域について、基板の圧電体層の形成された面の反対面より、基板を下部電極層までエッチングするエッチング工程と、エッチング工程終了後、圧電体層の熱処理を行う熱処理工程と、熱処理工程終了後、エッチング工程においてエッチングされた基板面に、耐インク性を有する材料からなる耐インク膜と振動板とを兼用する振動板層を形成する振動板層形成工程と、圧電体層上に上部電極層を形成する上部電極層形成工程を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの製造方法及び前記液体吐出ヘッドの製造方法により製造された液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置に関するものであり、特に、液体吐出ヘッドを製造するための製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子の変位を利用して圧力室の壁面を変化させ、圧力室内のインクを加圧することで圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出するヘッド(液体吐出ヘッド)を搭載したインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
近年、インクジェット記録装置に用いられるヘッドには高集積化が求められて、ヘッドの高集積化を実現するとともに高信頼性や高性能を確保するために、構造や製造上の様々な工夫がなされている。例えば、吐出力発生素子として薄膜の圧電素子(圧電アクチュエータ)を用いる場合、基板(振動板)にエアロゾルデポジション(AD)法やゾルゲル法、スパッタリング、CVD、スクリーン印刷法などの薄膜形成技術により圧電体層及び電極を形成(成膜)する方法がある。
【0004】
特許文献1では、インク貯留室と振動板を接合した状態で圧電体膜を成膜し、その後、前記圧電体膜に、アニール処理を施すことで圧電体膜を結晶化させる工程を有した液体移送装置の製造方法が開示されている。具体的には、振動板をインク貯留部に組み付けた剛性の高い状態で圧電体膜を成膜するので、振動板の厚さが10μm〜50μm程度の薄いものであっても圧電体成膜時の衝撃力に十分に耐えることができる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2では、圧電体中の鉛(Pb)がシリコン基板中に拡散することを防止するために、振動板と下部電極の間に拡散防止のための絶縁層を設ける方法が開示されている。
【0006】
特許文献3では、振動板を構成している材料が圧電体に拡散して圧電特性を低下させることに着目し、圧電体層を形成した後に、振動板を圧力室側から形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−35013号公報
【特許文献2】特開2005−168172号公報
【特許文献3】特開2004−9399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ステンレス(SUS)などの鉄もしくはクロム等を含有する金属を用いた振動板(基板)にPZT(Pb(Zr・Ti)O3 、チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電体を成膜し、600℃以上の高温でアニール処理を行うと、振動板に含まれる鉄及びクロムが圧電体に拡散して圧電体の性能を劣化させてしまうといった問題がある。圧電体内に鉄が拡散すると、圧電d定数や絶縁性能の低下といった圧電素子の性能劣化を引き起こしてしまう。
【0008】
特許文献1に記載された発明では、600℃から750℃(AD法)、600℃〜1200℃(ゾルゲル法)の高温雰囲気で数時間の熱処理(アニール処理)が行われるが、振動板としてステンレス基板を用いると、振動板に含有する鉄及びクロムが圧電素子に拡散して圧電素子の性能を劣化させてしまう。また、AD法(エアロゾルデポジション法)により成膜された圧電素子のアニール処理には大気雰囲気が必要であり、同時にアニールされる振動板はその表面が酸化してしまい、振動板の耐久性劣化や他の部材との接合性が悪くなるといった問題が発生する。
【0009】
また、振動板は薄い方が良好な特性を得ることができるが、10〔μm〕以下の厚さのステンレス基板を用いて加工等を行うことは圧延時のピンホールの問題などから困難である。また、大型の液体吐出ヘッドを製造する場合、基板の厚さを均一にする必要があるが、均一に10〔μm〕以下の厚さの大型の基板を作製すること自体困難である。
【0010】
特許文献2に記載された発明では、Pbの拡散を完全に防止するためには、拡散防止のための絶縁層の厚さを厚くすることが必要となるため、これにより、圧電体自体の特性は劣化しないものの、振動板が厚くなり変位量が小さくなってしまい、液体吐出ヘッドとしての特性は低下してしまう。
【0011】
特許文献3に記載された発明では、基板上に圧電体を高温で形成するものであるため、圧電体層を形成する際に、基板に含まれる構成材料の基板から圧電体への拡散や、圧電体から基板へのPb等の拡散が生じ、圧電体の特性を劣化させるとともに、圧電体と基板との密着性を低下させてしまう。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、基板に含まれる構成材料の基板から圧電体への拡散や、圧電体から基板へのPb等の拡散を防止し、圧電体の性能が劣化することなく、高い信頼性の液体吐出ヘッドを製造する方法を提供するとともに、歩留まりの高い画像形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、基板上に下部電極層を形成する下部電極層形成工程と、前記下部電極層上に圧電体層を形成する圧電体層形成工程と、前記圧電体層により覆われた領域の範囲内であって、前記領域よりも狭い領域について、前記基板の圧電体層の形成された面の反対面より、前記基板を下部電極層までエッチングするエッチング工程と、前記エッチング工程終了後、前記圧電体層の熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理工程終了後、前記エッチング工程においてエッチングされた基板面に、耐インク性を有する材料からなる耐インク膜と振動板とを兼用する振動板層を形成する振動板層形成工程と、前記圧電体層上に上部電極層を形成する上部電極層形成工程と、を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記上部電極層形成工程において、形成される上部電極層が、圧電体層及び下部電極層を介し、前記エッチング工程により基板がエッチングされた領域の範囲内であって、前記領域と同じ、または、前記領域よりも狭い領域であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記圧電体層形成工程における圧電体層の形成方法が、エアロゾルデポジション法またはスクリーン印刷法で形成することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記振動板層形成工程における振動板層の形成方法がCVD法であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記振動板層形成工程における振動板層が、SiCN、ZrO、SiOからなる材料により構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記基板を構成する材料の熱膨張係数をSk、前記下部電極層を構成する材料の熱膨張係数をCk、前記圧電体層を構成する材料の熱膨張係数をPkとした場合、Sk<Ck<Pk 又は、Pk<Ck<Skであることを特徴とする請求項1から5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6に記載された液体吐出ヘッドの製造方法により製造された液体吐出ヘッドを有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明による液体吐出ヘッドの製造方法によれば、基板から圧電体への基板を構成する原子の拡散、圧電体から基板への圧電体を構成する原子の拡散を防止することができるため、圧電体の性能の劣化や、基板と圧電体との密着性を低下させることなく、高い信頼性の液体吐出ヘッドを製造することができる。また、ピンホールなどの欠陥がない10〔μm〕以下の薄い振動板を形成することができ、圧電アクチュエータとして高い変位特性を得ることができる。更には、これにより製造された液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置は、振動板成膜と同時に圧力室内面に耐インクコートが施されるため、インク及び振動板の性能劣化がなく、低コストで信頼性の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
〔液体吐出ヘッド〕
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法について図1、図2に基づき説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法の工程を示す。図2は、工程の流れを示す。
【0024】
最初、図2に示すステップ102(S102)の下部電極層形成工程を行う。具体的には、図1(a)に示すように、厚さHt:100〔μm〕に加工したステンレスからなる基板61の一方の面の略全面に、下部電極層62を形成する。下部電極層62は、PtやIr等の金属からなる材料により構成されており、スパッタリング法、真空蒸着法、スクリーン印刷法等の手法により、厚さが0.1〜3〔μm〕となるように形成する。尚、基板61を構成する材料はステンレス以外の金属もしくはSiであってもよい。
【0025】
次に、図2に示すステップ104(S104)の圧電体層形成工程を行う。具体的には図1(b)に示すように、下部電極層62上に、AD法またはスクリーン印刷法により圧電体層63を形成する。AD法、スクリーン印刷法ともに、後の熱処理工程により熱処理(アニール処理)が行われるが、スクリーン印刷法の場合は、印刷された圧電体のペーストの乾燥と密着性の向上のため、600℃以下で仮焼成を行う。600℃以上では、基板61がステンレスの場合では、基板61からFe等が圧電体層63に拡散したり、圧電体層63からPb等が基板61に拡散したりするため、これにより圧電体層63の特性が劣化するからである。
【0026】
また、圧電体層63は下部電極層62の略全面に形成してもよいが、図3に示すように下部電極層62上に各々の圧力室に対応させて、分離して形成してもよい。圧電体層63を分離して形成することにより、電圧を印加した場合の変位量を大きくすることができ、クロストークも低下させることができ、応力等による基板61のそりが少ないといった利点があるため望ましい。本実施の形態では、図1(b)に示すように、厚さがPt、一辺の幅がPwである正方形の圧電体層63のパターンを形成した。
【0027】
この後、図2に示すステップ106(S106)のエッチング工程を行う。具体的には図1(c)に示すように、基板61の圧電体層63の形成されている面の反対面に圧力室となる領域をエッチングにより形成する。
【0028】
本実施の形態では、基板61の圧電体層63の形成されている面の全面にレジストを塗布するか、あるいは、基板61の両面にレジストを塗布する。具体的には、スピンコーターやディップコート等の手法によりレジストの塗布を行う。この後、プリベークを行い、基板61の圧電体層63の形成されている面の反対面に、形成される圧力室の形状のパターンを有するマスクを用い露光装置により露光し、現像を行う。これにより、圧力室の形成される領域のみレジストが除去される。この後、基板61のレジストの形成されている面に、基板61のレジストの除去された領域のエッチングを行うため、エッチング液を垂らす、又は、基板61をエッチング液に浸漬させることにより、ウエットエッチングを行う。
【0029】
ウエットエッチングに用いられる溶液は、基板61がステンレスである場合には、塩化第2鉄溶液が用いられ、基板61がSiである場合には、KOH(水酸化カリウム)溶液が用いられる。
【0030】
ウエットエッチングは、図1(c)に示すように、基板61においてレジストの形成されていない領域の基板材料が完全に除去されるまで行われる。即ち、基板61のレジストの形成されている面の反対面に形成されている下部電極層62の裏面が完全に露出するまで行われる。
【0031】
このため、基板61において圧力室となる領域の幅Hwは、圧電体層63の形成された幅Pwよりも狭く、圧電体層63の形成されている領域は、下部電極層62を介し基板61のエッチングされていない領域と、圧電体層63の両側で重複していることが必要となる。何故ならば、下部電極層62は、非常に薄いため基板61における圧力室となる領域の幅Hwよりも、圧電体層63の形成される幅が狭い場合、即ち、下部電極層62を介し、基板61と圧電体層63とが重複していない場合には、エッチング後の形態を維持することが困難となるからである。よって、圧電体層63の幅Pwは、基板61に形成される圧力室となる領域の幅Hwよりも広く形成されている必要がある。言い換えるならば、圧力室形成のため基板61がエッチングされた領域については、下部電極層62を介し、圧電体層63に覆われた構造となっている。
【0032】
本実施の形態では、圧電体層63は、厚さPt:8〔μm〕、一辺の幅Pw:300〔μm〕である略正方形に形成されており、圧力室は基板61を一辺の幅Hw:250〔μm〕である略正方形の領域をエッチングすることにより形成している。このため、基板61のエッチングされていない領域と、圧電体層63の形成された領域とは、圧電体層63の周辺部において、両側それぞれ25〔μm〕、計50〔μm〕、下部電極層62を介し重複した構造となっている。
【0033】
尚、基板61と圧電体層63との重複領域は、エッチング後の形態安定性から、圧電体層63の幅Hwの5〔%〕以上重複していることが望ましい。あまりにこの幅が狭いと形態安定の維持が困難となるからである。本実施の形態においては、圧電体層63の幅Pwが、300〔μm〕であるのに対し、重複領域の幅は50〔μm〕であるため、圧電体層63と基板61のエッチングされていない領域とは、16.7%重複している。
【0034】
この後、図2に示すステップ108(S108)の熱処理工程を行う。具体的には、圧電体層63をAD法により形成した場合には、700℃以上で、圧電体層63をスクリーン印刷法により形成した場合には、850℃以上で熱処理(アニール)を行う。この熱処理は、圧電体層63の圧電体の結晶性を向上させ、圧電体の特性を向上させる効果がある。尚、一般に、AD法の場合には、熱処理温度は、700℃〜1000℃、スクリーン印刷法の場合には、850℃〜1300℃程度となるため、基板61の材料の選択や、基板61の耐熱性を考慮して成膜方法を選択する。
【0035】
このため、基板61を構成する材料の熱膨張係数をSk、下部電極層62を構成する材料の熱膨張係数をCk、圧電体層63を構成する材料の熱膨張係数をPkとした場合、Sk<Ck<Pk又は、Pk<Ck<Skであることが好ましい。即ち、下部電極層62を構成する材料の熱膨張係数Ckの値が、基板61及び圧電体層63を構成する双方の材料と比べ著しく大きかったり、小さかったりすると、圧電体層63の剥離等が生じるからである。よって、基板61、下部電極層62、圧電体層63の順に熱膨張係数が上昇するか下降するような材料で構成することが好ましい。本実施の形態では、基板61はSUS304(熱膨張係数:10.4×10−6)、下部電極層62はPt(白金、熱膨張係数:8.8×10−6)、圧電体層63はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛、熱膨張係数:8×10−6)で構成されており、Pk<Ck<Skの関係が成立している。尚、基板61にSi(熱膨張係数:2.8×10−6)を用いる場合には、下部電極層62、圧電体層63の材料を上記熱膨張係数の関係に基づき選定することにより、圧電体層63の剥離を防止することが可能である。
【0036】
尚、本実施の形態のおいては、ウエットエッチングによる基板61のエッチング方法について説明したが、RIE等のドライエッチング法によっても、本実施の形態と同様にエッチングを行うことが可能である。
【0037】
次に、図2に示すステップ110(S110)の振動板層形成工程を行う。具体的には図1(d)に示すように、基板61のエッチングされた面に耐インク膜と振動板とを兼用する振動板層64を形成する。この振動板層64は、振動板と耐インク膜とを兼用するものであり、下部電極層62の表面においては厚く、それ以外の基板61の表面には薄く形成されている。振動板層64を構成する材料としては、SiCN、SiO、ZiO等がある。尚、耐インク膜は、基板61がステンレスにより形成されている場合、基板61とインクとが接触することにより、基板61に含まれるFe(鉄)等がインクに溶けることにより、インクに悪影響を与えることを防止するために設けられる。このため、振動板層64は、基板61をエッチングすることにより形成された圧力室の壁面のすべての面に成膜することができる方法であることが必要である。本実施の形態では、CVD法によりSiCN膜の成膜を行った。
【0038】
具体的に、CVD法の一つであるプラズマCVD法によりSiCN(炭窒化シリコン)膜を成膜する方法について説明する。
【0039】
プラズマCVD装置の真空チャンバー内に、基板61のエッチングがされた面に振動板層64が形成されるよう設置した後、排気する。真空チャンバー内を所定の圧力まで排気した後、真空チャンバー内にSiH(シラン)、NH(アンモニア)、CH(メタン)の混合ガスを導入する。この後、RF電界を印加しプラズマを発生させる。このときに印加するRFパワーは500〔W〕であり、振動板61は350〔℃〕に加熱されている。真空チャンバー内に導入されたSiH(シラン)、NH(アンモニア)、CH(メタン)の混合ガスは、プラズマ中で反応し、これにより生じたSiCNが膜として振動板61上に形成される。この時の真空チャンバー内の圧力は67〔Pa〕である。この成膜法で成膜されたSiCN膜は緻密なアモルファス膜となる。これにより、SiCN膜は、は下部電極層62上には、振動板として機能する膜として、8〔μm〕形成され、基板61のエッチングにより形成された圧力室側面には、耐インク層として機能する膜として、2〔μm〕形成される。
【0040】
尚、ZrO(酸化ジルコニウム)についても、プラズマCVD法で形成することが可能であるが、成膜時の基板温度は550〔℃〕で行われる。
【0041】
この後、図2に示すステップ112(S112)の上部電極層形成工程を行う。具体的には図1(e)に示すように、上部電極層65としてAu(金)等の導電性材料をスパッタリング法により形成する。尚、上部電極層65の形成される幅Cwは、基板61にエッチングにより形成された圧力室の幅Hwと同じか、それよりも狭い領域に形成する。具体的には、上部電極層65の幅Cwは、圧力室の幅Hwの80%〜100%となるよう、上部電極層65が、圧電体層63、下部電極層62を介し、基板61のエッチングされていない領域と重複しない領域に形成する。
【0042】
本実施の形態では、上部電極層65は一辺の幅Cwが、225〔μm〕の正方形状に形成されており、エッチングにより形成された圧力室の幅Hw:250〔μm〕に対し、90〔%〕である。このように、圧力室の形成されている領域よりも、狭い領域に上部電極層65を形成するのは、圧電体層63と基板61が下部電極層62を介し、重なっている領域では、熱処理工程において、基板61から圧電体層63への原子の拡散、又は、圧電体層63から基板61への原子の拡散が生じているため、この領域の圧電体層63は特性上劣化しているからである。特に、基板61の材料としてステンレスを用いた場合では、基板61から圧電体層63にFeが拡散し、この領域の圧電体層63は、導電性を有してしまうため、上部電極層65と下部電極層62との間に電界を印加しても電流が流れてしまい、変位が生じず圧電素子としての機能を発揮しないからである。
【0043】
この後、図2に示すステップ114(S114)のノズルプレート接着工程を行う。具体的には、図4に示すようにノズルプレート66を基板61のエッチングのされた面に接着する。これにより液体吐出ヘッドが完成する。
【0044】
尚、本実施の形態では、ステップ112において上部電極層65の形成を行ったが、上部電極層65の形成は、ステップ104の圧電体層形成工程以降であればよい。具体的には、ステップ104の圧電体層形成工程とステップ106のエッチング工程の間、ステップ106のエッチング工程とステップ108の熱処理工程の間、ステップ108の熱処理工程とステップ110の振動板形成工程の間のいずれにおいても上部電極層65の形成を行うことが可能である。
【0045】
このように形成された液体吐出ヘッドは、加工精度やコストの観点から、Si(シリコン)または、ステンレス(SUS)を基板として用い、圧電体をAD法及びスクリーン印刷法により形成した場合、高温(700〔℃〕以上)での焼成が必要となる。しかしながら、本発明では、基板61と圧電体層63とは下部電極層62を介し、圧電体層63の両端で重複しているため、基板61から圧電体層63への元素の拡散による圧電体層63の特性劣化といった影響を低減することができる。
【0046】
さらに圧力室では、インクに与える悪影響を防止するため、圧力室壁面に耐インク膜を形成する必要があるが、本発明では、この耐インク膜と振動板とを同一材料により同時に形成しているため、工程の簡略化、コストダウンが図れる。
【0047】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図5は、本発明の実施形態に係る画像形成装置であるインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。図5に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」と称する場合あり)12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、ヘッド12K、12C、12M、12Yのノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16(記録媒体)の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26を備えている。
【0048】
図5では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0049】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図5のように、裁断用のカッター28が設けられており、前記カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、前記固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0050】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0051】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0052】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくともヘッド12K、12C、12M、12Yのノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
【0053】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図5に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。 ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図5中不図示、図9に符号88で図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図5において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図の左から右へと搬送される。
【0054】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0055】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。従って、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0056】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0057】
図6は、インクジェット記録装置10の印字部12周辺を示す要部平面図である。
【0058】
図6に示すように、印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドを有している。印字部12を構成する各ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0059】
記録紙16の搬送方向に沿って上流側(図6の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0060】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙送り方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち、1回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、ヘッドが紙送り方向と直交する主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0061】
なお本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能である。
【0062】
図5に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0063】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、前記イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0064】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0065】
印字検出部24は、各色のヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0066】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいため、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0067】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことができ、画像の耐候性がアップする効果がある。
【0068】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0069】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
【0070】
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0071】
〔液体吐出ヘッドの構成〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別の各ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0072】
図7(a) はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図7(b) はその一部の拡大図である。また、図7(c) はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図である。
【0073】
記録紙16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図7(a)〜(c) に示したように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室(液室)52、供給口54等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)を狭め、高密度化を達成している。
【0074】
紙送り方向と略直交する主走査方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図7(a)の構成に代えて、図7(c) に示すように、複数のノズル51が2次元状に配列された短尺のヘッドブロック50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
【0075】
なお、本例では圧力室52の平面形状が略正方形である態様を示したが、圧力室52の平面形状は略正方形に限定されず、略円形状、略だ円形状、略平行四辺形(ひし形)など様々な形状を適用することができる。また、ノズル51や供給口54の配置も図7(a)〜(c)に示す配置に限定されず、圧力室52の略中央部にノズル51を配置してもよいし、圧力室52の側壁側に供給口54を配置してもよい。
【0076】
図7(b) に示すように、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0077】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0078】
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造や、2列の千鳥配置されたノズル列を有する構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0079】
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、記録媒体の幅方向(主走査方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
【0080】
特に、図7(a)〜(c)に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。
【0081】
一方、上述したフルラインヘッドと記録紙16とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
【0082】
なお、本実施形態ではフルラインヘッドを例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、記録紙16の幅よりも短い長さのノズル列を有する短尺のヘッドを記録紙16の幅方向に走査させながら、記録紙16の幅方向の印字を行うシリアル型ヘッドにも適用可能である。
【0083】
尚、図7(a)〜(c)に示すように、各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部に形成されたノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して不図示の共通流路(共通液室)と連通されている。前記共通流路は不図示のインク供給タンクと連通しており、前記インク供給タンクから供給されるインクは前記共通流路を介して各圧力室52に分配供給される。
【0084】
〔液体吐出ヘッドの構造〕
次に、液体吐出ヘッドの構造の詳細について図3に基づき説明する。
【0085】
図3は、インク室ユニット53の立体的構成を示す断面図である。
【0086】
図3に示すように、インク室ユニット53は、ノズルプレート66に設けられたインクを吐出するノズル51と連通する圧力室52によって形成され、不図示の供給口を介してインクを供給する不図示の共通液室と連通している。圧力室52の一面(図では天面)は振動板層64により形成された振動板56で構成され、その上部には、下部電極層62が形成され、更にその上部には、振動板56を変形させる超音波発生素子である圧電体層63が接合されており、圧電体層63の上面には上部電極層65が形成されている。この下部電極層62、圧電体層63、上部電極層65により圧電素子58が形成される。
【0087】
圧電体層63は、下部電極層62と上部電極層65によって挟まれており、下部電極層62と上部電極層65との間に駆動電圧を印加することによって変形する。圧電体層63の変形によって振動板56が変形し、圧力室52の容積が縮小して、圧力室52内のインクに圧力がかかり、ノズル51からインクが吐出されるような構造となっている。下部電極層62と上部電極層65との間に印加されていた電圧が解除されると圧電体層63がもとに戻り、圧力室52の容積が元の大きさに回復し、不図示の共通液室から不図示の供給口を通って新しいインクが圧力室52に供給されるようになっている。また、振動板層形成工程において、振動板56の形成と同時に圧力室52の側面に形成された耐インク層67により、基板61を構成する材料がインクに溶け込み、悪影響を与えることを防止している。
【0088】
〔吐出回復装置〕
図8は、インクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク90は印字ヘッド50にインクを供給するための基タンクであり、図5で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インクタンク90の形態には、インク残量が少なくなった場合に、補充口(図示省略)からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を替える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じて吐出制御を行うことが好ましい。なお、図8のインクタンク90は、先に記載した図5のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
【0089】
図8に示したように、インクタンク90と印字ヘッド50を繋ぐ管路の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ92が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは印字ヘッド50のノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
【0090】
なお、図8には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
【0091】
また、インクジェット記録装置10には、ノズルの乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ94と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード96とが設けられている。
【0092】
これらキャップ94及びクリーニングブレード96を含むメンテナンスユニットは、図示を省略した移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動されるようになっている。
【0093】
キャップ94は、図示しない昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。昇降機構は、電源OFF時や印刷待機時にキャップ94を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aのノズル領域をキャップ94で覆うようになっている。
【0094】
クリーニングブレード96は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示を省略したブレード移動機構により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル面50A)に摺動可能である。ノズル面50Aにインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード96をノズル面50Aに摺動させることでノズル面50Aを拭き取り、ノズル面50Aを清浄化するようになっている。
【0095】
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、そのノズル51近傍のインク粘度が上昇した場合、粘度が上昇して劣化したインクを排出すべく、キャップ94に向かって予備吐出が行われる。
【0096】
すなわち、印字ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ(圧電素子58)が動作してもノズル51からインクが吐出しなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(圧電素子58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かって圧電素子58を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード96等のワイパーによってノズル面50Aの汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
【0097】
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内のインク)に気泡が混入した場合、印字ヘッド50にキャップ94を当て、吸引ポンプ97で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク98へ送液する。この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも行われ、粘度が上昇して固化した劣化インクが吸い出され除去される。
【0098】
具体的には、ノズル51や圧力室52内に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、圧電素子58を動作させる予備吐出ではノズル51からインクを吐出できなくなる。このような場合、印字ヘッド50のノズル面50Aに、キャップ94を当てて圧力室52内の気泡が混入したインク又は増粘インクをポンプ97で吸引する動作が行われる。
【0099】
ただし、上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。したがって、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。なお、図8で説明したキャップ94は、吸引手段として機能するとともに、予備吐出のインク受けとしても機能し得る。
【0100】
また、好ましくは、キャップ94の内側が仕切壁によってノズル列に対応した複数のエリアに分割されており、これら仕切られた各エリアをセレクタ等によって選択的に吸引できる構成とする。
【0101】
〔制御系の説明〕
図9はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0102】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal serial bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0103】
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0104】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42(図5に図示)等のヒータ89を駆動するドライバである。
【0105】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド12のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御(打滴制御)が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0106】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図9において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0107】
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色のヘッド12K,12C,12M,12Yの圧電素子58を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0108】
印字検出部24は、図5で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
【0109】
なお、システムコントローラ72及びプリント制御部80は、1つのプロセッサから構成されていてもよいし、システムコントローラ72とモータドライバ76及びヒータドライバ78とを一体に構成したデバイスや、プリント制御部80とヘッドドライバとを一体に構成したデバイスを用いてもよい。
【0110】
以上、本発明に係る液体吐出ヘッド及び画像形成装置について詳細に説明した。本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行うことは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法の工程図
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法のフローチャート
【図3】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法において圧電体層を形成した状態の上面図
【図4】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法により製造された液体吐出ヘッドの断面図
【図5】本発明に係る画像形成装置の全体構成図
【図6】本発明に係る画像形成装置の印字部周辺の要部平面図
【図7】液体吐出ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図8】液体吐出ヘッドのインク供給系の概略を示す構成図
【図9】本発明に係る画像形成装置のシステム構成例を示す要部ブロック図
【符号の説明】
【0112】
61…基板、62…下部電極層、63…圧電体層、64…振動板層、65…上部電極層、66…ノズルプレート、Ht…基板厚、Pt…圧電体層厚、Pw…圧電体層幅、Hw…基板エッチング幅、Cw…上部電極層幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極層を形成する下部電極層形成工程と、
前記下部電極層上に圧電体層を形成する圧電体層形成工程と、
前記圧電体層により覆われた領域の範囲内であって、前記領域よりも狭い領域について、前記基板の圧電体層の形成された面の反対面より、前記基板を下部電極層までエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程終了後、前記圧電体層の熱処理を行う熱処理工程と、
前記熱処理工程終了後、前記エッチング工程においてエッチングされた基板面に、耐インク性を有する材料からなる耐インク膜と振動板とを兼用する振動板層を形成する振動板層形成工程と、
前記圧電体層上に上部電極層を形成する上部電極層形成工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記上部電極層形成工程において、形成される上部電極層が、圧電体層及び下部電極層を介し、前記エッチング工程により基板がエッチングされた領域の範囲内であって、前記領域と同じ、または、前記領域よりも狭い領域であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記圧電体層形成工程における圧電体層の形成方法が、エアロゾルデポジション法またはスクリーン印刷法で形成することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記振動板層形成工程における振動板層の形成方法がCVD法であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記振動板層形成工程における振動板層が、SiCN、ZrO、SiOからなる材料により構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記基板を構成する材料の熱膨張係数をSk、前記下部電極層を構成する材料の熱膨張係数をCk、前記圧電体層を構成する材料の熱膨張係数をPkとした場合、
Sk<Ck<Pk 又は、 Pk<Ck<Sk
であることを特徴とする請求項1から5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6に記載された液体吐出ヘッドの製造方法により製造された液体吐出ヘッドを有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−283729(P2007−283729A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116703(P2006−116703)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】