説明

液体吐出ヘッド用基板の製造方法

【課題】インク供給口を簡便に短時間で製造することが可能な液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子が設けられた第1の面と第1の面の裏面である第2の面とを有するシリコン基板1と、シリコン基板1を貫通し液体を素子へ供給するための供給口13と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、シリコンをウェットエッチングするためのエッチング液に対する被エッチングレートがシリコンより低い材料からなる層4が第2の面に設けられたシリコン基板1を提供する工程と、第2の面においてシリコンが露出した部分が枠の形状になるように層4を部分的に除去して、第2の面において部分を形成する工程と、部分から第1の面に向かってエッチング液を使用してシリコン基板1をウェットエッチングすることにより、供給口13をシリコン基板1に形成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板の製造方法に関し、具体的には被記録媒体にインクを吐出することにより記録を行うインクジェット記録ヘッドに用いられるインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの適用例としては、インクをエネルギーにより液滴として記録媒体(通常は、紙)に吐出することで記録を行うインクジェット記録ヘッドが挙げられる。
【0003】
インクジェット記録ヘッドでは、表面にエネルギー発生素子が搭載されている基板の裏面から、裏面と表面とを貫通する供給口を通じてエネルギー発生素子にインクを供給する方式が知られている。このタイプのインクジェット記録ヘッド用の基板の製造方法が、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の製造方法では、シリコン基板裏面のエッチングマスク層に開口部を形成し、開口部内に露出したシリコンにドライエッチング、レーザー等で凹部を形成し、該凹部からシリコン基板にウェットエッチングを行って供給口を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0212890号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の方法では、基板の裏面の供給口に相当する領域全体に開口を形成するため、エッチングマスク層にパターニングを行う必要があり、その工程にはフォトリソグラフィープロセスが必要である。
【0007】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、インク供給口を簡便に短時間で製造することが可能な液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法は、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子が設けられた第1の面と該第1の面の裏面である第2の面とを有するシリコン基板と、該シリコン基板を貫通し液体を前記素子へ供給するための供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、シリコンをウェットエッチングするためのエッチング液に対する被エッチングレートがシリコンより低い材料からなる層が前記第2の面に設けられた前記シリコン基板を提供する工程と、前記第2の面においてシリコンが露出した部分が枠の形状になるように前記層を部分的に除去して、前記第2の面において前記部分を形成する工程と、前記部分から前記第1の面に向かって前記エッチング液を使用して前記シリコン基板をウェットエッチングすることにより、前記供給口を前記シリコン基板に形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インク供給口を短時間で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1のインクジェット記録ヘッドの構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態1のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するための図である。
【図3】実施形態1のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するための図である。
【図4】実施形態1のインクジェット記録ヘッドの製造方法における製造過程中の状態を示す図である。
【図5】実施形態1のインクジェット記録ヘッドの製造方法における製造過程中の状態を説明するための図である。
【図6】実施形態1のインクジェット記録ヘッドの製造方法における製造過程中の状態を説明するための図である。
【図7】実施形態2のインクジェット記録ヘッドの製造方法における製造過程中の状態を示す図である。
【図8】実施形態2のインクジェット記録ヘッドの製造方法における製造過程中の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して本発明の実施形態について説明を行う。なお、以下の説明では、液体吐出ヘッドの一例としてインクジェット記録ヘッドを、液体吐出ヘッド用基板の一例としてインクジェット記録ヘッド用基板を例にとって説明する。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく、液体吐出ヘッドは、印刷分野のみならず、回路形成等さまざまな産業分野に適用可能なものであり、液体吐出ヘッド用基板はそのような液体吐出ヘッドに搭載される基板として利用可能である。
【0012】
また、以下の説明では同様の機能を有する部材については、図中において同じ符号で指示し、その説明を省略することがある。
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット記録ヘッドを示す斜視図である。図1に示すインクジェット記録ヘッド10は、インク等の液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2が所定のピッチで2列に並んで配置されているシリコン基板1を有する。シリコン基板1上には、密着層としてポリエーテルアミド層(不図示)が形成されている。更に、シリコン基板1上には、流路側壁と、エネルギー発生素子2の上方に位置するインク吐出口11と、を備える有機膜層6が形成されている。また、シリコン基板1には、インク供給口13が、エネルギー発生素子2の列の間に形成されている。さらに、インク供給口13から各インク吐出口11に連通するインク流路が形成されている。
【0014】
インクジェット記録ヘッド10は、インク吐出口11が形成された面が記録媒体の記録面に対面するように配置される。そして、インク供給口13からインク流路内に充填されたインク(液体)に、エネルギー発生素子2によって圧力が加えられると、インク吐出口11からインク液滴が吐出する。このインク液滴が、記録媒体に付着することによって、画像を形成する。なお、「画像を形成する」とは、文字、図形、記号等といった何らかの意味を持つ画像を形成する場合のみでなく、幾何学的パターン等の特定の意味を持たない画像を形成する場合も包含する。
【0015】
本発明の製造方法では、エッチングマスク層にレーザー、ドライエッチング等の加工にてインク供給口の開口を形成するための枠状のパターンを形成し、その後、結晶異方性エッチングを行う。以下にこの製造方法について詳しく説明する。
【0016】
図3は、インクジェット記録ヘッド10の製造方法を説明するための断面図であり、図1に記載の切断線A−Aに沿った断面図である。また図2は、インクジェット記録ヘッド10の製造方法を説明するための図である。図2(a)は、図1に記載の切断線A−Aに沿った断面図である。図2(b)は、シリコン基板1の裏面(第1の面)の平面図である。なお、図2(a)では、インク供給口13が形成される前の状態を示す。また、図4(a)は、図1に記載の切断線A−Aに沿った断面図である。図4(b)は、シリコン基板1の裏面(第1の面)の平面図である。なお、図2、図4では、インク供給口13が形成される前の状態を示している。
【0017】
図3(a)に示されるように、吐出口11が設けられた吐出口部材としての有機膜層6を備えたシリコン基板1を用意する。シリコン基板1の表面(第2の面)には、エネルギー発生素子2がシリコン基板1の長手方向に沿って2列に並べられている。このエネルギー発生素子2は、Alなどからなる配線や、TaSiN、TaNに代表される高抵抗材料などで構成される。また、シリコン基板1の表面には、インク供給口13の表面側の開口幅を規定するための犠牲層5を形成することができる。この犠牲層5の材料としてAlが用いられると、配線と同時に犠牲層5を形成できるので効率的である。犠牲層5が形成された後、エネルギー発生素子2および犠牲層5を覆うように絶縁保護膜3が形成される。この絶縁保護膜3は、シリコンの酸化膜、シリコンの窒化膜などからなり、インクやその他の液体からシリコン基板1に形成された配線を守ると共に、インク供給口13を形成する時のエッチングストップ層としての役割も担っている。絶縁保護膜3の上には、フォトリソグラフィープロセスを用いて密着層(不図示)及び有機膜層6が積層され、インク流路およびインク吐出口11が形成される。また、シリコン基板1は裏面に、エッチングマスク層4を備えている。このエッチングマスク層4のシリコンのエッチング液に対する被エッチングレートは、シリコンの該エッチング液に対する被エッチングレートより低い。エッチングマスク層4はシリコンのエッチング液に対して、十分耐性があることが好ましく、シリコン基板1の裏面に少なくとも1層以上形成される。例えば、エッチングマスク層4は、SiOに代表される絶縁膜、Mo、Au、TiNまたはTiに代表される金属膜、無機膜、および有機膜が形成される。なお、熱酸化膜SiOを用いれば、表面の絶縁保護膜3と同時に形成できるので、製造時間が短縮できる。
【0018】
また、エッチングマスク層4を形成する工程において、シリコン基板1の裏面にゴミ等があった場合には、それに起因して、エッチングマスク層4に微小な欠陥が発生することが想定され得る。そのようなケースに備えるため、ピンホール(不図示)が存在したとしてもそれを被覆できるような保護膜16を形成することもできる。保護膜16の材料は有機膜、無機膜といった膜が選択出来るが、Siとの密着性の観点からSiO、SiO2などのシリコンの酸化物、SiNなどのシリコンの窒化物、SiCといったシリコンをベースとした膜が適している。また形成方法はスピンコートやスパッタといった周知の方法で形成すれば良い。本実施形態ではTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)エッチング液の保護膜16としてポリシラザンを用いてエッチングマスク層4上にSiO2膜を焼成にて形成した。ポリシラザンは下記の式(1)に示すように空気中の水と反応してSiO2膜を形成する。
【0019】
-(SiH2NH)-+2H2O → SiO2+NH3+2H2・・・(1)
高温で焼成する程エッチング耐性が強くなり、エッチング時間を考慮すると、250℃以上の焼成を行うことが好適である。
【0020】
無論、図3(b)に示されるように、保護膜16を設けない構成をとってもよい。
【0021】
次に、エッチングマスク層4におけるインク供給口13に対応する部分に、レーザー照射にて保護層16、エッチングマスク層4を部分的に除去して、図2(b)に示すような枠の形状の溝7を形成する。この一つの枠は一つの供給口13に対応する。保護層16、エッチングマスク層4を部分的に除去することで、枠の形状に露出されたシリコンは枠の内側の領域に保護層16とエッチングマスク層4とを囲むように設けられている。尚、本実施形態では保護膜16上からレーザー加工を行っている。このレーザー加工工程では、シリコンへの吸収率に優れるYAGレーザーの3倍波(波長355nm)がレーザー種として用いられ、出力4.5W程度、周波数30kHz程度の条件で溝7が形成される。枠形状の溝7は、エッチングマスク層4を貫通し、シリコン基板1の裏面から約10μm程度の深さになるように形成される。
【0022】
また、図3(b)のように保護膜16を設けない場合には、図4(a)に示されるように、エッチングマスク層4のみを貫通してシリコン基板1に溝7が設けられる。
【0023】
図2(a)、4(a)に記載されている各寸法については以下のとおりである。
【0024】
tはエッチングマスク層4の厚さを示し、Tはシリコン基板1の厚さを示す。また、Xは、シリコン基板1の長手方向に延びる中心線14から該中心線14に沿って形成されている溝7の中心までの距離を示す。Lは、犠牲層5の幅を示し、これはシリコン基板1の表面におけるインク供給口13の開口領域のシリコン基板1の短手方向の幅となる。またDは溝7の深さである。
【0025】
シリコン基板1の厚さTは、600μm〜750μm程度、溝7の深さDはおおよそ5〜20μm程度である。シリコン基板1に溝7を形成せずに、レーザー照射でエッチングマスク層4のみを枠状に除去してシリコンを露出するにとどめてもよい。シリコンが露出されれば、シリコンエッチング液により、裏面側(第1の面側)から表面側(第2の面側)へのエッチングが可能である。
【0026】
図5は、溝7の他のパターンを示す図である。図5(a)は、図1に示す切断線A−Aに沿った断面図である。図5(b)は、エッチングマスク層4で覆われたシリコン基板1の裏面の平面図である。溝7は、図2(b)に示すように枠状に形成されるのではなく、図5(b)に示すように格子状に形成されてもよい。溝7のうち、最外枠の部分7aの内側に対辺部7dが設けられ、格子形状を形成している。最外枠の部分7aのうち、シリコン基板1の長手方向に伸びる長手部分7b(長さをRとする)同士と繋がる短手部分7c(長さをQとする)と、対辺部7dはほぼ平行であり、短手部分7cと同様に対辺部7dは長手部分7b同士を連結している。
【0027】
溝7が格子状に形成される場合、図5(b)に示すシリコン基板1の長手方向における溝7のピッチPの値に応じてレーザー加工時間、および後述するエッチング工程におけるエッチング速度が変化する。
【0028】
表1は、本実施形態の製造方法において、図5で示される溝7の形状を採用した場合において、溝7のシリコン基板1の長手方向のピッチPに対するエッチング速度及びレーザー加工時間の関係を示す表である。なお、長さRは15200μmであり、長さQは700μmである。
【0029】
【表1】

表1において、エッチング速度が◎(二重丸)というのは、後述するエッチング工程において10時間でシリコンの面方位の一つである{100}面が形成できることを意味する。また、エッチング速度が○(丸)というのは、エッチング工程において10時間で{100}面は形成できないがエッチングが犠牲層5まで進行したときには{100}面が形成できることを意味する。一方、レーザー加工時間については、溝7の形成に要する時間が図2(b)に示す格子枠状に形成するときに比べ2倍以内である場合には◎(二重丸)で示し、2倍を越える場合には○(丸)で示す。表1に示すように、ピッチPが狭いほどレーザー加工時間は長くなるがエッチング時間は短くなる。従って、エッチング速度を従来と同等レベルにする場合にはピッチPは800μm以下とすることが好ましい。さらに、レーザー加工時間も考慮すると、ピッチPは600〜800μmであることが好ましい。
【0030】
なお、溝7を格子状に形成する場合、図5(b)に示すようなシリコン基板1の長手方向に区画された形状に限らず、短手方向に区画された形状であってもよい。また、レーザー加工工程において、溝7の深さDは、下記の式(2)の関係を満たすことが好ましい。(図2(a)参照)。
【0031】
t≦D≦T−(X−L/2)tan54.7°・・・(2)
上記の式(2)において、tはエッチングマスク層4の厚さを示し、Tはシリコン基板1の厚さを示す。また、Xは、シリコン基板1の長手方向に延びる中心線14から該中心線14に沿って形成されている溝7の中心までの距離を示し、Lは、犠牲層5のシリコン基板1の短手方向に沿った方向の幅を示す。
【0032】
溝7が上記の式(2)を満たすように形成されれば、被エッチング領域が犠牲層5の領域内に収まるので、シリコン基板1の表面におけるインク供給口13の開口領域の開口幅を犠牲層5の幅Lとすることができる。なお、犠牲層5の幅Lが十分に大きい場合、(X−L/2)がマイナスとなることがあるが、この場合は、T、tの値に関わらず犠牲層5内に被エッチング領域が到達することになる。そのため、この場合においても式(2)は成立する。
【0033】
レーザー加工工程が終了すると、溝7から犠牲層5まで結晶異方性エッチングにてシリコン基板1を貫通させてインク供給口13を形成するエッチング工程が実施される。このエッチング工程では、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)の水溶液が、シリコンをウェットエッチングするためのエッチング液として使用される。このエッチング工程におけるシリコン基板1内部の状態について図6を参照しながら説明する。図6は、実施形態1のエッチング工程におけるシリコン基板1の内部の状態を示す図である。まず、シリコン基板1の裏面から表面へ向かう方向に幅が狭まるように、シリコンの面方位の一つである{111}面21a、21b、21c、および21dが形成される。点線部は当初の溝7が存在していた個所である。この時、エッチングマスク層4は、シリコン基板1の厚さ方向に垂直な方向にエッチングされる(図6(a)参照)。
【0034】
図6(a)に示す状態から更にエッチングが進行すると、{111}面21aと{111}面21b、及び{111}面21cと{111}面21dとがそれぞれ頂部で交差しシリコン基板1の厚み方向には見かけ上エッチングが進まなくなる。しかし、エッチングマスク層4において、シリコン基板1の厚さ方向に垂直な方向にエッチングが進むので、エッチングされた部分から新たに結晶異方性エッチングが進行する。この進行に伴いシリコン基板1の厚さ方向と、該厚さ方向に垂直な方向とにエッチングは進行する(図6(b)参照)。図6(b)に示す状態から更にエッチングが進行すると、溝7の間に残っているエッチングマスク層4がエッチングされ、溝7の間に{100}面22が形成される(図6(c)参照)。図6(c)に示す状態からさらにエッチングが進行すると、{100}面22がシリコン基板1の表面へ向かい、最終的に犠牲層5に到達する。また、本実施形態でのエッチング時間は1450分でインク供給口13を形成している。ポリシラザンの保護膜16の厚さと、TMAHに対する被エッチングレートを制御して、ポリシラザンの保護膜16がTMAHによって全体的に除去される時間と、シリコン基板1に対するエッチング時間とを合わせることが可能となる。こうすることで、シリコン基板1に貫通口を形成された時点で保護膜16が除去された状態(図6(e)参照)を得ることが可能である。犠牲層5を除去してエッチング工程が完了する。エッチングマスク層4にピンホールが存在した場合でも、短いエッチング時間であれば、その影響は軽微であるので、ポリシラザンの保護膜16が除去されたあとも、エッチングを継続することも可能である。ポリシラザンの保護膜16は必ず除去しなければいけないわけではない。保護膜16を除去するか、残すかは、シリコン基板1の裏面に塗布される接着剤と、保護膜16との相性等を考慮して選択すればよい。なお、この接着剤は、インクジェット記録ヘッドを組み立てる上で、シリコン基板1の裏面側と、シリコン基板1を支持するためにアルミナなどで構成される支持部材とを接着する際に塗布される。
【0035】
最後に、図6(f)に示すように、絶縁保護膜3におけるインク供給口13の開口領域を覆う部分をドライエッチングにて除去する。これにより、インク供給口13と連通するインク流路100が形成される。
【0036】
以上の工程を経て、インク供給口13から流入したインクをインク供給口11から吐出させるノズル部が形成されたシリコン基板1(インクジェット記録ヘッド用基板)が完成する。そして、このシリコン基板1をダイシング等によって切断分離してチップ化し、各チップにエネルギー発生素子2を駆動させる電気配線の接合を行った後、インク供給用のチップタンク部材を接合する。これにより、インクジェット記録ヘッド10が完成する。
【0037】
本実施形態では、レーザー照射で溝7を形成することで、エッチングマスク層4のパターニング工程をフォトリソグラフィープロセスで実施する従来の方法よりも1ロット当たり240分短縮することが可能となる。
【0038】
(実施形態2)
図7は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するための図である。図7(a)は、本実施形態のインクジェット記録ヘッド12について、図1に記載の切断線A−Aに相当する切断線に沿った断面図である。図7(b)は、インクジェット記録ヘッド12においてシリコン基板1の裏面の平面図である。なお、実施形態1で説明したインクジェット記録ヘッド10と同様な構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、インクジェット記録ヘッド12は、シリコン基板1の表面構造、および上述した成層工程(エッチングマスク層4を形成する工程)がインクジェット記録ヘッド10と同様であるので、これらの説明も省略する。
【0039】
インクジェット記録ヘッド12では、レーザー加工工程において、まず、溝7が格子状に形成される。これは第1の実施形態において説明したものと同様であり、溝7のうち、最外枠の部分7aの内側にピッチPで対辺部7dが設けられ、格子形状を形成している。最外枠の部分7aのうち、基板1の長手方向に伸びる長手部分7b(長さをRとする)同士と繋がる短手部分7c(長さをQとする)と、対辺部7dはほぼ平行であり、短手部分7cと同様に対辺部7dは長手部7b同士を連結している。
【0040】
続いて、図7(a)に示すような深凹部としての先導孔8が、溝7の最外枠の部分7aに囲まれた領域内に形成される。この先導孔8は、エッチングマスク層4およびに保護膜16を貫通し、終端部がシリコン基板1の内部にある未貫通孔である。本形態おいては、対辺部7dの一部が先導孔8となっている。また、先導孔8は、図7(b)に示すように、シリコン基板1の長手方向に沿って2列に並べられている。なお、先導孔8は、インク供給口13の開口部(シリコン基板1の裏面側の開口部)の内部に形成されればよく、先導孔8の配置、および数は限定されない。先導孔8が溝7に重ねて配置されると、エッチング工程においてエッチング液が先導孔8に入り込みやすく、異方性エッチングが速く進むようになる。そのため、このようにして先導孔8を配置することが好ましい。この場合、先導孔8が設けられた個所は溝7の中で、その周囲よりも深くシリコン基板1の表面側に向かって凹むこととなる。シリコン基板1の厚さが700〜750μm程度の場合、溝7の外枠部の深さDが5〜20μmとなる。溝7を形成するためには、まずレーザーの1パルスまたは複数パルスを基板の1の裏面の一箇所にショットする。ついで、先のショットの中止からレーザースポット径の約半分ずらした位置を中心として同じようにレーザーを照射してこれを繰り返す。これにより、中心個所が違う位置に形成された穴同士が連続することで溝7が完成する。先導孔8の深さDSは350〜650μmであり、溝7を形成したときよりも多い数のレーザーパルスを基板1に対してショットして深凹部である先導孔8を溝7内に形成する。本実施形態では、溝7は、図7(b)に示すように、先導孔8と重なる部分を持ち、シリコン基板1の長手方向のピッチが800μmとなる格子状に形成される。ピッチを800μmとしたのは、実施形態1で説明したようにエッチング速度およびレーザー加工時間を考慮したからである(表1参照)。
【0041】
レーザー加工工程が終了すると実施形態1と同様にエッチング工程が実施される。このエッチング工程では、実施形態1と同様にTMAHをエッチング液として使用し、保護膜16から犠牲層5に至るインク供給口13が形成される。ここで、本実施形態のエッチング工程におけるシリコン基板1内部の状態について図8を参照しながら説明する。図8は、実施形態2のエッチング工程におけるシリコン基板1の内部の状態を示す図である。まず、シリコン基板1の裏面から表面へ向かう方向に幅が狭まるように{111}面31a、31b、31c、および31dが形成される。同時に、先導孔8、および溝7からシリコン基板1の厚さ方向に垂直な方向にエッチングが進む。また、シリコン基板1の裏面側のインク供給口13の開口部においては、シリコン基板1の裏面から表面へ向かう方向に幅が広がるように{111}面32a、32bが形成される(図8(a)参照)。
【0042】
図8(a)に示す状態から更にエッチングが進行すると、{111}面31bと{111}面31cとが接し、この接合によって形成された頂部からさらにシリコン基板1の表面に向かう方向にエッチングが進行する。また、{111}面31aと{111}面32a、および{111}面31dと{111}面32bとがそれぞれ交差し、シリコン基板1の厚さ方向に垂直な方向にエッチングが見かけ上進行しなくなる(図8(b)参照)。
【0043】
図8(b)に示す状態から更にエッチングが進行すると、2列に並べられた先導孔8の間に{100}面33が形成される(図8(c)参照)。この{100}面33は、エッチングの進行と共にシリコン基板1の表面へ向かい、最終的に犠牲層5に到達する。そして犠牲層5が除去されて、エッチング工程が完了する(図8(d)参照)。
【0044】
最後に、図8(e)に示すように、絶縁保護膜3におけるインク供給口13のシリコン基板1の表面側の開口部を覆う部分をドライエッチングにて除去する。これにより、インク供給口13とインク流路100が連通される。その後エッチングマスク層4を除去してもよい。
【0045】
以上の工程を経て、ノズル部が形成されたシリコン基板1(インクジェット記録ヘッド用基板)が完成する。その後は、実施形態1と同様の加工が実施されてインクジェット記録ヘッド12が完成する。
【0046】
本実施形態では、溝7とともに先導孔8をレーザー照射にて形成することで、エッチングマスク層4のパターニング工程をフォトリソグラフィープロセスで実施する従来の方法よりも大幅に短縮することが可能となる。
【0047】
なお、実施形態1および実施形態2では、シリコン基板1の表面にインク流路となる部材を形成した後に、溝7および先導孔8を形成する旨の説明を行った。しかし、本発明では、この順序に限定されず、溝7、先導孔8、およびエッチングマスク層4が形成されたシリコン基板1を用意した後に、シリコン基板1の表面にインク流路となる部材を形成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 シリコン基板
4 エッチングマスク層
7 溝
13 インク供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子が設けられた第1の面と該第1の面の裏面である第2の面とを有するシリコン基板と、該シリコン基板を貫通し液体を前記素子へ供給するための供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
シリコンをウェットエッチングするためのエッチング液に対する被エッチングレートがシリコンより低い材料からなる層が前記第2の面に設けられた前記シリコン基板を提供する工程と、前記第2の面においてシリコンが露出した部分が枠の形状になるように前記層を部分的に除去して、前記第2の面において前記部分を形成する工程と、前記部分から前記第1の面に向かって前記エッチング液を使用して前記シリコン基板をウェットエッチングすることにより、前記供給口を前記シリコン基板に形成する工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記層に対してレーザーを照射することにより前記層を除去する、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記層から前記シリコン基板の内部に向かって加工を行い、前記第2の面に向かって前記シリコン基板を見た場合に、枠形状の溝を前記シリコン基板に形成する工程をさらに有する、請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記層はシリコンの窒化物または酸化物からなる、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記シリコン基板を熱酸化することにより前記シリコン基板の一部を酸化してシリコンの酸化物からなる前記層を前記第2の面に形成する工程をさらに有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記エッチング液として水酸化テトラメチルアンモニウムの水溶液を使用する、請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記溝は周囲よりも、前記シリコン基板に向かって深く凹んだ深凹部を有する、請求項3に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
一つの前記供給口に対応する前記溝の最外の枠よりも内側に前記深凹部が設けられる、請求項7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記第2の面に向かって見た場合に、前記枠の形状に露出されたシリコンはその内側の領域にある前記層を囲むように設けられている、請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子が設けられた第1の面と該第1の面の裏面である第2の面とを有するシリコン基板と、該シリコン基板を貫通し液体を前記素子へ供給するための供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
シリコンをウェットエッチングするためのエッチング液に対する被エッチングレートがシリコンより低い材料からなる層が前記第2の面に設けられた前記シリコン基板を提供する工程と、前記第2の面においてシリコンが露出した部分が格子の形状になるように前記層を部分的に除去して、前記第2の面において前記部分を形成する工程と、前記部分から前記第1の面に向かって前記エッチング液を使用して前記シリコン基板をウェットエッチングすることにより、前記供給口を前記シリコン基板に形成する工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子が設けられた第1の面と該第1の面の裏面である第2の面とを有するシリコン基板と、該シリコン基板を貫通し液体を前記素子へ供給するための供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
シリコンのエッチング液に対する被エッチングレートがシリコンより低い層を前記第2の面に有するシリコン基板を提供する工程と、前記層を貫通して前記シリコン基板に溝を形成するように前記第2の面に対してレーザーを照射することによって、前記第2の面において前記溝を格子の形状に形成する工程と、前記溝から前記第1の面に向かって前記シリコン基板をウェットエッチングすることにより、前記供給口を前記シリコン基板に形成する工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記溝は周囲よりも、前記シリコン基板に向かって深く凹んでいる深凹部を有する、請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
一つの前記供給口に対応する前記溝の最外の枠よりも内側に前記深凹部が設けられる、請求項12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−143701(P2011−143701A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34693(P2010−34693)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】