説明

液体吐出装置および印刷装置

【課題】液体の飛沫の付着による吐出不良を抑えつつ、ノズルの液滴吐出検査を高精度に行うことが可能な液体吐出装置、および印刷装置を提供する。
【解決手段】ロール紙プリンタ1は、往復移動可能なキャリッジ17と、このキャリッジ17に搭載された印刷ヘッド14と、印刷ヘッド14に設けられたインクノズルを有するノズル形成面14aに対して下方側から接離可能なヘッドキャップ44とを有し、ヘッドキャップ44は、ノズル形成面14aに対して離間する際に傾斜され、インク滴吐出検査の際に検出面がノズル形成面14aに対して平行となるように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させる液体吐出装置およびそれを備えた印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェットプリンタ等の印刷装置は、往復移動可能なキャリッジに搭載された印刷ヘッドが複数のノズルからインク滴を所望の位置に吐出することによって印刷を行うように構成されている。
このような印刷装置では、ヘッドのノズルの目詰まりを解消するためにノズル形成面にキャップを密着させてポンプによって吸い出すクリーニング処理が行われる。また、ノズル形成面に対して隙間をあけて配置したキャップ内にノズルから帯電インクを吐出して電流変化を検出し、正常にインク滴が吐出されているか否かを検査する液滴吐出検査も行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−264243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヘッドのノズル形成面に密着させたキャップを、ノズル形成面に対して平行に離間させると、ノズル形成面とキャップとの間に付着しているインクによりインク膜が形成される場合があり、その膜が破裂してインクが飛沫となってノズルに付着し、ノズルの吐出不良を起こしてしまう可能性がある。
そのため、ノズル形成面からキャップを離間させる際に、キャップを傾けて接触箇所の一部から徐々に離間させ、インク膜の形成を極力抑えることが行われている。
しかしながら、このように、キャップを傾けて離間させる構造であると、液滴吐出検査の際に、ノズル形成面とキャップ内の検出面とが平行とならず、各ノズルでの電流検出が不均一となり、液滴吐出検査精度の低下を招いてしまうことになり、好ましくない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、液体の飛沫の付着による吐出不良を抑えつつ、ノズルの液滴吐出検査を高精度に行うことが可能な液体吐出装置、および印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明に係る液体吐出装置は、
往復移動可能なキャリッジと、
前記キャリッジに搭載された吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドに設けられた吐出ノズルを有するノズル面に対して接離可能なヘッドキャップと、を有し、
所定の検査隙間をあけて配置された前記ヘッドキャップ内の検出面に前記吐出ノズルから帯電した液体を吐出させて前記ヘッドキャップ内での電流変化に基づいて前記吐出ノズルからの液滴の吐出状態を検査する液滴吐出検査が可能な液体吐出装置であって、
前記ヘッドキャップは、前記ノズル面に対して離間する際に傾斜され、前記液滴吐出検査の際に前記検出面が前記ノズル面に対して平行となるように配置されることを特徴とする。
【0007】
この構成の液体吐出装置によれば、ヘッドキャップが、ノズル面に対して離間する際に傾斜されるので、ヘッドキャップのノズル面からの離間時に、液膜が形成されることなく徐々に離間される。これにより、液膜の破裂により液が飛散してノズルに付着することによる吐出不良を防止することができる。
また、液滴吐出検査の際には、検出面がノズル面に対して平行となるようにヘッドキャップが配置されるので、液滴吐出検査時における電流検出の均一化を図ることができ、液滴吐出検査を高精度に行うことができる。
これにより、液体の飛沫の付着による吐出不良を抑えつつ、ノズルの液滴吐出検査を高精度に行うことができる。
【0008】
また、前記ヘッドキャップが設けられたキャップホルダを前記ノズル面に対して平行に近接及び離間方向へ移動させる移動機構と、前記ノズル面に対する前記ヘッドキャップの離間時に前記キャップホルダを傾ける案内カムと、を備えていることが好ましく、また、前記キャップホルダは、前記移動機構によって移動されるスライダに保持され、前記スライダに対して前記案内カムによって傾けられることが好ましい。
【0009】
この構成の液体吐出装置によれば、移動機構によってノズル面に対して平行に維持されて移動されるキャップホルダが、ノズル面から離間する際に案内カムによって傾けられるため、ヘッドキャップを、ノズル面に対して離間する際に傾斜させ、液滴吐出検査の際に検出面がノズル面に対して平行となるように配置させることができる。
【0010】
また、前記スライダは所定範囲内で前記キャリッジとともに移動可能であり、前記移動機構は、前記キャリッジとともに移動される前記スライダを、その移動に伴って前記吐出ヘッドに対する近接及び離間方向へ移動させるカム機構であることが好ましい。
【0011】
この構成の液体吐出装置によれば、スライダが所定範囲内でキャリッジとともに移動可能とされ、移動機構が、キャリッジとともに移動されるスライダを、その移動に伴って吐出ヘッドに対する近接及び離間方向へ移動させるカム機構であるため、キャリッジとともに移動されるスライダを、カム機構によって容易に吐出ヘッドに対する近接及び離間方向へ移動させることができ、構造の簡略化を図ることができる。
【0012】
また、本発明の印刷装置は、上記の何れかの液体吐出装置を備え、
前記吐出ノズルからインク滴を吐出させて被印刷物に印刷処理を行うことを特徴とする。
【0013】
この構成の印刷装置によれば、吐出ヘッドのノズルにおけるインク吐出の信頼性を高い状態に維持することができ、高品質に印刷を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る液体吐出装置、および印刷装置の実施形態の例を、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の実施形態に係る印刷装置であるロール紙プリンタの外観斜視図であり、図2は図1に示したロール紙プリンタのロール紙カバーを開いた状態の外観斜視図であり、図3は図1に示したロール紙プリンタの内部構成を示す概略側面図であり、図4は図1に示したロール紙プリンタからプリンタケースを取り外した状態の斜視図である。
【0015】
本実施形態のロール紙プリンタ1は、複数種のカラーインク液を使用してインクジェット方式によりロール紙にカラー印刷するものであり、図1に示すように、プリンタ本体2の外装をなすプリンタケース2aの前面には、ロール紙カバー3及びインクカートリッジカバー7が開閉自在に設けられている。また、プリンタケース2aの前面には、ロール紙の幅に対応した所定幅の記録紙排出口4が形成されている。記録紙排出口4の下側には排紙ガイド5が前方に突出しており、当該排紙ガイド5の側方にはロール紙カバー3を開くための開閉レバー6が配置されている。プリンタケース2aにおける排紙ガイド5および開閉レバー6の下側には、ロール紙を出し入れするための矩形の開口部2bが形成されており、この開口部2bがロール紙カバー3によって封鎖されている。
【0016】
開閉レバー6を操作するとロール紙カバー3のロックが解除される。ロック解除後、排紙ガイド5を前方に引くと、図2に示すように、ロール紙カバー3が下端部を中心として前方にほぼ水平になるまで開く。ロール紙カバー3が開くと、プリンタ内部に形成されているロール紙収納部11が開放状態となるとともに、ロール紙収納部11から記録紙排出口4に至る記録紙搬送経路が開放状態となり、プリンタ前方からロール紙の交換作業などを簡単に行うことができるようになっている。なお、図2においては、ロール紙カバー3の外装部分および開閉レバー6の図示を省略している。
【0017】
図3に示すように、ロール紙プリンタ1の内部には、本体フレーム10における幅方向の中央部分にロール紙収納部11が形成されている。ロール紙収納部11にはロール紙12がプリンタ幅方向にロール紙幅方向を沿わせた向きで収納される。
【0018】
ロール紙収納部11の上側には、本体フレーム10の上端にヘッドユニットフレーム13が水平に取り付けられている。ヘッドユニットフレーム13には、インクジェットヘッドである印刷ヘッド14、印刷ヘッド14の位置を検出するためのリニアスケール15およびエンコーダセンサ16、印刷ヘッド14およびエンコーダセンサ16を搭載しているキャリッジ17、キャリッジ17のプリンタ幅方向への移動をガイドするキャリッジガイド軸18が配置されている。また、キャリッジ17をキャリッジガイド軸18に沿って往復移動させるためのキャリッジモータ19およびタイミングベルト20を備えたキャリッジ搬送機構が配置されている。
【0019】
印刷ヘッド(吐出ヘッド)14はインク滴を吐出するノズル形成面(ノズル面)14aが下向きになるようにキャリッジ17に搭載されている。エンコーダセンサ16は印刷ヘッド14の上端面14bに配置されている。キャリッジガイド軸18はプリンタ幅方向に水平に掛け渡されており、リニアスケール15は、印刷ヘッド14の上方においてキャリッジガイド軸18と平行に掛け渡されている。
【0020】
印刷ヘッド14の下側には一定のギャップを設けてプリンタ幅方向に水平に延びるプラテン21が配置されている。プラテン21によって印刷ヘッド14の印刷位置が規定されている。プラテン21の後端には下方に湾曲しているテンションガイド22が取り付けられている。テンションガイド22はバネによって上方に付勢されており、ロール紙収納部11に収納されているロール紙12から引き出された記録紙12aは、テンションガイド22によって所定の張力が付与された状態で印刷位置を経由する記録紙搬送経路に沿って引き出される。
【0021】
プラテン21の後側には、後側紙送りローラ23がプリンタ幅方向に水平に掛け渡されている。後側紙送りローラ23には所定幅の後側紙押さえローラ24が記録紙12aを介して、所定の押圧力で押し付けられている。プラテン21における前端側の部位には、前側紙送りローラ25が配置されている。前側紙送りローラ25には、上側から前側紙押さえローラ26が記録紙12aを介して、押し付けられている。後側紙送りローラ23および前側紙送りローラ25は、本体フレーム10に搭載されている紙送りモータ27によって駆動される。
【0022】
キャリッジ17をキャリッジガイド軸18に沿って往復移動させながら、キャリッジ17に搭載されている印刷ヘッド14により、ロール紙12から繰り出されて印刷位置に位置している記録紙12aの部分の表面に印刷が行われる。印刷位置はエンコーダセンサ16の検出信号に基づいて制御されている。記録紙12aの幅方向への一連の行印刷が終了した後は、後側紙送りローラ23および前側紙送りローラ25が回転駆動されて、所定ピッチだけ記録紙12aが送り出される。この後に、次の行の印刷が行われる。このように、記録紙12aは、所定ピッチで間欠的に送り出されながら印刷ヘッド14によって印刷が施される。印刷後の記録紙12aが排出される記録紙排出口4には、例えば鋏式の記録紙切断装置28が配置されている。記録紙切断装置28によって、これらの間に位置する記録紙12aが幅方向に切断される。
【0023】
なお、プラテン21、テンションガイド22、後側紙送りローラ23、前側紙送りローラ25は、ロール紙カバー3と一緒に開閉するようになっている。
【0024】
また、図1および図2に示したインクカートリッジカバー7を開くと、その内側のカートリッジ装着部9(図4参照)が開放状態になり、このカートリッジ装着部9へのインクカートリッジ8の着脱が可能になる。
【0025】
インクカートリッジ8は、カートリッジケース内に複数個のカラーインクパックを収容したものである。本実施形態のロール紙プリンタ1の場合は、インクカートリッジカバー7を開く動作に連動して、カートリッジ装着部9の前方にインクカートリッジ8が所定距離だけ引き出される構成になっている。
【0026】
インクカートリッジ8内の各インクパックは、インクカートリッジ8をカートリッジ装着部9に装着した際に、カートリッジ装着部9側に設けられたインク供給針がインクパックのインク供給口に差込接続される。カートリッジ装着部9のインク供給針には、プリンタケース2a内に固定されたインク流路31が接続され、このインク流路31には、可撓性のインク供給チューブ33の一端が接続されている。
インク供給チューブ33の他端は、キャリッジ17に接続され、ダンパユニットや背圧調整ユニットを介して印刷ヘッド14に連通している。
【0027】
図4に示すように、印刷領域から外れたカートリッジ装着部9の上方が、往復移動するキャリッジ17の待機位置(メンテナンス領域)となっている。そして、この待機位置の下方には、キャリッジ17の下面に露出する印刷ヘッド14の保守動作を行うヘッドメンテナンス機構40が配置されている。
【0028】
図5に示すように、ヘッドメンテナンス機構40は、印刷ヘッド14のノズル形成面14aを封止するためのヘッドキャップ機構60と、このノズル形成面14aを払拭するためのワイパ機構50と、ヘッドキャップ機構60から残留インクを吸引するためのインク吸引機構70とを備えている。
【0029】
ワイパ機構50及びインク吸引機構70は、ポンプモータ(図示省略)により駆動される。これらの各部分は、プリンタ本体に着脱可能なハウジング39に取り付けられている。
【0030】
ワイパ機構50及びヘッドキャップ機構60は、キャリッジ17の往復動方向に併設されており、インク吸引機構70は、ヘッドキャップ機構60のプリンタ後方側(図5中上奥側)に併設されている。
【0031】
ワイパ機構50は、複数の歯車からなる歯車列で構成された動力伝達機構(図示略)によって伝達されるポンプモータの駆動力により、上下方向に進退動される。
【0032】
ワイパ機構50は、スライダ62と、ワイパ61とを備えている。スライダ62は、箱型状に形成されたもので、印刷ヘッド14の移動経路に対して近接離間する方向にスライドするように、スライド部63がハウジング39に設けられたガイド部64に支持案内されている。スライダ62には、弾性材であるゴム製の板材からなるワイパ61が埋め込まれている。
【0033】
そして、スライダ62は、キャリッジ17とともに移動する印刷ヘッド14の移動経路に対して近接及び離間する。つまり、スライダ62は、最もワイパ61が下降した位置(退避位置)と、ワイパ61によってノズル形成面14aの汚れを払拭する処理を行うために上昇したワイピング位置との間を移動できるようになっている。ワイピング位置は、ワイパ61の先端が印刷ヘッド14のノズル形成面14aに対し接触して擦れるようになっている。これにより、ワイパ61はノズル形成面14aに付着しているインク等の異物を払拭することができる。尚、インクの種類によっては、ワイパ61を軟質のプラスチック等により形成しても良い。
【0034】
インク吸引機構70は、チューブ72の一端がヘッドキャップ機構60と接続され、他端がインクカートリッジ8の廃インク導入部に接続されたチューブポンプであり、このインク吸引機構70が駆動されると、ヘッドキャップ機構60を介して印刷ヘッド14のインクノズルからインクを吸引し、インクカートリッジ8の廃インク貯留室に排出する。
【0035】
図6に示すように、ヘッドキャップ機構60は、キャリッジ17の移動方向(図6左右方向)に沿ってハウジング39にスライド可能に設けられ、キャリッジ17に押圧されて移動するスライダ41と、印刷ヘッド14に対して近接及び離間するようにスライダ41にスライド可能に設けられたキャップホルダ42と、キャップホルダ42の印刷ヘッド14側に固定されたヘッドキャップ44と、スライダ41の位置に応じてキャップホルダ42と印刷ヘッド14との距離を変更するカム機構(移動機構)45とを備えている。
【0036】
スライダ41には、待機位置に向けて移動するキャリッジ17の待機位置側(図6右側)の位置決め部47に当接してこのキャリッジ17により押圧される当接部48が待機位置側に形成されており、ハウジング39との間に掛け渡されたスプリング49で当接部48を位置決め部47に当接させる方向に付勢されている。スライダ41は、キャリッジ17が待機位置側の所定範囲にあるときに当接部48が位置決め部47で押圧されてキャリッジ17と一体に移動する。
【0037】
図7に示すように、スライダ41に対して上下方向にスライド可能に設けられたキャップホルダ42は、スプリング70によって印刷ヘッド14側へ向かって付勢されている。また、スライダ41には、係止片71が形成されており、この係止片71には、キャップホルダ42の両端における一側部側に形成された側方へ突出する突出ピン72が係合し、これにより、キャップホルダ42の印刷ヘッド14側への移動が規制されている。
また、突出ピン72は、その一方の突出ピン72aの突出量が多く、これにより、この突出ピン72aは、スライダ41の側面からも突出している。
また、スライダ41には、カムフォロア53,54が、それぞれ両側面から突出して形成されている。
【0038】
図6に示すように、カム機構45は、ハウジング39の両側面に形成された複数のカム51,52と、スライダ41に設けられ、カム51,52のうちの対応するもので案内される複数のカムフォロア53,54とを有している。カム51には、カムフォロア53に接触する第1カム面51a、第2カム面51b、第3カム面51cが待機位置側から順に形成されており、第1カム面51a、第2カム面51b、第3カム面51cの順に印刷ヘッド14からの距離が離れている。カム52にも、カムフォロア54に接触する第1カム面52a、第2カム面52b、第3カム面52cが待機位置側から順に形成されており、第1カム面52a、第2カム面52b、第3カム面52cの順に印刷ヘッド14からの距離が離れている。
【0039】
カム51は、第1カム面51aと第2カム面51bとの間に第1傾斜カム面51dが形成され、第2カム面51bと第3カム面51cとの間に第2傾斜カム面51eが形成されており、第1傾斜カム面51d及び第2傾斜カム面51eに接触しながらカムフォロア53が移動する。同様に、カム52は、第1カム面52aと第2カム面52bとの間に第1傾斜カム面52dが形成され、第2カム面52bと第3カム面52cとの間に第2傾斜カム面52eが形成されており、第1傾斜カム面52d及び第2傾斜カム面52eに接触しながらカムフォロア54が移動する。
【0040】
そして、カム機構45では、キャリッジ17が待機位置にあるとき、カムフォロア53はカム51の第1カム面51aに乗り上げ、カムフォロア54はカム52の第1カム面52aに乗り上げた状態になり、カムフォロア53,54を有するスライダ41が印刷ヘッド14に最も近接する所定の近接位置に位置する。また、キャリッジ17が待機位置から所定距離離間した第1の位置にあるとき、カムフォロア53はカム51の第2カム面51bに乗り上げ、カムフォロア54はカム52の第2カム面52bに乗り上げた状態になり、スライダ41が印刷ヘッド14から上記近接位置よりも若干離間した所定の中間位置に位置する。さらに、キャリッジ17が待機位置から第1の位置よりもさらに所定距離離間した第2の位置にあるとき、カムフォロア53はカム51の第3カム面51cに乗り、カムフォロア54はカム52の第3カム面52cに乗った状態になり、スライダ41が印刷ヘッド14から上記中間位置よりもさらに離間した所定の離間位置に位置する。
【0041】
ここで、キャリッジ17が待機位置にあってスライダ41が近接位置にあるとき、キャップホルダ42のヘッドキャップ44が印刷ヘッド14のノズル形成面14aに当接する。つまり、このとき、ヘッドキャップ44が印刷ヘッド14のノズル形成面14aにスプリング70の付勢力で密着する。また、キャリッジ17が第1の位置にあってスライダ41が中間位置にあるとき、キャップホルダ42のヘッドキャップ44が印刷ヘッド14のノズル形成面14aから微少距離離間する。また、キャリッジ17が第2の位置にあってスライダ41が離間位置にあるとき、キャップホルダ42のヘッドキャップ44が印刷ヘッド14のノズル形成面14aからさらに離間する。
【0042】
また、ハウジング39には、案内カム73が形成されており、この案内カム73には、キャップホルダ42に形成されてスライダ41の側面から突出された一方の突出ピン72aが挿通されている。この案内カム73は、突出ピン72aが接触可能な案内傾斜カム面73aを有している。この案内傾斜カム面73aは、印刷ヘッド14のノズル形成面14aに対する傾斜角度が、カム51,52の第1傾斜カム面51d,52dよりも緩やかになっている。また、案内カム73では、スライダ41の印刷領域(図6左側)への移動に伴い、第1カム面51a,52aに位置していたカムフォロア53,54が第1傾斜カム面51d,52dに到達する前に、突出ピン72aが案内傾斜カム面73aに接触し、カムフォロア53,54が第2カム面51b,52bに到達する前に、突出ピン72aが案内傾斜カム面73aから離間するようになっている。
【0043】
図8に示すように、ヘッドキャップ44は、ノズル形成面14aを封止可能な大きさの開口を有する箱型状のゴムで形成されたもので、上端部はノズル形成面14aに密着可能なリップ部96とされている。ヘッドキャップ44は、収納凹部94を有し、この収納凹部94内に廃インクを吸収する多層構造の吸収材95が収納されている。この吸収材95は、押さえ部材(図示省略)によって保持され、その上面が、リップ部96の先端位置よりも下がった位置とされている。
【0044】
このヘッドキャップ44には、インク吸引機構70が接続されており、キャリッジ17が待機位置にありヘッドキャップ44がリップ部96においてノズル形成面14aに密着した状態で、インク吸引機構70が駆動されることにより、ヘッドキャップ44内が減圧されて印刷ヘッド14のインクノズルからインクを吸引する。吸引された廃インクは、インクカートリッジ8の廃インク貯留室に排出される。
【0045】
また、このヘッドキャップ44の収納凹部94内には、電流検査用の金属軸97が立設されており、この金属軸97は吸収材95と導通可能とされ吸収材95とともに電流検査センサ99を構成している。即ち、電流検査センサ99は、吸収材95の表面が検査面99aとされている。この電流検査センサ99の金属軸97には、その下端にリード線98が接続されており、このリード線98を介して信号が取り出し可能とされている。
【0046】
そして、ロール紙プリンタ1では、ヘッドキャップ機構40を用いて印刷ヘッド14のクリーニングが行われる。なお、このクリーニングは、予め設定された所定のタイミングあるいはユーザの操作時に行われるもので、印刷ヘッド14のノズル形成面14aにヘッドキャップ44を密着させてインク吸引機構70によって内部を吸引して印刷ヘッド14のインクノズルから増粘状態のインク及び残留気泡を吸引し、さらに、印刷ヘッド14のノズル形成面14aの汚れをワイパ61によって払拭する。
このクリーニングにおけるインク吸引処理で、キャリッジ17及び印刷ヘッド14を待機位置に位置させ、スライダ41を近接位置に位置させることになる。
【0047】
また、ロール紙プリンタ1では、印刷ヘッド14のインクノズルでのインクのメニスカスを形成するために、印刷開始前あるいは定期的に印刷ヘッド14のインクノズルから所定量のインク滴をヘッドキャップ44内に吐出するフラッシング処理を行う。このフラッシング処理を行うとき、キャリッジ17及び印刷ヘッド14を第2の位置に位置させ、スライダ41を離間位置に位置させることになる。スライダ41が離間位置にあるときのヘッドキャップ44と印刷ヘッド14のノズル形成面14aとの間隔が、所定の離間隙間となる。なお、フラッシング処理時にはインクノズルから多量のインクを吐出するため、吸収材95からのインクの跳ね返りを回避するように、この離間隙間は比較的広い値に設定されている(例えば、約2.5mm)。
【0048】
また、ロール紙プリンタ1では、印刷休止後でキャリッジ17及び印刷ヘッド14を待機位置に位置させることになり、スライダ41を近接位置に位置させる。これにより、印刷ヘッド14のノズル形成面14aにヘッドキャップ44を密着させて保護するキャッピング状態となり、インクノズルのインクの増粘による詰まりを防止する。
【0049】
さらに、ロール紙プリンタ1では、印刷ヘッド14のインクノズルから正常にインク滴が吐出されるか否か、つまりドット抜けの有無を検査するインク滴吐出検査が行われる。このインク滴吐出検査を行うとき、キャリッジ17及び印刷ヘッド14を第1の位置に位置させ、スライダ41を中間位置に位置させることになる。このようにスライダ41が中間位置にあるときのヘッドキャップ44と印刷ヘッド14のノズル形成面14aとの間隔が所定の検査隙間となる。この検査隙間は、離間隙間よりも狭く、可能な限り小さい値に設定されている(例えば、約0.7mm)。
【0050】
次に、キャリッジ17及び印刷ヘッド14が待機位置に配置されてヘッドキャップ44がノズル形成面14aに密着された状態からキャリッジ17及び印刷ヘッド14が印刷領域側へ移動する際のヘッドキャップ機構60の動きについて説明する。
【0051】
図9から図15は、ヘッドキャップ機構60の動きを示す正面側から視た斜視図である。
図6に示すように、インク吸引処理が可能でありキャッピング状態とされる待機位置に配置されたキャリッジ17及び印刷ヘッド14が、キャリッジ17の移動にともなって印刷領域側(図における左側)へ移動すると、まず、図9に示すように、突出ピン72aが案内傾斜カム面73aに接触し、図10に示すように、突出ピン72aが案内傾斜カム面73aによって下方へ押し下げられる。これにより、キャップホルダ42の突出ピン72aが設けられた角部が、スプリング70の付勢力に抗して下降されて傾けられ、ノズル形成面14aに密着されていたヘッドキャップ44が、角部の一か所から次第に離間される。
【0052】
図11に示すように、カムフォロア53,54が第1傾斜カム面51d,52dに到達し、その後は、カムフォロア53,54が第1傾斜カム面51d,52dに接触しながら移動することにより、スライダ41が徐々に下降される。これにより、キャップホルダ42はノズル形成面14aに対して傾いた状態でスライダ41とともに下降される。したがって、ノズル形成面14aとヘッドキャップ44とは、インク膜が形成されることなく徐々に離間される。ここで、案内傾斜カム面73aの傾斜角が、第1傾斜カム面51d,52dよりも緩やかであるため、キャリッジ17及び印刷ヘッド14がキャリッジ17の移動に伴ってキャップホルダ42の傾きが徐々に小さくなる。
【0053】
その後、図12に示すように、突出ピン72aが案内傾斜面73aの下端に到達すると、ヘッドキャップ42がノズル形成面14aに対して平行となり、キャップホルダ42はノズル形成面14aに対して平行状態でスライダ41とともに下降される。
【0054】
図13に示すように、カムフォロア53,54が第2カム面51b,52bに到達すると、スライダ41が印刷ヘッド14から近接位置よりも若干離間した所定の中間位置に位置し、ヘッドキャップ44は、ノズル形成面14aに対して吸収材95の表面からなる検査面99aが平行な状態で所定の検査隙間をあけた位置に配置される。
【0055】
これにより、ヘッドキャップ44及び印刷ヘッド14の隙間が、図8に示すように検査隙間Aとなり、印刷ヘッド14のノズル形成面14aとヘッドキャップ44の吸収材95の上面の検査面99aとの間隔が、インク滴吐出検査を良好に行うことができる十分に狭い所定寸法Bとなる。この状態で、印刷ヘッド14のノズル形成面14aとヘッドキャップ44の吸収材95との間に高い電位差(約550V)を印加し、電流検査センサ99からの信号を監視しつつ、印刷ヘッド14のインクノズルから帯電したインクを吐出させる。このようにすると、帯電インクが吸収材95に着弾することにより生じる電流変化の信号が、電流検査センサ99の金属軸97からリード線98を介して取り出され、その電流変化に基づいて、インクノズルからのインク滴の吐出状態が検査される。
【0056】
つまり、正常に吐出された場合には所定の閾値以上の電流変化が検出され、正常に吐出されない場合には、この所定値以上の電流変化が検出されないため、この所定の閾値以上の電流変化があったか否かでインクノズルに詰まりが生じているか否かを検査する。
【0057】
インク滴吐出検査が行われる上記の状態から、さらに、キャリッジ17及び印刷ヘッド14が印刷領域側へ移動すると、図14に示すように、カムフォロア53,54が第2傾斜カム面51e,52eに接触しながら移動することにより、スライダ41が徐々に下降され、キャップホルダ42がスライダ41とともに下降される。
そして、図15に示すように、カムフォロア53,54が第3カム面51c,52cに到達すると、スライダ41が印刷ヘッド14から中間位置よりもさらに離間した所定の中間位置に位置し、この状態でフラッシング処理が可能となる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、カム機構45によってノズル形成面14aに対して平行に移動されるキャップホルダ42が、ノズル形成面14aから離間する際に案内カム73によって傾けられるので、ヘッドキャップ44を、ノズル形成面14aに対して離間する際に傾斜させ、インク滴吐出検査の際に検出面99aがノズル形成面14aに対して平行となるように配置させることができる。
【0059】
つまり、ヘッドキャップ44が、ノズル形成面14aに対して離間する際に傾斜されるので、ヘッドキャップ44のノズル形成面14aからの離間時に、インク膜が形成されることなく徐々に離間される。これにより、インク膜の破裂によりインクが飛散してインクノズルに付着することによる吐出不良を防止することができる。
また、インク滴吐出検査の際には、検出面99aがノズル形成面14aに対して平行となるようにヘッドキャップ44が配置されるので、インク滴吐出検査時における電流検出の均一化を図ることができ、インク滴吐出検査を高精度に行うことができる。
これにより、インクの飛沫の付着による吐出不良を抑えつつ、インクノズルのインク吐出検査を高精度に行うことができる。
【0060】
また、スライダ41が所定範囲内でキャリッジ17とともに移動可能とされ、カム機構45が、キャリッジ17とともに移動されるスライダ41を、その移動にともなって印刷ヘッド14に対する近接及び離間方向へ容易に移動させる構造であるため、移動機構の構造の簡略化を図ることができる。
【0061】
そして、上記ロール紙プリンタ1によれば、印刷ヘッド14のインクノズルからのインク吐出の信頼性を高い状態に維持することができ、高品質に印刷を行うことができる。
【0062】
なお、本発明に係る液体吐出装置は、上記実施形態で例示したインクジェット式のプリンタをはじめとして、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造に用いられる色材吐出ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材吐出ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物吐出ヘッド等の液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置、精密ピペットとしての試料吐出装置等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係る印刷装置であるロール紙プリンタの外観斜視図である。
【図2】図1に示したロール紙プリンタのロール紙カバーを開いた状態の外観斜視図である。
【図3】図1に示したロール紙プリンタの内部構成を示す概略側面図である。
【図4】図1に示したロール紙プリンタからプリンタケースを取り外した状態の斜視図である。
【図5】ヘッドメンテナンス機構の斜視図である。
【図6】キャリッジ及びメンテナンス機構を示す正面から視た斜視図である。
【図7】ヘッドキャップ機構の斜視図である。
【図8】ヘッドメンテナンス機構の一部の断面図である。
【図9】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【図10】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【図11】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【図12】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【図13】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【図14】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【図15】ヘッドキャップ機構の動きを示す正面側から視た斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1…ロール紙プリンタ(液体吐出装置,印刷装置)、14…印刷ヘッド(吐出ヘッド)、14a…ノズル形成面(ノズル面)、17…キャリッジ、41…スライダ、42…キャップホルダ、44…ヘッドキャップ、45…カム機構(移動機構)、73…案内カム、99a…検出面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復移動可能なキャリッジと、
前記キャリッジに搭載された吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドに設けられた吐出ノズルを有するノズル面に対して接離可能なヘッドキャップと、を有し、
所定の検査隙間をあけて配置された前記ヘッドキャップ内の検出面に前記吐出ノズルから帯電した液体を吐出させて前記ヘッドキャップ内での電流変化に基づいて前記吐出ノズルからの液滴の吐出状態を検査する液滴吐出検査が可能な液体吐出装置であって、
前記ヘッドキャップは、前記ノズル面に対して離間する際に傾斜され、前記液滴吐出検査の際に前記検出面が前記ノズル面に対して平行となるように配置されることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記ヘッドキャップが設けられたキャップホルダを前記ノズル面に対して平行に近接及び離間方向へ移動させる移動機構と、
前記ノズル面に対する前記ヘッドキャップの離間時に前記キャップホルダを傾ける案内カムと、を備えていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出装置において、
前記キャップホルダは、前記移動機構によって移動されるスライダに保持され、前記スライダに対して前記案内カムによって傾けられることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出装置において、
前記スライダは所定範囲内で前記キャリッジとともに移動可能であり、
前記移動機構は、前記キャリッジとともに移動される前記スライダを、その移動に伴って前記吐出ヘッドに対する近接及び離間方向へ移動させるカム機構であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体吐出装置を備え、
前記吐出ノズルからインク滴を吐出させて被印刷物に印刷処理を行うことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−196174(P2009−196174A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39012(P2008−39012)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】