説明

液体吐出装置

【課題】電源が切られた放置時間が長くても吐出不良を回復させる。
【解決手段】プリンタは、キャップ手段と、生成した加湿空気を吐出空間に供給する加湿空気供給機構と、吐出口からインクを排出させるパージ動作を行うポンプと、これらを制御するメンテナンス制御部と、放置時間を計測する時間計測部とを含んでいる。メンテナンス制御部は、時間計測部によって計測された放置時間が所定時間を超えたときだけ、パージ動作を行う前のキャッピング状態において加湿メンテナンスを行うように、加湿空気供給機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は、インク等の液体を吐出する吐出口が開口した吐出面を有するヘッドを備えている。この吐出口から液体が吐出されない状況が長時間続くと、吐出口近傍の液体の水分が蒸発して粘性が増加し、吐出口に目詰まりが生じる。この吐出口の目詰まりを抑制するための技術として、例えば、下記特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、凹状のキャッピング部によって吐出面を覆うことで、外部空間から隔てられた吐出空間を形成する。そして、キャッピング部の底面に空気供給口及び空気排出口が形成された空気流路を有する空調装置により、加湿した空気を空気供給口から吐出空間内に供給し、且つ吐出空間内の空気を空気排出口から排出することで吐出口近傍の液体を加湿している。こうして、吐出口近傍の液体の蒸発が抑制され、吐出口の目詰まりが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−212138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術において、ヘッドが使用されないまま長期に保存された場合、吐出空間内が一旦は加湿されていたとしても、吐出口内の液体の増粘が進行してしまう虞がある。増粘の度合いによっては、使用再開時に強制的な吸引パージを行っても、増粘度合いが弱い吐出口から液体が排出されるばかりで、一部の吐出口は目詰まりが解消されないままである。つまり、一部の吐出口において吐出不良が回復しないという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、電源が切られた放置時間が長くても吐出不良が回復しやすい液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出装置は、液体を吐出するための複数の吐出口が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッドと、前記吐出面と対向する吐出空間が外部空間から封止された封止状態と、前記吐出空間が前記外部空間に対して開放された非封止状態とを取り得るキャップ手段と、加湿空気を生成するとともに、前記封止状態の前記吐出空間内に加湿空気を供給する加湿動作を行う加湿空気供給機構と、前記液体吐出ヘッド内の液体に圧力を付与し、前記吐出口から液体を強制的に排出させる強制排出動作を行う強制排出機構と、電源が切られてから入れられるまでの放置時間を計測する計測手段と、前記電源が切られる場合に、前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に前記加湿動作を行うように前記加湿空気供給機構を制御し、前記電源が入れられた場合に、前記強制排出動作を行うように前記強制排出機構を制御する制御手段とを備えている。そして、前記制御手段は、前記電源が入れられた場合に、前記計測手段が計測した前記放置時間が所定時間を超えたときだけ、前記強制排出動作を行う前の前記封止状態において前記加湿動作を行うように前記加湿空気供給機構を制御する。
【0008】
これによると、電源が切られた放置時間が所定時間よりも長く、吐出口近傍の液体の乾燥が進んでいる場合に、加湿動作が行われてから強制排出動作が行われる。このため、吐出口近傍の乾燥した液体に水分が補給され、当該液体が軟化した状態で強制排出動作を行うことが可能となり、吐出不良が回復しやすくなる。
【0009】
本発明において、前記強制排出機構は、所定量の液体を前記液体吐出ヘッドに送液することで前記強制排出動作を行うポンプを有し、前記制御手段は、前記電源が入れられた場合に、前記封止状態の前記吐出空間を前記非封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に前記強制排出動作を行うように前記ポンプを制御することが好ましい。これにより、強制排出機構が簡単な構成になる。
【0010】
また、本発明において、前記制御手段は、前記電源が入れられた場合に、前記計測手段が計測した前記放置時間が前記所定時間を超えたときだけ、前記加湿動作を行う前に、前記吐出空間を前記非封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に前記強制排出動作を行うように前記ポンプを制御し、前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御することが好ましい。これにより、加湿動作を行う前に、一旦、強制排出動作を行うことが可能となる。このため、強制排出動作によって吐出口から滲み出した液体が吐出面上に広がる。吐出面上に広がった液体は、今回の強制排出動作において液体を吐出しない吐出口上にも広がるため、当該吐出口近傍の乾燥した液体を軟化させる。したがって、吐出不良を大幅に回復させることが可能となる。
【0011】
また、本発明において、前記吐出面を払拭するワイパと、前記ワイパが前記吐出面と接触しながら前記吐出面に対して相対移動するように、前記ワイパ及び前記液体吐出ヘッドの少なくとも一方を移動させる移動機構とをさらに備えている。そして、前記制御手段は、前記強制排出動作を行った後であって前記吐出空間を前記封止状態とするまでに、前記ワイパで前記吐出面を払拭する払拭動作が行われるように前記移動機構を制御することが好ましい。これにより、強制排出動作によって吐出面に付着した液体をワイパで払拭することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体吐出装置によると、電源が切られた放置時間が所定時間よりも長く、吐出口近傍の液体の乾燥が進んでいる場合に、加湿動作が行われてから強制排出動作が行われる。このため、吐出口近傍の乾燥した液体に水分が補給され、当該液体が軟化した状態で強制排出動作を行うことが可能となり、吐出不良が回復しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液体吐出装置の一実施形態によるインクジェットプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のプリンタに含まれるインクジェットヘッドのヘッド本体を示す平面図である。
【図3】図2の一点鎖線で囲まれた領域を示す拡大図である。
【図4】図3に示すIV−IV線に沿った部分断面図である。
【図5】図4の一点鎖線で囲まれた領域を示す拡大図である。
【図6】図1のプリンタに含まれるヘッドホルダ及び加湿空気供給機構を示す概略図である。
【図7】図6の一点鎖線で囲まれた領域を示す部分断面図であり、キャップが離隔位置にある状況を示す図である。
【図8】図1に示す制御部の機能ブロック図である。
【図9】図1のプリンタの制御部が実行するメンテナンス動作に関する一連の動作フローを示すフローチャート図である。
【図10】ワイピング動作を説明するための動作状況図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
先ず、図1を参照し、本発明の液体吐出装置の一実施形態であるインクジェットプリンタ1の全体構成について説明する。
【0016】
プリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排紙部4が設けられている。筐体1aの内部空間は、上から順に空間A,B,Cに区分できる。空間A,Bには、給紙部23から排紙部4に向かう用紙搬送経路が形成されており、図1に示す黒太矢印に沿って用紙Pが搬送される。空間Aでは、用紙Pへの画像形成と、用紙Pの排紙部4への搬送が行われる。空間Bでは、用紙Pの搬送経路への給紙が行われる。空間Cからは、空間Aのインクジェットヘッド2に対するインク供給が行われる。
【0017】
空間Aには、4つのインクジェットヘッド2(以下、ヘッド2と称する)、搬送機構40、用紙Pをガイドする2つのガイド部10a,10b、加湿メンテナンスに用いられる加湿空気供給機構50(図6参照)、ヘッド昇降機構33(図8参照)、ワイパユニット36(図10参照)、クリーナユニット37、及び、制御部100等が配置されている。
【0018】
4つのヘッド2からは、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのいずれかのインク滴が吐出される。これら4つのヘッド2は、主走査方向に長尺な略直方体形状を有する。また、4つのヘッド2は、副走査方向に所定ピッチで並び、ヘッドホルダ5を介して筐体1aに支持されている。ヘッドホルダ5によって、ヘッド2の下面と搬送ベルト43(搬送機構40)との間には、記録に適した所定の間隙が形成される。
【0019】
各ヘッド2は、ヘッド本体3に加えて、アクチュエータユニット21、リザーバユニット、フレキシブルプリント配線基板(FPC)、制御基板等が積層された積層体である。ヘッド本体3(流路ユニット9)の下面は、吐出面2aである。制御基板で調整された信号は、FPC上のドライバICで駆動信号に変換され、さらにアクチュエータユニット21に出力される。アクチュエータユニット21が駆動されると、リザーバユニットから供給されたインクが、吐出口108から吐出されることになる。
【0020】
ヘッドホルダ5には、加湿空気供給機構50を構成するキャップ60が取り付けられている。キャップ60は、ヘッド2毎に配設された環状部材であって、平面視でヘッド2を内包する。キャップ60の構成、動作、機能等は、後に詳述する。
【0021】
搬送機構40は、2つのベルトローラ41,42と、搬送ベルト43と、プラテン46と、ニップローラ47と、剥離プレート45とを有している。搬送ベルト43は、両ローラ41,42の間に巻回されたエンドレスのベルトである。プラテン46は、4つのヘッド2に対向配置され、搬送ベルト43の上側ループを内側から支える。ベルトローラ42は、駆動ローラであって、搬送ベルト43を走行させる。ベルトローラ42は、図示しないモータによって、図1中時計回りに回転される。ベルトローラ41は、従動ローラであって、搬送ベルト43の走行によって回転される。搬送ベルト43の外周面には、弱粘着性のシリコン層が形成されている。ニップローラ47は、給紙部23から搬送されてきた用紙Pを搬送ベルト43の外周面に押さえ付ける。用紙Pは、シリコン層によって搬送ベルト43に保持され、ヘッド2に向かって搬送される。剥離プレート45は、搬送されてきた用紙Pを搬送ベルト43から剥離し、下流側の排紙部4へと導く。
【0022】
2つのガイド部10a,10bは、搬送機構40を挟んで配置されている。搬送方向上流側のガイド部10aは、2つのガイド31a,31bと送りローラ対32とを有し、給紙部23と搬送機構40とを繋ぐ。画像形成用の用紙Pが、搬送機構40に向けて搬送される。搬送方向下流側のガイド部10bは、2つのガイド33a,33bと2つの送りローラ対34,35とを有し、搬送機構40と排紙部4とを繋ぐ。画像形成後の用紙Pが、排紙部4に向けて搬送される。
【0023】
ヘッド昇降機構33は、ヘッドホルダ5を昇降させ、4つのヘッド2が印刷位置と退避位置の間で移動する。印刷位置では、図1に示すように、4つのヘッド2が搬送ベルト43と印刷に適した間隔で対向する。退避位置では、4つのヘッド2が搬送ベル43から印刷位置以上の間隔で離隔する(図10(b)参照)。退避位置では、4つのヘッド2と搬送ベルト43との間の空間を、ワイパユニット36が移動可能である。
【0024】
ワイパユニット36は、吐出面2a毎に配置され、図10に示すように、ワイパ36a、これを支持する基部36bおよびワイパ移動機構27とを有している。ワイパ36aは、板状の弾性部材(例えば、ゴム)であり、吐出面2aの幅より若干長い。基部36bは、副走査方向を長手方向とする直方体であって、両端に円柱状の孔が形成されている。孔は、基部36bを主走査方向に貫通し、一方の内面には雌ねじが形成されている。ワイパ移動機構27は、一対のガイド(例えば、丸棒)28と駆動モータ(不図示)とから構成される。一方のガイド28は、外周面に雄ネジが形成されており、駆動モータから回転力を受ける。他方は、孔の内周面が摺動する。一対のガイド28は、ねじ同士が螺合する関係に、2つの孔に貫挿されている。一対のガイド28は、ヘッド2の側面に沿って延びて、ヘッド2を副走査方向両側から挟む。
【0025】
駆動モータの正及び逆回転によって、4つの基部36bがガイド28に沿って往復移動する。図10(a)に示すように、ヘッド2の主走査方向の左側端部近傍は、基部36bの待機位置である。ワイピング時は、基部36bが図中右方に移動して、ワイパ36aが吐出面2aを払拭する。その後、基部36bは、ヘッド2が上方に離隔するのを待って、左方の待機位置に戻される。
【0026】
クリーナユニット37は、洗浄液塗布部材37a、ブレード37b及びこれらを移動させる移動機構37c(図8参照)を有し、搬送ベルト43の外周面をクリーニングする。クリーナユニット37は、図1に示すように、搬送ベルト43の右下方であって、ベルトローラ42に対向して配置されている。洗浄液塗布部材37aは、多孔質体(例えば、スポンジ)とこれを支持する支持部材から構成され、ブレード37bは、板状弾性部材(例えば、ゴム)で構成される。共に、搬送ベルト43を全幅に亘って接触可能である。後述のクリーニング動作において、移動機構37cは、洗浄液塗布部材37a及びブレード37bを搬送ベルト43の外周面に当接する。搬送ベルト43が走行すると、多孔質体から外周面に洗浄液が塗布され、下流側のブレード37bにより洗浄液が外周面の汚れと共に掻き取られる。
【0027】
空間Bには、給紙部23が配置されている。給紙部23は、給紙トレイ24及び給紙ローラ25を有する。このうち、給紙トレイ24が、筐体1aに対して着脱可能となっている。給紙トレイ24は、上方に開口する箱であり、複数の用紙Pを収納可能である。給紙ローラ25は、給紙トレイ24内で最も上方にある用紙Pを送り出す。
【0028】
ここで、副走査方向とは、搬送機構40によって搬送される用紙搬送方向Dと平行な方向であり、主走査方向とは、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0029】
空間Cには、インクを貯留する4つのカートリッジ22が筐体1aに着脱可能に配置されている。4つのカートリッジ22には、マゼンタ、シアン、イエロー、及びブラックのインクが貯留されており、対応するヘッド2にチューブ(不図示)及びポンプ38(図8参照)を介して接続されている。なお、各ポンプ38(強制排出機構)は、ヘッド2にインクを強制的に送るとき(すなわち、パージ動作や液体の初期導入が行われるとき)に制御部100によって駆動される。これ以外は停止状態にあり、ヘッド2へのインク供給を妨げない。
【0030】
次に、制御部100について説明する。制御部100は、プリンタ1各部の動作を制御してプリンタ1全体の動作を司る。制御部100は、外部装置(プリンタ1と接続されたPC等)から供給された印刷指令に基づいて、画像形成動作を制御する。具体的には、制御部100は、用紙Pの搬送動作、用紙Pの搬送に同期したインク吐出動作等を制御する。
【0031】
制御部100は、外部装置から受信した印刷指令に基づいて、給紙部23、搬送機構40、及び、各送りローラ対32,34,35を駆動する。給紙トレイ24から送り出された用紙Pは、上流側ガイド部10aによりガイドされ搬送機構40に送られる。搬送機構40によって搬送される用紙Pは、ヘッド2のすぐ下方を通過する際に、制御部100によってヘッド2が制御され、各ヘッド2からインク滴が順に吐出される。これにより、用紙Pの表面に所望のカラー画像が形成される。インクの吐出動作は、用紙センサ26からの検知信号に基づく。用紙センサ26は、ヘッド2よりも搬送方向Dの上流に配置されており、用紙Pの先端を検知する。インクの吐出タイミングは、検知信号により決められる。そして、画像が形成された用紙Pは、剥離プレート45によって搬送ベルト43から剥離された後、下流側ガイド部10bによりガイドされて、筐体1a上部から排紙部4に排出される。
【0032】
制御部100はまた、ヘッド2のインク吐出特性の回復を行うメンテナンス動作を制御する。制御部100は、メンテナンス動作によって、ヘッド2のインク吐出特性の回復・維持や記録に係わる準備を行う。メンテナンス動作には、パージやフラッシング動作、吐出面2aのワイピング(払拭)動作、搬送ベルト43のクリーニング動作、キャッピングや加湿によるインクの増粘防止動作等が含まれる。
【0033】
パージ動作では、ポンプ38が駆動されて、全ての吐出口108からインクが強制的に排出される。このとき、アクチュエータは駆動されない。フラッシング動作では、アクチュエータが駆動されて、すべての吐出口108からインクが吐出される。フラッシング動作は、フラッシングデータ(画像データと異なるデータ)に基づいて行われる。ワイピング動作では、吐出面2aがワイパ36a(図10参照)によって払拭される。ワイピング動作は、パージ動作後に行われ、吐出面2a上の残留インクや異物が取り除かれる。また、クリーニング動作では、搬送ベルト43がクリーナユニット37によって払拭される。クリーニング動作は、パージ及びフラッシング動作後に行われ、搬送ベルト43上のインクや異物が除去される。
【0034】
キャッピングでは、図6に示すように、キャップ60により吐出空間(吐出面2a(吐出口108)と対向する空間)S1が外部空間S2から隔離される。加湿動作(加湿メンテナンス)では、図6に示すように、隔離された吐出空間S1に加湿空気が供給される。キャッピングにより吐出空間S1内に水蒸気が留まり、加湿により乾燥がさらに抑制される。
【0035】
次に、図2〜図5を参照しつつヘッド2のヘッド本体3について詳細に説明する。図3では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室110、アパーチャ112及び吐出口108を実線で描いている。
【0036】
ヘッド本体3は、図2に示すように、流路ユニット9の上面に4つのアクチュエータユニット21が固定された積層体である。流路ユニット9の下面が、吐出面2aである。流路ユニット9の内部にはインク流路が形成され、アクチュエータユニット21はこの流路内のインクに吐出エネルギーを付与する。
【0037】
流路ユニット9は、図4に示すように、ステンレス製の9枚の金属プレート122〜130を積層した積層体である。流路ユニット9の上面には、図2に示すように、リザーバユニットに連通する計10個のインク供給口105bが開口している。流路ユニット9の内部には、図2〜図4に示すように、インク供給口105bを一端とするマニホールド流路105、及び、マニホールド流路105から分岐した複数の副マニホールド流路105aが形成されている。さらに、各副マニホールド流路105aの出口から圧力室110を経て吐出口108に至る複数の個別インク流路132が形成されている。吐出面2aに形成された多数の吐出口108は、マトリクス状に配置されており、主走査方向(一方向)に関してこの方向の解像度である600dpiの間隔で配列されている。
【0038】
図2〜図4に示すように、リザーバユニットからインク供給口105bに供給されたインクは、マニホールド流路105(副マニホールド流路105a)に流入する。副マニホールド流路105a内のインクは、各個別インク流路132に分配され、アパーチャ112及び圧力室110を経て吐出口108に至る。
【0039】
次に、アクチュエータユニット21について説明する。図2に示すように、4つのアクチュエータユニット21は、それぞれ台形の平面形状を有しており、インク供給口105bを避けるよう主走査方向に千鳥状に配置されている。さらに、各アクチュエータユニット21の平行対向辺は主走査方向に沿っており、隣接するアクチュエータユニット21の斜辺同士は副走査方向に沿って重なっている。
【0040】
図5に示すように、アクチュエータユニット21は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミックス製の3枚の圧電層161〜163から構成されたピエゾ式アクチュエータである。最上層の圧電層161は、厚み方向に分極されている。また、圧電層161の上面には、複数の個別電極135が形成されている。個別電極135は、圧力室110と対向している。個別電極135の先端には、個別ランド136が設けられている。圧電層161とその下側の圧電層162との間には、界面全体に形成された共通電極134が介在している。なお、共通電極134には、すべての圧力室110に対応する領域において、等しくグランド電位が付与されている。一方、個別電極135には、個別ランド136を介して駆動信号が選択的に供給される。
【0041】
個別電極135を共通電極134と異なる電位にすると、個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分が、圧力室110に対して変形する。このように個別電極135に対応した部分が、個別のアクチュエータとして働く。つまり、アクチュエータユニット21には、圧力室110に対応した数のアクチュエータが作り込まれており、それぞれ圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを与える。
【0042】
ここで、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。アクチュエータユニット21は、圧力室110から離れた上側1枚の圧電層161を駆動活性部(両電極134,135に挟まれた部分)が含まれる層とし、且つ圧力室110に近い下側2枚の圧電層162、163を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプのアクチュエータである。例えば、分極方向と電界の印加方向とが同じであれば、駆動活性部は、分極方向に直交する方向(平面方向)に縮む。このとき、下方の圧電層162、163に対して、平面方向への歪みに差が生じるので、圧電層161〜163全体(個別のアクチュエータ)が、圧力室110側へ凸に変形(ユニモルフ変形)する。これにより圧力室110内のインクに圧力(吐出エネルギー)が付与され、吐出口108からインク滴が吐出される。
【0043】
なお、本実施形態においては、個別電極135の電位が、予め所定の電位が付与されているところ、駆動信号が供給されて、一旦グランド電位となり、その後の所定のタイミングで再び所定電位に復帰する。個別電極135がグランド電位となるタイミングでは、圧電層161〜163が元の状態に戻り、圧力室110の容積が初期状態(予め電圧が印加された状態)と比較して増加するので、副マニホールド流路105aから個別インク流路132へとインクが吸い込まれる。また、再び個別電極135に所定の電位が付与されたタイミングでは、圧電層161〜163において電界印加部分と対向する部分が圧力室110側に凸となるように変形し、圧力室110の容積が低下(インクの圧力が上昇)するので、吐出口108からインク滴が吐出される。
【0044】
次に、図6及び図7を参照し、ヘッドホルダ5及びこれに取り付けられたキャップ手段の構成について説明する。
【0045】
ヘッドホルダ5は、金属等からなる枠状フレームであり、ヘッド2の側面を全周に亘って支持している。ヘッドホルダ5には、キャップ60と一対のジョイント51とが取り付けられている。キャップ60及びジョイント51は、共に加湿空気供給機構50の構成部材であって、キャップ60が閉ざされた吐出空間S1を作り、空間内の空気がジョイント51を介して加湿空気と置換される。ここで、ヘッドホルダ5とヘッド2との当接部は、全周に亘って封止剤で封止されている。また、ヘッドホルダ5とキャップ60との当接部は、全周に亘って接着剤で固定されている。
【0046】
一対のジョイント51は、吐出空間S1に対する加湿空気の出入口である。一対のジョイント51は、図6に示すように、供給口51aを持つ左側ジョイント51と排出口51bを持つ右側ジョイント51とから構成され、ヘッド2を主走査方向に挟んで配置されている。加湿メンテナンスでは、吐出空間S1に対し、供給口51aから加湿空気が供給され、排出口51bから空気が排出される。
【0047】
ジョイント51は、方形状の基端部51x、及び、基端部51xから延出した円柱状の先端部51yを含んでいる。基端部51xの方が、先端部51yより外形サイズが大きい。基端部51xは、副走査方向を長手方向とし、その長手方向の幅(長さ)は、吐出面2aとほぼ同じになっている。内部には、図7に示すように、基端部51xから先端部51yに亘って、鉛直方向に沿った中空空間51zが形成されている。中空空間51zは、先端部51yでは円柱状空間であり、これに繋がる基端部51xでは供給口51aに向かって拡開する扇状空間である。供給口51aは、副走査方向に長い。
【0048】
ヘッドホルダ5には、平面視円形の貫通孔5aが形成されており、ジョイント51は、先端部51yが貫通孔5aに貫挿された状態で、ヘッドホルダ5に固定されている。先端部51yは、貫通孔5aよりも一回り小さいが、両者間の隙間には封止剤等が充填されて、封止される。
【0049】
キャップ60は、平面視でヘッド2の外周を取り囲む矩形の環状部材であり、主走査方向に長い。キャップ60は、図7に示すように、ヘッドホルダ5に支持された弾性体61、及び、昇降可能な可動体62を含む。
【0050】
弾性体61は、ゴム等の環状弾性材料からなり、平面視でヘッド2を囲んでいる。弾性体61は、図7に示すように、基部61x、基部61xの下面から突出した突出部61a、ヘッドホルダ5に固定された固定部61c、及び、基部61xと固定部61cとを接続する接続部61dを含む。このうち、突出部61aは、断面が三角形である。また、固定部61cは断面がT字状である。固定部61cの上端部分は、接着剤等によって、ヘッドホルダ5に固定されている。固定部61cはまた、ヘッドホルダ5と各ジョイント51の基端部51xとで挟持されている。接続部61dは、固定部61cの下端から湾曲しつつ外側(平面視で吐出面2aから離隔する方向)に延び、基部61xの下側側面に接続している。接続部61dは、可動体62の昇降に伴って変形する。基部61xの上面には、凹部61bが形成されており、可動体62の下端と嵌合している。
【0051】
可動体62は、環状の剛材料(例えば、ステンレス)からなり、平面視でヘッド2の外周を取り囲んでいる。可動体62は、弾性体61に支持されて、ヘッドホルダ5に対して鉛直方向に相対移動可能である。可動体62は、複数のギア63と接続されている。制御部100による制御の下、昇降モータ64(図8参照)が駆動されると、ギア63が回転して可動体62が昇降する。このとき、基部61xも、共に昇降する。これにより、突出部61aの先端61a1と吐出面2aとの相対位置が、鉛直方向に変化する。本実施形態では、1つの昇降モータ64から、各キャップ60用の複数のギア63に対して、その駆動力が選択的に伝達される。
【0052】
突出部61aは、可動体62の昇降に伴って、先端61a1が搬送ベルト43の外周面に当接する当接位置(図6に示す位置)と、外周面から離隔した離隔位置(図7に示す位置)とを選択的に取る。当接位置では、吐出空間S1が、外部空間S2から隔離された封止状態となっている。また、離隔位置では、吐出空間S1が外部空間S2に対して開放された非封止状態となっている。このようなキャップ60、複数のギア63を含む伝達機構、ヘッドホルダ5、昇降モータ64、及び、搬送ベルト43によって、キャップ手段が構成されている。
【0053】
次に、図6を参照し、加湿空気供給機構50の構成について説明する。
【0054】
加湿空気供給機構50は、図6に示すように、一対のジョイント51、チューブ55,57、ポンプ56及びタンク54などを含む。チューブ55は、4つのヘッド2に共通の主部55a及び主部55aから分岐した4つの分岐部55bを含む。分岐部55bは、それぞれジョイント51と繋がる。ポンプ56は主部55aに設けられている。チューブ57も、チューブ55と同様に4つのヘッド2に共通の主部57a及び4つの分岐部57bを含む。分岐部57bも、それぞれジョイント51と繋がる。なお、図6では、1組の分岐部55b、57bと1つのヘッド2との接続状態が示されている。実際は、1つの主部55a、57aに対して、4つのヘッド2が分岐部55b、57bを介して並列的に接続されている。
【0055】
チューブ55の一端(分岐部55bの先端)は左側ジョイント51の先端部51yに嵌合し、他端はタンク54に接続されている。一方、チューブ57の一端(分岐部57bの先端)は右側ジョイント51の先端51yに嵌合し、他端はタンク54に接続されている。このように、チューブ55、57は、吐出空間S1とタンク54とを連通させている。ここで、キャップ60が封止状態にあるとき、ポンプ56による加湿空気の循環が可能となる。
【0056】
タンク(貯留部)54は、下部空間に水(加湿液)を貯留し、且つ、上部空間に、下部空間の水により加湿された加湿空気を貯蔵している。また、タンク54の上壁には、タンク54内と大気とを連通する大気連通孔53が形成されている。チューブ57は、タンク54の下部空間(水中)と連通している。一方、チューブ55は、タンク54の上部空間と連通している。なお、タンク54内の水がチューブ57に流れ込まないよう、チューブ57には図示しない逆止弁が取り付けられており、図6中白抜き矢印方向にのみ空気が流れるようになっている。
【0057】
この構成において、増粘防止動作の加湿メンテナンスが実行されると、制御部100の制御により、ポンプ56が駆動され、図6に示すように、タンク54内の空気が白抜き矢印に沿って循環する。上部空間の加湿空気は、供給口51aから吐出空間S1に供給される。このとき、吐出空間S1は封止状態であるため、内部の空気が加湿空気と置換されながら排出口51bに向かって流れる。チューブ57はタンク54と水中で連通しているため、吐出空間S1内の空気は、タンク54で加湿される。生成された加湿空気は、ポンプ56の駆動が続く間、吐出空間S1に供給される。
【0058】
次に、図8を参照しつつ、制御部100について説明する。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するROM(Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。制御部100を構成する各機能部は、これらハードウェアとROM内のソフトウェアとが協働して構築されている。図8に示すように、制御部100は、搬送制御部141と、画像データ記憶部142と、ヘッド制御部143と、メンテナンス制御部150と、時間計測部151と、判定部152とを有している。
【0059】
搬送制御部141は、外部装置から受信した印刷指令に基づいて、用紙Pが搬送方向に沿って所定速度で搬送されるように、給紙部23、ガイド部10a,10b、及び、搬送機構40の各動作を制御する。画像データ記憶部142は、外部装置からの印刷指令に含まれる画像データを記憶する。
【0060】
ヘッド制御部143は、画像形成及びメンテナンスにおいて、インクを吐出するようヘッド2を制御する。画像形成は、画像データ記憶部142に記憶された画像データに基づいて行われ、搬送される用紙Pに向けてインクが吐出される。メンテナンス(フラッシング動作)は、フラッシングデータに基づいて行われ、搬送ベルト43に向けてインクが吐出される。
【0061】
時間計測部(計測手段)151は、プリンタ1の電源が切られてから入れられるまでの放置時間を計測する。図8に示す電源スイッチ101は、電源が入った状態でユーザに押されると、電源オフ信号を制御部100に出力し、電源が切られた状態で押されると、電源オン信号を制御部100に出力する。そして、時間計測部151は、この電源オフ信号及び電源オン信号の出力タイミングに基づいて、放置時間を計測する。制御部100には、電源が切られている間、バッテリ29から電力が供給される。このように、プリンタ1の電源が切られている間においても時間を計測する計測手段が、時間計測部151とバッテリ29とによって構成されている。
【0062】
判定部152は、時間計測部151によって計測された放置時間が所定時間を超えているか否かを判定する。なお、判定部152は、プリンタ1の電源が切られている間に、バッテリ29から制御部100への電力供給が途絶えた場合、放置時間が所定時間を超えていると判定する。
【0063】
メンテナンス制御部150は、プリンタ1の電源が切られる場合(電源オフ信号が出力されたとき)に、キャッピング及び加湿メンテナンスによる増粘防止動作を行うように、可動体62(突出部61aの先端61a1)を昇降させる昇降モータ64、及び、加湿空気供給機構50のポンプ56を制御する。
【0064】
また、メンテナンス制御部150は、プリンタ1の電源が入れられた場合(電源オン信号が出力されたとき)に、キャッピングの解除、パージ及びワイピング動作を行うように、昇降モータ64、ポンプ38、ヘッド昇降機構33及びワイパユニット36を制御する。このとき、判定部152が、放置時間が所定時間を超えていると判定したときだけ、メンテナンス制御部150は、まず、キャッピングの解除、パージ及びワイピング動作を行った後、キャッピング、加湿メンテナンスを行い、その後、キャッピングの解除、パージ及びワイピング動作を行うように、昇降モータ64、ポンプ38,56、ヘッド昇降機構33及びワイパユニット36を制御する。
【0065】
また、メンテナンス制御部150は、吐出フラッシング及びパージ動作が行われた後に、搬送ベルト43のクリーニング動作を行う。このとき、メンテナンス制御部150は、洗浄液塗布部材37a及びブレード37bを当接位置に移動させるように、移動機構37cを制御するとともに、搬送制御部141を介して搬送ベルト43を時計回りに走行させるように、搬送機構40を制御する。これにより、搬送ベルト43の外周面に洗浄液が塗布され、外周面上のインクが、洗浄液と共にブレード37bに掻き取られる。
【0066】
次に、図9を参照し、プリンタ1のオン・オフ時に係るメンテナンス動作について説明する。なお、この図9の動作フローの開始時における状態は、プリンタ1の電源が切られる直前の状態である。
【0067】
まず、電源をオフにするためにユーザが電源スイッチ101を押すと、制御部100が電源スイッチ101から出力された電源オフ信号を受信する(ステップF1)。すると、メンテナンス制御部150が、搬送制御部141を制御して搬送ベルト43の走行を停止し、昇降モータ64を制御して吐出空間S1をキャッピング(封止状態に)する(ステップF2)。このとき、キャップ60の突出部61aが搬送ベルト43の上面に当接する。
【0068】
次に、ステップF3において、メンテナンス制御部150が、ポンプ56を所定時間だけ駆動し、所定の加湿メンテナンスを行う。これにより、吐出空間S1に加湿空気が充填される。この後、プリンタ1は、完全に電源がオフ状態となる。このとき、時間計測部151は、バッテリ29により電力が供給されているので、放置時間を計測している。
【0069】
この後、電源をオンにするためにユーザが電源スイッチ101を押すと、制御部100が電源スイッチ101から出力された電源オン信号を受信する(ステップF4)。すると、ステップF5において、判定部152が、時間計測部151によって計測された放置時間が所定時間を超えているか否かを判定する。放置時間が所定時間以内であれば、ステップF6に進み、所定時間を超えていれば、ステップF8に進む。このとき、判定部152が、バッテリ29から制御部100への電力供給が途絶えていると判定した場合(すなわち、時間計測部151が正確に放置時間を計測していない場合)、ステップF8に進む。
【0070】
次に、ステップF6においては、メンテナンス制御部150が、昇降モータ64を制御してキャッピングを解除し吐出空間S1を非封止状態にする。その後、ステップF7において、メンテナンス制御部150が、パージ及びワイピング動作を行う。つまり、メンテナンス制御部150が、ポンプ38を制御して、図10(a)に示すように、すべての吐出口108から搬送ベルト43上にインクを排出させる(パージ動作)。本実施形態におけるパージ動作は、ポンプ38が駆動され、カートリッジ22内の所定量のインクがヘッド2に強制的に送液されて、吐出口108からインクが排出される。
【0071】
メンテナンス制御部150は、パージ動作を行った後、ヘッド昇降機構33を制御して4つのヘッド2を印刷位置から退避位置に移動させる。この後、図10(b)に示すように、メンテナンス制御部150は、ワイパユニット36(ワイパ移動機構27)を制御して吐出面2aをワイパ36aで払拭する(ワイピング動作)。そして、メンテナンス制御部150は、ワイピング動作が終了すると、ヘッド昇降機構33を制御して、4つのヘッド2を印刷位置に戻す。
【0072】
ステップF5において、放置時間が所定時間を超えていれば、ステップF8へと進み、パージ及びワイピング動作、加湿メンテナンス、パージ及びワイピング動作という処理が行われる。具体的には、ステップF8においては、ステップF6と同様に、メンテナンス制御部150が、キャッピングを解除する。その後、ステップF9において、ステップF7と同様に、メンテナンス制御部150が、パージ及びワイピング動作を行う。そして、ステップF9におけるワイピング動作が終了した後、ステップF10において、再度、メンテナンス制御部150が、昇降モータ64を制御して吐出空間S1をキャッピングする。
【0073】
次に、ステップF11において、ステップF3と同様に、メンテナンス制御部150が、所定の加湿メンテナンスを行う。これにより、吐出空間S1が加湿されて、すべての吐出口108近傍のインクに水分が補給される。特に、ステップF9におけるパージ動作でも吐出不良から回復していない吐出口108近傍の増粘インクに水分が補給され、当該インクが軟化する。この後、ステップF6に進む。このときのステップF6の後のステップF7においては、ステップF11による加湿メンテナンスによって、ほとんどの吐出口108近傍のインクが軟化しているので、すべての吐出口108からインクを強制排出させることが可能となる。つまり、すべての吐出口108において、吐出不良が回復する。
【0074】
次に、ステップF12において、メンテナンス制御部150が、移動機構37cを制御して洗浄液塗布部材37a及びブレード37bを当接位置に移動させるとともに、搬送制御部141を介して搬送機構40を制御し、搬送ベルト43を時計回りに走行させる。これにより、搬送ベルト43の外周面に洗浄液が塗布され、外周面上のインクが、洗浄液と共にブレード37bに掻き取られる(クリーニング動作)。こうして、メンテナンス動作が終了し、吐出口108の吐出不良が回復した状態で、印刷指令の受信待機状態となる。
【0075】
変形例として、ステップF9とステップF10との間に、ステップF12を行ってもよい。こうすると、ステップF10において、キャッピングを行う際に、キャップ60に搬送ベルト43上に付着したインクが付着しなくなる。キャップ60の先端や内面にインクが付着し当該インクが乾燥すると、封止状態において、吐出口108近傍のインクから水分を奪う(乾燥を促進する)。しかしながら、本変形例においては、キャップ60にインクが付着しなくなるため、封止状態において、吐出口108近傍のインクの乾燥を促進するのを抑制することが可能となる。
【0076】
以上に述べたように、本実施形態のプリンタ1によると、電源が切られた放置時間が所定時間よりも長く、吐出口108近傍のインクの乾燥が進んでいる場合に、加湿メンテナンス(ステップF11)が行われてからパージ動作(ステップF7)が行われる。このため、吐出口108近傍の乾燥したインクに水分が補給され、当該インクが軟化した状態でパージ動作を行うことが可能となり、吐出不良が回復しやすくなる。また、吐出口108からのインクの強制排出を、ポンプ38の駆動で行っているため、その強制排出機構の構成が簡単になる。また、パージ(F9)及び加湿メンテナンス(F11)は放置時間が所定時間よりも短い場合(F5:NO)には行われないので、放置時間に拘わらずにこれらを実行する場合に比べて、インク及び水の消費量を低減させることができる。
【0077】
また、本実施形態のプリンタ1によると、電源が切られた放置時間が所定時間よりも長く、吐出口108近傍のインクの乾燥が進んでいる場合に、ステップF11において、加湿メンテナンスを行う前に、ステップF9において、一旦、パージ動作を行う。このため、パージ動作によって吐出口108から滲み出したインクが吐出面2a上に広がり、この広がったインクが、今回のパージ動作において目詰まりしたままの吐出口108上にも広がる。さらには、パージ動作によって吐出面2aに付着したインクが、ワイパ36aの吐出面2a上の移動によって、吐出面2a全体に一時的に広がる。このように吐出面2a全体に短時間ながらインクが広がることで、吐出口(吐出不良が回復していない吐出口)108近傍の乾燥したインクの軟化が促進される。そして、このパージ及びワイピング動作後の、加湿メンテナンス、及び、パージ動作によって、吐出不良を大幅に回復させることが可能となる。
【0078】
また、ワイパユニット36を有していることで、パージ動作によって吐出面2aに付着したインクをワイパ36aで払拭することが可能となる。このため、吐出面2aにインクが残存しなくなり、吐出口108からのインク吐出特性が安定する。
【0079】
ここで、プリンタ1の電源を切った放置時間が、長期の場合のヘッド2の回復状況における実施例について説明する。吐出口108の数が5000程度あるヘッド2を用い、プリンタ1の周辺温度が33℃、湿度が30%において、約9ヶ月間、プリンタ1の電源を切って放置した。この電源を切るタイミングで、ヘッド2はキャッピングした状態で所定の加湿メンテナンスを実行する。そして、9ヶ月が経過した時点で、ヘッド2の吐出口108のうち、数千の吐出口108が吐出口近傍のインクの乾燥によって吐出不良となった。そして、パージ及びワイピング動作を34回ほど、繰り返し行った。このときの1回のパージ動作におけるインク排出量は、1.5mlで、流量は4ml/sである。1〜15回ほど上記動作を行うことで、不吐出の吐出口108の数が、数千から数百まで減少したが、これ以降30回目まで同様の動作を繰り返し行っても、不吐出の吐出口108は回復しなかった。しかしながら、31回目のパージ及びワイピング動作を行う前に、所定の加湿メンテナンス(加湿空気の湿度が80%、加湿空気の流量が33ml/s、加湿時間が15分)を行い、その後、31回目のパージ及びワイピング動作を行うと、不吐出の吐出口108の数が、数百から数十まで減少した。そして、34回目のパージ動作を行ったときには、すべての吐出口108の吐出不良が解消された。これに対し、加湿メンテナンスを加えないと、吐出不良回復のためにパージ及びワイピング動作の回数を重ねる必要があった。このように、パージ及びワイピング動作、加湿メンテナンス、パージ及びワイピング動作を行うことで、パージ及びワイピング動作だけでは回復しなかった吐出口108が回復し、ヘッド2の吐出不良が解消された。
【0080】
変形例として、ステップF9及びステップF11の後のステップF7において、放置時間が長くなればなるほど、パージ動作によって排出するインク排出量を増加させてもよい。このインク排出量の増加は、1回のパージ動作によって排出するインク量を増加させてもよいし、パージ動作を複数回行うことでインク排出量を増加させてもよい。こうすれば、吐出口108の吐出不良が完全に解消する。
【0081】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態においては、ステップF7,F9において、インクの強制排出としてパージ動作が行われているが、メンテナンス制御部150がヘッド制御部143を介してアクチュエータ(強制排出機構)を制御し、すべての吐出口108から複数のインク滴を吐出(排出)させてもよい。つまり、パージ動作に代えてフラッシング動作を行ってもよい。また、凹形状のキャップ部材で吐出面2aを覆って吐出空間S1を封止状態とし、当該吐出空間S1の圧力を吐出口108に形成されたインクメニスカス耐圧よりも低い負圧にしてもよい。こうすることで、吐出口108内のインクを吸引パージしてもよい。
【0082】
また、吐出空間S1を封止状態と非封止状態とに取り得るキャップ手段として、吐出面2aと対向する底部及びこの底部の周縁に立設された環状部を有するキャップと、環状部の先端が吐出面2aと当接する位置及び吐出面2aから離隔した位置にキャップを移動させる移動機構とを含んで構成されていてもよい。この場合、キャップの底部に加湿空気を供給する供給口と排出口とが設けられていてもよい。この変形例においては、パージ動作後にワイピング動作が行われるので、次回、キャップで吐出面2aを覆った際に、キャップにインクが付着しなくなる。
【0083】
また、上述の実施形態のワイパ移動機構27においては、ワイパ36aを主走査方向に移動させているが、移動機構は、ヘッド2を移動させてもよいし、ワイパ36a及びヘッド2の両者を相対移動させてもよい。
【0084】
本実施の形態では、電源オフ時の加湿メンテナンス(ステップF3)と、装置の停止期間が長期に亘った場合の加湿メンテナンス(ステップF11)とは、同じ内容で加湿動作が行われるとしたが、目詰まりをなくし確実に吐出特性を回復するためには、長期停止後の加湿メンテナンスについて、より長時間の加湿を行ってもよい。このとき、停止期間に対して複数の閾値を設け、閾値で区画される期間毎に加湿時間を設定してもよい。また、停止期間と必要加湿時間の関係を求めておき、この関係曲線に基づいて加湿時間を決めてもよい。
【0085】
本発明は、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能であり、さらに、インク以外の液体を吐出させることで記録を行う液体吐出装置にも適用可能である。記録媒体は、用紙Pに限定されず、記録可能な様々な媒体であってよい。さらに、本発明は、インクの吐出方式にかかわらず適用できる。例えば、本実施の形態では、圧電素子を用いたが、抵抗加熱方式でも、静電容量方式でもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 インクジェットプリンタ(液体吐出装置)
2 インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)
2a 吐出面
27 ワイパ移動機構(移動機構)
36a ワイパ
38 ポンプ(強制排出機構)
50 加湿空気供給機構
100 制御部
108 吐出口
150 メンテナンス制御部(制御手段)
151 時間計測部(計測手段)
S1 吐出空間
S2 外部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための複数の吐出口が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッドと、
前記吐出面と対向する吐出空間が外部空間から封止された封止状態と、前記吐出空間が前記外部空間に対して開放された非封止状態とを取り得るキャップ手段と、
加湿空気を生成するとともに、前記封止状態の前記吐出空間内に加湿空気を供給する加湿動作を行う加湿空気供給機構と、
前記液体吐出ヘッド内の液体に圧力を付与し、前記吐出口から液体を強制的に排出させる強制排出動作を行う強制排出機構と、
電源が切られてから入れられるまでの放置時間を計測する計測手段と、
前記電源が切られる場合に、前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に前記加湿動作を行うように前記加湿空気供給機構を制御し、前記電源が入れられた場合に、前記強制排出動作を行うように前記強制排出機構を制御する制御手段とを備えており、
前記制御手段は、前記電源が入れられた場合に、前記計測手段が計測した前記放置時間が所定時間を超えたときだけ、前記強制排出動作を行う前の前記封止状態において前記加湿動作を行うように前記加湿空気供給機構を制御することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記強制排出機構は、所定量の液体を前記液体吐出ヘッドに送液することで前記強制排出動作を行うポンプを有し、
前記制御手段は、前記電源が入れられた場合に、前記封止状態の前記吐出空間を前記非封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に前記強制排出動作を行うように前記ポンプを制御することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電源が入れられた場合に、前記計測手段が計測した前記放置時間が前記所定時間を超えたときだけ、前記加湿動作を行う前に、前記吐出空間を前記非封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に前記強制排出動作を行うように前記ポンプを制御し、前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記吐出面を払拭するワイパと、
前記ワイパが前記吐出面と接触しながら前記吐出面に対して相対移動するように、前記ワイパ及び前記液体吐出ヘッドの少なくとも一方を移動させる移動機構とをさらに備えており、
前記制御手段は、前記強制排出動作を行った後であって前記吐出空間を前記封止状態とするまでに、前記ワイパで前記吐出面を払拭する払拭動作が行われるように前記移動機構を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−35174(P2013−35174A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171651(P2011−171651)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】