説明

液体噴射ヘッドの製造方法および画像記録装置

【課題】液体噴射ヘッドの振動板の表面のCu、Ni等の重金属の析出、汚染を減少させ、絶縁破壊や駆動不良の発生を抑え、不良の少ない液体噴射ヘッドの製造方法および画像記録装置を得ること。
【解決手段】振動板15を備えたキャビティ基板10を形成するシリコンウェハー110の表面に存在するCuおよびNiの表面濃度が、それぞれ1.0E11(atom/cm2)以下および1.0E10(atom/cm2)以下のものを使用するので、振動板15の表面のCuおよびNiによって、振動板15と対向する個別電極33との間の絶縁破壊や振動板15と対向する個別電極33との貼り付きによる駆動不良が減少した液体噴射ヘッドの製造方法を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電駆動方式の液体噴射ヘッドの製造方法および画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を液滴として噴射する液体噴射ヘッドは、例えば、プリンター等の画像記録装置および液晶表示装置のカラーフィルターの製造等に用いられる液体噴射装置等に適用される。
このような液体噴射ヘッドとして、圧力発生室の一部を構成する振動板と、振動板にギャップを隔てて対向する対向電極とを備え、振動板と対向電極との間に生じる静電気力によって振動板を撓ませ、圧力発生室内の圧力を変化させてインク等の液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
振動板は、単結晶シリコンからなるキャビティ基板に圧力発生室の一部として形成される。
具体的な液体噴射ヘッドの製造方法としては、まず複数のシリコンウェハーに、それぞれ複数のキャビティ基板、電極基板、ノズルプレートを形成する。その後、これらのシリコンウェハーを接合した後に、個々の液体噴射ヘッドとして切り離す。
液体噴射ヘッドの製造に用いるシリコンウェハーには、Cu、Ni等の重金属が不純物として含まれ、600℃〜1000℃の熱処理を行なった後、SC−1洗浄(アンモニア過酸化水素水洗浄)を行なうことによって不純物を除去する方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−154421号公報
【特許文献2】特開2000−290100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体噴射ヘッドの製造工程において、シリコンウェハー中に含まれるCu、Ni等の重金属は、製造工程中の熱処理等によってシリコンウェハー表面に析出、付着する。対向電極に対向する振動板の表面にCu、Ni等の重金属の析出、付着が起こると、絶縁破壊や駆動不良を引き起こし、液体噴射ヘッドとして不良となるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
圧力発生室の一部を構成する振動板を、前記振動板と対向する電極との間の静電気力によって駆動して液滴を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法であって、Cuの表面濃度が1.0E11(atom/cm2)以下、且つNiの表面濃度が1.0E10(atom/cm2)以下のシリコンウェハーをエッチングし、前記圧力発生室および前記振動板を備えるキャビティ基板を形成するキャビティ基板形成工程と、前記キャビティ基板を1000℃以上1100℃以下で熱酸化し、二酸化ケイ素膜を形成する酸化工程とを備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【0008】
振動板を備えたキャビティ基板を形成するシリコンウェハーの表面に存在するCuおよびNiの表面濃度が、それぞれ1.0E11(atom/cm2)以下および1.0E10(atom/cm2)以下のものを使用するので、振動板の表面のCuおよびNiによる、振動板と対向する電極との間の絶縁破壊や振動板と対向する電極との貼り付きによる駆動不良が減少した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
ここで、表面濃度とは、表面および分析で検出できる検出深さまでの濃度をいう。また、表面濃度の下限値は、分析方法によって決まる。
【0009】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドの製造方法において、前記キャビティ基板形成工程前に、前記シリコンウェハーを、N2雰囲気下で250℃以上、400℃以下の温度で、30分以上、60分以下の処理時間で熱処理後、塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄し、前記Cuおよび前記Niの表面濃度を分析する分析工程をさらに備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
この適用例では、予め熱処理を行なって、シリコンウェハー内部から表面に析出するCuおよびNiを洗浄した後に、表面濃度を分析しているので、分析工程以降の工程で熱処理等を行なってもシリコンウェハー内部から表面に析出するCuおよびNiの量は少なく、振動板と対向する電極との間の絶縁破壊や振動板と対向する電極との貼り付きによる駆動不良がより減少した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
熱処理において、Niが表面に析出するには250℃以上が必要で、シリコンウェハーのそりを防ぐためには400℃以下が好ましい。
また、30分以上の熱処理であれば、シリコンウェハー内部から表面にCuおよびNiの大部分が析出し、60分以下であれば、熱処理工程に時間がかからない。
【0010】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドの製造方法において、前記キャビティ基板形成工程と前記酸化工程との間に、前記振動板を塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄する洗浄工程をさらに備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
この適用例では、キャビティ基板を形成した後の最後に近い段階で、酸化工程の前に少なくとも振動板を塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄する。したがって、分析工程からキャビティ基板形成工程終了までの間にシリコンウェハー内部から振動板表面に析出したり、振動板表面に汚染として付着したりしたCuおよびNiを取り除け、振動板と対向する電極との間の絶縁破壊や振動板と対向する電極との貼り付きによる駆動不良がより減少した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
【0011】
[適用例4]
上記液体噴射ヘッドの製造方法において、前記分析工程において、前記Cuおよび前記Niの表面濃度の分析方法として、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)もしくは全反射蛍光X線分析(TXRF)を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
この適用例では、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)または全反射蛍光X線分析(TXRF)では、1.0E10(atom/cm2)以下の表面濃度であっても、分析が高感度で行なえるので、CuおよびNiの濃度の判定が確実に行なえ、振動板と対向する電極との間の絶縁破壊や振動板と対向する電極との貼り付きによる駆動不良がより減少した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)または全反射蛍光X線分析(TXRF)は、比較的非破壊で、広い領域での分析が可能であり、シリコンウェハーを有効に利用でき、広い領域でCuおよびNiを検出しやすい。
【0012】
[適用例5]
上記に記載の製造方法により製造された液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする画像記録装置。
【0013】
前述の効果を有する画像形成装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの概略部分斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの概略部分断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造方法の一部を示すフロー図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法の一部を示す概略断面図。
【図5】インクジェットプリンターの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
なお、図面では、説明を分かりやすくするために、一部を省略したり、各構成等を誇張したりして図示している。
【0016】
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド100の概略部分斜視図であり、図2は、その概略部分断面図である。
図1は、インクジェット式記録ヘッド100をA面およびB面で切断した状態を示している。図1は、A面で切断した半分の状態を示しており、実際はA面を対称面として同じ構造のものを備えている。
【0017】
図1および図2において、インクジェット式記録ヘッド100は、いわゆる静電駆動方式のヘッドであり、キャビティ基板10と、このキャビティ基板10の両面にそれぞれ接合されるノズルプレート20および電極基板30とを備えている。
【0018】
キャビティ基板10は、例えば、面方位(100)または(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方面側に開口する圧力発生室(キャビティ)11がその幅方向に複数並設されている。また、キャビティ基板10には、図1においては図示されていないが、複数の圧力発生室11が並設された列が2列形成されている。
キャビティ基板10には、各列の圧力発生室11に共通するインク室となる共通インク室12が形成されており、この共通インク室12は、後述するインク供給路を介して各圧力発生室11に連通されている。また、共通インク室12の底壁には、共通インク室12にインクを供給するためのインク供給孔13が形成されている。さらに、キャビティ基板10には、共通インク室12の外側に、後述する対向電極としての個別電極33に接続される個別端子部34を露出させるための貫通孔14が形成されている。
【0019】
なお、各圧力発生室11の底壁は、圧力発生室11内に圧力変化を生じさせるための振動板15として機能し、この振動板15を変位させる静電気力を発生させるための共通電極としての役割を兼ねている。そして、キャビティ基板10の貫通孔14近傍には、後述するノズルプレート20の露出孔内に露出されて図示しない駆動配線が接続される共通端子部16が形成されている。
【0020】
ノズルプレート20は、キャビティ基板10と同様に、面方位(100)または(110)のシリコン単結晶基板からなり、各圧力発生室11に連通する複数のノズル21が形成されている。このノズルプレート20は、キャビティ基板10の開口面側に接合され、圧力発生室11および共通インク室12の一方の面を構成している。また、ノズルプレート20のキャビティ基板10とは反対側の面には、ノズル21に対応する領域に亘って厚さ方向の一部を除去したノズル段差部22が形成されている。
【0021】
ここで、各ノズル21は、インク滴が噴射される側に設けられてノズル段差部22内に開口する略円形の小径部21aと、小径部21aよりも大きい径を有し小径部21aと圧力発生室11とを連通する大径部21bとからなる。全てのノズル21は、このノズル段差部22内に開口しており、このノズル段差部22内のノズルプレート20の表面がノズル面となる。なお、このノズル21は、詳しくは後述するが、プラズマエッチング装置を用いてシリコン単結晶基板からなるノズルプレート20をドライエッチングすることによって形成されている。
【0022】
また、ノズルプレート20のキャビティ基板10との接合面には、圧力発生室11と共通インク室12との境界に対応する領域に、これら各圧力発生室11と共通インク室12とを連通するインク供給路23が形成されている。さらに、ノズルプレート20には、共通インク室12の外側に対応する位置に、キャビティ基板10の貫通孔14に連通し、個別端子部34と共に共通端子部16を露出させる露出孔24が形成されている。
【0023】
ノズルプレート20の表面のノズル段差部22内には、例えば、フッ素含有シランカップリング化合物等からなる撥水撥油性材料からなる撥水撥油膜25が形成されている。これにより、ノズルプレート20の表面(ノズル面)へのインク滴の付着を抑えている。
【0024】
電極基板30は、シリコン単結晶基板に近い熱膨張率を有する、例えば、ホウ珪酸ガラス等のガラス基板からなり、キャビティ基板10の振動板15側の面に接合されている。この電極基板30の振動板15に対向する領域には、各圧力発生室11に対応して電極基板凹部31が形成されている。また、電極基板30には、キャビティ基板10のインク供給孔13に対応する位置に、このインク供給孔13に連通するインク導入孔32が形成されている。そして、図示しないインクタンクからこのインク導入孔32およびインク供給孔13を介して共通インク室12にインクが充填されるようになっている。
【0025】
各電極基板凹部31には、振動板15を変位させる静電気力を発生させるための個別電極33が、振動板15との間に所定の間隔を確保した状態でそれぞれ配置されている。また、電極基板凹部31内には、キャビティ基板10の貫通孔14に対向する領域に、図示しない駆動配線が接続される個別端子部34が形成されており、この個別端子部34と各個別電極33とはリード電極35によって接続されている。なお、図示しないが、これら各個別電極33およびリード電極35は絶縁膜によって封止され、また個別端子部34と共通端子部16との間には、接続配線を介して駆動電圧パルスを印加するための発振回路が接続されている。
【0026】
インクジェット式記録ヘッド100では、発振回路によって個別電極33と振動板15(キャビティ基板10)との間に駆動電圧を印加すると、これら個別電極33と振動板15との隙間に発生する静電気力によって振動板15が個別電極33側に撓み変形して、圧力発生室11の容積が拡大し、駆動電圧の印加を解除すると、振動板15が元の状態に復帰し、圧力発生室11の容積が収縮する。そして、このとき発生する圧力発生室11内の圧力変化によって、圧力発生室11内のインクの一部が、ノズル21からインク滴として噴射される。
【0027】
以下に、インクジェット式記録ヘッド100の製造方法について、キャビティ基板10の製造方法を中心に具体的に説明する。インクジェット式記録ヘッド100は、ウェハー状態で複数のキャビティ基板10、ノズルプレート20および電極基板30をそれぞれ形成し、各ウェハーを貼り合せた後に個々のインクジェット式記録ヘッド100を切り離すことによって得られる。
【0028】
図3は、インクジェット式記録ヘッド100の製造方法の一部であるキャビティ基板10の製造方法を示すフロー図である。
図3において、キャビティ基板10の製造方法は、分析工程としてのステップ1(S1)と、キャビティ基板形成工程としてのステップ2(S2)と、洗浄工程としてのステップ3(S3)と、酸化工程としてのステップ4(S4)とを含む。
【0029】
図4には、一つのインクジェット式記録ヘッド100を構成するキャビティ基板10の製造方法を示す概略断面図を抜き出して示した。
図4(a)は分析工程(S1)を、図4(b)はキャビティ基板形成工程(S2)を、図4(c)は洗浄工程(S3)を、図4(d)は酸化工程(S4)を示している。
【0030】
図4(a)において、分析工程(S1)では、シリコンウェハー110をN2雰囲気下で250℃以上、400℃以下の温度、30分以上、60分以下の処理時間の熱処理後、塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄したシリコンウェハー110の表面汚染濃度を調べる。
Niが表面に析出するには250℃以上が必要で、シリコンウェハー110のそりを防ぐためには400℃以下が好ましい。
分析方法としては、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)もしくは全反射蛍光X線分析(TXRF)を用いることができる。分析によって、汚染金属MであるCuが1.0E11(atom/cm2)以下、Niが1.0E10(atom/cm2)以下の濃度のシリコンウェハー110を選択し、キャビティ基板10の製造に用いる。ここで、Ni濃度に対してCu濃度を小さくしているのは、シリコンウェハー110中のCuは、Niと比較して移動しやすいためである。シリコンウェハー110中の汚染金属Mの含有量を上記の範囲としたことにより、後の製造工程における熱処理等によるシリコンウェハー表面への汚染金属Mの析出および付着を抑制することができる。
【0031】
図4(b)において、キャビティ基板形成工程(S2)では、分析工程(S1)で選択したシリコンウェハー110に振動板15を形成する際のエッチングストッパーとなるボロンドープ層を形成し、パターニングに必要な二酸化ケイ素膜をウェット酸化により成膜する。その後、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離を繰り返し、よく知られたフォトリソ工程によって振動板15まで形成し、図1および図2に示したキャビティ基板10の形状を得る。
エッチングでは、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用する2段階のエッチングを実施する。以上のエッチング処理においては、先に形成していたボロンドープ層がエッチングストップとして作用し、残ったボロンドープ層が振動板15として形成される。
キャビティ基板形成工程(S2)までの熱処理、外部からの汚染等によって、CuまたはNiなどの汚染金属Mが表面層に析出、付着する場合がある。
【0032】
図4(c)において、洗浄工程(S3)では、厚さ数μの振動板15を形成した上で表面層に析出、付着したCuまたはNiなどの汚染金属Mを塩酸および過酸化水素水を含んだ混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含んだ混合液で洗浄する。
【0033】
図4(d)において、酸化工程(S4)では1000℃以上1100℃以下の温度で熱酸化を行い、二酸化ケイ素膜120を形成する。
以上の工程を含む工程を行うことによってキャビティ基板10が得られる。
【0034】
以下に、電極基板30の製造方法を説明する。電極基板30もウェハーであるガラス基板に複数形成する。ここで、ガラス基板は図示していないが、シリコンウェハー110と同じ大きさのものを用いることができる。
ホウ珪酸ガラス基板を用意し、このガラス基板に例えばクロムのエッチングマスクを施し、フッ酸水溶液等でエッチングして電極基板凹部31を形成し、電極基板凹部31内にスパッタ等により個別電極33、個別端子部34、この個別端子部34と各個別電極33とを接続するリード電極35を形成する。
最後に、ガラス基板にドリルなどによって穴をあけ、インク導入孔32を形成する。こうして、ガラス基板に複数の電極基板30を形成する。
【0035】
複数の電極基板30が形成されたガラス基板と複数のキャビティ基板10が形成されたシリコンウェハー110とを、陽極接合する。ここでは、ガラス基板を例えば360℃に加熱し、シリコンウェハー110に陽極、ガラス基板に陰極を接続して、800V程度の電圧を印加し、陽極接合により接合する。
【0036】
ICP(Inductively Coupled Plasma)放電によるドライエッチング等によってノズル21が形成されたノズルプレート20を複数備えたノズルプレートウェハー(図示せず)を、シリコンウェハー110のガラス基板が接合されている側と反対側の面に接着剤等により接合する。
【0037】
複数のキャビティ基板10、電極基板30およびノズルプレート20が接合された接合ウェハーをダイシング(切断)により分離して、個々のインクジェット式記録ヘッド100が完成する。
【0038】
図5は液滴噴射装置である画像記録装置としてのインクジェットプリンター1000の斜視図である。インクジェットプリンター1000は、実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100を搭載したもので、液滴としてインクを噴射する。
【0039】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)振動板15を備えたキャビティ基板10を形成するシリコンウェハー110の表面に存在するCuおよびNiの表面濃度が、それぞれ1.0E11(atom/cm2)以下および1.0E10(atom/cm2)以下のものを使用するので、振動板15の表面のCuおよびNiによる、振動板15と対向する個別電極33との間の絶縁破壊や振動板15と対向する個別電極33との貼り付きによる駆動不良が減少した液体噴射ヘッドの製造方法を得ることができる。
【0040】
(2)予め熱処理を行なって、シリコンウェハー110内部から表面に析出するCuおよびNiを洗浄した後に、表面濃度を分析しているので、分析工程以降の工程で熱処理等を行なってもシリコンウェハー110内部から表面に析出するCuおよびNiの量を少なくでき、振動板15と対向する個別電極33との間の絶縁破壊や振動板15と対向する個別電極33との貼り付きによる駆動不良が減少した液体噴射ヘッドの製造方法を得ることができる。
【0041】
(3)キャビティ基板10を形成した後の最後に近い段階で、酸化工程の前に少なくとも振動板15を塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄する。したがって、分析工程からキャビティ基板形成工程終了までの間にシリコンウェハー110内部から振動板15表面に析出したり、振動板15表面に汚染として付着したりしたCuおよびNiを取り除くことができ、振動板15と対向する個別電極33との間の絶縁破壊や振動板15と対向する個別電極33との貼り付きによる駆動不良が減少した液体噴射ヘッドの製造方法を得ることができる。
【0042】
(4)誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)または全反射蛍光X線分析(TXRF)では、1.0E10(atom/cm2)以下の表面濃度であっても、分析を高感度で行うことができ、CuおよびNiの濃度の判定が確実にでき、振動板15と対向する個別電極33との間の絶縁破壊や振動板15と対向する個別電極33との貼り付きによる駆動不良が減少した液体噴射ヘッドの製造方法を得ることができる。
【0043】
(5)誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)または全反射蛍光X線分析(TXRF)は、比較的非破壊で、広い領域での分析が可能であり、シリコンウェハー110を有効に利用でき、広い領域でCuおよびNiを検出できる。
【0044】
(6)前述の効果を有するインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0045】
上述した実施形態以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
CuおよびNiの濃度の分析を誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)または全反射蛍光X線分析(TXRF)以外の方法で行なってもよい。例えば、二次イオン質量分析、電子線プローブマイクロアナライザー、X線光電子分光、オージェ電子分光等を用いてもよい。また、洗浄に用いた塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液中のCuおよびNiの濃度を分析してもよい。
また、振動板15の洗浄工程は、キャビティ基板形成工程中で行なってもよいし、キャビティ基板形成工程と酸化工程との間で、複数回行なってもよい。
【0046】
さらに、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド100を挙げて説明したが、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用できる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
10…キャビティ基板、11…圧力発生室、15…振動板、33…個別電極、100…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、110…シリコンウェハー、120…二酸化ケイ素膜、1000…画像記録装置としてのインクジェットプリンター、M…汚染金属としてのCuおよびNi。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生室の一部を構成する振動板を、前記振動板と対向する電極との間の静電気力によって駆動して液滴を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
Cuの表面濃度が1.0E11(atom/cm2)以下、且つNiの表面濃度が1.0E10(atom/cm2)以下のシリコンウェハーをエッチングし、前記圧力発生室および前記振動板を備えるキャビティ基板を形成するキャビティ基板形成工程と、
前記キャビティ基板を1000℃以上1100℃以下で熱酸化し、二酸化ケイ素膜を形成する酸化工程とを備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記キャビティ基板形成工程前に、前記シリコンウェハーを、N2雰囲気下で250℃以上、400℃以下の温度で、30分以上、60分以下の処理時間で熱処理後、塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄し、前記Cuおよび前記Niの表面濃度を分析する分析工程をさらに備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記キャビティ基板形成工程と前記酸化工程との間に、
前記振動板を塩酸および過酸化水素水を含む混合液またはフッ酸および過酸化水素水を含む混合液で洗浄する洗浄工程をさらに備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記分析工程において、前記Cuおよび前記Niの表面濃度の分析方法として、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)もしくは全反射蛍光X線分析(TXRF)を用いる ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする画像記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−88398(P2011−88398A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245199(P2009−245199)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】