説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】製造効率を向上できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】流路形成基板用ウェハ110の一方面上に圧電素子300を形成し、該一方面上に、保護基板用ウェハ130を接合し、大気圧より低い気圧下において駆動配線120と共に貫通孔33及びリザーバ部31の開口を保護フィルム140で覆い、その後、大気圧下にこれらのウェハ110、130を置くことで保護フィルム140を保護基板用ウェハ130側に吸着させ、保護フィルム140を覆うように耐KOHフィルム150を保護基板用ウェハ130の外周部に接着剤151で接着し、流路形成基板用ウェハ110をエッチングして圧力発生室12を形成し、耐KOHフィルム150及び保護フィルム140を除去し、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130を所定の大きさに分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。このインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室とこの圧力発生室に連通する連通部とが形成される流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接合され圧電素子を保持するための圧電素子保持部を有する保護基板とを具備したものが知られている。また、保護基板上には、圧電素子を駆動するための駆動ICが駆動配線を介して実装され、更に、保護基板には、圧力発生室に供給されるインクの流路となるリザーバ部や、圧電素子と駆動ICとを接続する接続配線が挿通される貫通孔が形成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、まず、複数の流路形成基板となる流路形成基板用ウェハに、駆動配線を形成済みの複数の保護基板となる保護基板用ウェハを接合する。次に、駆動配線を覆うように保護フィルムを保護基板用ウェハ上に配設する。その後、保護フィルムの上から保護基板用ウェハ全体を覆うように、異方性エッチングに用いられるKOH液に対する耐性を有する耐KOHフィルムを保護基板用ウェハ上に配設すると共に接着剤で固定する。そして、異方性エッチングによって流路形成基板用ウェハに圧力発生室を形成する。
【0004】
この結果、耐KOHフィルムが保護基板用ウェハの表面を覆っているため、リザーバ部や貫通孔を介してKOH液が圧電素子側に流れ込むことが防止され、流路形成基板用ウェハの所望の領域に圧力発生室が良好に形成される。また、駆動配線と耐KOHフィルムとの間に保護フィルムが介在しているため、耐KOHフィルムの塵や埃等の異物が駆動配線に付着したり傷を付けたりすることがない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−148813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、保護フィルムは、保護基板用ウェハ上に載置されているだけであるので、保護基板用ウェハ上への耐KOHフィルムの接着は、保護フィルムが当初の配置場所からずれないように慎重に行う必要があり、容易な作業ではない。また、保護フィルムの位置ずれが生じたら、保護フィルムを配置し直す作業が必要となり、インクジェット式記録ヘッドの生産性が低下するという問題が生じる。さらに、保護フィルムが保護基板用ウェハの表面上を摺動すると、該表面に形成された駆動配線に傷を付けたり、接着剤が保護フィルムと保護基板用ウェハとの間に挟み込まれたりするなど、インクジェット式記録ヘッドの歩留まりが低下するという問題が生じる。
【0007】
なお、このような問題はインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、製造効率を向上できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、前記圧力発生室に液体を噴射するための圧力を付与する圧電素子と、前記流路形成基板に接合される面とは反対側の面に駆動配線が設けられた保護基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、複数の前記流路形成基板となる流路形成基板用ウェハの一方面上に前記圧電素子を形成する工程と、前記駆動配線と前記圧電素子とを接続する接続配線が挿通される貫通孔を有して複数の前記保護基板となる保護基板用ウェハを前記流路形成基板用ウェハの一方面に接合する工程と、第1の気圧下において、前記駆動配線と共に前記保護基板用ウェハの前記駆動配線が設けられた面の前記貫通孔の開口を保護フィルムで覆い、その後、該保護フィルムが前記貫通孔の開口を封止した状態で前記流路形成基板用ウェハ及び前記保護基板用ウェハを前記第1の気圧よりも高い第2の気圧下におくことで前記保護フィルムを前記保護基板用ウェハ側に吸着させる工程と、前記流路形成基板用ウェハをエッチングする溶液に対して耐性のある耐エッチングフィルムで前記保護フィルムを覆うと共に該耐エッチングフィルムを前記保護基板用ウェハの外周部に固定する工程と、前記流路形成基板用ウェハをエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程と、前記耐エッチングフィルム及び前記保護フィルムを除去する工程と、前記流路形成基板用ウェハ及び前記保護基板用ウェハを所定の大きさに分割する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、保護フィルムは、貫通孔内が負圧になっていることにより、保護基板用ウェハ側に吸着される。したがって、耐エッチングフィルムを保護基板用ウェハに固定する際や、その後の工程においても、保護フィルムは当初の配置からずれることはない。これにより、保護フィルムの配置し直しなどの作業が不要となる分だけ液体噴射ヘッドの生産性を向上でき、更に、保護フィルムのずれに伴う駆動配線の傷などの発生を防止できる。
【0010】
ここで、前記保護基板用ウェハは、前記圧力発生室に供給される液体の流路となるリザーバ部が設けられたものであり、前記貫通孔の開口を前記保護フィルムで覆う工程では、更に前記リザーバ部の開口を覆うことが好ましい。これによれば、貫通孔に加えてリザーバ部内も負圧になるので、保護基板用ウェハに対して保護フィルムをより安定して吸着させることができる。
【0011】
また、前記耐エッチングフィルムを前記保護基板用ウェハ上に固定する工程では、前記流路形成基板用ウェハをエッチングする溶液に対して耐性のある接着剤を介して前記耐エッチングフィルムを前記保護基板用ウェハに固定することが好ましい。これによれば、耐エッチングフィルムを確実に保護基板用ウェハ上に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0013】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0014】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設された列が2列設けられている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板30のリザーバ部31と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0015】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。本実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、1つのインクジェット式記録ヘッドIには、ノズル開口21の並設されたノズル列が2列設けられている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0016】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0017】
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でもペロブスカイト構造の強誘電体材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。
【0018】
なお、本実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、1つのインクジェット式記録ヘッドIには、圧電素子300が圧力発生室12の幅方向(圧電素子300の幅方向)に並設された列が2列設けられている。
【0019】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0020】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0021】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0022】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0023】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0024】
また、保護基板30上には、二酸化シリコン等からなる絶縁膜(図示せず)が設けられ、この絶縁膜上には、駆動配線120が所定パターンで形成されている。そして、この駆動配線120上に、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路200が固定されている。この駆動回路200としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路200とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線210を介して電気的に接続されている。
【0025】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0026】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0027】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の幅方向の断面図である。
【0028】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図3(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に下電極膜60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、下電極膜60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0029】
次に、図4(a)に示すように、下電極膜60上に圧電体層70及び上電極膜80を順次積層形成する。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。また、上電極膜80は、導電性の高い金属、例えば、イリジウム(Ir)等を用いることができる。
【0030】
次に、図4(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を同時にパターニングすることで、圧電素子300を形成する。具体的には、圧電体層70及び上電極膜80をパターニングすることで、流路形成基板用ウェハ110の各圧力発生室12が形成される領域に相対向する領域に圧電素子300を形成する。
【0031】
次に、図4(c)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘ってリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0032】
一方、保護基板30が複数一体的に形成される保護基板用ウェハ130上に、駆動配線120を形成する。具体的には、保護基板用ウェハ130の全面に、例えば、スパッタリング法等によって、ニッケルクロム(NiCr)からなる密着層と、金(Au)からなる金属層とを形成する。次いで、これら金属層と密着層とを、フォトリソグラフィ法により順次パターニングして、所定形状の駆動配線120を形成する。
【0033】
また、保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部32、リザーバ部31及び貫通孔33を、例えば、異方性エッチングによって予め形成しておく。
【0034】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、保護基板用ウェハ130を接着剤35を介して接合する。
【0035】
次に、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。
【0036】
次に、図5(c)に示すように、第1の気圧下において駆動配線120、保護基板用ウェハ130のリザーバ部31の開口、及び貫通孔33の開口を保護フィルム140で覆う。具体的には、大気圧よりも低い気圧である第1の気圧に調節された減圧ルームに、図5(a)において接合した流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130を配設する。その後、保護フィルム140を駆動配線120、保護基板用ウェハ130のリザーバ部31の開口、及び貫通孔33の開口を覆うように保護フィルム140を保護基板用ウェハ130上に載置する。この結果、リザーバ部31及び貫通孔33は、保護フィルム140によって封止された状態となる。尚、ここで、保護フィルム140は保護基板用ウェハ130上に接着剤を用いて接合されている訳ではない。なぜなら、この保護フィルム140を保護基板用ウェハ130上の駆動配線120上に接着剤で接合すると、駆動配線120に接着剤が残り、この駆動配線120上に駆動回路200を接合する際の接合不良を招来する虞があるためである。
【0037】
なお、保護フィルム140の材料としては、駆動配線120に傷などを与えない材料であることが好ましく、例えば、フッ素樹脂等を挙げることができる。本実施形態では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))を用いた。
【0038】
次に、図6(a)に示すように、大気圧である第2の気圧下に、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130を置く。具体的には、減圧ルームから流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130を取り出して大気圧下に置く。
【0039】
このとき、リザーバ部31及び貫通孔33内は保護フィルム140により封止されているので、その内部の気圧は大気圧よりも低い第1の気圧に維持されている。つまり、リザーバ部31及び貫通孔33内の気圧は大気圧である第2の気圧に対して相対的に負圧となっている。これにより、保護フィルム140のリザーバ部31及び貫通孔33に対向する領域が保護基板用ウェハ130側に吸着されるので、保護フィルム140は保護基板用ウェハ130に固定される。つまり、保護フィルム140を駆動配線120上に設けても、駆動配線120上に接着剤は付着せず、且つ、保護フィルム140は所定の位置に固定された状態で載置されることになる。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、耐エッチングフィルムの一例である耐KOHフィルム150で保護フィルム140を覆うと共に、接着剤151で耐KOHフィルム150を保護基板用ウェハ130の外周部に固定する。具体的には、耐KOHフィルム150で保護フィルム140全体を覆うと共に、熱硬化性を示すエポキシ系の接着剤151で耐KOHフィルム150を保護基板用ウェハ130の表面の周縁部に仮接着した後、所定温度で加熱処理して接着剤151を硬化させ、耐KOHフィルム150を保護基板用ウェハ130の外周部に接着固定した。
【0041】
耐KOHフィルム150は、耐アルカリ性を有し且つ所定の弾力性を有する高分子材料を用いることが好ましく、本実施形態では、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0042】
次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0043】
そして、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0044】
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周部の不要部分と、耐KOHフィルム150の接着剤151近傍とを、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。次いで保護フィルム140を除去する。そして、連通部13とリザーバ部31との境界にある弾性膜50及び絶縁体膜55除去する。これにより、リザーバ部31が、連通部13、連通路15、及びインク供給路14を経由して、圧力発生室12と連通し、リザーバ100が形成される。
【0045】
次に、図7(c)に示すように、駆動配線120上に、圧電素子300を駆動する駆動回路200を設け、駆動ICとリード電極90とを接続配線210で接続する。その後は、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0046】
以上に説明したインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、保護フィルム140は、リザーバ部31及び貫通孔33内が負圧になっていることにより、保護基板用ウェハ130側に吸着されている。したがって、耐KOHフィルム150を保護基板用ウェハ130に固定する際や、その後の工程においても、保護フィルム140は当初の配置からずれることはない。
【0047】
この結果、耐KOHフィルム150を接着する工程は、保護フィルム140の位置ずれに留意する必要がないので、当該工程を容易に実施することができる。また、保護フィルム140は接着剤等により接着されていないので、保護フィルム140を除去する工程では、容易に保護フィルム140を取り除くことができる。他にも、保護フィルム140の配置し直しという作業も生じ得ず、インクジェット式記録ヘッドの生産性を向上することができる。
【0048】
更に、保護フィルム140が保護基板用ウェハ130の表面上を摺動することも無いので、該表面に形成された駆動配線120に傷を付けたり、接着剤151が保護フィルム140と保護基板用ウェハ130との間に挟みこまれることもなく、インクジェット式記録ヘッドの歩留まりを向上することができる。
【0049】
〈他の実施形態〉
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。実施形態1では、第2の気圧を大気圧とし、第1の気圧を第2の気圧よりも小さな気圧としたが、このような気圧に限定されない。例えば、第1の気圧を大気圧として保護フィルムを保護基板用ウェハに載置し、その後、大気圧よりも高い第2の気圧下で以降の工程を実施してもよい。
【0050】
また、第1の気圧と第2の気圧との気圧差も特に限定されないが、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130を移動させる程度では保護フィルム140が保護基板用ウェハ130から動かず、且つ保護フィルム140そのものを引っ張った際には容易にはがれる程度の気圧差であることが好ましい。また、図7(a)に示したように、ウェットエッチングを行って圧力発生室12等を形成した後、連通部13とリザーバ部31とは弾性膜50及び絶縁体膜55などの薄膜により隔てられている。このとき、薄膜の厚さに応じて、リザーバ部31内の負圧により該薄膜が破れない程度に第1の気圧及び第2の気圧を設定することが好ましい。
【0051】
また、流路形成基板用ウェハはシリコン単結晶基板に限定されず、種々の材料を用いることができる。この場合、耐エッチングフィルムは、流路形成基板用ウェハをエッチングして圧力発生室12等の流路を形成する際に用いられるエッチング液に対して耐性を有する材料で形成する。
【0052】
なお、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 インク供給路、 14 連通路、 15 連通部、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 32 圧電素子保持部、 31 リザーバ部、 33 貫通孔、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 110 流路形成基板用ウェハ、 120 駆動配線、 130 保護基板用ウェハ、 140 保護フィルム、 150 耐KOHフィルム、 200 駆動回路、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、前記圧力発生室に液体を噴射するための圧力を付与する圧電素子と、前記流路形成基板に接合される面とは反対側の面に駆動配線が設けられた保護基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
複数の前記流路形成基板となる流路形成基板用ウェハの一方面上に前記圧電素子を形成する工程と、
前記駆動配線と前記圧電素子とを接続する接続配線が挿通される貫通孔を有して複数の前記保護基板となる保護基板用ウェハを前記流路形成基板用ウェハの一方面に接合する工程と、
第1の気圧下において、前記駆動配線と共に前記保護基板用ウェハの前記駆動配線が設けられた面の前記貫通孔の開口を保護フィルムで覆い、その後、該保護フィルムが前記貫通孔の開口を封止した状態で前記流路形成基板用ウェハ及び前記保護基板用ウェハを前記第1の気圧よりも高い第2の気圧下におくことで前記保護フィルムを前記保護基板用ウェハ側に吸着させる工程と、
前記流路形成基板用ウェハをエッチングする溶液に対して耐性のある耐エッチングフィルムで前記保護フィルムを覆うと共に該耐エッチングフィルムを前記保護基板用ウェハの外周部に固定する工程と、
前記流路形成基板用ウェハをエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程と、
前記耐エッチングフィルム及び前記保護フィルムを除去する工程と、
前記流路形成基板用ウェハ及び前記保護基板用ウェハを所定の大きさに分割する工程とを具備する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記保護基板用ウェハは、前記圧力発生室に供給される液体の流路となるリザーバ部が設けられたものであり、
前記貫通孔の開口を前記保護フィルムで覆う工程では、更に前記リザーバ部の開口を覆うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記耐エッチングフィルムを前記保護基板用ウェハ上に固定する工程では、前記流路形成基板用ウェハをエッチングする溶液に対して耐性のある接着剤を介して前記耐エッチングフィルムを前記保護基板用ウェハに固定する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−132042(P2009−132042A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310008(P2007−310008)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】