説明

液体噴射ヘッド及びその製造方法

【課題】基板の割れを防止することができると共にリザーバ部を高精度に形成することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】液滴を噴射するノズル21に連通する圧力発生室12が複数並設された流路形成基板10と、圧力発生室12内に圧力を付与する圧力発生手段300と、流路形成基板の一方の面に接合された接合基板30とを具備し、流路形成基板が面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、圧力発生室の長手方向に沿った端面が(110)面に垂直な第1の(111)面で構成される一方、接合基板が、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなると共に接合基板の(110)面に垂直な第1の(111)面と流路形成基板の第1の(111)面とが交差する向きで流路形成基板に接合されているように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッド及びその製造方法に関し、特に、液滴としてインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。このインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズルが穿設されたノズルプレートと、ノズルに連通する複数の圧力発生室が形成される流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧力発生手段である圧電素子と、流路形成基板に接合され複数の圧力発生室に連通するリザーバ部が設けられたリザーバ形成基板(保護基板)とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板で形成され、圧力発生室(インク流路)は、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることによって形成されている。具体的には、圧力発生室は、その長手方向に沿った端面が(110)面に垂直な第1の(111)面で構成されると共に、その幅方向(短手方向)に沿った端面が第2の(111)面と交差する第2の(111)面で構成されるように、シリコン単結晶基板を異方性エッチングによって形成されている。
【0004】
流路形成基板が面方位(110)のシリコン単結晶基板で形成されている場合、一般的には、リザーバ形成基板も面方位(110)のシリコン単結晶基板で形成される。そして、リザーバ部は圧力発生室の向きに合わせて形成されるため、その幅方向(圧力発生室の長手方向)に沿った端面が第1の(111)面で構成され、その長手方向に沿った端面が第2の(111)面を含む面で構成されていた。
【0005】
つまり、流路形成基板とリザーバ形成基板とは、各基板の第1の(111)面の方向が一致した状態で接合されていた。
【特許文献1】特開2007−98813号公報
【特許文献2】特開2006−218716号公報
【特許文献3】特開2002−313754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流路形成基板やリザーバ形成基板として用いられる面方位(110)シリコン単結晶基板は、第1の(111)面に沿った方向で割れ易いという特性を有する。このため、流路形成基板とリザーバ形成基板との第1の(111)面の方向が一致していると、流路形成基板とリザーバ形成基板とが接合された状態であっても、これら流路形成基板及びリザーバ形成基板が第1の(111)面に沿って割れが発生してしまう虞がある。
【0007】
ところで、これら流路形成基板及びリザーバ形成基板は、一般的に、シリコンウェハに複数一体的に形成された後、シリコンウェハに形成されたブレイクパターンに沿って分割することによって形成され、またブレイクパターンは、例えば、切断予定線上に形成される複数の貫通孔とその間の脆弱部とで構成されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0008】
ブレイクパターンを構成する貫通孔は、圧力発生室等と同様にシリコンウェハを異方性エッチングによって形成しているため、第1又は第2の(111)面とは交差する方向の切断予定線上には、切断予定線に沿って直線的に貫通孔を形成することはできない。このため、ブレイクパターンの幅が比較的広くなってしまうという問題がある。ブレイクパターンの幅が広くなってしまうと、1枚のシリコンウェハからの流路形成基板成基板或いはリザーバ形成基板の取り個数が減少しコストが増加してしまうため、ブレイクパターンは、できるだけ狭い幅で形成することが好ましい。
【0009】
上述したような圧力発生室を有する流路形成基或いはリザーバ部を有するリザーバ形成基板を形成する場合、第1の(111)面に沿った方向とその方向とは直交する方向にブレイクパターンが形成されるが、この方向に形成されるブレイクパターンは比較的狭い幅で形成することができる。このため、流路形成基板とリザーバ形成基板とは、各基板の第1の(111)面の方向が一致した状態で接合されていた。すなわち、リザーバ形成基板に設けられるリザーバ部の幅方向(圧力発生室の長手方向)に沿った端面が第1の(111)面で構成され、長手方向に沿った端面が第2の(111)面を含む面で構成されていた。
【0010】
このようなリザーバ部を異方性エッチングによって形成する場合、特許文献1にも記載されているように、リザーバ部の長手方向に沿った端面部分に所定形状の補正パターンを設けることで、リザーバ部の長手方向に沿った端面が直線的に形成されるようにしている。しかしながら、補正パターンによってリザーバ部の端面形状を高精度に制御するのは難しいという問題がある。さらに補正パターンを形成する領域を確保するのに伴って、一枚のウェハからの取り個数が減少してしまうという問題もある。
【0011】
なお、基板が割れ易いという問題は、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク滴以外の液滴を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基板の割れを防止することができると共にリザーバ部を高精度に形成することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、前記圧力発生室内に圧力を付与する圧力発生手段と、前記流路形成基板の一方の面に接合された接合基板とを具備し、前記流路形成基板が面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、前記圧力発生室の長手方向に沿った端面が(110)面に垂直な第1の(111)面で構成される一方、前記接合基板は、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなると共に当該接合基板の(110)面に垂直な第1の(111)面と前記流路形成基板の第1の(111)面とが交差する向きで前記流路形成基板に接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる本発明では、流路形成基板と接合基板とを接合した状態で各基板の割れ易い方向が異なるため全体としての剛性が実質的に向上し、各基板に割れが生じ難くなる。
【0014】
ここで、前記接合基板の第1の(111)面と前記流路形成基板の第1の(111)面とが直交していることが好ましい。これにより、流路形成基板及び接合基板の割れがより確実に防止される。
【0015】
また、前記接合基板が前記圧力発生室の並設方向に沿って延設されて複数の前記圧力発生室とそれぞれ連通するリザーバ部を有するリザーバ形成基板であり、前記リザーバ部の長手方向に沿った端面が前記第1の(111)面に垂直な第2の(111)面で構成されていることが好ましい。これにより、各基板の割れが防止される共に、リザーバ部を高精度に形成することができる。
【0016】
さらに本発明は、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、前記圧力発生室内に圧力を付与する圧力発生手段と、前記流路形成基板の一方の面に接合された面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり前記圧力発生室の並設方向に沿って延設されて複数の前記圧力発生室とそれぞれ連通するリザーバ部を有するリザーバ形成基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハを異方性エッチングすることによって、前記圧力発生室を、その長手方向に沿った端面が当該流路形成基板用ウェハの(110)面に対して垂直な第1の(111)面で構成される一方、前記リザーバ形成基板が複数一体的に形成されるリザーバ形成基板用ウェハを異方性エッチングすることによって、前記リザーバ部を、その長手方向に沿った端面が当該リザーバ形成基板用ウェハの(110)面に対して垂直な第1の(111)面で構成されるように形成する形成工程と、前記流路形成基板用ウェハと前記リザーバ形成基板用ウェハとを、前記流路形成基板用ウェハの第1の(111)面と前記リザーバ形成基板用ウェハの第1の(111)面とが交差する方向で接合する接合工程と、前記流路形成基板用ウェハ及び前記リザーバ形成基板用ウェハを各流路形成基板及びリザーバ形成基板に分割する分割工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる本発明では、流路形成基板とリザーバ形成基板との割れを防止することができると共に、リザーバ部を極めて高精度に形成することができる。
【0017】
ここで、前記流路形成基板用ウェハと前記リザーバ形成基板用ウェハとのオリフラ面は、一方が(111)面に沿い、他方が(112)面に沿うようにするのが好ましい。これにより、流路形成基板とリザーバ形成基板との割れを防止することができると共に、リザーバ部をさらに高精度に形成することができる。
【0018】
また前記分割工程では、前記流路形成基板用ウェハ及び前記リザーバ形成基板用ウェハの内部に集光点を合わせてレーザ光を照射して、レーザ光照射側の表層のみに連結部を残して各ウェハに所定幅で脆弱部を形成し、その後外力を加えることにより、前記脆弱部に沿ってこれらの各ウェハを分割することが好ましい。これにより、ブレイクパターンを形成する場合と比べて切断幅が狭くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2(a)は図1の平面図、図2(b)は図2(a)のA−A´断面図であり、図3は、流路形成基板の平面図であり、図4は、リザーバ形成基板の平面図である。
【0020】
流路形成基板10は、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、図示するように、その一方面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。さらに、連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述するリザーバ形成基板30のリザーバ部31と連通して、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する。
【0021】
ここでインク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。例えば、本実施形態では、インク供給路13は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0022】
圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15等のインク流路は、詳しくは後述するが流路形成基板10を異方性エッチングすることによって形成され、図3に示すように、圧力発生室12の長手方向に沿った端面12aは、流路形成基板(シリコン単結晶基板)10の(110)面に垂直な第1の(111)面で構成されており、幅方向に沿った端面12bは第1の(111)面と交差する第2の(111)面で構成されている。
【0023】
流路形成基板10の開口面側には、複数のノズル21が穿設されたノズルプレート20が接合されており、各ノズル21は、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍にそれぞれ連通している。このノズルプレート20は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料によって形成される。なおノズルプレート20は、金属材料の他、例えば、ガラスセラミックスや、シリコン単結晶基板等で形成されていてもよい。
【0024】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の面には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧力発生手段である圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を有する部分だけでなく、少なくとも圧電体層70を有する部分を含む。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が実質的に振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0025】
さらに、各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続されており、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
【0026】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、複数の圧力発生室12に供給するインクが貯留されるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する接合基板であるリザーバ形成基板30が接着層35によって接合されている。このリザーバ部31は、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に設けられており、上述のように流路形成基板10の連通部15と連通されてリザーバ100を構成している。
【0027】
またリザーバ形成基板30には、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部32が設けられている。なお圧電素子保持部32内は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0028】
リザーバ形成基板30には、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられており、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍及び下電極膜60の一部が、この貫通孔33内に露出されている。図示しないが、これらリード電極90及び下電極膜60は、貫通孔33内に延設される接続配線を介して圧電素子300を駆動するための駆動IC等に電気的に接続されている。
【0029】
ここで、リザーバ形成基板30としては、流路形成基板10と同一材料である面方位(110)のシリコン単結晶基板が用いられる。そして後述するように、リザーバ部31は、流路形成基板10を異方性エッチングすることによって形成され、図4に示すように、その長手方向(圧力発生室12の並設方向)に沿った端面31aが、リザーバ形成基板30の(110)面に垂直な第1の(111)面で構成され、幅方向に沿った端面31bが、第1の(111)面と交差する第2の(111)面を含む面(主に第2の(111)面)で構成されている。
【0030】
また、このようなリザーバ形成基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。リザーバ形成基板30側に配される封止膜41は、剛性が低くリザーバ100内の圧力変化によって変形可能な材料、例えば、弾性材料からなる。固定板42は、封止膜41を固定するために設けられており、金属等の硬質の材料からなる。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面側は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。つまり、この開口部43内がリザーバ100の内圧の変化によって変形する可撓部となっている。そして、コンプライアンス基板40のこの可撓部(封止膜41)が変形することでリザーバ100内は略一定の圧力に維持されている。
【0031】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し圧電素子300を撓み変形させることによって、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が噴射する。
【0032】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図5〜図9の製造工程を示す図を参照して説明する。なお、図5は、流路形成基板用ウェハ及びリザーバ形成基板用ウェハの平面図であり、図6〜8は、圧力発生室の長手方向の断面図であり、図9は、ウェハの切断方法を示す模式図である。
【0033】
上述したインクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板10及びリザーバ形成基板30は、面方位(110)のシリコンウェハに複数一体的に形成された後、切断予定線に沿って分割することによって形成される。例えば、図5(a)に示すように、流路形成基板10は、6インチ程度のシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110に複数一体的に形成された後、すなわち、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12等を形成した後、流路形成基板用ウェハ110を図中点線で示す切断予定線200に沿って分割することによって形成される。
【0034】
一方、リザーバ形成基板30も、図5(b)に示すように、6インチ程度のシリコンウェハであるリザーバ形成基板用ウェハ130に複数一体的に形成された後、すなわち、リザーバ形成基板用ウェハ130を異方性ウェットエッチングすることによってリザーバ部31等を形成した後、リザーバ形成基板用ウェハ130を図中点線で示す切断予定線210に沿って分割することによって形成される。
【0035】
このように、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130は、何れも面方位(110)のシリコンウェハであるが、オリフラ面の結晶面方位が異なる。すなわち流路形成基板用ウェハ110のオリフラ面110aは、(110)面に垂直な第1の(111)面に沿って形成されているのに対し、リザーバ形成基板用ウェハ130のオリフラ面130aは、(110)面に垂直な(112)面に沿って形成されており、オリフラ面130aに直交する方向が第1の(111)面に沿った方向となっている。
【0036】
このような流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130を用いて、以下に説明するようにインクジェット式記録ヘッドを製造する。
【0037】
まずは、流路形成基板用ウェハ110上に圧電素子300を形成する。具体的には、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成し、さらにこの弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。
【0038】
次いで、図6(b)に示すように、絶縁体膜55上に下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。次に、図6(c)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
【0039】
さらに、図6(d)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、まず流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金属層91を形成し、この金属層91を圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。
【0040】
一方、リザーバ形成基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32及び貫通孔33を形成する。まず図7(a)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130の表面に、例えば、二酸化シリコン(SiO)からなる保護膜131を形成し、この保護膜131をパターニングしてリザーバ部31、圧電素子保持部32及び貫通孔33が形成される領域に、開口部132を形成する。
【0041】
次いで、この保護膜131を介してリザーバ形成基板用ウェハ130を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等のエッチング液を用いて異方性エッチングすることにより、図7(b)に示すように、リザーバ部31、圧電素子保持部32及び貫通孔33を同時に形成する。なお本実施形態では、リザーバ部31及び貫通孔33を、リザーバ形成基板用ウェハ130の両面側から異方性エッチングすることによって形成している。
【0042】
ここで、上述したようにリザーバ部31は、その長手方向(圧力発生室12の並設方向)に沿った端面31aが、リザーバ形成基板30の(110)面に垂直な第1の(111)面で構成され、幅方向に沿った端面31bが、第1の(111)面と交差する第2の(111)面を含む面で構成されている。すなわち、リザーバ部31の端面31aがリザーバ形成基板用ウェハ130のオリフラ面130aに対して直交する方向に沿うように(図3(b)参照)、異方性エッチングによってリザーバ部31を形成する。
【0043】
これによりリザーバ部31の端面31aの形状を高精度に制御することができ、端面31aの位置が安定する。このようにリザーバ部31の内周面のうちの大半を占める端面31aの位置が安定、つまりリザーバ部31の寸法が安定することで、歩留まりが大幅に向上する。また、リザーバ部31の端面31aが第1の(111)面に沿って形成されていることで、保護膜131に端面31aを形成するための補正パターンを設ける必要が無くなり、各チップ(リザーバ形成基板30)の間隔を狭くすることができるため、取り個数が増加えてコストダウンを図ることができる。
【0044】
なお、リザーバ部31の短手方向に沿った端面31bは第2の(111)面を含む面で構成されるため、保護膜131に端面31bを形成するための補正パターン(図示なし)を形成する必要がある。この補正パターンは、第1の(111)面、つまり端面31aに沿って形成すればよいため、補正パターンの形状を比較的自由に設計することができる。したがって、端面31bの形状及び位置も比較的高精度に制御することができる。
【0045】
次に、図8(a)に示すように、このようにリザーバ部31等を形成したリザーバ形成基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に接合する。このとき、流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130とを、オリフラ面110a,130aを一致させた状態で接合する。なおリザーバ形成基板用ウェハ130の接合方法は特に限定されず、例えば、エポキシ系の接着剤などからなる接着層35によって流路形成基板用ウェハ110に接合すればよい。
【0046】
次に、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110のリザーバ形成基板用ウェハ130とは反対面側を加工して、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みとする。次いで、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の表面に、圧力発生室12等のインク流路を形成する際のマスクとなる所定パターンの保護膜52を形成し、この保護膜52をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等のエッチング液によって、弾性膜50が露出するまで流路形成基板用ウェハ110をエッチングすることより、圧力発生室12等を同時に形成する。また弾性膜50及び絶縁体膜55を除去して連通部15とリザーバ部31とを連通させてリザーバ100を形成する。
【0047】
ここで、上述したように圧力発生室12は、その長手方向に沿った端面12aが流路形成基板10の(110)面に垂直な第1の(111)面で構成され、幅方向に沿った端面12bが第1の(111)面と交差する第2の(111)面によって構成されている。すなわち、圧力発生室12の端面12aが流路形成基板用ウェハ110のオリフラ面110aに沿うように(図5(a)参照)、異方性エッチングによって圧力発生室12を形成する。
【0048】
その後は、図示しないが、流路形成基板用ウェハ110の一方面側の表面、すなわち圧力発生室12等が開口する表面に、ノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板用ウェハ130上にコンプライアンス基板40を接合する。そして流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130を図1に示すような一つのチップサイズに分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0049】
このように形成されたインクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板10とリザーバ形成基板30とは、何れも面方位(110)のシリコン単結晶基板からなるが、第1の(111)面の方向が異なる。例えば、本実施形態では、流路形成基板10の第1の(111)面の方向と、リザーバ形成基板30の第1の(111)面の方向とが直交している。
【0050】
これにより、流路形成基板10及びリザーバ形成基板30の全体の剛性が実質的に向上し、これら流路形成基板10及びリザーバ形成基板30に割れが発生するのを防止することができる。すなわち、シリコン単結晶基板は第1の(111)面に沿って割れやすいという特性を有するが、接合された2枚の基板(流路形成基板10及びリザーバ形成基板30)の第1の(111)面の方向が交差していることで第1の(111)面に沿った割れの発生を防止することができる。
【0051】
また流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の分割方法は、特に限定されないが、以下に説明するようにレーザ光を照射することによって分割するのが好ましい。
【0052】
具体的には、図9(a)及び(b)に示すように、例えば、リザーバ形成基板用ウェハ130にレーザ光250、例えば、YAGレーザ等を照射し、リザーバ形成基板用ウェハ130の内部に集光点を合わせて切断予定線210に沿ってレーザ光250を移動させる。すなわち、リザーバ形成基板用ウェハ130の内部に集光点を合わせて所定条件でレーザ光250を照射してリザーバ形成基板用ウェハ130内部に多光子吸収を発生させて脆弱部133を形成する。
【0053】
なお、この脆弱部133は、レーザ光250が照射されることでリザーバ形成基板用ウェハ130が改質された領域であり、例えば、微小クラックが複数存在するクラック領域、溶融状態又は溶融後再固化した状態である溶融処理領域等のことをいう。このような脆弱部133を形成することにより、リザーバ形成基板用ウェハ130の各リザーバ形成基板30は、実質的に連結部134のみによって連結された状態となる。なお、脆弱部133を形成する際、この脆弱部133の一部が剥がれ落ちる場合もあるが特に問題はない。
【0054】
また、脆弱部133は、レーザ光250の出力、走査速度等の各種条件によっても異なるが、何れにしても集光点近傍のみに形成される。このため、図9(a)及び(b)に示すように、切断予定線210上の同一領域に、リザーバ形成基板用ウェハ130の厚さ方向で集光点Pの位置を変えて複数回レーザ光250を走査させることによって脆弱部133を形成する。
【0055】
また同様に、流路形成基板用ウェハ110にレーザ光250を照射することによって、流路形成基板用ウェハ110の切断予定線200に沿って連結部114を残して脆弱部113を形成する(図9(c))。
【0056】
このように脆弱部113,133(連結部114,134)を形成した後は、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130を、これら脆弱部113,133が形成された切断予定線200,210に沿って分割する。つまり流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130から各流路形成基板10及びリザーバ形成基板30を切り離して、複数のインクジェット式記録ヘッドを形成する。流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130には脆弱部113,133が設けられているため、比較的弱い力で流路形成基板10及びリザーバ形成基板30を切り離すことができる。
【0057】
流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の分割方法は特に限定されず、例えば、エキスパンドリング等を用いて流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130に外力を加えることで、各流路形成基板10及びリザーバ形成基板30を切り離すようにしてもよい。なおこの場合、脆弱部113,133を各ウェハの外周まで連続して形成しておくことが好ましい。
【0058】
このようにレーザ光250を照射することによって脆弱部113,133を形成し、この脆弱部113,133で流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130を分割することにより、これらの基板を極めて良好に分割することができる。また、各基板の結晶面方位に拘わらず、所望の方向で各基板を分割することができる。切断幅もブレイクパターンを形成する場合と比べて極めて狭くできるため、取り個数がさらに増加しコストダウンを図ることができる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0060】
例えば、上述の実施形態では、リザーバ100が、連通部15とリザーバ部31とで構成されているが、リザーバ100の構成はこれに限定されるものではない。例えば、流路形成基板10の連通部15を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ100がリザーバ部31のみで構成されていてもよい。さらに、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10とリザーバ形成基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバ部31からなるリザーバ100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路を設けるようにし、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合していてもよい。なお、本願における「接合」とは、直接に接合されている事の他に、このようになんらかの部材を介して接合されている事も意味している。
【0061】
そして、流路形成基板用ウェハ110のオリフラ面が(112)面に沿い、リザーバ形成基板ウェハ130のオリフラ面が(111)面に沿うようにして、図5とは90度回転した形状で各部を形成しても良い。
【0062】
また、例えば、上述の実施形態では、接合基板の一例としてリザーバ形成基板30を例示したが、接合基板はリザーバ形成基板に限定されるものではない。つまり本発明は、流路形成基板と流路形成基板に接合される接合基板とを具備する構成であれば、上述したような効果を奏する。
【0063】
さらに、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク滴以外の液滴を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】一実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】一実施形態に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】一実施形態に係る流路形成基板の平面図である。
【図4】一実施形態に係るリザーバ形成基板の平面図である。
【図5】流路形成基板用ウェハ及びリザーバ形成基板用ウェハの平面図である。
【図6】一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図7】一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図8】一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図9】一実施形態に係る製造工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 30 リザーバ形成基板、 31 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 110 流路形成基板用ウェハ、 130 リザーバ形成基板用ウェハ、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、前記圧力発生室内に圧力を付与する圧力発生手段と、前記流路形成基板の一方の面に接合された接合基板とを具備し、
前記流路形成基板が面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、前記圧力発生室の長手方向に沿った端面が(110)面に垂直な第1の(111)面で構成される一方、
前記接合基板は、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなると共に当該接合基板の(110)面に垂直な第1の(111)面と前記流路形成基板の第1の(111)面とが交差する向きで前記流路形成基板に接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記接合基板の第1の(111)面と前記流路形成基板の第1の(111)面とが直交していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記接合基板が前記圧力発生室の並設方向に沿って延設されて複数の前記圧力発生室とそれぞれ連通するリザーバ部を有するリザーバ形成基板であり、
前記リザーバ部の長手方向に沿った端面が前記第1の(111)面に垂直な第2の(111)面で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、前記圧力発生室内に圧力を付与する圧力発生手段と、前記流路形成基板の一方の面に接合された面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり前記圧力発生室の並設方向に沿って延設されて複数の前記圧力発生室とそれぞれ連通するリザーバ部を有するリザーバ形成基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記流路形成基板が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハを異方性エッチングすることによって、前記圧力発生室を、その長手方向に沿った端面が当該流路形成基板用ウェハの(110)面に対して垂直な第1の(111)面で構成される一方、
前記リザーバ形成基板が複数一体的に形成されるリザーバ形成基板用ウェハを異方性エッチングすることによって、前記リザーバ部を、その長手方向に沿った端面が当該リザーバ形成基板用ウェハの(110)面に対して垂直な第1の(111)面で構成されるように形成する形成工程と、
前記流路形成基板用ウェハと前記リザーバ形成基板用ウェハとを、前記流路形成基板用ウェハの第1の(111)面と前記リザーバ形成基板用ウェハの第1の(111)面とが交差する方向で接合する接合工程と、
前記流路形成基板用ウェハ及び前記リザーバ形成基板用ウェハを各流路形成基板及びリザーバ形成基板に分割する分割工程と、
を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記流路形成基板用ウェハと前記リザーバ形成基板用ウェハとのオリフラ面は、一方が(111)面に沿い、他方が(112)面に沿うことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記分割工程では、前記流路形成基板用ウェハ及び前記リザーバ形成基板用ウェハの内部に集光点を合わせてレーザ光を照射して、レーザ光照射側の表層のみに連結部を残して各ウェハに所定幅で脆弱部を形成し、その後外力を加えることにより、前記脆弱部に沿ってこれらの各ウェハを分割することを特徴とする請求項4又は5に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−190339(P2009−190339A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35189(P2008−35189)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】