説明

液体噴射ヘッド

【課題】導入針ホルダーとケース部材との間の液密性をより確実にすることが可能な液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】係合部30は、庇部35と係合凸部37と支持部36と、庇部、係合突部、及び支持部により係合空間39の一部が区画されて爪部を収容可能な収容部39′と、を備え、位置決め穴は、当該位置決め穴の入口側から奥側に向かって次第に内径が小さくなるテーパー空部と、当該テーパー空部と位置決め穴の奥側で連続して内径が一定なストレート空部と、を有し、爪部の基部からの突出量P2は、係合凸部の庇部からの突出量P1より小さく、爪部の厚みW2は、前記収容部の同方向の幅W1より小さく、基部の厚みT2は、係合凸部と支持部との間隔T1よりも小さく設定された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに係り、特に、導入針ホルダーとケース部材とを備え、これらの部材を積層して構成される液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等がある。
【0003】
このような液体噴射ヘッドには種々の形式があるが、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)におけるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)は、共通液室から圧力室を経てノズルに至る一連の液体流路が形成された流路ユニットやこの液体流路に連通する複数のノズルを列設してなるノズル列(ノズル群の一種)を有するノズルプレートや圧力室の容積を変動可能なアクチュエーターユニット等を備えたヘッドユニットと、液体貯留部材内の液体を液体流路内に導入する液体導入針を有する導入針ホルダー(基台)が固定される樹脂製のケース部材(ヘッドケース)と、を備えたものがある。
【0004】
特許文献1に開示されている記録ヘッドは、導入針ホルダーとケース部材との間に、液体流路を連結するパッキン部材とアクチュエーターユニットに駆動信号を供給する回路基板とを介在させた状態で、両者を連結固定するように構成されている。導入針ホルダーの内部には、各導入針に対応してホルダー側液体流路が形成されており、各ホルダー側液体流路の下流端は、導入針ホルダーの底面側(導入針が配置される面とは反対側の面)に設けられた流路ジョイント部の底面に開口している。また、導入針ホルダーは、ケース部材側の爪部と係合可能な被爪部を一端部に有し、他端部にはケース部材のホルダー取付部に固定される導入針ホルダー用固定部を有している。ケース部材の内部には、導入針ホルダーの各ホルダー側液体流路に対応させてケース側液体流路が形成されており、各ケース側液体流路の上流端は、ケース部材のホルダー取付部に開口している。また、ケース部材におけるホルダー取付部には支持壁が立設されており、この支持壁は導入針ホルダーが配置される側の面に爪部を有している。パッキン部材は、弾性を有する板状体であり、ホルダー側液体流路とケース側液体流路とを連通させる連通孔が開設されている。
【0005】
上記の各部材を取り付ける場合、まず、ケース部材のホルダー取付部に、連通孔とケース側液体流路との位置が合わされた状態で、パッキン部材が配置される。次に、この状態で、ケース部材のホルダー取付部に導入針ホルダーが取り付けられる。この際、爪部に導入針ホルダーの一端側の被爪部が下方から上方に向けて差し込まれて係合され、この係合部分を中心として、導入針ホルダーの他端側がケース部材側に向けて下ろされる。導入ホルダーの他端側とケース部材とが当接した時点で、ホルダー側液体流路とケース側液体流路との間に連通孔が位置する状態で導入針ホルダーの流路ジョイント部とケース部材との間にパッキン部材が挟まれる。そして、導入針ホルダー用固定部により、導入針ホルダーとケース部材とが固定されると、両者の間でパッキン部材が潰されて、ホルダー側液体流路とケース側液体流路とが連通孔を介して液密に連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−063010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記構成では、導入針ホルダーをケース部材との取り付け作業において、ホルダー側液体流路の下流側開口周辺部がパッキン部材に当接する際に、この下流側開口が係合部分を回動中心としてパッキン部材に対して斜めに当接する可能性があり、これにより、パッキン部材が所定の位置からずれてしまう場合がある。この場合、ホルダー側液体流路とケース側液体流路との間の液密性を損なう虞があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導入針ホルダーとケース部材との間の液密性をより確実にすることが可能な液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルから液体を噴射可能なヘッドユニットに対して液体を供給する液体供給路が内部に形成された第1の部材と、
前記第1の部材の液体供給路への液体を導入する液体導入路が内部に形成された第2の部材と、
前記液体導入路の流出口と前記液体供給路の流入口との間を連通する連通孔が形成され、弾性を有する封止部材と、
を備える液体噴射ヘッドであって、
前記第1の部材は、第1の支持位置に設けられ前記第2の部材の被係合部に係合する係合部と、前記第1の支持位置とは異なる第2の支持位置に設けられ前記第2の部材を位置決めする位置決め穴と、を有し、
前記第2の部材は、前記係合部に係合される被係合部と、前記位置決め穴に嵌合可能な嵌合凸部と、前記被係合部と前記嵌合凸部の間に、取り付け状態における前記第1の部材側に突出した状態で設けられ、前記液体導入路の流出口を先端面に有する接続凸部と、を有し、
前記封止部材における前記連通孔の外周は、取り付け状態における前記第1の部材側に向けて突出して、前記接続凸部に当接される当接部を構成し、
前記被係合部は、基部と、当該基部から前記嵌合凸部とは反対側に突出した爪部と、から成り、
前記係合部は、取り付け状態における前記第2の部材の基部に対して第1の部材及び第2の部材の積層方向上方に位置して平面視において前記基部と少なくとも一部で重なる庇部と、当該庇部から前記基部の爪部が突出する側の面に向けて突出する係合凸部と、当該係合凸部の先端面と対向する位置に間隔を空けて設けられ、取り付け時における第2の部材を支持可能な支持部と、前記庇部と前記係合突部と前記支持部とにより係合空間の一部が区画されて前記爪部を収容可能な収容部と、を備え、
前記位置決め穴は、当該位置決め穴の入口側から奥側に向かって次第に内径が小さくなるテーパー空部と、当該テーパー空部と位置決め穴の奥側で連続して内径が一定なストレート空部と、を有し、
前記爪部の前記基部からの突出量P2は、前記係合凸部の前記庇部からの突出量P1より小さく、
当該爪部の厚みW2は、前記収容部の同方向の幅W1より小さく、
前記基部の厚みT2は、前記係合凸部と前記支持部との間隔T1よりも小さく設定されたことを特徴とする。
【0010】
上記構成において、前記爪部が前記収容空部内に収容され、且つ、前記嵌合凸部の先端部が前記テーパー空部の内周面であるテーパー面に接触する状態で、前記爪部が前記係合凸部に係合せず、且つ、前記接続凸部が前記封止部材の当接部に接触せず、前記嵌合凸部の前記位置決め穴の内周面との当接点が、テーパー面から前記ストレート空部の内周面であるストレート面に移動した状態で、前記係合凸部と前記爪部とが係合し、且つ、前記接続凸部が前記封止部材の当接部に接触するように各部の寸法が定められた構成を採用することが望ましい。
【0011】
本発明によれば、第1の部材に第2の部材を取り付ける取付作業時に、封止部材が第1の部材と第2の部材との間に挟まれる際に、接続凸部の先端面と封止部材の当接部とが平行な姿勢で第1の部材に対して第2の部材を垂直に下降させて取り付けることができる。これにより、封止部材が所定の位置からずれたりすることを防止でき、液密性をより確実にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を斜め上方から見た分解斜視図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】ケース部材の構成を説明する斜視図である。
【図5】第1の支持位置に対応する部分の拡大図である。
【図6】第2の支持位置に対応する部分の拡大図である。
【図7】ケース部材に導入針ホルダーを取り付ける作業の前半について説明する断面図である。
【図8】ケース部材に導入針ホルダーを取り付ける作業の後半について説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録装置(液体噴射装置の一種。以下、単にプリンターという)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を例に挙げて行う。
【0014】
まず、プリンターの概略構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2の表面へ液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、インクを噴射する記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送するプラテンローラー6等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、インクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0015】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
【0016】
図2及び図3は、上記記録ヘッド3の構成を説明する図であり、図2は記録ヘッド3を斜め上方から見た分解斜視図、図3は記録ヘッド3の要部断面図である。この記録ヘッド3は、インク導入針11(液体導入針の一種)が複数配設された導入針ホルダー12(第2の部材の一種)と、アクチュエーターユニット13や流路ユニット14からなるヘッドユニット3′とをケース部材17(第1の部材の一種)に備えて概略構成される。尚、本実施形態では、図3で示すように、インク導入針11の先端が尖頭形状になっているものを示しているが、この形状に限定されずに先端が尖頭形状ではない構成のものを用いることも可能である。
【0017】
導入針ホルダー12は、例えばエポキシ系樹脂等の合成樹脂によって成型されており、ベース基板15と、当該ベース基板15の下面(ケース部材17に取り付けられる側の面)から突出した流路接続部16(接続凸部の一種)とから概略構成されている。ベース基板15は、平面視略矩形状の板状部材であり、その上面には、図示しないフィルターを介在させた状態でインク導入針11がノズル列に直交する方向に複数取付けられている。これらのインク導入針11には、インクを貯留したインクカートリッジ7やサブタンク等(図示せず)の液体供給源が装着されるようになっている。また、この導入針ホルダー12の内部には、インク導入針11から導入されたインクをケース部材17側に供給するホルダー側液体流路18(液体導入路の一種)が形成されている。流路接続部16は、各インク導入針11に対応する複数のホルダー側液体流路18が収束した部分である。各ホルダー側液体流路18の上流側はベース基板15の上面側に開口してインク導入針11に連通し、下流側は流路接続部16の先端面(後述するパッキン部材19と当接する面)に流出口として開口している。
【0018】
導入針ホルダー12のベース基板15におけるインク導入列設方向に直交する方向、即ち、ノズル列方向の一側(取り付け状態におけるケース部材17の支持壁25側であり、本発明における第1の支持位置側)には、ケース部材17の係合部30に係合される被係合部29が設けられている。本実施形態において、ケース部材17には、係合部30が導入針列設方向の両端部にそれぞれ1つずつ合計2箇所に形成されており(図4参照)、導入針ホルダー12において各係合部30に対応する位置に被係合部29が合計2箇所設けられている。この被係合部29は、図5に示すように、ベース基板15の一側端部から成る(即ち、ベース基板15の一側端部と一体の)基部29aと、この基部29aから流路接続部16及び嵌合凸部33とは反対方向に突出した爪部29bと、から成る。本実施形態における爪部29bは、導入針列設方向に長尺な略直方体状の突起であり、導入針ホルダー12をケース部材17に取り付ける際に、ケース部材17の係合部30の係合空間39内に収容されて係合凸部37に係止される部分である。この爪部29bの導入針列設方向の寸法は、ケース部材17の係合空間39の導入針列設方向の内寸よりも僅かに小さく設定されており、取り付け作業時に爪部29bを嵌合空間39内に容易に嵌入することができるようになっている。導入針ホルダー12の被係合部29とは流路接続部16を挟んだ反対側、即ち、ベース基板15におけるノズル列方向の他側(本発明における第2の支持位置側)には、ケース部材17の位置決め穴24に嵌合可能な嵌合凸部33が、ベース基板15の下面側から流路接続部16と同一方向に突出した状態で設けられている。この嵌合凸部33は、ケース部材17の位置決め穴24に対応する位置に合計2箇所形成されている。
【0019】
上記嵌合凸部33は、図6に示すように、ベース基板15側から遠ざかるに従い外径が次第に縮小するテーパー部33aと、このテーパー部33aの先端に連続して外径が一定なストレート部33bと、から成り、ケース部材17の位置決め穴24の空部形状に概ね倣った形状に形成されている。ストレート部33bの先端の周囲は面取りされており、この部分は、ケース部材17への取り付け時において後述する位置決め穴24のテーパー面44aに摺動する摺動部43として機能する。嵌合凸部33の突出長さは、導入針ホルダー12をケース部材17のホルダー取付部23に取り付ける際、ケース部材17と導入針ホルダー12とによってパッキン部材19が挟まれる直前の状態で、テーパー部33aの摺動部43が、位置決め穴24のテーパー面44aとストレート面44bとの境界に位置する程度の長さに設定されている。また、嵌合凸部33の内部には、円筒状のネジ穴45が形成されており、導入針ホルダー12をケース部材17に取り付けた状態、即ち、嵌合凸部33が位置決め穴24に嵌合した状態で、止着ネジ等の止着部材がこのネジ穴45にねじ込まれる(螺合する)ことにより、導入針ホルダー12がケース部材17に対して位置決めされた状態で固定されるようになっている。
【0020】
図4は、ケース部材17の構成を説明する斜視図である。ケース部材17は、例えば、エポキシ系樹脂等の合成樹脂製の中空箱体状部材であり、上記ヘッドユニット3′が取り付けられる下面側のヘッドユニット取付部22(図3参照)と、このヘッドユニット取付部22とは反対側である上面側に位置して上記導入針ホルダー12が取り付けられるホルダー取付部23と、により概略構成される部材である。ホルダー取付部23は、ノズル列方向の一側から上方(ヘッドユニット取付部22とは反対側)に立設された支持壁25を有している。この支持壁25は、図5に示すように、ヘッドユニット取付部22から立ち上がった基部壁25aと、この基部壁25aの先端部から位置決め穴24とは反対側に向けて上り傾斜する傾斜壁25bと、この傾斜壁25bの先端部に連続して流路ユニット14のノズル形成面(ノズルプレート50)に対して略垂直方向に延びる起立壁25cと、から成る。支持壁25の導入針列設方向の両側には、それぞれ側壁26が設けられている。また、起立壁25cの高さ方向における略中央部から内側(ノズル列方向の他側)に向けて庇部35が突出している。この庇部35は、支持壁25の導入針列設方向の両側であって両側壁26の内側に、互いに間隔を空けた状態でそれぞれ形成されている。この庇部35は、取り付け状態における導入針ホルダー12の基部29aに対し、部材積層方向上方に位置して平面視において基部29aに対して少なくとも一部、具体的には、爪部29bが突出している部分で重なるように設けられている。この庇部35の先端部から下方、即ち、ヘッドユニット取付部側(取り付け状態における導入針ホルダー12の基部29a側)に向けて係合凸部37が略直角に突出している。即ち、図5に示すように縦方向の断面で見て、庇部35と係合凸部37とにより鉤状の部分が形成されている。この係合凸部37の内側の面(支持壁25と対向する側の面)は、後述するように、導入針ホルダー12をケース部材17に取り付ける際に、爪部29bを案内するガイド面としても機能する。
【0021】
基部壁25aの上端面には、係合凸部37と間隔T1を空けた状態で、起立壁25cと平行に延びる支持部36が設けられている。この支持部36は、本実施形態においては係合凸部37と同様に略直方体状の突起であり、その導入針列設方向の寸法は、係合凸部37の同方向の寸法と揃えられている。そして、導入針ホルダー12の取り付け時に、この支持部36の上端面が導入針ホルダー12の低部(より詳しくは、基部29aの爪部29bとは反対側の底部)に当接することによって、ケース部材17のホルダー取付部23に対する導入針ホルダー12の高さ方向(部材積層方向)の大凡の位置が規定されるようになっている。そして、係合凸部37と支持部36とは、側壁26によって連続しており、また、側壁26とは反対側では連続壁38によって連続している(図4参照)。そして、支持部36、傾斜壁25b、起立壁25c、庇部35、係合凸部37、側壁26、及び、連続壁38により、ノズル列方向の他側の面が開口した係合空間39が区画されている。そして、この係合空間39において、支持壁25(起立壁25c)、庇部35、及び係合凸部37によって区画される空間は、取り付け状態における導入針ホルダー12の爪部29bを収容可能な収容部39′である。
【0022】
ここで、図5に示すように、爪部29bの基部29aからの突出量P2は、係合凸部37の庇部35からの突出量P1より小さく設定されている。また、爪部29bの厚みW2は、収容部39′の同方向の幅(即ち、起立壁25cの内面と係合凸部37の内面との距離)W1より小さく設定されている。さらに、基部29の厚みT2は、係合凸部37の先端面と支持部36の先端面との間隔T1よりも小さく設定されている。なお、本実施形態において、P2+T2>T1となっている。
このように各部の寸法が設定されることにより、爪部29bが係合凸部37に係止すると共に嵌合凸部33が位置決め穴24に嵌入してケース部材17に導入針ホルダー12が取り付けられた状態で、爪部29bと係合凸部37との係止部分を除き、被係合部29と係合部30との間にはクリアランスが設けられるようになっている。このように各部の寸法を設定することで、ケース部材17に導入針ホルダー12を取り付ける取付作業時にパッキン部材19の位置ずれを防止して、導入針ホルダー12とケース部材17との間の流路の液密性をより確実にすることが可能となっている。この点の詳細については後述する。
【0023】
ホルダー取付部23において、支持壁25とは反対側であるノズル列方向の他側には、側方(支持壁25から遠ざかる方)に延出したフランジ部17aが形成されている。このフランジ部17aは、突出部41よりも部材積層方向で高い位置に形成されている。そして、このフランジ部17aには、位置決め穴24が当該フランジ部17aの板厚方向を貫通した状態で開設されている。位置決め穴24の周縁は、筒状に隆起した隆起部42となっている。この隆起部42は、導入針ホルダー12の取り付け時に当該導入針ホルダー12における嵌合凸部33の周辺部分が当接することで、ケース部材17のホルダー取付部23に対する導入針ホルダー12の高さ方向、即ち積層方向の位置が規定されるようになっている。本実施形態において、位置決め穴24は、フランジ部17aにおける導入針列設方向に沿って2箇所並べて設けられている。各位置決め穴24は、図6に示すように、上記導入針ホルダー12の嵌合凸部33が挿入される側である入口側から奥側に向かって内径が次第に縮小するテーパー空部24aと、当該テーパー空部24aと位置決め穴24の奥側で連続して内径が一定なストレート空部24bとから構成されており、導入針ホルダー12の嵌合凸部33が嵌合した状態で殆どガタツキが生じない程度の寸法形状に設定されている。上記テーパー空部24aの内周面は、入口側から奥側に向けて下り傾斜したテーパー面44aとなっている。このテーパー面44aは、導入針ホルダー12を取り付ける際に、嵌合凸部33を案内するガイド面として機能する。
【0024】
ケース部材17の内部には、高さ方向を貫通してケース側液体流路21(液体供給路の一種)が設けられている。このケース側液体流路21の上流端は、図3に示すように、ホルダー取付部23の底面よりも一段高くなった突出部41の先端面に流入口として開口し、パッキン部材19の連通孔28を介して導入針ホルダー12のホルダー側液体流路18の流出口と連通するようになっている。また、ケース側液体流路21の下流端は、流路ユニット14内の共通液室27に連通するようになっている。したがって、インク導入針11から導入されたインクは、ホルダー側液体流路18、連通孔28、及びケース側液体流路21を通じて共通液室27側に供給され、この共通液室27を介して各圧力室内に分配される。
【0025】
図3に示すように、上記ケース部材17の支持壁25の導入針ホルダー12側とは反対側の面には、基板ベース部31が設けられ、この基板ベース部31に回路基板32が固定されている。回路基板32は、各種駆動信号用の電子部品が実装されると共に、アクチュエーターユニット13のフレキシブルケーブル34が接続される端子部が形成されている。また、この回路基板32はコネクター32′を備えており、このコネクター32′には、制御装置からのFFC(フレキシブルフラットケーブル)等の制御ケーブル(何れも図示せず)が電気的に接続されるようになっている。そして、回路基板32は、プリンター1の制御部側からの駆動信号を、フレキシブルケーブル34を介してアクチュエーターユニット13に供給する。
【0026】
上記ケース部材17のヘッドユニット取付部22に取り付けられるヘッドユニット3′は、図2に示すように、アクチュエーターユニット13と流路ユニット14とから構成されており、これらを重ね合わせた状態で一体化してある。アクチュエーターユニット13は、ノズル50nに対応する圧力室を形成した圧力室プレート、連通口を形成した連通口プレート、及び、圧力発生源の一種である圧電振動子を実装した振動子プレートを積層した状態で備え、また、TCP(テープキャリアパッケージ)やCOF(チップオンフィルム)等のフレキシブルケーブル34を、その一端側端子部34aを圧電振動子の入力端子部37に電気的に接続した状態で備えている。このアクチュエーターユニット13における圧電振動子は、所謂撓み振動モードの圧電振動子であり、この圧電振動子を駆動、即ち、撓み振動させると、圧力室の容積が変化し、ノズル50nからインク滴(液滴の一種)が噴射されるようになっている。
【0027】
上記流路ユニット14は、インク供給口46と共通液室27の圧力変動を緩和するコンプライアンス部47とを形成した供給口プレート40、インクカートリッジ7側から導入されたインクが供給される複数の共通液室27が形成された共通液室プレート41、及び、複数のノズル50nを記録ヘッド3の副走査方向(主走査方向に交差する方向であり、導入針列設方向に直交する方向)に列設してなるノズル列を有するノズルプレート50により構成されている。供給口プレート40と共通液室プレート41とは、積層した状態で熱溶着フィルム等によって接合されており、共通液室27からノズル50nに至るまでのインク流路を形成している。そして、この共通液室プレート41の供給口プレート40の接合面とは反対側の面に、ノズルプレート50が接合される。
【0028】
上記の導入針ホルダー12とケース部材17との間に介在されるパッキン部材19は、例えば、エラストマーやゴムなどの弾性材によって作製された弾性及び可撓性を有する板状体であり、導入針ホルダー12及びケース部材17の各流路に対応する位置には連通孔28が開設されている。各連通孔28の周縁部は、取り付け時におけるケース部材17側に向けて突出した状態に形成され、流路接続部16の先端面に当接される当接部40となっている(図3参照)。このパッキン部材19は、導入針ホルダー12とケース部材17との間に配置されて、各流路18,21同士を液密状態で連通するようになっている。なお、パッキン部材19は、その全体が潰されるのではなく、ケース側液体流路21の突出部41とホルダー側液体流路18の流路接続部16の先端面と接する領域が潰されることになる。これにより、これらの流路18,21同士の液密状態をより確実にすることができる。特に本実施形態では、当接部40が流路接続部16の先端面によって潰されることで、液密性がより高められるように構成されている。
【0029】
次に、導入針ホルダー12をケース部材17に取り付ける作業について図7及び図8を参照しつつ説明する。
【0030】
ケース部材17に導入針ホルダー12を取り付けるには、まず、ケース部材17に対し、ケース側液体流路21と連通孔28との平面上の位置が合致するようにパッキン部材19を位置決めした状態で配置し、ケース部材17の第1の支持位置にある係合部30の係合空間39内に導入針ホルダー12の被係合部29を爪部29bの先端から挿入する(図7(a))。次に、基部29aの下面が支持部36に当接した状態でこの当接部分を回動中心Pとして、導入針ホルダー12の嵌合凸部33側を、ケース部材17の第2の支持位置にある位置決め穴24側に近づけるように図において矢印で示す方向に回動させる。上述したように、被係合部29と係合部30との間にはクリアランスが設けられているので、被係合部29は、係合空間39内である程度動くことができる遊嵌状態となっている。そして、導入針ホルダー12の回動に伴って、被係合部29は、係合空間39の奥側(起立壁25c)に移動し、その爪部29bは、収容部39′内に下側から嵌入して係合凸部37に次第に近づいていく。また、導入針ホルダー12の流路接続部16は、パッキン部材19の当接部40に向けて、図における斜め左下に下降していく。
【0031】
上記のように導入針ホルダー12を回動させていくと、嵌合凸部33の先端部が位置決め穴24内に嵌合し始める(図7(b))。即ち、嵌合凸部33のテーパー部33aの摺動部43が位置決め穴24のテーパー面44aと接触し始める(図において当接点をCで示す。以下同様。)。この時点では、爪部29bが係合凸部37に係合せず、且つ、流路接続部16が封止部材の当接部40には接触していない。即ち、この状態ではパッキン部材19は、流路接続部16との間に隙間が存在して押圧されていない。そして、さらに導入針ホルダー12を回動させていくと、嵌合凸部33が位置決め穴24のテーパー面44aに沿って摺動し、導入針ホルダー12が、ケース部材17のホルダー取付部23に向けて案内される(図7(c))。嵌合凸部33の先端部(摺動部43)がストレート面44bに向けてテーパー面44aを摺動している間、爪部29bが係合凸部37にさらに近づいていき、また、流路接続部16がパッキン部材19の当接部40に向けて(図において斜め右下に)下降していくが、爪部29bは係合凸部37に係合せず、且つ、流路接続部16は封止部材の当接部40には接触しない。
【0032】
そして、嵌合凸部33の先端部(摺動部43)が位置決め穴24のテーパー面44aとストレート面44bとの境界に位置する時点で、初めて爪部29bが係合凸部37に係合し、なお且つ、流路接続部16が封止部材の当接部40に接触、又は、僅かに間隔が空いた状態で対向する(図8(a))。この状態では、ケース部材17のホルダー取付部23の面と導入針ホルダー12のベース基板の下面とが概ね平行となり、また、流路接続部16の先端面と、パッキン部材19の当接部40の先端面とが概ね平行な状態となる。これ以後は、被係合部29の基部29aと係合部30の支持部36の先端面との間には上下方向のバックラッシュがあるので、図8(a)における矢印で示すように、嵌合凸部33がストレート面44bに案内されると共に、爪部29bが嵌合凸部33のガイド面(内側面)によって案内されつつ、導入針ホルダー12がケース部材17のホルダー取付部23に対してほぼ垂直に下降していく。このため、流路接続部16の先端面がパッキン部材19の当接部40の先端面に対して平行に近い状態で当接してパッキン部材19を均一に押圧することができる。したがって、導入針ホルダー12をケース部材17に取り付ける際に、パッキン部材19が所定の位置からずれたり、流路18,21との間に段が付いたりすることを防止できる。導入針ホルダー12をケース部材17に対して最下点まで下降させると、位置決め穴24の周囲の隆起部42の先端面が嵌合凸部33の周囲の面に当接して、ケース部材17に対する導入針ホルダー12の積層方向の位置が規定される(図8(b))。
【0033】
そして、嵌合凸部33を位置決め穴24内に嵌合した状態で止着ネジ等の図示しない止着部材をフランジ部17aの下方より位置決め穴24にそれぞれ挿通させてネジ穴45にねじ込む(螺合する)ことにより、導入針ホルダー12がケース部材17に固定される。このことにより、導入針ホルダー12とケース部材17との積層方向、主走査方向(導入針列設方向)、及び副走査方向(ノズル列方向)の位置が規定された状態で取り付けることができる。この結果、止着部材による固定と、係合凸部37と爪部29bとの係合と、パッキン部材19の反力とによって、導入針ホルダー12がケース部材17に対して平行に取り付けられるので、ホルダー側液体流路18の下流側開口とケース側液体流路21の上流側開口によってパッキン部材19を均一に押圧することができる。したがって、連結部分からのインク等の漏れをより確実に防止することができる。
【0034】
以上のように、ケース部材17に導入針ホルダー12を取り付ける取付作業時に、パッキン部材19がケース部材12と導入針ホルダー17との間に挟まれる際に流路接続部16の先端面とパッキン部材19の当接部40の先端面とが平行な姿勢でケース部材17に対して導入針ホルダー12をより垂直に下降させて取り付けることができる。これにより、パッキン部材19が所定の位置からずれたり、流路18,21との間に段が付いたりすることを防止でき、液密性をより確実にすることが可能となる。
【0035】
なお、本発明は、構成部材同士を積層してなるものであれば、例示したインクジェット式記録ヘッドには限らず、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等、他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…プリンター,3…記録ヘッド,11…インク導入針,12…導入針ホルダー,13…アクチュエーターユニット,14…流路ユニット,15…ベース基板,16…流路接続部,17…ケース部材,18…ホルダー側液体流路,19…パッキン部材,21…ケース側液体流路,22…ヘッドユニット取付部,23…ホルダー取付部,24…位置決め穴,28…連通孔,29…被係合部,29a…基部,29b…爪部,30…係合部,33…嵌合凸部,35…庇部,36…支持部,37…係合凸部,39…係合空間,40…当接部,50n…ノズル,44a…テーパー面,44b…ストレート面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射可能なヘッドユニットに対して液体を供給する液体供給路が内部に形成された第1の部材と、
前記第1の部材の液体供給路への液体を導入する液体導入路が内部に形成された第2の部材と、
前記液体導入路の流出口と前記液体供給路の流入口との間を連通する連通孔が形成され、弾性を有する封止部材と、
を備える液体噴射ヘッドであって、
前記第1の部材は、第1の支持位置に設けられ前記第2の部材の被係合部に係合する係合部と、前記第1の支持位置とは異なる第2の支持位置に設けられ前記第2の部材を位置決めする位置決め穴と、を有し、
前記第2の部材は、前記係合部に係合される被係合部と、前記位置決め穴に嵌合可能な嵌合凸部と、前記被係合部と前記嵌合凸部の間に、取り付け状態における前記第1の部材側に突出した状態で設けられ、前記液体導入路の流出口を先端面に有する接続凸部と、を有し、
前記封止部材における前記連通孔の外周は、取り付け状態における前記第1の部材側に向けて突出して、前記接続凸部に当接される当接部を構成し、
前記被係合部は、基部と、当該基部から前記嵌合凸部とは反対側に突出した爪部と、から成り、
前記係合部は、取り付け状態における前記第2の部材の基部に対して第1の部材及び第2の部材の積層方向上方に位置して平面視において前記基部と少なくとも一部で重なる庇部と、当該庇部から前記基部の爪部が突出する側の面に向けて突出する係合凸部と、当該係合凸部の先端面と対向する位置に間隔を空けて設けられ、取り付け時における第2の部材を支持可能な支持部と、前記庇部と前記係合突部と前記支持部とにより係合空間の一部が区画されて前記爪部を収容可能な収容部と、を備え、
前記位置決め穴は、当該位置決め穴の入口側から奥側に向かって次第に内径が小さくなるテーパー空部と、当該テーパー空部と位置決め穴の奥側で連続して内径が一定なストレート空部と、を有し、
前記爪部の前記基部からの突出量P2は、前記係合凸部の前記庇部からの突出量P1より小さく、
当該爪部の厚みW2は、前記収容部の同方向の幅W1より小さく、
前記基部の厚みT2は、前記係合凸部と前記支持部との間隔T1よりも小さく設定されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記爪部が前記収容空部内に収容され、且つ、前記嵌合凸部の先端部が前記テーパー空部の内周面であるテーパー面に接触する状態で、前記爪部が前記係合凸部に係合せず、且つ、前記接続凸部が前記封止部材の当接部に接触せず、
前記嵌合凸部の前記位置決め穴の内周面との当接点が、テーパー面から前記ストレート空部の内周面であるストレート面に移動した状態で、前記嵌合凸部と前記爪部とが係合し、且つ、前記接続凸部が前記封止部材の当接部に接触するように各部の寸法が定められたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−156815(P2011−156815A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21972(P2010−21972)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】