説明

液体噴射装置およびその初期充填方法

【課題】複数のカートリッジの初期充填を1度で済ませることができる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】記録紙に対してノズルからインクを噴射させる記録ヘッド30と、上記記録ヘッド30に対してインクを供給するための複数のカートリッジ2と、各カートリッジ2から記録ヘッド30に対してインクを供給する供給流路のうち記録ヘッド30に連通させる供給流路を選択することにより記録ヘッド30に供給するインクを選択的に切り替える切替手段16とを備え、上記切替手段16は、各カートリッジ2に連通する複数のカートリッジ側流路39と、記録ヘッド30に連通するヘッド側流路40とを有し、上記各カートリッジ側流路39がヘッド側流路40に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体44の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として印刷データに対応してノズルからインク滴を吐出させて記録媒体にドットを形成させるインクジェット式記録装置として用いられる液体噴射装置およびその初期充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ターゲットに液体を噴射する液体噴射装置には、インクを記録用紙に噴射して印刷を施すインクジェット式記録装置が知られている。
【0003】
このようなインクジェット式記録装置は、印刷時の騒音が比較的小さく、しかも小さなドットを高い密度で形成できるため、昨今においてはカラー印刷を含めた多くの印刷に使用されている。このようなインクジェット式記録装置は、インクカートリッジからのインクの供給を受けるインクジェット式印字ヘッドと、記憶媒体を印字ヘッドの走査方向と垂直に移動させる紙送り機構を備え、印字ヘッドをキャリッジ上で記録媒体の幅方向(主走査方向)に移動させながら印字ヘッドに対して機械的圧力や熱エネルギーを発生させることで記録媒体に対してインク滴を吐出させることで記録が行われる。そしてキャリッジ上に、例えばブラックインクおよびイエロー、シアン、マゼンタの各カラーインクが吐出が可能な印字ヘッドを搭載し、ブラックインクによるテキスト印刷ばかりでなく、各インクの吐出割合を変えることにより、フルカラー印刷を可能としている。
【0004】
さらに昨今においては、カラー印刷時の品質を向上させるために、ライトシアンおよびライトマゼンタを加え、黒インクを含め合計6色のインクを使用する記録装置も提供されており、しかも大判紙など大量の印刷をインクカートリッジを交換することなく可能にするインクジェット式記録装置も要求されている。これに伴って各印字ヘッドにインクを供給するためのインクカートリッジの容量も大型化せざるを得ず、例えばキャリッジ上にではなく装置本体の両側の固定部に配置したカートリッジホルダ内に各インクカートリッジを着脱可能に装填し、カートリッジホルダよりフレキシブルチューブ等を介してインク供給路を介して印字ヘッドにインクを供給するような構成の記録装置も提供されている。
【0005】
このようなインクジェット式記録装置は、印字ヘッドのノズル開口から吐出させるインク滴により多様な印刷に対応可能であるため、印刷目的に応じてインクカートリッジを交換することが可能である。すなわち、現に装着されているインクカートリッジとは異なる種類のインクによって印刷を行いたい場合には、その現に装着されているインクカートリッジを一旦取り外し、それに代えて、所望の種類のインクを有するインクカートリッジを装着し直すことが可能である。このような状況において、互いにインク種の異なるインクを使用して、同一のプリンタで随時、印字品質の異なる印刷を行いたいという要求が頻繁に起こり得ると考えられる。
【0006】
ところが、インクカートリッジの交換は、記録装置のユーザにとって煩雑な作業であり、交換するカートリッジが多くなると、煩雑な作業を何度も行わねばならなくなってしまう。
【0007】
そこで、インクカートリッジを交換することなく各ノズル列から吐出されるインクを変更させることが可能な印刷装置が提案されている(例えば下記の特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−237100号公報
【特許文献2】特開2001−219574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、ノズル列ごとにインクを切り替えることができないので、ノズル列単位で使用するインクを切り替える場合には適用することができない。そこで、ノズル列単位でインクカートリッジを切り替える切替構造も提案されている(例えば上記特許文献2)。ところが、上記切替構造においては、ノズル列に連通させるインクカートリッジを選択的に切り替えて同時にノズル列に連通するインクカートリッジは常に1つなので、インクカートリッジを最初に取り付けて使用する初期充填をカートリッジ毎に実施しなければならない不便が生じる。また、上記のような切替構造を有する記録装置においては、いずれか1つのカートリッジだけを使用するような使用態様もありうるため、このような場合に、切替構造の流路内に気泡が残るような構造では、気泡が噴射不良を引き起こすことにもなりかねないので問題である。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、複数のカートリッジの初期充填を1度で済ませることができ、液体の切り替えに要する時間と液体消費を少なくし、切替構造の流路内に気泡が残りにくいカートリッジの切替手段を備えた液体噴射装置およびその初期充填方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の液体噴射装置は、噴射対象物に対してノズルから液体を噴射させる噴射ヘッドと、上記噴射ヘッドに対して液体を供給するための複数のカートリッジと、各カートリッジから噴射ヘッドに対して液体を供給する供給流路のうち噴射ヘッドに連通させる供給流路を選択することにより噴射ヘッドに供給する液体を選択的に切り替える切替手段とを備え、
上記切替手段は、各カートリッジに連通する複数のカートリッジ側流路と、噴射ヘッドに連通するヘッド側流路とを有し、上記各カートリッジ側流路がヘッド側流路に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在していることを要旨とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の液体噴射装置の初期充填方法は、噴射対象物に対してノズルから液体を噴射させる噴射ヘッドと、上記噴射ヘッドに対して液体を供給するための複数のカートリッジと、各カートリッジから噴射ヘッドに対して液体を供給する供給流路のうち噴射ヘッドに連通させる供給流路を選択することにより噴射ヘッドに供給する液体を選択的に切り替える切替手段とを備えた液体噴射装置の初期充填方法であって、
上記切替手段は、各カートリッジに連通する複数のカートリッジ側流路と、噴射ヘッドに連通するヘッド側流路とを有し、上記各カートリッジ側流路がヘッド側流路に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在しており、上記各弁機構において各流路の連通を開けた状態で初期充填を行うことを要旨とする。
【0012】
本発明の液体噴射装置によれば、各カートリッジ側流路がヘッド側流路に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在していることから、いずれか1つだけを開にしたり、全部を開にしたり、全部を閉にしたり、使用状況に応じて各弁機構の開閉状態を設定することができる。例えば、最初にカートリッジを装着したときに行う初期充填動作のときは、全ての弁機構で流路を開にしておけば、1回の初期充填動作で全てのカートリッジの初期充填を完了させることができる。また、使用しないカートリッジに対応する弁機構において流路を閉にしておけば、複数のカートリッジのうち1つだけを使用することも可能である。例えば、1つのカートリッジが空であっても、空でないカートリッジだけを噴射ヘッドに連通させて使用することが可能である。
【0013】
本発明の液体噴射装置の初期充填方法によれば、上記各カートリッジ側流路がヘッド側流路に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在しており、上記各弁機構において各流路の連通を開けた状態で初期充填を行うことから、最初にカートリッジを装着したときに行う初期充填動作のときは、全ての弁機構で流路を開にしておけば、1回の初期充填動作で全てのカートリッジの初期充填を完了させることができる。
【0014】
本発明において、上記弁機構は、弁体が着座して流路を封止する弁座部より上流側の流路内に弁体を動作させるための動作部材が存在している場合には、弁座部同士を近接して配置することが可能になり、複数の液体が流れるヘッド側流路の空間を小さくすることが可能となるため、液体の切り替えに要する時間を短縮するとともに、切り替えのために消費する液体の量も少なくすることが可能となる。また、ヘッド側流路の空間を小さくすることが可能となることから、仮に使用しないカートリッジがあったとしても気泡が残る空間がほとんどないため、気泡が引き起こす噴射不良を防止できる。
【0015】
本発明において、上記切替手段は第1弁機構と第2弁機構を備え、上記第1弁機構と第2弁機構は、互いの弁座部が近接した状態で対向するよう配置されている場合には、弁座部同士が近接して配置され、複数の液体が流れるヘッド側流路の空間を小さくすることが可能となるため、液体の切り替えに要する時間を短縮するとともに、切り替えのために消費する液体の量も少なくすることが可能となる。また、ヘッド側流路の空間を小さくすることが可能となることから、仮に使用しないカートリッジがあったとしても気泡が残る空間がほとんどないため、気泡が引き起こす噴射不良を防止できる。
【0016】
本発明において、上記ヘッド側流路は、第1弁機構の第1弁座部と第2弁機構の第2弁座部との間に配置され、近接する両弁座部にそれぞれ開口する連通路と、上記連通路から分岐して噴射ヘッド側に延びる分岐路とを備えて構成されている場合には、複数の液体が流れるヘッド側流路の空間が小さくなるため、液体の切り替えに要する時間を短縮するとともに、切り替えのために消費する液体の量も少なくなる。また、ヘッド側流路の空間が小さくなることから、仮に使用しないカートリッジがあったとしても気泡が残る空間がほとんどないため、気泡が引き起こす噴射不良を防止できる。
【0017】
本発明において、上記弁機構は、各カートリッジ側流路に対応して設けられてカートリッジ側流路を兼ねる弁室内に弁体および弁体を動作させるための動作部材が収容されて構成されている場合には、カートリッジ側流路を利用して弁体および動作部材を収容することから、弁機構そのものがコンパクトになる。
【0018】
本発明において、上記弁室は、外部に開口する開口部がフィルム部材でシールされることにより形成されている場合には、カートリッジ側流路でもある弁室を容易に形成することができるとともに、弁体や動作部材は上記開口部から組み付けることができるため、製造面において極めて有利である。
【0019】
本発明において、上記弁室内の動作部材を駆動する駆動機構が上記フィルム部材を介して弁室の外側に設けられている場合には、駆動機構を液体の流路でもある弁室の外に配置して液体と切離すことができるので、駆動機構として採用しうる機構の自由度が高まる。
【0020】
本発明において、上記駆動機構は磁力を利用して弁室内の動作部材を動作させるものである場合には、フィルム部材を介して弁室の外側から動作部材を駆動可能である。
【0021】
本発明において、上記切替手段は、噴射ヘッドに設けられたノズル列に対応して設けられている場合には、ノズル列単位で使用する液体を切り替えることができる。
【0022】
本発明の液体噴射装置の初期充填方法において、上記切替手段に設けられた複数の弁機構を全て開状態にして吸引による初期充填を行った後、その後に使用しない液体のカートリッジに対応する弁機構を閉状態にして、その後に使用する液体のカートリッジに対応する弁機構だけを開状態にし、さらに吸引動作を実行する場合には、ヘッド側流路および噴射ヘッド内の混じった液体が吸引排出され、その後に使用する液体がカートリッジからヘッド側流路および噴射ヘッド内に充填されて装置を使用できる状態になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0024】
以下、本発明を具体化した液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタの一実施形態を図1〜図7にしたがって説明する。
【0025】
図1は、インクジェット式プリンタのケース(図示せず)内に備えられたインクジェット式のプリンタ本体1の模式平面図である。
【0026】
プリンタ本体1には、噴射対象物である記録紙(図示せず)に対してノズルから液体であるインクを噴射する噴射ヘッドとしての記録ヘッド30(図2参照)を備え、上記記録ヘッド30に対して液体を供給するための複数のカートリッジ2a〜2hが装着されている。各カートリッジ2a〜2hには、図示しないホルダおよびガイド板が設けられており、非印刷領域に配置されている。
【0027】
なお、以下の説明において、複数のカートリッジのそれぞれを指すときは「カートリッジ2a」「カートリッジ2b」のように数字とアルファベット文字を組み合わせた符号を用いて説明するが、個々のカートリッジではなくカートリッジを指すときは「カートリッジ2」と単に数字だけの符号を用いて説明する。他の部材においても同様に説明する。
【0028】
上記カートリッジ2a〜2hは使用されるインク数に対応しており、本実施形態は8個のカートリッジ2a〜2hが装着されている。カートリッジ2a〜2hの内部にはインクが貯留されたインクパック(図示せず)が設けられ、このインクパック内のインクが自己封止弁(減圧弁)を有した圧力調整部5a〜5dを経由して記録ヘッド30に供給されるように構成されている。
【0029】
上記圧力調整部5a〜5dは、記録ヘッド30から噴射するインク数に対応させてキャリッジ3上に設けられる。本実施形態では、合計4個の圧力調整部5a〜5dがキャリッジ3上に搭載されている。この圧力調整部5a〜5dは、補給用チューブ4a〜4dを介して供給されたインク等の液体を、キャリッジ3下面に搭載された記録ヘッド30に対して供給可能に構成されている。
【0030】
この例では、基本的にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクを噴射し、それぞれのインクに対応して4本の補給用チューブ4a〜4dおよび4つの圧力調整部5a〜5dが設けられている。そして、各圧力調整部5a〜5dは、記録ヘッド30のノズル形成面に形成された4つのノズル列25a〜25d(図2参照)に対応してインク等を供給するようになっている。
【0031】
また、圧力調整部5a〜5dが搭載されるキャリッジ3は、キャリッジモータ6によって駆動され、タイミングベルト7を介し、走査ガイド部材8に案内されて、紙送り部材9の長手方向、すなわち記録用紙の幅方向である主走査方向に往復移動されるように構成されている。
【0032】
一方、キャリッジ3の移動経路上における非印刷領域には、封止手段としてのキャップ部材10、吸引ポンプ11(図7参照)、廃液タンク12が配置されている。キャップ部材10は、ゴム等の可撓性素材により形成されている。そして、キャリッジ3が非印刷領域に移動したときに、上記キャップ部材10によって、記録ヘッド30のノズル形成面が封止されるように構成されている。このため、キャップ部材10は、プリンタ本体1の休止期間中において記録ヘッド30のノズル開口の乾燥を防止する蓋体として機能する。
【0033】
また、上記キャップ部材10の底面は、チューブ13(図2参照)を介して吸引ポンプ11に接続されている。上記吸引ポンプ11は、キャップ部材10内の空間を吸引して吸引ポンプ11により生じる負圧を記録ヘッド30に作用させ、記録ヘッド30側から液体を排出できるように構成されている。さらに、キャップ部材10の印刷領域側には、ゴムなどの弾性素材によるワイピング部材14が配置されており、必要に応じて記録ヘッド30のノズル形成面を払拭して清掃できるように構成されている。
【0034】
この例では、8個のカートリッジ2a〜2hは、記録ヘッド30にインクを供給するためのインクカートリッジであり、具体的には、カートリッジ2aを第1イエローインク(Y1)のインクカートリッジ、カートリッジ2bを第2イエローインク(Y2)のインクカートリッジ、カートリッジ2cを第1マゼンタインク(M1)のインクカートリッジ、カートリッジ2dを第2マゼンタインク(M2)のインクカートリッジ、カートリッジ2eを第1シアンインク(C1)のインクカートリッジ、カートリッジ2fを第2シアンインク(C2)のインクカートリッジ、カートリッジ2gを第1ブラックインク(B1)のインクカートリッジ、カートリッジ2hを第2ブラックインク(B2)のインクカートリッジ、とすることができる。
【0035】
この例において、例えば、第1インクを染料インク、第2インクを顔料インクとして染料インクと顔料インクを、使用する記録紙の種類や目的等に応じて切り替えて使用することができる。
【0036】
また、このプリンタ本体1は、各カートリッジ2a〜2hから記録ヘッド30に対してインクを供給する供給流路のうち記録ヘッド30に連通させる供給流路を選択することにより記録ヘッド30に供給するインクを選択的に切り替える切替手段16a〜16dを備えている。ここで、上記供給流路とは、カートリッジチューブ15a〜15hまたは後述するカートリッジ側流路39である。
【0037】
上記切替手段16a〜16dは、記録ヘッド30に設けられた4つのノズル列25a〜25dおよび圧力調整部5a〜5dに対応して4つ設けられている。そして、1つの切替手段16a〜16dは1つの補給用チューブ4a〜4dを介して圧力調整部5a〜5dと接続され、2つのカートリッジチューブ15a〜15hを経由して2つのカートリッジ2a〜2hと接続されている。
【0038】
したがって、上記切替手段16a〜16dは、2種類のインクから使用するインクを選択するものである。具体的には、切替手段16aは第1イエローインク(Y1)のカートリッジ2aおよび第2イエローインク(Y2)のカートリッジ2bと連通してこれら2種類のインクから使用するインクを切り替える。切替手段16bは第1マゼンタインク(M1)のカートリッジ2cおよび第2マゼンタインク(M2)のカートリッジ2dと連通してこれら2種類のインクから使用するインクを切り替える。切替手段16cは第1シアンインク(C1)のカートリッジ2eおよび第2シアンインク(C2)のカートリッジ2fと連通してこれら2種類のインクから使用するインクを切り替える。切替手段16dは第1ブラックインク(B1)のカートリッジ2gおよび第2ブラックインク(B2)のカートリッジ2hと連通してこれら2種類のインクから使用するインクを切り替える。
【0039】
図2および図3は、キャリッジ3に搭載されて液体としてインクを噴射する記録ヘッド30と、その上部に装着される圧力調整部5a〜5dとを示したものである。
【0040】
上記記録ヘッド30は、噴射する液体を濾過するフィルタ32を備えたフィルタケース33と、上記フィルタケース33の下面に取り付けられたヘッド本体34とを備えて構成されている。
【0041】
上記フィルタケース33の上面には、4本の中空状のインク供給針31が直立状態に配置されており、上記フィルタケース33内に形成された各インク連絡流路35は、それぞれ各インク供給針31内のインク流路に連通されている。各インク供給針31の頂部にはインク導入孔31aが形成されており、圧力調整部5a〜5dからのインクは、このインク導入孔31aを介してインク供給針31内に導入され、上記インク連絡流路35を介してヘッド本体34に供給され、各ノズル列25a〜25dのノズル開口から噴射される。したがって、各圧力調整部5a〜5d、インク供給針31、インク連絡流路35が、各ノズル列25a〜25dに対応している。
【0042】
上記各インク供給針31は圧力調整部5a〜5dの配置状態に合わせて所定の間隔を隔てて並ぶよう配置されている。一方、ヘッド本体34がインクの供給を受ける幅寸法はそれよりも小さいため、内側に配置されたインク連絡流路35よりも外側に配置されたインク連絡流路35の方が流路の傾斜角が大きくなっている。
【0043】
上記圧力調整部5の中には自己封止弁(減圧弁)37が収容されている。この自己封止弁の動作により、カートリッジ2a〜2hからカートリッジチューブ15a〜15hを通じてインク供給針31を通って記録ヘッド30側に送られるインクの圧力を減圧して調整する。たとえばキャリッジの加減速に伴ってカートリッジチューブ15a〜15h内のインクに圧力変動が生じた場合には、インク滴の吐出が不安定になるので、圧力調整部5はインクの圧力変動を抑制する。
【0044】
図4は、上記ヘッド本体34を示す図である。
【0045】
図に示すように、上記ヘッド本体34は、圧力発生手段としての圧電振動子64が収容されるヘッドケース66と、このヘッドケース66のユニット固着面に接着剤等で固着される流路ユニット76とを備えている。この図では、1つのノズル列25a〜25dに対応した1つのインク噴射機構を示して説明するが、この例のヘッド本体34では4つのノズル列25a〜25dに対応してインク噴射機構が4つ設けられている。
【0046】
上記流路ユニット76は、圧力発生室69を含む流路空間が形成された流路形成基板71と、上記流路形成基板71の一面に積層されて圧力発生室69内のインクを噴射するノズル36が形成されたノズルプレート70と、上記流路形成基板71の他面に積層されて圧力発生室69を含む流路空間を封止する振動板(封止板)72とが積層されて構成されている。
【0047】
上記ノズルプレート70は、所定の解像度(ドットピッチ)に対応したピッチPでノズル36が複数列設されて1列のノズル列25a〜25dが形成され、それぞれのノズル36からインク滴を噴射するようになっている。このノズルプレート70は、ステンレス板から形成されている。
【0048】
上記流路形成基板71は、上記各ノズル36に連通する圧力発生室69が列設されている。また、後述するインク貯留室67の圧力変動を逃がすダンパ室65が形成されている。上記圧力発生室69およびダンパ室65となる空間は、流路形成基板71の振動板72側に凹部として形成されている。上記流路形成基板71は、この例ではSi単結晶基板をエッチングすることにより形成されている。
【0049】
上記振動板72は、ポリフェニレンサルファイドフィルムからなり、ステンレス板製の島部63等がラミネートされて形成されている。また、この振動板72には、後述するインク貯留室67のインクを各圧力発生室69に供給するためのインク供給口68が形成されている。
【0050】
そして、上記流路形成基板71の一面にノズルプレート70が積層され、他面に振動板72が島部63を外側に配置するように積層されて流路ユニット76が構成されている。上記流路形成基板71、ノズルプレート70、振動板72に接着剤が塗布され、所定の高温に加熱保持して接合したのち室温まで冷却することにより、流路ユニット76がつくられる。
【0051】
一方、上記ヘッドケース66は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が射出成形されてなり、そのユニット固着面には、上記圧力発生室69の列に対応して各圧力発生室69に対して供給するインクを貯留する共通のインク貯留室67が、上記圧力発生室69の列に沿って配置されるよう形成されている。また、上記ヘッドケース66には、上記インク連絡流路35と連通してインク貯留室67にインクを供給する1本のインク供給路77が形成されている。
【0052】
また、上記ヘッドケース66は、ノズル列25a〜25d方向に延びて上下に貫通する収容空間78が形成され、この収容空間78に振動子ユニット75が収容されるようになっている。
【0053】
上記振動子ユニット75は、固定板73の先端に、上記各圧力発生室69に対応するよう列設された棒状の圧電振動子64が固着され、上記各圧電振動子64に、吐出信号を入力するためのフレキシブルケーブル74が接続されて構成されている。上記圧電振動子64は、縦振動モードの圧電振動子64である。
【0054】
そして、上記ヘッドケース66のユニット固着面に、流路ユニット76の振動板72側が接着剤で接合された状態で、圧電振動子64の先端面が振動板72の島部63に固着されるとともに、固定板73がヘッドケース66に接着固定されることにより、ヘッド本体34が構成されている。
【0055】
上記構成のヘッド本体34は、駆動回路で発生させた駆動信号をフレキシブルケーブル74を介して圧電振動子64に入力することにより、圧電振動子64が長手方向に伸縮される。この圧電振動子64の伸縮により、振動板72の島部63を振動させて圧力発生室69内の圧力を変化させ、圧力発生室69内のインクをノズル36からインク滴として吐出させるようになっている。
【0056】
そして、上記ヘッド本体34は、上述したインク吐出構造がイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の4色のインクごとに設けられ、4つのノズル列25a〜25dからそれぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の各色のインクを吐出するように構成される。
【0057】
図5および図6は、上記切替手段16を示す断面図である。
【0058】
上記切替手段16は、本体ケース38に複数(この例では2本)のカートリッジチューブ15と、1本の補給用チューブ4が接続されている。また、上記切替手段16は、カートリッジチューブ15を介してそれぞれカートリッジ2に連通する複数(この例では2つ)のカートリッジ側流路39a,39bと、補給用チューブ4を介して記録ヘッド30に連通するヘッド側流路40とを有し、上記各カートリッジ側流路39a,39bがヘッド側流路40に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体44a,44bの独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在している。
【0059】
上記弁機構は、各カートリッジ側流路39に対応して設けられてカートリッジ側流路39を兼ねる弁室49内に弁体44、弁体44を動作させるための動作部材45、動作部材45を付勢する付勢部材46、動作部材45を支持する支持部材48がそれぞれ収容されて構成されている。
【0060】
これにより、上記切替手段16は、各カートリッジ2から記録ヘッド30に対してインクを供給する供給流路(カートリッジチューブ15、カートリッジ側流路39)のうち、ヘッド側流路40を介して記録ヘッド30に連通させる供給流路(カートリッジチューブ15、カートリッジ側流路39)を選択することにより、記録ヘッド30に供給するインクを選択的に切り替えるようになっている。
【0061】
上記本体ケース38には、図示の上側にカートリッジチューブ15が接続された2つのチューブ接続部が設けられている。上記チューブ接続部にそれぞれカートリッジチューブ15と連通するカートリッジ側流路39a,39bが図示の上下に延びるように形成されている。一方、上記本体ケース38には、図示の下側に補給用チューブ4が接続された1つのチューブ接続部が設けられている。上記チューブ接続部にそれぞれ補給用チューブ4と連通するヘッド側流路40が図示の上下に延びるように形成されている。
【0062】
上記本体ケース38には、図示の両側から弁室49a,49bとなる空間が形成されている。弁室49a,49bとなる空間は、それぞれカートリッジ側流路39a,39bと連通し、弁室49a,49bはカートリッジ側流路39a,39bを兼ねている。また、上記弁室49a,49bは、本体ケース38側面において外部に開口する開口部54a,54bがフィルム部材47a,47bでシールされることにより形成されている。
【0063】
上記2つの弁室49a,49bとなる空間は、それぞれ本体ケース38の両側面に開口部54a,54bを有し、中央から略左右対象に形成されている。上記弁室49a,49bとなる空間の中央寄りの奥面は、弁体44a,44bが着座して流路を封止するための弁座部43a,43bとして機能する。このように、この切替手段16が備えている2つの弁機構すなわち第1弁機構と第2弁機構は、互いの弁座部43a,43bが近接した状態で対向するよう配置されている。
【0064】
上記弁室49a,49bとなる空間の間には、近接する両弁座部43a,43bにそれぞれ開口する連通路41が配置され、両空間同士が上記連通路41によって連通されている。また、上記連通路41から分岐して補給用チューブ4が接続されたチューブ接続部に向かって延びる分岐路42が形成され、上記連通路41と分岐路42とでヘッド側流路40を構成している。
【0065】
このように、上記ヘッド側流路40は、第1弁機構の第1弁座部43aと第2弁機構の第2弁座部43bとの間に配置され、近接する両弁座部43a,43bにそれぞれ開口する連通路41と、上記連通路41から分岐して記録ヘッド30側に延びる分岐路42とを備えて構成されている。
【0066】
上記弁室49に、弁体44、弁体44を動作させるための動作部材45、動作部材45を付勢する付勢部材46、動作部材45を支持する支持部材48がそれぞれ収容されて弁機構が構成されている。
【0067】
上記弁体44は、弁座部43に着座して、カートリッジ側流路39でもある弁室49とヘッド側流路40との連通状態を開閉する。上記弁体44としては、例えばゴム等の弾性部材を円盤状に形成したものが用いられる。上記弁体44は、動作部材45に固着されていて、動作部材45が弁室49内でスライド移動するのに伴って移動し、弁室49とヘッド側流路40との連通状態を開閉する。
【0068】
上記動作部材45は、スチール等の磁性体からなり、弁体44が固着される固着部57と、上記固着部57の片面側に延びる軸部58とから構成され、上記軸部が支持部材48に形成された挿通穴59にスライド自在に挿通され、上記動作部材45が支持部材48にスライド自在に支持されている。上記支持部材48は、弁室49の開口部54近傍に固着される。そして、上記動作部材45の軸部58には、動作部材45を弁座部43に向かって付勢する付勢部材46が挿通されている。この例では上記付勢部材46としてコイルスプリングが用いられている。
【0069】
そして、上記弁室49内に弁体44、動作部材45、付勢部材46、支持部材48が収容された状態で、開口部54がフィルム部材47でシールされて弁機構が構成される。
【0070】
このような構成により、上記弁機構は、弁体44が着座して流路を封止するための弁座部43より上流側の流路内に弁体44を動作させるための動作部材45が存在している。そして、上記弁機構では、通常時は、付勢部材46によって動作部材45が弁座部43に向かって付勢され、この付勢力により弁体44が弁座部43に密着して弁室49とヘッド側流路40との連通状態を閉状態にシールしている。
【0071】
さらに、上記本体ケース38の弁機構が存在する両側には、ケース52が設けられ、上記ケース52に形成されたガイド穴にガイド部材53がスライド可能に挿通され、上記ガイド部材53の先端にマグネット50a,50bが固着されている。また、上記ガイド部材53にはレバー51a,51bが軸支されており、レバー51a,51bを図示の左右方向に操作することにより、マグネット50a,50bがフィルム部材47に向かって進退するように構成されている。
【0072】
上記マグネット50、ガイド部材53、ケース52、レバー51が、上記弁室49内の動作部材45を駆動する駆動機構として機能し、上述したように、この駆動機構が上記フィルム部材47を介して弁室49の外側に設けられている。
【0073】
図7に示すように、レバー51を図示の左右方向に操作することにより、マグネット50をフィルム部材47に近づけると、マグネット50の磁力により、動作部材45が付勢部材46の付勢力に抗してマグネット50に引き付けられ、弁座部43に着座していた弁体44が弁座部43から離れ、カートリッジ側流路39である弁室49とヘッド側流路40との連通状態が開になる。
【0074】
一方、上述した開弁状態から、レバー51を反対側に操作して、マグネット50をフィルム部材47から遠ざけると、マグネット50の磁力による引き付け力より付勢部材46の付勢力が優り、動作部材45が弁座部43に向かって押し付けられ、弁座部43から離れていた弁体44が弁座部43に着座し、カートリッジ側流路39である弁室49とヘッド側流路40との連通状態が閉になる。
【0075】
そして、使用するインクのカートリッジ2が接続されたカートリッジ側流路39の弁操作を行うレバー51を開弁方向に操作し、使用しないインクのカートリッジ2が接続されたカートリッジ側流路39の弁操作を行うレバー51を閉弁方向に操作することにより、使用するインクを選択することができる。
【0076】
このように、上記弁室49内の動作部材45を駆動する駆動機構は、マグネット50をレバー51等の機械的操作でフィルム部材47に近づけたり遠ざけたりして磁力の吸引力を動作部材45に作用させて弁体44による流路の開閉動作を行うようにしている。
【0077】
インクの切替を行うときは、開弁方向にあったレバー51を閉弁方向に操作するとともに、閉弁方向にあったレバー51を開弁方向に操作することにより、それまで連通していた側のカートリッジ2への連通が閉状態になり、それまで連通状態が閉であったカートリッジが連通状態になる。
【0078】
このように、独立して開閉動作する2つの弁機構により記録ヘッド30に連通させるカートリッジを選択的に切り替えて、記録ヘッド30から噴射させるインクを選択的に切り替えることができる。
【0079】
インクの切替を行うときは、上記弁機構の開閉操作に加えて、キャップ部材10により記録ヘッド30のノズル形成面をキャッピングし、吸引ポンプ11でノズルからそれまで使用していたインクを吸引して排出することにより、カートリッジ2から新しいインクが記録ヘッド30内に導入され、記録ヘッド30および流路内のインクを入れ替えて切替を行うことができる。このとき、1部のノズル列25だけでインクの切り替えを行った場合は、切り替えを行わないノズル列25に対応する切替手段16の弁機構を全て閉状態にしておくことにより、切り替えをしないノズル列25からはインクが吸引排出されないため、無駄なインクの消費を防止することができる。
【0080】
また、常に一方の種類のインクしか使用しないような場合でも、使用しないインクのカートリッジ側の弁機構を常時閉状態にしておき、使用するインクのカートリッジ側の弁機構を常に開状態にしておけばよい。
【0081】
さらに、プリンタ本体1を最初に使用するときに、最初にカートリッジ2a〜2hを装着した際、記録ヘッド30や圧力調整部5a〜5d等の流路にインクを最初に充填する初期充填動作の際にも、キャップ部材10により記録ヘッド30のノズル形成面をキャッピングし、吸引ポンプ11でノズルに対して負圧を与えることにより、カートリッジ2から新しいインクを記録ヘッド30内に導入することが行われる。
【0082】
この初期充填の際には、上記切替手段16に設けられた複数の弁機構を全て開状態にして、上記各弁機構において各流路の連通を開け、全てのカートリッジ側流路39をヘッド側流路40に連通させた状態で、ノズルに負圧を与えることにより、全てのカートリッジ2のインクが記録ヘッド30および圧力調整部5a〜5d等の流路に充填される。この状態では、弁室49を含む各カートリッジ側流路39までは、対応するカートリッジ2のインクだけが充填されるが、ヘッド側流路40内および記録ヘッド30内では複数(この例では2つ)のカートリッジ2のインクが混じった混色状態となる。
【0083】
したがって、上記のような切替手段16に設けられた複数の弁機構を全て開状態にして初期充填を行った後は、その後に使用しないインクのカートリッジ2に対応する弁機構を閉状態にして、その後に使用するインクのカートリッジ2に対応する弁機構だけを開状態にし、さらに吸引動作を実行することにより、ヘッド側流路40内および記録ヘッド30内の混色状態のインクが吸引排出され、その後に使用するインクがカートリッジ2からヘッド側流路40および記録ヘッド30内に充填されてプリンタ本体1を使用できるようになる。この初期充填に係る吸引後の再吸引動作は、初期充填よりも少ない吸引量および/または吸引時間で行うことができる。
【0084】
図8は、本発明の第2の実施形態を示す。
【0085】
この例は、上記弁室49内の動作部材45を駆動する駆動機構として、マグネット50をレバー51等の機械的操作でフィルム部材47に近づけたり遠ざけたりして開閉動作をするのではなく、フィルム部材47の外側に電磁石として機能する電磁コイル55a,55bを配置し、各電磁コイル55a,55bをそれぞれオンオフするスイッチ56a,56bを設けている。
【0086】
これにより、スイッチ56をオンにすることにより、電磁石の磁力により動作部材45を引き付けて弁体44を開状態にし、スイッチ56をオフにすることにより、電磁石の磁力を切って付勢部材46の付勢力により弁体44を閉状態にすることができる。それ以外は、上述した第1実施形態と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。
【0087】
この例では、機械的な操作ではなく、電磁的な作用により弁機構の開閉操作を行うことができる。それ以外は、上記第1および第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0088】
図9および図10は、本発明の第3実施形態を示す。
【0089】
この例は、8つのカートリッジ2a〜2hは、カートリッジ2aをマットブラック(MB)のインクカートリッジ、カートリッジ2bをイエローインク(Y)のインクカートリッジ、カートリッジ2cをマゼンタインク(M)のインクカートリッジ、カートリッジ2dをシアンインク(C)のインクカートリッジ、カートリッジ2eをグレーインク(GL)のインクカートリッジ、カートリッジ2fをライトシアンインク(LC)のインクカートリッジ、カートリッジ2gをライトマゼンタ(LM)のインクカートリッジ、カートリッジ2hをフォトブラックインク(FB)のインクカートリッジ、としたものである。
【0090】
そして、上記8つの圧力調整部5a〜5hは、圧力調整部5aがマットブラック(MB)のカートリッジ2aに対応し、圧力調整部5bがイエローインク(Y)のカートリッジ2bに対応し、圧力調整部5cがマゼンタインク(M)のカートリッジ2cに対応し、圧力調整部5dがシアンインク(C)のカートリッジ2dに対応し、圧力調整部5eがグレーインク(GL)のカートリッジ2eに対応し、圧力調整部5fがライトシアンインク(LC)のカートリッジ2fに対応し、圧力調整部5gがライトマゼンタ(LM)のカートリッジ2gに対応し、圧力調整部5hがフォトブラックインク(FB)のカートリッジ2hに対応している。
【0091】
そして、切替手段16は、マットブラック(MB)のカートリッジ2aに対応した圧力調整部5aと、フォトブラックインク(FB)のカートリッジ2hに対応した圧力調整部5hとの間で2種類のインク(マットブラックとフォトブラック)を切り替えるようになっている。ここで、マットブラックとはマット紙用のブラックインクであり、フォトブラックとは光沢紙用のブラックインクである。
【0092】
また、上述した実施形態1では、カートリッジ2と圧力調整部5との間に切替手段16を設け、カートリッジ2から供給されたインクを圧力調整部5に導入する前に切り替えて、切り替え後のインクを圧力調整部5に導入するようにしたが、この実施形態では、切り替えるインクのカートリッジ2a,2hに対応して圧力調整部5a,5hが同じ数だけ設けられており、切替手段16は、圧力調整部5a,5hから供給されるインクがカートリッジ側流路39a,39bに導入されるようになっている。
【0093】
また、この切替手段16は、記録ヘッド30のインク供給針31が挿入される針受部が設けられ、ヘッド側流路40が上記針受部と連通し、ヘッド側流路40のインクをインク供給針31を介して記録ヘッド30に供給するようになっている。それ以外は、上述した第1および第2実施形態と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。
【0094】
この実施形態では、切替手段16が記録ヘッド30のインク供給針31に直接装着され、記録ヘッド30のすぐ上流に切替手段16が設けられることから、混色インクが流れる流路が大幅に短くなり、初期充填やインクの切替の際に吸引排出される無駄なインクが少なくて済む。それ以外は、上記第1および第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0095】
上記各実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0096】
すなわち、上記液体噴射装置によれば、各カートリッジ側流路39がヘッド側流路40に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体44の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在していることから、いずれか1つだけを開にしたり、全部を開にしたり、全部を閉にしたり、使用状況に応じて各弁機構の開閉状態を設定することができる。例えば、最初にカートリッジ2を装着したときに行う初期充填動作のときは、全ての弁機構で流路を開にしておけば、1回の初期充填動作で全てのカートリッジ2の初期充填を完了させることができる。また、使用しないカートリッジ2に対応する弁機構において流路を閉にしておけば、複数のカートリッジ2のうち1つだけを使用することも可能である。例えば、1つのカートリッジ2が空であっても、空でないカートリッジ2だけを記録ヘッド30に連通させて使用することが可能である。
【0097】
また、上記弁機構は、弁体44が着座して流路を封止する弁座部43より上流側の流路内に弁体44を動作させるための動作部材45が存在しているため、弁座部43同士を近接して配置することが可能になり、複数のインクが流れるヘッド側流路40の空間を小さくすることが可能となるため、インクの切り替えに要する時間を短縮するとともに、切り替えのために消費するインクの量も少なくすることが可能となる。また、ヘッド側流路40の空間を小さくすることが可能となることから、仮に使用しないカートリッジ2があったとしても気泡が残る空間がほとんどないため、気泡が引き起こす噴射不良を防止できる。
【0098】
また、上記切替手段は第1弁機構と第2弁機構を備え、上記第1弁機構と第2弁機構は、互いの弁座部43が近接した状態で対向するよう配置されているため、弁座部43同士が近接して配置され、複数のインクが流れるヘッド側流路40の空間を小さくすることが可能となるため、インクの切り替えに要する時間を短縮するとともに、切り替えのために消費するインクの量も少なくすることが可能となる。また、ヘッド側流路40の空間を小さくすることが可能となることから、仮に使用しないカートリッジ2があったとしても気泡が残る空間がほとんどないため、気泡が引き起こす噴射不良を防止できる。
【0099】
また、上記ヘッド側流路40は、第1弁機構の第1弁座部43aと第2弁機構の第2弁座部43bとの間に配置され、近接する両弁座部43a,43bにそれぞれ開口する連通路41と、上記連通路41から分岐して記録ヘッド30側に延びる分岐路42とを備えて構成されているため、複数のインクが流れるヘッド側流路40の空間が小さくなるため、インクの切り替えに要する時間を短縮するとともに、切り替えのために消費するインクの量も少なくなる。また、ヘッド側流路40の空間が小さくなることから、仮に使用しないカートリッジ2があったとしても気泡が残る空間がほとんどないため、気泡が引き起こす噴射不良を防止できる。
【0100】
また、上記弁機構は、各カートリッジ側流路39に対応して設けられてカートリッジ側流路39を兼ねる弁室49内に弁体44および弁体44を動作させるための動作部材45が収容されて構成されているため、カートリッジ側流路39を利用して弁体44および動作部材45を収容することから、弁機構そのものがコンパクトになる。
【0101】
また、上記弁室は、外部に開口する開口部54がフィルム部材47でシールされることにより形成されているため、カートリッジ側流路39でもある弁室49を容易に形成することができるとともに、弁体44や動作部材45は上記開口部54から組み付けることができるため、製造面において極めて有利である。
【0102】
また、上記弁室49内の動作部材45を駆動する駆動機構が上記フィルム部材47を介して弁室49の外側に設けられているため、駆動機構をインクの流路でもある弁室49の外に配置してインクと切離すことができるので、駆動機構として採用しうる機構の自由度が高まる。
【0103】
また、上記駆動機構は磁力を利用して弁室49内の動作部材45を動作させるものであるため、フィルム部材47を介して弁室49の外側から動作部材45を駆動可能である。
【0104】
また、上記切替手段16は、記録ヘッド30に設けられたノズル列25a〜25dに対応して設けられているため、ノズル列25a〜25d単位で使用するインクを切り替えることができる。
【0105】
上記初期充填方法によれば、上記各カートリッジ側流路39がヘッド側流路40に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体44の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在しており、上記各弁機構において各流路の連通を開けた状態で初期充填を行うことから、最初にカートリッジ2を装着したときに行う初期充填動作のときは、全ての弁機構で流路を開にしておけば、1回の初期充填動作で全てのカートリッジ2の初期充填を完了させることができる。
【0106】
また、上記切替手段に設けられた複数の弁機構を全て開状態にして吸引による初期充填を行った後、その後に使用しないインクのカートリッジ2に対応する弁機構を閉状態にして、その後に使用するインクのカートリッジ2に対応する弁機構だけを開状態にし、さらに吸引動作を実行するため、ヘッド側流路40および記録ヘッド30内の混じったインクが吸引排出され、その後に使用する液体がカートリッジ2からヘッド側流路40および記録ヘッド30内に充填されて装置を使用できる状態になる。
【0107】
上記各実施形態では、インクの種類として染料インクと顔料インクを切り替えて使用する例を示して説明したが、これに限定するものではなく、その他各種のインクを切り替えて使用することができる。また、インク同士の切り替えだけでなく、インク以外の洗浄液や保湿液等の機能性液体同士の切り替えや、インクと機能性液体との切り替えを適用することもできる。
【0108】
上記各実施形態において、記録ヘッド30は、液体を噴射させる駆動素子である圧力発生素子として、圧電振動子を利用した液体噴射装置を適用した例を示したが、これに限定するものではなく、発熱素子を利用したタイプの液体噴射装置に適用することもできる。
【0109】
また、上記説明した液体噴射装置で実行する液体切替処理方法や初期充填方法をコンピュータ装置に実行させるプログラムについて、記録媒体に記録して提供したり、通信ネットワークを介して提供したりすることもできる。
【0110】
また、液体噴射装置の代表例としては、上述したような画像記録用のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置があるが、本発明は、その他の液体噴射装置として、例えば液晶ディスプレー等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELディスプレー、面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等、各種の液体噴射装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】第1実施形態のプリンタ本体の概略平面図である。
【図2】記録ヘッドの流路構造を示す図である。
【図3】記録ヘッドと圧力調整部を示す一部破断断面図である。
【図4】記録ヘッドを示す一部破断断面図である。
【図5】切替手段を示す断面図である。
【図6】切替手段を示す分解図である。
【図7】切替手段の作用を示す断面図である。
【図8】第2実施形態の切替手段を示す断面図である。
【図9】第3実施形態のプリンタ本体の概略図である。
【図10】第3実施形態の流路構造を示す図である。
【符号の説明】
【0112】
1 プリンタ本体,2a〜2h カートリッジ,3 キャリッジ,4a〜4d 補給用チューブ,5a〜5d 圧力調整部,6 キャリッジモータ,7 タイミングベルト,8 走査ガイド部材,9 紙送り部材,10 キャップ部材,11 吸引ポンプ,12 廃液タンク,13 チューブ,14 ワイピング部材,15a〜15j カートリッジチューブ,16a〜16d 切替手段,25a〜25d ノズル列,30 記録ヘッド,31 インク供給針,31a インク導入孔,32 フィルタ,33 フィルタケース,34 ヘッド本体,35 インク連絡流路,36 ノズル,37 自己封止弁,38 本体ケース,39a,39b カートリッジ側流路,40 ヘッド側流路,41 連通路,42 分岐路,43a,43b 弁座部,44a,44b 弁体,45a,45b 動作部材,46 付勢部材,47a,47b フィルム部材,48 支持部材,49a,49b 弁室,50a,50b マグネット,51a,51b レバー,52 ケース,53 ガイド部材,54a,54b 開口部,55a,55b 電磁コイル,56a,56b スイッチ,57 固着部,58 軸部,59 挿通穴,63 島部,64 圧電振動子,65 ダンパ室,66 ヘッドケース,67 インク貯留室,68 インク供給口,69 圧力発生室,70 ノズルプレート,71 流路形成基板,72 振動板,73 固定板,74 フレキシブルケーブル,75 振動子ユニット,76 流路ユニット,77 インク供給路,78 収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射対象物に対してノズルから液体を噴射させる噴射ヘッドと、上記噴射ヘッドに対して液体を供給するための複数のカートリッジと、各カートリッジから噴射ヘッドに対して液体を供給する供給流路のうち噴射ヘッドに連通させる供給流路を選択することにより噴射ヘッドに供給する液体を選択的に切り替える切替手段とを備え、
上記切替手段は、各カートリッジに連通する複数のカートリッジ側流路と、噴射ヘッドに連通するヘッド側流路とを有し、上記各カートリッジ側流路がヘッド側流路に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在していることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
上記弁機構は、弁体が着座して流路を封止するための弁座部より上流側の流路内に弁体を動作させるための動作部材が存在している請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項3】
上記切替手段は第1弁機構と第2弁機構を備え、上記第1弁機構と第2弁機構は、互いの弁座部が近接した状態で対向するよう配置されている請求項2記載の液体噴射装置。
【請求項4】
上記ヘッド側流路は、第1弁機構の第1弁座部と第2弁機構の第2弁座部との間に配置され、近接する両弁座部にそれぞれ開口する連通路と、上記連通路から分岐して噴射ヘッド側に延びる分岐路とを備えて構成されている請求項3記載の液体噴射装置。
【請求項5】
上記弁機構は、各カートリッジ側流路に対応して設けられてカートリッジ側流路を兼ねる弁室内に弁体および弁体を動作させるための動作部材が収容されて構成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
上記弁室は、外部に開口する開口部がフィルム部材でシールされることにより形成されている請求項5記載の液体噴射装置。
【請求項7】
上記弁室内の動作部材を駆動する駆動機構が上記フィルム部材を介して弁室の外側に設けられている請求項6記載の液体噴射装置。
【請求項8】
上記切替手段は、噴射ヘッドに設けられたノズル列に対応して設けられている請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
噴射対象物に対してノズルから液体を噴射させる噴射ヘッドと、上記噴射ヘッドに対して液体を供給するための複数のカートリッジと、各カートリッジから噴射ヘッドに対して液体を供給する供給流路のうち噴射ヘッドに連通させる供給流路を選択することにより噴射ヘッドに供給する液体を選択的に切り替える切替手段とを備えた液体噴射装置の初期充填方法であって、
上記切替手段は、各カートリッジに連通する複数のカートリッジ側流路と、噴射ヘッドに連通するヘッド側流路とを有し、上記各カートリッジ側流路がヘッド側流路に連通する部分において流路を開閉する弁機構が、各流路内において弁体の独立した開閉動作を可能とするようそれぞれ独立して存在しており、上記各弁機構において各流路の連通を開けた状態で初期充填を行うことを特徴とする液体噴射装置の初期充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−196442(P2007−196442A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15365(P2006−15365)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】