説明

液体噴射装置のメンテナンス方法、及び液体噴射装置

【課題】液体受部に溜まった液体を排出する頻度を抑えることができ、また、液体受部からの液体漏れも確実に回避することができる液体噴射装置のメンテナンス方法等を提供する。
【解決手段】液体噴射装置の液体受部15に溜まった液体Lを排出するメンテナンス方法において、液体噴射ヘッド3のノズル開口面43aを液体受部15に対して非接触状態で対向配置してその間に電界を付与する第一工程と、ノズル47から液体受部15に向けて液体Dを噴射する第二工程と、液体受部15に向けて液体Dを噴射したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する第三工程と、電圧変化の検出結果に基づいて液体受部15に溜まった液体Lの液面高さHを求める第四工程と、液面高さHが所定高さとなると液体受部15に溜まった液体Lを排出する第五工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンタ等の液体噴射装置におけるメンテナンス方法、及び液体噴射装置に関する
ものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。
液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズル(開口)から液体状のインクをインク滴として記録紙等の吐出対象物に向けて吐出・着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式プリンタ等の画像記録装置を挙げることができる。
また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置が応用されている。
【0003】
このような画像記録装置では、例えば、インクタンクやインクカートリッジ等の液体貯留部に貯留されたインクを記録ヘッドの圧力室内に導入し、例えば圧電振動子等の圧力発生源に駆動信号を印加してこれを駆動することにより、圧力室内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動を制御することでノズルからインク滴を吐出するようになっている。
記録ヘッドは、圧力発生源に供給する駆動信号の駆動電圧(最低電圧から最高電圧までの電位差)や、その波形に応じて、ノズルから吐出されるインク滴の液量(重量・体積)が増減するようになっている。
【0004】
そして、液体噴射装置では、記録ヘッドの各ノズルの状態を好適に保ち、常に所望の液量のインク滴が吐出されてドット抜けが発生しないように、記録(印刷)の開始前、途中又は終了後等に、各ノズルからインクを吐出することでノズル内で増粘したインク等を吐出する、いわゆるフラッシング処理が行われている。
フラッシング処理により吐出された液体は、トレイ状の液体受部に溜まり、この液体受部に液体が一定量溜まると、ポンプを駆動して液体を廃インクタンクに向けて排出するようになっている。なお、この処理は、空吸引処理と呼ばれている。
【特許文献1】特開2006−248132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体受部に溜まった液体は、液体受部から溢れる前に排出する必要がある。ところが、液体受部に溜まった液体の量を直接測定することができないので、従来は、記録ヘッドのノズルから吐出される液量と吐出回数に基づいて溜まった液体の量を間接的に求めている。この際、ノズルから吐出される液量は、温度・湿度等の環境条件により変化したり、液量がばらついたりするので、最も悪い条件(最も液量が多い場合)を想定して、決定されている。
また、液体受部材からの液体漏れを確実に回避するため、液体受部の容積よりも少ない液量(例えば、液体受部の容積の80%程度)が溜まった時点で、ポンプを駆動している。しかも、液体受部の容積は、液体受部の内部に配置された液体吸収材が使用に伴って目詰まりを起こしていることを想定して、決定されている。
このため、液体受部に、まだ充分に液体を溜めることができる場合であっても、ポンプが駆動されてしまう。言い換えれば、ポンプの駆動頻度が増えてしまうという問題がある。
【0006】
特に、液体受部から液体を排出(吸引)するポンプの駆動モータが、記録ヘッドに向けて記録紙を供給・排出する紙送り機構の駆動モータを兼ねている場合には、液体受部から液体を排出する際には給紙・排紙を含む記録処理を中断する必要があるため、記録処理の効率を低下させてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、液体受部に溜まった液体の排出処理の頻度を抑えることができ、また、液体受部からの液体漏れも確実に回避することができる液体噴射装置のメンテナンス方法、及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液体噴射装置のメンテナンス方法、及び液体噴射装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、液体噴射ヘッドのノズルから液体受部に向けて液体を噴射し、前記液体受部に所定量の液体が溜まるとこの液体を排出する液体噴射装置のメンテナンス方法において、液体噴射ヘッドのノズル開口面を前記液体受部に対して非接触状態で対向配置すると共に前記ノズル開口面と前記液体受部との間に電界を付与する第一工程と、前記ノズルから前記液体受部に向けて液体を噴射する第二工程と、前記液体受部に向けて液体を噴射したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する第三工程と、前記電圧変化の検出結果に基づいて前記液体受部に溜まった液体の液面高さを求める第四工程と、前記液面高さが所定高さとなると前記液体受部に溜まった液体を排出する第五工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
これにより、液体受部に溜まった液体の量を検出することができ、液体受部に溜まった液体を排出する工程の実施時期を最適化することができる。したがって、液体排出工程の頻度が抑えられて、液体噴射ヘッドによる記録処理の効率を向上させることができる。また、液体排出工程の頻度を抑えることで、液体の排出を行う吸引ポンプの耐久性向上を図ることもできる。
【0010】
また、前記液面高さは、前記電圧変化のうち、前記ノズルから噴射された液体が前記液体受部に着弾する際の電圧変化に基づいて求められることを特徴とする。
また、前記液面高さは、電圧変化の発生からピークに達するまでの時間に基づいて求められることを特徴とする。
これにより、液体受部に溜まった液体の量を正確に検出することができ、液体排出工程の頻度を確実に抑えることが可能となる。
【0011】
また、前記第一工程から前記第四工程は、前記液体受部に向けて噴射された液体量が予め設定された量となった後に行われることを特徴とする。
これにより、液体受部の液面高さの検出工程の実施頻度を抑えることができる。
【0012】
また、第四工程と第五工程の間に、前記液体噴射ヘッドから前記液体受部に向けて液体を連続噴射するフラッシング処理を行う第六工程を有し、前記第六工程において、前記所定高さとなるまでに噴射可能な液体量及び/又は噴射回数を求めることを特徴とすることを特徴とする。
これにより、その後に行うべき液体排出工程の実施時期を推定することができる。
【0013】
また、前記第六工程は、前記フラッシング処理を定期及び/又は不定期に複数回行うことを特徴とする。
また、前記第六工程は、前記所定高さとなるまでに行うことが可能なフラッシング処理回数を求めることを特徴とする。
これにより、液体受部に溜まった液体が溢れ出す前に、確実に液体排出工程を実施することができる。
【0014】
また、前記第六工程は、前記フラッシング処理が排出時フラッシング処理の場合には、前記所定高さを他のフラッシング処理の場合よりも高く設定することを特徴とする。
これにより、液体排出工程の実施時期の最適化を図ることができる。
【0015】
第2の発明は、液体噴射ヘッドのノズルから液体受部に向けて液体を噴射し、前記液体受部に所定量の液体が溜まるとこの液体を排出する液体噴射装置において、液体噴射ヘッドのノズル開口面と前記液体受部とが非接触状態で対向配置されると前記ノズル開口面と前記液体受部との間に電界を付与する液体検出部と、前記液体噴射ヘッドから前記液体受部に向けて液体を連続噴射するフラッシング処理部と、前記液体受部に溜まった液体を排出する液体排出部と、前記電圧変化の検出結果に基づいて前記液体受部に溜まった液体の液面高さを求め、前記液面高さが所定高さになると前記液体排出部を駆動させるメンテナンス処理部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
これにより、液体受部に溜まった液体の量を検出することができ、液体受部に溜まった液体を排出する工程の実施時期を最適化することができる。したがって、液体排出工程の頻度が抑えられて、液体噴射ヘッドによる記録処理の効率を向上させることができる。また、液体排出工程の頻度を抑えることで、液体の排出を行う吸引ポンプの耐久性向上を図ることもできる。
【0017】
また、前記メンテナンス処理部は、前記電圧変化のうち、前記ノズルから噴射された液体が前記液体受部に着弾する際の電圧変化に基づいて、前記液面高さを求めることを特徴とする。
また、前記液面高さは、電圧変化の発生からピークに達するまでの時間に基づいて求められることを特徴とする。
これにより、液体受部に溜まった液体の量を正確に検出することができ、液体排出工程の頻度を確実に抑えることが可能となる。
【0018】
また、前記メンテナンス処理部は、前記所定高さとなるまでに噴射可能な液体量及び/又は噴射回数を求めることを特徴とすることを特徴とする。
これにより、液体受部に溜まった液体が溢れ出す前に、確実に液体排出工程を実施することができる。
【0019】
また、前記フラッシング処理部は、定期及び/又は不定期に複数回に亘って、前記液体受部に向けて液体を連続噴射することを特徴とする。
また、前記メンテナンス処理部は、前記所定高さとなるまでに前記フラッシング処理部が行うことが可能なフラッシング処理回数を求め、前記フラッシング処理回数に基づいて前記液体排出部を駆動させることを特徴とする。
これにより、液体受部に溜まった液体が溢れ出す前に、確実に液体排出工程を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る液体噴射装置のメンテナンス方法、及び液体噴射装置の第一実施形態について、図を参照して説明する。本実施形態では、本発明に係る液体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(以下、プリンタ1という)を例示する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るプリンタ1の概略構成を示す一部分解図である。
プリンタ1は、サブタンク2及び記録ヘッド3を搭載したキャリッジ4と、プリンタ本体5とから概略構成される。
プリンタ本体5には、キャリッジ4を往復移動させるキャリッジ移動機構65(図5参照)と、不図示の記録紙(液体噴射対象)を搬送する紙送り機構66(図5参照)と、記録ヘッド3の各ノズルから増粘したインクLを吸引するクリーニング動作等に用いられるキャッピング機構14と、記録ヘッド3に供給するインクLを貯留したインクカートリッジ6とが設けられている。
【0022】
また、プリンタ1は、記録ヘッド3から吐出されるインク滴Dを検出可能なインク滴センサ7(図4,5参照)を備えている。このインク滴センサ7は、記録ヘッド3から吐出されるインク滴Dを帯電させ、この帯電したインク滴Dが飛翔する際の静電誘導に基づく電圧変化を検出信号として出力するように構成されたものである。
このインク滴センサ7の詳細については、後述する。
【0023】
キャリッジ移動機構65は、プリンタ本体5の幅方向に架設されたガイド軸8と、パルスモータ9と、パルスモータ9の回転軸に接続されてこのパルスモータ9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とはプリンタ本体5の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12と、から構成されている。
そして、パルスモータ9を駆動することで、キャリッジ4がガイド軸8に沿って主走査方向に往復移動するように構成されている。
【0024】
また、紙送り機構66は、紙送りモータMやこの紙送りモータMによって回転駆動される紙送りローラ(いずれ不図示)等から構成され、記録紙を記録(印字・印刷)動作に連動させてプラテン13の上に順次送り出す。
【0025】
キャッピング機構14は、キャップ部材15、吸引ポンプ16等から構成されている。キャップ部材15は、ゴム等の弾性材をトレー形状に成型した部材によって構成してあり、ホームポジションに配設されている。このホームポジションは、キャリッジ4の移動範囲内であって記録領域よりも外側の端部領域に設定され、電源オフ時や長時間に亘って記録(液体噴射処理)が行われなかった場合にキャリッジ4が位置する場所である。
【0026】
ホームポジションにキャリッジ4が位置する場合には、キャップ部材15が記録ヘッド3のノズル基板43(図3参照)の表面(即ち、ノズル開口面43a)に当接して封止する。この封止状態で吸引ポンプ16を作動させると、キャップ部材15の内部(封止空部)が減圧されて、記録ヘッド3内のインクLがノズル47から強制的に排出される。
【0027】
また、キャップ部材15は、記録ヘッド3による記録動作前や記録動作中等において、増粘したインクLや気泡等を排出するためにインク滴Dを吐出するフラッシング処理においてインク滴Dを受ける。
【0028】
図2は記録ヘッド3の構成を説明する断面図、図3は記録ヘッド3の要部断面図である。図4は、記録ヘッド3、インクカートリッジ6及びインク滴センサ7の構成を説明する模式図である。
本実施形態における記録ヘッド3は、導入針ユニット17、ヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を主な構成要素としている。
導入針ユニット17の上面にはフィルタ21を介在させた状態で2本のインク導入針22が横並びで取り付けられている。これらのインク導入針22には、サブタンク2がそれぞれ装着される。また、導入針ユニット17の内部には、各インク導入針22に対応したインク導入路23が形成されている。
このインク導入路23の上端はフィルタ21を介してインク導入針22に連通し、下端はパッキン24を介してヘッドケース18内部に形成されたケース流路25と連通する。
なお、本実施形態は、2種類のインクを使用する構成であるため、サブタンク2を2つ配設しているが、本発明は3種類以上のインクを使用する構成にも当然に適用されるものである。
【0029】
サブタンク2は、ポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型されている。このサブタンク2には、インク室27となる凹部が形成され、この凹部の開口面に透明な弾性シート26を貼設してインク室27が区画されている。
また、サブタンク2の下部にはインク導入針22が挿入される針接続部28が下方に向けて突設されている。サブタンク2におけるインク室27は、底の浅いすり鉢形状をしており、その側面における上下中央よりも少し下の位置には、針接続部28との間を連通する接続流路29の上流側開口が臨んでおり、この上流側開口にはインクLを濾過するタンク部フィルタ30が取り付けられている。
針接続部28の内部空間にはインク導入針22が液密に嵌入されるシール部材31が嵌め込まれている。このサブタンク2には、図4に示すように、インク室27に連通する連通溝部32′を有する延出部32が形成されており、この延出部32の上面にはインク流入口33が突設されている。
【0030】
インク流入口33には、インクカートリッジ6に貯留されたインクLを供給するインク供給チューブ34が接続される。従って、インク供給チューブ34を通ってきたインクLは、このインク流入口33から連通溝部32′を通ってインク室27に流入する。
上記の弾性シート26は、インク室27を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形可能である。そして、この弾性シート26の変形によるダンパー機能によって、インクLの圧力変動が吸収される。すなわち、弾性シート26の作用によってサブタンク2が圧力ダンパとして機能する。従って、インクLは、サブタンク2内で圧力変動が吸収された状態で記録ヘッド3側に供給される。
【0031】
ヘッドケース18は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、下端面に流路ユニット19を接合し、内部に形成された収容空部37内にアクチュエータユニット20を収容し、流路ユニット19側とは反対側の上端面にパッキン24を介在した状態で導入針ユニット17を取り付けるようになっている。
このヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。このケース流路25の上端は、パッキン24を介して導入針ユニット17のインク導入路23と連通するようになっている。
また、ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通インク室44に連通するようになっている。したがって、インク導入針22から導入されたインクLは、インク導入路23及びケース流路25を通じて共通インク室44側に供給される。
【0032】
ヘッドケース18の収容空部37内に収容されるアクチュエータユニット20は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子38と、この圧電振動子38が接合される固定板39と、プリンタ本体側からの駆動信号を圧電振動子38に供給する配線部材としてのフレキシブルケーブル40とから構成される。各圧電振動子38は、固定端部側が固定板39上に接合され、自由端部側が固定板39の先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子38は、所謂片持ち梁の状態で固定板39上に取り付けられている。
また、各圧電振動子38を支持する固定板39は、例えば厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、アクチュエータユニット20は、固定板39の背面を、収容空部37を区画するケース内壁面に接着することで収容空部37内に収納・固定されている。
【0033】
流路ユニット19は、振動板(封止板)41、流路基板42及びノズル基板43からなる流路ユニット構成部材を積層した状態で接着剤で接合して一体化することにより作製されており、共通インク室44からインク供給口45及び圧力室46を通りノズル47に至るまでの一連のインク流路(液体流路)を形成する部材である。圧力室46は、ノズル47の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成されている。また、共通インク室44は、ケース流路25と連通し、インク導入針22側からのインクLが導入される室である。
そして、この共通インク室44に導入されたインクLは、インク供給口45を通じて各圧力室46に分配供給される。
【0034】
流路ユニット19の底部に配置されるノズル基板43は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル47を列状に開設した金属製の薄い板材である。本実施形態のノズル基板43は、ステンレス鋼の板材によって作製され、本実施形態においてはノズル47の列(即ち、ノズル列)が、各サブタンク2に対応して合計22列並設されている。そして、1つのノズル列は、例えば、180個のノズル47によって構成される。
ノズル基板43と振動板41との間に配置される流路基板42は、インク流路となる流路部、具体的には、共通インク室44、インク供給口45及び圧力室46となる空部が区画形成された板状の部材である。
【0035】
本実施形態において、流路基板42は、結晶性を有する基材であるシリコンウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。振動板41は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板41の圧力室46に対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子38の先端面が接合される島部48が形成されており、この部分はダイヤフラム部として機能する。即ち、この振動板41は、圧電振動子38の作動に応じて島部48の周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されている。また、振動板41は、流路基板42の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部49としても機能する。このコンプライアンス部49に相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板を除去して弾性フィルムだけにしている。
【0036】
そして、上記の記録ヘッド3において、フレキシブルケーブル40を通じて駆動信号が圧電振動子38に供給されると、この圧電振動子38が素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部48が圧力室46に近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室46の容積が変化し、圧力室46内のインクLに圧力変動が生じる。この圧力変動によってノズル47からインク滴Dが吐出される。
【0037】
インクカートリッジ6は、図4に示すように、中空箱形状に形成されたケース部材51と、可塑性材料によって形成されたインクパック52とから構成されており、ケース部材51内の収容室にインクパック52を収容している。
このインクカートリッジ6は、インク供給チューブ34の一端部と連通しており、記録ヘッド3のノズル開口面43aとの水頭差によってインクパック52内のインクLを記録ヘッド3側に供給するように構成されている。具体的には、インクカートリッジ6と記録ヘッド3との重量方向の相対的な位置関係がノズル47のメニスカスに対して極く僅かに負圧がかかるような状態に設定されている。
そして、圧電振動子38を駆動することによる圧力変化によって、圧力室46へのインクLの供給と、この圧力室46内のインクLの吐出を行う。
【0038】
インク滴センサ7は、図4に示すように、ホームポジションに配置された液滴受部としてのキャップ部材15と、このキャップ部材15の内部に設けられた検査領域74と、この検査領域74と記録ヘッド3のノズル基板43との間に電圧を印加する電圧印加回路75と、検査領域74の電圧を検出する電圧検出回路76とから構成される。
【0039】
キャップ部材15は、上面が開放されたトレイ状の部材であり、エラストマー等の弾性部材により作製されている。このキャップ部材15の内部にはインク吸収体77が配設されている。インク吸収体77は、インクLの保持力が高いものであり、例えば、フェルトなどの不織布によって作製されている。
そして、インク吸収体77の上面には、メッシュ状の電極部材78が配設されている。この電極部材78の表面が検査領域74に相当する。電極部材78は、ステンレス鋼等の金属からなる格子状のメッシュとして形成されている。このため、電極部材78上に着弾したインク滴Dは、格子状の電極部材78の隙間を通って下側に配置された吸収体77に吸収・保持されるようになっている。
【0040】
電圧印加回路75は、電極部材78が正極となり、記録ヘッド3のノズル基板43が負極となるように直流電源(例えば400V)と抵抗素子(例えば1MΩ)とを介して両者を電気的に接続している。
電圧検出回路76は、電極部材78の電圧信号を増幅して出力する増幅回路81と、この増幅回路81から出力された信号をA/D変換してプリンタコントローラ55側へ出力するA/D変換回路82とを備えている。増幅回路81は、所定の増幅率で電極部材78の電圧信号を増幅して出力するものである。A/D変換回路82は、増幅回路81から出力されたアナログ信号をディジタル信号に変換して、検出信号としてプリンタコントローラ55側に出力するようになっている。
【0041】
図5は、キャップ部材15に連結された吸引ポンプ16の構成を示す図である。
キャップ部材15の底壁には、キャップ部材15内に溜まったインクLを排出する排出部126が下方に向かって突設されており、その内部には排出通路126aが形成されている。
排出部126には、可撓性材料等からなる排出チューブ127の一端部が接続されており、排出チューブ127の他端部は、廃インクタンク128内に挿入されている。
なお、廃インクタンク128内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材129が収容されており、この廃インク吸収材129により回収されたインクLが吸収されるようになっている。なお、この廃インクタンク128は、プラテン13の下方に配設されている。
【0042】
キャップ部材15と廃インクタンク128との間には、チューブポンプ式吸引ポンプ16が配設されている。吸引ポンプ16は、円筒状のケース130を有しており、このケース130内には平面視で円形状をなすポンプホイル132がケース130の軸心に設けられたホイル軸131を中心に回動可能に収容されている。そして、このケース130内に、排出チューブ127の中間部127aがケース130の内周壁130aに沿うようにして収容されている。
【0043】
ポンプホイル132には、一対の外側に膨らむ円弧状をなすローラ案内溝133,134がホイル軸131を挟んで対向するように形成されている。各ローラ案内溝133,134は、一端がポンプホイル132の外周側に位置しており、他端がポンプホイル132の内周側に位置している。すなわち、両ローラ案内溝133,134は、それらの一端から他端に向かうほど、徐々にポンプホイル132の外周部から遠ざかるように延びている。
両ローラ案内溝133,134内には、押圧手段としての一対のローラ135,136が、それぞれ回動軸135a,136aを介して挿通支持されている。なお、両回動軸135a,136aは、それぞれ両ローラ案内溝133,134内を摺動自在になっている。
【0044】
そして、ポンプホイル132を、正方向(矢印方向)に回動させると、両ローラ135,136が両ローラ案内溝133,134の一端側(ポンプホイル132の外周側)に移動し、排出チューブ127の中間部127aを上流側から下流側へ順次押し潰しながら(押圧しながら)回動するようになっている。この回動により、チューブポンプ123より上流側の排出チューブ127の内部が減圧されるようになっている。
これにより、キャップ部材15内に溜まったインクLは、ポンプホイル132の正方向の回動動作により、徐々に廃インクタンク128方向へ排出されるようになっている。
【0045】
また、ポンプホイル132を逆方向(矢印方向とは反対方向)に回動させると、両ローラ135,136が両ローラ案内溝133,134の他端側(ポンプホイル132の内周側)に移動するようになっている。この移動により、両ローラ135,136がそれぞれ排出チューブ127の中間部127aに軽く接した状態となり、排出チューブ127の内部の減圧状態が解消されるようになっている。
なお、ポンプホイル132は、紙送り機構66の紙送りモータMによって回転駆動されるようになっている。
【0046】
図6はプリンタ1の電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるプリンタ1は、プリンタコントローラ55と、プリントエンジン56と、インク滴センサ7とで概略構成されている。
プリンタコントローラ55は、ホストコンピュータ等の外部装置からの印刷データ等が入力される外部インタフェース(外部I/F)57と、各種データ等を記憶するRAM58と、各種制御のための制御プログラム等を記憶したROM59と、ROM59に記憶されている制御プログラムに従って各部の統括的な制御を行う制御部60と、クロック信号を発生する発振回路61と、記録ヘッド3へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路62と、印刷データをドット毎に展開することで得られた吐出データや駆動信号等を記録ヘッド3に出力するための内部インタフェース(内部I/F)63とを備えている。
【0047】
プリントエンジン56は、記録ヘッド3と、キャリッジ移動機構65と、紙送り機構66とから構成されている。
記録ヘッド3は、吐出データがセットされるシフトレジスタ67と、シフトレジスタ67にセットされた吐出データをラッチするラッチ回路68と、ラッチ回路68からの吐出データを翻訳してパルス選択データを生成するデコーダ69と、電圧増幅器として機能するレベルシフタ70と、圧電振動子38に対する駆動信号の供給を制御するスイッチ回路71と、圧電振動子38とを備えている。
制御部60は、外部装置から送信された印刷データをドットパターンに対応した吐出データに展開して記録ヘッド3に送信する。そして、記録ヘッド3では、受信した吐出データに基づき、インク滴Dの吐出が行われるようになっている。
【0048】
また、制御部60は、ROM59に記憶されたフラッシング条件に基づいてフラッシング処理を実施するフラッシング処理部としても機能する。フラッシング処理は、記録ヘッド3の各ノズル47内から増粘したインクLや気泡を排出することでノズル詰まりを防止する処理であって、各ノズル47からキャップ部材15に向けて所定回数のインク滴Dの吐出を行う。
フラッシング処理としては、プリンタ1に電源が投入されて記録ヘッド3による記録動作を開始する前に行われる、いわゆる印字開始前フラッシングがある。印字開始前フラッシングにおいては、例えば、全てのノズル47から3000〜5000回のインク滴Dの吐出を行うように設定されている。なお、フラッシング条件は、ROM59に記憶される。
【0049】
また、印字開始前フラッシングの他には、記録ヘッド3による記録動作中に行われる、いわゆる定期フラッシングがある。更に、記録ヘッド3に向けて記録紙を供給する際に行われる給紙時フラッシング及び記録紙を排出した直後に行われる排紙時フラッシングがある。
定期フラッシング、給紙時フラッシング及び排紙時フラッシングにおいては、吐出回数は、例えば、数十回〜数百回程度に設定されている。
【0050】
さらに、制御部60は、キャップ部材15に所定量のインクLが溜まると吸引ポンプ16を駆動して、このインクLを廃インクタンク128に向けて排出する、いわゆる空吸引処理を実施する空吸引処理部(メンテナンス処理部)としても機能する。
空吸引処理とは、印字開始前フラッシングや定期フラッシング等を複数回行うとキャップ部材15にインクLが溜まるので、このインクLがキャップ部材15から溢れないように吸引ポンプ16でインクLを吸引・排出する処理のことをいう。
【0051】
駆動信号発生回路62は、記録ヘッド3の圧電振動子38に供給する吐出パルスの電圧値の変化量を示すデータと吐出パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号とが入力され、これらのデータ及びタイミング信号に基づいて、駆動信号(吐出パルス)を発生する。
【0052】
上記吐出パルスDPを圧電振動子38に印加すると、次のようにしてインク滴Dが吐出される。即ち、吐出パルスが供給されると、まず、圧電振動子38が収縮して圧力室46が膨張する。この圧力室46の膨張状態が極く短い間維持された後、圧電振動子38が急激に伸長する。これに伴って、圧力室46の容積が基準容積以下に収縮し、ノズル47に露出したメニスカスが外側に向けて急激に加圧される。これにより、所定の液量のインク滴Dがノズル47から吐出される。その後、インク滴Dの吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるべく、圧力室46が基準容積に復帰する。
【0053】
以上の構成を備えるプリンタ1は、フラッシング処理を行ってキャップ部材15にインクLが溜まると、このインクLが溢れる前に、吸引ポンプ16を駆動してインクLを排出(空吸引処理)するように制御される。
上述したように、吸引ポンプ16は、紙送りモータMにより駆動されるため、給紙・排紙を含む記録(印字・印刷)処理を停止して行う必要がある。このため、キャップ部材15にできるだけ多くのインクLをためて、空吸引処理の頻度を抑えることが要求される。
以下、フラッシング等のメンテナンス処理の際に、空吸引処理の頻度を抑える方法について説明する。
【0054】
図7は、インク滴センサ7を用いたメンテナンス処理を説明するフローチャートである。
図8は、静電誘導によって誘導電圧が生じる原理を説明する模式図であり、(a)はインク滴Dが吐出された直後の状態を示す図、(b)はインク滴Dがキャップ部材15の検査領域74に着弾した状態を示す図、(c)はキャップ部材15にインクLが溜まった際にインク滴Dが着弾した状態を示す図である。
図9は、インク滴センサ7から出力される検出信号(インク1滴分)の波形例を示す図である。
【0055】
まず、外部装置から印刷データが送信されると、制御部60は、ドットパターンに対応した吐出データに展開して記録ヘッド3に送信する。そして、記録ヘッド3では、受信した吐出データに基づき、記録(印字・印刷)処理、すなわち記録紙に対するインク滴Dの吐出を実行する(ステップS1)。
そして、記録処理中に、予め設定されている時間(定期フラッシング時間間隔)が経過すると(ステップS2)、記録処理を中断して定期フラッシング処理を開始する。
【0056】
定期フラッシング処理では、まず、キャリッジ4を駆動して、記録ヘッド3をホームポジションに移動させて、キャップ部材15の上方に位置づける。
次いで、不図示の昇降機構によってキャップ部材15を上昇させて、記録ヘッド3のノズル開口面43aと検査領域74(電極部材78)とを非接触状態で近接対向させる(ステップS3)。
そして、電圧印加回路75によって、ノズル基板43と電極部材78との間に電圧が印加される(ステップS4)。
【0057】
次いで、ノズル基板43と電極部材78との間に電圧が印加した状態で、圧電振動子38を駆動させて、ノズル47のうちの任意の一つノズル(例えば、#A1)からインク滴Dを吐出する(ステップS5)。
【0058】
この際、ノズル基板43は負極となっているため、図8(a)に示すように、ノズル基板43の一部の負電荷がインク滴Dに移動し、吐出されたインク滴Dは負に帯電する。そして、このインク滴Dがキャップ部材15の検査領域74に対して近づくに連れ、静電誘導によって検査領域74(電極部材78の表面)では正電荷が増加する。これにより、ノズル基板43と電極部材78との間の電圧は、静電誘導によって生じる誘導電圧により、インク滴Dを吐出しない状態における当初の電圧値よりも高くなる。
その後、図8(b)に示すように、インク滴Dが電極部材78に着弾すると、インク滴Dの負電荷により電極部材78の正電荷が中和される。このため、ノズル基板43と電極部材78との間の電圧は当初の電圧値を下回る。
そして、その後に、ノズル基板43と電極部材78との間の電圧は当初の電圧値に戻る。
したがって、図9に示すように、インク滴センサ7から出力される検出波形は、一旦電圧が上昇した後に、当初の電圧値を下回るまで下降し、その後当初の電圧値に戻る波形となる。
このようにして、インク滴センサ7により、ノズル47(例えば、#A1)からインク滴Dを吐出した際の電圧変化が検出される(ステップS6)。
【0059】
ところで、定期フラッシング等が既に複数回実施済みの場合には、図8(c)に示すように、キャップ部材15にはインクLが溜まっている。このような場合には、インク滴Dが記録ヘッド3から離間してインク滴センサ7(検査領域74)に着弾するまでの時間(着弾時間)が、インクLが溜まっていない場合に比べて短くなる。
着弾時間が短くなると、インク滴センサ7から出力される検出波形も変化する。キャップ部材15に溜まっているインクLの液面が帯電して検査領域74となるからである。
インク滴Dの着弾時間は、検出波形のうち電圧が上昇し始めて(電圧変化が発生して)ピークに達するまでの時間に相当する。このため、図9に示すように、インクLが溜まっていないとき(初期段階)の検出波形Z0の時間ΔT0に比べて、インクLが溜まっているとき検出波形Zの時間ΔTの方が短くなる。
そして、液面高さと着弾時間とは比例するので、インク滴センサ7から出力される検出波形Zの着弾時間ΔTから、キャップ部材15に溜まったインクLの液面高さH(図8(c)参照)が求められる(ステップS7)。
【0060】
また、キャップ部材15に、収容限度の例えば95%程度のインクLが溜まった際の液面高さとそのときに得られる着弾時間ΔTxを予め求めておき、この着弾時間ΔTxを閾値に設定しておく。そして、この閾値(ΔTx)と着弾時間ΔTとを比較することで、キャップ部材15に溜まったインクLを排出(空吸引処理)すべきか否かを判断する(ステップS8)。
【0061】
次いで、キャップ部材15に溜まったインクLの液面高さHが、収容限度の例えば95%程度のインクLが溜まった際の液面高さよりも低い(すなわち、着弾時間ΔTがΔTxよりも長い)場合には、定期フラッシング処理を実行する(ステップS10)。
一方、キャップ部材15に溜まったインクLの液面高さHが所定高さ以上(すなわち、着弾時間ΔTがΔTx以内)場合には、一旦、空吸引処理(ステップS9)を実行して、キャップ部材15に溜まったインクLの全て排出した後に、定期フラッシング処理を行う(ステップS10)。
【0062】
そして、定期フラッシング処理が完了すると、再び記録処理に戻る。記録処理では、記録処理が完了するか否か(ステップS11)、定期フラッシング処理を行うか否か(ステップS2)の判断を繰り返す。
【0063】
以上のように、本実施形態のメンテナンス方法によれば、インク滴センサ7から出力される検出波形Zの着弾時間ΔTから、キャップ部材15に溜まったインクLの液面高さHが求められるので、キャップ部材15インク収容量を十分に活用することが可能となる。
従来は、キャップ部材15に溜まったインクLの液量を吐出回数から推定していたので、最悪の場合であってもインクLがキャップ部材15から溢れてしまわないように、キャップ部材15の収容限度の例えば80%程度の量のインクLが溜まったと推定される場合に空吸引処理を実施していた(つまり、安全率を高く設定していた)。
これに対して、本実施形態のメンテナンス方法では、キャップ部材15のインク収容量を十分に活用できるので、空吸引処理の頻度を従来に比べて少なくすることができる。
具体的には、従来は、定期フラッシングを例えば20回行う毎に空吸引処理を行っていたが、本実施形態のメンテナンス方法では、定期フラッシングを例えば30回行う毎に空吸引処理を行えば足りるようになる。
このように、空吸引処理の頻度を抑えることで、記録(印字・印刷)処理を中断させる頻度及び時間が少なくなり、記録処理の効率化が図られる。また、空吸引処理の頻度を抑えられるので、吸引ポンプ16の耐久性向上も図られる。
【0064】
上記実施形態では、定期フラッシングを行う毎に、インク滴センサ7から出力される検出波形に基づいてキャップ部材15に溜まったインクLの液面高さHを求める場合について説明した。
しかし、1回の定期フラッシング処理でキャップ部材15に溜まるインクLの量は少量であるため、以下に説明するように、液面高さHを求める頻度を必要最小限に抑えるようにしてもよい。
【0065】
図10は、インク滴センサ7を用いた空吸引処理の他の例を説明するフローチャートである。
なお、上述した処理と同一の処理については、その説明を簡略又は省略する。また、以下の説明では、キャップ部材15が空の状態から処理を開始する場合について説明する。
【0066】
まず、定期フラッシングの実施回数をカウントするカウンタNを初期化(N=0)する。
また、例えば、26回目のフラッシング処理の際(フラッシング処理を25回実施した後)に、インク滴センサ7を用いてキャップ部材15に溜まったインクLの液面高さHを求めるように、実行済フラッシング回数K=25と設定する。
さらに、後述する残フラッシング処理回数として、X=0を設定する(ステップS101)。
これらの値は、RAM58に記憶される。そして、記録処理(ステップS102)を行い、定期フラッシング時間間隔を経過したか否かを判断し(ステップS103)、経過した場合には記録処理を中断して定期フラッシング工程を開始する。
【0067】
定期フラッシング工程では、カウンタNが25(K)であるか否かを判断する(ステップS104)。
カウンタNが25未満の場合には、更に、N=25+0(N=K+X)であるか否かを判断する(ステップS105)。
いずれにも該当しない場合には、そのままフラッシング処理(ステップS106)を実行する。そして、カウンタNを1つ加算(N=0+1)する(ステップS107)。
【0068】
そして、定期フラッシング処理が完了すると、再び記録処理に戻る。記録処理では、記録処理が完了するか否か(ステップS108)、定期フラッシング処理を行うか否か(ステップS103)を繰り返し判断する。
2〜25回目(N=0〜24)のラッシング工程の場合には、上記のように処理が実行される。
【0069】
そして、26回目のフラッシング工程と判断(N=25)されると(ステップS104)、インク滴センサ7を用いてキャップ部材15に溜まったインクLの液面高さHを求める処理(ステップS109〜S113)が実施される。この工程は、上述したステップS3〜S7と同一の工程である。
インクLの液面高さHを求めたら、同時に、キャップ部材15のインク収容余量(すわなち、キャップ部材15にあとどれだけの量のインクLを溜めることができるか)を求める。
【0070】
次いで、求めたインク収容余量に対して、あと何回のフラッシング処理を行うことができるか(言い換えれば、あと何回のフラッシング処理を行うと、キャップ部材15がインクLで(溢れずに)一杯となるか)を判断する。そして、この回数(例えば5回)を残フラッシング処理回数Xに設定(X=5)する(ステップS114)。
【0071】
そして、26回目の定期フラッシング処理を実行(ステップS106)し、カウンタNを加算する(ステップS107)。
26〜30回目のラッシング工程は、1〜24回目のラッシング処理と同様に行われる。
【0072】
そして、31回目のフラッシング工程と判断(N=25+5)されると(ステップS105)、空吸引処理(ステップS115)が開始される。これにより、キャップ部材15からインクLが、溢れる前(31回目のフラッシング処理の前)に排出される。
そして、カウンタN及び残フラッシング処理回数Xは初期化(ステップS116)され、定期フラッシング処理(ステップS106)、カウンタ加算(ステップS107)が行われた後に、記録処理に戻る。
【0073】
以上のように、定期フラッシング処理を複数回行った後にインク滴センサ7を用いた液面高さの検出を行ってその後の液面高さの増加を予想することで、インク滴センサ7を用いた検出頻度を必要最小限に抑えることができる。
従来のように、最初のフラッシング処理のときからその後の液面高さの増加を予想していた場合に比べて、予想と現実との差が少なくなるので、キャップ部材15により多くのインクLを溜めて空吸引処理の実行頻度を抑えることができる。
【0074】
なお、定期フラッシング処理の回数を基準にして、インク滴センサ7を用いた液面高さの検出の実行時期を設定し、空吸引処理の実行時期を最適化(頻度を減らす)してたが、インク滴Dの吐出回数(液体量)を基準にしてもよい。
すなわち、キャップ部材15に対するインク滴Dの吐出回数(液体量)を基準にして、その回数(量)が予め設定された回数(量)となった際に、インク滴センサ7を用いた液面高さの検出を行うようする。更に、キャップ部材15のインク収容余量を求めた後に、残りのフラッシング処理の回数を判断するのではなく、残りの吐出回数や残りの液体量を判断するようにする。
これにより、更にキャップ部材15に更に多くのインクLを溜めることが可能となり、空吸引処理の頻度を減らすことができる。
【0075】
また、キャップ部材15が空の状態から処理を開始する場合について説明したが、既に複数回のフラッシングが実施されてキャップ部材15にインクLが溜まっている状態から処理を開始する場合には、最初のフラッシング処理の際にインク滴センサ7を用いた液面高さの検出を行うようにするのが好ましい。あるいは、既に実施済みのフラッシング回数をRAM58に記憶しておき、その数をカウンタNに入力するようにしてもよい。
【0076】
なお、上記実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明はこれに限定されるものではない。特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0077】
例えば、上記実施形態においては、定期フラッシング処理を行う際に、インク滴センサ7を用いてキャップ部材15に溜まったインクLの液面高さを検出する場合について説明したが、これに限らない。
記録(印字・印刷)開始前に行われる印字開始前フラッシング、給紙時や排紙時に行われる給紙時フラッシング処理、排紙時フラッシング処理の際に、インク滴センサ7を用いた液面高さ検出を行ってもよい。
また、定期フラッシング処理の実施回数をカウントする場合について説明したが、不定期に行われるフラッシング処理(給紙時フラッシング処理、排紙時フラッシング処理)の回数もカウントするようにしてもよい。
【0078】
また、インク滴センサ7を用いた液面高さ検出は、フラッシング処理の実施回数や、インク滴の吐出回数(液体量)を基準にする場合に限らない。最悪でもキャップ部材15に溜まったインクLが溢れる可能性のある時期よりも前に、最低限一回は液面高さを検出すればよい。例えば、所定時間経過毎に、インク滴センサ7を用いた液面高さ検出をおこなってもよい。これにより、キャップ部材15のインク収容余量が正確に判断でき、キャップ部材15の空吸引処理を最適化(頻度を抑える)することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、キャップ部材15に収容限度の95%程度のインクLが溜まったときの液面高さを基準(閾値)として空吸引処理の判断を行う場合について説明したが、この基準(閾値)をフラッシング処理の種類に応じて変更してもよい。
例えば、排出時フラッシング処理の場合には、記録紙を排出した直後なので(印字・印刷処理中でない)、液面高さを検出してそのまま空吸引処理を行うことが可能である。したがって、液面高さを基準(閾値)を他のフラッシング処理の場合よりも、高く設定(例えば97%)してもよい。
また、例えば、プリンタ1の設置状態に応じて、液面高さを基準(閾値)を設定するよいうにしてもよい。傾斜して設置されている場合には、液面高さを基準(閾値)を、例えば90%に設定する。
【0080】
また、上記実施形態では、本発明における液滴受部として、キャッピング機構14のキャップ部材15を用いる構成を例示したが、これには限らず、吐出検査専用に独立した液滴受部を設けるようにしても良い。
また、上記実施形態では、電極部材78が正極、記録ヘッド3のノズル基板43が負極となるように両者を電気的に接続した例を示したが、両者の正負を逆転させる構成とすることも可能である。
【0081】
また、上記実施形態では、吸引ポンプ16(ポンプホイル132)が紙送り機構66の紙送りモータMによって回転駆動される場合について説明したが、これに限らず、吸引ポンプ16を駆動するモータと紙送りモータMとが別個の場合であってもよい。
また、吸引ポンプ16は、チューブポンプ式の場合に限らず、他の方式のポンプを用いてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、本発明における圧力発生源として所謂縦振動モードの圧電振動子38を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、電界方向(圧電体と内部電極との積層方向)に振動可能な圧電振動子であってもよい。また、ノズル列毎にユニット化されているものに限らず、所謂撓み振動モードの圧電振動子のように、圧力室46毎に設けられるものであってもよい。さらに、圧電振動子に限らず、発熱素子等の他の圧力発生素子を用いることもできる。
【0083】
上記実施形態では、液体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(記録装置)に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体(機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に具体化することもできる。
例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。
そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置において、噴射される液体(液状体、流状体)が、乾燥等により増粘する可能性があれば、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】プリンタの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する断面図である。
【図3】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図4】記録ヘッド、インクカートリッジ、インク滴センサの構成を説明する模式図である。
【図5】キャップ部材に連結された吸引ポンプの構成を示す図である。
【図6】プリンタの電気的構成を説明するブロック図である。
【図7】インク滴センサを用いたメンテナンス処理を説明するフローチャートである。
【図8】静電誘導によって誘導電圧が生じる原理を説明する模式図である。
【図9】インク滴センサから出力される検出信号の波形例を示す図である。
【図10】インク滴センサを用いたメンテナンス処理の他の例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
1…プリンタ(液体噴射装置)、 3…記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 7…インク滴センサ(液体検出部)、 14…キャッピング機構、 15…キャップ部材(液体受部)、 16…吸引ポンプ、 43…ノズル基板、 43a…ノズル開口面、 47…ノズル、 55…プリンタコントローラ、 60…制御部(フラッシング処理部、メンテンナンス処理部)、 L…インク(液体)、 D…インク滴(液体)、 Z…検出波形(電圧変化)、 H…液面高さ、 ΔT…着弾時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドのノズルから液体受部に向けて液体を噴射し、前記液体受部に所定量の液体が溜まるとこの液体を排出する液体噴射装置のメンテナンス方法において、
液体噴射ヘッドのノズル開口面を前記液体受部に対して非接触状態で対向配置すると共に前記ノズル開口面と前記液体受部との間に電界を付与する第一工程と、
前記ノズルから前記液体受部に向けて液体を噴射する第二工程と、
前記液体受部に向けて液体を噴射したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する第三工程と、
前記電圧変化の検出結果に基づいて前記液体受部に溜まった液体の液面高さを求める第四工程と、
前記液面高さが所定高さとなると前記液体受部に溜まった液体を排出する第五工程と、
を有することを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記液面高さは、前記電圧変化のうち、前記ノズルから噴射された液体が前記液体受部に着弾する際の電圧変化に基づいて求められることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記液面高さは、電圧変化の発生からピークに達するまでの時間に基づいて求められることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記第一工程から前記第四工程は、前記液体受部に向けて噴射された液体量が予め設定された量となった後に行われることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項5】
第四工程と第五工程の間に、前記液体噴射ヘッドから前記液体受部に向けて液体を連続噴射するフラッシング処理を行う第六工程を有し、
前記第六工程において、前記所定高さとなるまでに噴射可能な液体量及び/又は噴射回数を求めることを特徴とすることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記第六工程は、前記フラッシング処理を定期及び/又は不定期に複数回行うことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記第六工程は、前記所定高さとなるまでに行うことが可能なフラッシング処理回数を求めることを特徴とする請求項6に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項8】
前記第六工程は、前記フラッシング処理が排出時フラッシング処理の場合には、前記所定高さを他のフラッシング処理の場合よりも高く設定することを特徴とする請求項5から請求項7のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項9】
液体噴射ヘッドのノズルから液体受部に向けて液体を噴射し、前記液体受部に所定量の液体が溜まるとこの液体を排出する液体噴射装置において、
液体噴射ヘッドのノズル開口面と前記液体受部とが非接触状態で対向配置されると前記ノズル開口面と前記液体受部との間に電界を付与する液体検出部と、
前記液体噴射ヘッドから前記液体受部に向けて液体を連続噴射するフラッシング処理部と、
前記液体受部に溜まった液体を排出する液体排出部と、
前記電圧変化の検出結果に基づいて前記液体受部に溜まった液体の液面高さを求め、前記液面高さが所定高さになると前記液体排出部を駆動させるメンテナンス処理部と、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項10】
前記メンテナンス処理部は、前記電圧変化のうち、前記ノズルから噴射された液体が前記液体受部に着弾する際の電圧変化に基づいて、前記液面高さを求めることを特徴とする請求項9に記載の液体噴射装置。
【請求項11】
前記液面高さは、電圧変化の発生からピークに達するまでの時間に基づいて求められることを特徴とする請求項10に記載の液体噴射装置。
【請求項12】
前記メンテナンス処理部は、前記所定高さとなるまでに噴射可能な液体量及び/又は噴射回数を求めることを特徴とすることを特徴とする請求項9から請求項11のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項13】
前記フラッシング処理部は、定期及び/又は不定期に複数回に亘って、前記液体受部に向けて液体を連続噴射することを特徴とする請求項9から請求項12のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項14】
前記メンテナンス処理部は、前記所定高さとなるまでに前記フラッシング処理部が行うことが可能なフラッシング処理回数を求め、前記フラッシング処理回数に基づいて前記液体排出部を駆動させることを特徴とする請求項13に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−194952(P2008−194952A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32558(P2007−32558)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】