説明

液体噴射装置及び液体噴射方法

【課題】 顔料を含む液体のみを用いても、キャップ内の液体吸収材の目詰まりを抑制することができる液体噴射装置及び液体噴射方法を提供する。
【解決手段】 液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタは、顔料を含む複数種類のインクを圧電素子の駆動に基づいてノズルから吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドのノズル形成面を封止するキャップと、該キャップ内に配置されたインク吸収材とを備えている。さらにインクジェット式プリンタは、キャップ内のインクを吸引可能な吸引ポンプと、記録ヘッドからインク吸収材に向けて、各インクのうち相対的に顔料を分散させる能力が高いシアンインクが分散用液体として吐出されるように圧電素子を駆動するCPUとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンタ等の液体噴射装置及び液体噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置の一種であるインクジェット式記録装置(以下、「プリンタ」と言う)は、キャリッジに搭載された記録ヘッド(液体噴射ヘッド)と、該記録ヘッドのノズル形成面を封止するためのキャップと、該キャップ内に配置されたインク吸収材(液体吸収材)と、キャップと連通する吸引ポンプ(吸引手段)とを備えている。そして、プリンタは、記録ヘッドから、記録媒体にインク(液体)を噴射することで印刷を行っている。
【0003】
この記録ヘッドは、ノズル(ノズル形成面)及び圧電素子(吐出手段)を備えており、圧電素子の駆動によりノズル内にインクを充填し、ノズルの開口から該インクを噴射している。したがって、ノズルの開口からは、ノズル内のインク溶媒が蒸発しやすくなっており、インクの粘度が上昇してノズルが目詰まりしやすい。また、ノズル開口からインク内に大気が混入することにより、インク内に気泡が発生してドット抜け等の印刷不良が生じることもある。
【0004】
このような不具合を解消するために、プリンタは、いわゆるフラッシングやクリーニングを適宜行うことがある。フラッシングとは、印刷時(本吐出時)以外にノズルの目詰まりを防止する目的で、印刷とは関係のないフラッシング駆動信号を出力して圧電素子を駆動し、インクをキャップ内等に空吐出することである。また、クリーニングとは、キャップにてノズル形成面を封止した状態で、吸引ポンプを駆動して吸引することにより、ノズルから増粘したインクや気泡などを、キャップを介して排出することである。
【0005】
ところで、上記のようなプリンタに、顔料インクを用いた場合には、フラッシングやクリーニングを行った後に、キャップが開放された状態で長時間放置されると、顔料インクがキャップのインク吸収材内で増粘して固着堆積してしまい、上記のように吸引ポンプを駆動させても、キャップ内の顔料インクを排出することが困難であった。このため、従来のプリンタでは、顔料インクを吐出するキャップ内に染料インクを吐出することで、インク吸収材内で固着堆積した顔料インクを、染料インクによって溶解(分散)して吸引排出している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−154681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のプリンタに顔料インクのみを用いた場合、キャップのインク吸収材内で固着堆積した顔料インクを溶解(分散)させることはできない。このため、インク吸収材が目詰まりしてしまい、吸引ポンプを駆動させても、キャップ内の顔料インクを排出することが困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、顔料を含む液体のみを用いても、キャップ内の液体吸収材の目詰まりを抑制することができる液体噴射装置及び液体噴射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、顔料を含む複数種類の液体を吐出手段の駆動に基づいてノズルから吐出する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止するキャップと、該キャップ内に配置された液体吸収材と、前記キャップ内の液体を吸引可能な吸引手段と、前記液体噴射ヘッドから液体吸収材に向けて、前記各液体のうち相対的に顔料を分散させる能力が高い液体が分散用液体として吐出されるように、該分散用液体に対応した前記吐出手段を駆動する制御手段とを備えた。
【0009】
この発明によれば、液体吸収材内で顔料を含む液体が増粘して、液体吸収材が目詰まりしても、各液体のうち相対的に顔料を分散させる能力が高い液体を分散用液体として液体吸収材に吐出することで、液体吸収材内の増粘した顔料を含む液体が再分散される。このため、顔料を含む液体のみが装備された液体噴射装置であっても、キャップ内の液体吸収材の目詰まりを抑制することができる。
【0010】
本発明の液体噴射装置は、前記制御手段が、前記キャップの開放状態が長時間続いた場合、前記分散用液体を吐出させるように、該分散用液体に対応した前記吐出手段を駆動する。
【0011】
この発明によれば、例えば、長時間連続して液体を噴射すること等によりキャップの開放状態が長時間続くと、液体吸収材内の顔料を含む液体の溶媒成分の水が蒸発することで、該液体吸収材内の液体が増粘し、液体吸収材が目詰まりすることとなる。このような場合に、分散用液体を液体吸収材に向けて速やかに吐出させることで、液体吸収材内の増粘した液体が再分散され、該液体吸収材の目詰まりを好適に抑制することができる。
【0012】
本発明の液体噴射装置は、前記制御手段が、電力の供給が長時間断たれた場合、次回に電力が供給された際に前記分散用液体を吐出させるように、該分散用液体に対応した前記吐出手段を駆動する。
【0013】
この発明によれば、例えば、液体噴射中に電源コードが抜かれて液体噴射装置への電力の供給が長時間断たれると、キャップが開放状態で長時間放置された状態となる。このため、液体吸収材内の顔料を含む液体の溶媒成分の水が蒸発することで、該液体吸収材内の液体が増粘し、液体吸収材が目詰まりすることとなる。特にこのような場合に、次回に電力が供給された際に分散用液体を液体吸収材に向けて速やかに吐出させることで、液体吸収材内の増粘した液体が再分散され、該液体吸収材の目詰まりを好適に抑制することができる。
【0014】
本発明の液体噴射装置は、前記制御手段が、前記キャップ内の液体量が予め設定された第1の閾値に達した場合に前記吸引手段を駆動させて空吸引を行う。
この発明によれば、例えば、キャップが開放状態で長時間放置された場合、液体吸収材内の顔料を含む液体の溶媒成分の水が蒸発することで、該液体吸収材内の液体が増粘し、液体吸収材が目詰まりすることとなる。このような場合に、空吸引を行うことで、キャップ内に残った蒸発していない余分な液体が排出されるため、その後に液体吸収材に吐出される分散用液体によって該液体吸収材内の増粘した液体を効果的に再分散させることができる。
【0015】
本発明の液体噴射装置は、前記制御手段が、さらに前記第1の閾値を該第1の閾値よりも小さい第2の閾値に変更し、前記キャップ内の液体量が前記第2の閾値に達した場合に前記吸引手段を駆動させて空吸引を行う。
【0016】
この発明によれば、例えば、キャップが開放状態で長時間放置された場合、液体吸収材内の顔料を含む液体の溶媒成分の水が蒸発することで、該液体吸収材内の液体が増粘し、液体吸収材が目詰まりすることとなる。すると、液体吸収材が保持できる液体量が少なくなるため、キャップ内に一時貯留できる液体量も少なくなる。このような場合に、第1の閾値を該第1の閾値よりも小さい第2の閾値に変更することで、キャップ内の液体を吸引排出する空吸引を行う頻度が多くなり、キャップ内から液体が溢れ出すのを抑制することができる。
【0017】
本発明の液体噴射装置は、前記制御手段が、前記液体吸収材に吸収保持された状態で粘度が高くなった前記各液体の顔料を前記分散用液体により再分散させるために必要な所定時間だけ経過した後、前記第2の閾値を前記第1の閾値に変更する。
【0018】
この発明によれば、前記液体吸収材に吸収保持された状態で粘度が高くなった前記各液体の顔料が前記分散用液体によって再分散された後には、液体吸収材が保持できる液体量が少なくなった状態から回復するため、キャップ内に一時貯留できる液体量も回復する。このため、前記第2の閾値を前記第1の閾値に変更することで、無駄な空吸引を行うことなく適切な頻度で空吸引を行うことができる。
【0019】
本発明の液体噴射装置は、前記分散用液体が、シアン顔料を含む液体及びイエロー顔料を含む液体のうち少なくとも一方である。
この発明によれば、シアン顔料に含まれるフタロシアニン化合物及びイエロー顔料に含まれるアゾ化合物は、例えばマゼンタ顔料に含まれるキナクリドン化合物に比べて格段に分散性が良好である。そして、例えば、液体吸収材内の顔料を含む液体の溶媒成分の水が蒸発することで、該液体吸収材内の液体が増粘し、液体吸収材が目詰まりすると、液体吸収材の保持できる液体量が少なくなる。このような場合であっても、液体吸収材に分散用液体を吐出することで、液体吸収材内の増粘した液体内にフタロシアニン化合物及びアゾ化合物のうち少なくとも一方が浸透し、該増粘した液体の内部で分散するため、この増粘した液体が好適に再分散される。したがって、目詰まりして保持できる液体量が少なくなった液体吸収材の保持できる液体量を回復させることができる。
【0020】
本発明の液体噴射方法は、顔料を含む複数種類の液体をノズルからキャップ内に配置された液体吸収材に向けて吐出する方法であって、前記各液体のうち相対的に顔料を分散させる能力が高い液体を分散用液体として前記液体吸収材に向けて吐出する。
【0021】
この発明によれば、液体吸収材内で顔料を含む液体が増粘して、該液体吸収材が目詰まりした場合に、分散用液体を液体吸収材に向けて吐出させることで、液体吸収材内の増粘した液体が再分散されるため、該液体吸収材の目詰まりを好適に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化した実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ11は、フレーム12を備えており、該フレーム12には、プラテン13が架設されている。プラテン13上には、紙送りモータ14の駆動により記録用紙Pが給送されるようになっている。また、フレーム12には、プラテン13の長手方向と平行に、棒状のガイド部材15が架設されている。
【0023】
ガイド部材15には、キャリッジ16が、該ガイド部材15の軸線方向に往復移動可能に挿通支持されている。キャリッジ16は、タイミングベルト17を介してキャリッジモータ18に連結されている。そして、キャリッジ16は、キャリッジモータ18の駆動により、ガイド部材15に沿って往復移動されるようになっている。
【0024】
図1及び図2に示すように、キャリッジ16の下面には、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が搭載されている。この記録ヘッド19の下面はノズル形成面20とされており、該ノズル形成面20には複数(本実施形態では4つ)のノズル21が設けられている。キャリッジ16における記録ヘッド19の上側には、インクカートリッジ22が着脱可能に搭載されており、該インクカートリッジ22内には、顔料を含む複数種類(複数色)の液体としてのインクがそれぞれ記録ヘッド19に供給可能な状態で貯留されている。そして、記録ヘッド19に設けられた吐出手段としての圧電素子23の駆動により、インクカートリッジ22から記録ヘッド19へと各インクが供給され、該各インクが各ノズル21からプラテン13上に給送された記録用紙Pにそれぞれ噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0025】
フレーム12内の右端部に位置する非印刷領域(ホームポジション)には、非印刷時に記録ヘッド19のノズル形成面20(各ノズル21)を封止するためのキャッピング機構24が設けられている。キャッピング機構24は、キャップ26と、該キャップ26を上下方向に移動させるための昇降装置27(図3参照)とを備えている。そして、このキャッピング機構24は、キャリッジ16を非印刷領域に移動させた場合に、キャップ26を昇降装置27により上昇させることで、記録ヘッド19のノズル形成面20(各ノズル21)をキャップ26により封止するようになっている。
【0026】
図2に示すように、キャップ26は、有底四角箱状をなしており、該キャップ26の周壁の上面全体には、該上面全体と対応するように、可撓性材料からなる四角枠状のシール部材28が設けられている。キャップ26の底壁には、該キャップ26内のインクを排出する排出部29が下方に向かって突設されている。排出部29内には、排出通路29aが形成されている。
【0027】
また、キャップ26の内部には、液体吸収材としてのインク吸収材30が配置されており、該インク吸収材30には、記録ヘッド19の各ノズル21から噴射されたり吸引されたりしたインクが蓄えられるようになっている。そして、インクを蓄えたインク吸収材30は、キャップ26によりノズル形成面20(各ノズル21)が封止された際に、キャップ26内を保湿することで、ノズル21からのインクの蒸発を抑制するようになっている。
【0028】
排出部29には、可撓性材料よりなる排出チューブ31の一端部が接続されており、該排出チューブ31の他端部は、廃インクタンク32内に挿入されている。キャップ26内と排出チューブ31内とは、排出通路29aを介して連通しており、キャップ26と廃インクタンク32との間における排出チューブ31の中間部には、吸引ポンプ25が配設されている。そして、吸引ポンプ25の駆動により、キャップ26内のインクが排出チューブ31を介して廃インクタンク32内に排出されるようになっている。なお、廃インクタンク32内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材33が収容されており、この廃インク吸収材33により回収されたインクが吸収されるようになっている。
【0029】
上記インクカートリッジ22には、複数種類(本実施形態では4種類)のインクが各別に貯留されており、該各インクは水や分散液などから形成される溶媒に顔料を分散させることにより形成されている。すなわち、インクカートリッジ22には、ブラック顔料(例えばカーボンブラック)を含有するインク(以下、「ブラックインク」という。)と、シアン顔料(例えばフタロシアニン化合物)を含有するインク(以下、「シアンインク」という。)とが貯留されている。また、インクカートリッジ22には、マゼンタ顔料(例えばキナクリドン化合物)を含有するインク(以下、「マゼンタインク」という。)と、イエロー顔料(例えばアゾ化合物)を含有するインク(以下、「イエローインク」という。)とが貯留されている。
【0030】
ここで、例えば、印刷中に電源コードが抜かれてインクジェット式プリンタ11への電力の供給が断たれると、キャップ26が開放状態で放置された状態となる。このような場合、インク吸収材30内に保持された各インクの溶媒成分の水が蒸発することで、該インク吸収材30内の各インクが増粘し、インク吸収材30が目詰まりすることがある。インク吸収材30が目詰まると、インク吸収材30の保持可能なインク量が著しく低下してしまうこととなる。そこで、本実施形態では、こうした目詰まりを抑制するために、各インクのうち相対的に顔料を分散させる能力が高いインクをノズル21から吐出させるようにしている。
【0031】
この点、シアンインクに含まれるフタロシアニン化合物(銅フタロシアニン)及びイエローインクに含まれるアゾ化合物は、例えばマゼンタインクに含まれるキナクリドン化合物に比べて格段に顔料を分散させる能力が高い。このため、本実施形態では、特にシアンインクが分散用液体として機能するようになっている。なお、顔料を分散させる能力は、イエローインクよりもシアンインクの方が高い。したがって、増粘したインクにより目詰まりしたインク吸収材30にシアンインクを吐出した場合には、増粘したインク内にフタロシアニン化合物が浸透し、該増粘したインクの内部で分散するため、この増粘したインクが最も効率よく再分散されるようになっている。
【0032】
次に、上記インクジェット式プリンタ11の電気的構成について図3に基づいて説明する。
図3に示すように、インクジェット式プリンタ11には、制御部34が設けられており、該制御部34には、タイマ35が接続されている。タイマ35は、圧電素子23の駆動に基づきノズル21からキャップ26内のインク吸収材30に向けてシアンインクが分散用液体として吐出されてからの経過時間を計測するようになっている。
【0033】
また、制御部34は、制御手段としてのCPU36を備えており、該CPU36にはROM37及びRAM38が接続されている。ROM37には、記録用紙Pに各インクを噴射するための制御プログラムや、記録ヘッド19におけるノズル形成面20のクリーニングを行うための制御プログラムなどが記憶されている。さらに、ROM37には、各種閾値が記憶管理されている。RAM38には、インクジェット式プリンタ11の動作中に適宜書き換えられる各種の情報が記憶されるようになっている。
【0034】
次に、インクジェット式プリンタ11の印刷中に電力の供給が断たれることにより、キャップ26が開放状態で放置された後、次回に電力が供給された際に行われるホームポジション外クリーニング処理ルーチンについて、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0035】
さて、インクジェット式プリンタ11の印刷中に、電源コードが抜かれて電力の供給が断たれると、キャリッジ16がホームポジション以外の位置で停止し、キャップ26が開放状態で放置される。このとき、CPU36は、電力の供給が断たれて動作が停止するまでのわずかの間に、キャップ26が開放状態で放置されることを示すキャップ開放情報をRAM38に書き込む。
【0036】
そして、次回にインクジェット式プリンタ11へ電力が供給されると、CPU36は、RAM38からキャップ開放情報を読み出すことで、キャップ26が開放状態で放置されたことを検出する(ステップS1)。これにより、CPU36は、キャリッジモータ18を駆動させて、キャリッジ16をホームポジションへ移動させる(ステップS2)。そして、CPU36は、吸引ポンプ25を駆動させて空吸引を行う(ステップS3)。なお、空吸引とは、キャップ26を開放した状態で、吸引ポンプ25を予め決められた時間だけ駆動させてキャップ26内のインクを吸引排出することである。続いて、CPU36は、圧電素子23を駆動し、ノズル21からキャップ26内のインク吸収材30に向けてシアンインク(分散用液体)を、本実施形態では0.2グラムだけ吐出させる(ステップS4)とともに、タイマ35を始動させる。
【0037】
次に、CPU36は、クリーニングが行われたか否かを判断する(ステップS5)。ステップS5において、クリーニングが行われた場合(ステップS5においてYESの場合)、CPU36は、その処理をステップS3に戻す。その後、CPU36は、ステップS4において、再びシアンインクを0.2グラムだけ吐出するとともに、タイマ35をリセットして再始動させる。一方、ステップS5において、クリーニングが行われない場合(ステップS5においてNOの場合)、CPU36は、空吸引を行ってキャップ26内のインクを吸引排出するための基準となる閾値Nを決定する(ステップS6)。
【0038】
この閾値Nは、通常、キャップ26内容積の90%に相当するキャップ26内へのインクのフラッシング合計量(第1の閾値N1)に設定されているが、ステップS6では、キャップ26内容積の15%に相当するキャップ26内へのインクのフラッシング合計量(第2の閾値N2)に変更される。なお、キャップ26が開放状態で放置されると、インク吸収材30内に保持された各インクの溶媒成分の水が蒸発することで、該インク吸収材30内の各インクが増粘し、インク吸収材30が目詰まりする。この目詰まりにより、インク吸収材30の保持可能なインク量が低下、すなわちキャップ26内に一時貯留可能なインク量が少なくなるため、ステップS6で閾値Nを第1の閾値N1から、該第1の閾値N1よりも小さい第2の閾値N2に変更することで、空吸引を行う頻度を多くして、キャップ26内からインクが溢れないようにしている。
【0039】
次に、キャップ26内のインク量が、ステップS6で変更された閾値N、すなわち第2の閾値に達したか否かを判断する(ステップS7)。ステップS7において、例えば印刷中に行われるフラッシングにより、キャップ26内のインク量が第2の閾値に達した場合(ステップS7においてYESの場合)、CPU36は、吸引ポンプ25を駆動して空吸引を行う。一方、ステップS7において、キャップ26内のインク量が第2の閾値に達していない場合(ステップS7においてNOの場合)、CPU36は、その処理をステップS9に移行する。
【0040】
次に、CPU36は、タイマ35によりステップS4の処理を行ってから所定時間Tが経過したか否かを判断する(ステップS9)。この所定時間Tは、インク吸収材30内の増粘した各インクを、シアンインク(分散用液体)によって再分散させるために必要な時間である。本実施形態において、インク吸収材30の最大インク保持量は1.4グラムであり、該インク吸収材30内の増粘した各インクを再分散させるために必要なシアンインクの量は0.2グラムである。
【0041】
ここで、インク吸収材30の最大インク保持量は1.4グラム(100%)であるが、キャップ26を開放した状態で1週間放置すると、目詰まりによりインク吸収材30の最大インク保持量は0.8グラム(57%)まで低下した。このインク吸収材30に0.2グラムのシアンインクを吐出し、キャップ26を閉塞した状態で3日経過すると、インク吸収材30の最大インク保持量は、0.95グラム(68%)まで回復した。引き続き、0.2グラムのシアンインクを吐出してから4日経過すると、インク吸収材30の最大インク保持量は、1.0グラム(71%)まで回復し、6日経過すると、インク吸収材30の最大インク保持量は、1.2グラム(86%)まで回復した。また、0.2グラムのシアンインクを吐出してから7日経過すると、インク吸収材30の最大インク保持量は、1.2グラム(86%)であり、6日経過した場合と変わらなかった。したがって、本実施形態における所定時間Tは、6日に設定されている。
【0042】
ステップS9において、所定時間Tが経過した場合(ステップS9においてYESの場合)、CPU36は、閾値Nを第2の閾値N2から第1の閾値N1に変更し(ステップS10)、ホームポジション外クリーニング処理ルーチンを終了する。一方、ステップS9において、所定時間Tが経過していない場合(ステップS9においてNOの場合)、CPU36は、その処理をステップS7に戻す。
【0043】
このように、増粘した各インクによりインク吸収材30が目詰まりしても、ホームポジション外クリーニング処理ルーチンを行うことで、シアンインク(分散用液体)でもって増粘した各インクを効率よく再分散することができる。このため、目詰まりして低下したインク吸収材30の保持可能なインク量(最大インク保持量)を回復させることができる。
【0044】
以上、詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)インク吸収材30内で顔料を含むインクが増粘して、インク吸収材30が目詰まりしても、各インクのうち相対的に顔料を分散させる能力が高いシアンインクを分散用液体としてインク吸収材30に吐出することで、インク吸収材30内の増粘した顔料を含むインクを再分散させることができる。このため、顔料を含むインクのみが装備されたインクジェット式プリンタ11であっても、キャップ26内のインク吸収材30の目詰まりを抑制することができる。
【0045】
(2)印刷中やインクカートリッジ22の交換中に電源コードが抜かれてインクジェット式プリンタ11への電力の供給が断たれたり、紙詰まりが発生したりすると、キャップ26が開放状態で放置された状態となる。このため、インク吸収材30内の顔料を含むインクの溶媒成分の水が蒸発することで、該インク吸収材30内のインクが増粘し、インク吸収材30が目詰まりすることとなる。特にこのような場合に、次回に電力が供給された際にシアンインク(分散用液体)をインク吸収材30に向けて速やかに吐出させることで、インク吸収材30内の増粘したインクを好適に再分散させることができる。したがって、目詰まりして保持できるインク量が少なくなったインク吸収材30の保持できるインク量を回復させることができる。
【0046】
(3)増粘したインクにより目詰まりすることでインク吸収材30の保持可能なインク量が少なくなった場合、第1の閾値N1を第2の閾値N2に変更することで、キャップ26内のインクを吸引排出する空吸引を行う頻度が多くなるため、キャップ26内からインクが溢れ出すのを抑制することができる。
【0047】
(4)インク吸収材30に吸収保持された状態で粘度が高くなった各インクの顔料がシアンインク(分散用液体)によって再分散された後には、インク吸収材30の保持可能なインク量が少なくなった状態から回復するため、キャップ26内に一時貯留できるインク量も回復する。このため、所定時間Tの経過後に、第2の閾値N2を第1の閾値N1に戻す(変更する)ことで、無駄な空吸引を行うことなく適切な頻度で空吸引を行うことができる。
【0048】
(5)シアンインク(分散用液体)により、インク吸収材30内の増粘したインクを再分散させることができるので、キャップ26内にフラッシングを行うことができる。したがって、別途フラッシングのためのスペースを設ける必要がなくなるので、インクジェット式プリンタ11の小型化に寄与できる。
【0049】
(6)特定のインク(シアンインク)を分散用液体として用いているため、別途分散用液体をインクジェット式プリンタ11に装備する必要がなくなる。
(変更例)
・ホームポジション外クリーニング処理ルーチンは、キャップ26が閉塞状態にあっても、長期間(例えば1年以上)放置された場合に行うようにしてもよい。キャップ26が閉塞状態にあっても、該キャップ26の壁部やキャップ26に接続された排出チューブ31から僅かにインクの溶媒成分の水が蒸発するため、長期間放置すると、キャップ26を開放した状態と同じ状態になる。この場合、インクジェット式プリンタ11に、長期間(長時間)放置されていることをカウントするためのタイマを設ける必要がある。
【0050】
・ステップS6及びステップS10を省略してもよい。この場合、ステップS7における閾値Nは、第1の閾値N1になる。
・分散用液体として、シアンインクのみならず、イエローインクを併用してもよい。あるいは、イエローインクのみを分散用液体として用いるようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンタ11として具体化したが、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造や、有機ELディスプレイ等の画素形成に利用される液体噴射装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンタの斜視図。
【図2】同プリンタの要部簡略断面図。
【図3】同プリンタのブロック図。
【図4】同プリンタのホームポジション外クリーニング処理ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0053】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ、19…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、20…ノズル形成面、21…ノズル、23…吐出手段としての圧電素子、25…吸引手段としての吸引ポンプ、26…キャップ、30…液体吸収材としてのインク吸収材、36…制御手段としてのCPU、T…所定時間、N…閾値、N1…第1の閾値、N2…第2の閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含む複数種類の液体を吐出手段の駆動に基づいてノズルから吐出する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止するキャップと、該キャップ内に配置された液体吸収材と、前記キャップ内の液体を吸引可能な吸引手段と、前記液体噴射ヘッドから液体吸収材に向けて、前記各液体のうち相対的に顔料を分散させる能力が高い液体が分散用液体として吐出されるように、該分散用液体に対応した前記吐出手段を駆動する制御手段とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記キャップの開放状態が長時間続いた場合、前記分散用液体を吐出させるように、該分散用液体に対応した前記吐出手段を駆動することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、電力の供給が長時間断たれた場合、次回に電力が供給された際に前記分散用液体を吐出させるように、該分散用液体に対応した前記吐出手段を駆動することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記キャップ内の液体量が予め設定された第1の閾値に達した場合に前記吸引手段を駆動させて空吸引を行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、さらに前記第1の閾値を該第1の閾値よりも小さい第2の閾値に変更し、前記キャップ内の液体量が前記第2の閾値に達した場合に前記吸引手段を駆動させて空吸引を行うことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記液体吸収材に吸収保持された状態で粘度が高くなった前記各液体の顔料を前記分散用液体により再分散させるために必要な所定時間だけ経過した後、前記第2の閾値を前記第1の閾値に変更することを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記分散用液体は、シアン顔料を含む液体及びイエロー顔料を含む液体のうち少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
顔料を含む複数種類の液体をノズルからキャップ内に配置された液体吸収材に向けて吐出する液体噴射方法であって、
前記各液体のうち相対的に顔料を分散させる能力が高い液体を分散用液体として前記液体吸収材に向けて吐出することを特徴とする液体噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−231623(P2006−231623A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47536(P2005−47536)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】