説明

液体噴射装置

【課題】大気開放バルブが接続されるキャップ部材を備える液体噴射装置において、大気開放バルブに液体が到達することを抑止する。
【解決手段】大気開放バルブ30が接続される気体流路14,50の入口14aに接続されると共に液体の気体流路14,50への浸入を抑止するバッファ空間72と該バッファ空間72に繋がると共に貯留領域Rにおいて鉛直下方を向いて形成される開口部71とを有する液体浸入抑止手段70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を噴射する液体噴射装置として、例えばインクジェットプリンタなどが知られている。インクジェットプリンタは、記録媒体に文字や画像等を記録する装置であり、記録ヘッド(液体噴射ヘッド)に設けられたノズル列から記録媒体にインク(液体)を選択的に噴射する構成になっている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタでは、ノズルの目詰まりや、ゴミの混入、インクの増粘、気泡の混入等によるインクの噴射の不具合等を防止するため、いわゆる吸引動作を行う。
この吸引動作では、記録ヘッドのノズルの形成領域を囲うようにキャップ部材を当接させることによって形成されたキャップ部材と記録ヘッドとの間の密閉空間を減圧することで、ノズルからインクを強制排出する。
【0004】
ところで、吸引動作ではキャップ部材と記録ヘッドとの間の密閉空間が減圧されるため、キャップ部材と記録ヘッドとの密着力が強く、この状態でキャップ部材と記録ヘッドとを離間させると、キャップ部材や記録ヘッドに大きな負荷がかかることなる。
このため、従来の液体噴射装置においては、上記密閉空間を大気開放するための大気開放バルブが気体流路となるチューブを介してキャップ部材と接続されている。
【特許文献1】特開2005−225163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大気開放バルブが上記密閉空間を大気開放するものであるため、当然ながら、大気開放バルブに接続される気体流路の入口は、上記密閉空間に配置されている。そして、密閉空間には、上述のように記録ヘッドから吸引されたインクが貯留される。
このため、気体流路の入口から気体流路の内部にインクが流入して大気開放バルブに到達することによって大気開放バルブの動作不良を招く虞がある。
【0006】
そこで、従来のインクジェットプリンタにおいては、大気開放バルブを気体流路の入口よりも上方に配置することによって気体流路に流れ込んだインクが大気開放バルブに到達することを防止している。
しかしながら、例えば記録ヘッドが記録媒体の全幅に対応して配置されるインクジェットプリンタであるラインヘッドプリンタ等においては、記憶ヘッドが固定され、記録ヘッド下に配置されたプラテンのさらに下方にキャップ部材が配置されており、吸引動作の際にプラテンが移動し、さらにキャップ部材を上昇させて記録ヘッドに当接させている。
このため、吸引動作以外においては、キャップ部材の直ぐ上方にプラテンが存在するため、大気開放バルブを気体流路の入口より上方に配置することが困難となる。
また、ラインヘッドプリンタに限らず、大気開放バルブの配置位置の制約は、小型化を求められるインクジェットプリンタにおいては、設計の自由度を大きく低下させる原因となる。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、大気開放バルブが接続されるキャップ部材を備える液体噴射装置において、大気開放バルブに液体が到達することを抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドと、上記ノズル開口から噴射された上記液体を受けかつ貯留可能な貯留領域を有すると共に上記ノズル開口の形成領域を囲って上記液体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、該キャップ部材の上記貯留領域に接続される吸引ポンプと、上記キャップ部材の上記貯留領域と大気開放バルブとを繋ぐ気体流路とを備える液体噴射装置であって、上記気体流路の入口に接続されると共に上記液体の上記気体流路への浸入を抑止するバッファ空間と該バッファ空間に繋がると共に上記貯留領域において鉛直下方を向く開口部とを有する液体浸入抑止手段を備えるという構成を採用する。
【0010】
このような構成を採用する第1の発明によれば、気体流路の入口が液体侵入抑止手段のバッファ空間に接続され、当該バッファ空間が貯留領域において鉛直下方を向いて形成される開口部に繋がっている。つまり、気体流路の入口は、液体侵入抑止手段のバッファ空間及び開口部を介して貯留領域と接続されている。
ここで、液体浸入抑止手段の開口部は、鉛直下方を向いて形成されているため、キャップ部材の貯留領域における液面が開口部の上方となるまで液体の量が増加した場合であっても、バッファ空間及び気体流路に残存する空気によってバッファ空間及び気体流路への液体の浸入を防ぐことが可能となる。
【0011】
また、液体噴射装置においては、キャップ部材と記録ヘッドとの間に密閉空間が形成された状態で、吸引ポンプの駆動を止めて記録ヘッドから密閉空間に液体を噴射する場合がある。このような場合には、貯留領域の液体が増えることによって上記密閉空間の空気が収縮され昇圧され、バッファ空間及び気体流路内の空気も一緒に圧縮される。このため、キャップ部材の貯留領域における液面が開口部の上方である場合には、バッファ空間及び気体流路内の空気の収縮によって液体に対してバッファ空間及び気体流路に向けて引き込む力が作用する。
このように液体に対してバッファ空間及び気体流路に向けて引き込む力が作用する場合であっても、本第1の発明においては引き込まれた液体がバッファ空間に一定量貯留され、気体流路に流れ込むことが抑制される。したがって、バッファ空間及び気体流路への液体の浸入を低減させることが可能となる。
【0012】
このように本第1の発明によれば、大気開放バルブに液体が到達することを抑止し、大気開放バルブの動作不良の発生を抑止することが可能となる。
そして、本第1の発明においては、気体流路の入口と大気開放バルブとの位置関係に関わらず大気開放バルブに液体が到達することを抑止することが可能となる。したがって、液体噴射装置の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記バッファ空間の容積が、上記気体流路の容積以上とされているという構成を採用する。
このような構成を採用する第2の発明によれば、バッファ空間の容積が気体流路の容積以上とされているため、実際にはありえないものの気体流路内の空気が収縮して体積が限りなく零となった場合であってもバッファ空間に引き込まれる液体の体積がバッファ空間の容積以下となり、より確実に大気開放バルブに液体が到達することを防止することが可能となる。
【0014】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記液体浸入抑止手段が、上記ノズル開口の直下を避けて上記貯留領域に配置されるという構成を採用する。
このような構成を採用する第3の発明によれば、貯留領域に設置される液体浸入抑止手段が記録ヘッドに形成されたノズル開口の直下を避けて配置されているため、ノズル開口から吸引あるいは噴射された液体が、液体浸入抑止手段に当たって飛び散ることを抑止することが可能となる。このため、記録ヘッドが飛び跳ねた液体によって汚れることを抑止することが可能となる。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記液体浸入抑止手段が、上記気体流路の入口に被って配置されるカップ部材であるという構成を採用する。
このような構成を採用する第4の発明によれば液体浸入抑止手段が入口に被って配置されるカップ部材とされる。このため、カップ部材の形状を変更することによってカップ部材の容積、すなわちバッファ空間の容積を容易に変更することができる。さらに、気体流路と液体浸入抑止手段とを直接固定させなくても良く、気体流路の入口と液体浸入抑止手段との位置関係に自由度を持たせることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る液体噴射装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の説明においては、液体噴射装置の一例であるインクジェットプリンタを挙げて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態のインクジェットプリンタIJの要部斜視図であり、本来インクジェットプリンタIJが備える外部カバーを除いた斜視図である。また、図2は、インクジェットプリンタIJが備えるメンテナンス機構9を模式的示した断面図である。
【0018】
図1に示すように、インクジェットプリンタIJには、フレーム1が備えられ、このフレーム1にはプラテン2が架設されている。プラテン2上には、図示しない紙送り機構によりターゲットとしての記録紙Pが搬送される。また、フレーム1には、プラテン2の長手方向と平行にガイド部材3が架設され、このガイド部材3にはキャリッジ4が摺動可能に支持されている。キャリッジ4は、キャリッジモータ5によりタイミングベルト6を介して、記録紙Pの搬送方向に交差する方向(図中X方向)に往復移動可能となっている。
【0019】
このキャリッジ4の下面には、記録ヘッド7が搭載されている。記録ヘッド7は、図2に示すように、複数のノズル7aを有している。そして各ノズル7aの開口(以下、ノズル開口7bと称する)は、記録ヘッド7の下面(以下、ノズル開口形成面7cと称する)に形成されている。そして、記録ヘッド7は、ノズル開口形成面7cが搬送された記録紙Pに対向するようにキャリッジ4に支持されている。
また、記録ヘッド7は、各ノズル7aに対して設置される圧電素子7dを備えている。そして、圧電素子7dが駆動されることで、ノズル7aから記録紙Pに向かってインク滴が吐出される。
【0020】
また、キャリッジ4上には、内部にインクを収容したインクカートリッジ8が着脱可能に取着されている。キャリッジ4に配設されたインクカートリッジ8は、その下方に配設された記録ヘッド7にインクを供給する。供給されたインクは、印刷データに基づいた圧電素子7dの駆動によって、ノズル7aを介して記録紙Pに吐出される。
【0021】
フレーム1の一側部には、ホームポジションが設けられており、このホームポジションにはメンテナンス機構9が配設されている。このホームポジションは、非印刷時あるいは保管時等のプリンタが印刷休止状態にあるときに、キャリッジ4が配置される領域である。
【0022】
メンテナンス機構9は、キャップユニット10と、吸引ポンプ20(図2参照)と、大気開放バルブ30とを備えている。また、キャップユニット10、吸引ポンプ20及び大気開放バルブ30の駆動源である図示しない駆動モータと、この駆動モータの動力をキャップユニット10、吸引ポンプ20及び大気開放バルブ30に伝達する図示しない動力伝達機構を備えている。
【0023】
図2に示すように、キャップユニット10は、キャップホルダ11とキャップ部材12とを備えている。キャップホルダ11は、上側が開口した箱状に形成されており、この開口が記録ヘッド7のノズル開口形成面7cを向くように配設されている。キャップ部材12は、エラストマ等の可撓性材質からなり、キャップホルダ11の内壁面によって支持されている。このキャップ部材12は、その上端縁がキャップホルダ11の上端縁よりも上方に突出している。
【0024】
キャップホルダ11は、駆動モータの駆動により上下方向に移動可能とされている。そして、キャップユニット10は、キャップ部材12が記録ヘッド7に当接するキャッピング位置と、キャップ部材12が記録ヘッド7から離間した退避位置との間を往復移動可能となっている。
そして、キャップユニット10がキャッピング位置に移動されている場合には、キャップ部材12がノズル開口領域を囲うように記録ヘッド7のノズル開口形成面7cと当接され、キャップ部材12と記録ヘッド7との間に密閉空間Kが形成される。
【0025】
キャップ部材12の底面と内側面とによって囲われた領域は、記録ヘッド7から噴射あるいは吸引されたインクを受けると共に一時的にインクを貯留する貯留領域Rとして構成されている。
なお、貯留領域Rには、必要に応じてインクを吸収するためのシート状の吸収材を収容しても良い。
そして、貯留領域Rにインクを貯留した状態で上記密閉空間Kを形成することによって、密閉空間Kを高湿状態に保つことが可能となり、ノズル7a内のインクが乾燥することを抑止することができる。
【0026】
また、キャップホルダ11及びキャップ部材12の底部には、インク排出口13が貫通形成され、当該インク排出口13に排出チューブ40が接続されている。
そして、キャップ部材12の貯留領域Rに噴射あるいは吸引されたインクは、インク排出口13を介して、排出チューブ40内の流路に流入する。この排出チューブ40は、キャップユニット10の下方で引き回され、吸引ポンプ20側へ延設されている。
なお、排出チューブ40は、廃棄されるインクが収容されるインクタンクTと接続されている。
【0027】
排出チューブ40の途中部位には、吸引ポンプ20が配置されている。この吸引ポンプ20は、ノズル7a内のインクを吸引する吸引動作を行うためのものである。吸引動作は、インクジェットプリンタIJが長期間印刷を休止した後で印刷を再開する場合等において、インクジェットプリンタIJの図示しない制御部により実行命令が送出されることによって行われる。なお、上記吸引動作については、後に詳説する。
【0028】
また、キャップホルダ11及びキャップ部材12の底部には、貯留領域Rからキャップホルダ11の底部に抜ける貫通孔を備える大気連通部14が設置されている。この大気連通部14は、貯留領域R内に突出するように配置されており、突出された先端に入口14aを備えている。なお、ここで言う入口14aは、貯留領域Rから見た場合における大気連通部14の入口を意味するものであり、外気やインク等の流体の流れ方向に対する入口を意味するものではない。
そして、大気連通部14には大気連通チューブ50が接続されており、大気連通チューブ50の端部に大気開放バルブ30が設けられている。
つまり、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、本発明におけるキャップ部材12の貯留領域Rと大気開放バルブ30とを繋ぐ気体流路が、大気連通部14と大気連通チューブ50とによって構成されている。
そして大気開放バルブ30を開状態にすると、大気連通部14と大気連通チューブ50を介してノズル開口形成面7cとキャップ部材12との間の密閉空間Kに外気が導入され、密閉空間Kが大気開放される。
【0029】
また、大気連通チューブ50の途中部位には逆止弁60が設けられている。この逆止弁60は、外部からキャップユニット10側に向かう方向にのみ空気の供給を可能とし、逆にキャップユニット10側から空気やインクが流れようとすると自動的に閉弁するバルブである。
【0030】
そして、本実施形態のインクジェットプリンタIJは、図2に示すように、大気連通部14の入口14aに被って配置されるカップ部材70(液体浸入抑止手段)を備えている。このカップ部材70は、開口部71が鉛直下方を向き、内部空間72(バッファ空間)に大気連通部14の入口14aが配置されるように支持部80によって貯留領域R内において支持されている。なお、貯留領域Rに吸収材が収容されている場合には、支持部80に換えて吸収材によってカップ部材70を支持しても良い。
そして、カップ部材70の内部空間72は、インクの大気連通部14への浸入を抑止するバッファ空間として機能するものであり、上述のように大気連通部14の入口14aが配置されることによって該入口14aと接続されている。なお、このカップ部材70の内部空間72の容積は、大気連通部14及び大気連通チューブ50の内部容積以上とされている。
また、開口部71は、上述のように鉛直下方を向いて形成されており、内部空間72に繋がっている。
【0031】
また、カップ部材70は、キャリッジ4がホームポジションに移動された場合における記録ヘッド7のノズル開口7bの直下を避けて配置されていることが好ましい。
これによって、ノズル7aから噴射あるいは吸引されたインクがカップ部材70に当たって飛び散ることを抑止し、記録ヘッド7がインクによって汚れることを抑止することが可能となる。
なお、カップ部材70を記録ヘッド7のノズル開口7bの直下を避けて配置する場合には、これに伴って、大気連通部14の形成位置も記録ヘッド7のノズル開口7bの直下を避けることが好ましい。
【0032】
次に、本実施形態のインクジェットプリンタIJの動作の一実施例について吸引動作を中心に説明する。なお、本実施形態のインクジェットプリンタIJの動作を制御しているのは、不図示の制御部である。
【0033】
吸引動作は、記録ヘッド7のノズル7aからインクを強制排出するクリーニング動作であり、キャリッジ4がホームポジションに移動され、記録ヘッド7にキャップユニット10のキャップ部材12が当接された状態を主として行われる。
そして、本実施形態のインクジェットプリンタIJでは、吸引動作において、吸引ポンプ20を駆動させてインクを強制排出する吸引工程と、吸引ポンプ20の駆動を停止した状態で記録ヘッド7のノズル7aからインクを噴射する噴射工程とを繰り返し行い、その後、記録ヘッド7とキャップ部材12との間に形成された密閉空間Kを大気開放する大気開放工程を行うものとする。
【0034】
吸引動作を開始した際に行われる吸引工程は、図3に示すようにキャップ部材12の貯留領域Rにインクが存在しない状態、若しくは貯留領域Rに貯留されたインクの液面がカップ部材70の開口部71よりも下方に存在する状態から行われる。
そして、図4に示すように、大気開放バルブ30が閉鎖された状態で、吸引ポンプ20が駆動されることによって、密閉空間Kが減圧されて記録ヘッド7のノズル7aからインクが吸引される。また、記録ヘッド7のノズル7aから吸引されたインクは、インク排出口13及び排出チューブ40を介してインクタンクTに収容される。
ここで、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、カップ部材70が、開口部71が鉛直下方を向き、内部空間72に大気連通部14の入口14aが配置されるように配置されている。このため、記録ヘッド7のノズル7aから吸引されるインク量がインク排出口13及び排出チューブ40を介して排出されるインク量よりも多く、図4に示すように、キャップ部材12の貯留領域Rにおけるインクの液面がカップ部材70の開口部71よりも上昇した場合であっても、カップ部材70の内部空間72、大気連通部14の内部空間及び大気連通チューブ50の内部空間に存在する空気によって、インクがカップ部材70の内部空間72より先に流入することが防止される。
【0035】
次に、キャップ部材12の貯留領域Rにおけるインクの液面がカップ部材70の開口部71よりも上昇している状態で噴射工程が行われると、吸引ポンプ20の駆動が停止された状態でインクが噴射されるため、キャップ部材12の貯留領域Rに貯留されるインク量が増え、逆に密閉空間Kの空気が収縮する。そして、密閉空間Kの空気の収縮に伴って、カップ部材70の内部空間72、大気連通部14の内部空間及び大気連通チューブ50の内部空間に存在する空気も収縮するため、当該収縮によって、貯留領域Rに貯留されたインクに対してカップ部材70の内部空間72に向けて引き込む力が作用し、図5に示すように、インクの一部がカップ部材70の内部空間72に流入する。
しかしながら、カップ部材70の内部空間72に流入したインクは、内部空間72の容積を埋めるまでは内部空間72に貯留される。このため、大気連通部14及び大気連通チューブ50へのインクの流入が抑制され、大気開放バルブ30にインクが到達することを防止することが可能となる。
【0036】
そして、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、カップ部材70の内部空間72の容積が、大気連通部14及び大気連通チューブ50の内部容積以上とされている。このため、大気連通部14及び大気連通チューブ50に存在する空気が収縮して体積が減少した場合であっても内部空間72に引き込まれるインクの体積が内部空間72の容積以下となり、より確実に大気開放バルブ30にインクが到達することを防止することが可能となる。
【0037】
次に、カップ部材70の内部空間72にインクが流入した状態で吸引工程が行われ、インク排出口13及び排出チューブ40を介して排出されるインク量が記録ヘッド7のノズル7aから吸引されるインク量よりも多い場合には、図6に示すようにキャップ部材12の貯留領域Rの貯留されるインクの液面が下降し、当該液面がカップ部材70の開口部71よりも下がると、カップ部材70の内部空間72に空気が入り込んで内部空間72に流れ込んでいたインクがカップ部材70の外部に吐き出される。
【0038】
次に、大気開放工程が行われ、当該大気開放工程後にキャップ部材12の貯留領域Rにインクが残存する場合には、必要に応じてキャップ部材12と記録ヘッド7とを離間させた状態で吸引ポンプ20を駆動する空吸引工程を行う。
なお、大気開放工程においては、大気連通部14及び大気連通チューブ50を介して密閉空間Kに空気が流れ込むため、当該空気の流れによって大気連通部14及び大気連通チューブ50へのインクの流れ込みが防止される。
【0039】
以上のような本実施形態のインクジェットプリンタIJによれば、大気連通部14の入口14aがカップ部材70の内部空間72に接続され、当該内部空間72が貯留領域Rにおいて鉛直下方を向いて形成される開口部71に繋がっている。つまり、大気連通部14の入口14aは、カップ部材70の内部空間72及び開口部71を介して貯留領域Rと接続されている。
そして、カップ部材70の開口部71は、鉛直下方を向いて形成されているため、キャップ部材12の貯留領域Rにおける液面が開口部71の上方となるまでインクの量が増加した場合であっても、内部空間72及び大気連通部14及び大気連通チューブ50に残存する空気によって内部空間72及び大気連通部14及び大気連通チューブ50へのインクの浸入を防ぐことが可能となる。
【0040】
また、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、キャップ部材12の貯留領域Rにおける液面が開口部71の上方である場合には、内部空間72及び大気連通部14及び大気連通チューブ50内の空気の収縮によってインクに対して内部空間72及び大気連通部14及び大気連通チューブ50に向けて引き込む力が作用する。
しかしながら、内部空間72へ引き込まれたインクが内部空間72に貯留され、大気連通部14及び大気連通チューブ50に流れ込むことが抑制される。
【0041】
このように本実施形態のインクジェットプリンタIJによれば、大気開放バルブ30にインクが到達することを抑止し、大気開放バルブ30の動作不良の発生を抑止することが可能となる。
また、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、大気連通部14の入口14aと大気開放バルブ30との位置関係に関わらず大気開放バルブ30にインクが到達することを抑止することが可能となる。したがって、インクジェットプリンタの設計自由度を向上させることが可能となる。
【0042】
また、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、カップ部材70の内部空間72が、大気連通部14及び大気連通チューブ50の内部容積以上とされている。
このため、大気連通部14及び大気連通チューブ50内の空気が収縮して体積が限りなく零となった場合であっても内部空間72に引き込まれるインクの体積が内部空間72の容積以下となり、より確実に大気開放バルブ30にインクが到達することを防止することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態のインクジェットプリンタIJにおいては、本発明の液体浸入抑止手段として、カップ部材70を用いている。
このようなカップ部材70は、大気連通部14の入口14aに固定されていないため、カップ部材70の配置位置の自由度が高い。また、形状変更が容易であり、内部空間72の容積を容易に変更することが可能となる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
例えば、上記実施形態においては、本発明の液体浸入抑止手段として、大気連通部14と別部材のカップ部材70を用いる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図7に示すような大気連通部14と一体化されると共に鉛直下方に向けて形成された開口部101を備える箱部材100、あるいは図8に示すような大気連通部14と一体化されると共に鉛直可能に向けて形成された開口部201を備える湾曲管部材200を本発明の液体浸入抑止手段として用いることもできる。
このような場合には、箱部材100あるいは湾曲管部材200の内部空間102,202が、本発明におけるバッファ空間として機能することとなる。
【0046】
また、例えば、上記実施形態のカップ部材70の下方にカップ部材70から排出される空気あるいはインクを密閉空間Kの縁領域に向けて案内する案内部材を設置しても良い。
このような案内部材を設置することによって、カップ部材70から排出されるある程度の流速を有する空気あるいはインクが密閉空間Kの縁領域に供給されるため、縁領域に滞留したインクをインク排出口13及び排出チューブ40に案内することが可能となる。
【0047】
また、上記実施形態においては、本発明の液体噴射装置をいわゆるシリアル方式のインクジェットプリンタIJに適応した場合を例示して説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の液体噴射装置をいわゆるライン方式のインクジェットプリンタに適応することも可能である。
【0048】
また、上記実施形態においては、本発明の液体噴射装置をインクジェットプリンタIJに適用した場合を例示して説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であれ良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。
【0049】
また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクまたは液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。
【0050】
液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。
【0051】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタが備えるメンテナンス機構を模式的示した断面図である。
【図3】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの吸引動作を説明するための説明図である。
【図4】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの吸引動作を説明するための説明図である。
【図5】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの吸引動作を説明するための説明図である。
【図6】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの吸引動作を説明するための説明図である。
【図7】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの変形例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の一実施形態であるインクジェットプリンタの変形例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
IJ……インクジェットプリンタ(液体噴射装置)、R……貯留領域、7……記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、7a……ノズル、7b……ノズル開口、12……キャップ部材、14……大気連通部、14a……入口、20……吸引ポンプ、30……大気開放バルブ、50……大気連通チューブ、70……カップ部材(液体浸入抑止手段)、71……開口部、72……内部空間(バッファ空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記ノズル開口から噴射された前記液体を受けかつ貯留可能な貯留領域を有すると共に前記ノズル開口の形成領域を囲って前記液体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、該キャップ部材の前記貯留領域に接続される吸引ポンプと、前記キャップ部材の前記貯留領域と大気開放バルブとを繋ぐ気体流路とを備える液体噴射装置であって、
前記気体流路の入口に接続されると共に前記液体の前記気体流路への浸入を抑止するバッファ空間と該バッファ空間に繋がると共に前記貯留領域において鉛直下方を向いて形成される開口部とを有する液体浸入抑止手段を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記バッファ空間の容積は、前記気体流路の容積以上とされていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体浸入抑止手段は、前記ノズル開口の直下を避けて前記貯留領域に配置されることを特徴とする請求項1または2記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体浸入抑止手段は、前記気体流路の前記入口に被って配置されるカップ部材であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−120294(P2010−120294A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296869(P2008−296869)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】