説明

液体噴射装置

【課題】噴射ヘッド内に付着した気泡を十分に排出させる。
【解決手段】噴射ヘッド内に細かい気泡が付着した場合には、液体収容部と噴射ヘッドと
を接続する液体通路上に設けられた開閉弁を閉じた状態で、噴射ノズルから噴射ヘッド内
に負圧を作用させる。こうして噴射ヘッド内の圧力を低下させることで、噴射ヘッド内に
付着した細かい気泡の大きさを大きくしながら、噴射ノズルから液体を噴射させる。気泡
の大きさが大きくなると共振周波数が低下するので、液体を噴射する動作によって気泡が
共振されて噴射ヘッド内から脱離する。その結果、噴射ヘッド内に付着した気泡を十分に
排出させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドから液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンターでは、微細な噴射ノズルから、正確な分量のインク
を正確な位置に噴射することによって、高画質の画像を印刷することが可能である。また
、この技術を利用して、インクの代わりに各種の液体を基板に向けて噴射すれば、電極や
、センサ、バイオチップなどを製造することも可能である。
【0003】
このような技術では、噴射ノズルは噴射ヘッドに設けられている。また、工場から出荷
された状態のように、噴射ヘッドに液体が充填されていない状態では、噴射ノズルから液
体を噴射することはできないので、液体の噴射を開始する前には噴射ヘッドに液体を充填
する動作(初期充填動作)が行われる。初期充填時には、噴射ヘッドに液体を供給する流
路内の空気を巻きこんだり、あるいは噴射ヘッド内の空気を巻きこむなどして液体中に気
泡が混入する。この状態で噴射ノズルから液体を噴射すると、噴射ノズルに気泡が詰まっ
て液体を上手く噴射できなくなる。そこで、噴射ノズルをキャップで覆った状態で、キャ
ップに接続された吸引ポンプを駆動させることで、液体に混入した気泡を噴射ノズルから
吸引することが行われる。また、初期充填に先立って、噴射ヘッドに液体を導く流路や噴
射ヘッドを洗浄液で湿らせておくことで、初期充填時に気泡が噴射ヘッド内に残り難くす
る技術も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−112885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来技術では、噴射ヘッド内の気泡を十分に取り除くことができない
という問題があった。すなわち、ある程度大きな気泡については、従来の技術によっても
噴射ヘッド内から排出することができるが、細かな気泡については、噴射ヘッド内に付着
するなどして十分に排出することが困難である。そのため、残った気泡が液体の噴射中に
噴射ノズルを塞いで突然、液体を噴射することができなくなるなどの弊害が生じ得る。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
噴射ヘッド内に付着した気泡を十分に排出させる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を
採用した。すなわち、
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体が収容された液体収容部から前記噴射ヘッドに液体を導く液体通路と、
前記液体通路上に設けられた開閉弁を閉じた状態で、前記噴射ノズルから前記噴射ヘッ
ド内に負圧を作用させる負圧作用手段と、
前記噴射ヘッド内に負圧を作用させた状態で、前記噴射ノズルから液体を噴射すること
により、該噴射ヘッド内の気泡を排出する気泡排出手段と
を備えることを要旨とする。
【0008】
このような本発明の液体噴射装置においては、噴射ヘッド内の気泡を排出させる場合に
は、液体通路上の開閉弁を閉じると共に、噴射ノズルから噴射ヘッドに負圧を作用させ、
この状態で、噴射ノズルから液体を噴射させる。
【0009】
噴射ヘッド内に負圧が作用すると、噴射ヘッド内の圧力が低下していく。これに伴って
、噴射ヘッド内に付着した細かい気泡の体積が大きくなり、気泡の共振周波数が低下する
。また、詳細なメカニズムについては後述するが、気泡の共振周波数が低下すると、噴射
ノズルから液体を噴射させる動作に伴って噴射ヘッド内に発生する液体の圧力変動により
、気泡が共振され易くなる。従って、噴射ヘッド内に細かい気泡が付着した場合でも、付
着した気泡を共振によって脱離させることで、噴射ノズルから容易に気泡を排出させるこ
とができる。こうすることで、噴射ヘッド内に付着した気泡が液体の噴射中に剥がれて噴
射ノズルを塞ぐなどの弊害が生ずる事態を抑制可能となる。
【0010】
また、上述した本発明の液体噴射装置においては、負圧作用手段によって噴射ヘッドに
負圧を作用させながら、噴射ノズルから液体を噴射させることとしてもよい。
【0011】
こうすれば、噴射ヘッド内の圧力低下に伴って、共振が開始された気泡から脱離されて
いくので、噴射ヘッド内に付着した気泡を、速やかに排出することが可能である。
【0012】
また、上述した本発明の液体噴射装置においては、負圧作用手段によって噴射ヘッド内
の圧力を低下させた後に、噴射ノズルから液体を噴射させることとしてもよい。
【0013】
気泡の共振周波数が低下していない状態(すなわち、気泡を大きくするだけの負圧が噴
射ヘッド内に作用していない状態)では、たとえ噴射ノズルから液体を噴射させても気泡
は共振しないので、気泡が排出されることはない。従って、気泡の共振周波数が低下した
後に、噴射ノズルから液体を噴射してやれば、無駄に液体を噴射することを回避可能とな
る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】キャリッジの内部機構を示した説明図である。
【図3】初期充填後の噴射ヘッド内の様子を示した説明図である。
【図4】フラッシング動作の高調波成分によって、噴射ヘッド内の気泡を脱離させることが困難な理由を示した説明図である
【図5】本実施例の気泡の脱離方法を示した説明図である。
【図6】気泡の共振周波数と気泡の大きさとの関係について示した説明図である。
【図7】変形例の気泡の脱離方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.装置構成:
B.本実施例の気泡の脱離方法:
C.変形例:
【0016】
A.装置構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンターを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大
まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンター1
0は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ2
0と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うための
プラテンローラー40と、正常に印刷可能となるようにメンテナンスを行うメンテナンス
機構50などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカート
リッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22や、インクを
噴射する噴射ヘッド24などが設けられている。噴射ヘッド24の底面側(印刷媒体2に
向いた側)には、複数の噴射ノズルが設けられており、インクカートリッジ26内のイン
クを噴射ヘッド24に導いて、噴射ノズルから印刷媒体2に向かってインクを噴射するこ
とが可能となっている。
【0017】
尚、図示したインクジェットプリンター10では、シアン色、マゼンタ色、イエロー色
、黒色の4種類のインクを用いてカラー画像を印刷することが可能であり、このことと対
応して、噴射ヘッド24には、インクの種類毎に噴射ノズルが設けられている。そして、
それぞれの噴射ノズルに対しては、対応するインクカートリッジ26から、通路を介して
インクが供給されるようになっている。
【0018】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、内側に複数の歯形が形成されたタイミ
ングベルト32と、タイミングベルト32を駆動するための駆動モーター34などから構
成されている。タイミングベルト32の一部は噴射ヘッド24に固定されており、タイミ
ングベルト32を駆動すると、主走査方向に延設されたガイドレール36によってガイド
しながら、キャリッジ20を主走査方向に往復動させることが可能となる。また、印刷媒
体2の紙送りを行うプラテンローラー40は、図示しない駆動モーターやギア機構によっ
て駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている

【0019】
メンテナンス機構50は、印刷領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられて
おり、キャップ52や、キャップ52の下方の位置に設けられた吸引ポンプ54や、吸引
ポンプ54の更に下方に設けられた廃液タンク56などから構成されている。メンテナン
ス機構50では、噴射ヘッド24内で性状が劣化したインクを排出するための各種のメン
テナンス動作が行われる。すなわち、図示しない昇降機構によってキャップ52を噴射ヘ
ッド24の底面に押し付け、この状態で吸引ポンプ54を駆動させて、キャップ52と噴
射ヘッド24との間に形成される閉空間に負圧を発生させる。こうすることで、噴射ノズ
ルから性状が劣化したインクを吸い出す動作(クリーニング動作)を行うことができる。
また、噴射ヘッド24とキャップ52とを離間させた状態で、噴射ヘッド24からキャッ
プ52に向かってインクを噴射することで、性状が劣化したインクをキャップ52内に排
出する動作(フラッシング動作)を行うことも可能となっている。
【0020】
また、インクジェットプリンター10の背面には、インクジェットプリンター10の全
体の動作を制御する制御部60が搭載されている。噴射ヘッド24を往復動させる動作や
、印刷媒体2を紙送りする動作や、噴射ノズルからインクを噴射する動作や、メンテナン
ス機構50で行われる各種のメンテナンス動作などの動作は、全て制御部60によって制
御されている。こうした制御部60の元で、インクジェットプリンター10は、印刷媒体
2を紙送りしながら噴射ヘッド24を駆動してインクを噴射することにより、印刷媒体2
上に画像を印刷していく。
【0021】
図2は、キャリッジ20の断面を取ることによって内部の機構を示した説明図である。
尚、前述したように、本実施例の噴射ヘッド24には、インクの種類毎に複数の噴射ノズ
ルが設けられているが、図が複雑となることを避けるために、図2では、ある種類のイン
クに対応する1つの噴射ノズルと、その噴射ノズルに対してインクカートリッジ26から
インクを供給する機構のみが代表として示されている。
【0022】
インクカートリッジ26は、キャリッジケース22の内部通路70を介して噴射ヘッド
24内に設けられた共通インク室72に接続されており、共通インク室72は、噴射ノズ
ル毎に設けられた個別インク室74へと通路を介して接続されている。従って、インクカ
ートリッジ26から噴射ヘッド24に供給されたインクは、共通インク室72を経由して
、個別インク室74へと振り分けられるようになっている。また、個別インク室74の上
には、ピエゾ素子76が設けられており、ピエゾ素子76に電圧を印加すると、ピエゾ素
子が変形して個別インク室74を加圧することによって、個別インク室74に接続された
噴射ノズルからインクを噴射することが可能である。尚、インクカートリッジ26と共通
インク室72とを接続する内部通路70の通路上には、開閉弁78が設けられており、開
閉弁78は通常、開いた状態となっている。こうした開閉弁78を内部通路70上に設け
ておく理由については後に詳しく説明する。
【0023】
以上のような本実施例のインクジェットプリンター10は、製造元の工場から出荷され
た時の状態では、噴射ヘッド24内に未だインクが充填されていない。そこで、インクジ
ェットプリンター10が印刷を開始する前には、噴射ヘッド24内に初めてインクを満た
す動作(初期充填動作)を行う。すなわち、インクカートリッジ26がキャリッジケース
22に装着されると、噴射ヘッド24はメンテナンス機構50が設けられたホームポジシ
ョンへと移動する。続いて、キャップ52が噴射ヘッド24の底面に押し付けられ、この
状態で吸引ポンプ54が駆動される。こうしてキャップ52内に発生させた負圧を噴射ノ
ズルに作用させると、噴射ヘッド24内の空気が噴射ノズルから吸い出されるとともに、
インクカートリッジ26から吸い出されたインクが噴射ヘッド24へと供給される。その
結果、インクカートリッジ26から供給されたインクが噴射ヘッド24内を満たすことで
、噴射ヘッド24にインクが充填される。
【0024】
ここで、インクカートリッジ26から噴射ヘッド24にインクが供給される過程では、
噴射ヘッド24内の空気が巻きこまれるなどしてインク中に気泡が混入する。この状態で
噴射ノズルからインクを噴射すると、噴射ノズルに気泡が詰まってインクを上手く噴射で
きなくなる。そこで、インクの初期充填時には、噴射ヘッド24がインクで満たされた後
も、しばらくは吸引ポンプ54を駆動してクリーニング動作を継続することで、噴射ヘッ
ド24内の気泡をインクとともに排出することが行われる。こうすることで、ある程度大
きな気泡については噴射ヘッド24内から排出される。その一方で、以下に示すように、
噴射ヘッド24内の細かい気泡まで十分に排出させることは困難である。
【0025】
図3は、インクの初期充填が終了した後の噴射ヘッド24内の様子を示した説明図であ
る。前述したように、噴射ヘッド24の内部には、共通インク室72や、個別インク室7
4が設けられている(図2を参照)。このように共通インク室72や個別インク室74が
設けられることにより、噴射ヘッド24の内部は複雑に入り組んだ構造となっているので
、噴射ヘッド24内には細かい気泡が付着し易い箇所が生ずる。従って、図3に示される
ように、初期充填の終了後は、噴射ヘッド24内に細かい気泡が付着した状態となる。こ
の状態でインクジェットプリンター10を使用すると、印刷中に噴射ヘッド24内から気
泡が剥がれて、個別インク室74に気泡が入り込む。その結果、個別インク室74に設け
られた噴射ノズルを気泡が塞ぐと、インクを噴射することができなくなってしまう。
【0026】
また、噴射ヘッド24内に付着した気泡は、フラッシング動作を実行したとしても排出
させることが困難である。これは次のような理由による。すなわち、噴射ヘッド24内に
付着した気泡を脱離させるという観点からみると、フラッシング動作を行うことによって
得られる効果は、噴射ヘッド24内にインクの流れを発生させることによる効果と、噴射
ヘッド24内のインクに圧力変動を発生させることによる効果とが挙げられる。ここで、
噴射ヘッド24内に発生するインクの流れを考えた場合、上述したクリーニング動作によ
って発生するインクの流れに比べると、フラッシング動作によるインクの流れは遅いもの
と考えられる。このことから、クリーニング動作後に噴射ヘッド24内に残った気泡を、
フラッシング動作によるインクの流れによって脱離させることは困難である。
【0027】
また、フラッシング動作によって噴射ヘッド24内のインクに圧力変動を発生させるこ
とによる効果によっても、噴射ヘッド24内に付着した気泡を脱離させることは難しい。
すなわち、噴射ヘッド24内に付着する細かい気泡はたいへん小さいので(代表的には直
径で約40μm)、フラッシング動作による圧力変動の周期では周期が長すぎて、単に気
泡がゆっくりと大きくなったり小さくなったりするだけであり、付着した気泡を脱離させ
ることはできない。もちろん、以下に説明するように、フラッシング動作によって噴射ヘ
ッド24内に生ずる圧力変動には、フラッシング動作の周波数よりも周期が短く、周波数
の高い成分(高調波成分)も含まれている。しかし、高調波成分の大きさは小さいので、
噴射ヘッド24内に付着した気泡を脱離させることは困難である。以下ではこの点につい
て詳しく説明する。
【0028】
図4は、フラッシング動作の高調波成分によって、噴射ヘッド24内の気泡を脱離させ
ることが困難な理由を示した説明図である。尚、図4では、先ず始めに、図4(a)を用
いて、フラッシング動作時に、噴射ヘッド24を駆動する目的でピエゾ素子76に印加さ
れる電圧波形(駆動パルス)について説明し、続いて、図4(b)を用いて、フラッシン
グ動作の駆動パルスを印加した場合に、噴射ヘッド24内の圧力変動に含まれる周波数成
分について説明する。
【0029】
図4(a)に示されているように、本実施例のフラッシング動作の駆動パルスは、略台
形状の波形が時間の経過とともに周期的に繰り返される電圧波形となっている。この駆動
パルスがピエゾ素子76に印加されると、印加電圧が上昇する部分ではピエゾ素子76が
収縮し、印加電圧が降下する部分ではピエゾ素子76が伸長する。こうしてピエゾ素子7
6が伸縮運動を繰り返すことで、個別インク室74が周期的に加圧されて、噴射ヘッド2
4内に圧力変動が生ずる。ここで、フラッシング動作の駆動パルスには、周波数の異なる
複数の成分が含まれており、その結果として、図4(b)に示すように、フラッシング動
作による噴射ヘッド24内の圧力変動にも周波数の異なる複数の成分が含まれている。
【0030】
ここで、前述したように、噴射ヘッド24内に付着する細かい気泡はたいへん小さいた
め、フラッシング動作に含まれる周波数の低い成分にはほとんど影響を受けない。従って
、噴射ヘッド24内に付着した細かい気泡に対して有効に作用する成分は、フラッシング
動作に含まれる高調波の成分となる。また、フラッシング動作の高調波を利用して、噴射
ヘッド24内に付着する細かい気泡を脱離させるためには、高調波成分量が、ある程度の
大きさであることが必要となる。この点から、フラッシング動作に含まれる周波数成分の
成分量を見てみると、図4(b)に斜線を付して示したように、噴射ヘッド24の圧力変
動内で周波数の低い成分(基本波や、基本波の周波数に近い高調波)では、ある程度の大
きさを有するが、より高調波の成分では、十分な大きさを有していない。その結果、フラ
ッシング動作によって噴射ヘッド24内に付着した細かい気泡を脱離させることが困難と
なっているのである。
【0031】
このように、噴射ヘッド24内の細かい気泡が付着したままの状態で印刷動作を行うと
、いずれは噴射ヘッド24内に付着した気泡が剥がれて前述した弊害が生じ得る。そこで
、本実施例のインクジェットプリンター10では、以下のような気泡の脱離方法を採用す
ることで、インクの初期充填時に噴射ヘッド24内に付着した細かい気泡を脱離させる。
【0032】
B.本実施例の気泡の脱離方法 :
図5は、噴射ヘッド24内に付着した細かい気泡を脱離させる方法を示した説明図であ
る。前述したように、噴射ヘッド24にインクの初期充填を行う際には、キャップ52を
噴射ヘッド24の底面に押し付けた状態で吸引ポンプ54を駆動させる。噴射ヘッド24
内にインクを充填した後は、噴射ヘッド24内に細かい気泡が付着しているので(図3を
参照)、次のようにして噴射ヘッド24内の気泡を脱離させる。先ず、図5(a)に示さ
れるように、キャップ52は噴射ヘッド24の底面に押し付けたまま、吸引ポンプ54を
停止させる。そして、インクカートリッジ26と噴射ヘッド24とを接続する内部通路7
0上に設けられた開閉弁78を閉じた状態とした後、噴射ヘッド24を駆動してフラッシ
ング動作を実行する。
【0033】
このとき、噴射ヘッド24内のインクには、フラッシング動作によって圧力変動が発生
するが、前述したように、フラッシング動作の成分中には、噴射ヘッド24に付着した細
かい気泡を有効に脱離させる周波数成分が十分に含まれていない(図4(b)を参照)。
従って、噴射ヘッド24内の圧力変動によって細かい気泡が脱離することはない。
【0034】
この状態から、図5(b)に示されるように、フラッシング動作を継続しながら、吸引
ポンプ54を駆動させる。このとき、内部通路70上の開閉弁78は閉じているので、噴
射ヘッド24と、その上流側との接続は遮断されている。従って、クリーニング動作によ
ってキャップ52内から空気が吸い出されることで、キャップ52と噴射ヘッド24との
間に形成された閉空間に負圧が蓄積されていく。
【0035】
キャップ52内に負圧が蓄積されると、噴射ノズルを介して、噴射ヘッド24内に負圧
が作用することで、噴射ヘッド内の圧力が低下していく。このことに伴って、噴射ヘッド
24内では、細かい気泡にかかる圧力が低下していき、結果として噴射ヘッド24内の細
かい気泡は徐々に大きくなっていく。こうして噴射ヘッド24内の気泡が大きくなる間も
、フラッシング動作は継続される。そして、噴射ヘッド24内に付着した気泡がある一定
の大きさに達したところで、気泡自身が大きく振動し始める。尚、このように気泡が振動
する現象は、気泡の「共振」と呼ばれる現象であるが、このとき噴射ヘッド24内の気泡
が共振される理由については後に詳しく説明することとする。
【0036】
こうして噴射ヘッド24内に付着した気泡が共振されると、気泡自身が振動することに
より、噴射ヘッド24内の付着箇所に対して反発する力が発生する。この力が大きくなる
と、図5(c)に示されるように、噴射ヘッド24内の共通インク室72内や個別インク
室74内の壁面などに付着した気泡が、噴射ヘッド24から脱離する。
【0037】
以上のようにして噴射ヘッド24内に付着した気泡を脱離させたら、最後に内部通路7
0上の開閉弁78を開く。こうすると、噴射ヘッド24と、その上流側とが接続されて、
インクカートリッジ26から噴射ヘッド24にインクを供給可能な状態となる。その結果
、キャップ52内に蓄積された負圧によって、噴射ノズルからインクが強力に吸い出され
る。このとき、噴射ヘッド24の内部では、気泡が共通インク室72内や個別インク室7
4内の壁面などから脱離しており(図5(c)を参照)、噴射ヘッド24内に気泡が付着
した状態と比較して、気泡を吸い出し易い状態となっている。従って、インクとともに気
泡が噴射ノズルから効率よく吸い出されて、噴射ヘッド24の外に排出される。
【0038】
以上のように、本実施例のインクジェットプリンター10において、噴射ヘッド24内
に付着した細かい気泡を脱離させる場合には、フラッシング動作を行いながら、開閉弁7
8を閉じた状態でクリーニング動作を実行することにより、噴射ヘッド24内の気泡を大
きくする。こうすると、気泡がある一定の大きさに成長した時点で共振するので、噴射ヘ
ッド24内から脱離させることが可能となる。以下では、この点について詳しく説明する

【0039】
図6は、気泡の共振周波数と気泡の大きさとの関係について示した説明図である。詳細
な説明は省略するが、気泡の共振周波数を定めたMinnaert(ミンナルト)の式によれば、
気泡の共振周波数は、気泡の半径に反比例する。従って、図6に示されるように、気泡が
大きくなるほど、気泡の共振周波数は低下する。
【0040】
また、図6には、前述したフラッシング動作に含まれる成分の中で、気泡を十分に共振
可能な成分(すなわち含量が多い成分、図4(b)を参照)の周波数が含まれる領域が、
斜線部分によって示されている。図中に示すように、噴射ヘッド24内に付着した細かい
気泡が大きくなれば、気泡を十分に共振可能な成分の周波数まで気泡の共振周波数を下げ
ることができる。その結果、噴射ヘッド内の気泡がフラッシング動作によって共振された
時点で、噴射ヘッド24内から脱離する。以上のような理由から、本実施例のインクジェ
ットプリンター10では、噴射ヘッド24内に付着した細かい気泡を脱離させる場合には
、開閉弁78を閉じた状態でクリーニング動作を実行することにより、噴射ヘッド24内
の気泡を大きくしながら、フラッシング動作を実行するようになっている。
【0041】
以上のような本実施例の気泡の脱離方法を採用すれば、細かい気泡が付着しやすい噴射
ヘッド24内から容易に気泡を脱離させることができ、クリーニングなどのメンテナンス
動作によって気泡を排出させ易くなる。従って、メンテナンス時に噴射ヘッド24内に気
泡を取り残す事態を抑制でき、結果として、噴射ヘッド24内に残った気泡が液体の噴射
中に噴射ノズルを塞いで突然、液体を噴射することができなくなるなどの弊害が生じ難く
することが可能となる。
【0042】
また、上述したように細かい気泡が噴射ヘッド24内に付着するという現象は、インク
の初期充填時に限られる現象ではない。例えば、インクを使い切って新しいインクカート
リッジ26の交換する時にも、細かい気泡が噴射ヘッド24内に付着することは起こり得
るし、また、インクジェットプリンター10を長期間、使用していれば、インク中に溶け
込んだ空気が温度変化によって気泡化するなどして、インク中に発生した気泡が噴射ヘッ
ド24内に付着することも起こり得る。本実施例の気泡の脱離方法は、こうした事態のい
ずれにも対応可能な方法である。従って、インクの初期充填時に限らず、本実施例の気泡
の脱離方法を定期的に実行することとすれば、噴射ヘッド24内に付着した気泡を脱離さ
せて、容易に排出させることが可能である。
【0043】
C.変形例 :
前述した実施例では、噴射ヘッド24内に付着した気泡を脱離させる場合、キャリッジ
20に設けられた内部通路70上の開閉弁78を閉じた状態でクリーニング動作を行いな
がら、フラッシング動作を行うものと説明した。しかし、クリーニング動作とフラッシン
グ動作とは、必ずしも同時に行う必要はなく、例えば次のようにしてもよい。
【0044】
図7は、変形例の気泡の脱離方法を示した説明図である。前述したように、開閉弁78
を閉じた状態でクリーニング動作を行うと、噴射ヘッド24内の気泡が徐々に大きくなり
これに伴って気泡の共振周波数が低下していく。ここで、噴射ヘッド24内での気泡の大
きくなる速度はそれほど早くはないので、気泡の共振周波数が、フラッシング動作の駆動
パルスに含まれる有効な成分の周波数に達するまでには一定の時間がかかる。従って、こ
の間にフラッシング動作を行ったとしても、噴射ヘッド24内の気泡が共振されることは
ない。そこで、噴射ヘッド24内の気泡を脱離させる場合には、先ず、図7(a)に示す
ように、開閉弁78を閉じた状態でクリーニング動作のみを行う。そして、しばらくして
噴射ヘッド24内の気泡が十分に大きくなり、気泡の共振周波数が、駆動パルス中の有効
な成分の周波数に達したら、図7(b)に示すように、フラッシング動作を開始する。
【0045】
このような方法によっても、噴射ヘッド24内に付着した気泡を十分に共振させ、噴射
ヘッド24から脱離させることができる。また、噴射ヘッド24内の気泡が十分な大きさ
に達するまでの間は、フラッシング動作を行わないので、フラッシング動作を行うことに
よって消費される電力を節約することが可能となる。
【0046】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
2…印刷媒体、 10…インクジェットプリンター、 20…キャリッジ、
22…キャリッジケース、 24…噴射ヘッド、 26…インクカートリッジ、
30…駆動機構、 32…タイミングベルト、 34…駆動モーター、
36…ガイドレール、 40…プラテンローラー、 50…メンテナンス機構、
52…キャップ、 54…吸引ポンプ、 56…廃液タンク、
60…制御部、 70…内部通路、 72…共通インク室、
74…個別インク室、 76…ピエゾ素子、 78…開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体が収容された液体収容部から前記噴射ヘッドに液体を導く液体通路と、
前記液体通路上に設けられた開閉弁を閉じた状態で、前記噴射ノズルから前記噴射ヘッ
ド内に負圧を作用させる負圧作用手段と、
前記噴射ヘッド内に負圧を作用させた状態で、前記噴射ノズルから液体を噴射すること
により、該噴射ヘッド内の気泡を排出する気泡排出手段と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記液体排出手段は、前記負圧作用手段で前記噴射ヘッド内に負圧を作用させながら、
前記噴射ノズルから液体を噴射することにより、前記気泡を排出する手段である液体噴射
装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記気泡排出手段は、前記負圧作用手段を用いて前記噴射ヘッド内の圧力を低下させた
後に、前記噴射ノズルから液体を噴射して前記気泡を排出する手段である液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−183762(P2011−183762A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54099(P2010−54099)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】