説明

液体噴射装置

【課題】振動や衝撃などが作用するような状況下において、ガイド部材の斜面に液体が着弾しないように、フラッシングで排出された液体の着弾位置を切り換えることができる。
【解決手段】インクジェットプリンタは、ブラックのノズル16bkのフラッシングにおいて、ユーザによる使用が開始される前には、ノズル16bkを吸収フォーム54と対向させてフラッシングを行い、ユーザによる使用が開始された後には、ノズル16bkのフラッシング位置を切り換えて、斜面52aと対向させてフラッシングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドを有する液体噴射装置において、乾燥により増粘したノズル内の液体を排出するなどの目的から、適宜のタイミングでノズルから液体を噴射させる、フラッシングを行うことが知られている。通常、フラッシングによりノズルから噴射された液体は、廃液タンクや廃液タンク内のフォームに直接着弾させるが、中には、廃液タンクとは別に斜面を有するガイド部材を配置し、この部材の斜面に、フラッシングでノズルから噴射した液体を着弾させているものもある。
【0003】
例えば、上述したように、フラッシングにおいてノズルから噴射した液体を斜面に着弾させる液体噴射装置として、特許文献1には、シリアル式のインクジェットヘッドを有し、インクジェットヘッドを往復走査しながら記録用紙に対してノズルからインクを噴射して記録を行う、インクジェット記録装置について開示されている。
【0004】
このインクジェット記録装置は、フラッシングでノズルから噴射された液体を受容する廃液タンクと、インクジェットヘッドの走査方向に沿った紙案内部材の外側に配置されたガイド部材とを備えており、このガイド部材が紙案内部材側(内側)に傾斜することで、斜面に着弾した液体を滑落させて廃液タンクに受容している。
【0005】
また、フラッシングでノズルから噴射された液体を斜面に着弾させる構成としては、例えば、フラッシングでノズルから噴射された液体を受容する液体受容部の容積を大きくするために、液体受容部の深さを深く形成しているものがあり、このような構成では、液体を噴射するノズルから、液体が着弾する液体受容部の底面までの距離が長くなり、それにともないノズルから噴射された液体の飛翔時間が長くなる。すると、飛翔する液体は重力に抗う大きな空気抵抗を長い時間受けることになり、拡散してミストになりやすい。そこで、ノズルと液体受容部の底面との間に斜面を有するガイド部材を配置して、ノズルから噴射した液体を斜面に着弾させて、斜面に沿って滑落させることで、液体が受ける空気抵抗を小さくしながら廃インクタンク内に排出している。
【0006】
ここで、斜面に液体が着弾しても、ノズルから噴射される液滴径は小さいために、すぐに滑落するのではなく、フラッシング時の複数回の噴射動作で噴射された液体が重ね合わされて、その付着量が一定量以上になることで、斜面に着弾した液体は初めて重力で滑落している。
【0007】
【特許文献1】特開2000−168105号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、液体噴射装置には、さまざまな要因によって外部から振動や衝撃が作用することがある。例えば、液体噴射装置の出荷前には、品質チェックとして、フラッシングが行われ、その後、出荷時の搬送によって振動や衝撃が作用する。また、ユーザの使用開始後においても、印字前などにフラッシングが行われ、その後に、引越しや装置の修理などで搬送する際にも振動や衝撃が作用する。そして、フラッシングで斜面に着弾したが滑落していない液体は、斜面に不安定な姿勢で付着しているため、振動や衝撃によって周囲に飛び散りやすい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、振動や衝撃などが作用するような状況下において、ガイド部材の斜面に液体が着弾しないように、フラッシングで排出された液体の着弾位置を切り換えることができる液体噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する第1ノズルを有する液体噴射ヘッドと、フラッシング時に前記液体噴射ヘッドから噴射されて着弾した液体を滑落させるための斜面を有するガイド部材を含み、前記フラッシング時に前記液体噴射ヘッドから噴射された液体を受容する液体受容部と、前記液体噴射ヘッドを前記液体受容部に対して相対移動させる移動手段と、前記第1ノズルのフラッシング時における前記液体受容部に対する前記第1ノズルのフラッシング位置を、前記移動手段により、前記液体受容部のうち、前記ガイド部材の前記斜面に前記第1ノズルから噴射した液体が着弾する第1位置と、前記斜面に前記第1ノズルから噴射した液体が着弾しない第2位置とで切り換える切り換え手段と、を備えている。
【0011】
本発明の液体噴射装置によると、第1ノズルのフラッシング時において、第1ノズルから噴射した液体が着弾する位置を、液体受容部のうちのガイド部材の斜面ではない位置に切り換えれば、斜面に液体が付着することがなく、フラッシングで排出された液体の振動や衝撃による飛び散りを抑制することが可能となる。このように、振動や衝撃などが作用するような状況下において、ガイド部材の斜面に液体が着弾しないように、切り換え手段により、第1ノズルのフラッシング時において、第1ノズルから噴射した液体が着弾する位置を、液体受容部のうち、ガイド部材の斜面とこの斜面ではない位置とで切り換えることができる。
【0012】
このとき、前記液体受容部は、前記ガイド部材と離れて配置され、液体を吸収可能な吸収体をさらに含んでおり、前記第2位置は、前記第1ノズルから噴射した液体が前記吸収体に着弾する位置としてもよい。
【0013】
これによると、第2位置では第1ノズルから噴射された液体はフォームに吸収されて保持されるため、振動や衝撃により飛び散りにくくなる。
【0014】
また、前記液体受容部は、前記斜面から滑落した液体を貯留可能に前記ガイド部材の下方に配置された廃液タンクをさらに含んでおり、前記第2位置は、前記第1ノズルから噴射した液体が前記廃液タンクの内側面と前記ガイド部材との間を通過して前記廃液タンクに直接受容される位置としてもよい。
【0015】
これによると、第2位置では第1ノズルから噴射された液体はガイド部材の斜面を介さずに廃液タンク内に直接受容されるため、振動や衝撃により飛び散りにくくなる。
【0016】
また、前記液体受容部は、前記ガイド部材と離れて配置され、前記第1ノズルを覆うキャッピング位置と、前記液体噴射ヘッドに対して離れたアンキャッピング位置とに移動可能なキャップをさらに備えており、前記第2位置は、前記第1ノズルから噴射した液体が前記アンキャッピング位置の前記キャップに着弾する位置としてもよい。
【0017】
これによると、第2位置では第1ノズルから噴射された液体はキャップに吸収されるため、振動や衝撃により飛び散ることがない。
【0018】
また、前記液体受容部は、前記ガイド部材と離れて配置され、液体を吸収可能な吸収体をさらに含んでおり、前記液体噴射ヘッドは、第2ノズルをさらに有しており、前記第1ノズルから顔料インクを噴射し、前記第2ノズルから染料インクを噴射しており、前記第2ノズルの前記フラッシング時には、前記液体噴射ヘッドの前記第2ノズルから噴射したインクを前記吸収体に排出しており、前記第2位置は、前記斜面に加えて、前記吸収体にも前記第1ノズルから噴射した液体が着弾しない位置であることが好ましい。
【0019】
顔料インクと染料インクは混ざり合うと凝集が生じて固形物となり堆積するおそれがある。そのため、フラッシングで噴射された顔料インクと染料インクは混合しないように、それぞれ別の位置に着弾させるのが好適である。しかしながら、そのために、第1ノズルから噴射された顔料インクを、第2ノズルから噴射された染料インクが着弾するフォームではなく、ガイド部材の斜面に着弾させると、上述したように振動や衝撃が生じた際に飛び散りやすい。そこで、フラッシングで第1ノズルから噴射した液体を着弾させる位置を、ガイド部材の斜面でも、フォームでもない位置とするのが望ましい。
【0020】
また、前記液体受容部は、前記斜面から滑落した液体を貯留可能に前記ガイド部材の下方に配置された廃液タンクと、前記ガイド部材と離れて配置されるとともに、排出口が前記廃液タンクと接続され、液体を吸収可能な吸収体と、をさらに含んでおり、前記液体噴射ヘッドは、第2ノズルをさらに有しており、前記第1ノズルから顔料インクを噴射し、前記第2ノズルから染料インクを噴射しており、前記第2ノズルの前記フラッシング時には、前記液体噴射ヘッドの前記第2ノズルから噴射したインクを前記吸収体に排出しており、前記第2位置は、前記吸収体の、前記第2ノズルの前記フラッシング時に前記第2ノズルから噴射したインクを着弾する位置よりも前記排出口から遠い位置としてもよい。
【0021】
染料インクは、顔料インクとは異なり、色材が溶液中に溶けているため、フォームに排出された際に、顔料インクに比べて、フォームに吸収されて下方に移動するのが早い。また、上述したように、顔料インクと染料インクは混ざり合うと凝集が生じて固形物となり堆積するおそれがある。そこで、移動速度の遅い顔料インクを染料インクが排出される位置よりも排出口から遠い位置に着弾させることで、染料インクが先に排出口から排出されるため、顔料インクと染料インクが混ざり合って凝集が生じるのを抑制することができる。また、液体受容部として、ガイド部材とフォーム以外に、液体を着弾させる別の領域を確保する必要がなく、装置を小型化することができる。
【0022】
また、ユーザによる最初の使用が開始されたか否かを判定する使用開始判定手段をさらに備えており、前記切り換え手段は、前記使用開始判定手段によってユーザによる使用が開始されていないと判定された場合には、前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第2位置に設定し、前記使用開始判定手段によって使用が開始されたと判定された場合には、前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第2位置から前記第1位置に切り換えることが好ましい。
【0023】
これによると、ユーザによる最初の使用が開始されると、フラッシングで第1ノズルから噴射した液体をガイド部材の斜面に着弾させる構成において、ユーザによる使用が開始される前には、フラッシングで第1ノズルから噴射された液体をガイド部材の斜面ではない位置に着弾させている。そのため、出荷による搬送時に振動や衝撃が生じて、フラッシングにより排出された液体が飛び散るのを抑制することができる。
【0024】
また、前記液体噴射ヘッドで使用される液体が貯留されたカートリッジを着脱可能なカートリッジ装着部をさらに備えており、ユーザによる最初の使用が開始された段階で前記液体噴射ヘッド内に充填されている液体を、前記カートリッジ装着部に装着された前記カートリッジ内の液体で置換する初期置換動作を行っており、前記使用開始判定手段は、前記初期置換動作が行われると、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定してもよい。
【0025】
これによると、初期置換動作をもってユーザによる最初の使用が開始されたと判定することで、出荷前後でフラッシング位置を切り換えることができる。
【0026】
また、前記液体噴射ヘッドで使用される液体が貯留されたカートリッジを着脱可能なカートリッジ装着部をさらに備えており、ユーザによる最初の使用が開始された段階で前記液体噴射ヘッド内に充填されている液体を、前記カートリッジ装着部に装着された前記カートリッジ内の液体で置換する初期置換動作を行っており、前記初期置換動作が行われた後の、前記液体噴射ヘッドから噴射された液量を検出する液量検出手段をさらに備えており、前記使用開始判定手段は、前記液量検出手段により検出された液量に応じて、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定してもよい。
【0027】
製造した装置については、出荷前には、全ての装置ではなく、一部の装置だけ抜き取り検査を行うことがある。その場合、抜き取り検査として、出荷後のユーザの使用状況を想定して、初期置換動作を行い、その後にフラッシングなどの検査が行われて出荷される。この場合、仮に、初期置換動作をもってフラッシング位置を切り換えると、この抜き取り検査時の初期置換動作でフラッシング位置が切り換わることになり、その後の出荷前の抜き取り検査時のフラッシングで、第1ノズルから噴射された液体がガイド部材の斜面に着弾することになってしまい、出荷時の搬送による振動や衝撃で斜面に付着した液体が飛び散るおそれがある。そこで、初期置換動作が行われた後の、液体噴射ヘッドから噴射された液量に応じて、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定する。これにより、出荷前後で確実にフラッシング位置を切り換えることができる。
【0028】
前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第2位置に設定する第2位置設定手段をさらに備えており、前記切り換え手段は、前記液体噴射装置に電源が供給されると、前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第1位置に設定しており、前記第2位置設定手段によって位置変更されると、前記第1位置から前記第2位置に切り換えてもよい。
【0029】
これによると、第1ノズルのフラッシングを第2位置に行うときだけ、第2位置設定手段により第2位置に設定する。また、液体噴射装置に電源が供給されると、第1ノズルのフラッシングの位置は第1位置に設定されるため、第2位置のまま電源をOFFして、その後に電源をONしたときに、第2位置から第1位置に確実且つ簡単に切り換えることができる。
【発明の効果】
【0030】
第1ノズルのフラッシング時において、第1ノズルから噴射した液体が着弾する位置を、液体受容部のうちのガイド部材の斜面ではない位置に切り換えれば、斜面に液体が付着することがなく、フラッシングで排出された液体の振動や衝撃による飛び散りを抑制することが可能となる。このように、振動や衝撃などが作用するような状況下において、ガイド部材の斜面に液体が着弾しないように、切り換え手段により、第1ノズルのフラッシング時において、第1ノズルから噴射した液体が着弾する位置を、液体受容部のうち、ガイド部材の斜面とこの斜面ではない位置とで切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】カラーのノズルのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図5】ユーザ使用開始後の、ブラックのノズルからのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図6】ユーザ使用開始前の、ブラックのノズルからのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図7】インクジェットプリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【図8】変形例に係る、ユーザ使用開始前の、ブラックのノズルのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図9】変形例に係る、ユーザ使用開始前の、ブラックのノズルのフラッシング時における、キャップ部材の走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図10】変形例におけるインクジェットプリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0033】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液体噴射装置)は、記録用紙Pが載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4(液体噴射ヘッド)と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットヘッド4の液体噴射性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置7(図7参照)などを備えている。
【0034】
プラテン2の上面には、図示しない給紙機構から供給された記録用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10、11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10、11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。
【0035】
また、2本のガイドレール10、11は、プラテン2よりもさらに走査方向に沿って図1の左方及び右方に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙Pと対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2から左右両方向に離れた位置まで移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12、13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されると、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行にともなって走査方向に移動するようになっている。
【0036】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に搭載されており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル16が開口するインク噴射面4a(図3(b)参照)となっている。そして、このインク噴射面4aの複数のノズル16から、プラテン2に載置された記録用紙Pに対してインクを噴射する。
【0037】
また、インクジェットヘッド4の上面には、各色のインクに対応した4つのインク供給口36(図2参照)が設けられており、この4つのインク供給口36に4本のチューブ17の一端が接続されている。そして、4本のチューブ17の他端は、各色のインクが貯留された4つのインクカートリッジ8を着脱自在なカートリッジ装着部9に接続されており、これにより、カートリッジ装着部9に装着された4つのインクカートリッジ8から4本のチューブ17を介して供給された各色のインクが、インクジェットヘッド4へ供給される。
【0038】
次に、インクジェットヘッド4の具体的な構成について説明する。図2は、インクジェットヘッド4の平面図である、図3(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図2、図3に示すように、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16及び複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成された流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置された圧電アクチュエータ31と、を有している。
【0039】
図3(b)に示すように、流路ユニット30は、4枚のプレートが積層された構造を有し、この流路ユニット30の下面(インク噴射面4a)には複数のノズル16が形成されている。図2に示すように、これら複数のノズル16は搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4列のノズル列33を構成している。4列のノズル列33(33bk、33y、33c、33m)にそれぞれ属するノズル16(16bk、16y、16c、16m)からは、顔料インクであるブラックインクと、染料インクである3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)の、合計4色のインクがそれぞれ噴射される。
【0040】
また、流路ユニット30には、複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成され、4列のノズル列33に対応して、複数の圧力室34も4列に配列されている。さらに、流路ユニット30には、それぞれ搬送方向に延在し、4列の圧力室列にブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクを供給する4本のマニホールド35が形成されている。なお、4本のマニホールド35は、流路ユニット30の上面に形成された4つのインク供給口36に接続されている。
【0041】
図3(b)に示すように、圧電アクチュエータ31は、複数の圧力室34を覆う振動板40と、この振動板40の上面に配置された圧電層41と、圧電層41の上面に複数の圧力室34に対応して配置された複数の個別電極42と、を有している。圧電層41の上面に位置する複数の個別電極42は、圧電アクチュエータ31を駆動するドライバIC47とそれぞれ接続されており、ドライバIC47から複数の個別電極42に対して所定の駆動電圧が独立して印加されるようになっている。また、圧電層41の下面に位置する振動板40は金属材料で形成されており、圧電層41を挟んで複数の個別電極42と対向する共通電極の役割を果たす。この振動板40はドライバIC47のグランド配線に接続されて常にグランド電位に保持される。
【0042】
この圧電アクチュエータ31は、ドライバIC47から、ある個別電極42と共通電極としての振動板40の間に上記駆動電圧が印加されたときに、両者の間に挟まれた圧電層41の圧電変形(圧電歪)によって圧力室34に体積変化を生じさせ、圧力室34内のインクに圧力を付与する。このとき、圧力が付与された圧力室34に連通するノズル16からインクが噴射されることになる。
【0043】
図1に戻って、搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18、19を有し、これら2つの搬送ローラ18、19によって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向(図1の下方)に搬送する。
【0044】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18、19によって記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙Pに所望の画像や文字などを記録する。
【0045】
次に、メンテナンスユニット6について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1の右側)に離れた位置に、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aに接触して複数のノズル16の開口を覆う吸引キャップ21と、吸引キャップ21に接続された吸引ポンプ23(吸引手段)とを有している。
【0046】
吸引キャップ21は、内部にキャップチップ22(図1、図9参照)が収容されており、モータなどの駆動手段を含むキャップ駆動機構25(図9参照)により昇降駆動され、インク噴射面4aに対して離接する。そして、インク噴射面4aに接触したときには、ブラックのノズル16bk及び3色のカラーのノズル16clを覆う。このように、吸引キャップ21がキャッピング状態にあるときに、吸引ポンプ23を駆動して、吸引キャップ21内を吸引して減圧させることで、吸引キャップ21によって覆われた全てのノズル16からインクを排出させる(吸引パージ)。そして、吸引ポンプ23は、後述する廃液タンク50に接続されており、吸引パージにより吸引排出されたインクは、吸引ポンプ23を介して、廃液タンク50に回収される。
【0047】
また、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向他方側(図1の左側)に離れた位置に、後述するフラッシングでノズル16から排出されたインクを受容する廃液タンク50と、廃液タンク50内の上部に配置された液受け部材51及びガイド部材52とを有している。なお、本実施形態におけるメンテナンスユニット6が、本発明における液体受容部に相当する。
【0048】
図4は、カラーのノズルのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。図5は、ユーザ使用開始後の、ブラックのノズルのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。図6は、ユーザ使用開始前の、ブラックのノズルのフラッシング時における、廃液タンクの走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【0049】
図4〜図6に示すように、廃液タンク50は、上方に開口した箱状であり、その内部に保持フォーム53が収容されており、保持フォーム53の上方に、液受け部材51(受容部)とガイド部材52が走査方向に並べて配置されている。液受け部材51は、上方に開口した箱状であり、その内部に吸収フォーム54が配置されている。そして、液受け部材51の底面における走査方向の一方側(図4の右方)には、排出口51aが形成されており、この排出口51aは一端が保持フォーム53の上面に接触したチューブ55の他端と連結されている。これにより、吸収フォーム54に吸収されたインクは下方に移動して、排出口51aからチューブ55を介して保持フォーム53に排出される。なお、吸収フォーム54は、保持フォーム53よりも目が粗くなっている。これは、吸収フォーム54が、後述するフラッシングにより着弾したインクを保持しつつも、目詰まりせずに迅速に下方に移動させることを主目的としているのに対して、保持フォーム53は、吸収したインクを飛び散らないように保持することを主目的としているからである。
【0050】
ガイド部材52は、搬送方向に配列されたノズル列33以上の長さを有しており、下端からその途中部まで鉛直方向に延在して、そこから上端まで走査方向の一方側(図4の右方)に湾曲して斜面52aを形成している。そして、フラッシング時には、この斜面52aにノズル16から噴射されたインクが着弾するが、この斜面52aの傾斜角度は、急にしすぎて、ノズル16から噴射されたインクが着弾しにくくならず、また、緩やかにしすぎて、斜面52a上から滑落せずに乾燥して堆積しやすくならないような傾斜角度となっている。また、斜面52aの撥水性は、大きすぎて、斜面52aに対するインクの付着力が小さくなりすぎて、遊離飛散してインクミストとならず、また、小さすぎて、斜面52aに付着したインクが濡れ広がりすぎて、滑落せずに乾燥して堆積しやすくならないような撥水性となっている。そして、斜面52aは、複数回の噴射動作で噴射されたインクが重ね合わされて所定量以上の大きさとなったときに重力で滑落するように構成されている。
【0051】
本実施形態のインクジェットプリンタ1は、適宜のタイミングで、インクジェットヘッド4の複数のノズル16からそれぞれインクを間欠的に噴射させてインクを排出する、フラッシングを行うように構成されている。
【0052】
本実施形態では、吸引キャップ21による吸引パージが終了した直後にフラッシング(パージ後フラッシング)を行う。これは、吸引パージで排出された排インクの一部はインク噴射面4aに付着し、この排インクは、吸引キャップ21がインク噴射面4aから離間する際に、インクジェットヘッド4内の背圧によってノズル16内に吸い込まれる。そして、ノズル16内のインクと排インクが混色してしまう。そこで、吸引パージ後に吸引キャップ21がインク噴射面4aから離間した後に、フラッシングを行うことで、ノズル16に吸い込まれた排インクを排出して、混色を防止している。
【0053】
また、インクジェットヘッド4の休止時には、ノズル16は吸引キャップ21に覆われているが、吸引キャップ21が大気連通状態であることからノズル16内のインクには乾燥(増粘)が生じる。そこで、このような増粘インクをノズル16から排出するために、インクジェットヘッド4による印字開始前にフラッシング(印字前フラッシング)を行う。その他にもインクジェットヘッド4による印字途中に行う印字中フラッシングや所定時間経過するたびに行う定期フラッシングなども行う。
【0054】
また、上述したような出荷後のフラッシングに限らず、出荷前の品質チェックや抜き取り検査時にもフラッシングを行うように構成されている。
【0055】
次に、フラッシング時のインクジェットヘッド4(より正確には、ブラックのノズル16bk)の位置について説明する。なお、ここでは、ユーザ使用開始前後のフラッシング時のインクジェットヘッド4の位置についてだけ説明し、この位置を切り換える手法については後述する。また、フラッシング時には、インクジェットヘッド4は走査方向に走行せずに停止しており、ノズル16から噴射したインクは直下に噴射されるものとする。また、ブラックのノズル16bkのフラッシングと3色のカラーのノズル16clのフラッシングは、同時ではなく、順番に行われているものとする。
【0056】
まず、ユーザによる最初の使用開始後のフラッシングについて説明する。この場合、3色のカラーのノズル16clについては、図4に示すように、カラーのノズル16clを液受け部材51に収容された吸収フォーム54と対向させた位置でフラッシングを行い、カラーのノズル16clから吸収フォーム54に対してインクを噴射させる。
【0057】
また、ブラックのノズル16bkについては、図5に示すように、ブラックのノズル16bkをガイド部材52の斜面52aと対向させた位置(第1位置)でフラッシングを行い、ブラックのノズル16bkから斜面52aに対してインクを噴射させる。
【0058】
次に、ユーザによる最初の使用開始前のフラッシングについて説明する。この場合、カラーのノズル16clについては、上述したユーザ使用開始後と同様に、吸収フォーム54と対向させて、吸収フォーム54に対してインクを噴射させる。
【0059】
一方、ブラックのノズル16bkについては、図6に示すように、ブラックのノズル16bkを液受け部材51に収容された吸収フォーム54の、カラーのノズル16clから噴射されたインクが着弾する位置よりも、排出口51aから遠い位置(図6の左方の位置:第2位置)と対向させた状態でフラッシングを行い、ブラックのノズル16bkから吸収フォーム54に対してインクを噴射させる。
【0060】
これは、仮に、ユーザによる最初の使用開始前に、ブラックのノズル16bkのフラッシングで、斜面52aにインクを着弾させると、出荷時の搬送によってインクジェットプリンタ1に振動や衝撃が作用する。このとき、斜面52aに付着したままで滑落していないインクが存在すると、このインクは斜面52aに不安定な姿勢で付着しているため、振動や衝撃によってインクジェットプリンタ1内に飛び散りやすい。
【0061】
すると、例えば、飛び散ったブラックのインクが搬送機構5による記録用紙Pの搬送量を検出するためのエンコーダ(図示せず)や、キャリッジ3の走査方向の位置を検出するためのエンコーダ(図示せず)のスリットに付着してしまい、エンコーダの信号を誤検出して、インクジェットプリンタ1が誤動作や動作不能になってしまうおそれがある。
【0062】
そこで、本実施形態では、フラッシングでブラックのノズル16bkから噴射されるインクをガイド部材52の斜面52aに着弾させないように切り換えることが可能となり、フラッシングで排出されたインクの振動や衝撃による飛び散りを抑制することが可能となっている。
【0063】
次に、制御装置7を中心とするインクジェットプリンタ1の制御系について、図7のブロック図を参照して詳細に説明する。図7に示されるインクジェットプリンタ1の制御装置7は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、インクジェットプリンタ1の全体動作を制御するための各種プログラムやデータなどが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)などを含むマイクロコンピュータを有し、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような種々の制御を行う。あるいは、制御装置7は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0064】
この制御装置7は、インクジェットヘッド4を制御するヘッド制御部61と、キャリッジ3を走査方向に駆動するキャリッジ駆動モータ15を制御するキャリッジ制御部62と、搬送機構5を制御する搬送制御部63とを含む、記録制御部60を有している。記録制御部60は、PC70から入力された、記録する画像などに関するデータに基づき、インクジェットヘッド4、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5をそれぞれ制御して、記録用紙Pへの記録を行わせる。
【0065】
また、制御装置7は、メンテナンスユニット6の吸引ポンプ23や吸引キャップ21を昇降させるキャップ駆動機構25のモータなどの駆動手段を制御して、上述した吸引パージを制御するメンテナンス制御部65と、インクジェットヘッド4のフラッシングを制御するフラッシング制御部66とを有している。
【0066】
さらに、制御装置7は、キャリッジ駆動モータ15を制御して、フラッシングを行う位置を制御するフラッシング位置制御部67と、ユーザによる使用が開始されたか否かを判定する使用開始判定部68と、ノズル16から噴射されたインク量を検出する噴射量検出部69とを有している。
【0067】
なお、上述したヘッド制御部61、キャリッジ制御部62、搬送制御部63、メンテナンス制御部65、フラッシング制御部66、フラッシング位置制御部67、使用開始判定部68、及び、噴射量検出部69のそれぞれの機能は、実際には、制御装置7を構成するマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。
【0068】
次に、ユーザによる最初の使用開始前後でのフラッシング時のインクジェットヘッド4の位置の切り換えについて説明する。なお、カラーのノズル16clのフラッシングについては、ユーザによる最初の使用開始前後でその位置を切り換えることなく、常に吸収フォーム54に対して行われる。すなわち、以下においては、ブラックのノズル16bkのフラッシングにおける、ユーザによる最初の使用開始前後でのインクジェットヘッド4の位置の切り換えについて説明する。インクジェットプリンタ1が製造された段階では、フラッシング位置制御部67は、キャリッジ駆動モータ15を制御して、ブラックのノズル16bkを吸収フォーム54の排出口51aから離れた端部(図6に示す位置)と対向させる。そして、フラッシング制御部66が、インクジェットヘッド4を制御して、この位置にインクを噴射させる。
【0069】
なお、この状態で行われるフラッシングとしては、インクジェットヘッド4を組み立てたときの、エンジン初期導入後のフラッシングや、このフラッシング後に流路ユニット30内にエアが混入している場合に吸引パージを行った後のエンジン追加パージ後フラッシングや、インクジェットヘッド4内に充填されている、インクカートリッジ8に貯留されているような記録用のインクを、ノズル16の噴射性能を維持できるような、色材濃度の薄い出荷用のインクで置換する出荷液置換後フラッシングが挙げられる。
【0070】
そして、インクジェットプリンタ1は製造されて出荷される際には、上述したように、出荷用のインクが、流路ユニット30などのインクジェットヘッド4内に充填されている。そして、検査後の出荷前にユーザから所定のコマンドが制御装置7に入力されることで、次に電源投入されてインクジェットプリンタ1が駆動すると、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定して、吸引パージにより、インクジェットヘッド4内に充填されている出荷用のインクをインクカートリッジ8内の記録用のインクで置換する初期置換動作が行われるように設定されている。
【0071】
そして、初期置換動作が行われた後から、噴射量検出部69が、記録動作やフラッシングによってノズル16bkから噴射されたインクの総量を検出する。そして、使用開始判定部68が、噴射量検出部69により、インクジェットヘッド4から噴射されたインクが所定量を超えたことを検出すると、出荷されてユーザによる使用が開始されたと判定し、これ以降のフラッシング時については、フラッシング位置制御部67は、キャリッジ駆動モータ15を制御して、ブラックのノズル16bkをガイド部材52の斜面52aと対向させる。そして、フラッシング制御部66が、インクジェットヘッド4を制御して、この位置にインクを噴射させる。このように上記コマンドが入力されることで、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定して、初期置換動作及びフラッシング位置の切り換えが行われる。
【0072】
上述したインクジェットプリンタ1によると、ユーザ使用開始前において、ブラックのノズル16bkからのフラッシングで噴射されたインクは、ガイド部材52の斜面52aではなく、吸収フォーム54に吸収されて保持されるため、出荷による搬送時に振動や衝撃により飛び散りにくくなる。そして、出荷後に定置されてユーザによる使用が開始されると、ブラックのノズル16bkから噴射されたインクを着弾させる位置を、ガイド部材52の斜面52aに切り換えることができる。このように、振動や衝撃などが作用するような状況下において、ガイド部材52の斜面52aにインクが着弾しないように、フラッシングで排出されたインクの着弾位置を切り換えることができる
【0073】
ここで、出荷前には、全てのインクジェットプリンタ1ではなく、一部のインクジェットプリンタ1だけ抜き取り検査を行うことがある。その場合、抜き取り検査として、出荷後のユーザの使用状況を想定して、上記所定のコマンドを入力して、初期置換動作を行い、その後にフラッシングなどの検査が行われて、その後、再度出荷用のインクが置換されて出荷される。この場合、仮に、初期置換動作をもってブラックのノズル16bkのフラッシング位置を切り換えると、この抜き取り検査時の初期置換動作でブラックのノズル16bkのフラッシング位置が切り換わることになる。すると、その後の出荷前の抜き取り検査時における初期置換動作後のフラッシングで、ブラックのノズル16bkから噴射されたインクがガイド部材52の斜面52aに着弾することになってしまい、出荷時の搬送による振動や衝撃で斜面52aに付着したインクが飛び散るおそれがある。
【0074】
そこで、初期置換動作後に所定量を超えるインクが噴射されたことを検出して、ユーザによる使用が開始されたと判定することで、全てのインクジェットプリンタ1について、出荷前の検査などでのフラッシング時と使用開始後のユーザが使用しているときのフラッシング時とで確実にフラッシング位置を切り換えることができる。
【0075】
なお、上述したように、カラーインクは染料インクであり、顔料インクであるブラックインクとは異なり、色材が溶液中に溶けているため、例えば吸収フォーム54に排出された際に、ブラックインクに比べて、吸収フォーム54に吸収されて下方に移動するのが早い。仮に、ブラックインクは、フラッシングで常に吸収フォーム54に噴射させていると、吸収フォーム54内に吸収される前にその表面で乾燥して堆積してしまうことがある。そして、堆積物が大きくなると、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aに接触して、インク噴射面4aを傷つけてしまうことがある。
【0076】
そこで、ブラックインクを噴射するノズル16bkとこのノズル16bkから噴射されたインクが着弾する位置までの距離が遠くなるように、ノズル16bkから噴射したインクを吸収フォーム54ではなく、さらに下方にある保持フォーム53に、ガイド部材52を介さずに直接噴射させる手法が考えられるが、この距離が長くなると、飛翔する間にインクミストとなってしまい、浮遊してインクジェットプリンタ1内を汚してしまうおそれがある。
【0077】
そこで、ブラックインクを噴射するノズル16bkとこのノズル16bkから噴射されたインクが着弾する保持フォーム53の間にガイド部材52を配置して、ガイド部材52の斜面52aにインクを着弾させることで、インクはある一定量の大きさになると重力でガイド部材52に沿って滑落することになり、ミストにならずに保持フォーム53に受容されやすくなる。
【0078】
また、染料インクと顔料インクが混ざり合うと凝集が生じて固形物となり堆積するおそれがある。そこで、移動速度の遅い顔料インクからなるブラックインクを染料インクからなるカラーインクが排出される位置よりも液受け部材51の排出口51aから遠い位置に排出させることで、カラーインクが先に排出口51aから排出されるため、ブラックインクとカラーインクが混ざり合って凝集が生じるのを抑制することができる。また、ガイド部材52と液受け部材51以外に、インクを着弾させる別の領域を確保する必要がなく、インクジェットプリンタ1を小型化することができる。
【0079】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0080】
本実施形態においては、出荷前のフラッシングでのブラックのノズル16bkのフラッシング位置を、吸収フォーム54の、カラーのノズル16clから噴射されるインクが着弾する位置よりも排出口51aから離れた位置としていたが、この位置に限らず、メンテナンスユニット6内の、ガイド部材52の斜面52aと対向しない位置であれば、いかなる位置であってもよい。以下、3つのフラッシング位置を例に挙げて説明する。
【0081】
まず、1つ目として、出荷前のフラッシングでブラックのノズル16bkから噴射されたインクを、吸収フォーム54の、カラーのノズル16clから噴射されたインクが着弾する位置と同じ位置に着弾させてもよい。これは、出荷前にフラッシングが行われること自体が極端に少なく、ブラックのノズル16bkのフラッシングで吸収フォーム54に吸収されるインクは微量であるため、このときに噴射されたブラックインクとカラーインクと混ざり合っても凝集は起こりにくいと考えられるからである。
【0082】
次に、2つ目として、図8に示すように、出荷前のフラッシングでブラックのノズル16bkから噴射されたインクを、ガイド部材52を介さずに、直接廃液タンク50の保持フォーム53に着弾させてもよい。これによると、ブラックのノズル16bkから噴射されたインクは廃液タンク50の保持フォーム53に吸収され、振動や衝撃により飛び散りにくくなる。また、仮に、廃液タンク50内に保持フォーム53が収容されておらず、ブラックのノズル16bkから噴射されたインクが直接廃液タンク50の底面に着弾したとしても、斜面52aに比べて安定した姿勢で廃液タンク50の底面に付着しているため、振動や衝撃により飛び散りにくくなる。なお、この場合、上述したように、保持フォーム53に着弾するまでの間にインクミストになってしまうおそれがあるが、出荷前にフラッシングが行われること自体が極端に少なく、ブラックのノズル16bkのフラッシングで噴射されるインクは微量であるため、インクミストの影響はないものと考えられる。
【0083】
最後に、3つ目として、図9に示すように、出荷前のフラッシングでブラックのノズル16bkから噴射されたインクを、アンキャップ時の吸引キャップ21に着弾させて、その後に、吸引ポンプ23を駆動してもよい。これによっても、吸引キャップ21内に着弾したインクは吸収されるため、振動や衝撃により飛び散ることがない。なお、吸引パージに利用される吸引キャップに限らず、ノズル面4aを覆って、ノズル16内のインクの乾燥を抑制するための、吸引ポンプ23と接続されていない、単なるキャップにも本変形例を適用することができる。この場合でも、斜面52aに比べて安定した姿勢でキャップの底面に付着しているため、振動や衝撃により飛び散りにくくなる。
【0084】
また、本実施形態においては、メンテナンスユニット6に対して、インクジェットヘッド4を走査方向に移動させていたが、インクジェットヘッド4が固定されており、メンテナンスユニット6が走査方向に移動可能な構成となっていてもよい。
【0085】
さらに、本実施形態においては、初期置換動作後にインクジェットヘッド4から噴射されたインクの総量が所定量を超えると、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定していたが、初期置換動作が行われたことをもって、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定してもよい。ユーザが使用を開始する前には、必ず初期置換動作が行われるため、出荷前後でブラックのノズル16bkのフラッシング位置を簡単に切り換えることができる。また、実施形態にて説明した、製造後の出荷前に入力されたコマンド後に、電源が投入されることで、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定してもよい。
【0086】
また、本実施形態においては、ユーザによる最初の使用が開始される前後、すなわち出荷前後でブラックのノズル16bkのフラッシング位置を切り換えていたが、インクジェットプリンタ1に振動や衝撃が作用するのは、出荷時に加えて、引越し時やインクジェットプリンタ1を修理で返却する際の搬送時にも作用する。そこで、このような引越しや修理のための返却の前後でブラックのノズル16bkのフラッシング位置を切り換えてもよい。
【0087】
さらに、本実施形態においては、インクジェットヘッド4が停止した状態で、フラッシングを行っていたが、走行しながらフラッシングを行ってもよい。この場合、ブラックのノズル16bkのフラッシング位置を、ガイド部材52の斜面52aに対向する位置と対向しない位置で切り換えるのではなく、インクが斜面52aに着弾する位置と着弾しない位置とで切り換える。
【0088】
また、本実施形態においては、初期置換動作後にインクジェットヘッド4から噴射されたインクの総量が所定量を超えると、ユーザによる使用が開始されたと判定していたが、例えば、吸引パージが所定回数以上、インクジェットヘッド4による記録動作を所定回数(記録枚数が所定枚数)以上、積算通電時間が所定時間以上、ノズル16からインクが噴射されたドットカウントが所定発以上のいずれか1つ、または、これらの組み合わせを満たした場合に、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定してもよい。また、ユーザが所定のコマンドを入力することで、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定してもよい。
【0089】
また、制御装置7は、使用開始判定部68と噴射量検出部69を備えていなくてもよい。この場合、図10に示すように、新たにコマンド受付部168を備えておく。そして、コマンド受付部168は、PC70やインクジェットプリンタ1のタッチパネルやコマンド入力部(図示せず)から入力されたコマンドを受け付ける。このコマンドとしては、ブラックのノズル16bkのフラッシング位置を、吸収フォーム54の、カラーのノズル16clから噴射されるインクが着弾する位置よりも排出口51aから離れた位置に設定するコマンドがある。そして、フラッシング位置制御部67は、上記コマンドがコマンド受付部168に入力されると、ブラックのノズル16bkを吸収フォーム54の排出口51aから離れた位置に設定する。また、フラッシング位置制御部67は、電源投入されて、電源が供給されると、デフォルトとして、ブラックのノズル16bkのフラッシング位置を、ガイド部材52の斜面52aに設定する。このような構成とすることで、上述したような、出荷前の検査時にだけ上記コマンドを入力して、ブラックのノズル16bkのフラッシング位置を、ブラックのノズル16bkを吸収フォーム54の排出口51aから離れた位置に設定する。そして、検査後には必ず電源OFFになり、出荷後に電源ONされると、ブラックのノズル16bkのフラッシング位置は、ガイド部材52の斜面52aに設定されるため、吸収フォーム54の排出口51aから離れた位置に設定したまま電源をOFFして、その後に電源をONしたときに、ガイド部材52の斜面52aに確実且つ簡単に切り換えることができ、位置の切り換え忘れを防止することができる。
【0090】
さらに、本実施形態においては、ブラックのノズル16bkとカラーのノズル16clについて別々にフラッシングを行っていたが、電源の制約や、配置的な制約がなければ、全て同時にフラッシングを行ってもよい。
【0091】
また、本実施形態においては、顔料インクであるブラックインクと、染料インクであるカラーインクを噴射するカラーのインクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、顔料インクであるブラックインクだけを噴射するモノクロのインクジェットプリンタであって、ガイド部材52と廃液タンク50だけを有するものにおいても本発明を適用することができる。
【0092】
さらに、本実施形態においては、ブラックインクが顔料インクであり、カラーインクが染料インクであったが、全て染料インクであってもよい。
【0093】
また、本実施形態は、本発明を、記録用紙にインクを噴射して画像などを記録するインクジェットプリンタに適用したものであるが、本発明の適用対象は、このような用途に使用されるものに限られない。すなわち、インク以外のさまざまな種類の液体をその用途に応じて対象に噴射する、種々に液体噴射装置に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 インクジェットプリンタ
3 キャリッジ
4 インクジェットヘッド
6 メンテナンスユニット
16bk ノズル
50 廃液タンク
52 ガイド部材
52a 斜面
67 フラッシング位置制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する第1ノズルを有する液体噴射ヘッドと、
フラッシング時に前記液体噴射ヘッドから噴射されて着弾した液体を滑落させるための斜面を有するガイド部材を含み、前記フラッシング時に前記液体噴射ヘッドから噴射された液体を受容する液体受容部と、
前記液体噴射ヘッドを前記液体受容部に対して相対移動させる移動手段と、
前記第1ノズルのフラッシング時における前記液体受容部に対する前記第1ノズルのフラッシング位置を、前記移動手段により、前記液体受容部のうち、前記ガイド部材の前記斜面に前記第1ノズルから噴射した液体が着弾する第1位置と、前記斜面に前記第1ノズルから噴射した液体が着弾しない第2位置とで切り換える切り換え手段と、を備えていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体受容部は、前記ガイド部材と離れて配置され、液体を吸収可能な吸収体をさらに含んでおり、
前記第2位置は、前記第1ノズルから噴射した液体が前記吸収体に着弾する位置であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体受容部は、前記斜面から滑落した液体を貯留可能に前記ガイド部材の下方に配置された廃液タンクをさらに含んでおり、
前記第2位置は、前記第1ノズルから噴射した液体が前記廃液タンクの内側面と前記ガイド部材との間を通過して前記廃液タンクに直接受容される位置であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体受容部は、前記ガイド部材と離れて配置され、前記第1ノズルを覆うキャッピング位置と、前記液体噴射ヘッドに対して離れたアンキャッピング位置とに移動可能なキャップをさらに備えており、
前記第2位置は、前記第1ノズルから噴射した液体が前記アンキャッピング位置の前記キャップに着弾する位置であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体受容部は、前記ガイド部材と離れて配置され、液体を吸収可能な吸収体をさらに含んでおり、
前記液体噴射ヘッドは、第2ノズルをさらに有しており、前記第1ノズルから顔料インクを噴射し、前記第2ノズルから染料インクを噴射しており、
前記第2ノズルの前記フラッシング時には、前記液体噴射ヘッドの前記第2ノズルから噴射したインクを前記吸収体に排出しており、
前記第2位置は、前記斜面に加えて、前記吸収体にも前記第1ノズルから噴射した液体が着弾しない位置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記液体受容部は、前記斜面から滑落した液体を貯留可能に前記ガイド部材の下方に配置された廃液タンクと、前記ガイド部材と離れて配置されるとともに、排出口が前記廃液タンクと接続され、液体を吸収可能な吸収体と、をさらに含んでおり、
前記液体噴射ヘッドは、第2ノズルをさらに有しており、前記第1ノズルから顔料インクを噴射し、前記第2ノズルから染料インクを噴射しており、
前記第2ノズルの前記フラッシング時には、前記液体噴射ヘッドの前記第2ノズルから噴射したインクを前記吸収体に排出しており、
前記第2位置は、前記吸収体の、前記第2ノズルの前記フラッシング時に前記第2ノズルから噴射したインクを着弾する位置よりも前記排出口から遠い位置であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
ユーザによる最初の使用が開始されたか否かを判定する使用開始判定手段をさらに備えており、
前記切り換え手段は、
前記使用開始判定手段によってユーザによる使用が開始されていないと判定された場合には、前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第2位置に設定し、
前記使用開始判定手段によって使用が開始されたと判定された場合には、前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第2位置から前記第1位置に切り換えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記液体噴射ヘッドで使用される液体が貯留されたカートリッジを着脱可能なカートリッジ装着部をさらに備えており、
ユーザによる最初の使用が開始された段階で前記液体噴射ヘッド内に充填されている液体を、前記カートリッジ装着部に装着された前記カートリッジ内の液体で置換する初期置換動作を行っており、
前記使用開始判定手段は、前記初期置換動作が行われると、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定することを特徴とする請求項7に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記液体噴射ヘッドで使用される液体が貯留されたカートリッジを着脱可能なカートリッジ装着部をさらに備えており、
ユーザによる最初の使用が開始された段階で前記液体噴射ヘッド内に充填されている液体を、前記カートリッジ装着部に装着された前記カートリッジ内の液体で置換する初期置換動作を行っており、
前記初期置換動作が行われた後の、前記液体噴射ヘッドから噴射された液量を検出する液量検出手段をさらに備えており、
前記使用開始判定手段は、前記液量検出手段により検出された液量に応じて、ユーザによる最初の使用が開始されたと判定することを特徴とする請求項7に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第2位置に設定する第2位置設定手段をさらに備えており、
前記切り換え手段は、
前記液体噴射装置に電源が供給されると、前記第1ノズルの前記フラッシングを行う位置を前記第1位置に設定しており、
前記第2位置設定手段によって位置変更されると、前記第1位置から前記第2位置に切り換えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−153128(P2012−153128A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16946(P2011−16946)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】