説明

液体洗浄剤組成物

【課題】高い洗浄力を得るためには、実用液のアルカリ度を上げる必要があり、そのためには実用液以上に液体洗浄剤組成物のpHを上げる必要がある。そのため、pH上昇に影響を受けやすい酵素、消毒剤、界面活性剤、キレート剤、色素、香料の有効成分の安定性が保存中に失われ、高い洗浄力と有効成分による性能を液体洗浄剤組成物中で両立させることは困難であった。
【解決手段】(a)アルカリ剤と(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物を併用することで、アルカリ度を下げずに原液pHを下げられることを見出し、高い洗浄力を持ちつつ、アルカリ性環境下で失活しやすい酵素、および変性しやすい消毒剤、界面活性剤、キレート剤、色素、香料の有効成分を安定的に配合できる液体洗浄剤組成物を開発することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体洗浄剤組成物に関するものである。さらに詳しくは、(a)アルカリ剤と(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物を併用することで、アルカリ度を下げずに原液pHを下げられるため、高い洗浄力を持ちつつ、アルカリ性環境下で失活しやすい酵素を長期間安定的に配合でき、且つ消毒剤、界面活性剤、キレート剤、色素、香料を含む有効成分もまた安定的に配合できる液体洗浄剤組成物に関する。
【0002】
本発明で使用される「アルカリ剤」は、液体洗浄剤組成物のpHをアルカリ性側に上げる化合物のことを示し、「アルカリ度」は、液体洗浄剤組成物を希釈した場合にアルカリ性pHを維持する能力をKOH重量%で表した指標を示す。
【背景技術】
【0003】
近年では、消費者の利便性向上のため、より洗浄力の高い洗浄剤が求められている。洗浄力の指標となるアルカリ度が高いほど、汚れが負荷した場合でも液性がアルカリ性側に維持され、汚染物の溶解・分散が促進される。しかし、アルカリ度を高くするためには、組成物のpHを実用液以上にすることが一般的であり、洗浄力に有効なアルカリ度を得るためには、原液のpHが少なくとも10以上は必要である。このような高いアルカリ性環境下では、有効成分として配合される酵素が失活してしまい、消毒剤は殺菌力を失い、また界面活性剤や色素は変性して外観の悪化を招く。そのため、高いアルカリ性環境下であっても有効成分を安定的に配合できる液体洗浄剤組成物の提供が強く望まれていた。
【0004】
本発明で使用される「実用液」は液体洗浄剤組成物を実使用濃度に希釈した液を示す。
【0005】
一方、アルカリ性環境下での酵素安定性向上のため、特許文献1では(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体およびポリエチレングリコールによる配合系が開示されているが、設定されているpHが10以上であるため、リパーゼやセルラーゼ、アミラーゼといったアルカリに影響を受けやすい酵素を失活させることが懸念される。また、特許文献2では、アミンオキサイド類とアルカノールアミン、アルカリ金属の水酸化物の組み合わせに対し、銅フタロシアニン系青色色素とアゾ系黄色染料の配合系が開示されているが、同様な理由で経時的な色の変化は否めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3876945号
【特許文献2】特開2008−266552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから、従来の技術で高い洗浄力を得るためには、実用液のアルカリ度を上げる必要があり、そのためには実用液以上に液体洗浄剤組成物のpHを上げる必要がある。すると、pH上昇に影響を受けやすい酵素、消毒剤、界面活性剤、キレート剤、色素、香料の有効成分の安定性が失われ、高い洗浄力と有効成分による性能を液体洗浄剤組成物中で両立させることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、(a)アルカリ剤に対して(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物を組み合わせることで、(a)アルカリ剤単一組成物よりもpHを下げるが、アルカリ度を維持させられることを見出し、洗浄力と酵素、消毒剤、界面活性剤、キレート剤、色素、香料のうち、少なくとも1種の有効成分による性能を液体洗浄剤組成物中で両立させることができる手段を得た。すなわち、(a)アルカリ剤を2〜20重量%、(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物を0.1〜20重量%、(c)有効成分を0.0001〜40重量%を配合してなる液体洗浄剤組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、(a)アルカリ剤と(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物を併用することで、アルカリ度を下げずに原液pHを下げられるため、高い洗浄力を持ちつつ、アルカリ性環境下で失活しやすい酵素を長期間安定的に配合でき、且つ消毒剤、界面活性剤、キレート剤、色素、香料を含む有効成分もまた安定的に配合できる液体洗浄剤組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(a)アルカリ剤>
本発明で使用されるアルカリ剤としては、無機塩として炭酸塩および重炭酸塩、アルカノールアミンとして、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが挙げられる。
【0011】
アルカリ剤の配合量は2〜20重量%、好ましくは2〜15重量%である。これらは単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。2重量%以上であると、洗浄力に必要な1%のアルカリ度を得ることができ、アルカリ剤が炭酸塩および重炭酸塩の場合、合計量が15重量%を超えると、溶解しづらくなり、アルカリ剤がアルカノールアミンの場合、20重量%を超えると、不快臭が強くなる。そのため、アルカリ剤としての配合量は20重量%以下に限定される。
【0012】
<(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物>
本発明で使用されるカルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物は、中性アミノ酸、ペプチドより選ばれ、これらは単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。
【0013】
本発明で使用される「中性アミノ酸」は、等電点が5〜7の範囲内にあるアミノ酸で、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニンン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリンが挙げられる。ペプチドとしては、グリシルグリシンが挙げられる。
【0014】
本発明における特に好ましい(b)成分として、グリシン、アラニン、メチオニン、プロリンが、溶解度の観点から好ましい。
【0015】
上記(b)成分の配合量は、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。液体洗浄剤組成物のpHを中性により近づけることが、有効成分の安定性に効果的である。しかしながら、アルカリ剤の添加範囲に対して、20重量%以上添加しても、pH低下の効果が得られなくなるため、(b)成分の配合量は20重量%以下に限定される。また、pH6〜10の範囲内に収めるためには、少なくとも0.1重量%以上の配合が必要である。
【0016】
<(c)有効成分>
本発明では、(c)有効成分を、
(i) 酵素もしくは、
(ii) 界面活性剤もしくは、
(iii)酵素および界面活性剤もしくは、
(iv) その他、消毒剤、キレート剤、色素、香料のうち、1種もしくは、
(v) 上記(i)、(ii)および(iv)に記載の有効成分のうち、少なくとも 2種
として、液体洗浄剤組成物中に配合することができる。
【0017】
本発明で使用される酵素としては、洗浄用に使用される酵素であれば限定されないが、特にプロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼが挙げられる。具体的にはノボノルディスク社のプロテアーゼであるアルカラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、リカナーゼ、ジェネンコア社のピュラフェクト、プロペラーゼ、プロテックスが例示される。リパーゼとしては、ノボノルディスク社のリポラーゼ、ライペックスが挙げられ、アミラーゼとしてはノボノルディスク社のデュラミル、スティンザイム、ターマミル、ジェネンコア社のピュラスターが挙げられる。セルラーゼとしてはノボノルディスク社のセルザイム、ケアザイム、ジェネンコア社のピュラダックスが例示される。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0018】
本発明で使用される消毒剤としては、消毒または殺菌目的で使用されるものであれば限定されないが、特に以下のものが挙げられる。ビグアニジン系化合物として、グルコン酸クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩、第4アンモニウム塩として塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンゼトニウム、グリシン系両性界面活性剤として、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、ナトリウムアルキルジアミノエチルグリシンが例示される。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0019】
本発明で使用される界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の高級アルコールエチレンオキサイド系、アルキルフェノールエチレンオキサイド系、脂肪酸エチレンオキサイド系、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド系、高級アルキルアミンエチレンオキサイド系、脂肪酸アミドエチレンオキサイド系、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド系、多価アルコール型非イオン界面活性剤のグリセリンおよびペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、バイオサーファクタントのソホロリピッド、ラムノリピッド、サーファクチン、マンノシルエリスリトールリピッド、アルスロファクチン、脂肪酸アルカノールアミドが挙げられる。カルボン酸系アニオン界面活性剤としては、石けん、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩が挙げられ、スルホン酸塩系アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィン硫酸塩、硫酸エステル系アニオン界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステルおよび硫酸化脂肪酸、硫酸化オレフインが挙げられる。両性界面活性剤としては、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0020】
本発明で使用されるキレート剤は、リン酸化合物としてオルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸が挙げられ、アミノポリ酢酸としては、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIMDA)、1,3‐プロパンジアミン四酢酸(1,3‐PDTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、グルタミン酸二酢酸(GLDA)、アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、β‐アラニン二酢酸(ADA)、セリン二酢酸(SDA)およびそれらの金属塩が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0021】
本発明で使用される香料としては、香りを付けるために使用されるものであれば限定されないが、特に以下のものが挙げられる。炭化水素類としては、脂肪族炭化水素、テルペン炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられ、アルコール類としては、脂肪族アルコール、テルペンアルコール、芳香族アルコール、エーテル類としては、脂肪族エーテル、芳香族エーテルが挙げられる。また、オキサイド類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、フェノール類、フェノールエーテル類、脂肪族アミド類、脂肪族ラクトン類、エステル類、ニトロムスク類、ニトリル、アミン、ピリジン類、キノリン類、キノールおよびインドールも挙げられる。天然香料としては動物性香料、植物性香料が挙げられ、これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0022】
本発明で使用される色素としては、着色を目的とするために使用されるものであれば限定されないが、特に以下のものが挙げられる。有機色素としては、ニトロ系色素、アゾ染料、ニトロソ染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、キノリン染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、無機色素としては、フェロシアン化合物、硫化物、金属酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩、天然色素としては、カロチノイド系色素、フラボノイド系色素、フラビン系色素、キノン系色素、ポリフィリン系色素、ジケトン化合物、ベタシアニジン系色素、蛍光染料が例示される。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0023】
有効成分の配合量は、0.0001〜40重量%、好ましくは0.0005〜40重量%である。酵素の配合量は、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜20重量%である。酵素としての洗浄力を得るためには、0.01重量%以上の配合量が必要であり、医療器具用洗浄剤として使用する場合には、血液や体液を素早く除去するために高い洗浄力を必要とするため、製品内に酵素が20重量%配合されているものもあり、医療器具用液体洗浄剤組成物として配合する場合は、高い洗浄力を得るために20重量%必要である。界面活性剤の配合量は、1〜20重量%、好ましくは5〜20重量%である。界面活性剤としての洗浄作用、再汚染付着防止作用、浸透作用、分散作用を求めるならば、1重量%以上の配合が必要であるが、20重量%を超えると、低温安定性や非イオン界面活性剤の曇点による外観の悪化が懸念されるため、20重量%以下に限定される。色素の配合量は、0.0001〜0.5重量%、好ましくは0.0005〜0.1重量%である。液体洗浄剤組成物自体の着色を目的とするのであれば、0.0001重量%以上必要であり、使用上の安全性を目的として、実用液が液体洗浄剤組成物の希釈液であることを着色により目視確認するために、液体洗浄剤組成物に着色が施されるのであれば、0.5重量%は必要である。また、その他、消毒剤、キレート剤、香料についても、使用目的に応じた配合量で、液体洗浄剤組成物としての性能および外観に支障のない範囲の中で、本発明に配合することは可能である。消毒剤、色素、キレート剤および香料のうち、少なくとも1種を配合する場合、酵素または界面活性剤、あるいはその両者の配合量を減量して配合することができる。有効成分としての配合量は0.0001〜40重量%、好ましくは0.0005〜40重量%である。
【0024】
本発明では、ホウ酸またはホウ酸塩を加えることで、pHを上げず、(b)成分単一よりも、さらにアルカリ度を高くすることができる。これにより、有効成分の安定性を維持したまま、さらに高い洗浄力を得られる。ホウ酸またはホウ酸塩は、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0025】
本発明で使用されるホウ酸塩としては、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、4ホウ酸ナトリウム、4ホウ酸カリウムが挙げられる。
【0026】
ホウ酸またはホウ酸塩の配合量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜6重量%である。アルカリ度を上げるためには、0.1重量%以上が必要であり、10重量%を超えると溶解が困難となる。
【0027】
本発明の液体洗浄剤組成物には、任意に以下の各成分を本発明の効果を妨げない範囲で含有することができる。酵素安定化剤としては、塩化カルシウム、ハイドロトロープ剤としては、トルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、低級アルコール、多価アルコール、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールやケイ酸塩、pH調整剤としては、苛性カリウム、苛性ソーダ、塩酸、硫酸が必要に応じて配合できる。
【0028】
有効成分を安定的に配合するためには、本発明のpHは6〜10、好ましくは7〜9.5である。液体洗浄剤組成物のpHを中性に近づけると、有効成分を安定的に配合することができる。そして、使用時(例えば、液体洗浄剤組成物を100倍希釈した水溶液)に、十分な洗浄力を得るために必要なpHは8〜10である。液体洗浄剤組成物中での有効成分の安定性、および使用時に必要なアルカリ性pHを満たす範囲として、液体洗浄剤組成物のpHは6〜10、より好ましくは7〜9.5、および使用時のpHは8〜10である。
【0029】
本発明で必要なアルカリ度は、1%以上であり、好ましくは1.5%である。1%以上であれば、後述の実施例に記載の洗浄力評価で、○以上の洗浄力を得ることが可能である。
【0030】
本発明は、一般家庭用または業務用であり、より具体的な用途としては野菜・食器用、衣料用、自動食器洗浄機用、台所用、住宅・家具用、医療器具用、宝飾品用、車両用が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0032】
以下の実施例で行った測定方法および評価項目は以下の通りである。
【0033】
≪pH測定法≫
pHメーターを用いて測定した。各種液体洗浄剤組成物のpHを原液pH、水で100倍希釈したものを希釈pHとしてそれぞれ測定した。
【0034】
≪アルカリ度の測定法≫
各種液体洗浄剤組成物を正確に1g採取し、80mlの蒸留水を加えた。0.1モル/L濃度の塩酸を滴下していき、pH8を下回るまで滴下した。アルカリ度をKOH重量%として算出した。
【0035】
≪洗浄力評価方法(液体洗浄剤組成物の調製直後)≫
ISO/TS 15883−5に記載されているモデル汚れ100マイクロリットルを、ステンレススチールテストピース(SUS304)(50mm×30mm×0.8mm(L×W×T))に20mm×20mmの大きさに塗布後、室温で2時間放置したものを汚染モデルテストピースとし、1%に希釈した調製直後の液体洗浄剤組成物に、40℃で20分間および30分間浸漬した。浸漬後、汚染残分を目視で確認し、下記判定基準をもとに評価した。
◎;20分以内で汚染物が除去されている場合
○;30分以内で汚染物が除去されている場合
×:30分を経過しても汚染物が残存している場合
【0036】
≪酵素安定性評価≫
各種液体洗浄剤組成物を30℃および35℃に保存した後の酵素活性を調べ、保存前の酵素活性との相対値を安定性(%)として算出し、酵素安定性を評価した。プロテアーゼはカゼインを基質としたFollin‐Lowry法、リパーゼはパラニトロフェニル吉草酸を基質とした手法、アミラーゼはデンプン、セルラーゼはカルボキシルメチルセルロースを基質としたジニトロサリチル酸法により測定した。
【0037】
≪実施例1〜4、比較例1および2≫
(a)成分として炭酸塩および重炭酸塩を使用し、(b)成分のグリシン、アラニン、メチオニン、プロリンを混合し、さらに(c)成分として、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、およびバイオサーファクタントの酸型ソホロリピッドを配合し、下記の表1に示すような液体洗浄剤組成物を調製した。得られた液体洗浄剤組成物について、pH測定、アルカリ度測定、調製直後の洗浄力および酵素安定性について評価を行った。また、比較例1として(b)成分を含まないもの、比較例2として(b)成分を含まず、35%塩酸で(b)成分を配合した場合のpHに調整したものを用意し、実施例1〜4と同様の測定および評価を行った。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、(b)成分を(a)成分と併用することで、比較例1の原液pH10.1から、洗浄力に寄与するアルカリ度を下げず、実施例1〜4のようにpH9.0まで下げることができた。実施例1〜4および比較例1のアルカリ度はいずれも1.5%であり、調製直後の洗浄力評価において、良好な結果が得られた。一方、35%塩酸でpHを下げた比較例2では、アルカリ度が0.3%まで下がり、実施例1〜4や比較例1に比べ、調製直後の洗浄力が劣っていた。また、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼのいずれの酵素安定性についても、実施例1〜4は、原液pHを35%塩酸で下げた比較例2と同等であり、液体洗浄剤組成物が長期間放置された場合であっても、アミラーゼによるデンプンの分解活性、リパーゼによる油脂の分解活性、セルラーゼによるセルロースの分解活性は得られると期待される。一方、比較例1については、35℃で1週間放置した時点で酵素活性が大きく下がっているため、長期間放置された場合、酵素は失活し、実施例1〜4および比較例2のような酵素活性は得られず、酵素活性による洗浄力は期待できない。そのため、比較例1については、35℃に1週間放置された後の洗浄力評価は、×になると予想される。
【0040】
これらの結果より、(b)成分を(a)成分と併用することで、洗浄力に寄与するアルカリ度を下げず、pHを下げることができるため、高い洗浄力と酵素の長期間安定性を両立できることが確認できた。
【0041】
≪実施例5〜7、比較例3〜5≫
(a)成分および(c)成分の種類を変え、(b)成分としてグリシンを使用し、表2に示す液体洗浄剤組成物を調製した。(a)成分としては、アルカノールアミン系を使用し、(c)成分は非イオン界面活性剤として高級アルコールエチレンオキサイド系、アニオン界面活性剤として高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルファオレフィン硫酸塩、そしてプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼを使用した。得られた液体洗浄剤組成物について、pH測定、アルカリ度測定、調製直後の洗浄力および酵素安定性について評価を行った。比較例として、(b)成分を含まない液体洗浄剤組成物を調製し、実施例5〜7と同様の測定および評価を行った。
【0042】
【表2】

【0043】
表2から明らかなように、いずれのアルカリ剤でも、(b)成分を加えることで、アルカリ度を下げずに原液pHを下げることができた。比較例3〜5では、アルカリ剤の種類により、原液pHに違いはあるが、全てがpH10以上だった。しかしながら、実施例5〜7で(b)成分を加えることで、各比較例の原液pHを9.0にまで下げることができ、実施例1〜4と同様に、比較例と比較して大幅な酵素安定性の向上が確認できた。
【0044】
また、前述の酸型ソホロリピッドだけではなく、非イオン界面活性剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アニオン界面活性剤の高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルファオレフィン硫酸塩を使用した実施例5〜7では、比較例3〜5と比較して、大幅な酵素安定性の向上が確認できたため、界面活性剤の種類に関係なく、(b)成分を加えることで、(b)成分を加えない場合よりも原液pHを下げるからこそ、酵素の安定性を向上でき、長期間保存された場合も、酵素活性による洗浄力を得られることが期待できる。
【0045】
以上のことから、アルカリ剤や界面活性剤の種類に関係なく、(b)成分を加え、アルカリ度を下げずに原液pHを下げることで、酵素の安定性を向上できることが確認できたため、前述に記載のアルカリ剤および界面活性剤を本発明に使用することができる。
【0046】
≪実施例8および9、比較例6〜9≫
(c)成分として、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、およびアルキルポリグルコシド、アルファオレフィン硫酸ナトリウム、酸型ソホロリピッド、青色1号を使用し、下記表3および表4に示すような液体洗浄剤組成物を調製した。得られた液体洗浄剤組成物について、pH測定、アルカリ度測定、調製直後の洗浄力および酵素安定性についての評価に加え、実施例8では外観安定性評価、実施例9では色素安定性評価を行った。また、それぞれの比較例として(b)成分を含まないもの、(b)成分を含まず、35%塩酸で(b)成分を配合した場合のpHに調整したものを用意し、実施例8および9と同様の測定および評価を行った。
【0047】
≪外観安定性評価≫
各種液体洗浄剤組成物を100g調製し、外観を目視で確認し、下記判定基準をもとに評価した。
○;均一透明
×;調製中に白濁、または分離
【0048】
≪色素安定性評価≫
各種液体洗浄剤組成物を100g調製して50℃で1週間保存し、色の変化を目視で確認し、下記判定基準をもとに評価した。
○;保存前と変わらない
×;保存前より変色、または退色
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
表3から明らかなように、(a)成分および(b)成分を併用することで、アルカリ度を下げずに原液pHを下げることができたため、実施例8では、酵素安定性に加え、高いpHで変性しやすいアルキルポリグルコシドを安定的に液体洗浄剤組成物中に配合できることが確認できた。一方、(b)成分を含まない比較例6では、酵素安定性の低下に加え、アルキルポリグルコシドの変性が起こり、調製中に液体洗浄剤組成物が濁った。35%塩酸で、原液pHを下げた比較例7では、アルキルポリグルコシドを安定的に配合することはできたが、アルカリ度は0.1%まで下がり、調製直後でも、期待できる洗浄力を得ることはできなかった。
【0052】
また、表4から明らかなように、(a)成分および(b)成分を併用することで、アルカリ度を下げずに原液pHを下げることができたため、実施例9では、酵素安定性に加え、青色1号が退色せず、50℃に保存する前と変わらない状態を保っていることが確認できた。一方、(b)成分を含まない比較例8では、酵素安定性の低下に加え、色素安定性評価では青色1号の退色が起こった。35%塩酸で、原液pHを下げた比較例9では、青色1号の退色は起こらなかったが、アルカリ度は0.3%まで下がり、調製直後でも、期待できる洗浄力を得ることはできなかった。
【0053】
以上のことから、(a)成分および(b)成分を併用することで、酵素の安定性に加え、高いpHで変性するアルキルポリグルコシドや青色1号を、アルカリ度を下げずに原液pHを下げられるため、液体洗浄剤組成物中に安定的に配合できることが確認できた。そのため、酵素安定性に加えて、高いpHによって変性しやすい界面活性剤や色素を、本発明の液体洗浄剤組成物中に安定的に配合できることは、容易に想定することができ、さらに高いpHによって変性する消毒剤、キレート剤、香料もまた、本発明の液体洗浄剤組成物中に安定的に配合できることも予想できる。
【0054】
そのため、本発明を利用すれば、上記界面活性剤や色素以外にも、アルカリ性環境下で影響を受けやすい消毒剤、キレート剤、香料の有効成分についても安定的に配合できることは明らかである。
【0055】
≪実施例10≫
ホウ素化合物の1種であるホウ酸を使用し、実施例1に対してホウ酸を加え、ホウ酸によって下がったpHを苛性カリウムで補ってpH9.0に調整し、下記表5に示すような実施例10を調製し、pH測定、アルカリ度測定、調製直後の洗浄力および酵素安定性について評価を行った。
【0056】
【表5】

【0057】
表5から明らかなように、(b)成分に加え、ホウ酸を加えてpHを9.0に調整した実施例10では、アルカリ度が実施例1の1.5%から3.2%にまで上がった。アルカリ度が上がったことにより、調製直後の洗浄力も実施例1と比較して大幅に向上した。ホウ酸は酵素安定化剤でもあり、pKaが9.2なので、アルカリ性で緩衝作用を持つ化合物としても知られている。そのため、(b)成分の緩衝作用と相乗効果をもたらし、高いアルカリ度が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の液体洗浄剤組成物は、使用時のpHが強いアルカリ性でなくてもアルカリ度が高く、洗浄力に優れるという点で、産業上の利用可能性がある。例えば、従来の高いpHの製品と同等のアルカリ度および洗浄力を持ちながら、本発明は人体に暴露された場合でも、従来品よりも刺激性が低く、金属に対して腐食性が低いと考えられ、安全面で従来品より優位であることが予想される。また、漆器やウール、シルク等の高いpHに対して影響の受けやすいものを扱う際に、素材を傷めず、高い洗浄力を得られると考えられる。このように、従来製品で、高いpHによって支障があった分野においても、本発明は有用であり、産業上の利用可能性があると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルカリ剤、(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物、(c)有効成分を含有することを特徴とする液体洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物が、中性アミノ酸、ペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記(b)カルボキシル基とアミノ基を1:1で持つ化合物の配合量が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記(c)有効成分が、
(i) 酵素もしくは、
(ii) 界面活性剤もしくは、
(iii)酵素および界面活性剤もしくは、
(iv) その他、消毒剤、キレート剤、色素、香料のうち、1種もしくは、
(v) 上記(i)、(ii)および(iv)に記載の有効成分のうち、少なくとも 2種
であることを特徴とする請求項1〜3に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記(a)アルカリ剤の配合量が2〜20重量%、(c)有効成分の配合量が0.0001〜40重量%であることを特徴とする請求項1〜4に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項6】
アルカリ度を(b)成分単一より、さらに上げるため、ホウ酸またはホウ酸塩を含有することを特徴とする請求項1〜5に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項7】
前記ホウ酸またはホウ酸塩の配合量が、0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜6に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項8】
25℃における組成物のpHが6〜10、使用時の希釈pHが8〜10であり、さらにアルカリ度が1%以上であることを特徴とする請求項1〜7に記載の液体洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2013−108048(P2013−108048A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268347(P2011−268347)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】