説明

液冷ジャケット

【課題】 低コストで、冷却すべき発熱源の位置によらずに、発熱源が搭載されるベースプレート全体が均一に冷却されるようにした液冷ジャケットを提供する。
【解決手段】 偏平な中空直方体状の液冷ジャケットから構成されていて、この液冷ジャケットの搭載面に冷却すべき発熱体が搭載され、この液冷ジャケットの搭載面の内側に複数のインナーフィンが分散配置されており、上記液冷ジャケットの内に導入される冷却液が上記搭載面の内側に沿って各インナーフィンの間を流れることにより、上記搭載面に搭載された発熱体を冷却する液冷ジャケットにおいて、上記液冷ジャケットの内部における冷却液の流速分布が各インナーフィンによる流体抵抗に基づいて上記搭載面に平行な方向に関して全体に亘って一定になるように、各インナーフィンが上記液冷ジャケットの搭載面内側に配置されるように、液冷ジャケット10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複数のLED素子等の発熱体を冷却するための液冷ジャケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの消費電力が加速度的に上昇し、それに伴って半導体デバイスの発熱量が増大している。このため、半導体デバイスを効率的に冷却するために、高性能の冷却システムの需要が高まっている。
さらに、半導体デバイスの高密度化も進んでおり、高密度集積回路における消費電力も加速度的に上昇し、発熱量と共に、発熱密度も急激に増大している。
このような半導体デバイスや高密度集積回路においては、従来使用されているような半導体デバイスのための冷却システム、即ち例えばペルチェ素子による強制吸熱や、ヒートシンク及び冷却ファンによる強制空冷では、冷却能力に限界がある。従って、より高い冷却能力を有する液冷システムも実用化されてきている。
【0003】
光半導体を利用したLED素子においても、発光光度の向上に伴って、従来の表示用途から照明用途への、用途が拡大するにつれて、大電力化の道を辿っている。
LED素子における大電力化の最大の問題点は、発光効率が向上したとはいえ、未だなお投入電力の大部分が熱に変換されてしまい、LED素子自体からの発熱によって、LED素子の発光効率が低下し、寿命が短くなってしまうということである。
【0004】
特に大電力LED素子においては、チップ当たり数Wにもなる発熱に耐え得るようなパッケージ及び放熱構造が要求されており、熱伝導性に優れたメタルコア基板やセラミック基板を利用したものが実用化されている。
特にセラミック基板の場合には、材料技術の進歩によって熱伝導率が向上すると共に、絶縁性を有するためにメタルコア基板の場合のような絶縁層が不要であるという二つの大きな利点により、注目されている。
このような大電力LED素子においても、高い冷却性能を有する液冷システムは、LED素子の冷却のために有効である。
【0005】
また、LED素子を利用した照明は、従来の白熱灯や蛍光灯,放電灯と比較して長寿命で所謂メンテナンスフリーであることから、交換に手間のかかる高所,局所用照明の代替候補として非常に注目を集めている。例えば大電力の高所照明としては、運動競技場や体育館等に設置されるスタジアム照明がある。
このようなスタジアム照明等においては、安定した高出力の照明が求められるため、従来は水銀灯等の放電灯が使用されている。このような放電灯の代替照明とするためには、1チップのLED素子では非常に困難であるので、一般的には、複数チップを一つのパッケージとしたLEDモジュールや、さらに複数パッケージを一つに纏めたLEDユニットが使用される。
【0006】
しかしながら、LED素子は、動作温度によって発光光度や寿命が決まるため、上述したLEDモジュールやLEDユニットにおいては、一つ一つのLEDチップの温度を均一に保持することにより、発光光度や寿命のバラツキを抑えることが必須条件である。従って、このような大電力のLED照明においても、発光光度や寿命のバラツキを抑えるために、高い冷却性能を有する液冷システムが有効である。
【0007】
このような液冷システムとしては、例えば特許文献1による水冷式ヒートシンクが知られている。
特許文献1には、内部に冷却水用流路が形成された偏平なチューブと、該チューブの内面に密着するようにチューブ内に挿入されたインナーフィンと、前記冷却水用流路に連通するように前記チューブの両端部に接続された冷却水出入口と、を備え、前記チューブの両端部は前記冷却水出入口の接続部を残してそれぞれ潰された後にさらに折曲されて閉塞されていることを特徴とする水冷式ヒートシンクが開示されている。
さらに、このヒートシンクは、好ましくは前記チューブの外側平坦面に受熱板が設けられ、該受熱板は被冷却体と密着可能なように形成されている。
このような構成の水冷式ヒートシンクにおいては、出入口が設けられたジャケット内部に熱交換のためのインナーフィンが設けられ、ジャケット外側を偏平とすることで熱源を設置する受熱面とした構造を有している。
【0008】
また、特許文献2には、偏平なヒートシンク本体の内部にインナーフィンが介装され、内部に冷却液が流通すると共に、ヒートシンク本体の平坦な外搭載面の一部に複数の電子部品が接触固定される複数の取り付け面を有する液冷ヒートシンクにおいて、第一の取り付け面に取り付ける電子部品の発熱量が第二の取り付け面のそれより大であるとき、または前記発熱量が同一で第一の取り付け面が冷却液の下流側に位置し、第二の取り付け面がその上流側に位置するとき、前記第一の取り付け面の直下の前記インナーフィンの伝熱性が第二の取り付け面のインナーフィンのそれより大になるように構成した液冷ヒートシンクが開示されている。
【0009】
このような構成の液冷ヒートシンクにおいては、より発熱量の大きな加熱体または下流側に位置する加熱体の伝熱性を向上させるために、対応するインナーフィンの伝熱面積を大とし、あるいはその直下を流通する冷却液の流量または流速を大きくする。これにより、ヒートシンクの搭載面の互いに離間して複数の電子部品を配置するものにおいて、各電子部品の容量等に基づいて、ヒートシンクの最適設計が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4128935号公報
【特許文献2】特開2008−171840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、発熱体から冷媒としての液体への等価熱伝達率(冷媒と接する部分の総搭載面積ではなく、包絡断面積で熱量を割ったもの。以下、単に熱伝達率という)を向上させるためには、冷却装置内の冷媒の流路構造を最適化することが重要である。
【0012】
しかしながら、特許文献1による水冷式シートシンクにおいては、偏平なチューブから構成されていることから、あまり薄型に構成することは困難である。また、受熱板の大きさが、特にチューブの幅方向に関して制限されることから、熱伝達率も制限されることになると共に、コンピュータのMPU等よりも大型の電子部品や多数の電子部品が並んで実装される場合には、対応することが困難である。
【0013】
これに対して、特許文献2による液冷ヒートシンクにおいては、冷却すべき発熱体に合わせてインナーフィンの配置密度を変化させることにより、流路が最適設計され、熱伝達率を向上させている。しかしながら、複数の発熱体の配置状態に対応して、個別にインナーフィンが配置されている。従って、このような液冷ヒートシンクは自由度がなく、汎用性に乏しい。このため、発熱源の配置を変更する場合には、そのままでは、対応することができず、新たにインナーフィンによる流路を再度設計し直さなければならず、時間及びコストがかかってしまう。
【0014】
本発明は、以上の点から、単純な構成により、低コストで、冷却すべき発熱源の位置によらずに、発熱源が搭載されるベースプレート全体が均一に冷却されるようにした液冷ジャケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するため、本発明は以下の手段とした。
すなわち、本発明の第一の態様は、発熱体が搭載される搭載面と、上記搭載面の下方に形成される内部空間と、上記内部空間に分散配置される複数のインナーフィンと、を備える液冷ジャケットであり、上記インナーフィンが、その流体抵抗に基づいて上記内部空間における冷却液の流速分布が上記搭載面に平行な方向に関して全体に亘って一定になるように配置されている。
【0016】
この第一の態様では、流入口から液冷ジャケットの内部空間に導入された冷却液が、この内部空間内にて流出口に向かって流れ、流出口から流出する。
そして、冷却液は、上記内部空間内で液冷ジャケットの搭載面の内側を流れることにより、上記搭載面そしてこの搭載面に搭載された発熱体を冷却する。
【0017】
ここで、液冷ジャケットの内部空間内では、分散配置されたインナーフィンは、それぞれ冷却液に対して流体抵抗として作用する。これにより、各インナーフィンの配置に基づいて、液冷ジャケットの内部空間内における冷却液の流速分布が制御され、液冷ジャケットの内部空間内の全体に亘って均一に冷却が行なわれる。従って、液冷ジャケットの搭載面そして発熱体が均一の温度に冷却され、温度のバラツキが最小化される。
【0018】
本発明の第二の態様による液冷ジャケットは、各インナーフィンの位置が、上記流入口を原点とする円筒座標系の拡散方程式により与えられる上記内部空間内の流速分布が一定になるように決定される。
【0019】
この第二の態様では、各インナーフィンの位置における冷却液の流速分布を重ね合わせることにより、液冷ジャケットの内部空間内における冷却液の流速分布を求めて、この冷却液の流速分布が各インナーフィンによる流体抵抗によって全体に亘って一定になるように、計算シミュレーションによって各インナーフィンの位置が容易に且つ最適に決定され得る。
【0020】
本発明の第三の態様による液冷ジャケットは、上記流入口が、上記液冷ジャケットの一つの角部付近に設けられ、上記流出口が、上記液冷ジャケットの他の角部付近に設けられていて、上記インナーフィンが、それぞれ上記流入口または流出口を中心とする同心円上に配置されていると共に、上記流入口または流出口からの距離に応じて、距離の対数関数として与えられる流速に比例して密度が減少するように設けられている。
【0021】
本発明の第四の態様による液冷ジャケットは、上記流入口が、上記液冷ジャケットの一つの角部付近に設けられ、上記流出口が、上記液冷ジャケットの他の角部付近に設けられていて、上記インナーフィンが、上記流入口に近い領域にてこの流入口を中心とする同心円上で流入口からの距離に応じて距離の対数関数として与えられる流速に比例して密度が減少するように設けられ、上記流出口に近い領域にてこの流出口を中心とする同心円上で流出口からの距離に応じて距離の対数関数として与えられる流速に比例して密度が減少するように設けられている。
【0022】
この第三及び第四の態様では、上記仕切り部材に設けられる各貫通孔が、上記冷却液の流入口を中心とする同心円の周方向に関して配置され、さらに上記流入口から離れるに従って距離の対数関数に比例して減少する流速を補完するように、距離の対数関数の逆数に比例して密度が高くなるように配置される。従って、上記液冷ジャケットの内部空間においては、各インナーフィンによる流体抵抗によって、全体に亘って流速密度が等しくなるので、上記液冷ジャケットの搭載面における冷却効率が全面に亘って均等になる。
【0023】
本発明の第五の態様による液冷ジャケットは、上記流出口が、上記液冷ジャケットの流入口とは対角方向の角部付近に設けられていて、上記インナーフィンが、上記流入口と流出口の中間領域にて上記流入口と流出口を通る直線上で最も密度が高くなりこの直線から外れるに従って密度が低くなるように配置されている。
この第五の態様では、流入口と流出口を結ぶ直線の中間点から垂直な方向に関して、当該直線上で最も冷却液の流速が速く、この直線から外れるに従って流速が低くなるので、このような流速の分布に対応して、流速が速い部分ほど高い密度で各インナーフィンが配置される。これにより、各インナーフィンによる流体抵抗によって、流速が速い部分ほどより流体抵抗が大きくなるので、上記中間領域における流速が均一になる。
【0024】
本発明の第六の態様による液冷ジャケットは、上記搭載面が、上記液冷ジャケットの他の部分と別体に構成され、この他の部分に対して着脱可能に取り付けられている。
この第六の態様では、内側にインナーフィンが配置される液冷ジャケットの搭載面が液冷ジャケットの他の部分と別体に構成されているので、発熱体の配置が変更された場合には、この発熱体の新たな配置に対応して各インナーフィンの配置をした新たな搭載面と交換することによって、上記搭載面に搭載される発熱体の任意の配置に容易に対応することが可能である。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、単純な構成により、低コストで、冷却すべき発熱源の位置によらずに、発熱源が搭載される搭載面全体が均一に冷却されるようにした液冷ジャケットが提供され得ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による液冷ジャケットの第一の実施形態の構成を示す分解斜視図である。である。
【図2】図1の液冷ジャケットにおけるベースプレートを外した状態の概略斜視図である。
【図3】図1の液冷ジャケットにおけるベースプレートを下方から見た底面図である。
【図4】図1の液冷ジャケットを使用した冷却システムの構成例を示すブロック図である。
【図5】流入口を原点とする冷却液の一次元の流速分布を示すグラフである。
【図6】流入口を原点とする冷却液の二次元の流速分布を示すグラフである。
【図7】流入口及び流出口を原点とする冷却液の二次元の流速分布を重ね合わせたグラフである。
【図8】図1の液冷ジャケットにおける(A)流入口に近い領域のインナーフィン,(B)流出口に近い領域のインナーフィン及び(C)全インナーフィンによる冷却液の流速分布をそれぞれ示すグラフである。
【図9】図1の液冷ジャケットに対する第一の比較例の構成を示す図3と同様の底面図である。
【図10】図1の液冷ジャケットに対する第二の比較例の構成を示す図3と同様の底面図である。
【図11】図1の液冷ジャケットと図9及び図10の比較例の検証実験における発熱源の温度と個数との関係を示すグラフである。
【図12】本発明による液冷ジャケットの第二の実施形態の構成を示す図3と同様の断面図である。
【図13】図12の液冷ジャケットにおける全体の冷却液の流速分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図13を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0028】
図1は、本発明による液冷ジャケットの第一の実施形態の構成を示している。
図1において、液冷ジャケット10は、例えば大光量,大電力のLED照明用のものであって、偏平な液冷ジャケットを構成する上方が開放したコンテナ11と、コンテナ11の開放した上端を液密的に閉じるベースプレート12と、から構成されている。
【0029】
上記コンテナ11は、図1においてXY方向に偏平で、且つZ方向上方に開放した中空直方体状に形成されている。
上記コンテナ11は、ベースプレート12そして後述する流入口,流出口との密着性を有する材料、例えば金属,プラスチック等から構成されている。
図2に示すように、上記コンテナ11は、その一つの角部に流入口11aを備えていると共に、当該角部と対角方向に位置する他の角部に流出口11bを備えている。
ここで、上記コンテナ11は、図3の底面図に示すように、外形150mm×150mmの正方形の形状を有しており、例えば厚さ1mmのアルミニウムから構成されている。
【0030】
また、上記コンテナ11は、その高さが3〜10mm程度に選定されている。
ここで、高さがこれより低すぎると、内部を流れる冷却液に対する流体抵抗が大きくなって、圧力損失が増大し、冷却効率が低下してしまう。
これに対して、高さがこれより高すぎると、コンテナ11内の容量が過度に大きくなって、冷却液の流速が著しく低下して、流出口まで発熱体を冷却するのに十分な勢いの噴流が届かず、冷却効果が低下してしまうと共に、取り付けスペースが大きくなってしまう。
【0031】
上記ベースプレート12は、平板状に形成されており、コンテナ11の開放した上面に密着して閉じるように、その大きさ及び形状が選定されている。
また、上記ベースプレート12は、その上面には、冷却すべき複数個の発熱源13が搭載されている。
ここで、上記ベースプレート12は、発熱源13からの熱を拡散すると共に、冷却液に熱を効率よく伝達する、という二つの役割を担っている。このため、上記ベースプレート12は、その厚さが例えば0.5〜3mm程度に選定されている。さらに、上記ベースプレート12は、種々の金属材料から構成され、熱伝導率と加工性の観点からアルミニウムまたは銅が好適である。
【0032】
上記ベースプレート12は、より具体的には1mm厚のアルミニウム板から構成されている。
ここで、上記ベースプレート12は、その周縁が上記コンテナ11の周縁に対して、接着あるいは溶接等により、液密的に取り付けられる。
さらに、上記ベースプレート12は、その下面に、後述するように分散配置された複数個のインナーフィン14を備えている。
【0033】
上記発熱源13は、冷却すべき任意の発熱源、例えばLEDモジュールであって、図示の場合、上記ベースプレート12の上面において、等間隔で縦7個×横7個、計49個配置されている。
【0034】
上記各インナーフィン14は、上記ベースプレート12の下面に立設されており、角柱,円柱等のピンとして形成されている。尚、角柱状と円柱状では、円柱状のピンが、流体抵抗が低いので、好ましい。
そして、各インナーフィン14は、ベースプレート12の下面に上端が接合されると共に、下端がコンテナ11の底面に密着するように、その長さが選定されている。
また、各インナーフィン14は、ベースプレート12からの熱伝導性及びベースプレートとの接合性を確保することができるように、ベースプレート12と同じ材料、例えば銅またはアルミニウム等の金属から構成されている。
【0035】
さらに、各インナーフィン14は、図3に示すように上記ベースプレート12の下面に配置されている。
即ち、図3において、ベースプレート12の流入口11a及び流出口11bに近い領域Aでは、インナーフィン14は、流入口11aまたは流出口11bを中心とする同心円上に配置されていると共に、流入口11aまたは流出口11bからの距離に応じて、その距離の対数関数により与えられる流速に比例する密度で、即ち距離が長くなるにつれて密度が減少するように、配置されている。
これは、流入口11aの近傍の冷却液の流速が速い領域で、より多量のインナーフィン14を設けて、流速を抑えるためである。
【0036】
また、流入口11a及び流出口11bから遠い領域B即ち、流入口11a及び流出口11bが配置されていない角部に近い領域では、各インナーフィン14は、領域Aよりは密度が小さく、かつ上記角部からの距離が短くなるにつれて、距離の対数関数的に微増するように、配置されている。
これは、流入口11a及び流出口11bから離れていることから、冷却液の流速が低いので、インナーフィン14を少なくして、より多量の冷却液が流れるようにするためであると同時に、最も流入口11a及び流出口11bから離れている角部では、逆にインナーフィン14の数を多くして、熱交換のための面積を稼ぐためである。
これに対して、上記二カ所の領域Bを結ぶ対角線上の領域Cでは、各インナーフィン14は、流入口11aと流出口11bを結ぶ直線上で最も密度が高く、この直線から外れるに従って密度が低くなるように、配置されている。
これは、上記直線上で、流入口11aから流出口11bに向かって真っ直ぐに流れる冷却液が最も速い流速で通過するので、この流速を抑制するためである。
【0037】
ここで、上記流入口11a及び流出口11bは、上記コンテナ11に対して密着性を有する材料、例えば金属,プラスチック等のパイプから構成されており、その直径は例えば5〜10mm程度である。
さらに、上記流入口11aは、上記コンテナ11の一つの角部において、下方から上記コンテナ11の底面に連結されており、上記コンテナ11の内部空間に開口している。
これに対して、上記流出口11bは、上記コンテナ11の対角方向の他の角部において、下方から上記コンテナ11の底面に連結されており、同様に上記コンテナ11の内部空間に開口している。
これにより、上記流入口11aから上記コンテナ11の内部空間へ、そして各インナーフィン14の間を通って、上記流出口11bから外部へと続く冷却液の密閉された流路が形成されることになる。
【0038】
本発明による液冷ジャケット10は以上のように構成されており、以下のように組み立てられる。
即ち、まず上記コンテナ11の底面に対して、接着,溶接等により流入口11a及び流出口11bが液密的に取り付けられる。
続いて、上記コンテナ11に、前もって複数個のインナーフィン14が取り付けられたベースプレート12が載置され、その周縁が上記コンテナ11の開放した上端の周縁に対して液密的に取り付けられる。
尚、ベースプレート12上への発熱源13の取り付けは、ベースプレートのコンテナ11への取り付け後が好ましい。
【0039】
このようにして組み立てられた液冷ジャケット10を使用する場合、図4に示す公知の構成の冷却システム20に、液冷ジャケット10を組み込んで使用される。
図4の冷却システム20において、液冷ジャケット10の流出口11bから、順次に放熱部21,リザーブタンク22,ポンプ23を介して流入口11aに戻る冷却液の流路が構成される。
これにより、液冷ジャケット10において発熱源13から受熱した冷却液は、図4にて矢印で示すように、流出口11bから放熱部21に持ち来たされ、放熱部21でラジエータ21a内を流れる際に冷却ファン21bにより放熱が行なわれ、冷却液が冷却される。
その後、冷却液は、リザーブタンク22内に貯蔵される。そして、ポンプ23の作動によりリザーブタンク22からくみ上げられた冷却液は、再び液冷ジャケット10の流入口11aから液冷ジャケット10内に導入され、発熱源13の冷却が行なわれる。
【0040】
次に、上記液冷ジャケット10内における冷却液による冷却について詳細に説明する。
上記流入口11aから上記液冷ジャケット10の内部空間内に導入された冷却液は、この内部空間内を拡散しながら、流出口11bに向かって流れ、その際ベースプレート12に沿って流れることにより、ベースプレート12から受熱して、ベースプレート12を冷却する。
その後、上記内部空間から流出口11bを介して流出する冷却液は、前述した冷却システム20により放熱部21で冷却され、リザーブタンク22内に貯蔵された後、ポンプ23により再び液冷ジャケット10内に導入される。
【0041】
この場合、上記液冷ジャケット10の内部空間内では、上記ベースプレート12の下面に、前述したように複数個のインナーフィン14が分散配置されている。このため、冷却液は、これらのインナーフィン14により流体抵抗を受けて、以下のように内部空間内を流れることになる。
【0042】
即ち、一般に、流入口から流入する冷却液に関して、流入口からの距離rの位置における冷却液の流速Vは、
【数1】

なる円筒座標系の拡散方程式の解により与えられる。ここで、Cは積分定数(任意の値)である。
この式による冷却液の流速分布は、一次元では、図5に示すように、また二次元では、図6に示すように、距離rが大きくなるにつれて、距離の対数関数に従って減少している。
これに対して、流出口では、同様に流速が与えられるが、流速ベクトルは、流入口の場合と逆向き、即ち流出口に向いている。
従って、複数個の流入口が存在する場合には、各流入口に関する上記式による冷却液の流速分布を重ね合わせることにより、例えば図8に示すような二次元の流速分布が得られる。
【0043】
このような流速分布を液冷ジャケット10について考察すると、流入口11a及び流出口11bに関して、上記式による冷却液の流速分布が得られることになる。
従って、液冷ジャケット30の内部空間における冷却液の流速分布は、流入口11a及び流出口11bを原点とした拡散方程式の解の和として表すことができる。
即ち、流入口11a及び流出口11からの距離をそれぞれr,rとすると、液冷ジャケットの任意の位置における流速分布Vは、
【数2】

で与えられる。
従って、この流速分布Vが、液冷ジャケット10の上方空間S2の全体に亘って均一となるように、各インナーフィン14を配置すればよい。
即ち、流速が速い部分においては、その速さに対応して、より多くのインナーフィン14を配置し、流速が遅い部分においては、同様にその速さに対応して、より少ないインナーフィン14を配置すればよい。
【0044】
ところで、前述したように、領域Aにおいては、各インナーフィン14は、流入口11a及び流出口11bを中心とする同心円上に配置されているので、この同心円の周方向に関しては、冷却液の流速はほぼ均一である。また、同心円の半径方向に関しては、流入口11aからの距離に応じて、その距離の対数関数により与えられる流速に比例する密度で、即ち距離が長くなるにつれて密度が減少するように、配置されている。
ここで、流入口11aに近い領域Aにおける内部空間内の冷却液の流速分布は、図8(A)に示すように、また流出口11bに近い領域Aにおける内部空間内の冷却液の流速分布は、図8(B)に示すようになっている。従って、領域Aにおける冷却液の流速分布は、これらの流速分布を重ね合わせることにより、図8(C)に示すようになっている。
このため、上記流速分布Vの対数関数により与えられる流速分布を補完するように、流速が速い部分にはより多くのインナーフィン14が配置されることにより、内部空間内における冷却液の流速分布が均一になる。
【0045】
図9は、図1に示した液冷ジャケット10の効果を検証するための第一の比較例の構成を示している。
図9において、液冷ジャケット30は、図1に示した液冷ジャケット10とほぼ同様の構成であり、ベースプレート12におけるインナーフィン14の配置のみが異なる構成になっている。従って、同じ構成要素には同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
即ち、図9において、ベースプレート12の下面には、インナーフィン14がX方向及びY方向にそれぞれ15個ずつ等間隔で並んで配置されている。
個々のインナーフィン14は、図1の液冷ジャケット10におけるインナーフィン14と同じ構成である。
【0046】
これに対して、図10は、図1に示した液冷ジャケット10の効果を検証するための第二の比較例の構成を示している。
図10において、液冷ジャケット40は、図1に示した液冷ジャケット10とほぼ同様の構成であり、ベースプレート12におけるインナーフィン14が省略されている点でのみ異なる構成になっている。
【0047】
次に、前述した図1,図9及び図10に示した液冷ジャケット10,30,40について、その冷却効果について検証実験を行なった結果を示す。
検証実験において、共通条件として、コンテナ11の大きさを150×150×6mmとし、コンテナ11,ベースプレート12を厚さ1mmのアルミニウムにより構成した。また、流入口11a及び流出口11bを6mm径のパイプにより構成した。
ベースプレート12上には、発熱源13として、5mm角,出力4WのセラミックヒーターをX方向及びY方向に7個ずつ、計49個並べて取り付けた。
【0048】
さらに、冷却システム20として、水冷デスクトップパソコン用の輸送能力400ml/分のポンプを使用し、水冷デスクトップパソコン用の120mm角のラジエータ(最大放熱能力180W)及び120mm角の軸流ファンをそれぞれ二連として、使用した。
また、冷却液として、プロピレングリコールを主成分としたLLC(Long Life Coolant)を使用した。
【0049】
このような共通条件のもとで、冷却液を室温(25℃)で冷却システム20に循環させたとき、発熱源であるセラミックヒーターの定常状態における温度を熱電対により測定、各セラミックヒーターの温度バラツキを評価した。
即ち、図11に示すように、横軸にセラミックヒーターの温度を、縦軸にセラミックヒーターの個数をとって、各発熱源の温度分布をグラフ化した。
このようなグラフによれば、グラフの山が急峻で、且つ山のピークが低温側であるほど、冷却能力が高いことになる。
【0050】
図11のグラフによれば、液冷ジャケット10では、グラフの山が26℃と十分に低く、温度分布も33℃から48℃まで所謂すそ野が狭く、十分な冷却効果が観察された。
これに対して、液冷ジャケット30(比較例1)では、グラフの山は45℃,47℃と高温側であり、温度分布も39℃から48℃と高温側に広がっており、液冷ジャケット10と比較して、冷却能力が低いことが分かる。
また、液冷ジャケット40では、グラフの山は50℃と非常に高く、温度分布も39℃から52℃と高温まで広がっており、液冷ジャケット10の冷却能力がより明白に実証された。
【0051】
図12は、本発明による液冷ジャケットの第二の実施形態の構成を示している。
図12において、液冷ジャケット50は、図1に示した液冷ジャケット10とほぼ同様の構成であり、流出口11bの位置が、流入口11aに対して対角方向ではなく、隣接する角部に在って、これに対応して、インナーフィン51が配置されている点で異なる構成になっている。従って、同じ構成要素には同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
即ち、図12において、液冷ジャケット10の流入口11a及び流出口11bに近い領域Aでは、図1の液冷ジャケット10の場合と同様に、インナーフィン51は、流入口11aまたは流出口11bを中心とする同心円上に配置されていると共に、流入口11aまたは流出口11bからの距離に応じて、その距離の対数関数により与えられる流速に比例する密度で、即ち距離が長くなるにつれて密度が減少するように、配置されている。
【0052】
また、流入口11a及び流出口11bから遠い領域Bでは、図1の液冷ジャケット10の場合と同様に、インナーフィン51は、領域Aよりも低い密度で、角部からの距離が短くなるにつれて、距離の対数関数的に微増するように、配置されている。
これに対して、流入口11aと流出口11bの真ん中で液冷ジャケット10の内部空間を二分割する直線上の領域Cでは、各インナーフィン51は、流入口11aと流出口11bを結ぶ直線上で最も密度が高く、この直線から外れるに従って密度が低くなるように、配置されている。
【0053】
このような構成の液冷ジャケット50によれば、図5に示した液冷ジャケット30と同様に作用すると共に、インナーフィン51の上述した配置によって、即ち領域A,B及びCに配置された各インナーフィン51によって、液冷ジャケット50の上方空間S2の冷却液の流速分布は、図13に示すように、流入口11a及び流出口11bから遠い端縁付近においても、十分な流速が得られることになり、上方空間S2全体でほぼ均一な流速分布が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上述した実施形態においては、ベースプレート12は、コンテナ11の周縁の上面に載置されるようになっているが、これに限らず、接着,溶接等の接合方法に対応して、あるいはベースプレート12に搭載される発熱源13の固定方法等に対応して、任意の取り付け方法が可能である。例えば、ベースプレート12は、コンテナ11の内側面に固定されていてもよい。
また、上述した実施形態においては、液冷ジャケットはXY方向に関してほぼ正方形に形成されているが、これに限らず長方形あるいは他の任意の形状に形成されていてもよいことは明らかである。
【0055】
さらに、上述した実施形態においては、各インナーフィン14,51は、整列して配置されているが、これに限らず、各インナーフィン14,51は整列していなくても、所定の密度で配置されていればよい。
尚、各インナーフィン14,51は、好ましくはコンテナ11の内壁面とは所定の間隔、例えばコンテナ11の一辺の内法の2〜5%程度、上述した実施形態では2〜3mm程度の間隔をもって設けられる。
【0056】
このようにして、本発明によれば、単純な構成により、低コストで、冷却すべき発熱源の位置によらずに、発熱源が搭載されるベースプレート全体が均一に冷却されるようにした液冷ジャケットを提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
10,30,40,50 液冷ジャケット
11 コンテナ
11a 流入口
11b 流出口
12 ベースプレート
13 発熱源
14 インナーフィン
20 冷却システム
21 放熱部
21a ラジエータ
21b 冷却ファン
22 リザーブタンク
23 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体が搭載される搭載面と、
上記搭載面の下方に形成される内部空間と、
上記内部空間に分散配置される複数のインナーフィンと、を備える液冷ジャケットであり、
上記インナーフィンが、
その流体抵抗に基づいて上記内部空間における冷却液の流速分布が上記搭載面に平行な方向に関して全体に亘って一定になるように配置されていることを特徴とする、液冷ジャケット。
【請求項2】
各インナーフィンの位置が、
上記流入口を原点とする円筒座標系の拡散方程式により与えられる上記内部空間内の流速分布が一定になるように決定されることを特徴とする、請求項1に記載の液冷ジャケット。
【請求項3】
上記流入口が、
上記液冷ジャケットの一つの角部付近に設けられ、
上記流出口が、
上記液冷ジャケットの他の角部付近に設けられていて、
上記インナーフィンが、
それぞれ上記流入口または流出口を中心とする同心円上に配置されていると共に、上記流入口または流出口からの距離に応じて、距離の対数関数として与えられる流速に比例して密度が減少するように設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の液冷ジャケット。
【請求項4】
上記流入口が、
上記液冷ジャケットの一つの角部付近に設けられ、
上記流出口が、
上記液冷ジャケットの他の角部付近に設けられていて、
上記インナーフィンが、
上記流入口に近い領域にてこの流入口を中心とする同心円上で流入口からの距離に応じて距離の対数関数として与えられる流速に比例して密度が減少するように設けられ、
上記流出口に近い領域にてこの流出口を中心とする同心円上で流出口からの距離に応じて距離の対数関数として与えられる流速に比例して密度が減少するように設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の液冷ジャケット。
【請求項5】
上記流出口が、
上記液冷ジャケットの流入口とは対角方向の角部付近に設けられていて、
上記インナーフィンが、
上記流入口と流出口の中間領域にて上記流入口と流出口を通る直線上で最も密度が高くなりこの直線から外れるに従って密度が低くなるように配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の液冷ジャケット。
【請求項6】
上記搭載面が、
上記液冷ジャケットの他の部分と別体に構成され、この他の部分に対して着脱可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の液冷ジャケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate