説明

液化ガスの気化熱回収装置

【課題】熱交換器へ供給される液化ガスの流量を安定させ、水やブラインの凍結を防ぎながら効率的に熱交換を行う気化熱回収装置を提供する。
【解決手段】第1の流量調節弁41を介装した第1のバイパス流路L3を備え、水やブラインの供給状況や熱交換器の性能に合わせて前記流量調節弁の開度を変更することにより熱交換器へ流れる液化ガスを調整することで、熱交換器内での水やブラインの凍結やバイパス流路への液化ガスの流量の偏りを防止し、安定的に冷熱を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化二酸化炭素、液化窒素、液化天然ガス、プロパンガス等の液化ガスを気化させるときに生じる気化熱(冷熱)を回収する気化熱回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品工場や飲料工場、半導体工場、化学品製造工場等の広範な工業分野で、気体状の二酸化炭素、窒素、液化天然ガス、プロパンガス等が、プロセスガスやシールドガス、原料ガス、燃料ガスとして使用されていた。
これらのガスは貯蔵タンク内に液化ガスの状態で貯蔵されていた。
これらを使用する際には、貯蔵タンクから液化ガスの状態で取り出して気化し、気体状に変える気化工程が必要であった。
この気化工程において、液化ガスを加熱するために、スチームまたは電力を用いる気化器(蒸発器)が使用されていた。
【0003】
一方、製品や原料の冷却、冷却加工、空調等の冷却工程に、チルド水、あるいはプロピレングリコールまたはエチレングリコールなどを成分とする冷却されたブライン流体を用いていた。このチルド水やブライン流体自体は、冷凍機を用いて冷却されていた。
【0004】
液化ガスを気化する気化工程と、製品や原料の冷却、冷却加工、空調等の冷却工程とは、別々に行われており、それぞれの工程にエネルギーが必要であった。
【0005】
無駄に消費されるエネルギーを減らしてエネルギー効率を高めるために、液化二酸化炭素を気化する気化工程で発生する気化熱(冷熱)を、冷却工程に有効利用することが提案されている。
【0006】
例えば、特開2009−185959号には、液化二酸化炭素の気化熱を水やブライン流体で熱回収するシステムが開示されている。
【0007】
このようなシステムで通常使用されるブライン流体の凍結温度は、一般的に−10℃程度であり、また水の凍結温度は0℃である。
それに対して、液化二酸化炭素の蒸発圧力を1.7MPaG〜2.0MPaGとすると、液化二酸化炭素の蒸発温度は、−23℃〜−17℃、同様に液化窒素では1.0MPaGで−163℃、プロパンガスでは0.2MPaG、で−13℃、液化天然ガスの成分ではメタン4.5MPaGで−82.6℃、エタン1.7MPaGで−15.7℃となる。
このように、水またはブライン流体の凍結温度が、液化ガスの蒸発温度より高いために、液化ガスの気化熱を利用して水またはブライン流体を冷却する場合、熱交換器内で水またはブライン流体が凍結する問題があった。
【0008】
前述の特開2009−185959号では、水やブラインの温度や流速が低下すると、液化ガスの流路を切り替えることで熱交換器をバイパスさせ、水やブラインの凍結を防止するシステムが開示されている。
このようなシステムでは、切り替わりの際の熱交換器内の温度変化が大きく、水やブラインの温度が安定しない問題があった。
【0009】
また、液化ガスの流量の急激な増減へ対応が難しいことや、バイパスと熱交換器の両方に液化ガスを通過させようとすると、熱交換器や弁等の圧力損失により、液化ガスが熱交換器を通過せずバイパスのみに流れる等、熱交換器へ流入する液化ガスの流量をコントロールすることができないため、安定的に冷熱を回収できない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−185959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、液化ガスを気化する気化工程で発生する気化熱(冷熱)を用いて水またはブライン流体を冷却する気化熱回収装置および方法であって、中間媒体を使用することなく水またはブライン流体を直接冷却できるとともに、冷却装置内で水またはブライン流体が凍結する問題を解消し、さらに水又はブライン流体を安定的に冷却し、安定的に冷熱を回収する装置を提供することを目的としている。
【0012】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。
ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、液化ガスを貯蔵する第1の貯蔵タンクと、第1の貯蔵タンクに貯蔵された液化ガスを第1の熱交換器を介して第2の熱交換器へ送るための第1の流路と、水またはブライン流体を貯蔵する第2の貯蔵タンクと、第2の貯蔵タンクに貯蔵された水またはブライン流体を第1の熱交換器を介して送るための第2の流路と、第2の流路を通して水またはブライン流体を送るためのポンプと、液化ガスと水またはブライン流体との熱交換を行う熱交換器と、第1の流路の貯蔵タンクと熱交換器の間で分岐し第1の流路の第1の熱交換器と第2の熱交換器の間に合流する第1のバイパス流路を備える気化熱回収装置において、前記第1のバイパス流路に第1の流量調節弁を介装することを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、第1の流路の第1の熱交換器と第1のバイパス流路との合流点の間に逆止弁を介装することを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、第1の流路の第1のバイパス流路との分岐点と第1の熱交換器との間に第2の流量調節弁を介装することを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、第1のバイパス流路の第1の流量調節弁が自動流量調節弁であり、自動流量調節弁前後に介装した圧力センサにより測定した圧力差、または自動流量調節弁の前後に接続した差圧計を用いて計測した圧力差により、前記自動流量調節弁の開度を自動調整することを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、第1のバイパス流路の第1の流量調節弁が自動流量調節弁であり、第1の流路の第1のバイパス流路との分岐点と第1の熱交換器との間に介装された流量計の流量により、前記自動流量調節弁の開度を自動調整することを特徴とする。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、第1のバイパス流路(L3)の自動流量調節弁(45)の前の流路で分岐し前記自動流量調節弁の後の流路で合流する、第3の流量調節弁を介装した第2のバイパス流路を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、第1の熱交換器が、プレート式または二重管式またはシェルチューブ式であることを特徴とする。
【0020】
請求項8に係る発明によれば、液化ガスが液化二酸化炭素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によって、第1の流量調節弁を介装した第1のバイパス流路を備えることで、水やブラインの供給状況や熱交換器の性能に合わせて前記流量調節弁の開度を変更することにより熱交換器へ流れる液化ガスを調整することで、熱交換器内での水やブラインの凍結やバイパス流路への液化ガスの流量の偏りを防止し、安定的に冷熱を回収することができる。
【0022】
請求項2に係る発明によって、第1のバイパス流路から熱交換器への液化ガスの逆流を防止し、安定的に気化熱を回収することができる。
【0023】
請求項3に係る発明によって、第2の流量調節弁と、第1の流量調節弁または第1の自動流量調節弁とをあわせて開度を変更することにより、より精密に熱交換器へ流れる液化ガスの量を調整することができる。
【0024】
請求項4に係る発明によって、第1の自動流量調整弁により第1のバイパスを通過する液化ガスの流量を、圧力センサまたは差圧計によって得られた第1の自動流量調整弁の前後の差圧により開度を決定して調整することで、急激な液化ガスの流量の変化がある場合であっても、自動で熱交換器へ流れる液化ガスの量を調整することができる。
また、圧力センサや差圧計は安価で、容易に設置が可能である利点がある。
【0025】
請求項5に係る発明によって、第1の自動流量調整弁により第1のバイパスを通過する液化ガスの流量を、流量計によって得られた熱交換器に流入する液化ガスの流量により開度を決定して調整することで、急激な液化ガスの流量の変化がある場合であっても、自動で熱交換器へ流れる液化ガスの量を調整することができる。
また、流量計はコリオリ式流量計等を使用して液状態の液化ガスを測定することで、正確な流量の調整が可能となる利点がある。
【0026】
請求項6に係る発明によって、第3の流量調節弁を一定の開度で開き、第2のバイパス流路に常に液化ガスの一部を通過させることによって、前記自動流量調節弁の開度が変更される際の前記自動流量調節弁の前後の差圧や流量計の流量のハンチングを最小限に抑え、安定して液化ガスの気化熱を回収することができる。
【0027】
請求項7に係る発明によって、熱交換器に単純な構造を有するプレート式または二重管構造式またはシェルチューブ式のいずれかを用いることで、装置の小型化や低コストで製作することができる。
【0028】
請求項8に係る発明によって、液化ガスの蒸発温度が水やブラインの凍結温度に近く、蒸発熱量の大きい液化二酸化炭素を用いることで、効率的に熱回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を実施するための第1の形態の概略説明図。
【図2】本発明を実施するための第2の形態の概略説明図。
【図3】本発明を実施するための第3の形態の概略説明図。
【図4】本発明を実施するための第4の形態の概略説明図。
【図5】自動流量調節弁の前後の差圧と第1の熱交換器へ供給される液化ガスの流量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
【0031】
図1に示す本発明を実施するための第1の形態において、気化熱回収装置1は、第1の熱交換器を備え、液化ガスの気化熱と水やブラインとの熱交換を行い、気化熱を回収している。液化ガスは第1の貯蔵タンクに貯蔵され、プロセスガスやシールドガス、原料ガス、燃料ガスとして使用される分だけ液体の状態で第1の流路L1を通り、第1の熱交換器にて気化熱を回収後、気体あるいは気液混合状態で第2の熱交換器に供給され、完全に気化して使用される。水やブラインは第2の貯蔵タンク4より第2の供給ラインL2とポンプ21を通って第1の熱交換器10に供給されて冷熱を回収し、第2の貯蔵タンク4に循環されている。
【0032】
このようなシステムでは、水やブラインの凍結点より低温な液化ガスが過大な流量で第1の熱交換器に供給されると水やブラインが凍結してしまい、熱交換を行うことができなくなるばかりか機器が破損するおそれもある。そこで、第1のバイパス流路L3を設けることにより過大な流量の液化ガスが第1の熱交換器10に供給されることを防ぐことができるが、第1のバイパス流路への液化ガスの切り替えを先行技術に記載の切り替え弁で行うと第1の流路または第1のバイパス流路の一方のみにしか液化ガスを供給できないため、さらに第1の流量調節弁を設けることにより、第1の熱交換器へ供給される液化ガスの量を適度に調節することが可能となる。
【0033】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図2から図4に示す本発明を実施するための異なる形態について説明する。なお、この本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0034】
図2に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、第1の流量調節弁41を自動流量調節弁42にし、その前後の流路に圧力測定装置を設けて測定した差圧に応じて前記自動流量調節弁42の開度を調整できるようにした点で、これにより液化ガスの使用量が変化した場合でも、簡易で安価な装置で第1の熱交換器10へ供給される液化ガスの流量を自動調節することが可能となる。また、第1の流路L1に設けた第2の流量調節弁44により、自動流量調節弁とあわせて調節することでさらに液化ガスの流量の調節を精密に行うことができ、逆止弁43を設けたことにより、第1の流路と第1のバイパス流路と合流点から、第1の熱交換器への液化ガスの逆流を防ぐことが可能となる。
【0035】
図3に示す本発明を実施するための第3の形態において、前記本発明を実施するための第1から第2の形態と主に異なる点は、前記自動流量調節弁42の前後の差圧の計測に差圧計33を用いた点で、これによりさらに容易な設計で差圧の測定が可能となる。また、第3の流量調節弁45を介装した第2のバイパス流路L4を備えることにより、液化ガスの使用量が変化して前記自動流量調節弁の開度が変更される際のハンチングを最小に抑えることが可能となる。
【0036】
図4に示す本発明を実施するための第4の形態において、前記本発明を実施するための第1から第3の形態と主に異なる点は、自動流量調節弁42の開度調整に流量計34にて測定した流量を使用する点で、これによりさらに精密な第1の熱交換器10に供給される液化ガスの流量を調節することが可能となる。
【0037】
図5は、図3に示す形態の気化熱回収試験装置1において、第2の熱交換器に流入する液化ガス流量(全体の流量に相当)を40kg/hから80、100、120と5分おきに変化させたときの、第1の熱交換器に流入する液化ガスの流量の変化を示したもので、差圧計33の値が15kPaおよび15kPaになるように自動流量調節弁42を制御した場合と、前記自動流量調節弁を全開に固定した場合について測定した結果である。これにより、前記差圧計の値を維持するように前記自動流量調節弁を制御することで、第1の熱交換器に流入する液化ガスの流量を一定に保つことができることが確認できる。
【符号の説明】
【0038】
1 気化熱回収装置
2 第1の貯蔵タンク
4 第2の貯蔵タンク
10 第1の熱交換器
11 第2の熱交換器
21 ポンプ
31、32 圧力センサ
33 差圧計
34 流量計
41 第1の流量調節弁
42 自動流量調節弁
43 逆止弁
44 第2の流量調節弁
45 第3の流量調節弁
L1 第1の流路
L2 第2の流路
L3 第1のバイパス流路
L4 第2のバイパス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯蔵する第1の貯蔵タンク(2)と、第1の貯蔵タンク(2)に貯蔵された液化ガスを第1の熱交換器(10)を介して第2の熱交換器へ送るための第1の流路(L1)と、水またはブライン流体を貯蔵する第2の貯蔵タンク(4)と、第2の貯蔵タンク(4)に貯蔵された水またはブライン流体を第1の熱交換器(10)を介して送るための第2の流路(L2)と、第2の流路(L2)を通して水またはブライン流体を送るためのポンプ(21)と、液化ガスと水またはブライン流体との熱交換を行う熱交換器(10)と、第1の流路(L1)の貯蔵タンク(2)と熱交換器(10)の間で分岐し第1の流路(L1)の第1の熱交換器(10)と第2の熱交換器の間に合流する第1のバイパス流路(L3)を備える気化熱回収装置(1)において、前記第1のバイパス流路に第1の流量調節弁(41)を介装することを特徴とする気化熱回収装置。
【請求項2】
第1の流路(L1)の第1の熱交換器(10)と第1のバイパス流路(L3)との合流点の間に逆止弁(43)を介装することを特徴とする、請求項1に記載の気化熱回収装置。
【請求項3】
第1の流路(L1)の第1のバイパス流路(L3)との分岐点と第1の熱交換器(10)との間に第2の流量調節弁(44)を介装することを特徴とした、請求項1または2に記載の気化熱回収装置。
【請求項4】
第1のバイパス流路(L3)の第1の流量調節弁が自動流量調節弁(42)であり、自動流量調節弁前後に介装した圧力センサ(31)(32)により測定した圧力差、または自動流量調節弁の前後に接続した差圧計(33)を用いて計測した圧力差により、前記自動流量調節弁の開度を自動調整することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の気化熱回収装置。
【請求項5】
第1のバイパス流路(L3)の第1の流量調節弁が自動流量調節弁(42)であり、第1の流路(L1)の第1のバイパス流路との分岐点と第1の熱交換器(10)との間に介装された流量計(34)の流量により、前記自動流量調節弁の開度を自動調整することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の気化熱回収装置。
【請求項6】
第1のバイパス流路(L3)の自動流量調節弁(42)の前の流路で分岐し、前記自動流量調節弁の後の流路で合流する、第3の流量調節弁(45)を介装した第2のバイパス流路(L4)を備えることを特徴とする、請求項4または5に記載の気化熱回収装置。
【請求項7】
第1の熱交換器(10)が、プレート式または二重管式またはシェルチューブ式であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の気化熱回収装置。
【請求項8】
液化ガスが液化二酸化炭素であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の気化熱回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15308(P2013−15308A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160316(P2011−160316)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000187149)昭和電工ガスプロダクツ株式会社 (60)
【Fターム(参考)】