説明

液化ガス輸送船

【課題】液化ガス輸送船の排出ガス中から二酸化炭素を回収する。
【解決手段】液化ガスをタンク3に貯留して輸送する液化ガス輸送船1であって、輸送に伴なって生成される排ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離部7と、該二酸化炭素分離部7で分離された二酸化炭素を液化ガスの冷熱によって液体二酸化炭素または固体二酸化炭素とする冷却部5と、液体二酸化炭素または固体二酸化炭素を冷蔵する冷蔵部6とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス輸送船に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼時に窒素酸化物や硫黄酸化物等の排出の少ないクリーンなエネルギーとして、天然ガスが注目されている。天然ガスの生産地と消費地とは遠隔であるために、生産地で採掘された天然ガスは、液化プラント基地で極低温に冷却して液化天然ガス(以下、LNGと略記する。)とされて、LNG輸送船で極低温状態で受入れ基地まで海上輸送された後に、再気化されて各消費先に供給される。LNG輸送船のLNG貯留タンクは断熱処理が施されているものの、LNGが気化して蒸発ガス(以下、BOGと略記する。)が発生することは避けられない。例えば下記特許文献1には、このようなLNG輸送船(LNG船)及び当該LNG船におけるBOG(蒸発ガス)の処理(再液化)に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−200735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、地球温暖化等の環境保全に対処する目的から、大気中への二酸化炭素の排出が問題視されている。LNG輸送船では、燃料の一部がBOG、すなわち天然ガスなので窒素酸化物や硫黄酸化物の大気への排出は少ないが、二酸化炭素の排出については有効な対策を実施していないのが現状である。したがって、LNG輸送船における二酸化炭素の排出量の削減に関する技術開発が切望されている。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、LNG輸送船等の液化ガス輸送船から大気中に排出される二酸化炭素の排出量を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、液化ガス輸送船に係る第1の解決手段として、液化ガスをタンクに貯留して輸送する液化ガス輸送船であって、輸送に伴なって生成される排ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離部と、該二酸化炭素分離部で分離された二酸化炭素を液化ガスの冷熱によって液体二酸化炭素または固体二酸化炭素とする冷却部と、液体二酸化炭素または固体二酸化炭素を冷蔵する冷蔵部とを具備する、という手段を採用する。
【0007】
液化ガス輸送船に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、二酸化炭素分離部は、液化ガスあるいは二酸化炭素を液体二酸化炭素または固体二酸化炭素とするために使用されて発生した気化ガスによって排ガスを冷却して二酸化炭素を分離する、という手段を採用する。
【0008】
液化ガス輸送船に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、排ガスは航行用エンジンの排ガスである、という手段を採用する。
【0009】
液化ガス輸送船に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、液化ガスは液化天然ガスである、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、輸送に伴って生成される排ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離部と、該二酸化炭素分離部で分離された二酸化炭素を液化ガスの冷熱によって液体二酸化炭素または固体二酸化炭素とする冷却部と、液体二酸化炭素または固体二酸化炭素を冷蔵する冷蔵部とを具備するので、気体として大気中に排出される二酸化炭素の排出量を削減することができる。
また、本発明によれば、冷蔵部で冷蔵した液体二酸化炭素または固体二酸化炭素を輸送目的地で陸揚げして冷媒や化学原料等として有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るLNG輸送船1の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るLNG輸送船1は、図1に示すように、船体2、タンク3、エンジン4、冷却部5、冷蔵部6及びCO分離部7(二酸化炭素分離部)を主要構成要素とするものである。
【0013】
LNG輸送船1は、LNGの輸送専用に建造された船舶であり、天然ガス生産地の液化プラント基地から消費地の受入れ基地までLNGを運搬する。LNGは周知のように−162℃の低温液体である。LNG輸送船1の船体2は、このような低温液体の運搬に特化した構造を有する。タンク3は、LNGを−162℃、大気圧で貯留するものであって、船体2内に複数個、設置されている。エンジン4は、上記タンク3内で発生したBOGを燃料として燃焼させてLNG輸送船1の航行動力を発生させるものであり、ジーゼルエンジンあるいは蒸気タービンである。
【0014】
上記タンク3とエンジン4とはBOG供給路10によって接続されている。LNGの輸送中にタンク3内のLNGが気化して発生するBOGは、BOG供給路10を介してエンジン4に供給され燃料として使用される。なお、エンジン4でのBOGの燃焼熱量が必要とされる動力に対して不足する場合には、タンク3内のLNGを強制気化させて得られる天然ガスがエンジン4の燃料として使用しても良いし、または船体2に別途搭載された燃料を使用しても良い。
【0015】
CO分離部7は、エンジン4の排ガス中から二酸化炭素(CO)を分離するものであって、排ガス排出路12を介してエンジン4から排出される排ガスが導入される。このCO分離部7には排気路16が別途接続されている。二酸化炭素が回収された排ガスの残部(主に水蒸気)は、排気路16を介して大気中に排出される。
【0016】
このようなCO分離部7は、排ガス中から二酸化炭素を分離可能なものであれば特に限定されるものではなく、周知のアミン法、固体化学吸収法、膜分離法、物理吸着法、深冷分離法あるいはハイドレート分離法に基づく二酸化炭素分離装置であるが、タンク3に貯留されたLNGの冷熱を有効利用することを考慮すると、深冷分離法あるいはハイドレート分離法に基づく二酸化炭素分離装置が好ましい。すなわち、深冷分離法は、排ガスを圧縮冷却した後に蒸留することによって二酸化炭素を分離・回収する手法であり、またハイドレート分離法は、二酸化炭素ハイドレートが生成しやすい環境下、つまり低温環境下に置くことでハイドレート化させて分離・回収する手法である。したがって、CO分離部7としては、LNGの冷熱を利用して排ガスを圧縮冷却した後に蒸留するもの、あるいはLNGの冷熱を利用して排ガスを冷却することにより排ガス中の二酸化炭素をハイドレート化させるものが好ましい。
【0017】
冷却部5は、二酸化炭素供給管15によってCO分離部7に接続されていると共にLNG供給管11によってタンク3と接続される熱交換器である。この冷却部5は、二酸化炭素とLNGとの間で熱交換を行い、LNGの冷熱により二酸化炭素を液化または固化させる。上記LNG供給管11の終端にはポンプ30が備えられている。このポンプ30は、タンク3内のLNGを汲み上げて冷却部5に供給する。
【0018】
また、冷却部5には天然ガス回収路13が接続されている。二酸化炭素の冷却に使用されて気化した天然ガス(気化ガス)は、天然ガス回収路13を介してBOG供給路10に導入されてエンジン4の燃料として利用される。なお、上記気化ガスの冷熱をCO分離部7における排ガスの冷却に利用しても良い。
【0019】
冷蔵部6は、搬入路14によって冷却部5と接続されている。この冷蔵部6は、搬入路14を介して冷却部5から供給された液体二酸化炭素または固体二酸化炭素を冷蔵する。
【0020】
次に、このように構成された液化天然ガス輸送船1を用いたLNGの輸送方法について説明する。
【0021】
LNG出荷基地において、LNG輸送船1のタンク3にLNGが積み込まれ、LNGはタンク3内で−162℃、大気圧の冷却状態で輸送される。LNG輸送船1は、タンク3から発生するBOGをエンジン4で燃焼させることで動力を得て航海する一方、当該燃焼に伴って二酸化炭素と水とを主成分とする排ガスを排出する。この排ガスは、排ガス排出路12を介してCO分離部7に導入されてLNGの冷熱で冷却されることにより、二酸化炭素が分離される。
【0022】
このような排ガスから分離された二酸化炭素は、冷却部5に導入されてLNGとの熱交換でさらに冷却される。二酸化炭素は、大気圧下においては−79℃で固体化する性質を有するので、−162℃のLNGとの熱交換でドライアイスとされる。なお、二酸化炭素は、冷却条件、つまり冷却温度と圧力との組み合わせに応じて液体または固体にすることができるが、加圧の必要性がない上に、より高密度の固体にすることで貯蔵空間を縮小できるため、二酸化炭素は液体化せずに固体化させることが好ましい。
【0023】
二酸化炭素を冷却したLNGは、冷熱を失って天然ガスとなるので、回収してBOGと共にエンジン4で燃料として燃焼させる。また、気化した天然ガスは十分に低温であるので、CO分離部7の冷媒として使用した後、エンジン4に供給しても良い。このようにすることで、気化した天然ガス冷熱を有効利用することができる。
【0024】
冷却部5で得られたドライアイスは、搬入路14を経て冷蔵部6に輸送され、LNG輸送船1の航海機関中、冷蔵部6で冷蔵される。そして、本LNG輸送船1がLNG輸送目的地の受入れ基地に到着した際に、タンク3からLNGを陸揚げすると共に、冷蔵部6に冷蔵されたドライアイスを陸揚げする。陸揚げされたドライアイスは、そのまま受入れ基地内で冷媒とされる他、必要に応じて精製されて化学原料等として使用に供される。
【0025】
このように、本LNG輸送船1によれば、航行中に発生する排ガス中の二酸化炭素をドライアイスとして回収するので、大気中への二酸化炭素排出量を大幅に削減できる。また、本LNG輸送船1によれば、タンク3に貯留したLNGの冷熱を利用して二酸化炭素をドライアイスとし、これによって気化した天然ガスはエンジン4の燃料として無駄なく使用するので、二酸化炭素を低コストで回収することができる。さらに、本LNG輸送船1によれば、回収した二酸化炭素をドライアイスとして航海期間中、冷蔵部6で冷蔵しておき、LNGの受入れ基地で陸揚げするので、ドライアイスを冷媒や化学原料等として有効利用可能である。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、LNG輸送船1について説明したが、本発明はこれに限定されない。液化ガス輸送船としては、LNG輸送船1に代えて、LNG等同様な極低温液体であるLPG(液化石油ガス)を輸送する船舶であっても良い。
【0027】
(2)上記実施形態では、LNG輸送船1が航行するために搭載されたエンジン4の排ガスから二酸化炭素を回収したが、本発明はこれに限定されない。エンジン4の排ガスの他に、二酸化炭素を含むガスが発生する場合には、このようなガスも二酸化炭素の回収対象としても良い。
搭載された
【符号の説明】
【0028】
1…LNG輸送船、3…タンク、4…エンジン、5…冷却部、6…冷蔵部、7…CO分離部(二酸化炭素分離部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスをタンクに貯留して輸送する液化ガス輸送船であって、
輸送に伴なって生成される排ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離部と、
該二酸化炭素分離部で分離された二酸化炭素を液化ガスの冷熱によって液体二酸化炭素または固体二酸化炭素とする冷却部と、
液体二酸化炭素または固体二酸化炭素を冷蔵する冷蔵部と
を具備することを特徴とする液化ガス輸送船。
【請求項2】
二酸化炭素分離部は、液化ガスあるいは二酸化炭素を液体二酸化炭素または固体二酸化炭素とするために使用されて発生した気化ガスによって排ガスを冷却して二酸化炭素を分離することを特徴とする請求項1記載の液化ガス輸送船。
【請求項3】
排ガスは、航行用エンジンの排ガスであることを特徴とする請求項1または2記載の液化ガス輸送船。
【請求項4】
液化ガスは、液化天然ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液化ガス輸送船。


【図1】
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【公開番号】特開2011−245995(P2011−245995A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121560(P2010−121560)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】