説明

液圧プレス

【課題】作業効率がよく、コンパクトな液圧プレスを提供する。
【解決手段】型締シリンダ20とスライド昇降シリンダ30とを備えており、型締シリンダ20が複動形シリンダでありロッドに挿入孔23が設けられており、スライド40に伸長ロッド41が設けられており、挿入孔23を開閉するシャッター60を備える液圧プレスである。スライド40の昇降はスライド昇降シリンダ30の作動で行い、型締シリンダ20を動かす必要はないので、スライド40の高速下降、高速上昇ができ、液圧プレスの作業効率が良い。型締シリンダ20の油室を小容量とすることができるため、液圧プレスをコンパクトにできる。型締シリンダ20内の作動油量が少ないため、圧抜き時のショックを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧プレスに関する。さらに詳しくは、作業効率がよく、コンパクトな液圧プレスに関する。
【背景技術】
【0002】
プレスの基本的なフレーム構造は、上部フレームであるクラウンと、下部フレームであるベッドと、それらの間にある柱状のアップライトとからなる。そしてプレスが液圧式である場合には、所望の加圧力を出力することのできる加圧シリンダがクラウンに取り付けられる。
【0003】
特許文献1に、そのような液圧プレスの一例が記載されている。
図13に示すように、特許文献1の液圧プレスは、クラウン101に加圧シリンダ106が取り付けられ、加圧シリンダ106の作動によりスライド107が下降するようになっている。加圧シリンダ106は大容量のラム形シリンダである。ラム形シリンダは自力で収縮することができないため、スライド107には引上げシリンダ108が連結されており、この引上げシリンダ108を収縮させることにより、加圧シリンダ106およびスライド107を上昇させるようになっている。
【0004】
液圧プレスにおいて、その作業効率を良くするためには、スライドの高速下降、高速上昇が必要である。
しかし加圧シリンダ106は大容量であるため、その全ストロークの油量をポンプPで賄うためには、大流量を吐出することのできるポンプが必要となる。さらに、大流量のポンプに合わせてバルブ類やパイプなども相当の大きさのものが必要となるため、設備費用が高くなってしまう。
【0005】
これに対して、加圧シリンダ106をそのロッドやスライド107などの重量により下降させ、その下降に必要な大量の作動油をプレフィルタンク112から補充するようにして、小流量のポンプPでも高速下降できるようにすることが知られている。この場合、ワークへの加圧は、スライド107が下降した状態でポンプPから圧油を加圧シリンダ106に供給することにより行われ、スライド107の上昇は、引上げシリンダ108を収縮させることにより行われる。そして、スライド107の上昇に伴い、加圧シリンダ106内の作動油はプレフィルタンク112に戻される。
【0006】
しかるに、加圧シリンダ106のストロークが大きくなるほど大容量のプレフィルタンク112が必要であるため、設備規模が大きくなり、大量の作動油が必要であるという問題がある。
また、大型になると加圧シリンダ106内の圧縮油の油量が多くなり、圧抜き時のショックが大きくなるため、振動による配管の緩み・油漏れなどの不具合が起こりやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4295601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、作業効率がよく、コンパクトな液圧プレスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の液圧プレスは、スライドに型締力を与える型締シリンダと、前記スライドを昇降させるスライド昇降シリンダとを備えており、前記型締シリンダが複動形シリンダであり、型締に必要なストロークを有することを特徴とする。
第2発明の液圧プレスは、第1発明において、前記型締シリンダのロッドに挿入孔が設けられており、前記スライドに、前記挿入孔に挿入自在な伸長ロッドが設けられており、前記挿入孔を開閉すると共に閉状態で前記型締シリンダの型締力を前記伸長ロッドに伝えるシャッターを備えることを特徴とする。
第3発明の液圧プレスは、第1または第2発明において、前記型締シリンダが両ロッド形シリンダであり、上部ロッドの外径が細く、下部ロッドの外径が太いことを特徴とする。
第4発明の液圧プレスは、第1、第2または第3発明において、前記シャッターを回動自在に支持するピンを備えており、前記シャッターは、前記型締シリンダのストローク方向に前記ピンに沿って摺動可能であり、弾性体で上方付勢されていることを特徴とする。
第5発明の液圧プレスは、第4発明において、前記シャッターは油圧シリンダで開閉自在であることを特徴とする。
第6発明の液圧プレスは、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記型締シリンダの型締用油圧回路および前記スライド昇降シリンダの昇降用油圧回路のそれぞれにおける作動油給排用のポンプは双方向ポンプであることを特徴とする。
第7発明の液圧プレスは、第6発明において、前記型締用油圧回路の前記ポンプは、並列に接続された複数台の双方向ポンプで構成されていることを特徴とする。
第8発明の液圧プレスは、第6または第7発明において、前記双方向ポンプの圧油の供給先および吸入元を前記型締シリンダと前記スライド昇降シリンダとの間で切り替える回路切替バルブを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、スライドの昇降はスライド昇降シリンダの作動で行い、型締シリンダを動かす必要はないので、スライドの高速下降、高速上昇ができ、液圧プレスの作業効率が良い。また、型締シリンダは型締に必要なストロークだけ有すればよく、型締シリンダの油室を小容量とすることができるため、プレフィルタンクが不要であり、液圧プレスをコンパクトにできる。そして、型締シリンダ内の作動油量が少ないため、圧抜き時のショックを低減することができる。
第2発明によれば、シャッターを閉じると型締シリンダの型締力が伸長ロッドに伝わるため、型締シリンダの型締力をスライドに伝達でき、型締をすることができる。また、シャッターを開けると、伸長ロッドは挿入孔に挿入自在になるので、型締シリンダに影響されることなくスライドをスライド昇降シリンダにより長ストロークで昇降させることができる。さらに、伸長ロッドが挿入孔に挿入されるので、液圧プレスをコンパクトにできる。
第3発明によれば、上部ロッドの外径が細く、上部油室の有効断面積が広いため、大きな型締力を出力することができる。また、下部ロッドの外径が太く、下部油室の有効断面積が狭いため、型締シリンダのロッドを速く上昇することができる。そして、下部ロッド底面とシャッターとの接する面積が広くなり、シャッターに対する圧力を分散することができ、ロッドとシャッターの変形などを生じにくくすることができる。
第4発明によれば、シャッターをピン周りに回動させることで挿入孔を開閉することができる。シャッターはピンに沿って摺動自在であり上方付勢されているため、型締シリンダのロッド底面に接したままロッドの動きに追随することができる。
第5発明によれば、シャッターを所望のタイミングで自動的に開閉することができる。
第6発明によれば、双方向ポンプを使用するので、大容量のオイルタンクが不要となる。そのため液圧プレスをコンパクトにでき、また、油圧システムの作動油量の削減ができる。
第7発明によれば、双方向ポンプが複数台並列に接続されているので、小流量の双方向ポンプでも流量を増すことができ、大型の型締シリンダを作動させることができる。
第8発明によれば、型締シリンダとスライド昇降シリンダとで使用する双方向ポンプを共通にすることができ、双方向ポンプの数を削減できるため、液圧プレスをコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る液圧プレスの正面図であり、スライドが上限に位置しているときを示す図である。
【図2】同液圧プレスの正面図であり、スライドの高速下降後を示す図である。
【図3】同液圧プレスの正面図であり、型締時を示す図である。
【図4】同液圧プレスの正面図であり、圧抜き時を示す図である。
【図5】型締シリンダおよびスライド昇降シリンダのストローク線図である。
【図6】型締シリンダおよび閉じた状態のシャッターの正面視断面図であり、(A)図は型締シリンダが上限に位置するとき、(B)図は型締シリンダが下限に位置するときを示す図である。
【図7】図6(A)におけるVII線矢視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る液圧プレスの油圧回路図であり、スライドの高速下降時を示す図である。
【図9】同油圧回路図であり、型締時を示す図である。
【図10】同油圧回路図であり、圧抜き時を示す図である。
【図11】同油圧回路図であり、スライドの高速上昇時を示す図である。
【図12】他の実施形態に係る液圧プレスの油圧回路図である。
【図13】従来技術の液圧プレスの油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る液圧プレスAは、上部フレームであるクラウン11と、下部フレームであるベッド12と、それらの間にある柱状のアップライト13とからなるフレーム構造を有する。クラウン11には型締シリンダ20およびスライド昇降シリンダ30が取付けられ、それらの作動によりスライド40が昇降するようになっている。スライド40の底面には上型51が、ベッド12の上面には下型52が設置されており、下型52と上型51とでワークに型締力を加えることにより型締を行うことができる。
【0013】
型締シリンダ20は主にスライド40に型締力を与える役割を担う。型締シリンダ20は大型の複動両ロッド形シリンダであり、後に説明するように型締に必要なストロークのみ有する。そして、その上部ロッド21の外径は細く、下部ロッド22の外径は太くなっている。さらに、それらロッド21、22にはストローク方向に挿入孔23が設けられている。スライド40の上面には伸長ロッド41が設けられており、伸長ロッド41は挿入孔23に挿入自在となっている。
【0014】
スライド昇降シリンダ30は主にスライド40を高速昇降させる役割を担う。スライド昇降シリンダ30は型締シリンダ20の両側に2本設けられており、型締シリンダ20に比べて小型であり、スライド40の全ストロークを動作させることのできるストロークを有する。スライド昇降シリンダ40のロッド端部はスライド40に結合されている。
【0015】
図6に示すように、型締シリンダ20の底面には、挿入孔23を開閉するシャッター60が設けられている。型締シリンダ20のシリンダ部底面にはピン61が縦に設けられており、シャッター60はそのピン61周りに回動自在に支持されている。そして、ピン61はシャッター60の厚みよりも長く、シャッター60はピン61に沿って摺動可能となっている。ピン61は型締シリンダ20のストローク方向と平行して設けられており、そのためシャッター60は型締シリンダ20のストローク方向に摺動可能となっている。また、ピン61にはシャッター60の下方にバネ62が挿入されており、そのバネ62によってシャッター60は上方付勢されている。したがって、シャッター60が下部ロッド22底面に接した状態で型締シリンダ20が作動すると、シャッター60は下部ロッド22底面に接したまま、ロッドの動きに追随することができる。
【0016】
図7に示すように、シャッター60にはシャッター開閉シリンダ63が接続されており、シャッター開閉シリンダ63の伸縮により、シャッター60がピン61周りに回動し、挿入孔23を開閉することができる。
【0017】
つぎに、図1から図5に基づいて、液圧プレスAの動作を説明する。
(1)高速下降
図1はスライド40が上限に達した状態である。この状態からスライド昇降シリンダ30が伸長し、スライド40が高速下降する(図5(1)参照)。高速下降によりスライド40は型締前のストローク位置、すなわちワークを金型51,52で挟む直前の位置まで下降する。高速下降の間、型締シリンダ20は上限に位置したまま作動せず、伸長ロッド41は挿入孔23内を下降する。スライド40はスライド昇降シリンダ30の作動だけで下降し、型締シリンダ20を動かす必要はないので、高速下降を行うことができる。
【0018】
(2)シャッター閉
図2に示すように、高速下降後は伸長ロッド41の上端が挿入孔23を抜け出た状態となる。この状態で、下部ロッド22の底面と伸長ロッド41の上端との間にシャッター60が挿入される(図5(2)参照)。シャッター60が挿入され挿入孔23が閉じられることにより、下部ロッド22と伸長ロッド41とが連結され、型締シリンダ20の型締力を伸長ロッド41を介してスライド40に伝えられる状態となる。
なお、図示しない位置検出装置や制御装置で下部ロッド22やスライド40などの位置を検出し、シャッター60の開閉のタイミングが制御される。
【0019】
(3)型締
つぎに図3に示すように、型締シリンダ20のロッド21、22が下降し、その型締力がシャッター60、伸長ロッド41、スライド40、上型51へと伝わり型締が行われる(図5(3)参照)。型締シリンダ20は上部ロッド21の外径が細く、上部油室24の有効断面積が広いため、大きな型締力を出力することができる。また、下部ロッド22の外径が太いため、下部ロッド底面22とシャッター60との接する面積が広くなり、シャッター60に対する圧力を分散することができ、下部ロッド22とシャッター60の変形など生じにくくすることができる。
【0020】
(4)圧抜き
型締が終わると図4に示すように、型締シリンダ20のロッド21、22が上昇し、圧抜きが行われる(図5(4)参照)。下部ロッド22の外径は太く、下部油室25の有効断面積が狭いため、型締シリンダ20はロッド21,22を速く上昇することができる。
【0021】
(5)シャッター開
下部ロッド22と伸長ロッド41はシャッター60を介して連結されているだけなので、型締シリンダ20が上昇する際にはその力が伝達されず、スライド40は下限に位置したままである。すなわち、シャッター60と伸長ロッド41との間には隙間ができた状態となる。型締シリンダ20が上限に達したところでシャッター60は退避され挿入孔23を開けた状態となる(図5(5)参照)。
【0022】
(6)高速上昇
つぎに、スライド昇降シリンダ30が収縮し、スライド40が高速上昇する(図5(6)参照)。このとき図1に示すように、シャッター60が開けられているため伸長ロッド41は挿入孔23に挿入自在となっており、型締シリンダ20に影響されることなくスライド40を長ストロークで上昇させることができる。スライド40はスライド昇降シリンダ30の作動だけで上昇し、型締シリンダ20を動かす必要はないので、高速上昇を行うことができる。
【0023】
このように、スライド40の昇降はスライド昇降シリンダ30の作動で行い、型締シリンダ20を動かす必要はないので、スライド40の高速下降、高速上昇ができ、液圧プレスの作業効率が良い。
また、図5に示すように型締シリンダ20は型締に必要なストローク、換言すればワークを挟んで型締力を加えるストロークだけ有すればよく、型締シリンダの油室を小容量とすることができるため、プレフィルタンクが不要であり、液圧プレスAをコンパクトにできる。そして、型締シリンダ20内の作動油量が少ないため、圧抜き時のショックを低減することができ、振動による配管の緩み・油漏れなどの不具合が起こり難い。
さらに、伸長ロッド41が挿入孔23に挿入されるので、液圧プレスAをコンパクトにできる。
【0024】
なお、本実施形態では型締シリンダ20のロッド21,22を貫通するように挿入孔23を設けたが、型締シリンダ20の上下位置とスライド40のストロークとの関係から、ロッド21,22を貫通しない挿入孔23としても良い。上部ロッド21まで挿入孔23を貫通させる必要がない場合は、型締シリンダ20を下方にロッドが突出するピストン形にしてもよい。その場合は上部油室24の有効断面積がより広くなり、より大きな型締力を出力できるようになり、その結果型締シリンダ20自体を小型にすることもできる。
【0025】
また、シャッター60の形態も本実施形態に限られず、挿入孔23を開閉することができるものであれば、その開閉機構や取り付け位置などを個々の液圧プレスの形態に適したものとすることができる。
【0026】
つぎに、液圧プレスAの油圧回路を説明する。
図8に示すように、本実施形態の油圧回路は、型締シリンダ20を作動させる型締回路70とスライド昇降シリンダ30を作動させる昇降回路80とからなる。両油圧回路70,80にはそれぞれの回路に圧油を供給するために双方向ポンプ71a,71b,81が用いられている。双方向ポンプ71a,71b,81を使用するため両油圧回路70,80は閉回路となり、オイルタンクTからの作動油の出し入れが少量となるため、大容量のオイルタンクが不要となる。そのため液圧プレスAをコンパクトにでき、また、油圧システムの作動油量の削減ができる。
【0027】
また、型締回路70には2台の双方向ポンプ71a,71bが並列に接続されている。一般に、双方向ポンプは数百トンクラスの比較的小容量の油圧プレス用のものはあるが、数千トンクラス以上の油圧プレスに適用できる容量のものがない。そこで、このように双方向ポンプを複数台並列に接続することにより、小流量の双方向ポンプでも流量を増すことができ、大型の型締シリンダ20を作動させることができるようにしている。
【0028】
型締回路70は、つぎのように構成されている。
双方向ポンプ71a,71bの正転時吐出口と型締シリンダ20の上部油室24とは油路72で接続され、逆転時吐出口と下部油室25とは油路73で接続されている。そして油路73には開閉弁78が介装されている。この開閉弁78は開位置と排出阻止位置の二位置を有し、常時はスプリング付勢で排出阻止位置となっているが、ソレノイド励磁すると開位置に切り替わる制御弁である。開閉弁78が排出阻止位置となっている場合には、下部油室25から双方向ポンプ71a,71bへの作動油の排出を阻止するようになっている。
【0029】
油路72と油路73との間には、逆止弁74,75とリリーフ弁76,77を介してオイルタンクTが接続されている。逆止弁74は双方向ポンプ71a,71b正転時の作動油補給用である。リリーフ弁77は逆転時の余剰油をオイルタンクTに返すためにある。また、油路73には安全弁79が介装され、油路内の圧力が規定以上に上昇しないようにしている。
【0030】
昇降回路80は、つぎのように構成されている。
双方向ポンプ81の正転時吐出口とスライド昇降シリンダ30のピストン側油室31とは油路82で接続され、逆転時吐出口とロッド側油室32とは油路83で接続されている。そして油路83には開閉弁88が介装されている。この開閉弁88は開位置と排出阻止位置の二位置を有し、常時はスプリング付勢で排出阻止位置となっているが、ソレノイド励磁すると開位置に切り替わる制御弁である。開閉弁88が排出阻止位置となっている場合には、ロッド側油室32から双方向ポンプ81への作動油の排出を阻止するようになっている。
【0031】
油路82と油路83との間には、逆止弁84,85とリリーフ弁86,87を介してオイルタンクTが接続されている。逆止弁84は双方向ポンプ81正転時の作動油補給用である。リリーフ弁87は逆転時の余剰油をオイルタンクTに返すためにある。逆止弁85とリリーフ弁86は、スライド40が型締シリンダ20により下降する際の作動油の流路となる。また、油路83には安全弁89が介装され、油路内の圧力が規定以上に上昇しないようにしている。
【0032】
つぎに、図8から図11に基づいて、両油圧回路70,80の動作を説明する。
(1)高速下降
図8はスライド40が上限に達した状態である。この状態で昇降回路80に接続された双方向ポンプ81を正転させ、開閉弁88を開位置とする。双方向ポンプ81から吐出された圧油はスライド昇降シリンダ30のピストン側油室31に供給され、スライド昇降シリンダ30のピストンが下降することによりロッド側油室32内の作動油が排出され双方向ポンプ81に吸入される。
【0033】
ここで、スライド昇降シリンダ30のロッド側油室32はピストン側油室31に比べてロッド体積分だけ容量が小さい。そのため、ロッド側油室32から排出される作動油量は、ピストン側油室31に供給される作動油量より少ない。そこで、双方向ポンプ81の吐出量と吸入量が同じになるように、逆止弁84を通してオイルタンクTから作動油を吸入側に補給する。
【0034】
この間、型締回路70に設けられた開閉弁78は排出阻止位置となっており、型締シリンダ20に背圧をかけて、上限で留めた状態としている。
これらの動作でスライド40の高速下降が行われる(図5(1)参照)。
【0035】
(2)シャッター閉
スライド40の高速下降が終わると双方向ポンプ81が停止され、シャッター60が閉められる(図5(2)参照)。
【0036】
(3)型締
つぎに、図9に示すように、型締回路70に接続された双方向ポンプ71a,71bを正転させ、開閉弁78を開位置とする。双方向ポンプ71a,71bから吐出された圧油は型締シリンダ20の上部油室24に供給され、ロッド21,22が下降することにより下部油室25内の作動油が排出され双方向ポンプ71a,71bに吸入される。
【0037】
ここで、上部ロッド21の外径に比べて下部ロッド22の外径の方が太いので、下部油室25は上部油室24に比べて容量が小さい。そのため、下部油室25から排出される作動油量は、上部油室24に供給される作動油量より少ない。そこで、双方向ポンプ71a,71bの吐出量と吸入量が同じになるように、逆止弁74を通してオイルタンクTから作動油を吸入側に補給する。
【0038】
この間、昇降回路80は、双方向ポンプ81が停止されているものの、スライド40は型締シリンダ20により下降しているので、それによりシリンダ昇降シリンダ30のピストンも下降する。そのため、ピストン側油室31には、逆止弁85を通してタンクTから作動油が供給され、ロッド側油室32から排出される作用油はリリーフバルブ86を通してタンクTに戻される。
これらの動作で型締が行われる(図5(3)参照)。
【0039】
(4)圧抜き
型締が終わると、図10に示すように、双方向ポンプ71a,71bを逆転させ、開閉弁78を排出阻止位置とする。双方向ポンプ71a,71bから吐出された圧油は型締シリンダ20の下部油室25に供給され、ロッド21,22が上降することにより上部油室24内の作動油が排出され双方向ポンプ71a,71bに吸入される。
【0040】
ここで、上部油室24は下部油室25に比べて容量が大きいため、上部油室24から排出される作動油量は、下部油室25に供給される作動油量より多い。そこで、余分な作動油をリリーフバルブ77を通してタンクTに戻すことにより、双方向ポンプ71a,71bの吐出量と吸入量が同じになるように調整される。
この間、昇降回路80は動作せず、スライド40は下限に位置したままである。
これらの動作で圧抜きが行わる(図5(4)参照)。
【0041】
(5)シャッター開
圧抜きが終わると双方向ポンプ71a,71bが停止され、シャッター60が開けられる(図5(5)参照)。
【0042】
(6)高速上昇
つぎに、図11に示すように、双方向ポンプ81を逆転させ、開閉弁88を排出阻止位置とする。双方向ポンプ81から吐出された圧油はスライド昇降シリンダ30のロッド側油室32に供給され、スライド昇降シリンダ30のピストンが上降することにより上部油室31内の作動油が排出され双方向ポンプ81に吸入される。
【0043】
ここで、ピストン側油室31はロッド側油室32に比べて容量が大きいため、ピストン側油室31から排出される作動油量は、ロッド側油室32に供給される作動油量より多い。そこで、余分な作動油をリリーフバルブ87を通してタンクTに戻すことにより、双方向ポンプ81の吐出量と吸入量が同じになるように調整される。
この間、型締回路70の開閉弁78は排出阻止位置となっており、型締シリンダ20に背圧をかけて、上限で留めた状態としている。
これらの動作でスライド40の高速上昇が行われる(図5(6)参照)。
【0044】
(他の実施形態)
前述の油圧回路では、型締シリンダ20を作動させる型締回路70とスライド昇降シリンダ30を作動させる昇降回路80とで使用する双方向ポンプを別々に設けたが、これを共通のものとし、単一の双方向ポンプで型締シリンダ20とスライド昇降シリンダ30を作動させるように構成しても良い。
【0045】
すなわち図12に示すように、双方向ポンプ91の吐出側と吸入側に回路切替バルブ92,93を設け、双方向ポンプ91の圧油の供給先および吸入元を昇降回路70と型締回路80とで切り替えるようにすればよい。
こうすることにより、液圧プレスに必要な双方向ポンプの数を削減できるため、液圧プレスをコンパクトにできる。
【0046】
回路切替バルブ92,93は、型締シリンダ20を昇降させる間は型締回路70に、シリンダ昇降シリンダ30を昇降させる間は昇降回路80に接続する。具体的には、前述の(2)シャッター閉の段階で昇降回路80から型締回路70に切り替え、(5)シャッター開の段階で型締回路70から昇降回路80に切り替えるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の液圧プレスは主に大型の型締装置に利用される。また、型締装置などの独立した加工機としてのプレスの他にも、他の加工機に組み込まれた小型のプレスとしても利用される。
【符号の説明】
【0048】
A 液圧プレス
20 型締シリンダ
23 挿入孔
30 スライド昇降シリンダ
40 スライド
60 シャッター
70 型締回路
80 昇降回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドに型締力を与える型締シリンダと、
前記スライドを昇降させるスライド昇降シリンダとを備えており、
前記型締シリンダが複動形シリンダであり、型締に必要なストロークを有する
ことを特徴とする液圧プレス。
【請求項2】
前記型締シリンダのロッドに挿入孔が設けられており、
前記スライドに、前記挿入孔に挿入自在な伸長ロッドが設けられており、
前記挿入孔を開閉すると共に閉状態で前記型締シリンダの型締力を前記伸長ロッドに伝えるシャッターを備える
ことを特徴とする請求項1記載の液圧プレス。
【請求項3】
前記型締シリンダが両ロッド形シリンダであり、
上部ロッドの外径が細く、
下部ロッドの外径が太い
ことを特徴とする請求項1または2記載の液圧プレス。
【請求項4】
前記シャッターを回動自在に支持するピンを備えており、
前記シャッターは、前記型締シリンダのストローク方向に前記ピンに沿って摺動可能であり、弾性体で上方付勢されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の液圧プレス。
【請求項5】
前記シャッターは油圧シリンダで開閉自在である
ことを特徴とする請求項4記載の液圧プレス。
【請求項6】
前記型締シリンダの型締用油圧回路および前記スライド昇降シリンダの昇降用油圧回路のそれぞれにおける作動油給排用のポンプは双方向ポンプである
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の液圧プレス。
【請求項7】
前記型締用油圧回路の前記ポンプは、並列に接続された複数台の双方向ポンプで構成されている
ことを特徴とする請求項6記載の液圧プレス。
【請求項8】
前記双方向ポンプの圧油の供給先および吸入元を前記型締シリンダと前記スライド昇降シリンダとの間で切り替える回路切替バルブを備える
ことを特徴とする請求項6または7記載の液圧プレス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−88167(P2011−88167A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241940(P2009−241940)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】