説明

液晶材料の処理方法

【課題】 液晶パネルから液晶材料を有機溶媒に溶解させて回収する処理方法において、回収率が良く、静電気による引火性の危険が少なく、かつ回収した液晶材料の電圧保持率が悪化しない処理方法を提供する。
【解決手段】 液晶パネルから液晶材料を回収するための処理方法において、液晶材料の溶出に極性溶媒と非極性溶媒の混合溶媒を使用することを特徴とする処理方法。本願発明の方法は、液晶パネルから液晶材料の回収率が良く、静電気による引火の危険が少なく、かつ回収した液晶材料の電圧保持率が高い特徴を有する。本願発明の方法はアクティブマトリクス用液晶材料からの液晶材料の再使用も可能であり、廃棄液晶表示素子による環境負荷の低減に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶パネルの製造工程で排出される不良パネルや市場で廃棄された液晶表示素子に利用されている液晶パネル中に含まれる液晶材料を回収するための処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は人とコンピュータ等とのインターフェースとして様々な用途に使用されており、その生産量及び市場での使用量は急激に増大している。それに伴い、液晶表示素子の生産量に対応する量の使用済み液晶表示素子の発生が予想される。液晶表示素子は従来型の表示装置であるCRTとは異なった部材により構成されているため、従来とは異なる方法により廃棄する必要がある。又、最近の環境意識の高まりから、環境に負担をかけない廃棄方法や、廃棄する量をできる限り削減し再使用できる部材を積極的に再利用する方法も検討されている。
【0003】
液晶材料、特に今後使用量が大きいアクティブマトリクス用液晶材料の再利用も検討されており、その回収方法についても検討がなされるようになった。回収方法として、液晶パネルから溶媒を用いて液晶材料を溶解させた後、溶媒を留去する方法が知られている。特許文献1や特許文献2には有機溶媒としてアセトンやイソプロピルアルコールの例示があり、特許文献3や特許文献4にはペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アセトンの例示がされている。
【0004】
アクティブマトリクス用液晶材料を良く溶解する有機溶媒を使用しないと、回収率が悪化する。この点からイソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類は問題がある。
【0005】
ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アセトンはアクティブマトリクス液晶材料を良く溶解する。しかしながら、人体に対する有毒性の観点からベンゼンは使用するべきではない。ペンタン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルは蒸気圧が高いため、引火の危険性が高いという問題があった。また、ペンタン、ヘキサン、トルエンは非極性で静電気を帯びやすく、静電気による引火・爆発の危険があるという問題があった。廃液晶パネルの処理方法として、粉砕処理が提案されている(特許文献 5)。この粉砕物から液晶材料を回収する事が回収コストの点から合理的である。粉砕処理時、及び粉砕物の取り扱い時には、摩擦による静電気の発生が心配されるので、有機溶媒として静電気を帯びやすい有機溶媒の使用は厳に避ける必要がある。
【0006】
回収率が良く、静電気を帯びにくいという点でアセトンは優れている。しかしながら、アセトンを用いてアクティブマトリクス用液晶材料を回収すると電圧保持率が、ヘキサンなどの非極性溶媒を用いた場合と比較して悪化してしまうという問題があった。アクティブマトリクス用液晶材料においては、電圧保持率を十分高い値とする必要がある。電圧保持率とは液晶材料の性能指標の一つで、いわばコンデンサを構成する誘電体材料として如何に優れているかを示すものである。アセトンは極性が高いため、イオン性の不純物を溶解しやすく、これが電圧保持率の悪化を招いていると考えられる。
【0007】
以上のように、アクティブマトリクス用液晶材料の回収用溶媒として、回収効率、静電気による引火の危険性、電圧保持率の悪化の項目について、すべてを満足するものは無かった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−337305号公報
【特許文献2】特開2001−305502号公報
【特許文献3】特開2002−258230号公報
【特許文献4】特開2002−254059号公報
【特許文献5】特開2000−84531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、液晶パネルから液晶材料を有機溶媒に溶解させて回収する処理方法において、回収率が良く、静電気による引火性の危険が少なく、かつ回収した液晶材料の電圧保持率が悪化しない処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機溶媒として極性溶媒と非極性溶媒の混合溶媒を使用すれば良いことを見出した。即ち、本発明は液晶パネルから液晶材料を回収するための処理方法において、液晶材料の溶出に極性溶媒と非極性溶媒の混合溶媒を使用することを特徴とする処理方法を提供する。
【0011】
非極性溶媒は誘電率が低い溶媒を指す。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。このような溶媒はアクティブマトリクス用液晶材料を良く溶解する。しかしながら、非極性溶媒は比抵抗が高く、静電気を帯電しやすい欠点がある。溶媒の純度や含まれる不純物の種類により比抵抗の値は変化するが、およそ1012(Ω・cm)以上である。
【0012】
極性溶媒とは高い誘電率を持つ溶媒を指す。具体的には、エタノールやメタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン類、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、水を挙げることができる。これらの極性溶媒は、イオン性の不純物を溶解しやすく、結果として回収するアクティブマトリクス用液晶材料の保持率を低下させやすいが、静電気が帯電しにくい。溶媒の純度や含まれる不純物の種類により比抵抗の値は変化するが、およそ10(Ω・cm)以下である。
【0013】
この非極性溶媒と極性溶媒を混合して比抵抗を10から1010(Ω・cm)の範囲に、さらに好ましくは2×107から1010(Ω・cm)の範囲に調節すると、回収効率、静電気による引火性の危険が少なく、かつ回収した液晶材料の電圧保持率の悪化が少ないことを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の処理方法を用いると、液晶パネルからアクティブマトリクス液晶材料の回収率が良く、静電気による引火の危険が少なく、かつ回収した液晶材料の電圧保持率の悪化が少ない。これによって液晶材料の再利用が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の一例について説明する。
【0016】
非極性溶媒としては、炭素原子数6から12の脂肪族炭化水素が好ましく、具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トルエン、キシレンが好ましい。一般に蒸気圧が低い方が引火の危険が減るので、この観点からはヘプタン、オクタン、デカン、トルエン、キシレンが更に好ましい。ただし、溶媒を留去する際には蒸気圧が高い方が留去効率が高いので、この観点からはヘプタン、オクタンが特に好ましい。又、非極性溶媒として複数の溶媒を混合しても良い。
【0017】
極性溶媒としては、炭素原子数3から8のジアルキルケトン又は炭素原子数1から5のアルコールが好ましく、ケトン類ではアセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンが好ましく、アルコール類では、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が好ましい。この中でもケトン類が好ましく、アセトン、メチルエチルケトンが特に好ましい。極性溶媒として複数の溶媒を混合しても良い。アセトン、メチルエチルケトン類にメタノール、エタノールのアルコール類を添加することや、水を添加することも好ましい。
【0018】
混合溶媒の量は、回収対象とする液晶材料の質量に対して5から1000倍の質量を使用することが好ましく、10から800倍の質量を使用することが更に好ましい。
【0019】
これらの非極性溶媒と極性溶媒を混合して比抵抗を10から1010(Ω・cm)の範囲に、さらに好ましくは2×107から1010(Ω・cm)、特に好ましくは5×10から10の範囲に調節することが好ましい。このような比抵抗を得るためには、溶媒の純度や種類にもよるが、非極性溶媒と極性溶媒の容量比を67:33から33:67の範囲にすると良い。極性溶媒の一部として水を使用すると、極性溶媒の比率を下げることが可能となる。混合溶媒中の水の濃度は0.05〜20%が好ましく、1〜18%が好ましく、2〜15%が好ましい。このようにすると、非極性溶媒と極性溶媒の容量比を90:10〜33:67の範囲にすることができる。
【0020】
液晶材料を回収する際に、前もって非極性溶媒と極性溶媒を混合しておいても良いし、回収の段階で混合しても良い。例えば、液晶パネルの粉砕物から液晶材料を回収する場合、粉砕物にまず水を噴霧して静電気の除電を効果的に行い、次にアセトンを加えて水とアセトンを混合させ、さらに非極性溶媒であるヘプタンを加えて、最終的に水、アセトン、ヘプタンの混合溶媒とするのも良い。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。電圧保持率の測定は(株)東陽テクニカ製の「VHR−1A」を用い、フレーム周期が200ミリ秒、パルス幅が64マイクロ秒、印加電圧5Vに設定して行った。電圧保持率、の測定は、ポリイミド配向膜を形成した、電極面積1cm、セルギャップ6μmのガラスセルを用いて70℃の温度で行った。
【0022】
(実施例1) ヘプタンとアセトンと水の混合溶媒による回収
ヘプタンが700ml、アセトンが300ml、水道水10mlからなる混合溶媒を調製した。混合溶媒の比抵抗は20℃において、9.5×10(Ω・cm)であった。室温におけるスパークによる引火テスト(市販のガスコンロから取り出した着火装置を用いた)では、引火しなかった。
市中に出回ったアクティブマトリクス液晶ディスプレイからディスプレイパネルを取り出し、そのディスプレイパネルを金槌で1cm角程度まで粉砕した。この粉砕物1kgを調製した混合溶液200mlで3回洗浄した。この洗浄液(計600ml)から混合溶媒を減圧留去して回収液晶(A)を1.3g得た。次に、回収液晶(A)1.3gを0.65gのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(流出溶媒:ヘキサン)によって原点成分の除去、及び着色成分の除去を行った。得られた回収液晶(B)は1.00gであった。ネマチック液晶相−透明性液体相転移温度TNIは87℃、電圧保持率は94%であった。
【0023】
(実施例2) ヘプタンとアセトンの混合溶媒による回収
ヘプタンが550ml、アセトンが450mlからなる混合溶媒を調製した。混合溶媒の比抵抗は20℃において、5.5×10(Ω・cm)であった。室温におけるスパークによる引火テスト(市販のガスコンロから取り出した着火装置を用いた)では、引火しなかった。
市中に出回ったアクティブマトリクス液晶ディスプレイからディスプレイパネルを取り出し、そのディスプレイパネルを金槌で1cm角程度まで粉砕した。この粉砕物1kgを調製した混合溶液200mlで3回洗浄した。この洗浄液(計600ml)から混合溶媒を減圧留去して回収液晶(C)を1.3g得た。次に、回収液晶(C)1.3gを0.65gのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(流出溶媒:ヘキサン)によって原点成分の除去、及び着色成分の除去を行った。得られた回収液晶(D)は0.99gであった。ネマチック液晶相−透明性液体相転移温度TNIは88℃、電圧保持率は93%であった。
【0024】
(比較例1) ヘプタンによる回収
ヘプタンの比抵抗は20℃において、4.7×1013(Ω・cm)であった。室温におけるスパークによる引火テスト(市販のガスコンロから取り出した着火装置を用いた)では、引火した。
市中に出回ったアクティブマトリクス液晶ディスプレイからディスプレイパネルを取り出し、そのディスプレイパネルを金槌で1cm角程度まで粉砕した。この粉砕物1kgを調製したヘプタン200mlで3回洗浄した。この洗浄液(計600ml)からヘプタンを減圧留去して回収液晶(E)を1.3g得た。次に、回収液晶(E)1.3gを0.65gのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(流出溶媒:ヘキサン)によって原点成分の除去、及び着色成分の除去を行った。得られた回収液晶(F)は0.97gであった。TNIは86℃、電圧保持率は95%であった。
【0025】
(比較例2) アセトンによる回収
アセトンの比抵抗は20℃において、4.1×10(Ω・cm)であった。室温におけるスパークによる引火テスト(市販のガスコンロから取り出した着火装置を用いた)では、引火しなかった。
市中に出回ったアクティブマトリクス液晶ディスプレイからディスプレイパネルを取り出し、そのディスプレイパネルを金槌で1cm角程度まで粉砕した。この粉砕物1kgを調製したアセトン200mlで3回洗浄した。この洗浄液(計600ml)からアセトンを減圧留去して回収液晶(G)を1.4g得た。次に、回収液晶(G)1.4gを0.70gのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(流出溶媒:ヘキサン)によって原点成分の除去、及び着色成分の除去を行った。得られた回収液晶(H)は1.04gであった。TNIは88℃、電圧保持率は50%であった。
【0026】
以上の実施例と比較例から明らかなように、極性溶媒と非極性溶媒の混合溶媒は静電気による引火が起こりにくい。また、液晶材料の回収効率、電圧保持率も良い結果が得られていることがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶パネルから液晶材料を回収するための処理方法において、液晶材料の溶出に非極性溶媒と極性溶媒の混合溶媒を使用することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
混合溶媒の比抵抗が10から1010(Ω・cm)の範囲である請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
非極性溶媒が炭素原子数6から12の脂肪族炭化水素である請求項1又は2記載の処理方法。
【請求項4】
極性溶媒が、炭素原子数3から8のジアルキルケトンである請求項1から3のいずれかに記載の処理方法。




【公開番号】特開2006−89605(P2006−89605A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277074(P2004−277074)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】