説明

液晶表示素子

【課題】コントラストが充分に高く中間階調における階調反転の無い良好な品質のノーマリーホワイト表示を得ることができる液晶表示素子を提供する。
【解決手段】一対の基板間に液晶分子を一方の基板から他方の基板に向けて90°±5°の角度範囲にわたりツイスト配向させて封入したツイステッドネマチック型液晶セル1の表示の観察側となる前側外面に、前偏光板2がその透過軸2aを対応する前側の基板の水平配向膜に施された配向処理方向16aに対して+45°±5°で交差する方向に位置させて設置され、液晶セル1の後側外面に、後偏光板3がその透過軸3aを前側基板の水平配向膜に施された配向処理方向16aに対して−45°±5°で交差する方向に位置させて設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶分子が略90°の角度でツイスト配向した液晶層を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の基板間に挟持された液晶層の液晶分子が一方の基板から他方の基板に向けてツイスト配向しているツイステッドネマチック型液晶表示素子が知られている。液晶分子を略90°の角度でツイスト配向させたTN型液晶表示素子は、特許文献1に示されるように、ツイステッドネマチック液晶層を備える液晶セルの表示の観察側となる前側とその反対側の後側に偏光板がそれぞれ設置されている。
【0003】
それら一対の偏光板は、それぞれの透過軸又は吸収軸の何れか一方の光学軸を前記液晶セルのそれぞれの基板の配向膜に施されている配向処理方向に対して平行又は直交する方向に位置させるとともに、ぞれぞれの偏光板の光学軸を互いに平行若しくは直交させて配置する。それぞれの偏光板の前記光学軸を互いに平行に配置した液晶表示素子は、液晶層に実質的に電界が印加されない状態(ノーマーリー状態)で光の透過が実質的に遮断された暗表示が得られる(ノーマリーブラック表示)。また、それぞれの偏光板の前記光学軸を互いに直交させて配置した液晶表示素子は、ノーマーリー状態で光透過が最大になる明表示(ノーマリーホワイト表示)が得られる。
【0004】
ノーマリーホワイト表示においては、液晶層に充分に強い電界を印加して液晶分子を基板垂直方向に立ち上がらせ、ツイスト配向状態を解除することによって、暗表示が得られる。
【特許文献1】特開平6−88962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記ノーマリーホワイト表示では、各基板の液晶に接する内面に液晶分子の配向を規制するために設けられている配向膜の近傍において、液晶分子が配向膜に施された配向処理による配向規制力を強く受けているためにその液晶分子の挙動が抑制される所謂アンカリング効果により、上述した電界印加時(オン時)における、コントラストの低下や中間階調における階調反転等を引き起こし、表示品質の低下を招く。
【0006】
本発明の目的は、コントラストが充分に高く中間階調における階調反転の無い良好な品質のノーマリーホワイト表示を得ることができる液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点による液晶表示素子は、少なくとも1つの電極が形成された第1の基板と、前記第1の基板の前記電極が形成された面に対向して配置され、前記第1の基板と対向する面に、前記電極と対向する少なくとも1つの電極が形成された第2の基板と、前記第1の基板の前記電極が形成された内面に、予め定めた第1の方向に配向処理が施された第1の配向膜と、前記第2の基板の前記電極が形成された内面に、前記第1の方向に対して実質的に90゜の角度で交差する第2の方向に配向処理が施された第2の配向膜と、前記第1の基板の前記第1の配向膜と、前記第2の基板の第2の配向膜との間に挟持され、前記第1、第2の電極間に電界が印加されないときに、液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって予め定めた方向にツイスト配向し、透過光に対して実質的にλ/2のリタデーションを生じさせる液晶層と、互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第1の基板より外側に配置され、前記第1、第2の電極間に十分強い電界が印加されたときに、前記第1の配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に一致させて配置した第1の偏光板と、互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第2の基板より外側に配置され、前記第1の偏光板の光学軸に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に直交させて配置した第2の偏光板とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の第2の観点による液晶表示素子は、少なくとも1つの電極が形成された第1の基板と、前記第1の基板の前記電極が形成された面に対向して配置され、前記第1の基板と対向する面に、前記電極と対向する少なくとも1つの電極が形成された第2の基板と、前記第1の基板の前記電極が形成された内面に、観察側から見て左右方向の水平線に対して実質的に45゜で傾斜した第1の方向に配向処理が施された第1の配向膜と、前記第2の基板の前記電極が形成された内面に、前記第1の方向に対して実質的に90゜で交差する第2の方向に配向処理が施された第2の配向膜と、前記第1の基板の前記第1の配向膜と、前記第2の基板の第2の配向膜との間に挟持され、前記第1、第2の電極間に電界が印加されないときに、液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって実質的に90゜でツイスト配向し、透過光に対して実質的にλ/2のリタデーションを生じさせる液晶層と、前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムと、互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第1の基板より外側に配置され、前記第1、第2の電極間に十分強い電界が印加されたときに、前記第1の配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に一致させて配置した第1の偏光板と、互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第2の基板より外側に配置され、前記第1の偏光板の光学軸に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に直交させて配置した第2の偏光板とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
さらに、本発明の第3の観点による液晶表示素子は、少なくとも1つの電極が形成された第1の基板と、前記第1の基板の前記電極が形成された面に対向して配置され、前記第1の基板と対向する面に、前記電極と対向する少なくとも1つの電極が形成された第2の基板と、前記第1の基板の前記電極が形成された内面に、観察側から見て左右方向の水平線に対して実質的に45゜で傾斜した第1の方向に配向処理が施された第1の配向膜と、前記第2の基板の前記電極が形成された内面に、前記第1の方向に対して実質的に90゜で交差する第2の方向に配向処理が施された第2の配向膜と、前記第1の基板の前記第1の配向膜と、前記第2の基板の第2の配向膜との間に挟持され、前記第1、第2の電極間に電界が印加されないときに、液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって予め定めた方向に実質的に90゜でツイスト配向し、透過光に対して実質的にλ/2のリタデーションを生じさせる液晶層と、前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムと、前記第1の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間、及び前記第2の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間それぞれに、進相軸又は遅相軸の何れか一方の光学軸をそれぞれ隣接する視野角補償フィルムの光学軸の方向と実質的に平行にして配置された一対の位相差板と、互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第1の基板より外側に配置され、前記第1、第2の電極間に十分強い電界が印加されたときに、前記第1の配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に一致させて配置した第1の偏光板と、互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第2の基板より外側に配置され、前記第1の偏光板の光学軸に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に直交させて配置した第2の偏光板とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶表示素子によれば、液晶層に充分に高い電界を印加したオン時において配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に、その配向膜が設けられた基板の外面に設置した偏光板の光学軸を一致させたから、オン時において液晶層に入射する直線偏光が前記配向膜近傍の液晶分子の配列による複屈折性の影響を受けることなく液晶層を透過し、対向基板側の光学軸を直交させて配置されているもう一方の偏光板により確実に吸収される。その結果、充分に暗い暗表示が得られるためにコントラストが高く且つ中間階調における階調の反転が発生しない良好な品質のノーマリーホワイト表示を安定して得ることができる。
【0011】
本発明の第1の観点による液晶表示素子においては、第1の偏光板を、液晶層の液晶分子が第1の配向膜から第2の配向膜に向かってツイスト配向するツイスト角度範囲の中間の角度の方向である第3の方向に、その光学軸を一致させて配置することが好ましい。
すなわち、前記第1の偏光板は、前記第1の配向膜の配向処理方向と前記第2の配向膜の配向処理方向とが成す角度の実質的に1/2の角度だけ、前記第1、第2の配向膜の一方の配向処理方向方から他方に向かって回転した第3の方向に、光学軸を一致させて配置される。また、前記第2配向膜は、前記第1の配向膜の配向処理方向である第1の方向に対して実質的に90で交差する第2の方向に配向処理が施され、前記液晶層は、その液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって90゜の角度でツイスト配向していることが好ましい。その場合、前記第1、第2の基板は、観察側から見て左右方向に延びる上下の辺と、上下方向に延びる左右の辺とを有するそれぞれ矩形の基板からなり、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の上下の辺に平行な水平軸に対してそれぞれほぼ45゜の方向に配向処理が施され、前記第1の偏光板は、その透過軸を前記水平軸と直行する方向に向けて配置され、前記第2の偏光板は、その透過軸を前記水平軸と平行にして配置されていることが望ましく、また、前記液晶層の透過する光に対する屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとしたとき、それらの積Δn・dが、380nm〜480nmの範囲に設定されることが好ましい。これにより、高コントラストで中間階調における階調の反転の発生が確実に防止された表示品質の高いツイステッドネマチック型の液晶表示素子が得られる。さらにまた、前記第1、第2の基板の各電極が対向する画素部毎に互いに異なる波長光を選択透過させる複数色のカラーフィルタがそれぞれ配設され、異なる色のカラーフィルタに対応する画素部毎に液晶層厚をそれぞれ異なる値に設定することが望ましく、これにより、色再現性に優れた良好なカラー表示品質を得ることができる。
【0012】
また、本発明の第1の観点による液晶表示素子においては、前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸を前記第3の方向と平行にかつ互いに逆向きに向けて配置された、ディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムをさらに備える構成とすることが好ましい。これにより、高いコントラストと中間階調における階調反転の抑制効果が得られるとともに覗き見を防止するための視野角制限効果が得られる。
【0013】
さらに、前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムをさらに備えることが好ましい。この場合、液晶層の透過する光に対する屈折率異方性Δnと層厚dとの積Δn・dが、450nm〜550nmであることがより好ましく、これにより、高いコントラストと中間階調における階調反転の抑制効果が得られるとともに広い視野角が得られる。
【0014】
また、上述のように一対の視野角補償フィルムを配置した場合、前記第1の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間、及び前記第2の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間それぞれに、進相軸又は遅相軸の何れか一方の光学軸をそれぞれ隣接する視野角補償フィルムの光学軸の方向と実質的に平行にして配置された一対の位相差板をさらに備える構成とすることが好ましい。この場合、前記液晶層の屈折率異方性Δnとその光が透過する液晶層の層厚dの積Δn・dが、350nm〜450nmの範囲に設定され、且つ、前記一対の位相差板のリタデーションReが、15nm〜55nmの範囲に設定されていることがより好ましく、また、前記第1、第2の基板は、それぞれ矩形の基板からなり、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の一辺に対してほぼ45゜の方向に配向処理が施されていることがより好ましい。このように一対の位相差板を配置することにより、所望の高いコントラストと中間階調における階調反転の抑制効果が得られるとともにさらに視野角の広い良好な表示品質が得られる。
【0015】
本発明の第2の観点による液晶表示素子のように、第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層を備える液晶表示素子の場合にも、前記第1の偏光板は、前記第1の配向膜の配向処理方向と前記第2の配向膜の配向処理方向とが成す角度の実質的に1/2の角度だけ、前記第1、第2の配向膜の配向処理方向の一方から他方に向かって回転した第3の方向に、光学軸を一致させて配置することが好ましく、また、前記液晶層の透過する光に対する屈折率異方性Δnとその光が透過する液晶層の層厚dの積Δn・dを、450nm〜550nmの範囲に設定することが望ましく、さらに、前記第1、第2の基板は、観察側から見て左右方向に延びる上下の辺と、上下方向に延びる左右の辺とを有するそれぞれ矩形の基板からなり、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の上下の辺に平行な水平軸に対してそれぞれほぼ45゜の方向に配向処理が施されていることが望ましい。これにより、所望の高コントラストと中間階調における階調反転の抑制効果が得られるとともに視野角が更に広げられた極めて良好な表示品質が得られる。
【0016】
本発明の第3の観点による液晶表示素子のように、前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムと、前記第1の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間、及び前記第2の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間それぞれに、進相軸又は遅相軸の何れか一方の光学軸をそれぞれ隣接する視野角補償フィルムの光学軸の方向と実質的に平行にして配置された一対の位相差板とを備えた液晶表示素子においては、前記第1、第2の基板は、それぞれ矩形の基板によって構成し、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の一辺に対してほぼ45゜の方向に配向処理が施され、前記液晶層の屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとした場合に、それらの積Δn・dが、350nm〜450nmの範囲に設定され、且つ、前記一対の位相差板のリタデーションReを15nm〜55nmに設定するのが望ましい。また、前記第1、第2の基板の各電極が対向する画素部毎に互いに異なる波長光を選択透過させる複数色のカラーフィルタがそれぞれ配設され、異なる色のカラーフィルタに対応する画素部毎に液晶層厚をそれぞれ異なる値に設定することが好ましく、これにより、所望の高度なコントラストと中間階調における階調反転の抑制効果及び視野角特性を備えるとともに、色再現性に優れた良好なカラー表示品質を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態としての液晶表示素子の光学構成を示す分解平面図で、図2はその内部構成を拡大して示す模式的断面図である。
【0018】
本実施形態の液晶表示素子は、アクティブマトリクス方式の液晶表示素子であり、図1に示されるように、観察側から見て、液晶表示素子の左右方向の水平軸1hと平行な辺1aとこの水平軸1hと直行する上下方向と平行な辺とを有する平面外形が矩形をなす液晶セル1と、これを挟んで表示の観察側となる前側とその後側にそれぞれ設置された同じく矩形の前、後偏光板2、3とからなる。
【0019】
液晶セル1は、図2に示されるように、一対の前、後ガラス基板11、12が、枠状シール材(不図示)により所定の間隙を保って接合されている。接合された一対のガラス基板11、12のうちの一方の前ガラス基板11の対向面(内面)には、それぞれの画素領域に対応する開口13aが形成されたブラックマスク13が設置されている。
【0020】
前ガラス基板11の前記後ガラス基板12に対向する面には、前記ブラックマスク13の各開口13aに対応させて、赤、緑、青の3種類のカラーフィルタ14R、14G、14Bが所定の配置でそれぞれ設置されている。これらの各カラーフィルタ14R、14G、14Bは、各開口13aよりも全周にわたり適長幅だけ大きい面積を備えており、周縁部をブラックマスク13の開口縁部に重畳させて設置されている。そして、カラーフィルタ14R、14G、14Bの各厚さは、各色カラーフィルタ14R、14G、14Bの配置されたそれぞれの画素領域における液晶層厚(セルギャップ)dr、dg、dbを、この液晶層の各透過波長光毎の屈折率異方性と層厚dr、dg、dbとの積の値が実質的に一致するように、各色フィルタ14R、14G、14B毎に最適に設定されている。この液晶層厚の最適化については、後程詳細に説明する。
【0021】
厚さがそれぞれ異なる赤、緑、青の各色カラーフィルタ14R、14G、14Bの表面には、これらを覆う一枚膜状の透明導電膜からなる共通電極15が被着されている。そして、共通電極15の表面には、液晶分子の配向を規制する前水平配向膜16が一様に被着されている。この前水平配向膜16の表面には、図1に示すように、ラビング法により矢印16aの方向へ配向処理が施されている。この配向処理方向16aは、液晶セル1の矩形をなす表示面における下辺1aに平行な水平軸1hに対して右上がりに−45°(時計回り方向を+とする)で交差する方向である。
【0022】
後ガラス基板12の内面には、前述したブラックマスク13の開口に対応させて、透明導電膜からなる複数の画素電極17がマトリックス配置で設置されている。各画素電極17には、能動素子としての薄膜トランジスタ18が、それぞれ接続されている。そして、全ての画素電極17や薄膜トランジスタ18等を覆って後水平配向膜19が一様に被着されている。この後水平配向膜19には、図1に示すように、上述した前水平配向膜16の配向処理方向16aに直交する方向19aの方向へ、ラビング法により配向処理が施されている。この配向処理方向19aは、液晶セル1の水平軸1hに対して右下がりに+45°で交差する方向である。
【0023】
双方のガラス基板11、12の各内面に被着された前及び後水平配向膜16、19が対向する空間には、液晶が封入されて液晶層110が形成されている。この液晶層110は、正の誘電率異方性を備えたネマティック液晶からなり、電界が印加されていない初期状態においては、前及び後水平配向膜16、19近傍の液晶分子それぞれが、前及び後水平配向膜16、19のそれぞれに施された配向処理方向16a、19aに沿った配向規制力を受けて配列し、液晶層110の液晶分子は2枚のガラス基板11、12の間でツイスト配向している。
【0024】
すなわち、液晶層110の各液晶分子は、後水平配向膜19の表面から前水平配向膜16の表面に向かって、矢印21で示す時計回り方向へ90°±5°の角度でツイストした状態で配列している。従って、後水平配向膜19の配向処理方向19aから時計回り方向へ45°回転した白抜き矢印20で示される方向(ツイスト角度範囲の中間の角度の方向)、すなわちこの白抜き矢印方向20で示される図面上で下向きの方位に、この液晶表示素子において最も良好なコントラストが得られる視角方位がある。
【0025】
上述のように液晶分子がツイスト配向した液晶層110は、屈折率異方性が、透過する光の波長によって変化する波長依存性を有しているため、色再現性の高いカラー表示を行うために、液晶層110を透過する赤、緑、青の各波長光に対してそれぞれ実質的にλ/2の複屈折作用を与えるように、各色の画素毎に異なる液晶層厚が設定されている。
【0026】
つまり、本実施形態の液晶セル1においては、赤、緑、青の各画素毎の層厚dr、dg、dbを、各波長光に対する屈折率異方性Δnの波長依存性を相殺するような値に設定してある。
【0027】
すなわち、青色波長光に対する屈折率異方性Δnb、緑色波長光に対する屈折率異方性Δng、及び赤色波長光に対する屈折率異方性Δnrの比は、
Δnb/Δng=1.04±0.03
Δnr/Δng=0.96±0.03
であり、これに応じて、図2に示されるように、赤色カラーフィルタ14Rが配設された画素の液晶層厚drが5.5μm、緑色カラーフィルタ14Gが配設された画素の液晶層厚dgが5.0μm、そして、青色カラーフィルタ14Bが配設された画素の液晶層厚dbが4.8μmとなるように、各色カラーフィルタ14R、14G、14Bの膜厚が設定されている。
【0028】
液晶セル1の前ガラス基板11の外面には、前偏光板2が設置されている。この前偏光板2は、図1に示されるように観察側から見て、その透過軸2aを表示面の水平軸1hに平行に位置させて設置されている。従って、透過軸2aは、液晶セル1の前水平配向膜16に施された配向処理方向16aに対して+45°±5°の角度で交差している。
【0029】
そして、液晶セル1の後ガラス基板12の外面には、後偏光板3が設置されている。この後偏光板3は、その透過軸3aを前偏光板2の透過軸2aに直交させて、つまり表示面の上下方向(観察側から見て、前記液晶表示素子の水平軸1hと直交する方向、以下垂直軸方向という)と平行に設置されている。従って、透過軸3aは、液晶セル1の前水平配向膜16に施された配向処理方向16aに対して−45°±5°の角度で交差している。
【0030】
つまり、前偏光板2は、その透過軸2aを前記液晶層の液晶分子が前記前水平配向膜16から前記後水平配向膜19に向かってツイスト配向するツイスト角度範囲の中間の角度の方向(白抜き矢印20で示される方向)と直交する方向に向け、また、前記透過軸2aと直交する吸収軸2bは前記中間の角度の方向と実質的に一致させて配置されている。そして、前記後偏光板3は、その透過軸3aを前記液晶層の液晶分子が前記前水平配向膜16から前記後水平配向膜19に向かってツイスト配向するツイスト角度範囲の中間の角度の方向(白抜き矢印20で示される方向)と実質的に平行する方向に向け、また、前記透過軸3aと直交する吸収軸3bは前記中間の角度の方向と実質的に直交させ、そして前記前偏光板2の吸収軸2bと互いに実質的に直交させて配置されている。
【0031】
これは、すなわち、前記前偏光板2は、前記前配向膜19の配向処理方向19aと前記後配向膜16の配向処理方向16aとが成す角度の実質的に1/2の角度(45゜)だけ、前記前、後配向膜19,16の一方の配向処理方向19a,16aから他方に向かって回転した矢印20で示される方向に、透過軸2a或いは吸収軸2bを一致させて配置されているのである。
【0032】
次に、上述のように構成された本液晶表示素子における作用効果について、図3(a)、(b)及び図4(a)、(b)の模式的説明図に基づき説明する。ここで、図3(a)、(b)は液晶層に電界が印加されていないときの液晶分子の初期配向状態を示すもので、(a)は平面図、(b)は基板間の液晶分子の配列状態を示す断面図である。また、図4(a)、(b)は液晶層に電界が最大に印加された液晶分子の立上がり配向状態を示すもので、(a)は平面図、(b)は基板間の液晶分子の配列状態を示す断面図である。
【0033】
図3(a)、(b)に示される初期配向状態において、前、後両水平配向膜16、19近傍の液晶分子110aは、対応する水平配向膜16、19の配向規制力を受け、その配向処理方向16a、19aにその長軸方向を沿わせ、且つそれぞれの配向処理方向16a、19aの下流側の先端部をプレチルト角θだけ持ち上げた姿勢で配向している。液晶層110の中間の液晶分子110bは、両基板間で水平配向膜16、19近傍の液晶分子110aの配向と連続的にツイスト配向する。すなわち、液晶分子110a,110bが一方の後水平配向膜19側から他方の前水平配向膜16側に向かって時計回りに矢印21の方向へ略90°にわたりツイストして配向した状態となっている。この液晶分子110a,110bが90度にわたりツイスト配向した状態の液晶層110は、透過光に対してその波長λの1/2の位相差を生じさせる複屈折性を持つように設定してある。従って、この液晶層110を透過する直線偏光は、その偏光面が90°だけ旋光された直線偏光となって出射する。
【0034】
本液晶表示素子においては、図1に示されるように、後偏光板3の透過軸3aと前偏光板2の透過軸2aとを直交させてあるから、それぞれの吸収軸3b、2bも直交する配置となっている。従って、図示しないバックライトからの照射光は、後偏光板3を透過して偏光面が透過軸3aに沿った直線偏光となって初期配向状態の液晶層110に入射し、この液晶層110を透過する際にλ/2の位相差が付与され、偏光面が90°旋光されて出射する。この出射直線偏光の偏光面は前偏光板2の透過軸2aに沿っているから、吸収されることなく透過し、明表示がなされる。
【0035】
次に、暗表示を行うために液晶層110に、その液晶層110の中間層に位置する液晶分子110bを基板に対して実質的に垂直に配向させるのに充分な強い電界を印加すると、液晶分子の配向状態は、図4(a)、(b)に示されるようになる。
【0036】
各液晶分子は、印加される電界の方向つまり前、後ガラス基板11、12(図2参照)に垂直な方向に長軸方向を沿わせて配向するように立上り配向し、前記液晶層110の層厚方向の中間に位置する液晶分子110bはほぼ垂直に配向して螺旋が解けた状態に配向する。一方前及び後水平配向膜16、19近傍の液晶分子110aは、対応する水平配向膜16、19のアンカリング効果により充分に立ち上がることができず、この螺旋が解ける分子間力によって、各水平配向膜16、19近傍の液晶分子110aは、プレチルト角θは略そのままで長軸方向をツイスト配向のツイスト角度範囲の中間角度、つまり前側配向膜16の配向処理方向16aと後側配向膜の配向処理方向19aとが成す角を2等分する角度の方向、すなわち後側配向膜19の配向処理方向19aから時計回り方向へ45°回転した第3の方向20(図面上で液晶表示素子の垂直軸の方位)に向けて配向する。
【0037】
そして、それぞれの水平配向膜16、19から離れるに伴って、液晶分子110bの立上がり角度が大きくなり、液晶層110の中間部では液晶分子110bが略垂直に立ち上がった配向となっている。この電界印加時(オン時)の立上がり配向状態は、図4(a)に示されるように、各液晶分子がそれぞれの長軸方向を上記第3の方向20に大略揃えた状態で配向する。
【0038】
本液晶表示素子においては、図1に示されるように後偏光板3がその透過軸3aを液晶セル1における上記第3の方向20に沿わせて配置されているから、後偏光板3を透過した直線偏光が液晶層110を透過する際に位相差が実質的に付与されず、実質的な直線偏光のまま出射される。この出射直線偏光の偏光面の方向は前偏光板2の吸収軸2bに沿った方向であるから、前偏光板2により確実に吸収され、良好な暗表示が得られる。
【0039】
図5は、本液晶表示素子の印加電圧に対する各波長光毎の透過率の変化を示すグラフ図であり、透過率を示す縦軸は対数目盛りとなっている。比較例として、図13に示されるように、対向する一対の基板の間に液晶層を配置し、後側基板に形成された配向膜の配向処理方向131aを液晶表示素子の水平線131hに対して−45゜に、前側基板に形成された配向膜の配向処理方向131bを水平線131hに対して−45゜に設定した液晶セル131に、前及び後偏光板132、133が各透過軸132a、133aを対応する水平配向膜の配向処理方向131a、131bと同方向に揃えて配置された従来のTN型液晶表示素子による緑色波長光の透過率特性を、二点鎖線で示してある。
【0040】
図5から明らかなように、本実施形態の液晶表示素子では、印加電圧が4.5Vの最大電界印加時(オン時)における透過率が緑色波長光で0.02%と、従来例の同印加電圧における透過率の0.2%に比べて1/10程度に低下しており、その結果、電界無印加時(オフ時)における透過率は略同じであるから、コントラストが約10倍に上昇している。
【0041】
また、従来のTN型液晶表示素子においては、液晶分子の長軸方向と一致する方位に中間階調の階調反転が発生するが、本発明に係わる液晶表示素子においては、上述したように第3の方向20に後偏光板3の透過軸3aを一致させるから、第3の方向20における中間階調における階調反転の発生が抑制される。
【0042】
以上のように、本実施形態の液晶表示素子においては、液晶分子を90°の角度でツイスト配向させた液晶セル1を挟んで、その前後にそれぞれ、前偏光板2と後偏光板3を各透過軸2a、3aを直交させて設置し、そのうちのバックライト光を入射させる後偏光板3の透過軸3aを液晶分子がツイスト配向する角度範囲の中間の角度の方向である第3の方向に一致させて配置したから、電界を充分に印加したオン時に配向膜近傍の液晶分子が配列する前記第3の方向と、偏光板の吸収軸又は透過軸からなる光学軸が実質的に平行になるため、透過率が充分に低い良好な暗表示が得られ、表示のコントラストが向上する。
【0043】
また、赤、緑、青の各色カラーフィルタ14R、14G、14Bがそれぞれ設けられた各画素毎のΔn・dは、液晶分子のツイスト配向によるツイストの効果を考慮して透過光の偏光面を90゜回転させるのに必要なリタデーションの値を示す式(√3・λ/2)によって算出し、その値は、それぞれのカラーフィルタに対応する画素ごとに、380nm〜480nmの範囲で適宜設定された液晶層厚を有するマルチギャップ構造としたから、全ての色の波長光について、透過率が充分に低い良好な暗表示と高いコントラストが得られ、その結果、良好な色度の白色とこれに基づく色再現性に優れた高品位のカラー表示が得られる。
【0044】
なお、この実施例において、後偏光板3は、吸収軸3bを第3の方向20に沿わせて配置してもよい。この場合、前偏光板2は吸収軸2bが配向処理方向16aに対して45°±5°で交差する配置となる。このような光学軸の配置構成としても、上述した所望の効果が同様に奏される。
(第2実施形態)
【0045】
次に、本発明の第2実施形態について、図6及び図7に基づき説明する。なお、上記第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0046】
本実施形態の液晶表示素子は、第1実施形態の液晶表示素子の構成に加えて、液晶セル1と前偏光板2との間に前視野角補償フィルム4を、液晶セル1と後偏光板3との間に後視野角補償フィルム5を、それぞれ設置したものである。なお、液晶セル1のマルチギャップ構造は第1実施形態のものと同じであり、赤、緑、青の画素のΔn・dが、380nm〜480nmの範囲で適宜設定されている。
に設定されている。
【0047】
視野角補償フィルム4、5は、図7に示されるように、それぞれ、透明なフィルム基板41、51の一方の面に配向膜42、52を形成し、これら配向膜42、52の表面にディスコティック液晶層43、53が積層されてなる。ディスコティック液晶層43、53は、円盤状のディスコティック液晶分子43a、53aが、この液晶分子の円盤面に対して垂直な各分子軸43b、53bを予め定めた方向に揃えたまま個々の角度を連続的に変えて一方の方向に傾けた状態に配列しており、各分子軸43b、53bの方向は、配向膜42、52に施された配向処理方向に沿っている。配向膜42、52に近接するディスコティック液晶分子43a、53aはその各分子の盤面をフィルム基板41、51に略平行に沿わせて配向し、配向膜42、52の表面から離れたディスコティック液晶分子43a、53aは、前記配向膜から離れるにつれて、分子盤面のフィルム基板41a、51aに対する傾斜角度、つまりチルト角度が大きくなっている。これにより、ディスコティック液晶層43、53は、各ディスコティック液晶分子43a、53aの分子軸43b、53bの傾斜角度を平均した方向に屈折率が最小となる光学軸(以下、配向軸という)を備えた負の光学的異方性を発現する。
【0048】
本実施形態においては、図6に示されるように、視野角補償フィルム4、5が、各配向軸4a、5aを液晶セル1の第3の方向20と平行で且つ互いに逆向きに向け、液晶セル1を挟んでその前、後に設置されている。すなわち、前側の視野角補償フィルム4の配向軸4aは液晶表示素子の上下方向の上方位に方向を一致させ、後側の視野角補償フィルム5の配向軸5aは下方の方位に方向を一致させてある。
【0049】
上述のように構成された本実施形態の液晶表示素子においては、図8に示されるように、左右視野方向(9時−3時方向)におけるコントラストが視角を傾けるに従って急激に低下する。すなわち、コントラストが10以下となる視角で比較すると、図13に示した従来の構成の液晶表示素子では左右双方で45°以上であるのに対し、本実施形態の液晶表示素子では左右双方で15°以上と極めて小さく、これは上記第1実施形態の液晶表示素子の場合の37°程度に比べてもかなり小さい。なお、正面方向のコントラストについては、上記第1実施形態の液晶表示素子と同等の高コントラストが得られている。
【0050】
従って、本第2実施形態の液晶表示素子によれば、第1実施形態の液晶表示素子によって得られる色再現性に加えて、左右視野方向における視野角が顕著に狭められるために観察者以外の他人による覗き見を有効に防止できるという有用な効果が得られる。
【0051】
なお、視野角補償フィルム4、5の各配向軸4a、5aの向きをそれぞれ上述した向きの逆方向としてもよい。すなわち、視野角補償フィルム4の配向軸4aの向きを上方位の方向とし、視野角補償フィルム5の配向軸5aの向きを下方位の方向としても、得られる効果は変わらない。
(第3実施形態)
【0052】
本第3実施形態の液晶表示素子は、第2実施形態の液晶表示素子における液晶セル1のマルチギャップ構造を、赤、緑、青の画素のΔn・dがそれぞれ450nm〜550nmの範囲で適宜設定し、且つ、視野角補償フィルム4、5の配向軸4a、5aの配置方向を変えたものである。
【0053】
すなわち、図9に示されるように、液晶セル1と前側偏光板2との間に設置される前視野角補償フィルム6は、そのディスコティック液晶分子の配向軸6aを液晶セル1の前水平配向膜に施されている配向処理方向16aに平行(液晶表示素子の水平軸1hに対して−45°方向)に位置させて配置され、液晶セル1と後偏光板3との間に設置される後視野角補償フィルム7は、そのディスコティック液晶分子の配向軸7aを液晶セル1の後水平配向膜に施されている配向処理方向19aに平行(液晶表示素子の水平軸1hに対して+45°方向)に位置させて配置されている。
【0054】
上述のように構成された本第3実施形態の液晶表示素子によれば、オン時の液晶層110にアンカリング効果により残留するリタデーションが、上述のように配置した前、後視野角補償フィルム6、7により有効に補償されるために、図10に示されるように、第2実施形態の液晶表示素子に比べて左右横方向(液晶表示素子の水平軸方向)における視野角が格段に向上する。
【0055】
すなわち、図10から明らかなように、本第3実施形態の液晶表示素子は、左右両視野角80°の広範囲で約40以上のコントラストが確保されており、図13に示した従来の構成の液晶表示素子と比べて著しく広い視野角特性をもっている。
【0056】
以上のように、本第3実施形態の液晶表示素子においては、液晶セル1を挟んでその前後両側に配置する一対のディスコティック液晶層を備える視野角補償フィルム6、7の各配向軸6a、7aの方向を、対応する水平配向膜16、19の配向処理方向16a、19aに平行としたから、液晶セル1のオン時における残留リタデーションが有効に補償され、少なくとも表示面の左右横方向における視野角が改善される。その結果、本第3実施形態の液晶表示素子によれば、第1実施形態の液晶表示素子によって得られる色再現性の高いカラー表示品質に加えて、左右横方向において十分に広い良好な視野角特性が得られる。
【0057】
なお、視野角補償フィルム6、7の各配向軸6a、7aの向きをそれぞれ上述した向きの逆方向としてもよい。すなわち、前視野角補償フィルム6の配向軸6aの向きを左右横方向1hに対して+135°方向とし、後視野角補償フィルム7の配向軸7aの向きを同方向1hに対して−135°方向としても、得られる効果は変わらない。
(第4実施形態)
【0058】
本第4実施形態の液晶表示素子は、第3実施形態の液晶表示素子における液晶セル1のマルチギャップ構造を、赤、緑、青の画素のΔn・dの値を350nm〜450nmの範囲で適宜設定し、且つ、図11に示されるように、前視野角補償フィルム16と前偏光板2との間に前位相差板8を、後視野角補償フィルム7と後偏光板3との間に後位相差板9を、それぞれ配置したものである。
【0059】
前、後位相差板8、9は、ともに、屈折率異方性Δnと厚さdの積Δn・dつまりリタデーションReが15nm〜55nmの範囲で適宜設定され、遅相軸8a、9aをそれぞれ備えている。そして、前位相差板8はその遅相軸8aを前視野角補償フィルム6の配向軸6aに平行に位置させて前視野角補償フィルム6に積層され、後位相差板9はその遅相軸9aを後視野角補償フィルム7の配向軸7aに平行に位置させ後視野角補償フィルムに積層されている。
【0060】
上述のように構成された本第4実施形態の液晶表示素子によれば、前、後各視野角補償フィルム6、7によるそれぞれのリタデーション補償効果が、それぞれに光学軸を一致させて積層された前、後各位相差板8、9によって更に改善されることになり、オン時の残留リタデーションが補償されるから、図12に示されるように、第3実施形態の液晶表示素子よりも更に左右横方向(水平軸の方向)の視野角特性が向上する。
【0061】
すなわち、図12から明らかなように、左右両視野角80°の広範囲で、約50以上のコントラストが確保されており、第3実施形態の液晶表示素子による同範囲のコントラスト40以上よりも高く、正面方向近傍を除く視角範囲全般にわたり一様にコントラストが向上している。
【0062】
以上のように、本第4実施形態の液晶表示素子においては、液晶セル1を挟んでその前後両側に、ディスコティック液晶層を備える視野角補償フィルム6、7と、それぞれの位相差板8、9を、各光学軸を対応する水平配向膜16、19の配向処理方向16a、19aに平行に揃えて積層したから、液晶セル1におけるオン時の残留リタデーションをより効果的に補償することができ、表示面の少なくとも左右横方向において視野角がより改善される。その結果、本第4実施形態の液晶表示素子によれば、第1実施形態の液晶表示素子によって得られる色再現性に優れたカラー表示品質に加えて、少なくとも前記水平軸方向における視野角が一層広げられた良好な視野角特性が得られる。
【0063】
なお、第3実施形態の液晶表示素子の場合と同様に本第4実施形態の場合も、視野角補償フィルム6、7の各配向軸6a、7aの向きをそれぞれ上述した向きの逆方向としてもよく、その場合の得られる効果も、上記効果と変わらない。
【0064】
本発明は、上記の第1乃至第4実施形態に限定されるものではない。例えば、第1乃至第4実施形態においては、後偏光板3の透過軸3aの配置を液晶セル1における液晶分子のツイスト配向角度範囲の中間角度方向に一致させたが、この後偏光板3の透過軸3aは、液晶層110に電界を充分に印加したオン時において対応する側の水平配向膜に近接する液晶分子が配向する第3の方向に一致させればよく、例えば、前記第3の方向が液晶分子のツイスト配向角度の範囲の1/3程度の角度方向であっても、この方向に後偏光板3の透過軸3aを一致させればよい。
【0065】
また、本発明は、カラーフィルタを設けたカラー液晶表示素子に限らず、モノクロ表示を行う液晶表示素子にも有効に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態としての液晶表示素子を示す分解平面図である。
【図2】上記液晶表示素子の内部構成を部分的に拡大して示す模式的断面図である。
【図3】上記液晶表示素子における電界が印加されていないオフ時における液晶分子の配向状態を示す説明図で、(a)は平面図、 (b)はその断面図である。
【図4】上記液晶表示素子における電界が印加されたオン時における液晶分子の配向状態を示す説明図で、(a)は平面図、 (b)はその断面図である。
【図5】上記液晶表示素子における各波長光毎の印加電圧に対する透過率の変化特性を示すグラフ図である。
【図6】本発明の第2実施形態としての液晶表示素子を示す分解平面図である。
【図7】(a)は上記液晶表示素子の内部構成を部分的に拡大して示す模式的断面図で、(b)はその一部の断面図である。
【図8】上記第2実施形態としての液晶表示素子における左右方向の視野角特性を示すグラフ図である。
【図9】本発明の第3実施形態としての液晶表示素子を示す分解平面図である。
【図10】上記第3実施形態としての液晶表示素子における左右方向の視野角特性を示すグラフ図である。
【図11】本発明の第4実施形態としての液晶表示素子を示す分解平面図である。
【図12】上記第4実施形態としての液晶表示素子における左右方向の視野角特性を示すグラフ図である。
【図13】従来の液晶表示素子を示す分解平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1、131 液晶セル
2、132 前偏光板
3、133 後偏光板
4、6 前視野角補償フィルム
5、7 後視野角補償フィルム
8 前位相差板
9 後位相差板
11、12 ガラス基板
13 ブラックマスク
14R、14G、14B 赤、緑、青カラーフィルタ
15 共通電極
16 前水平配向膜
17 画素電極
18 薄膜トランジスタ
19 後水平配向膜
110 液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電極が形成された第1の基板と、
前記第1の基板の前記電極が形成された面に対向して配置され、前記第1の基板と対向する面に、前記電極と対向する少なくとも1つの電極が形成された第2の基板と、
前記第1の基板の前記電極が形成された内面に、予め定めた第1の方向に配向処理が施された第1の配向膜と、
前記第2の基板の前記電極が形成された内面に、前記第1の方向に対して実質的に90゜の角度で交差する第2の方向に配向処理が施された第2の配向膜と、
前記第1の基板の前記第1の配向膜と、前記第2の基板の第2の配向膜との間に挟持され、前記第1、第2の電極間に電界が印加されないときに、液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって予め定めた方向にツイスト配向し、透過光に対して実質的にλ/2のリタデーションを生じさせる液晶層と、
互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第1の基板より外側に配置され、前記第1、第2の電極間に十分強い電界が印加されたときに、前記第1の配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に一致させて配置した第1の偏光板と、
互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第2の基板より外側に配置され、前記第1の偏光板の光学軸に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に直交させて配置した第2の偏光板とを備えることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1の偏光板は、前記液晶層の液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かってツイスト配向するツイスト角度範囲の中間の角度の方向である第3の方向に、光学軸を一致させて配置したことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記第1の偏光板は、前記第1の配向膜の配向処理方向と前記第2の配向膜の配向処理方向とが成す角度の実質的に1/2の角度だけ、前記第1、第2の配向膜の一方の配向処理方向方から他方に向かって回転した第3の方向に、光学軸を一致させて配置したことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記第2配向膜は、前記第1の配向膜の配向処理方向である第1の方向に対して実質的に90で交差する第2の方向に配向処理が施され、
前記液晶層は、その液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって90゜の角度でツイスト配向していることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記第1、第2の基板は、観察側から見て左右方向に延びる上下の辺と、上下方向に延びる左右の辺とを有するそれぞれ矩形の基板からなり、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の上下の辺に平行な水平軸に対してそれぞれほぼ45゜の方向に配向処理が施され、
前記第1の偏光板は、その透過軸を前記水平軸と直行する方向に向けて配置され、前記第2の偏光板は、その透過軸を前記水平軸と平行にして配置されていることを特徴とする請求項4に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記液晶層の透過する光に対する屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとした場合に、それらの積Δn・dが、380nm〜480nmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記第1、第2の基板の各電極が対向する画素部毎に、互いに異なる波長光を選択透過させる複数色のカラーフィルタがそれぞれ配設され、異なる色のカラーフィルタに対応する画素部毎に液晶層厚がそれぞれ異なる値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸を前記第3の方向と平行にかつ互いに逆向きに向けて配置された、ディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項9】
前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置された、ディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項10】
前記液晶層の透過する光に対する屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとした場合に、それらの積Δn・dが、450nm〜550nmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項9に記載の液晶表示素子。
【請求項11】
前記第1の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間、及び前記第2の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間それぞれに、進相軸又は遅相軸の何れか一方の光学軸をそれぞれ隣接する視野角補償フィルムの光学軸の方向と実質的に平行にして配置された、一対の位相差板をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の液晶表示素子。
【請求項12】
前記液晶層の屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとした場合に、それらの積Δn・dが、350nm〜450nmの範囲に設定され、
且つ、前記一対の位相差板のリタデーションReが、15nm〜55nmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項11に記載の液晶表示素子。
【請求項13】
前記第1、第2の基板は、それぞれ矩形の基板からなり、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の一辺に対してほぼ45゜の方向に配向処理が施されていることを特徴とする請求項11に記載の液晶表示素子。
【請求項14】
少なくとも1つの電極が形成された第1の基板と、
前記第1の基板の前記電極が形成された面に対向して配置され、前記第1の基板と対向する面に、前記電極と対向する少なくとも1つの電極が形成された第2の基板と、
前記第1の基板の前記電極が形成された内面に、観察側から見て左右方向の水平線に対して実質的に45゜で傾斜した第1の方向に配向処理が施された第1の配向膜と、
前記第2の基板の前記電極が形成された内面に、前記第1の方向に対して実質的に90゜で交差する第2の方向に配向処理が施された第2の配向膜と、
前記第1の基板の前記第1の配向膜と、前記第2の基板の第2の配向膜との間に挟持され、前記第1、第2の電極間に電界が印加されないときに、液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって実質的に90゜でツイスト配向し、透過光に対して実質的にλ/2のリタデーションを生じさせる液晶層と、
前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムと、
互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第1の基板より外側に配置され、前記第1、第2の電極間に十分強い電界が印加されたときに、前記第1の配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に一致させて配置した第1の偏光板と、
互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第2の基板より外側に配置され、前記第1の偏光板の光学軸に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に直交させて配置した第2の偏光板とを備えることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項15】
前記第1の偏光板は、前記第1の配向膜の配向処理方向と前記第2の配向膜の配向処理方向とが成す角度の実質的に1/2の角度だけ、前記第1、第2の配向膜の配向処理方向の一方から他方に向かって回転した第3の方向に、光学軸を一致させて配置したことを特徴とする請求項14に記載の液晶表示素子。
【請求項16】
前記液晶層の透過する光に対する屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとした場合に、それらの積Δn・dが、450nm〜550nmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項14に記載の液晶表示素子。
【請求項17】
前記第1、第2の基板は、観察側から見て左右方向に延びる上下の辺と、上下方向に延びる左右の辺とを有するそれぞれ矩形の基板からなり、前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の上下の辺に平行な水平軸に対してそれぞれほぼ45゜の方向に配向処理が施されていることを特徴とする請求項16に記載の液晶表示素子。
【請求項18】
少なくとも1つの電極が形成された第1の基板と、
前記第1の基板の前記電極が形成された面に対向して配置され、前記第1の基板と対向する面に、前記電極と対向する少なくとも1つの電極が形成された第2の基板と、
前記第1の基板の前記電極が形成された内面に、観察側から見て左右方向の水平線に対して実質的に45゜で傾斜した第1の方向に配向処理が施された第1の配向膜と、
前記第2の基板の前記電極が形成された内面に、前記第1の方向に対して実質的に90゜で交差する第2の方向に配向処理が施された第2の配向膜と、
前記第1の基板の前記第1の配向膜と、前記第2の基板の第2の配向膜との間に挟持され、前記第1、第2の電極間に電界が印加されないときに、液晶分子が前記第1の配向膜から前記第2の配向膜に向かって予め定めた方向に実質的に90゜でツイスト配向し、透過光に対して実質的にλ/2のリタデーションを生じさせる液晶層と、
前記第1の偏光板と前記第1の基板の間、及び前記第2の偏光板と前記第2の基板の間それぞれに、各々の光学軸をそれぞれ隣接する基板の配向膜に施された配向膜処理の方向に実質的に平行にして配置されたディスコティック液晶層からなる一対の視野角補償フィルムと、
前記第1の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間、及び前記第2の偏光板とこれに隣接する視野角補償フィルムの間それぞれに、進相軸又は遅相軸の何れか一方の光学軸をそれぞれ隣接する視野角補償フィルムの光学軸の方向と実質的に平行にして配置された一対の位相差板と、
互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第1の基板より外側に配置され、前記第1、第2の電極間に十分強い電界が印加されたときに、前記第1の配向膜近傍の液晶分子が配列する第3の方向に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に一致させて配置した第1の偏光板と、
互いに対向配置された前記第1、第2の基板の前記第2の基板より外側に配置され、前記第1の偏光板の光学軸に透過軸又は吸収軸のいずれか一方の光学軸を実質的に直交させて配置した第2の偏光板とを備えることを特徴とする液晶表示素子
【請求項19】
前記第1、第2の基板は、それぞれ矩形の基板からなり、
前記第1、第2の配向膜は、前記矩形基板の一辺に対してほぼ45゜の方向に配向処理が施され、
前記液晶層の屈折率異方性をΔnとし、その光が透過する液晶層の層厚をdとした場合に、それらの積Δn・dが、350nm〜450nmの範囲に設定され、
且つ、前記一対の位相差板のリタデーションReが、15nm〜55nmであることを特徴とする請求項18に記載の液晶表示素子。
【請求項20】
前記第1、第2の基板の各電極が対向する画素部毎に互いに異なる波長光を選択透過させる複数色のカラーフィルタがそれぞれ配設され、異なる色のカラーフィルタに対応する画素部毎に液晶層厚がそれぞれ異なる値に設定されていることを特徴とする請求項18に記載の液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−285220(P2006−285220A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58922(P2006−58922)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】