説明

液晶表示素子

【課題】本発明は、単安定性を示し、SmA相を経由しない強誘電性液晶を用いた液晶表示素子において、ダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制し、かつ、強誘電性液晶の自発分極の向きを制御することが可能な新規な液晶表示素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、配向処理が施されていない未配向処理層を有する第1基板と、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層を有する第2基板との間に強誘電性液晶が挟持されており、上記強誘電性液晶が、単安定性を示し、SmA相を経由しない相系列を有し、さらに、上記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、上記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とする液晶表示素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自発分極を有する単安定型の強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電性液晶(FLC)は、応答速度がμsオーダーと極めて短く、高速デバイスに適した液晶である。特に、カラー表示を実現する方法の一つであるフィールドシーケンシャルカラー方式は、1画素を時間分割するものであるので、良好な動画表示特性を得るためには白黒シャッターとしての液晶が高速応答性を有していることが必要であり、強誘電性液晶が有用である。
【0003】
強誘電性液晶は、クラークおよびラガーウォルにより提唱された電圧無印加時に安定状態を二つ有する双安定性のものが広く知られているが(図14(a))、明、暗の2状態でのスイッチングに限られ、メモリー性を有するものの、階調表示ができないという問題を抱えている。
【0004】
近年、電圧無印加時の液晶層の状態がひとつの状態で安定化している(以下、これを「単安定」と称する。)強誘電性液晶が、電圧変化により液晶のダイレクタ(分子軸の傾き)を連続的に変化させ透過光度をアナログ変調することで階調表示を可能とするものとして注目されている(非特許文献1参照、図14(b)、(c))。単安定性を示す液晶としては、一般に、降温過程においてコレステリック(Ch)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化し、スメクチックA(SmA)相を経由しない強誘電性液晶が用いられる(図15上段)。
【0005】
一方、強誘電性液晶としては、降温過程においてコレステリック(Ch)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化し、SmA相を経由してSmC相を示す材料がある(図15下段)。現在報告されている強誘電性液晶材料の中では、前者のSmA相を経由しない材料に比べて、後者のSmA相を経由する相系列を持つものが大半である。後者のSmA相を経由する相系列を持つ強誘電性液晶は、通常、1層法線に対して二つの安定状態を有し、双安定性を示すことが知られている。
【0006】
フィールドシーケンシャルカラー方式に用いられる強誘電性液晶としては、上述したようにアナログ変調による階調表示を可能とし、高精細なカラー表示を実現するために、単安定性を示すものであることが好ましい。
単安定性を示す強誘電性液晶には、正負両極性の電圧に応答するもの(図14(c))と、正負いずれかの極性の電圧のみに応答するもの(図14(b))がある。中でも、薄膜トランジスタ(TFT)素子を用いて強誘電性液晶を駆動させる場合には、正負いずれかの極性の電圧に応答するもののほうが、自発分極による反転電流の影響が少ないため、特に好ましい。
【0007】
ここで、TFT素子を用いたフィールドシーケンシャルカラー方式による液晶表示素子の駆動シーケンスの一例を図16に示す。図16において、液晶表示素子への印加電圧を0〜±V(V)として、正の極性の電圧でデータ書込み走査を行い、負の極性の電圧でデータ消去走査を行うとする。そして、単安定性を示し、正負いずれかの極性の電圧にのみ応答する強誘電性液晶を用いたとする。
【0008】
単安定性を示し、正負いずれかの極性の電圧にのみ応答する強誘電性液晶の応答としては、図11に例示するように、正の極性の電圧で応答して明状態となる場合(図11(a))と、負の極性の電圧で応答して明状態となる場合(図11(b))とがある。したがって、図16に示すように、図11(a)の応答(液晶応答1)を示す強誘電性液晶を用いた場合は正の極性の電圧を印加したときに明状態となり、図11(b)の応答(液晶応答2)を示す強誘電性液晶を用いた場合は負の極性の電圧を印加したときに明状態となる。
【0009】
TFT素子を用いた強誘電性液晶の駆動は、TFT基板に対向する共通電極基板の共通電極に一定の電圧を印加し、TFT基板の各画素の画素電極に電圧を印加することで行う。ここで、共通電極に対して、画素電極の電圧が相対的に高い場合を正の極性の電圧印加、画素電極の電圧が相対的に低い場合を負の極性の電圧印加とする。
強誘電性液晶として、正の極性の電圧のみに応答するものを用いた場合にも電荷のバランスをとるため、正の極性の電圧印加(書き込み)と負の極性の電圧印加(消去)を交互に行う。TFT素子を用いた場合、全ての画素に同時に電圧を書き込むことはできないため、1ライン毎に走査する。そのため、1ライン目の書き込みとLライン目の書き込みはタイミングがずれる。消去についても同様で、図16に示す例では、全てのラインの書き込みが終了した後に、1ライン目から消去を行う。
さらにフィールドシーケンシャルカラー方式では、書き込みと消去をバックライトの点滅に同期させて行う。図16において、+(R)とはR(赤色)のバックライトに同期させて書込み走査(正の極性の電圧印加)したことを示し、−(R)とはRのバックライトに同期させて消去走査(負の極性の電圧印加)したことを示す。同様に、+(G)、−(G)、+(B)、−(B)についても、それぞれG(緑色)、B(青色)のバックライトに同期させて走査したことを示す。
【0010】
このようにフィールドシーケンシャルカラー方式では、バックライトのR・G・B…の時間的な切り替えに同期させて、書込み走査および消去走査を行い、強誘電性液晶を応答させるので、Rのバックライトに同期させて走査する際には、液晶応答1を示す強誘電性液晶を用いた場合は、1ライン目の書込み走査(+(R))およびLライン目の書込み走査(+(R))のいずれにおいても、Rのバックライトの点灯中に明状態となる。一方、液晶応答2を示す強誘電性液晶を用いた場合は、1ライン目とLライン目とで書込み走査(+(R))および消去走査(−(R))が時間的にずれるので、Rのバックライトに同期させたLライン目の消去走査(−(R))によって、Gのバックライトの点灯時に明状態となってしまう(図16の太枠)。また、Gのバックライトに同期させて走査する際には、Gのバックライトに同期させたLライン目の消去走査(−(G))によって、Bのバックライトの点灯時に明状態となってしまう(図16の太枠)。
なお、図16おいて、明(R)とはR(赤色)のバックライトに同期させた走査によって明状態となることを示し、暗とはR(赤色)・G(緑色)・B(青色)のそれぞれのバックライトに同期させた走査によって暗状態となることを示す。また同様に、明(G)、明(B)についても、それぞれG(緑色)、B(青色)のバックライトに同期させた走査によって明状態となることを示す。
【0011】
通常の液晶表示装置では、正の極性の電圧および負の極性の電圧のいずれで、書込み走査を行うか、消去走査を行うかは決まっており、容易に変更することはできないので、上述した不具合を回避するには、単安定性を示す強誘電性液晶が応答する電圧の極性を、印加電圧の極性に合わせる必要がある。この強誘電性液晶の応答性は、強誘電性液晶の自発分極の向きで決まるため、自発分極の向きを制御することができれば、強誘電性液晶が応答する電圧の極性を制御することができる。
【0012】
しかしながら、強誘電性液晶は、ネマチック液晶に比べて分子の秩序性が高いために配向が難しい。特に、SmA相を経由しない強誘電性液晶は、層法線方向の異なる二つの領域(以下、これを「ダブルドメイン」と称する。)が発生する。このようなダブルドメインは、駆動時に白黒反転した表示になり、大きな問題となる。このため、様々な配向処理方法が検討されている。
【0013】
例えば、ダブルドメインを改善する方法として、液晶セルをコレステリック相以上の温度に加熱し、直流電圧を印加したまま徐々に冷却する電界印加徐冷法が知られている(非特許文献2参照)。この電界印加徐冷法を用いた場合には、印加する電界の向きにより自発分極の向きを制御することができる。しかしながら、この方法では、再度相転移点以上に温度が上がると配向乱れが生じてしまい、また、製造工程が複雑になり、画素電極の間の電界が作用しない部分で配向乱れが発生する等の問題がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、強誘電性液晶をモノドメイン化する方法として、上下の配向膜として光配向膜を用い、これらの光配向膜にそれぞれ異なる組成の材料を用いる方法を提案している(特許文献1〜3参照)。さらに、本発明者らは、強誘電性液晶をモノドメイン化する他の方法として、上下の配向膜のいずれか一方のみに反応性液晶を塗布して配向させ反応性液晶の配向状態を固定化することにより固定化液晶層を形成し、固定化液晶層を強誘電性液晶の配向膜として作用させる方法、および、上下の配向膜の両方に固定化液晶層を形成し、これらの固定化液晶層にそれぞれ異なる組成の材料を用いる方法を提案している(特許文献4参照)。これらの方法では、電界印加徐冷方式によらずに強誘電性液晶を配向させるので、相転移以上に昇温してもその配向を維持することができる。
なお、上述の方法において、強誘電性液晶の良好な配向状態が得られる理由は明らかではないが、強誘電性液晶に直に接する上下の配向層のそれぞれと強誘電性液晶との相互作用の相違によるものと考えられる。
しかしながら、上述の方法により得られる液晶表示素子では、実際に駆動してみなければ強誘電性液晶の自発分極の向きを知ることができない。
【0015】
この問題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行い、強誘電性液晶に直に接する上下の配向層の組み合わせを特定することにより、自発分極の向きを制御する方法を提案している(特許文献5〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−208353号公報
【特許文献2】特開2005−234549号公報
【特許文献3】特開2005−234550号公報
【特許文献4】特開2005−258428号公報
【特許文献5】特開2006−350322号公報
【特許文献6】特開2008−107634号公報
【特許文献7】特開2008−129529号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】NONAKA, T., LI, J., OGAWA, A., HORNUNG, B., SCHMIDT, W., WINGEN, R., and DUBAL, H., 1999, Liq. Cryst., 26, 1599.
【非特許文献2】PATEL, J., and GOODBY, J. W., 1986, J. Appl. Phys., 59, 2355.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らは、ダブルドメインを改善し、かつ、自発分極の向きを制御する方法についてさらなる検討を行った結果、強誘電性液晶に直に接する上下の配向層のうち、いずれか一方の層に配向処理を施さなくても、強誘電性液晶のモノドメイン配向が得られることを見出した。さらに、強誘電性液晶に直に接する配向層および未配向処理層の組み合わせを特定することにより、自発分極の向きを制御することができることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明は、単安定性を示し、SmA相を経由しない強誘電性液晶を用いた液晶表示素子において、ダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制し、かつ、強誘電性液晶の自発分極の向きを制御することが可能な新規な液晶表示素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、第1基材、および、上記第1基材上に形成され、配向処理が施されていない未配向処理層を有する第1基板と、第2基材、上記第2基材上に形成された第2電極層、上記第2電極層上に形成された反応性液晶用配向膜、および、上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層を有し、上記第1基板に対して上記未配向処理層および上記固定化液晶層が対向するように配置された第2基板と、上記未配向処理層および上記固定化液晶層の間に形成され、強誘電性液晶を含む液晶層とを有し、上記強誘電性液晶が、降温過程においてSmA相を経由せずにSmC相を発現し、かつ、上記SmC相にて単安定性を示すものであり、さらに、上記強誘電性液晶は、上記第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が上記単安定性を示す状態から一方の側に傾き、上記第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、上記単安定性を示す状態を維持するか、または上記単安定性を示す状態から上記第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、上記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、上記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とする液晶表示素子を提供する。
【0021】
本発明によれば、未配向処理層側に、強誘電性液晶の自発分極の正極性が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することが可能である。そして、自発分極の向きを制御することができるので、ダブルドメイン等の配向欠陥を生じることなく、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。また、強誘電性液晶は、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであるので、本発明の液晶表示素子をフィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させた場合には、液晶分子の自発分極の方向が制御可能であることにより、上述した背景技術の欄に記載したような不具合を回避することができる。
【0022】
上記発明においては、上記未配向処理層が分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、上記第1基材と上記未配向処理層との間に第1電極層が形成されていることが好ましい。アゾベンゼン骨格は、π電子を多く含むため、液晶分子との相互作用が高く、強誘電性液晶の自発分極の向きの制御に特に適しているからである。また、未配向処理層は配向処理が施されていないものであるので、第1基板の製造過程において配向処理を施す必要がなくなる。よって、液晶表示素子の製造工程を簡略化することができる。特に、液晶表示素子を作製する際には大型のマザーガラスが用いられることが多く、このマザーガラスの大型化が年々進んでいることから、光配向処理を施す場合にはより大型のマザーガラスに対応する露光装置を開発する必要があり、マザーガラスの大型化に伴って設備投資が拡大することが近年懸念されているが、配向処理を施す必要がないのでコスト削減が可能となる。
【0023】
また上記発明においては、上記未配向処理層が導電性を有する無機化合物からなるものであり、上記未配向処理層が第1電極層であることが好ましい。この場合、上記無機化合物が酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)であることが好ましい。上記の場合と同様に、第1基板の製造過程において配向処理を施す必要がなく、液晶表示素子の製造工程の簡略化およびコスト削減が可能である。
【0024】
さらに、本発明は、第1電極層が形成された第1基材上に、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有する未配向処理層を形成し、上記未配向処理層に光配向処理を施すことなく、上記第1基材上に上記第1電極層および上記未配向処理層が順に積層された第1基板を調製する第1基板調製工程と、第2電極層が形成された第2基材上に反応性液晶用配向膜を形成し、上記反応性液晶用配向膜上に反応性液晶を含有する反応性液晶層を形成し、上記反応性液晶層中の上記反応性液晶を配向させ、上記反応性液晶の配向状態を固定化し、上記第2基材上に上記第2電極層、上記反応性液晶用配向膜および上記反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層が順に積層された第2基板を調製する第2基板調製工程と、上記第1基板の未配向処理層および上記第2基板の固定化液晶層の間に強誘電性液晶を挟持し、電界印加処理を行うことなく上記強誘電性液晶を配向させ、上記強誘電性液晶を含む液晶層を形成する液晶層形成工程とを有し、上記強誘電性液晶が、降温過程においてSmA相を経由せずにSmC相を発現し、かつ、上記SmC相にて単安定性を示すものであり、さらに、上記強誘電性液晶は、上記第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が上記単安定性を示す状態から一方の側に傾き、上記第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、上記単安定性を示す状態を維持するか、または上記単安定性を示す状態から上記第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、上記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、上記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とする液晶表示素子の製造方法を提供する。
【0025】
本発明によれば、上述の効果に加えて、電界印加処理を行うことなく強誘電性液晶を配向させるので、相転移温度以上に昇温してもその配向を維持し、配向欠陥の発生を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、未配向処理層および固定化液晶層の間に強誘電性液晶を挟持させると、未配向処理層側に、強誘電性液晶の自発分極の正極が向く傾向にあることを利用して、強誘電性液晶の自発分極の向きを制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の液晶表示素子の他の例を示す概略断面図である。
【図3】強誘電性液晶の配向状態の一例を示す模式図である。
【図4】強誘電性液晶の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図5】強誘電性液晶の自発分極を示す模式図である。
【図6】強誘電性液晶の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図7】フィールドシーケンシャルカラー方式による液晶表示素子の駆動シーケンスを示す概念図である。
【図8】液晶分子の挙動を示す模式図である。
【図9】強誘電性液晶の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図10】本発明の液晶表示素子の他の例を示す概略断面図である。
【図11】強誘電性液晶の印加電圧に対する透過光量の変化を示したグラフである。
【図12】本発明の液晶表示素子の他の例を示す概略斜視図である。
【図13】強誘電性液晶の自発分極を示す模式図である。
【図14】強誘電性液晶の印加電圧に対する透過光量の変化を示したグラフである。
【図15】強誘電性液晶の有する相系列の相違による配向の違いを示した図である。
【図16】フィールドシーケンシャルカラー方式による液晶表示素子の駆動シーケンスを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の液晶表示素子および液晶表示素子の製造方法について、詳細に説明する。
【0029】
A.液晶表示素子
まず、本発明の液晶表示素子について説明する。
本発明の液晶表示素子は、第1基材、および、上記第1基材上に形成され、配向処理が施されていない未配向処理層を有する第1基板と、第2基材、上記第2基材上に形成された第2電極層、上記第2電極層上に形成された反応性液晶用配向膜、および、上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層を有し、上記第1基板に対して上記未配向処理層および上記固定化液晶層が対向するように配置された第2基板と、上記未配向処理層および上記固定化液晶層の間に形成され、強誘電性液晶を含む液晶層とを有し、上記強誘電性液晶が、降温過程においてSmA相を経由せずにSmC相を発現し、かつ、上記SmC相にて単安定性を示すものであり、さらに、上記強誘電性液晶は、上記第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が上記単安定性を示す状態から一方の側に傾き、上記第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、上記単安定性を示す状態を維持するか、または上記単安定性を示す状態から上記第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、上記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、上記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の液晶表示素子について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の液晶表示素子の一例を示す断面図である。図1に例示するように、液晶表示素子10は、第1基材2上に第1電極層3および未配向処理層4が順に形成された第1基板9と、第2基材12上に第2電極層13、反応性液晶用配向膜14および固定化液晶層15が順に形成された第2基板19と、未配向処理層4および固定化液晶層15の間に形成され、強誘電性液晶を含む液晶層20とを有するものである。未配向処理層4は、配向処理が施されていないものであり、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有するものである。また、固定化液晶層15は、反応性液晶の配向状態が固定化されたものである。
【0031】
図2は、本発明の液晶表示素子の他の例を示す断面図である。図2に例示するように、液晶表示素子10は、第1基材2上に未配向処理層4が形成された第1基板9と、第2基材12上に第2電極層13、反応性液晶用配向膜14および固定化液晶層15が順に形成された第2基板19と、未配向処理層4および固定化液晶層15の間に形成され、強誘電性液晶を含む液晶層20とを有するものである。未配向処理層4は、配向処理が施されていないものであり、導電性を有する無機化合物からなり、第1電極層3を兼ねるものである。また、固定化液晶層15は、反応性液晶の配向状態が固定化されたものである。
【0032】
液晶層20に含まれる強誘電性液晶は、降温過程においてSmA相を経由せずにSmC相を発現し、SmC相にて単安定性を示すものである。さらに、強誘電性液晶は、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が単安定性を示す状態から一方の側に傾き、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、単安定性を示す状態を維持するか、または単安定性を示す状態から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものである。
【0033】
図3(a),(b)および図4(a),(b)は、本発明に用いられる強誘電性液晶の配向状態の一例を示す模式図である。なお、図3(a),(b)および図4(a),(b)において、強誘電性液晶については液晶分子を示している。
本発明者らが鋭意検討した結果、例えば分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物または無機化合物を含有する未配向処理層と固定化液晶層とでは、固定化液晶層のほうが相対的に正の極性が強い傾向にあることが判明した。これは、強誘電性液晶と、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物または無機化合物を含有する未配向処理層表面および固定化液晶層表面との相互作用である、極性表面相互作用が影響しているものと考えられる。そのため、図1に例示する液晶表示素子においては、電圧無印加状態では、図3(a)に例示するように、極性表面相互作用によって、液晶分子1の自発分極Psが未配向処理層4側を向く傾向にある。また、図2に例示する液晶表示素子においては、電圧無印加状態では、図4(a)に例示するように、極性表面相互作用によって、液晶分子1の自発分極Psが未配向処理層4側を向く傾向にある。
このとき、図3(b)および図4(b)に例示するように、第1電極層3に正の電圧、第2電極層13に負の電圧を印加すると、印加電圧の極性の影響により、液晶分子1の自発分極Psは固定化液晶層15側を向くようになる。
一方、第1電極層に負の電圧、第2電極層に正の電圧を印加すると、印加電圧の極性の影響によって、図3(a)および図4(a)に例示するように、液晶分子1の自発分極Psは未配向処理層4側を向くようになる。この場合、自発分極の向きは、電圧無印加状態と同様になる。
自発分極の向きがこのような方向になるのは、自発分極の向きが、強誘電性液晶の分極と強誘電性液晶に直に接する層の分極または電圧の極性とが電気的につり合う方向になるため、液晶分子が電気的に安定な状態になるからである。
【0034】
電圧無印加状態あるいは第2電極層への正の極性の電圧印加状態(図3(a)および図4(b))から、第2電極層への負の極性の電圧印加状態(図3(b)および図4(b))としたとき、この印加電圧の負の極性と、液晶分子の自発分極の負の極性との反発によって、図5に例示するように、液晶分子1の方向が角度約2θ変化する。すなわち、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が単安定性を示す状態から一方の側に傾き、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、単安定性を示す状態を維持するか、または単安定性を示す状態から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、第2電極層に負の電圧を印加したときの、液晶分子の単安定性を示す状態からの傾斜角が、第2電極層に正の電圧を印加したときの、液晶分子の単安定性を示す状態からの傾斜角よりも大きくなる。すなわち、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きくなるのである。
【0035】
図6(a),(b)は、本発明に用いられる強誘電性液晶の配向状態の一例を示す模式図である。なお、図6(a)は、図3(a)および図4(a)の上面からの液晶分子の配向状態を示す模式図であり、自発分極Psは紙面手前から奥方向に向いている(図6(a)中の×印)。また、図6(b)は、図3(b)および図4(b)の上面からの液晶分子の配向状態を示す模式図であり、自発分極Psは紙面奥から手前方向に向いている(図6(b)中の●印)。
例えば図1および図2に示す液晶表示素子においては、電圧無印加状態では、図6(a)に例示するように液晶分子1が反応性液晶用配向膜の配向処理方向dに沿って配向し、一様な配向状態となる。また、第1電極層に正の電圧、第2電極層に負の電圧を印加すると、図6(b)に例示するように印加電圧の極性の影響によって自発分極Psの向きが反転する。この場合も、液晶分子1は一様な配向状態となる。さらに、第1電極層に負の電圧、第2電極層に正の電圧を印加すると、図6(a)に例示するように印加電圧の極性の影響によって自発分極Psの向きが反転する。この場合、液晶分子1は電圧無印加状態と同様の配向状態となる。
【0036】
このように本発明においては、例えば分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物または無機化合物を含有する未配向処理層側に、強誘電性液晶の自発分極の正極性が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することが可能である。本発明においては、自発分極の向きを制御することができるので、ダブルドメイン等の配向欠陥を生じることなく、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。この際、電界印加徐冷法によらずに強誘電性液晶を配向させるので、相転移温度以上に昇温してもその配向を維持し、配向欠陥の発生を抑制することができるという利点を有する。
【0037】
また、反応性液晶用配向膜上に固定化液晶層を形成する際には、反応性液晶用配向膜によって反応性液晶を配向させ、例えば紫外線を照射して反応性液晶を重合させることにより反応性液晶の配向状態を固定化することができる。そのため、固定化液晶層に反応性液晶用配向膜の配向規制力を付与することができ、固定化液晶層を強誘電性液晶を配向させるための配向膜として作用させることができる。また、反応性液晶は固定化されているため、温度等の影響を受けないという利点を有する。さらに、反応性液晶は、強誘電性液晶と構造が比較的類似しており、強誘電性液晶との相互作用が強くなるため、強誘電性液晶の自発分極の向きを効果的に制御することができる。
【0038】
さらに本発明においては、上述したように強誘電性液晶の自発分極の向きを制御することができ、偏光板を有する液晶表示素子においては、電圧無印加状態および第2電極層への正の極性の電圧印加状態のときに暗状態、第2電極層への負の極性の電圧印加状態のときに明状態となる。したがって、液晶表示素子をフィールドシーケンシャルカラー方式により駆動した場合には、図7に例示するように、例えばG(緑色)のバックライトの点灯時にR(赤色)のバックライトに同期させた走査によって明状態となるのを回避することが可能である。
なお、図7中の記号等については、図16に示した記号等と同様である。
【0039】
また本発明においては、強誘電性液晶が単安定性を示すものであるので、電圧変調により階調制御が可能になり、高精細で高品位の表示を実現することができる。すなわち、液晶層中において強誘電性液晶が単安定化されていることによって、電圧変化により液晶のダイレクタを連続的に変化させて透過光度をアナログ変調できるようになり、階調表示が可能となる。
【0040】
なお、強誘電性液晶が「単安定性を示す」とは、電圧無印加時の強誘電性液晶の状態がひとつの状態で安定化している状態をいう。強誘電性液晶は、図8に例示するように、液晶分子1が層法線zから傾いており、層法線zに垂直な底面を有する円錐(コーン)の稜線に沿って回転する。このような円錐(コーン)において、液晶分子1の層法線zに対する傾き角をチルト角θという。このように、液晶分子1は層法線zに対しチルト角±θだけ傾く二つの状態間をコーン上に動作することができる。具体的に説明すると、単安定性を示すとは、電圧無印加時に液晶分子1がコーン上のいずれかひとつの状態で安定化している状態をいう。
【0041】
「第2電極層に負の電圧を印加」するとは、第1電極層に対して第2電極層の電圧が相対的に低いことをいう。また、「第2電極層に正の電圧を印加」するとは、第1電極層に対して第2電極層の電圧が相対的に高いことをいう。
【0042】
「第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が単安定性を示す状態から一方の側に傾き、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、単安定性を示す状態を維持するか、または単安定性を示す状態から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きい」とは、電圧無印加時に液晶分子がコーン上のひとつの状態で安定化しており、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が単安定化状態からコーン上の一方の側に傾き、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、単安定化状態を維持するか、または単安定化状態から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいことをいう。
【0043】
図9(a)〜(c)は、単安定性を示す強誘電性液晶の配向状態の一例を示す模式図である。なお、図9(a)〜(c)において、強誘電性液晶については液晶分子を示している。図9(a)は電圧無印加の場合、図9(b)は第2電極層に負の電圧を印加した場合、図9(c)は第2電極層に正の電圧を印加した場合をそれぞれ示す。
電圧無印加の場合、液晶分子1は、コーン上のひとつの状態で安定化している(図9(a))。第2電極層に負の電圧を印加した場合、液晶分子1は、安定化している状態(破線)から一方の側に傾く(図9(b))。また、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子1は、安定化している状態(破線)から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾く(図9(c))。このとき、第2電極層に負の電圧を印加したときの傾斜角δは、第2電極層に正の電圧を印加したときの傾斜角ωよりも大きい。なお、図9(a)〜(c)において、dは反応性液晶用配向膜の配向処理方向、zは層法線を示す。
【0044】
図9(a)および(b)に例示するように、第2電極層に負の電圧を印加したとき、液晶分子1は、印加電圧の大きさに応じた角度で、単安定化状態からコーン上の一方の側に傾く。一方、強誘電性液晶では、図9(a)に例示するように、位置A(液晶分子1の方向)と、位置B(反応性液晶用配向膜の配向処理方向d)と、位置Cとが、必ずしも一致するわけではない。そのため、図9(b)に例示するように、第2電極層に負の電圧を印加したときの最大の傾斜角δは、チルト角θの約2倍となる。
なお、第2電極層に負の電圧を印加したとき、液晶分子は、印加電圧の大きさに応じた角度で、単安定化状態からコーン上の一方の側に傾くことから、実際に液晶表示素子を駆動している際、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子の方向がチルト角の約2倍変化するわけではない。
【0045】
ここで、「第2電極層に負の電圧を印加したときの、液晶分子の単安定化状態からの傾斜角」、および、「第2電極層に正の電圧を印加したときの、液晶分子の単安定化状態からの傾斜角」は、次のようにして測定することができる。
すなわち、まず、偏光板をクロスニコルに配置した偏光顕微鏡と液晶表示素子とを、電圧無印加のときに暗状態となるように、一方の偏光板の偏光軸と液晶層の液晶分子の配向方向とが平行になるように配置し、この位置を基準とする。電圧を印加すると液晶分子が偏光軸と所定の角度を持つようになるため、一方の偏光板を透過した偏光が他方の偏光板を透過して明状態となる。この電圧を印加した状態で液晶表示素子を回転させ暗状態にする。そして、このときの液晶表示素子を回転させた角度を測定する。液晶表示素子を回転させた角度が、上記の傾斜角である。
【0046】
第2電極層に負の電圧を印加したときの傾斜角δは、第2電極層に正の電圧を印加したときの傾斜角ωよりも大きければよいが、中でも、第2電極層に負の電圧10Vを印加したときの傾斜角をδ1、第2電極層に正の電圧10Vを印加したときの傾斜角をω1とすると、δ1/ω1が2以上となることが好ましい。
【0047】
また、「第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量」、および、「第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量」は、次のようにして測定することができる。
すなわち、まず、偏光板をクロスニコルに配置した偏光顕微鏡と液晶表示素子とを、電圧無印加のときに暗状態となるように、一方の偏光板の偏光軸と液晶層の液晶分子の配向方向とが平行になるように配置し、この位置を基準とする。電圧を印加すると液晶分子が偏光軸と所定の角度を持つようになるため、一方の偏光板を透過した偏光が他方の偏光板を透過して明状態となる。そして、このときの透過光量を測定する。この透過光量が、上記の透過光量である。
【0048】
第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量は、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きければよいが、中でも、第2電極層に正の電圧10Vを印加したときの透過光量をA、第2電極層に負の電圧10Vを印加したときの透過光量をBとすると、B/Aが2以上となることが好ましい。
【0049】
以下、本発明の液晶表示素子の各構成部材について詳細に説明する。
【0050】
1.液晶層
本発明における液晶層は、第1基板の未配向処理層および第2基板の固定化液晶層の間に形成され、強誘電性液晶を含むものである。この強誘電性液晶は、降温過程においてSmA相を経由せずにSmC相を発現し、かつ、SmC相にて単安定性を示すものである。また、強誘電性液晶は、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が単安定性を示す状態から一方の側に傾き、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、単安定性を示す状態を維持するか、または単安定性を示す状態から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものである。
【0051】
強誘電性液晶は、上述したように、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであればよい。
なお、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きくなるものは、液晶表示素子全体において80%以上存在することが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。上記範囲であれば、良好なコントラスト比を得ることができるからである。
【0052】
ここで、上記の比率は、次のようにして測定することができる。
すなわち、例えば図10に示すように、第1基材2上に第1電極層3および未配向処理層4が積層された第1基板9と、第2基材12上に第2電極層13、反応性液晶用配向膜14および固定化液晶層15が積層された第2基板19との間に、強誘電性液晶を含む液晶層10が形成された液晶表示素子において、第1基板9および第2基板19の外側にそれぞれ偏光板21aおよび21bを設け、偏光板21a側から光が入射し、偏光板21b側から光が出射するものとする。2枚の偏光板21aおよび21bは、それぞれの偏光軸が略垂直に、かつ、偏光板21aの偏光軸と液晶分子の配向方向とが略平行になるように配置されている。
【0053】
電圧無印加状態では、偏光板21aを透過した直線偏光と液晶分子の配向方向とが一致するため、液晶分子の屈折率異方性が発現されず、偏光板21aを透過した直線偏光はそのまま液晶分子を通過し、偏光板21bにより遮断され、暗状態となる。一方、電圧印加状態では、液晶分子がコーン上を移動し、偏光板21aを透過した直線偏光と液晶分子の配向方向とが所定の角度を持つようになるため、偏光板21aを透過した直線偏光は液晶分子の複屈折により楕円偏光となる。この楕円偏光のうち、偏光板21bの偏光軸と一致する直線偏光のみが偏光板21bを透過し、明状態となる。
【0054】
このため、第2電極層に負の電圧を印加したとき、強誘電性液晶の分子方向が変化すると、明状態が得られる。このとき、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きくなるものであれば、すなわち、第2電極層に負の電圧を印加したときの液晶分子の単安定性を示す状態からの傾斜角が、第2電極層に正の電圧を印加したときの液晶分子の単安定性を示す状態からの傾斜角よりも大きくなるものであれば、第2電極層に負の電圧を印加したときに、強誘電性液晶の分子方向が大きく変化する。一方、例えば、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも小さくなるものであれば、すなわち、第2電極層に負の電圧を印加したときの液晶分子の単安定性を示す状態からの傾斜角が、第2電極層に正の電圧を印加したときの液晶分子の単安定性を示す状態からの傾斜角よりも小さくなるものであれば、第2電極層に負の電圧を印加したときに、強誘電性液晶の分子方向が変化しないか、あるいは強誘電性液晶の分子方向がわずかに変化するだけである。よって、例えば、第2電極層に負の電圧を印加したときに、強誘電性液晶の分子方向が変化しないものや、強誘電性液晶の分子方向がわずかにしか変化しないものが部分的に存在する場合には、部分的に暗状態が得られる。したがって、第2電極層に負の電圧を印加したときに得られる白黒(明暗)表示の白・黒の面積比から、第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きくなるものの比率を算出することができる。
【0055】
強誘電性液晶の相系列は、降温過程においてスメクチックA(SmA)相を経由せずにカイラルスメクチックC(SmC)相を発現するものであれば特に限定されるものではない。例えば、相系列が、降温過程において、ネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、などを挙げることができる。
【0056】
また、強誘電性液晶は、SmC相において単安定性を示すものであればよいが、中でも、図11(a)、(b)に例示するような正負いずれかの電圧を印加したときにのみ液晶分子が動作する、ハーフV字型スイッチング特性を示すものであることが好ましい。このようなハーフV字型スイッチング特性を示す強誘電性液晶を用いると、白黒シャッターとしての開口時間を十分に長くとることができ、これにより時間的に切り替えられる各色をより明るく表示することができ、明るいカラー表示の液晶表示素子を実現することができる。
【0057】
なお、「ハーフV字型スイッチング特性」とは、印加電圧に対する透過光量が非対称な電気光学特性をいう。具体的には、液晶層に正負の電圧10Vをそれぞれ印加したときの印加電圧に対する透過光量のうち、透過光量が小さい場合の印加電圧の透過光量をA、透過光量が大きい場合の印加電圧の透過光量をBとすると、B/Aが2以上となる特性をいう。図11(a)、(b)に例示する電気光学特性を示すものは、ハーフV字型スイッチング特性を示すものであるという。
【0058】
このような強誘電性液晶としては、一般に知られる液晶材料の中から要求特性に応じて種々選択することができる。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ社製「R3201」が挙げられる。
【0059】
液晶層には、上記の強誘電性液晶の他に、液晶表示素子に求められる機能に応じて任意の機能を備える化合物が含有されていてもよい。このような化合物としては、重合性モノマーの重合物を挙げることができる。液晶層中にこのような重合性モノマーの重合物が含有されることにより、上記液晶材料の配列がいわゆる「高分子安定化」され、配向安定性に優れた液晶表示素子を得ることができる。
なお、液晶層が強誘電性液晶および重合性モノマーの重合物を含有する場合については、特開2006−323215号公報等に記載のものと同様である。
【0060】
液晶層の厚みは、1.2μm〜3.0μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.3μm〜2.5μm、さらに好ましくは1.4μm〜2.0μmの範囲内である。液晶層の厚みが薄すぎるとコントラストが低下するおそれがあり、逆に液晶層の厚みが厚すぎると強誘電性液晶が配向しにくくなる可能性があるからである。上記液晶層の厚みは、ビーズスペーサ、柱状スペーサ、隔壁等により調整することができる。
【0061】
本発明においては、強誘電性液晶が単安定性を示すものであるので、薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス方式による駆動が可能であり、電圧変調により階調制御が可能な液晶表示素子を得ることができる。
【0062】
本発明においては、未配向処理層と固定化液晶層とで、固定化液晶層の方が相対的に正の極性が強い傾向にあるので、第2電極層に負の電圧を印加したときに、表示を行うことが好ましい。
上述したように、第2電極層の負の電圧を印加したときの透過光量は、第2電極層の正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きくなる。すなわち、第2電極層の正の電圧を印加したときは、第2電極層に負の電圧を印加したときよりも、透過光量が少なくなる。そのため、第2電極層の正の電圧を印加したときは、第2電極層に負の電圧を印加したときよりも、表示に不利となる。
したがって、透過光量がより大きくなる、第2電極層に負の電圧を印加したときに、表示を行うことが好ましいのである。
【0063】
単安定性を示す強誘電性液晶を用いた液晶表示素子においては、透過光量は、電圧を印加したときの液晶分子の傾斜角に依存する。正負いずれかの電圧を印加すると液晶分子がコーン上を傾くので、例えば図9(a)〜(c)に示すように印加電圧の大きさに応じて液晶分子の傾斜角が変化して透過光量が変化する。このとき、液晶分子の単安定状態からの傾斜角が45°の場合に透過光量が最大になる。
したがって、高い透過光量を実現するためには、実際の駆動時に第2電極層に負の電圧を印加した場合に、液晶分子の単安定状態からの傾斜角が45°になり得る強誘電性液晶を用いることが好ましい。
図9(b)に示す例において、液晶分子の単安定状態からの最大の傾斜角δが45°よりも大きい強誘電性液晶を用いた場合には、実際に液晶表示素子を駆動している際、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子の単安定状態からの傾斜角を45°とすることができる。実際の駆動時に第2電極層に負の電圧を印加した場合に、液晶分子の方向がチルト角の約2倍変化するわけではないからである。
【0064】
2.第1基板
本発明に用いられる第1基板は、第1基材と、上記第1基材上に形成され、配向処理が施されていない未配向処理層とを有するものである。
【0065】
本発明における第1基板は、未配向処理層の構成により、2つの態様に分けることができる。第1態様は、未配向処理層が分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、第1基材と未配向処理層との間に第1電極層が形成されている場合である。第2態様は、未配向処理層が導電性を有する無機化合物からなり、未配向処理層が第1電極層である場合である。以下、各態様に分けて説明する。
【0066】
(1)第1態様
本態様の第1基板は、第1基材と、上記第1基材上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上に形成され、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、光配向処理が施されていない未配向処理層とを有するものである。
【0067】
本態様においては、未配向処理層は光配向処理が施されていないものであるので、本態様の第1基板の製造過程において光配向処理を施す必要がなくなる。よって、液晶表示素子の製造工程を簡略化することができる。特に、液晶表示素子を作製する際には大型のマザーガラスが用いられることが多く、このマザーガラスの大型化が年々進んでいることから、光配向処理を施す場合にはより大型のマザーガラスに対応する露光装置を開発する必要があり、マザーガラスの大型化に伴って設備投資が拡大することが近年懸念されているが、本態様においては光配向処理を施す必要がないのでコスト削減が可能となる。
また、アゾベンゼン骨格は、π電子を多く含むため、液晶分子との相互作用が高く、強誘電性液晶の自発分極の向きの制御に特に適しているという利点も有する。
以下、第1基板の各構成について説明する。
【0068】
(i)未配向処理層
本態様に用いられる未配向処理層は、第1電極層上に形成され、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、光配向処理が施されていないものである。
【0069】
なお、「未配向処理層が光配向処理が施されていない」ものであることは、未配向処理層の偏光紫外・可視吸収スペクトルを測定することにより確認することができる。すなわち、紫外可視分光光度計(V7100:日本分光株式会社製)を用いて、未配向処理層に対して偏光紫外線を照射し、紫外線の偏光方向と平行および垂直方向の偏光紫外・可視吸収スペクトルを測定する。垂直方向と水平方向のスペクトルの吸収ピークの比が1.2以下であれば、光配向処理が施されていないものであるとする。
【0070】
上記の垂直方向と水平方向のスペクトルの吸収ピークの比は、1.2以下であることが好ましく、より好ましくは1.1以下である。なお、未配向処理層を形成する際の未配向処理層形成用塗工液の塗布方法等によっては未配向処理層が若干の異方性を有するものとなる場合もあることから、上記の垂直方向と水平方向のスペクトルの吸収ピークの比の下限は特に限定されるものではない。
【0071】
本態様に用いられる光異性化反応性化合物としては、分子内にアゾベンゼン骨格を有するものであれば特に限定されるものではない。この光異性化反応性化合物が生じる光異性化反応は、シス−トランス異性化反応となる。
【0072】
上記光異性化反応性化合物としては、単分子化合物、または、光もしくは熱により重合する重合性モノマーを挙げることができる。これらは用いられる強誘電性液晶の種類に応じて適宜選択すればよい。
例えば重合性モノマーを用いた場合には、ポリマー化することにより膜を安定化することができる。また、重合性モノマーの中でも、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマーを用いた場合には、容易にポリマー化できる。上記重合性モノマーは、単官能のモノマーであっても、多官能のモノマーであってもよいが、ポリマー化によって膜がより安定なものとなることから、2官能のモノマーであることが好ましい。
【0073】
分子内に含まれるアゾベンゼン骨格の数は、特に限定されるものではなく、例えば1つであってもよく2つであってもよい。
【0074】
アゾベンゼン骨格は、液晶分子との相互作用をより高めるために置換基を有していてもよい。置換基は、液晶分子との相互作用を高めることができ、かつ、アゾベンゼン骨格の配向を妨げないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基、スルホン酸ナトリウム基、水酸基などが挙げられる。これらの構造は、用いられる強誘電性液晶の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0075】
また、光異性化反応性化合物としては、分子内にアゾベンゼン骨格以外にも、液晶分子との相互作用をより高められるように、芳香族炭化水素基などのπ電子が多く含まれる基を有していてもよく、アゾベンゼン骨格と芳香族炭化水素基は、結合基を介して結合していてもよい。結合基は、液晶分子との相互作用を高められるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、−COO−、−OCO−、−O−、−C≡C−、−CH−CH−、−CHO−、−OCH−などが挙げられる。
【0076】
光異性化反応性化合物は、上記アゾベンゼン骨格を、主鎖として有していてもよく、側鎖として有していてもよい。なお、光異性化反応性化合物として重合性モノマーを用いる場合であって、上記アゾベンゼン骨格を側鎖として有する場合には、前述した分子内に含まれる芳香族炭化水素基や結合基は、液晶分子との相互作用が高められるように、アゾベンゼン骨格と共に、側鎖に含まれていることが好ましい。またこの場合、上記重合性モノマーの側鎖には、アゾベンゼン骨格が配向しやすくなるように、アルキレン基などの脂肪族炭化水素基をスペーサーとして有していてもよい。
【0077】
分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物のうち、単分子化合物としては、特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報等に記載のものを用いることができる。
また、アゾベンゼン骨格を側鎖として有する重合性モノマーとしては、特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報等に記載のものを用いることができる。
【0078】
本態様においては、このような光異性化反応性化合物の中から、要求特性に応じて、アゾベンゼン骨格や置換基を種々選択することができる。なお、これらの光異性化反応性化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0079】
また、未配向処理層は、上記光異性化反応性化合物のほか、添加剤を含んでいてもよい。上記光異性化反応性化合物として重合性モノマーを用いる場合には、添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0080】
重合開始剤または重合禁止剤は、一般に公知の化合物の中から、光異性化反応性化合物の種類によって適宜選択して用いればよい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量は、光異性化反応性化合物に対し、0.001質量%〜20質量%の範囲内であることが好ましく、0.1質量%〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量が小さすぎると重合が開始(禁止)されない場合があり、逆に大きすぎると、反応が阻害される場合があるからである。
【0081】
未配向処理層の厚みは、1nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。未配向処理層の厚みが上記範囲より薄いと十分に強誘電性液晶の自発分極の向きの制御ができない可能性があり、逆に未配向処理層の厚みが上記範囲より厚いとコスト的に不利になる場合があるからである。
【0082】
(ii)第1電極層
本態様に用いられる第1電極層は、一般に液晶表示素子の電極として用いられているものであれば特に限定されるものではないが、第1基板の第1電極層および第2基板の第2電極層のうち少なくとも一方が透明導電体で形成されることが好ましい。透明導電体材料としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)等が好ましく挙げられる。
【0083】
本発明の液晶表示素子を、TFTを用いたアクティブマトリックス方式で駆動させる場合には、第1基板および第2基板のうち、一方に上記透明導電体で形成される全面共通電極を設け、他方にはゲート電極とソース電極をマトリックス状に配列し、ゲート電極とソース電極で囲まれた部分にTFT素子および画素電極を設ける。
【0084】
第1電極層の形成方法としては、化学蒸着(CVD)法や、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着(PVD)法などが挙げられる。
【0085】
(iii)第1基材
本態様に用いられる第1基材は、一般に液晶表示素子の基材として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス板、プラスチック板などが好ましく挙げられる。
【0086】
(iv)その他の構成
本態様の第1基板においては、第1基材上に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよい。第2基板において第2基材上に隔壁または柱状スペーサが形成されている場合には、第1基板において第1基材上には隔壁または柱状スペーサが形成されない。すなわち、第1基板に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよく、第2基板に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよい。
隔壁および柱状スペーサとしては、一般的な隔壁および柱状スペーサを適用することができる。
【0087】
また、本態様の第1基板おいては、第1基材上に着色層が形成されていてもよい。第2基板において第2基材上に着色層が形成されている場合には、第1基板において第1基材上には着色層が形成されない。すなわち、第1基板に着色層が形成されていてもよく、第2基板に着色層が形成されていてもよい。
着色層が形成されている場合には、着色層によってカラー表示を実現することができるカラーフィルタ方式の液晶表示素子を得ることができる。
着色層の形成方法としては、一般的なカラーフィルタにおける着色層を形成する方法を用いることができ、例えば、顔料分散法(カラーレジスト法、エッチング法)、印刷法、インクジェット法などを用いることができる。
【0088】
(2)第2態様
本態様の第1基板は、第1基材と、上記第1基材上に形成され、導電性を有する無機化合物からなり、配向処理が施されていない未配向処理層とを有し、未配向処理層が第1電極層であるものである。
【0089】
本態様においては、未配向処理層は配向処理が施されていないものであるので、本態様の第1基板の製造過程において配向処理を施す必要がなくなる。よって、液晶表示素子の製造工程を簡略化することができる。特に、液晶表示素子を作製する際には大型のマザーガラスが用いられることが多く、このマザーガラスの大型化が年々進んでいることから、配向処理を施す場合にはより大型のマザーガラスに対応する装置を開発する必要がある場合があり、マザーガラスの大型化に伴って設備投資が拡大することが近年懸念されているが、本態様においては配向処理を施す必要がないのでコスト削減が可能となる。
【0090】
なお、第1基材については、上記第1態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、第1基板の他の構成について説明する。
【0091】
(i)未配向処理層
本態様に用いられる未配向処理層は、第1基材上に形成され、導電性を有する無機化合物からなり、配向処理が施されていないものであり、第1電極層を兼ねるものである。
【0092】
なお、「未配向処理層が配向処理が施されていない」ものであることは、上記第1態様と同様に、未配向処理層の偏光紫外・可視吸収スペクトルを測定することにより確認することができる。
【0093】
本態様に用いられる無機化合物としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、中でも、未配向処理層が第1電極層を兼ねることから、一般に液晶表示素子の電極に用いられるものを適用することが好ましい。具体的には、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0094】
未配向処理層の厚みは、一般的な液晶表示素子の電極の厚みと同様とすることができる。
【0095】
(ii)その他の構成
本態様の第1基板においては、第1基材上に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよい。また、本態様の第1基板おいては、第1基材上に着色層が形成されていてもよい。
なお、これらの部材については、上記第1態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0096】
3.第2基板
本発明に用いられる第2基板は、第2基材と、上記第2基材上に形成された第2電極層と、上記第2電極層上に形成された反応性液晶用配向膜と、上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層とを有するものである。第2基板は、上記第1基板に対して、第1基板の未配向処理層と第2基板の固定化液晶層とが対向するように配置されている。
【0097】
なお、第2基材、第2電極層、およびその他の構成については、上記第1基板における第1基材、第1電極層、およびその他の構成とそれぞれ同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、第2基板の他の構成について説明する。
【0098】
(1)固定化液晶層
本発明に用いられる固定化液晶層は、反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなるものである。
【0099】
本発明に用いられる反応性液晶としては、ネマチック相を発現するものであることが好ましい。ネマチック相は、液晶相の中でも配向制御が比較的容易であるからである。
【0100】
また、反応性液晶は、重合性液晶材料を含有することが好ましい。これにより、反応性液晶の配向状態を固定化することが可能になるからである。重合性液晶材料としては、重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマー、および重合性液晶ポリマーのいずれかを用いることができるが、中でも、重合性液晶モノマーが好適に用いられる。重合性液晶モノマーは、他の重合性液晶材料、すなわち重合性液晶オリゴマーや重合性液晶ポリマーと比較して、より低温で配向が可能であり、かつ配向に際しての感度も高く、容易に配向させることができるからである。
【0101】
上記重合性液晶モノマーとしては、重合性官能基を有する液晶モノマーであれば特に限定されるものではなく、例えばモノアクリレートモノマー、ジアクリレートモノマー等が挙げられる。また、これらの重合性液晶モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0102】
モノアクリレートモノマーおよびジアクリレートモノマーとしては、特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報等に記載のものを用いることができる。
【0103】
本発明においては、重合性液晶モノマーの中でも、ジアクリレートモノマーが好適である。ジアクリレートモノマーは、配向状態を良好に維持したまま容易に重合させることができるからである。
【0104】
上述した重合性液晶モノマーは、それ自体がネマチック相を発現するものでなくてもよい。これらの重合性液晶モノマーは、上述したように2種以上を混合して用いてもよいものであり、これらを混合した組成物すなわち反応性液晶が、ネマチック相を発現するものであればよいからである。
【0105】
さらに本発明においては、必要に応じて、上記反応性液晶に光重合開始剤や重合禁止剤等を添加してもよい。例えば、電子線照射により重合性液晶材料を重合させる際には、光重合開始剤が不要な場合はあるが、一般的に用いられている例えば紫外線照射による重合の場合においては、通常光重合開始剤が重合促進のために用いられるからである。光重合開始剤としては、例えば、特開2005−258428号公報に記載されているような光重合開始剤を用いることができる。また、光重合開始剤の他に増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。
【0106】
このような光重合開始剤の添加量としては、一般的には0.01質量%〜20質量%、好ましくは0.1質量%〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%の範囲で上記反応性液晶に添加することができる。
【0107】
固定化液晶層の厚みは、目的とする異方性に応じて適宜調整されるものであり、例えば1nm〜1000nmの範囲内で設定することができ、好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。固定化液晶層の厚みが厚すぎると必要以上の異方性が生じてしまい、また固定化液晶層の厚みが薄すぎると所定の異方性が得られない場合があるからである。
【0108】
(2)反応性液晶用配向膜
本発明に用いられる反応性液晶用配向膜としては、上記反応性液晶を配向させることができ、さらに上記反応性液晶の配向状態を固定化する際に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではない。反応性液晶用配向膜として、例えば、ラビング処理された配向膜、光配向処理された光配向膜等を用いることができる。中でも、マザーガラスの大型化に伴う設備投資を考慮すると、ラビング処理された配向膜が好ましく用いられる。
【0109】
ラビング処理された配向膜は、比較的高いプレチルト角を実現することができる点で有用である。ラビング処理された配向膜としては、例えば特開2008−129529号公報に記載のものを用いることができる。
【0110】
光配向膜は、光励起反応型材料を塗布した基板に偏光を制御した光を照射し、光励起反応(分解、異性化、二量化)を生じさせて得られた膜に異方性を付与することによりその膜上の液晶分子を配向させるものである。光配向膜は、光配向処理が非接触配向処理であることから静電気や塵の発生がなく、定量的な配向処理の制御ができる点で有用である。光配向膜に用いられる光励起反応型材料としては、光異性化反応を生じることにより膜に異方性を付与する光異性化型材料と、光二量化反応を生じることにより膜に異方性を付与する光二量化型材料と、光分解反応を生じることにより膜に異方性を付与する光分解型材料とを挙げることができる。光配向膜としては、例えば特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報に記載のものを用いることができる。
【0111】
4.その他の構成
本発明の液晶表示素子は、図10に例示するように偏光板21a,21bを有していてもよい。
本発明に用いられる偏光板としては、光の波動のうち特定方向のみを透過させるものであれば特に限定されるものではなく、一般に液晶表示素子の偏光板として用いられているものを使用することができる。
【0112】
5.液晶表示素子の駆動方法
本発明の液晶表示素子の駆動方法としては、強誘電性液晶の高速応答性を利用することができるので、1画素を時間分割し、良好な動画表示特性を得るために高速応答性を特に必要とするフィールドシーケンシャルカラー方式が適している。
【0113】
また、本発明の液晶表示素子の駆動方法は、フィールドシーケンシャル方式に限定されるものではなく、着色層を用いてカラー表示を行う、カラーフィルタ方式であってもよい。
【0114】
本発明の液晶表示素子の駆動方法としては、薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス方式が好ましい。TFTを用いたアクティブマトリックス方式を採用することにより、目的の画素を確実に点灯、消灯できるため高品質なディスプレイが可能となるからである。
【0115】
本発明においては、第1基板がTFT基板、第2基板が共通電極基板であってもよく、第1基板が共通電極基板、第2基板がTFT基板であってもよい。中でも、未配向処理層と固定化液晶層とで、固定化液晶層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合、第1基板がTFT基板、第2基板が共通電極基板であることが好ましい。
【0116】
図12にTFTを用いたアクティブマトリックス方式の液晶表示素子の一例を示す概略斜視図を示す。図12に例示する液晶表示素子10は、第1基材2上にTFT素子31がマトリックス状に配置されたTFT基板9a(第1基板)と、第2基材12上に共通電極32(第2電極層)が形成された共通電極基板19a(第2基板)とを有するものである。TFT基板9a(第1基板)には、ゲート電極33x、ソース電極33yおよび画素電極34(第1電極層)が形成されている。ゲート電極33xおよびソース電極33yはそれぞれ縦横に配列しており、ゲート電極33xおよびソース電極33yに信号を加えることによりTFT素子31を作動させ、強誘電性液晶を駆動させることができる。ゲート電極33xおよびソース電極33yが交差した部分は、図示しないが絶縁層で絶縁されており、ゲート電極33xの信号とソース電極33yの信号とは独立に動作することができる。ゲート電極33xおよびソース電極33yにより囲まれた部分は、本発明の液晶表示素子を駆動する最小単位である画素であり、各画素には少なくとも1つ以上のTFT素子31および画素電極34(第1電極層)が形成されている。そして、ゲート電極およびソース電極に順次信号電圧を加えることにより、各画素のTFT素子を動作させることができる。なお、図12において、液晶層、未配向処理層、反応性液晶用配向膜および固定化液晶層は省略されている。
【0117】
上記の液晶表示素子においては、例えばゲート電極を30V程度の高電位にするとTFT素子のスイッチがオンになり、ソース電極によって信号電圧が強誘電性液晶に加えられ、ゲート電極を−10V程度の低電位にするとTFT素子のスイッチがオフになる。スイッチオフ状態では、図13に例示するように、共通電極32(第2電極層)およびゲート電極33x間には、共通電極32(第2電極層)側が正になるように電圧が印加される。このスイッチオフ状態のとき、強誘電性液晶は動作しないので、その画素は暗状態となる。
【0118】
本発明においては、上述したように電圧無印加状態では、極性表面相互作用によって液晶分子の自発分極が未配向処理層側(第1基板側)を向く傾向にある。すなわち、スイッチオフ状態のとき、図13に例示するように、液晶分子1の自発分極PsがTFT基板9a(第1基板)側を向く。したがって、自発分極の向きは、共通電極32(第2電極層)およびゲート電極33x間に印加された電圧の影響を受けることがない。
【0119】
一方、例えば電圧無印加状態にて自発分極が固定化液晶層側(共通電極基板側)を向く場合には、スイッチオフ状態のときに共通電極およびゲート電極間に印加された電圧の影響によって、ゲート電極が設けられている領域付近で自発分極の向きが反転してしまう。そうすると、ゲート電極が設けられている領域付近では、スイッチがオフであるにもかかわらず、強誘電性液晶が動作して光漏れが生じる。
【0120】
これに対し、上述したように本発明においては、自発分極の向きは、共通電極およびゲート電極間に印加された電圧の影響を受けないので、光漏れが生じることがない。したがって本発明においては、自発分極の向きを制御し、第2基板を共通電極基板とすることにより、ゲート電極付近の光漏れを防止することができる。
【0121】
また、本発明の液晶表示素子の駆動方法は、セグメント方式であってもよい。
【0122】
B.液晶表示素子の製造方法
次に、本発明の液晶表示素子の製造方法について説明する。
本発明の液晶表示素子の製造方法は、第1電極層が形成された第1基材上に、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有する未配向処理層を形成し、上記未配向処理層に光配向処理を施すことなく、上記第1基材上に上記第1電極層および上記未配向処理層が順に積層された第1基板を調製する第1基板調製工程と、第2電極層が形成された第2基材上に反応性液晶用配向膜を形成し、上記反応性液晶用配向膜上に反応性液晶を含有する反応性液晶層を形成し、上記反応性液晶層中の上記反応性液晶を配向させ、上記反応性液晶の配向状態を固定化し、上記第2基材上に上記第2電極層、上記反応性液晶用配向膜および上記反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層が順に積層された第2基板を調製する第2基板調製工程と、上記第1基板の未配向処理層および上記第2基板の固定化液晶層の間に強誘電性液晶を挟持し、電界印加処理を行うことなく上記強誘電性液晶を配向させ、上記強誘電性液晶を含む液晶層を形成する液晶層形成工程とを有し、上記強誘電性液晶が、降温過程においてSmA相を経由せずにSmC相を発現し、かつ、上記SmC相にて単安定性を示すものであり、さらに、上記強誘電性液晶は、上記第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が上記単安定性を示す状態から一方の側に傾き、上記第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、上記単安定性を示す状態を維持するか、または上記単安定性を示す状態から上記第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、上記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、上記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とするものである。
【0123】
本発明においては、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有する未配向処理層側に、強誘電性液晶の自発分極の正極性が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することが可能である。そして、自発分極の向きを制御することができるので、ダブルドメイン等の配向欠陥を生じることなく、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。
【0124】
また本発明によれば、電界印加処理を行うことなく、強誘電性液晶を徐冷することのみで、固定化液晶層の配向能と、未配向処理層および固定化液晶層の強誘電性液晶への表面極性相互作用とによって、強誘電性液晶を配向させ、自発分極の向きを制御することができる。よって、電界印加処理を行うことなく強誘電性液晶を配向させるので、相転移温度以上に昇温してもその配向を維持し、配向欠陥の発生を抑制することができる。
【0125】
以下、本発明の液晶表示素子の製造方法における各工程について説明する。
【0126】
1.第1基板調製工程
本発明における第1基板調製工程は、第1電極層が形成された第1基材上に、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有する未配向処理層を形成し、上記未配向処理層に光配向処理を施すことなく、上記第1基材上に上記第1電極層および上記未配向処理層が順に積層された第1基板を調製する工程である。
【0127】
未配向処理層は、第1電極層が形成された第1基材上に、光異性化反応性化合物を有機溶剤で希釈した未配向処理層形成用塗工液を塗布して乾燥させることにより形成することができる。
【0128】
未配向処理層形成用塗工液中の光異性化反応性化合物の含有量は、0.05質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.2質量%〜2質量%の範囲内であることがより好ましい。含有量が上記範囲より少ないと、強誘電性液晶の自発分極の向きを制御することが困難となり、逆に含有量が上記範囲より多いと、塗工液の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなるからである。
【0129】
未配向処理層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、ロッドバーコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、スロットダイコート法、ワイヤーバーコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0130】
さらに、上記の光異性化反応性化合物の中でも重合性モノマーを用いた場合には、塗布後に加熱することにより、ポリマー化し、膜を安定化することができる。
【0131】
2.第2基板調製工程
本発明における第2基板調製工程は、第2電極層が形成された第2基材上に反応性液晶用配向膜を形成し、上記反応性液晶用配向膜上に反応性液晶を含有する反応性液晶層を形成し、上記反応性液晶層中の上記反応性液晶を配向させ、上記反応性液晶の配向状態を固定化し、上記第2基材上に上記第2電極層、上記反応性液晶用配向膜および上記反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層が順に積層された第2基板を調製する工程である。
【0132】
反応性液晶用配向膜の形成方法としては、反応性液晶用配向膜の種類に応じて適宜選択される。なお、反応性液晶用配向膜として用いられるラビング処理された配向膜、光配向膜、および斜方蒸着配向膜のそれぞれの形成方法については、上記「A.液晶表示素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0133】
固定化液晶層は、反応性液晶用配向膜上に上記反応性液晶を含む反応性液晶組成物を塗布して反応性液晶層を形成し、この反応性液晶層中の反応性液晶を配向させ、上記反応性液晶の配向状態を固定化することにより形成することができる。
【0134】
また、反応性液晶組成物を塗布するのではなく、ドライフィルム等を予め形成し、これを反応性液晶用配向膜上に積層する方法も用いることができる。製造工程の簡便さの観点からは、反応性液晶を溶媒に溶解させて反応性液晶組成物を調製し、これを反応性液晶用配向膜上に塗布し、溶媒を除去する方法を用いることが好ましい。
【0135】
上記反応性液晶組成物に用いる溶媒としては、上記反応性液晶等を溶解することができ、かつ反応性液晶用配向膜の配向能を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、例えば、特開2005−258428号公報に記載されているような溶媒を用いることができる。溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0136】
また、単一種の溶媒を使用しただけでは、上記反応性液晶等の溶解性が不十分であったり、上述したように反応性液晶用配向膜が侵食されたりする場合がある。この場合には、2種以上の溶媒を混合使用することにより、この不都合を回避することができる。上記の溶媒のなかにあって、単独溶媒として好ましいものは、炭化水素類およびグリコールモノエーテルアセテート系溶媒であり、混合溶媒として好ましいのは、エーテル類またはケトン類と、グリコール系溶媒との混合系である。
【0137】
反応性液晶組成物の濃度は、反応性液晶の溶解性や、固定化液晶層の厚みに依存するため一概には規定できないが、通常は0.1質量%〜40質量%、好ましくは1質量%〜20質量%の範囲で調整される。反応性液晶組成物の濃度が上記範囲より低いと、反応性液晶が配向しにくくなる場合があり、逆に反応性液晶組成物の濃度が上記範囲より高いと、反応性液晶組成物の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなる場合があるからである。
【0138】
さらに、上記反応性液晶組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、例えば、特開2005−258428号公報に記載されているような化合物を添加することができる。上記反応性液晶に対するこれら化合物の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で選択される。これらの化合物の添加により、反応性液晶の硬化性が向上し、得られる固定化液晶層の機械強度が増大し、またその安定性が改善される。
【0139】
このような反応性液晶組成物を塗布する方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、押し出しコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0140】
また、上記反応性液晶組成物を塗布した後は、溶媒を除去するのであるが、この溶媒の除去は、例えば、減圧除去もしくは加熱除去、さらにはこれらを組み合わせる方法等により行われる。
【0141】
本発明においては、上述したように塗布された反応性液晶を、反応性液晶用配向膜により配向させて液晶規則性を有する状態とする。すなわち、反応性液晶にネマチック相を発現させる。これは、通常はN−I転移点以下で熱処理する方法等の方法により行われる。ここで、N−I転移点とは、液晶相から等方相へ転移する温度を示すものである。
【0142】
上述したように、反応性液晶は重合性液晶材料を有するものであり、このような重合性液晶材料の配向状態を固定化するには、重合を活性化する活性放射線を照射する方法が用いられる。ここでいう活性放射線とは、重合性液晶材料に対して重合を起こさせる能力がある放射線をいい、必要であれば重合性液晶材料内に光重合開始剤が含まれていてもよい。
【0143】
このような活性放射線としては、重合性液晶材料を重合させることが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光線が使用され、波長が150nm〜500nm、好ましくは250nm〜450nm、さらに好ましくは300nm〜400nmの照射光が用いられる。
【0144】
本発明においては、光重合開始剤が紫外線でラジカルを発生し、重合性液晶材料がラジカル重合するような重合性液晶材料に対して、紫外線を活性放射線として照射する方法が好ましい方法であるといえる。活性放射線として紫外線を用いる方法は、既に確立された技術であることから、用いる光重合開始剤を含めて、本発明への応用が容易であるからである。
【0145】
この照射光の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが例示できる。なかでもメタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ等の使用が推奨される。また、照射強度は、反応性液晶の組成や光重合開始剤の多寡によって適宜調整されて照射される。
【0146】
このような活性照射線の照射は、上記重合性液晶材料が液晶相となる温度条件で行ってもよく、また液晶相となる温度より低い温度で行ってもよい。一旦液晶相となった重合性液晶材料は、その後温度を低下させても、配向状態が急に乱れることはないからである。
【0147】
なお、重合性液晶材料の配向状態を固定化する方法としては、上記の活性放射線を照射する方法以外にも、加熱して重合性液晶材料を重合させる方法も用いることができる。この場合に用いられる反応性液晶としては、反応性液晶のN−I転移点以下で、反応性液晶に含有される重合性液晶モノマーが熱重合するものであることが好ましい。
【0148】
3.液晶層形成工程
本発明における液晶層形成工程は、上記第1基板の未配向処理層および上記第2基板の固定化液晶層の間に強誘電性液晶を挟持し、電界印加処理を行うことなく上記強誘電性液晶を配向させ、上記強誘電性液晶を含む液晶層を形成する工程である。
【0149】
第1基板の未配向処理層および第2基板の固定化液晶層の間に強誘電性液晶を挟持させる方法としては、一般に液晶セルの作製方法として用いられる方法を使用することができ、例えば真空注入方式等を用いることができる。真空注入方式では、例えばあらかじめ第1基板および第2基板を用いて作製した液晶セルに、加温することによって等方性液体とした強誘電性液晶を、キャピラリー効果を利用して注入し、接着剤で封鎖することにより、第1基板および第2基板の間に強誘電性液晶を挟持させることができる。
【0150】
第1基板および第2基板の間に強誘電性液晶を挟持させた後は、強誘電性液晶を配向させる。この際、液晶セルを常温まで徐冷することにより、封入された強誘電性液晶を配向させることができる。すなわち、本発明においては、強誘電性液晶を配向させるために、電界印加処理を行う必要はなく、徐冷するのみでよいのである。
【0151】
強誘電性液晶に重合性モノマーが添加されている場合には、強誘電性液晶を配向させた後、重合性モノマーを重合させる。重合性モノマーの重合方法としては、重合性モノマーの種類に応じて適宜選択され、例えば、重合性モノマーとして紫外線硬化性樹脂モノマーを用いた場合は、紫外線照射により重合性モノマーを重合させることができる。
【0152】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0153】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
ITO電極が形成された2枚のガラス基板を洗浄し、一方の基板に未配向処理層を形成し、他方の基板に反応性液晶用配向膜および固定化液晶層を形成した。未配向処理層の材料としては、下記構造式で表される化合物i〜vを用いた。
【0154】
【化1】

【0155】
(基板1の作製)
化合物i〜vを用いた未配向処理層に関しては下記のように未配向処理層の形成を行った。
ITO電極が形成されたガラス基板をよく洗浄し、このガラス基板上に、N-メチル-2-ピロリジノンに溶解した10質量%の化合物i〜vの溶液をそれぞれ、回転数1000rpmで30秒スピンコーティングした。その後、ホットプレートで100℃、10分間乾燥させた。
【0156】
(基板2の作製)
ITO電極が形成されたガラス基板をよく洗浄し、このガラス基板上に、光配向性材料(ROLICテクノロジー社製、商品名:ROP−103)を回転数1000rpmで20秒間スピンコートし、100℃で3分間乾燥した後、直線偏光紫外線を約1000mJ/cm2照射し、配向処理を行った。さらに、上記光配向性材料を用いた配向膜上に重合性液晶(ROLICテクノロジー社製、商品名:ROF5101)を回転数1000rpmで20秒間スピンコートし、100℃で3分間乾燥した後、非偏光紫外線を約1000mJ/cm2照射し重合させた。
【0157】
(液晶表示素子の作製)
その後、片方の基板に1.5μmのビーズスペーサを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。基板1と基板2を、基板2のUV偏光照射方向と液晶の注入方向が平行の状態になるように組み立て、熱圧着を行い1インチのテストセルを作製した。強誘電性液晶は「R2301」(クラリアント社製)を用い、注入口上部に強誘電性液晶を付着し、オーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行いゆっくりと常温に戻した。
【0158】
(評価)
ダブルドメイン欠陥は、作製したテストセルをクロスニコル下で電圧を5V印加し、観察を行った。この時、光の透過領域(白)と非透過領域(黒)の面積率を計算し、領域の大きい方をパーセンテージで示した。このパーセンテージをモノドメイン率とした。モノドメイン率が100%に近いほどダブルドメイン欠陥が改善されている条件となる。
また、コントラストは作製したテストセルをクロスニコル下で観察し、透過光量の最小値と最大値の比を計算した。
【0159】
【表1】

【0160】
[実施例2]
(基板1の作製)
ITO電極またはIZO電極が形成されたガラス基板を洗浄した。
【0161】
(基板2の作製)
ITO電極が形成されたガラス基板をよく洗浄し、このガラス基板上に、光配向性材料(ROLICテクノロジー社製、商品名:ROP−103)を回転数1000rpmで20秒間スピンコートし、100℃で3分間乾燥した後、直線偏光紫外線を約1000mJ/cm2照射し、配向処理を行った。さらに、上記光配向性材料を用いた配向膜上に重合性液晶(ROLICテクノロジー社製、商品名:ROF5101)を回転数1000rpmで20秒間スピンコートし、100℃で3分間乾燥した後、非偏光紫外線を約1000mJ/cm2照射し重合させた。
【0162】
(液晶表示素子の作製)
その後、片方の基板に1.5μmのビーズスペーサを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。基板1と基板2を、基板2のUV偏光照射方向と液晶の注入方向が平行の状態になるように組み立て、熱圧着を行い1インチのテストセルを作製した。強誘電性液晶は「R2301」(クラリアント社製)を用い、注入口上部に強誘電性液晶を付着し、オーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行いゆっくりと常温に戻した。
【0163】
(評価)
ダブルドメイン欠陥は、作製したテストセルをクロスニコル下で電圧を5V印加し、観察を行った。この時、光の透過領域(白)と非透過領域(黒)の面積率を計算し、領域の大きい方をパーセンテージで示した。このパーセンテージをモノドメイン率とした。モノドメイン率が100%に近いほどダブルドメイン欠陥が改善されている条件となる。
また、コントラストは作製したテストセルをクロスニコル下で観察し、透過光量の最小値と最大値の比を計算した。
【0164】
【表2】

【0165】
実施例2では実施例1と同様に高いモノドメイン率が得られた。
【0166】
[比較例1]
基板1の作製において、化合物i〜vを用いた膜にラビング処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示素子を作製した。
【0167】
【表3】

【0168】
実施例1と比較例1ではモノドメイン率は変わらなかったが、ラビングによるすり傷の為、コントラストの低下が見られた。
【0169】
[比較例2]
基板1の作製において、化合物i〜vを用いた膜に偏光紫外線を照射して光配向処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示素子を作製した。
【0170】
【表4】

【0171】
実施例1と比較例2ではモノドメイン率とコントラストにほとんど変化がなく、光配向処理を施さなくとも強誘電性液晶の自発分極の向きを制御できることが確認された。
また、実施例および比較例のいずれの結果においても、基板2の電極に負の電圧を印加したときに、液晶分子は傾き光を透過し、基板2の電極に正の電圧を印加したときには、液晶分子はほぼ傾かず黒状態を維持した。
【符号の説明】
【0172】
1 … 液晶分子
2 … 第1基材
3 … 第1電極層
4 … 未配向処理層
9 … 第1基板
10 … 液晶表示素子
12 … 第2基材
13 … 第2電極層
14 … 反応性液晶用配向膜
15 … 固定化液晶層
19 … 第2基板
20 … 液晶層
z … 層法線
Ps … 自発分極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材、および、前記第1基材上に形成され、配向処理が施されていない未配向処理層を有する第1基板と、
第2基材、前記第2基材上に形成された第2電極層、前記第2電極層上に形成された反応性液晶用配向膜、および、前記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層を有し、前記第1基板に対して前記未配向処理層および前記固定化液晶層が対向するように配置された第2基板と、
前記未配向処理層および前記固定化液晶層の間に形成され、強誘電性液晶を含む液晶層とを有し、
前記強誘電性液晶が、降温過程においてスメクチックA相を経由せずにカイラルスメクチックC相を発現し、かつ、前記カイラルスメクチックC相にて単安定性を示すものであり、
さらに、前記強誘電性液晶は、前記第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が前記単安定性を示す状態から一方の側に傾き、前記第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、前記単安定性を示す状態を維持するか、または前記単安定性を示す状態から前記第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、前記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、前記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記未配向処理層が分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、前記第1基材と前記未配向処理層との間に第1電極層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記未配向処理層が導電性を有する無機化合物からなるものであり、前記未配向処理層が第1電極層であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
第1電極層が形成された第1基材上に、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有する未配向処理層を形成し、前記未配向処理層に光配向処理を施すことなく、前記第1基材上に前記第1電極層および前記未配向処理層が順に積層された第1基板を調製する第1基板調製工程と、
第2電極層が形成された第2基材上に反応性液晶用配向膜を形成し、前記反応性液晶用配向膜上に反応性液晶を含有する反応性液晶層を形成し、前記反応性液晶層中の前記反応性液晶を配向させ、前記反応性液晶の配向状態を固定化し、前記第2基材上に前記第2電極層、前記反応性液晶用配向膜および前記反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層が順に積層された第2基板を調製する第2基板調製工程と、
前記第1基板の未配向処理層および前記第2基板の固定化液晶層の間に強誘電性液晶を挟持し、電界印加処理を行うことなく前記強誘電性液晶を配向させ、前記強誘電性液晶を含む液晶層を形成する液晶層形成工程とを有し、
前記強誘電性液晶が、降温過程においてスメクチックA相を経由せずにカイラルスメクチックC相を発現し、かつ、前記カイラルスメクチックC相にて単安定性を示すものであり、
さらに、前記強誘電性液晶は、前記第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が前記単安定性を示す状態から一方の側に傾き、前記第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、前記単安定性を示す状態を維持するか、または前記単安定性を示す状態から前記第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、前記第2電極層に負の電圧を印加したときの透過光量が、前記第2電極層に正の電圧を印加したときの透過光量よりも大きいものであることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−230900(P2010−230900A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77238(P2009−77238)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】