説明

液晶装置およびその製造方法

【課題】スプレイ−ベンド配向転移を容易に発現し、かつ転移後のベンド配向維持が容易であり、表示品質の優れた液晶装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される、液晶層に印加する電圧により液晶層のリタデーション制御を行う液晶装置であって、前記基板のうち一方の基板上に、複数の画素電極が配置された表示領域部と、該表示領域部以外の非表示領域部が配置され、もう一方の基板上には透明電極から成る対向電極が配置され、前記一対の基板の液晶層側に無機配向膜が設置されており、少なくとも一方の基板上に設置された前記無機配向膜は、表示領域部と非表示領域部における無機配向膜の膜密度が異なる液晶装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置およびその製造方法に関し、特に高速応答実現可能なOCB(Optically Compensated Bend)モードを用いた液晶装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子には用途に応じて様々な液晶配向モードが用いられる。例えばTN(Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Aligned)モード、IPS(In Plane Switching)モード、OCB(Optically
Compensated Bend)モード等が良く知られている。これらの液晶配向モードは液晶組成物の物性と、配向膜の特性によって決定することができる。
【0003】
近年、優れた動画表示の為の高速応答性を有する液晶装置の開発が活発になっており、上記液晶配向モードの中でOCBモードは比較的高速応答性を有しており、注目を集めている。
【0004】
OCBモードは、表示動作に図4に示すベンド配向という液晶配向状態を使用するが、ベンド配向形成のためには図3に示すような初期配向状態のスプレイ配向からの配向転移が必要となる。このスプレイ−ベンド配向転移のためにある電圧以上の転移電圧が必要となる。転移電圧が高くなると液晶素子の駆動電圧が高くなるため、できるだけ低くすることが好ましい。
【0005】
転移電圧の低下には液晶配向膜とその直上の液晶分子の傾き角であるプレチルト角を高く設定することや、液晶組成物の弾性定数(K33/K11)の低下等が有効であることが知られている。特にプレチルト角を40°以上に設定することにより転移電圧が不要となり、スプレイ配向状態を経ずにベンド配向を形成することが可能である。
【0006】
しかし、プレチルト角を高く設定するとベンド転移が発生しやすくなる反面、液晶層のリタデーションが低下し、その結果光利用効率が低下するという課題がある。
この課題の解決のため、低プレチルト角でもベンド配向転移を容易にするための報告がある。
【0007】
例えば特許文献1は、基板面内に複数のプレチルト角を発現する領域を形成し、具体的には低プレチルト角領域を高プレチルト角領域で囲い込むことで、スプレイ−ベンド転移の発生が容易となることを狙っている。特許文献1における低プレチルト角領域の形成方法としては以下の方法が挙げられている。高プレチルト角領域を、蒸着角度80°の斜方蒸着法により基板上に形成した後、マスクを用いて蒸着領域を画素領域のみに制限し、基板を90°回転させることにより蒸着方向を90°回転させて、蒸着角度60°で斜方蒸着膜を作製する。このような作製方法により画素領域は60°蒸着により低プレチルト角となり、また画素間領域は80°蒸着により、高プレチルト角となる。また蒸着角度60°と蒸着角度80°の場合には、方位角方向、即ち基板面内方向の液晶配向が90°回転することが知られているが、特許文献1においては蒸着角度60°と蒸着角度80°の蒸着方向を90°回転させているため、方位角方向の液晶配向方向は一致するようになっている。
【0008】
また、特許文献2においては、紫外線照射によりプレチルト角が変化するようなポリイミド配向膜を用い、画素領域部にのみ紫外線を照射することで、画素領域部のプレチルト角を画素間領域のプレチルト角よりも低く設定している。
【特許文献1】特開2007−017502号公報
【特許文献2】特開2000−330141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の方法では、液晶層のベンド転移電圧を低下させるのに十分な構成ではなく、更なるベンド転移電圧の低下、ベンド配向の安定化が望まれている。また、配向膜作製時に、異なる蒸着角度(例えば60°と80°)で2回、基板を90°回転させて蒸着を行う必要があるため、プロセスが煩雑となる課題がある。
【0010】
また、特許文献2の方法では、有機配向膜を用いるため、高強度光を使用する環境下では適用しがたいという課題がある。
本発明は係る課題を鑑みなされたものであって、画素電極や画素間に切欠部等の構造を設置すること無く、スプレイ−ベンド配向転移を容易に発現し、かつ転移後のベンド配向維持が容易であり、表示品質の優れた液晶装置およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、無機配向膜を用いた場合において、40°以上のプレチルト角を発現するための無機配向膜の作製条件を見出し、さらにその過程において、高プレチルト角を発現するような斜方蒸着膜に、一定方向からイオンビームを照射することで、イオンビーム照射領域のプレチルト角のみを選択的に低下させることができることを見出した。
【0012】
また、ベンド配向領域に囲まれたスプレイ配向領域の液晶をスプレイ−ベンド転移させることで、その後のベンド配向領域に囲まれた領域の液晶の逆転移(ベンド配向からスプレイ配向への転移)が、通常の逆転移に比べて非常に遅いか、逆転移が発生しないことを見出した。
【0013】
これらの事実を基に検討を行い、以下に示す発明を完成させた。
即ち、本発明に係る第一の発明は、正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される液晶装置であって、前記基板のうち一方の基板上に、複数の画素電極が配置された表示領域部と、該表示領域部以外の非表示領域部が配置され、もう一方の基板上に対向電極が配置され、前記一対の基板の液晶層側に無機配向膜が設置されており、少なくとも一方の基板上に設置された前記無機配向膜は、表示領域部と非表示領域部における膜密度が異なることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る第二の発明は、正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される液晶装置の製造方法であって、基板上に無機材料を斜方蒸着することにより無機配向膜を形成する工程と、前記無機配向膜の一部の領域に一定の照射角度でイオンビームを照射して、前記無機配向膜の膜密度が異なる表示領域部と非表示領域部を形成する工程とを有することを特徴とする液晶装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表示領域部での無機配向膜にイオンビームを照射し、表示領域部の膜密度を低下させることにより、部分的なプレチルト角の低下を達成できる液晶装置およびその製造方法を提供できる。特に、非表示領域部を、電圧無印加状態でベンド配向となるプレチルト角に設定することにより、表示領域部のスプレイ−ベンド転移を容易にし、かつ転移後のベンド配向の安定性を向上させることができる液晶装置およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る液晶装置は、正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される、液晶層に印加する電圧により液晶層のリタデーション制御を行う液晶装置であって、前記基板のうち一方の基板上に、複数の画素電極が配置された表示領域部と、該表示領域部以外の非表示領域部が配置され、もう一方の基板上には透明電極から成る対向電極が配置され、前記一対の基板の液晶層側に無機配向膜が設置されており、少なくとも一方の基板上に設置された前記無機配向膜は、表示領域部と非表示領域部における無機配向膜の膜密度が異なることを特徴とする。
【0017】
前記表示領域部の無機配向膜の膜密度が、非表示領域の無機配向膜の膜密度よりも大きいことが好ましい。
前記無機配向膜が無機材料からなる柱状構造体より形成され、該柱状構造体の方位角方向の基板に対する配列方向が、表示領域部と非表示領域部で同一方向であることが好ましい。
【0018】
前記無機配向膜を構成する材料が酸化ケイ素であることが好ましい。
前記液晶層の表示動作時の配向状態がベンド配向であることが好ましい。
前記非表示領域部の液晶層において、電圧無印加の状態での該液晶層の配向状態がベンド配向であることが好ましい。
【0019】
前記非表示領域部に表示に寄与しない電極が配置されていることが好ましい。
前記表示領域部の形状が長方形であり、前記非表示領域部に配置された表示に寄与しない電極が前記表示領域部の各辺に沿って形成されていることが好ましい。
【0020】
本発明に係る液晶装置の製造方法は、正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される、液晶層に印加する電圧により液晶層のリタデーション制御を行う液晶装置の製造方法であって、基板上に斜方蒸着法により斜方蒸着膜からなる無機配向膜を形成する工程と、前記斜方蒸着膜からなる無機配向膜の一部の領域に一定の照射角度でイオンビームを照射して、前記無機配向膜の膜密度が異なる表示領域部と非表示領域部を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0021】
前記斜方蒸着法による斜方蒸着膜を形成する工程において、蒸着角度が60°以上90°未満であることが好ましい。
【0022】
無機配向膜の一部の領域にイオンビームを照射する工程において、該イオンビームを照射する工程におけるイオンビームの照射方向は、基板法線と該斜方蒸着法における蒸着方向とを含む平面と平行であり、該柱状構造体の成長方向と基板法線とがなす柱状構造体の傾斜角度Θcが20°以上であり、該柱状構造体の成長方向とイオンビームの照射方向がなすイオンビーム照射角度をΘIBとすると、柱状構造体の成長方向を基準にして、+50°≦ΘIB≦+100°(但し、ΘIBが0°は柱状構造体の成長方向とイオンビームの照射方向が同一の角度であり、ΘIBが−はイオンビームの照射方向が柱状構造体の傾斜角度Θcの方向に傾斜し、かつイオンビーム照射方向と基板法線がなす角がΘcよりも大きい場合であり、ΘIBが+は前記範囲以外の角度、即ちΘIB>0°の範囲)であることが好ましい。
【0023】
前記イオンビームがアルゴンイオンからなるイオンビームであることが好ましい。
前記斜方蒸着膜の一部の領域にイオンビームを照射する方法が、開口部を有するマスクを用いてイオンビーム照射する方法であることが好ましい。
【0024】
前記マスクの開口部の大きさが、少なくとも表示領域部を包含する大きさであることが好ましい。
次に、本発明の液晶装置の実施形態について説明する。
【0025】
<液晶装置について>
図1は、本発明の液晶装置の構成の一例を示す概念図である。101は画素電極、102は転移用電極、103はシール部、104は封口部、105は取出電極、106は表示領域部、107は非表示領域部、108は表示領域部と非表示領域部の境界である。図1(a)において、表示領域部107は、点線で囲まれた内側の領域を指す。また、非表示領域部107は、表示領域部107の外周と、シール部103に囲まれた領域を指す。また、図1(b)は、図1(a)における表示領域部107と非表示領域部108の境界部を拡大した図である。
【0026】
画素電極101は、透過型の場合にはITO(Indium−Tin−Oxide)等の透明電極であり、反射型の場合には入射光を反射する金属材料、例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)等である。図1(a)および図1(b)では、反射型の場合の電極構造を示している。これらの画素電極の液晶層を挟んで対向側に図3、図4に図示する対向電極302が存在し、画素電極101と対向電極302との間に印加する電位差により液晶分子を駆動する。
【0027】
図3は本発明の液晶装置に用いるスプレイ配向状態を示す概念図である。図4は本発明の液晶装置に用いるベンド配向状態を示す概念図である。
本発明においては、転移用電極102を設置することが好ましい。転移用電極102は表示には寄与せず、液晶の配向状態を変化させるために用いる。特に、画素電極上の液晶配向状態変化を補助する目的で用いる。例えば図3に示すスプレイ配向から、図4に示すベンド配向へ液晶の配向状態を変化させ、その後の画素領域でのスプレイ−ベンド配向転移を速やかに発生させることを目的としている。転移用電極102は画素電極の外部に配置されていれば良いが、画素電極上の配向変化を速やかに発生させるためには、特に長方形形状の画素電極アレイの四辺に沿って外側に配置されることが好ましい。
【0028】
しかし、画素電極上の液晶配向の変化、例えばスプレイ−ベンド配向転移が転移用電極を使用せずとも速やかに起こる場合であれば、転移用電極102は特に必要としない。
本発明は、表示領域106と、表示領域部106とシール部103の間の領域に存在する、図1(a)に図示する非表示領域107で無機配向膜の膜密度が異なることを特徴とする。
【0029】
ここで、本発明における、無機配向膜の膜密度について説明する。図2は、本発明の液晶装置に用いる無機配向膜の断面構造の概念図である。図2において、201は基板、202は柱状構造体、203は柱状構造体の傾斜角度、204は膜厚、205は蒸着方向、206は空隙である。本発明における無機配向膜の膜密度とは、無機配向膜を構成する無機材料からなる柱状構造体202と、複数の柱状構造体間に存在する空隙206の割合を表す。膜密度は、これらは空隙の存在がない場合の柱状構造体材料の屈折率を基準(即ち膜密度100%)として、どの程度屈折率が低下したかで表される。屈折率の測定は、分光エリプソメトリー等の測定法により測定可能である。
【0030】
例えば分光エリプソメトリーで膜密度ρを求める場合には、膜密度ρは有効媒質近似(Effective Medium Approximation:EMA)法により測定可能である。柱状構造体を形成する構造体材料の屈折率と柱状構造体間隙を満たす媒質(ここでは空気なのでn=1)が予め分かっているのであれば、分光エリプソメトリーにより無機配向膜を測定した後、測定結果をEMA法を用いて解析することにより算出が可能である。
【0031】
本発明においては、表示領域部の無機配向膜の膜密度が、非表示領域の無機配向膜の膜密度よりも大きいことが好ましい。表示領域部の無機配向膜の膜密度の値は0.5以上1.0以下、非表示領域部の無機配向膜の膜密度の値は0.1以上0.7以下が好ましい。また、(表示領域部の無機配向膜の膜密度)−(非表示領域の無機配向膜)=0.1以上が好ましい。
【0032】
特に本発明では、イオンビームを表示領域部上の斜方蒸着膜に照射することにより、表示領域部の無機配向膜の膜密度を、その周囲に存在する非表示領域部の無機配向膜よりも高くすることができる。その結果、表示領域部と非表示領域部とで異なる液晶配向状態を発生させることを特徴とする。そのため、表示領域部と非表示領域部の境界108は、複数の画素電極からなる、長方形の画素電極アレイの外周部に設定する必要がある。
【0033】
表示領域部と非表示領域部の境界108は、画素電極アレイの外周より、液晶セルのセル厚分程度外側に設定することが好ましい。このように設定することで、非表示領域部の液晶配向が、表示領域部の液晶配向に十分影響を及ぼすことができるからである。しかし、上記のように設定せずとも他の手段を講じることで非表示領域部の液晶配向状態が表示領域部の配向状態に十分影響を及ぼすことが可能であるなら、表示領域部と非表示領域部の境界108は上述の範囲に限定されない。
【0034】
また、転移用電極102を設置する場合には、表示領域部と非表示領域部の境界108は図1(b)、および図6に示すように画素電極101と転移用電極102間になる。
また、イオンビーム照射の有無に関わらず、表示領域部と非表示領域部の無機配向膜は、図2に示す断面構造を有している。即ち、イオンビーム照射により構造変化は発生しうるが、イオンビーム照射後の柱状構造体202の面内方向(方位角方向)の傾斜方向は、蒸着方向205と略同一の方向である必要がある。上記のような構造を維持することにより、イオンビーム照射領域と非照射領域の、面内方向の液晶配向方向を略同一とすることができる。
【0035】
本発明における無機配向膜に用いられる無機材料は、液晶を一定の方位角方向に配列させるものであればどのような材料を用いても良く、例えば酸化物、例えば二酸化ケイ素(SiOx)、一酸化珪素(SiO)等の酸化ケイ素(SiOx:x=1〜2程度)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化クロム(Cr)、酸化コバルト(Co)、酸化鉄(Fe、Fe)等やフッ化物、例えばフッ化マグネシウム(MgF)等、または窒化物、例えば窒化珪素(SiNx)、窒化アルミニウム(AlN)等が挙げられる。
【0036】
しかし本発明の効果を十分に発揮するためには、二酸化珪素(SiO)、一酸化珪素(SiO)等の酸化ケイ素(SiOx)を用いることが好ましい。これらの材料は、その形成条件により液晶配向状態を比較的自由に制御できる。
【0037】
図3に、図1に示す液晶装置の表示領域部105の一部の断面模式図を示す。ここで、301は上部基板、302は対向電極、303は無機配向膜A、304は無機配向膜A’、305は画素電極、306は下部基板、307は液晶層Aである。
【0038】
また、同様に図4に図1の非表示領域107の一部の断面模式図を示す。ここで401は無機配向膜B、402は無機配向膜B’、403は液晶層Bである。
無機配向膜A303、および無機配向膜A’304は、少なくともどちらか一方が、非表示領域の無機配向膜B401、B’402よりも、上述の膜密度が高い必要がある。このような構成にすることにより、表示領域のプレチルト角を、非表示領域のそれと比較して低く設定することができる。
【0039】
ここでプレチルト角について図5を用いて説明する。図5はプレチルト角を測定する際に使用する液晶セルの断面模式図であり、501はプレチルト角θp、502は液晶分子、503は配向膜、504はガラス基板、505は配向処理方向である。配向膜503のプレチルト角501はクリスタルローテーション法や磁場スレッショルド法等の方法により測定される。その際配向膜503は、上下基板共に同じ配向膜を用い、配向処理方向505が反平行(アンチパラレル)方向となる様に向かい合わせ液晶セルを作製する。このような液晶セルを作製することにより、液晶分子502が図5に示すような方向へと配列し、配向膜503のプレチルト角501が測定可能となる。本発明におけるプレチルト角は、図5に示す液晶セルを用いて測定している。
【0040】
表示領域部の無機配向膜A303、A’304の膜密度を高める方法は、後述の液晶装置の製造方法に記載するイオンビームを照射する方法が好適に用いられる。この方法を用いることで、目的の部分の膜密度を高精度に制御可能であり、その結果照射部のプレチルト角を精度良く制御することができる。しかし、他の方法、例えば他のエネルギービームの照射により、同様の効果が得られるのであれば、本発明においてはイオンビームに限定されること無く、他の方法を用いることができる。
【0041】
表示領域部のプレチルト角が40°以下である場合、配向処理直後の電圧無印加の状態では、図3の液晶層A307に示すような、スプレイ配向状態をとる。表示領域部のプレチルト角が低いと液晶層のリタデーション量が大きくなり表示には有利となる。しかし初期状態では表示に使用する、図4の液晶層B403に示すベンド配向状態をとりづらくなる。
【0042】
本発明では、表示に寄与しない非表示領域部のプレチルト角を高く設定し、電圧無印加時でのベンド配向状態を形成することにより、表示領域部のスプレイ配向のベンド配向への転移を容易にし、かつ表示領域部のベンド配向からスプレイ配向への逆転移を抑制する。
【0043】
そのためには、非表示領域部の無機配向膜B401、B’402は、高いプレチルト角を発現するような膜密度を有する配向膜であることが好ましく、具体的にはプレチルト角40°以上となる膜密度を有する無機配向膜を用いることが好ましい。このような無機配向膜を用いることにより、非表示領域部の配向状態が図4の液晶層B403に示すベンド配向状態となりやすくなる。非表示領域がベンド配向状態となることで、非表示領域に囲まれている表示領域の配向が、ベンド配向へ転移しやすく、またベンド配向からスプレイ配向への逆転移も発生しづらくなるからである。
【0044】
次に、表示領域部と非表示領域部の境界部分について、図を用いて説明する。図6は、図1(b)に示す表示領域部と非表示領域部の境界部分の断面模式図である。ここで、601は転移用電極、602は液晶層A、603は液晶層Bである。
【0045】
図6に示すように、表示領域部と非表示領域部の境界108は、画素電極305より外側に設定される。図6のように転移用電極を設置している場合には、前述のように、転移用電極601と画素電極305の外周端部の間に設置される。従って、少なくとも一方が非表示領域部の無機配向膜よりも膜密度の高い無機配向膜A303およびA’304は、この境界よりも内側(図6では画素電極が設置されている側)に形成される。
【0046】
次に、本発明の液晶装置の製造方法について説明する。
本発明の液晶装置の製造方法は、下記工程から成る。
(a)工程:基板準備工程
(b)工程:斜方蒸着膜を形成する工程
(c)工程:部分的にイオンビームを照射する工程
(d)工程:シール剤塗布、基板貼り合せ工程
(e)工程:液晶注入・液晶セル封止工程
(f)工程:液晶配向処理工程
(g)工程:配線接続工程
【0047】
図7は、本発明の液晶装置の製造方法における、各工程を説明する工程図である。図7において、1601は電極・回路形成基板、1602は対向電極基板、1603は斜方蒸着膜、1604はイオンビーム照射した無機配向膜、1605はマスク、1606は非表示領域部、1607は表示領域部、1608はシール部、1609は液晶層1、1610は液晶層2、1611はフレキシブルケーブルである。
【0048】
このうち、本発明の特徴である工程は(b)工程、(c)工程であり、その他の工程は他の液晶装置の製造方法と共通の工程である。従って本発明では特に(b)工程および(c)工程について詳細に説明する。
【0049】
(b)工程:斜方蒸着膜を形成する工程
図8は、本発明の液晶装置の製造方法における、斜方蒸着法の装置構成を示す装置構成図である。図8において、701は蒸着源、702は基板、703は基板ホルダ、704は基板法線、705は蒸着角度、706は蒸着距離、707は蒸着方向である。図8に示す構成の装置は、真空装置内に設置される。
【0050】
蒸着源701は、斜方蒸着膜を構成する材質の材料を蒸着原料として導入し、抵抗加熱法や電子ビーム蒸着法等の方法により蒸着原料を加熱し、蒸着を行う。
蒸着原料は、形成する無機配向膜が液晶を一定の方位角方向に配列させるものであればであればどのような材料を用いても良く、例えば酸化物、例えば二酸化ケイ素(SiOx)、一酸化珪素(SiO)等の酸化ケイ素(SiOx:x=1〜2程度)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化クロム(Cr)、酸化コバルト(Co)、酸化鉄(Fe、Fe)等やフッ化物、例えばフッ化マグネシウム(MgF)等、または窒化物、例えば窒化珪素(SiNx)、窒化アルミニウム(AlN)等が挙げられる。
【0051】
本発明では、二酸化珪素(SiO)、一酸化珪素(SiO)等の酸化ケイ素(SiOx)を用いることが好ましい。これらの材料はその形成条件により液晶配向状態を制御できる。
【0052】
また蒸着原料の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状等の形状が好適に用いられるが、上記の液晶配向を制御できるものであれば、特に形状、サイズ等の制限はない。
基板702には、斜方蒸着膜を形成する、画素電極や対向電極が形成された基板を用いる。斜方蒸着膜は、図2に示す断面構造を有しており、図8に示す蒸着方向707と図2に示す蒸着方向205が対応している。
【0053】
基板ホルダ703は、基板702の保持に用いる。基板ホルダ703を稼動することで、蒸着角度705を規定する。
蒸着角度705は、本発明においては、基板法線704と、蒸着源701と基板702の中心を結ぶ線分(図8では蒸着距離706に相当)がなす角である。蒸着角度705は装置の構成によるが、通常0°から90°の間で設定可能である。液晶素子に用いる配向膜として使用する斜方蒸着膜を作製する場合には、通常50°から90°の範囲に設定される。このような範囲で蒸着角度705を設定することで、斜方蒸着膜に蒸着方向707に起因した異方性が付与され、液晶分子を一定方向に配列させることが可能となる。
【0054】
更に、本発明においては蒸着角度が60°以上90°未満の範囲に設定されることが好ましい。このような範囲に設定することで、後述する(c)工程で行うイオンビーム照射工程でのプレチルト角制御を15°から40°の範囲で行うことができる。
【0055】
また、このような方法で斜方蒸着膜を作製した場合、図2に示す斜方蒸着膜を構成する柱状構造体の傾斜角度203の角度が60°以下となる。斜方蒸着法で作製した斜方蒸着膜の柱状構造体傾斜角度が前記範囲になることにより、プレチルト角が20°以上となり、後述するイオンビーム照射工程でのプレチルト角制御を効果的に行うことができる。
【0056】
図2に示す斜方蒸着膜の膜厚は204は10nm以上であることが好ましい。この範囲に膜厚を設定することで、方位角方向の配向を一方向に保ちつつ、20°以上の高いプレチルト角を発現することが可能となる。このプレチルト角範囲は、後述のイオンビーム照射工程において好適に制御可能なプレチルト角範囲である。
【0057】
(c)工程:部分的にイオンビームを照射する工程
次に、(b)工程にて作製した斜方蒸着膜に、部分的にイオンビームを照射する工程について説明する。
【0058】
図9は、本発明の液晶装置の製造方法におけるイオンビーム照射方法を示す装置構成図である。ここで801はイオンソース、802はイオンビーム照射角度、803は斜方蒸着膜、804はイオンビーム照射方向である。
【0059】
本発明においては、イオンソース801を用いて、照射するイオン種を含むガスを導入することでイオンビームを生成し、生成したイオンビームを一定角度で基板に照射する。ここで一定の角度とは、図9におけるイオンビーム照射角度802のことを指す。イオンビーム照射角度802は、(b)工程にて説明した斜方蒸着時での蒸着角度705と同様に決定する。即ち基板法線704と、イオンソース801のイオンビーム出射口の中心と基板中心を結ぶ線分のなす角がイオンビーム照射角度802となる。
【0060】
イオンビーム照射方向804は、蒸着方向707と基板法線704を同一平面内に含む範囲で設定可能である。このことは即ち、図2に示す柱状構造体202が傾斜する方向とイオンビーム照射方向804、基板法線704が同一平面内に含まれる。このような方向からイオンビーム照射を行うことにより、配向膜の方位角方向の液晶配向能を維持したまま、プレチルト角の制御を行うことが可能となる。
【0061】
本発明におけるイオンビームの照射方法は、柱状構造体の成長方向を基準としてイオンビームの照射方向を規定する方法であり、図10および図11に示す方法である。すなわち、イオンビーム照射によりプレチルト角を効果的に制御するためには、柱状構造体の傾斜角度Θcとイオンビームの照射方向は、柱状構造体の成長方向とイオンビームの照射方向がなすイオンビーム照射角度をΘIBとすると、柱状構造体の成長方向を基準にして、+50°≦ΘIB≦+100°(但し、ΘIBが0°は柱状構造体の成長方向とイオンビームの照射方向が同一の角度であり、ΘIBが−はイオンビームの照射方向が柱状構造体の傾斜角度Θcの方向に傾斜した角度であり、ΘIBが+はイオンビームの照射方向が柱状構造体の傾斜角度Θcと反対方向に傾斜した角度である。)であることが好ましい。上記の照射角度に設定することで、上記範囲外の照射角度を選択した場合と比較してプレチルト角変化量が増大し、結果プレチルト角制御性が向上する。
【0062】
図10のイオンビームの照射方法は、本発明において適用しない範囲であるが、イオンビーム照射角度の正負号の説明のために図示する。図10(b)工程は、前述した斜方蒸着膜の形成方法であり、基板1001に、柱状構造体1002形成後の柱状構造体傾斜角度Θc1006が所定の角度となるように蒸着角度1005を設定し、蒸着方向1007から蒸着することにより斜方蒸着膜を形成する。次に、図10(c)工程に示すように、図10(b)工程と同様の配置で、斜方蒸着の蒸着方向1007と同方向であり、かつイオンビーム照射方向1:1008と基板法線1004のなす角が蒸着角度1005より大きい角度となるようにイオンビームを照射する。この時のイオンビーム照射角度ΘIB1009の符号を−とする。即ち、イオンビーム照射角度ΘIB1009が負号(−)ということは、イオンビームの照射方向が柱状構造体の傾斜角度Θcの方向に傾斜した角度であり、かつ柱状構造体の成長方向1007よりも浅い角度からイオンビームを照射することとなる。
【0063】
次に本発明の適用範囲内である、図11のイオンビームの照射方法について説明する。図11(b)工程は、前述の図10(b)工程で示した斜方蒸着膜形成工程と同じなので、ここでは説明を省略する。次に、図11(c)工程に示すように、イオンビーム照射方向2:1108から、イオンビームを照射する。このときイオンビーム照射角度ΘIB1109は正号(+)となる。先程イオンビーム照射角度が負号(−)となる場合を図10(c)を用いて説明したが、正号(+)となるのはそれ以外の角度領域である。
【0064】
図9に示すイオンソース801から出射されるイオンビームの主成分となるイオンは、それを照射した結果、斜方蒸着膜803のプレチルト角を制御可能であれば、基本的にはどのようなイオンであってもよいが、アルゴンイオンの照射が特に好ましい。しかし本発明はアルゴンイオンに限定されることなく、他のイオン種がよりプレチルト角制御により効果的であるならば、その他のイオンを用いてイオンビーム照射を行うことができる。
【0065】
また、本発明においては、表示領域部に相当する部分にのみイオンビームを照射する。イオンビームの照射領域を制限する方法としては、図12に示すような、表示領域部に対応した開口部1205を有するマスク1201を用いることが好ましい。このような形状のマスクを用いることで、簡便に照射領域を制限することが可能となる。しかし、上記以外の方法でもイオンビーム照射領域の制限が可能であるなら、その方法を適用してもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いてさらに詳しく本実施の形態を説明するが、本発明は実施例に記述されたものに限定されるわけではない。
実施例1
本実施例は、斜方蒸着膜として膜厚が300nmである酸化ケイ素(SiOx)から成る斜方蒸着膜を、前記斜方蒸着膜の一部に、SiOxカラム傾斜方向とは逆方向からArイオンビームを照射して、無機配向膜を形成し、液晶装置を作製した実施例である。
【0067】
以下、前記液晶装置の作製方法にて述べた、図7に示す(a)〜(g)工程に沿って説明する。
(a)工程:基板準備工程
まず、画素電極、転移用電極を形成された基板と、対向電極が形成された基板を準備した。本実施例においては、画素電極、転移用電極はAlを主成分とする反射電極を用いた。
【0068】
(b)工程:斜方蒸着膜を形成する工程
次に、前記基板上に斜方蒸着膜を形成した。斜方蒸着膜は蒸着角度87.5°、膜厚300nmに設定し、図9に示す構成を有する装置を用いて蒸着を行った。このとき、同時にプレチルト角測定用のガラス基板も同時にセットしておき、蒸着後図4に示すプレチルト角測定用セルを作製し、プレチルト角の測定を行った。液晶は正の誘電異方性を有する液晶組成物(メルク社製:MLC−2050)を用いた。このときのプレチルト角は48.1°であった。
【0069】
(c)工程:部分的にイオンビームを照射する工程
次に、(b)工程にて作製した斜方蒸着膜基板の一部にイオンビームを照射した。
まず、反射電極基板および対向電極基板の各基板上に、表示領域部に相当する部分のみが開口したマスクを設置した。次に図10に示す構成を有するイオンビーム照射装置を用い、SiOxカラム成長方向と同方向から、即ち斜方蒸着の際の蒸着方向と同じ方向からイオンビームを照射する配置となるよう、各基板を設置した。イオンソースはエンドホール型のイオンソース(Veeco社製)であり、照射角度は45°、照射条件をカソード電圧300V、カソード電流10Aに設定した。イオンビーム出射が安定した時点でイオンソースと設置基板間に設けたシャッターを開け、イオンビーム照射を開始する。照射時間は5分とした。
【0070】
このとき、(b)工程の時と同様に、プレチルト角測定用のセルを同時に設置しておき、イオンビーム照射後のプレチルト角を測定した。そのときのプレチルト角は、イオンビーム照射部で35°、非照射部で44°であった。
【0071】
また、イオンビーム照射部と非照射部の配向膜の表面構造、断面構造をFE−SEM(走査型電子顕微鏡S−5000H:日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて観察した結果を図17、18に示す。図17がイオンビーム非照射部、図18がイオンビーム照射部における斜方蒸着膜の微細構造を示す。その結果、照射部、非照射部ともに同方向にSiOxカラムが傾斜していることが確認できた。
【0072】
次に、分光エリプソメトリーを用いてイオンビーム照射部、非照射部の膜密度を測定したところ、イオンビーム照射部の膜密度は0.76、非照射部の膜密度は0.21であり、イオンビーム照射部の膜密度が非照射部よりも高いことが分かった。
【0073】
(d)工程:シール剤塗布、基板貼り合せ工程
次に、ベンド配向形成用の液晶セルを作製する。反射電極を形成した基板上に、所定のパターン形状でUV硬化シール剤を塗布する。シール剤には直径3μmのスペーサービーズが混合してある。
【0074】
次にUV硬化シール剤を塗布した反射電極形成基板上に、対向電極基板を所定の方向、位置で設置する。設置の際には両基板上のイオンビーム照射領域が重なり合うように設置し、所定の条件でUV照射、基板加熱を行うことで、空セルを作製する。
【0075】
(e)工程:液晶注入・液晶セル封止工程
次に、液晶注入装置を用いて空セル内に液晶材料(メルク社製:MLC−2050)を注入する。その後、UV硬化型の封口剤を用いてLCセルの封止を行う。
【0076】
(f)工程:液晶配向処理工程
次に、液晶層の再配向処理を行う。液晶のネマティック−等方相相転移温度(89℃)以上にLCセルを加熱した後、徐冷を行う。
【0077】
(g)工程:液晶配向処理工程
次に反射電極基板上に形成された取り出し電極に、異方性導電接着フィルム(ACF)を介してフレキシブルケーブルを接続する。
【0078】
ここで、液晶の配向状態を確認するために、反射電極基板の代わりに対向電極基板を用いた以外は上記作製方法と同様の方法で作製した配向確認用液晶セルを用意する。この液晶セルをクロスニコル配置である2枚の偏光板の間に導入して観察を行うと、イオンビーム照射が行われている領域では明るく黄色に着色した状態であり、イオンビーム非照射領域では黒色であった。このことからイオンビームを照射した領域では液晶層はスプレイ配向を形成し、イオンビーム非照射領域ではベンド配向を形成していることが確認できる。
【0079】
この配向確認用液晶セルに電圧を印加し、スプレイ配向領域をベンド配向へと転移させる。このときの様子を図13に示す。初期の配向状態は図13(a)である。まず表示領域周辺に配置された転移用電極と、表示領域の画素電極に周波数60Hzの矩形波電圧を徐々に印加すると、印加電圧1.3V以上でベンド配向へ転移を開始し、1.5V印加後数秒で図13(b)に示すように表示領域全域がベンド配向となる。
【0080】
その後、電圧印加を終了して、電圧無印加の状態で放置し、配向状態変化を観察したが、図13(c)に示すように、スプレイ配向への逆転移は観察されず、ベンド配向が維持される。
【0081】
上記結果より、イオンビームを照射した領域では、通常はスプレイ配向状態が安定な状態であるにも関わらず、その周囲に形成されたイオンビーム非照射の斜方蒸着膜領域に形成したベンド配向領域の影響により、ベンド配向が維持されていることが確認できる。
【0082】
次に、一軸性の位相補償板を液晶セルのガラス基板上へ貼り付ける。位相補償板の進相軸が液晶セルの進相軸と直交する様に位相補償板を設置する。
この状態で液晶セルを駆動し、図14に示すような光学系配置において電圧−反射率特性(V−R特性)を測定すると、図15に示すグラフを得られ、0Vで反射率最大となり、5V付近で反射率が極小となるような電圧−反射率特性曲線を得ることができる。
【0083】
図14に示す電圧−反射率特性の変化は、液晶層のリタデーション(位相差)が印加電圧により変化することに起因している。本実施例の液晶装置においては、印加電圧が低い場合にリタデーション量が大きく、印加電圧を大きくするに従いリタデーション量が小さくなり、反射率もリタデーション量減少に従い小さくなる。
【0084】
比較例1
本比較例は、イオンビームを照射しない以外は実施例1と同様の方法で作製した、液晶装置の例である。
【0085】
本比較例では、イオンビームを照射していないので、表示領域部、非表示領域部ともにプレチルト角は48.1°であり、パラレルセルを作製すると、両領域共にベンド配向を形成する。また、実施例1と同様の方法で膜密度を測定すると、表示領域部、非表示領域部に0.21で共に同じ値となる。
【0086】
上記の配向状態を有する液晶セルを用いて電圧−反射率特性を測定したところ、実施例1の場合と比較して低電圧側での反射率低下が見られる。
従って比較例1の構成の液晶セルでは電圧無印加状態でベンド配向を形成可能であるが、0Vでの反射率が低下することが分かる。
【0087】
比較例2
本比較例は、イオンビームを基板全面に照射する以外は、実施例1と同様の方法で作製した、液晶装置の例である。
【0088】
本比較例では、マスクを用いずにイオンビームを全面に照射しているので、表示領域部、非表示領域部ともにプレチルト角は、元の斜方蒸着膜より低下して28°となり、パラレルセルを作製すると、両領域共にスプレイ配向を形成する。また、実施例1と同様の方法で膜密度を測定すると、表示領域部、非表示領域部共に同じ値となる。
【0089】
また、実施例1の場合と同様に表示領域に電圧を印加した際の配向変化を図16に示す。初期状態(図16(a))から、転移電圧以上の電圧を印加してベンド配向を形成したのち(図16(b))、電圧印加を終了して静置したところ、数秒後にスプレイ配向へと逆転移し、ベンド配向は維持されない(図16(c))。
【0090】
このことより本比較例の場合においては電圧無印加の状態ではベンド配向が維持できないことが確認できる。
電圧−反射率特性(V−R特性)を測定したところ、0Vで反射率最大とならず、スプレイ−ベンド転移に要する電圧分だけ余分に電圧印加が必要である。またそれに従い反射率最小となる電圧も高くなる。
【0091】
実施例2
本実施例は、実施例1と同様の方法で基板上に斜方蒸着膜を形成した後、反射電極が形成された基板にのみ、マスクを用いて表示領域部にアルゴンイオンビームを照射し、対向電極基板にはイオンビーム照射処理を施さずに液晶装置を作製した例である。イオンビーム照射部の膜密度は0.76、非照射部の膜密度は0.21であり、イオンビーム照射部の膜密度が非照射部よりも高いことが分かった。
【0092】
斜方蒸着膜の形成条件は、実施例1と同様に蒸着角度87.5°、膜厚300nmであり、反射電極基板へのイオンビーム照射条件は、これも実施例1の場合と同様に、カラム傾斜方向とは逆方向から、照射角度45°、照射条件300V、10Aで照射する。
【0093】
配向確認用セルを作製したところ、実施例1の場合と同様にイオンビームを照射した表示領域部のみがスプレイ配向となり、その他の部分はベンド配向となる。また、ベンド転移後の逆転移も実施例1の場合と同様起こらない。
【0094】
V−R特性も、実施例1の場合とほぼ同様の測定結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、斜方蒸着法等の成膜法により形成される無機配向膜を用いた液晶表示素子に利用可能であり、また該液晶表示素子を用いた表示装置、例えばプロジェクター等の投射型表示装置、液晶モニタ、液晶テレビ等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の液晶装置を示す概念図である。
【図2】本発明の液晶装置に用いる無機配向膜の断面構造の概念図である。
【図3】本発明の液晶装置に用いるスプレイ配向状態を示す概念図である。
【図4】本発明の液晶装置に用いるベンド配向状態を示す概念図である。
【図5】本発明の液晶装置におけるプレチルト角を示す概念図である。
【図6】本発明の液晶装置の表示領域部と非表示領域部にあたる境界部分の断面構造の概念図である。
【図7】本発明の液晶装置の製造方法における、各工程を説明する工程図である。
【図8】本発明の液晶装置の製造方法における、斜方蒸着法の装置構成を示す装置構成図である。
【図9】本発明の液晶装置の製造方法における、イオンビーム照射方法を示す装置構成図である。
【図10】本発明の液晶装置の製造方法における、斜方蒸着膜に対するイオンビーム照射方向の一例を示す概念図である。
【図11】本発明の液晶装置の製造方法における、斜方蒸着膜に対するイオンビーム照射方向の一例を示す概念図である。
【図12】本発明の液晶装置の製造方法に使用するマスク形状を示す概念図である。
【図13】本発明の液晶装置における、電圧印加前後の表示領域の配向変化を示す一例である。
【図14】本発明の液晶装置の電圧−反射率特性測定に使用する測定系の装置構成図である。
【図15】本発明の液晶装置における、電圧−反射率特性のグラフである。
【図16】本発明の液晶装置における、電圧印加前後の表示領域の配向変化を示す一例である。
【図17】本発明の液晶装置における、イオンビーム非照射部の斜方蒸着膜の構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】本発明の液晶装置における、イオンビーム照射部の斜方蒸着膜の構造を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0097】
101、305 画素電極
102、601 転移用電極
103 シール剤
104 封口部
105 取り出し電極
106、1204、1301、1701、1607 表示領域部
107、1302、1702、1606 非表示領域部
108 表示領域部と非表示領域部の境界
201、702、901、1203 基板
202 柱状構造体
203 柱状構造体の傾斜角度
204 膜厚
205 蒸着方向
206 空隙
301 上部基板
302 対向電極
303 無機配向膜A
304 無機配向膜A’
306 下部基板
307、602 液晶層A
401 無機配向膜B
402 無機配向膜B’
403、603 液晶層B
501 プレチルト角θp
502 液晶分子
503 配向膜
504 ガラス基板
505 配向処理方向
701 蒸着源
703 基板ホルダ
704、908 基板法線
705、904 蒸着角度
706 蒸着距離
707、903 蒸着方向
801 イオンソース
802 イオンビーム照射角度
803、902、1603 斜方蒸着膜
804 イオンビーム照射方向
905、1604 イオンビーム照射した無機配向膜
906 イオンビーム照射方向1
907 イオンビーム照射角度1
1201、1605 マスク
1202 無機配向膜
1205 開口部
1401 ハーフミラー
1402 位相差板
1403 液晶装置
1404 光源
1405 偏光板1
1406 偏光板2
1601 電極・回路形成基板
1602 対向電極基板
1608 シール部
1609 液晶層1
1610 液晶層2
1611 フレキシブルケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される液晶装置であって、前記基板のうち一方の基板上に、複数の画素電極が配置された表示領域部と、該表示領域部以外の非表示領域部が配置され、もう一方の基板上に対向電極が配置され、前記一対の基板の液晶層側に無機配向膜が設置されており、少なくとも一方の基板上に設置された前記無機配向膜は、表示領域部と非表示領域部における膜密度が異なることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記表示領域部の無機配向膜の膜密度が、非表示領域の無機配向膜の膜密度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記無機配向膜が無機材料からなる柱状構造体より形成され、該柱状構造体の方位角方向の基板に対する配列方向が、表示領域部と非表示領域部で同一方向であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記無機配向膜を構成する材料が酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記液晶層の表示動作時の配向状態がベンド配向であり、前記画素電極と前記対向電極の間に印加される電圧により前記液晶層のリタデーションが制御されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の液晶装置。
【請求項6】
前記非表示領域部の液晶層において、電圧無印加の状態での該液晶層の配向状態がベンド配向であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記非表示領域部に表示に寄与しない電極が配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の液晶装置。
【請求項8】
前記表示領域部の形状が長方形であり、前記非表示領域部に配置された表示に寄与しない電極が前記表示領域部の各辺に沿って形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の液晶装置。
【請求項9】
正の誘電異方性を有するネマティック液晶からなる液晶層と、該液晶層を挟持して対向する、少なくとも一方の基板が光を透過する一対の基板とを含み構成される液晶装置の製造方法であって、基板上に無機材料を斜方蒸着することにより無機配向膜を形成する工程と、前記無機配向膜の一部の領域に一定の照射角度でイオンビームを照射して、前記無機配向膜の膜密度が異なる表示領域部と非表示領域部を形成する工程とを有することを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項10】
前記斜方蒸着により無機配向膜を形成する工程において、蒸着角度が60°以上90°未満であることを特徴とする請求項9に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項11】
前記無機配向膜を形成する工程で形成された無機配向膜が、前記無機材料を含む柱状構造体を有し、前記無機配向膜の一部の領域にイオンビームを照射する工程におけるイオンビームの照射方向は、基板法線と該斜方蒸着における蒸着方向とを含む平面と平行であり、基板法線に対する該柱状構造体の傾斜角度Θcが20°以上であり、該柱状構造体の傾斜角度を基準とする該イオンビームの照射角度ΘIBが、+50°≦ΘIB≦+100°(但し、ΘIBは、イオンビームの照射方向が柱状構造体の傾斜角度から基板法線に近づくほうを+とする)であることを特徴とする請求項9または10に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項12】
前記イオンビームがアルゴンイオンからなるイオンビームであることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかの項に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項13】
前記斜方蒸着膜の一部の領域にイオンビームを照射する方法が、開口部を有するマスクを用いてイオンビーム照射する方法であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかの項に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項14】
前記マスクの開口部の大きさが、少なくとも表示領域部を包含する大きさであることを特徴とする請求項13に記載の液晶装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−20253(P2010−20253A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183139(P2008−183139)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】