説明

液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、化合物及びこの化合物の製造方法

【課題】長時間連続駆動をした場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成可能な液晶配向剤、液晶配向膜、液晶配向膜を備える液晶表示素子、化合物及び化合物の製造方法の提供。
【解決手段】[A]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも一種の重合体、並びに[B]下記式(1)で表される化合物を含有する液晶配向剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、化合物及びこの化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、液晶配向性に優れ、かつ長時間連続駆動しても性能の劣化が少ない液晶配向膜、及び高品位の表示が可能であり、長時間駆動した場合であっても残像消去時間が短い液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、消費電力が小さく、小型化及びフラット化が容易である等の利点を有することから、携帯電話、液晶テレビ等の液晶表示装置に幅広く用いられている。かかる液晶表示装置の表示モードとして、液晶分子の配向状態の変化に応じ、Twisted Nematic型(TN型)、Super Twisted Nematic型(STN型)、In−Plane Switching型(IPS型)、Vertical Alignment型(VA型)等の液晶セルを有する液晶表示素子が開示されている。いずれの表示モードにおいても、液晶分子の配向状態は、液晶配向膜で制御されていることから、液晶配向膜及びこの液晶配向膜の材料となる液晶配向剤の有する特性が、液晶表示素子の特性の発現に影響する。
【0003】
液晶配向剤の材料としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂材料が知られており、特にポリアミック酸又はポリイミドを含有する液晶配向剤から形成される液晶配向膜は耐熱性、機械的強度、液晶との親和性等に優れており、多くの液晶表示素子に使用されている(特許文献1〜6参照)。かかる液晶表示素子をテレビジョン用途等に使用し、長時間連続駆動すると、液晶配向膜が熱及び光に長時間曝されることによって劣化し、表示品位が劣化することが知られている。
【0004】
そこで、長時間連続駆動した場合でも表示品位を劣化させない技術として、架橋構造を付与できる材料の使用が検討されている(特許文献7参照)。しかしながら、かかる材料を使用した液晶表示素子は電圧保持率等の電気特性が劣化する程度は少ないものの、駆動時間が長くなると共に残留DC電圧の値が大きくなる不都合がある。
【0005】
このような状況から、長時間連続駆動をした場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成可能な液晶配向膜剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−153622号公報
【特許文献2】特開昭60−107020号公報
【特許文献3】特開平11−258605号公報
【特許文献4】特開昭56−91277号公報
【特許文献5】米国特許第5,928,733号
【特許文献6】特開昭62−165628号公報
【特許文献7】特開2008−216985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は長時間連続駆動をした場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成可能な液晶配向剤、液晶配向膜、液晶配向膜を備える液晶表示素子、化合物及び化合物の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
[A]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも一種の重合体、並びに
[B]下記式(1)で表される化合物
を含有する液晶配向剤である。
【化1】

(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基、炭素数2〜7のアルコキシメチル基、−CHOY又は−CHOZである。Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。但し、Rの少なくとも一つは環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有する基である。)
【0009】
当該液晶配向剤が、[A]重合体及び[B]化合物を含有することで、長時間連続駆動をした場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成できる。
【0010】
上記Yが有する環状ヒンダードアミン構造が下記式(2)で表される基であり、Zが有するヒンダードフェノール構造が下記式(3)で表される基であることが好ましい。
【化2】

(式(2)中、
は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基又は1,3−ジオキソブチル基である。
II〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数7〜13のアラルキル基である。
は単結合、カルボニル基又は−CONH−である。但し、*を付した結合手がピペリジン環と結合する。
〜Xはそれぞれ独立して、単結合、カルボニル基、−CH−CO−又は−CH−CH(OH)−である。但し、*を付した結合手がピペリジン環と結合する。
は単結合、−CO−、メチレン基又は炭素数2〜6のアルキレン基である。)
【化3】

(式(3)中、RVIは炭素数4〜16の炭化水素基である。RVIIは水素原子又は炭素数1〜16の炭化水素基である。Xは単結合、−CO−、メチレン基又は炭素数2〜6のアルキレン基である。nは0〜3の整数である。)
【0011】
環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造が上記の特定構造を有することで、電気的特性を維持しつつ、耐候性がより向上できる。
【0012】
当該液晶配向剤が含有する[B]化合物は、(b1)下記式(1x)で表される化合物と(b2)下記式(2)及び/又は式(3)で表される化合物との反応生成物であることが好ましい。
【化4】

(式(1x)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。但し、Rの少なくとも一つはメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。)
【化5】

(式(2)中、Yは上記式(2)で表される基である。)
【化6】

(式(3)中、Zは上記式(3)で表される基である。)
【0013】
上記(b1)化合物と(b2)化合物を反応させることにより、容易に[B]化合物が得られる。
【0014】
上記Yが下記式(2−1)〜(2−2)で表される基からなる群より選択される少なくとも一種であり、Zが下記式(3−1)〜(3−2)で表される基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【化7】

【0015】
[B]化合物が上記特定の基を有することで液晶配向膜は堅牢性が増し、より耐候性に優れる。
【0016】
[B]化合物の使用割合が、[A]重合体100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下であることが好ましい。[B]化合物を上記のように特定量含有することで、耐候性より向上できる。
【0017】
当該液晶配向剤から形成される液晶配向膜及びこの液晶配向膜を備える液晶表示素子も本発明に好適に含まれる。当該液晶表示素子は、種々の装置に好適に適用でき、例えば時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、携帯情報端末、デジタルカメラ、携帯電話、各種モニター、液晶テレビ等の表示装置に用いられる。
【0018】
本発明には、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【化8】

(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基、炭素数2〜7のアルコキシメチル基、−CHOY又は−CHOZである。Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。但し、Rの少なくとも一つは環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有する基である。)
【0019】
当該化合物は、液晶配向膜を形成するための液晶配向剤等の成分として好適に使用できる。
【0020】
本発明には、下記式(1x)で表される化合物と、下記式(2)及び又は式(3)で表される化合物とを反応させる工程を有する当該化合物の製造方法が含まれる。
【化9】

(式(1x)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。但し、Rの少なくとも一つはメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。)
【化10】

(式(2)中、Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。)
【化11】

(式(3)中、Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。)
【0021】
なお、上記Rが示す炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基、RII〜Rが示す炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基及び炭素数7〜13のアラルキル基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長時間連続駆動をした場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成可能な液晶配向剤、液晶配向膜、液晶配向膜を備える液晶表示素子、化合物及び化合物の製造方法を提供できる。従って、本発明の液晶表示素子は高品位の表示が可能であり、長期間駆動をした場合にも表示性能の劣化が少なく、種々の装置に有効に適用でき、例えば時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、携帯情報端末、デジタルカメラ、携帯電話、各種モニター、液晶テレビ等の表示装置に好適に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
【0024】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、[A]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも一種の重合体(以下、「[A]重合体」と称することがある)、並びに[B]上記式(1)で表される化合物(以下、[B]化合物と称することがある)を含有する。また、当該液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない限り、任意成分を含有してもよい。以下、[A]重合体、[B]化合物及び任意成分について詳述する。
【0025】
<[A]重合体>
[A]重合体としてのポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを反応させることにより得られ、ポリイミドは、かかるポリアミック酸を脱水閉環することにより得られる。以下、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンについて詳述する。
【0026】
[テトラカルボン酸二無水物]
テトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジクロロ−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[2.2.2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、下記式(T−1)、式(T−2)で表される化合物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−ブタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,8−オクタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−ビス(アンヒドロトリメリテート)及び下記式(T−3)〜式(T−6)で表される化合物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0027】
【化12】

【0028】
上記式中、R及びRはそれぞれ独立して、芳香環を有する2価の有機基である。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。
【0029】
【化13】

【化14】

【0030】
上記式(T−1)及び(T−2)で表される化合物としては、例えば下記式(T−1−1)〜(T−2−1)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【化15】

【0032】
これらテトラカルボン酸二無水物のうち、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[2.2.2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、上記式(T−1−1)〜(T−1−3)及び式(T−2−1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種(以下、「特定テトラカルボン酸二無水物」と称することある)を用いることが、良好な液晶配向性を発現できる点で好ましい。
【0033】
特定テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、ピロメリット酸二無水物及び上記式(T−1−1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。
【0034】
特定テトラカルボン酸二無水物の使用割合としては、全テトラカルボン酸二無水物に対して、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、80モル%以上が特に好ましく、特定テトラカルボン酸二無水物のみを用いることが最も好ましい。
【0035】
[ジアミン]
ジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、2,7−ジアミノフルオレン、9,9−ジメチル−2,7−ジアミノフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’−ビス[(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニル、3,5−ジアミノ安息香酸、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、及び下記式(D−1)〜式(D−5)で表される化合物等の芳香族ジアミン;
【0036】
【化16】

【化17】

(式(D−4)中、yは2〜12の整数である。上記式(D−5)中、zは繰り返し数1〜5の整数である。)
【0037】
1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン;
2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、5,6−ジアミノ−2,3−ジシアノピラジン、5,6−ジアミノ−2,4−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジアミノ−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、4,6−ジアミノ−2−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−5−フェニルチアゾール、2,6−ジアミノプリン、5,6−ジアミノ−1,3−ジメチルウラシル、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、6,9−ジアミノ−2−エトキシアクリジンラクテート、3,8−ジアミノ−6−フェニルフェナントリジン、1,4−ジアミノピペラジン、3,6−ジアミノアクリジン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルアミン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチル−ベンジジン、下記式(D−6)で表される化合物及び下記式(D−7)で表される化合物等の分子内に2つの1級アミノ基及びこの1級アミノ基以外の窒素原子を有するジアミン;
【0038】
【化18】

(式(D−6)中、Rはピリジン、ピリミジン、トリアジン、ピペリジン及びピペラジンからなる群より選択される窒素原子を含む環構造を有する1価の有機基である。Xは2価の有機基である。)
【0039】
【化19】

(式(D−7)中、Rはピリジン、ピリミジン、トリアジン、ピペリジン及びピペラジンからなる群より選択される窒素原子を含む環構造を有する2価の有機基である。Xはそれぞれ独立して、2価の有機基である。)
【0040】
下記式(D−8)で表される化合物等の置換フェニレンジアミン;
【0041】
【化20】

(式(D−8)中、Rは−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−又はCO−である。但し、*を付した結合手がRと結合する。Rはステロイド骨格、トリフルオロメチルフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基及びフルオロフェニル基からなる群より選択される骨格若しくは基を有する1価の有機基又は炭素数6〜30のアルキル基である。)
【0042】
下記式(D−9)で表される化合物等のジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。これらのジアミンは単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0043】
【化21】

(式(D−9)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜12の炭化水素基である。pはそれぞれ独立して、1〜3の整数である。qは1〜20の整数である。)
【0044】
上記芳香族ジアミン、分子内に2つの1級アミノ基及び当該1級アミノ基以外の窒素原子を有するジアミン及びモノ置換フェニレンジアミンの有するベンゼン環は、1又は2以上の炭素数1〜4のアルキル基(好ましくはメチル基)で置換されていてもよい。また、上記式(D−8)におけるステロイド骨格とは、シクロペンタノン−ペルヒドロフェナントレン核からなる骨格又はその炭素−炭素結合の1又は2以上が二重結合となった骨格をいう。
【0045】
こられのジアミンのうち、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、上記式(D−1)〜(D−5)のそれぞれで表される化合物、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、上記式(D−6)で表される化合物のうち下記式(D−6−1)で表される化合物、上記式(D−7)で表される化合物のうち下記式(D−7−1)で表される化合物、上記式(D−8)で表される化合物のうちドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン及び下記式(D−8−1)〜式(D−8−9)で表される化合物、上記式(D−9)で表される化合物のうち1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンからなる群より選択される少なくとも一種(以下、「特定ジアミン」と称することがある)を含むものが好ましい。
【0046】
【化22】

【化23】

【化24】

【0047】
当該液晶配向剤におけるポリアミック酸を合成する際に用いられる上記特定ジアミンの使用量としては、全ジアミンに対して、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、80モル%以上が特に好ましい。特定ジアミンのみを用いることが最も好ましい。
【0048】
[ポリアミック酸の合成]
当該液晶配向剤におけるポリアミック酸は、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得られる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンの使用割合としては、ジアミンに含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2当量〜2当量が好ましく、0.3当量〜1.2当量がより好ましい。
【0049】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において実施され、反応温度としては、−20℃〜150℃が好ましく、0℃〜100℃がより好ましい。反応時間としては、0.1時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜12時間がより好ましい。有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノールおよびその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。
【0050】
上記非プロトン性極性溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジ
メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチ
ロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等が挙げられる。
【0051】
上記フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等が挙げられる。
【0052】
上記アルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0053】
上記ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0054】
上記エステルとしては、例えば乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル等が挙げられる。
【0055】
上記エーテルとしては、例えばジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0056】
上記ハロゲン化炭化水素としては、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン等が挙げられる。
【0057】
上記炭化水素としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル等が挙げられる。
【0058】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒、フェノール及びその誘導体からなる群(第一群の有機溶媒)より選択される一種以上又は上記第一群の有機溶媒から選択される一種以上とアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素からなる群(第二群の有機溶媒)より選択される一種以上との混合物を使用することが好ましい。第二群の有機溶媒の使用割合としては、第一群及び第二群の有機溶媒の合計に対して、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0059】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離は、上記反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得、この析出物を減圧下乾燥する方法、又は反応溶液中の有機溶媒をエバポレーターで減圧留去する方法により行われる。また、このポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、次いで貧溶媒で析出させる方法、又はエバポレーターで減圧留去する工程を1回又は数回行う方法によりポリアミック酸を精製できる。
【0060】
[ポリイミドの合成]
当該液晶配向剤に含有できるポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを反応させることにより得られるポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得られる。
【0061】
ポリイミドの合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンとしては、ポリアミック酸の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンと同様の化合物が挙げられる。好ましいテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び使用割合についてもポリアミック酸の合成の場合と同様である。
【0062】
上記ポリイミドは、原料であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。当該液晶配向剤におけるポリイミドのイミド化率としては、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。上記イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。このとき、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。イミド化率は、ポリイミドのH−NMRにより知ることができる。なお、本明細書におけるイミド化率は、ポリイミドを室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で測定したH−NMRから、下記数式(2)により求めた。
イミド化率(%)={1−(A/A)×α}×100 (2)
【0063】
上記数式(2)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αはポリイミドの前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。
【0064】
上記ポリイミドを合成するためのポリアミック酸の脱水閉環は、(i)ポリアミック酸を加熱する方法により、又は(ii)ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0065】
(i)の方法における反応温度としては、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜170℃がより好ましい。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が200℃を超えると得られるポリイミドの分子量が低下することがある。反応時間としては、1.0時間〜24時間が好ましく、1.0時間〜12時間がより好ましい。
【0066】
(ii)の方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物等が挙げられる。脱水剤の使用量としては、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して0.01モル〜20モルが好ましい。
【0067】
脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンが挙げられる。脱水閉環触媒の使用量としては、使用する脱水剤1モルに対して0.01モル〜10モルが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒が挙げられる。脱水閉環反応の反応温度としては、0℃〜180℃が好ましく、10℃〜150℃がより好ましい。反応時間としては、1.0時間〜120時間が好ましく、2.0時間〜30時間がより好ましい。
【0068】
(i)の方法において得られるポリイミドは、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、又は得られるポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。一方、上記方法(ii)においてはポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除くには、例えば溶媒置換等の方法を適用できる。ポリイミドの単離、精製は、ポリアミック酸の単離、精製方法として上記したのと同様の操作により行われる。
【0069】
当該液晶配向剤が含有できるポリアミック酸又はポリイミドは、分子量が調節された末端修飾型の重合体であってもよい。末端修飾型の重合体を用いることにより、本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性等をさらに改善できる。このような末端修飾型の重合体は、ポリアミック酸を合成する際に、分子量調節剤を重合反応系に添加することにより行われ。分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0070】
上記酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物等が挙げられる。
【0071】
上記モノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−エイコシルアミン等が挙げられる。
【0072】
上記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
【0073】
分子量調節剤の使用割合としては、ポリアミック酸を合成する際に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0074】
以上のようにして得られるポリアミック酸又はポリイミドは、濃度10質量%の溶液としたときに、20mPa・s〜800mPa・sの溶液粘度であることが好ましく、30mPa・s〜500mPa・sの溶液粘度であることがより好ましい。なお、本明細書における重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0075】
当該液晶配向剤における[A]重合体としては、ポリイミドのみを用いるか又はポリイミドとポリアミック酸とを混合使用することが好ましい。[A]重合体としてポリイミドのみを用いる場合のイミド化率としては70%以下が好ましく、30%〜60%がより好ましい。一方、[A]重合体としてポリイミドとポリアミック酸とを混合使用する場合の平均イミド化率としては70%以下が好ましく、10%〜60%がより好ましく、15%〜55%が特に好ましい。この平均イミド化率とは、液晶配向剤に含まれるポリイミドのイミド環構造の数(PI−I)、アミック酸構造の数(PI−A)及びポリアミック酸のアミック酸構造の数(PA−A)から、下記数式(1)によって計算される値をいう
【0076】
【数1】

【0077】
<[B]化合物>
当該液晶配向剤における[B]化合物は、上記式(1)で表される化合物である。式(1)中のRは、環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有し、置換されるRの数としては1〜3が好ましい。
【0078】
本発明においてヒンダードアミン構造とは、環状アミン構造の窒素原子の隣接する2つの炭素原子に、複数の立体障害作用を示す置換基を有することを意味する。
【0079】
このような立体障害作用を示す置換基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数7〜13のアラルキル基が挙げられる。
【0080】
上記式(1)中のRはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基、炭素数2〜7のアルコキシメチル基、−CHOY又は−CHOZである。Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。但し、Rの少なくとも一つは環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有する基である。上記Yが有するヒンダードアミン構造としては、上記式(2)で表される基が好ましい。
【0081】
上記式(2)におけるRが示す炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
【0082】
上記式(2)におけるRが示す炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、3−クロロ−4−メチルフェニル基、4−ピリジニル基、2−フェニル−4−キノリニル基、2−(4’−t−ブチルフェニル)−4−キノリニル基、2−(2’−チオフェニル)−4−キノリニル基等が挙げられる。
【0083】
上記式(2)におけるRが示す炭素数7〜13のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0084】
上記式(2)におけるRとXとの組み合わせ(すなわちR−X−の部分)としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ホルミル基、アセチル基、フェニル基、ベンジル基、1,3−ジオキソブチル基、4−ピリジニルカルボニル基、ベンゾイル基、2−フェニル−4−キノリニル基、2−(4’−t−ブチルフェニル)−4−キノリニル基、2−(2’−チオフェニル)−4−キノリニル基、式−CONH−Ph(ただし、Phはフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基又は3−クロロ−4−メチルフェニル基である)で表される基等が挙げられる。
【0085】
上記式(2)におけるRII〜Rが示す炭素数1〜6のアルキル基としては、上述のRが示す炭素数1〜6のアルキル基として例示したものが挙げられる。
【0086】
上記式(2)におけるRII〜Rが示す炭素数6〜12のアリール基としては、アリール基の芳香環が有する水素原子の一部又は全部がホルミル基又は炭素数1〜4のアルコキシル基で置換されていることが好ましく、例えばフェニル基、4−ホルミルフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基等が挙げられる。
【0087】
上記式(2)におけるRII〜Rが示す炭素数7〜13のアラルキル基としては、アラルキル基の芳香環が有する水素原子の一部又は全部がホルミル基又は炭素数1〜4のアルコキシル基で置換されていてもよく、例えばベンジル基等が挙げられる。
【0088】
上記式(2)におけるRIIとX、RIIIとX、RIVとX及びRとXとの組み合わせ(すなわちRII−X−、RIII−X−、RIV−X−又はR−X−の部分)としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、ベンゾイル基、4−ホルミルベンゾイル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エチル基等が挙げられる。
【0089】
上記式(2)で表される化合物としては、Rが水素原子であり、RII〜Rがいずれもメチル基であり、X〜Xがいずれも単結合である化合物が好ましい。
【0090】
また、本発明において、ヒンダードフェノール構造を有するとは、式(1)において、フェノール性水酸基のオルト位(2位及び/又は6位)に立体障害作用を示すことを意味する。
【0091】
このような立体障害作用を示す置換基としては、例えばt−ブチル基、1−メチルペンタデシル基、オクチルチオメチル基等が挙げられる。なお、置換基が2位及び6位の両方にある場合には、その置換基はそれぞれ独立している。
【0092】
上記Zが有するヒンダードフェノール構造としては、上記式(3)で表される基が好ましい。好ましい例としては、(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)基を有する構造を有する化合物が挙げられる。
【0093】
上記式(3)におけるRVIが示す炭素数4〜16の炭化水素基としては、tert−ブチル基、1−メチルペンタデシル基、オクチルチオメチル基が好ましく、tert−ブチル基がより好ましい。
【0094】
上記式(3)におけるRVIIが示す炭素数1〜16の炭化水素基としては、tert−ブチル基、1−メチルペンタデシル基、オクチルチオメチル基が好ましく、tert−ブチル基がより好ましい。
【0095】
上記式(3)におけるRVI及びRVIIはフェノール性水酸基のオルト位(2位及び6位)にあることが好ましい。
【0096】
上記式(3)におけるXとしては、メチレン基が好ましい。
【0097】
[B]化合物は、(b1)化合物の1モル部と(b2)化合物のxモル部(但し、xは0<x<nを満たす)との反応生成物であることが好ましい。但し、nは上記(b1)化合物1分子の有するメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基の個数である。
【0098】
(b1)化合物の上記式(1x)におけるRが示す炭素数1〜6のアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−ブチル基、iso−ブチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。かかる化合物(b1)としては、例えば、N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(アルコシキメチル)メラミン等のアルコキシメチル化メラミンが挙げられる。市販品としては、サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350、サイメル370、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、マイコート715、サイメル701、サイメル285、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル211、サイメル254、マイコート212、サイメル202、マイコート508(MITSU−CYTEC社)等が挙げられる。
【0099】
上記反応に使用できる有機溶媒としては、上記のポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒が挙げられる。これらのうち非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。有機溶媒の使用割合としては、反応溶液中における化合物(b1)及び化合物(b2)の合計重量の割合が、1質量%以上となる割合が好ましく、5質量%〜50質量%となる割合がより好ましい。
【0100】
反応の際の温度としては、20℃〜250℃が好ましく、50℃〜180℃がより好ましい。反応時間としては、0.1時間〜72時間が好ましく、0.5時間〜48時間がより好ましい。
【0101】
かくして好ましい[B]化合物を含有する溶液が得られる。この溶液は、そのまま当該液晶配向剤の調製に供してもよく、又は反応溶液から[B]化合物を単離・精製したうえで当該液晶配向剤の調製に供してもよい。反応溶液から[B]化合物を単離・精製する方法としては、例えば液−液抽出法、カラムクロマトグラフィー、蒸留法、再結晶等が挙げられる。
【0102】
好ましい[B]化合物としては、化合物(b1)の有していたメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基の一部が化合物(b2)と反応し、化合物(b1)に由来するメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基と、化合物(b2)に由来する基Rとを併有する。そのため当該液晶配向剤がかかる[B]化合物を含有することにより、長時間連続駆動した場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されるとともに残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成することができる。
【0103】
[B]化合物のより好ましい例としては、上記Yが上記式(2−1)〜(2−2)で表される基からなる群より選択される少なくとも一種であり、Zが上記式(3−1)〜(3−2)で表される基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。当該液晶配向剤における[B]化合物の使用割合としては、[A]重合体の100質量部に対して、0.1質量部〜100質量部が好ましく、0.5質量部〜50質量部がより好ましく、1質量部〜30質量部が特に好ましい。
【0104】
<任意成分>
当該液晶配向剤は、上記[A]重合体及び[B]化合物を含有し、必要に応じてその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」と称することがある)、官能性シラン化合物、多官能(メタ)アクリレート、メラミン化合物(但し、[B]化合物を除く)等の任意成分を含有できる。以下、各成分を詳述する。
【0105】
[その他の重合体]
上記その他の重合体は、溶液特性及び電気特性の改善のために使用できる。その他の重合体としては、例えばポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0106】
本発明の液晶配向剤におけるその他の重合体の使用割合としては、[A]重合体100質量部に対して、100質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。その他の重合体を含有しないことが最も好ましい。
【0107】
[エポキシ化合物]
上記エポキシ化合物は、形成される液晶配向膜の基板表面に対する接着性をより向上する観点から使用できる。好ましいエポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、1,3,5,6−テトラグリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。エポキシ化合物の配合割合としては、[A]重合体100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、0.1質量部〜30質量部がより好ましい。
【0108】
[シラン化合物]
上記官能性シラン化合物は、当該液晶配向剤の印刷性をより向上する観点から使用できる。官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。官能性シラン化合物の使用割合としては、[A]重合体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.02質量部〜0.2質量部がより好ましい。
【0109】
[多官能(メタ)アクリレート]
上記多官能(メタ)アクリレートは、当該液晶配向剤の耐候性をより向上する観点から使用できる。多官能(メタ)アクリレートとしては、例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリ(2−アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、トリ(2−メタクリロイルオキシエチル)フォスフェート等が挙げられる。
【0110】
市販品としては、例えば、アロニックスM−210、同M−240、同M−6200、同M−309、同−400、同−402、同−405、同−450、同−1310、同−1600、同−1960、同−7100、同−8030、同−8060、同−8100、同−8530、同−8560、同−9050、アロニックスTO−1450(以上、東亜合成社)、KAYARAD HDDA、同HX−220、同R−604、UX−2201、UX−2301、UX−3204、UX−3301、UX−4101、UX−6101、UX−7101、UX−8101,MU−2100、MU−4001、KAYARAD TMPTA、同DPHA、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同DPCA−120、同MAX−3510(以上、日本化薬社)、ビスコート260、同312、同335HP、同295、同300、同360、同GPT、同3PA、同400(以上、大阪有機化学工業社)、ニューフロンティア R−1150(以上、第一工業製薬社)、KAYARAD DPHA−40H(以上、日本化薬社)等が挙げられる。多官能(メタ)アクリレートの使用割合としては、[A]重合体100質量部に対して、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0111】
[メラミン化合物(但し[B]化合物を除く)]
上記メラミン化合物としては、例えば、上記(b1)化合物が挙げられる。メラミン化合物の使用割合としては、[A]重合体100質量部に対して、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0112】
<液晶配向剤の調製方法>
当該液晶配向剤は、上記[A]重合体、[B]化合物、及び必要に応じて任意成分を、好ましくは有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。
【0113】
有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0114】
当該液晶配向剤の固形分濃度(液晶配向剤のうち有機溶媒を除いた成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1質量%〜10質量%である。当該液晶配向剤を基板表面に塗布し、有機溶媒を除去することにより液晶配向膜となる塗膜を形成する際に、固形分濃度が1質量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得難い場合があり、一方固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって同様に良好な液晶配向膜を得難くなる場合があり、また液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性に劣る場合がある。
【0115】
より好ましい固形分濃度範囲としては、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えば、スピンナー法による場合には1.5質量%〜4.5質量%の範囲が好ましい。印刷法による場合には、3質量%〜9質量%の範囲とし、溶液粘度としては12mPa・s〜50mPa・sの範囲とすることが好ましい。インクジェット法による場合には、1質量%〜5質量%の範囲とし、溶液粘度としては3mPa・s〜15mPa・sの範囲とすることが好ましい。
【0116】
当該液晶配向剤を調製する際の温度としては、10℃〜50℃が好ましく、20℃〜30℃がより好ましい。
【0117】
<液晶配向膜、その形成方法、液晶表示素子及び液晶表示素子の製造方法>
当該液晶配向剤から形成される液晶配向膜も本発明に好適に含まれる。本発明の液晶配向膜は、基板上に当該液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に形成される。また、本発明の液晶表示素子は当該液晶配向膜を備える。以下、本発明の液晶配向膜の形成方法及び液晶表示素子の製造方法について詳述する。
【0118】
(1−1)TN型、STN型又はVA型液晶表示素子を製造する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法又はインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布し、次いで、各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、脂環式オレフィン等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜等を用いることができる。
【0119】
パターニングされた透明導電膜を得る方法としては、例えばパターンなしの透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法等が挙げられる。液晶配向剤の塗布に際し、基板表面及び透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面の塗膜を形成する面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物等を予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0120】
当該液晶配向剤を塗布した後、液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベークの温度としては、30℃〜200℃が好ましく、40℃〜150℃がより好ましく、40℃〜100℃が特に好ましい。プレベークの時間としては0.1分〜10分が好ましく、0.5分〜5分がより好ましい。
【0121】
次に、溶媒を完全に除去し、必要に応じてポリアミック酸を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)が実施される。ポストベークの温度としては、80℃〜300℃が好ましく、120℃〜250℃がより好ましい。ポストベークの時間としては、5分〜200分が好ましく、10分〜100分がより好ましい。当該液晶配向剤は塗布後に有機溶媒を除去することによって液晶配向膜となる塗膜を形成するが、当該液晶配向剤に含有される重合体がポリアミック酸又はイミド環構造とアミック酸構造とを併有するポリイミドである場合には、塗膜形成後にさらに加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
【0122】
形成される塗膜の膜厚としては、0.001μm〜1μmが好ましく、0.005μm〜0.5μmがより好ましい。
【0123】
(1−2)IPS型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜が設けられている基板の導電膜形成面と、導電膜が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤を好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法又はインクジェット印刷法によってそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。このとき使用される基板及び透明導電膜の材質、透明導電膜のパターニング方法、基板の前処理並びに液晶配向剤を塗布した後の加熱方法については上記(1−1)と同様である。形成される塗膜の好ましい膜厚は、上記(1−1)と同様である。
【0124】
(2)本発明の方法により製造される液晶表示素子がVA型の液晶表示素子である場合には、上記のようにして形成された塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、所望に応じて次に述べるラビング処理を行った後に使用に供してもよい。一方、VA型以外の液晶表示素子を製造する場合には、上記のようにして形成された塗膜にラビング処理を施すことにより液晶配向膜とする。
【0125】
ラビング処理は、上記のようにして形成された塗膜面に対し、例えばナイロン、レーヨン、コットン等の繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることにより行うことができる。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。さらに、上記のようにして形成された液晶配向膜に対し、例えば特開平6−222366号公報や特開平6−281937号公報に示されているような液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、特開平5−107544号公報に示されているような液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成したうえで先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにすることによって得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
【0126】
(3)当該液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより、液晶セルを製造する。ここで、塗膜に対してラビング処理を行った場合には、2枚の基板は、各塗膜におけるラビング方向が互いに所定の角度、例えば直交又は逆平行となるように対向配置される。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
【0127】
第一の方法としては、従来から知られている方法であって、まず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部についてシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造できる。
【0128】
第二の方法としては、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法であって、液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に、例えば紫外光硬化性のシール材を塗布し、さらに液晶配向膜面上に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造できる。
【0129】
いずれの方法による場合でも、上記のようにして製造した液晶セルにつき、さらに、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶注入時の流動配向を除去することが望ましい。そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、当該液晶表示素子が得られる。
【0130】
シール剤としては、例えば,スペーサーとしての酸化アルミニウム球及び硬化剤を含有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0131】
液晶としては、例えばネマティック型液晶、スメクティック型液晶等が挙げられる。これらのうちネマティック型液晶が好ましい。VA型液晶セルの場合、負の誘電異方性を有するネマティック型液晶が好ましい。このような液晶としては、例えばジシアノベンゼン系液晶、ピリダジン系液晶、シッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶等が挙げられる。TN型液晶セル又はSTN型液晶セルの場合、正の誘電異方性を有するネマティック型液晶が好ましい。このような液晶としては例えばビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等が挙げられる。また上記液晶に、例えばコレステリルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネート等のコレステリック液晶(メルク社、「C−15」、「CB−15」)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメート等の強誘電性液晶等をさらに添加して使用できる。
【0132】
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながら、ヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0133】
<化合物>
本発明の化合物は、上記式(1)で表される。当該化合物は、液晶配向膜を形成するための液晶配向剤等の成分として好適に使用できる。当該化合物及び化合物の製造方法の詳細な説明については、当該液晶配向剤に含まれる[B]化合物の説明の項で行っているので、ここでは省略する。
【実施例】
【0134】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0135】
<[A]重合体の合成例>
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物98g(0.50モル)及びピロメリット酸二無水物110g(0.50モル)並びにジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルメタン200g(1.0モル)をN−メチル−2−ピロリドン230g及びγ―ブチロラクトン2,100gからなる混合溶媒に溶解し、40℃で3時間反応を行った後、γ―ブチロラクトン1,350gを追加することにより、ポリアミック酸(PA−1)を10質量%含有する溶液を得た。この溶液の溶液粘度は125mPa・sであった。
【0136】
[合成例2]
テトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物200g(1.0モル)及びジアミンとして2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル210g(1.0モル)をN−メチル−2−ピロリドン370g及びγ―ブチロラクトン3,300gからなる混合溶媒に溶解し、40℃で3時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(PA−2)を10質量%含有する溶液を得た。この溶液の溶液粘度は160mPa・sであった。
【0137】
[合成例3]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)及び1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン160g(0.50モル)、ジアミンとしてp−フェニレンジアミン94g(0.87モル)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン25g(0.10モル)、及び3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン9.6g(0.015モル)並びにモノアミンとしてオクタデシルアミン8.1g(0.030モル)をN−メチル−2−ピロリドン960gに溶解し、60℃で6時間反応を行ってポリアミック酸を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液をして測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン2,700gを追加し、さらにピリジン400g及び無水酢酸410gを添加して110℃で4時間脱水閉環を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなγ―ブチロラクトンで溶媒置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジン及び無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約95%のポリイミド(PI−1)を約15質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、γ−ブチロラクトンを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は70mPa・sであった。
【0138】
[合成例4]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)及び1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン160g(0.50モル)、ジアミンとしてp−フェニレンジアミン95g(0.88モル)、4,4−ジアミノ−2,2−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル32g(0.10モル)及び3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン6.4g(0.010モル)並びにモノアミンとしてオクタデシルアミン8.1g(0.03モル)をN−メチル−2−ピロリドン960gに溶解し、60℃で9時間反応を行ってポリアミック酸を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液をして測定した溶液粘度は58mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、N−メチル−2−ピロリドン2,730gを追加し、さらにピリジン400g及び無水酢酸410gを添加して110℃で4時間脱水閉環を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなγ―ブチロラクトンで溶媒置換することにより、イミド化率約95%のポリイミド(PI−2)を約15質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、γ−ブチロラクトンを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は69mPa・sであった。
【0139】
[合成例5]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)並びにジアミンとしてp−フェニレンジアミン43g(0.40モル)及び3(3,5−ジアミノベンゾイルオキシ)コレスタン52g(0.10モル)をN−メチル−2−ピロリドン830gに溶解し、60℃で6時間反応を行ってポリアミック酸を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液をして測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン1,900gを追加し、さらにピリジン40g及び無水酢酸51gを添加して110℃で4時間脱水閉環を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約50%のポリイミド(PI−3)を約15質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は47mPa・sであった。
【0140】
[合成例6]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物110g(0.50モル)並びにジアミンとしてp−フェニレンジアミン49g(0.45モル)及び3(3,5−ジアミノベンゾイルオキシ)コレスタン26g(0.05モル)をN−メチル−2−ピロリドン750gに溶解し、60℃で6時間反応を行ってポリアミック酸を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液をして測定した溶液粘度は58mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン1,800gを追加し、さらにピリジン40g及び無水酢酸51gを添加して110℃で4時間脱水閉環を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約50%のポリイミド(PI−4)を約15質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は69mPa・sであった。
【0141】
<[B]化合物の合成>
[実施例1]
ホルマリン320g、1N水酸化ナトリウム8mL、メラミン20gを35℃で溶解させた後、室温で一昼夜放置して析出したヘキサメチロールメラミンの結晶を吸引ろ過した後、メタノールで洗浄した後、真空乾燥することでヘキサメチロールメラミンの精製物を48g得た。次いで、このヘキサメチロールメラミンにテトラヒドロフラン250mL、下記化合物(B1−1)を120g加えて70℃に加熱した後、0.5N塩酸水を1mL加えて8時間反応させた後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液で中和して反応を終了させた。次いで、反応液を2Lの水に注いで得られた沈殿をろ別し、この沈殿をクロロホルム/エタノールを展開溶媒としたシリカカラムにより精製することで化合物(B1−1)の平均置換数が2の化合物(B−1)を得た。平均置換数はGPCによって分析した。
【0142】
【化25】

【0143】
[実施例2]
化合物(B1−1)の代わりに下記化合物(B2−1)を43g用いた以外は合成例B1と同様に操作してステロイド骨格を有する基の平均置換数が1の化合物(B−2)を得た。
【0144】
【化26】

【0145】
<液晶配向剤の調製>
[実施例3]
[A]重合体としてポリアミック酸(PA−1)を含有する溶液及びポリイミド(PI−1)を含有する溶液を、ポリアミック酸(PA−1):ポリイミド(PI−1)=80:20(質量比)となるように混合し、これにγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン及びエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテルを加え、さらに[B]化合物として化合物(B−1)を含有する溶液を、これに含まれる[B]化合物に換算して重合体の合計100質量部に対して10質量部加えて十分に撹拌し、溶媒組成がγ−ブチロラクトン:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル=71:17:12(質量比)、固形分濃度6.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤を調製した。なお、エポキシ化合物としてはN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを使用した。
【0146】
[実施例4〜7及び比較例1〜5]
配合する化合物の種類と使用量を、それぞれ表1に記載の種類及び量とした以外は、実施例3と同様に操作して、液晶配向剤を調製した。なお、表1中のF−1はヘキサメトキシメチロールメラミン(サイメルC300、MITSUI−CYTEC社)を示す。また、「−」は、成分を使用しなかったことを示す。
【0147】
[実施例8]
[A]重合体としてポリイミド(PI−3)を含有する溶液に、N−メチル−2−ピロリドン及びエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテルを加え、さらに[B]化合物として化合物(B−1)を含有する溶液を、これに含まれる[B]化合物に換算して重合体の合計100質量部に対して10質量部加えて十分に撹拌し、溶媒組成がN−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル=50:50(質量比)、固形分濃度6.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤を調製した。
【0148】
[実施例9〜12及び比較例6〜10]
配合する化合物の種類と使用量を、それぞれ表1に記載の種類及び量とした以外は、実施例8と同様に操作して、液晶配向剤を調製した。なお、表1中のE−1はジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(アロニックスM402、東亞合成社)を示す。
<液晶表示素子の製造>
実施例3〜7及び比較例1〜5で調製した液晶配向剤を、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷社)を用いてITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、200℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数500rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押しこみ長さ0.4mmでラビング処理を行い、液晶配向能を付与した。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行ない、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。これらの操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。次に、上記一対の基板の液晶配向膜を有するそれぞれの外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック型液晶(メルク社、MLC−6221)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。
【0149】
実施例8〜12及び比較例6〜10で調製した液晶配向剤を、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷社)を用いてITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、200℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。次に、上記一対の基板の液晶配向膜を有するそれぞれの外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着した後、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマティック型液晶(メルク社、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。
【0150】
<評価>
調製した液晶配向剤を用いて製造した液晶表示素子について以下の評価をした。結果を表1に併せて示す。
【0151】
[耐候性の評価]
液晶セルに対し、70℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を、東陽テクニカ社「VHR−1」により測定した(初期電圧保持率(VHRIN))。次いで初期電圧保持率測定後の液晶セルに対し、カーボンアークを光源とするウェザーメーターを用いて5,000時間の光照射を行った。光照射後の液晶セルにつき、上記と同様の方法により再度電圧保持率を測定した(光照射後電圧保持率(VHRAF))。電圧保持率の維持率が90%以上であった場合の耐候性を良好と判断し、90%未満であった場合の耐候性を不良と判断した。
【0152】
[残留DC電圧の評価]
上記のようにして製造した液晶セルにつき、フリッカ消去法にてセル中のDC電圧値を測定した(初期DC電圧)。次いで、この液晶セルに対し、100℃において直流17Vの電圧を20時間印加した。電圧印加後のセルについて、直流電源解放後15分経過した後に、再度フリッカ消去法にてセル中のDC電圧値を測定した。このとき、電圧印加後のDC電圧値から初期DC電圧値を減じた値を残留DC電圧とした。残留DC電圧の値が500mV未満であった場合を「+」、500mV以上であった場合を「−」として評価した。
【0153】
【表1】

【0154】
表1の結果から明らかなように、本発明の液晶配向剤は良好な電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成可能なことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明によれば、長時間連続駆動をした場合であっても良好な液晶配向性能及び電気特性が維持されると共に、優れた耐候性を有し、残留DC電圧の増大が抑制された液晶配向膜を形成可能な液晶配向剤、液晶配向膜、液晶配向膜を備える液晶表示素子、化合物及び化合物の製造方法を提供できる。従って、本発明の液晶表示素子は高品位の表示が可能であり、長期間駆動をした場合にも表示性能の劣化が少なく、種々の装置に有効に適用でき、例えば時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、携帯情報端末、デジタルカメラ、携帯電話、各種モニター、液晶テレビ等の表示装置に好適に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも一種の重合体、並びに
[B]下記式(1)で表される化合物
を含有する液晶配向剤。
【化1】

(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基、炭素数2〜7のアルコキシメチル基、−CHOY又は−CHOZである。Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。但し、Rの少なくとも一つは環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有する基である。)
【請求項2】
上記Yが有する環状ヒンダードアミン構造が下記式(2)で表される基であり、Zが有するヒンダードフェノール構造が下記式(3)で表される基である請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】

(式(2)中、
は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基又は1,3−ジオキソブチル基である。
II〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数7〜13のアラルキル基である。
は単結合、カルボニル基又は−CONH−である。但し、*を付した結合手がピペリジン環と結合する。
〜Xはそれぞれ独立して、単結合、カルボニル基、−CH−CO−又は−CH−CH(OH)−である。但し、*を付した結合手がピペリジン環と結合する。
は単結合、−CO−、メチレン基又は炭素数2〜6のアルキレン基である。)
【化3】

(式(3)中、RVIは炭素数4〜16の炭化水素基である。RVIIは水素原子又は炭素数1〜16の炭化水素基である。Xは単結合、−CO−、メチレン基又は炭素数2〜6のアルキレン基である。nは0〜3の整数である。)
【請求項3】
[B]化合物が、
(b1)下記式(1x)で表される化合物と
(b2)下記式(2)及び/又は式(3)で表される化合物と
の反応生成物である請求項2に記載の液晶配向剤。
【化4】

(式(1x)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。但し、Rの少なくとも一つはメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。)
【化5】

(式(2)中、Yは上記式(2)で表される基である。)
【化6】

(式(3)中、Zは上記式(3)で表される基である。)
【請求項4】
上記Yが下記式(2−1)〜(2−2)で表される基からなる群より選択される少なくとも一種であり、Zが下記式(3−1)〜(3−2)で表される基からなる群より選択される少なくとも一種である請求項2又は請求項3に記載の液晶配向剤。
【化7】

【請求項5】
[B]化合物の使用割合が、[A]重合体100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向膜を備える液晶表示素子。
【請求項8】
下記式(1)で表される化合物。
【化8】

(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基、炭素数2〜7のアルコキシメチル基、−CHOY又は−CHOZである。Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。但し、Rの少なくとも一つは環状ヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有する基である。)
【請求項9】
下記式(1x)で表される化合物と、
下記式(2)及び/又は式(3)で表される化合物と
を反応させる工程を有する請求項8に記載の化合物の製造方法。
【化9】

(式(1x)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。但し、Rの少なくとも一つはメチロール基又は炭素数2〜7のアルコキシメチル基である。)
【化10】

(式(2)中、Yは環状ヒンダードアミン構造を有する基である。)
【化11】

(式(3)中、Zはヒンダードフェノール構造を有する基である。)

【公開番号】特開2011−70160(P2011−70160A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130544(P2010−130544)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】