説明

液晶配向層形成用樹脂組成物

【課題】液晶配向性を有し、且つ高透明性、高平坦化性を実現する液晶配向膜を形成できる液晶配向層形成用脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)成分:末端に不飽和結合を有する側鎖を持ち、数平均分子量が2,000乃至30,000であるアクリル重合体、
(B)成分:ビスマレイミド化合物、
(C)成分:光重合開始剤
(D)溶剤を含有する液晶配向層形成用組成物、該組成物を用いて得られる液晶配向層、並びに該液晶配向層を用いて得られる光学フィルムおよび液晶表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向層形成用樹脂組成物及びそれから得られる硬化膜に関する。より詳しくは、段差被覆時の平坦性が高い液晶配向層形成用樹脂組成物及びその硬化膜、並びに該硬化膜を用いた液晶配向層に関するものである。この液晶配向層形成用樹脂組成物は特に液晶ディスプレイにおける液晶配向機能を兼ね備えたカラーフィルタオーバーコート剤に好適である。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示素子、有機EL(electroluminescent)素子、固体撮像素子などの光デバイスでは、素子表面が製造工程中に溶剤や熱にさらされるのを防ぐために保護膜が設けられる。このような保護膜は保護する基板との密着性が高く耐溶剤性が高いだけでなく、透明性、耐熱性等の性能も要求される。
【0003】
このような保護膜は、カラー液晶表示装置や固体撮像素子に用いられるカラーフィルタの保護膜として使用する場合に、下地基板であるカラーフィルタやブラックマトリックス樹脂を平坦化することも通常要求されることとなる。特にSTN方式やTFT方式のカラー液晶表示素子を製造する際には、カラーフィルタ基板と対向基板との張り合わせ精度を非常に厳密に行う必要があり、該保護膜によって基板間のセルギャップを均一にすることが必要不可欠である。また、カラーフィルタを透過する光の透過率を維持するためこれらの平坦化保護膜には高い透明性が必要となる。
【0004】
一方、近年液晶ディスプレイのセル内に位相差材を導入することで低コスト化、軽量化が検討されており、このような位相差材には液晶モノマーを塗布し配向させた後、光硬化させた材料が一般的に用いられる。この位相差材を配向させるためには下層膜がラビング処理後、配向性を有する材料である必要がある。そのためカラーフィルタのオーバーコート上に液晶配向膜を成膜した後、位相差材が形成される(図1(a)参照)。この液晶配向膜とカラーフィルタのオーバーコートを兼ねる膜(図1(b)参照)を形成できれば、低コスト化、プロセス数の削減等大きなメリットが得られることから、このような材料が強く望まれている。
【0005】
一般にこのカラーフィルタのオーバーコートには、透明性の高いアクリル樹脂が用いられる。このようなアクリル樹脂は熱硬化や光硬化させることで耐熱性や耐溶剤性を付与している。熱硬化の方法としてはヒドロキシ基を有するアクリル樹脂にメチロール系の架橋剤と酸触媒を添加する方法、カルボキシル基を含有するアクリル樹脂にエポキシ系の架橋剤を添加する方法がよく知られている。また、エポキシ基とカルボキシル基をアクリル樹脂中に導入することで熱硬化させる方法(参考文献1)やさらに熱ラジカル開始剤と一分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物を用いる方法(参考文献2)が用いられている。また、光硬化の方法としてはアクリル樹脂に一分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物と光ラジカル開始剤を添加する方法、ヒドロキシ基を含有するアクリル樹脂にメチロール系の架橋剤と光酸発生剤を添加する方法が知られている。しかしながら従来の熱硬化性や光硬化性のアクリル樹脂の平坦化率は高いものとは言えなかった。また、このような平坦化膜をラビング処理しても十分な配向性を示すことはできなかった。
【0006】
一方、液晶配向膜には溶剤可溶性ポリイミドやポリアミック酸からなる材料が通常用いられている。これらの材料はポストベーク時に完全にイミド化させることで耐溶剤性を付与し、十分な配向性を示すことが報告されている(参考文献3)。しかしながら、カラーフィルタの平坦化膜としてみた場合、平坦化性と透明性が大きく低下してしまうなどの問
題があった。
【特許文献1】特開2000−103937号公報
【特許文献2】特開2000−119472号公報
【特許文献3】特開2005−037920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、液晶配向性を有し、かつ高透明性、高平坦化性を有する材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、本発明を見出すに至った。
すなわち、第1観点として、下記(A)成分、(B)成分及び(C)成分及び(D)溶剤を含有する液晶配向層形成用樹脂組成物。
(A)成分:末端に不飽和結合を有する側鎖を持ち、数平均分子量が2,000乃至30,000であるアクリル重合体、
(B)成分:ビスマレイミド化合物、
(C)成分:光重合開始剤
(D)溶剤。
第2観点として、(A)成分が、末端に不飽和二重結合を有する側鎖を持つアクリル重合体である、第1観点に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
第3観点として、(A)成分が、末端にアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する側鎖を持つアクリル重合体である、第1観点又は第2観点に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
第4観点として、(A)成分が、脂肪族の側鎖を持つアクリル重合体である、第1観点乃至第3観点のうちのいずれか一項に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
第5観点として、(E)成分として更に液晶モノマーを含有する第1観点乃至第4観点のいずれか一項に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
第6観点として、第1観点乃至第5観点のうちのいずれか一項に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物を用いて得られる液晶配向層。
第7観点として、第6観点に記載の液晶配向層を有する光学フィルム。
第8観点として、第6観点に記載の液晶配向層を有する液晶表示素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶配向層形成用脂組成物は、液晶表示素子に使用される液晶配向膜を高い透明性、高い平坦化性を維持したまま形成することができる。
また本発明の液晶配向層形成用脂組成物を用いることにより、従来独立して形成された液晶配向層とカラーフィルタのオーバーコート層を、両者の特性を兼ね備える「液晶配向層」として同時に形成することが可能となり、低コスト化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物は、下記(A)成分のアクリル重合体、(B)成分のビスマレイミド化合物、(C)成分の光重合開始剤及び(D)溶剤を含有し、且つ、所望により(E)成分の液晶モノマー、(F)成分の界面活性剤を含有する組成物である。
以下、各成分の詳細を説明する。
【0011】
<(A)成分>
本発明の(A)成分は、末端に不飽和結合を有する側鎖を持ち、且つ、ポリスチレン換
算数平均分子量が2,000乃至30,000であるアクリル重合体である。より詳細には、該側鎖とは、末端に不飽和二重結合を有する側鎖であり、さらに詳細には、炭素原子数が3乃至16であって末端に不飽和二重結合を有する側鎖(以下、特定側鎖と称す。)を指す。
(A)成分のアクリル重合体は、斯かる構造を有するアクリル重合体であればよく、アクリル重合体を構成する高分子の主鎖の骨格及び側鎖の種類などについて特に限定されない。
【0012】
然しながら、(A)成分のアクリル重合体は、数平均分子量が30,000を超えて過大なものであると、段差の平坦化性が低下する一方、数平均分子量が2,000未満で過小なものであると、熱硬化時に硬化不足になり溶剤耐性が低下する場合がある。従って、数平均分子量が2,000乃至30,000の範囲内にあるものである。
またより好ましくは、上記特定側鎖に含まれる不飽和二重結合1mol当量当り、(A)成分のアクリル重合体200乃至1,300g当量であることが望ましい。
【0013】
上述のように、(A)成分の特定側鎖は、炭素原子数が3乃至16であって、末端に不飽和二重結合を有するものであれば特に限定されない。中でも式(1)のように表される特定側鎖が好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)中、R1は、炭素原子数が1乃至14であり、脂肪族基、環式構造を含む脂肪
族基及び芳香族基からなる群から選ばれる有機基又はそれらの群から選ばれる複数の有機基の組み合わせからなる有機基である。そして、R1には、エステル結合、エーテル結合
、アミド結合、ウレタン結合等の結合を含んでいても良い。
【0016】
1の具体例を挙げると、下記式(A−1)乃至式(A−10)等が挙げられる。
【0017】
【化2】

【0018】
前記式(1)で表される特定側鎖の中でも、末端がアクリロイル基又はメタクリロイル基である特定側鎖が好ましい。
より好ましくは、前記式(1)で表される特定側鎖の中でも、特に、脂肪族の側鎖である特定側鎖が好ましい。
またさらに好ましくは、前記式(1)で表される特定側鎖に含まれる不飽和二重結合は、(A)成分のアクリル重合体200乃至1,300g当量に対して1mol当量含まれることが望ましい。
【0019】
上記のような特定側鎖を有するアクリル重合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、あらかじめラジカル重合等の重合方法によって、特定官能基を有するアクリル重合体を生成し、その特定官能基と、末端に不飽和結合を有する化合物(以下、特定化合物と称す。)とを反応させることによって特定側鎖を生成して、(A)成分であるアクリル重合体とすることができる。
【0020】
ここで、前記特定官能基とは、カルボキシル基、グリシジル基、ヒドロキシ基、活性水素を有するアミノ基、フェノール性ヒドロキシ基、イソシアネート基等からなる群から選
ばれる一種又は複数種の官能基を意味する。
また、前記特定化合物としては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、イソシアナートエチルメタクリレート、イソシアナートエチルアクリレート、メタクリル酸クロリド、アクリル酸クロリド、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられる。
【0021】
このようにして得られるアクリル重合体の中で、好ましい特定側鎖を有するアクリル重合体は、式(2)で表される構造を有するアクリル重合体である。
【0022】
【化3】

【0023】
(式(2)中、R1は前述の式(1)にて定義したように炭素原子数が1乃至14であり
、脂肪族基、環式構造を含む脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる有機基又はそれらの群から選ばれる複数の有機基の組み合わせからなる有機基である。そして、R1
は、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合等の結合を含んでいても良い。R2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0024】
上記の特定官能基を有するアクリル重合体は、特定化合物と反応するための官能基(特定官能基)を有するモノマー、すなわち、カルボキシル基、グリシジル基、ヒドロキシ基、活性水素を有するアミノ基、フェノール性ヒドロキシ基又はイソシアネート基等を有するモノマーから選ばれるモノマーを必須の構成成分として得られる共重合体であって、その数平均分子量が2,000乃至25,000のものである。その際、特定官能基を有するモノマーは、単独でも良いし、重合中に反応しない組み合わせであれば複数種を併用しても良い。
以下に、特定官能基を有するアクリル重合体を得るために必要な、特定官能基を有するモノマーの具体例を挙げるがこれらに限定されるものではない。
【0025】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、モノ−(2−(アクリロイルオキシ)エチル)フタレート、モノ−(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)フタレート、N−(カルボキシフェニル)マレイミド、N−(カルボキシフェニル)メタクリルアミド、N−(カルボキシフェニル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0026】
グリシジル基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、3−エテニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,7−オクタジエンモノエポキサイド、等が挙げられる。
【0027】
ヒドロキシ基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート
、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、カプロラクトン2−(アクリロイルオキシ)エチルエステル、カプロラクトン2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルメタクリレート、5−アクリロイルオキシ−6−ヒドロキシノルボルネン−2−カルボキシリック−6−ラクトン、5−メタクリロイルオキシ−6−ヒドロキシノルボルネン−2−カルボキシリック−6−ラクトン等が挙げられる。
【0028】
活性水素を有するアミノ基を有するモノマーとしては、2−アミノエチルアクリレート、2−アミノメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0029】
フェノール性ヒドロキシ基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシスチレン、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。
【0030】
さらに、イソシアネート基を有するモノマーとしては、例えば、アクリロイルエチルイソシアネート、メタクリロイルエチルイソシアネート、m−テトラメチルキシレンイソシアネート、等が挙げられる。
【0031】
また、本発明においては、特定官能基を有するアクリル重合体を得る際に、特定官能基を有するモノマーと共重合可能な、非反応性官能基を有するモノマーを併用することができる。
非反応性官能基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、ビニル化合物、スチレン化合物、マレイミド化合物、アクリロニトリル及びマレイン酸無水物等が挙げられる。
以下、上記モノマーの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
前記アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、ナフチルアクリレート、アントリルアクリレート、アントリルメチルアクリレート、フェニルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、2−メチル−2−アダマンチルアクリレート、2−プロピル−2−アダマンチルアクリレート、8−メチル−8−トリシクロデシルアクリレート、及び、8−エチル−8−トリシクロデシルアクリレート等が挙げられる。
【0033】
前記メタクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、アントリルメタクリレート、アントリルメチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、3−メトキシブチルメタクリレート、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート、γ−ブチロラクトンメタクリレート、2−プロピル−2−アダマンチルメタクリレート、8−メチル−8−トリシ
クロデシルメタクリレート、及び、8−エチル−8−トリシクロデシルメタクリレート等が挙げられる。
【0034】
前記ビニル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、及び、プロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
前記スチレン化合物としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
【0036】
前記マレイミド化合物としては、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、及びN−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0037】
本発明に用いる特定官能基を有するアクリル重合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、特定官能基を有するモノマー、それ以外の共重合可能な非反応性官能基を有するモノマー及び所望により重合開始剤等を共存させた溶剤中において、50乃至110℃の温度下で重合反応させることにより得られる。その際、用いられる溶剤は、特定官能基を有するアクリル重合体を構成するモノマー及び特定官能基を有するアクリル重合体を溶解するものであれば特に限定されない。具体例としては、後述する(C)溶剤に記載する溶剤が挙げられる。
このようにして得られる特定官能基を有するアクリル重合体は、通常、溶剤に溶解した溶液の状態である。
【0038】
次いで、得られた特定官能基を有するアクリル重合体に特定化合物を反応させて、(A)成分であるアクリル重合体(以下、特定共重合体と称す。)を得ることができる。その際、通常は、特定官能基を有するアクリル重合体の溶液を用いる。
具体的には、例えば、カルボキシル基を有するアクリル重合体の溶液に、グリシジルメタクリレートをベンジルトリエチルアンモニウムクロリド等の触媒存在下、80℃乃至150℃の温度で反応させることにより、特定共重合体を得ることができる。その際、用いられる溶剤は、特定共重合体を構成するモノマー及び特定共重合体を溶解するものであれば特に限定されない。具体例としては、後述する(C)溶剤に記載する溶剤が挙げられる。
このようにして得られる特定共重合体は、通常、この特定共重合体が溶剤に溶解した溶液の状態である。
【0039】
また、上記のようにして得られた特定共重合体の溶液を、ジエチルエーテルや水等の撹拌下に投入して再沈殿させ、生成した沈殿物を濾過・洗浄した後、常圧又は減圧下で、常温あるいは加熱乾燥することで、特定共重合体の粉体とすることができる。このような操作により、特定共重合体と共存する重合開始剤や未反応モノマーを除去することができ、その結果、精製した特定共重合体の粉体を得られる。一度の操作で充分に精製できない場合は、得られた粉体を溶剤に再溶解して、上記の操作を繰り返し行えば良い。
本発明においては、上記特定共重合体の粉体をそのまま用いても良く、あるいはその粉体を、たとえば後述する(C)溶剤に再溶解して溶液の状態として用いても良い。
また、本発明においては、(A)成分のアクリル重合体は、複数種の特定共重合体の混合物であってもよい。
【0040】
<(B)成分>
本発明の(B)成分であるビスマレイミド化合物は下記の式(3)で示される。
【0041】
【化4】

【0042】
式中、R3は、脂肪族基、環式構造を含む脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれ
る有機基又はそれらの群から選ばれる複数の有機基の組み合わせからなる有機基である。そして、R3には、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合等の結合を
含んでいても良い。
【0043】
このようなビスマレイミド化合物としては、例えば、N,N’−3,3−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(3,3−ジエチル−5,5−ジメチル)−4,4−ジフェニル−メタンビスマレイミド、N,N’−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3−ジフェニルスルホンビスマレイミド、4,4−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N’−p−ベンゾフェノンビスマレイミド、N,N’−ジフェニルエタンビスマレイミド、N,N’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−(メチレンジ−ジテトラヒドロフェニル)ビスマレイミド、N,N’−(3−エチル)−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(3、3−ジメチル)−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(3,3−ジエチル)−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(3,3−ジクロロ)−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−イソホロンビスマレイミド、N,N’−トリジンビスマレイミド、N,N’−ジフェニルプロパンビスマレイミド、N,N’−ナフタレンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−5−メトキシ−1,3−フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−プロピル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メトキシ−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、1,1−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)エタン、1,1−ビス(3−メチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)エタン、1,1−ビス(3−クロロ−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)エタン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)エタン、3,3−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)ペンタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、N,N’−エチレンジマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−ドデカメチレンビスマレイミド、N,N’−m−キシレンビスマレイミド、N,N’−p−キシレンビスマレイミド、N,N’−1,3−ビスメチレンシクロヘキサンビスマレイミド、N,N’−2,4−トリレンビスマレイミド、N,N’−2,6−トリレンビスマレイミド、等が挙げられる。これらのビスマレイミド化合物は特に上記のものに限定されるものではない
。これらは、単独又は2種以上の成分を併用することが可能である。
【0044】
これらのビスマレイミドのうち2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、N,N’−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(3,3−ジエチル−5,5−ジメチル)−4,4−ジフェニル−メタンビスマレイミド等の芳香族ビスマレイミドが良好な配向性を示す点から好ましい。
【0045】
また、これらの芳香族ビスマレイミドのうちより高い平坦化性を得るためには分子量1000以下のものが好ましい。
【0046】
本発明において(B)成分のビスマレイミド化合物の使用割合は、(A)成分のアクリル重合体100質量部に対して10乃至200質量部であることが好ましく、より好ましくは20乃至150質量部であり、特に好ましくは50乃至130質量部である。この割合が過小である場合には、平坦化性が低下し、過大である場合には硬化膜の透過率が低下したり塗膜が荒れたりすることがある。
【0047】
<(C)成分>
本発明の(C)成分である光重合開始剤は、位相差材の光硬化時に使用する光源に吸収をもつものであれば特に限定されるものではない。
【0048】
このような光重合開始剤としては、たとえばベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、トリアジン系化合物、α−ジケトン系化合物、多核キノン系化合物、キサントン系化合物、ジアゾ系化合物、ビイミダゾール系化合物、アセトフェノン系化合物等を挙げることができる。
【0049】
前記ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0050】
前記ベンゾイン系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチル−2−ベンゾイルベンゾエート等を挙げることができる。
【0051】
前記トリアジン系化合物としては、例えば、2−(2−フリルエチリデン)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2−ブロモ−4−メチルフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2−チオフェニルエチリデン)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等を挙げることができる。
【0052】
前記α−ジケトン系化合物としては、例えば、ジアセチル、ジベンゾイル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることができる。
【0053】
前記多核キノン系化合物としては、例えば、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1,4−ナフトキノン等を挙げることができる。
【0054】
前記キサントン系化合物としては、例えば、キサントン、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等を挙げることができる。
【0055】
前記ジアゾ系化合物としては、例えば、4−ジアゾジフェニルアミン、4−ジアゾ−4’−メトキシジフェニルアミン、4−ジアゾ−3−メトキシジフェニルアミン等を挙げることができる。
【0056】
前記ビイミダゾール系化合物の具体例としては、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0057】
前記アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−i−プロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノ−1−プロパン−1−オン、1−(4−モルフォリノフェニル)−2−ベンジル−2−ジメチルアミノブタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4−アジドアセトフェノン、4−アジドベンザルアセトフェノン等を挙げることができる。
【0058】
さらに、前記以外の光重合開始剤として、4−アジドベンズアルデヒド、アジドピレン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、N−フェニルチオアクリドン、トリフェニルピリリウムパークロレート等を使用することもできる。
【0059】
このような光重合開始剤の製品の具体例としては、IRGACURE−184、同369、同500、同651、同784、同907、同1700、同819、同1300、同2959、同4265、同1800、同1850、Darocur−1173、同1116、同2959、同1664、同4043(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、KAYACURE−DETX、同MBP、同DMBI、同EPA、同OA(以上、日本化薬(株)製)、VICURE−10、同55(以上、STAUFFER Co LTD製)、ESACURE KIP150、同TZT、同1001、同KTO46、同KB1、同KL200、同KS300、同EB3、トリアジン−PMS、トリアジンA、トリアジンB(以上、日本シイベルヘグナー(株)製)、アデカオプトマ−N−1717、同N−1414、同N−1606((株)ADEKA(旧旭電化工業(株))製)等が挙げられる。
【0060】
本発明において(C)成分の光重合開始剤の使用割合は、(A)成分のアクリル重合体100質量部に対して0.5乃至30質量部であることが好ましく、より好ましくは10乃至20質量部であり、特に好ましくは3乃至15質量部である。この割合が過小である場合には、配向性が低下し、過大である場合には硬化膜の透過率が低下したり塗膜が荒れたりすることがある。
【0061】
<(D)溶剤>
本発明に用いる(D)溶剤は、(A)成分乃至(C)成分を溶解し、且つ所望により添
加される後述の(E)成分、(F)成分などを溶解するものであり、斯様な溶解能を有する溶剤であれば、その種類及び構造などは特に限定されるものでない。
【0062】
斯様な(D)溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、2−ペンタノン、2−ヘプタノン、γ−ブチロラクトン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等が挙げられる。
これらの溶剤は、一種単独で、又は二種以上の組合せで使用することができる。
【0063】
<(E)成分>
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物にあっては、その配向を向上させるという目的で、本発明の効果を損なわない限りにおいて、更に(E)成分として、液晶モノマーを含有することができる。
【0064】
上記液晶モノマーとしては、ネマチック性、コレステリック性またはスメクチック性の液晶配向を示す各種骨格を有し、かつ末端に、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等の不飽和二重結合やエポキシ基等の重合性官能基を少なくとも1つ有する液晶性化合物である、各種慣用の液晶モノマーを何れも用いることができる。
これらのうち、現在数多く使用されているネマチック液晶性モノマーが好適に用いられる。ネマチック液晶性モノマーとしては、たとえば重合性官能基として、アクリロイル基、メタクリロイル基を有し、これに環状単位等からなるメソゲン基を有するものを挙げることができる。メソゲン基となる前記環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、アゾキシベンゼン系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等があげられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。前記メソゲン基は屈曲性を付与するスペーサ部を介して結合していてもよい。スペーサ部としては、ポリメチレン鎖、ポリオキシメチレン鎖等があげられる。スペーサ部を形成する構造単位の繰り返し数は、メソゲン部の化学構造により適宜に決定されるがポリメチレン鎖の繰り返し単位は0乃至20、好ましくは2乃至12、ポリオキシメチレン鎖の繰り返し単位は0乃至10、好ましくは1乃至3である。
【0065】
(E)成分として特に好ましい液晶モノマーは、下記式で表される化合物である。
【0066】
【化5】

【0067】
式中、R4は重合性基が結合した脂肪族基又は環式脂肪族基が、直接、エーテル結合又
はエステル結合等の結合を介し連結したものである。そして、nは1乃至5の整数を表す。
【0068】
4の具体例を挙げると、下記式[B−1]乃至[B−12]で表される基等が挙げら
れる。
【0069】
【化6】

【0070】
上記式(4)で表される液晶モノマーのうち、特にR4が[B−1]又は[B−7]で
表される基である液晶モノマーが好ましい。
【0071】
このような液晶モノマーの使用割合は、(A)成分のアクリル重合体100質量部に対して0.5乃至20質量部であることが好ましく、より好ましくは1乃至10質量部であり、特に好ましくは2乃至8質量部である。この割合が過小である場合には、配向性が低下し、過大である場合には耐溶剤性が低下する場合がある。
【0072】
<(F)成分>
(F)成分は、界面活性剤である。本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物にあっては、その塗布性を向上させるという目的で、本発明の効果を損なわない限りにおいて、更に界面活性剤を含有することができる。
【0073】
(F)成分の界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが挙げられ、特にフッ素系界面活性剤を用いることが好ましい。この種の界面活性剤としては、例えば、住友スリーエム(株)製、大日本インキ化学工業(株)製或いは旭硝子(株)製等の市販品を用いることができる。これら市販品は、容易に入手することができるので、好都合である。その具体的な例としては、エフトップEF301、EF303、EF352((株)ジェムコ製)、メガファックR−30、R−08、BL−20、F171、F173(大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC430、FC431、FC−4432、FC−4430(住友スリーエム(株)製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。
これら(F)成分の界面活性剤は、一種単独で、又は二種以上の組合せで使用することができる。
【0074】
界面活性剤が使用される場合、その含有量は、液晶配向層形成用樹脂組成物100質量%中に通常1質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。(D)成分の界面活性剤の使用量が1質量%を超える量に設定されても、上記塗布性の改良効果は鈍くなり、経済的でなくなる。
【0075】
<その他添加剤>
更に、本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて、レオロジー調整剤、シランカップリング剤等の接着補助剤、顔料、染料、保存安定剤、消泡剤、又は多価フェノール、多価カルボン酸等の溶解促進剤等を含有することができる。
【0076】
<液晶配向層形成用樹脂組成物>
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物は、(A)成分のアクリル重合体、(B)成分のビスマレイミド化合物、(C)成分の光重合開始剤及び(D)溶剤を含有し、それぞれ所望により、(E)成分の液晶モノマー、(F)成分の界面活性剤、及びその他添加剤のうち一種以上を更に含有することができる組成物である。
【0077】
中でも、本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物の好ましい例は、以下のとおりである。[1]:(A)成分100質量部に基づいて、10乃至200質量部の(B)成分、0.5乃至30質量部の(C)成分を含有し、それらが(D)溶剤に溶解した液晶配向層形成用樹脂組成物。
[2]:上記[1]の組成物において、更に、(A)成分の100質量部に対して0.5乃至20質量部の(E)成分を含有する液晶配向層形成用樹脂組成物。
【0078】
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物における固形分の割合は、各成分が均一に溶剤に
溶解している限り、特に限定されるものではないが、例えば1乃至80質量%であり、また例えば5乃至60質量%であり、又は10乃至50質量%である。ここで、固形分とは、液晶配向層形成用樹脂組成物の全成分から(D)溶剤を除いたものをいう。
【0079】
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物の調製方法は、特に限定されないが、その調製法としては、例えば、(A)成分を(D)溶剤に溶解し、この溶液に(B)成分及び(C)成分、所望により(E)成分、(F)成分を所定の割合で混合し、均一な溶液とする方法、或いは、この調製法の適当な段階において、必要に応じてその他添加剤を更に添加して混合する方法が挙げられる。
【0080】
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物の調製にあたっては、(D)溶剤中における重合反応によって得られる特定共重合体の溶液をそのまま使用することができ、この場合、この(A)成分の溶液に前記と同様に(B)成分、(C)成分、(E)成分、(F)成分などを入れて均一な溶液とする際に、濃度調整を目的としてさらに(D)溶剤を追加投入してもよい。このとき、特定共重合体の形成過程で用いられる(D)溶剤と、液晶配向層形成用樹脂組成物の調製時に濃度調整のために用いられる(D)溶剤とは同一であってもよいし、異なってもよい。
【0081】
而して、調製された液晶配向層形成用樹脂組成物の溶液は、孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて濾過した後、使用することが好ましい。
【0082】
<塗膜、硬化膜及び液晶配向層>
本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物を基板(例えば、シリコン/二酸化シリコン被覆基板、シリコンナイトライド基板、金属、例えば、アルミニウム、モリブデン、クロムなどが被覆された基板、ガラス基板、石英基板、ITO基板等)の上に、回転塗布、流し塗布、ロール塗布、スリット塗布、スリットに続いた回転塗布、インクジェット塗布、印刷などによって塗布し、その後、ホットプレート又はオーブン等で予備乾燥(プリベーク)することにより、塗膜を形成することができる。その後、この塗膜を加熱処理することにより、液晶配向層形成用樹脂膜が形成される。
【0083】
この加熱処理の条件としては、例えば、温度70℃乃至160℃、時間0.3乃至60分間の範囲の中から適宜選択された加熱温度及び加熱時間が採用される。加熱温度及び加熱時間は、好ましくは80℃乃至140℃、0.5乃至10分間である。
【0084】
また、液晶配向層形成用樹脂組成物から形成される液晶配向層形成用樹脂膜の膜厚は、例えば0.1乃至30μmであり、また例えば0.2乃至10μmであり、更に例えば0.2乃至5μmであり、使用する基板の段差や光学的、電気的性質を考慮し適宜選択することができる。
【0085】
ポストベークとしては、一般に、温度140℃乃至250℃の範囲の中から選択された加熱温度にて、ホットプレート上の場合には5乃至30分間、オーブン中の場合には30乃至90分間処理するという方法が採られる。
【0086】
以上のように、本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物により、基板の段差を充分に平坦化でき、高透明性を有する硬化膜を形成することができる。
【0087】
このようにして形成した硬化膜はラビング処理を行うことで液晶材配向層として機能させることができる。
ラビング処理の条件としては、一般に回転速度300乃至1000rpm、送り速度3乃至20mm/秒、押し込み量0.1乃至1mmという条件が用いられる。
その後、純水等を用いて超音波洗浄によりラビングにより生じた残渣が除去される。
【0088】
このようにして形成された液晶配向層上に、位相差材料を塗布した後、位相差材料を液晶状態として光硬化させ、光学異方性を有する層を形成することができる。
位相差材料としては、例えば、重合性基を有する液晶モノマーやそれを含有する組成物等が用いられる。
【0089】
そして、液晶配向層を形成する基材がフィルムである場合は、光学異方性フィルムとして有用である。
【0090】
また、上記のようにして形成された液晶配向層を有する2枚の基板を、液晶配向層が向かい合うように張り合わせた後、それらの基板の間に、液晶を注入して、液晶が配向した液晶表示素子とすることができる。
【0091】
そのため、本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物は、各種光学異方性フィルム、液晶表示素子に好適に用いることができる。
【0092】
また、本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物は高い平坦化性を有するため、薄膜トランジスタ(TFT)型液晶表示素子、有機EL素子等の各種ディスプレイにおける保護膜、平坦化膜、絶縁膜等の硬化膜を形成する材料としても有用であり、特に、カラーフィルタのオーバーコート材、TFT型液晶素子の層間絶縁膜、有機EL素子の絶縁膜等を形成する材料としても好適である。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【0094】
[実施例で用いる略記号]
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
MAA:メタクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
CHMI:N−シクロヘキシルマレイミド
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
BTEAC:ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
NMP:N−メチルピロリドン
DPHA:日本化薬(株)製 KAYARAD DPHA(商品名)
BMI1:2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン
NCO1:デグサジャパン(株)製VESTAGON(登録商標)B1065(商品名)IRG:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製 Irgacure369(商品名)(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)
LCM1:4−(4’−シアノフェニル)フェニルアクリレート
LCM2:6−[4−(4’−シアノフェニル)フェノキシ]ヘキシルアクリレート
CBDA:シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
DA3:2,2−ビス(4−フェニル)プロパン
R30:大日本インキ化学工業(株)製 メガファック R−30(商品名)
【0095】
[数平均分子量及び重量平均分子量の測定]
以下の合成例に従い得られる特定共重合体及び共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、日本分光(株)製GPC装置(Shodex(登録商標)カラムKF803L及びKF804L)を用い、溶出溶媒テトラヒドロフランを流量1ml/分でカラム中に(カラム温度40℃)流して溶離させるという条件で測定した。なお、下記の数平均分子量(以下、Mnと称す。)及び重量平均分子量(以下、Mwと称す。)は、ポリスチレン換算値にて表される。
【0096】
以下の合成例に従い得られるポリイミド前駆体(比較例)の数平均分子量及び重量平均分子量は、日本分光(株)製GPC装置(Shodex(登録商標)カラムKD802、KD−803及びKD805)を用い、溶出溶媒N,N−ジメチルホルムアミドを流量1ml/分でカラム中に(カラム温度55℃)流して溶離させるという条件で測定した。なお、下記の数平均分子量(以下、Mnと称す。)及び重量平均分子量(以下、Mwと称す。)は、ポリエチレンオキサイド換算値にて表される。
【0097】
<合成例1>
アクリル重合体を構成するモノマー成分として、MAA 40.0g、MMA 40.0gを使用し、ラジカル重合開始剤としてAIBN 2gを使用し、これらを溶剤PGMEA 120g中において重合反応させることにより、Mn4,100、Mw7,600であるアクリル重合体溶液(アクリル重合体濃度:40質量%)を得た(P1)。なお重合温度は60℃乃至100℃に調整した。
【0098】
<合成例2>
合成例1で得たアクリル重合体溶液(P1) 200gにGMA 26.0g、BTEAC 1.1g、PGMEA 39gを加え、90乃至120℃にて反応させることにより、(A)成分の溶液であるMn7,200、Mw13,200の特定共重合体溶液1(特定共重合体濃度:40質量%)を得た(P2)。
【0099】
<合成例3>
合成例1で得たアクリル重合体溶液(P1) 200gにグリシジルメタクリレート 26.0g、n−ドデシルグリシジルエーテル 10g、BTEAC 1.1g、PGMEA 54gを加え、90乃至120℃にて反応させることにより、(A)成分の溶液であるMn8,700、Mw14,900の特定共重合体溶液2(特定共重合体濃度:40質量%)を得た(P3)。
【0100】
<合成例4>
CBDA 8.83g、DA3 17.9gをNMP 80.2g中にて23℃で24時間反応させることにより、ポリイミド前駆体溶液(濃度:25.0質量%)を得た(P4)。得られたポリイミド前駆体のMnは20,000、Mwは42,000であった。
【0101】
<合成例5>
モノマー成分として、CHMI 40.0g、HEMA 60.0gを使用し、ラジカル重合開始剤としてAIBN 5gを使用し、これらを溶剤PGMEA 200g中において温度60℃乃至100℃で重合反応させることにより、Mn6,200、Mw10,200である共重合体溶液(共重合体濃度:37.5質量%)を得た(P5)。
【0102】
<実施例1乃至5及び比較例1乃至4>
次の表1に示す組成に従い、(A)成分の溶液に、(B)成分、(C)成分及び(D)溶剤、更に(E)成分、(F)成分を所定の割合で混合し、室温で3時間撹拌して均一な溶液とすることにより、各実施例及び各比較例の液晶配向層形成用樹脂組成物を調製した

【0103】


【表1】

【0104】
実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例5の各組成物について、それぞれ、塗膜形成性、平坦化性、NMP耐性、透過率並びに配向性の評価を行った。
【0105】
[塗膜形成性の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例5の液晶配向層形成用樹脂組成物をスピンコーターを用いてシリコンウェハに塗布した後、温度110℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い、膜厚2.5μmの塗膜を形成した。塗膜ができない場合やタックが入る場合を×、正常な塗膜が形成される場合を○として評価した。
【0106】
[平坦化性の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例5の液晶配向層形成用樹脂組成物を高さ0.5μm、ライン幅50μm、ライン間スペース120μmの段差基板(ガラス製)上にスピンコーターを用いて塗布した後、温度110℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い、膜厚2.5μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この塗膜を温度230℃で30分間加熱することによりポストベークを行い、膜厚2.1μmの硬化膜を形成した。
段差基板ライン上の塗膜とスペース上の塗膜の膜厚差を測定し、平坦化率=100×{1−(塗膜の膜厚差(μm))/(段差基板の高さ(0.5μm))}の式を用いて平坦化率を求めた。
【0107】
[NMP耐性の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例5の液晶配向層形成用樹脂組成物をシリコンウェハにスピンコーターを用いて塗布した後、温度110℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い、膜厚2.5μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この塗膜を温度230℃で30分間ホットプレート上においてポストベークを行い、膜厚2.2μmの硬化膜を形成した。
この硬化膜をNMP中に60秒間浸漬させた後、100℃にて60秒間乾燥し、膜厚を測定した。NMP浸漬後の膜厚変化がないものを○、浸漬後に膜厚の減少が見られたものを×とした。
【0108】
[高温焼成後の光透過率(透明性)の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例5の液晶配向層形成用性樹脂組成物を石英基板上にスピンコーターを用いて塗布した後、温度110℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い膜厚2.5μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この塗膜を温度230℃で30分間ホットプレート上においてポストベークを行い硬化膜を形成した。
この硬化膜を紫外線可視分光光度計((株)島津製作所製SHIMADSU UV−2550型番)を用いて波長400nm時の透過率を測定した。
なお、高温焼成後の光透過率において、液晶配向膜としての要求性能は80%以上である。
【0109】
[配向性の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例5の液晶配向層形成用樹脂組成物をITO基板上にスピンコーターを用いて塗布した後、温度110℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い膜厚2.3μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この膜を温度230℃で30分間ホットプレート上においてポストベークを行い硬化膜を形成した。
この硬化膜を回転速度700rpm、送り速度10mm/秒、押し込み量0.45mmでラビング処理した。ラビング処理した基板を純水で5分間超音波洗浄した。この基板上に液晶モノマーからなる位相差材料をスピンコーターを用いて塗布した後、100℃で40秒間、55℃で30秒間ホットプレート上においてプリベークを行い膜厚1.1μmの塗膜を形成した。この基板を窒素雰囲気下2,000mJで露光した。作製した基板を偏向板に挟み、配向性を目視にて確認した。基板を45度に傾けた時と傾けない時で光の透過性が著しく変化するものを◎、変化するものを○、変化しないものを×とした。
【0110】
[評価の結果]
以上の評価を行った結果を、次の表2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
実施例1乃至5は、塗膜形成性が良好で、得られた塗膜が90%前後の高い平坦化性を有し、NMPに対し耐性が見られた。またいずれも、配向性に優れ、液晶モノマーを配合した実施例3及び4において特に配向性に優れるとする結果を得た。さらに、高温焼成後も液晶配向膜として要求される80%以上の光透過率(透明性)を達成した。
一方、比較例1はプリベーク時、塗膜にタックが入り、硬化膜のNMP耐性も低かった。比較例2及び比較例5はNMP耐性が見られたものの平坦化性が低く、配向性にも劣るとする結果が得られた。比較例3は均一な塗膜を得ることができず、特性の評価に至らなかった。比較例4は良好な配向性を示したものの透明性、平坦化性は低かった。
【0113】
以上のように、本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物によると、従来品の優れた性能(光透過性)を維持した上で、平坦化性及び配向性において実用面で際立った改良となる結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明による液晶配向層形成用樹脂組成物は、光学異方性フィルムや液晶表示素子の液晶配向層として非常に有用であり、更に、薄膜トランジスタ(TFT)型液晶表示素子、有機EL素子等の各種ディスプレイにおける保護膜、平坦化膜、絶縁膜等の硬化膜を形成する材料、特に、TFT型液晶素子の層間絶縁膜、カラーフィルタの保護膜、有機EL素子の絶縁膜等を形成する材料としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】従来技術による液晶配向膜(a)と本発明の液晶配向層形成用樹脂組成物を用いた液晶配向膜(b)とを対比して示すモデル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分及び(C)成分及び(D)溶剤を含有する液晶配向層形成用樹脂組成物。
(A)成分:末端に不飽和結合を有する側鎖を持ち、数平均分子量が2,000乃至30,000であるアクリル重合体、
(B)成分:ビスマレイミド化合物、
(C)成分:光重合開始剤
(D)溶剤。
【請求項2】
(A)成分が、末端に不飽和二重結合を有する側鎖を持つアクリル重合体である、請求項1に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分が、末端にアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する側鎖を持つアクリル重合体である、請求項1又は請求項2に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分が、脂肪族の側鎖を持つアクリル重合体である、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
【請求項5】
(E)成分として更に液晶モノマーを含有する請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちのいずれか一項に記載の液晶配向層形成用樹脂組成物を用いて得られる液晶配向層。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向層を有する光学フィルム。
【請求項8】
請求項6に記載の液晶配向層を有する液晶表示素子。


【図1】
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【公開番号】特開2008−116809(P2008−116809A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301547(P2006−301547)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】