説明

液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】低コストで高精度な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】略等ピッチの凹凸を設けた原版11の表面に、流路部材12となる材料を成膜し、一旦原版11から薄膜として形成された流路部材12を剥離する。次に梁部材14と流路部材12とを接着剤あるいは圧着により密着接合し、流路13をシールする。さらに中間保持部材を剥離する。次に例えばブレード44で梁部材14を流路方向に切断し、梁部材14をノズルごとに分離し、ドットごとのインク滴吐出が行えるように、流路ごとに独立してアクチュエータによる動作を可能にする。さらにレーザ42などでスキャン加工を行い、流路ごとに分離された流路部材12にノズルを形成する。これにより、流路13を一括形成できるため、高精度な位置合わせ作業を必要とせず低コスト化が可能であり、また流路壁や隣接隙間を薄くできるため、ノズルを高密度化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドの製造方法に関し、特に走査幅方向に解像度と同ピッチで多数のノズルを配置した液滴吐出ヘッドおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販されている水性インクジェットプリンターは、概ね粘度5cps前後、高々10cpsオーダの染料インクや顔料インクを採用している。媒体に着弾した際のインク滲み防止や、光学的な色濃度アップ、含水量低減による媒体の膨潤抑制/短時間乾燥、あるいは、そうした高品質インクをトータル設計するに当たり自由度が大きくとれる等の理由から、インク粘度を増加することによってプリント性能は向上できることが知られている。
【0003】
反面、高粘度インクを吐出するには、高出力な圧力発生機構が必要であり、コストやヘッドサイズ増加等の弊害を招く。従来からイジェクターにヒーターを別途設け、吐出時のインク粘度を強制的に下げる技術は公知である(例えば、特許文献1参照)が、インクを加熱する上記の方法はインク劣化や流路のダメージを早める根本課題があり、また使用できるインクも熱による劣化のないものに制限される。
【0004】
このほか、インク吐出する際の逆方向へのインク流を梁状の弁によって抑制し、より高粘度なインクを吐出する技術(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0005】
大変形が得られる座屈曲がりを利用し、圧力発生機構自体をパワーアップする方法として、発熱体層との熱膨張差で変形するダイヤフラム状アクチュエータを使用した技術(例えば、特許文献3参照)、また、同様の構成で片持ち梁状のアクチュエータを使用した技術(例えば、特許文献4参照)が開示されている。しかしながら、上記の従来技術でも、粘度10cpsを大きく上回る50〜100cpsのような高粘度インクを、常温において安定吐出することは極めて困難である。
【0006】
これに対して本願発明者らは、梁に圧縮と回転運動を与え、座屈曲げ方向が反転する際の急峻な上下運動を利用して、ノズルから高粘度インク滴を所望の方向に慣性離脱させるインクジェットヘッドの構成を既に提案している(例えば、特願2004−322344号)。
【0007】
先の出願においてこのヘッドは、アクチュエータを具備した梁とノズルとを有す細長中空チューブのインク流路を、多数本配列した構造をとる。しかし上記の構成においては、流路部材の形成に用いられる細長中空チューブの部品コストが高く、結果としてヘッド全体のコスト上昇の原因となる問題を含んでいる。さらに細長中空チューブを並べて加工する工法ではノズル間隔が高密度になるに従って正確に配列させることが困難となり、ノズルの高密度化を妨げるおそれがある。
【0008】
そこで本願発明者らはヘッドをより低コスト高密度に製造する方法として、細長中空チューブを利用しないヘッド構造・製造方法を考案した。
【0009】
具体的には、夫々のインク流路に対応した凹凸溝を有すマスター版の表面に、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂などから選ばれる膜を設けて凹凸溝状の膜を形成し、この膜を梁に反転接合した後、夫々のチャネル毎に分割してヘッドを製造する。チューブを多数本配列する方法に比べ、流路を一括形成できるため製造コストは軽減でき、また、流路の隔壁肉厚や隣接チャネルとの隙間を薄くでき、ノズル配列ピッチを小さくすることができるため、ヘッドを高密度化することができる。
【特許文献1】特開2003−220702号公報 (図1、第4頁〜第6頁)
【特許文献2】特開平9−327918号公報 (図1、第8頁〜第9頁)
【特許文献3】特開2003−118114号公報 (図3、第4頁〜第5頁)
【特許文献4】特開2003−34710号公報 (図13、第6頁〜第8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事実を考慮し、低コストで高精度な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出するノズルと、前記ノズルを含む液流路部材と、前記液流路部材と接合もしくは液流路部材を含む梁部材と、前記梁部材に接合して設けられ、前記梁部材を撓ませる第1駆動手段と、前記梁部材を液滴吐出方向に凹から凸となるように変形させる第2駆動手段と、を備え、前記第2駆動手段が前記梁部材を液滴吐出方向に凹から凸となるように変形させ、前記第1駆動手段が前記梁部材を撓ませることで、前記第2駆動手段により前記梁部材を座屈反転変形させ、前記ノズル近傍の液に吐出方向の慣性を与えることで前記ノズルより液滴として吐出させることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法であって、前記液流路部材は、略等ピッチの凹凸が設けられた膜と前記梁部材とを接合して製造することを特徴とする。
【0012】
上記構成の発明では、ノズルを含む液流路部材を、略等ピッチの凹凸が設けられた膜と梁部材とを接合して製造することにより、チューブを配列して形成する方法に比較して流路を一括形成できるため、低コスト化が可能であり流路壁や隣接隙間を薄くできるため、ノズルを高密度化できる。
【0013】
請求項2に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記膜は、前記液流路部材となる材料を略等ピッチの凹凸が設けられた原版の表面に噴射して前記原版の表面に設けられることを特徴とする。
【0014】
上記構成の発明では、流路を絞った複雑な供給孔は構造上不要なためチューブ状の流路と、共通の液プール部だけで簡略構成でき、噴霧法やスパッタ法など、液状や微粒子状の材料を噴射して原版の凹凸形状を転写する方法で流路を容易に製造できる。また供給路などによる流路内の段差が無く、液充填性・気泡排出性にも優れる。
【0015】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記膜は、液状の材料に略等ピッチの凹凸が設けられた原版をディップして前記原版の表面に設けられることを特徴とする。
【0016】
上記構成の発明では、流路を絞った複雑な供給孔は構造上不要なためチューブの状流路と、共通の液プール部だけで簡略構成でき、ディップ塗工法やメッキ法など、液体材料に浸漬漬することによって原版の凹凸形状を転写する方法で流路を容易に製造できる。また供給路などによる流路内の段差が無く、液充填性・気泡排出性にも優れる。
【0017】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記膜は、略等ピッチの凹凸溝が設けられた原版の表面に材料を押圧し、前記原版の凹凸形状を転写して形成されることを特徴とする。
【0018】
上記構成の発明では、流路を絞った複雑な供給孔は構造上不要なためチューブの状流路と、共通の液プール部だけで簡略構成でき、成形法やスタンプ法など、原版の凹凸形状を転写する方法で流路を容易に製造できる。また供給路などによる流路内の段差が無く、液充填性・気泡排出性にも優れる。
【0019】
請求項5に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記膜を形成する材料は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0020】
上記構成の発明では、コストが安く取り扱いの容易な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることで、液滴吐出ヘッド全体の低コスト化が可能である。
【0021】
請求項6に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記液流路部材と接合される前記梁部材の表面に、前記流路部材を形成する前記材料と同じ材料により形成された膜を予め設けたことを特徴とする。
【0022】
上記構成の発明では、梁部材の表面に流路部材を形成する材料と同じ材料の膜を設けることで、梁部材と流路部材との接合性を向上できる。
【0023】
請求項7に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、シート状の前記梁部材と前記膜とを接合した後、流路ごとに前記梁部材を切断分離して前記ノズルごとの液流路を形成することを特徴とする。
【0024】
上記構成の発明では、梁部材が予めノズルごとにチャネル分離されている場合は梁部材と流路部材で位置決め接合が必要になるのに対し、位置決め接合の必要がないので工程の省力化・高速化・低コスト化が可能となる。
【0025】
請求項8に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、略等ピッチの凹凸が設けられた原版の表面に設けられた前記膜と前記梁部材とを接合した後に、前記膜と前記原版とを剥離し分離することを特徴とする。
【0026】
上記構成の発明では、膜を先に剥離する場合は膜を支持する中間保持部材が必要になるのに対し、梁部材と接合した後に剥離するため梁部材が保持部材の役を果たし、中間保持部材の必要がないので工程の省力化・高速化・低コスト化が可能となる。
【0027】
請求項9に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法は、複数の前記液流路部材に連通した液プール部と前記液流路部材とを一括して一体に形成したことを特徴とする。
【0028】
上記構成の発明では、液滴吐出ヘッドにおける液の流路が流路部材と液プール部だけの簡略構成であるため一体形成が容易であり、また一括して一体形成にすることで、流路とプールの接続が不要となるので工程の省力化・高速化・低コスト化が可能かつ液滴吐出ヘッドの耐久性や信頼性も向上する。
【発明の効果】
【0029】
本発明は上記構成としたので、低コストで高精度な液滴吐出ヘッドの製造方法とすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
<装置全体>
図1には、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドが示されている。
【0031】
図1に示すようにインクジェット記録ヘッド10は、内部にインク流路13を備え先端にノズル16を備えた流路部材12と、流路部材12を支持する梁部材14とが接合され、両端を保持部材18が支持する構造となっている。
【0032】
梁部材14にはピエゾ素子30が接合され、さらにピエゾ素子30には信号電極32が形成され梁部材14、ピエゾ素子30、信号電極32でアクチュエータ36を構成している。梁部材14はピエゾ素子30の共通電極を兼ねており、梁部材14と信号電極32とでピエゾ素子30を挟む構造となっている。信号電極32の一方の端には電極パッド33が設けられ、配線34にて図示しないスイッチングICと接続されている。このスイッチングICからの信号によりピエゾ素子30は駆動され、梁部材14を撓ませる/撓ませないの制御が行われる。
【0033】
流路部材12は、インク吐出方向(図中上)および逆方向に撓み可能であり、インクプール24から供給されインク流路13を通ってノズル16まで達したインクを慣性によって吐出方向にインク滴として吐出する。
【0034】
ここで用いられるインクは前述のように、媒体に着弾した際のインク滲み防止や、光学的な色濃度アップ、含水量低減による媒体の膨潤抑制/短時間乾燥、あるいは、そうした高品質インクをトータル設計するに当たり自由度が大きくとれる等の理由から、インク粘度の極めて高い、具体的には粘度10cpsを大きく上回るような(例えば50〜100cps)高粘度インクである。
【0035】
保持部材18は回転エンコーダ20に設けられたアーム22に固定され、回転エンコーダ20の回転中心からアーム22の長さ分だけオフセットされた位置にて両側から押圧され、あるいは曲げ方向に力が加えられインク吐出方向あるいは逆方向に梁部材14と接合した流路部材12を撓ませる。
【0036】
保持部材18は図1(b)のように、保持部材18に複数の流路部材12が設けられた梯子状の構造であってもよい。
【0037】
以下に実際の動作について説明する。
【0038】
図2、図3には、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの動作が示されている。
【0039】
図2(b)のように流路部材12が予めインク吐出方向(図中上)に撓みを持たせた状態であり、吐出を指示する信号がスイッチングICより送られない場合はアクチュエータ36が駆動されず、図2(c)のように回転エンコーダ20を矢印方向に回動させると、図2(c)、図2(d)のように流路部材12はインク吐出方向に撓むのみであって、撓み量が最大となる図2(d)に至るまで流路部材12は常にインク吐出方向に凸であり続ける。
【0040】
すなわち図2(b)から図2(d)まで変位するまでの間に流路部材12内部のインクに吐出方向への十分な加速度が加わらないため、インク滴としてノズル16から吐出されることはない(拡大図(e))。
【0041】
さらに図2(d)で撓み量が最大となり回転エンコーダ20が停止したのち、逆回転して流路部材12を平坦にする(図2(a))ことで流路部材12は初期位置図2(b)へ復帰する。
【0042】
一方、図3(b)に示すように、吐出を指示する信号がスイッチングICより送られ、アクチュエータ36が駆動されることによって流路部材12がインク吐出方向に対して凹(図中下)に撓みを持たせるようにされた状態では、図3(c)のように回転エンコーダ20を正転(図中矢印方向)させると流路部材12は回転エンコーダ20に近い方、すなわち両端から次第に吐出方向(図中上)に凸へと撓み方向が変化する。
【0043】
この変化が両端から中央に近付くと、流路部材12(あるいは梁部材14)はある点で急峻な座屈反転を起こし、インク吐出方向(図中上)へと急激に変形する(図3(d)に中央部の変形を強調して記載)。
【0044】
流路部材12の先端にはノズル16が設けられているため、ノズル16まで達しているインクはこの座屈反転による流路部材12の吐出方向への変形に伴い、ノズル16からインク滴2として吐出される(拡大図(e))。
【0045】
さらに図3(d)で撓み量が最大となり回転エンコーダ20が停止したのち、逆回転して流路部材12を平坦にする(図3(a))ことで流路部材12は初期位置へ復帰し、インク吐出方向において上に撓みを持った状態(図2(b))に戻る。
【0046】
この座屈反転による変形の速度は通常のアクチュエータなどによる変位と比較すれば非常に大きなものであり、本発明に採用した高粘度インクであっても十分にインク滴2として吐出することが可能である。
<第1実施形態>
図4には、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドが示されている。
【0047】
図4(a)、(b)に示すようにインクジェット記録ヘッド10は、内部にインク流路13を備え先端にノズル16を備えた流路部材12と、流路部材12を支持する梁部材14とが接合され、両端を保持部材18が支持する構造となっている。
【0048】
流路部材12のノズル16近傍は例えば図4(c)のように先端が角度を持ってカットされ、インク滴吐出方向に向けて解放されている。
【0049】
本実施形態においては、上記の構造を備えた流路部材12の製造方法として、図5に示すように樹脂反転写によりチューブ状構造の流路部材12を形成する。
【0050】
図5(a)に示すように、予めエッチング方法によって凹凸状の溝を形成したガラス基板にフッ素系などの剥離層をコーティングし、この原版11の表面に、流路部材12となる材料を成膜する。ここではスプレー式の噴射機40より溶剤で希釈した液状のエポキシ樹脂材料を原版11の表面に複数回に分けて噴射、乾燥、硬化し、厚み10から20μmの薄膜を形成する。
【0051】
この方法以外にも、流路部材12となる材料を液状希釈することなく、微粒子状にして成膜するスパッタ法や蒸着法、本形態と同様に液状の樹脂材料を利用し、原版11をこの液体に浸漬して表面に膜を形成するディップ塗工法やメッキ法、予め薄膜状に形成した部材を型に押圧して凹凸形状に加工するスタンプ成型法のほか、モールド等の成型方法により加工してもよい。本実施形態では外幅約65μm、高さ(図5における凹凸の高さ)約60μmの四角形状に加工したが、流路13の断面形状は図5のように四角以外にもカマボコ型、台形、三角形など様々な形状が適用できる。
【0052】
次いで図5(b)のように一旦、原版11から薄膜として形成された流路部材12を剥離する。このとき図示しない中間保持部材を接合し、この中間保持部材ごと剥離することで薄膜状の流路部材12を確実に剥離・保持させておくことができる。また、中間保持部材の代わりに梁部材14を直接接合してもよい。
【0053】
次に図5(c)のように梁部材14と流路部材12とを接合する。流路部材12を接着剤あるいは圧着による接合にて梁部材14に密着接合し、流路13をシールする。ここでは、梁部材14の表面に予めエポキシ接着剤を塗布しておき、流路部材12を密着させた後、中間保持部材ごと加圧加熱して接合する。さらに図示しない中間保持部材を剥離する。
【0054】
次に図5(d)に示すように梁部材14をノズル16ごとに分離し、ドットごとのインク滴吐出が行えるようにする。例えばブレード44で梁部材14を流路方向に切断し、流路ごとに独立してアクチュエータ36による動作を可能にする。ここでは、20μm厚のダイシングブレードを用い、図示しないインクプールが損傷しないよう、図5における下側から切込む方式によって梁部材14を約85μmピッチで切断する。
【0055】
さらにレーザ42などでスキャン加工を行い、流路ごとに分離された流路部材12にノズル16を形成することで流路部材が形成される。
【0056】
本実施形態は上記の構成としたことにより、ノズル16を含む流路部材12を、略等ピッチの凹凸が設けられた膜と梁部材14とを接合して製造することで、チューブを配列して形成する方法に比較して流路13を一括形成できるため、高精度な位置合わせ作業を必要とせず低コスト化が可能であり、また流路壁や隣接隙間を薄くできるため、ノズル16を高密度化できる。
【0057】
また、流路を絞った複雑な供給孔は構造上不要なためチューブ状の流路13と、共通のインクプール24だけで簡略構成でき、転写成形で流路13を容易に製造できる。また供給路などによる流路13内の段差が無く、液充填性・気泡排出性にも優れる。
<第2実施形態>
図6には、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法が示されている。
【0058】
図6(b)に示すように流路部材12のノズル16近傍は例えば先端へ近付くにつれて細くなるテーパー形状となっており、ノズル16の開口径もまた流路13よりも小さく形成されている。ノズル16の径を小さく絞ることにより、吐出されるインク滴の径をも小さく微小ドット化し、且つ吐出/着弾位置のブレを少なくすることができる。
【0059】
本実施形態においては、上記の構造を備えた流路部材12の製造方法として、第1の実施形態と同様の条件で、図6に示すように樹脂反転写によりテーパー構造の流路部材12を形成する。
【0060】
図6(a)に示すように、予めエッチング方法によって凹凸状の溝を形成した基板に剥離層をコーティングした原版11の表面に、流路部材12となる材料を成膜する。ここでは図示しない噴射機より液状の樹脂材料を原版11の表面に噴射し、薄膜を形成する。またディップ、押圧スタンプ、メッキ、蒸着、スパッタ等の方法により成膜してもよく、また流路13の断面形状は図6のように四角以外にもカマボコ型、台形、三角形など様々な形状が適用できる点も第1実施形態と同様である。
【0061】
次いで図6(b)のように一旦、原版11から薄膜として形成された流路部材12を剥離する。このとき図示しない中間保持部材を接合し、この中間保持部材ごと剥離することで薄膜状の流路部材12を確実に剥離・保持させてもよい。また、中間保持部材の代わりに梁部材14を直接接合してもよい。
【0062】
このときノズル16に向けて細くなるようなテーパー状に、流路部材12に絞りを形成する。型押し、あるいは延伸加工などの他に、本実施形態のように初めから原版11にテーパー状の絞り形状を設けておき剥離するようにしてもよい。
【0063】
次に図6(c)のように梁部材14と流路部材12とを接合する。流路部材12を接着剤あるいは圧着による接合にて梁部材14に密着接合し、流路13をシールする。さらに図示しない中間保持部材を剥離する。
【0064】
次に図6(d)に示すように梁部材14をノズル16ごとに分離し、ドットごとのインク滴吐出が行えるようにする。例えばブレード44で梁部材14を流路方向に切断し、流路ごとに独立してアクチュエータ36による動作を可能にする。
【0065】
さらにレーザ42などでスキャン加工を行い、流路ごとに分離された流路部材12にノズル16を形成することで流路部材が形成される点も第1実施形態と同様である。
【0066】
ノズル16近傍の流路部材12の形状としては、図6(e)〜(g)に示すような形状が考えられる。すなわち図6(e)のように単純にノズル16に向けて絞ってもよく、また図6(f)のようにノズル16近傍に直線部分を設けてノズル16の径をノズルカット位置精度にかかわらず一定に保つことができるようにしてもよい。あるいは図6(g)のようにノズル16が設けられる断面を吐出方向に垂直でなく角度θで傾けた傾斜面とすることで着弾位置を制御するようにしてもよい。
【0067】
本実施形態は上記の構成としたことにより、チューブ状の流路部材をテーパー加工し梁部材14に接合する方法に比較して、テーパー部分の加工位置精度が高く、また流路ごとに加工する必要がないので工数が少なく低コストかつ生産性の高い製造方法とすることができる。
<第3実施形態>
図7には、本発明の第3実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法が示されている。
【0068】
本実施形態においては、流路部材12の製造方法として、図7に示すようにシート状の流路部材材料12'を加工することで流路部材12とインクプール24を一体的に形成する。
【0069】
図7に示すように、シート状の流路部材材料12'を原版15Aと15Bにより両面から加圧・成型することで流路部材12とインクプール24とを同時に一体的に形成することができる。
【0070】
このとき流路部材材料12'が原版15Aと密着した状態のまま(剥離せず)原版15Bを先に剥離し、梁部材14と接合させることで中間支持部材を用いることなく梁部材14に接合することができる。
【0071】
さらに梁部材14の表面すなわち流路部材12と接合する面に流路部材材料12'と同じ材料で薄膜を形成しておき、接合・シールの際に接合性・密着性を向上させるようにしてもよい。
【0072】
また、流路13の断面形状は図7のように四角以外にもカマボコ型、台形、三角形など様々な形状が適用できる点は上記各実施形態と同様である。
【0073】
本実施形態は上記の構成としたことにより、流路部材12とインクプール24とを接合加工する必要がないので信頼性が高く、また工数が少なく低コストかつ生産性の高い製造方法とすることができる。
<第4実施形態>
図8には、本発明の第4実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法が示されている。
【0074】
本実施形態においては、流路部材12の製造方法として、図8に示すようにシート状の流路部材材料12'を加工することで流路部材12を形成する。図8に示すように、シート状の流路部材材料12'を押圧工具17で加圧・成型することで流路部材12を形成することができる。
【0075】
図8(a)に示すようにシート状の流路部材材料12'を押圧工具17で梁部材14に押圧し、接合する。図8(b)のように流路13が形成されるためには梁部材14に押圧する前に図示しない柔軟な中間支持部材に向けて押圧し、流路13を予め形成してもよいし、あるいは融点の低い樹脂シートを挟んで梁部材14に接合し、加工後に加熱して溶出させるなど種々の方法が応用できる。
【0076】
このとき梁部材14の表面すなわち流路部材12と接合する面に流路部材材料12'と同じ材料で薄膜を形成しておき、接合・シールの際に接合性・密着性を向上させるようにしてもよい。
<他の形態>
以上、各実施形態においては、画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出され画像が記録される構成となっているが、吐出する液体はインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴吐出(噴射)装置全般に対して、本発明に係る液滴吐出ヘッドを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係るインクジェット記録ヘッドを示す図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録ヘッドの動作を示す図である。
【図3】本発明に係るインクジェット記録ヘッドの動作を示す図である。
【図4】本発明に係るインクジェット記録ヘッドを示す図である。
【図5】本発明の第1形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造法を示す図である。
【図6】本発明の第2形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造法を示す図である。
【図7】本発明の第3形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造法を示す図である。
【図8】本発明の第4形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造法を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
10 インクジェット記録ヘッド
11 原版
12 流路部材
13 流路
14 梁部材
16 ノズル
18 保持部材
20 回転エンコーダ
24 インクプール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルと、
前記ノズルを含む液流路部材と、
前記液流路部材と接合もしくは液流路部材を含む梁部材と、
前記梁部材に接合して設けられ、前記梁部材を撓ませる第1駆動手段と、
前記梁部材を液滴吐出方向に凹から凸となるように変形させる第2駆動手段と、
を備え、
前記第2駆動手段が前記梁部材を液滴吐出方向に凹から凸となるように変形させ、
前記第1駆動手段が前記梁部材を撓ませることで、前記第2駆動手段により前記梁部材を座屈反転変形させ、
前記ノズル近傍の液に吐出方向の慣性を与えることで前記ノズルより液滴として吐出させることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記液流路部材は、略等ピッチの凹凸が設けられた膜と前記梁部材とを接合して製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記膜は、前記液流路部材となる材料を略等ピッチの凹凸が設けられた原版の表面に噴射して前記原版の表面に設けられることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記膜は、液状の材料に略等ピッチの凹凸が設けられた原版をディップして前記原版の表面に設けられることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記膜は、略等ピッチの凹凸溝が設けられた原版の表面に材料を押圧し、前記原版の凹凸形状を転写して形成されることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記膜を形成する材料は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記液流路部材と接合される前記梁部材の表面に、前記流路部材を形成する前記材料と同じ材料により形成された膜を予め設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
シート状の前記梁部材と前記膜とを接合した後、流路ごとに前記梁部材を切断分離して前記ノズルごとの液流路を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
略等ピッチの凹凸が設けられた原版の表面に設けられた前記膜と前記梁部材とを接合した後に、前記膜と前記原版とを剥離し分離することを特徴とする請求項1ないし請求項7の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
複数の前記液流路部材に連通した液プール部と前記液流路部材とを一括して一体に形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項8の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−321121(P2006−321121A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146368(P2005−146368)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】