説明

液滴吐出装置

【課題】チャンバー内の温度のバラツキの影響を低減させるための温度測定方法および温度補正方法を有する高精度の液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】ワークWに対し、インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッド30を相対的に移動させながら、機能液滴吐出ヘッド30を駆動して描画を行なう描画装置と、描画装置を収容するチャンバールーム4およびチャンバールーム4内の雰囲気温度を調整する雰囲気調整部5を有するチャンバー装置3と、描画装置2の相互に離間した複数箇所の温度を検出する複数の温度センサー51と、複数の温度センサー51の検出温度を平均化して平均検出温度を求め、平均検出温度に基づいて雰囲気調整手段を制御する制御装置10と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能液滴吐出ヘッドを駆動して描画を行なう描画装置と、描画装置を収容するチャンバー装置と、を備えた液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機能液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置には、機能材料を導入した機能液滴吐出ヘッドをワークに対し相対的に走査しながら機能材料を吐出する吐出工程を、所定の温度に維持された不活性ガスの雰囲気中で行うものが知られている(特許文献1)。
この液滴吐出装置は、液滴吐出部を不活性ガスの雰囲気中に収容すると共に、雰囲気を所定の温度に維持するチャンバーを有しており、チャンバー内に設けられた温度調節計(温度センサー)の検出結果に基づいて、チャンバー内の温度を所定の温度によるように制御している。この構成により、雰囲気が一定の温度に維持されるため、温度変化によるワークの伸縮や液滴吐出部を構成する各軸の伸縮を抑えることができ、描画精度を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−217840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような液滴吐出装置のチャンバー内に設置する温度調節計は、装置の邪魔にならよいように、一般的にはチャンバーの天井部分に配設される。このため、装置が大型化すると、チャンバー内の温度は場所によってバラツキが生じ、機能液滴吐出ヘッドを移動させる移動系の温度やワークの温度を反映させることができず、結果として描画精度に影響を及ぼす虞があった。
【0005】
上記の問題点に鑑み、本発明は、チャンバー内の温度のバラツキによって生じる描画装置への影響を軽減することができる液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液滴吐出装置は、ワークに対し、インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッドを相対的に移動させながら、機能液滴吐出ヘッドを駆動して描画を行なう描画装置と、描画装置を収容するチャンバールームおよびチャンバールーム内の雰囲気温度を調整する雰囲気調整手段を有するチャンバー装置と、描画装置の相互に離間した複数箇所の温度を測定する複数の温度測定手段と、複数の温度測定手段の測定温度を平均化して平均測定温度を求め、平均測定温度に基づいて雰囲気調整手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、温度測定手段が描画装置の複数箇所において温度測定を行い、その平均測定温度で雰囲気調整手段を制御するようにしているため、チャンバールーム内の温度が偏ることがない。また、描画装置の複数箇所で測定した温度を平均化するため、描画装置の温度を雰囲気温度の調整に反映させることができる。したがって、チャンバー内の温度のバラツキによって生じる描画装置への影響を軽減することができ、結果として描画装置の描画精度を向上させることができる。
【0008】
この場合、雰囲気調整手段は、チャンバールーム内の吸気と排気とを連続して行いながら雰囲気温度を調整することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、雰囲気調整手段は、制御手段の制御にしたがって連続的にチャンバールーム内の雰囲気温度を調整することができるため、描画装置周囲の温度を常に安定させることができる。また、機能液滴吐出ヘッドから吐出される機能液の気化溶媒を適切に排気することができる。
【0010】
この場合、制御手段は、チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、複数の温度測定手段の測定温度である複数の仮目標温度を記憶すると共に、複数の仮目標温度を平均化した平均仮目標温度と雰囲気温度の目標温度との差分に基づいて、雰囲気調整手段をフィードバック制御することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、制御手段は、記憶した仮目標温度の平均温度と雰囲気温度の目標温度の差分に基づいて温度調整を行うため、チャンバールーム内を目標温度にする制御を簡単且つ精度良く行うことができる。
【0012】
この場合、複数の温度測定手段は、ワークの周囲温度を測定するワーク測定手段と、機能液滴吐出ヘッドを移動させるヘッド移動系の温度を測定するヘッド移動系測定手段と、ワークを移動させるワーク移動系の温度を測定するワーク移動系測定手段と、を有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、描画装置において描画精度(描画品質)に大きな影響を与えるワークの周囲温度、ヘッド移動系の温度およびワーク移動系の温度を、雰囲気温度の調整に反映させることができる。したがって、チャンバー内の温度のバラツキによって生じる描画装置への影響をより一層、軽減することができる。
【0014】
同様に、描画装置は、ワークがセットされるワークテーブルと、機能液滴吐出ヘッドを描画エリアとメンテナンスエリアとの間で移動させるヘッド移動機構と、描画エリアにおいて、機能液滴吐出ヘッドに対しワークを主走査方向に移動させる主走査移動機構と、描画エリアにおいて、機能液滴吐出ヘッドに対しワークを副走査方向に移動させる副走査移動機構と、を有し、複数の温度測定手段は、ワークテーブルの温度であるテーブル温度を測定するテーブル測定手段と、ヘッド移動機構におけるエンコーダースケールの温度であるヘッドスケール温度を測定するヘッドスケール測定手段と、主走査移動機構におけるエンコーダースケールの温度である主走査スケール温度を測定する主走査スケール測定手段と、副走査移動機構におけるエンコーダースケールの温度である副走査スケール温度を測定する副走査スケール測定手段と、を有していることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、描画装置において描画精度(描画品質)に大きな影響を与えるテーブル温度、ヘッドスケール温度、主走査スケール温度および副走査スケール温度を、雰囲気温度の調整に反映させることができる。したがって、チャンバー内の温度のバラツキによって生じる描画装置への影響、特に描画精度(描画品質)への影響をより一層、軽減することができる。
【0016】
この場合、制御手段は、チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、テーブル温度を標準テーブル温度として記憶すると共に、標準テーブル温度における描画データを標準化し、その後において測定したテーブル温度である実テーブル温度と、標準テーブル温度との差分に基づいて、標準化した描画データを補正することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、標準テーブル温度からの温度変化によるワークテーブル上のワークの伸縮量を考慮して、描画データを補正することが可能なため、描画精度をより向上させることができる。また、雰囲気温度の調整用に測定されるテーブル温度を、描画データの補正用に活用することができる。
【0018】
この場合、制御手段は、チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、ヘッドスケール温度を標準ヘッドスケール温度として記憶すると共に、標準ヘッドスケール温度における機能液滴吐出ヘッドの描画開始位置データを標準化し、その後において測定したヘッドスケール温度である実ヘッドスケール温度と、標準ヘッドスケール温度との差分に基づいて、標準化した描画開始位置データを補正することが好ましい。
【0019】
この構成によれば、標準ヘッドスケール温度からの温度変化によるヘッドスケール(エンコーダースケール)の伸縮量を考慮して、描画開始位置データを補正することが可能なため、描画精度をより向上させることができる。また、雰囲気温度の調整用に測定されるヘッドスケール温度を、描画開始位置データの補正用に活用することができる。
【0020】
この場合、制御手段は、チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、主走査スケール温度を標準主走査スケール温度として記憶すると共に、標準主走査スケール温度における描画データを標準化し、その後において測定した主走査スケール温度である実主走査スケール温度と、標準主走査スケール温度との差分に基づいて、標準化した描画データを補正することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、標準主走査スケール温度からの温度変化による主走査スケール(エンコーダースケール)の伸縮量を考慮して、描画データを補正することが可能なため、描画精度をより向上させることができる。また、雰囲気温度の調整用に測定される主走査スケール温度を、描画データの補正用に活用することができる。
【0022】
この場合、制御手段は、チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、副走査スケール温度を標準副走査スケール温度として記憶すると共に、標準副走査スケール温度における副走査開始位置データおよび副走査移動量データを標準化し、その後において測定した副走査スケール温度である実副走査スケール温度と、標準副走査スケール温度との差分に基づいて、標準化した副走査開始位置データおよび副走査移動量データを補正することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、標準化副走査スケールの温度からの温度変化による副走査スケール(エンコーダースケール)の伸縮量を考慮して副捜査開始位置データおよび副走査移動量データを補正することが可能となるため、描画精度をより向上させることができる。また、雰囲気温度の調整用に測定される副走査スケール温度を、副捜査開始位置データおよび副走査移動量データの補正用に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】液滴吐出装置の平面図である。
【図2】液滴吐出装置のY軸方向側面図である。
【図3】液滴吐出装置のX軸方向側面図である。
【図4】ヘッド群を構成する機能液滴吐出ヘッドの図である。
【図5】機能液滴吐出ヘッドの外観斜視図である。
【図6】液滴吐出装置の制御ブロック図である。
【図7】描画処理工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照して、本発明の液滴吐出装置について説明する。この液滴吐出装置は、フラットパネルディスプレイの製造ラインに組み込まれており、例えば、特殊なインクや発光性の樹脂液である機能液を導入した機能液滴吐出ヘッドを用い、液晶表示装置のカラーフィルタや有機EL装置の各画素となる発光素子等を形成するものである。
【0026】
図1ないし図3は、本発明の液滴吐出装置1の概略図である。これらの図に示すように、液滴吐出装置1は、導入したワークWに所定の描画を実施する描画装置2と、描画装置2を収容するチャンバー装置3と、描画装置2およびチャンバー装置3を統括制御する制御装置10(図6参照)と、を備えている。また、チャンバー装置3は、描画装置2を収容するチャンバールーム4と、チャンバールーム4内の雰囲気温度を調整する雰囲気調整部(雰囲気調整手段)5と、を有している。
【0027】
描画装置2は、X軸支持ベース11と、X軸支持ベース11上に配設され、主走査方向となるX軸方向に延在して、セットテーブル(ワークテーブル)12上にセットされたワークWをX軸方向(主走査方向)に移動させるX軸テーブル13と、X軸テーブル13とセットテーブル12との間に介設され、ワークWをY軸方向(副走査方向)に移動させる改行軸テーブル(副走査方向移動機構)22と、X軸テーブル13を跨ぐように架け渡されたY軸支持ベース14と、Y軸支持ベース14上に配設され、Y軸方向に延在するY軸テーブル15と、Y軸テーブル15により描画エリアおよびメンテナンスエリア間で移動する複数の機能液滴吐出ヘッド30が搭載された複数のキャリッジユニット16と、を有している。
【0028】
また、描画装置2は、メンテナンス装置17を備えており、メンテナンス装置17は、機能液滴吐出ヘッド30が定期的なフラッシング(吐出ノズル47から機能液滴の捨て吐出を行う)際に機能液を受けるフラッシングユニット25と、機能液滴吐出ヘッド30の吐出性能を検査する検査ユニット26と、を有すると共に、機能液滴吐出ヘッド30を吸引して、機能液滴吐出ヘッド30の吐出ノズル47から機能液を強制的に排出させる吸引ユニット27と、ワイピングシートで機能液滴吐出ヘッド30のノズル面を拭き取るワイピングユニット28と、を有している。この場合、メンテナンス装置17を構成する各ユニットのうち、フラッシングユニット25および検査ユニット26は、X軸テーブル13に搭載され、吸引ユニット27およびワイピングユニット28は、X軸テーブル13から直角に延び、かつY軸テーブル15によりキャリッジユニット16が移動可能である位置、すなわちメンテナンスエリアに配設された架台上に配設されている。
【0029】
X軸テーブル13は、ワークWをセットするセットテーブル12と、セットテーブル12をX軸方向にスライド自在に支持するX軸スライダー18と、X軸方向に延在し、セットテーブル12をX軸方向に移動させる左右一対のX軸モーター(リニアモーター)(図示省略)とを備えている。一対のX軸モーターを駆動することで、X軸スライダー18上のセットテーブル12をX軸方向に移動し、ワークWを主走査する。また、X軸テーブル13には、X軸リニアスケール73(主走査スケール)が併設されており、セットテーブル12(ワークW)の主走査方向への移動量は、このX軸リニアスケール73により制御されるようになっている。
【0030】
改行軸テーブル22は、上記のX軸スライダー18とセットテーブル12との間に介設されており、特に図示しないが、Y軸方向に延在する改行軸リニアガイドと、改行軸スライダーと、改行軸モーター(リニアモーター)とを備えている。改行軸モーターを駆動することで、改行軸スライダー上のセットテーブル12をY軸方向に移動し、ワークWを副走査する。また、改行軸テーブル22には、改行軸リニアスケール72(副走査スケール)が併設されており、セットテーブル12(ワークW)の副走査方向への移動量(改行量)は、この改行軸リニアスケール72により制御されるようになっている。
【0031】
Y軸テーブル15は、一対のY軸支持ベース14に支持されると共に、各キャリッジユニット16をY軸方向に移動自在に吊設する複数のY軸スライダー24と、一対のY軸支持ベース14上に設置され、キャリッジユニット16をY軸方向に移動させる一対のY軸モーター(リニアモーター)(図示省略)と、を備えている。一対のY軸モーターを駆動することで、各Y軸スライダー24上の各キャリッジユニット16はY軸方向に個々に移動する。これによって、Y軸テーブル15は、各キャリッジユニット16を介して、描画時に機能液滴吐出ヘッド30を所定の描画開始位置に移動させるほか、メンテナンス時に機能液滴吐出ヘッド30をメンテナンス装置17に臨ませる。また、Y軸テーブル15には、Y軸リニアスケール75(ヘッドスケール)が併設されており、各キャリッジユニット16(機能液滴吐出ヘッド30)のY軸方向への移動量は、このY軸リニアスケール75により制御されるようになっている。
【0032】
セットテーブル12は、ワークWを吸着してセットする吸着テーブル20と、吸着テーブル20を支持し、吸着テーブル20にセットしたワークWの位置をθ軸方向に補正するためのθテーブル19等を有している。また、図示はしないが、除給材エリアにおける吸着テーブル20の直上部には、ワークWの除給材位置に臨むように、一対のワーク認識カメラが配設されており、このワーク認識カメラの認識結果に基づいて、ワークWのアライメントが実施されると共に、ワークWの設計値からの微小な収縮量が把握される。
【0033】
各キャリッジユニット16は、上記のY軸スライダー24に支持された垂設部材33と、垂設部材33の下端に取り付けられたヘッドユニット32と、を備えている。ヘッドユニット32は、12個の機能液滴吐出ヘッド30と、機能液滴吐出ヘッド30を6個ずつ2群に分けて支持するヘッドプレート31と、から成り、12個の機能液滴吐出ヘッド30は、R、G、B三色の機能液を吐出する各4個の機能液滴吐出ヘッド30で構成されている。
【0034】
図5に示すように、各機能液滴吐出ヘッド30は、いわゆる2連のインクジェットヘッドであり、2連の接続針41を有する機能液導入部42と、機能液導入部42に連なる2連のヘッド基板43と、ヘッド基板43に連なり機能液を吐出するヘッド本体44と、を備えている。ヘッド本体44は、ピエゾ素子等で構成される2連のポンプ部45と、複数の吐出ノズル47が形成されたノズル面を有するノズルプレート46と、を有している。ノズルプレート46のノズル面に形成された多数の吐出ノズル47は、相互に平行且つ半ノズルピッチ位置ズレして列設された2列のノズル列48を構成している。
【0035】
図1ないし図3に示すように、チャンバー装置3は、上述のようにプレハブ形式のクリーンブースで構成されたチャンバールーム4と、チャンバールーム4内の雰囲気温度を一定に調整するための雰囲気調整部5と、を備えている。雰囲気調整部5は、エアー流路で接続された冷却コイル55、ヒーター56および送風機57を有している。送風機57により取れ入れた外気(実際には、クリーンルーム内のエアー)は、冷却コイル55およびヒーター56を通過し、チャンバールーム4の天井空間に導かれる。一方、チャンバールーム4の天井には、全面にHEPAフィルター(図示省略)が設けられており、チャンバールーム4の天井空間に導かれたエアーは、HEPAフィルターを通過しダウンフローとなって、描画装置2に達する(描画装置2の周囲雰囲気を構成する。また、チャンバールーム4内の雰囲気は、チャンバールーム4の下部に設けた排気口から外部の排気設備(真空吸引)に排気される(いずれも図示省略)。
【0036】
この場合の送風機57によるチャンバールーム4内へのエアーの送気と、排気設備によるチャンバールーム4内へのエアーの排気と、は常時行われるようになっている。一方、チャンバールーム4内には、各部の温度を測定(検出)する複数の温度センサー(温度測定手段)51が設けられており、詳細は後述するが、これら複数の温度センサー51の測定結果(検出結果)に基づいて、上記の冷却コイル55およびヒーター56が選択的に制御される。すなわち、雰囲気調整部5により、所定の温度に温度調整されたエアーにより、チャンバールーム4内が常時換気され、内部雰囲気が所定の温度に維持されるようになっている。また、詳細は後述するが、複数の温度センサーの測定結果(検出結果)は、描画精度を維持すべく、各部のデータ補正等に用いられる。
【0037】
次に、図6のブロック図を用いて、本発明の液滴吐出装置1の制御装置10および制御方法について説明する。
図6に示すように、制御装置10は、チャンバールーム4内の雰囲気温度を調整するための雰囲気調整部5を制御するための、チャンバー用制御部53と、描画装置2が描画処理を行なう際に描画データを制御する描画制御部62、ヘッドユニット32の駆動を制御するヘッド駆動制御部63、セットテーブル12の移動制御を行うワーク移動制御部64に大別される。これらの各制御部は温度センサー51が検出した温度に応じて制御内容を変更する。
【0038】
温度センサー51は、チャンバールーム4内に収納されている描画装置2の複数箇所に設置され温度を検出する。本実施形態では、描画装置2のセットテーブル12の温度(テーブル温度)を測定するセットテーブルセンサー(テーブル測定手段)51a、Y軸リニアスケール75の温度(ヘッドスケール温度)を測定するY軸テーブルセンサー(ヘッドスケール測定手段)51b、X軸リニアスケール73の温度(主走査スケール温度)を測定するX軸テーブルセンサー(主走査スケール測定手段)51cおよび改行軸21の温度(副走査スケール温度)を測定する改行軸センサー(副走査スケール測定手段)51dによって構成される。
温度センサー51が測定した各温度の情報は、チャンバー用制御部53および描画制御部62に通知される。
【0039】
チャンバー用制御部53は、温度センサー51が測定した温度情報を受信すると、チャンバー装置3が稼働を開始した直後から一定時間経過後の温度情報を仮目標温度として記憶し、チャンバー用制御部53が有しているチャンバー用演算部52によって、仮目標温度を平均化した平均仮目標温度と、予めチャンバー用制御部53に設定されている雰囲気温度の目標温度との差分の演算を行う。チャンバー用演算部52が行った演算結果に応じてチャンバー用制御部53は、雰囲気調整部5の制御内容を決定し、雰囲気調整部5に制御指令を通知する。
【0040】
雰囲気調整部5は、チャンバー用制御部53からの制御指令に従って、冷却コイル55、ヒーター56および送風機57を駆動させ、チャンバールーム4内の雰囲気温度を調整する。
このようにして、温度センサー51の測定した温度をフィードバックしながら、チャンバールーム4内の温度調整を行うことで、チャンバールーム4内の雰囲気温度を目標温度に調整する。
【0041】
一方、描画制御部62は、温度センサー51が測定した温度情報を受信すると、チャンバー装置3が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、測定温度を記憶してから標準化し、描画制御部62が有する描画装置用演算部61が、標準化した温度(標準化温度)と標準化した後に測定した温度の差分を演算する。
【0042】
また、描画制御部62は、標準化したテーブル温度からの温度変化によるワークテーブル上のワークWの伸縮量を考慮した描画データの補正値、標準化したY軸リニアスケール75の温度からの温度変化によるY軸リニアスケール75の伸縮量を考慮した描画開始位置データの補正値、標準化したX軸リニアスケール73の温度からの温度変化によるX軸リニアスケール73の伸縮量を考慮した描画データの補正値および、標準化した改行軸21の温度からの温度変化による改行軸リニアスケール72の伸縮量を考慮した副捜査開始位置データおよび副走査移動量データの補正値を記憶した温度補正テーブル67を有している。
なお、温度補正テーブル67は、標準化した温度とのプラスマイナスの温度差ごとの補正値を一定の刻み幅(例えば0.5度間隔)で持っており、描画制御部62は、描画装置用演算部61の演算結果にしたがって各補正値を引き当て、描画データの補正を行い、描画位置補正データをヘッド駆動制御部63およびワーク移動制御部64に通知する。
【0043】
ヘッド駆動制御部63は、キャリッジユニット16(機能液滴吐出ヘッド30)の駆動に係る統括制御を行い、描画制御部62からの指令に従って機能液滴吐出ヘッド30を駆動させる。また、ワークWが液滴吐出装置1に給材されたときに、補正データを描画制御部62から受信して、キャリッジユニット16(機能液滴吐出ヘッド30)の軸位置の補正を行う。
【0044】
ワーク移動制御部64は、ワークWの移動に係る統括制御を行い、描画制御部62からの指令に従ってワークWを移動させる。また、ワークWが液滴吐出装置1に給材されたときに、補正データを描画制御部62から受信して、セットテーブル12(ワークW)の位置の補正を行う。
【0045】
駆動部65は、ヘッド駆動制御部63およびワーク移動制御部64からの駆動指令にしたがって機能液滴吐出ヘッド30およびワークWを相対的に移動させながら、機能液滴吐出ヘッド30を駆動してワークWに対して描画処理を行う。
【0046】
次に、図7のフローチャートを用いて、本発明の液滴吐出装置1の描画処理工程を説明する。
液滴吐出装置1を起動させ、キャリブレーションが終了すると、チャンバー装置3の温度センサー51が描画装置2のセットテーブル12、X軸テーブル13、Y軸テーブル15、改行軸21に温度測定を行う(S01)。チャンバー用演算部52は、温度センサー51が最初に検出した描画装置2のセットテーブル12、X軸テーブル13、Y軸テーブル15および改行軸21の各温度を仮目標温度として記憶してから平均化し、目標温度との差分を算出することで制御温度の演算を行う(S02)。また、雰囲気調整部5は、この演算結果にしたがって、チャンバールーム4内の温度制御を行う(S03)。なお、温度測定(S01)からチャンバールーム4内の温度制御(S03)までの工程は、チャンバー装置3を駆動させている間は周期的に行われる。
【0047】
描画装置2では、チャンバー装置3が稼動すると、描画装置用演算部61は、温度センサー51が検出した、描画装置2のセットテーブル12、X軸テーブル13、Y軸テーブル15および改行軸21の各温度から、ワークW、X軸エンコーダースケール、Y軸エンコーダースケールおよび改行軸エンコーダースケールそれぞれの標準化した温度と標準化した後に測定した温度の差分演算を行い(S04)、描画制御部62は、演算結果にしたがって温度補正テーブル67から温度補正量を引き当て、補正量を決定する(S05)。
【0048】
次に、描画制御部62は、温度補正テーブル67から引き当てた補正量を描画データに反映させて補正を行い(S06)、描画位置補正データをヘッド駆動制御部63およびワーク移動制御部64に通知する。描画位置補正データを受信したヘッド駆動制御部63およびワーク移動制御部64は描画位置補正データにしたがってキャリッジユニット16(機能液滴吐出ヘッド30)およびセットテーブル12(ワークW)の軸位置の補正を行う(S07)。ここでの補正は装置の稼動開始時にのみ行われる。
【0049】
ここで、液滴吐出装置1の吸着テーブル20にワークWが給材されると(S08)、最初の給材時のみX軸テーブル13およびY軸テーブル15の初期調整を行われ、初期調整を行う場合には、吸着テーブル20上にアライメントマスクを導入し、基板認識カメラにより初期調整を行う(S09)。この後、描画制御部62からの指令により、ヘッド駆動制御部63およびワーク移動制御部64が駆動部65を駆動させることで、ワークWに対して描画を行う(S10)。描画処理が終了すると吸着テーブル20からワークWが除材される(S11)。
なお、続けて描画処理を行うときには、初期調整(S09)を除いた、温度の差分演算(S04)以降の工程が再度行われる。
【0050】
以上のチャンバールーム4内に収納した描画装置2の温度をフィードバックしてチャンバールーム4内の温度を一定に制御することができるチャンバー装置3と、描画位置の温度補正を行い機能液滴吐出ヘッド30とワークWを相対的に移動させながら、機能液滴吐出ヘッド30を駆動して描画を行なう描画装置2によって、高精度の描画制度を有する液滴吐出装置1を構成することができる。
【0051】
なお、本発明の液滴吐出装置1を用いて有機EL装置等を製造する場合には、チャンバールーム4内を、不活性ガス(窒素ガス)の雰囲気で満たすことが可能な構成とすることが好ましい。
【0052】
また、本発明の液滴吐出装置1に用いる描画装置2の駆動箇所を必要に応じて追加する場合、駆動箇所の増加に伴って温度センサー51を増加させることが好ましく、さらに、追加した駆動箇所に温度センサー51を設けることが好ましい。
この構成によれば、描画装置の駆動箇所が増加しても新たに追加した駆動箇所の温度補正を行えるため、高い描画精度を有する液滴吐出装置1が実現可能である。
【0053】
なお、描画制御部62が行う温度補正は、温度補正テーブル67を用いず、ワークWの伸縮量、Y軸リニアスケール75の伸縮量、X軸リニアスケール73の伸縮量および改行軸リニアスケール72の伸縮量を描画装置用演算部61の演算によって算出し、描画装置用演算部61の演算結果に応じて補正を行う構成を用いても良い。
ただし、温度補正テーブル67を用いた補正処理の方が、描画装置2の描画装置用演算部61による演算処理が簡素化されるため、温度補正処理が容易に行えると共に、演算時間を必要としないため、補正処理を高速化することが可能となる。
【0054】
また、温度補正テーブル67にワークWの補正量をワークWの素材ごとに記憶し、液滴吐出装置1の外部からの操作で選択可能とすることで、複数種類のワークWに対応することが可能な液滴吐出装置1を実現することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:液滴吐出装置、 2:描画装置、 3:チャンバー装置、 4:チャンバールーム、 5:雰囲気調整部、 10:制御装置、 21:改行軸、 30:機能液滴吐出ヘッド、 51:温度センサー、 53:チャンバー用制御部、 W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対し、インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッドを相対的に移動させながら、前記機能液滴吐出ヘッドを駆動して描画を行なう描画装置と、
前記描画装置を収容するチャンバールームおよび前記チャンバールーム内の雰囲気温度を調整する雰囲気調整手段を有するチャンバー装置と、
前記描画装置の相互に離間した複数箇所の温度を測定する複数の温度測定手段と、
前記複数の温度測定手段の測定温度を平均化して平均測定温度を求め、前記平均測定温度に基づいて前記雰囲気調整手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記雰囲気調整手段は、前記チャンバールーム内の吸気と排気とを連続して行いながら前記雰囲気温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、前記複数の温度測定手段の測定温度である複数の仮目標温度を記憶すると共に、
前記複数の仮目標温度を平均化した平均仮目標温度と前記雰囲気温度の目標温度との差分に基づいて、前記雰囲気調整手段をフィードバック制御することを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記複数の温度測定手段は、
前記ワークの周囲温度を測定するワーク測定手段と、
前記機能液滴吐出ヘッドを移動させるヘッド移動系の温度を測定するヘッド移動系測定手段と、
前記ワークを移動させるワーク移動系の温度を測定するワーク移動系測定手段と、を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記描画装置は、前記ワークがセットされるワークテーブルと、前記機能液滴吐出ヘッドを描画エリアとメンテナンスエリアとの間で移動させるヘッド移動機構と、前記描画エリアにおいて、前記機能液滴吐出ヘッドに対し前記ワークを主走査方向に移動させる主走査移動機構と、前記描画エリアにおいて、前記機能液滴吐出ヘッドに対し前記ワークを副走査方向に移動させる副走査移動機構と、を有し、
前記複数の温度測定手段は、前記ワークテーブルの温度であるテーブル温度を測定するテーブル測定手段と、前記ヘッド移動機構におけるエンコーダースケールの温度であるヘッドスケール温度を測定するヘッドスケール測定手段と、前記主走査移動機構におけるエンコーダースケールの温度である主走査スケール温度を測定する主走査スケール測定手段と、前記副走査移動機構におけるエンコーダースケールの温度である副走査スケール温度を測定する副走査スケール測定手段と、を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、前記テーブル温度を標準テーブル温度として記憶すると共に、前記標準テーブル温度における描画データを標準化し、
その後において測定した前記テーブル温度である実テーブル温度と、前記標準テーブル温度との差分に基づいて、標準化した前記描画データを補正することを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、前記ヘッドスケール温度を標準ヘッドスケール温度として記憶すると共に、前記標準ヘッドスケール温度における前記機能液滴吐出ヘッドの描画開始位置データを標準化し、
その後において測定した前記ヘッドスケール温度である実ヘッドスケール温度と、前記標準ヘッドスケール温度との差分に基づいて、標準化した前記描画開始位置データを補正することを特徴とする請求項5または6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、前記主走査スケール温度を標準主走査スケール温度として記憶すると共に、前記標準主走査スケール温度における描画データを標準化し、
その後において測定した前記主走査スケール温度である実主走査スケール温度と、前記標準主走査スケール温度との差分に基づいて、標準化した前記描画データを補正することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記チャンバー装置が稼働を開始した直後から一定時間経過後の、前記副走査スケール温度を標準副走査スケール温度として記憶すると共に、前記標準副走査スケール温度における副走査開始位置データおよび副走査移動量データを標準化し、
その後において測定した前記副走査スケール温度である実副走査スケール温度と、前記標準副走査スケール温度との差分に基づいて、標準化した前記副走査開始位置データおよび前記副走査移動量データを補正することを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−224521(P2011−224521A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99529(P2010−99529)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】