説明

液滴噴射ヘッド及び液滴噴射ヘッドの製造方法

【課題】インク等の液滴が電気浸透することにより、圧電素子が短絡する可能性を抑え、且つ、圧電素子の駆動により生じる変位を、効率よく圧力発生室へ伝達させることが可能な液滴浸透保護部を備える液滴噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】アクチュエータ30と、圧力室19を備えたキャビティユニット10との間に、4層の応力緩和層21a〜21dと、3層のストップ部材22〜24とが交互に配置され、複数の1層目ストップ部材22により、圧力室19の開放面に対応する領域が覆われ、1層目ストップ部材22により覆われない領域が、2層目ストップ部材23と3層目ストップ部材24により覆われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子が駆動され、液滴が噴射される液滴噴射ヘッド、及び液滴噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャビティユニットと、アクチュエータユニットを備えた液体吐出装置がある。キャビティユニットは、液体を吐出するノズル及びインク室に連通する圧力室を備える。アクチュエータユニットは、セラミックス層と、共通電極または個別電極とが交互に積層され、キャビティユニットの圧力室に吐出圧を発生する。アクチュエータユニットのセラミックス層が、キャビティユニットに接合され、液体吐出装置は形成される。しかしながら、アクチュエータユニットは、焼成時もしくは駆動時に、セラミックス層にクラックを生じやすく、インクが圧力室を介してクラックに侵入すると、セラミックス層内に浸透し、共通電極と個別電極とを電気的に短絡させる恐れがある。その為、特許文献1に記載の液体吐出装置のアクチュエータユニットにおいては、セラミックス層と共通電極との間に、液体を通さないバリア層を複数の圧力室に共通して設け、それらを焼結し一体化した構成により、セラミックス層にクラックが生じても、電極の電気的な短絡を防止するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−302612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バリア層とセラミックス層を焼結して一体化したアクチュエータユニットであっても、キャビティユニットに接合する工程等において、キャビティユニットに接着する面、又はキャビティユニットに接着する面と反対側の面に力が加えられると、バリア層は、一体化されたセラミックス層と共にクラックを発生する恐れがある。セラミックス層及びバリア層にクラックが発生した液体吐出装置が使用されると、液体はクラックを介してアクチュエータユニットへ浸透し、電気的な短絡を生じさせる可能性がある。また、クラックの発生を抑えるためにバリア層を厚くし、複数の圧力室に共通して設けると、各圧力室の壁が阻害要因となり、アクチュエータユニットの駆動による変位が十分に圧力室へ伝えられないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、アクチュエータユニットの電気的な短絡の可能性を抑え、且つ、アクチュエータユニットの駆動により生じる変位を、圧力室へ効率よく伝える液滴噴射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1記載の液滴噴射ヘッドは、液体供給源に接続可能な圧力室を有する液滴噴射部と、前記圧力室を加圧する圧電素子部と、前記圧電素子部と、前記液滴噴射部との間に配置された液体浸透保護部と、を備え、前記液体浸透保護部は、前記圧力室からの液体が前記圧電素子部へ浸透することを防止するための複数層からなるストップ層と、前記圧電素子部に面する領域と、前記ストップ層間と、前記圧力室に面する領域とにそれぞれ配置された少なくとも前記ストップ層それぞれの前記圧電素子部側の面及び前記圧力室側の面を挟着する応力緩和層と、から成り、前記ストップ層は、細分化された複数のストップ部材から構成されると共に、前記一のストップ層のストップ部材は、複数のストップ部材により前記圧力室を覆うように配置され、前記一のストップ層と面する前記圧力室の面に対して、前記他のストップ層のストップ部材が隙間なく配置されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2記載の液滴噴射ヘッドは、前記圧力室に対応して配置される前記圧力室より小さい個別電極と、前記個別電極に対向する共通電極と、から成り、前記一のストップ層のストップ部材の少なくとも一つは、前記個別電極と、前記圧力室とに対応する領域に配置されることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3記載の液滴噴射ヘッドは、前記圧力室に最寄りの前記ストップ層のストップ部材のそれぞれは、少なくとも前記圧力室を区画する壁の対向する2辺を横断せずに前記圧力室の一部を覆うように配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4記載の液滴噴射ヘッドは、前記個別電極に最寄りの前記ストップ層のストップ部材のそれぞれは、少なくとも前記個別電極の対向する2辺を横断せずに前記個別電極の一部を覆うように配置されていることを特徴とする液滴噴射ヘッド。
【0010】
また、請求項5記載の液滴噴射ヘッドは、前記一のストップ層に配置される複数のストップ部材は、前記ストップ部材の大きさより狭い間隔で配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6記載の液滴噴射ヘッドは、前記ストップ層は、各層が同一形状のストップ部材を、前記各層の面方向に平行に延びる複数の直線上に複数個配置した3層構造をなし、第1ストップ層の前記ストップ部材が、前記圧力室を覆うように配置され、第2ストップ層の前記ストップ部材が、前記第1ストップ層の前記ストップ部材間の接続部分を覆うよう配置され、第3ストップ層の前記ストップ部材が、前記第1ストップ層の前記ストップ部材間の接続部分であり、且つ前記第2ストップ層の前記ストップ部材により覆われない前記接続部分を覆うよう配置されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7記載の液滴噴射ヘッドは、前記ストップ層は、特定の直線上に配置されたストップ部材が、隣接する直線上に配置された2つのストップ部材に接するように配置されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8記載の液滴噴射ヘッドは、前記ストップ部材は、前記圧電素子部方向または前記液滴噴射部方向に凸形状であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項9記載の液滴噴射ヘッドの製造方法は、請求項1記載の液滴噴射ヘッドの製造方法において、前記液滴浸透保護部の複数層からなる前記ストップ層のそれぞれは、前記圧電素子部側から前記液滴噴射部側へ順に積層されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の液滴噴射ヘッドは、一のストップ層のストップ部材が、圧力室を覆うように配置され、他のストップ層のストップ部材が、前記一のストップ層のストップ部材間に跨るように配置されるので、圧力室から圧電素子部までの液体の浸透経路を長くし、圧電素子部が電気浸透により短絡する可能性を低減できる。また、応力緩和層が前記各ストップ層間に設けられるので、各ストップ層に集中する応力を軽減し、ストップ部材の破損を抑える。また、ストップ部材は細分化されているので、圧電素子部による変位を、圧力室へ伝えることが可能である。
【0016】
また、請求項2記載の液滴噴射ヘッドは、ストップ部材が、個別電極と、圧力室とに挟まれる領域に設けられるので、個別電極及び圧力室間の液体の最短浸透経路を遮り、液の電気浸透による個別電極の短絡の発生を防ぐことができる。
【0017】
また、請求項3記載の液滴噴射ヘッドは、圧力室に最寄りのストップ層のストップ部材のそれぞれが、少なくとも圧力室を区画する壁の対向する2辺を横断せずに圧力室の一部を覆うように配置されるので、ストップ部材が割れる可能性を低減し、圧電素子の短絡の発生を防ぎ、且つ圧電素子部による変位を、圧力室に伝えることができる。
【0018】
また、請求項4記載の液滴噴射ヘッドは、個別電極に最寄りのストップ層のストップ部材のそれぞれが、少なくとも前記個別電極の対向する2辺を横断せずに前記個別電極の一部を覆うように配置されるので、ストップ部材が割れる可能性を低減し、個別電極の電気的な短絡を防ぐことができる。
【0019】
また、請求項5記載の液滴噴射ヘッドは、ストップ層の複数のストップ部材が、ストップ部材の幅より狭い間隔でそれぞれ設けられるので、ストップ部材間の幅を埋めるストップ部材を必要以上に設けることなく、限られたストップ部材数及び層数で効率よく圧力室を覆うことができる。
【0020】
また、請求項6記載の液滴噴射ヘッドは、複数の同一形状のストップ部材が、平行に延びる複数の直線上に配置され、3層のストップ部材により圧力室が覆われるので、ストップ部材の形状及び配置に応じて、ストップ部材ごとの形状を考慮して、一のストップ層のストップ部材のみにより前記圧力室を覆う配置とする必要がなく、少ない層数で圧力室を覆うことができる。また、少ない層数であるので、圧電素子部による変位を確実に圧力室へ伝達することができる。
【0021】
また、請求項7記載の液滴噴射ヘッドは、特定の直線上に配置されたストップ部材が、隣接する直線上に配置された2つのストップ部材と接するように配置されるので、ストップ部材を効率のよい間隔で配置することができ、少ない部材数、且つ最少の層数により圧力室を覆うことができる。
【0022】
また、請求項8記載の液滴噴射ヘッドは、ストップ部材が、圧電素子部方向または液滴噴射部方向に凸形状の構成であるので、ストップ部材が平面である場合より、圧電素子部及び液体噴射部方向に高さを有し、液体の浸透経路を長くすることができ、圧電素子部の短絡が発生する可能性を低減することができる。
【0023】
また、請求項9記載の液滴噴射ヘッドの製造方法は、一のストップ層のストップ部材が圧力室を覆うように配置され、他のストップ層のストップ部材が、前記一のストップ層のストップ部材間に跨るように配置されるので、圧力室から圧電素子部までの液体の浸透経路を長くし、圧電素子部が電気浸透により短絡する可能性を低減できる。また、液体浸透保護部の複数層からなるストップ層のそれぞれは、圧電素子部側から液滴噴射部側へ順に積層されるので、圧電素子部に対応させてストップ層を設け、電気浸透により短絡する可能性を確実に低減させることができる。また、応力緩和層が各ストップ層間に設けられるので、各ストップ層に集中する応力を軽減し、ストップ部材の破損を抑えることができる。また、細分化されたストップ部材により、圧電素子部による変位を確実に、圧力室へ伝えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態1における圧電式インクジェットヘッド1の分解斜視図である。
【図2】前記圧電式インクジェットヘッド1の部分断面図である。
【図3】前記圧電式インクジェットヘッド1のインク浸透保護層20の断面図である。
【図4A】前記圧力室19に対応する前記インク浸透保護層20の1層目ストップ部材22の配置を示す上面図である。
【図4B】前記圧力室19に対応する前記インク浸透保護層20の1層目ストップ部材22と、2層目ストップ部材23の配置を示す上面図である。
【図4C】前記圧力室19に対応する前記インク浸透保護層20の1層目ストップ部材22と、2層目ストップ部材23と、3層目ストップ部材24の配置を示す上面図である。
【図5A】前記インク浸透保護層20の形成過程を示す処理手順フローチャートである。
【図5B】前記インク浸透保護層20の形成過程を示す処理変化図である。
【図6A】前記各ストップ部材22〜24の配置を示す上面図である。
【図6B】前記各ストップ部材22〜24の配置を示す断面図である。
【図7A】本実施形態2における各ストップ部材122〜124の配置を示す上面図である。
【図7B】前記各ストップ部材122〜124の配置を示す断面図である。
【図8A】本実施形態3における各ストップ部材222〜225の配置を示す上面図である。
【図8B】前記各ストップ部材222〜225の配置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
<実施形態1>
図1及び図2を用いて、圧電式インクジェットヘッド1の全体構成を説明する。図1は、前記圧電式インクジェットヘッド1の分解斜視図である。図2は、図1に示す前記圧電式インクジェットヘッド1の部分断面図である。本実施形態1における左右方向、上下方向及び前後方向を図1に示すように定めて、前記圧電式インクジェットヘッド1を説明する。前記圧電式インクジェットヘッド1は、キャビティユニット10と、インク浸透保護層20と、アクチュエータ30と、フレキシブル配線材40により構成される。図1に示すように、前記圧電式インクジェットヘッド1は、前記キャビティユニット10に前記インク浸透保護層20と、前記アクチュエータ30とが上方向に積層され、更に前記フレキシブル配線材40が前記アクチュエータ30に重ねて配置される。
【0027】
図2に示すように、前記キャビティユニット10は、ノズルプレート11、スペーサプレート12、マニーホールド13、サプライプレート14、ベースプレート15、キャビティプレート16が上方向に積層される構成である。前記ノズルプレート11には、ノズル口17が設けられる。前記マニーホールド13の一部には、インクの流路であるインク室18が設けられる。前記インク室18には、図示外のインクカートリッジ等の液体供給源から、インクが供給される。前記キャビティプレート16の一部には、前記ノズル口17及び前記インク室18と連通する圧力室19が設けられる。前記キャビティユニット10においては、後述する個別電極31と上下方向に平行する位置になるよう前記圧力室19が位置決めされ、キャビティプレート16の上面が前記インク浸透保護層20に接合される。
【0028】
前記アクチュエータ30は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電セラミックス材料からなる9つの圧電シート層35と、前記個別電極31及び共通電極32とが、上方向に交互に積層された構造である。図2に示すように、前記個別電極31と前記共通電極32は、最下面及び最上面の前記圧電シート層35を除く7つの前記各圧電シート層35のそれぞれを挟んで互いに対向するように交互に配置される。前記各圧電シート層35のそれぞれは、その厚さが約30μmであり、複数の前記圧力室19にわたって配置される。
【0029】
図1に示すように、前記アクチュエータ30の最上面には、表面電極33および34が形成される。前記表面電極33および34は、図2に示す前記個別電極31及び前記共通電極32に対応して形成される。図1に示す前記表面電極33および34は、前記アクチュエータ30の図示外のスルーホールに充填された導電性材料を介して、前記個別電極31及び前記共通電極32と導通される。前記アクチュエータ30の最下面は、接着剤等により前記インク浸透保護層20と接合される。このとき、前記アクチュエータ30は、前記個別電極31が前記圧力室19と上下方向において同位置に配置するように接合される。
【0030】
前記フレキシブル配線材40には、外部からの制御信号を伝達するための配線パターンが配設される。具体的には、前記表面電極33に対応する前記個別端子41と、前記表面電極34に対応する前記共通端子42と、前記フレキシブル配線材40に実装された駆動回路を内装する駆動ICチップ43と、前記駆動ICチップ43から延びる配線44と、前記フレキシブル配線材40の外周に沿って形成された前記共通電位導線45が配置される。フレキシブル配線材40においては、前記配線44及び前記共通電位導線45が、それぞれ前記端子41及び42に接続されることにより、前記アクチュエータ30と電気的に接続される。
【0031】
前記駆動ICチップ43は、前記キャビティユニット10にインクの電気浸透現象が発生しないような電位差の電圧を、前記個別電極31と前記共通電極32の間に印加し、対応する前記インク浸透保護層20を選択的に変位させる。その変位により前記圧力室19の容積が変化され、前記インク室18を通るインクが、前記ノズル口17から吐出される。本実施形態1においては、前記個別電極31に正の電位が印加され、前記共通電極32にグランド電位が印加される。
【0032】
図3は、図2に示す前記インク浸透保護層20の具体的構成を示す断面図である。前記インク浸透保護層20は、前記キャビティプレート16と前記圧電シート35の最下面との間に設けられる。前記インク浸透保護層20は、応力緩和層21a〜21dが4層にわたって上方向に積層され、前記応力緩和層21a〜21dのそれぞれの間に、複数の前記各ストップ部材22〜24が配置される。具体的には、図3に示すように、前記応力緩和層21a及び21b間に第1層目ストップ部材22が配置され、前記応力緩和層21b及び21c間に第2層目ストップ部材23が配置され、前記応力緩和層21c及び21d間に第3層目ストップ部材24が配置される。前記各応力緩和層21a〜22dのそれぞれの厚さが約1〜数μm程度であり、ポリイミド(PI)、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリパラキシリレン(PPX)、環状ポリオレフィン(COP)等の吸水率の低い樹脂材料が用いられる。前記各ストップ部材22〜24のそれぞれは、その厚さが約1μm程度以下であり、シリカ系酸化膜やシリカ系窒化膜やDLC(Diamond Like Carbon)膜等で形成される。具体的には、SiO2、SiN、SiCN等が用いられる。前記各ストップ部材22〜24は、厚さが薄いほど、前記各ストップ部材22〜24間に積層される前記各応力緩和層21a〜21dそれぞれに対する段差が生じにくく、前記アクチュエータ30の駆動による変位が前記圧力室19へ伝えられやすい。尚、本実施形態1において、前記第1層目ストップ部材22、前記第2層目ストップ部材23及び前記第3層目ストップ部材24が、本発明のストップ層の一例を示し、また前記ストップ部材22〜24それぞれの上下方向に設けられる前記応力緩和層21a〜21dが、本発明のストップ層それぞれ圧電素子部側の面及び圧力室側の面を挟着する応力緩和層の一例を示している。
【0033】
前記各ストップ部材22〜24のそれぞれは、互いに対応して位置決めされる前記圧力室19と前記個別電極31とを基準に、予め定められた配列規則により配置される。前記各ストップ部材22〜24のそれぞれは、図3に示す前記圧力室19と前記個別電極31とに挟まれる領域26に、層毎に位置をずらして配置される。具体的には、前記圧力室19側から上方向に、又は前記個別電極31側から下方向に投影したとき、前記ストップ部材22〜24のそれぞれが配置される位置が一致しないように、左右方向の位置をずらして配置される。前記圧力室19の前記応力緩和層21aが接する面を開放面とするとき、前記圧力室19側から上方向に、又は前記個別電極31側から下方向に投影すると、前記圧力室19の前記開放面は、前記各ストップ部材22〜24のいずれかにより全て塞がれた状態となるように、各ストップ部材22〜24が配置される。
【0034】
図4A〜Cは、図3に示す前記個別電極31側から下方向に投影したとき、前記圧力室19の前記開放面に対する前記各ストップ部材22〜24それぞれの配置状態を示す投影図である。図4A〜4Cの前記各ストップ部材22〜24は、形状が正六角形であり、前記正六角形のいずれか一辺から、前記一辺と平行な他辺までの長さが、前記圧力室19を区画する壁の前後方向の間隔より小さくなるよう細分化された大きさである。以下、前記各ストップ部材22〜24それぞれの配置を具体的に説明する。
【0035】
図4Aは、図3における前記圧力室19と、前記第1層目ストップ部材22との配置の関係を示す図である。尚、説明の便宜上、図4Aにおいて、前記圧力室19の左右方向(前記圧力室19の長手方向)に延びる中心線19aと、前記圧力室19を区画する壁上であって、前記中心線19aに対して前後対称に設けられる壁上線19b及び19cを設定し、前記第1層目ストップ部材22の配置を説明する。
【0036】
図4Aは、図3に示す前記圧力室19と前記個別電極31とに挟まれる領域26であって、前記応力緩和層21a上に、1層目ストップ部材22a〜22hが配置された図である。具体的には、第1層目ストップ部材22a及び22bが、前記中心線19aの上方向に配置される。前記第1層目ストップ部材22c、22d及び22eは、前記壁上線19b上に、配置される。前記第1層目ストップ部材22f、22g及び22hは、前記壁上線19c上に配置される。前記1層目ストップ部材22cは、前記1層目ストップ部材22fと前後方向において平行に配置される。前記1層目ストップ部材22dは、前記1層目ストップ部材22gと前後方向において平行に配置される。前記1層目ストップ部材22eは、前記1層目ストップ部材22hと前後方向において平行に配置される。前記1層目ストップ部材22aは、4つの前記1層目ストップ部材22c、22d、22f、22gにより囲まれる位置に配置される。前記1層目ストップ部材22bは、4つの前記1層目ストップ部材22d、22e、22g、22hにより囲まれる位置に配置される。互いに対向して配置される二つの前記各ストップ部材22a〜22h辺の間隔それぞれは、前記圧力室19を区画する壁上の壁上線19bと壁上線19cの間隔より狭い間隔であれば差し支えない。前記応力緩和層21a上において、第1層目ストップ部材22c〜22hが、前記第1層目ストップ部材22a及び22bが配置された領域以外の空間の上方向に配置される構成により、前記圧力室19に対応して効率よく、且つ等間隔に配置される。尚、本実施形態1における前記中心線19aが、本発明の複数の直線及び特定の直線の一例であり、前記中心線19aに対し左右対称に設けられた前記壁上線19b及び19cが、本発明の複数の直線及び隣接する直線の一例である。
【0037】
図4Bは、前記開放面の上方向である図3に示す前記領域26に、前記第2層目ストップ部材23が、図4Aの前記第1層目ストップ部材22a〜22hに対して位置をずらして積層された図である。図4Aにおいて、中心線19aに垂直であって、前記第1層目ストップ部材22aの中心と、前記第1層目ストップ部材22bの中心との間を3等分する2つの垂直線19d及び19eを設ける。前記第2層目ストップ部材23は、図4Aに示す前記第1層目ストップ部材22a〜22hの配置と、配置パターンが同様であり、前記2層目ストップ部材23のうち、一つの前記第2層目ストップ部材23が、前記垂直線19e上に設けられるように配置される。図4Bに示すように、圧力室19の上方向には、7つの前記第2層目ストップ部材23が、前記各第1層目ストップ部材22a〜22hの複数に跨る位置の上方向に、前記応力緩和層21bを介して配置される。前記各第2層目ストップ部材23それぞれは、前記中心線19a及び前記壁上線19b及び19c上に、図4Aに示す前記第1層目ストップ部材22と同間隔で配列される。図4Bにおいては、第2層目ストップ部材23aは、前記第1層目ストップ部材22bと、前記第1層目ストップ部材22dと、第1層目ストップ部材22gとにより囲まれる隙間を埋めるように、3つの各第1層目の前記ストップ部材22b、22d、22gに跨る位置の上方向に配置される。前記第2層目の他のストップ部材23も、同様に、3つの前記第1層目ストップ部材22により囲まれる隙間を埋めるように、3つの前記各第1層目ストップ部材22に跨って配置される。
【0038】
図4Cは、図3に示す前記領域26であって、図4Bに示す前記第1層目ストップ部材22及び前記第2層目ストップ部材23が設けられない領域の上方向に、複数の前記第3層目ストップ部材24が、前記応力緩和層21cを介して、積層された図である。前記第3層目ストップ部材24は、図4Bに示す前記第1層目ストップ部材22及び前記第2層目ストップ部材23の配置と、配置パターンが同様であり、前記3層目ストップ部材23のうち、一つの前記第3層目ストップ部材24が、前記垂直線19e上に設けられるように配置される。図4Cにおいて、6つの前記第3層目ストップ部材24が、前記応力緩和層21cを介した前記第2層目ストップ部材23の上方向に、前記第1層目ストップ部材22及び前記第2層目ストップ部材23により埋められない前記開放面の領域に対応して配置される。前記第3層目ストップ部材24の配列は、図4A及び図4Bに示す前記第1層目ストップ部材22及び前記第2層目ストップ部材23の配列と同様であり、前記第1層目ストップ部材22及び前記第2層目ストップ部材23と同間隔で、前記中心線19a、前記壁上線19b及び19cの上方向に配列される。
【0039】
具体的には、図4Cにおいては、6つの前記第3層目ストップ部材24が、複数の前記第2層目ストップ部材23のいずれによっても埋められなかった前記圧力室19の前記開放面の領域の上方向に配置される。前記第3層目ストップ部材24aは、前記第1層目ストップ部材22dと前記第1層目ストップ部材22gと、前記第1層目ストップ部材22aとにより囲まれる隙間であって、前記個別電極31から前記圧力室19の前記開放面に対して垂直方向である下方向に投影したとき、前記第2層目ストップ部材23が設けられていない領域を塞ぐように、前記応力緩和層21cを介して配置される。前記第3層目の他のストップ部材24も、同様に、3つの前記第1層目ストップ部材22により囲まれる隙間であって、前記第2層目ストップ部材23が設けられていない領域を塞ぐように、前記応力緩和層21cを介して配置される。
【0040】
上述のように、前記応力緩和層21a及び21b間に配置される前記第1層目ストップ部材22と、前記応力緩和層21b及び21c間に配置される前記第2層目ストップ部材23と、前記応力緩和層21c及び21d間に配置される前記第3層目ストップ部材24は、上方向に積層して配置された状態の前記開放面を前記個別電極31側から下方向に投影したとき、前記開放面の全ての領域を、図4Cに示すように前記各ストップ部材22〜24により塞ぐように配置される。尚、本実施形態1における、前記圧力室19の前記開放面の全ての領域を埋める前記第2層目ストップ部材23及び前記第3層目ストップ部材24が、本発明における、圧力室に隙間なく配置される他のストップ層のストップ部材の一例である。
【0041】
本実施形態1において、前記インク浸透保護層20は、前記応力緩和層21aが前記キャビティプレート16及び前記圧力室19に接し、前記応力緩和層21dが前記アクチュエータ30に接するように配置され、前記応力緩和層21a〜21d間には、複数の前記ストップ部材22〜24が、それぞれ所定の間隔を置いて3層により配置されることにより、前記開放面が全て塞がれる。この構成により、前記圧電式インクジェットヘッド1が製造されるとき、前記アクチュエータ30又は前記インク浸透保護層20に力が加えられても、前記インク浸透保護層20が破損する可能性を抑え、前記個別電極31と前記共通電極32の電気的な短絡を防ぐことができる。また、前記圧力室19大より小さい複数の前記ストップ部材22〜24により前記開放面が覆われる構成により、前記アクチュエータ30の駆動による変位が前記圧力室19を区画する壁により阻害される恐れがなく、前記圧力室19に変位が確実に伝えられ、前記ノズル口17からインクを吐出させることができる。本実施形態1における前記第1層目ストップ部材22が、本発明の第1ストップ層のストップ部材の一例であり、前記第2層目ストップ部材23が、本発明の第2ストップ層のストップ部材の一例であり、前記第3層目ストップ部材24が、本発明の第3ストップ層のストップ部材の一例である。
【0042】
[製造方法]
次に、本実施形態1における前記圧電式インクジェットヘッド1の製造方法について説明する。前記インク浸透保護層20が形成されるとき、前記アクチュエータ30には、前記フレキシブル配線材40が既に接合されている。本実施形態1において、前記インク浸透保護層20は、前記アクチュエータ30の前記フレキシブル配線材40が設けられない側の面から順に積層される構成である。以下、本実施形態1の前記圧電式インクジェットヘッド1の製造方法を、図5A及び図5Bを用いて説明する。図5Aは、本実施形態1における前記インク浸透保護層20の製造手順を示すフローチャートである。図5Bは、図5Aに示す製造手順フローに対応する前記インク浸透保護層20の変化を示す図である。本実施形態1における前記圧電式インクジェットヘッド1の製造方法においては、図5Bに示すように、前記インク浸透保護層20が、前記アクチュエータ30の前記フレキシブル配線材40が設けられない側に形成される。図5Bは、図3に示す前記圧電式インクジェットヘッド1の上下方向を反転させて表したものである。尚、本実施形態1における前記圧電式インクジェットヘッド1は、前記圧力室19と前記個別電極31が互いに対応して設けられ、図2に示すように、前記圧力室19の左右方向の壁間の長さと、前記個別電極31の左右方向の長さがほぼ等しく、前記開放面の大きさと前記個別電極31の領域の大きさがほぼ等しい。即ち、前記圧電式インクジェットヘッド1は、前記圧力室19と、前記個別電極31が、図2に示すように、左右方向において同位置に積層して配置されるものとして、以下を説明する。
【0043】
図5Bに記載する前記インク浸透保護層20を形成する方法は、化学気相成長法(プラズマ、熱、光及びレーザーによるCVD法)、スパッタリング法(直流、高周波、マグネトロン及びイオンスパッタリング)及び物理気相成長法(真空及び低圧雰囲気蒸着法)等による被覆形成方法を用いることができる。本実施形態1では、プラズマCVD法により1つの図示外のCVD装置に原料である所定ガスを充填させ、前記応力緩和層21a〜21dと、前記各ストップ部材22〜24を被覆合成し、前記インク浸透保護層20を形成する方法を説明する。前記応力緩和層21a〜21dを形成するCVD装置と、前記各ストップ部材22〜24を形成するCVD装置は、それぞれ異なる装置を用いてもよい。前記各ストップ部材22〜24は、互いに離間して配置する複数の前記ストップ部材22〜24のそれぞれを形成するための図示外のマスキング部材を介して、前記応力緩和層21a〜21dに面して形成される。前記マスキング部材は、図4Aに示す前記1層目ストップ部材22の配列に従って、多数の正六角形状の孔が設けられた板状の部材である。以下、図5Aに示す製造手順フローチャートに従って、前記圧電式インクジェットヘッド1の製造方法を説明する。
【0044】
図5Aに示すステップS1においては、前記フレキシブル配線材40が接合されていない側の前記圧電シート層35の一面に、プラズマCVD法により、前記応力緩和層21dが形成される。具体的には、真空に調整されたプラズマCVD装置内において、原料蒸発源であるジアミンとテトラカルボン酸二無水物を供給し、温度及び圧力が調整したうえで、加熱処理する。原料蒸発源は、加熱処理が行われるとプラズマ化し、ポリアミド酸となって前記圧電シート層35の一面に生成される。その後、ポリアミド酸は、窒素中において350℃に加熱されると、イミド化されたポリイミド膜となり、前記応力緩和層21dが形成される。ステップS1が行われ、前記アクチュエータ30に前記応力緩和層21dが配置された状態を図5Bの(1)に示す。前記応力緩和層21dが形成されると、その後ステップS2の処理が行われる。尚、本実施形態1において、前記一面とは、前記圧電シート層35の全領域を示している。
【0045】
図5Aに示すステップS2においては、前記応力緩和層21dに、複数の前記第3層目ストップ部材24が配置される。具体的には、図5Bにおいては、前記応力緩和層21dに、前記マスキング部材が仮設され、前記マスキング部材を介して前記ストップ部材24の原料であるTEOS(テトラエトキシシラン)ガスをプラズマCVD法によりプラズマ化する処理が行われ、二酸化ケイ素膜が形成される。二酸化ケイ素膜が形成されると、前記マスキング部材は取り外される。ステップS2の処理が行われると、前記3層目ストップ部材24は、図5Bの(2)に示す状態に配置される。前記第3層目ストップ部材24のそれぞれは前記個別電極31の対向する2辺を横断しないように配置され、その少なくとも一つは前記個別電極31に対応する領域内に配置される。
【0046】
ステップS3においては、前記3層目ストップ部材24が設けられた前記応力緩和層21dの一面に、前記応力緩和層21cが配置される。前記応力緩和層21c及び後述の前記応力緩和層21a〜21bが形成される方法は、前記応力緩和層21dが形成される方法とほぼ同一であるので詳細の説明は省略する。ステップS3の処理が行われると、前記応力緩和層21cは、図5Bの(3)に示す状態に配置される。前記応力緩和層21cが形成されると、その後ステップS4の処理が行われる。
【0047】
ステップS4においては、前記応力緩和層21cに、前記第2層目ストップ部材23が配置される。前記第2層目ストップ部材23及び後述する前記第1層目ストップ部材22が形成される方法は、前記第3層目ストップ部材が形成される方法とほぼ同一であるので詳細の説明は省略する。ステップS4の処理が行われると、前記第2層目ストップ部材23は、図5B(3)に示す状態に配置される。前記第2層目ストップ部材23は、ステップS3における前記第3層目ストップ部材24の配置を考慮して、少なくとも一つが前記第3層目ストップ部材24間を跨るように、前記個別電極31に対応する領域に配置される。
【0048】
ステップS5においては、前記第2層目ストップ部材23が設けられた前記応力緩和層21cの一面に、前記応力緩和層21bが配置される。ステップS5の処理が行われると、前記応力緩和層21cは、図5B(3)に示す状態に配置される。前記応力緩和層21bが形成されると、その後ステップS6の処理が行われる。
【0049】
ステップS6においては、前記応力緩和層21bに、前記第1層目ストップ部材22が配置される。ステップS6の処理が行われると、前記第1層目ストップ部材22は、図5B(3)に示す状態に配置される。前記第1層目ストップ部材22は、ステップS3における前記第2層目ストップ部材23の配置と同様に、少なくとも一つが前記個別電極31に対応する領域内に配置される。
【0050】
ステップS7においては、前記第1層目ストップ部材22の一面に、前記応力緩和層21aが形成される。ステップS7の処理が行われると、前記応力緩和層21aは図5B(4)に示す状態に配置される。ステップS1〜S7の処理が行われると、前記応力緩和層21a〜21d及び前記各ストップ部材22〜24が交互に積層され、前記インク浸透保護層20が形成される。
【0051】
ステップS8においては、前記応力緩和層21aに前記キャビティユニット10が位置決めされ、接着剤25により接着される。具体的には、前記キャビティプレート16が、前記圧力室19を区画する壁の対向する2辺が、前記第1層目ストップ部材22a〜22hを横断しないように位置決めされ、配置される。図5B(5)の状態において、ステップS8の処理が行われると、前記キャビティユニット10と、前記インク浸透保護層20と、前記アクチュエータ30とが配置される位置の関係は、図5B(6)に示す状態である。
【0052】
図6Aは、本実施形態1における前記インク浸透保護層20に対し、前記圧力室19の前記開放面に対応する領域において、左右前後平面における前記各ストップ部材22〜24の配置を示す前記個別電極31側から見た上面図である。図6Bは、前記上面図に対応し、上下方向における前記圧力室19に対応する前記各ストップ部材22〜24の配置を示す断面図である。本実施形態1によれば、図6A及び図6Bに示すように、前記インク浸透保護層20は、左右前後平面及び上下方向において、前記各ストップ部材22〜24により、前記圧力室19の前記開放面を全て覆うことが可能となる。本実施形態1において、前記個別電極31に対応する領域と、前記圧力室19に対応する領域は同一の領域であり、図3に示す前記圧力室19と前記個別電極31とに挟まれる領域26である。
【0053】
尚、上述した本実施形態1のインク浸透保護層20の製造方法においては、前記ストップ部材22〜24は、所定の網目形状のマスキング部材を、前記ストップ部材22〜24を積層させる面に密着して接触させ、形成する方法を示したが、これに限らない。上述以外の前記ストップ部材22〜24を形成する方法として、前記マスキング部材を使用せず、前記ストップ部材22〜24を積層させる面の全面に前記ストップ部材22〜24を形成し、続いてプラズマエッチング法やレーザー加工法等により部分除去することにより、前記ストップ部材22〜24を形成する方法であってもよい。
【0054】
また、前記応力緩和層21a〜21dは、上述したプラズマCVD法に限らず、スプレーコーティング法や、熱分解CVD法などにより形成されてもよい。スプレーコーティング法の一例としては、ポリアミド酸の液滴を、圧縮した噴霧ガスとともに塗布し、高温で一定時間の熱処理を行い、イミド化させてポリイミド膜を生成する方法がある。熱分解CVD法の一例としては、熱分解CVD装置内にセットした基板上において、ジパラキシリレンを、昇華させて熱分解させることにより、ポリパラキシリレンを基板上に積層させ、生成する方法がある。前記応力緩和層21a〜21dが、スプレーコート法により形成される場合、プラズマCVD法により形成する前記ストップ部材22〜24と、スプレーコート法により形成する前記応力緩和層21a〜21dは、それぞれの各層が別々且つ交互に形成される。
【0055】
<実施形態2>
以下、本発明の実施形態2について、図面を用いて説明する。実施形態2は、インク浸透保護層を構成する各ストップ部材の形状が異なる点で、実施形態1と相違する。実施形態2は、他の部分の構成及び製造方法については実施形態1と同じであるので、相違する構成についてのみ詳述し、実施形態1と同じ構成については、その説明を省略する。
【0056】
図7A及び図7Bは、本実施形態2において、インク浸透保護層120の各ストップ部材122〜124それぞれの配置を示す。前記各ストップ部材122〜124は、丸形状且つ、前記アクチュエータ30側に凸の湾曲形状である。前記各ストップ部材122〜124が、上下方向の高さを有することにより、液体の浸透経路を長くし、圧電素子部の短絡が発生する可能性を低減することができる。図7Aは、左右前後平面における前記各ストップ部材122〜124それぞれの配置を示す上面図である。図7Bは、上面図に対応し、上下方向における前記各ストップ部材122〜124それぞれの配置を示す断面図である。
【0057】
図7Aに示すように、前記各ストップ部材122〜124は、丸形状の半径の大きさが、前記圧力室19を区画する壁上の壁上線19bと壁上線19cの間隔より小さい構成である。前述のとおり、前記各ストップ部材122〜124は、高さを有するが、2つの前記壁上線19b及び19cの間隔より小さい構成であるため、前記アクチュエータ30の駆動による変位を、前記圧力室19に確実に伝えることができる。また、各ストップ部材122〜124が丸形状であっても、実施形態1の正六角形状のストップ部材22〜24の場合と同様に、前記圧力室19の前記開放面を3層で覆うことが可能である。
【0058】
図7Bに示すように、本実施形態2における丸形状の前記各ストップ部材122〜124それぞれは、前記アクチュエータ30が接合される側に上下方向の高さが約1〜数μmの凸の湾曲形状をしている。前記ストップ部材122〜124は、製造時に成膜する温度を200℃〜400℃の範囲内で上昇させることにより、膜応力が圧縮方向に大きくなり、反り量は増加する。前記各ストップ部材122〜124は、圧縮されると凹形状に反る。このことを利用して前記各ストップ部材122〜124に熱処理を行うと、上下方向のうち所望の方向に凸形状を形成させることができる。前記インク浸透保護層120は、実施形態1と同一の積層数の前記ストップ部材122〜124により構成されるが、上下方向に高さを有することにより、前記キャビティユニット10と前記アクチュエータ30の間における液体の浸透経路を長くすることができる。この構成により、前記インク浸透保護層120内に、万が一インクが浸透する場合であっても、前記アクチュエータ30の前記個別電極31及び前記共通電極32が短絡される可能性を低減することができる。
【0059】
<実施形態3>
以下、本発明の実施形態3について、図面を用いて説明する。実施形態3は、インク浸透保護層を構成する各ストップ部材の形状及び配置及び積層数が異なる点で、実施形態1と相違する。実施形態3は、他の部分の構成及び製造方法については実施形態1と同じであるので、相違する構成についてのみ詳述し、実施形態1と同じ構成については、その説明を省略する。
【0060】
図8は、本実施形態3におけるインク浸透保護層220の配置を示す図である。図8において、インク浸透保護層220は、図示外の5層の応力緩和層それぞれの間に、4層の各ストップ部材222〜225が交互に積層される。前記各ストップ部材222〜225それぞれは、圧力室19の中心線19a、19b、19cの上方向に、全ての辺が他の前記各ストップ部材222〜225の辺と対向する位置関係で配置される。図8A及び図8Bは、前記インク浸透保護層220の前記各ストップ部材222〜225の配置を示す。図8Aは、左右前後平面における前記各ストップ部材222〜225の配置を示す上面図である。図8Bは、前記上面図に対応し、上下方向における前記各ストップ部材222〜225の配置を示す断面図である。
【0061】
図8Aに示すように、前記各ストップ部材222〜225は、正四角形状であり、各辺の長さが、前記圧力室19を区画する壁の前記壁上線19b及び19cの間隔より小さい構成である。前記各ストップ部材222〜225のそれぞれは、図8Bに示すように、他の層の2つの前記各ストップ部材222〜225の隙間を中心として跨るように配置される。そのため、前記圧力室19の前記開放面に対応する領域内は、位置に関わらず液体が浸透する可能性は同一であり、前記圧力室19に対応する開放面の全領域に対して、電気的に短絡する可能性が抑えられる。
【0062】
[変形例1]
本実施形態1において、前記各ストップ部材22〜24の形状は正六角形状であるが、これに限らない。例えば、六角より角数が多い偶数角形であってもよい。また、本実施形態1において前記第2層目ストップ部材23と前記第3層目ストップ部材24の形状及び大きさは、前記第1層目ストップ部材22と同一であるが、これに限らない。前記第2層目ストップ部材23及び前記第3層目ストップ部材24は、前記第1層目ストップ部材22により前記圧力室19を覆うことができない領域を覆うことが可能な形状であれば、前記第1層目ストップ部材22〜24より小さくてもよく、前記第1層目ストップ部材22と異なる形状であってもよい。また、前記各ストップ部材22〜24は、前記キャビティユニット10側に凸の湾曲形状であっても良い。
【0063】
本実施形態1において、前記インク浸透保護層20は、3層の前記ストップ部材22〜24により構成されるが、これに限らない。前記圧力室19及び前記個別電極31の配置及び形状によって条件は異なるが、前記圧力室19の前記開放面の全面を覆うことが可能な構成であれば、ストップ部材は少なくとも2層により構成されていてもよい。また、3層より少ない層数に限られることはなく、3層以上の多層、例えば4層や5層により構成されてもよい。また、本実施形態1における前記各ストップ部材22〜24のそれぞれは、少なくとも前記圧力室19と前記個別電極31とに挟まれる前記領域26に設けられていれば、前記インク浸透保護層20の全面に設けられる必要はない。
【0064】
[変形例2]
本実施形態1において、前記インク浸透保護層20の製造方法は、前記アクチュエータ30側から、前記キャビティユニット10側へ積層される方法であったが、これに限らない。例えば前記各ストップ部材22〜24は、フィルム状の前記応力緩和層21の上下方向の片面に設けられる、若しくは前記ストップ部材22〜24の各層がお互いに対向しない配置になるように両面に設けられる構成の応力緩和ストップ層組が、前記アクチュエータ30に位置決めして配置され、他の応力緩和ストップ層組が複数積層され、その後、前記キャビティユニット10が位置決めして接合される方法により、前記インク浸透保護層20が形成されてもよい。また、本実施形態1において前記インク浸透保護層20の各層は、プラズマCVD法を一例とした蒸着法により形成されていたが、周知の蒸着法や塗布、焼成等により形成されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 圧電式インクジェットヘッド
10 キャビティユニット
19 圧力室
19a 中心線
19b、19c 壁上線
20、120、220 インク浸透保護層
21a〜21d 応力緩和層
22a〜22h 1層目ストップ部材
23 2層目ストップ部材
24 3層目ストップ部材
30 アクチュエータ
31 個別電極
32 共通電極
122〜124、222〜225 ストップ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給源に接続可能な圧力室を有する液滴噴射部と、
前記圧力室を加圧する圧電素子部と、
前記圧電素子部と、前記液滴噴射部との間に配置された液体浸透保護部と、を備え、
前記液体浸透保護部は、
前記圧力室からの液体が前記圧電素子部へ浸透することを防止するための複数層からなるストップ層と、
前記圧電素子部に面する領域と、前記ストップ層間と、前記圧力室に面する領域とにそれぞれ配置された少なくとも前記ストップ層それぞれの前記圧電素子部側の面及び前記圧力室側の面を挟着する応力緩和層と、から成り、
前記ストップ層は、細分化された複数のストップ部材から構成されると共に、
前記一のストップ層のストップ部材は、複数のストップ部材により前記圧力室を覆うように配置され、前記一のストップ層と面する前記圧力室の面に対して、積層される前記他のストップ層のストップ部材が隙間なく配置されていることを特徴とする液滴噴射ヘッド。
【請求項2】
前記圧電素子部は、前記圧力室に対応して配置される前記圧力室より小さい個別電極と、前記個別電極に対向する共通電極と、から成り、
前記一ストップ層のストップ部材の少なくとも一つは、前記個別電極と、前記圧力室とに対応する領域に配置されることを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室に最寄りの前記ストップ層の各ストップ部材は、少なくとも前記圧力室を区画する壁の対向する2辺を横断せずに前記圧力室の一部を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の液滴噴射ヘッド。
【請求項4】
前記個別電極に最寄りの前記ストップ層のストップ部材のそれぞれは、少なくとも前記個別電極の対向する2辺を横断せずに前記個別電極の一部を覆うように配置されていることを特徴とする請求項2または3液滴噴射ヘッド。
【請求項5】
前記一ストップ層に配置される複数のストップ部材は、
前記ストップ部材の大きさより狭い間隔で配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液滴噴射ヘッド。
【請求項6】
前記ストップ層は、各層が同一形状のストップ部材を、前記ストップ層の面方向に平行に延びる複数の直線に沿って複数個配置した3層構造をなし、
第1ストップ層の前記ストップ部材が、前記圧力室を覆うように配置され、
第2ストップ層の前記ストップ部材が、前記第1ストップ層の前記ストップ部材間の接続部分を覆うよう配置され、
第3ストップ層の前記ストップ部材が、前記第1ストップ層の前記ストップ部材間の接続部分であり、且つ前記第2ストップ層の前記ストップ部材により覆われない前記接続部分を覆うよう配置される、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴噴射ヘッド。
【請求項7】
前記ストップ層は、特定の直線上に配置されたストップ部材が、隣接する直線上に配置された2つのストップ部材に接するように配置されることを特徴とする請求項6に記載の液滴噴射ヘッド。
【請求項8】
前記ストップ部材は、前記圧電素子部方向または前記液滴噴射部方向に凸形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴噴射装置。
【請求項9】
請求項1記載の液滴噴射ヘッドの製造方法において、
前記液滴浸透保護部の複数層からなる前記ストップ層のそれぞれは、前記圧電素子部側から前記液滴噴射部側へ順に積層されることを特徴とする液滴噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2011−156682(P2011−156682A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18103(P2010−18103)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】