説明

液滴噴射装置

【課題】複数枚のプレートを積層して構成される流路ユニットに液体流路内に流れる液体の温度調整をするための構成を採用した場合に、製造時に積層方向へ生ずる各プレートの変形を極力抑え、かかる変形を考慮せずに製造できるとともに、前記液体の温度調整を可能にした液滴噴射装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド6は、圧力室26を含み、複数枚のプレートが積層された流路ユニット10と、ノズル28からインクを噴射するための噴射エネルギーを付与する圧電アクチュエータ30(エネルギー付与手段)とを備え、流路ユニット10に含まれる流路構造体12には、循環路50が形成されている。循環路50は、プレート15及び16の各々に間隔をあけて形成された複数の溝を有し、溝の端部が、積層方向において連通して管状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射用液体の温度を調整することが可能な液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液滴噴射装置として、用紙等の印刷媒体に向けて液滴を噴射する液滴噴射ヘッドを備え、印刷媒体に画像、文字又は配線パターン等を印刷する液滴噴射装置が知られている。液滴噴射ヘッドは、印刷媒体に対して液滴を噴射する際に、ヘッド内に貯留される液体に噴射エネルギーを付与するエネルギー付与手段を有する。
【0003】
液滴噴射ヘッドが、例えばベタ印刷等のように多数の液滴を連続して噴射し続ける場合では、エネルギー付与手段が連続して駆動されることによって発熱し、液滴噴射ヘッドが熱を持ってしまう。また、気温が非常に低い状況下において、印刷をせずに放置している間は、液滴噴射ヘッドが外気によって冷却される。液滴噴射ヘッドの温度が大きく変動する状況下では、液滴噴射ヘッド内に貯留される噴射用液体が熱せられたり冷却されたりして液体温度が変化し、温度変化に伴って噴射用液体の粘性が変わってしまう。そして、粘性が大きく変化すると、噴射エネルギーを付与しても液滴が噴射されなかったり、噴射されたとしても異常な液滴量となったりする問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解決する為に、特許文献1に記載の液滴噴射装置は、噴射用液体としてインクを噴射するインクジェットヘッドを備え、そのヘッドの内部には、貯留されるインクを冷却して温度を調整可能な水冷機構が設けられている。この水冷機構は、ヘッド内部に形成された冷媒用凹部と、この冷媒用凹部内に冷媒を供給する供給手段とを有している。この冷媒用凹部は、オリフィスプレートに設けられている。オリフィスプレートには、インクを噴射可能なノズルと、このノズルと連通するインク流路とが形成されている。冷媒用凹部に供給される冷媒によりオリフィスプレートを冷却することができる為、自然放熱のみで冷却する場合に比べて、インク流路内のインクは効率よく冷却される。また、冷媒を供給する時間を調整して、オリフィスプレートの冷却時間を変えて、インクの温度を調整することもできる。
【0005】
一般的に、1枚のプレートに液体流路が形成された液滴噴射ヘッドの他に、液体流路の一部となる液体用凹部が形成されたプレートを複数枚積層して液体流路を構成する液滴噴射ヘッドがある。特許文献2に記載の液滴噴射装置では、液滴噴射ヘッドは、積層された複数枚のプレートを備えている。各プレートには、ノズル、圧力室、若しくは、ノズルと圧力室とを連通させる液体流路の一部が形成されている。特許文献2の液滴噴射ヘッドに特許文献1の水冷機構を採用する場合、各プレートには冷媒用凹部が形成される。
【特許文献1】特開2006-7498号公報
【特許文献2】特開2007-245394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、各プレートに冷媒用凹部が形成された場合には、各プレートは、ノズル又は圧力室の液体用凹部に加えて冷媒用凹部を有する。その為、冷媒用凹部が形成されたプレートは、冷媒用凹部が無い場合に比べて冷媒用凹部が形成された分だけ、平面に直交する方向の寸法(厚み)の薄い領域が広くなる。薄い領域の広いプレートは、薄い領域が狭い若しくは無いプレートに比べて、積層方向へ湾曲し易くなる。各プレートを積層して組付ける際に、各プレートが湾曲してしまうと、接合時にプレート間に隙間ができてしまったり、正規の位置から位置ずれして接合されたりする。冷媒用凹部が形成されたプレートを組付ける際には、積層方向への変形を考慮して組付けをしなければならない。その為、かかる変形を防ぐ為の機器の使用や、変形防止の為の製造工程の実施をする必要があり、製造工程が煩雑化するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、複数枚のプレートを積層して構成される流路ユニットに液体流路内に流れる液体の温度調整をするための構成を採用した場合に、製造時に積層方向へ生ずる各プレートの変形を極力抑え、かかる変形を考慮せずに製造できるとともに、前記液体の温度調整を可能にした液滴噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の液滴噴射装置は、圧力室を含む液体流路が形成され、所定の積層方向に複数枚のプレートが積層された流路構造体と、前記積層方向において前記流路構造体に積層し、前記圧力室と連通するノズルが形成されたノズルプレートとを有する流路ユニットと、前記流路ユニットに設けられ、前記圧力室内の液体に前記ノズルから液滴を噴射するための噴射エネルギーを付与するエネルギー付与手段と、前記流路構造体を構成する複数枚のプレートの中の少なくとも2枚の隣り合う循環用プレートの各々に形成された循環路と、この循環路に、前記液体流路内の液体の温度を調整するために前記液体流路内の液体とは異なる循環用流体を供給する供給手段とを備え、前記循環路は、前記循環用プレートの各々に間隔を空けて形成された複数の凹部を有し、1つの循環用プレートに形成された前記凹部の端部が、別の循環用プレートに形成された前記凹部の端部と、前記積層方向において連通して管状に形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
「エネルギー付与手段」とは、圧力室を画定する面に配置された熱を加える発熱抵抗体や、流路構造体とは別体の圧電材料からなる部材等の、圧力室内の液体に噴射エネルギーを付与する手段を指す。「循環用流体」とは、循環路内を流れることが可能な気体やゲル状等の流体全般を指す。「凹部」とは、積層方向において底を有する形状のみならず、積層方向において循環用プレートを貫通する貫通形状も含む。
【0010】
この構成によれば、複数の凹部は、各々の循環用プレートに間隔を空けて配置され、各プレート毎に循環路の一部のみが形成されている。各循環用プレートは、1枚のプレートに循環路の全てが形成されている場合に比べて、1枚当たりの凹部の総体積が減り、積層方向における寸法(厚み)の小さい領域が減る。その為、各循環用プレートに循環路の全てが形成された場合に比べて、積層方向へ撓み難くなる。循環路の全てが形成された循環用プレートに比べて、製造時に積層方向への変形を考慮して組付けをしたり、かかる変形を防ぐ為に特殊な製造工程の実施や機器の使用をしたりすることなく、循環用プレートの組付けを行うことができる。これにより、製造時に各プレートの積層方向への変形を極力抑え、かかる変形を考慮せずに液滴噴射装置を製造できるとともに、液体流路内の液体の温度調整ができる。
【0011】
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記液体流路は、前記圧力室に供給する液体を貯留する液体貯留室を有しており、前記液体貯留室は、前記積層方向及び前記循環路が延在する方向と直交する方向において前記圧力室の少なくとも一部と重なり、且つ前記積層方向において前記圧力室と前記ノズルとに挟まれて位置しており、前記循環用プレートには、前記液体貯留室の少なくとも一部が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、循環用プレートには、液体貯留室の少なくとも一部が形成されている。循環路と液体貯留室が別のプレートにそれぞれ形成され、さらにそれぞれのプレートの間に他のプレートが挟まっている場合に比べて、同一プレート上に循環路と液体貯留室とが形成されているので、循環用流体が無駄に他のプレートと熱交換する機会を減らして液体貯留室内の液体と熱交換できる。これにより、循環用流体と液体貯留室内の液体とを無駄なく熱交換させて、液体貯留室内の液体の温度調整を効率よく行うことができる。
【0013】
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第1または第2の発明において、前記循環用プレートには、前記圧力室の少なくとも一部が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、循環用プレートには、圧力室の少なくとも一部が形成されている。圧力室の上流のみで温度調整する場合に比べて、噴射直前に液体の温度を調整し、確実に温度調整された液体を用いて液滴噴射できる。これにより、液体の温度変化による噴射性能の変化を防止して、安定した液滴の噴射を可能とする。
【0015】
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第3のいずれかの発明において、前記流路構造体は、前記循環路内に連通する供給口及び排出口を備え、さらに、前記循環路の延在する方向に前記圧力室が複数形成されるとともに、前記積層方向及び前記循環路の延在する方向と直交する方向において前記圧力室の両側に前記循環路を有しており、前記圧力室の両側に配置された前記循環路は、前記直交方向において、前記供給口と前記排出口との間隔よりも大きい間隔で配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
「供給口と排出口との間隔」とは、直交方向において、供給口と排出口との形状を区画する縁部分の間の距離を指す。また、「循環路の間隔」とは、直交方向において、循環路の形状を区画する縁部分の間の距離を指す。
【0017】
この構成によれば、供給口と排出口との間隔が、隣り合う2つの循環路の間隔よりも小さい為、2つの循環路が供給口と排出口とにそれぞれ繋がるように直交方向において近接する。2つの循環路の距離が縮まることにより、循環路に囲まれた領域内の面積が小さくなる。これにより、圧力室内の液体と循環用流体との熱交換を行い易く、温度調整を効率よく行うことができる。
【0018】
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第3のいずれかの発明において、前記流路構造体は、前記循環路内に連通する供給口及び排出口を備え、さらに、前記圧力室が前記循環路の延在する方向に複数並んで圧力室列が形成されるとともに、この圧力室列が前記積層方向及び前記循環路の延在する方向と直交する方向に複数並んで配列されており、前記循環路は、前記直交方向に並ぶ列間循環路を有しており、前記列間循環路は、前記直交方向において、前記複数の圧力室列の間に配置されており、さらに、他の前記循環路を経由せずに前記供給口と直接繋がることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、列間循環路には、循環用流体が他の循環路を経由せずに直接流入される。循環用流体は、循環路内を流れて排出口に向かう間に液体流路内や圧力室内の液体と熱交換をする為、供給口からの流入直後に比べて温度が変わり、液体流路内の液体の温度に近くなる。液体流路内の液体との温度差が小さくなった循環用流体では、両液体の温度差が大きい場合に比べて、液体流路内の液体との間での熱交換がし難くなる。しかし、列間循環路は、他の循環路を経由せずに直接供給口と繋がっており、他の循環路内を経由せずに循環用流体が直接流入される。これにより、列間循環路内の循環用流体と液体流路内の液体との間で熱交換が確実に行われ、液体流路内の温度調整を効率よく行うことができる。
【0020】
第6の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第5のいずれかの発明において、前記循環路は、前記積層方向及び前記循環路が延在する方向と直交する方向における前記循環用プレートの最外端部と前記圧力室との間の領域に配置されており、前記直交方向において、前記積層方向よりも長いことを特徴とするものである。
【0021】
この構成によれば、凹部が間隔を空けて各循環用プレートに配置されている為、直交方向において圧力室が形成された内部側の領域を支える箇所を確保することができる。それに加え、循環路は、直交方向において積層方向よりも長い為、循環路の流路面積を確保することもできる。
【0022】
第7の発明の液滴噴射装置において、前記第1〜第6のいずれかの発明において、前記流路構造体は、前記循環用プレートを少なくとも3枚有し、さらに、前記少なくとも3枚の循環用プレートの中の前記積層方向において両側が他の前記循環用プレートに挟まれた中間循環用プレートを備え、前記中間循環用プレートの前記凹部の端部は、前記積層方向において隣り合う両側の前記循環用プレートにそれぞれ形成された前記凹部の端部と、前記積層方向においてそれぞれ連通することを特徴とするものである。
【0023】
この構成によれば、凹部の端部は、積層方向において両方向に分岐して連通している。1つの凹部から積層方向における両側の凹部に連通している為、積層方向において一方の方向にのみ凹部と連通する場合に比べて、積層方向における両側に循環用流体を流すことができる。循環用流体は、液体流路内において、液体流路内の液体と熱交換をする機会をなるべく均等に作り、液体流路内において局所的に液体の温度を調整するのを避けて、液体流路内全体の液体との熱交換ができる。これにより、循環用流体が液体流路内の液体との間で、局所的な熱交換をするのを極力避けて、液体流路内全体の液体と熱交換をさせることができる。
【0024】
第8の発明の液滴噴射装置は、前記第7の発明において、前記凹部は、前記循環路が延在する方向において長さが等しく、さらに、隣接する前記凹部との間隔も等しく配置されていることを特徴とするものである。
【0025】
この構成によれば、各々の凹部は、延在方向において長さが等しく、さらに、各々の凹部との間隔が一定である。延在方向において、循環用流体が積層方向において両側に流れる機会を一定間隔で設ける。これにより、積層方向において両側に流れる機会が不均一な場合に比べて、さらに局所的な液体の温度調整を避けることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、複数枚のプレートを積層して構成される流路ユニットに液体流路内に流れる液体の温度調整をするための構成を採用した場合に、製造時に積層方向へ生ずる各プレートの変形を極力抑え、かかる変形を考慮せずに製造できるとともに、前記液体の温度調整を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから印刷用紙に対してインクの液滴を噴射することにより、印刷用紙に所望の文字や画像等を印刷するプリンタに、本発明を適用したものである。
【0028】
(プリンタの概略構成)
図1は、本実施の形態に係るプリンタ1の概略構成を示す斜視図である。なお、本明細書及び図面における上下、左右及び前後は、図1の矢印に示す上下方向、左右方向及び上下方向と左右方向とに直交する前後方向である。図1に示すように、プリンタ1は、本体フレーム2と、本体フレーム2に取り付けられ、左右方向に延在する搬送ローラ3とを備える。本体フレーム2は、左右方向に延在するガイド軸4を有し、キャリッジ5がガイド軸4に取り付けられている。また、インクジェットヘッド6がキャリッジ5の下面に取り付けられている。
【0029】
キャリッジ5が、図示しない無端の走査ベルトと連結しており、無端ベルトは、図示しない駆動モータの駆動軸に取り付けられている。駆動モータは、本体フレームに配設されている。無端ベルトは、駆動軸の回転によって走査ベルトが左右方向に走行する。無端ベルトの走行に追従して、キャリッジ5が左右方向を往復移動する。
【0030】
(インクジェットヘッドの構成)
次に、インクジェットヘッド6について図2〜図4を用いて詳細に説明する。図2は、インクジェットヘッド6の上面図、図3は、図2に示すインクジェットヘッド6のI−I線に従う断面図、図4は、図2に示すインクジェットヘッド6のII−II線に従う断面図である。
【0031】
インクジェットヘッド6は、図2に示すように、ノズル28を含む流路ユニット10と、圧電アクチュエータ30とを備える。圧電アクチュエータ30は、ノズル28からインクを噴射するための噴射エネルギーをインクジェットヘッド6内のインクに付与する。
【0032】
流路ユニット10は、図2に示すように、複数のノズル28が前後方向に並んでノズル列を成すとともに、かかるノズル列が左右方向に複数並んで配列されている。複数のノズル28は、複数のディセンダ27を通じて、複数の圧力室26と連通する。複数の圧力室26は、図2に示すように、略楕円形状をしている。また、複数の圧力室26は、前後方向に並んで圧力室列26a、26bを構成しており、圧力室列26a、26bは、左右方向に配列されている。
【0033】
マニホールド24は、図2に示すように、複数の圧力室26に跨って前後方向に延在している。マニホールド24は、アパーチャー孔25を通じて圧力室26と連通している。
【0034】
圧電アクチュエータ30は、図2に示すように、前後方向に並ぶ複数の個別電極32を有している。個別電極32は、圧力室26よりも一回り小さい略楕円形状をしており、平面視で圧力室26の中央に配置されている。
【0035】
端子35は、図2に示すように、個別電極32の先端部32aに設けられている。端子35は、図示しないフレキシブルプリント基板等の配線部材に接続されている。フレキシブルプリント基板は、図示しない印刷制御回路とも接続されており、印刷制御回路と個別電極32とを繋いでいる。印刷制御回路は、複数の個別電極32に対して、選択した個別電極32のみに所定の駆動電圧を付与する。なお、印刷制御回路は、プリンタ1の印刷に関する印刷動作を制御する。
【0036】
また、流路ユニット10は、図3に示すように、ノズル28が形成されたノズルプレート11と、ノズルプレート11の上面11aに接合された流路構造体12とを有する。
【0037】
ノズルプレート11は、ポリイミド樹脂等の樹脂材料で形成されている。流路構造体12は、圧力室プレート14、キャビティプレート15及びマニホールドプレート16、19により構成されている。圧力室プレート14、キャビティプレート15及びマニホールドプレート16、19は、ステンレス鋼等の金属から成る。また、圧力室プレート14、キャビティプレート15及びマニホールドプレート16、19が、上下方向に積層状態で接合されている。
【0038】
複数の圧力室26は、上下方向において、圧力室プレート14を貫通して形成されている。また、マニホールド24は、マニホールドプレート16、19にそれぞれ形成されたマニホールド孔24a、24bにより構成されている。アパーチャー孔25は、キャビティプレート15に貫通形成されている。また、ディセンダ27は、キャビティプレート15に形成された貫通孔27aと、マニホールドプレート16、19にそれぞれ形成された貫通孔27b、27cとにより構成されている。
【0039】
圧電アクチュエータ30は、図3に示すように、圧力室プレート14の上面14aに接合されている。圧電アクチュエータ30は、複数枚の圧電層31、複数の個別電極32、共通電極33及び振動板34を有している。複数枚の圧電層31は上下方向に積層状態で接合されている。また、複数の個別電極32と共通電極33とが圧電層31に配置されている。個別電極32は、圧電層31の上面31aに露出する端子35と繋がっている。
【0040】
圧電層31は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であり、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなる。振動板34も同様に圧電材料で形成されている。ただし、振動板34は、上下方向において個別電極32と共通電極33とに挟まれておらず、上下方向への電界は振動板34に発生しない。
【0041】
以上の構成を有する圧電アクチュエータ30の動作原理について説明する。共通電極33は、圧電アクチュエータ30の図示しないアース端子と繋がれており、グランド電位である。電圧が印加されていない個別電極32は、共通電極33との間で電位差が無い。そして、個別電極32に所定の駆動電圧が付与されると、個別電極32と共通電極33との間には電位差が生じる。個別電極32と共通電極33との間に電位差が生じると、上下方向の電界が圧電層31に発生する。圧電層31の分極方向と電界の向きとが等しい場合には、圧電層31は上下方向に伸び、上下方向と直交する左右方向に収縮する。この圧電層31の収縮変形に伴って、振動板34が上下方向において凸変形する(ユニモルフ変形)。
【0042】
圧電アクチュエータ30が、インクを噴射する際の動作について説明する。圧電アクチュエータ30は、インクを噴射しない状態では、個別電極32に駆動電圧が付与され続ける。その為、圧電層31及び振動板34が、圧力室26側の下方向に凸変形した状態で待機する。そして、インクを噴射するときには、印刷制御回路は個別電極32への駆動電圧の付与を停止し、それに伴って個別電極32がグランド電位となる。個別電極32がグランド電位となったとき、振動板34が凸変形した状態から平面形状に変形して圧力室26内の容積が増大し、圧力室26内に圧力波が発生する。圧力波は、左右方向において圧力室26の一方の方向に伝播する。伝播した圧力波は、所定時間経過後に圧力室26の内壁と衝突し、位相が逆転する。圧力室26内の圧力は、圧力波の位相の逆転により、負の圧力から正の圧力に変わる。そこで、印刷制御回路は、圧力室26内の圧力が正になるタイミングで再び個別電極32へ駆動電圧を付与する。圧力室26の容積増大により発生する圧力波と、振動板34が圧力室26側に凸変形する際に生じる圧力波とが合成され、この合成された圧力波が圧力室26内のインクに噴射エネルギーとして付与されてインクが噴射する。これにより、2つの圧力波を合成して圧力室26内のインクに付与することができるので、1つの圧力波を圧力室26内のインクに付与する場合に比べ、非常に大きな圧力を付与できる。
【0043】
(循環路及び循環機構の構成)
ところで、従来のインクジェットヘッドは、周囲環境や使用状況の変化により、その内部のインクの温度が不均一になる。インクの粘度は、インクの温度変化に伴って、大きく変化する。インクは、粘度が変化すると流路内での流れ方が変わってしまい、インクに噴射エネルギーを付与したとしても正常に流れない。その為、インクジェットヘッドは、インクの粘度が変わった状態では、ノズルからインク滴を噴射できなかったり、所望の噴射量を噴射できなかったりする。しかし、従来のインクジェットヘッドは、インクの温度を調整する温度調整ユニットを備えておらず、インクの温度変化によりインクの噴射性能を調整することができなかった。
【0044】
本実施形態のインクジェットヘッド6は、インクの温度を調整する温度調整ユニット40を備える。温度調整ユニット40について、図2〜図4を参照して説明する。図2〜図4に示すように、温度調整ユニット40は、循環路50と、供給口46及び排出口47と、循環機構41と、チューブ48a、48bとを備える。
【0045】
循環路50は、図2に示すように、流路構造体10の最外端部と圧力室26との間に、前後、左右方向に延在して配置されている。また、循環路50は、図2に示すように、供給口46と排出口47とを有している。供給口46と排出口47とは、圧力室プレート14を貫通して形成される。図3に示すように、循環路50は、左側の循環路50がキャビティプレート15のみに形成されており、右側の循環路50がキャビティプレート15とマニホールドプレート16とに形成されている。
【0046】
図4に示すように、溝51、溝52及び溝53がキャビティプレート15に形成されており、前後方向に所定の長さを有する。また、溝61及び溝62はマニホールドプレート16に形成されており、前後方向に所定の長さを有する。溝51と溝61とは、前後方向において、互いの端部51bと端部61aとが重なって連通し、管路60aを構成する。また、溝61と溝52とは、前後方向において、互いの端部61bと端部52aとが重なって連通し、管路60bを構成する。溝52と溝62とは、前後方向において、互いの端部52bと端部62aとが重なって連通し、管路60cを構成する。また、溝62と溝53とは、互いの端部62bと端部53aとが重なって連通し、管路60dを構成する。
【0047】
循環機構41は、一例として、特開2008−123488号公報に記載された循環機構の構成を備える。循環機構41は、循環ポンプ42と、温度調整部43と、温度センサ44と、循環制御回路45とを備えている。循環ポンプ42は、供給口46に循環用流体を供給するとともに、排出口47から排出された循環用流体を流入して再び供給口46に供給する。温度調整部43は、循環用流体を熱するヒータ(図示省略)と、循環用流体を冷却するクーラー(図示省略)とを有しており、循環用流体を熱したり冷却したりできる。温度センサ44は、インクジェットヘッド6に搭載されており、インクジェットヘッド6の温度を計測する。循環制御回路45は、循環ポンプ42、温度調整部43、及び温度センサ44と接続されている。
【0048】
ここで、循環制御回路45が循環機構41を制御して循環用流体の加熱や冷却を行う制御動作について説明する。循環制御回路45は、温度センサ44により計測されたインクジェットヘッド6の温度に基づいて、インクジェットヘッド6内のインクの温度を推定する。そして、循環制御回路45は、インクの温度が所望の温度よりも低いと判断した場合には、温度調整部43に備えられたヒータを作動させて、循環用流体を加熱する。循環制御回路45は、循環用流体を加熱するとともに、循環ポンプ42を駆動させる。これにより、加熱された循環用流体は循環路50内を流れ、インクジェットヘッド6内のインクを温める。
【0049】
また、循環制御回路45は、インクの温度が所望の温度よりも高いと判断した場合には、温度調整部43に備えられたクーラーを作動させて、循環用流体を冷却する。循環制御回路45は、冷却された循環用流体を循環路50に流す為に、循環ポンプ42を駆動させる。これにより、冷却された循環用流体が循環路50内を流れ、インクジェットヘッド6内のインクを冷却する。
【0050】
なお、循環用流体は、水等の液体、空気等の気体に限らず、ゲル状の流体等、温度調整が可能で且つ循環路50を流れる流体であればよい。
【0051】
(流路構造体を構成するプレートの説明)
次に、流路構造体10を構成する複数枚のプレートについて図5〜図8を参照して説明する。図5は、圧力室プレート14の上面図、図6は、キャビティプレート15の上面図、図7は、マニホールドプレート16の上面図、図8は、マニホールドプレート19の上面図である。
【0052】
図5に示すように、圧力室プレート14は、複数の圧力室26を有している。複数の圧力室26は、前後方向に並んで圧力室列26a及び圧力室列26bを構成する。圧力室列26a及び圧力室列26bは、左右方向に配列されている。インク供給口29aは、平面視で圧力室プレート14の前方向側に形成されている。供給口46と排出口47aとは、インク供給口29aの両側に形成されている。
【0053】
図6に示すように、キャビティプレート15には、アパーチャー孔25が前後方向に複数並んで、アパーチャー孔列25a、25bを構成する。また、貫通孔27aは、前後方向に複数並んで配置されている。また、溝51〜溝55がキャビティプレート15に形成されており、溝51と溝52とは、キャビティプレート15の左右方向における左側の最外端部とアパーチャー孔列25aとの間に配置されている。また、溝54と溝55とは、キャビティプレート15の左右方向における右側の最外端部とアパーチャー孔25bとの間に配置されている。溝53は、キャビティプレート15の前後方向における前方向側の最外端部とアパーチャー孔25及び貫通孔27aとの間に配置されている。また、キャビティプレート15は、前方向側にインク供給口29bと、排出口46bとを備えている。
【0054】
図7に示すように、マニホールドプレート16は、前後方向に延在するマニホールド孔24aを有している。マニホールド孔24aは、左右方向に間を空けて2又に分かれたマニホールド孔241a、242aとを備えている。また、複数の貫通孔27bが、マニホールド孔241aとマニホールド孔242aとの間に形成されている。また、溝61〜溝65がマニホールドプレート16に形成されており、溝61と62とは、マニホールドプレート16の左側の最外端部とマニホールド孔241aとの間に配置されている。また、溝64と溝65とは、マニホールドプレート16の右側の最外端部とマニホールド孔242aとの間に配置されている。溝63は、キャビティプレート15の上側の最外端部とマニホールド孔242aとの間に配置されている。
【0055】
図8に示すように、マニホールドプレート19は、マニホールド孔24bが形成されている。マニホールド孔24bは、左右方向に間を空けて2又に分かれたマニホールド孔241b、242bとを備えている。複数の貫通孔27cが、マニホールド孔241bとマニホールド孔242bとの間に形成されている。
【0056】
(製造・組立)
次に、本実施形態のインクジェットヘッド6の製造方法について説明する。特開2006−305948号公報に開示される製造方法と同様の製造方法により、圧力室26やアパーチャー孔25等が、圧力室プレート14、キャビティプレート15、マニホールドプレート16、19にそれぞれ形成される。製造時には、まず、マニホールド孔24a、24b、及び貫通孔27b、27cと、溝51〜溝55、及び溝61〜溝65とに対応するマスクパターンがマニホールドプレート16、19にそれぞれ形成される。次に、マスクパターンが形成されていない箇所がエッチングで除去されて、マニホールド24a、24b、貫通孔27b、27c、溝51〜溝55、及び溝61〜溝65がマニホールドプレート16、19にそれぞれ形成される。また、特開2006−305948号公報に開示される製造方法と同様の製造方法により、ノズル28がノズルプレート11に形成される。
【0057】
キャビティプレート15は、図3に示す圧力室プレート14の下面14bとマニホールドプレート16の上面16aとが接するように配置されて接合される。また、マニホールドプレート19は、図3に示すマニホールドプレート16の下面16bに接合され、ノズルプレート11は、マニホールドプレート19の下面19bに接合される。これにより、流路ユニット10が構成される。また、圧電アクチュエータ30は、流路ユニット10が形成された後に、圧力室プレート14の上面14aに接合される。その後、チューブ48aとチューブ48bとが、圧力室プレート21に開口する供給口46と排出口47とにそれぞれ接続される。そして、チューブ48aとチューブ48bとが、循環機構41にそれぞれ接続される。
【0058】
(プレートに全面の循環路を形成した積層構造と、本実施形態の積層構造との比較)
インクの温度調整を速やかに行う為に、循環路が流路構造体内で極力大きな体積を有するように構成されるのが望ましい。循環路の体積を大きくする為に、流路構造体を構成するプレートは、全面の循環路が形成されており、循環路がプレートを貫通している。ここで、全面の循環路が形成されたキャビティプレート115及びマニホールドプレート116について、図9及び図10を参照して説明する。図9は、全面の循環路に該当する溝151が形成されたキャビティプレート115の上面図、図10は、全面の循環路に該当する溝161が形成されたマニホールドプレート116の上面図である。
【0059】
図9に示すように、キャビティプレート115は、溝151が形成されており、溝151の内側には内側領域115aを有する。内側領域115aは、アパーチャー孔125aと貫通孔127aとが形成されている。また、隙間領域115bが溝151の端部151aとインク供給口129との間に存在し、隙間領域115cが溝151の端部151eとインク供給口129との間に存在する。隙間領域115b、115cとは、キャビティプレート115内で内側領域115aと繋がる領域である。内側領域115aは、隙間領域115b、115cと接続する下側のみで支えられており、片持ち状態となる。内側領域115aは、隙間領域115b、115cを支点にして、上側の領域が自重によって積層方向に撓み易い。例えば、製造時にキャビティプレート115の外側縁部分115dのみを掴んで組付け作業を行うと、内側領域115aが自重によって上下方向に撓んでしまう。場合によっては、内側領域115aが撓んだ状態から戻らなくなったり、隙間領域115bと隙間領域115cが破断したりする。
【0060】
また、図10に示すように、マニホールドプレート116は、溝161が形成されており、溝161の内側には内側領域116aを有する。マニホールド孔124と複数の貫通孔127bとが内側領域116aに形成されている。マニホールド孔124は、マニホールド孔1241a、1242aから構成される。隙間領域116bが溝161の端部161aとマニホールド孔124との間に存在し、隙間領域116cは溝161の端部161eとマニホールド孔124aとの間に存在する。また、隙間領域116dは、マニホールド孔1241aと循環路161との間に存在し、隙間領域116eがマニホールド孔1242aと循環路161との間に存在する。隙間領域116b及び隙間領域116eは、平面視でそれぞれ細長い形状をしており、上下方向に撓み易い。マニホールドプレート116は、製造時に使用するアーム等で掴む領域が殆ど無く、さらに、隙間領域116b及び隙間領域116eが上下方向に撓み易い為、製造時に扱い難い。
【0061】
これらに対し、本実施形態のキャビティプレート15及びマニホールドプレート16は、図6及び図7に示すように、循環路50を画定する溝51〜溝55及び溝61〜溝65が間隔を空けて複数形成されている。キャビティプレート15は、前後方向において片持ち状態となる領域が無く、自重で下方に変形し難い。マニホールドプレート16は、マニホールドプレート116に比べて、製造時にアームを掴む領域が広く、製造時に扱い易い。また、マニホールドプレート16は、マニホールドプレート116のような隙間領域116b、116cがなく、自重により下方へ変形し難い。なお、隙間領域116b、116cは、内側領域116aを片持ち状態で支持する。
【0062】
(印刷動作と循環動作との関係)
次に、本実施形態のインクジェットヘッド6の印刷動作と、循環機構41の循環動作との関係について説明する。循環制御回路45は、ユーザーが、プリンタ1と接続される外部入力装置(PC等)を操作したり、プリンタ1に設けられた印刷スイッチを押したりして印刷指令を印刷制御回路に出力したときには、循環機構41を駆動して、印刷実行前にインクの温度の調整を行う。具体的には、循環制御回路45は、印刷指令を受けた後、温度センサ44が計測する温度を確認し、確認時点でのインクの温度と所望の温度とを比較する。確認時点でのインクの温度が所望の温度に対して低いと判断した場合には、循環制御回路45は、温度調整部44により循環用流体を加熱し、加熱された循環用流体を循環ポンプ42により循環路50に供給する。循環用流体を循環路50に供給している間、循環制御回路45は、インクジェットヘッド6内のインクの温度を確認する。インクの温度が所望の温度となったことを確認したときには、循環制御回路45は、循環ポンプ42を停止するとともに、温度調整部43も停止する。その後、循環制御回路45が印刷制御回路に温度調整終了の信号を入力すると、印刷制御回路は、インクジェットヘッド6を駆動して印刷動作を実行する。
【0063】
また、循環制御回路45は、温度センサ44が計測する温度が所望の温度に対して高いと判断した場合には、温度調整部43により循環用流体を冷却し、冷却された循環用流体を循環ポンプ42により循環路50に供給する。そして、循環制御回路45は、インクの温度が所望の温度となったことを確認したとき、循環ポンプ42を停止するとともに、温度調整部43も停止する。その後、循環制御回路45が印刷制御回路に温度調整終了の信号を入力すると、印刷制御回路は、インクジェットヘッド6を駆動して印刷動作を実行する。
【0064】
(循環用流体とインク及び外気との間の熱交換)
循環用流体とインクとの間の熱の交換、及び循環用流体と外気との間の熱の交換について図11〜図13を参照して説明する。図11は、マニホールド24及び圧力室26の一部を含む溝51の周囲を拡大した図、図12は、マニホールド24及び圧力室26の一部を含む管路60aの周囲を拡大した図、図13は、マニホールド24及び圧力室26の一部を含む溝61の周囲を拡大した図である。
【0065】
図11に示すように、溝51とアパーチャー孔25とは、内壁15aによって区画されている。循環用流体の熱J1は、内壁15aを通じてアパーチャー孔25内のインクへと伝わる。その為、循環用流体は、内壁15aを介してアパーチャー孔25内のインクと熱の交換をする。また、図12に示すように、管路60aと、アパーチャー孔25及びマニホールド24とは、内壁15b及び内壁16bによって区画されている。循環用流体の熱J2及び熱J3は、内壁15b及び内壁16bを通じてアパーチャー孔25及びマニホールド24内のインクへと伝わる。溝61とマニホールド24とは、図13に示すように、内壁16cによって区画されている。循環用流体の熱J4は、内壁16aを通じてマニホールド24内のインクへと伝わる。
【0066】
循環用流体は、アパーチャー孔25内のインクのみ、あるいは、マニホールド24内のインクのみと熱の交換を行うことなく、管路60aを通じて、アパーチャー孔25内とマニホールド24内とに貯留されるインクとの間で熱の交換を行うことができる。その為、循環用流体は、局所的に熱の交換を行うことなく、インクジェットヘッド6内のインクとの間で均等に熱の交換を行うことができる。
【0067】
(作用効果)
以上のように構成されたプリンタ1では、以下の作用効果を得ることができる。本実施形態では、循環路50がキャビティプレート15とマニホールドプレート16とに形成されている。キャビティプレート15は、循環路50の一部の溝51〜溝55を有し、マニホールドプレート16は循環路50の一部の溝61〜溝65を有している。溝51〜溝55は、間隔を空けてキャビティプレート15に形成されており、また、溝61〜溝65も、間隔を空けてマニホールドプレート16に形成されている。その為、キャビティプレート15及びマニホールドプレート16は、全面の循環路が形成されたキャビティプレート115やマニホールド116に比べて、例えば、製造時に持ち上げた際に自重によって上下方向に撓むのを抑えることができる。従って、循環路50を実装しているにも関わらず、上下方向への変形を考慮せずに製造をすることができるとともに、インクの温度調整をすることもできる。
【0068】
(本実施形態と本発明との対応)
本実施形態のインクジェットヘッド6と、本発明の対応について説明する。本実施形態のマニホールド24、アパーチャー孔25、圧力室26、及びディセンダ27は、本発明の「液体流路」の一例である。本実施形態の上下方向は、本発明の「積層方向」に相当する。また、本実施形態の圧電アクチュエータ30は、本発明の「エネルギー付与手段」の一例である。 本実施形態のキャビティプレート15及びマニホールドプレート16は、本発明の「循環用プレート」の一例である。また、本実施形態の温度調整ユニット40は、本発明の「供給手段」の一例である。本実施形態の溝51〜溝55及び溝61〜溝65は、本発明の「凹部」の一例である。
【0069】
また、本実施形態のマニホールド24は、本発明の「液体貯留室」の一例である。本実施形態の上下方向は、本発明の「循環路の延在する方向」に相当する。また、本実施形態の前後方向は、本発明の「直交する方向」に相当する。
【0070】
(変更形態)
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0071】
(変更形態1)
前記実施形態は、キャビティプレート15とマニホールドプレート16の2枚のプレートに循環路50が形成されていたが、図14に示す流路ユニット210のように、マニホールドプレート217が循環路250の一部を有し、キャビティプレート215とマニホールドプレート216とともに循環路250を構成するようにしてもよい。
【0072】
図14に示すように、キャビティプレート215は、溝251と溝252とが形成されており、マニホールドプレート216は、溝261と溝262とを備えている。また、マニホールドプレート217が、溝271を有している。溝251は、端部251bが溝261の端部261aと連通する。管路260aは、端部251bと端部261aとにより構成される。また、溝261の端部261bと溝271の端部271aとは、管路260bを構成し、管路260bが上下方向に溝261と溝271とを連通する。また、溝270の端部271bと溝262の端部262aとは、管路260cを構成し、管路260cが上下方向に溝271と溝262とを連通する。これにより、キャビティプレート215と、マニホールドプレート216、217とは、各々に形成される溝を減らして構成することができる為、自重による上下方向への変形をさらに抑えることができる。
【0073】
なお、循環路を構成する溝は、4枚以上の多数枚のプレートに形成されていてもよい。
【0074】
(変更形態2)
また、前記実施形態では、溝51〜溝55、及び溝61〜溝65は、それぞれキャビティプレート15及びマニホールドプレート16を上下方向に貫通していたが、図15に示す流路ユニット310のように、キャビティプレート315は、上下方向に貫通しない凹状溝351、352を有しており、マニホールドプレート316は、凹状溝361、362を有している。
【0075】
凹状溝351、352、及び凹状溝361、362は、それぞれキャビティプレート315、及びマニホールドプレート316を貫通しない為、上下方向に貫通する溝が形成されたプレートに比べて上下方向に撓み難くする。
【0076】
なお、変更形態2の凹状溝351、352、及び凹状溝361、362は、本発明の「凹部」の一例である。
【0077】
(変更形態3)
図16に示す流路ユニット410のように、循環路450は、プレート415〜プレート418の4枚により構成されている。プレート415の溝451とプレート417の溝471とは、前後方向において重なって配置され、管路490aを通じて連通する。また、溝451及び溝471は、プレート416の溝461とプレート418の溝481と管路490bによって繋がれている。溝461及び溝481と、溝452及び溝472とは、管路490cによって繋がれており、溝452及び溝472と、溝462及び溝482とは、管路490dを通じて連通している。また、溝462と溝482とは、管路490eを通じて連通している。
【0078】
循環用流体は、上下方向において、プレート415、417、及びプレート416と418とを極力均等に流れることができる。従って、循環用流体が流路構造体410内で局所的に流れるのを避けることができる。
【0079】
また、管路490a〜管路490eが、前後方向において一定の間隔を置いて配置された場合には、循環用流体が上下方向において局所的に偏って流れるのを防止できる。
【0080】
(変更形態4)
図17に示すように、インクジェットヘッド504は、圧力室526が搬送方向に複数配列されて圧力室列526a〜圧力室列526hを構成し、これら圧力室列526a〜圧力室列526hが左右方向に複数配列されている。圧力室列526bと圧力室列526cとの間には、循環路600が形成されている。
【0081】
循環路550aと循環路600とは、供給口546と直接繋がっており、循環機構541から循環用流体が直接供給される。循環機構541は、本実施形態と同様に、循環ポンプ542、温度調節部543、温度センサ544とを備えている。循環路550bは、循環路550aと循環路600とに繋がる管路690から排出口547まで延びている。循環路550bの流路面積は、循環路550aや循環路600よりも大きい。循環用流体は、循環制御回路545により循環ポンプ542が駆動されることにより、矢印V1と矢印V2に示すように、供給口546を通じて循環路550aと循環路600とに流れる。そして、循環用流体は、管路690にて、循環路550bに流れ込む。管路690及び循環路550bは、循環路550a及び循環路600よりも流路断面積が大きい。その為、循環用流体が循環路550a及び循環路600を経由して、確実に循環路550bに流れ込むことができる。循環用流体は、インクの温度を調整する最適な温度の状態で、循環路600に流入される。その為、循環用流体は、循環路550aを経由した場合に比べると、インクとの間の熱の交換を効率よく行うことができる。
【0082】
また、循環路600は、インクジェットヘッド504に複数形成されていてもよい。循環路600を、圧力室列526dと圧力室列526eとの間や、圧力室列526fと圧力室列526gとの間に配置させてもよい。さらに、循環路600は、例えば、圧力室列526bと圧力室列526cとの間に2本、又はそれ以上の複数本を配置させてもよい。同様に、循環路600は、圧力室列526dと圧力室列526eとの間、圧力室列526fと圧力室列526gとの間にも、2本、又はそれ以上の複数本配置させてもよい。
【0083】
なお、変更形態6の循環路600は、本発明の「列間循環路」の一例である。
【0084】
(変更形態5)
図18に示すように、インクジェットヘッド604では、循環路650が上下方向において圧力室626の下方に配置されるように構成されている。
【0085】
循環路650が圧力室626と上下方向において重なっている為、循環用流体は、マニホールド624に加えて圧力室626内のインクとの間で熱の交換を行うことができる。
【0086】
前記各実施形態において、溝は、上下方向にプレートを貫通する形状であってもよいし、底を有する凹形状であってもよい。貫通形状の溝と凹形状の凹状溝とを組み合わせて循環路を構成するようにしてもよい。
【0087】
本実施形態の圧電アクチュエータ30は、インクを噴射する際に、印刷制御回路が個別電極32に印加する駆動電圧を停止して、圧力室26内のインクに噴射エネルギーを付与する噴射動作をしていたが、例えば、印刷制御回路が個別電極に駆動電圧を付与して、圧力室内のインクに噴射エネルギーを付与する噴射動作を行うものも本発明に含まれる。また、本実施形態では、インクの噴射エネルギーを付与する手段として、圧電アクチュエータ30を用いた場合について説明したが、これに限られない。例えば、圧力室内部に発熱抵抗体を配置して、インクに圧力を付与するサーマル方式のインクジェットプリンタにおいても、本発明は適用できる。
【0088】
また、本実施形態では、溝51〜溝55及び溝61〜溝65が、循環路50を構成する圧力室プレート15やマニホールドプレート16にそれぞれ形成されていたが、流路構造体を構成するプレートであれば何れのプレートに循環路を形成してもよい。液体流路が形成されたプレートとは別に、循環路だけが形成されたプレートを1枚、あるいはそれ以上の多数枚積層して構成しても構わない。
【0089】
本実施形態では、循環用流体は、インクとは別の流体を用いていたが、インクを用いてもよい。
【0090】
また、本実施形態では、キャリッジ3がガイド軸5に沿って左右方向を往復移動するシリアル方式のインクジェットヘッド6について説明したが、例えば、左右方向において、用紙全てと重なるように延在するライン方式のインクジェットヘッドであっても、本発明は適用できる。
【0091】
以上説明した実施形態は、本発明を、用紙にインクを噴射して印刷を行うインクジェット方式のプリンタに適用したものであるが、本発明の適用対象はインクジェット方式のプリンタに限られない。即ち、様々な液滴を用途に応じて対象に噴射する種々の液滴噴射装置においても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態に係る概略斜視図である。
【図2】図1のインクジェットヘッド6の上面図である。
【図3】図2に示すインクジェットヘッド6のI−I線で切断した断面図である。
【図4】図2に示すインクジェットヘッド6のII−II線で切断した断面図である。
【図5】インクジェットヘッド6を構成する圧力室プレート14の上面図である。
【図6】インクジェットヘッド6を構成するキャビティプレート15の上面図である。
【図7】インクジェットヘッド6を構成するマニホールドプレート16の上面図である。
【図8】インクジェットヘッド6を構成するマニホールドプレート19の上面図である。
【図9】全面の循環路が形成されたキャビティプレート115の上面図である。
【図10】全面の循環路が形成されたマニホールドプレート116の上面図である。
【図11】マニホールド24及び圧力室26の一部を含む溝51の周囲を拡大した断面図である。
【図12】マニホールド24及び圧力室26の一部を含む管路60aの周囲を拡大した断面図である。
【図13】マニホールド24及び圧力室26の一部を含む溝61の周囲を拡大した断面図である。
【図14】図4に示すインクジェットヘッド6の断面図に相当する変更形態1の断面図である。
【図15】図4に示すインクジェットヘッド6の断面図に相当する変更形態2の断面図である。
【図16】図4に示すインクジェットヘッド6の断面図に相当する変更形態3の断面図である。
【図17】変更形態4のインクジェットヘッド504の概略上面図である。
【図18】図3に示すインクジェットヘッド6の断面図に相当する変更形態5の断面図である。
【符号の説明】
【0093】
1 プリンタ
6 インクジェットヘッド
10 流路ユニット
11 ノズルプレート
12 流路構造体
14、214、314、414 圧力室プレート
15、115、215、315、415 キャビティプレート
16、116、216、316、416 マニホールドプレート
19、219、419 マニホールドプレート
24、524、624 マニホールド
25 アパーチャー孔
26、526、626 圧力室
27 ディセンダ
28 ノズル
30 圧電アクチュエータ
40 温度調整ユニット
41、541 循環機構
50、250、350、450、550 循環路
51〜55 溝
61〜65 溝
46、546 供給口
47、547 排出口
217 マニホールドプレート
418 マニホールドプレート
449 連通路
526a〜526h 圧力室列
650 循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室を含む液体流路が形成され、所定の積層方向に複数枚のプレートが積層された流路構造体と、前記積層方向において前記流路構造体に積層し、前記圧力室と連通するノズルが形成されたノズルプレートとを有する流路ユニットと、
前記流路ユニットに設けられ、前記圧力室内の液体に前記ノズルから液滴を噴射するための噴射エネルギーを付与するエネルギー付与手段と、
前記流路構造体を構成する複数枚のプレートの中の少なくとも2枚の隣り合う循環用プレートの各々に形成された循環路と、
前記液体流路内の液体の温度を調整するために前記液体流路内の液体とは異なる循環用流体を前記循環路に供給する供給手段とを備え、
前記循環路は、前記循環用プレートの各々に間隔を空けて形成された複数の凹部を有し、1つの循環用プレートに形成された前記凹部の端部が、別の循環用プレートに形成された前記凹部の端部と、前記積層方向において連通して管状に形成されていることを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
前記液体流路は、前記圧力室に供給する液体を貯留する液体貯留室を有しており、
前記液体貯留室は、前記積層方向及び前記循環路が延在する方向と直交する方向において前記圧力室の少なくとも一部と重なり、且つ前記積層方向において前記圧力室と前記ノズルとに挟まれて位置しており、
前記循環用プレートには、前記液体貯留室の少なくとも一部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
前記循環用プレートには、前記圧力室の少なくとも一部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
前記流路構造体は、前記循環路内に連通する供給口及び排出口を備え、さらに、前記循環路の延在する方向に前記圧力室が複数形成されるとともに、前記積層方向及び前記循環路の延在する方向と直交する方向において前記圧力室の両側に前記循環路を有しており、
前記圧力室の両側に配置された前記循環路は、前記直交方向において、前記供給口と前記排出口との間隔よりも大きい間隔で配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴噴射装置。
【請求項5】
前記流路構造体は、前記循環路内に連通する供給口及び排出口を備え、さらに、前記圧力室が前記循環路の延在する方向に複数並んで圧力室列が形成されるとともに、この圧力室列が前記積層方向及び前記循環路の延在する方向と直交する方向に複数並んで配列されており、
前記循環路は、前記直交方向に並ぶ列間循環路を有しており、
前記列間循環路は、前記直交方向において、前記複数の圧力室列の間に配置されており、さらに、他の前記循環路を経由せずに前記供給口と直接繋がることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴噴射装置。
【請求項6】
前記循環路は、前記積層方向及び前記循環路が延在する方向と直交する方向における前記循環用プレートの最外端部と前記圧力室との間の領域に配置されており、前記直交方向において、前記積層方向よりも長いことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴噴射装置。
【請求項7】
前記流路構造体は、前記循環用プレートを少なくとも3枚有し、さらに、前記少なくとも3枚の循環用プレートの中の前記積層方向において両側が他の前記循環用プレートに挟まれた中間循環用プレートを備え、
前記中間循環用プレートの前記凹部の端部は、前記積層方向において隣り合う両側の前記循環用プレートにそれぞれ形成された前記凹部の端部と、前記積層方向においてそれぞれ連通することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液滴噴射装置。
【請求項8】
前記凹部は、前記循環路が延在する方向において長さが等しく形成され、さらに、隣り合う2つの前記凹部の間隔も等しく配置されていることを特徴とする請求項7に記載の液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−82900(P2010−82900A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252737(P2008−252737)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】